説明

イオン輸送膜構造体を形成する方法

充填剤材料(14)が、多孔質支持層(10)の1つの表面(16)に適用されて、孔(12)を塞ぎ、被覆イオン伝導材料が孔(12)に侵入してガス拡散の量を減少するのを防ぐ、イオン輸送膜用の複合構造体を形成する方法。酸素イオン伝導層であってもよい層(18、20)で表面(16)を被覆する前に、過剰の充填剤材料(14)が除去される。表面(16)の被覆後に、充填剤材料(14)は孔(12)から除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、本明細書に全体に示される様に参照として本明細書に組み込まれる米国特許仮出願第60/485738号明細書に基づく。
【0002】
本発明は、米国エネルギー省の全米エネルギー技術研究所により与えられた共同契約番号DE−FC26−01NT41096の下で米国政府の援助で為された。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、多孔質支持層の孔が、多孔質支持層上に材料の1つ又は複数の層を形成する前に充填剤材料で充填され、材料の層による支持層の孔の目詰まりを防止する、イオン輸送膜用の複合構造体を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
セラミック膜は、気体の分離及び精製の為の化学工業において増大する用途を見出している。それらは、蒸留、蒸発及び結晶化等の旧来の単位操作を置き換える可能性を有する。イオン輸送膜は、様々な供給混合物から酸素又は水素を分離する為に使用することができる。それらは、高温において酸素イオン又はプロトンを伝導することのできるセラミックで形成される。酸素イオン輸送膜の場合においては、酸素は、陰極側として知られる膜の1つの表面でイオン化する。酸素イオンは、膜を通って反対の陽極側に輸送される。陽極側では、酸素イオンは再結合して酸素元素を形成する。再結合においては、酸素イオンは、陰極側で酸素をイオン化する際に使用される電子を失う。その様な膜を形成する際に使用されるセラミックの一般的なクラスは、ペロブスカイト材料である。
【0005】
イオン輸送膜を横切る酸素流束は、膜の厚さに逆比例する。従って、膜が薄ければ薄い程、流束は益々多くなる。然しながら、膜は脆いセラミックで形成されるので、膜は多孔質支持体上で支持されなければならない。多孔質支持体は、イオン輸送膜と同じ材料で作ることができ、又は、異なる材料で作ることができ、或いはそれ自身分離において機能しない不活性材料でも作ることができる。その際、膜の形状は管状又は平らなシートの形状であることができる。その様な膜を作る際の問題は、層が多孔質支持層上に適用される時に、孔が、堆積される材料で目詰まりを起こすことである。その結果、多孔質支持体の拡散抵抗が増加し、膜の機能が必然的に減少する。
【0006】
同様のタイプの問題は、タービン羽根の被覆に関しても起っている。被覆は、酸化、腐食、浸食及びその他のタイプの環境劣化に対して高められた抵抗性を与える為にタービン羽根に適用される。タービン羽根は空冷され、タービン羽根を冷却する為に空気の通過の為の空気通路を有する。空気通路が被覆中に塞がれない様にする為に、米国特許第4743462号明細書においては、消失する(fugitive)プラグが冷却通路の出口に置かれる。米国特許第6365013号明細書においては、流体は、その様な目的の為に冷却通路の外に導かれる。複合セラミック膜の場合においては、孔は1〜10ミクロンであり、従って、消失するプラグではめ込むことができない点に注目すべきである。更に、多孔質支持構造体を通して流体を通過させることは、被覆工程を中断させることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、被覆材料が支持層に設けられた孔の中へ侵入することを防ぐ為に支持層が処理される、イオン輸送膜用の複合構造体を形成する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、イオン輸送膜用の複合構造体を形成する方法を提供する。本発明によれば、充填剤材料は、充填剤材料が孔に入る様な孔を有する多孔質支持層の1つの表面に適用される。過剰量の充填剤材料は、多孔質支持層の1つの表面から除去され、これにより、この1つの表面が孔を塞いでいる充填剤材料と共に露出される。材料の少なくとも1つの層は、孔の内の定位置に充填剤材料を伴う多孔質支持層の1つの表面上に形成される。充填剤材料は、材料の少なくとも1つの層が1つの表面上に形成された後に孔から除去される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
好ましくは、孔は、約0.1〜約500ミクロンの平均直径を有することができる。充填剤材料は、孔の平均径よりも小さい平均粒径を有する微粉末を含むことができる。充填剤材料は、圧力で(under pressure)1つの表面に適用される。充填剤材料は、澱粉、グラファイト、ポリマー材料又はそれらの混合物であることができる。充填剤材料の粒径は、平均孔径の約10%〜約20%であることができる。
【0010】
充填剤材料は溶剤に溶解する物質であってもよい。充填剤材料は、1つの表面に溶剤を適用することによって充填剤材料を溶解することによって除去される。充填剤材料は、硬化により固体に固まる液体を含むことができる。充填剤材料を1つの表面に適用した後に、液体を固体に硬化することができる。充填剤材料は、液体及び固体粒子の混合物であることができる。
【0011】
本発明の任意の実施形態においては、材料の少なくとも1つの層は、溶射、等押圧によって又はスラリーとして、或いはその他の適当な被覆方法により適用することができる。非多孔質支持層は、金属から作ることができ、孔は相互連絡ができない。即ち、孔は互いに連通していない。好ましくは、孔は、全て実質的に平行であることができる。一方、多孔質支持層は、セラミックから作ることができ、孔は相互連絡される。
【0012】
本明細書は、出願人が出願人の発明とみなす主題を明確に指摘する特許請求の範囲をもって終結しているが、本発明は、添付の図面と関連させた時に更に良く理解されるものと考える。
【0013】
本発明は、イオン輸送膜用の複合構造体を形成する方法を提供する。これに関して、本明細書及び特許請求の範囲において使用される「複合構造体」と言う用語は、気密で且つイオン伝導性である層である少なくとも1つの緻密層を支持する、イオン伝導性であってもなくてもよい支持層を意味する。緻密層は、支持層に直接、適用することができ、又は、イオン伝導性であってもなくてもよい支持層に適用される1つ又は複数の多孔質層に適用することができる。
【0014】
図1では、支持層10は、多孔質であり、以下に適用される膜により分離される酸素の通過の為の複数の孔12が設けられている。例示においては、支持層10は金属支持層である。孔12は、相互連絡の多孔質ネットワークを与える多孔質支持体と比較して、ガス拡散に対して最少の抵抗を与える為に円筒状である。孔12は、ドリルにより又は電子ビーム機械加工により形成される。最適なガス透過率を維持しながら最大の機械的強度を与える為に、孔12は、0.1〜約500ミクロンの範囲の直径及び約5%〜約50%の空隙率を有する。
【0015】
十分に理解されることと思うが、緻密層が支持層10に直接適用されると、孔12は、一部分が緻密層材料で塞がれ、最少のガス拡散抵抗性の利益を持たなくなる。これを回避する為に、充填剤材料14は、充填剤材料14が孔12に入る様に多孔質支持層10の1つの表面16に適用される。
【0016】
充填剤材料は、固体プラグを形成する為に約10〜約150MPaの圧力下で溝に適用される微粉末のグラファイト、澱粉、セルロース、木屑又はポリマーであることができる。粒径は、孔14の直径によって、約2〜約100ミクロンの範囲であることが好ましい。充填剤材料14の粒径は、孔12の直径の約10%〜約20%が好ましい。
【0017】
定位置に粒状充填剤材料14を押圧する前に、多孔質支持層10は、孔12の充填を促進する為に振動させることができる。
【0018】
充填剤材料14は、又、表面16にわたって適用されるエポキシ又は接着剤等の液体物質であることもできる。その様な液体物質は、重力の力によって孔14の中に侵入する。液体物質の粘度が低過ぎると、液体物質は、孔12を充填することなく孔12を通り抜けてしまうものと理解されたい。一方、粘度が高過ぎると、液体物質は孔12に容易に侵入しない。液体物質は、例えば、被覆された多孔質支持層10を、約100℃に加熱したオーブン中に、約5〜約50分間、固体プラグが形成されるまで入れて置くことにより硬化することができる。
【0019】
充填剤材料14は、更に、粒状及び液体物質であることができる。その様な混合物は、非常に大きな孔14にとっては有利である。その様な混合物はペーストとして適用することができる。
【0020】
表面16は、緻密層又は多孔質層の何れかで被覆されるので、過剰量の充填剤材料14は多孔質支持層の表面16から除去され、そして、表面16が露出され、充填剤材料14が孔12を塞ぐ。除去は、サンドブラスト等の方法により達成することができる。
【0021】
図3では、表面16は多孔質層18及び多孔質層18に適用される緻密層20で被覆される。例えば、層18及び20は、溶射、等押圧により又はスラリー/コーディアル(coadial)堆積により、或いはその他の適当な被覆方法により適用できる。緻密層20は、気密にて、酸素イオンを伝導する。多孔質層18は、イオン伝導性であってもなくてもよく、例示においては、互いに交わる孔である、孔の相互連絡ネットワーク22から成る。然しながら、支持層10内の孔12の様に非相互連絡の孔を有することもできる。
【0022】
図4では、充填剤材料14は除去されている。粒状充填剤材料の場合、充填剤材料14は、多孔質層及び緻密層18及び20で被覆された支持層12を、約600℃〜約900℃の温度に加熱されたオーブン中に置くことによって除去できる。この充填剤材料14がエポキシ又は接着剤或いはその他の液体物質である場合、除去は、溶剤により達成することができる。例えば、接着剤は、一般的に、アセトンにより除去することができる。最終結果は、孔12が充填剤材料14で充填されていない複合構造体である。
【0023】
以下は、多孔質支持層を被覆する為の本発明の適用例である。両方の実施例においては、多孔質支持層は、スペシャルメタル社(Special Metals Corporation、Huntington、ウェストバージニア州、米国)から入手したMA956酸化物分散強化合金で作られる。
【実施例1】
【0024】
イオン輸送膜の複合構造体をシミュレートする為に、穴の開いた基体上に堆積された被膜から成る複合要素が従来方法により作られた。基体は、直径が約30mmで、厚みが1.8mmの金属円板であった。これに、電子ビームドリルで真直ぐな孔を形成する為に穴が開けられた。得られた孔は約120ミクロンの直径を有し、約15%の空隙率を生成した。
【0025】
プラズマ噴霧被膜が、ストロンチウムをドープしたランタンクロム鉄酸化物(LSCF)で形成された混合伝導セラミックから成る基体上に堆積された。粒径は、約0.3〜約0.5ミクロンの一次粒径から凝集された約20ミクロン〜約30ミクロンであった。被膜は2層、即ち、層18等の多孔質層及び緻密層20等の緻密ガス分離層から成っていた。多孔質層18は、40重量%のグラファイトとブレンドされたLSCF粉末から作られた。多孔質層及び緻密層の厚みは約200〜約250ミクロンであった。
【0026】
複合要素は、陰極側に85%水素/CO混合物を、そして緻密層付近に空気を使用してテスト反応器においてテストされた。テスト反応器は約1000℃で操作された。約7〜約8sccm/cmの低い流束が観察された。これらの低い流束は、孔が塞がれた結果であると考えられる。
【実施例2】
【0027】
この実施例においては、複合構造体の多孔質基体は、実施例1の方法において形成され、何らの被膜も孔に入らない様にする為に市販の接着剤で充填された。接着剤は、重力の力の下で孔に侵入した。約10分後に、複合構造体は、溝内の接着剤を乾燥させてプラグを形成させる為に約70℃の温度で、約30分間オーブン中に置かれた。表面の接着剤は、次いで、約100ミクロンの粒径を有する酸化アルミニウム砂を使用して20psiでサンドブラストすることによって除去された。
【0028】
基体は、次いで、実施例1において概略示された方法において、緻密層及び多孔質層を有する2層のLSCF被膜をプラズマ噴霧することにより被覆された。プラズマ噴霧の完了後、複合体は、接着剤を除去する為に、適当な量のアセトンの入った密閉容器中に60分間置かれた。複合構造体は、新鮮なアセトンで洗浄処理され、次いで乾燥された。得られた複合構造体は約1000℃の温度でテストされた。実施例1と比較して、約16〜約18sccm/cmの高い流束が観察された。
【0029】
当業者に着想される数々の付加、変更及び省略は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明方法により充填剤材料で被覆された支持層の断面図である。
【図2】表面から除去された充填剤材料を伴う図1の支持層の部分断面図である。
【図3】相互連絡孔のネットワークを有する多孔質層が支持層の表面に適用され、材料の緻密層が多孔質層に適用された、図1の多孔質支持層の断面図である。
【図4】本発明により調製された複合構造体の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔を有する多孔質支持層の1つの表面に、充填剤材料が前記孔に入る様に前記充填剤材料を適用する工程と、
前記充填剤材料の過剰量を前記多孔質支持層の前記1つの表面から除去する工程と、
前記孔の内の定位置に前記充填剤材料を有する前記多孔質支持層の前記1つの表面上に、材料の少なくとも1つの層を形成する工程と、
前記材料の少なくとも1つの層が前記1つの表面上に形成された後に、前記孔から前記充填剤材料を除去する工程と、
を含む、イオン輸送膜用の複合構造体を形成する方法。
【請求項2】
前記孔が、約0.1〜約500ミクロンの平均直径を有し、
前記充填剤材料が、前記孔の前記平均直径よりも小さい平均粒径を有する微粉末を含み、
前記充填剤材料が、圧力で前記1つの表面に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記充填剤材料が、澱粉、グラファイト、ポリマー材料又はそれらの混合物を含み、
前記充填剤材料が、加熱により除去される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記充填剤材料の前記粒径が、前記平均孔径の約10%〜約20%である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記充填剤材料が、溶剤に溶解する物質であり、
前記充填剤材料が、前記1つの表面に溶剤を適用して前記充填剤材料を溶解することにより除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記充填剤材料が、硬化により固体に固まる液体を含み、前記充填剤材料を前記表面に適用後に前記液体が硬化される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記充填剤材料が、前記液体と固体粒子との混合物である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記材料の少なくとも1つの層が、溶射、等押圧により又はスラリーとして適用される、請求項1、2、5、6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記多孔質支持層が金属から作られ、前記孔が相互連絡していない、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記多孔質支持層がセラミックから作られ、前記孔が相互連絡している、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−526109(P2007−526109A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518641(P2006−518641)
【出願日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/018436
【国際公開番号】WO2005/023407
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(392032409)プラクスエア・テクノロジー・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】