説明

イチョウの抽出物

(a)20〜30重量%のフラボングリコシド、(b)2.5〜4.5重量%のギンクゴリドA、B、CおよびJ(合計して)、(c)2.0〜4.0重量%のビロバリド、(d)10ppm未満のアルキルフェノール化合物、および(e)10重量%以上のオリゴマープロアントシアニジン(OPC)を含有するイチョウ葉からの新規抽出物が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチョウ(Ginkgo biloba)の葉の新規抽出物、該抽出物を得るための方法、ならびに、医薬品および/または補助食品および/または食品(機能性食品、特定の栄養目的のための食品、医療食品などを含む)において使用するための経口調製物を製造するための該抽出物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
イチョウの木は驚嘆すべきものである。その性質の全てが長寿と関連しているので、ダーウィンはそれを「生きた化石」と称した。古くから、この木は、中国および日本において寺院庭園に植えられており、そうでなければこの植物は現在まで存在しなかったであろう。
【0003】
イチョウ(Ginkgo biloba)は、現在イチョウと称されるものの中で唯一現存している種であるが、多くのイチョウと称される類縁体が化石記録において見いだされている。イチョウ目は、ペルム紀にまで遡る裸子植物の群である。この群は、他のいずれの裸子植物よりも球果植物に密接に関連していると考えられている。現在、イチョウは30メートルまで成長することができ、千年にわたり生きることができる。その葉は漢方薬として使用されるが、その種子はより頻繁に使用されていた。中国では、いわゆる「バイ-グオ-ユェ(Bai-guo-ye)」が、呼吸障害、難聴、白内障、結核、血行不良、記憶障害、淋病、胃痛、皮膚病、白帯下、狭心症、赤痢、高血圧、不安およびその他を処置するために使用されている。粉末化した葉は、喘息、耳、鼻および喉疾患のために吸入されている。
【0004】
西洋医学において、その葉は50年代後半に研究対象になった。ウィルマー・シュワーベ(Willmar Schwabe)は、葉の天然物質の構成成分および活性を分析し、イチョウ抽出物の商品化を始めた。ブランドTeboninのもとで、チンキ剤および錠剤が、10:1の濃度(原料:抽出物の比)で供給されている。その後、他の会社も抽出物を開発した。現在では、濃度はほとんどが50:1(原料:抽出物の比)である。一方において、葉の化学、薬理学および臨床効果に関する多くの統制された研究および探索が、ほとんど抽出物EGb761(Kaveri、Tebonin、Tanakan、RoekanまたはGinkgoldとも称される)を用いて行われている。1988年に、ハーバード大学のCoreyは、ギンクゴリドBの合成に対してノーベル賞を獲得した。このギンクゴリドBは、移植器官の拒絶を妨げるための使用について、ならびに、喘息および毒性ショックに対して研究が行われている。
【0005】
イチョウ抽出物の主な活性成分は、フラボノイド(ケルセチン、ケンペロール、イソラムネチン、ミリセチンなど)およびそのグリコシド、テルペノイド(ギンクゴリドA、B、C、J、Mおよびビロバリドなど)、およびある種の小さいフェノール化合物である。
【化1】

ケルセチン R2、R3=OH、R1=H;
ケンペロール R1、R3=H、R2=OH;
イソラムネチン R1=OMe、R2=OH、R3=H。
【0006】
最新技術から、イチョウ抽出物およびそれを得るための方法を開示する数多くの文献が既知である。しかし、特に重要であるのは、欧州特許EP0431535B1およびEP0431536B1(Schwabe)であり、これらは、(a)20〜30重量%のフラボングリコシド、(b)2.5〜4.5重量%のギンクゴリドA、B、CおよびJ(合計して)、(c)2.0〜4.0重量%のビロバリド、(d)10ppm未満のアルキルフェノール化合物、および(e)10重量%未満の縮合タンニン、より具体的には(オリゴマー)プロアントシアニジン(OPC)を含有するイチョウ葉の抽出物、ならびに、それを得るための方法に関する。実際のところ、Schwabeが記載する明細書は、イチョウ抽出物の全ての医薬応用のための標準として引き継がれている。注目すべきは、化合物(d)および(e)の含有量である。ギンクゴル酸(ginkgolic acid)は刺激(過敏)を引き起こすことが疑われているが、プロアントシアニジン(OPC)は、イチョウ抽出物を静脈内または筋肉内で投与したとき、即ち経口経路を回避して投与したときの血球凝集および血清沈降特性の原因である。また、OPCの負の特性は欧州特許EP0477968B1(Schwabe)にも報告されており、これによれば、これらの化合物を抽出物から特別の方法によって完全に除去することが議論されている。
【0007】
欧州特許EP0360556B1(Indena)は、実施例1において、24重量%のフラボングリコシド、3.6重量%のギンクゴリド、3.1重量%のビロバリド、および9重量%のいわゆるプロシアニドール指数(procyanidolic index;これはOPC含有量に等価であると考えられる)を含有するイチョウ組成物を開示している。欧州特許EP1037646B1およびEP1089748B1(Schwabe)は、4'O-メチルピリドキシン、ビフラボンおよびテルペンラクトンのような他の成分の含有量を減少させたことを特徴とするイチョウ組成物を開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
市場に既に存在するイチョウ抽出物は、イチョウのこれまで既知の健康特性に関する必要性は満たしているが、現在の顧客は、改善された特性および/または追加の特性を有する製品を期待している。例えば、イチョウの場合、さらに、フリーラジカルの種々の負の効果に対して、経口投与によって広く生物を保護する新規抽出物を開発することが望ましい。第2の要求は、ヒト身体の全身状態を、例えば血液の微小循環に関して改善するイチョウ抽出物を開発することである。実際のところ、そのような生成物は、既存の抽出物に、例えばラジカル捕捉特性および血液循環刺激特性が周知である特定の活性物質を加えることによって容易に得ることができる。しかし、そのような生成物は、それを製造するための技術的作業の増加のゆえに、より高価なものになる。さらに、そのような抽出物は、もはや医薬標準仕様書の範囲内の真のイチョウ抽出物ではなくなる。従って、本発明が解決しようとする課題は、活性物質を加えることなく、上記のような追加の特性を有するイチョウ抽出物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、イチョウ葉からの新規抽出物であって、以下の成分を含有する抽出物を提供するものである:
(a)20〜30重量%のフラボングリコシド、
(b)2.5〜4.5重量%のギンクゴリドA、B、CおよびJ(合計して)、
(c)2.0〜4.0重量%のビロバリド、
(d)10ppm未満のアルキルフェノール化合物、および
(e)10重量%以上のオリゴマープロアントシアニジン(OPC)。
【発明の効果】
【0010】
種々の実験および試験の結果、驚くべきことに出願人は、オリゴマープロアントシアニジンの含有量を、臨界値10重量%、特に11重量%、好ましくは12重量%以上に高めることによって、イチョウ葉の抽出物が、期待される改善された健康上の利点を完全に満足させることを見いだした。これは、広く受け入れられている科学的知識のゆえに、OPC量を10重量%未満の含有量まで低下させるか、さらにはこれらの化合物を完全に除去しなければならないという最新技術の不利益を克服するものと理解すべきである。具体的には、本発明により開示されるOPC含有量が増加したイチョウ抽出物の改善された健康上の利点は、抽出物の改善された抗酸化効果であり、これは、抗炎症活性の改善および血管組織の有益効果の改善(毛細血管脆弱性の減少および結合組織の安定化を含む)の結果を与える。これらは、特に、網膜微小循環の改善、ロドプシン再合成の促進、網膜酵素活性の調節などによって、目の健康に関係する。このようなOPC含有量が増加したイチョウ抽出物の改善された利点は、暗視および暗順応の改善、ならびに、糖尿病性網膜症、他の種類の網膜症、加齢による黄斑変性および緑内障に関係する網膜血流の改善を含む利益を与える(これらに限定はされない)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
オリゴマープロアントシアニジン(OPC)
オリゴマープロアントシアニジン(プロシアニジン、ロイコアントシアニンまたは縮合タンニンとしても知られる)は、塩基性単位を形成するような(+)-カテキンまたは(−)-エピカテキンなどのフラバン-3-オールとのオリゴマーまたはポリマーである。その名称は、それらが酸加水分解したときに、着色したアントシアニジンに変換されることを反映している。通常、連続したモノマー間の結合は、C4からC8によるが、C4からC6によるものも生じうる。オリゴマープロアントシアニジンの構造を以下に示す:
【化2】

【0012】
本発明のイチョウ抽出物のOPC含有量の分析は、Indenaの欧州特許EP0360556B1に記載されている指図に従って行った(該欧州特許の記載は本明細書の一部を構成する)。
【0013】
抽出方法
本発明の別の目的は、
(a)20〜30重量%のフラボングリコシド、
(b)2.5〜4.5重量%のギンクゴリドA、B、CおよびJ(合計して)、
(c)2.0〜4.0重量%のビロバリド、
(d)10ppm未満のアルキルフェノール化合物、および
(e)10重量%以上のオリゴマープロアントシアニジン(OPC)、
を含有するイチョウ葉からの抽出物の製造方法を提供することである。
【0014】
本発明の方法は、以下の工程を含んでなる:
(i)イチョウの葉または乾燥抽出物のいずれかを、水性極性溶媒による抽出にかけて、第1液体中間体LI-1を得る工程;
(ii)中間体LI-1を、有機溶媒から分離させ、非極性C4-C10炭化水素による液-液抽出にかけて、第2(水性)液体中間体LI-2を得る工程;
(iii)中間体LI-2を、pH2.5〜6.0に調節した後、極性C2-C6脂肪族アルコールによる液-液抽出にかけて、OPCに富む(水性)液体中間体LI-3およびグリコシドに富む別の(有機)液体中間体LI-4を得る工程;
(iv)中間体LI-4を、濃縮し、水で希釈し、非極性C4-C10炭化水素と混合して、さらなる(有機)液体中間体LI-5および別の(水性)液体中間体LI-6を得る工程(必要に応じてLI-5を乾燥して、最終テルペンラクトン含有量を調節することができる);
(v)液体中間体LI-6を乾燥して、第1固体中間体SI-1を得る工程;
(vi)液体中間体LI-3を、有機溶媒から分離させ、水で希釈し、pH6〜8の値に調節し、溶液からOPCが沈殿するに十分な時間、高くとも10℃の温度に冷却する工程;
(vii)沈殿を濾過し、洗浄し、乾燥して、第2固体中間体SI-2を得る工程;そして最後に
(viii)第2固体中間体SI-2を、第1固体中間体SI-1に、最終生成物が10重量%以上のOPCを含有するような量で添加する工程。
【0015】
より具体的には、本発明に従って得られる抽出物は、通常は11〜20重量%、より好ましくは12〜18重量%、最も好ましくは13〜15重量%のOPC含有量を示す。
通常、これら抽出物は、
(i)50ppm未満の4'O-メチルピロキシジン、
(ii)100ppm未満のビフラボン、および
(iii)5〜10重量%のテルペンラクトン、
を含有する。
抽出物の含水量は、通常は多くとも5重量%である。
【0016】
この新規方法の特別の利点は、イチョウ葉(通常は、少なくとも10重量%のフラボングリコシド、ギンクゴリドおよびビロバリドの含有量を示す)または市販の乾燥イチョウ抽出物(通常は、5〜20重量%のフラボングリコシド、ギンクゴリドおよびビロバリドの含有量を示す)のどちらかから出発して、仕様に合致する最終製品、特に、10重量%以上、好ましくは約12重量%のOPC含有量を示す最終製品にしうることである。
【0017】
本発明の好ましい態様において、工程(i)の極性溶媒はアセトンまたはエタノールである。アセトンは葉の抽出に非常に適しており、一方、エタノールは市場から購入可能な乾燥中間体の抽出に好ましい溶媒であることがわかった。工程(ii)および(iv)の非極性炭化水素は、好ましくはn-ヘプタンであり、これは、全ての望ましくないギンクゴル酸の除去および有機廃棄相中への濃縮を確実にするために有用である。さらに、工程(iii)の極性アルコールは、好ましくはn-ブタノールである。先行方法を超える新規方法の主な改善は、主流からOPCに富む分画を分離し、該OPCを濃縮、精製および単離し、最後にそれを主流に戻して、OPC含有量を、通常の4〜8重量%から10重量%以上に、普通には約12重量%まで高めることである。
【0018】
カプセル封入
本発明に従う乾燥混合物を、カプセル中に導入するための粉末、顆粒または半固体として配合することもできる。粉末の形態で使用するときには、組成物をいずれか1つまたはそれ以上の賦形剤と一緒に配合することができるか、あるいは、組成物は未希釈の形態で存在することができる。半固体の形態で提供するために、乾燥混合物を、粘稠液体または半固体ビヒクル、例えばポリエチレングリコール、あるいは、液体担体、例えばグリコール、例えばプロピレングリコール、またはグリセロール、あるいは、植物油または魚油、例えばオリーブ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、ダイズ油などから選択される油に、溶解または懸濁させることができる。このような抽出物を、マクロカプセルに封入することができる。これは、硬ゼラチンまたは軟ゼラチン型のカプセル中、あるいは、硬または軟ゼラチン等価物(ゼラチン不含)から作られたカプセル中に充填することを意味する。粘稠液体または半固体充填のためには、軟ゼラチンまたはゼラチン等価カプセルが好ましい。
【0019】
本発明の特別の態様においては、活性な組成物をミクロカプセルに封入する。「ミクロカプセル」とは、少なくとも1つの連続した膜によって取り囲まれた少なくとも1つの固体または液体のコアを含有する直径が約0.1〜約5mmの球状凝集体であると理解される。より正確には、それは、皮膜形成ポリマーによって被覆された微細分散した液相または固相であり、その製造においてポリマーが、乳化と液滴形成または界面重合の後に、封入すべき材料上に蓄積される。別の方法においては、液体活性成分をマトリックス(「ミクロスポンジ」)に吸収させ、これをミクロ粒子として、皮膜形成ポリマーによってさらに被覆することができる。ナノカプセルとしても知られる顕微鏡的に小さいカプセルを、同じように粉末として乾燥することができる。単一コアのミクロカプセルの他に、微小球としても知られる複数コアの凝集体も存在し、これは、連続した膜材料中に分布した2つまたはそれ以上のコアを含有する。さらに、単一コアまたは複数コアのミクロカプセルは、追加の第2、第3などの膜によって取り囲まれていてもよい。
【0020】
膜は、天然、半合成または合成の材料からなっていてよい。天然の膜材料は、例えば、アラビアゴム、寒天、アガロース、マルトデキストリン、アルギン酸およびその塩、例えばアルギン酸ナトリウムまたはカルシウム、脂肪および脂肪酸、セチルアルコール、コラーゲン、キトサン、レシチン、ゼラチン、アルブミン、セラック、多糖、例えばデンプンまたはデキストラン、ポリペプチド、タンパク質加水分解物、スクロースおよびワックスである。半合成の膜材料は、特に、化学的に修飾したセルロース、より具体的にはセルロースエステルおよびエーテル、例えば酢酸セルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロース、ならびに、デンプン誘導体、より具体的にはデンプンエーテルおよびエステルである。合成の膜材料は、例えばポリマー、例えばポリアクリレート、ポリアミド、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンである。
【0021】
既知のミクロカプセルの例は、以下の市販製品である(膜材料をカッコ内に示す):Hallcrest Microcapsules (ゼラチン、アラビアゴム)、Coletica Thalaspheres (海性コラーゲン)、Lipotec Millicapseln (アルギン酸、寒天)、Induchem Unispheres (ラクトース、微結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、Unicerin C30 (ラクトース、微結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、Kobo Glycospheres (修飾デンプン、脂肪酸エステル、リン脂質)、Softspheres (修飾寒天)、Kuhs Probiol Nanospheres (リン脂質)、およびPrimaspheresまたはPrimasponges (キトサン、陰イオン性ポリマー)。
【0022】
本発明の組成物のカプセル封入は、活性物質が経口投与され、腸の特別の部分において放出されるべきである場合に好ましい。即ち、当業者は、腸の個々の部分のpH条件下でのカプセルの安定性を比較することによって、適切なカプセル封入系を容易に選択することができる。適する方法は、例えば、国際特許出願公開WO 01/01926、WO 01/01927、WO 01/01928、WO 01/01929(Primacare)または欧州特許EP 1064088 B1(Max Plank Gesellschaft)に開示されている(これらの開示は本明細書の一部を構成する)。
【0023】
産業上の利用
上記したように、本発明の新規抽出物は、市場で見いだされているイチョウ抽出物の既知の有利な特性と、新規な驚くべき特徴(特にフリーラジカルに対する保護および網膜微小循環の改善の点で、特にヒト身体の全身状態を改善するという特徴)とを合わせ持つ。従って、本発明のさらなる対象は、医薬組成物および/または補助食品および/または食品(機能性食品、特定栄養目的のための食品、医療食品などを含む)を製造するための、OPCに富む新規抽出物の使用であり、これらにおいて、抽出物は10〜1000mg、好ましくは30〜500mg、より好ましくは60〜240mgの量で存在することができる(最終組成物を基準に算出する)。抽出物を身体に局所または経口適用によって投与する。最後に、本発明の別の対象は、網膜微小循環およびヒト身体状態の改善のための医薬組成物を製造するための該抽出物の使用である。
【実施例】
【0024】
実施例A1:イチョウ葉からの高OPC含有量のイチョウ抽出物の製造
工程I
フラボングルコシド、ギンクゴリドおよびビロバリドの含有量が合計して0.8重量%であるイチョウ(Ginkgo biloba)の葉(1000g)を、撹拌容器に入れ、水性アセトン(60w/w%)(5L)を用いて50℃で2時間抽出した。液相を残留物から分離し、濾過および溶媒蒸発を行って、液体中間体LI-1(約30重量%の乾燥残留物を有する)を得た。次に、該相LI-1をn-ヘプタンで抽出して、全ての所望ではないギンクゴル酸(ginkgolic acid)を含む有機相および有用生成物を含む第2の(水性)液体中間体相LI-2を得た。
【0025】
工程II
上記のようにして得た中間体相LI-2をpH2.5〜6に調節した後、n-ブタノールによる抽出を3回行って、OPCに富む第3の(水性)液体中間体相LI-3および第4の(有機)液体中間体相LI-4を得た(この後者を水で2〜3回洗浄して、所望ではない副生成物を除去した)。次に、該相LI-4を濃縮して、約20重量%の乾燥残留物を示す濃縮分画を得た。次に、この濃縮物を約10重量%の乾燥残留物まで水で希釈し、n-ヘプタンと混合した(70:30 w/w)。分離の後、ギンクゴリドおよびビロバリドに富む第5の(有機)液体中間体LI-5ならびに有用生成物に富む第6の(水性)液体中間体LI-6を得た。最後に、分画LI-6を濃縮および乾燥した。最終の固体は、約7重量%OPC含有量を示した。
【0026】
工程III
工程IIで得られた液体中間体LI-3から有機溶媒の全ての痕跡を除き、それを水で希釈して約30重量%の乾燥残留物とし、水酸化ナトリウム水溶液の添加によってpH値を約6.8〜7.2に調節した。次に、この液体分画を一晩8℃に冷却した。翌日、主にOPCからなる沈殿を濾過し、洗浄し、乾燥し、そして工程IIの最終生成物として得られた固体に加えた。合わせた生成物は、以下の仕様を示した(カッコ内は3試料の平均)。
ギンクゴフラボングリコシド:22〜27(24)重量%;
ビロバリド:2.6〜3.2(2.9)重量%;
ギンクゴリド:2.8〜3.4(3.0)重量%;
OPC:12〜13(12.2)重量%;
ギンクゴル酸:<10ppm。
【0027】
実施例A2:乾燥イチョウ抽出物からの高OPC含有量のイチョウ抽出物の製造
黄色ないし褐色の外観を有し、4.5重量%未満のフラボングリコシドを含有する市販の乾燥イチョウ抽出物(1000g)を、撹拌容器に入れ、水性エタノール(80w/w%)を用いて抽出した。このようにして得た液体分画を濾過し、溶媒を除去した。このようにして得た中間体を水で希釈して約10重量%の乾燥残留物とし、次にn-ヘプタンで抽出してギンクゴル酸を除去した。次に、このようにして得た水相を、実施例A1の工程IIおよび工程IIIに記載したように処理した。
【0028】
応用例:酸化防止特性の証明
反応性酸素種(ROS)および反応性窒素種(RNS)は、いわゆる酸化防止剤によって相殺されなければ、タンパク質、脂質、炭水化物およびDNAなどの重要な生体分子を傷つけうる反応性化合物である。ROSおよびRNSの一部(全部ではない)は、フリーラジカル、即ち、1つまたはそれ以上の不対電子を含む原子または分子である。ROSおよびRNSの生成は、ヒト代謝の不可欠な部分として起こる。即ち、例えば、ミトコンドリア呼吸鎖によって、免疫系の正常な機能の一部として活性化食細胞の酸化的破壊中に、あるいは、キサンチンオキシダーゼなどの酵素によって起こる。外因性因子、例えば日光、タバコの煙、またはある種の環境汚染物質が、ROSおよびRNSへのヒト身体の暴露の一因になることもある。ROS/RNSは、過剰の酸化防止剤によって相殺され、このバランスがROS/RNSの方に移動したときにのみ、酸化的ストレスが起こる。次いで、生体分子および生物学的系の損傷が誘発され、このような損傷が長期間にわたって蓄積したときに、多くの退行性疾患の発生ならびに老化それ自体の過程に関与することになる。
【0029】
本発明に係るイチョウ抽出物などの活性物質の酸化防止特性は、インビトロまたは細胞培養系またはその他での種々の試験によって測定することができる。それぞれの試験は、ある種のROSおよび/またはRNSに特異的であるのが普通である。ヒト身体は、全スペクトルのこれら反応性物質(「プロオキシダント」とも称される)に暴露されるので、酸化防止剤は、種々のプロオキシダントに対して有効であるのが望ましいであろう。従って、生成物の特性を評価するために、イチョウ抽出物を種々の試験に、即ち、ラジカルカチオンを減少させる能力を測定する試験(DPPH試験)、ヒドロキシルラジカル(HO・)、スーパーオキシド(O2-)、過酸化水素(H22)を除去する能力を測定する試験、および、一重項酸素を失活させる能力を測定する試験にかけることができる。さらに、金属キレート化特性を評価することができる。
【0030】
I.DPPH試験
DPPH試験は、フリーラジカルを除去する試験物質の能力、具体的にはラジカルカチオンを減少させる試験物質の能力を測定する。この試験は、DPPH(2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル)を使用する。この物質は、吸収極大が515nmにあることにより「紫色」に見える安定なラジカルであり、酸化防止剤によって還元されたときに無色化合物に転換される。従って、試験物質の酸化防止活性を、515nmにおける吸収の減少によって追跡する。この試験の結果を、以下の表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
II.ヒドロキシルラジカル除去活性
ヒドロキシルラジカル(HO・)を除去する能力を、いわゆる「デオキシリボース試験」によりインビトロで評価することができる。HO・は、全ROS/RNSの中で最も反応性が高いと考えられており、デオキシリボースなどのDNA構成成分を含むほとんど全ての細胞化合物を攻撃することができる。この試験においては、アスコルビン酸、H22、およびFe3+-EDTAの混合物によって、即ち、フェントン反応(鉄の存在下でのH22)によって、HO・を生成させる。HO・はデオキシリボースを攻撃し、それをフラグメントに分解し、該フラグメントは、低pHでチオバルビツール酸(TBA)と一緒に加熱したときにピンク色の色原体を生成する。添加したヒドロキシルラジカル「スカベンジャー」は、生成したヒドロキシルラジカルを、デオキシリボースと競合し、色原体の生成を減少させる。この試験を、EDTAの存在下および非存在下の両方で行って、鉄などの遷移金属イオンをキレート化(結合)するOPCの能力を調べる。この結果を、以下の表2に示す(2つの試験の平均を示す)。
【0033】
【表2】

【0034】
III.スーパーオキシドおよび過酸化水素除去活性
2つのさらなるROSは、スーパーオキシド(O2-)および過酸化水素(H22)である。インビボで生成したスーパーオキシド(例えば、活性化食細胞の酸化的破壊中に、あるいは、シトクロムP450オキシダーゼが関与する反応において生成する)は、酵素(SOD、スーパーオキシドジスムターゼ)によって、または酵素によらない不均化によって、ほとんどがH22に変換され、これは荷電しておらず、細胞膜を容易に横切るものと考えられている。例えば、脈管組織におけるO2-およびH22の生成の増加は、脈管機能障害に関連する前炎症性および他の症状ならびに関連の疾患の一因になる。
【0035】
2-およびH22を除去する本発明のイチョウ抽出物の能力を試験する目的で、これらのROSを、キサンチンオキシダーゼ/ヒポキサンチン系を用いて生成させ、化学発光(ルミノール)を用いて検出することができる。
【表3】

【0036】
IV.一重項酸素失活活性
一重項酸素(12)は、分子酸素の電子的に励起された形態であり、光化学的に、即ち光に暴露したときに、または代謝的に、例えば活性化された好中球によって、脂質の過酸化の過程において、および抗炎症性媒介物質(プロスタグランジン)および解毒(シトクロムP450オキシゲナーゼ)に関連する酵素反応において、インビボで生成することができる。本発明のイチョウ抽出物の一重項酸素の失活活性を評価する目的で、皮膚に対する光誘発損傷における一重項酸素の関与を使用した。一重項酸素による皮膚に対する光誘発損傷(例えば皮膚の早期老化としても知られる光老化)は、皮膚細胞外マトリックスの分解に関与する酵素の誘発、ならびに、皮膚細胞外マトリックスタンパク質の1つであるコラーゲンとの直接反応の両方によって媒介される。この反応には、異常架橋を形成すること、従って皮膚マトリックスの完全性を乱すことが含まれる。この12誘発のコラーゲン損傷を評価するために、光増感剤としてリボフラビンを用いてUVA照射により12をインビトロで生成させ、コラーゲン損傷を、コラーゲンおよびグルコースの水溶液の粘度の増大によって測定した。この結果を、以下の表4に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
種々の試験の結果は、本発明の高いOPC含有量を有するイチョウ抽出物が、種々の関連ROS(これらは、ヒト身体および外因性供給源によって生成し、ヒト健康に関係する重要な生体分子および生体系に対する酸化的ストレス誘発損傷の一因になる)に対して酸化防止剤として働くことを示す。有利な特性の増大が、単に比例的なものではなく、約11〜12重量%の臨界OPC濃度が存在することが観察されることを十分に知るべきである。
【0039】
高いOPC含有量を有するイチョウ抽出物の酸化防止効果が、DPPH試験において示されるように、一般にラジカルに対して示される。さらに、これらは、ヒト代謝の多くの経路において生成し、スーパーオキシド(O2-)および過酸化水素(H22)による損傷を媒介する実際の活性種であると考えられ、全ROSの中で最も反応性が高いと考えられているヒドロキシルラジカル(HO・)の除去に関与している。また、高いOPC含有量を有するイチョウ抽出物は、金属キレート化特性を有し、従って遷移金属イオンによって触媒されるROSの生成を妨げることができることがわかった。さらに、試験結果は、本抽出物のスーパーオキシドおよび過酸化水素の除去特性ならびに一重項酸素(12)の失活特性を示す。即ち、本抽出物は、ヒト身体の細胞および組織に対するフリーラジカル損傷の多くの側面の原因であるさらなるROSに対して酸化防止活性を示す。種々の試験の結果は、明らかに、改善された酸化防止活性を有する本発明の新規抽出物が、低いOPC含有量を示す最新技術から既知の抽出物よりも、老化の徴候、環境ストレス、炎症、および他の健康状態、特に目の健康に関連する状態の制御を意図する経口調製物において使用するのに適していることを示す。
【0040】
実施例B1:新規イチョウ抽出物のカプセル封入
撹拌機および還流コンデンサーを装備した500mlの三口フラスコにおいて、寒天(3g)を沸騰水(200ml)に溶解した。初めに、水(100gまで)中のグリセロール(10g)の均一分散液を、次いで、水(100gまで)中のキトサン(HydagenR DCMF、グリコール酸中1重量%、Cognis Deutschland GmbH & Co. KG、デュッセルドルフ/独国)(25g)、実施例A1によるイチョウの噴霧乾燥抽出物(10g)、PhenonipR (フェノキシエタノールおよびパラベンを含有する防腐混合物)(0.5g)、およびPolysorbate-20(TweenR 20、ICI)(0.5g)の調製物を、激しく撹拌しながら約30分間で混合物に加えた。得られたマトリックスを濾過し、50℃に加熱し、予め15℃に冷却した2.5倍容量のパラフィン油中に激しく撹拌しながら分散させた。次いで、この分散液を、1重量%のラウリル硫酸ナトリウムおよび0.5重量%のアルギン酸ナトリウムを含有する水溶液で洗浄し、続いて0.5重量%のPhenonip水溶液で繰り返し洗浄し、その過程で油相を除いた。ふるい分けの後に、8重量%のミクロカプセル(平均直径1mm)を含有する水性調製物が得られた。
【0041】
実施例B2:新規イチョウ抽出物のカプセル封入
撹拌機および還流コンデンサーを装備した500mlの三口フラスコにおいて、寒天(1g)を水(33g)に溶解し、100℃に加熱した。次いで、アルギン酸カルシウムの2重量%水溶液(50g)およびGellan Gum(Kelgocel、Degussa AG)の1重量%水溶液(5g)を加えた。激しく撹拌した後、水(100gまで)中の実施例A1によるイチョウの噴霧乾燥抽出物(10g)、PhenonipR (0.5g)、およびPolysorbate-20(TweenR 20、ICI)(0.5g)を、約30分間で混合物に加えた。このようにして得られた組成物を、カプリンカプリルトリグリセリド(Myritol 331、Cognis Deutschland GmbH & Co. KG)からなる浴中に滴下した。得られた寒天/ジェランガム/アルギン酸塩タイプのミクロカプセルを分離し、1重量%のPolysorbate-20を含有する水溶液で洗浄して、油成分の痕跡を除去した。次いで、この軟カプセルを、カプセル壁の架橋および硬化のために、塩化カルシウムの0.5重量%水溶液からなる浴中に導入した。ふるい分けの後に、8重量%のミクロカプセル(平均直径0.25mm)を含有する水性調製物が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)20〜30重量%のフラボングリコシド、
(b)2.5〜4.5重量%のギンクゴリドA、B、CおよびJ(合計して)、
(c)2.0〜4.0重量%のビロバリド、
(d)10ppm未満のアルキルフェノール化合物、および
(e)10重量%以上のオリゴマープロアントシアニジン(OPC)、
を含有するイチョウ葉からの抽出物。
【請求項2】
11〜20重量%のOPCを含有することを特徴とする請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
12〜18重量%のOPCを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の抽出物。
【請求項4】
50ppm未満の4'O-メチルピロキシジンを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抽出物。
【請求項5】
100ppm未満のビフラボンを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抽出物。
【請求項6】
5〜10重量%のテルペンラクトンを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の抽出物。
【請求項7】
多くとも5重量%の水を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の抽出物。
【請求項8】
請求項1に記載の抽出物を含有するカプセル。
【請求項9】
(a)20〜30重量%のフラボングリコシド、
(b)2.5〜4.5重量%のギンクゴリドA、B、CおよびJ(合計して)、
(c)2.0〜4.0重量%のビロバリド、
(d)10ppm未満のアルキルフェノール化合物、および
(e)10重量%以上のオリゴマープロアントシアニジン(OPC)、
を含有するイチョウ葉からの抽出物の製造方法であって、以下の工程を特徴とする方法:
(i)イチョウの葉または乾燥抽出物のいずれかを、水性極性溶媒による抽出にかけて、第1液体中間体LI-1を得る工程;
(ii)中間体LI-1を、有機溶媒から分離させ、非極性C4-C10炭化水素による液-液抽出にかけて、第2(水性)液体中間体LI-2を得る工程;
(iii)中間体LI-2を、pH2.5〜6に調節した後、極性C2-C6脂肪族アルコールによる液-液抽出にかけて、OPCに富む(水性)液体中間体LI-3およびグリコシドに富む別の(有機)液体中間体LI-4を得る工程;
(iv)中間体LI-4を、濃縮し、水で希釈し、非極性C4-C10炭化水素と混合して、さらなる(有機)液体中間体LI-5および別の(水性)液体中間体LI-6を得る工程;
(v)液体中間体LI-6を乾燥して、第1固体中間体SI-1を得る工程;
(vi)液体中間体LI-3を、有機溶媒から分離させ、水で希釈し、pH6〜8の値に調節し、溶液からOPCが沈殿するに十分な時間、高くとも10℃の温度に冷却する工程;
(vii)沈殿を濾過し、洗浄し、乾燥して、第2固体中間体SI-2を得る工程;そして最後に
(viii)第2固体中間体SI-2を、第1固体中間体SI-1に、最終生成物が10重量%以上のOPCを含有するような量で添加する工程。
【請求項10】
イチョウ葉が、少なくとも10重量%のフラボングリコシド、ギンクゴリドおよびビロバリドの含有量を示すことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
乾燥イチョウ抽出物が、5〜20重量%のフラボングリコシド、ギンクゴリドおよびビロバリドの含有量を示すことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
工程(i)の極性溶媒がアセトンまたはエタノールであることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
工程(ii)および(iv)の非極性炭化水素がn-ヘプタンであることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
工程(iii)の極性アルコールがn-ブタノールであることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
医薬組成物および/または補助食品および/または食品を製造するための請求項1に記載の抽出物の使用。
【請求項16】
組成物が、機能性食品、栄養目的食品および医療食品であることを特徴とする請求項15に記載の使用。
【請求項17】
抽出物が、最終組成物を基準に算出して、10〜1000mgの量で存在することを特徴とする請求項15または16に記載の使用。
【請求項18】
抽出物を、経口適用によって身体に投与することを特徴とする請求項15または16に記載の使用。
【請求項19】
網膜微小循環の改善のための医薬組成物を製造するための請求項1に記載の抽出物の使用。
【請求項20】
ヒト身体状態の改善のための医薬組成物を製造するための請求項1に記載の抽出物の使用。

【公表番号】特表2009−501169(P2009−501169A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520747(P2008−520747)
【出願日】平成18年7月1日(2006.7.1)
【国際出願番号】PCT/EP2006/006429
【国際公開番号】WO2007/006443
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】