説明

イネの品種鑑別法

【課題】イネの品種鑑別方法を提供する。
【解決手段】日本国内で作付面積の多い24品種における多型部位を探索し、品種毎に比較した。そして、これらの品種を簡単かつ迅速に鑑別するための多型マーカーを取得した。該マーカーは、品種毎に異なるパターンを示し、組み合わせることによって品種の鑑別が可能であることが示された。つまり、イネ24品種の鑑定が可能な分子マーカーを取得することに成功した。該マーカーを利用することで、DNAレベルで近縁品種の識別・特定が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イネの品種鑑別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イネあるいは米の品種鑑別には草丈、分げつ数、出穂期などの栽培特性、粒形、粒重、白度などの玄米・精米特性、および食味等の炊飯特性が従来利用されてきた。また近年では、これらに加えて、RFLP(制限酵素断片長多型)やCAPS(cleaved amplified polymorphic sequence)などの分子遺伝学的解析による分別も可能となっている。しかし、栽培特性による鑑別には熟練した育種家の目が必要であり、誰にでも鑑別できるというものではない。また玄米・精米特性では統計的な解析が不可欠であり、炊飯特性ではある程度の量の米が必要であり、一粒一粒の米を鑑別することは不可能であった。分子遺伝学的解析は原理上この問題を解決したが、実際には、遠縁なものの識別には有効であるものの近縁品種間の分子マーカーの確立が難しいため、識別は困難である。
【0003】
一塩基多型(SNPs)とは、定義上はDNA塩基配列上に存在する一塩基の差異であるが、実際にはSSR(simple sequence repeat)や挿入・欠失変異も包含して表すことが多く、RFLP、CAPS等の分子マーカーで検出できる遺伝的差異や、形質等に反映される遺伝的差異は全てSNPsに由来すると言っても過言ではない。SNPs研究とSNPs判定系はこの数年で著しく進歩し、現在では電気泳動を全く必要とせず、PCRから判定まで96ウェルプレート上で行うことのできる判定系も開発されており、従来の分子マーカーに比べて格段に効率的に遺伝子型の判定が可能になっている。
【0004】
一方、食品流通過程における品質表示の信頼性が問題となっている昨今、米についてもたとえばコシヒカリとして販売されている米の流通量が、全国のコシヒカリ作出量を上回るなど、米の流通過程で虚偽の表示が行われている可能性が否定できず、消費者あるいは小売業者の立場からも精米の正確な品種鑑別および混合割合の検定が望まれていた。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、イネ品種を迅速かつ簡便に鑑別可能な新しい方法を提供することにある。より詳細には、多型マーカーを利用した、効率的なイネの品種鑑別方法の提供を目的とする。
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究を行った。まずイネゲノムシーケンスを利用し、イネゲノム塩基配列情報が公開されている染色体領域については、遺伝子が予測されていない領域を中心に、それ以外の領域についてはRFLPマーカープローブのシーケンス等を利用して、ゲノムDNAから800bp〜1kbpを増幅するプライマーを設計した。設計したプライマーを用いてまず日本晴・コシヒカリ・カサラス・廣陸矮4号(以下G4)、キタアケ、および野生イネ(Oryza rufipogon, W1943)の簡易抽出DNAを鋳型としてPCR増幅を行い、シークエンス反応の鋳型とした。この鋳型に対してサイクルシークエンスを行い、シーケンス用サンプルを作成した。得られたシークエンスデータを品種ごとに比較し、一塩基置換多型を検索した。同一品種、同一プライマーに対し少なくとも2回のシークエンスを行い、確実であるもののみを多型と判定した。
【0007】
日本晴・コシヒカリ間および日本晴・キタアケ間で多型の見られた部位について、日本晴・ハツシモ・むつほまれ・ゆきの精・きらら397・つがるロマン・五百万石・森のくまさん・ゆめあかり・ハナエチゼン・コシヒカリ・月の光・あきたこまち・朝の光・あいちのかおり・祭り晴・ヒノヒカリ・夢つくし・ひとめぼれ・まなむすめ・ふさおとめ・どんとこい・キヌヒカリ・ササニシキの簡易抽出ゲノムDNAを鋳型とし、同様にPCR反応とシーケンシングを行い、多型部位の塩基を品種毎に比較した。
【0008】
次いで、品種鑑別に有用なSNPsについて、SNPs検出用プライマーを設計し、AcycloPrime−FPキット(PerkinElmer)を用いて一塩基ターミネータ反応を行い、ジェノタイピング用サンプルを作成した。ジェノタイピングはARVO(Perkin Elmer)で蛍光偏光度を測定して行った。
【0009】
その結果、シークエンスでSNPsと判定した箇所について作成したマーカーは、それぞれ異なるパターンを示し、組み合わせによってさまざまに分類できることが示された。つまり、イネ24品種の鑑定が可能な多型マーカーを取得することに成功した。
【0010】
上記の如く本発明者らは、日本国内で作付面積の多い24品種におけるSNPs部位を探索し、これらの品種を簡単かつ迅速に鑑別可能な多型マーカーを作成することにより、該多型マーカーを利用した新規なイネ品種鑑別方法を完成させた。本発明の方法を利用することで、DNAレベルで近縁品種の識別・特定が可能になる。
【0011】
即ち本発明は、イネ品種を迅速かつ簡便に鑑別可能な新しい方法に関し、より具体的には、
〔1〕 以下の工程(a)および(b)を含む、イネ品種を鑑別する方法。
(a)イネゲノムにおける以下の(1)〜(28)のいずれかに記載の塩基部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における部位の塩基種を判定する工程、
(1)配列番号:1に記載の塩基配列の593位
(2)配列番号:2に記載の塩基配列の304位
(3)配列番号:3に記載の塩基配列の450位
(4)配列番号:4に記載の塩基配列の377位
(5)配列番号:5に記載の塩基配列の163位
(6)配列番号:6に記載の塩基配列の624位
(7)配列番号:7に記載の塩基配列の534位
(8)配列番号:8に記載の塩基配列の358位
(9)配列番号:9に記載の塩基配列の475位
(10)配列番号:10に記載の塩基配列の323位
(11)配列番号:11に記載の塩基配列の612位
(12)配列番号:12に記載の塩基配列の765位
(13)配列番号:13に記載の塩基配列の571位
(14)配列番号:14に記載の塩基配列の660位
(15)配列番号:15に記載の塩基配列の223位
(16)配列番号:16に記載の塩基配列の247位
(17)配列番号:17に記載の塩基配列の163位
(18)配列番号:18に記載の塩基配列の421位
(19)配列番号:19に記載の塩基配列の178位
(20)配列番号:20に記載の塩基配列の141位
(21)配列番号:21に記載の塩基配列の480位
(22)配列番号:22に記載の塩基配列の481位
(23)配列番号:23に記載の塩基配列の131位
(24)配列番号:24に記載の塩基配列の510位
(25)配列番号:25に記載の塩基配列の248位
(26)配列番号:26に記載の塩基配列の92位
(27)配列番号:27に記載の塩基配列の743位
(28)配列番号:28に記載の塩基配列の552位
(b)上記工程(a)により判定された塩基種と品種を関連付ける工程
【0012】
〔2〕 イネゲノムにおける以下の(1)〜(28)のいずれかに記載の塩基変異を特徴とする多型マーカーを用いて塩基種の判定を行う、〔1〕に記載の方法、
(1)配列番号:1に記載の塩基配列の593位の塩基がT
(2)配列番号:2に記載の塩基配列の304位の塩基がT
(3)配列番号:3に記載の塩基配列の450位の塩基がA
(4)配列番号:4に記載の塩基配列の377位の塩基がC
(5)配列番号:5に記載の塩基配列の163位の塩基がC
(6)配列番号:6に記載の塩基配列の624位の塩基がC
(7)配列番号:7に記載の塩基配列の534位の塩基がC
(8)配列番号:8に記載の塩基配列の358位の塩基がG
(9)配列番号:9に記載の塩基配列の475位の塩基がG
(10)配列番号:10に記載の塩基配列の323位の塩基がA
(11)配列番号:11に記載の塩基配列の612位の塩基がA
(12)配列番号:12に記載の塩基配列の765位の塩基がT
(13)配列番号:13に記載の塩基配列の571位の塩基がT
(14)配列番号:14に記載の塩基配列の660位の塩基がG
(15)配列番号:15に記載の塩基配列の223位の塩基がA
(16)配列番号:16に記載の塩基配列の247位の塩基がA
(17)配列番号:17に記載の塩基配列の163位の塩基がA
(18)配列番号:18に記載の塩基配列の421位の塩基がC
(19)配列番号:19に記載の塩基配列の178位の塩基がG
(20)配列番号:20に記載の塩基配列の141位の塩基がG
(21)配列番号:21に記載の塩基配列の480位の塩基がC
(22)配列番号:22に記載の塩基配列の481位の塩基がC
(23)配列番号:23に記載の塩基配列の131位の塩基がC
(24)配列番号:24に記載の塩基配列の510位の塩基がA
(25)配列番号:25に記載の塩基配列の248位の塩基がT
(26)配列番号:26に記載の塩基配列の92位の塩基がC
(27)配列番号:27に記載の塩基配列の743位の塩基がG
(28)配列番号:28に記載の塩基配列の552位の塩基がT
【0013】
〔3〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の方法、
(a)被検イネからDNAを調製する工程
(b)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する工程
(c)増幅したDNAの塩基配列を決定する工程
〔4〕 以下の(a)〜(d)の工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の方法、
(a)被検イネからDNAを調製する工程
(b)調製したDNAを制限酵素により切断する工程
(c)DNA断片をその大きさに応じて分離する工程
(d)検出されたDNA断片の大きさを対照と比較する工程
〔5〕 以下の(a)〜(e)の工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の判定方法、
(a)被検イネからDNAを調製する工程
(b)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する工程
(c)増幅したDNAを制限酵素により切断する工程
(d)DNA断片をその大きさに応じて分離する工程
(e)検出されたDNA断片の大きさを対照と比較する工程
〔6〕 以下の(a)〜(e)の工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の判定方法、
(a)被検イネからDNAを調製する工程
(b)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する工程
(c)増幅したDNAを一本鎖に解離させる工程
(d)解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離する工程
(e)分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度を対照と比較する工程
【0014】
〔7〕 以下の(a)〜(f)の工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の判定方法、
(a)被検イネからDNAを調製する工程
(b)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含む近傍の塩基配列と相補的なオリゴヌクレオチドに、レポーター蛍光とクエンチャー蛍光の2つを標識したプローブを2種類合成する工程
(c)工程(a)で調製したDNAに、工程(b)で合成したプローブをハイブリダイズさせる工程
(d)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する工程
(e)レポーター蛍光の発光を検出する工程
(f)工程(e)で検出したレポーター蛍光の発光を対照と比較する工程
〔8〕 以下の(a)〜(h)の工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の判定方法、
(a)被検イネからDNAを調製する工程
(b)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含む3'側塩基配列と相補的な配列、および全く無関係な配列を合わせたプローブを合成する工程
(c)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位から5'末端側が相補的なプローブを合成する工程
(d)工程(c)で合成したプローブと工程(a)で調製したDNAとハイブリダイズさせる工程
(e)工程(d)でハイブリダイズしたDNAを一本鎖DNA切断酵素で切断し、工程(b)で合成したプローブの一部を遊離させる工程
(f)工程(e)で遊離したプローブと、検出用プローブとをハイブリダイズさせる工程
(g)工程(f)でハイブリダイズしたDNAを酵素的に切断し、その際に発生する蛍光の強度を測定する工程
(h)工程(g)で測定した蛍光の強度を対照と比較する工程
【0015】
〔9〕 以下の(a)〜(f)の工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の判定方法、
(a)被検イネからDNAを調製する工程
(b)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する工程
(c)増幅したDNAを一本鎖に解離させる工程
(d)解離させた一本鎖DNAのうち、片鎖のみを分離する工程
(e)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位の近傍より1塩基ずつ伸長反応を行い、その際に生成されるピロリン酸を酵素的に発光させ、発光の強度を測定する工程
(f)工程(e)で測定した蛍光の強度を対照と比較する工程
〔10〕 以下の(a)〜(f)の工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の判定方法、
(a)被検イネからDNAを調製する工程
(b)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する工程
(c)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位の1塩基隣までの配列に相補的なプライマーを合成する工程
(d)蛍光ラベルしたヌクレオチド存在下で、工程(b)で増幅したDNAを鋳型とし、工程(c)で合成したプライマーを用いて一塩基伸長反応を行う工程
(e)蛍光の偏光度を測定する工程
(f)工程(e)で測定した蛍光の偏光度を対照と比較する工程
〔11〕 以下の(a)〜(f)の工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の判定方法、
(a)被検イネからDNAを調製する工程
(b)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する工程
(c)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位の1塩基隣までの配列に相補的なプライマーを合成する工程
(d)蛍光ラベルしたヌクレオチド存在下で、工程(b)で増幅したDNAを鋳型とし、工程(c)で合成したプライマーを用いて一塩基伸長反応を行う工程
(e)シーケンサーを利用して、工程(d)で反応に使われた塩基種を判定する工程
(f)工程(e)で判定された塩基種を対照と比較する工程
【0016】
〔12〕 以下の(a)〜(d)の工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の判定方法、
(a)被検イネからDNAを調製する工程
(b)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する工程
(c)工程(b)で増幅したDNAを質量分析器にかけ、分子量を測定する工程
(d)工程(c)で測定した分子量を対照と比較する工程
〔13〕 以下の(a)〜(f)の工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の判定方法、
(a)被検イネからDNAを調製する工程
(b)〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する工程
(c)ヌクレオチドプローブが固定された基板を提供する工程
(d)工程(b)のDNAと工程(c)の基板を接触させる工程
(e)該DNAと該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出する工程
(f)工程(e)で検出された強度を対照と比較する工程
〔14〕 以下の工程(a)および(b)をさらに含む、〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の方法、
(a)アルカリ性の水性溶媒中でイネの種子を粉砕する工程、および
(b)上記工程(a)で粉砕した種子からイネゲノムDNAを抽出する工程
〔15〕 種子が精米されている〔14〕に記載の方法、
〔16〕 イネの品種を鑑別するためのプライマー(もしくはイネ品種鑑別用試薬)であって、
(a)イネゲノムにおける〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNA領域を増幅するためのオリゴヌクレオチド、または
(b)イネゲノムにおける〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位の1塩基隣までの配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、
〔17〕 〔1〕に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNA領域とハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有する、イネの品種を鑑別するためのオリゴヌクレオチド(もしくはイネ品種鑑別用試薬)、
〔18〕 〔16〕または〔17〕に記載のオリゴヌクレオチドを含む、イネ品種鑑別用キット、
〔19〕 さらに、アルカリ性の水性溶媒を含む、〔18〕に記載のイネ品種鑑別用キット、を提供するものである。
本発明者らは、イネ24品種のゲノム配列を解析することにより、これらのイネの品種を正確に鑑別できる多型マーカーを見出した。本発明者らによって見出された、イネゲノムにおける多型部位を含むDNA領域を配列番号:1〜28に記載する。また、各多型部位の位置を図1〜29および表8、9に記載する。
【0017】
本発明は、イネの品種を鑑別する方法を提供する。本発明の方法は、まず、本発明者らによって見出されたイネ24品種におけるゲノム上の多型部位について、塩基種の判定を行う。より具体的には、イネゲノムにおける以下の(1)〜(28)のいずれかに記載の塩基部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における部位の塩基種を判定する(工程(A))。
(1)配列番号:1に記載の塩基配列の593位
(2)配列番号:2に記載の塩基配列の304位
(3)配列番号:3に記載の塩基配列の450位
(4)配列番号:4に記載の塩基配列の377位
(5)配列番号:5に記載の塩基配列の163位
(6)配列番号:6に記載の塩基配列の624位
(7)配列番号:7に記載の塩基配列の534位
(8)配列番号:8に記載の塩基配列の358位
(9)配列番号:9に記載の塩基配列の475位
(10)配列番号:10に記載の塩基配列の323位
(11)配列番号:11に記載の塩基配列の612位
(12)配列番号:12に記載の塩基配列の765位
(13)配列番号:13に記載の塩基配列の571位
(14)配列番号:14に記載の塩基配列の660位
(15)配列番号:15に記載の塩基配列の223位
(16)配列番号:16に記載の塩基配列の247位
(17)配列番号:17に記載の塩基配列の163位
(18)配列番号:18に記載の塩基配列の421位
(19)配列番号:19に記載の塩基配列の178位
(20)配列番号:20に記載の塩基配列の141位
(21)配列番号:21に記載の塩基配列の480位
(22)配列番号:22に記載の塩基配列の481位
(23)配列番号:23に記載の塩基配列の131位
(24)配列番号:24に記載の塩基配列の510位
(25)配列番号:25に記載の塩基配列の248位
(26)配列番号:26に記載の塩基配列の92位
(27)配列番号:27に記載の塩基配列の743位
(28)配列番号:28に記載の塩基配列の552位
【0018】
尚、当業者においては、通常、本明細書で示される塩基配列および多型部位等に関する情報から、適宜、該多型部位に相当する実際のゲノム上の位置を知ることは容易である。例えば、公開されているゲノムデータベース等と照会することにより、本発明の多型部位のゲノム上の位置を知ることができる。即ち、配列表に掲げた塩基配列とゲノム上の実際の塩基配列との間に若干の塩基配列の相違がみられた場合であっても、配列表に掲げた塩基配列を基にゲノム配列と相同検索等を行うことにより、本発明の多型部位について、実際のゲノム上の位置を正確に知ることが可能である。
【0019】
なお、ゲノムにおけるDNAは、通常、互いに相補的な二本鎖DNA構造を有している。従って、本明細書においては、便宜的に一方の鎖におけるDNA配列を示した場合であっても、当然の如く、当該配列(塩基)に相補的な配列も開示したものと解釈される。当業者にとって、一方のDNA配列(塩基)が判れば、該配列(塩基)に相補的な配列(塩基)は自明である。
【0020】
本発明における「多型」は、一塩基の置換、欠失、挿入変異からなる一塩基多型(SNPs)に限定されず、連続する数塩基の置換、欠失、挿入変異も含まれる。本発明の「多型マーカー」とは、多型部位における塩基変異(多型変異)についての情報を言う。より具体的には、本発明の多型マーカーとは、イネの品種である「日本晴」のゲノム配列と他の品種のゲノム配列とを比較した際に見出される塩基配列変異についての情報であり、イネ品種鑑別に利用可能なものを指す。本発明において塩基種の判定に使用される多型マーカーとは、好ましくは、下記の(1’)〜(28’)で示す多型マーカーを指す。即ち、本発明の好ましい態様においては、下記(1’)〜(28’)で示す多型マーカーを利用することにより、イネ品種の鑑別を行う。
【0021】
(1’)配列番号:1に記載の塩基配列の593位の塩基がT。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:1に記載の塩基配列の593位の塩基部位が、CからTへの変異である。
(2’)配列番号:2に記載の塩基配列の304位の塩基がT。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:2に記載の塩基配列の304位の塩基部位が、AからTへの変異である。
(3’)配列番号:3に記載の塩基配列の450位の塩基がA。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:3に記載の塩基配列の450位の塩基部位が、GからAへの変異である。
(4’)配列番号:4に記載の塩基配列の377位の塩基がC。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:4に記載の塩基配列の377位の塩基部位が、TからCへの変異である。
(5’)配列番号:5に記載の塩基配列の163位の塩基がC。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:5に記載の塩基配列の163位の塩基部位が、TからCへの変異である。
(6’)配列番号:6に記載の塩基配列の624位の塩基がC。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:6に記載の塩基配列の624〜626位の塩基部位が、欠失変異である。
(7’)配列番号:7に記載の塩基配列の534位の塩基がC。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:7に記載の塩基配列の534位の塩基部位が、AからCへの変異である。
(8’)配列番号:8に記載の塩基配列の358位の塩基がG。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:8に記載の塩基配列の358位と389位の間の塩基部位への、GTの挿入変異である。
(9’)配列番号:9に記載の塩基配列の475位の塩基がG。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:9に記載の塩基配列の475位の塩基部位が、TからGへの変異である。
(10’)配列番号:10に記載の塩基配列の323位の塩基がA。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:10に記載の塩基配列の323位の塩基部位が、GからAへの変異である。
(11’)配列番号:11に記載の塩基配列の612位の塩基がA。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:11に記載の塩基配列の612および613位の塩基部位が、CAからAGへの変異である。
(12’)配列番号:12に記載の塩基配列の765位の塩基がT。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:12に記載の塩基配列の765位の塩基部位が、GからTへの変異である。
(13’)配列番号:13に記載の塩基配列の571位の塩基がT。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:13に記載の塩基配列の571位の塩基部位が、GからTへの変異である。
(14’)配列番号:14に記載の塩基配列の660位の塩基がG。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:14に記載の塩基配列の660位の塩基部位が、AからGへの変異である。
(15’)配列番号:15に記載の塩基配列の223位の塩基がA。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:15に記載の塩基配列の223位の塩基部位が、GからAへの変異である。
(16’)配列番号:16に記載の塩基配列の247位の塩基がA。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:16に記載の塩基配列の247位の塩基部位が、GからAへの変異である。
(17’)配列番号:17に記載の塩基配列の163位の塩基がA。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:17に記載の塩基配列の163位の塩基部位が、GからAへの変異である。
(18’)配列番号:18に記載の塩基配列の421位の塩基がC。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:18に記載の塩基配列の421位の塩基部位が、AからCへの変異である。
(19’)配列番号:19に記載の塩基配列の178位の塩基がG。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:19に記載の塩基配列の178位の塩基部位が、欠失変異である。
(20’)配列番号:20に記載の塩基配列の141位の塩基がG。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:20に記載の塩基配列の141位の塩基部位が、AからGへの変異である。
(21’)配列番号:21に記載の塩基配列の480位の塩基がC。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:21に記載の塩基配列の480位の塩基部位が、TからCへの変異である。
(22’)配列番号:22に記載の塩基配列の481位の塩基がC。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:22に記載の塩基配列の481位の塩基部位が、TからCへの変異である。
(23’)配列番号:23に記載の塩基配列の131位の塩基がC。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:23に記載の塩基配列の131位の塩基部位が、GからCへの変異である。
(24’)配列番号:24に記載の塩基配列の510位の塩基がA。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:24に記載の塩基配列の510位の塩基部位が、GからAへの変異である。
(25’)配列番号:25に記載の塩基配列の248位の塩基がT。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:25に記載の塩基配列の248位の塩基部位が、CからTへの変異である。
(26’)配列番号:26に記載の塩基配列の92位の塩基がC。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:26に記載の塩基配列の92位の塩基部位が、GからCへの変異である。
(27’)配列番号:27に記載の塩基配列の743位の塩基がG。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:27に記載の塩基配列の743位の塩基部位が、AからGへの変異である。
(28’)配列番号:28に記載の塩基配列の552位の塩基がT。より詳しくは、「日本晴」ゲノムにおける配列番号:28に記載の塩基配列の552位の塩基部位が、CからTへの変異である。
【0022】
本発明において「塩基種を判定する」とは、通常、品種を鑑別したいイネ(以下「被検イネ」と記載する場合あり)のゲノム上の上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位における塩基の種類を決定することを指すが、必ずしも塩基の具体的な種類まで決定する必要はない。被検イネのゲノムにおける上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位の塩基種が具体的に決定できなくても、日本晴と同一か否かが判明すれば、イネ品種の鑑別を行うことが可能である。
【0023】
本発明の方法においては、次いで、上記工程(A)により判定された塩基種と品種を関連付ける(工程(B))。
【0024】
本発明に方法において、鑑別が可能なイネ品種は、次の通りである(本明細書においては各品種名をそれぞれ括弧内に示すように略記する場合あり)。日本晴(nhb)、ハツシモ(hts)、むつほまれ(mth)、ゆきの精(yki)、きらら397(krr)、つがるロマン(tgr)、五百万石(ghm)、森のくまさん(mnk)、ゆめあかり(yma)、ハナエチゼン(hez)、コシヒカリ(ksh)、月の光(tkh)、あきたこまち(akk)、朝の光(ash)、あいちのかおり(ank)、祭り晴(mtb)、ヒノヒカリ(hnh)、夢つくし(ymt)、ひとめぼれ(hit)、まなむすめ(mmm)、ふさおとめ(fom)、どんとこい(don)、キヌヒカリ(knh)、ササニシキ(ssk)、アケボノ(akb)、ゴロピカリ(grp)。
【0025】
本発明の鑑別方法は、通常、品種が不明なイネについて上記の品種の中から品種名を特定する、もしくは、上記の品種であるか否かを判別するために利用することができる。
【0026】
本発明者らは、上記のイネ品種について、イネゲノムにおける上記(1)〜(28)に記載の部位の塩基種を決定し、多型マーカーを作成した。これらの多型マーカーの詳細(多型マーカーの名称、および、各イネ品種における上記(1)〜(28)に記載の部位の塩基種)を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明においては、被検イネのゲノムにおける上記(1)〜(28)に記載の部位の塩基種を決定することにより、表1に示される各イネ品種における塩基種のデータに基づいてイネ品種を判定することができる。本発明の好ましい態様においては、上記(1’)〜(28’)に記載の多型マーカーを利用して塩基種の判定を行う。本方法においては、必ずしも上記(1)〜(28)の記載の全ての部位について塩基種を決定する必要はない。例えば、多型マーカー「S0124」を利用し、上記(10)の配列番号:10に記載の塩基配列の323位の塩基種の判定を行い、判定された塩基がA(アデニン)である場合には、被検イネの品種は、「きらら397」であると判定される。また、多型マーカー「S0126」および「S0015」を用いて塩基種の判定を行い、上記(9)の配列番号:9に記載の塩基配列の475位の塩基種がGであり、かつ、上記(1)の配列番号:1に記載の塩基配列の593位の塩基種がCである場合には、被検イネの品種は、「ゆきの精」であると判定される。このように、決定された被検イネゲノムの上記(1)〜(28)に記載の部位の塩基種から、本発明によって提供される表1に基づいてイネ品種を判定することは、当業者においては、容易に行い得ることである。
【0029】
さらに本発明の方法においては、上記(1)〜(28)に記載の部位において必ずしも塩基種を決定する必要はなく、被検イネのゲノムにおける上記(1)〜(28)に記載の部位と塩基種が、日本晴における該部位の塩基種とが同一であるか否かを調べることにより、イネ品種の鑑別を行うことができる。本発明の好ましい態様においては、上記(1’)〜(28’)に記載の多型マーカーを利用して、被検イネのゲノムにおける上記(1)〜(28)に記載の部位の塩基種が、日本晴における該部位の塩基種と同一か否かに基づいてイネ品種の判定を行う。
【0030】
本発明者らは、イネの上述した各品種について上記(1)〜(28)に記載の各部位の塩基種が、「日本晴」の該部位における塩基種と同一であるか否かを調べ、上述した各品種を鑑別可能な、多型マーカーの組み合わせを決定した(表2〜7)。表2〜7の網掛けで示す部分が、各品種を鑑別可能な多型マーカーの組み合わせの例である。必ずしも表2〜7に掲げた多型マーカーの組み合わせに限定されるものではなく、当業者においては、本発明によって提供される26品種のイネゲノムの上記(1)〜(28)に記載の部位の塩基種についての情報から、品種鑑別に用いることが可能な多型マーカーの組み合わせを適宜選択することが可能である。表中○は「日本晴」との一致を表し、×は「日本晴」との不一致を表す。
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

【0035】
【表6】

【0036】
【表7】

【0037】
例えば、被検イネについて、多型マーカー「S0135」を利用し、上記(12)の配列番号:12に記載の塩基配列の765位の塩基種の判定を行い、該部位の塩基種が「日本晴」における該部位の塩基種と不一致であり、かつ、多型マーカー「S0208」を用いて塩基種の判定を行い、上記(19)の配列番号:19に記載の塩基配列の178位の塩基種が「日本晴」と一致する場合には、被検イネの品種は、「ふさおとめ」であると判定される。上記(1’)〜(28’)に記載の各多型マーカーを用いて、上記(1)〜(28)に記載の各塩基部位における塩基種の判定を行い、該部位における塩基種が、「日本晴」における該部位の塩基種と一致するか否かが判明すれば、表2〜7を参照して、被検イネの品種を判定することは容易に行い得ることである。
【0038】
本発明の上記工程(A)の塩基種の判定は、当業者においては、公知の塩基配列決定法もしくは多型変異検出法等により、実施することができる。例えば、本発明の好ましい態様において、下記のような方法により行うことができる。まず、被検イネからDNAを調製する。本発明において、被検イネとしては、例えば、上記イネの葉、根、種子、カルス、葉鞘、培養細胞等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、当業者であれば、DNAを上記被検イネから抽出した染色体DNAを基に調製することができる。例えば、アルカリ性の水性溶媒中でイネの種子を粉砕し、次いで、粉砕した種子からイネゲノムDNAを抽出する方法を好適に示すことができるが、特にこの方法に制限されない。また上記種子は、精米されていることが好ましい。
【0039】
本方法においては、次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する。本発明において、DNAの増幅方法としては、PCR法が挙げられるが、DNAを増幅できる方法であれば特に制限されない。
【0040】
本方法においては、次いで、増幅したDNAの塩基配列を決定する。DNAの塩基配列の決定は、当業者に公知の方法で行うことができる。
【0041】
本方法においては、次いで、決定したDNAの塩基配列を、対照と比較する。本方法における対照とは、通常、「日本晴」であり、配列番号:1〜28に記載された配列である。あるいは、当業者においては、各種遺伝子データベースまたは文献等から野生型日本晴ゲノムの塩基配列情報を取得することも可能である。本方法においては、対照と比較することにより、被検イネのゲノムに多型を有するか否かの判定を行う。
【0042】
本発明のイネ品種鑑別方法は、上記の如く直接被検イネ由来のDNAの塩基配列を決定する方法以外に、多型の検出が可能な種々の方法に従って行うことができる。例えば、本発明のイネ品種鑑別方法は、以下のような方法によって行うことも可能である。
【0043】
まず、被検イネからDNAを調製する。次いで、調製したDNAを制限酵素により切断する。次いで、DNA断片をその大きさに応じて分離する。次いで、検出されたDNA断片の大きさを対照と比較する。また、他の一つの態様においては、まず、被検イネからDNAを調製する。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを制限酵素により切断する。次いで、DNA断片をその大きさに応じて分離する。次いで、検出されたDNA断片の大きさを対照と比較する。
【0044】
このような方法としては、例えば、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法等が挙げられる。具体的には、制限酵素の認識部位に変異が存在する場合、あるいは制限酵素処理によって生じるDNA断片内に塩基挿入または欠失がある場合、制限酵素処理後に生じる断片の大きさが対照と比較して変化する。この変異を含む部分をPCR法によって増幅し、それぞれの制限酵素で処理することによって、これらの変異を電気泳動後のバンドの移動度の差として検出することができる。あるいは、染色体DNAをこれらの制限酵素によって処理し、電気泳動した後、本発明のオリゴヌクレオチドを用いてサザンブロッティングを行うことにより、変異の有無を検出することができる。用いられる制限酵素は、それぞれの変異に応じて当業者においては適宜選択することができる。
【0045】
さらに別の方法においては、まず、被検イネからDNAを調製する。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを一本鎖に解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離する。分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度を対照と比較する。
【0046】
上記方法としては、例えばPCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造多型)法(Cloning and polymerase chain reaction-single-strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome 11. Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139-146.、Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single-strand conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products. Oncogene. 1991 Aug 1; 6(8): 1313-1318.、Multiple fluorescence-based PCR-SSCP analysis with postlabeling. 、PCR Methods Appl. 1995 Apr 1; 4(5): 275-282.)が挙げられる。この方法は操作が比較的簡便であり、また被検試料の量も少なくて済む等の利点を有するため、特に多数のDNA試料をスクリーニングするのに好適である。その原理は次の通りである。二本鎖DNA断片を一本鎖に解離すると、各鎖はその塩基配列に依存した独自の高次構造を形成する。この解離したDNA鎖を、変性剤を含まないポリアクリルアミドゲル中で電気泳動すると、それぞれの高次構造の差に応じて、相補的な同じ鎖長の一本鎖DNAが異なる位置に移動する。一塩基の置換によってもこの一本鎖DNAの高次構造は変化し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動において異なる移動度を示す。従って、この移動度の変化を検出することによりDNA断片に点突然変異や欠失、あるいは挿入等による変異が存在することを検出することができる。
【0047】
具体的には、まず、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAをPCR法等によって増幅する。増幅される範囲としては、通常200〜400bp程度の長さが好ましい。PCRは、当業者においては反応条件等を適宜選択して行うことができる。PCRの際に、32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識したプライマーを用いることにより、増幅DNA産物を標識することができる。あるいはPCR反応液に32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を加えてPCRを行うことにより、増幅DNA産物を標識することも可能である。さらに、PCR反応後にクレノウ酵素等を用いて、32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を、増幅DNA断片に付加することによっても標識を行うことができる。こうして得られた標識DNA断片を、熱を加えること等により変性させ、尿素などの変性剤を含まないポリアクリルアミドゲルによって電気泳動を行う。この際、ポリアクリルアミドゲルに適量(5から10%程度)のグリセロールを添加することにより、DNA断片の分離の条件を改善することができる。また、泳動条件は各DNA断片の性質により変動するが、通常、室温(20から25℃)で行い、好ましい分離が得られないときには4から30℃までの温度で最適の移動度を与える温度の検討を行う。電気泳動後、DNA断片の移動度を、X線フィルムを用いたオートラジオグラフィーや、蛍光を検出するスキャナー等で検出し、解析を行う。移動度に差があるバンドが検出された場合、このバンドを直接ゲルから切り出し、PCRによって再度増幅し、それを直接シークエンシングすることにより、変異の存在を確認することができる。また、標識したDNAを使わない場合においても、電気泳動後のゲルをエチジウムブロマイドや銀染色法などによって染色することによって、バンドを検出することができる。
【0048】
さらに別の方法においては、まず、被検イネからDNAを調製する(工程(a))。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNA近傍の塩基配列と相補的なオリゴヌクレオチドに、レポーター蛍光とクエンチャー蛍光の2つを標識したプローブを2種類合成する(工程(b))。次いで、工程(a)で調製したDNAに、工程(b)で合成したプローブをハイブリダイズさせる(工程(c))。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する(工程(d))。次いで、レポーター蛍光の発光を検出する(工程(e))。次いで、工程(e)で検出したレポーター蛍光の発光を対照と比較する(工程(f))。
【0049】
上記方法としては、TaqMan PCR法(SNP遺伝子多型の戦略、松原謙一・榊佳之、中山書店、p94-105、Genet Anal. (1999)14:143-149)等を挙げることができる。具体的には、まず、プローブの5'末端にレポーター蛍光を標識する。本発明において、レポーター蛍光としては、FAMやVICなどが例示できるが、これらに限定されない。さらに、上記プローブの3'末端にクエンチャー蛍光を標識する。本発明において、クエンチャー蛍光としては、レポーター蛍光を消光できる物質であれば特に制限されない。次いで、レポーター蛍光とクエンチャー蛍光を標識したプローブを、調製したDNAにハイブリダイズさせる。通常、ハイブリダイズはストリンジェントな条件下で行う。ストリンジェントな条件とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC 、0.1%SDSの条件であり、さらに好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件であるが、これらの条件に特に制限されない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0050】
次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを、5'ヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いて増幅する。その結果、レポーター蛍光とクエンチャー蛍光を標識したプローブのレポーター蛍光標識部分が切断され、レポーター蛍光が遊離する。本発明において、5'ヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼとしては、好適にはTaqDNAポリメラーゼが例示できるが、これに限定されるものではない。本方法においては、次いで、遊離したレポーター蛍光を検出し、さらに、該レポーター蛍光の発光を対照と比較する。
【0051】
さらに別の方法においては、まず、被検イネからDNAを調製する(工程(a))。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含む3'側塩基配列と相補的な配列、および全く無関係な配列を合わせたプローブを合成する(工程(b))。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位から5'末端側が相補的なプローブを合成する(工程(c))。次いで、工程(c)で合成したプローブと工程(a)で調製したDNAとハイブリダイズさせる(工程(d))。次いで、工程(d)でハイブリダイズしたDNAを一本鎖DNA切断酵素で切断し、工程(b)で合成したプローブの一部を遊離させる(工程(e))。本発明において、一本鎖DNA切断酵素としては、特に制限はなく、例えば下記のcleavaseが例示できる。本方法においては、次いで、工程(e)で遊離したプローブと、検出用プローブとをハイブリダイズさせる(工程(f))。次いで、工程(f)でハイブリダイズしたDNAを酵素的に切断し、その際に発生する蛍光の強度を測定する(工程(g))。次いで、工程(g)で測定した蛍光の強度を対照と比較する(工程(h))。
【0052】
上記方法としては、例えば、Invader法(SNP遺伝子多型の戦略、松原謙一・榊佳之、中山書店、p94-105、Genome Research (2000)10:330-343)等が挙げられる。具体的には、まず、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位から3'側が鋳型と相補的な配列であり、5'側が鋳型配列と無関係な配列(フラップ)を有するプローブ(プローブA)を合成する。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位から5'側が鋳型と相補的な配列を有するプローブ(プローブB)を合成する。プローブBにおいては、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位に対応する塩基は任意でよい。次いで、これらプローブを調製した鋳型DNAにハイブリダイズさせる。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位に対応するプローブBの塩基が侵入することで、5'末端がフラップ状になっている部分を認識して、該部位に対応するプローブAの塩基の3'側を切断するエンドヌクレアーゼ(cleavase)を用いてハイブリダイズしたDNAを切断する。これにより、フラップ部分が遊離する。次いで、遊離したフラップ部分と検出用プローブをハイブリダイズさせる。該検出用プローブは、一般的にfluorescence resonance energy transfer(FRET)プローブとよばれる。該プローブにおいて、5'側は自身で相補的に結合できる。また、3'側はフラップと相補的な配列を有している。また、自身で相補的に結合できる5'側において、5'末端にはレポーター蛍光が標識され、該5'末端の3'側にはクエンチャー蛍光が標識されている。遊離したフラップの3'末端の塩基が、FRETプローブにハイブリダイズする結果、該プローブのレポーター蛍光が標識された相補結合部位に侵入することで、cleavaseが認識する構造が生成される。本方法においては、cleavaseによるレポーター蛍光標識部分の切断によって遊離したレポーター蛍光を検出し、さらに、測定した蛍光の強度を対照と比較する。
【0053】
さらに別の方法においては、まず、被検イネからDNAを調製する(工程(a))。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する(工程(b))。次いで、増幅したDNAを一本鎖に解離させる(工程(c))。次いで、解離させた一本鎖DNAのうち、片鎖のみを分離する(工程(d))。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位の近傍より1塩基ずつ伸長反応を行い、その際に生成されるピロリン酸を酵素的に発光させ、発光の強度を測定する(工程(e))。次いで、工程(e)で測定した蛍光の強度を対照と比較する(工程(f))。このような方法としては、例えば、Pyrosequencing法(Anal. Biochem. (2000)10:103-110)等が挙げられる。
【0054】
さらに別の方法においては、まず、被検イネからDNAを調製する(工程(a))。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する(工程(b))。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位の1塩基隣までの配列に相補的なプライマーを合成する(工程(c))。次いで、蛍光ラベルしたヌクレオチド存在下で、工程(b)で増幅したDNAを鋳型とし、工程(c)で合成したプライマーを用いて一塩基伸長反応を行う(工程(d))。次いで、蛍光の偏光度を測定する(工程(e))。次いで、工程(e)で測定した蛍光の偏光度を対照と比較する(工程(f))。このような方法としては、例えば、Acyclo Prime法(Genome Research (1999)9:492-498)等が挙げられる。
【0055】
Acyclo Prime法では、ゲノム増幅用のプライマー1組と、SNPs検出用の1つのプライマーを用いる。まず、ゲノムのSNPsを含む領域をPCRで増幅する。この工程は、通常のゲノムPCRと同じである。次に、得られたPCR産物に対して、多型検出用のプライマーをアニールさせ、伸長反応を行う。多型検出用のプライマーは、検出対象となっている多型部位に隣接する領域にアニールするようにデザインされている。このとき、通常、伸長反応のためのヌクレオチド基質として、蛍光偏光色素でラベルし、かつ3'-OHをブロックしたヌクレオチド誘導体(ターミネータ)を用いる。その結果、多型部位に相当する位置の塩基に相補的な塩基が1塩基だけ取りこまれて伸長反応が停止する。ヌクレオチド誘導体のプライマーへの取りこみは、分子量の増大による蛍光偏光(Fluorescence polarization;FP)の増加によって検出することができる。蛍光偏光色素に波長の異なる2種類のラベルを用いれば、特定の多型が2種類の塩基のうちのいずれであるのかを特定することができる。蛍光偏光のレベルは定量することができるので、1度の解析でアレルがホモかヘテロかを判定することもできる。本発明の方法における上記工程(A)は、Acyclo Prime法を利用して好適に実施することができる。
【0056】
Acyclo Prime法に使用されるゲノム増幅用プライマー、および多型検出用プライマーは、当業者においては、ゲノム配列および多型部位に関する情報を基に、適宜作製することが可能である。Acyclo Prime法を利用した本発明のイネ品種鑑別方法に使用されるゲノム増幅用プライマー、および多型検出用プライマーとして、例えば、表8および9に記載されたプライマーを挙げることができるが、これらのプライマーに限定されるものではない。
【0057】
【表8】

【0058】
【表9】

【0059】
さらに別の方法においては、まず、被検イネからDNAを調製する(工程(a))。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する(工程(b))。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位の1塩基隣までの配列に相補的なプライマーを合成する(工程(c))。次いで、蛍光ラベルしたヌクレオチド存在下で、工程(b)で増幅したDNAを鋳型とし、工程(c)で合成したプライマーを用いて一塩基伸長反応を行う(工程(d))。次いで、シーケンサーを利用して、工程(d)で反応に使われた塩基種を判定する(工程(e))。次いで、工程(e)で判定された塩基種を対照と比較する(工程(f))。このような方法として、例えば、SNuPe法(Rapid Commun Mass Spectrom. (2000)14:950-959)等が挙げられる。
【0060】
さらに別の方法においては、まず、被検イネからDNAを調製する(工程(a))。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する(工程(b))。次いで、工程(b)で増幅したDNAを質量分析器にかけ、分子量を測定する(工程(c))。次いで、工程(c)で測定した分子量を対照と比較する(工程(d))。このような方法としては、例えば、MALDI-TOF MS法(Trends Biotechnol (2000):18:77-84)等が挙げられる。
【0061】
さらに別の方法においては、まず、被検イネからDNAを調製する(工程(a))。次いで、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAを増幅する(工程(b))。次いで、ヌクレオチドプローブが固定された基板を提供する(工程(c))。
【0062】
本発明において「基板」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な板状の材料を意味する。本発明においてヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。本発明の基板は、ヌクレオチドを固定することが可能であれば特に制限はないが、一般にDNAアレイ技術で使用される基板を好適に用いることができる。一般にDNAアレイは、高密度に基板にプリントされた何千ものヌクレオチドで構成されている。通常これらのDNAは非透過性(non- porous)の基板の表層にプリントされる。基板の表層は、一般的にはガラスであるが、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレンを使用することができる。
【0063】
本発明において、ヌクレオチドの固定(アレイ)方法として、Affymetrix社開発によるオリゴヌクレオチドを基本としたアレイが例示できる。オリゴヌクレオチドのアレイにおいて、オリゴヌクレオチドは通常インサイチュ(in situ)で合成される。例えば、photolithographicの技術(Affymetrix社)、および化学物質を固定させるためのインクジェット(Rosetta Inpharmatics社)技術等によるオリゴヌクレオチドのインサイチュ合成法が既に知られており、いずれの技術も本発明の基板の作製に利用することができる。
【0064】
基板に固定するヌクレオチドプローブは、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位の多型を検出することができるものであれば、特に制限されない。即ち該プローブは、例えば、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAと特異的にハイブリダイズするようなプローブである。特異的なハイブリダイズが可能であれば、ヌクレオチドプローブは、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNAに対し、完全に相補的である必要はない。本発明において基板に結合させるヌクレオチドプローブの長さは、オリゴヌクレオチドを固定する場合は、通常10〜100ベースであり、好ましくは10〜50ベースであり、さらに好ましくは15〜25ベースである。
【0065】
本方法においては、次いで、工程(b)のDNAと工程(c)の基板を接触させる(工程(d))。本工程により、上記ヌクレオチドプローブに対し、DNAをハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの反応液および反応条件は、基板に固定するヌクレオチドプローブの長さ等の諸要因により変動しうるが、一般的に当業者に周知の方法により行うことができる。
【0066】
本方法においては、次いで、該DNAと該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出する(工程(e))。この検出は、例えば、蛍光シグナルをスキャナー等によって読み取ることによって行うことができる。尚、DNAアレイにおいては、一般的にスライドガラスに固定したDNAをプローブといい、一方溶液中のラベルしたDNAをターゲットという。従って、基板に固定された上記ヌクレオチドを、本明細書においてヌクレオチドプローブと記載する。本方法においては、次いで、工程(e)で検出された強度を対照と比較する(工程(f))。
【0067】
このような方法としては、例えば、DNAアレイ法(SNP遺伝子多型の戦略、松原謙一・榊佳之、中山書店、p128-135、Nature Genetics(1999)22:164-167)等が挙げられる。
【0068】
上記の方法以外にも、特定位置の変異のみを検出する目的にはアレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法が利用できる。変異が存在すると考えられる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドを作製し、これとDNAでハイブリダイゼーションを行わせると、変異が存在する場合、ハイブリッド形成の効率が低下する。それをサザンブロット法や、特殊な蛍光試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法等により検出することができる。
【0069】
また本発明は、イネの品種を鑑別するためのプライマーであって、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNA領域を増幅するためのオリゴヌクレオチドを提供する。このようなオリゴヌクレオチドとしては、上記の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を挟むように設計されたオリゴヌクレオチドが挙げられる。PCRプライマーの設計および合成については、一般的に当業者に周知の方法により行うことができる。また、PCRプライマーの長さは、特に制限はないが、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。また本発明は、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位もしくは該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位の1塩基隣までの配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを提供する。該オリゴヌクレオチドは、例えば、Acyclo Prime法を用いる本発明のイネ品種鑑別方法のためのプライマーとして有用である。このようなオリゴヌクレオチドとして、例えば、表8または9に示されるオリゴヌクレオチドを挙げることができる。
【0070】
さらに本発明は、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位もしくは該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNA領域とハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有する、イネ品種鑑別方法のためのオリゴヌクレオチドを提供する。該オリゴヌクレオチドは、例えばプローブとして使用される。
【0071】
該オリゴヌクレオチドは、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNA領域に特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、該オリゴヌクレオチドは、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位を含むDNA領域に対し、完全に相補的である必要はない。該オリゴヌクレオチドの長さは、15ヌクレオチド以上であれば、特に制限はない。該オリゴヌクレオチドは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。また、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。
【0072】
また、該オリゴヌクレオチドは、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、例えば、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いてオリゴヌクレオチドの5'端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、クレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用いてランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法)等を挙げることができる。さらに、上記の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位において、上記(1’)〜(28’)に記載の多型変異を伴う少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドもまた本発明に含まれる。
【0073】
さらに本発明は、本発明の上記オリゴヌクレオチドを含む、イネ品種鑑別用キットを提供する。本発明のキットには、さらに、アルカリ性の水性溶媒を含めることができる。また、対照となる標準イネ試料、キットの使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、配列番号:1で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図2】図2は、配列番号:2で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図3】図3は、配列番号:3で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図4】図4は、配列番号:4で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図5】図5は、配列番号:5で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図6】図6は、配列番号:6で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図7】図7は、配列番号:7で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図8】図8は、配列番号:8で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図9】図9は、配列番号:9で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図10】図10は、配列番号:10で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図11】図11は、配列番号:11で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図12】図12は、配列番号:12で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図13】図13は、配列番号:13で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位を示す図である。
【図14】図14は、配列番号:14で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図15】図15は、配列番号:15で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図16】図16は、配列番号:16で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図17】図17は、配列番号:17で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図18】図18は、配列番号:18で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図19】図19は、配列番号:19で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位を示す図である。
【図20】図20は、配列番号:20で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図21】図21は、配列番号:21で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図22】図22は、配列番号:22で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図23】図23は、図22の続きの図である。
【図24】図24は、配列番号:23で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図25】図25は、配列番号:24で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図26】図26は、配列番号:25で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図27】図27は、配列番号:26で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位を示す図である。
【図28】図28は、配列番号:27で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図29】図29は、配列番号:28で示す塩基配列における、イネ24品種間に見出された多型部位、および該部位を含むDNA領域を増幅するためのプライマー配列を示す図である。
【図30】図30は、精米から抽出したDNAを鋳型としたPCRの結果を示す写真である。精米サンプルは、平成12年産の茨城県産あきたこまちと表示のある市販の米である。使用したPCRプライマーは、PGC1001(U:5'- accgggtagggaaacaaaac -3'/配列番号:113、L:5'- aataatacttcggcgcatcg -3'/配列番号:114)である。以下の方法で抽出したDNAを鋳型としてPCR反応を行い、反応液を1.5%アガロースゲル電気泳動により分離した。 M:分子量マーカー(φX/HaeIII) 1:方法1(CTAB法) 2:方法2(アルカリ+CTAB法) 3:方法3(簡易抽出法) 4:方法4(簡易抽出法+フェノール・クロロホルム処理) 5:方法5(アルカリ+簡易抽出法) 6:方法6(アルカリ+簡易抽出法+フェノール・クロロホルム処理) 7:対照(ハバタキ緑葉よりCTAB法で抽出したDNA、40ng) 8:対照(ササニシキ緑葉よりCTAB法で抽出したDNA、40ng)
【0075】
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0076】
[実施例1] 多型(SNPs)の検出
Rice Genome Research Program のホームページ(http://rgp.dna.affrc.go.jp/)上で公開されているイネゲノム解析情報、およびDDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)に登録されているイネゲノムシーケンスを利用し、イネゲノム塩基配列情報が公開されている染色体領域については、遺伝子が予測されていない領域を中心に、それ以外の領域についてはRFLPマーカープローブのシーケンス等を利用して、ゲノムDNAから800bp〜1kbpを増幅するプライマーを設計した。プライマー設計には、プライマー設計支援サイトPrimer3(http://www-genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3_www.cgi)を利用した。
【0077】
設計したプライマーをもちいてまず日本晴・コシヒカリ・カサラス・廣陸矮4号(以下G4)、キタアケ、および野生イネ(Oryza rufipogon, W1943)の簡易抽出DNAを鋳型としてAmpli Taq Gold(Applied Biosystems)でPCR増幅を行った。反応液の一部を用いてアガロースゲル電気泳動を行い増幅断片を確認した後、残りの反応液をExoSAP-IT (Amersham Biosciences)処理して未反応のプライマーとdNTPを取り除き、シークエンス反応の鋳型とした。この鋳型に対して、最初の増幅に用いたプライマーの片方を再度添加し、DYEnamic ET Dye TerminatorCycle Sequencing kit for MegaBACE (Amersham Biosciences)を用いてサイクルシークエンスを行い、シーケンス用サンプルを作成した。シークエンスはMegaBACE 1000 DNA Sequencing System(Molecular Dymnamics)を用いて行った。得られたシークエンスデータを品種ごとに比較し、一塩基置換多型を検索した。同一品種、同一プライマーに対し少なくとも2回のシークエンスを行い、確実であるもののみを多型と判定した。
【0078】
日本晴・コシヒカリ間および日本晴・キタアケ間で多型の見られた部位について、日本晴・ハツシモ・むつほまれ・ゆきの精・きらら397・つがるロマン・五百万石・森のくまさん・ゆめあかり・ハナエチゼン・コシヒカリ・月の光・あきたこまち・朝の光・あいちのかおり・祭り晴・ヒノヒカリ・夢つくし・ひとめぼれ・まなむすめ・ふさおとめ・どんとこい・キヌヒカリ・ササニシキの簡易抽出ゲノムDNAを鋳型とし、同様にPCR反応とシーケンシングを行い、多型部位の塩基を品種毎に比較した。上記イネ24品種間に見出された多型を図1〜28に示す。多型データは以下のような規則に従って記載した。
【0079】
《データ記載様式》
1. プライマー部位にカッコで印をつけ、Upper primer siteには"p:"、Lower primer siteには"q:"を付け加えた。
例: actctactta a[p:gcagagcga tgaacctgca] atattgagaa
aactc [q:aatcacgccc atccttgcct]
2. SNPs部位にはカッコと識別番号をつけた。
例: cg[1a]agag[2aa]cttc[3a[4c4]cattt gggg[5c5]acac3]c
※基本的に、識別番号は始めのカッコと終わりのカッコの両方につけた。
ただし、明らかにカッコの対応がわかる場合は、終わりカッコの識別番号は省略する場合あり。
3. 貼り付けた配列の下に、解析した品種コードを書き込んだ。
品種コードの区切りには、"/"を使った。
例: nhb/ksh/kal/gla/pw1/kta
《品種コード》 上述の各イネ品種のアルファベット3文字からなる略称にて記載した。例えば、日本晴は「nhb」、コシヒカリは「ksh」等。
4. 品種情報の下に、SNPs情報を書き込んだ。
書き方は、「識別番号 品種コード:SNPs」
例:1 ksh:g
《その他の例》
5. 欠失は"-"で表した。欠失している塩基の長さに関わらず、"-"は1つとした。
例:g[5agg]ggtcat ctgttacatt atag
5kal:-
6. 欠失が同じ場所にあるが、品種によってその長さが違う場合。
例:gtttg[20a:gtat[20b:t ccattatgta ttatttcatt tgct20b]t20a]ttatg
20akal:-、20bgla:-
欠失の場所が同じなので、同じ識別番号を使った。ただし、品種による欠失の長さの違いを明確にするため、"20a:","20b:"のようにアルファベットで区別した。
7. 挿入の場合は、公開シーケンスに"-"を挿入する。"-"は1つとした。
例:tacaca[7-]gtca attttattca
7kal:aa
【0080】
次いで、品種鑑別に有用なSNPsについて、SNPs検出用プライマーを設計し、AcycloPrime-FPキット(Perkin Elmer)を用いて一塩基ターミネータ反応を行い、ジェノタイピング用サンプルを作成した。ジェノタイピングはARVO(Perkin Elmer)で蛍光偏光度を測定して行った。
【0081】
その結果、シークエンスでSNPsと判定した箇所について作成したマーカーは、それぞれ異なったパターンを示し、組み合わせによってさまざまに分類できることが示された(表2〜7)。作成したSNPマーカーについて、プライマー配列、利用したSNP部位等の情報を表8および9に示す。
【0082】
[実施例2] 精米、玄米および米飯からのDNA抽出法の検討
精米、玄米および米飯からのDNA抽出法を検討した。まず、2mlチューブ(エッペンドルフ)に精米、玄米および米飯を1粒、抽出バッファー(1M KCl、10mM Tris-HCl、1mM EDTA、0.1N NaOH)0.4ml、3mm径のジルコニア製ボールを入れてふたをし、4℃で30分静置後、Retch社製粉砕装置ミキサーミルMM300を用いて、300Hz×2分×2回粉砕し、ミルク状の液体を得た。これを10000rpm×10分遠心分離し、上澄み0.3mlを別のチューブに移した。これにイソプロパノ-ル0.3mlを加えてよく混合し、再度10000rpm×10分遠心分離した。上清を捨て、沈殿に70%エタノール1mlを加え、10000rpm×3分遠心分離した。上清を捨て、沈殿を乾燥して30μlの滅菌水に溶解した(方法5)。
【0083】
また別法として、方法5で別のチューブに0.3mlの上澄みを移した後にフェノール・クロロホルム(1:1)0.3mlを加えてよく混合後、10000rpm×10分遠心分離し、上清を別のチューブに移してからイソプロパノ-ル沈殿に進む方法も行った(方法6)。
【0084】
また別法として、方法5、6で最初に用いるバッファーの組成を1M KCl、10mM Tris-HCl、1mM EDTAとする方法も行った(それぞれ方法3、方法4)。
【0085】
また別法として、CTAB法による抽出も行った。具体的には、2mlチューブに精米一粒と0.2mlCTABバッファー(方法1)または0.2 ml 0.1N NaOH(方法2)、3mm径ジルコニア製ボールを入れてふたをし、方法5と同じ条件で粉砕する。これに0.7mlCTABバッファーを加え56℃で20分熱処理する。640μlのフェノール・クロロホルム(1:1)を加えて混合し、10000rpm×10分遠心分離し、上清0.7mlを別のチューブに移した。1.3mlCTAB沈殿バッファーを加え、10000rpm×10分遠心分離し、沈殿にRNaseを含む0.5ml 1N NaClを加えて溶解後、1mlエタノールを加えて混合し、10000rpm×10分遠心分離した。沈殿を1mlの70%エタノールで洗浄し、沈殿を乾燥して30μlの滅菌水に溶解した。
【0086】
以上の方法により得られたDNAを鋳型として、プライマーPGC1001(配列U:5'- accgggtagggaaacaaaac -3'/配列番号:113、L:5'- aataatacttcggcgcatcg -3'/配列番号:114)を用いてPCR反応を行った。
【0087】
その結果を図30に示す。方法1、2で抽出した精米のDNAではPCR増幅が見られなかったが、方法3〜6においては良好に増幅していることが確認できた。これにより、精米からのDNA抽出においてはフェノール・クロロホルム処理が必要ないことがわかり、方法3または方法5が最も簡便な方法であることが示された。方法3と方法5の違いは、方法5では粉砕時に加えるバッファーがアルカリ性である。バッファーをアルカリ性にすることにより、精米の組織が急速にもろくなり、十分な粉砕が行いやすくなる利点がある。以上の結果から、方法5が最も簡便で効率がよいと判断した。
【0088】
玄米および米飯においては、方法1、2で抽出したDNAではPCR増幅が見られず、方法3〜6において増幅が認められたが、方法6により抽出したDNAが最も良好に増幅するのが確認された。これにより、玄米および米飯からのDNA抽出においては、アルカリ性のバッファーを用い、フェノール・クロロホルム処理を行なう方法が最も有効であることが示された。
【0089】
[実施例3] 精米の品種鑑別
「平成12年産・茨城県産「あきたこまち」100%」と表示されて市販されている精米を購入し、32粒をランダムに選び、方法5を用いて1粒ずつ別々にDNAを抽出した。あきたこまちを他の25品種と識別するのに必要十分な3マーカー(S0115、S0146、S0178)のプライマーを使用し、抽出したDNAを鋳型としてPCR反応を行った。また、PCR産物を鋳型としてアシクロプライム反応を行い、多型(SNP)を判定した。
【0090】
その結果、27粒はあきたこまちと判定されたが、3粒はあきたこまち以外の品種であることがわかった。2粒については3つのマーカーのうち1つでデータが取れなかったため、判定できなかった。あきたこまち以外と判定された3粒については、そのパターンから「きらら397」「こしひかり」「夢つくし」「キヌヒカリ」のいずれかであると推定された。
以上の結果より、本発明が精米の品種鑑別に利用可能であることが実証された。
【0091】
[実施例4] 精米の品種特定
[実施例3]において、あきたこまち以外と判定された3粒について、「きらら397」「こしひかり」「夢つくし」「キヌヒカリ」のいずれであるかを判定するため、これら3品種を判別するのに必要十分な2マーカー(S0015、S0045)のプライマーを使用し、抽出したDNAを鋳型としてPCR反応を行なった。またPCR産物を鋳型としてアシクロプライム反応を行い、多型(SNP)を判定した。
【0092】
その結果、あきたこまち以外と判定された3粒は全て「こしひかり」と同じパターンを示した。このことから、[実施例3]で使用した精米には、あきたこまち以外に「こしひかり」が含まれている可能性が高いと推定された。
【0093】
[実施例5] 精米のブレンド率調査
「きらら397 30%・つがるロマン 40%・ひとめぼれ 30%」と表示された精米について、3品種が表示通りにブレンドされているかを調査した。精米から32粒をランダムに選び、方法5を用いて1粒ずつ別々にDNAを抽出した。鑑別可能な26品種のうち、「きらら397」「つがるロマン」「ひとめぼれ」をそれぞれ識別するのに必要十分な7マーカー(S0115, S0135, S0161, S0252, S0310, S0336, S0375)のプライマーを使用し、抽出したDNAを鋳型としてPCR反応を行なった。また、PCR産物を鋳型としてアシクロプライム反応を行い、多型(SNP)を判定した。
【0094】
その結果、7粒はきらら397、11粒はつがるロマン、5粒はひとめぼれと判定されたが、2粒は3品種のいずれでもないことがわかった。7粒については7つのマーカーのうちデータがとれなかったものが存在したため、判定できなかった。データが取れた25粒における3品種の配分から、調査した精米のブレンド率は、きらら397が28%、つがるロマンが44%、ひとめぼれが20%、それ以外の品種が4%であると推定された。
【0095】
産業上の利用の可能性
本発明により、イネの品種鑑別方法が提供された。従来の栽培特性による鑑別では、熟練した育種家の目が必要なため、容易に鑑別することが困難であり、さらに、一粒一粒の米を鑑別することは不可能であったのに対し、本発明の方法は、イネのゲノム上の多型を調べるため、微量のイネ検体で正確な品種鑑別を行うことが可能である。また、本発明の方法は、近縁品種間における品種鑑別も正確に行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネの品種を鑑別するためのプライマーであって、
(a)配列番号:29〜112のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、または
(b)イネゲノムにおける請求項1に記載の(1)〜(28)のいずれかに記載の部位、または該部位における塩基と塩基対をなす相補鎖における塩基部位の1塩基隣までの配列に相補的な塩基配列を有する、15〜25ベースからなるオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1に記載のオリゴヌクレオチドを含む、イネ品種鑑別用キット。
【請求項3】
さらに、アルカリ性の水性溶媒を含む、請求項2に記載のイネ品種鑑別用キット。
【請求項4】
請求項1に記載のオリゴヌクレオチドを成分とするイネ品種鑑別用試薬であって、鑑別の対象となるイネ品種が日本晴、ハツシモ、むつほまれ、ゆきの精、きらら397、つがるロマン、五百万石、森のくまさん、ゆめあかり、ハナエチゼン、コシヒカリ、月の光、あきたこまち、朝の光、あいちのかおり、祭り晴、ヒノヒカリ、ひとめぼれ、まなむすめ、ふさおとめ、どんとこい、ササニシキ、アケボノ、およびゴロピカリからなる群より選択される品種であることを特徴とする試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2009−219498(P2009−219498A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127439(P2009−127439)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【分割の表示】特願2004−511550(P2004−511550)の分割
【原出願日】平成15年6月10日(2003.6.10)
【出願人】(500301371)株式会社植物ゲノムセンター (16)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】