説明

イニマーおよびハイパーブランチポリマーの合成

下記式で表されるイニマーおよびその製造方法、ならびに前記イニマーから得られるポリマーおよびその製造方法。
【化12】


(式中、Xはハロゲン、ニトロキシドまたはチオエステルを示し、RはHまたはCHを示し、R’はフルオロカーボン置換基、オリゴ(オキシエチレン)置換基、シロキサン置換基、アルキル基、アリール基、メソゲン基、非メソゲン基、脂肪族基、非脂肪族基、シロキサン基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアリール基またはその他のフルオロカーボン基脂肪族基から選択される脂肪族基、非脂肪族基、直鎖状基、分岐状基、メソゲン基、非メソゲン基、キラル基、アキラル基、炭化水素基、または非炭化水素基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本発明は、全米科学財団(NSF)の助成金DMR 0322338の支援を受けた研究の過程においてなされたものである。米国政府は、本明細書に記載された発明に一定の権利を有することができる。
【0002】
本願は、「2−ハロ−3−ヒドロキシプロピオン酸、2−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸およびそれらの誘導体に基づくイニマーおよびハイパーブランチ(Hyperbranched)ポリマーの合成」と題する2006年10月4日に出願された米国仮特許出願第60/849,415号に基づいて優先権を主張する。米国仮特許出願第60/849,415号の開示内容はこの参照によって本願の開示内容として援用する。
【技術分野】
【0003】
本発明は、対応するイニマーからの官能性ポリ(メタ)アクリレート(特にハイパーブランチポリ(メタ)アクリレート)の合成に関する。これらのイニマーおよび前駆体エステルはハロヒドリンから合成される。
【背景技術】
【0004】
異なる構造がポリマーの化学的・物理的性質に与える影響は、商業的及び学究的に重要なポリ(メタ)アクリレート等における長年にわたる研究領域となっている。直鎖状、星状、グラフト状、環状、樹枝状、ハイパーブランチ状等の様々な構造のポリ(メタ)アクリレートが合成されており、それらの物理的性質について研究が行われている。
【0005】
通常、ハロヒドリンは、対応するオレフィンの直接ヒドロハロゲン化によって、またはオレフィンをエポキシドに変換し、エポキシドをHX(HCl/HBr)と反応させることによって合成される。HClおよびHBrによるグリシド酸エステルの開環により、−OHがエステルに対してα位に位置する望ましくない位置異性体(KuroyanらおよびTalasbaevaら)が得られる。メタクリレートのヒドロ臭素化によって位置異性体の混合物が得られる(Farookら)。また、アクリレートをヒドロ臭素化すると、生成物は2−ブロモ−3−ヒドロキシプロピオン酸エステルであるはずだが(Mattocksら)、副生成物として大量の二臭化物が形成されるために主として望ましくない位置異性体(Sliekerら)が低い収率で得られる(Bellら)。二臭化物の量は、AgNOを添加して反応混合物からAgBrを沈殿させることによって減少させることができる(Leibmanら)。我々は、より適切な反応はKX(Br/Cl)の存在下でのジアゾ化によってセリンおよびそのエステルのアミン基をハロゲン基に変換することであることを見出した(スキーム5を参照)(LarchevequeらおよびShimohigashiら)。セリンの短鎖アルキルエステルはHCl塩として市販されており、所望のアルコールを溶媒として使用した酸触媒エステル化によって容易に合成することができる。
【0006】
異なる分子構造を有する化学的に類似したポリマーは、従来の構造を有するポリマー(直鎖状、分岐状または架橋ポリマー等)とは異なる様々な興味深い特性を示し得る。最も重要かつ明白なことは、これらのポリマーのずり減粘挙動および低い粘度が直鎖状ポリマーと比較して処理上の利点を有することである。このような新しい構造は主にデンドリマーおよびハイパーブランチポリマーからなる。均一な三次元の分岐分布を有するデンドリマーとは異なり、ハイパーブランチポリマーはランダムで不均一な分岐に特徴付けられる。文献には、デンドリマーを特定の用途に使用して向上した特性(特に処理特性)を得ることができることが示唆されている。分子鎖の絡み合いが不足しているため、これらのポリマーの粘度は直鎖状ポリマーよりも低い。また、これらのポリマーは、変性させてコーティングおよび接着剤用途に有利に使用することができる反応性末端基を有する。デンドリマーは単分散性(通常は1.02以下の多分散性を有する)であり(米国特許第6812298 B2号を参照)、面倒な保護・脱保護および精製を伴う制御された段階的成長反応によって合成される。一方、ハイパーブランチポリマーはワンステップ・ワンポット反応で製造され、多分散性である。これにより、比較的低コストで大量のポリマーを高い収率で容易に合成することができる。不完全な分岐および高い多分散性のために、ハイパーブランチポリマーの特性はデンドリマーと直鎖状ポリマーとの中間にある。デンドリマーと直鎖状ポリマーという両極にある構造間の特性を有することにより、ハイパーブランチポリマーはある種の用途においてデンドリマーよりも優れた潜在的特性を有する。
【0007】
ハイパーブランチポリマーを調製するために使用される合成法は、2つの主要なカテゴリに分けることができる。第1のカテゴリには、ABモノマーの重合によってハイパーブランチポリマーを合成する単一モノマー法が含まれる。また、この方法は自己縮合ビニル重合(SCVP)を含む。第2のカテゴリには、2種類のモノマーまたは一対のモノマーによってハイパーブランチポリマーを製造するダブルモノマー法が含まれる(C.Gao,D.yan;Prog.Polym.Sci.29(2004),183〜275)。
【0008】
Frechetらは、外的刺激によって開始部位に変換することができるペンダント基を有する場合に、ビニルモノマーを自己重合することができるSCVPを提案している(Frechetら,Science,1995,269,1080〜1083)。2つの重合成長部位(ビニル部位および開始部位)があり、これらの部位の活性が互いに異なる場合があるため、分岐度(DB)(異なる構造単位の総数に対する、構造中に存在する分岐単位の数)は、異なる系および/または理論最大値(DB=0.465)未満の異なる条件において異なる(理論最大値(DB=0.465)はMullerらが行った理論計算によって得られたものである(Macromolecules 1997,30,7024〜7033)。Mullerらはハイパーブランチポリマーの詳細な理論的研究を行っている。通常、SCVPによって得られたハイパーブランチポリマーは広い分子量分布を有し、副反応が起こるとポリマーの合成時に架橋が発生する場合がある。ポリマーの構造をより良く制御するために、原子移動ラジカル重合および基移動重合(GTP)等のリビング重合が使用される。SCVPおよびリビングラジカル重合の概念を使用してハイパーブランチポリマーを製造するために,多くのスチレンおよび(メタ)アクリル酸エステル系モノマーおよびイニマーが合成されている。
【0009】
異なる官能基を有する遊離エステル側鎖を有する直鎖状ポリ(メタ)アクリレートは合成することができるが、異なる官能基を有するイニマーのSCVPを使用したハイパーブランチ構造の合成は行われていない。例えば、ポリマーの末端のみまたはポリマーの主鎖内にメソゲン(適当な温度、圧力、濃度条件下で液晶相を示す化合物)が結合した多くのデンドリマーおよびハイパーブランチポリアクリレート(Bussonら,Sunderら,Pengら,PercecおよびKricheldorfら)が合成されているが、メソゲンが側鎖として分岐状構造全体にわたって結合したものは合成されていない。
【0010】
また、イニマーの単独重合によって合成されたハイパーブランチポリアクリレートおよびポリ(メタ)アクリレートは、直鎖状ポリ(メタ)アクリレートの類縁体ではない。一方、ラジカル機構によるイニマーのSCVP(Frechetら)によって製造された最初のハイパーブランチポリスチレン(Hawkerら)は、直鎖状ポリスチレン(ただし、−CHO−をさらに有する)とかなり類似したハイパーブランチポリマーを生成する(スキーム1)。
スキーム1:ハイパーブランチポリスチレン
【0011】
【化1】

【0012】
その後合成されたハイパーブランチポリスチレン(Gaynorら,Weimerら,Ishizuら)(スキーム1の例2等)は、ポリマーの主鎖に芳香環を有し、段階重合で製造されたポリマーにより類似している。また、分岐に導入されていない自由芳香族基は開始剤フラグメントによって官能基化されている。同様に、SCVPによって合成された全てのハイパーブランチポリ(メタ)アクリレート(Matyjaszewskiら,Yooら)は分岐によってアルキルエステルがポリマー骨格に導入され(スキーム2)、開始剤フラグメントによって官能基化されたアルキルエステル側鎖は不完全な分岐に位置する。従って、これらのポリマーは直鎖状ポリ(メタ)アクリレートの類縁体ではなく、物性を比較して構造的効果を決定することができる。また、これらのポリマーは、エステル側鎖ではなくポリマー骨格に沿った部位において連鎖移動によって分岐が生じる従来のラジカル重合で製造された分岐状ポリ(メタ)アクリレートの類縁体ではない。
スキーム2:文献に報告されたハイパーブランチポリ(メタ)アクリレート
【0013】
【化2】

【0014】
本発明の方法では、ハロヒドリン(ブロモヒドリン/クロロヒドリン)中間体に基づく対応するイニマーから直鎖状ポリ(メタ)アクリレートのハイパーブランチ類縁体を合成する。その詳細な説明は後述する。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、2−ハロ−3−ヒドロキシプロピオン酸、2−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸およびそれらの誘導体に基づくイニマーおよびハイパーブランチポリマーの合成に関する。本発明に従って合成されたポリアクリレートは、遊離エステル鎖として結合する、異なる官能基を有することができる。重要なポリマーであるポリアクリレートは様々な用途において使用され、異なる官能基を有することにより、例えば、塗料、コーティング、織物、接着剤、超吸収体材料、コンタクトレンズ、表示装置、高分子電解質、ヒドロゲル等の成分として使用することができる。ポリアクリレートの物理的性質に対する構造的効果によって利点が得られ、そのようなポリマーの多くの用途における性能を向上させることができる。
【0016】
ポリアクリレートは、重要なハロヒドリン系中間体から合成された本発明のイニマー(イニマーは同一分子内に開始部位と重合性基を含む)を使用して得られる。ハロヒドリン系中間体は、ジアゾ化合成経路を使用してセリンから合成される。これらのイニマーを重合することによって官能性ハイパーブランチポリ(メタ)アクリレートが得られる。本願において、「ポリ(メタ)アクリレート」という用語は、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ならびにそれらの誘導体等のポリアクリレートおよびポリメタクリレートを意味する。ポリマーは、自己縮合ビニル重合(SCVP)および例えば原子移動ラジカル重合等のラジカル重合を使用して製造することができる。これらのハイパーブランチポリアクリレートは、ポリマー骨格に沿った各炭素原子に結合したエステル基を含み、開始剤を含有しないアルキルエステルが自由側鎖として結合している。これらのポリマーの構造は、直鎖状ポリアクリレートの構造と化学的に類似している。
【0017】
本発明によれば、ワンポット・ワンステップ反応で様々なハイパーブランチ官能性ポリアクリレートを非常に柔軟に製造することができると共に、ポリマーの構造の違いによって様々な物理的特性を容易に達成することができる。エステル置換基はアルコールから形成することができ、脂肪族または非脂肪族置換基、直鎖状または分岐状置換基、メソゲンまたは非メソゲン置換基、キラルまたはアキラル置換基、炭化水素または非炭化水素(フルオロカーボン、オリゴ(オキシエチレン)、シロキサン等)置換基であることができる。
【0018】
本発明の上述した特徴および利点ならびにその他の特徴および利点は、図面を参照して以下の説明を理解することによって当業者には明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】メソゲンイニマーの重合時における分子量および分子量分布の変化ならびに転化率を示す。
【図2】異なる構造を有するメソゲンポリアクリレートの固有粘度対分子量のグラフである。
【図3a】還元前後のハイパーブランチメソゲンポリアクリレートのH NMRスペクトルのグラフである。
【図3b】還元前のハイパーブランチメソゲンポリアクリレートのH NMRスペクトルのグラフである。
【図4】メソゲンポリアクリレートの異なる構造の収縮率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、2−ハロ−3−ヒドロキシプロピオン酸エステルおよび2−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルの誘導体から合成された対応するイニマーの自己縮合ビニル重合(SCVP)によるハイパーブランチ官能性ポリ(メタ)アクリレートの合成に関する。本発明では、イニマーを使用してポリ(メタ)アクリル酸メチル等の従来のモノマーを含む直鎖状ポリ(メタ)アクリレートのハイパーブランチ類縁体を合成し、ポリマー骨格に沿って1つ置きの炭素原子に結合したエステル基を有し、非官能性アルキルエステルが自由側鎖として結合したポリマーを得る。
【0021】
本発明では、ハロゲン含有塩(例えばKBr等)の存在下でのジアゾ化反応によってセリンまたはその誘導体のアミン基をハロゲンに変換することにより、ハロヒドリン(例えばブロモヒドリン等)からイニマーを高収率で合成する。本願では、「イニマー」という用語は、ビニル基と、分子の重合を開始させる開始基とを有する分子を意味する。次に、ポリマーに必要な所望の官能基を有するアルコールによってエステル化を行う。次に、トリエチルアミンを試薬として使用し、塩化アクリロイルまたはアクリル酸無水物によって水酸基含有エステルをさらにエステル化する。ブロモヒドリン系エステルの場合には、塩化アクリロイルをエステル化に使用した場合に発生するハロゲン基のハロゲン交換(BrからCl)を回避するために、アクリル酸無水物をエステル化に使用した。ハロゲン交換は、電子イオン化質量分光法および13C−NMR分光法によって確認した。ATRPによるイニマーの重合時には、イニマーの分解がH−NMR分光法および13C−NMR分光法によって確認された。イニマーの分解は、N,N,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)等の塩基度の高い(銅触媒と配位してない)遊離配位子が反応系に存在している場合に発生した。イニマーの分解は、触媒配位子錯化を行い、続いて反応混合物にイニマーを添加することによって回避することができた。塩基度の低い配位子(2,2’−ジピリジン)を使用した場合にも分解は発生しなかった。
【0022】
本発明では、SCVPと(イニマーとモノマーを共重合させる)自己縮合ビニル共重合(SCVCP)によるイニマーのATRPを使用してハイパーブランチポリマーを合成する。異なる構造的特徴の理論計算は文献に記載されており、我々はハイパーブランチ構造の分岐に関する定性的情報を得た。分岐に関する情報は、H、13C、H−13C HSQC NMR分光法によるポリ(アクリル酸メチル)の詳細な分析によって得た。また、GPC、光散乱、溶液粘度分子量データによってハイパーブランチ構造の存在を確認した。ポリ(アクリル酸メチル)およびポリ(メソゲンアクリレート)、ポリ(パーフルオロアクリレート)、ポリ(アクリル酸ドデシル)等のより複雑な分子系を合成した。
【0023】
H、13C、H−13C異種核単量子相関(heteronuclear single quantum correlation:HSQC)、H−13C異種核多重結合相関(heteronuclear multiple bond correlation:HMBC)、全相関分光法(total correlation spectroscopy)(TOCSY)によるハイパーブランチメソゲンポリアクリレートの詳細なNMR分析を行い、ハイパーブランチメソゲンポリアクリレートの分岐点を確認した。また、ポリスチレン標準に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分子量、(光散乱による)絶対分子量、溶液粘度分子量のデータによってもハイパーブランチ構造の存在を確認した。メソゲンポリアクリレートの異なる構造(3分岐、6分岐、櫛状、ハイパーブランチ)の収縮率(contraction factor)(直鎖状ポリマーの平均二乗回転半径に対する分岐状ポリマーの平均二乗回転半径の比率)を算出し、比較した。直鎖状、3分岐、櫛状、6分岐メソゲンポリアクリレートの合成の詳細な手順と物理的性質の研究は、(i)Kasko,M.A.;Heintz,M.A.;Pugh,C.,Macromolecules 1998,31,256〜271、(ii)Chang、C;Pugh,C.,Macromolecules 2001,34,2027〜2039、(iii)Kasko,M.A.;Pugh,C.,Macromolecules 2004,37,4993〜5001、(iv)Kasko,M.A.;Pugh,C.Macromolecules 2006,39,6800〜6810等の様々な研究刊行物に記載されている。結果は、ポリマーの分岐が増加すると構造がよりコンパクトになるという事実を裏付けている。また、ハイパーブランチポリマーの固有粘度は直鎖状ポリマーの固有粘度と比較して低く、特定の分子量では分岐が増加すると固有粘度は減少する(直鎖状>3分岐>櫛状/6分岐>ハイパーブランチ)。また、ハイパーブランチメソゲンポリアクリレートの等方相転移温度(isotropization temperature)も、相転移がより広い直鎖状ポリマーの等方相転移温度と比較して低い。
【0024】
ポリマーの末端のみまたはポリマーの主鎖内にメソゲンが結合した多くのデンドリマーおよびハイパーブランチポリマーが合成されているが、本発明のメソゲンハイパーブランチポリアクリレートのようにメソゲンが分岐状構造全体にわたって側鎖として結合したものは合成されていない。本発明によって、異なるエステル置換基を有するハイパーブランチポリマーを製造することができ、構造およびポリマーに存在する遊離エステル基の存在の利点のために様々な用途において使用することができる。ハイパーブランチポリマーの低い粘度を有効にかつ有利に液晶表示装置に利用することができる可能性のある液晶用途のためにメソゲンポリアクリレートを合成した。アルキルおよびパーフルオロエステル基含有ポリアクリレートは、接着剤およびコーティング用途において使用することができる可能性がある。シロキサンまたはオリゴ−オキシエチレンエステル置換基含有ハイパーブランチポリアクリレートは、コンタクトレンズおよび水性接着剤/化粧品にそれぞれ使用することができる。また、ハイパーブランチポリアクリル酸およびその塩を超吸収体材料および高分子電解質のために調製することができる。イニマーおよびハイパーブランチポリアクリレートにあらゆる種類の遊離エステル側基を結合させるという柔軟性によって、ハイパーブランチポリアクリレートの応用分野が広がる。
【0025】
本発明は、ハロヒドリンおよびその誘導体から合成された、対応するイニマーのSCVPおよびSCVCPによるハイパーブランチ官能性ポリ(メタ)アクリレートの合成方法に関する。本発明では、スキーム3に示す第2型のイニマーを使用して、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、メソゲンポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸ドデシル等の従来のモノマーを含む直鎖状ポリ(メタ)アクリレートの第1のハイパーブランチ類縁体を合成し、これまでにSCVPによって合成されたポリマーとは異なり、ポリマー骨格に沿った1つ置きの炭素原子に結合したエステル基を有し、非官能性アルキルエステルが自由側鎖として結合したポリマーを製造し、分岐(スキーム3)によってアルキルエステルをポリマー骨格に導入し、不完全な分岐において開始剤フラグメントで官能基化されたアルキルエステル側鎖を残す。ハロゲン基を還元することにより、開始剤含有側鎖を有していないポリマーを得ることができる。
スキーム3:本発明のハイパーブランチポリ(メタ)アクリレート
【0026】
【化3】

【0027】
新規なイニマーにより、直鎖状ポリアクリレートの真の類縁体であるハイパーブランチポリマーを得ることができる。スキーム4(例)に示すように、イニマーの重要な中間体はハロヒドリン(ブロモヒドリン/クロロヒドリン)である。これらのイニマーはハロヒドリンエステルのエステル化によって調製される。
スキーム4:イニマーの合成
【0028】
【化4】

スキーム5:ハロヒドリンの合成
【0029】
【化5】

【0030】
一例として、KClの存在下で(DL)−2−アミノ−3−ヒドロキシプロピオン酸(DL−セリン)(R=H)の酸性水溶液(HCl)から2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸(クロロヒドリン)を60%以下の収率で合成した。
【0031】
この反応は、重合時に開始基として機能する開始基を、目的とするイニマーに導入するために重要である。
【0032】
次に、ポリマーに必要な所望の官能基を有するアルコールのエステル化を行う。この工程では、溶媒の存在下または塊状で行うことができる酸触媒エステル化法が必要となる。アルコール(ROH)を僅かな過剰量、等モル量または大過剰量で使用して、適度の収率〜高収率(スキーム5)でエステルを製造することができる。一例として、触媒量のHClの存在下で、2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸を大過剰量のメタノールと適度な温度で反応させて、2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸メチルを製造した。2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸の自己エステル化によって生じ得る副生成物の形成を回避するために適度な温度を使用した。
スキーム6:2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸エステルの合成
【0033】
【化6】

【0034】
この工程では、目的とするイニマーに官能基を導入し、導入した官能基はポリマー内で遊離エステルペンダント基として機能する。
【0035】
次に、トリエチルアミンを試薬として使用し、塩化アクリロイルまたはアクリル酸無水物を用いて、最後の工程で得られた水酸基をエステル化してイニマーを得る(スキーム4)。この工程では、重合時にモノマー部位として機能するビニル基をイニマーに導入する。
【0036】
ブロモヒドリン系エステルの場合には、塩化アクリロイルをエステル化に使用した場合に発生する臭素基のハロゲン交換を回避するために、アクリル酸無水物をエステル化に使用した。ハロゲン交換は、電子イオン化質量分光法および13C−NMR分光法によって確認した。塩化アクリロイルを使用した場合には、BrおよびCl開始基を有するイニマーの混合物が得られた。
【0037】
開始基としてCl基を有するイニマーの合成時には、副生成物が不純物として生成した(開始基としてBr基を有する場合には、副生成物は生成しなかった)。生成物の収率は、前駆体エステルに存在する官能基の種類に応じて変化した。
【0038】
同一分子内にビニルモノマー部位および開始部位を有する合成したイニマーを重合させると、分岐上に分岐を有するハイパーブランチポリマーが得られた(例えばスキーム7を参照)。イニマーを重合させるか、またはモノマーと共重合させることによって、ハイパーブランチポリマーを得ることができる。
スキーム7:イニマーのSCVPによるハイパーブランチポリマーの合成
【0039】
【化7】

【0040】
我々は、これらのポリマーを得るためにATRPを使用した。ATRPによれば、重合の制御性が向上し、重合のリビング性を維持することができるためである。この方法により、多くのハロゲン化末端基と、ペンダント基として結合した官能基とを有するハイパーブランチポリアクリレートを得ることができる。ハロゲン化末端基を別の基に変更し、様々な用途に有利に使用することができる。当業者であれば、他のリビング重合に適した官能基を有するイニマーを合成することができる。
【0041】
理想的なデンドリマーは直鎖状の繰り返し単位を含まず、完全に分岐した繰り返し単位のみを含み、理想的な直鎖状ポリマーは分岐を含まず、直鎖状の繰り返し単位のみを含む。一方、ハイパーブランチポリマーは直鎖状繰り返し単位と完全に分岐した繰り返し単位との混合物を含む。分岐度(DB)は、繰り返し単位(直鎖状単位、分岐状単位、末端単位を含む)の総数に対する分岐した繰り返し単位の数と定義される。理想的なデンドリマーの分岐度(DB)は1であり、直鎖状ポリマーの分岐度(DB)は0である。ハイパーブランチポリマーの場合は、分岐度(DB)は0を超え、1未満であり、通常は約0.25〜0.45である(米国特許第6,812,298 B2号を参照)。
【0042】
1以下の多分散性を有する理想的なデンドリマーとは異なり、ハイパーブランチポリマーの多分散性は、転化率の増加に従って増加する。多分散性は、転化率が低い場合であっても1.1を超える場合があり、転化率の増加に従って大きく増加し得る。異なるハイパーブランチポリマー分子が結合して分子量の高いポリマーを生成することができるため、転化率の増加に従って多分散性の値は指数関数的に増加し得る。そのため、転化率が高い場合には、制御されたラジカル重合を使用した場合でも多分散性は通常2.0を超える。合成された様々なハイパーブランチポリマーの多分散性を示すデータを様々な研究者が集めている。ハイパーブランチポリマーとデンドリマーとの多分散性および分岐度の違いは、ハイパーブランチポリマーの非理想性、ランダム性、および不規則性がデンドリマーよりも高いことを暗示している。表1は、異なる官能性ハイパーブランチポリアクリレートの結果を示し、ハイパーブランチ構造の形成をさらに裏付けている。メチル、パーフルオロ、メソゲン、ドデシル、オリゴ−オキシエチレン、シロキサン含有エステル置換基を含む、異なるエステル置換基を含有する各種イニマーを合成した。
【0043】
【表1】

【0044】
SECトレースは明確にオリゴマーの形成を示し、転化率の増加に従って分子量がより広い分布で増加した。転化の初期段階では小さなオリゴマーが顕著であり、高い転化率において分子量の高いポリマーが得られた。イニマーの重合の統計学的な性質によってオリゴマーが形成され、イニマーまたはオリゴマーに添加することによってポリマー鎖の成長が生じ、得られるポリマーはより広い多分散性指標を有する。SECによって得られた結果は、SCVPによるイニマーの重合の統計学的な性質と一致している。
【0045】
イニマーの重合の反応性比および分岐度を決定するためには、NMRによる定性的分析および定量的分析が必要である。ハイパーブランチポリマーのHおよび13C NMRスペクトルは、イニマーおよび直鎖状ポリマーの対応するNMRスペクトルと非常に類似している。いくつかの共鳴の重なりによって、分岐状構造の別々の共鳴の可能性が制限される。メソゲンハイパーブランチポリマーにおけるCl末端基を−Hに還元すると、より明瞭でかつ重なりの少ない共鳴が得られた。ハイパーブランチ構造の定性分析のために、HSQC、HMBC、およびTOCSY実験を行った。定量分析も可能だが、反応性比および分岐度の計算値の誤差を考えると困難である。
【0046】
図3は、Cl末端基の−H基への還元前後のH−NMRを示す。ポリマーの骨格領域(1〜3ppm)は非常に幅が広く、不明瞭で重なり合っている。還元後、いくつかのピークがさらに現れ、それらのピークの重なりは少ない。2.8ppm以下における共鳴は、−OCHに対してα位に位置するメチレンプロトンに帰属するものである。2.7ppm以下における共鳴は、−OCHに対してα位に位置するメチンプロトンに帰属するものである。この共鳴は幅が広く、還元前のポリマーにおいて重なり合っている。還元前と還元後のポリマーの13C NMRでは、カルボニル領域(165〜180ppm)および骨格領域(30〜35ppm)において顕著な変化が観察された。HSQC、HMBC、TOCSYによる詳細な分析により、ハイパーブランチポリマーに存在する異なる炭素およびプロトンの共鳴を帰属させることができる。TOCSYは、−OCHプロトンが−CHプロトンに関連付けられ、これらが骨格の−CHに関連付けられることを明確に示している。この関係は、ハイパーブランチポリマー中に存在する分岐が開始部位としてビニル部位と反応し、ポリマーの分岐を生成したことによるものである。2.7ppm以下の共鳴は重なり合っているが、分岐の直接的な証拠として、イニマーの重合の定量分析に使用することができる(ピークの曲線フィッティングに伴う誤差は生じる)。H NMR分析によれば、メタ−メソゲンポリアクリレートは、−OCHに対してα位に位置し、分岐点から生じたメチンプロトンのみに起因する広い共鳴を2.5ppm以下に有する。また、分岐の存在は、重合時に様々な転化率において得られたGPCトレースに関連付けることができる。異なるオリゴマーによる広い分子量分布が見られる。図1はイニマーの重合の統計的な物性の結果である。収縮率および固有粘度(図2および図4)のデータは、イニマーの重合時における分岐状構造の形成を裏付けている。
【0047】
上述したように、イニマーをSCVPを使用して単独重合させるか、あるいは、対応するモノマーと共重合させることによって、ハイパーブランチポリマーを得ることができる。2つの重合成長部位(ビニル部位および開始部位)があり、これらの部位の活性が互いに異なる場合があるため、分岐度(DB)は異なる系および/または理論最大値(DB=0.465)未満の異なる条件において異なる(Mullerら)。
【0048】
本発明のハイパーブランチポリマーの場合には、式1に従って分岐度が数学的に表わされた、Mullerらによる修正された数学的定義を使用した。
【0049】
【数1】

【0050】
Mullerらは詳細な理論的研究を行っており、構造パラメータの値を定義するために、開始部位とビニル部位の反応性は重合時に一定であり、環状ポリマーは形成されず、その他の副反応は生じないという仮定を立てた。異なるパラメータの理論値と実験値とを比較すると、予測値からの偏差が予想される。
【0051】
上述したように、SCVPによって得られたハイパーブランチポリマーは通常は広い分子量分布を有し、副反応が起こると架橋が発生する場合がある。可溶性ポリマーを得るための合成条件の最適化が必要であり、これらの条件はイニマーに応じて異なる可能性がある。ポリマーの構造をより良く制御するために、原子移動ラジカル重合および基移動重合(GTP)等のリビング重合が使用される。ハイパーブランチポリアクリレートを合成するためにATRPを使用した。
【0052】
イニマーのSCVPはAB(Bはビニル基Aの重合を開始させることができる開始基を示す)と表すことができる。開始基Bを別のモノマーのビニル基に付加することにより連鎖反応が開始し、2つの活性点および1つの二重結合を有する二量体が形成される。開始中心Bおよび新たに形成された伝搬中心Aは別の分子(モノマーまたはポリマー)のビニル基と速度定数kおよびkでそれぞれ反応することができる。
【0053】
【化8】

【0054】
SCVPでは、開始中心および伝播中心(AおよびB)の反応性は通常は互いに異なる。これらの2つの部位のうち一方の反応性が他方の部位と比較して非常に大きい場合には、直鎖状ポリマーが得られる。これらの部位(AおよびB)の相対的な反応性の数学的表現として反応性比r(r=k/k)を定義し、重合系(イニマーおよびポリマーともに)の分岐度(DB)を以下のように定義する(Mullerら)。
【0055】
【数2】

【0056】
【数3】

【0057】
ATRPによる重合時には、イニマーの分解がH−NMR分光法および13C−NMR分光法によって確認された。イニマーの分解は、塩基度の高い(銅触媒で錯化されてない)遊離配位子(PMDETA)が反応系に存在している場合に発生した。イニマーの分解は、触媒−配位子錯化を行い、続いて反応混合物にイニマーを添加することによって回避することができた。塩基度の低い配位子(2,2’−ジピリジン)を使用した場合にも分解は発生しなかった。例えば、バイアル内でプロペン酸(2−クロロ−2−メトキシカルボニル)エチル(0.016g、0.820mmol)をPMDETA(1.70μL、0.008mmol)と混合し、2.5時間後および48時間後にH−NMRを測定した。H−NMRスペクトルにおいて、イニマーのPMDETAとの反応の発生を示す追加の共鳴が得られた。Cu(I)ClおよびPMDETAに錯体を形成させ、イニマーと共に保持した場合には、48時間後であってもスペクトルにおける変化は全く観察されなかった。
【0058】
重合混合物中の遊離配位子の存在下でのイニマーの分解は、PMDETAの代わりに2,2’−ビピリジンを使用した場合(2,2’−ビピリジンの塩基度はPMDETAよりも低い)、発生しなかった。
【0059】
Cu(I)ClをATRP触媒として使用する場合には、開始基としてClを有するイニマーのATRPの反応速度は遅くなる。PMDETAまたは2,2’−ビピリジンよりも効率的な配位子であるMeTRENを使用するまでは、十分な数のラジカルを発生させ、十分な量のポリマーを得ることは容易ではなかった。異なる溶媒中において反応条件および触媒/配位子系を変更する可能性が考えられる。異なるイニマーに対して異なる重合条件が使用されている。Cu(I)Cl/MeTRENを使用してメチルイニマーであるプロペン酸(2−クロロ−2−メトキシカルボニル)エチルから、水中で50℃において1時間単位で可溶性高分子を合成することができるが、Cu(I)Br/MeTRENを使用してBr開始基を有するメチルイニマーであるプロペン酸(2−ブロモ−2−メトキシカルボニル)エチルを水中で50℃で10分以内重合させると、THFに多少溶解する架橋ポリマーが主として得られた。Cl開始基を有するメソゲンイニマーをCu(I)Br/PMDETAを使用して重合させると、Cu(I)Cl/PMDETAを使用して同じ反応時間で得られたポリマーと比較して大量のポリマーが得られた。異なるイニマーの場合には、架橋を回避し、大量の可溶性ポリマーを合成するために重合条件を最適化した。全ての条件で大量のポリマーが得られたわけではなかった。異なる重合条件によって構造が異なるポリマーが得られ、これらの条件は要件に応じて変更することができる。
【0060】
通常、分岐状ポリマーは直鎖状ポリマーと比較してよりコンパクトである。構造が異なる場合のより高い分子量について推定した収縮率g(直鎖状ポリマーの平均二乗回転半径に対する分岐状ポリマーの平均二乗回転半径の比率)によってコンパクト性の概念が得られた。図2は異なる構造の収縮率を示し、収縮率gが減少するに従って分岐が増加するという事実を裏付けている。
【0061】
ハイパーブランチポリマーは通常は直鎖状ポリマーよりも低い溶融または固有粘度を有し、ポリマーの分岐が増加すると特定の分子量における溶融および固有粘度が減少することが報告されている。我々は、異なる構造(直鎖状、3分岐、6分岐、櫛状、ハイパーブランチ)のメソゲンポリアクリレートの分子量依存固有粘度の比較研究を行った。図4は、特定の分子量において、ハイパーブランチメソゲンポリアクリレートの固有粘度が直鎖状メソゲンポリアクリレートよりも低いことを示している。また、より分岐したポリマーが直鎖状ポリマーと比較して低い固有粘度を有することを示している。特定の分子量においては、異なる構造の固有粘度は、直鎖状>3分岐>櫛状>6分岐>ハイパーブランチという傾向を示すことが判明した。
【0062】
この挙動は、分岐が増加するとポリマーの固有粘度が減少するというという事実と一致している。この特性は、直鎖状ポリマーに対して処理上の利点を有する多くの用途において利用することができる。
【0063】
イニマーの重合を異なる条件で行って異なる分岐度のポリマーを得ることができるため、K値およびa値(Mark−Hauwink−Sakurda式、η=KM)は異なる。例えば、溶媒としてアニソールを使用し、CuBr/PMDETAを使用して120℃で120時間合成して得られたハイパーブランチポリマーはK=3.365×10−3およびa=0.31の値を有するが、アセトニトリル/水中においてCuBr/MeTRENを使用して90℃で合成したハイパーブランチポリマーはK=5.572×10−3およびa=0.28の値を有する。直鎖状メソゲンポリアクリレートはK=3.273×10−4およびa=0.59の値を有する。
【0064】
上述したように、ポリマーの末端のみまたはポリマーの主鎖のみにメソゲンが結合した多くのデンドリマーおよびハイパーブランチポリマーとは異なり、メソゲンが側鎖として分岐状構造全体にわたって結合しているという点において、メソゲンハイパーブランチポリアクリレートは新規である。メソゲン含有ハイパーブランチポリアクリレートは液晶挙動を示した。例えば、イニマー/Cu(I)Br/PMDETA=20/1/1を使用して120℃で10時間反応させた場合には、DPが20以下(M=1.30×10)でpdiが1.56(GPCによる値)を有する可溶性メソゲンポリマーが得られた。このポリマーは99℃で等方性転移を示す液晶性を示し、ガラス転移温度は11℃だった。これらの転移温度は同等の分子量を有する他の構造よりも低く、等方化転移は比較的広かった(14℃)。ポリマーは、他の構造と同様にスメクチックCおよびスメクチックA(SA)メゾ相を形成した。従って、ハイパーブランチポリマーの全ての分岐においてメソゲンが遊離エステル基として結合したハイパーブランチ液晶ポリマーを製造することができる。ハイパーブランチポリマーの液晶性をハイパーブランチポリマーの低粘度と組み合わせて利用し、表示装置に使用することができる可能性がある。これらのポリマーは、単独または分子量の低い液晶と組み合わせて(例えばブレンド)、表示装置に使用することができる可能性がある。
【0065】
上述したように、これらのハイパーブランチポリマーは、イニマーを対応するモノマーと共重合させることによって合成することができ、特に大量のイニマーを高いコストをかけて合成するよりも経済的である場合がある。我々は、SCVCPおよびATRPを使用することによってハイパーブランチポリマーを製造することに成功した。例えば、モノマー/イニマー/Cu(I)Cl/PMDETAを20:1:1.2:1の割合で使用し、メソゲンイニマーであるプロペン酸[2−クロロ−2−{11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデカン−1−オキシカルボニル}]エチルおよび11−[(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデシル]アクリレートを130℃にて20時間アニソール中で共重合させて、Mn=1.03×10およびpdi=1.22(いずれもGPCによる値)を有する可溶性ポリマーを得た。
【0066】
対応するイニマーのSCVPまたはモノマーとのSCVCPによって、異なるエステル置換基を有する様々なハイパーブランチポリアクリレートを合成することができるだろう。例えば、長いアルキル鎖の表面および低いポリマー粘度が必要なコロイドおよび表面コーティングに適用する可能性を有するハイパーブランチポリ(アクリル酸ドデシル)を合成した。ハイパーブランチポリ(パーフルオロアクリレート)はコーティング分野の有力な候補である。メチルイニマー(Br)およびアクリル酸t−ブチルのSCVCPによってハイパーブランチポリ(アクリル酸)を合成し、ギ酸を使用して脱保護することにより、ポリマー内にカルボン酸基を形成した。このハイパーブランチポリ(アクリル酸)は超吸収性ポリマー(おむつ等)として使用することができる。
【0067】
処理条件は、使用する出発材料およびイニマーに応じて変更することができる。例えば、(メタ)アクリル酸、塩化(メタ)アクリロイルまたは(メタ)アクリル酸無水物をさらなる反応物質として添加し、必要に応じてトリエチルアミンまたはピリジン等の求核剤/塩基を添加し、テトラヒドロフラン(THF)またはジクロロメタン等の溶媒を使用することができる。反応は、約0℃から大気温度以上(例えば50℃)の温度領域で行う。
【0068】
要件に応じて、異なるエステル置換基を有するイニマーを製造することができる。ポリアクリレートのペンダント基として異なるエステル基が結合したイニマーから得られるハイパーブランチポリマーは、様々な用途において使用することができる。これらのポリマーは低い粘度およびずり減粘挙動を有し、処理が容易である。これらのポリマーは多くの末端基を有し、末端基はより良い相互作用のために別の基材と共に直接使用するか、変性させて使用することができる。異なる官能基のポリマーへの導入は、添加剤、表面コーティング、ドラッグデリバリー材料、ハイテク液晶表示装置等の様々な用途において使用できる可能性がある。オリゴ−オキシエチレン/オリゴ(エチレングリコール)側鎖を有するハイパーブランチポリアクリレートは、水性接着剤、化粧品(粘度調整剤として)、高分子電解質またはイオン導電性ポリマーに使用することができる。ハイパーブランチポリアクリル酸およびその塩は、超吸収体材料および高分子電解質に使用することができる。シロキサン含有ハイパーブランチポリアクリレートは、高い酸素透過性のためにコンタクトレンズ材料として使用できる可能性がある。また、シロキサン含有ハイパーブランチポリアクリレートは、該ハイパーブランチポリマーのハロゲン末端基を架橋部位として使用することができるため、ヒドロゲルにも使用することができる。安定性を必要とするその他の用途では、ハロゲン末端基を水素に還元することもできる。また、シロキサン含有イニマーをヒドロキシエチルメタクリレートと共重合させて、最適な酸素透過性および吸水率を得ることができる。また、これらのハイパーブランチポリマーは、有機・無機ハイブリッド材料およびナノ材料の製造に使用することができる。ハイパーブランチポリマーに存在する官能性末端基のために、ミクロンまたはサブミクロンレべルのポリマーフィルムのパターニングを達成することができる。興味深い光学的、生物学的、機械的および電気化学的物性を有する部位をハイパーブランチポリマーフィルムに導入することができる。低い粘度および豊富な官能性末端基のために、これらのポリマーは、コーティング、接着剤、粘度調整剤、およびパッケージに使用することができる。イニマーに所望のエステル基を導入することができるため、異なる用途のための様々なポリアクリレートを使用することができる。
【実施例】
【0069】
材料:DL−セリン(Acros Organics,99%),臭化カリウム(Sigma−Aldrich,99%),炭酸カリウム(Riedel−De Haen,99%),臭化水素(Sigma−Aldrich,48%水溶液),塩化水素(EMD,GR ACS,12M),亜硝酸ナトリウム(Sigma−Aldrich,99.5%),11−ブロモ−1−ウンデカノール(Alfa−Aeaser,97%),4−シアノ−4’−ヒドロキシビフェニル(TCI,95%),N,N,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)(Aldrich,99%),2,2’−ジピリジル(Lancaster Synthesis),トリス(2−アミノエチル)アミン(TREN)(Strem Chemicals,97%),アニソール(Aldrich,無水物,99.7%),水酸化カリウム(Fisher Chemicals,ACSグレード),lH,lH,2H,2H−パーフルオロ−1−デカノール(SynQuest),1−ドデカノール(Alfa Aesar,98%)は購入時の状態で使用した。トリエチルアミン(EM science,98%)はKOHと共に撹拌し、80〜85℃においてN下で蒸留し、KOHと共に保存した。塩化アクリロイル(Aldrich,96%)は70〜75℃で蒸留し、冷蔵した。ベンゼン(Fisher Chemicals,ACSグレード)は濃縮HSOで洗浄し、CaHを使用して真空蒸留し、4Åのモレキュラーシーブ存在下で保存した。塩化銅(I)は氷酢酸と共に一晩撹拌し、エタノールで数回洗浄することによって精製した。試薬グレードのテトラヒドロフラン(THF)は、N下での紫色のナトリウムベンゾフェノンケチルからの蒸留によって乾燥させた。その他の試薬および溶媒は市販品であり、購入時の状態で使用した。
【0070】
方法:特記しない限り、全ての反応はN雰囲気下でシュレンク管を使用して行った。元素分析はPE 2400 Series II CHNS/O分析器を使用して行った。Hおよび13C NMRスペクトル(δ,ppm)は、Varian Mercury 300(それぞれ300MHz,75MHz)、INOVA 400(それぞれ400MHz,100MHz)またはINOVA 750(それぞれ750MHz,188MHz)分光器で記録した。全てのスペクトルはCDClまたはCDClとDMSO−dとの混合物中で記録し、共鳴は残留溶媒の共鳴に対して測定し、テトラメチルシランを参照とした。直鎖状ポリスチレン(GPCPSt)に対する数平均分子量(M)および重量平均分子量(M)および多分散性(pdi=M/M)は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)(溶媒:THF(1.0ml/分))によって35℃における溶出体積に対するMの対数の検量線から測定した(50Å,100Å,500Å,10Å,リニア(50〜10Å)Styragel 5μmカラム、254nmに設定したWaters 486 調節可能なUV/Vis検出器、Waters 410示差屈折計、Millenium Empower 2ソフトウェアを使用)。絶対分子量は、光散乱検出器(GPCLS)を使用したGPC(溶媒:THF(1.0ml/分))によって35℃で測定した(100Åおよび2本のリニア(50〜10Å、10〜10Å)Styragel 5μmカラムおよびGa−Asレーザー(690nm、30mW)を備えたWyatt Technology DAWN−EOS 18−角度(20°〜153°)光散乱検出器を使用、Optilab 903示差屈折計(690nm)を使用して各溶出体積における濃度を測定)。分子量データは、Astra 4.73.04ソフトウェア(Wyatt Technology)を使用して算出した。屈折率(RI)の増分(dn/dc=0.120mL/g、CHCl)は、Optilab 903を使用して室温において690nmにてオンラインで測定し、各溶出体積における質量濃度と光散乱測定の物理定数Kを決定するために使用した。全ての試料(約0.5g/L)は一晩にわたって溶解し、0.45μmのPTFEフィルタで濾過した。また、分子量は、Viscotek 100示差粘度計を備えたGPCLS装置およびViscotekのOmniSEC 4.3.1.246ソフトウェアを使用した、GPC RIビスコメトリー−直角レーザー光散乱(GPCtriple)による普遍検量線から測定した。
【0071】
溶液粘度測定による分子量は、オンライン粘度検出器およびオンライン光散乱検出器(90°における)を使用して普遍検量線から得た。計算はViscotekのOmniSEC 4.0ソフトウェアを使用して行い、光散乱実験と同様なクロマトグラフ設定を使用した。
【0072】
Perkin−Elmer Pyris 1示差走査熱量計を使用して温度転移を測定し、吸熱ピークおよび発熱ピークの最大値または最小値とした。ガラス転移温度は、熱容量の変化の中間値とした。加熱速度および冷却速度は10℃/分とした。転移温度はインジウムおよびベンゾフェノン標準を使用して較正し、エンタルピーの変化はインジウムを使用して較正した。DSC実験を行う前に、全ての試料を真空容器内で乾燥させた。
【0073】
[2−ブロモ−3−ヒドロキシプロピオン酸の合成]
2−ブロモ−3−ヒドロキシプロピオン酸を50〜63%の収率で以下のように合成した。DL−セリン(10g、0.10mol)、HBr(26mL、48%水溶液(w/w)、0.23mol)、および臭化カリウム(40g、0.33mol)を水(88mL)に溶解した溶液に、亜硝酸ナトリウム(12g、0.17mol)を−10〜0℃で270分間かけて添加した。室温で16時間撹拌した後、薄緑色の溶液をNaClで飽和させ、酢酸エチル(各50mL)で5回抽出した。混合した有機抽出物をNaCl飽和水溶液(各50mL)で5回洗浄し、NaSOで乾燥させた。濾過およびtrap−to−trap蒸留による溶媒の除去後、残渣をCHClから再結晶させて10g(63%)の2−ブロモ−3−ヒドロキシプロピオン酸を白色固体として得た。H NMR(CDCl/DMSO−d):2.01(broad s,OH),3.77(m,COH),4.10(t,CHBr),7.20(broad s,COOH). 13C NMR(CDCl/DMSO−d):45.6(CBr),64.0(COΗ),171.0(C=O). Anal.C,Η:calcd.21.32,2.98;found 20.95, 2.90.
【0074】
[2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸の合成]
1000mLの三口RBフラスコ内において、DL−セリン(52.4g、0.50mol)、塩化カリウム(130.4g、1.75mol)、HCl(116.0g、36.5〜38%水溶液(w/v)、1.21mol)の混合物の水溶液(水:490mL)に、亜硝酸ナトリウム(68.4g、0.99mol)を0〜10℃で少量ずつ添加した。添加後、反応混合物を室温に戻し、反応のために一晩放置した。溶液は明るいオフホワイトから透明で明るい緑色に変化した。生成物をNaClで塩析し、100mLの酢酸エチルで5回抽出した。有機相をNaCl飽和水溶液(各50mL)で5回洗浄し、無水NaSOで乾燥させた。溶液を濾過し、trap−to−trap蒸留で溶媒を除去して、生成物を真空容器内で乾燥させた。次に、生成物をCHCl内で再結晶させた。収率:36.5g(58%)。H NMR(CDCl/DMSO−d):2.01(br s,OH),3.98(m,COH),4.42(t,CHCl),7.20(br s,COOH). 13C NMR(CDCl/DMSO−d):57.8(CCl),64.3(COΗ),170.4(C=O). Anal.C,Η:calcd.28.94,4.04;found 28.60,3.80.
【0075】
[2−ブロモ−3−ヒドロキシプロピオン酸メチルの合成]
2−ブロモ−3−ヒドロキシプロピオン酸メチルを68〜87%の収率で以下のように合成した。2−ブロモー3−ヒドロキシプロピオン酸(6.0g、35mmol)および触媒量のHBr(0.2mL、48%水溶液(w/w))をメタノール(50mL、1.2mol)に溶解した溶液を65℃で21時間加熱した。過剰なメタノールをロータリーエバポレーターによって除去した。CHCl(100mL)を茶色い液体残渣に添加し、得られた溶液を稀釈NaHCO(50mL)水溶液で二回、50mLのNaCl飽和水溶液で一回洗浄し、NaSOで乾燥させた。濾過およびロータリーエバポレーターによる溶媒の除去によって、2−ブロモ−3−ヒドロキシプロピオン酸メチルを淡黄色液体として得た。CHCl/エチルエーテル(90/10)を使用したシリカゲルクロマトグラフィー(R=0.31)による精製によって生成物(5.7g、87%)を透明な液体として得た。H NMR(CDCl):2.70(br s,OH),3.81(C),4.00(m,COH),4.35(t, CHBr). 13C NMR(CDCl):44.2(CBr),53.5(CH),63.8(CHOH),169.7(COCH). Anal.C,Η:calcd.26.23,3.86;found 25.83,4.10.
【0076】
[2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸メチルの合成]
2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸メチルを68〜88%の収率で以下のように合成した。濃縮器を備えた250mLのRBフラスコ内において、2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸(20.0g、0.16mol)、メタノール(200mL、5.00mol)(4Åのモレキュラーシーブで乾燥)、触媒量の塩酸を混合し、65℃で22時間加熱した。未反応の過剰なメタノールをロータリーエバポレーターによって除去した。100mLのCHClを得られた茶色い液体に添加し、得られた溶液を稀釈NaHCO水溶液(50mL)で二回、NaCl飽和水溶液(50mL)で一回洗浄し、無水NaSOで乾燥させた。クロロホルム/ジエチルエーテル(90/10)を使用したシリカゲルクロマトグラフィー(R=0.51)による精製によって、生成物を透明な液体として得た。収率:17.0g(76%)。H NMR(CDCl):2.55(br s,OH),3.82(C),3.99(m,COH),4.41(t,CHCl). 13C NMR(CDCl):53.4(CH),57.0(CCl),64.2(CHOH),169.0(COCH). Anal.C,Η:calcd.34.68,5.09;found 34.33,4.99.
【0077】
[(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロ−1−デシル)−2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸エステルの合成]
濃縮器を備えた50mLのRBフラスコ内において、2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸(6.0g、0.05mol)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロ−1−デカノール(18.0g、0.04mol)および触媒量の塩酸を混合し、65℃で36時間加熱した。生成物を300mLのエチルエーテルに溶解し、溶液を100mLの稀釈NaHCO水溶液で二回、100mLのNaCl飽和水溶液で一回洗浄し、無水NaSOで乾燥させた。溶液を濾過し、ロータリーエバポレーターによって溶媒を除去し、未反応のアルコールを真空中において70℃で昇華させた。収率:15.0g(67%)。H NMR(CDCl,7.27ppm):2.54(m,−CCF),3.05−3.35(broad,−OH),4.01(m,−COH),4.42(m,−CHCl),4.52(m,−CO).
【0078】
[11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデカノールの合成]
3口RBフラスコ(500mL)内において、4−シアノ−4’−ヒドロキシビフェニル(10.0g、0.05mol)およびKCO(8.5g、0.06mol)の混合物をエタノール/水(128mL/32mL、80%/20%(v/v))に溶解した。11−ブロモ−1−ウンデカノール(14.2g、0.06mol)をエタノール(100mL)に溶解した溶液を、得られた溶液に均圧管を使用して室温で滴下した。添加後、溶液を60℃に設定した油浴に入れた。23時間後、氷冷した500mLの蒸留水に溶液を注ぎ入れ、1.5時間撹拌した。フリットを使用して生成物を濾過し、エタノール(300mL)中で2回再結晶させた。最終収率:8.92g(47%)。H NMR(CDCl,7.27ppm):1.31(m,(C),1.48(m,−CCHCHOAr),1.59(m,−CCHOH),1.82(m,−CCHOAr),3.65(t,−COH),4.02(t,−COAr),7.00(d,2 芳香族H −OCHに対してオルト位),7.53(d,2 芳香族H −OCHに対してメタ位),7.67(m,4 芳香族H −CNに対してオルト位およびメタ位).
【0079】
[{11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデシル}2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸エステルの合成]
50mLのRBフラスコ内において、2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸(2.1g、0.02mol)、11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデカノール(5.2g、0.01mol)および触媒量の塩酸を撹拌し、65℃で42時間加熱した。H−NMRによれば、20%の未反応アルコールが存在した。エーテル/クロロホルム(30/70(v/v))を使用したシリカゲルクロマトグラフィー(R=0.77)によって生成物を精製した。ロータリーエバポレーターによる溶媒の除去および真空オーブン内での乾燥によって標記化合物を得た。最終収率:3.35g(56%)。H NMR:1.31(m,(C),1.48(m,−CCHCHOAr),1.69(m,−CCHOCO),1.82(m,−CCHOAr),2.40(s,broad for −OH),4.02(m,−COHおよびCOAr),4.21(m,−CO),4.36(s,−CHCl),7.00(d,2 芳香族H −OCHに対してオルト位),7.53(d,2 芳香族H −OCHに対してメタ位),7.67(m,4 芳香族H −CNに対してオルト位およびメタ位).
【0080】
[2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸ドデシルの合成]
ディーンスターク装置および濃縮器を備えたRBフラスコ(50mL)内において、2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸(4.80g、0.03mol)およびドデカノール(6.00g、0.30mol)を5mLの乾燥ベンゼンと混合した。25mg(0.26mmol)のp−トルエンスルホン酸(pTSA)を該混合物に添加し、該混合物を75〜80℃で40時間撹拌した。H−NMRによれば、転化率は85%だった。次に、2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸(1.00g、8.00mmol)を該混合物に添加し、該混合物を75〜80℃で20時間加熱した。H−NMRによれば、転化率はほぼ100%だった。冷却後、100mLのCHClを生成物に添加した。有機相を50mLの稀釈NaHCO水溶液で二回、50mLのNaCl飽和水溶液で一回洗浄し、無水NaSOで乾燥させた。濾過およびロータリーエバポレーターによる溶媒の除去によって標記化合物を得た。収率:7.76g(78%)。化合物はさらに精製することなく次の反応に使用した。H NMR(CDCl,7.27ppm):2.18−2.40(broad,−OH),3.97(m,−COH),4.21(m,−CO),4.39(m,−CHCl).
【0081】
[アクリル酸無水物の合成]
アクリル酸無水物を70〜80%の収率で以下のように合成した。アクリル酸(2.0g、30mmol)およびトリエチルアミン(2.8g、30mmol)をTΗF(50mL)に溶解した氷冷溶液に塩化アクリロイル(2.7g、30mmol)を5分間かけて添加し、溶液を室温で16時間撹拌した。NHCl沈殿物をフリットガラスフィルタに回収し、ロータリーエバポレーターによって溶媒を濾液から除去した。残渣をCHCl(25mL)に溶解し、稀釈NaHCO水溶液(各50mL)で二回、NaCl飽和水溶液(50mL)で一回洗浄し、無水NaSOで乾燥させた。濾過およびロータリーエバポレーターによる溶媒の除去によって、2.8g(80%)のアクリル酸無水物を淡黄色液体として得た。アクリル酸無水物はさらに精製することなく使用した。H NMR(CDCl,77.23ppm):6.04(m,=CH COに対してトランス位),6.14(m,=CH COに対してジェミナル(geminal)位),6.50(d,=CH COに対してシス位). 13C NMR(CDCl/DMSO−d):127.4(=CΗ),134.7(=CH),161.2(C=O).
【0082】
[プロペン酸(2−ブロモ−2−メトキシカルボニル)エチルの合成]
プロペン酸(2−ブロモ−2−メトキシカルボニル)エチルを55〜68%(68%)の収率で以下のように合成した。アクリル酸無水物(0.80g、6.3mmol)をTHF(5mL)に溶解した溶液を、2−ブロモ−3−ヒドロキシプロピオン酸メチル(0.50g、2.7mmol)およびトリエチルアミン(0.55g、5.4mmol)をTHF(25mL)に溶解した溶液に室温で10分間かけて滴下した。室温で21時間撹拌後、溶液を氷冷した水(25mL)に注ぎ入れ、3時間撹拌した。ロータリーエバポレーターによってTHFを除去し、CHClを添加した。2層に分離した後、有機相を稀釈NaHCO水溶液(各25mL)で二回、NaCl飽和水溶液(25mL)で一回洗浄し、NaSOで乾燥させた。濾過およびロータリーエバポレーターによる溶媒の除去によってプロペン酸(2−ブロモ−2−メトキシカルボニル)エチルを黄色の液体として得た。十分な真空中での92〜94℃での蒸留によって純粋な生成物を透明な液体(0.44g、68%)として得た。H NMR(CDCl,7.27ppm):3.83(s,C),4.58(m,COおよびCHBr),5.92(dd,=CH COに対してトランス位),6.14(dd,=CHCO),6.43(dd,=CH COに対してシス位). 13C NMR(CDCl,77.23ppm):40.4(CBr),53.5(CH),64.31(CHC),127.6(=CH),132.4(=CH),165.3(COCH),168.3(COCH). Anal.C,Η:calcd.35.47,3.83;found 35.24,3.75.
【0083】
[プロペン酸(2−クロロ−2−メトキシカルボニル)エチルの合成]
2−ブロモ−3−ヒドロキシプロピオン酸メチルの代わりに2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸メチルを使用した以外は上述した手順と同様にしてプロペン酸(2−クロロ−2−メトキシカルボニル)エチルを34〜50%(34%)の収率で合成した。十分な真空中での94〜96℃での蒸留によって純粋な生成物を透明な液体として得た。H NMR(CDCl,7.27ppm):3.79(s,C),4.52(m,COおよびCHCl),5.88(dd.=CH COに対してトランス位),6.11(dd,=CHCO),6.44(dd,=CH COに対してシス位). 13C NMR(CDCl,77.23ppm):53.5(CH),53.7(CCl),64.6(CHC),127.6(=CH),132.3(=CH),165.4(COCH),167.9(COCH). Anal.C,Η:calcd.43.65,4.71;found 43.48,4.73.
【0084】
[プロペン酸{2−クロロ−2−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデカン−1−オキシカルボニル)}エチルの合成]
三口RBフラスコ(250mL)内において、トリエチルアミン(1.80g、0.02mol)をTHF(5mL)に溶解した溶液を、(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロ−1−デシル)−2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸エステル(5.00g、0.01mol)および塩化アクリロイル(1.54g、0.02mol)をTHF(80mL)に溶解した溶液に滴下した。溶液を大気温度としてさらに反応させた。12時間後、溶液を氷冷水(100mL)に注ぎ入れて反応を停止させ、一晩撹拌した。水相にCHCl(100mL)を添加し、少量のNaHCOを添加して中和した。水相をCHCl(50mL)で5回洗浄することによって生成物を抽出した。混合した有機相を50mLの稀釈NaHCO水溶液で二回、50mLのNaCl飽和水溶液で一回洗浄し、無水NaSOで乾燥させた。CHClを溶離液として使用したシリカゲルクロマトグラフィー(R=0.61〜0.74)によって生成物を精製した。収率:2.37g(43%)。H NMR(CDCl,7.27ppm):2.52(m,−CCF),4.55(m,−COCH,−CHClおよびCOCH),5.89(dd,1 オレフィンH −COに対してトランス位),6.12(dd,1 オレフィンH −COに対してジェミナル位),6.41(dd,1 オレフィンH −COに対してシス位). 13C NMR(CDCl,77.23ppm):30.5(−CHCF),53.4(−CHCl),58.4(−OCHCH),64.4(−OCHCHCl),105.0−122.0((CFおよびCF),127.5(ビニルCH),132.3(ビニルCH),165.4(−COCHCHCl),167.2(−COCHCH). Anal.C,Η:calcd.30.76,1.71;found 30.84,1.55.
【0085】
[プロペン酸[2−クロロ−2−{11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデカン−1−オキシカルボニル}]エチルの合成]
三口RBフラスコ(50mL)内において、トリエチルアミン(2.15g、0.02mol)をTHF(3mL)に溶解した溶液を、{11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデシル}2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸エステル(3.20g、6.7mol)をTHF(25mL)に溶解した溶液に滴下した。次に、塩化アクリロイル(1.88g、0.02mol)をTHF(3mL)に溶解した溶液を滴下した。9時間後、溶液を氷冷水(50mL)に注ぎ入れて反応を停止させ、一晩撹拌した。水相にクロロホルム(50mL)を添加し、少量のNaHCOを添加して中和した。水相をクロロホルム(50mL)で2回洗浄することによって生成物を抽出した。有機相を稀釈NaCl水溶液で洗浄し、無水NaSOで乾燥させた。溶液を濾過し、溶媒をロータリーエバポレーターによって除去した。エーテル/クロロホルム(5%/95%)を溶離混合物として使用したシリカゲルクロマトグラフィー(R=0.70)によって生成物を精製した。溶媒を除去し、乾燥することによって生成物を得た。収率:2.16g(61%)。生成物をエタノール内で再結晶させた。濾過および真空オーブン内での乾燥によって標記化合物を得た。収率:1.36g(38%)。H NMR(CDCl,7.27ppm):1.31(m,(C),1.48(m,−CCHCHOAr),1.69(m,−CCHOAr),1.82(m,−CCHOCO),4.01(t,−COAr),4.20(t,−CC),4.54(m,−CHClおよびCOCHCl),5.90(dd,1 オレフィンH −COに対してトランス位),6.15(dd,1 オレフィンH −COに対してジェミナル位),6.46(dd,1 オレフィンH −COに対してシス位),6.99(d,2 芳香族H OCHに対してオルト位),7.67(m,4 芳香族H −CNに対してオルト位およびメタ位),7.53(d,2 芳香族H OCHに対してメタ位). 13C NMR(CDCl,77.23ppm):25.9−29.7((CH),53.9(CHCl),64.7(−OCH(CH10),66.8(−OCHCHCl),68.4(−CHOAr),110.2(芳香族C −CNの隣),115.3(芳香族C Oに対してオルト位),119.3(−CN),127.3(芳香族C CNに対してメタ位),127.6(ビニルCH),128.5(芳香族C Oに対してメタ位),131.4(芳香族C Oに対してパラ位),132.3(ビニルCH),132.8(芳香族C −CNに対してオルト位),145.5(芳香族C −CNに対してパラ位),160.0(芳香族C Oの隣),165.4(−COCHCHCl),167.4(−CO(CH11). Anal.C,H,N:calcd.68.49,6.90,2.66;found 68.24,6.88,2.93.
【0086】
[プロペン酸(2−クロロ−2−ドデカン−1−オキシカルボニル)エチルの合成]
三口RBフラスコ(100mL)内において、塩化アクリロイル(1.95g、21.5mmol)をTHF(5mL)に溶解した溶液を、2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸ドデシル(4.20g、14.3mmol)およびトリエチルアミン(2.17g、21.5mmol)を乾燥THF(50mL)に溶解した溶液に0℃で滴下した。添加後、反応混合物を大気温度とし、21時間撹拌した。溶液を氷冷水(100mL)に注ぎ入れて反応を停止させ、一晩撹拌してTHFを蒸発させた。水相をCHCl(50mL)で5回洗浄することによって生成物を抽出した。有機相を50mLの稀釈NaHCO水溶液で二回、50mLのNaCl飽和水溶液で一回洗浄した。次に、有機相を無水NaSOで乾燥させた。濾過後、溶媒をロータリーエバポレーターによって除去した。酢酸エチル(1〜5%)/ヘキサン溶媒混合物を溶離液として使用したシリカゲルクロマトグラフィーによって生成物を精製した。収率:2.92g(59%)。H NMR(CDCl,7.27ppm):0.84(t,C),1.10−1.38(m,(C),1.62(m,−C(CHCH),4.18(m,−COCH),4.54(m,−COCHCl,−CHCl),5.86(d,オレフィンH COに対してトランス位),6.10(dd,H COに対してジェミナル位),6.45(d,オレフィンH COに対してシス位). 13C NMR(CDCl,77.23ppm):14.1(CH),22.4−31.8((CH),53.9(−CHC1),66.8(−OCHCHCl),127.7(ビニルCH),132.1(ビニルCH),165.2(−COCHCHCl),167.6(−CO(CH11CH). Anal.C,Η:calcd.62.32,9.01;found 62.19,9.36.
【0087】
[トリス(2−(ジメチルアミノ)エチル)アミン(MeTREN)の合成]
丸底フラスコ(250mL)内において、ホルムアルデヒド(36%水溶液)(39.00g、0.47mol)およびギ酸(55.16g、1.2mol)の氷冷混合物に、TREN(10.00g、0.07mol)を水(25mL)に溶解した溶液を、均圧管を使用して滴下した。TRENの添加完了後、フラスコを油浴に入れ、溶液を100℃で一晩徐々に還流した。溶液を室温に冷却し、trap−to−trap蒸留によって水を除去した。未反応のギ酸を除去するために、生成物を20mLのアセトニトリルに溶解し、塩基性アルミナカラムを通過させた。アセトニトリルをロータリーエバポレーターによって除去し、生成物を減圧蒸留でさらに精製した。収率:4.10g(26%)。H NMR(CDCl,7.27ppm):2.22(s,−C),2.37(dd,−CN(CΗ),2.60(dd,−CN(CH). 13C NMR(CDCl,77.23ppm):46.1(−CH),53.3(−CHN(CH),57.7(−CHN(CH).
【0088】
[[11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデシル]アクリレートの合成]
三口RBフラスコ(250mL)内において、トリエチルアミン(0.42g、4.18mmol)をTHF(10mL)に溶解した溶液を、11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデカノール(0.91g、2.5mol)をTHF(200mL)に溶解した氷冷溶液に滴下した。次に、塩化アクリロイル(0.33g、3.65mol)をTHF(10mL)に溶解した溶液を滴下した。18時間後、溶液を氷冷水(200mL)に注ぎ入れて反応を停止させ、一晩撹拌してTHFを蒸発させた。生成物をフリットを使用して濾過し、乾燥させた。次に、生成物をエタノール/トルエン(50mL/3mL)内で再結晶させた。真空オーブン内での乾燥によって標記化合物を得た。収率:0.87g(84%)。H NMR(CDCl,7.27ppm):1.31(m,(C),1.48(m,−CCHCHOAr),1.67(m,−CCHOAr),1.82(m,−CCHOCO),4.00(t,−COAr),4.15(t,−CC),5.81(dd,1 オレフィンH COに対してトランス位),6.10(dd,1 オレフィンH COに対してジェミナル位),6.40(dd,1 オレフィンH COに対してシス位),7.00(d,2 芳香族H −OCHに対してオルト位),7.53(d,2 芳香族H −OCHに対してメタ位),7.67(m,4 芳香族H −CNに対してオルト位およびメタ位).
【0089】
[[2−クロロ−2−{11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデカン−1−オキシカルボニル}]エチル プロペン−2−メチ(meth)−オエート(oate)の合成]
三口RBフラスコ(250mL)内において、塩化メタクリロイル(0.67g、6.41mmol)をTHF(5mL)に溶解した溶液を、{11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデシル}}−2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸エステル(2.0g、0.42mol)およびトリエチルアミン(0.65g、6.42mmol)をTHF(100mL)に溶解した溶液に滴下した。16時間後、溶液を氷冷水(200mL)に注ぎ入れて反応を停止させ、一晩撹拌した。水中の白色の残渣を濾別し、真空容器内で乾燥させた。エーテル/クロロホルム(5%/95%)を溶離混合物として使用したシリカゲルクロマトグラフィー(R=0.79)によって生成物を精製した。溶媒を除去し、乾燥することによって標記化合物を得た。収率:1.63g(71%)。生成物をエタノール内で再結晶させた。最終収率:1.58(69%)。H NMR(CDCl,7.27ppm):1.30(m,(C),1.48(m,−CCHCHOAr),1.66(m,−CCHOAr),1.82(m,−CCHOCO),1.95(s,−C),4.01(t,−COAr),4.21(t,−CC),4.54(m,−CHClおよびCOCHCl),5.63(dd,1 オレフィンH −COに対してトランス位),6.15(dd,1 オレフィンH −COに対してシス位),7.00(d,2 芳香族H OCHに対してオルト位),7.53(d,2 芳香族H OCHに対してメタ位),7.67(m,4 芳香族H −CNに対してオルト位およびメタ位). 13C NMR(CDCl,77.23ppm):18.4(CH),25.9−29.7((CH),54.0(CHCl),64.9(−OCH(CH10),66.8(−OCHCHCl),68.3(−CHOAr),110.2(芳香族C −CNの隣),115.3(芳香族C Oに対してオルト位),119.3(−CN),126.9(芳香族C CNに対してメタ位),127.2(ビニルCH),128.5(芳香族C Oに対してメタ位),131.4(芳香族C Oに対してパラ位),132.4(ビニルCH),132.7(芳香族C −CNに対してオルト位),145.5(芳香族C −CNに対してパラ位),160.0(芳香族C Oの隣),166.6(−COCHCHCl),167.5(−CO(CH11). Anal.C,H,N:calcd.68.94,7.09,2.59;found 68.49,7.20,2.42.
【0090】
[ATRPによる[2−クロロ−2−{11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデカン−1−オキシカルボニル}]エチル プロペン−2−メチ(meth)−オエート(oate)の重合]
シュレンク管内において、Cu(I)BrおよびPMDETAを混合し、N下で撹拌した。アニソールを混合物に添加し、10分間撹拌した後、イニマーを添加した。シュレンク管をガラス栓で封止し、溶液をしばらく撹拌して均一な溶液を得た。凍結−ポンプ−解凍サイクルを3回行った後、シュレンク管を120℃に設定した油浴に入れた。100時間後、シュレンク管を液体Nで冷却し、解凍・通気して粘稠溶液を得た。THF(5mL)を溶液に添加し、メタノール(25mL)から3回沈殿させた。薄茶色の固体が得られた。次に、真空オーブン内で乾燥させた。収率:0.42g(70%)。GPCPSt(THF):M=17.5×10,Pdi=2.82.
【0091】
[イニマーの原子移動ラジカル重合.例:プロペン酸(2−クロロ−2−メトキシカルボニル)エチルの重合]
撹拌棒を備えた乾燥したシュレンク管内において、Cu(I)Cl(3.1mg、0.03mmol)およびMeTREN(6.7mg、0.03mmol)を混合し、N下で撹拌した。プロペン酸(2−クロロ−2−メトキシカルボニル)エチル(0.30g、1.55mmol)を水(0.30g)に溶解した溶液を混合物に添加し、N下でしばらく撹拌した。凍結−ポンプ−解凍サイクルを3回行い、Nを再充填(10−30−20−10分)した後、シュレンク管を50℃に設定した油浴に入れた。44時間後、シュレンク管を液体Nで冷却することによって反応を停止させた。解凍後、シュレンク管を開いて内容物を大気に暴露した。5mLのTHFを溶液に添加し、25mLの飽和NHCl水溶液で二回、25mLのメタノールで一回沈殿させた。生成物を回収し、真空容器内で乾燥させた。淡黄色のペーストが得られた。収率:0.12g(40%)。GPCPSt(THF):M=1.76×10,Pdi=1.52.
【0092】
[イニマーとモノマーの原子移動ラジカル共重合.例:プロペン酸[2−クロロ−2−{11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデカン−1−オキシカルボニル}]エチルと11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデシルアクリレートとの共重合]
撹拌棒を備えた乾燥したシュレンク管内において、Cu(I)Cl(4.1mg、0.04mmol)およびPMDETA(6.25mg、0.04mmol)を混合し、N下で撹拌した。プロペン酸[2−クロロ−2−{11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデカン−1−オキシカルボニル}]エチル(0.02g、0.04mmol)および11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデシルアクリレート(0.30g、0.72mmol)の混合物を添加した後、アニソール(0.6mL)を溶媒として添加した。次に、溶液をN下で15分間撹拌した。凍結−ポンプ−解凍サイクルを5回(10−30−20分)行った後、シュレンク管を130℃に設定した油浴に入れた。18時間後、シュレンク管を液体Nで冷却することによって反応を停止させた。解凍後、シュレンク管を開いて内容物を大気に暴露した。5mLのTHFを溶液に添加し、25mLの飽和NHCl水溶液で二回、25mLのメタノールで一回沈殿させた。生成物を回収し、真空容器内で乾燥させた。白色の固体が得られた。収率:0.10g(30%)。GPCPSt(THF):M=1.03×10,Pdi=1.22.
【0093】
[イニマーの原子移動ラジカル重合.例:プロペン酸[2−クロロ−2−{11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデカン−1−オキシカルボニル}]エチルの重合例]
撹拌棒を備えた乾燥したシュレンク管内において、Cu(I)Cl(1.00mg、0.01mmol)およびMeTREN(2.1mg、0.01mmol) を混合し、N下で撹拌した。プロペン酸[2−クロロ−2−{11−(4’−シアノフェニル−4’’−フェノキシ)ウンデカン−1−オキシカルボニル}]エチル(0.20g、0.34mmol)を添加した後、アセトニトリル/水(0.50mL/0.10mL)を溶媒混合物として添加した。次に、溶液をN下で15分間撹拌した。凍結−ポンプ−解凍サイクルを5回(10−30−20分)行った後、シュレンク管を90℃に設定した油浴に入れた。120時間後、シュレンク管を液体Nで冷却することによって反応を停止させた。解凍後、シュレンク管を開いて内容物を大気に暴露した。5mLのTHFを溶液に添加し、25mLの飽和NHCl水溶液で二回、25mLのメタノールで一回沈殿させた。生成物を回収し、真空容器内で乾燥させた。白色の固体が得られた。収率:0.12g(66%)。GPCPSt(THF):M=3.26×10,Pdi=1.90.
【0094】
[ATRPによるメチルイニマー(Br)とアクリル酸t−ブチルとの共重合]
シュレンク管内において、Cu(I)Brおよび2,2’−ジピリジルを混合し、N下で撹拌した。メチルイニマー(Br)およびアクリル酸t−ブチルを混合し、シュレンク管に添加した。シュレンク管をガラス栓で封止し、溶液を10分間撹拌して均一な溶液を得た。凍結−ポンプ−解凍サイクルを3回行った後、シュレンク管を90℃に設定した油浴に入れた。4時間後、シュレンク管を液体Nで冷却し、解凍・通気して粘稠溶液を得た。THF(5mL)を溶液に添加し、メタノール/水(60mL/30mL)の混合物から3回沈殿させた。白色のペーストが得られた。次に、真空オーブン内で乾燥させた。収率:1.08g(46%)。GPCPSt(THF):M=15.3×10,Pdi=8.84.
【0095】
[t−ブチル基の脱保護(ハイパーブランチアクリル酸の合成)]
RBフラスコ(50mL)内において、0.5gのハイパーブランチポリ(アクリル酸t−ブチル)を過剰量のギ酸(10mL)に溶解し、30℃で24時間撹拌した。溶液を濃縮し、メタノール(5mL)に溶解し、ヘキサン(20mL)から3回沈殿させた。薄茶色のペーストが得られた。次に、真空オーブン内で乾燥させた。収率:0.18g(67%)。GPCPSt(THF):M=2.25×10,Pdi=10.5.
【0096】
[−Cl末端基の−Hへの還元(水素化トリn−ブチル錫を使用)]
シュレンク管内において、N下でCu(I)Br(4.4mg、0.037mmol)およびMeTREN(7.2mg、0.037mmol)を混合した。アニソール(5mL)をシュレンク管に添加した後、ハイパーブランチポリマー(0.16g)(GPCPSt=13.0×10、Pdi=1.40)を添加した。ポリマー全体が溶液に溶解するまで溶液をしばらく撹拌した後、水素化トリn−ブチル錫(0.10g)を添加した。シュレンク管をガラス栓で封止し、凍結−ポンプ−解凍サイクルを3回行った後、シュレンク管を120℃に設定した油浴に入れた。5時間の反応後、シュレンク管を液体Nで冷却し、解凍し、大気に開放した。溶液をTHF(5mL)で稀釈し、塩基性アルミナのプラグを通過させ、メタノール(50mL)から3回沈殿させた。次に、真空オーブン内で一晩乾燥させた。収率:0.13g(86%)。13C−NMRによれば、残留CCl共鳴は観察されなかった。GPCPSt(THF):M=9.90×10,Pdi=1.35.
【0097】
以上、特定の実施例および実施形態を参照して本発明を詳細に説明したが、本明細書に記載された実施例および実施形態は単なる例示であり、網羅的な羅列ではない。本発明の変形および変更は当業者には容易に明らかとなるだろう。本発明はそのような全ての変形および均等物を含むものである。本発明は請求項のみによって限定されることを意図するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表されるイニマー。
【化9】

(式中、Xはハロゲン、ニトロキシドまたはチオエステルを示し、RはHまたはCHを示し、R’はフルオロカーボン置換基、オリゴ(オキシエチレン)置換基、シロキサン置換基、アルキル基、アリール基、メソゲン基、非メソゲン基、脂肪族基、非脂肪族基、シロキサン基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアリール基またはその他のフルオロカーボン基脂肪族基から選択される脂肪族基、非脂肪族基、直鎖状基、分岐状基、メソゲン基、非メソゲン基、キラル基、アキラル基、炭化水素基、または非炭化水素基を示す。)
【請求項2】
(メタ)アクリル酸、塩化(メタ)アクリロイルまたは(メタ)アクリル酸無水物を使用して2−ハロ−3−ヒドロキシプロピオン酸エステルまたは2−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルの誘導体から合成された、請求項1に記載のイニマー。
【請求項3】
XがBrであり、(メタ)アクリル酸無水物または(メタ)アクリル酸に由来する、請求項1に記載のイニマー。
【請求項4】
XがClであり、塩化(メタ)アクリロイルまたは(メタ)アクリル酸に由来する、請求項1に記載のイニマー。
【請求項5】
少なくとも1個のメチレン炭素によって他のエステル基から分離された遊離エステル置換基を有する、請求項1に記載のイニマー。
【請求項6】
以下の反応に従ってハロヒドリンエステルを反応させることを含む、イニマーの製造方法。
【化10】

(式中、Xはハロゲン、ニトロキシドまたはチオエステルを示し、RはHまたはCHを示し、R’はフルオロカーボン置換基、オリゴ(オキシエチレン)置換基、シロキサン置換基、アルキル基、アリール基、メソゲン基、非メソゲン基、脂肪族基、非脂肪族基、シロキサン基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアリール基またはその他のフルオロカーボン基脂肪族基から選択される脂肪族基、非脂肪族基、直鎖状基、分岐状基、メソゲン基、非メソゲン基、キラル基、アキラル基、炭化水素基、または非炭化水素基を示す。)
【請求項7】
前記ハロヒドリンエステルが2−クロロ−3−ヒドロキシプロピオン酸エステルである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ハロヒドリンエステルが2−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ハロヒドリンエステルが2−ブロモ−3−ヒドロキシプロピオン酸エステルである、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ハロヒドリンエステルが2−ブロモ−3−ヒドロキシ酪酸エステルである、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
(メタ)アクリル酸、塩化(メタ)アクリロイルまたは(メタ)アクリル酸無水物をさらなる反応物質として添加し、必要に応じて求核剤/塩基および溶媒を添加する、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
自己縮合ビニル(共)重合によって請求項1に記載のイニマーから合成された、ハイパーブランチポリマー。
【請求項13】
ポリ(メソゲンアクリレート)、ポリ(脂肪族アクリレート)、ポリ(非脂肪族アクリレート)、ポリ(オリゴ−オキシエチレンアクリレート)、ポリ(シロキサンアクリレート)、ポリ(パーフルオロアクリレート)、ポリ(フルオロアクリレート)、ポリ(脂肪族シリルアクリレート)、ポリ(アクリル酸)またはそれらの塩である、請求項12に記載のポリマー。
【請求項14】
以下の反応に従って請求項1に記載のイニマーを(共)重合させることを含む、ハイパーブランチポリマーの合成方法。
【化11】

【請求項15】
前記反応が、ATRP等のラジカル重合を使用した自己縮合ビニル(共)重合による反応である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
イニマーを異なるモノマーと共重合させることによってハイパーブランチポリマーを得る、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
請求項14に記載の方法によって得られ、かつ、末端基、ビニル基またはエステル基を還元剤または脱保護剤と反応させることによってさらに変性されたものである、ポリマー。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−506000(P2010−506000A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531456(P2009−531456)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際出願番号】PCT/US2007/021345
【国際公開番号】WO2008/045299
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(508341980)ザ ユニバーシティ オブ アクロン (2)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF AKRON
【住所又は居所原語表記】Buchtel Hall,Akron,OH 44325,U.S.A.
【Fターム(参考)】