イノシトールトリピロリン酸を使用して多剤耐性を低減する方法
イノシトール三リン酸(ITPP)は腫瘍血管系の正常化を生じさせ、及び部分的血管新生後に第2の化学療法剤を投与するとき、癌治療に特に有効である。ITPPはまた、単独で、又は組み合わせで、多剤耐性癌も治療する。またITPPを使用して、第2の化学療法薬の抗癌活性に必要な量を低減することもできる。さらに、ITPPは免疫応答を促進し、過剰増殖性障害を治療する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年7月7日に出願された米国仮特許出願第61/223,583号の利益を主張し、その教示は全体として参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
癌は、先進国世界における主な死亡原因のうちの一つであり、米国だけでもその死者は毎年50万人を超える。米国では毎年100万人超が癌と診断され、総じて一生涯のうちに何らかの形の癌を発症する人は3人に1人より多いと推定される。癌死亡率の85%超を固形腫瘍が占める。
【0003】
血管形成は、数多くの異なるタイプの癌と関連付けられている。血管形成は血管形成刺激因子及び阻害因子の高度に制御された系によって調節される。特定の疾患状態では血管形成の調節が変化し、多くの場合、疾患に付随する病理学的な損傷は、調節されない血管形成に関連する。調節される血管形成及び調節されない血管形成の双方とも、同様の方法で進行すると考えられている。基底膜に取り囲まれている内皮細胞及び周皮細胞が毛細血管を形成する。血管形成は、内皮細胞及び白血球が放出する酵素による基底膜の浸食から始まる。血管管腔の内側を覆う内皮細胞は、次に基底膜から突き出る。内皮細胞が血管形成刺激物質により誘導され、浸食された基底膜を通って遊走する。遊走細胞は親血管から分かれ出て「出芽」を形成し、ここで内皮細胞は有糸分裂を受けて増殖する。内皮細胞出芽は互いに合流して毛細血管ループを形成し、新しい血管を作り出す。
【0004】
多くの疾患状態、腫瘍転移、及び内皮細胞による異常成長では、持続的な制御されない血管形成が起こる。制御されない血管形成が存在する種々の病理学的疾患状態は、血管形成依存性疾患又は血管形成関連疾患として分類されている。
【0005】
腫瘍成長が血管形成依存性であるという仮説は、1971年に初めて提唱された。簡潔に言えば、この仮説は「腫瘍の「取り込み(take)」が起こると、腫瘍細胞集団が増加するごとに先行して腫瘍に集中した新しい毛細血管が増加しなければならない」と述べる。腫瘍「取り込み」は、現在のところ、数立方ミリメートルの容積を占め、且つ数百万細胞以下の腫瘍細胞の集団が既存の宿主微小血管で生き残ることができる腫瘍成長の前血管段階を示すものと理解されている。この段階を越えて腫瘍容積が拡大するには新毛細血管の誘導が必要となる。例えば、マウスにおける初期前血管段階の肺微小転移は、組織切片の高倍率顕微鏡検査による以外は検出不能と思われる。
【0006】
血管形成は、固形腫瘍及び血液系腫瘍を含む数多くの異なるタイプの癌と関連付けられている。血管形成が関連付けられている固形腫瘍としては、限定はされないが、横紋筋肉腫、網膜芽細胞腫、ユーイング肉腫、神経芽細胞腫、及び骨肉腫が含まれる。血管形成はまた、血液系腫瘍、例えば白血病など、白血球細胞の抑制のない増殖が起こり、通常は貧血症、血液凝固能の低下、並びにリンパ節、肝臓及び脾臓の腫脹を伴う骨髄の様々な急性又は慢性新生物疾患の任意のものとも関連付けられる。血管形成は、白血病腫瘍及び多発性骨髄腫疾患を引き起こす骨髄の異常において役割を果たすと考えられている。
【0007】
上述のとおり、いくつかの種類の証拠から、血管形成が固形腫瘍の成長及び持続並びにその転移に不可欠であることが示される。血管形成が刺激されると、腫瘍は、線維芽細胞成長因子(aFGF及びbFGF)及び血管内皮成長因子/血管透過性因子(VEGF/VPF)を含めた様々な血管形成因子の産生をアップレギュレーションする。
【0008】
血管形成の制御におけるVEGFの役割は、重点的な研究対象となっている。VEGFは生理学的血管形成における決定的な律速段階を表すが、腫瘍成長に関連する血管形成などの病理学的血管形成においても重要であるものと思われる。VEGFは、血管漏出を生じさせる能力に基づき血管透過性因子としても知られる。いくつかの固形腫瘍は有り余る量のVEGFを産生し、それが内皮細胞の増殖及び遊走を刺激して、それにより新血管新生が誘導される。VEGF発現は種々のヒト癌の予後に大きい影響を与えることが示されている。VEGF遺伝子の発現の制御には腫瘍の酸素張力が重要な役割を担う。VEGF mRNAの発現は、様々な病態生理学的状況下で低酸素張力に曝露されることで誘導される。
【0009】
成長する腫瘍は低酸素により特徴付けられ、低酸素はVEGFの発現を誘導し、転移性疾患の発生の予測因子ともなり得る。また、通常の血管と異なり、腫瘍血管系は異常な組織化、構造、及び機能を有することも認識されている。腫瘍血管はまた漏出性が高いことも認められ、血流が不均一で、多くの場合に低下する。
【0010】
癌細胞が成長及び転移するには血管を利用できる必要があるため、血管形成の阻害は癌及び腫瘍の治療に希望を与えるものと考えられる。しかしながら、現在まで抗血管形成戦略が探求されてきたものの、薬剤耐性を有する極めて侵攻性の高い転移性癌細胞の選択が起こるため、継続的な治療利益は提供されていない。腫瘍血管新生を破壊するそのような抗血管形成治療薬は、ある場合には転移性浸潤を促進させることが認められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、腫瘍血管系を制御することのできる実質的に非毒性の組成物及び方法が必要とされている。また、改良された癌治療も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施例に提供するデータは、化学療法と組み合わせた血管正常化が潜在的に有益な癌治療手法であることを示す。ヘモグロビンのアロステリックエフェクターであるイノシトール三リン酸(ITPP)は酸素放出を促進し、低酸素の作用に拮抗し、及びインビトロで血管形成を阻害する。マウスモデルでは、マウスメラノーマ細胞を静脈注射することにより誘導した肺転移が赤血球中ITPP(ITPP−RBC)により低減する。ITPPは、化学療法剤のシスプラチン及びパクリタキセルを伴うと、原発性メラノーマの成長及び肺転移を阻害した。膵臓腺癌のラットモデルでは、ITPPはゲムシタビンとの併用で被験動物の生存率の大幅な上昇を引き起こし、強力な相加作用を示した。ITPPは、腫瘍へのマクロファージ及びナチュラルキラー細胞の浸潤も大幅に促進する。
【0013】
本発明は、癌の治療方法であって、その必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程と;腫瘍における部分的血管正常化後に対象に治療有効量の化学療法剤を投与する工程とを含む方法を提供する。
【0014】
一態様において、本発明は、イノシトールトリスピロリン酸(ITPP)と、パクリタキセル、シスプラチン及びゲムシタビンから選択されるものなどの化学療法剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0015】
別の態様において、本発明は、対象において癌を治療するための治療レジメンであって、治療有効量のITPPと、パクリタキセル、シスプラチン及びゲムシタビンから選択されるものなどの化学療法剤とを同時に又は逐次的に投与する工程を含む治療レジメンを提供する。
【0016】
別の態様において、本発明は、ITPPと治療量以下の化学療法剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0017】
さらに別の態様において、本発明は、対象において癌を治療するための治療レジメン又は方法であって、治療有効量のITPPと治療量以下の化学療法剤とを同時に又は逐次的に投与する工程を含む治療レジメン又は方法を提供する。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、治療有効量のITPPを投与することによる、1つ又は複数の化学療法剤に耐性を有する癌の治療方法を提供する。特定の実施形態において、癌はパクリタキセル及び/又はシスプラチンに耐性を有する。
【0019】
本発明はまた、必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程を含む過剰増殖性病態の治療方法も提供し、該過剰増殖性病態は癌ではなく、又は望ましくない血管形成により特徴付けられるものではない。
【0020】
本発明はさらに、必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程を含む対象における免疫応答の促進方法を提供し、該対象は癌又は別の腫瘍に罹患していない。
【0021】
さらに、本発明は、医学における本明細書に記載される組成物の使用、及び本明細書に記載される病態の治療用薬剤の製造における本明細書に記載される組成物の使用を含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】発症させた皮下メラノーマ腫瘍におけるITPP−赤血球(RBC)により誘導された選択的酸素圧上昇を示す。(A)14日前に移植した未処置腫瘍と、12日目及び13日目にITPPで処置した同じ腫瘍との比較。ITPP注射24時間後のpO2レベルに留意されたい。(B)ITPPの腹腔内注射前及び注射後の皮下移植腫瘍におけるpO2の経時記録。処置30分後の酸素圧上昇に留意されたい。(C)ITPPは筋肉内pO2には影響を及ぼさない。ITPPの腹腔内注射により低酸素性皮下腫瘍におけるpO2(下側の曲線)は上昇するが、健常な筋肉におけるpO2(上側の曲線)は影響を示さない。データは群当たり10匹のマウスで実施した10例の実験うちの代表的な1つによるもの。
【図2】ITPP−RBCによる酸素供給が実験的メラノーマモデルにおいて肺転移を阻害し、低酸素により誘導された遺伝子カスケードを逆転させることを示す。メラノーマ接種後27日目における健常対照(白色)と比較したメラノーマを有する未処置マウス(灰色)及びITPP処置マウス(黒色)の肺溶解物中のタンパク質及び酵素活性の計測値:(A)ルシフェラーゼアッセイによる肺転移定量、(B)HIF−1α発現;(C)VEGF発現、(D)Tie−2、及び(E)HO−1発現、メラノーマ細胞注射後19日目のELISAにより評価。(F)mRNA LOX含量、評価。データは5例の実験のうちの代表的な1つによる群当たり8〜10匹の別個のマウスから計算した平均値である。
【図3】皮下メラノーマを有するマウスにおいてITPP処置スケジュールが抗転移活性、血管正常化、及び多剤耐性細胞レベルの低減に影響を及ぼし得ることを示す。(A)20日目、21日目における薬物適用前のITPP処置の開始時期及び処置期間の効果。7日目に開始した場合ITPPにより転移が減少し、それより後になると効果が少なくなり、慢性処置時は転移が増加する。ルシフェラーゼ分析は25日目であった。データは10例の実験のうちの代表的な1つによる群当たり10匹の別個のマウスから計算した平均値である。(B)以下によって20日目に評価した腫瘍血管正常化に対するITPP処置の効果:(a)ITPP処置マウスと比較した、皮下未処置腫瘍における血管構造の磁気共鳴イメージング。無処置腫瘍の組織化されていない不連続な血管(矢印)と比較して、ITPP処置(9日目、14日目、18日目、19日目)後の十分に組織化された血管系(矢印)に留意されたい。(b)対象と比較した、正常化した血管の周囲の周皮細胞の抗SMA抗体による免疫染色。
【図4】低酸素時及び再酸素化時におけるマウスメラノーマ細胞及び肺内皮のマウスのインビトロでの化学感受性を示す。化学療法薬:(A)パクリタキセル;(B)シスプラチンに対するメラノーマ細胞の感受性は低酸素により打ち消される。これは細胞を再酸素化すると戻る。(C)シスプラチンに対する内皮細胞感受性の評価。
【図5】腫瘍酸素化及び血管正常化によりメラノーマにおける化学療法が向上することを示す。(A)ITPP、パクリタキセル及びシスプラチンの組み合わせにより、処置を経るに従い転移が減少する。薬物を再注射(20日目及び21日目)する前にITPPを再注射すると(18日目、19日目)、肺転移の根絶が達成された。(a)=未処置;(b)=ITPP 7日目、12日目、16日目;(c)=「b」+薬物 7日目、12日目、16日目;(d)=「c」+ITPP 18日目、19日目+薬物 20日目、21日目;(e)=ITPP 9日目、14日目;(f)=「e」+薬物 9日目、14日目;(g)=「f」+ITPP 18日目、19日目+薬物 20日目、21日目;(h)=ITPP 11、16;(i)=「h」+薬物 11日目、16日目;(j)=「i」+ITPP 18日目、19日目+薬物 20日目、21日目。ルシフェラーゼ活性は25日目に分析した。データは10例の実験のうちの代表的な1つによる群当たり10匹の別個のマウスから計算した平均値である。(B)ITPPにより誘導される正常化の薬物化学治療活性に対するメトロノーム併用効果。2群のマウスをITPPにより、9日目、14日目又は9日目、14日目、18日目、19日目のいずれかに処置した。20日目、21日目に、2群のITPP処置マウスにパクリタキセル及びシスプラチンを投与した。25日目に腫瘍を染色した。(a)a2及びa3におけるITPP及び薬物処置マウスと比較した、無処置腫瘍における(a1)CD31による血管の免疫染色 CD31+染色は壊死部分に対応する。(b)(a)のように処置したマウスの腫瘍のヘマトキシリン−エオシン染色。処置後の腫瘍の有効な壊死性破壊(a3、b3)に留意されたい。データは群当たり10匹のマウスに対して行われた実験についての代表である。
【図6】ゲムシタビン処置単独及びプラセボの効果と比較した、膵腫瘍ラットの生存に対するITPP処置の効果を示す。ITPP処置群では、膵腫瘍ラットを14日目から49日目までの期間にわたり週1回ITPP(1.5mg/kg)で処置した。ゲムシタビン処置群では、膵腫瘍ラットを16日目、18日目、及び20日目にゲムシタビン(100mg/kg)で処置した。対照群の動物は処置しなかった。
【図7】ゲムシタビン処置単独及びプラセボの効果と比較した、ヘキサナトリウムミオイノシトールトリスピロリン酸(OXY111A)をゲムシタビンと併用した膵腫瘍ラットの生存に対する効果を示す。併用処置群では、膵腫瘍ラットを14日目から49日目までの期間にわたり週1回、ゲムシタビン(25mg/kg又は50mg/kg)と組み合わせたITPP(1.5mg/kg)で処置した。ゲムシタビン処置群では、膵腫瘍ラットを16日目、18日目及び20日目にゲムシタビン(100mg/kg)で処置した。対照群の動物は処置しなかった。
【図8】ゲムシタビン処置単独及びプラセボの効果と比較した、ヒトPanc−1膵腫瘍異種移植ヌードマウスの生存に対するITPP処置の効果を示す。ITPP処置群では、腫瘍異種移植マウスを14日目から49日目までの期間にわたり週1回ITPP(2mg/kg)で処置した。ゲムシタビン処置群では、腫瘍異種移植マウスを16日目、18日目及び20日目にゲムシタビン(100mg/kg)で処置した。対照群の動物は処置しなかった。
【図9】ゲムシタビン処置単独及びプラセボの効果と比較した、ITPPをゲムシタビンと併用したヒトPanc−1膵腫瘍異種移植ヌードマウスの生存に対する効果を示す。併用処置群では、腫瘍異種移植マウスを14日目から49日目までの期間にわたり週1回、ゲムシタビン(25mg/kg又は50mg/kg)と組み合わせたITPP(2mg/kg)で処置した。ゲムシタビン処置群では、腫瘍異種移植マウスを16日目、18日目及び20日目にゲムシタビン(100mg/kg)で処置した。対照群の動物は処置しなかった。
【図10】ゲムシタビン処置単独及びプラセボの効果と比較した、膵腫瘍ラットにおけるHIF−1a、VEGF、カスパーゼ−3及びβ−アクチンの発現に対するITPP処置の効果を示す。
【図11】B16腫瘍へのCD68(M2型)マクロファージ浸潤に対するITPP処置の効果を示す。7日目、8日目、14日目、15日目、21日目、22日目、29日目及び30日目にOXY111Aを腹腔内注射した。31日目にB16腫瘍の分析を実施した。(a)未処置B16腫瘍;(b)及び(c)ITPP処置腫瘍のCD68染色はB16腫瘍へのCD68(M2型)マクロファージ浸潤を示す。
【図12】CD49bナチュラルキラー(NK)細胞の浸潤及びB16腫瘍中のCD31内皮(EC)細胞の存在に対するITPP処置の効果を示す。(a)〜(c)未処置B16腫瘍;(d)〜(f)ITPPで処置したB16腫瘍。緑色の矢印は浸潤しているNK細胞を示す;赤色の矢印は血管壁を示す。
【図13】メラノーマB16腫瘍のNK細胞浸潤に対するITPP処置の効果を示す。B16腫瘍細胞はB16F10DAPIと命名した;NK細胞は抗CD49bFITC1と命名した;及び血管内皮細胞は抗CD31TRITCと命名した。(a)未処置B16腫瘍;(b)及び(c)ITPPで処置したB16腫瘍。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)本発明の組成物
本発明において有用な組成物は、イノシトールトリスピロリン酸(ITPP)の酸及び塩を含む;ITPPは本明細書では陰イオンとして認識される。用語イノシトールトリスピロリン酸は、イノシトール六リン酸トリスピロリン酸としても知られ、3個の内部ピロリン酸環を含むイノシトール六リン酸を指す。ITPPのカウンターパート種は本明細書では対イオンと称し、ITPPの対イオンとの組み合わせを本明細書では酸又は塩と称する。本発明は、純粋なイオン性である対に限定されるものではない。実際、当該技術分野では、対を生成するイオンはしばしば、対の2つの成分間にある程度の共有結合又は配位結合の特徴を示すことが知られている。本発明の組成物のITPP酸及び塩は単一の種類の対イオンを含んでもよく、又は混成の対イオンを含有してもよく、及び任意選択によりITPPがその一つである陰イオンの混合物を含有してもよい。組成物は、任意選択により、クラウンエーテル、クリプタンド、及び対イオンのキレート化又は他の錯化能を有するその他の種を含んでもよい。組成物は同様に、任意選択により、酸性大員環、又は水素結合若しくは他の分子引力を介してITPPの錯化能を有するその他の種を含んでもよい。ITPPの酸及び塩の作製方法は、Nicolau et al.に対し発行された米国特許第7,084,115号(この内容全体は参照により本明細書に援用される)に記載される。
【0024】
本発明における使用が企図される対イオンとしては、限定はされないが、以下のものが含まれる:プロトンならびに重水素及びトリチウムの対応するイオンを含む陽イオン性水素種;リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及び銅(I)を含む一価の無機陽イオン;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、マンガン(II)、亜鉛(II)、銅(II)及び鉄(II)を含む二価の無機陽イオン;鉄(III)を含む多価の無機陽イオン;アンモニウム、シクロヘプチルアンモニウム、シクロオクチルアンモニウム、N,N−ジメチルシクロヘキシルアンモニウム、及び他の有機アンモニウム陽イオンを含む四級窒素種;トリエチルスルホニウム及び他の有機スルホニウム化合物を含むスルホニウム種;ピリジニウム、ピペリジニウム、ピペラジニウム、キヌクリジニウム、ピロリウム、トリピペラジニウム、及び他の有機陽イオンを含む有機陽イオン;オリゴマー、ポリマー、ペプチド、タンパク質、正電荷イオノマー、及びポリマーのペンダント基、鎖末端、及び/又は骨格にスルホニウム、四級窒素、及び/又は荷電有機金属種を有する他の高分子種を含むポリマー性陽イオン。例示的なITPP塩は、ITPPの一カルシウム四ナトリウム塩、又は15〜25mol%のカルシウムと75〜85mol%のナトリウムとを含有するITPPナトリウムとITPPカルシウムとの混合物である。
【0025】
本発明で用いられるITPPの好ましい異性体は、シス−1,2,3,5−トランス−4,6−シクロヘキサンヘキシルであるミオイノシトールである;しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。従って、本発明は、天然に存在するシロ−、カイロ−、ムコ−、及びネオ−イノシトール異性体のそれぞれのトリピロリン酸、並びにアロ−、エピ−、及びシス−イノシトール異性体のものを含む、ITPPの任意のイノシトール異性体の使用を企図する。
【0026】
ITPPは、エステルの酵素切断によるか、又はトリルスルホニル基などの脱離基の置換によるなどしてプロドラッグからインビボで形成され得ることが企図される。
【0027】
ITPPは、抗血管形成特性及び抗腫瘍特性を呈し、血管形成又は増殖に関連する事象、病態又は物質の調節に有用である。本明細書で使用されるとき、血管形成又は増殖に関連する事象、病態、又は物質の調節とは、任意の種類の因子、病態、活性、指標、化学物質、又は化学物質、mRNA、受容体、マーカー、メディエーター、タンパク質、若しくは転写活性などの組み合わせにおける任意の定性的又は定量的な変化であって、血管形成又は増殖に関連し得るか又は関連すると考えられ、及び本発明の組成物の投与によりもたらされる変化を指す。
【0028】
ITPPはまた、腫瘍微小環境のpO2を促進し、転移及び新生物性の血管新生を阻害する。低酸素性腫瘍細胞は、多くの場合に浸潤性がより高く、且つアポトーシス耐性を有する細胞であり、従来の化学療法に耐性を有する傾向がある。従って、特定の実施形態では、化学療法剤による治療の効力をITPPとの併用治療により増加させる。さらに、いくつかの態様では、ITPP治療が腫瘍微小血管の「正常化(normalization)」を誘導する。
【0029】
ITPPはさらに、腫瘍における薬物排出ポンプの数を減少させ、従って特定の実施形態において、1つ又は複数の化学療法剤に耐性を有する癌を治療し、及び/又は腫瘍細胞に対する化学療法剤の効力を増加させる。
【0030】
本発明は、ITPPと化学療法剤とを含む新規医薬組成物を提供する。本発明に好適な化学療法剤としては、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナストロゾール、アスパラギナーゼ、bcg、ビカルタミド、ブレオマイシン、ブセレリン、ブスルファン、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロドロネート、コルヒチン、シクロホスファミド、シプロテロン、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ジエネストロール、ジエチルスチルベストロール、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エストラジオール、エストラムスチン、エトポシド、エキセメスタン、フィルグラスチム、フルダラビン、フルドロコルチゾン、フルオロウラシル、フルオキシメステロン、フルタミド、ゲムシタビン、ゲニステイン、ゴセレリン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、インターフェロン、イリノテカン、イロノテカン、レトロゾール、ロイコボリン、ロイプロリド、レバミゾール、ロムスチン、メクロレタミン、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、ニルタミド、ノコダゾール、オクトレオチド、オキサリプラチン、パクリタキセル、パミドロネート、ペントスタチン、プリカマイシン、ポルフィマー、プロカルバジン、ラルチトレキセド、リツキシマブ、ストレプトゾシン、スラミン、タモキシフェン、テモゾロミド、テニポシド、テストステロン、チオグアニン、チオテパ、チタノセンジクロリド、トポテカン、トラスツズマブ、トレチノイン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、及びビノレルビンが含まれる。
【0031】
一実施形態において、化学療法剤はパクリタキセルなどの微小管標的薬剤である。別の実施形態において、化学療法剤は白金系薬剤(例えば、シスプラチン)又はドキソルビシンなどのDNA挿入剤である。さらなる実施形態において、化学療法剤はゲムシタビン又はカペシタビンなどのヌクレオシド代謝阻害薬である。
【0032】
特定の実施形態において、組成物の化学療法剤は治療用量以下又は治療量以下である。用語「治療用量以下又は治療量以下」は、単独の物質として治療効果を実現するために投与が必要な薬理活性物質の用量又は量を下回る当該物質の用量又は量を意味する。そのような物質の治療用量以下とは、治療される対象及び疾患状態、対象の体重及び年齢、疾患状態の重症度、投与方法などに応じて異なってもよく、当業者により容易に決定され得る。一実施形態において、治療用量以下又は治療量以下の化学療法剤は、化学療法剤の認可されている総用量、例えばその化学療法剤についてのU.S. Food & Drug Administration承認済みラベル情報に提供される用量の90%未満である。他の実施形態において、治療用量以下又は治療量以下の化学療法剤は認可されている総用量の80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%又はさらには10%未満、例えば、20%〜90%、30%〜80%、40%〜70%又は本明細書に提供される値の範囲内の別の範囲である。
【0033】
本発明はまた、ITPPと化学療法剤とを含む癌治療用キットも提供する。このキットは、以下で考察するとおりの、本発明の治療レジメン又は方法におけるITPP及び化学療法剤の使用についての指示書を提供し得る。このキットに好適な化学療法剤としては、上述のものが含まてもよい。本発明のキットには治療用量以下又は治療量以下の化学療法剤が使用されてもよい。
【0034】
本発明は、ITPPの化合物若しくは薬物又はそのプロドラッグから構成されるインプラント又は他の装置も企図し、該薬物又はプロドラッグは、徐放用の生分解性又は非生分解性ポリマーに製剤化される。非生分解性ポリマーは、ポリマーそのものの分解はなしに、薬物を物理的又は機械的プロセスによって制御された形で放出する。生分解性ポリマーは、体内の自然の過程により徐々に加水分解又は可溶化されるように設計され、混和された薬物又はプロドラッグの漸進的な放出を可能にする。薬物又はプロドラッグはポリマーに化学的に連結されてもよく、又は混和によってポリマー中に組み込まれてもよい。生分解性ポリマー及び非生分解性ポリマーの双方、及び放出制御のため薬物をポリマーに組み込む方法は当業者に周知である。そのようなポリマーの例は、全体が参照により援用される、Brem et al., J. Neurosurg 74: pp. 441-446 (1991)などの多くの文献に見出すことができる。これらのインプラント又は装置は、送達が所望されるところに近接して、例えば腫瘍の部位に植え込むことができる。
【0035】
本発明の医薬組成物は、以上に参照される1つ又は複数の疾患状態において価値を有する1つ又は複数の薬理作用物質を含有してもよいし、又はそれと同時投与(同時に又は逐次的に)されてもよい。
【0036】
製剤は、概してRemington's Pharmaceutical Sciences 17th editionなどの標準的なテキストに従い調製及び投与され得る。例えば、本明細書に記載される組成物は、従来の方法で1つ又は複数の生理学的又は薬学的に許容可能な担体又は賦形剤を使用して製剤化され得る。本発明の組成物及びその薬学的に許容可能な塩及び溶媒和物は、例えば、注射(例えば、皮下、筋肉内、腹腔内)、吸入又は吹込(口又は鼻からのいずれか)又は経口、口腔、舌下、経皮、経鼻、非経口又は直腸投与による投与用に製剤化され得る。一実施形態において、組成物は、標的細胞が存在する部位に、すなわち特定の組織、臓器、又は体液(例えば、血液、脳脊髄液等)の中に局所投与され得る。成分、特に上述のものに加え、本発明の製剤は、当該の製剤タイプを考慮した当該技術分野で標準的な他の作用剤を含み得ることは理解されなければならず、例えば経口投与に好適なものとしては、香味剤又はその他の、口当たりを良くし、且つ嚥下を容易にする作用剤が含まれ得る。
【0037】
経口投与に好適な本発明の製剤は、カプセル、カシェ剤、又は錠剤などの各々が所定量の有効成分を含む個別の単位として;粉末又は顆粒として;水性液体又は非水性液体中の溶液又は懸濁液として;又は水中油液体エマルジョン又は油中水エマルジョン等として提供され得る。錠剤は、任意選択により1つ又は複数の補助成分を伴い、圧縮又は成形により作製され得る。錠剤は任意選択によりコーティングされるか、又は割線が入れられてもよく、中の有効成分の徐放又は制御放出を提供するように製剤化されてもよい。
【0038】
口での局所投与に好適な製剤としては、風味付けされた基剤、通常はスクロース及びアカシア又はトラガカント中に成分を含むロゼンジ;不活性基剤、例えばゼラチン及びグリセリン、又はスクロース及びアカシアの中に有効成分を含むトローチ;及び好適な液体担体中に投与成分を含む洗口剤が含まれる。
【0039】
皮膚に対する局所投与に好適な製剤は、薬学的に許容可能な担体中に投与成分を含む軟膏、クリーム、ゲル及びペーストとして提供され得る。別の局所送達系は、投与成分を含む経皮パッチである。
【0040】
直腸投与用の製剤は、例えばカカオ脂及び/又はサリチル酸を含む好適な基剤を含む坐薬として提供され得る。
【0041】
経鼻投与に好適な製剤としては、担体が固体の場合、例えば20〜500ミクロンの範囲の粒度を有する粗末が含まれ、これは嗅ぎ薬を嗅ぐ方法で;すなわち、鼻を塞ぐように保持された粉末の容器から鼻道を介して急速吸入することにより投与される。担体が液体の場合、例えば鼻腔内スプレー又は点鼻液などの投与に好適な製剤は、有効成分の水性又は油性溶液を含む。
【0042】
経膣投与に好適な製剤は、有効成分に加え、当該技術分野において適切であることが公知の担体などの成分を含有するペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡又はスプレー製剤として提供され得る。
【0043】
吸入に好適な製剤は、有効成分に加え、当該技術分野において適切であることが公知の担体などの成分を含有するミスト、ダスト、粉末又はスプレー製剤として提供され得る。
【0044】
非経口投与に好適な製剤としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び製剤を目的の被投与者の血液と等張にする溶質を含有し得る水性及び非水性滅菌注射溶液;並びに懸濁化剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性滅菌懸濁液が含まれる。製剤は単位用量又は複数回用量の容器、例えば密封アンプル及びバイアルで提供されてもよく、及び例えば注射用水などの滅菌液体担体を使用直前に加えるだけで十分なフリーズドライの(凍結乾燥された)状態で保存されてもよい。即時調合注射溶液及び懸濁液は、先述した種類の滅菌粉末、顆粒及び錠剤から調製され得る。
【0045】
本発明の一部として企図される製剤には、本明細書によって全体として参照により援用される米国特許出願公開第2004/0033267号に開示される方法により作製されるナノ粒子製剤が含まれる。特定の実施形態において、本発明の化合物の粒子は、光散乱法、顕微鏡法、又は当業者に公知の他の適切な方法により計測したとき、約2ミクロン未満、約1500nm未満、約1000nm未満、約500nm未満、約250nm未満、約100nm未満、又は約50nm未満の有効平均粒度を有する。
【0046】
(2)本発明の治療レジメン(treatment regimen)及び方法
ITPPは腫瘍内血管正常化を誘導する。ITPPにより誘導される血管正常化は、放射線及び細胞毒性薬物の双方に対する腫瘍細胞の耐性並びに腫瘍転移の主な理由である腫瘍低酸素に拮抗する。
【0047】
一態様において、本発明は、対象における癌又は腫瘍を治療するための治療レジメン又は方法であって、治療有効量のITPPと化学療法剤とを同時に又は逐次的に投与する工程を含む方法を提供する。語句「治療有効量」は、典型的には治療レジメン又は方法との関連において妥当なベネフィット/リスク比で、何らかの所望の局所的な又は全身性の作用を生じるそのような物質、組成物、キット又は治療レジメンの全体としての量を意味する。そのような物質の治療有効量は、治療される対象及び疾患状態、対象の体重及び年齢、疾患状態の重症度、投与方法などに応じて異なってもよく、当業者により容易に決定され得る。例えば、本明細書に記載される特定の組成物は、そのような治療に適用可能な妥当なベネフィット/リスク比で所望の作用を生じるのに十分な量で投与され得る。
【0048】
本発明の方法における使用に適した好適な化学療法剤としては、上述のものが含まれ得る。特定の実施形態において、化学療法剤は、パクリタキセル、シスプラチン又はゲムシタビンである。
【0049】
例示的な癌としては、限定はされないが、白血病、骨髄腫、及びリンパ腫を含む血液新生物;腺癌及び扁平上皮癌を含む癌腫;メラノーマ並びに肉腫が含まれる。癌腫及び肉腫は、しばしば「固形腫瘍」とも称される。本発明の方法により治療され得るタイプの腫瘍は、好ましくは、限定はされないが、肉腫、癌腫を含む固形腫瘍、並びにその他の、限定はされないが、生殖細胞腫瘍、中枢神経系の腫瘍、乳癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮癌、肺癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、星状細胞腫、神経膠腫、膵癌、胃癌、肝癌、結腸癌、メラノーマ、腎癌、膀胱癌、食道癌、喉頭癌、耳下腺癌、胆道癌、直腸癌、子宮内膜癌、扁平上皮癌、腺癌、小細胞癌、神経芽細胞腫、中皮腫、副腎皮質癌、上皮癌、類腱腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、内分泌腫瘍、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、胚細胞腫瘍、肝芽腫、肝細胞癌、リンパ腫、メラノーマ、非横紋筋肉腫性軟部組織肉腫(non-rhabdomyosarcome soft tissue sarcoma)、骨肉腫、末梢性未分化神経外胚葉性腫瘍(peripheral primative neuroectodermal tumor)、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、及びウィルムス腫瘍を含む固形腫瘍癌である。
【0050】
一実施形態において、ITPPと化学療法剤とが同時に投与される。特定の実施形態において、ITPPと、化学療法剤であるゲムシタビンなどのヌクレオシド代謝阻害薬とが同時に投与される。別の具体的な実施形態において、癌は膵癌である。特定の実施形態において、癌はメラノーマである。
【0051】
別の実施形態において、ITPPと化学療法剤とは逐次的に投与される。例えば、ITPPは化学療法剤の投与前に投与される。好ましい実施形態において、化学療法剤は腫瘍の部分的血管正常化の発生後に投与される。本明細書で使用されるとき「部分的血管正常化」は、その間に既存の腫瘍血管系が血管内皮及び基底膜の構造の改善を示し、従って漏出性、拡張及び/又は低酸素が低減した生理学的状態を指す。そのような部分的血管正常化は、pO2、低酸素誘導因子1α(HIF−1α)、VEGF、チロシンキナーゼTie−2、及びヘムオキシゲナーゼ1(HO−1)のうちの1つ以上のレベルの変化を検出及び/又はモニタすることにより、又は磁気共鳴イメージング(MRI)及び磁気共鳴血管造影(MRA)を含む技術を使用して腫瘍血管の生理学的状態をモニタすることにより決定され得る。
【0052】
好ましい実施形態において、ITPPは化学療法剤の投与の約2時間前〜5日前に投与される。別の好ましい実施形態において、ITPPは化学療法剤(例えば、パクリタキセルなどの微小管標的薬剤又はシスプラチンなどのDNA挿入剤)の投与の約1〜4日前、例えば化学療法剤の投与の2〜3日前に投与される。
【0053】
複数ラウンドのITPP及び化学療法剤を投与することができる。特定の実施形態では1ラウンドのみが投与される。他の実施形態では、2ラウンド以上(例えば、2、3、4ラウンド、又はそれ以上)のITPP及び化学療法剤が投与される。ラウンドは、1日〜6ケ月、例えば1日〜3ケ月、1週間〜2週間、2週間〜3週間、3週間〜1ケ月、1ケ月〜2ケ月、又は2ケ月〜3ケ月の間隔が置かれてもよい。
【0054】
化学療法剤は、当該薬剤の単独の活性薬剤としての用量に基づき治療用量以下又は治療量以下で投与され得る。一実施形態において、投与される治療用量以下又は治療量以下の化学療法剤は、化学療法剤の認可されている総用量の90%未満又は上記のとおりの別の用量である。
【0055】
本発明は、薬剤耐性癌の治療方法も提供する。特定の実施形態において、薬剤耐性癌は、1つ又は複数の化学療法剤による治療が不可能な癌である。例えば薬剤耐性癌は、薬剤による治療後に認識可能な腫瘍サイズの減少を呈しないものであってよく、及び/又は腫瘍の進行(例えば、ステージIIからステージIIIへの、又はステージIIIからステージIVへの)を有意に阻害しないものである。特定の癌、特にメラノーマが耐性を有する化学療法剤の例としては、微小管標的薬剤(例えば、パクリタキセル)及びDNA挿入剤(例えば、シスプラチンなどの白金系薬剤)が含まれる。薬剤耐性アッセイについては、例えば、参照により本明細書に援用されるLowe et al. (1993) Cell 74:95 7-697に記載されている。他の実施形態において、薬剤耐性癌は、非耐性癌細胞と比較したとき著しく増加したレベルの胆管側多選択性有機陰イオン輸送体1及び/又はP−糖タンパク質薬物排出ポンプを有する癌である。
【0056】
薬剤耐性癌の治療方法には、ITPPの単独投与か、又は本明細書に記載されるものなどの別の化学療法剤との併用でのITPPの投与のいずれかが関わり得る。
【0057】
本発明はまた、必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程を含む過剰増殖性病態の治療方法を提供し、該過剰増殖性病態は癌でなく、又は望ましくない血管形成により特徴付けられるものではない。本発明の方法により治療され得る過剰増殖性病態としては、限定はされないが、糖尿病性腎症、糸球体硬化症、IgA腎症、肝硬変、胆道閉鎖症、うっ血性心不全、強皮症、放射線誘発線維症、肺線維症(特発性肺線維症、膠原血管病、サルコイドーシス、間質性肺疾患及び外因性肺障害)、乾癬、陰部疣贅及び過剰増殖性細胞増殖疾患、例えば、角質増殖症、魚鱗癬、角皮症又は扁平苔癬などの過剰増殖性ケラチノサイト疾患を含むものが含まれる。いくつかの実施形態において、過剰増殖性病態を示す組織又は臓器は低酸素状態である。さらなる実施形態において、過剰増殖性病態の治療方法は、さらなる抗過剰増殖剤(antihyperproliferative agent)を投与する工程をさらに含む。抗過剰増殖剤としては、ドキソルビシン、ダウノルビシン、マイトマイシン、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、シスプラチン、VP16、エンジイン(enedyine)、タキソール、ビンクリスチン、ビンブラスチン、カルムスチン、メルファラン(mellphalan)、シクロホスファミド(cyclophsophamide)、クロラムブシル、ブスルファン、ロムスチン、5−フルオロウラシル、ゲムシタビン、BCNU、又はカンプトテシンが含まれる。
【0058】
本発明は、必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程を含む対象における免疫応答の促進方法をさらに提供し、該対象は、癌又は別の腫瘍に罹患していない。一実施形態において、該対象は、望ましくない血管形成を受けていない。
【0059】
(3)定義
本明細書で使用されるとき、以下の用語及び語句は下記のとおり定める意味を有するものとする。特に定義されない限り、本明細書で使用される科学技術用語は全て、当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0060】
用語「薬剤(agent)」は、本明細書では、化合物、化合物の混合物、生体高分子(核酸、抗体、タンパク質又はその一部分、例えばペプチドなど)、又は細菌、植物、真菌、又は動物(特に哺乳動物)の細胞若しくは組織などの生物学的材料から得られる抽出物を指して使用される。そのような薬剤の活性によって薬剤は、対象体内で局所的又は全身的に作用する一つの生物学的、生理学的、又は薬理学的活性物質(又は複数の物質)である「治療剤」として好適となり得る。
【0061】
用語「非経口投与」及び「非経口的に投与された」は当該技術分野で認知されており、経腸投与及び局所投与以外の、通常は注射による投与方法を指し、限定するものではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、及び胸骨内の注射及び注入が含まれる。
【0062】
「患者」、「対象」、「個体」又は「宿主」は、ヒト又は非ヒト動物のいずれも参照する。
【0063】
「細胞毒性薬物又は薬剤」は、細胞、好ましくは癌細胞を破壊する能力を有する任意の薬剤である。
【0064】
用語「薬学的に許容可能な担体」は当該技術分野で認知されており、任意の対象組成物又はその構成成分の担持又は輸送に関わる薬学的に許容可能な材料、組成物又は媒体、例えば液体又は固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、又は封入材料を指す。各担体は、対象組成物及びその構成成分と適合性があり、且つ患者にとって有害でないという意味で「許容可能」でなければならない。薬学的に許容可能な担体として機能し得る材料のいくつかの例としては、(1)ラクトース、グルコース及びスクロースなどの糖;(2)トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプンなどのデンプン;(3)セルロース、及びその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース;(4)粉末トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)カカオ脂及び坐薬ワックスなどの賦形剤;(9)ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及びダイズ油などの油;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコールなどのポリオール;(12)オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張生理食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝溶液;及び(21)医薬製剤に用いられる他の非毒性の適合物質が含まれる。
【0065】
用語「治療剤」は当該技術分野で認知されており、対象体内で局所的又は全身的に作用する生物学的、生理学的、又は薬理学的活性物質である任意の化学的部分を指す。この用語はまた、疾患の診断、治癒、緩和、治療若しくは予防における使用、又は動物若しくはヒトにおける望ましい身体的若しくは精神的発達及び/又は状態の促進における使用が意図される任意の物質も意味する。
【0066】
病体又は疾患を「治療する」とは、病態又は疾患の少なくとも1つの症状の治癒並びに改善を指す。治療は、組成物を投与されない対象と比べて、対象における医学的状態の症状の頻度を減少させるか、又はその発現を遅延させる組成物の投与を含む。従って、癌の治療は、例えば統計的及び/又は臨床的に有意な量だけ、治療を受ける患者集団において検出可能な癌性増殖の数及び/又はサイズを未治療の対照集団と比べて減少させること、及び/又は治療集団における検出可能な癌性増殖の出現を未治療の対照集団と比べて遅延させることを含む。
【実施例】
【0067】
本発明は以上で概略的に説明したが、以下の例を参照することによりさらに容易に理解され得る。これらの例は、単に本発明の特定の態様及び実施形態を例示するために含まれるに過ぎず、いかなる形であっても本発明の限定を意図するものではない。
【0068】
実施例1 B16F10LucGFP細胞系の産生
B16F10マウスメラノーマ形質導入を、5’LTRプロモーターにより駆動されるホタルルシフェラーゼcDNA、次にIRES配列及びEGFP cDNAであるレトロウイルスベクターにより行った。ベクターは、pBMN−Luc−I−GFPプラスミド(Magnus Essand博士、Uppsala、スウェーデンから提供いただいた)と、gag、pol、及びenv遺伝子を安定的に発現するPT67パッケージング細胞系(Clontech)とを使用して作製した。さらに、gag及びpol遺伝子を提供するpM13プラスミド(Christine Brostjan博士、Vienna、オーストリアから提供いただいた)を使用して産生効率を高めた。パッケージング細胞は、10%FCS、ペニシリン(100U/mL)及びストレプトマイシン(100μg/mL)を補足したDMEM HG培地(PAA Laboratories)中で培養し、SuperFect試薬(Qiagen)を製造者の指示に従い使用してpBMN−Luc−I−EGFP及びpM13プラスミドと共トランスフェクトした。トランスフェクション後、細胞を32℃で48時間培養した。次にレトロウイルスベクターを含む培地を回収し、完全RPMI培地と1:1のv/v比で混合してB16F10細胞の形質導入に使用した。3日後、蛍光顕微鏡を使用して、EGFP(約5%)の存在から形質導入効率を評価した。EGFP陽性コロニーを数代継代し、MoFloフローサイトメーター(Dako Cytomation)を使用して3セットに仕分けした後、99%超の純度のB16F10LucGFP細胞系を得た。
【0069】
実施例2 O2圧による細胞の化学療法に対する感受性
様々なpO2%下で48時間にわたるシスプラチン(シスジクロロジアミン白金)(Sigma-Aldrich)又はパクリタキセル(Calbiochem)に対する用量反応曲線を作成した。Alamar blue試験(Biosource)によって製造者の説明どおりに細胞生存度を評価した。
【0070】
実施例3 実験的転移アッセイ
B16F10LucGFPマウスメラノーマ細胞(0.1mlの生理食塩水中105個の細胞)を尾静脈から静脈注射した後、マウス(Janvierからの8週齢雌性C57BL/6)を5日毎の1.5g/kgのITPP腹腔内注射により処置した(各処置群につき10匹のマウス)。処置は腫瘍細胞の接種後5日目に開始した。19日後又は27日後にマウスを安楽死させ、肺を別途回収した。肉眼的な肺病巣を計数し、組織中のメラノーマ細胞量を定量するため化学発光アッセイ(Promega)によりルシフェラーゼを測定した。全ての動物試験手順及び動物の使用は仏国Comite d'Ethique pour l'experimentation animale, Campus CNRS d'Orleansの承認を受けた。
【0071】
実施例4 皮下メラノーマモデル
B16F10LucGFP細胞を、25%Matrigel(商標)(OptiMEM中50%)中の105個の細胞により構成される100μ1プラグの注射後に皮下腫瘍として成長させた。MatrigelはBD Biosciencesから、及びOptiMEMはInvitrogenから得た。接種から25日後にマウスを安楽死させ、腫瘍及び肺を切除した。シスプラチン(生理食塩水中10mg/kg、腹腔内)及びパクリタキセル(2mg/kg、50%エタノール・50%クレモフォールEL中;Sigma-Aldrich、経口)との併用でのITPP(生理食塩水中100μg/kg〜2.0g/kg、腹腔内)の時間及び用量に従う様々な処置プロトコルを適用した。処置はメラノーマ細胞接種後7日目、9日目又は11日目に開始した。
【0072】
実施例5 低酸素関連、血管形成関連、及びメラノーマ関連マーカーの生化学的定量化
肺を溶解緩衝液(Active motif)中にホモジナイズした。遠心後、清澄な上清を回収した。BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Scientific)により総タンパク質量を測定した。肺溶解物中のHIF−1α、VEGF、Tie−2及びHO−1を、比色サンドイッチELISAを用いて製造者の指示に従い定量化した。HIF−1α、VEGF及びTie−2のELISAキットはR&Dから得た。HO−1のELISAキットはTakaraから得た。
【0073】
実施例6 半定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応分析
LOX用のTaqmanポリメラーゼ連鎖反応プライマー配列は5’−ATCGCCACAGCCTCCGCAGCTCA−3’(配列番号1)及び5’−AGTAACCGGTGCCGTATCCAGGTCG−3’(配列番号2)であった。β−アクチン(内部標準)については、プライマー配列は5’−CCAGAGCAAGAGAGGCATCC−3’(配列番号3)及び5’−CTGTGGTGGTGAAGCTGAAG−3’(配列番号4)であった。増幅したcDNAバンドをImageQuantソフトウェア(Becton and Dickinson)により定量した。LOXのmRNAレベルはβ−アクチンmRNAに対して正規化した。
【0074】
実施例7 免疫組織学的染色
腫瘍組織を組織凍結媒体Tissue-Tek(Sakura)に包埋し、液体窒素でスナップ凍結した。凍結切片を固定化し、PBS中FCS5%で1:200希釈したeBiosciencesからのマウスCD31(PECAM−1、血小板/内皮細胞接着分子)に対するラットモノクローナルIgG2a抗体、ウサギIgG抗SMA(平滑筋アクチン)抗体(AbCAM)、又はマウスIgG2a抗P−糖タンパク質(C219)(Calbiochem)を用いて染色した。それぞれヤギIgG−FITC標識抗ラット免疫グロブリン、ヤギIgG−FITC標識抗ウサギ免疫グロブリン又はヤギIgG−FITC標識抗マウス免疫グロブリン(PBS中1:200希釈)を二次抗体として使用した。細胞核を検出するため、切片をビスベンズイミドH33258(Sigma-Aldrich)と共にPBS中1:1000でインキュベートした。試料をVectashield(Vector)にマウントし、Zeiss 200M倒立蛍光顕微鏡で蛍光顕微鏡検出を実施した。腫瘍切片をヘマトキシリンエオシン染色した後、腫瘍壊死を分析した。
【0075】
実施例8 磁気共鳴イメージング(MRI)
950mT/mグラジエントセットを備えた小動物用の9.4T水平マグネット(94/21 USR Bruker Biospec)によりMRIアッセイを実施した。直線状の同質コイル(内径:35mm)にマウスを置いた。動物はガス(50%N2O:0.7l/分−50%O2:0.7l/分−イソフルラン1.5%)麻酔下に維持し、温度は36℃で一定に保ち、取得中はマウス胸部に置いた空気バルーンを使用して呼吸数をモニタすることにより麻酔の吐出量を調整した。軸面及び前額面の双方において高速低角度ショット(FLASH)シーケンスを使用して、MR血管造影による腫瘍血管新生の計測を実施した。FLASHパルスシーケンスを腫瘍の血管形成の進化の研究に適合させた。この技術により同じ動物に対する腫瘍の血管樹の3D構造を経時的に追うことが可能となる。
【0076】
実施例9 Oxylite pO2計測
oxylite 2000E PO2システム(Oxford Optronics)は、230μm径の光ファイバープローブの先端に固定化された塩化ルテニウムのO2依存性の蛍光寿命を測定することによりpO2を計測する。蛍光パルスの寿命は先端の酸素張力に反比例する。キシラジン/ケタミンの腹腔内注射によりマウスを麻酔した後、説明どおりにoxyliteプローブ先端を腫瘍内に取り付け、酸素圧を記録した。
【0077】
実施例10 ITPP−RBCは腫瘍微小環境における低酸素に選択的に拮抗する
ITPP−RBCが生体内で低酸素に拮抗することを確認するため、ITPP処置マウス及び未処置マウスにおける左脚の上に皮下移植したメラノーマ腫瘍内部の酸素張力の値の比較を実施した。酸素圧(pO2)は、光ファイバープローブの先端にある塩化ルテニウムのO2依存性の蛍光寿命を決定することにより計算した。蛍光パルスの寿命は、プローブの先端の酸素張力に反比例する。無処置動物の腫瘍は酸素圧値が2mmHgを下回り(図1)、極めて低酸素性であったが、ITPP処置マウスの腫瘍ではpO2は40mmHgの範囲に達した(図1A)。このpO2の増加はITPPの腹腔内注射後30分経った直後に起こり(図1B、図1C)、注射後24時間に示されるとおり(図1A)最大40mmHgの高レベルで少なくとも48時間維持された。さらに、同じ動物の対応する非腫瘍性の(右)脚の筋肉において示されるとおり、平行同時測定(図1C)ではpO2に対する何らの変化も、又はいかなる影響も検出されなかった一方、腫瘍ではpO2レベルはITPP注射から30分後に増加したことから、ITPP−RBCは低酸素性腫瘍を特異的に標的化した。
【0078】
実施例11 ITPP−RBCはB16メラノーマ細胞による肺転移形成を妨げる
抗転移剤としてのITPPを検証するため、マウスにメラノーマ細胞を静脈内注射することによる肺転移の「人工」モデルを使用した。B16F10LucGFP細胞系を使用し、これはGFP及びルシフェラーゼレポーター遺伝子により形質導入されたメラノーマB16F10系であり、組織中のルシフェラーゼ活性を分析することによりメラノーマ細胞の追跡及び定量が可能である。増殖血管形成の促進及び転移発生に関してB16F10メラノーマ細胞系の生物学的挙動をB16F10LucGFP細胞と比較する実験では、有意な差も、ルシフェラーゼの低酸素感受性も示されず、従ってその使用の妥当性が確認された。
【0079】
生体内実験をメラノーマ細胞接種後27日目まで追跡した。ITPP処置をB16細胞注射後5日目から開始したとき、転移性結節は極めて大きく減少した。この効果は、肺におけるルシフェラーゼ活性を計測することにより(図2A)定量することができた。これにより目視検査では検出不可能な微小転移の生化学的定量化が可能となった。ITPPの作用が結節における酸素分圧の変化と関連したかどうかを調べるため、低酸素誘導因子−αサブユニットのHIF−1αアイソフォームの発現を分析した。HIF−1αは哺乳動物細胞の酸素レベルに対する応答に決定的に重要であり、細胞のO2センサと見なされる。HIF−1αが低酸素応答エレメント(HRE)に結合すると、低酸素関連遺伝子のカスケードがオンになる。図2BはHIF−1αレベルを示し、これは未処置メラノーマを有するマウスの肺では明確にアップレギュレーションされ、ITPP処置したマウスの肺では劇的に低下した。
【0080】
血管内皮成長因子(VEGF)レベルはHIF−1αに依存するとともに抗血管形成治療の主な標的であり、ELISAによりアッセイしたとき、ITPP−RBCの影響下では対照レベルまで低下した(図2C)。これらの結果はTie−2発現を調べることにより確認された。Tie−2は特異的な内皮チロシンキナーゼ受容体であり、低酸素を減少させる正常な血管の成熟化に必須である。低酸素の肺で著しく減少するこのマーカーがITPP処置により再誘導されたことから(図2D)、転移性結節における血管が組織化されない血管形成を受け、及び血管形成がITPP−RBCにより制御されたとき、より成熟した血管がTie−2マーカーを再発現したことが示される。ITPP処置後、HIF−1αにより誘導される細胞保護酵素であるヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)も無処置マウスと比較して著しく減少した(図2E)。HO−1の過剰発現により、メラノーマ細胞の生存能力、細胞増殖及び血管形成能が高くなり、転移が増加し、及び対照の腫瘍を有するマウスの生存率が低下する。癌細胞の浸潤過程に関わり、且つ低酸素により制御される酵素であるリシルオキシダーゼの半定量的PCR mRNA分析に関するさらなる研究(図2F)により、「低いO2親和性RBC」をもたらすITPP処置の有益な作用も実証された。
【0081】
実施例12 ITPP−RBCは同所性メラノーマ肺転移を根絶する
原発腫瘍皮下移植後のITPP−RBCの転移に対する効果を評価した。腫瘍接種後7日目に開始した短期処置(3回のITPP注射、5日間隔)では、ITPPは肺転移を大幅に減少させた(図3A)。ITPP処置の7日目での開始が、短期投与プロトコル及び慢性投与プロトコル(7日目、12日目、16日目、18日目、19日目)の双方で最適であった。9日目又は11日目の開始はそれより有効性が低く、慢性投与では肺転移の促進さえ生じた(図3A)。この観察結果の理由については不明であるものの、血管形成の完全な阻害をもたらす慢性投与によってさらに腫瘍の表現型が変わり、侵襲性及び転移が増加した可能性がある。
【0082】
実施例13 ITPP−RBCは腫瘍内血管正常化を誘導する
磁気共鳴イメージング(MRI)のMRA(磁気共鳴血管造影)を腫瘍血管樹の3D構造追跡用に適応させることにより、腫瘍における微小循環の構造的な変化を評価した。
【0083】
メラノーマ発症の21日後、腫瘍は典型的な無秩序な血管構造を示した(図3Ba)。9日目及び14日目にITPPで処置したマウスでは、18日目及び19日目におけるさらなる反復処置後に血管系は密度が低くなり、顕著に正常化した。腫瘍内を調べると、末梢に多数の血管が明らかとなった;抗平滑筋抗原抗体により標識された、血管を取り囲む周皮細胞の動員により正常化が示された一方(図3Bb)、無処置腫瘍(図3Ba、図3Bb)ではそのような秩序化は認められなかった。この「正常化」に向かう傾向は、腫瘍サイズの著しい低減を伴った(図3Ba)。
【0084】
同じ移植原発腫瘍において、薬剤耐性の原因である多剤排出ポンプに対するITPP処置の効果について調べた。ITPPはP−糖タンパク質薬物排出ポンプを下方制御する。この効果が、薬物の有効細胞内濃度の低下に起因する化学的耐性及び薬物−標的相互作用の障害に拮抗し得る。従って、ITPPの誘導による血管の正常化は腫瘍における薬物排出ポンプの低下と相関を有し、従って薬物の腫瘍細胞に対する効力を増加させ得る。
【0085】
実施例14 ITPP−RBCは同所性メラノーマ肺転移を根絶し、化学療法にメトロノーム的相乗作用を及ぼす
ITPPがRBCによる低酸素組織への酸素送達を向上させる能力を有することから、パクリタキセル及びシスプラチンなどの薬物によるメラノーマ処置の効力に対するその効果について調べた。酸素正常状態、低酸素状態及び再酸素化後のB16メラノーマ細胞に対する薬物の効果を、初めにインビトロで試験した。図4は、B16細胞に対する薬物の細胞毒性が、酸素張力の低下に伴い低下することを示している(1%又は11%)。しかしながら、細胞を再酸素化すると(1%から11%及び20%へ)、薬物の細胞毒性はpO2レベルに依存してある程度まで再び確立された(図4A、図4B)。腫瘍細胞におけるp−糖タンパク質の生体内調節と比較したこれらのデータは、低酸素により誘導されるMDR促進によって調節される対薬物感受性が、ITPPにより誘導される腫瘍再酸素化によって逆転し得ることを示唆している。
【0086】
ITPP処置をインビボでパクリタキセル及びシスプラチンと組み合わせた。ITPP、パクリタキセル及びシスプラチンによる同時処置後、肺転移は劇的に増加し(図5A)、プロファイルはITPP単独による慢性処置で観察されるもの(上記を参照)と同様であった。パクリタキセル及びシスプラチンはそれ自体が内皮細胞の成長を阻害し(図4C)、これらの化合物のインビボでの抗血管形成作用が裏付けられる。腫瘍血管新生を破壊するそのような抗血管形成治療は、低酸素耐性腫瘍細胞の選択により転移性浸潤を促進することが認められており、従って図3に示されるデータが実証され、及び腫瘍血管新生の破壊又は除去よりむしろ血管正常化が、より適切且つ潜在的に有益な癌治療手法と考えられることを示している。
【0087】
発症した固形腫瘍(図5B)及び肺転移(図5A)の双方の処置に対するITPP及び薬物の注射スケジュールの影響を試験した。14日目までITPP単独で処置したマウスを、18日目及び19日目にITPP単独に再び曝露して血管の正常化を試み、続いて20日目及び21日目にシスプラチン+パクリタキセルで処置した後、25日目に分析した。結果は目覚しいものであった:同時処置と正反対に肺転移が根絶されたが(図5A)、特定の癌療法用のプロトコル設定におけるメトロノーム式パラメータの重要性が確認された。実際、特異的内皮マーカーであるCD31(PECAM−1)染色による腫瘍微小血管の分析は、対照における不規則な形状及び内皮細胞の顕著なCD31染色を伴う構造化が不十分な多量の微小血管(図5Ba)と比較して、化学療法薬による処置後、ITPP処置動物における腫瘍内微小血管は密度の低下を示した。さらに図5Bには、ITPPによる定期的治療を18日目及び19日目に延長し、従って20日目及び21日目の薬物処置前における血管及び酸素張力の正常化を目標とすることにより、細胞毒性が強力に促進したことが示され、これは、拡散したCD31陽性に対応し(図5Ba3)、かつ、H&E染色(図5Ba3及び図5Bb3)により表され、且つ腫瘍サイズの低下及び壊死誘導により確認される壊死範囲を示す25日目の壊死によって示されるとおりである。これは化学療法と併用したITPP治療の強力な効果を示している。
【0088】
実施例15 ITPPのゲムシタビンとの併用治療は動物モデルにおいて強力な相加作用を示す
ラット膵腫瘍モデル及びヒトPanc−1膵腫瘍異種移植マウスモデルの双方において、ITPPのゲムシタビンとの併用処置は強力な相加作用を示した。初めに双方のモデルにおいて、ゲムシタビン及びプラセボの効果と比較したITPP処置単独での効果を調べた(図6及び図8)。次に、ゲムシタビン処置単独及びプラセボの効果と比較した、双方のモデルにおけるITPPのゲムシタビンとの併用処置の効果を調べた。
【0089】
ラット膵腫瘍モデルでは、併用処置群のラットは、14日目から49日目までの期間にわたり週1回、ゲムシタビン(25mg/kg又は50mg/kg)と組み合わせたITPP(1.5mg/kg)の投与を受けた。ゲムシタビン処置群のラットは、16日目、18日目、及び20日目にゲムシタビン(100mg/kg)単独の投与を受けた。対照群のラットは処置しなかった。被験動物の生存率は併用処置群において大幅に亢進した。動物生存プロファイルはまた、ゲムシタビンに対する用量依存性も実証した(図7)。
【0090】
異種移植腫瘍モデルでは、併用処置群のマウスは、14日目から49日目までの期間にわたり週1回、ゲムシタビン(25mg/kg又は50mg/kg)と組み合わせたITPP(2mg/kg)の投与を受けた。ゲムシタビン処置群のマウスは、16日目、18日目及び20日目にゲムシタビン(100mg/kg)の投与を受けた。対照群のマウスは処置しなかった。併用処置はゲムシタビン処置単独と比較したとき動物生存指数を亢進することを示したが、しかしゲムシタビンに対する用量依存性はなかった(図9)。
【0091】
OXY111A及び/又はゲムシタビンで処置した膵管腺癌動物の生存期間中央値を追跡し、以下の表1に要約した。
【0092】
【表1】
【0093】
ラット膵腫瘍モデルにおいて、ITPP、ゲムシタビン又はプラセボの処置後のHIF−1α、VEGF、カスパーゼ−3及びβ−アクチンの発現をさらに調べた(図10)。
【0094】
実施例16 ITPP治療は免疫細胞の腫瘍への浸潤及び腫瘍侵襲を促進する
B16腫瘍モデルにおいて、OXY111Aを7日目、8日目、14日目、15日目、21日目、22日目、29日目及び30日目に腹腔内注射した後、OXY111A処置によりCD68(M2型)マクロファージのB16腫瘍への浸潤が大幅に促進したことが実証された(図11)。
【0095】
同じモデルにおいて、ITPP処置によりCD49b NK細胞の浸潤、B16腫瘍中のCD31 EC細胞の存在量、及びメラノーマB16腫瘍におけるNK細胞の侵襲も大幅に促進された(図12及び図13)。
【図1−1】
【図1−2】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年7月7日に出願された米国仮特許出願第61/223,583号の利益を主張し、その教示は全体として参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
癌は、先進国世界における主な死亡原因のうちの一つであり、米国だけでもその死者は毎年50万人を超える。米国では毎年100万人超が癌と診断され、総じて一生涯のうちに何らかの形の癌を発症する人は3人に1人より多いと推定される。癌死亡率の85%超を固形腫瘍が占める。
【0003】
血管形成は、数多くの異なるタイプの癌と関連付けられている。血管形成は血管形成刺激因子及び阻害因子の高度に制御された系によって調節される。特定の疾患状態では血管形成の調節が変化し、多くの場合、疾患に付随する病理学的な損傷は、調節されない血管形成に関連する。調節される血管形成及び調節されない血管形成の双方とも、同様の方法で進行すると考えられている。基底膜に取り囲まれている内皮細胞及び周皮細胞が毛細血管を形成する。血管形成は、内皮細胞及び白血球が放出する酵素による基底膜の浸食から始まる。血管管腔の内側を覆う内皮細胞は、次に基底膜から突き出る。内皮細胞が血管形成刺激物質により誘導され、浸食された基底膜を通って遊走する。遊走細胞は親血管から分かれ出て「出芽」を形成し、ここで内皮細胞は有糸分裂を受けて増殖する。内皮細胞出芽は互いに合流して毛細血管ループを形成し、新しい血管を作り出す。
【0004】
多くの疾患状態、腫瘍転移、及び内皮細胞による異常成長では、持続的な制御されない血管形成が起こる。制御されない血管形成が存在する種々の病理学的疾患状態は、血管形成依存性疾患又は血管形成関連疾患として分類されている。
【0005】
腫瘍成長が血管形成依存性であるという仮説は、1971年に初めて提唱された。簡潔に言えば、この仮説は「腫瘍の「取り込み(take)」が起こると、腫瘍細胞集団が増加するごとに先行して腫瘍に集中した新しい毛細血管が増加しなければならない」と述べる。腫瘍「取り込み」は、現在のところ、数立方ミリメートルの容積を占め、且つ数百万細胞以下の腫瘍細胞の集団が既存の宿主微小血管で生き残ることができる腫瘍成長の前血管段階を示すものと理解されている。この段階を越えて腫瘍容積が拡大するには新毛細血管の誘導が必要となる。例えば、マウスにおける初期前血管段階の肺微小転移は、組織切片の高倍率顕微鏡検査による以外は検出不能と思われる。
【0006】
血管形成は、固形腫瘍及び血液系腫瘍を含む数多くの異なるタイプの癌と関連付けられている。血管形成が関連付けられている固形腫瘍としては、限定はされないが、横紋筋肉腫、網膜芽細胞腫、ユーイング肉腫、神経芽細胞腫、及び骨肉腫が含まれる。血管形成はまた、血液系腫瘍、例えば白血病など、白血球細胞の抑制のない増殖が起こり、通常は貧血症、血液凝固能の低下、並びにリンパ節、肝臓及び脾臓の腫脹を伴う骨髄の様々な急性又は慢性新生物疾患の任意のものとも関連付けられる。血管形成は、白血病腫瘍及び多発性骨髄腫疾患を引き起こす骨髄の異常において役割を果たすと考えられている。
【0007】
上述のとおり、いくつかの種類の証拠から、血管形成が固形腫瘍の成長及び持続並びにその転移に不可欠であることが示される。血管形成が刺激されると、腫瘍は、線維芽細胞成長因子(aFGF及びbFGF)及び血管内皮成長因子/血管透過性因子(VEGF/VPF)を含めた様々な血管形成因子の産生をアップレギュレーションする。
【0008】
血管形成の制御におけるVEGFの役割は、重点的な研究対象となっている。VEGFは生理学的血管形成における決定的な律速段階を表すが、腫瘍成長に関連する血管形成などの病理学的血管形成においても重要であるものと思われる。VEGFは、血管漏出を生じさせる能力に基づき血管透過性因子としても知られる。いくつかの固形腫瘍は有り余る量のVEGFを産生し、それが内皮細胞の増殖及び遊走を刺激して、それにより新血管新生が誘導される。VEGF発現は種々のヒト癌の予後に大きい影響を与えることが示されている。VEGF遺伝子の発現の制御には腫瘍の酸素張力が重要な役割を担う。VEGF mRNAの発現は、様々な病態生理学的状況下で低酸素張力に曝露されることで誘導される。
【0009】
成長する腫瘍は低酸素により特徴付けられ、低酸素はVEGFの発現を誘導し、転移性疾患の発生の予測因子ともなり得る。また、通常の血管と異なり、腫瘍血管系は異常な組織化、構造、及び機能を有することも認識されている。腫瘍血管はまた漏出性が高いことも認められ、血流が不均一で、多くの場合に低下する。
【0010】
癌細胞が成長及び転移するには血管を利用できる必要があるため、血管形成の阻害は癌及び腫瘍の治療に希望を与えるものと考えられる。しかしながら、現在まで抗血管形成戦略が探求されてきたものの、薬剤耐性を有する極めて侵攻性の高い転移性癌細胞の選択が起こるため、継続的な治療利益は提供されていない。腫瘍血管新生を破壊するそのような抗血管形成治療薬は、ある場合には転移性浸潤を促進させることが認められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、腫瘍血管系を制御することのできる実質的に非毒性の組成物及び方法が必要とされている。また、改良された癌治療も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施例に提供するデータは、化学療法と組み合わせた血管正常化が潜在的に有益な癌治療手法であることを示す。ヘモグロビンのアロステリックエフェクターであるイノシトール三リン酸(ITPP)は酸素放出を促進し、低酸素の作用に拮抗し、及びインビトロで血管形成を阻害する。マウスモデルでは、マウスメラノーマ細胞を静脈注射することにより誘導した肺転移が赤血球中ITPP(ITPP−RBC)により低減する。ITPPは、化学療法剤のシスプラチン及びパクリタキセルを伴うと、原発性メラノーマの成長及び肺転移を阻害した。膵臓腺癌のラットモデルでは、ITPPはゲムシタビンとの併用で被験動物の生存率の大幅な上昇を引き起こし、強力な相加作用を示した。ITPPは、腫瘍へのマクロファージ及びナチュラルキラー細胞の浸潤も大幅に促進する。
【0013】
本発明は、癌の治療方法であって、その必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程と;腫瘍における部分的血管正常化後に対象に治療有効量の化学療法剤を投与する工程とを含む方法を提供する。
【0014】
一態様において、本発明は、イノシトールトリスピロリン酸(ITPP)と、パクリタキセル、シスプラチン及びゲムシタビンから選択されるものなどの化学療法剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0015】
別の態様において、本発明は、対象において癌を治療するための治療レジメンであって、治療有効量のITPPと、パクリタキセル、シスプラチン及びゲムシタビンから選択されるものなどの化学療法剤とを同時に又は逐次的に投与する工程を含む治療レジメンを提供する。
【0016】
別の態様において、本発明は、ITPPと治療量以下の化学療法剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0017】
さらに別の態様において、本発明は、対象において癌を治療するための治療レジメン又は方法であって、治療有効量のITPPと治療量以下の化学療法剤とを同時に又は逐次的に投与する工程を含む治療レジメン又は方法を提供する。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、治療有効量のITPPを投与することによる、1つ又は複数の化学療法剤に耐性を有する癌の治療方法を提供する。特定の実施形態において、癌はパクリタキセル及び/又はシスプラチンに耐性を有する。
【0019】
本発明はまた、必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程を含む過剰増殖性病態の治療方法も提供し、該過剰増殖性病態は癌ではなく、又は望ましくない血管形成により特徴付けられるものではない。
【0020】
本発明はさらに、必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程を含む対象における免疫応答の促進方法を提供し、該対象は癌又は別の腫瘍に罹患していない。
【0021】
さらに、本発明は、医学における本明細書に記載される組成物の使用、及び本明細書に記載される病態の治療用薬剤の製造における本明細書に記載される組成物の使用を含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】発症させた皮下メラノーマ腫瘍におけるITPP−赤血球(RBC)により誘導された選択的酸素圧上昇を示す。(A)14日前に移植した未処置腫瘍と、12日目及び13日目にITPPで処置した同じ腫瘍との比較。ITPP注射24時間後のpO2レベルに留意されたい。(B)ITPPの腹腔内注射前及び注射後の皮下移植腫瘍におけるpO2の経時記録。処置30分後の酸素圧上昇に留意されたい。(C)ITPPは筋肉内pO2には影響を及ぼさない。ITPPの腹腔内注射により低酸素性皮下腫瘍におけるpO2(下側の曲線)は上昇するが、健常な筋肉におけるpO2(上側の曲線)は影響を示さない。データは群当たり10匹のマウスで実施した10例の実験うちの代表的な1つによるもの。
【図2】ITPP−RBCによる酸素供給が実験的メラノーマモデルにおいて肺転移を阻害し、低酸素により誘導された遺伝子カスケードを逆転させることを示す。メラノーマ接種後27日目における健常対照(白色)と比較したメラノーマを有する未処置マウス(灰色)及びITPP処置マウス(黒色)の肺溶解物中のタンパク質及び酵素活性の計測値:(A)ルシフェラーゼアッセイによる肺転移定量、(B)HIF−1α発現;(C)VEGF発現、(D)Tie−2、及び(E)HO−1発現、メラノーマ細胞注射後19日目のELISAにより評価。(F)mRNA LOX含量、評価。データは5例の実験のうちの代表的な1つによる群当たり8〜10匹の別個のマウスから計算した平均値である。
【図3】皮下メラノーマを有するマウスにおいてITPP処置スケジュールが抗転移活性、血管正常化、及び多剤耐性細胞レベルの低減に影響を及ぼし得ることを示す。(A)20日目、21日目における薬物適用前のITPP処置の開始時期及び処置期間の効果。7日目に開始した場合ITPPにより転移が減少し、それより後になると効果が少なくなり、慢性処置時は転移が増加する。ルシフェラーゼ分析は25日目であった。データは10例の実験のうちの代表的な1つによる群当たり10匹の別個のマウスから計算した平均値である。(B)以下によって20日目に評価した腫瘍血管正常化に対するITPP処置の効果:(a)ITPP処置マウスと比較した、皮下未処置腫瘍における血管構造の磁気共鳴イメージング。無処置腫瘍の組織化されていない不連続な血管(矢印)と比較して、ITPP処置(9日目、14日目、18日目、19日目)後の十分に組織化された血管系(矢印)に留意されたい。(b)対象と比較した、正常化した血管の周囲の周皮細胞の抗SMA抗体による免疫染色。
【図4】低酸素時及び再酸素化時におけるマウスメラノーマ細胞及び肺内皮のマウスのインビトロでの化学感受性を示す。化学療法薬:(A)パクリタキセル;(B)シスプラチンに対するメラノーマ細胞の感受性は低酸素により打ち消される。これは細胞を再酸素化すると戻る。(C)シスプラチンに対する内皮細胞感受性の評価。
【図5】腫瘍酸素化及び血管正常化によりメラノーマにおける化学療法が向上することを示す。(A)ITPP、パクリタキセル及びシスプラチンの組み合わせにより、処置を経るに従い転移が減少する。薬物を再注射(20日目及び21日目)する前にITPPを再注射すると(18日目、19日目)、肺転移の根絶が達成された。(a)=未処置;(b)=ITPP 7日目、12日目、16日目;(c)=「b」+薬物 7日目、12日目、16日目;(d)=「c」+ITPP 18日目、19日目+薬物 20日目、21日目;(e)=ITPP 9日目、14日目;(f)=「e」+薬物 9日目、14日目;(g)=「f」+ITPP 18日目、19日目+薬物 20日目、21日目;(h)=ITPP 11、16;(i)=「h」+薬物 11日目、16日目;(j)=「i」+ITPP 18日目、19日目+薬物 20日目、21日目。ルシフェラーゼ活性は25日目に分析した。データは10例の実験のうちの代表的な1つによる群当たり10匹の別個のマウスから計算した平均値である。(B)ITPPにより誘導される正常化の薬物化学治療活性に対するメトロノーム併用効果。2群のマウスをITPPにより、9日目、14日目又は9日目、14日目、18日目、19日目のいずれかに処置した。20日目、21日目に、2群のITPP処置マウスにパクリタキセル及びシスプラチンを投与した。25日目に腫瘍を染色した。(a)a2及びa3におけるITPP及び薬物処置マウスと比較した、無処置腫瘍における(a1)CD31による血管の免疫染色 CD31+染色は壊死部分に対応する。(b)(a)のように処置したマウスの腫瘍のヘマトキシリン−エオシン染色。処置後の腫瘍の有効な壊死性破壊(a3、b3)に留意されたい。データは群当たり10匹のマウスに対して行われた実験についての代表である。
【図6】ゲムシタビン処置単独及びプラセボの効果と比較した、膵腫瘍ラットの生存に対するITPP処置の効果を示す。ITPP処置群では、膵腫瘍ラットを14日目から49日目までの期間にわたり週1回ITPP(1.5mg/kg)で処置した。ゲムシタビン処置群では、膵腫瘍ラットを16日目、18日目、及び20日目にゲムシタビン(100mg/kg)で処置した。対照群の動物は処置しなかった。
【図7】ゲムシタビン処置単独及びプラセボの効果と比較した、ヘキサナトリウムミオイノシトールトリスピロリン酸(OXY111A)をゲムシタビンと併用した膵腫瘍ラットの生存に対する効果を示す。併用処置群では、膵腫瘍ラットを14日目から49日目までの期間にわたり週1回、ゲムシタビン(25mg/kg又は50mg/kg)と組み合わせたITPP(1.5mg/kg)で処置した。ゲムシタビン処置群では、膵腫瘍ラットを16日目、18日目及び20日目にゲムシタビン(100mg/kg)で処置した。対照群の動物は処置しなかった。
【図8】ゲムシタビン処置単独及びプラセボの効果と比較した、ヒトPanc−1膵腫瘍異種移植ヌードマウスの生存に対するITPP処置の効果を示す。ITPP処置群では、腫瘍異種移植マウスを14日目から49日目までの期間にわたり週1回ITPP(2mg/kg)で処置した。ゲムシタビン処置群では、腫瘍異種移植マウスを16日目、18日目及び20日目にゲムシタビン(100mg/kg)で処置した。対照群の動物は処置しなかった。
【図9】ゲムシタビン処置単独及びプラセボの効果と比較した、ITPPをゲムシタビンと併用したヒトPanc−1膵腫瘍異種移植ヌードマウスの生存に対する効果を示す。併用処置群では、腫瘍異種移植マウスを14日目から49日目までの期間にわたり週1回、ゲムシタビン(25mg/kg又は50mg/kg)と組み合わせたITPP(2mg/kg)で処置した。ゲムシタビン処置群では、腫瘍異種移植マウスを16日目、18日目及び20日目にゲムシタビン(100mg/kg)で処置した。対照群の動物は処置しなかった。
【図10】ゲムシタビン処置単独及びプラセボの効果と比較した、膵腫瘍ラットにおけるHIF−1a、VEGF、カスパーゼ−3及びβ−アクチンの発現に対するITPP処置の効果を示す。
【図11】B16腫瘍へのCD68(M2型)マクロファージ浸潤に対するITPP処置の効果を示す。7日目、8日目、14日目、15日目、21日目、22日目、29日目及び30日目にOXY111Aを腹腔内注射した。31日目にB16腫瘍の分析を実施した。(a)未処置B16腫瘍;(b)及び(c)ITPP処置腫瘍のCD68染色はB16腫瘍へのCD68(M2型)マクロファージ浸潤を示す。
【図12】CD49bナチュラルキラー(NK)細胞の浸潤及びB16腫瘍中のCD31内皮(EC)細胞の存在に対するITPP処置の効果を示す。(a)〜(c)未処置B16腫瘍;(d)〜(f)ITPPで処置したB16腫瘍。緑色の矢印は浸潤しているNK細胞を示す;赤色の矢印は血管壁を示す。
【図13】メラノーマB16腫瘍のNK細胞浸潤に対するITPP処置の効果を示す。B16腫瘍細胞はB16F10DAPIと命名した;NK細胞は抗CD49bFITC1と命名した;及び血管内皮細胞は抗CD31TRITCと命名した。(a)未処置B16腫瘍;(b)及び(c)ITPPで処置したB16腫瘍。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)本発明の組成物
本発明において有用な組成物は、イノシトールトリスピロリン酸(ITPP)の酸及び塩を含む;ITPPは本明細書では陰イオンとして認識される。用語イノシトールトリスピロリン酸は、イノシトール六リン酸トリスピロリン酸としても知られ、3個の内部ピロリン酸環を含むイノシトール六リン酸を指す。ITPPのカウンターパート種は本明細書では対イオンと称し、ITPPの対イオンとの組み合わせを本明細書では酸又は塩と称する。本発明は、純粋なイオン性である対に限定されるものではない。実際、当該技術分野では、対を生成するイオンはしばしば、対の2つの成分間にある程度の共有結合又は配位結合の特徴を示すことが知られている。本発明の組成物のITPP酸及び塩は単一の種類の対イオンを含んでもよく、又は混成の対イオンを含有してもよく、及び任意選択によりITPPがその一つである陰イオンの混合物を含有してもよい。組成物は、任意選択により、クラウンエーテル、クリプタンド、及び対イオンのキレート化又は他の錯化能を有するその他の種を含んでもよい。組成物は同様に、任意選択により、酸性大員環、又は水素結合若しくは他の分子引力を介してITPPの錯化能を有するその他の種を含んでもよい。ITPPの酸及び塩の作製方法は、Nicolau et al.に対し発行された米国特許第7,084,115号(この内容全体は参照により本明細書に援用される)に記載される。
【0024】
本発明における使用が企図される対イオンとしては、限定はされないが、以下のものが含まれる:プロトンならびに重水素及びトリチウムの対応するイオンを含む陽イオン性水素種;リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及び銅(I)を含む一価の無機陽イオン;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、マンガン(II)、亜鉛(II)、銅(II)及び鉄(II)を含む二価の無機陽イオン;鉄(III)を含む多価の無機陽イオン;アンモニウム、シクロヘプチルアンモニウム、シクロオクチルアンモニウム、N,N−ジメチルシクロヘキシルアンモニウム、及び他の有機アンモニウム陽イオンを含む四級窒素種;トリエチルスルホニウム及び他の有機スルホニウム化合物を含むスルホニウム種;ピリジニウム、ピペリジニウム、ピペラジニウム、キヌクリジニウム、ピロリウム、トリピペラジニウム、及び他の有機陽イオンを含む有機陽イオン;オリゴマー、ポリマー、ペプチド、タンパク質、正電荷イオノマー、及びポリマーのペンダント基、鎖末端、及び/又は骨格にスルホニウム、四級窒素、及び/又は荷電有機金属種を有する他の高分子種を含むポリマー性陽イオン。例示的なITPP塩は、ITPPの一カルシウム四ナトリウム塩、又は15〜25mol%のカルシウムと75〜85mol%のナトリウムとを含有するITPPナトリウムとITPPカルシウムとの混合物である。
【0025】
本発明で用いられるITPPの好ましい異性体は、シス−1,2,3,5−トランス−4,6−シクロヘキサンヘキシルであるミオイノシトールである;しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。従って、本発明は、天然に存在するシロ−、カイロ−、ムコ−、及びネオ−イノシトール異性体のそれぞれのトリピロリン酸、並びにアロ−、エピ−、及びシス−イノシトール異性体のものを含む、ITPPの任意のイノシトール異性体の使用を企図する。
【0026】
ITPPは、エステルの酵素切断によるか、又はトリルスルホニル基などの脱離基の置換によるなどしてプロドラッグからインビボで形成され得ることが企図される。
【0027】
ITPPは、抗血管形成特性及び抗腫瘍特性を呈し、血管形成又は増殖に関連する事象、病態又は物質の調節に有用である。本明細書で使用されるとき、血管形成又は増殖に関連する事象、病態、又は物質の調節とは、任意の種類の因子、病態、活性、指標、化学物質、又は化学物質、mRNA、受容体、マーカー、メディエーター、タンパク質、若しくは転写活性などの組み合わせにおける任意の定性的又は定量的な変化であって、血管形成又は増殖に関連し得るか又は関連すると考えられ、及び本発明の組成物の投与によりもたらされる変化を指す。
【0028】
ITPPはまた、腫瘍微小環境のpO2を促進し、転移及び新生物性の血管新生を阻害する。低酸素性腫瘍細胞は、多くの場合に浸潤性がより高く、且つアポトーシス耐性を有する細胞であり、従来の化学療法に耐性を有する傾向がある。従って、特定の実施形態では、化学療法剤による治療の効力をITPPとの併用治療により増加させる。さらに、いくつかの態様では、ITPP治療が腫瘍微小血管の「正常化(normalization)」を誘導する。
【0029】
ITPPはさらに、腫瘍における薬物排出ポンプの数を減少させ、従って特定の実施形態において、1つ又は複数の化学療法剤に耐性を有する癌を治療し、及び/又は腫瘍細胞に対する化学療法剤の効力を増加させる。
【0030】
本発明は、ITPPと化学療法剤とを含む新規医薬組成物を提供する。本発明に好適な化学療法剤としては、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナストロゾール、アスパラギナーゼ、bcg、ビカルタミド、ブレオマイシン、ブセレリン、ブスルファン、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロドロネート、コルヒチン、シクロホスファミド、シプロテロン、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ジエネストロール、ジエチルスチルベストロール、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エストラジオール、エストラムスチン、エトポシド、エキセメスタン、フィルグラスチム、フルダラビン、フルドロコルチゾン、フルオロウラシル、フルオキシメステロン、フルタミド、ゲムシタビン、ゲニステイン、ゴセレリン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、インターフェロン、イリノテカン、イロノテカン、レトロゾール、ロイコボリン、ロイプロリド、レバミゾール、ロムスチン、メクロレタミン、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、ニルタミド、ノコダゾール、オクトレオチド、オキサリプラチン、パクリタキセル、パミドロネート、ペントスタチン、プリカマイシン、ポルフィマー、プロカルバジン、ラルチトレキセド、リツキシマブ、ストレプトゾシン、スラミン、タモキシフェン、テモゾロミド、テニポシド、テストステロン、チオグアニン、チオテパ、チタノセンジクロリド、トポテカン、トラスツズマブ、トレチノイン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、及びビノレルビンが含まれる。
【0031】
一実施形態において、化学療法剤はパクリタキセルなどの微小管標的薬剤である。別の実施形態において、化学療法剤は白金系薬剤(例えば、シスプラチン)又はドキソルビシンなどのDNA挿入剤である。さらなる実施形態において、化学療法剤はゲムシタビン又はカペシタビンなどのヌクレオシド代謝阻害薬である。
【0032】
特定の実施形態において、組成物の化学療法剤は治療用量以下又は治療量以下である。用語「治療用量以下又は治療量以下」は、単独の物質として治療効果を実現するために投与が必要な薬理活性物質の用量又は量を下回る当該物質の用量又は量を意味する。そのような物質の治療用量以下とは、治療される対象及び疾患状態、対象の体重及び年齢、疾患状態の重症度、投与方法などに応じて異なってもよく、当業者により容易に決定され得る。一実施形態において、治療用量以下又は治療量以下の化学療法剤は、化学療法剤の認可されている総用量、例えばその化学療法剤についてのU.S. Food & Drug Administration承認済みラベル情報に提供される用量の90%未満である。他の実施形態において、治療用量以下又は治療量以下の化学療法剤は認可されている総用量の80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%又はさらには10%未満、例えば、20%〜90%、30%〜80%、40%〜70%又は本明細書に提供される値の範囲内の別の範囲である。
【0033】
本発明はまた、ITPPと化学療法剤とを含む癌治療用キットも提供する。このキットは、以下で考察するとおりの、本発明の治療レジメン又は方法におけるITPP及び化学療法剤の使用についての指示書を提供し得る。このキットに好適な化学療法剤としては、上述のものが含まてもよい。本発明のキットには治療用量以下又は治療量以下の化学療法剤が使用されてもよい。
【0034】
本発明は、ITPPの化合物若しくは薬物又はそのプロドラッグから構成されるインプラント又は他の装置も企図し、該薬物又はプロドラッグは、徐放用の生分解性又は非生分解性ポリマーに製剤化される。非生分解性ポリマーは、ポリマーそのものの分解はなしに、薬物を物理的又は機械的プロセスによって制御された形で放出する。生分解性ポリマーは、体内の自然の過程により徐々に加水分解又は可溶化されるように設計され、混和された薬物又はプロドラッグの漸進的な放出を可能にする。薬物又はプロドラッグはポリマーに化学的に連結されてもよく、又は混和によってポリマー中に組み込まれてもよい。生分解性ポリマー及び非生分解性ポリマーの双方、及び放出制御のため薬物をポリマーに組み込む方法は当業者に周知である。そのようなポリマーの例は、全体が参照により援用される、Brem et al., J. Neurosurg 74: pp. 441-446 (1991)などの多くの文献に見出すことができる。これらのインプラント又は装置は、送達が所望されるところに近接して、例えば腫瘍の部位に植え込むことができる。
【0035】
本発明の医薬組成物は、以上に参照される1つ又は複数の疾患状態において価値を有する1つ又は複数の薬理作用物質を含有してもよいし、又はそれと同時投与(同時に又は逐次的に)されてもよい。
【0036】
製剤は、概してRemington's Pharmaceutical Sciences 17th editionなどの標準的なテキストに従い調製及び投与され得る。例えば、本明細書に記載される組成物は、従来の方法で1つ又は複数の生理学的又は薬学的に許容可能な担体又は賦形剤を使用して製剤化され得る。本発明の組成物及びその薬学的に許容可能な塩及び溶媒和物は、例えば、注射(例えば、皮下、筋肉内、腹腔内)、吸入又は吹込(口又は鼻からのいずれか)又は経口、口腔、舌下、経皮、経鼻、非経口又は直腸投与による投与用に製剤化され得る。一実施形態において、組成物は、標的細胞が存在する部位に、すなわち特定の組織、臓器、又は体液(例えば、血液、脳脊髄液等)の中に局所投与され得る。成分、特に上述のものに加え、本発明の製剤は、当該の製剤タイプを考慮した当該技術分野で標準的な他の作用剤を含み得ることは理解されなければならず、例えば経口投与に好適なものとしては、香味剤又はその他の、口当たりを良くし、且つ嚥下を容易にする作用剤が含まれ得る。
【0037】
経口投与に好適な本発明の製剤は、カプセル、カシェ剤、又は錠剤などの各々が所定量の有効成分を含む個別の単位として;粉末又は顆粒として;水性液体又は非水性液体中の溶液又は懸濁液として;又は水中油液体エマルジョン又は油中水エマルジョン等として提供され得る。錠剤は、任意選択により1つ又は複数の補助成分を伴い、圧縮又は成形により作製され得る。錠剤は任意選択によりコーティングされるか、又は割線が入れられてもよく、中の有効成分の徐放又は制御放出を提供するように製剤化されてもよい。
【0038】
口での局所投与に好適な製剤としては、風味付けされた基剤、通常はスクロース及びアカシア又はトラガカント中に成分を含むロゼンジ;不活性基剤、例えばゼラチン及びグリセリン、又はスクロース及びアカシアの中に有効成分を含むトローチ;及び好適な液体担体中に投与成分を含む洗口剤が含まれる。
【0039】
皮膚に対する局所投与に好適な製剤は、薬学的に許容可能な担体中に投与成分を含む軟膏、クリーム、ゲル及びペーストとして提供され得る。別の局所送達系は、投与成分を含む経皮パッチである。
【0040】
直腸投与用の製剤は、例えばカカオ脂及び/又はサリチル酸を含む好適な基剤を含む坐薬として提供され得る。
【0041】
経鼻投与に好適な製剤としては、担体が固体の場合、例えば20〜500ミクロンの範囲の粒度を有する粗末が含まれ、これは嗅ぎ薬を嗅ぐ方法で;すなわち、鼻を塞ぐように保持された粉末の容器から鼻道を介して急速吸入することにより投与される。担体が液体の場合、例えば鼻腔内スプレー又は点鼻液などの投与に好適な製剤は、有効成分の水性又は油性溶液を含む。
【0042】
経膣投与に好適な製剤は、有効成分に加え、当該技術分野において適切であることが公知の担体などの成分を含有するペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡又はスプレー製剤として提供され得る。
【0043】
吸入に好適な製剤は、有効成分に加え、当該技術分野において適切であることが公知の担体などの成分を含有するミスト、ダスト、粉末又はスプレー製剤として提供され得る。
【0044】
非経口投与に好適な製剤としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び製剤を目的の被投与者の血液と等張にする溶質を含有し得る水性及び非水性滅菌注射溶液;並びに懸濁化剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性滅菌懸濁液が含まれる。製剤は単位用量又は複数回用量の容器、例えば密封アンプル及びバイアルで提供されてもよく、及び例えば注射用水などの滅菌液体担体を使用直前に加えるだけで十分なフリーズドライの(凍結乾燥された)状態で保存されてもよい。即時調合注射溶液及び懸濁液は、先述した種類の滅菌粉末、顆粒及び錠剤から調製され得る。
【0045】
本発明の一部として企図される製剤には、本明細書によって全体として参照により援用される米国特許出願公開第2004/0033267号に開示される方法により作製されるナノ粒子製剤が含まれる。特定の実施形態において、本発明の化合物の粒子は、光散乱法、顕微鏡法、又は当業者に公知の他の適切な方法により計測したとき、約2ミクロン未満、約1500nm未満、約1000nm未満、約500nm未満、約250nm未満、約100nm未満、又は約50nm未満の有効平均粒度を有する。
【0046】
(2)本発明の治療レジメン(treatment regimen)及び方法
ITPPは腫瘍内血管正常化を誘導する。ITPPにより誘導される血管正常化は、放射線及び細胞毒性薬物の双方に対する腫瘍細胞の耐性並びに腫瘍転移の主な理由である腫瘍低酸素に拮抗する。
【0047】
一態様において、本発明は、対象における癌又は腫瘍を治療するための治療レジメン又は方法であって、治療有効量のITPPと化学療法剤とを同時に又は逐次的に投与する工程を含む方法を提供する。語句「治療有効量」は、典型的には治療レジメン又は方法との関連において妥当なベネフィット/リスク比で、何らかの所望の局所的な又は全身性の作用を生じるそのような物質、組成物、キット又は治療レジメンの全体としての量を意味する。そのような物質の治療有効量は、治療される対象及び疾患状態、対象の体重及び年齢、疾患状態の重症度、投与方法などに応じて異なってもよく、当業者により容易に決定され得る。例えば、本明細書に記載される特定の組成物は、そのような治療に適用可能な妥当なベネフィット/リスク比で所望の作用を生じるのに十分な量で投与され得る。
【0048】
本発明の方法における使用に適した好適な化学療法剤としては、上述のものが含まれ得る。特定の実施形態において、化学療法剤は、パクリタキセル、シスプラチン又はゲムシタビンである。
【0049】
例示的な癌としては、限定はされないが、白血病、骨髄腫、及びリンパ腫を含む血液新生物;腺癌及び扁平上皮癌を含む癌腫;メラノーマ並びに肉腫が含まれる。癌腫及び肉腫は、しばしば「固形腫瘍」とも称される。本発明の方法により治療され得るタイプの腫瘍は、好ましくは、限定はされないが、肉腫、癌腫を含む固形腫瘍、並びにその他の、限定はされないが、生殖細胞腫瘍、中枢神経系の腫瘍、乳癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮癌、肺癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、星状細胞腫、神経膠腫、膵癌、胃癌、肝癌、結腸癌、メラノーマ、腎癌、膀胱癌、食道癌、喉頭癌、耳下腺癌、胆道癌、直腸癌、子宮内膜癌、扁平上皮癌、腺癌、小細胞癌、神経芽細胞腫、中皮腫、副腎皮質癌、上皮癌、類腱腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、内分泌腫瘍、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、胚細胞腫瘍、肝芽腫、肝細胞癌、リンパ腫、メラノーマ、非横紋筋肉腫性軟部組織肉腫(non-rhabdomyosarcome soft tissue sarcoma)、骨肉腫、末梢性未分化神経外胚葉性腫瘍(peripheral primative neuroectodermal tumor)、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、及びウィルムス腫瘍を含む固形腫瘍癌である。
【0050】
一実施形態において、ITPPと化学療法剤とが同時に投与される。特定の実施形態において、ITPPと、化学療法剤であるゲムシタビンなどのヌクレオシド代謝阻害薬とが同時に投与される。別の具体的な実施形態において、癌は膵癌である。特定の実施形態において、癌はメラノーマである。
【0051】
別の実施形態において、ITPPと化学療法剤とは逐次的に投与される。例えば、ITPPは化学療法剤の投与前に投与される。好ましい実施形態において、化学療法剤は腫瘍の部分的血管正常化の発生後に投与される。本明細書で使用されるとき「部分的血管正常化」は、その間に既存の腫瘍血管系が血管内皮及び基底膜の構造の改善を示し、従って漏出性、拡張及び/又は低酸素が低減した生理学的状態を指す。そのような部分的血管正常化は、pO2、低酸素誘導因子1α(HIF−1α)、VEGF、チロシンキナーゼTie−2、及びヘムオキシゲナーゼ1(HO−1)のうちの1つ以上のレベルの変化を検出及び/又はモニタすることにより、又は磁気共鳴イメージング(MRI)及び磁気共鳴血管造影(MRA)を含む技術を使用して腫瘍血管の生理学的状態をモニタすることにより決定され得る。
【0052】
好ましい実施形態において、ITPPは化学療法剤の投与の約2時間前〜5日前に投与される。別の好ましい実施形態において、ITPPは化学療法剤(例えば、パクリタキセルなどの微小管標的薬剤又はシスプラチンなどのDNA挿入剤)の投与の約1〜4日前、例えば化学療法剤の投与の2〜3日前に投与される。
【0053】
複数ラウンドのITPP及び化学療法剤を投与することができる。特定の実施形態では1ラウンドのみが投与される。他の実施形態では、2ラウンド以上(例えば、2、3、4ラウンド、又はそれ以上)のITPP及び化学療法剤が投与される。ラウンドは、1日〜6ケ月、例えば1日〜3ケ月、1週間〜2週間、2週間〜3週間、3週間〜1ケ月、1ケ月〜2ケ月、又は2ケ月〜3ケ月の間隔が置かれてもよい。
【0054】
化学療法剤は、当該薬剤の単独の活性薬剤としての用量に基づき治療用量以下又は治療量以下で投与され得る。一実施形態において、投与される治療用量以下又は治療量以下の化学療法剤は、化学療法剤の認可されている総用量の90%未満又は上記のとおりの別の用量である。
【0055】
本発明は、薬剤耐性癌の治療方法も提供する。特定の実施形態において、薬剤耐性癌は、1つ又は複数の化学療法剤による治療が不可能な癌である。例えば薬剤耐性癌は、薬剤による治療後に認識可能な腫瘍サイズの減少を呈しないものであってよく、及び/又は腫瘍の進行(例えば、ステージIIからステージIIIへの、又はステージIIIからステージIVへの)を有意に阻害しないものである。特定の癌、特にメラノーマが耐性を有する化学療法剤の例としては、微小管標的薬剤(例えば、パクリタキセル)及びDNA挿入剤(例えば、シスプラチンなどの白金系薬剤)が含まれる。薬剤耐性アッセイについては、例えば、参照により本明細書に援用されるLowe et al. (1993) Cell 74:95 7-697に記載されている。他の実施形態において、薬剤耐性癌は、非耐性癌細胞と比較したとき著しく増加したレベルの胆管側多選択性有機陰イオン輸送体1及び/又はP−糖タンパク質薬物排出ポンプを有する癌である。
【0056】
薬剤耐性癌の治療方法には、ITPPの単独投与か、又は本明細書に記載されるものなどの別の化学療法剤との併用でのITPPの投与のいずれかが関わり得る。
【0057】
本発明はまた、必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程を含む過剰増殖性病態の治療方法を提供し、該過剰増殖性病態は癌でなく、又は望ましくない血管形成により特徴付けられるものではない。本発明の方法により治療され得る過剰増殖性病態としては、限定はされないが、糖尿病性腎症、糸球体硬化症、IgA腎症、肝硬変、胆道閉鎖症、うっ血性心不全、強皮症、放射線誘発線維症、肺線維症(特発性肺線維症、膠原血管病、サルコイドーシス、間質性肺疾患及び外因性肺障害)、乾癬、陰部疣贅及び過剰増殖性細胞増殖疾患、例えば、角質増殖症、魚鱗癬、角皮症又は扁平苔癬などの過剰増殖性ケラチノサイト疾患を含むものが含まれる。いくつかの実施形態において、過剰増殖性病態を示す組織又は臓器は低酸素状態である。さらなる実施形態において、過剰増殖性病態の治療方法は、さらなる抗過剰増殖剤(antihyperproliferative agent)を投与する工程をさらに含む。抗過剰増殖剤としては、ドキソルビシン、ダウノルビシン、マイトマイシン、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、シスプラチン、VP16、エンジイン(enedyine)、タキソール、ビンクリスチン、ビンブラスチン、カルムスチン、メルファラン(mellphalan)、シクロホスファミド(cyclophsophamide)、クロラムブシル、ブスルファン、ロムスチン、5−フルオロウラシル、ゲムシタビン、BCNU、又はカンプトテシンが含まれる。
【0058】
本発明は、必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程を含む対象における免疫応答の促進方法をさらに提供し、該対象は、癌又は別の腫瘍に罹患していない。一実施形態において、該対象は、望ましくない血管形成を受けていない。
【0059】
(3)定義
本明細書で使用されるとき、以下の用語及び語句は下記のとおり定める意味を有するものとする。特に定義されない限り、本明細書で使用される科学技術用語は全て、当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0060】
用語「薬剤(agent)」は、本明細書では、化合物、化合物の混合物、生体高分子(核酸、抗体、タンパク質又はその一部分、例えばペプチドなど)、又は細菌、植物、真菌、又は動物(特に哺乳動物)の細胞若しくは組織などの生物学的材料から得られる抽出物を指して使用される。そのような薬剤の活性によって薬剤は、対象体内で局所的又は全身的に作用する一つの生物学的、生理学的、又は薬理学的活性物質(又は複数の物質)である「治療剤」として好適となり得る。
【0061】
用語「非経口投与」及び「非経口的に投与された」は当該技術分野で認知されており、経腸投与及び局所投与以外の、通常は注射による投与方法を指し、限定するものではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、及び胸骨内の注射及び注入が含まれる。
【0062】
「患者」、「対象」、「個体」又は「宿主」は、ヒト又は非ヒト動物のいずれも参照する。
【0063】
「細胞毒性薬物又は薬剤」は、細胞、好ましくは癌細胞を破壊する能力を有する任意の薬剤である。
【0064】
用語「薬学的に許容可能な担体」は当該技術分野で認知されており、任意の対象組成物又はその構成成分の担持又は輸送に関わる薬学的に許容可能な材料、組成物又は媒体、例えば液体又は固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、又は封入材料を指す。各担体は、対象組成物及びその構成成分と適合性があり、且つ患者にとって有害でないという意味で「許容可能」でなければならない。薬学的に許容可能な担体として機能し得る材料のいくつかの例としては、(1)ラクトース、グルコース及びスクロースなどの糖;(2)トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプンなどのデンプン;(3)セルロース、及びその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース;(4)粉末トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)カカオ脂及び坐薬ワックスなどの賦形剤;(9)ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及びダイズ油などの油;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコールなどのポリオール;(12)オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張生理食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝溶液;及び(21)医薬製剤に用いられる他の非毒性の適合物質が含まれる。
【0065】
用語「治療剤」は当該技術分野で認知されており、対象体内で局所的又は全身的に作用する生物学的、生理学的、又は薬理学的活性物質である任意の化学的部分を指す。この用語はまた、疾患の診断、治癒、緩和、治療若しくは予防における使用、又は動物若しくはヒトにおける望ましい身体的若しくは精神的発達及び/又は状態の促進における使用が意図される任意の物質も意味する。
【0066】
病体又は疾患を「治療する」とは、病態又は疾患の少なくとも1つの症状の治癒並びに改善を指す。治療は、組成物を投与されない対象と比べて、対象における医学的状態の症状の頻度を減少させるか、又はその発現を遅延させる組成物の投与を含む。従って、癌の治療は、例えば統計的及び/又は臨床的に有意な量だけ、治療を受ける患者集団において検出可能な癌性増殖の数及び/又はサイズを未治療の対照集団と比べて減少させること、及び/又は治療集団における検出可能な癌性増殖の出現を未治療の対照集団と比べて遅延させることを含む。
【実施例】
【0067】
本発明は以上で概略的に説明したが、以下の例を参照することによりさらに容易に理解され得る。これらの例は、単に本発明の特定の態様及び実施形態を例示するために含まれるに過ぎず、いかなる形であっても本発明の限定を意図するものではない。
【0068】
実施例1 B16F10LucGFP細胞系の産生
B16F10マウスメラノーマ形質導入を、5’LTRプロモーターにより駆動されるホタルルシフェラーゼcDNA、次にIRES配列及びEGFP cDNAであるレトロウイルスベクターにより行った。ベクターは、pBMN−Luc−I−GFPプラスミド(Magnus Essand博士、Uppsala、スウェーデンから提供いただいた)と、gag、pol、及びenv遺伝子を安定的に発現するPT67パッケージング細胞系(Clontech)とを使用して作製した。さらに、gag及びpol遺伝子を提供するpM13プラスミド(Christine Brostjan博士、Vienna、オーストリアから提供いただいた)を使用して産生効率を高めた。パッケージング細胞は、10%FCS、ペニシリン(100U/mL)及びストレプトマイシン(100μg/mL)を補足したDMEM HG培地(PAA Laboratories)中で培養し、SuperFect試薬(Qiagen)を製造者の指示に従い使用してpBMN−Luc−I−EGFP及びpM13プラスミドと共トランスフェクトした。トランスフェクション後、細胞を32℃で48時間培養した。次にレトロウイルスベクターを含む培地を回収し、完全RPMI培地と1:1のv/v比で混合してB16F10細胞の形質導入に使用した。3日後、蛍光顕微鏡を使用して、EGFP(約5%)の存在から形質導入効率を評価した。EGFP陽性コロニーを数代継代し、MoFloフローサイトメーター(Dako Cytomation)を使用して3セットに仕分けした後、99%超の純度のB16F10LucGFP細胞系を得た。
【0069】
実施例2 O2圧による細胞の化学療法に対する感受性
様々なpO2%下で48時間にわたるシスプラチン(シスジクロロジアミン白金)(Sigma-Aldrich)又はパクリタキセル(Calbiochem)に対する用量反応曲線を作成した。Alamar blue試験(Biosource)によって製造者の説明どおりに細胞生存度を評価した。
【0070】
実施例3 実験的転移アッセイ
B16F10LucGFPマウスメラノーマ細胞(0.1mlの生理食塩水中105個の細胞)を尾静脈から静脈注射した後、マウス(Janvierからの8週齢雌性C57BL/6)を5日毎の1.5g/kgのITPP腹腔内注射により処置した(各処置群につき10匹のマウス)。処置は腫瘍細胞の接種後5日目に開始した。19日後又は27日後にマウスを安楽死させ、肺を別途回収した。肉眼的な肺病巣を計数し、組織中のメラノーマ細胞量を定量するため化学発光アッセイ(Promega)によりルシフェラーゼを測定した。全ての動物試験手順及び動物の使用は仏国Comite d'Ethique pour l'experimentation animale, Campus CNRS d'Orleansの承認を受けた。
【0071】
実施例4 皮下メラノーマモデル
B16F10LucGFP細胞を、25%Matrigel(商標)(OptiMEM中50%)中の105個の細胞により構成される100μ1プラグの注射後に皮下腫瘍として成長させた。MatrigelはBD Biosciencesから、及びOptiMEMはInvitrogenから得た。接種から25日後にマウスを安楽死させ、腫瘍及び肺を切除した。シスプラチン(生理食塩水中10mg/kg、腹腔内)及びパクリタキセル(2mg/kg、50%エタノール・50%クレモフォールEL中;Sigma-Aldrich、経口)との併用でのITPP(生理食塩水中100μg/kg〜2.0g/kg、腹腔内)の時間及び用量に従う様々な処置プロトコルを適用した。処置はメラノーマ細胞接種後7日目、9日目又は11日目に開始した。
【0072】
実施例5 低酸素関連、血管形成関連、及びメラノーマ関連マーカーの生化学的定量化
肺を溶解緩衝液(Active motif)中にホモジナイズした。遠心後、清澄な上清を回収した。BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Scientific)により総タンパク質量を測定した。肺溶解物中のHIF−1α、VEGF、Tie−2及びHO−1を、比色サンドイッチELISAを用いて製造者の指示に従い定量化した。HIF−1α、VEGF及びTie−2のELISAキットはR&Dから得た。HO−1のELISAキットはTakaraから得た。
【0073】
実施例6 半定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応分析
LOX用のTaqmanポリメラーゼ連鎖反応プライマー配列は5’−ATCGCCACAGCCTCCGCAGCTCA−3’(配列番号1)及び5’−AGTAACCGGTGCCGTATCCAGGTCG−3’(配列番号2)であった。β−アクチン(内部標準)については、プライマー配列は5’−CCAGAGCAAGAGAGGCATCC−3’(配列番号3)及び5’−CTGTGGTGGTGAAGCTGAAG−3’(配列番号4)であった。増幅したcDNAバンドをImageQuantソフトウェア(Becton and Dickinson)により定量した。LOXのmRNAレベルはβ−アクチンmRNAに対して正規化した。
【0074】
実施例7 免疫組織学的染色
腫瘍組織を組織凍結媒体Tissue-Tek(Sakura)に包埋し、液体窒素でスナップ凍結した。凍結切片を固定化し、PBS中FCS5%で1:200希釈したeBiosciencesからのマウスCD31(PECAM−1、血小板/内皮細胞接着分子)に対するラットモノクローナルIgG2a抗体、ウサギIgG抗SMA(平滑筋アクチン)抗体(AbCAM)、又はマウスIgG2a抗P−糖タンパク質(C219)(Calbiochem)を用いて染色した。それぞれヤギIgG−FITC標識抗ラット免疫グロブリン、ヤギIgG−FITC標識抗ウサギ免疫グロブリン又はヤギIgG−FITC標識抗マウス免疫グロブリン(PBS中1:200希釈)を二次抗体として使用した。細胞核を検出するため、切片をビスベンズイミドH33258(Sigma-Aldrich)と共にPBS中1:1000でインキュベートした。試料をVectashield(Vector)にマウントし、Zeiss 200M倒立蛍光顕微鏡で蛍光顕微鏡検出を実施した。腫瘍切片をヘマトキシリンエオシン染色した後、腫瘍壊死を分析した。
【0075】
実施例8 磁気共鳴イメージング(MRI)
950mT/mグラジエントセットを備えた小動物用の9.4T水平マグネット(94/21 USR Bruker Biospec)によりMRIアッセイを実施した。直線状の同質コイル(内径:35mm)にマウスを置いた。動物はガス(50%N2O:0.7l/分−50%O2:0.7l/分−イソフルラン1.5%)麻酔下に維持し、温度は36℃で一定に保ち、取得中はマウス胸部に置いた空気バルーンを使用して呼吸数をモニタすることにより麻酔の吐出量を調整した。軸面及び前額面の双方において高速低角度ショット(FLASH)シーケンスを使用して、MR血管造影による腫瘍血管新生の計測を実施した。FLASHパルスシーケンスを腫瘍の血管形成の進化の研究に適合させた。この技術により同じ動物に対する腫瘍の血管樹の3D構造を経時的に追うことが可能となる。
【0076】
実施例9 Oxylite pO2計測
oxylite 2000E PO2システム(Oxford Optronics)は、230μm径の光ファイバープローブの先端に固定化された塩化ルテニウムのO2依存性の蛍光寿命を測定することによりpO2を計測する。蛍光パルスの寿命は先端の酸素張力に反比例する。キシラジン/ケタミンの腹腔内注射によりマウスを麻酔した後、説明どおりにoxyliteプローブ先端を腫瘍内に取り付け、酸素圧を記録した。
【0077】
実施例10 ITPP−RBCは腫瘍微小環境における低酸素に選択的に拮抗する
ITPP−RBCが生体内で低酸素に拮抗することを確認するため、ITPP処置マウス及び未処置マウスにおける左脚の上に皮下移植したメラノーマ腫瘍内部の酸素張力の値の比較を実施した。酸素圧(pO2)は、光ファイバープローブの先端にある塩化ルテニウムのO2依存性の蛍光寿命を決定することにより計算した。蛍光パルスの寿命は、プローブの先端の酸素張力に反比例する。無処置動物の腫瘍は酸素圧値が2mmHgを下回り(図1)、極めて低酸素性であったが、ITPP処置マウスの腫瘍ではpO2は40mmHgの範囲に達した(図1A)。このpO2の増加はITPPの腹腔内注射後30分経った直後に起こり(図1B、図1C)、注射後24時間に示されるとおり(図1A)最大40mmHgの高レベルで少なくとも48時間維持された。さらに、同じ動物の対応する非腫瘍性の(右)脚の筋肉において示されるとおり、平行同時測定(図1C)ではpO2に対する何らの変化も、又はいかなる影響も検出されなかった一方、腫瘍ではpO2レベルはITPP注射から30分後に増加したことから、ITPP−RBCは低酸素性腫瘍を特異的に標的化した。
【0078】
実施例11 ITPP−RBCはB16メラノーマ細胞による肺転移形成を妨げる
抗転移剤としてのITPPを検証するため、マウスにメラノーマ細胞を静脈内注射することによる肺転移の「人工」モデルを使用した。B16F10LucGFP細胞系を使用し、これはGFP及びルシフェラーゼレポーター遺伝子により形質導入されたメラノーマB16F10系であり、組織中のルシフェラーゼ活性を分析することによりメラノーマ細胞の追跡及び定量が可能である。増殖血管形成の促進及び転移発生に関してB16F10メラノーマ細胞系の生物学的挙動をB16F10LucGFP細胞と比較する実験では、有意な差も、ルシフェラーゼの低酸素感受性も示されず、従ってその使用の妥当性が確認された。
【0079】
生体内実験をメラノーマ細胞接種後27日目まで追跡した。ITPP処置をB16細胞注射後5日目から開始したとき、転移性結節は極めて大きく減少した。この効果は、肺におけるルシフェラーゼ活性を計測することにより(図2A)定量することができた。これにより目視検査では検出不可能な微小転移の生化学的定量化が可能となった。ITPPの作用が結節における酸素分圧の変化と関連したかどうかを調べるため、低酸素誘導因子−αサブユニットのHIF−1αアイソフォームの発現を分析した。HIF−1αは哺乳動物細胞の酸素レベルに対する応答に決定的に重要であり、細胞のO2センサと見なされる。HIF−1αが低酸素応答エレメント(HRE)に結合すると、低酸素関連遺伝子のカスケードがオンになる。図2BはHIF−1αレベルを示し、これは未処置メラノーマを有するマウスの肺では明確にアップレギュレーションされ、ITPP処置したマウスの肺では劇的に低下した。
【0080】
血管内皮成長因子(VEGF)レベルはHIF−1αに依存するとともに抗血管形成治療の主な標的であり、ELISAによりアッセイしたとき、ITPP−RBCの影響下では対照レベルまで低下した(図2C)。これらの結果はTie−2発現を調べることにより確認された。Tie−2は特異的な内皮チロシンキナーゼ受容体であり、低酸素を減少させる正常な血管の成熟化に必須である。低酸素の肺で著しく減少するこのマーカーがITPP処置により再誘導されたことから(図2D)、転移性結節における血管が組織化されない血管形成を受け、及び血管形成がITPP−RBCにより制御されたとき、より成熟した血管がTie−2マーカーを再発現したことが示される。ITPP処置後、HIF−1αにより誘導される細胞保護酵素であるヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)も無処置マウスと比較して著しく減少した(図2E)。HO−1の過剰発現により、メラノーマ細胞の生存能力、細胞増殖及び血管形成能が高くなり、転移が増加し、及び対照の腫瘍を有するマウスの生存率が低下する。癌細胞の浸潤過程に関わり、且つ低酸素により制御される酵素であるリシルオキシダーゼの半定量的PCR mRNA分析に関するさらなる研究(図2F)により、「低いO2親和性RBC」をもたらすITPP処置の有益な作用も実証された。
【0081】
実施例12 ITPP−RBCは同所性メラノーマ肺転移を根絶する
原発腫瘍皮下移植後のITPP−RBCの転移に対する効果を評価した。腫瘍接種後7日目に開始した短期処置(3回のITPP注射、5日間隔)では、ITPPは肺転移を大幅に減少させた(図3A)。ITPP処置の7日目での開始が、短期投与プロトコル及び慢性投与プロトコル(7日目、12日目、16日目、18日目、19日目)の双方で最適であった。9日目又は11日目の開始はそれより有効性が低く、慢性投与では肺転移の促進さえ生じた(図3A)。この観察結果の理由については不明であるものの、血管形成の完全な阻害をもたらす慢性投与によってさらに腫瘍の表現型が変わり、侵襲性及び転移が増加した可能性がある。
【0082】
実施例13 ITPP−RBCは腫瘍内血管正常化を誘導する
磁気共鳴イメージング(MRI)のMRA(磁気共鳴血管造影)を腫瘍血管樹の3D構造追跡用に適応させることにより、腫瘍における微小循環の構造的な変化を評価した。
【0083】
メラノーマ発症の21日後、腫瘍は典型的な無秩序な血管構造を示した(図3Ba)。9日目及び14日目にITPPで処置したマウスでは、18日目及び19日目におけるさらなる反復処置後に血管系は密度が低くなり、顕著に正常化した。腫瘍内を調べると、末梢に多数の血管が明らかとなった;抗平滑筋抗原抗体により標識された、血管を取り囲む周皮細胞の動員により正常化が示された一方(図3Bb)、無処置腫瘍(図3Ba、図3Bb)ではそのような秩序化は認められなかった。この「正常化」に向かう傾向は、腫瘍サイズの著しい低減を伴った(図3Ba)。
【0084】
同じ移植原発腫瘍において、薬剤耐性の原因である多剤排出ポンプに対するITPP処置の効果について調べた。ITPPはP−糖タンパク質薬物排出ポンプを下方制御する。この効果が、薬物の有効細胞内濃度の低下に起因する化学的耐性及び薬物−標的相互作用の障害に拮抗し得る。従って、ITPPの誘導による血管の正常化は腫瘍における薬物排出ポンプの低下と相関を有し、従って薬物の腫瘍細胞に対する効力を増加させ得る。
【0085】
実施例14 ITPP−RBCは同所性メラノーマ肺転移を根絶し、化学療法にメトロノーム的相乗作用を及ぼす
ITPPがRBCによる低酸素組織への酸素送達を向上させる能力を有することから、パクリタキセル及びシスプラチンなどの薬物によるメラノーマ処置の効力に対するその効果について調べた。酸素正常状態、低酸素状態及び再酸素化後のB16メラノーマ細胞に対する薬物の効果を、初めにインビトロで試験した。図4は、B16細胞に対する薬物の細胞毒性が、酸素張力の低下に伴い低下することを示している(1%又は11%)。しかしながら、細胞を再酸素化すると(1%から11%及び20%へ)、薬物の細胞毒性はpO2レベルに依存してある程度まで再び確立された(図4A、図4B)。腫瘍細胞におけるp−糖タンパク質の生体内調節と比較したこれらのデータは、低酸素により誘導されるMDR促進によって調節される対薬物感受性が、ITPPにより誘導される腫瘍再酸素化によって逆転し得ることを示唆している。
【0086】
ITPP処置をインビボでパクリタキセル及びシスプラチンと組み合わせた。ITPP、パクリタキセル及びシスプラチンによる同時処置後、肺転移は劇的に増加し(図5A)、プロファイルはITPP単独による慢性処置で観察されるもの(上記を参照)と同様であった。パクリタキセル及びシスプラチンはそれ自体が内皮細胞の成長を阻害し(図4C)、これらの化合物のインビボでの抗血管形成作用が裏付けられる。腫瘍血管新生を破壊するそのような抗血管形成治療は、低酸素耐性腫瘍細胞の選択により転移性浸潤を促進することが認められており、従って図3に示されるデータが実証され、及び腫瘍血管新生の破壊又は除去よりむしろ血管正常化が、より適切且つ潜在的に有益な癌治療手法と考えられることを示している。
【0087】
発症した固形腫瘍(図5B)及び肺転移(図5A)の双方の処置に対するITPP及び薬物の注射スケジュールの影響を試験した。14日目までITPP単独で処置したマウスを、18日目及び19日目にITPP単独に再び曝露して血管の正常化を試み、続いて20日目及び21日目にシスプラチン+パクリタキセルで処置した後、25日目に分析した。結果は目覚しいものであった:同時処置と正反対に肺転移が根絶されたが(図5A)、特定の癌療法用のプロトコル設定におけるメトロノーム式パラメータの重要性が確認された。実際、特異的内皮マーカーであるCD31(PECAM−1)染色による腫瘍微小血管の分析は、対照における不規則な形状及び内皮細胞の顕著なCD31染色を伴う構造化が不十分な多量の微小血管(図5Ba)と比較して、化学療法薬による処置後、ITPP処置動物における腫瘍内微小血管は密度の低下を示した。さらに図5Bには、ITPPによる定期的治療を18日目及び19日目に延長し、従って20日目及び21日目の薬物処置前における血管及び酸素張力の正常化を目標とすることにより、細胞毒性が強力に促進したことが示され、これは、拡散したCD31陽性に対応し(図5Ba3)、かつ、H&E染色(図5Ba3及び図5Bb3)により表され、且つ腫瘍サイズの低下及び壊死誘導により確認される壊死範囲を示す25日目の壊死によって示されるとおりである。これは化学療法と併用したITPP治療の強力な効果を示している。
【0088】
実施例15 ITPPのゲムシタビンとの併用治療は動物モデルにおいて強力な相加作用を示す
ラット膵腫瘍モデル及びヒトPanc−1膵腫瘍異種移植マウスモデルの双方において、ITPPのゲムシタビンとの併用処置は強力な相加作用を示した。初めに双方のモデルにおいて、ゲムシタビン及びプラセボの効果と比較したITPP処置単独での効果を調べた(図6及び図8)。次に、ゲムシタビン処置単独及びプラセボの効果と比較した、双方のモデルにおけるITPPのゲムシタビンとの併用処置の効果を調べた。
【0089】
ラット膵腫瘍モデルでは、併用処置群のラットは、14日目から49日目までの期間にわたり週1回、ゲムシタビン(25mg/kg又は50mg/kg)と組み合わせたITPP(1.5mg/kg)の投与を受けた。ゲムシタビン処置群のラットは、16日目、18日目、及び20日目にゲムシタビン(100mg/kg)単独の投与を受けた。対照群のラットは処置しなかった。被験動物の生存率は併用処置群において大幅に亢進した。動物生存プロファイルはまた、ゲムシタビンに対する用量依存性も実証した(図7)。
【0090】
異種移植腫瘍モデルでは、併用処置群のマウスは、14日目から49日目までの期間にわたり週1回、ゲムシタビン(25mg/kg又は50mg/kg)と組み合わせたITPP(2mg/kg)の投与を受けた。ゲムシタビン処置群のマウスは、16日目、18日目及び20日目にゲムシタビン(100mg/kg)の投与を受けた。対照群のマウスは処置しなかった。併用処置はゲムシタビン処置単独と比較したとき動物生存指数を亢進することを示したが、しかしゲムシタビンに対する用量依存性はなかった(図9)。
【0091】
OXY111A及び/又はゲムシタビンで処置した膵管腺癌動物の生存期間中央値を追跡し、以下の表1に要約した。
【0092】
【表1】
【0093】
ラット膵腫瘍モデルにおいて、ITPP、ゲムシタビン又はプラセボの処置後のHIF−1α、VEGF、カスパーゼ−3及びβ−アクチンの発現をさらに調べた(図10)。
【0094】
実施例16 ITPP治療は免疫細胞の腫瘍への浸潤及び腫瘍侵襲を促進する
B16腫瘍モデルにおいて、OXY111Aを7日目、8日目、14日目、15日目、21日目、22日目、29日目及び30日目に腹腔内注射した後、OXY111A処置によりCD68(M2型)マクロファージのB16腫瘍への浸潤が大幅に促進したことが実証された(図11)。
【0095】
同じモデルにおいて、ITPP処置によりCD49b NK細胞の浸潤、B16腫瘍中のCD31 EC細胞の存在量、及びメラノーマB16腫瘍におけるNK細胞の侵襲も大幅に促進された(図12及び図13)。
【図1−1】
【図1−2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の治療方法であって、
必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程と;
腫瘍における部分的血管正常化後に前記対象に治療有効量の化学療法剤を投与する工程とを含む方法。
【請求項2】
前記腫瘍における部分的血管正常化の発生を検出する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記部分的血管正常化の発生が、前記腫瘍の酸素分圧(pO2)レベルを計測することにより検出される、請求項3に記載の方法。
【請求項4】
前記化学療法剤が治療用量以下で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化学療法剤の前記治療用量以下が、承認済みラベル用量の70%未満である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
イノシトールトリスピロリン酸(ITPP)と、パクリタキセル及びシスプラチンから選択される化学療法剤とを含む医薬組成物。
【請求項7】
前記化学療法剤がパクリタキセルである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記化学療法剤がシスプラチンである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
治療有効量のITPPと、パクリタキセル及びシスプラチンから選択される化学療法剤とを同時に又は逐次的に投与する工程を含む、対象において癌を治療するための治療レジメン。
【請求項10】
前記ITPPと前記化学療法剤とが同時に投与される、請求項9に記載の治療レジメン。
【請求項11】
前記ITPPと前記化学療法剤とが逐次的に投与される、請求項9に記載の治療レジメン。
【請求項12】
前記ITPPが、前記化学療法剤を投与する前に投与される、請求項11に記載の治療レジメン。
【請求項13】
前記化学療法剤がパクリタキセルである、請求項9〜12のいずれか一項に記載の治療レジメン。
【請求項14】
前記化学療法剤がシスプラチンである、請求項9〜12のいずれか一項に記載の治療レジメン。
【請求項15】
イノシトールトリスピロリン酸(ITPP)と治療量以下の化学療法剤とを含む医薬組成物。
【請求項16】
前記化学療法剤が、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナストロゾール、アスパラギナーゼ、bcg、ビカルタミド、ブレオマイシン、ブセレリン、ブスルファン、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロドロネート、コルヒチン、シクロホスファミド、シプロテロン、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ジエネストロール、ジエチルスチルベストロール、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エストラジオール、エストラムスチン、エトポシド、エキセメスタン、フィルグラスチム、フルダラビン、フルドロコルチゾン、フルオロウラシル、フルオキシメステロン、フルタミド、ゲニステイン、ゴセレリン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、インターフェロン、イリノテカン、イロノテカン、レトロゾール、ロイコボリン、ロイプロリド、レバミゾール、ロムスチン、メクロレタミン、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、ニルタミド、ノコダゾール、オクトレオチド、オキサリプラチン、パクリタキセル、パミドロネート、ペントスタチン、プリカマイシン、ポルフィマー、プロカルバジン、ラルチトレキセド、リツキシマブ、ストレプトゾシン、スラミン、タモキシフェン、テモゾロミド、テニポシド、テストステロン、チオグアニン、チオテパ、チタノセンジクロリド、トポテカン、トラスツズマブ、トレチノイン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、及びビノレルビンから選択される、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記化学療法剤がパクリタキセル及びシスプラチンから選択される、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記化学療法剤がパクリタキセルである、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記化学療法剤がシスプラチンである、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記化学療法剤の前記治療用量以下が、承認済みラベル用量の70%未満である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項21】
治療有効量のITPPと治療量以下の化学療法剤とを同時に又は逐次的に投与する工程を含む、対象において癌を治療するための治療レジメン。
【請求項22】
前記化学療法剤が、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナストロゾール、アスパラギナーゼ、bcg、ビカルタミド、ブレオマイシン、ブセレリン、ブスルファン、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロドロネート、コルヒチン、シクロホスファミド、シプロテロン、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ジエネストロール、ジエチルスチルベストロール、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エストラジオール、エストラムスチン、エトポシド、エキセメスタン、フィルグラスチム、フルダラビン、フルドロコルチゾン、フルオロウラシル、フルオキシメステロン、フルタミド、ゲニステイン、ゴセレリン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、インターフェロン、イリノテカン、イロノテカン、レトロゾール、ロイコボリン、ロイプロリド、レバミゾール、ロムスチン、メクロレタミン、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、ニルタミド、ノコダゾール、オクトレオチド、オキサリプラチン、パクリタキセル、パミドロネート、ペントスタチン、プリカマイシン、ポルフィマー、プロカルバジン、ラルチトレキセド、リツキシマブ、ストレプトゾシン、スラミン、タモキシフェン、テモゾロミド、テニポシド、テストステロン、チオグアニン、チオテパ、チタノセンジクロリド、トポテカン、トラスツズマブ、トレチノイン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、及びビノレルビンから選択される、請求項21に記載の治療レジメン。
【請求項23】
前記化学療法剤がパクリタキセル及びシスプラチンから選択される、請求項22に記載の治療レジメン。
【請求項24】
前記化学療法剤がパクリタキセルである、請求項23に記載の治療レジメン。
【請求項25】
前記化学療法剤がシスプラチンである、請求項23に記載の治療レジメン。
【請求項26】
前記化学療法剤の前記治療用量以下が、承認済みラベル用量の70%未満である、請求項21に記載の治療レジメン。
【請求項27】
対象における癌の治療方法であって、治療有効量のITPPと治療量以下の化学療法剤とを同時に又は逐次的に投与する工程を含む方法。
【請求項28】
対象における多剤耐性癌の治療方法であって、治療有効量のITPPを投与する工程を含む方法。
【請求項29】
前記癌がパクリタキセル及びシスプラチンの1つ又は複数に耐性を有する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程を含む過剰増殖性病態の治療方法であって、前記過剰増殖性病態が癌でなく、又は望ましくない血管形成により特徴付けられるものではない、方法。
【請求項31】
前記過剰増殖性病態が、糖尿病性腎症、糸球体硬化症、IgA腎症、肝硬変、胆道閉鎖症、うっ血性心不全、強皮症、放射線誘発線維症、肺線維症、乾癬、陰部疣贅及び過剰増殖性細胞増殖疾患から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記過剰増殖性病態を示す組織又は臓器が低酸素状態である、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
さらなる抗過剰増殖剤を投与する工程をさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程を含む、対象における免疫応答の促進方法であって、前記対象が癌又は別の腫瘍に罹患していない、方法。
【請求項35】
前記対象が望ましくない血管形成を受けていない、請求項34に記載の方法。
【請求項1】
癌の治療方法であって、
必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程と;
腫瘍における部分的血管正常化後に前記対象に治療有効量の化学療法剤を投与する工程とを含む方法。
【請求項2】
前記腫瘍における部分的血管正常化の発生を検出する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記部分的血管正常化の発生が、前記腫瘍の酸素分圧(pO2)レベルを計測することにより検出される、請求項3に記載の方法。
【請求項4】
前記化学療法剤が治療用量以下で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化学療法剤の前記治療用量以下が、承認済みラベル用量の70%未満である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
イノシトールトリスピロリン酸(ITPP)と、パクリタキセル及びシスプラチンから選択される化学療法剤とを含む医薬組成物。
【請求項7】
前記化学療法剤がパクリタキセルである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記化学療法剤がシスプラチンである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
治療有効量のITPPと、パクリタキセル及びシスプラチンから選択される化学療法剤とを同時に又は逐次的に投与する工程を含む、対象において癌を治療するための治療レジメン。
【請求項10】
前記ITPPと前記化学療法剤とが同時に投与される、請求項9に記載の治療レジメン。
【請求項11】
前記ITPPと前記化学療法剤とが逐次的に投与される、請求項9に記載の治療レジメン。
【請求項12】
前記ITPPが、前記化学療法剤を投与する前に投与される、請求項11に記載の治療レジメン。
【請求項13】
前記化学療法剤がパクリタキセルである、請求項9〜12のいずれか一項に記載の治療レジメン。
【請求項14】
前記化学療法剤がシスプラチンである、請求項9〜12のいずれか一項に記載の治療レジメン。
【請求項15】
イノシトールトリスピロリン酸(ITPP)と治療量以下の化学療法剤とを含む医薬組成物。
【請求項16】
前記化学療法剤が、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナストロゾール、アスパラギナーゼ、bcg、ビカルタミド、ブレオマイシン、ブセレリン、ブスルファン、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロドロネート、コルヒチン、シクロホスファミド、シプロテロン、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ジエネストロール、ジエチルスチルベストロール、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エストラジオール、エストラムスチン、エトポシド、エキセメスタン、フィルグラスチム、フルダラビン、フルドロコルチゾン、フルオロウラシル、フルオキシメステロン、フルタミド、ゲニステイン、ゴセレリン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、インターフェロン、イリノテカン、イロノテカン、レトロゾール、ロイコボリン、ロイプロリド、レバミゾール、ロムスチン、メクロレタミン、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、ニルタミド、ノコダゾール、オクトレオチド、オキサリプラチン、パクリタキセル、パミドロネート、ペントスタチン、プリカマイシン、ポルフィマー、プロカルバジン、ラルチトレキセド、リツキシマブ、ストレプトゾシン、スラミン、タモキシフェン、テモゾロミド、テニポシド、テストステロン、チオグアニン、チオテパ、チタノセンジクロリド、トポテカン、トラスツズマブ、トレチノイン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、及びビノレルビンから選択される、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記化学療法剤がパクリタキセル及びシスプラチンから選択される、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記化学療法剤がパクリタキセルである、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記化学療法剤がシスプラチンである、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記化学療法剤の前記治療用量以下が、承認済みラベル用量の70%未満である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項21】
治療有効量のITPPと治療量以下の化学療法剤とを同時に又は逐次的に投与する工程を含む、対象において癌を治療するための治療レジメン。
【請求項22】
前記化学療法剤が、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナストロゾール、アスパラギナーゼ、bcg、ビカルタミド、ブレオマイシン、ブセレリン、ブスルファン、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロドロネート、コルヒチン、シクロホスファミド、シプロテロン、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ジエネストロール、ジエチルスチルベストロール、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エストラジオール、エストラムスチン、エトポシド、エキセメスタン、フィルグラスチム、フルダラビン、フルドロコルチゾン、フルオロウラシル、フルオキシメステロン、フルタミド、ゲニステイン、ゴセレリン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、インターフェロン、イリノテカン、イロノテカン、レトロゾール、ロイコボリン、ロイプロリド、レバミゾール、ロムスチン、メクロレタミン、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、ニルタミド、ノコダゾール、オクトレオチド、オキサリプラチン、パクリタキセル、パミドロネート、ペントスタチン、プリカマイシン、ポルフィマー、プロカルバジン、ラルチトレキセド、リツキシマブ、ストレプトゾシン、スラミン、タモキシフェン、テモゾロミド、テニポシド、テストステロン、チオグアニン、チオテパ、チタノセンジクロリド、トポテカン、トラスツズマブ、トレチノイン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、及びビノレルビンから選択される、請求項21に記載の治療レジメン。
【請求項23】
前記化学療法剤がパクリタキセル及びシスプラチンから選択される、請求項22に記載の治療レジメン。
【請求項24】
前記化学療法剤がパクリタキセルである、請求項23に記載の治療レジメン。
【請求項25】
前記化学療法剤がシスプラチンである、請求項23に記載の治療レジメン。
【請求項26】
前記化学療法剤の前記治療用量以下が、承認済みラベル用量の70%未満である、請求項21に記載の治療レジメン。
【請求項27】
対象における癌の治療方法であって、治療有効量のITPPと治療量以下の化学療法剤とを同時に又は逐次的に投与する工程を含む方法。
【請求項28】
対象における多剤耐性癌の治療方法であって、治療有効量のITPPを投与する工程を含む方法。
【請求項29】
前記癌がパクリタキセル及びシスプラチンの1つ又は複数に耐性を有する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程を含む過剰増殖性病態の治療方法であって、前記過剰増殖性病態が癌でなく、又は望ましくない血管形成により特徴付けられるものではない、方法。
【請求項31】
前記過剰増殖性病態が、糖尿病性腎症、糸球体硬化症、IgA腎症、肝硬変、胆道閉鎖症、うっ血性心不全、強皮症、放射線誘発線維症、肺線維症、乾癬、陰部疣贅及び過剰増殖性細胞増殖疾患から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記過剰増殖性病態を示す組織又は臓器が低酸素状態である、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
さらなる抗過剰増殖剤を投与する工程をさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
必要性のある対象に治療有効量のITPPを投与する工程を含む、対象における免疫応答の促進方法であって、前記対象が癌又は別の腫瘍に罹患していない、方法。
【請求項35】
前記対象が望ましくない血管形成を受けていない、請求項34に記載の方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11(a)】
【図11(b)】
【図11(c)】
【図12】
【図13(a)】
【図13(b)】
【図13(c)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11(a)】
【図11(b)】
【図11(c)】
【図12】
【図13(a)】
【図13(b)】
【図13(c)】
【公表番号】特表2012−532879(P2012−532879A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519703(P2012−519703)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/041250
【国際公開番号】WO2011/005886
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(512005586)ノームオキシーズ,インコーポレイテッド (1)
【出願人】(500262120)ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール (3)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE STRASBOURG
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/041250
【国際公開番号】WO2011/005886
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(512005586)ノームオキシーズ,インコーポレイテッド (1)
【出願人】(500262120)ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール (3)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE STRASBOURG
【Fターム(参考)】
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