説明

イノシトールピロリン酸はエキソサイトーシス能を決定する

本発明はII型糖尿病の治療用及びおよび方法と、II型糖尿病の治療用の化合物の識別方法とに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はII型糖尿病の治療のための試薬および方法と、II型糖尿病の治療のための化合物の識別方法とに関する。
(相互参照)
本願は、2007年8月31日に出願された米国仮特許出願出願番号第60/969,443号の優先権を主張し、該出願全体を援用する。
【背景技術】
【0002】
ホスホイノシチドは、その水溶性型と脂質型の両方で、細胞シグナル伝達事象において大きな役割を有している。重要な事象は、イノシトール1,4,5−トリリン酸(Ins(1,4,5)P3)の生成およびそれによる細胞内Ca2+ホメオスタシス(1)ならびにホスファチジルイノシトール(PI3キナーゼ)の3−リン酸化イノシトール脂質産物(2)の調節であり、有糸分裂誘発、アポトーシス、および小胞輸送において多様な役割を果たしている。ホスファチジルイノシトール4,5−ビスリン酸(Ptdlns(4,5)P2)は、上記2つのシグナル伝達系の主な源であるが、上記シグナル伝達経路に関する単なる前駆物質ではなく、それ自体、小胞輸送、エキソサイトーシス、細胞骨格転位、およびイオンチャンネルの調節(3)において重要な役割を果たしている。最近の十年間で、Ins(1,4,5)P3セカンドメッセンジャーの遠い誘導体である高度にリン酸化したイノシトールポリリン酸が、シグナル伝達および細胞調節において役割を果たしていることもよく認識されるようになってきた(4−6)。恐らく、最も心躍る新しい展望が、イノシトールペンタキスリン酸およびイノシトールヘキサキスリン酸の両方のジエステル誘導体の役割に関する(InsP5およびInsP6)。InsP6ジホスホイノシトールペンタキスリン酸のピロリン酸誘導体とビス−(ジホスホ)イノシトールテトラキスリン酸は、一般に「InsP7」および「InsP8」と呼ばれている。これらのイノシトールピロリン酸誘導体は急速にターンオーバーし、ATPと同様な加水分解の自由エネルギーを有すると推測される(4)。この高エネルギーリン酸グループの著しい結果、InsP7はATP独立的かつ酵素独立的な態様でタンパク質の部分を直接リン酸化す
ることができる(7)。細胞応答の種類は、見たところかかる分子によって制御されるが(4,8)、かかる分子を作るキナーゼの細胞内分布の差により促進され得る(9)。イノシトールピロリン酸の濃度は、重要な細胞事象の最中に動的に制御され、その細胞機能に対する重要を強調している。例えば、InsP7レベルは細胞周期の進行中に変化する(10)。また、InsP7はサイクリン/CDK複合体を調節するが(11)、InsP8は細胞ストレスに応じて急増する(8)。しかしながら、最近の研究によって、InsP6の酵素の補因子としての役割等も類推により分かってきており、非刺激条件下でさえInsP7が重要な制御分子である可能性がある。
【0003】
ホスホイノシチドは、インシュリンを分泌する膵臓のβ細胞の重要な調節因子でもある(12)。膵β細胞は血糖ホメオスタシスに重要な役割を果たしており、カップリングによりグルコースおよび他の循環調節因子または神経由来調節因子の濃度を増大させるよう作用し、インシュリンのエキソサイトーシスに至る。高度リン酸化InsP6は、それが電圧依存性L型Ca2+チャンネル(73)、エキソサイトーシス(14,15)およびダ
イナミン媒介性エンドサイトーシス(76)を活性化することが示されているが、これらはインシュリン分泌のすべてのキープロセスであるため特に興味深い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
β細胞におけるInsP7の役割はいまだ決定されていない。しかしながら、小胞輸送
でのイノシトールピロリン酸の関与の示唆(4)、インシュリンエキソサイトーシスのプロセスに対するかかる輸送事象の重要性、およびInsP7の直近の前駆物質であるInsP6がβ細胞で高濃度であること(73)に鑑みると、イノシトールピロリン酸はβ細胞において重要な役割を果たしていると本願発明者らは仮定する。本願発明者らは本願において、インシュリンエキソサイトーシスの調節におけるInsP7の新規な役割について実証する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1態様では、本発明は、II型糖尿病の治療方法であって、有効量のIP6K1キナーゼの発現を増加させることが可能な治療薬を、II型糖尿病の患者に投与することからなる方法を提供する。
【0006】
別の態様では、本発明は、膵β細胞からのインシュリンエキソサイトーシスを刺激する方法であって、有効量の発現IP6KIキナーゼを増加させることが可能な治療薬を、膵β細胞からのインシュリンエキソサイトーシスの刺激が必要な患者に投与することからなる方法を提供する。
【0007】
別の態様では、本発明は、II型糖尿病を治療する方法であって、有効量のInsP7の生産を増加させることが可能な治療薬を、II型糖尿病の患者に投与することからなる方法。
【0008】
さらなる態様では、本発明は、II型糖尿病の治療用の化合物を識別する方法であって、
(a)膵β細胞を、1または複数の試験化合物と接触させること、および
(b)IP6K1キナーゼの発現レベルおよびInsP7のレベルのうちの少なくとも一方を決定すること、からなり、
前記IP6K1キナーゼの発現の増加およびInsP7の増加のうちの少なくとも一方が、該試験化合物がII型糖尿病を治療するのに適していることを示す方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】高い基本レベルのInsP7が膵β細胞中に存在し、IP6Kが膵β細胞中で発現している。(A)初代膵島またはインシュリン分泌MIN6m9細胞での[3H]標識InsP6の百分率としての[3H]標識InsP7の比較。データは3つの別個の実験から得たものである。(B)(A)の膵島データを正常島(60%)対ob/ob(90%)の種々のβ細胞組成を考慮するために変換した。(C)全体RNAを島およびMIN6m9細胞から抽出し、逆転写した。伝令RNAの相対発現を、適切なプライマーおよびプローブを使用して定量的リアルタイムPCRにより測定した。18SリボソームRNA(TaqMan(商標)リボソームRNAコントロール試薬、Applied Biosystems社)を内在性対照として使用した。
【図2】IP6Kの発現は、膵β細胞におけるエキソサイトーシスを促進する。IP6K1はCa2+依存性エキソサイトーシスを刺激する。(A)個々のマウスβ−胞をEGFP(mock)で、またはEGFPと野生型(IP6K1)またはIP6Kのキナーゼ不活性(IP6K1−K/A)変異型のいずれかとの組み合わせでトランスフェクトし、穿孔パッチ構成を用いて一連の4回の500ミリ秒の脱分極を受けた。細胞キャパシタンス(ΔCm)の増大が細胞外培地中の3mMグルコースで測定した。(B)個々の脱分極に対してプロットした細胞やパシタンスの平均増大およびmock(偽の)トランスフェクトをしたか野生型型(IP6K1)またはキナーゼ不活性(IP6K1−K/A)IP6Kのいずれかを過剰発現している細胞での一連の脱分極の最後における細胞キャパシタンスの増大の合計を表すヒストグラム(C)mockトランスフェクトしたか野生型またはIP6K1−K/A)のいずれかを過剰発現している細胞における個々の脱分極に対してプロットした統合Ca2+電流(QCa)を示すヒストグラム。値は8−12回の実験から得たものである。*P<0.05。(D)mockトランスフェクト細胞または野生型(IP6Kn)またはキナーゼ不活性(IP6K1−K/A)1,2,および3型キナーゼのいずれかを過剰発現している細胞における一連の脱分極の最後における細胞キャパシタンスの平均合計増大を表すヒストグラム。値は7−12回の実験から得たものである。*P<0.05。(E)INS−1E細胞を、pCMV5−hGHおよび空のベクター(pcDNA3)(mock)と平行して同時トランスフェクトするか、pCMV5−hGHと野生型(IP6Kn)またはキナーゼ不活性(IP6K1−K/A)1,2および3型キナーゼとで同時トランスフェクトした。hGH分泌を3mMグルコースのKrebs−Ringer重炭酸塩HEPES緩衝液で比較した。hGH放出は、分泌されたhGHとして合計hGHの百分率で示している。値は3つの実験(各々三連とする)から得たものである。*P<0.05。
【図3】InsP7は、用量依存的にCa2+依存性エキソサイトーシスを促進する。個々のマウスβ細胞を、標準の全細胞のパッチ構成を使用して、一連4回、500ミリ秒で脱分極させた。(A)エキソサイトーシスは、対照条件下でおよびピペット充填溶液中の3μM 5−InsP7の存在下で観察された。5−InsP7を2分間細胞へ拡散させてから、実験を開始した。(B)3μM 5−InsP7 ピペット充填溶液の不在下または存在下での個々の脱分極に対してプロットした細胞キャパシタンスの平均増加と、一連の脱分極の最後における細胞キャパシタンスの合計増加とを表すヒストグラム。(C)3μM InsP7 ピペット充填溶液の不在下または存在下での個々の脱分極に対してプロットした統合Ca2+流れ(QCa)を示すヒストグラム。(D)−70mVから0までの一回の膜脱分極により引き起こされるエキソサイトーシスに対する5−InsP7の刺激作用の濃度依存性。曲線はヒル方程式に対する平均データポイントの最小二乗法を表わす。値は5−7回の実験から得たものである。*P<0.05。(E)上記の(A)と同じプロトコルを使用したエキソサイトーシスに対する10μM濃度のInsP7のいくつかの異性体の比較。
【図4】IP6K2ではなくIP6K1のRNAサイレンシングは、RRPからの顆粒の放出を阻害する。(A) 個々のマウスβ−細胞を、25nMのIP6K1(番号1)に対するsiRNAでトランスフェクトするかまたは同じ濃度の陰性対照でトランスフェクトし、穿孔パッチ構成を使用して一連で4回、500ミリ秒で脱分極させた。細胞キャパシタンス(ΔCm)の増加を、細胞外培地中の3mMグルコースで測定した。(B)mockトランスフェクトさせるかIP6K1に対するsiRNAまたは陰性対照のいずれかを過剰発現した細胞における、個々の脱分極に対してプロットした細胞キャパシタンスの平均増大および一連の脱分極の最後における細胞キャパシタンスの合計増大を示すヒストグラム。(C)IP6K1とIP6K2のRNAサイレンシング後のキャパシタンス増加の合計に対する影響。(D)対照条件下およびIP6K1の発現レベルが低減された細胞でのエキソサイトーシスに対する5−InsP7の影響。
【図5】エキソサイトーシスに対する5−InsP7の影響はInsP6とは異なる。個々のマウスβ細胞を、標準の全細胞のパッチ構成を使用して、一連4回、500ミリ秒で脱分極させた。エキソサイトーシスは、対照条件下でおよびピペット充填溶液中の3μM 5−InsP7または10μM InsPの存在下で観察された。リン酸イノシトールを、2分間細胞へ拡散させてから、実験を開始した。
【図6】MIN6m9細胞でのsiRNAのスクリーニング。各IP6Kに対して6つのsiRNAを、100mNでMIN6m9細胞をサイレンシングするその能力についてすく利イーニングした。そして、IP6K1またはIP6K2をサイレンシングするために、各ケースで2つ、IP6K1(1と4)およびIP6K2(3と5)を個別にまたは組み合わせて用いた。これを2つの陰性対照と比較した。mRNAを抽出し、遺伝子の発現量をTaqman(商標)RT−PCRで測定した。データは平均±SEM(n=3)である。
【図7】IP6K1またはIP6K2のRNAサイレンシングは細胞InsP7レベルを低下させる。MIN6m9細胞を、陰性対照かIP6K1および2のいずれかに対して選択したsiRNAでトランスフェクトした。IP6K1(1と4)に対するsiRNAを、25nMで各々加えた。IP6K2(3と5)に対するsiRNAを同様の濃度で加えた。これを50nMの陰性対照の添加により対照比較した。4つのsiRNAはすべて同時に適用し、100nM陰性対照siRNAにより対照比較した。siRNAでのトランスフェクトの2時間後、培地を50μCi/ml[3H]イノシトール含有培地に変更し、細胞を48時間から72時間培養した。細胞を抽出し、HPLCにかけた。データはイノシトール脂質の合計に対して表され、3つの個別の実験からの平均±SEM(n=3)である。
【図8】MIN6m9細胞における単一L型Ca2+チャンネル活性に対するIP6K1−siRNAの効果。MIN6m9細胞を、50nMの陰性対照に対して選択されたsiRNAで、またはIP6K1に対するsiRNA(1および4)それぞれ25nMでトランスフェクトした。(A)対照細胞(陰性対照siRNAトランスフェクション、左)およびIP6K1−siRNAを受けた細胞(右)に対する細胞に取り付けたパッチから記録された単一Ca2+チャンネル電流の例。いずれのパッチも1つのL型Ca2+チャンネルを含んでいる。(B)対照MIN6m9細胞(n=30)およびIP6K1−siRNAを受けた細胞(n=30)における単一L型Ca2+チャンネルの電流パラメータ。対照MIN6m9細胞とIP6K1−siRNAを受けた細胞との間で、1つのパッチ当たりのチャンネル数、開確率、平均閉時間、平均開時間に有意差はない(P>0.05)。データは平均±SEMとして示す。統計学的有意差は、Mann−Whitney U試験またはunpaired Student試験のいずれかにより評価した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願では、特段の定めがない限り、使用した技術は、以下のようないくつかの周知文献に見出されるものである:Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Sambrook, et al., 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press), Gene Expression Technology (Methods in Enzymology, Vol. 185, edited by D. Goeddel, 1991. Academic Press, placeCitySan Diego, StateCA), "Guide to Protein Purification" in Methods in Enzymology (M. P. Deutshcer, ed., (1990) Academic Press, Inc.); PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (Innis, et al. 1990. Academic Press, placeCitySan Diego, StateCA), Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 2nd Ed. (R.I. Freshney. 1987. Liss, Inc. New York, NY), Gene Transfer and Expression Protocols, pp. 109-128, ed. E.J. Murray, The Humana Press Inc., Clifton, N. J.), およびthe Ambion 1998 Catalog (Ambion, Austin, TX)。
【0011】
1態様では、本発明は、II型糖尿病の治療方法であって、II型糖尿病の患者に、II型糖尿病を治療するのに有効な量の患者の膵β細胞におけるInsP7を増加させることが可能な治療薬を投与することからなる方法を提供する。
【0012】
さらなる態様では、本発明は、II型糖尿病の治療方法であって、II型糖尿病の患者に、II型糖尿病治療するのに有効な量の患者の膵β細胞におけるIP6K1キナーゼの発現を増加させることが可能な治療薬を投与することからなる方法を提供する。
【0013】
本願発明者らが添付書類で実証したように、膵β細胞は高レベルのInsP7を維持している。その後、このピロリン酸塩は、インシュリンを含有する顆粒の容易に放出されるプールを制御し、それによりβ細胞の即時のエキソサイトーシス能を維持することにより、インスリン分泌プロセスにおける重要な責任分子としての役割を果たす。本発明者らはさらに、IP6K1により生成された内在性InsP7が膵β細胞のエキソサイトーシス能の増強の原因であることをさらに示した。したがって、IP6K1キナーゼの発現を増加させることが可能な治療薬を、InsP7の生成し、その結果膵β細胞のエキソサイトーシス能を増大させることにより、II型糖尿病を治療するために使用することが可能であ
る。
【0014】
1実施形態では、治療薬は、IP6K1またはその活性断片の発現を指向する遺伝子治療ベクターを含む。(タンパク質アクセッション情報:Q92551(配列番号1);cDNAアクセッション情報(オールタナティブスプライス変異型)1.NM_153273.3(配列番号3)、2.NM_001006115(配列番号2)遺伝子治療ベクターは、IP6K1またはその活性断片の発現を指向する遺伝子治療ベクターを含む。遺伝子治療方法は、IP6K1またはその活性断片を発現可能な核酸構築物を患者に、好ましくは患者の膵β細胞に投与することを含む。1例では、cDNA配列がインシュリンプロモーターと作用的に結合される(Leibiger, MoI. Cell. 1:933-938 (1998))。そのよう
な遺伝子治療および送達方法は例えば本願に援用するWO90/11092またはM. I. Phillips (Ed.): Gene Therapy Methods. Methods in Enzymology, Vol. 346, Academic Press, placeCitySan Diego 2002に記載されているように当該技術分野で周知である。したがって、例えば、患者由来の細胞を、導入される分子に対応する核酸と作用的に結合されたプロモータを含む核酸構築物でエキソビボにより組み換え、次に、かかる組換え細胞を治療される患者に与えてもよい。かかる方法は当該技術分野では周知である。例えば、本願に援用するBelidegrun, A., et al., J. Natl. Cancer Inst. 85: 207-216 (1993); Ferrantini, M. et al., Cancer Research 53: 1107-1112 (1993); Ferrantini, M. et al., J. Immunology 153: 4604-4615 (1994); Kaido, T., et al., Int. J. Cancer 60: 221-229 (1995); Ogura, H., et al., Cancer Research 50: 5102-5106 (1990); Santodonato, L., et al., Human Gene Therapy 7:1-10 (1996); Santodonato, L., et al., Gene Th erapy 4:1246-1255 (1997); および Zhang, J.-F. et al., Cancer Gene Therapy 3: 31-38 (1996))を参照されたい。組換えられる細胞は、例えば膵β細胞であってよい。
【0015】
核酸分子は裸の核酸分子として送達されてもよい。用語「裸の」核酸分子とは、ウイルス配列、ウイルス粒子、リポソーム製剤、リポフェクチンまたは沈降剤等を含む細胞への進入を支援、増進、または促進するよう作用する任意の送達手段を含まない配列を指す。しかしながら、遺伝子治療に使用される核酸分子は、当業者に周知の方法により調製可能なリポソーム製剤およびリポフェクチン製剤等によっても送達される。そのような方法は例えば本願に援用する米国特許第5,593,972号、第5,589,466号および第5,580,859号に記載されている。
【0016】
裸の核酸分子は、送達部位での直接の針による注射、静脈注射、局所投与、カテーテル注入およびいわゆる「遺伝子銃」を含むがこれらに限定されない当該技術分野で周知の任意の方法により送達される。これらの送達方法は当該技術分野で周知である。構築物は、ウイルス配列、ウイルス粒子、リポソーム製剤、リポフェクチン等の伝達手段で送達されてもよい。
【0017】
別の実施形態では、治療薬は、IP6K1またはその活性断片を含む。ポリペプチドは、活性領域を細胞膜を横切って搬送可能な1または複数のアミノ酸配列または他の分子である伝達領域(transduction domain)を備えた結合体としての送達を含むがこれに限定
されない任意の適切な技術により投与することができる。そのような領域は、結合されたポリペプチドの細胞膜を横切る直接移動を行うよう、他のポリペプチドに結合可能である(例えばCell 55: 1179-1188, 1988; Cell 55: 1189-1193, 1988; Proc Natl Acad Sci U
S A 9V. 664- 668, 1994; Science 285: 1569-1572, 1999; J Biol Chem 276: 3254-3261 , 2001 ; and Cancer Res 61 : 474-477, 2001参照)。
【0018】
さらなる態様では、本発明は、II型糖尿病の治療用の化合物を識別する方法であって、
(a)膵β細胞を、1または複数の試験化合物と接触させること、および
(b)IP6K1キナーゼの発現レベルおよびInsP7のレベルのうちの少なくとも
一方を決定すること、からなり、
前記IP6K1キナーゼの発現の増加およびInsP7の増加のうちの少なくとも一方が、該試験化合物がII型糖尿病を治療するのに適していることを示す方法を提供する。
【0019】
上述したように、IP6K1キナーゼの発現を増加させることが可能な治療薬を使用してInsP7を生成し、それにより膵β細胞のエキソサイトーシス能を増大させることにより、II型糖尿病を治療することが可能である。したがって、膵β細胞のIP6K1キナーゼおよびInsP7のうちの少なくとも一報の発現を増加させるために使用することが可能な化合物をII型糖尿病の治療のために使用することができる。
【0020】
膵β細胞のIP6K1キナーゼの発現レベルおよびInsP7の増加のうちの少なくとも一方の決定は、以下の例に開示されるがそれらに限定されない当該技術分野の任意の技術を用いて行うことが可能である。
【0021】
本明細書に使用する場合、「基本グルコース条件」とは、1〜6mMグルコースの間のグルコース濃度を意味し、1実施形態では、3mMグルコースが使用される。当業者には理解されるように、基本グルコース濃度は種によって変わり得る。基本グルコース濃度は、細胞質の遊離Ca2+濃度またはインシュリン放出等の変化を引き起こさない条件により、任意の特定の細胞または組織の種類に対して決定することが可能である。
【0022】
本明細書に使用する場合、「膵β細胞」とは、膵臓のβ膵島細胞を含む任意の細胞集団である。細胞は任意の哺乳動物から得手もよいし、またはアッセイがインビボで行われる場合には哺乳動物種内に存在していてもよい。そのような膵臓のβ膵島細胞集団は、膵臓の単離されたランゲルハンス膵島(「膵島」)、単離された膵β膵島細胞、およびインスリン分泌細胞株を含む。膵臓の単離方法は当該技術分野で周知であり、膵島を分離する方法は例えばCejvan et al., Diabetes 52:1176-1181 (2003); Zambre et al., Biochem. Pharmacol. 57:1159-1164 (1999), およびFagan et al., Surgery 124:254-259 (1998)な
らびにそれらの文献に引用されている文献に見出すことができる。インスリン分泌細胞株は米国培養寄託機関(「ATCC」)(メリーランド州ロックヴィル所在)から利用可能である。膵β細胞が使用されるさらなる実施形態では、それらは膵島に95%を超えるβ細胞を含むob/obマウスから得られる。
【0023】
膵β細胞でのIP6K1キナーゼの発現を増加および/またはInsP7を増加させる1または複数の試験化合物の能力についての最適な情報を得るためには、対照細胞のレベルと、実験細胞でのIP6K1キナーゼおよび/またはInsP7レベルを比較することが好ましい。そのような対照細胞は、下記の1つ以上を含み得る。
【0024】
1.1または複数の試験化合物と接触させない以外は、同じ方法で処理される同じ宿主細胞、
2.(時間依存的効果の分析のため)異なる時点で前記1または複数の試験化合物と接触させる以外は、同じ方法で処理される同じ宿主細胞、および
3.(濃度依存的効果の分析のため)異なる濃度で前記1または複数の試験化合物と接触させる以外は、同じ方法で処理される同じ宿主細胞。
【0025】
試験化合物がポリペプチド配列を含む場合、そのようなポリペプチドは化学合成されてもよいし、組み換えで発現されてもよい。組換え発現は、上記に開示したような当該技術分野の標準的方法を使用して行うことができる。そのような発現ベクターはバクテリア発現ベクターまたはウイルス発現ベクターを含んでよく、そのような宿主細胞は原核生物であってもよいし、真核生物であってもよい。固相法、液相法またはペプチド縮合法、またはそれらの任意の組み合わせを含む周知の技術を用いて調製された合成ポリペプチドは、
天然または非天然のアミノ酸を含んでもよい。ペプチド合成に使用されるアミノ酸は、標準的な脱保護、中和、カップリングおよび洗浄プロトコルによる標準Boc(Nαアミノ保護Nα−t−ブチルオキシカルボニル)アミノ酸樹脂であるか、または標準のベースが不安定なNα−アミノ保護9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)アミノ酸であってよい。FmocおよびBoc Nα−保護アミノ酸のいずれもSigma社、Cambridge Research Biochemical社、または当業者によく知られている他の化学会社から得ることができる。さらにポリペプチドは、当業者に周知の他のNα保護基を用いても合成することができる。固相ペプチド合成は、当業者に周知の方法により遂行され、例えば自動合成装置の使用により与えられる。
【0026】
試験化合物が抗体を含む場合、そのような抗体はポリクローナルであってもよいしモノクローナルであってもよい。抗体は、抗体のヒト化型、完全ヒト型、またはマウス型のいずれであってもよい。かかる抗体はHarlow and Lane, Antibodies; A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y., (1988)等の周知の方法
により製造可能である。
【0027】
試験化合物が核酸配列を含む場合、そのような核酸は化学合成されてもよいし、組み換え発現されてもよい。組換え発現技術は周知である(例えば前掲のSambrook, et al., 1989参照)。核酸はDNAまたはRNAであってもよいし、一本鎖または二本鎖であってもよい。同様に、かかる核酸は、当該技術分野の標準的技術を用いて手動または自動の反応により化学的にまたは酵素的に合成してもよい。化学的にまたはインビトロで酵素的合成により合成される場合、核酸は細胞への導入前に精製されてもよい。例えば、溶媒または樹脂、沈降、電気泳動、クロマトグラフィまたはそれらの組み合わせによる抽出により、混合物から核酸を除去することが可能である。代わりに、核酸はサンプル処理による損失を回避するために精製を全く行わないか最低限行って使用されてもよい。
【0028】
試験化合物が、ポリペプチド、抗体または核酸以外の化合物を含む場合、かかる化合物は有機化学合成を行うための当該技術分野の任意の種々の方法により製造可能である。
膵β細胞でのIP6K1キナーゼの発現を増加および/またはInsP7を増加させるとして識別された試験化合物は、任意のさらなる手法を用いて、II型糖尿病を治療するための候補化合物として使用されるか否かをさらに評価してもよい。かかる手法とは、限定ではないが、試験化合物を膵β細胞と接触させて試験化合物により誘発されるインスリン放出を測定したり、および/または試験化合物により誘発される膵β細胞キャパシタンスを測定したりすることを含み、インスリン放出および/またはキャパシティ(これは以下に説明するようにインシュリンエキソサイトーシスの指標である)を増大させる化合物は、対照と比較して、II型糖尿病の治療のための候補化合物として特に価値を有し得る。さらなる実施形態では、以下に記述されるようにキャパシタンスの測定が行なわれ、最初の脱分極でエキソサイトーシス反応を誘発する試験化合物はII型糖尿病の治療のための良い候補化合物と考えられる。
【0029】
実施例
材料および方法
試薬および構築物。
【0030】
以前に記載されたように(25)、5−ジホスホイノイトールペンタキスリン酸(InsP7)を合成した。IP6K1、IP6K2およびIP6K3のORFを、Sall−Notl pCMV−IP6K1およびpCMV−IP6K2(26)を用いた消化により、およびSall pGST−IP6K3(27)を用いた消化により得た。精製ORFを、真核生物発現ベクターpCMV−Myc(Clontech社)でサブクローニングした。キナーゼ不活性型を以下のように調製した。以前の研究では、触媒活性にとって
重要なInsP3KA中のリジンが識別されていた(28)。マウスIP6K1、ヒトIP6K2およびヒトIP6K3では、このリジンがそれぞれ226、222および217位置で生じている。IP6K1については、本願発明者らが、以下のオリゴヌクレオチドを使用してリジン226をアラニンへ変化させた:K26A、5’−GTGTGCTGGACTTGGCCATGGGTACCCG−3’(配列番号4)およびその相補配列。IP6K2については、本願発明者らが、以下のオリゴヌクレオチドを使用してリジン222をアラニンへ変化させた:K222A、5’−GTCCTTGACCTCGCGATGGGCACACGA−3’(配列番号5)およびその相補配列。IP6K3については、本願発明者らが、以下のオリゴヌクレオチドを使用してリジン217をアラニンへ変化させた:K217A、5’−CCCTGTGTCCTGGATCTGGCCATGGGGACCCGGCAGCAC−3’(配列番号6)およびその相補配列。構築物を、その効能を確立するためにINS−1E細胞で試験した。IP6K1〜3およびそれぞれの触媒不活性型をINS−1E細胞へトランスフェクトした(プロトコルは以下)。すべての構築物は、ウェスタンブロッティングで判断されるように同様のレベルで発現されていた。さらに、IP6K1〜3野生型では細胞InsP7レベルが6倍まで増大したが、それらの触媒不活型(K/A)では増大しなかった。
【0031】
RNAiはAmbion lnc社(テキサス州オースチン)から得、IP6Kのサイレンシングには以下のRNAi IDを使用した。IP6K1に対するRNAi(1、siRNAi ID=188560)および(4、siRNAi ID=71758)。IP6K2に対するRNAi(3、siRNA ID=287702)および(5、siRNA ID=292211)。非標的対照(1、siRNA ID )4611および(2およびsiRNA ID=4613)を陰性対照として使用した。これらのsiRNAはCy3蛍光タグと共にAmbionにより供給され、初代マウスβ細胞実験に使用した。
【0032】
RNA摘出およびリアルタイム−PCR。
全体RNAをRNeasy(登録商標)Micro Kit(Qiagen社、カリフォルニア州バレンシア)を使用して細胞から抽出した。RNAを1時間、37℃でDNaseIにより消化し(Fermentas社、ドイツセントレオンロット)、次にRNeasy(登録商標)Micro Kit(Qiagen社)で再精製した。Applied Biosystem社のMultiScribe(商標)Reverse Transcriptaseキットを使用して、製造業者の取扱説明書に従って1μgの精製したRNAを逆転写した。逆転写酵素反応から得られた3.94μlの生じたcDNAsを10、06μl滅菌水に希釈し、各サンプルの1.25μ1アリコートを三連で各異なる定量PCR反応ごとに試験した。伝令RNAの相対発現を、定量的RT−PCR(TaqMan Gene Expression Assaysの生成物をABI PRISM(商標) 7700 Sequence Detection Systemに適用、Applied Biosystems社、カリフォルニア州フォスターシティ)により測定した。分析には、以下のTaqMan(商標)アッセイ(Applied Biosystems)を使用した:IP6K1に対して:イノシトールヘキサリン酸キナーゼ1、IP6K2に対して:イノシトールヘキサリン酸キナーゼ2、およびIP6K3に対して:イノシトールヘキサリン酸キナーゼ3。18SリボソームRNAに対するプライマーおよびプローブ(TaqMan(商標)Ribosomal RNA Control Reagents,Applied Biosystems)を内在性対照として使用した。
【0033】
細胞培養とトランスフェクション。
HIT T15細胞およびマウス膵島を、以前に記載されたように(29)RPMI−1640培地に維持した。特定のRPMI−1640培地にそれぞれ存在するインスリン分泌HIT T15細胞およびマウス膵島に対して、[3H]ミオイノシトール(GEヘ
ルスケア、Amersham Biosciences社、スウェーデン、ウプサラ)10または50μCi/mlで、以前に記載されたように(29)標識化を行った。細胞を72時間で標識したが、48−168時間の標識化ではInsP6対InsP7の比が変化しなかった。実験のため、膵島または細胞を洗浄してKrebs緩衝液に移し、標準グルコース条件(細胞株は0.1mMおよび膵島は3mM)下で30分インキュベートした。ポリリン酸イノシトールを以前に記載されたように(29)HPLCで抽出および分離した。他に記載されたように(30)INS−1E細胞を培養した。マウス膵島を雌NMRIマウス(Bomholtgaard社、デンマーク、ライ)または正常血糖性ob/obマウスから、以前に記載されたように(31,32)分離した。細胞を10%(v/v)の熱不活性化ウシ胎児血清、100IU/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを補給したRPMI 1640培地(Invitrogen社、カリフォルニア州カールスバッド)でインキュベートした。単一マウスの膵島細胞を、pIRES2−EGFP(mock)またはpIRES2−EGFPと対照構築物との組み合わせを2μg/mlで上記RPMI 1640細胞培養培地にプレーティングした後日、製造業者の取扱説明書に従ってリポフェクトアミン(商標)2000(Invitrogen社、カリフォルニア州カールスバッド)を用いて付着させてトランスフェクトした。リポフェクトアミン(商標)をDNAに対して4:1の比で使用した。細胞をトランスフェクションの48時間後に使用した。GFP蛍光に基づくと、マウス膵島細胞中のトランスフェクション効率は8+/−1%に及んだ(n=124細胞;4つの異なる細胞調製物およびトランスフェクション)。SiRNAをリポフェクトアミン(商標)2000および最適MEM(商標)培地を使用して、MIN6m9細胞および初代膵島細胞にトランスフェクトした。翌日培地をMIN6m9細胞または初代膵島細胞のいずれかの通常の培地に変更し、細胞をさらに4日間培養した。
キャパシタンス測定。
【0034】
キャパシタンス測定のために、EGFPを発現している細胞を選択した。穿孔パッチまたはパッチクランプ技術の標準全細胞構成と、EPC9パッチクランプアンプ(Heka
Elektronik社、ドイツ、ランブレヒト/プファルツ)とを使用して、エキソサイトーシスを細胞キャパシタンスの変化としてモニタした。穿孔パッチ構成のピペット溶液は、(単位mMで)76 Cs2SO4、10 NaCI、10 KCl、1 MgCl2、5HEPES(CsOHを使用してpH7.35)および0.24mg/mlアンホテリシンBから構成された。穿孔には数分間が必要であり、Gseries(一連のコンダクタンス)が安定し、>35nSである場合に出夏クランプは満足であると考えられた。標準的な全細胞記録のために使用されるピペット溶液は、(単位mMで)125 Csグルタミン酸塩、10 CsCl、10 NaCl、1 MgCl2、5HEPES、0.05 EGTA、0.01 GTP、および3 MgATP(CsOHを使用してpH7.15)を含んでいた。InsP7アイソフォームを、本文書に示した最終濃度になるようにピペット充填溶液に溶解させ、使用まで凍結した。細胞外培地は、(単位mMで)118 NaCI、20 テトラエチルアンモニウム−Cl、5.6 KCl、1.2 MgCl2、2.6 CaCl2、5HEPES(NaOHを用いてpH7.40)および3 グルコースから構成した。刺激プロトコルは、1Hzで適用される一連の4回の500ミリ秒の脱分極から成り、−70mVから0mVまでに及んだ。キャパシタンス測定は33°Cで行ない、記録チャンバを1.5ml/分の速度で潅流した。
単一L型Ca2+チャンネル活性の測定
細胞付着パッチの記録を、以前に記載されたように(32)対照MIN6m9細胞およびIP6K1−siRNAを受けたMIN6m9細胞に対して行なった。簡単に説明すると、一般に電極抵抗は2−4MΩとした。細胞付着シングルチャネル記録を、電荷担体としてBa2+を用いて行い:(単位はmM)110 BaCl2、10 TEA−Cl、5
HEPES−Ba(OH)2およびpH7.4、また、(単位はmM)125 KCl、30 KOH、10 EGTA、2 CaCl2、1 MgCl2、5 HEPES−
KOHおよびpH7.15を含む脱分極用外部記録溶液を使用して、細胞内電位を約0mVとする。記録はAxopatch(商標)200アンプ(Axon Instrument社、アメリカ合衆国カリフォルニア州フォスターシティ)で作成した。保持電位の−70mVから膜電位の0mVに細胞を脱分極させるために、周波数0.5Hzで電圧パルス(200ミリ秒)を加える。生じた電流を1kHzでフィルタし、5kHzでデジタル化し、ソフトウェアプログラムpCLAMP(商標)6(Axon Instrument社、アメリカ合衆国カリフォルニア州フォスターシティ)で分析した。
ヒト成長ホルモン(hGH)放出分析
pCMV5−hGHと、空ベクターpcDNA3または対象プラスミドとによるトランスフェクション後、INS−1E細胞を48−マルチウェルプレート(1つのウェル当たりの2×105細胞)に播き、48時間培養した。インキュベーションと分泌実験は以前
に記載されたように(33)、上述と同じ細胞外培地を使用し、3mMグルコースを補給して行なった。
【0035】
統計分析。
結果を、示した数の実験に対する平均値±平均値の標準誤差(S.E.M.)として示す。統計学的有意差を、対象に対する複数の比較の場合にはDunnett試験で、複数のグループ間の多数の比較が要求される場合にはTukey試験を使用して評価した。
【0036】
結果
[3H]ミオイノシトール標識プロトコルを使用して、本願発明者らは、インシュリン分泌細胞および膵島をイノシトールピロリン酸種の存在の有無について調べた。InsP7は、InsP6キナーゼを用いて生成された正規InsP7標準との同時溶出により同定された(データは図示しない)。InsP8はほとんど検知されなかった。図1Aは、インシュリン分泌または初代β細胞に対する細胞InsP6レベルの割合として発現されたInsP7レベルを示す。正常マウスの膵島(60%がβ細胞)では、InsP7の相対レベルはInsPβレベルの約5%である。対照的に、約90%を超えるβ細胞を有するob/obマウスの膵島のInsP7の割合は約8%である。これは、InsP7レベルの上昇が−細胞に限定されることを示唆している。100%のβ細胞へ初代マウスデータを正規化する(図1B)と、β細胞はInsP6濃度の約9%でInsP7レベルを維持していることをすること示唆している。インシュリン分泌細胞株のうち、HIT−T15細胞だけが同様のレベルのInsP7(10%のInsP6)を有している。成長している培養細胞のみに高い信頼で適用できる平衡標識技術(13)を用いて、発明者らはHIT−T15細胞におけるInsP7の基本濃度が5.8+/−0.14μM(±SEM、n=3)であると推測できたが、これは他の哺乳動物細胞または酵母で推算した範囲(1〜5μM)(4)の上限の濃度を反映している。InsP7は他の哺乳動物細胞(4)と共通してβ細胞でmお細胞InsP6プールと迅速に交換する状態にあり(データは図示しない)、β細胞におけるInsP6の細胞濃度も高いため(13)、高レベルのInsP7がβ細胞に存在するのは驚くべきことではない。
【0037】
重要な注意は、高いInsP7が、個別の細胞コンパートメントを考慮しない細胞全体の平均であるということである。これは、InsP6キナーゼの主なアイソフォームの1つであるIP6K2が核にあり(9)、したがって、それが生産するInsP7が例えば細胞質ゾルおよび原形質膜での事象、例えばそれぞれ小胞輸送およびエキソサイトーシス、等に影響を及ぼさない可能性があることである。したがって、Taqman(商標)に基づく定量的リアルタイムPCRを使用して、本願発明者等は膵島およびβ細胞溶解物を、IP6Kアイソフォームの存在について調べた。図1CはIP6K1およびIP6K2の発現を証明しているが、IP6K3の発現は証明していない。2つのキナーゼ発現レベルは所与の細胞型におけるのと類似していたが、恐らくInsP7代謝が細胞周期を上方調節している(10,11)という事実を反映して、細胞株MIN6と比較して初代細胞
におけるIP6K1および2の発現は低かった。したがって、高InsP7レベルは排他的な核プールを反映せず、細胞の至る所で一貫して高く、よってこれがインシュリン分泌に影響を及ぼし得る可能性がある。
【0038】
高いInsP7濃度がβ細胞を反応性のある状態に維持するための原因であるかどうかを調べるために、本願発明者らは基本条件下で初代β細胞にて3つの報告されたすべての哺乳動物IP6Kを過剰発現させ、刺激された液サイトーシスが続いて増強されるかどうか調べた。本願発明者らは、エキソサイトーシスの基準として細胞キャパシタンスの増加を使用した。この技術は、インシュリン含有下流が原形質膜(17)と融合した場合に起こるβ細胞表面積の増大を検出する。代謝上インタクトな細胞での測定を可能にするために穿孔パッチ全細胞技術を使用し、エキソサイトーシスは−70mVから0mVまでの一連の4回の500ミリ秒の脱分極化パルスにより誘発した。mock(偽の)トランスフェクト細胞では、一連のパルスによって誘発されるキャパシタンスの増大は79+/−11fF(n=8;図2A、B)に達した。IP6K1を過剰発現している細胞では、キャパシタンス増加の振幅が153%刺激され、平均198+/−12fF(P<0.05;n=10)だったが、IP6K1のキナーゼ不活化型を過剰発現している細胞ではエキソサイトーシスに対する影響は観察されなかった(図2A、B)。興味深いことに、最初の脱分極により引き起こされるキャパシタンス増大は、野生型IP6K1を過剰発現する細胞では293%だけ増大した。最初の脱分極中のエキソサイトーシスは、大半が、容易に放出されるプール(RRP)の内容を表わすと考えられる(78)。RRP(単位fF)のサイズは方程式:RRP=S/(1−R2)を使用して推定することができ、Sは第1(ΔC1)パルスと第2(ΔC2)パルスに対する応答の合計であり、Rha比ΔC2/ΔC1である(18)。本願発明者らは、mockトランスフェクト細胞および野生型IP6K1細胞におけるRRの平均が96+/−9fF(n=8)および225+/−21fF(n=10)であると推算する。したがって、IP6K1は、RRPのサイズを134%増加させた。1顆粒当たり3fFの換算係数を使用する(19)と、mockトランスフェクト細胞および野生型IP6K1細胞におけるRRPはそれぞれ30および75の粒子を含むと推算される。IP6K1の刺激作用は最初の脱分極に限定され、最後の3回のパルスでは増強はほとんど見られなかった(図2B)。一連の脱分極におけるエキソサイトーシスのレスポンスの消耗は、Ca2+誘導エキソサイトーシスの抑制を生じさせるCa2+電流の不活性化を反映しない(図2C)。
【0039】
図2Dは、エキソサイトーシスを刺激する野生型のIP6K1の能力が、IP6K2およびIP6K3によって共有されることを示す。IP6K2およびIP6K3のキナーゼ不活性型の過剰発現は、mockトランスフェクト細胞(図2D)と比較してエキソサイトーシス能に影響を及ぼさなかった。エキソサイトーシスの制御におけるIP6Kの役割を確認するために、本願発明者らは、hGH(hGHはトランスフェクト細胞由来のエキソサイトーシスのリポーターとしてのみ機能する。)一過性同時トランスフェクション分析を用いてINS−1E細胞でのそれらの過剰発現の効果を調べた。IP6K1過剰発現細胞における細胞キャパシタンスの増加の合計は初代マウスβ細胞で観察されたのに匹敵するため、INS−1E細胞は適切な細胞系を表わす(データは図示しない)。IP6K1−3の過剰発現はhGH分泌を基本を超えて150%だけ刺激し(P<0.05;n=9−12)、これはキナーゼ不活性変異型によっては共有されない効果である(図2E)。IP6K1および2のみがβ細胞に存在するという事実に基づくと、IP6K3ではなくてIP6K1および2がエキソサイトーシスの適当な調節因子であると考えられる。
【0040】
重要なことは、IP6KがInsP5をも基質として利用して、イノシトールピロリン酸(4)の異なる部分を生成し得ることである。したがって、InsP7がエキソサイトーシスを直接促進できることを確認することが必要であった。哺乳動物のInsP7は5−異性体であり、これを詳細な実験に使用した(図3A−D)。また、本願発明者らは、
InsP7の他の理論的異性体も評価した(図3E)。エキソサイトーシスに対する5−InsP7の影響を測定するために、本願発明者らは、標準の全細胞実験に一連の脱分極を適用し、ここではβ細胞を3μM InsP7を含む溶液で透析した。全細胞構成の確立に続いて、細胞に2分間の平衡期間を与えた。その後、エキソサイトーシスを引き起こすために−70mVから0mVまで4回の500msの脱分極を適用した。一連の6つの実験で、細胞キャパシタンスの増加の合計は、それぞれ3μM InsP7のピペット充填溶液の存在下では231+/−12fF(P<0.01)となり、対照条件下では77+/−11fFとなった(図3A)。IP6K1−3を過剰発現している細胞の場合、5−InsP7の存在下で最初の脱分極によって引き起こされるキャパシタンス増加が、続く3回の脱分極に答えたエキソサイトーシスに対する影響はほとんどない状態で、強く刺激された(図3B)。5−InsP7がエキソサイトーシスを刺激する能力は、全細胞のCa2+電流の変化(図3C)とは関係していなかった。エキソサイトーシスに対する5−InsP7の刺激作用は濃度依存的であった(図3D)。0.1μM以下のInsP7ではエキソサイトーシス刺激が観察されなかった。より高い濃度では、5−InsP7は90〜410%エキソサイトーシスを刺激した。ヒル(Hill)方程式への平均データ点の近似により、1.02μMの半最大刺激作用および1.5の同時作用因数が算出された。エキソサイトーシスの最大刺激は10μM以上のInsP7の濃度で観察され、380%を超える刺激を生じた(図4D)。したがって、5−InsP7は用量依存的に、InsP7濃度(1−10μM)という生理学的範囲内のエキソサイトーシスを増強した。InsP7の他の異性体も10μMでエキソサイトーシスを刺激することができたが、CH−PP(シクロヘキサンに基づく単純なピロリン酸塩)は効果がなかった(図4E)。エキソサイトーシスに対するInsP7の効果を調べるために使用される条件下では、InsP6の正味の効果はエンドサイトーシスではなくエキソサイトーシスを促進することであった(図5参照)。これは、エキソサイトーシスに対するInsP6の効果が、エンドサイトーシスが阻害された条件下でのみ識別できるからである(15)。これはInsP7には当てはまらない。さらに、エキソサイトーシスに対するInsP6の効果は、エンドサイトーシスが阻害される場合、RRPからの分泌を選択的に促進しない(データは図示しない)。本願発明者らのデータは、InsP7およびInsP6がエキソサイトーシスに別個の効果を有することを示している。これらの実験およびキナーゼの過剰発現に関する実験は、リン酸化ピロリン酸、つまりInsP8の役割を排除しないが、このピロリン酸はβ細胞では低濃度であるかまたは検出されないため(しかしながら)、生理学的役割を果たすことはあり得ない。
【0041】
この点の本願発明者らのデータはすべて、エキソサイトーシスの制御におけるInsP7のための役割を示しているが、本願発明者らの結果は酵素またはInsP7のいずれかの外因性の添加に基づいている。内因性InsP7が生理学的に関連した方法でエキソサイトーシスのキャパシティに寄与しているか否かを試験するために、本願発明者らは、siRNAを用いて−細胞中のIP6K1およびIP6K2をサイレンシングした。マウス特異的siRNAをマウス細胞株MIN6と、Taqman(商標)リアルタイムPCR遺伝子発現分析とを使用してスクリーニングした(図6参照)。IP6K1またはIP6K2のいずれかを除去すると、細胞内InsP7レベルが著しく減少した(図7参照)。適切なsiRNA候補を蛍光タグ化し、初代β細胞にトランスフェクトした。上述の穿孔パッチ技術を用いて、蛍光細胞について細胞キャパシタンス測定を行なった。興味深いことに、IP6K2ではなくIP6K1のサイレンシングだけが(図4C)がエキソサイトーシス能を阻害し、顆粒のRRPの消耗を反映する最初のパルスでサイレンシングの効果がやはり最も顕著だった(図4A、B)。さらに、IP6K1をサイレンシングしたときに全細胞モードに5−InsP7を添加すると、正常なエキソサイトーシス応答を回復することができた(図4D)。したがって、IP6K2ではなくIP6K1により生成された内因性InsP7が、膵臓の−細胞のエキソサイトーシス能の増大の原因である。本願発明者らの内因性の系と外因性の系との間の矛盾は、インビボで2つのキナーゼが異なる
分布をしているか、細胞内結合しているかの反映であり得る。実際、IP6K1はエキソサイトーシスに関与するタンパク質と結合してよいが、これはIP6K2にはできない(20)。興味深いことに、アポトーシスにおけるIP6K2の役割を見た他の研究で同様のパターンが示されている(21)。すなわち、IP6K1−3が実質的に過剰発現すると、アポトーシスの増加につながるが、IP6K2のサイレンシングのみがこれを防ぐ。いずれの場合も、InsP7の上方への生理学的増加は、異なるキナーゼにより示されるコンパートメント化の一部を明らかに克服する。
【0042】
エキソサイトーシスに対する5−InsP7の効果の考えられる機構の説明の一つは、InsP6に対して以前に記載されたように(13)、電位依存性L型Ca2+チャンネル活性の直接の刺激であり得る。全細胞のCa2+チャンネルデータはこれとは異なっているが(図2Cおよび3C)、細胞付着パッチ構成を適用し、IP6K1−siRNAを受けたMIN6m9細胞でインタクトな細胞内環境を維持し、これにより細胞内InsP5は有意に減少した(図7)。図に示されるように、IP6K1 siRNAは1つのパッチ当たりのチャンネル数、開確率、平均閉時間、および平均開時間を有意には変更しなかった(P>0.05)。従って、InsP7はL型Ca2+チャンネル活性動に影響せず、このことはInsP6(13)とは顕著な対照をなす。
【0043】
まとめると、膵β細胞は高レベルのInsP7を維持している。その後、このピロリン酸塩は、インシュリンを含有する顆粒の容易に放出されるプールを制御し、それによりβ細胞の即時のエキソサイトーシス能を維持することにより、インスリン分泌プロセスにおける重要な責任分子としての役割を果たす。将来の重要な疑問は、InsP7代謝の破壊が2型糖尿病、すなわち膵臓β細胞の分泌欠陥により特徴づけられる疾病(22)の病因に役割を果たすか否かということである。この点で、ヒントは、2型糖尿病に係っている日本の家族におけるIP6K1遺伝子の破壊の推定(23)およびIP6K1遺伝子欠損マウスにおける血しょうインシュリンレベルおよびグルコース耐性の両方の減少(24)によりヒントが与えられる。
参考文献
【0044】

【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
II型糖尿病の治療方法であって、有効量のIP6K1キナーゼの発現を増加させることが可能な治療薬を、II型糖尿病の患者に投与することからなる方法。
【請求項2】
IP6K1の発現の増加によりInsP7の発現が増加する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
膵β細胞からのインシュリンエキソサイトーシスを刺激する方法であって、有効量の発現IP6KIキナーゼを増加させることが可能な治療薬を、膵β細胞からのインシュリンエキソサイトーシスの刺激が必要な患者に投与することからなる方法。
【請求項4】
IP6K1の発現の増加によりInsP7の発現が増加する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記治療薬がIP6K1の発現を増加させることが可能な遺伝子治療ベクターを含む請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記治療薬がIP6K1またはその活性断片を含む請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
II型糖尿病を治療する方法であって、有効量のInsP7の生産を増加させることが可能な治療薬を、II型糖尿病の患者に投与することからなる方法。
【請求項8】
II型糖尿病の治療用の化合物を識別する方法であって、
(a)膵β細胞を、1または複数の試験化合物と接触させること、および
(b)IP6K1キナーゼの発現レベルおよびInsP7のレベルのうちの少なくとも一方を決定すること、からなり、
前記IP6K1キナーゼの発現の増加およびInsP7の増加のうちの少なくとも一方が、該試験化合物がII型糖尿病を治療するのに適していることを示す方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−536909(P2010−536909A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522258(P2010−522258)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【国際出願番号】PCT/EP2008/007131
【国際公開番号】WO2009/027107
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510054935)バイオクライン アーベー (3)
【氏名又は名称原語表記】BIOCRINE AB
【Fターム(参考)】