説明

インキ、並びに記録シート

【課題】伝達情報の機密保持性に優れ、且つ、記入した伝達情報の隠蔽化に特別な操作を必要とせず、しかも必要な時には手間をかけずに簡便に伝達情報を可視化でき、その上、廃棄物を生ずることのない、情報の機密化と可視化ができる、潜像形成及び顕色像形成が可能なインキ、並びに、その目的に使用する記録シートを提供することにある。
【解決手段】電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルを加圧破壊し、マイクロカプセルから電子供与性染料前駆体を放出して電子供与性染料前駆体の潜像を形成し、加熱することで前記電子受容性有機顕色剤と反応させて潜像が顕像化されるインキであって、前記インキが電子受容性有機顕色剤を含有するインキ、または前記マイクロカプセルと前記電子受容性有機顕色剤の両者を含有することを特徴とするインキを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記圧や、タイプライター、シリアルドットピンプリンター等により圧力を加えることにより伝達情報を潜像として記録し、その後の加熱処理により潜像を容易に顕像化できるインキ、並びに前記インキを紙面上に印刷した記録シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
筆記圧等の加圧力を利用して情報を記録する媒体として、感圧記録体はよく知られている。かかる感圧記録体は、支持体の片面に電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包したマイクロカプセルを塗工した上用紙と、電子受容性顕色剤を塗工した下用紙とを組み合わせ、筆記圧等によりマイクロカプセルを破壊して、電子供与性染料前駆体と電子受容性顕色剤とを接触させて瞬時に呈色反応を起こさせ、筆記した情報を下用紙に複写することができる。また、感圧記録体には、この他に、支持体の同一面上に電子供与性染料前駆体を内包したマイクロカプセルと電子受容性顕色剤を、混合または積層して塗工した自己発色型感圧記録体も知られている。
【0003】
従来の感圧記録体においては電子受容性顕色剤として、一般に、酸化珪素や酸化珪素を含む活性粘土鉱物、ノボラック型フェノール樹脂、或いは、サリチル酸誘導体及びその多価金属塩が使用されており、このような場合には、電子供与性染料前駆体と電子受容性顕色剤が接触すると常温下で直ちに呈色し、潜像を形成することはない。
【0004】
一方、個人情報等の秘密情報を含む書類を送る場合、従来は封書による郵送が一般的であったが、近年、秘密情報が記載された部分を覆い隠すための隠蔽ラベル(隠蔽シール)がよく使われるようになってきた。
【0005】
このような隠蔽ラベルは、差出人が葉書に記入された秘密情報部分に隠蔽ラベルを貼着して郵送し、受取人が隠蔽ラベルの隠蔽部材を剥がすと秘密情報が見られるようにしたものである。このため、隠蔽ラベルには、再剥離可能な特殊な接着剤を使用したり、複雑な積層構造にする必要があるため、隠蔽ラベルの製造に手間や費用がかかり、また、隠蔽ラベルを多量に貼着或いは剥離する際に手間がかかるといった問題がある。また、隠蔽ラベルを貼着する際に剥がした剥離紙や、情報を見るために剥離した隠蔽部材の廃棄物処理が必要という問題もある。
【0006】
隠蔽ラベルの剥離作業を不要にした隠蔽ラベルとして、隠蔽ラベルの隠蔽層を、常温よりも高い所定温度以上で消色する感熱消色インクで形成した隠蔽ラベル(特許文献1参照)や、支持体上に電子供与性染料と電子受容性顕色剤により発色した隠蔽層と消色剤層を積層し、常温より高い温度で加熱して隠蔽層を消色する感熱消色隠蔽材料(特許文献2参照)も提案されている。しかし、これらの隠蔽ラベルにも貼着作業の煩わしさがあり、控えを必要とする場合に不便であるといった難点がある。
【0007】
また、支持体に熱可塑性樹脂を主体とする塗工層を設け、塗工層中に電子受容性顕色剤を含有させるか、電子供与性有機発色剤と電子受容性顕色剤を含有させた感熱性機密ノーカーボン複写シート(特許文献3参照)も提案されている。しかし、情報記入面を内側に折り重ね、加熱圧着して機密性を持たせる構成であるため、情報を見る際の剥がし易さと配送途中の機密保持性のバランスを取ることが難しいといった難点がある。
【0008】
このため、高い機密保持性を有しながら、必要な時に簡便に伝達情報を可視化することができ、しかも従来の隠蔽ラベルのような貼着する手間や隠蔽部材を剥離する手間がかからず、廃棄物を発生することがなくて環境に優しく、その上、媒体が簡素な構成で安価に製造し得る、潜像形成及び顕色像形成方法、並びに、そのために使用する媒体の開発が、強く要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−054992号公報
【特許文献2】特開2006−264277号公報
【特許文献3】特開平7−257027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、伝達情報の機密保持性に優れ、且つ、記入した伝達情報の隠蔽化に特別な操作を必要とせず、しかも必要な時には手間をかけずに簡便に伝達情報を可視化でき、その上、廃棄物を生ずることのない、情報の機密化と可視化ができる、潜像形成及び顕色像形成が可能なインキ、並びに、その目的に使用する記録シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、電子供与性染料前駆体と電子受容性有機顕色剤を用い、感圧記録体と感熱記録体の記録方法を応用して、潜像形成が可能で、しかも必要な時に潜像を顕色化することのできる記録システムについて検討を重ねた。その結果、電子供与性染料前駆体と、電子供与性染料前駆体と共にマイクロカプセル中に内包させる疎水性有機溶媒と、電子供与性染料前駆体を発色させる電子受容性有機顕色剤、特に電子受容性有機顕色剤を、上手く選択すると、安定した潜像を形成することができ、しかも、潜像の可視化が必要な場合には潜像を加熱することで潜像を可視化できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づき完成されたものであって、インキ、並びに記録シートを提供するものである。
【0012】
本発明は、電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルを加圧破壊し、マイクロカプセルから電子供与性染料前駆体を放出して電子供与性染料前駆体の潜像を形成し、加熱することで前記電子受容性有機顕色剤と反応させて潜像が顕像化されることを特徴とするインキであって、前記インキが電子受容性有機顕色剤を含有するインキ、または前記マイクロカプセルと前記電子受容性有機顕色剤の両者を含有するインキに関する。
電子受容性有機顕色剤が、4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン、1,4−ビス〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、1,3−ビス〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1−〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕−4−〔α′,α′−ビス(4″−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、4,4′−ビス(p−トルエンスルホニルアミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、4,4′−ビス〔(4−メチル−3−フェノキシカルボニルアミノフェニル)ウレイド〕ジフェニルスルホン及び下記一般式(1)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
【化1】

(nは1〜7の整数を表す。)
請求項1または2に記載のインキを紙面上に印刷した記録シートに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るインキ、及び記録シートは、一般の感圧記録体と同様に取り扱うことで、記入した情報を高い機密保持性を有した潜像として記録することができ、情報を読み取る時には、潜像が形成された媒体に熱を加えるだけで簡単に潜像を顕像化でき、情報の隠蔽や可視化に際して貼着・剥離といった手間を必要とせず、しかも無駄な廃棄物の発生もないので環境負荷を高めることがないという利点がある。また、上用紙、或いは普通紙に、前記インキを印刷することで、記録紙の特定部分にのみ必要な情報を記録することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るインキは、インキ中の、または別の支持体上に形成された電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルを加圧破壊し、マイクロカプセルから電子供与性染料前駆体を放出して電子供与性染料前駆体の潜像を形成し、加熱することで電子受容性有機顕色剤と反応させて潜像を顕像化するために使用するインキであって、前記電子受容性有機顕色剤が、マイクロカプセル中に含有される疎水性有機溶媒と電子供与性染料前駆体の共存下、常温(20±15℃)では電子供与性染料前駆体を実質的に発色させない化合物であることが重要である。
【0016】
因みに、従来の感圧記録体に使用されている電子受容性顕色剤のうち、ノボラック型フェノール樹脂やサリチル酸誘導体の多価金属塩は、疎水性有機溶媒に対する溶解性が高く、電子供与性染料前駆体を溶解した疎水性有機溶媒と接触すると直ちに電子供与性染料前駆体を発色させ、潜像を形成することができない。また、活性白土や酸性白土等の活性粘土鉱物は、疎水性有機溶媒には溶解しないものの、電子供与性染料前駆体を溶解した疎水性有機溶媒と接触すると、直ちに電子供与性染料前駆体を発色させ、上記フェノール樹脂やサリチル酸誘導体と同様に、潜像を形成することができない。
【0017】
以下、本発明のインキ、並びに記録シートについて詳細に説明する。
【0018】
ここで、「電子受容性有機顕色剤が、疎水性有機溶媒と電子供与性染料前駆体の共存下、常温では電子供与性染料前駆体を実質的に発色させない化合物」とは、電子受容性有機顕色剤が、疎水性有機溶媒に溶解しない(従って、顕色像を形成しない)か、或いは、僅かに溶解しても記録シートにおいて、常温(20±15℃)では、目視で顕色像として認識できない程度の濃度(反射光学濃度が0.07以下)でしか発色像を形成しない化合物を指す。このような化合物であれば、機密保持性に優れた潜像を形成することができる。
【0019】
上記反射光学濃度は、電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルを含有する塗工層を設けたシートと、電子受容性有機顕色剤を含有する顕色インキ層を設けたシートとを、両塗工層が相対するように重ねて58.8MPaの圧力で2秒間加圧しマイクロカプセルを加圧破壊した後、常温で1時間放置した後で測定した反射光学濃度(グレタグマクベス社製、マクベス濃度計RD918、ビジュアルモードにて測定)である。
【0020】
本発明のインキに使用する電子受容性有機顕色剤は、実際に使用する電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を用いたマイクロカプセル層を形成したシートを試作し、マイクロカプセルを加圧破壊して潜像を形成し得るかどうかを判定して選択するのが望ましいが、この方法は極めて煩雑である。
【0021】
そこで、本発明者は、各種の電子受容性有機顕色剤のうち、どのような化合物が潜像を形成し得るかを簡便に判定する方法について検討を重ねた。その結果、下記の方法に従って、電子供与性染料前駆体の疎水性有機溶媒溶液と、評価する電子受容性有機顕色剤の粉体とを混合し、その上澄み液の吸光度が0.6以下の化合物であれば、実際に記録シートを作成し、マイクロカプセルを加圧破壊して潜像を形成した時の反射光学濃度を0.07以下にすることができ、この反射光学濃度以下であれば視認することができず、潜像として扱えることを見出した。
【0022】
即ち、疎水性有機溶媒100gに電子供与性染料前駆体を2g溶解させた溶液10gに、電子受容性有機顕色剤60mgを25℃の条件下で混合攪拌した後2日間静置し、上澄み液をフィルターで濾過して得た濾液の吸光度を分光光度計で測定し、吸光度の値が0.6以下の化合物を選択する方法である。
【0023】
ここで使用する疎水性有機溶媒としては、溶解能の大きな、例えば新日本石油株式会社から「日石ハイゾールSAS296」として市販されているような、フェニルキシリルエタンを主成分とする疎水性有機溶媒を使用すると、電子受容性有機顕色剤の顕色能の差が強調され、不適当な電子受容性有機顕色剤が選択されることがないため好ましい。
【0024】
また、測定する吸光度の波長は、使用する電子供与性染料前駆体の発色色調を特徴付ける波長を選択すればよく、例えば、OCR適性を有する電子供与性染料前駆体の場合には660nmを、青発色性の電子供与性染料前駆体の場合には600nmを、黒発色性の電子供与性染料前駆体の場合には590nmを、赤発色性の電子供与性染料前駆体の場合には530nmを、それぞれ吸光度測定の波長とすればよい。
【0025】
なお、上澄み液を濾過する際のフィルターは、未溶解の電子受容性有機顕色剤が除去できればどのようなものでもよく、例えば、通常の分析で使用される濾紙、グラスフィルター、シリンジフィルター等を使用することができる。なお、本発明では、ワットマンジャパン株式会社製のGD/Xシリンジフィルタ(ポアサイズ0.2μm)を使用した。また、分光光度計は、紫外・可視・近赤外分光光度計UV−3100PC(島津製作所製)を使用した。
【0026】
電子供与性染料前駆体の一例として、OCR適性を有する電子供与性染料前駆体の一つである3,3−ビス(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−4−アザフタリドを用い、疎水性有機溶媒として「日石ハイゾールSAS296」を使用し、上記の方法に従って、各種の電子受容性有機顕色剤について660nmにおける吸光度を測定した結果を表1に示す。なお、表1には、参考例として、3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩の吸光度も併記した。
【0027】
【表1】

【0028】
前記の如く、吸光度が0.6以下である電子受容性有機顕色剤を使用すれば、記録シートに潜像を形成した時に、潜像の反射光学濃度を0.07以下とすることができる。
【0029】
本発明においては、電子受容性有機顕色剤として、4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン、1,4−ビス〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、1,3−ビス〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1−〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕−4−〔α′,α′−ビス(4″−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、4,4′−ビス(p−トルエンスルホニルアミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、4,4′−ビス〔(4−メチル−3−フェノキシカルボニルアミノフェニル)ウレイド〕ジフェニルスルホン及び下記一般式(1)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1種を使用すると、機密保持性に優れた潜像を形成することができるため、好ましい。
【0030】
【化2】

(nは1〜7の整数を表す。)
【0031】
本発明の記録シートにおいては、機密性の高い潜像が形成できることと、かかる潜像を常温を超える温度に加熱することで、潜像を顕像化(可視化)できることが必要である。潜像の顕像化においては、あまり低い温度で顕像化できると、記録シートの取り扱い中に不用意に顕像化されて、伝達情報の機密保持ができなくなる虞があるため、90℃以上の温度で加熱した時に、潜像が顕像化されることが望ましい。なお、上記に例示した電子受容性有機顕色剤は、どのような電子供与性染料前駆体を選択しても、いずれも90℃以上で加熱してはじめて顕像化される材料である。
【0032】
一方、潜像が顕像化される温度(顕像化温度)が高い場合には、後述の増感剤を使用することで顕像化温度を適当な範囲に下げることができるが、あまり顕像化温度が高過ぎると、多量の増感剤を使用する必要があり、またそれによる弊害を生ずる虞もあるため、顕像化温度は200℃以下が好ましい。
【0033】
また、顕像化後の画像の反射光学濃度が0.1程度では情報が判読しづらいため、実用的には、顕色化後の画像の反射光学濃度は0.2以上であることが好ましい。このような理由から、本発明の記録シートでは、顕像化後の画像の反射光学濃度が0.2以上となる顕像化温度が90〜200℃の範囲であることが望ましい。
【0034】
前記の顕像化温度は、電子受容性有機顕色剤を含むインキ層を設けたシートと、電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルを含む塗工層を設けたシートとを、塗工面が対向するように重ね、58.8MPaの圧力で2秒間加圧して潜像を形成し、潜像が形成されたシートを、熱傾斜試験機の熱板に圧力0.098MPaで5秒間押し当てて潜像を顕色化し、反射光学濃度(グレタグマクベス社製、マクベス濃度計RD918、ビジュアルモードにて測定)が0.2となる温度を測定することで得られる。
【0035】
また、前記マイクロカプセルと前記電子受容性有機顕色剤の両者を含有することを特徴とするインキを紙面上に印刷した記録シートについては、同様に顕像化温度は、58.8MPaの圧力で2秒間加圧して潜像を形成し、潜像が形成された記録シートを、熱傾斜試験機の熱板に圧力0.098MPaで5秒間押し当てて潜像を顕色化し、反射光学濃度(グレタグマクベス社製、マクベス濃度計RD918、ビジュアルモードにて測定)が0.2となる温度を測定することで得られる。
【0036】
本発明の記録シートにおいては、媒体の取り扱い過程における機密保持の点から、形成された潜像が70℃程度の高温環境下に長時間曝されても顕像化せず、潜像の熱安定性に優れていることが望ましい。
【0037】
前記の電子受容性有機顕色剤を使用したインキ、並びに記録シートは、潜像形成能力は勿論のこと、潜像の熱安定性、顕像化温度の何れにおいても良好な特性を発揮するものである。
【0038】
本発明のマイクロカプセル中に使用する電子供与性染料前駆体は、公知の各種染料前駆体を使用することができ、具体的には例えば下記の電子供与性染料前駆体を挙げることができる。なお、これらの電子供与性染料前駆体は、必要に応じて2種以上を併用することもできる。
【0039】
3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)−3−(4−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド等の青発色性染料前駆体;3−〔2,2−ビス(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)ビニル〕−3−(4−ジエチルアミノフェニル)フタリド、3,3−ビス(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−4−アザフタリド、3,3−ビス〔1−(4−メトキシフェニル)−1−(4−ジメチルアミノフェニル)エチレン−2−イル〕−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、3−〔p−(p−ジメチルアミノアニリノ)アニリノ〕−6−メチル−7−クロロフルオラン、3,6−ビス(ジメチルアミノ)フルオレン−9−スピロ−3′−(6′−ジメチルアミノ)フタリド等のOCR適性を有する染料前駆体。
【0040】
3−(N−エチル−N−イソアミル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジ(n−ブチル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジ(n−ペンチル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N−エチル−p−トルイジノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−(3−トルイジノ)フルオラン、3−ピロリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ピペリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン等の黒発色性染料前駆体;3−シクロヘキシルアミノ−6−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−6,8−ジメチルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−クロロフルオラン等の赤発色性染料前駆体。
【0041】
本発明において、前記電子供与性染料前駆体は、疎水性有機溶媒に溶解され、マイクロカプセル中に内包される。かかる疎水性有機溶媒としては、高沸点の有機溶媒が好ましく、例えば、綿実油、大豆系脂肪酸メチルエステル、水素化ターフェニル、水素化ターフェニル誘導体、アルキルビフェニル、アルキルナフタレン、ジアリールアルカン、フェニルキシリルエタン、パラフィン、ナフテン油、フタル酸エステル等の二塩基酸エステル等の天然または合成の疎水性有機溶媒が挙げられ、これらの少なくとも1種が使用される。
【0042】
マイクロカプセル中に内包される電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒の比率は、通常、染料前駆体100質量部に対して、600〜3500質量部程度の疎水性有機溶媒を使用するのが好ましい。
【0043】
本発明において、マイクロカプセルの壁膜材の種類については特に制限はなく、例えばアミノアルデヒド樹脂、ポリウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等の合成高分子系の材料、ゼラチン等の天然系材料のいずれも使用することができる。
【0044】
アミノアルデヒド樹脂壁膜カプセルは、例えば尿素、チオ尿素、アルキル尿素、エチレン尿素、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、メラミン、グアニジン、ビウレット、シアナミド等の少なくとも1種のアミン類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミン、グルタールアルデヒド、グリオキザール、フルフラール等の少なくとも1種のアルデヒド類、或いはそれらを縮合して得られる初期縮合物等を使用したin−situ重合法によって製造される。 この場合、電子供与性染料前駆体を疎水性有機溶媒に溶解した油性液は、エチレン−無水マレイン酸共重合体塩等の水溶性高分子を溶解した水性媒体中に乳化分散し、得られた乳化分散液中に壁膜剤を添加し、pHを調節した後、攪拌下で加温して重合を進めてマイクロカプセル分散液が調製される。
【0045】
ポリウレタン樹脂やポリウレア樹脂壁膜カプセルは、例えば多価イソシアネートと水、多価イソシアネートとポリオール、イソチオシアネートと水、イソチオシアネートとポリオール、多価イソシアネートとポリアミン、イソチオシアネートとポリアミン等を使用した界面重合法によって製造される。また、ポリアミド樹脂壁膜カプセルは、例えば酸クロライドとアミン等の界面重合法によって製造される。この場合、イソシアネート類や酸クロライドは、電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を含む油性液中に溶解し、これらを含む油性液をポリビニルアルコール等の水溶性高分子を溶解した水性媒体中に乳化分散し、必要に応じてアミン類を添加し、攪拌下で加温して重合を進めてマイクロカプセル分散液が調製される。
【0046】
ゼラチンカプセルは両性高分子であるゼラチンと、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース等のアニオン性高分子を用いたコアセルベーション法により製造される。 この場合は、電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を含む油性液をゼラチン水溶液中に乳化分散し、この乳化分散液にアラビアゴム等のアニオン性高分子を混合し、温水で希釈し、pH調節してコアセルベーションを進行させ、冷却後、ホルマリン等で硬化した後、pH調節してマイクロカプセル分散液が調製される。
【0047】
マイクロカプセルの平均粒子径についても特に制限はなく、平均粒子径としては、1〜15μmが好ましく、更に好ましくは2〜10μmである。なお、マイクロカプセル中には、必要に応じて、紫外線吸収剤等の各種助剤を内包させることもできる。
【0048】
本発明のインキは、非水系あるいは水性系インキである。また、インキは前記電子受容性有機顕色剤を含有するインキ、電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルと前記電子受容性有機顕色剤の両者を含有するインキがあげられる。
【0049】
本発明の記録シートでは、電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルおよび前記電子受容性有機顕色剤を含有するインキを使用する場合は、支持体上に前記インキを印刷することにより、目的とする作用効果の記録シートが得られ、一方、前記電子受容性有機顕色剤を含有するインキを使用する場合は、支持体上に前記インキを印刷し、電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルを含有する塗工層を別の支持体に形成し、インキによる印刷面と塗工層とが接するように構成されることにより、目的とする作用効果が得られるものである。また、支持体の同一面に前記電子受容性有機顕色剤を含有するインキを印刷し、さらにその上に電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルを含有するインキ層を設けた記録シートを作製することにより、目的とする作用効果が得られるものであってもよい。
【0050】
非水性インキは、電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルを含有する場合は、粉末状のマイクロカプセルを必須とし、さらに前記電子受容性有機顕色剤を含有することになる。非水系インキに用いる場合にはメラミン−ホルムアルデヒド樹脂を壁膜とするマイクロカプセルが好ましい。理由としては、壁膜がインキ用樹脂類やインキ用溶剤類に溶解しにくいことがあげられる。さらにマイクロカプセル中には、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を含有してもよい。
【0051】
本発明の非水系インキの製造には、有機顕色剤、マイクロカプセル以外の成分としては、インキ用樹脂類、インキ用溶剤類、顔料やその他の添加剤が用いられる。インキ用樹脂類としては、例えば乾燥(酸化)硬化型インキの場合には、ロジン変性フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂、ポリアミド樹脂、ブタノール変性アミノ樹脂等種々の材料が知られている。光硬化型インキの場合には、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ(メタ)アクリレート、ロジン変性エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、アルキッド(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系プレポリマー等種々の光重合型化合物が知られており、代表例としてはラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の単官能モノマー、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート等の2官能モノマ−、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート等の多官能モノマーが挙げられる。また、皮膚刺激性を低くするために、アルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオールや、多塩基酸カルボン酸で変性したポリエステルポリオールの形で使用することも知られている。これらインキ用樹脂類は1種若しくは必要により2種以上を選択して使用される。インキ用溶剤としては、例えば、沸点が200℃以上の高沸点石油溶剤(精製軽油等)、高級脂肪酸エステル類、高級アルコール類、グリコール系溶剤、アマニ油、桐油、大豆油等が挙げられ、有機顕色剤との相溶性、印刷機上適性の他、印刷機に使われるゴムロール、版材、ブランケット等との相性を考慮して、1種若しくは2種以上を選択使用するのが望ましい。また、顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、水酸化マグネシウム、タルク等従来公知の顔料が、必要により1種若しくは2種以上混合して使用され、一般的にはインキ中に0〜50質量%、好ましくは5〜30質量%添加使用される。
【0052】
本発明のインキには、更に、分散剤、ワックス類、オイル類、接着剤樹脂類、オフセット印刷適性向上のための合成樹脂類、紫外線吸収剤、酸化防止剤、蛍光染料、澱粉、デキストリン等の裏移り防止剤、乾燥促進剤等も適宜用いてもよい。これらインキ用材料からなるインキワニス成分のインクへの混合割合は、前記一般式(1)の化合物や、顕色剤の種類や配合量により適宜選ばれるもので特に限定するものではないが、通常前記顕色剤100質量部に対し、インキワニス成分の合計が100〜1000重量部程度とするのが好ましい。インクの調製方法についても、特に限定されるものではないが、顕色剤を予めインキワニス成分中に分散した後に、残りのインキワニス成分と共に添加してインキ化する方法が一般的である。顕色剤を除く他のインキ成分で前もって作成したインキワニス中に、例えば3本ロールミル等で後添加で混練し、必要により加熱溶解してインキ化する方法もある。マイクロカプセルを含有するインキの場合は、前記顕色剤100質量部に対し、マイクロカプセル中の電子供与性染料前駆体は50質量部、インキワニス成分の合計が150〜1500質量部程度である。
【0053】
また、電子受容性有機顕色剤を含有するインキ、前記マイクロカプセルと前記電子受容性有機顕色剤の両者を含有するインキは、低沸点有機溶媒を使用するフレキソ印刷方式、凸版またはオフセット印刷用のインキ、紫外線硬化型インキ等、公知の印刷、硬化方式を選択することができる。
【0054】
本発明による顕色インキは、活版印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷等で印刷することができる。
【0055】
水性系インキについては、前記電子受容性有機顕色剤を含有するインキ、または電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルと前記電子受容性有機顕色剤の両者を含有するインキであるが、更にバインダー、顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、蛍光染料、ワックス、ドライヤー、増粘剤、ゲル化剤等インキ分野で公知の各種助剤が添加されてもよい。
【0056】
水系インキに用いられるバインダーとしては、水溶性バインダーとラテックス系バインダーが挙げられ、水溶性バインダーとしてはゼラチン、アルブミン、カゼイン等のプロテイン類穀物澱粉、α化澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉エステル化澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース類、寒天、アルギン酸ソーダ、アラビヤゴム等の多糖類の如き水溶性天然高分子化合物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、マレイン酸共重合物等の如き水溶性合成高分子化合物がありラテックス系バインダーとしては、スチレン−ブタジエンラテックス、アクリロニトリル−ブタジエンラテックス、アクリル酸エステル系ラテックス、酢酸ビニル系ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエンラテックスおよびこれらのカルボキシ変性(例えばアクリル酸)ラテックス等がある。これらのバインダーは使用される媒体の種類等に応じて選択され使用される。
【0057】
水系インキに用いられる顔料としては、シリカ、コロイダルシリカ、ゼオライト、ベントナイト、カオリン、焼成カオリン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、メラミン樹脂粒子、尿素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子等、当業界で公知の無機、有機顔料が挙げられる。
【0058】
本発明のインキは、非水系あるいは水性系インキが選択できるが、水性系インキを使用した場合は、印刷するインキの量や支持体の種類によって印刷機での乾燥時に記録シートの偏伸、カール等が生じる恐れがあるため、非水系インキが好ましく用いられる。
【0059】
前記電子受容性有機顕色剤を含有するインキを使用する場合は、別の支持体上にマイクロカプセルを含有する層を設けたシートとセットで使用されるが、マイクロカプセルを含有する層を形成するための塗工液は、前記マイクロカプセル(マイクロカプセル分散液)に、ポリビニルアルコール類、澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ラテックス類等の接着剤の他、パルプ粉末、生澱粉粉末等のスチルト剤等の各種助剤が適宜配合されて調製される。接着剤はマイクロカプセル100質量部に対して、一般に、15〜35質量部程度の割合で配合され、スチルト剤はマイクロカプセル100質量部に対して、10〜30質量部程度の割合で配合される。
【0060】
また、マイクロカプセル含有層を形成するための塗工液の塗布方法については、特に限定されるものではなく、エアナイフコーター、ロールコーター、ブレードコーター、ロッドブレードコーター、カーテンコーター、リップコーター等の公知の塗布装置を備えたオンマシンまたはオフマシンコーターから適宜選択することができる。また、マイクロカプセル含有層を形成する場合には、マイクロカプセル分散液からマイクロカプセルを分離し、インク化した後、印刷方式で支持体上にマイクロカプセル含有層を形成することもできる。
【0061】
電子受容性有機顕色剤を含有するインキを紙面上に印刷する場合、前記電子受容性有機顕色剤は、通常は0.1〜7g/m2程度、好ましくは0.3〜4g/m2程度となるように使用するのが好ましい。また前記マイクロカプセルと前記電子受容性有機顕色剤の両者を含有するインキを紙面上に印刷する場合、前記電子受容性有機顕色剤とマイクロカプセルの合計量が、通常は0.1〜15g/m2程度、好ましくは0.3〜10g/m2程度となるように使用するのが好ましい。
【0062】
本発明に使用する支持体としては、特に限定されず、紙、合成紙、フィルム等を使用することができるが、一般には紙が使用される。かかる紙としては、必要に応じて古紙パルプを配合し、酸性抄紙、或いは中性抄紙して製造された紙、更には、これらの紙の表面に顔料塗工層を形成した紙等を使用することができる。また、支持体の坪量についても特に限定されず、一般には、40〜400g/m2程度のものが使用される。
【0063】
本発明における転写タイプの記録シートは、少なくとも、電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルを含有する層を支持体裏面に形成したシートと、電子受容性有機顕色剤を含有するインキ層を支持体表面に形成したシートで構成されるが、必要に応じて、前記シート間に、支持体表面に電子受容性有機顕色剤を含有する層を形成し、支持体裏面にマイクロカプセルを含有する層を形成したシートを1枚以上挿入した形態とすることもできる。このような3枚以上のシート構成にする場合には、いずれかの層に使用する電子受容性有機顕色剤を、潜像を形成しない通常の顕色剤とすることもできる。
【0064】
転写タイプの記録シートの場合には、最上のシートとなる、裏面にマイクロカプセルを含有する層を形成したシートを、記入した情報の控え用シートとすることができる。また、自己発色タイプの記録シート、即ち前記マイクロカプセルと前記電子受容性有機顕色剤の両者を含有するインキを紙面上に印刷した記録シートの場合には、その上に上質紙をセットしておけば、上質紙を記入した情報の控え用シートとすることができる。
【0065】
本発明の記録シートには、各種の文字情報や図柄や広告等を印刷することができる。また、必要に応じて、伝達情報の潜像が形成される部分には、地紋印刷を施しておくこともできる。
【0066】
本発明における潜像形成は、ボールペン等の筆記具による筆記圧や、タイプライター、シリアルドットピンプリンター等による印字圧によって、電子供与性染料前駆体を内包するマイクロカプセルを加圧破壊することによって達成される。また、形成された潜像の顕像化は、潜像が形成されたシートを、常温を超える温度、好ましくは90℃以上に加熱することによって達成される。その際の加熱手段には特に限定はなく、例えば熱ロール、熱スタンプ、熱風を利用した加熱装置等が利用できる。加熱時間に限定はなく、電子受容性有機顕色剤が疎水性有機溶媒と電子供与性染料前駆体の共存下で溶解するのに十分な熱エネルギーを潜像部に与えることができればよい。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、特に断わらない限り、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。なお、マイクロカプセルの実施例中の粒子径は、レーザー光回折型粒度分布計SALD2000(島津製作所社製)より得られた50%粒子径である。また、以下の実施例及び比較例では、電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルを含有する層を裏面に形成したシートを「上用紙」と表示し、電子受容性有機顕色剤を含有するインキ層を表面に形成したシートを「下用紙」と表示する。
【0068】
実施例1
・マイクロカプセル分散液Aの調製
電子供与性染料前駆体として、3,3−ビス(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−4−アザフタリド7.5部を、フェニルキシリルエタンを主成分とする疎水性有機溶媒(商品名:日石ハイゾールSAS296、新日本石油社製)100部に120℃で溶解し、25℃に冷却後、ビュウレット結合を有するヘキサメチレンジイソシアネートの3量体(商品名:デスモジュールN3200、住化バイエルウレタン社製)4部、ポリメリックMDI(商品名:スミジュール44V20、住化バイエルウレタン社製)2部とを溶解して油性液を得た。この油性液をポリビニルアルコール(商品名:PVA217EE、クラレ社製)の3%水溶液80部中にホモジナイザーを用いて乳化し、粒子径6μmの分散液を得た。この乳化物に多価アミン化合物(商品名:JERキュア(登録商標)T、ジャパンエポキシレジン社製)1部を水5部に溶解した水溶液を加えて均一化した。この乳化分散液を緩やかに撹拌しながら90℃に昇温し、5時間の重合反応を行った後、室温まで温度を下げ、電子供与性染料前駆体、疎水性有機溶媒を含有した粒子径6μmのマイクロカプセル分散液を調製した。得られたマイクロカプセル分散液を水で希釈し、固形分濃度30%のマイクロカプセル分散液Aを得た。
【0069】
・上用紙の作製
マイクロカプセル分散液A100部(固形分)に小麦澱粉粒子20部、カルボキシ変性SBRラテックス25部(固形分換算)を加えて撹拌し、上用紙用塗工液を調製した。40g/m2の上質紙上に、この上用紙用工塗液を乾燥塗布量が3.0g/m2となるように塗布乾燥して上用紙を得た。
【0070】
・インキ(1)の作製
下記配合処方により、有機顕色剤の粒子径が1μm(粒度分布計LB500(堀場製作所製)より得られた50%粒子径)となるように有機顕色剤をインキワニス成分に分散した後、3本ロールミルで顔料、精製軽油を添加し練肉し、インキ(1)を得た。
有機顕色剤「下記一般式(1)で表される化合物」20部
ロジン変性フェノール樹脂ワニス48部(固形分換算)
アルキッド樹脂ワニス10部(固形分換算)
炭酸マグネシウム4部
精製軽油3部
酸化チタン(商品名:タイペークCR93、石原産業社製)15部
【0071】
【化3】

(nは1〜7の整数を表す。)
【0072】
・下用紙の作製
前記インキ(1)を上質紙(坪量40g/m)に、RIテスター(明製作所製)を使用して、盛り量4.0g/mとなるように印刷して下用紙を得た。
【0073】
実施例2
・インキ(2)の作製
前記一般式(1)で表される化合物を使用し、下記配合処方により混合した後、3本ロールミルで練肉することにより、インキ(2)を得た。
有機顕色剤「上記一般式(1)で表される化合物」30部
UV樹脂ワニス(アルキッド(メタ)アクリレート)10部(固形分換算)
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート15部
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート25部
酸化チタン(商品名:タイペークCR93、前出)10部
ワックス2部
α、α´−ジエトキシアセトフェノン5部
【0074】
・下用紙の作製
前記インキ(2)を使用して実施例1と同様にして印刷した後、水銀ランプを照射し、硬化させ、下用紙を得た。
【0075】
実施例3
実施例1の下用紙の作製において、電子受容性有機顕色剤として、上記一般式(1)で表される化合物の代わりに、4,4′−ビス(p−トルエンスルホニルアミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタンを用いた以外は、実施例1と同様にして下用紙を得た。
【0076】
実施例4
実施例1の下用紙の作製において、電子受容性有機顕色剤として、上記一般式(1)で表される化合物の代わりに、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタンを用いた以外は、実施例1と同様にして下用紙を得た。
【0077】
実施例5
実施例1の下用紙の作製において、電子受容性有機顕色剤として、上記一般式(1)で表される化合物の代わりに、1−〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕−4−〔α′,α′−ビス(4″−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼンを用いた以外は、実施例1と同様にして下用紙を得た。
【0078】
実施例6
実施例1の下用紙の作製において、電子受容性有機顕色剤として、上記一般式(1)で表される化合物の代わりに、1,3−ビス〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼンを用いた以外は、実施例1と同様にして下用紙を得た。
【0079】
実施例7
実施例1の下用紙の作製において、電子受容性有機顕色剤として、上記一般式(1)で表される化合物の代わりに4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホンを用いた以外は、実施例1と同様にして下用紙を得た。
【0080】
実施例8
・粉末状のマイクロカプセルの作製
3,3−ビス(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−4−アザフタリド7.5部をフェニルキシリルエタンを主成分とする疎水性有機溶媒(商品名:日石ハイゾールSAS296、前出)100部に加熱溶解して内相油を得た。エチレン−無水マレイン酸共重合体(商品名EMA31、モンサント社製)の3%水溶液200部に、20%苛性ソーダ水溶液を滴下してpHを6.0とした液に、この内相油を乳化した後、この系を55℃に昇温した。別に、37%ホルムアルデヒド水溶液45部にメラミン15部を加え、60℃で15分間反応させてプレポリマー水溶液を調製した。
このプレポリマー水溶液を前記乳化液中に滴下し、更に、撹拌しながら0.1N−塩酸を滴下してpHを5.3とした後、80℃まで加温し、その温度で1時間保持後、0.2N−塩酸でpHを3.5に下げ、更に3時間保温した後放冷して平均粒径3.0μのカプセル分散液を得た。次いで、このカプセル分散液を濾過した後に風乾して粉末状のマイクロカプセルを得た。
【0081】
・インキ(3)の作製
下記配合処方により、粉末状のマイクロカプセル、有機顕色剤とインキワニス成分を混合した後、3本ロールミルで顔料類を添加し練肉し、インキ(3)を得た。
前記粉末状のマイクロカプセル160部
有機顕色剤「下記一般式(1)で表される化合物」20部
ロジン変性フェノール樹脂ワニス48部(固形分換算)
アルキッド樹脂ワニス10部(固形分換算)
炭酸マグネシウム4部
精製軽油3部
酸化チタン(商品名:タイペークCR93、前出)15部
【0082】
・記録シートの作製
前記インキ(3)を上質紙(坪量40g/m)に、RIテスター(明製作所製)を使用して、盛り量6.0g/mとなるように印刷して記録シートを得た。
【0083】
比較例1
実施例1の下用紙の作製において、電子受容性有機顕色剤として、上記一般式(1)で表される化合物の代わりに、3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩を用いた以外は、実施例1と同様にして下用紙を得た。
【0084】
比較例2
実施例8のインキの作製において、電子受容性有機顕色剤として、上記一般式(1)で表される化合物の代わりに、3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩を用いた以外は、実施例8と同様にして記録シートを得た。
【0085】
<感熱発色性感圧記録媒体の評価>
上記で得た上用紙と下用紙の組み合わせ、および記録シートを用いて、以下の項目について評価し、その結果を表2に示した。
【0086】
(潜像形成能)
上記で得た上用紙と下用紙とを両塗工層が相対するように重ねて58.8MPaの圧力で2秒間加圧した後、1時間放置して、各下用紙に形成された潜像の反射光学濃度(マクベス濃度計RD918、グレタグマクベス社製、ビジュアルモードにて測定)を測定した。
実施例8で得られた記録シートも58.8MPaの圧力で2秒間加圧した後、1時間放置して、記録シートに形成された潜像の反射光学濃度を測定した。
なお、潜像の反射光学濃度が0.07以下であれば、視認することができず、潜像として扱える。
【0087】
(潜像の熱安定性)
上記潜像形成能の評価と同様にして潜像を形成した各下用紙および記録シートを、75℃の環境下に24時間放置した後、再度、潜像部の反射光学濃度(マクベス濃度計RD918、グレタグマクベス社製、ビジュアルモードにて測定)を測定した。
なお、潜像部の反射光学濃度が0.10未満であると、潜像の熱安定性は実用上問題ない。
【0088】
(顕像化温度)
上記潜像形成能の評価と同様にして潜像を形成した各下用紙および記録シートを、熱傾斜試験機(TYPE HG−100、東洋精機社製)を用い、潜像部を熱板に0.098MPaの圧力で5秒間押し当て、顕像の反射光学濃度(マクベス濃度計RD918、グレタグマクベス社製、ビジュアルモードにて測定)が0.20となる温度を測定した。
【0089】
(顕像形成能)
上記潜像形成能の評価と同様にして潜像を形成した各下用紙および記録シートを、熱傾斜試験機(TYPE HG−100、東洋精機社製)を用い、潜像部を170℃の熱板に0.098MPaの圧力で5秒間押しつけて、顕像化処理を行った。得られた顕像部の反射光学濃度(マクベス濃度計RD918、グレタグマクベス社製、ビジュアルモードにて測定)を測定した。
なお、顕像部の反射光学濃度が0.2以上であると、実用上使用が可能である。
実施例5については顕像部の反射光学濃度が0.15であるが、潜像部を195℃の熱板に上記条件で顕像化処理を行った場合は、顕像部の反射光学濃度は0.25となり、実用上使用が可能となる。
【0090】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0091】
表2の結果から明らかなように、本発明のインキを使用した下用紙、記録シートは、潜像形成能、潜像の熱安定性、顕像化温度及び顕像形成能に優れており、簡便な方法で、伝達情報の機密化と可視化ができ、隠蔽ラベルに代わる記録システムとして適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子供与性染料前駆体と疎水性有機溶媒を内包するマイクロカプセルを加圧破壊し、マイクロカプセルから電子供与性染料前駆体を放出して電子供与性染料前駆体の潜像を形成し、加熱することで前記電子受容性有機顕色剤と反応させて潜像が顕像化されるインキであって、前記インキが電子受容性有機顕色剤を含有するインキ、または前記マイクロカプセルと前記電子受容性有機顕色剤の両者を含有することを特徴とするインキ。
【請求項2】
電子受容性有機顕色剤が、4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン、1,4−ビス〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、1,3−ビス〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1−〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕−4−〔α′,α′−ビス(4″−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、4,4′−ビス(p−トルエンスルホニルアミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、4,4′−ビス〔(4−メチル−3−フェノキシカルボニルアミノフェニル)ウレイド〕ジフェニルスルホン及び下記一般式(1)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のインキ。
【化1】

(nは1〜7の整数を表す。)
【請求項3】
請求項1または2に記載のインキを紙面上に印刷したことを特徴とする記録シート。

【公開番号】特開2010−221606(P2010−221606A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73054(P2009−73054)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】