説明

イソシアナトオルガノシランの製造方法

本発明は、流動化された固体粒子の存在でカルバマトオルガノシランの熱分解によるイソシアナトオルガノシランの製造方法を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動層中で流動化された固体粒子を用いてイソシアナトオルガノシランを製造する方法に関する。
【0002】
以前から、高収率及び高純度でイソシアナトオルガノシランを製造するための経済的方法に関して重大な関心があった。前記の化合物は、経済的価値が高い、それというのも、前記化合物は例えば有機ポリマーと無機材料との定着剤(いわゆるadhesion promoter, coupling agents, crosslinker)として工業的に使用されているためである。
【0003】
この場合、取扱及び実施を簡素化するために、危険性の低い出発物質か又は全く安全性の出発物質から出発する製造方法が有利である。今まで使用された方法の場合には、しかしながらイソシアナトオルガノシランは比較的少量でかつ効率が低くかつより高コストのプロセスで製造されていた。
【0004】
例えば、US 6,008,396に記載された方法の場合には、カルバマトオルガノシランを不活性の熱い媒体中でアルコールの脱離下にイソシアナートに変換している。しかしながら、このプロセスは、半連続的に運転できるにすぎない、それというのも媒体中の分純物濃度が短時間後に既に、生成物の所望の純度がもはや保証できないまでに上昇してしまうためである。
【0005】
US 3,598,852に記載された方法の場合には、カルバマトオルガノシランを真空中で蒸発させ、生成されたイソシアナトシランを連続的に留去している。
【0006】
EP 1010704 A2に記載された方法の場合には、カルバマトオルガノシランを液相で、Sn(II)の触媒作用下で熱的に分解して相応するイソシアナトオルガノシランにしている。この方法の場合には、特に所望の生成物の単離及び精製のための極めて費用のかかる方法が欠点であることが明らかになり、それにより結果としてより低い収率が生じ、従って大規模工業的な反応のためには魅力がないと考えられる。
【0007】
EP 649850 B1からは、気相中で、常圧又は減圧で、カルバマトオルガノシランの熱的な分解(熱分解)は公知である。前記方法により得られる収率は、特にイソシアナトメチルオルガノシランの収率は、しかしながら前記文献に記載された条件下では不十分である。
【0008】
先行技術から公知の全ての方法の場合には、しかしながら、反応室中で熱によるカルバマート分解生成物からなる固体の沈着物が連続的に生じるという問題がある。
【0009】
従って、本発明の課題は、前記のような沈着物の生成が十分に抑制された、カルバマトオルガノシランの熱的な分解(熱分解)によるイソシアナトオルガノシランの製造方法を提供することであった。
【0010】
前記課題は、前記の熱分解を流動化された固体粒子の存在で行うことによって解決される。
【0011】
本発明の主題は、流動化された固体粒子の存在でカルバマトオルガノシランの熱分解によるイソシアナトオルガノシランの製造方法である。
【0012】
本発明による方法の有利な実施態様は、流動化された固体粒子の存在で気相中でのカルバマトオルガノシランの熱分解によるイソシアナトオルガノシランの製造方法である。
【0013】
本発明による方法を用いて、所望の生成物を製造する場合に高収率及び高選択性が達成されるだけでなく、沈着物による閉塞を生じることなく、反応ユニット、特に蒸発器及び/又は反応器の長い運転時間が達成されると同時に、低い運転コストも達成される。
【0014】
カルバマトオルガノシランが高濃度で液相中で長時間持続される熱的負荷にさらされる場合(この熱的負荷は慣用の装置、例えば槽型蒸発器、管束型熱交換器、管束型循環蒸発器、薄層型蒸発器中で加熱及び蒸発させる場合に不可避である)に、カルバマトオルガノシランの不所望な多様な分解反応が進行してしまう。この分解反応は、所望のイソシアナトシランの可能な収率を低下させるだけでなく、単時間後でも、高い整備コスト及び維持コストを伴う沈着物による装置の閉塞が生じてしまう。さらに、意図せずに進行する分解反応は、安全性に関するリスクである、それというのも前記分解反応は発熱によって促進され、大きな慣用の装置中で装入物の熱爆発が生じかねないためである。短時間の滞留時間、液相のわずかな過熱及び流動化された粒子の大きな表面積に基づき、本発明による流動化された粒子を用いた方法の実施の際には、前記の欠点は回避することができる。さらに、本発明による流動化された粒子を用いた方法を実施する場合に、主に前記粒子上に生成される沈着物は、特別なコストをかけずに除去でき、それにより障害なく長期間持続する装置運転が保証される。
【0015】
本発明による方法は、基本的に1種又は数種の均一系又は不均一系触媒の存在又は不在で実施することができる。
【0016】
本発明による方法の有利な実施態様の場合には、一般式(1)
234Si−R1−N=C=O (1)
[式中、
Rは一価のC1〜C10−アルキル基を表し、
1は二価のC1〜C6−炭化水素基を表し、及び
2、R3及びR4はそれぞれ相互に無関係にメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基又はi−プロポキシ基を表す]のイソシアナトオルガノシランは、流動化された固体粒子の存在で、一般式(2)
234Si−R1−NH−CO−OR (2)
のカルバマトオルガノシランの熱分解によって製造される。
【0017】
特に有利な実施態様の場合には、一般式(2)のカルバマトオルガノシランから一般式(1)のイソシアナトオルガノシランへの反応は気相中で行われる。
【0018】
この方法の場合に、カルバマトオルガノシラン、特に一般式(2)のカルバマトオルガノシランから熱分解により一般式ROHのアルコール、特にメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキサノール及び2−エチルヘキサノールが脱離される。メタノール及びエタノールが脱離されるのが有利であり、特にメタノールが脱離されるのが有利である。
【0019】
本発明による方法を用いて、一般に今までにも困難でありかつ中程度の収率で得られた、Si原子とイソシアナト官能基との間の短鎖スペーサを有するイソシアナトオルガノシランを製造することもでき、特にこのようなイソシアナトオルガノシランは、R1がメチレンを表す一般式(1)のイソシアナトオルガノシランである。
【0020】
オルガノシリル基とカルバマト基との間のスペーサR1として、一般に線状又は分枝状の飽和又は不飽和のC1〜C6−炭化水素基を使用することができる。有利なスペーサR1はアルキル基、特に線状アルキル基であり、特に有利にメチレン、エチレン及びプロピレン基が使用される。
【0021】
2、R3及びR4は、有利にメチル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基又はi−プロポキシ基である。
【0022】
本発明の方法により、
2、R3=メトキシ、R4=メチル及びR1=メチレン;又は
2=メトキシ、R3=エトキシ、R4=メチル及びR1=メチレン;又は
2、R3=エトキシ、R4=メトキシ及びR1=メチレン;又は
2、R3=メトキシ、R4=エトキシ及びR1=メチレンを表す、
一般式(1)の特別な化合物を、高収率かつ高純度で製造できる。
【0023】
流動化された固体粒子として、反応条件下で少なくとも一時的に固相で存在する全ての材料からなる粒子が適している。
【0024】
本発明による方法の有利な実施態様の場合には、流動化された固体粒子の1%〜100%、特に10〜50%が1種の不均一系触媒又は複数の不均一系触媒の組合せからなる。本発明による方法の特に有利な実施態様の場合には、流動化された固体粒子は、酸素の存在で、特に空気の存在で250℃より高い温度、特に450℃より高い温度で分解せずに加熱することができる材料からなる。特に適した材料は、従って不揮発性の金属酸化物及び酸化安定性セラミックである。
【0025】
最適な粒子径は反応の実施及び粒子の材料特性に著しく依存する。前記粒子は、一方で反応器条件下で流動化するために十分に小さくなければならず、他方で反応系中に滞留しかつ搬出されないために十分に大きくなければならない。
【0026】
通常では、前記粒子径は1・10-6m〜1・10-2m、有利に5・10-5m〜5・10-3m、特に有利に1・10-4m〜1・10-3mにある。
【0027】
前記粒子は耐摩耗性が十分でなければならず、粒子が小さくなることによる不経済な高い粒子の消耗が回避される。
【0028】
触媒活性粒子は、反応系中に直接導入することができるか、又はそれとは別に特に反応系中で触媒前駆体(前触媒)を触媒に変換することにより又は不活性の流動化された粒子を触媒活性化合物で被覆することにより、反応系中で初めて生成させることもできる。流動化された粒子が触媒材料で含浸されていてもよい。同様に、前記触媒は、反応系中で初めて触媒前駆体(前触媒)から生成させることもできる。
【0029】
粒子及び/又は不均一系触媒及び/又は前記粒子の前駆体化合物及び/又は前記不均一系触媒の前駆体化合物は、溶液、ゾル、ゲル、エマルション、懸濁液、融液、蒸気又は固体として前記反応系に断続的に又は連続的に、出発材料と一緒に又は出発材料と別個に、反応系の1箇所又は多様な箇所で供給することができる。
【0030】
前記方法は、有利に、断続的又は連続的に新たな粒子及び/又は触媒を供給し、そのために相応する割合の消費された粒子及び/又は触媒を反応系から搬出するように実施される。
【0031】
この方法は、有利な実施態様の場合に、触媒、触媒前駆体化合物又は粒子前駆体化合物が溶解された形で存在するように実施される。前記の均一系触媒、1種又は数種の可溶性の触媒前駆体化合物又は1種又は数種の可溶性の粒子前駆体化合物を、次いで、出発物質に溶解させて反応系に添加するか又は、別個の溶液として断続的に又は連続的に反応系に供給する。
【0032】
別の実施態様の場合には、触媒、粒子、触媒前駆体化合物又は粒子前駆体化合物を不溶性触媒及び/又は粒子及び/又は触媒前駆体化合物及び/又は粒子前駆体化合物の場合には、乳化又は懸濁した形で存在することができ、かつ反応系へ導入する前の出発材料に断続的に又は連続的に供給することができる。
【0033】
本発明による方法は、場合により触媒の存在で実施することができる。触媒として、基本的に均一系及び不均一系の触媒が同様に挙げられる。
【0034】
適当な均一系触媒は、可溶性のスズ化合物、鉛化合物、カドミウム化合物、アンチモン化合物、ビスマス化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、ニオブ化合物、鉄化合物、コバルト化合物、マンガン化合物、クロム化合物、モリブデン化合物、タングステン化合物、ニッケル化合物、銅化合物及び亜鉛化合物並びに可溶性の有機窒素塩基を有するグループから選択される1種又は数種の化合物である。
【0035】
特に、1,4−ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン、ジブチルスズジラウラート、ジブチルスズマレアート、ジブチルスズジアセタート及びジメチルスズジクロリドが適している。
【0036】
不均一系触媒として、一般に、Sn(I)、Sn(II)、Pb(II)、Zn(II)、Cu(I)、Cu(II)、Co(I)、Co(II)、Na、K、Li、Rb、Cs、Sr、Ba、Mg、Ca、Cr、Mo、Ti、V、W、Ce、Fe、Ni、Si、Al、Ge、Ga、In、Sc、Y、La、ランタニド、Pd、Pt、Co、Rh、Cu、Ag、Au、Zn、Cr、Mo、W、Cd、Fe、N、B、Cのグループから選択される元素を有する金属及び/又は化合物及びこれらの混合物、及び前記元素を有する合金を使用することができる。
【0037】
有利な不均一系触媒として、Sn(I)、Sn(II)、Pb(II)、Zn(II)、Cu(I)、Cu(II)、Co(I)、Co(II)、Na、K、Li、Rb、Cs、Sr、Ba、Mg、Ca、Cr、Mo、Ti、V、W、Ce、Fe、Ni、Si、Al、Ge、Ga、In、Sc、Y、La、ランタニド、Pd、Pt、Rh、Cu、Ag、Au及びCdを有するグループから選択される1種又は数種の元素を有する酸化物、水酸化物、水酸化物−酸化物、混合酸化物、酢酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、硝酸鉛、炭酸塩又は前記化合物の混合物である。
【0038】
特に、TiO2、ZrO2、HfO2、Al23、BaO、CaO、MgO、CeO2、La22、Y23、Sm23、Yb23、Cr23、ZnO、V24、MnO2、NiO、In23、Ga23、GeO2、FeO、Fe23、Fe34、CuO、Co34、Fe(MoO43、MgO/CsOH、MgO/NaOH、アルミノケイ酸塩、特に多様な孔径のゼオライト、2MgO・2Al23・5SiO2の組成のコージエライト、ヘテロポリ酸、炭素変態、例えば黒鉛、遷移金属の窒化物、ホウ化物、ケイ化物及び炭化物を有するグループから選択される1種又は数種の化合物を有する不均一系触媒が適している。
【0039】
この金属、金属化合物又はこれらの混合物は、多孔性又は無孔性の担体材料上に設けられていてもよい。不活性の耐火性材料からなる特に適当な担体は、酸化物の及び非酸化物のセラミック、SiO2、炭素、アルミノケイ酸塩、マグネシウム−アルミノケイ酸塩又は耐久性の金属材料、特にガラスウール、石英ウール、セラミック、酸化物の材料、例えばSiO2、Al23、Fe23又はステアタイトである。
【0040】
前記触媒担体は、この場合、不規則な顆粒、球、リング、ハーフリング(Halbring)、サドル、円柱、トリロブス(Trilobs)又はモノリスの形で使用することができる。
【0041】
この方法は、一般に、流動化された固体粒子を用いた反応のために適した反応器中で、特に前記反応器中で粒子を流動化させることができかつ同時に反応器から粒子が搬出されるのを抑制するような反応器中で実施される。多様な形の流動化された固体、例えば流動層、膨張した流動層又は循環する流動層を有する適当な反応器は、例えば流動層を有するメチルクロロシラン直接合成用の反応器、石油フラクションの流動層クラッカー又は「上昇管/再生装置(Riser/Regenarator)」反応器、例えば「流動化された触媒クラッキング」用の反応器が使用される(例えば"Ullmannn's Encyclopedia of Industrial Chemistry", Vol. 134 "Fluidized-Bed Reactors"参照)。
【0042】
反応器用の材料として、化学的に耐性の材料、特にガラス、セラミック又は金属が適している。
【0043】
反応温度に応じて、反応器及び/又は反応系のエネルギー供給及び/又は流動化された粒子の加熱は、有利に水蒸気、サーモオイル(Thermooel)、液状又は蒸気状の合成されたヒートキャリア(Warmetraeger)、液状の塩混合物、液状の金属合金、熱ガス、電気抵抗加熱又はマイクロ波加熱を用いて行う。本発明による方法の有利な実施態様の場合には、エネルギー供給はマイクロ波照射により行われる。
【0044】
「マイクロ波」の概念は、300MHz〜300GHzの周波数を有する電磁振動であると解釈される。
【0045】
前記反応室は空であるか又は内部構造体が備えられていてもよい。前記内部構造体は、反応室中で流動の分配、温度の分配及び、マイクロ波加熱の場合にはマイクロ波の分配にも影響を及ぼす。前記内部構造体は、この場合、マイクロ波透過性材料、例えばマイクロ波透過性ガラス、石英ガラス、マイクロ波透過性酸化物セラミック、マイクロ波透過性非酸化物セラミックからなり、反応室中での流体の流動にだけ影響を及ぼすことができる。前記内部構造体はマイクロ波反射性材料(例えば、良好な導電性金属、黒鉛)からなるか又はマイクロ波吸収性材料(特別なセラミック、炭化ケイ素、磁性材料又は電気抵抗材料)からなる場合に、マイクロ波及び温度の分配にも影響が及ぼされる。
【0046】
反応室中で、触媒の存在で本発明による方法の場合による実施の際に、内部構造体と一緒に又は単独で前記した不均一系触媒の1種又は数種を導入するか又は連続的に導入することができる。
【0047】
前記反応室は、全体の反応室又は前記反応室の一部が流動化される固体で満たされるように構成することができ、その際、前記固体はマイクロ波吸収体、ヒートキャリア及び/又は触媒として作用することができる。
【0048】
マイクロ波照射システムの一般的構成については、この箇所でも、例えばA. Muehlbauer著, "Industrielle Elektrowaermetechnik", Essen Vulkan-Verlag, 1992; D. M. P. Mingos著, "The Application of Microwaves to the Processing of Inorganic Materials", Britisch Ceramic Transactions, 91, 1992; G. Orth著, "Mikrowellenerwaermung in der Industrie" RWE-Industrieforum, Essen, 1993の文献を指摘することができる。
【0049】
前記方法は、断続的に(バッチ運転で)、半連続的に又は連続的に実施することができる。有利に、1種又は数種の揮発性反応生成物の反応室からの連続的な取り出は、1種又は数種の揮発性反応生成物の反応室からの連続的な留去であり、その際、前記反応生成物のアルコールも、反応生成物のイソシアナトオルガノシランも別々に又は一緒に留去することができる。
【0050】
消耗した流動化された固体(その際、「消耗した」一般的な材料とは、その特性においてその出発状態から変化し、もはやプロセスのために適していない材料、特に失活した触媒粒子、アグロメレートした粒子、粉砕された粒子であると解釈される)は、連続的に又は断続的に反応系から取り出され、置き換えられかつ/又は再生されてもよい。この場合、取り出された粒子及び触媒の全部又は一部を再生することができる。
【0051】
前記カルバマトオルガノシラン、特に一般式(2)のカルバマトオルガノシランは、有利に流動化された固体の150〜800℃、特に有利に200〜600℃の温度範囲に、殊に250〜500℃の範囲内に加熱される。
【0052】
この方法は、キャリアガスあり又はなしで実施することができる。前記キャリアガスは、窒素、水素、空気、希ガス、例えばヘリウム、アルゴン又は炭素含有材料、例えば一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、オクタン、トルエン、デカリン、テトラリンの蒸気又は前記ガスの1種又は数種の混合物を有するグループから選択される。キャリアガスとして機能する成分は液体の形で添加することもでき、これは次いで加熱された領域で初めてガス流を形成しながら蒸発する。前記キャリアガスを用いて、反応混合物を希釈、加熱又は冷却し、固体を流動化しかつ/又は搬送しかつ定義された流動比に調節することを達成することができる。
【0053】
前記の方法は、有利に0.01・105Pa〜200・105Paの圧力範囲で、特に有利に0.5・105Pa〜40・105Paで実施される。
【0054】
この出発材料は、本発明による方法の場合に、有利に噴霧によって反応系中に導入される。
【0055】
本発明による方法は、この場合、有利に、加熱装置が設けられていてかつ粒子をガス流で予備流動化される区域中に、1種又は数種の触媒又は触媒前駆体化合物を含有する出発材料又は出発材料混合物を、ノズルを介して微細に分配させて供給するように実施するのが有利である。蒸発により形成される蒸気によってガス流が著しく増加し、かつ粒子の付加的流動化を生じさせる。この出発材料噴霧装置は、有利な実施態様において付加的に冷却される。
【0056】
本発明による方法は、先行技術から公知の方法と比較して、高純度の所望の生成物を簡単に後から実施される蒸留工程でより高純度(>97%)で得ることができるという大きな利点を有する。高い熱的負荷の場合に観察される六員環のイソシアヌレートの形成は、この方法によって実際に完全に回避される。
【0057】
この方法の特別な利点は、通常では炭化又はケイ化する沈着物が形成される反応器部分、特に反応器壁部、蒸発面及び加熱面を、流動化された粒子で連続的に清浄化し、さらに炭化した及びケイ化した粒子は、プロセスを中断せずに取り出され、かつ交換するかもしくは再生することができる。
【0058】
粒子の再生は、150〜800℃、有利に200〜600℃の温度で、特に有利に400〜500℃の範囲内で、0.01・105Pa〜100・105Pa、特に有利に0.5・105Pa〜10・105Paの圧力で実施することができる。
【0059】
再生のために、粒子を反応性のガス、液体又は固体と接触させることができる。酸素含有ガス、特に空気又は希薄空気(空気/窒素混合物)を用いた再生が特に有利であり、その際、前記粒子は流動化された状態で存在するのが有利である。再生の反応室中での酸素含有量は、有利に爆発の危険を制限するために酸素限界濃度を下回るのが有利である。
【0060】
特別な実施態様の場合には、前記粒子は流動層中で450℃で1.5・105Paで空気を用いて再生される。
【0061】
図1aは、本発明による方法を実施するための、流動層及び断続的(バッチ運転で行う)再生装置を備えた可能な実施態様及び装置を記載する。導管(1)を介して反応系にキャリアガスが供給される。1つ以上の導管(2)を介して出発物質(H)(カルバマトオルガノシラン)が反応系内へ送られ、流動層(6)内へ噴霧される。流動層(6)中には加熱エレメント(4)が存在し、前記加熱エレメントは反応器ヒータ(5)により加熱されかつ反応温度を維持しかつ調節する。反応ガスは、サイクロン(8)を経て反応器(A)を離れ、前記サイクロンは粒子(流動化された固体粒子)を分離し、かつ流動層(6)内へ戻す。反応器圧力は弁(9)で調節される。サイクロン(10)ではもう1回、微細粒子成分が分離される。導管(11)を介して、粗製生成物(G)を含有する反応器搬出ガス(反応ガス)は、図3による後処理装置に送られる。
【0062】
断続的再生の場合には、導管(2)を介して更なる出発物質はもはや供給されず、まず反応器(A)を導管1を介して不活性ガスで洗浄し、引き続き酸素含有ガスを導管(7)を介して熱い反応器(A)中に供給する。弁(12)は閉鎖され、再生の際に生じるガスを導管(13)を介して排出する。
【0063】
図1bは、本発明による方法を実施するための、流動層及び連続的再生装置を備えた可能な実施態様及び装置を記載する。導管(1)を介して反応系にキャリアガスが供給される。1つ以上の導管(2)を介して出発物質(H)(カルバマトオルガノシラン)が反応系内へ送られ、流動層(6)内へ噴霧される。流動層(6)中には加熱エレメント(4)が存在し、前記加熱エレメントは反応器ヒータ(5)により加熱されかつ反応温度を維持しかつ調節する。反応ガスは、サイクロン(8)を経て反応器(A)を離れ、前記サイクロンは粒子(流動化された固体粒子)を分離し、かつ流動層(6)内へ戻す。反応器圧力は弁(9)で調節される。弁(9)に引き続く、粗製生成物(G)(イソシアナトオルガノシラン)を有する反応搬出ガスから生成物を単離するための方法及び可能な装置は、図3において下記されたものに相当する。
【0064】
反応器から、導管(23)を介して連続的に固体充填物の一部が取り出される。前記固体は、ストリッパ(22)中で付着する揮発性出発材料及び生成物を除去し、再生装置(B)に移送する。ストリップガスは導管(25)を介して反応器系に戻される。前記再生装置(B)は、導管(7)を介して供給される予熱された酸素含有再生ガス、及び/又は流動層帯域ではヒータ(20)及び(19)によって加熱される。前記反応器(A)から取り出された粒子は、再生装置(B)の流動層(21)中で、酸素含有ガスで処理され、導管(24)を介して連続的に反応器(A)中に戻される。サイクロン(18)は再生ガスから粒子を分離し、かつ粒子を再生流動層(21)中へ戻す。弁(17)は再生装置(B)中の再生圧力を調節する。
【0065】
図1cは、本発明による方法を実施するための、循環式流動層(上昇管)及び再生装置を備えた可能な実施態様及び装置を記載する。導管(1)を介して、キャリアガスを、反応系の反応器上昇管(27)、直立管(28)及びストリッパ(22)に供給した。導管(2)を介して、出発物質(H)(カルバマトオルガノシラン)は反応器(A)に送られ、かつ反応器(A)の上昇管(27)の下端部で、前記反応器中へは導管(29)を介して、図1bと同様に連続的に運転される再生装置(B)から供給されるか又は戻される粒子(流動化される固体粒子)に噴霧される。粒子及びガス流は一緒に1つ以上の加熱装置(4/5)によって加熱された、反応器(A)の上昇管を上昇する。サイクロン(8)中では粒子を反応ガスと分離し、直立管(28)及び導管(29)を介して反応器入口に戻す。反応器圧力は弁(9)で調節される。弁(9)に引き続く、流(G)から生成物(イソシアナトオルガノシラン)を単離するための方法及び可能な装置は、図3において下記されたものに相当する。直立管(28)中で粒子から付着した揮発性生成物を除去する。反応系の固体充填物の一部は、導管(23)を介して連続的に取り出され、ストリッパ(22)中で全ての揮発性化合物を除去し、再生装置(B)の流動層(21)中で酸素含有ガスで処理される。ストリップガスは導管(25)を介して反応器系に戻される。前記再生装置(B)は、導管(7)を介して供給される予熱された酸素含有再生ガス、及び/又は流動帯域(21)ではヒータ(20)及び(19)によって加熱される。反応器から取り出されかつ再生された粒子は、導管(24)及び導管(29)を介して連続的に反応器中に戻される。サイクロン(18)は再生ガスから粒子を分離し、かつ粒子を再生流動層(21)中へ戻す。弁(17)は再生装置圧力を調節する。
【0066】
本発明による方法の有利な実施態様、特に図1a、1b及び1cに記載された実施態様の場合には、反応を完全にするために、弁(9)を介して前記反応器から取り出し可能な、流動化された固体粒子を有するガス状の搬出流(G)を、さらに1つ以上の後方に配置された反応器(後反応器)に導入することができる。
【0067】
それぞれの後続する反応器の容積は、主反応器の0.1倍〜20倍の容積、有利に0.5〜5倍の容積、特に有利に1倍〜3倍の容積であることができる。
【0068】
後続反応は、150〜800℃、有利に200〜600℃の温度で、特に有利に400〜500℃の範囲内で、0.01・105〜100・105Pa、特に有利に0.5・105〜10・105Paの圧力で実施することができる。
【0069】
前記後続反応は、混合槽又は管に相当する反応帯域を有することができる。前記反応帯域は、撹拌装置、不活性な内部構造体、例えば充填体、構造化された充填物、混合機構造物が設けられていてもよい。流動化された粒子及び/又は流動化された不均一系触媒粒子又は固定された不均一触媒が設けられた反応器が特に有利である。
【0070】
図2は、主反応器及び後反応器を用いる本発明による方法及び可能な装置を記載している。第1の反応器(主反応器)(例えば図1aにおいて記載された方法により構成されている反応器)を離れる反応ガスは、導管(11)を介して第1の後反応器(31)に供給される。最初の後反応器(31)中で、前記反応ガスを、ヒータ(30)によって決定及び調節された温度でかつ自然な圧力損失及び弁(12)によって決定及び調節された圧力でさらに反応させる。第1の後反応器の前記反応ガスを、次いで第2の後反応器(32)中でさらに反応させる。
【0071】
断続的な再生は、この場合、図1aの場合に記載された方法と同様に行われる。その際、導管(2)を介して更なる出発物質はもはや供給されず、まず反応器(A)を導管1を介して不活性ガスで洗浄し、引き続き酸素含有ガスを導管(7)を介して熱い反応器(A)に供給する。弁(12)は閉鎖され、再生の際に生じるガスを導管(13)を介して排出する。
【0072】
図3は、一般に、本発明による生成物の後処理のための実施態様及び装置を示し、この生成物の後処理は、図1a、1b、1c、2による全ての実施態様に引き続くことができ、その際、流(G)及び(H)は、前記された図に対するそれぞれの接続箇所を示す。反応生成物を有する流(G)からは、ストリップ塔(14)中で、頭頂部から低沸点物及びガス(B)、特に熱分解時に脱離されたアルコールが、ストリップガス(E)の供給によって除去される。前記ストリップ塔(14)から、塔底で低沸点物が除去された流を後方に配置された塔(15)中に導入し、その際、純粋なイソシアナトオルガノシラン(C)を塔頂を介して得て、塔底を介して反応していないカルバマトオルガノシラン(D)を含有する高沸点物混合物が分離される。これは部分的に又は完全に、場合によりさらに化学的又は物理的処理又は後処理の後にポンプ(16)を介して系の始めに戻すことができる(H)。
【0073】
この流(H)は、図1a、1b、1c及び2に示された本発明による方法の全ての可能な実施態様において、後処理から回収されたカルバマトオルガノシランを含有する流に相当する。
【0074】
適当なストリップガス(E)は一般に、窒素、希ガス、二酸化炭素、低沸点の炭化水素、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン等又は他のストリップ条件下でガス状材料との混合物を有するグループから選択され、前記混合物は前記の成分の1種又は数種を50%を超える割合で含有する。
【0075】
比較例1:
メチルカルバマトプロピルトリメトキシシラン2.1molを2時間内で電気加熱した沸騰フラスコ中で温めて、蒸発させた。この蒸気を電気加熱した、触媒が充填された25mmの内径を有する管状反応器中に導入し、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシランに反応させた。前記管状反応器を離れたガス混合物を、ガラス製のリービッヒ冷却器(長さ200mm)中で冷却した。前記管状反応器の温度は、冷却器の後で、系の出口で1・10^5Paの圧力で450℃であった。前記管状反応器は、酸化マグネシウムで被覆された直線的な通路を有するコーディエライトモノリス(2MgO・2Al23・5SiO2)からなる触媒で充填された。メチルカルバマトプロピルトリメトキシシラン2.1molから出発し、冷却器の後の縮合物中で、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン1.18molと未反応のメチルカルバマトプロピルトリメトキシシラン0.33molとが見られた。これは、使用したメチルカルバマトプロピルトリメトキシシランに関して、56%のγ−イソシアナトプロピルトリメトキシシランの収率に相当した。蒸発のために使用した電気加熱した沸騰フラスコ中に、メチルカルバマトプロピルトリメトキシシランの熱により誘導された分解からさらに使用不可能なオリゴマー及びポリマーの残留物98gが残留した。
【0076】
実施例1(反応):
図2による方法と同様に、メチルカルバマトプロピルトリメトキシシランを16ml/minの速度で、ガラス反応器中のFe23顆粒50g(平均粒子径55μm)の流動層中に供給した。前記反応器温度は、2.45GHzの周波数及び最大800Wのマイクロ波出力のマイクロ波を照射することにより250℃に調節した。前記粒子を75ln/h窒素流で予備流動化させた。流動層中でのメチルカルバマトプロピルトリメトキシシランの加熱/蒸発/反応は1・10^5Paで実施した。この流動層反応器を離れた蒸気を、完全に反応させるために、電気加熱した、触媒が充填された25mmの内径を有する管状反応器中に導入し、さらにγ−イソシアナトプロピルトリメトキシシランに反応させた。前記管状反応器を離れたガス混合物を25℃に冷却した。前記管状反応器の温度は、1・10^5Paの圧力で440℃であった。前記管状反応器は、Fe23で被覆された直線的な通路を有するコーディエライトモノリス(2MgO・2Al23・5SiO2)からなる触媒で充填された。メチルカルバマトプロピルトリメトキシシラン4.07molから出発し、冷却器の後の縮合物中で、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン3.04molと未反応のメチルカルバマトプロピルトリメトキシシラン0.7molとが見られた。これは、使用したメチルカルバマトプロピルトリメトキシシランに関して83%のメチルカルバマトプロピルトリメトキシシランの総転化率、及び75%のγ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン収率に相当した。
【0077】
実施例2(再生):
反応時間が長くなりかつ粒子上での分解生成物の沈着が増加すると共に、粒子の流動化特性は悪化した。
【0078】
実施例1からの消耗されたFe23粒子を、石英管中で450℃で流動層中で再生した。流動化及び再生のために、空気500ln/h及び窒素250ln/hからなるガス流を使用した。2時間の再生時間の後に、再生されたFe23粒子を、新しいFe23の代わりに実施例1と同様の試験中で使用した。表1は再生された粒子を用いて得られた結果と、新しい粒子を用いて得られた結果とを対比する。
【0079】
表1
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1a】本発明による方法を実施するための流動層及び断続的再生装置を備えた装置の略図
【図1b】本発明による方法を実施するための流動層及び連続的再生装置を備えた装置の略図
【図1c】本発明による方法を実施するための循環式流動層(上昇管)及び再生装置を備えた装置の略図
【図2】主反応器及び後反応器を用いる本発明による装置の略図
【図3】本発明による生成物の後処理のための装置の略図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本発明の主題は、流動化された固体粒子の存在でカルバマトオルガノシランの熱分解によるイソシアナトオルガノシランの製造方法である。
【請求項2】
一般式(1)
234Si−R1−N=C=O (1)
[式中、
Rは一価のC1〜C10−アルキル基を表し、
1は二価のC1〜C6−炭化水素基を表し、及び
2、R3及びR4はそれぞれ相互に無関係にメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基又はi−プロポキシ基を表す]のイソシアナトオルガノシランを、流動化された粒子の存在で、一般式(2)
234Si−R1−NH−CO−OR (2)
のカルバマトオルガノシランの熱分解によって製造することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
熱分解を触媒の存在で行う、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
固体粒子は1・10-6m〜1・10-2mのサイズを有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
流動化された固体粒子の1%〜100%が不均一系触媒又は複数の不均一系触媒の組合せからなることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
出発材料を噴霧によって反応系中へ導入することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
流動化された固体粒子及び/又は触媒及び/又は触媒の前駆体化合物及び/又は流動化された固体粒子の前駆体化合物を、溶液、ゾル、ゲル、エマルション、懸濁液、融液、蒸気又は固体として反応系に断続的に又は連続的に、出発物質と混合して又は別個に、反応系の1箇所に又は多様な箇所に供給することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
反応系のエネルギー供給及び/又は流動化された粒子の加熱を、水蒸気、サーモオイル、液状又は蒸気状の合成ヒートキャリア、液状の塩混合物、液状の金属合金、熱ガス、電気抵抗加熱又はマイクロ波加熱で行うことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
断続的に又は連続的に新しい粒子及び/又は触媒を供給し、かつ同時に相応する割合の消耗した粒子を反応系から取り出すことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
粗製生成物を含有する反応器からの搬出流を1つ以上の後反応器中に導入することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−534642(P2007−534642A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543438(P2006−543438)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013722
【国際公開番号】WO2005/055974
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】