説明

インク、インクセット、インクジェット記録方法及びインクカートリッジ

【課題】近年求められる程度の高い発色性を満足できる、青空や水中画像等のモニタ画像を再現するのに有効な、発色性に優れたインクの提供。
【解決方法】銅フタロシアニン染料を含むインクにおいて、下記一般式(1)で表されるキサンテン染料を少なくとも1種含有するインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インクとして好適な、色再現性、耐光性に優れたインク、及びこれを用いるインクセット、インクジェット記録方法、及びインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット記録方法を用いたカラー記録には、それぞれの色調を有する染料を水溶性媒体中に溶解させた水性のカラーインクが用いられている。それらのカラーインクは、数ある色材の中から最適なものを選択し、カラー色調が調整されている。カラー記録に用いるカラーインクとしては、一般的には、シアン、マゼンタ及びイエローの3色が用いられている。近年では、RGB画像を忠実に再現するために、上記の3原色に加えて、発色性に優れたレッド、グリーン及びブルーインク等の特色を用いるインクジェット印刷方法が提案され、実施されている。特色の中でもブルーインクは、青空や水中画像等のモニタ画像を再現するのに有効であり、用いられることが多くなっている。
【0003】
この際に用いられるブルーインクとしては、一つの色材で構成されている場合もある(特許文献1及び2参照)。しかしながら、このような形態のブルーインクでは、近年求められている発色性を十分に実現できる優れた発色性を有するものは未だ開発されていない。そのため、ブルーインクは、シアンとマゼンタの2種類の色材、或いはそれ以上の数の色材によって構成されている場合が多い(例えば、特許文献3〜5参照)。例えば、特許文献5では、カラー記録に共に用いるシアンインクに含有されているシアン色材と、共に用いるマゼンタインクには含有されていないキサンテン構造を有するマゼンタ色材とを含有してなるブルーインクが開示されている。
【0004】
しかし、従来よりインクジェット用インクとして用いられているシアン及びマゼンタの2種類のインクを組み合わせた場合であっても、近年要求されるブルー画像の発色性に対しては、まだ不十分である。一方、近年におけるインクジェット記録方法の利用の拡大に伴い、画像堅牢性に対する要求も更に高まっており、ブルーインクにおいても、耐光性等の堅牢性に優れたものが求められている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−111673号公報
【特許文献2】特開2004−250606公報
【特許文献3】特開2001−220529公報
【特許文献4】特開2002−220555公報
【特許文献5】特開2000−273374公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記したように、青空や水中画像等のモニタ画像を再現するのに有効であるため、ブルーインクに対しては発色性に優れているものが特に求められている。しかしながら、特色インクとして使用するブルーインクにおいては、少なくとも、共に用いるシアンインク及びマゼンタインクの重ね印字で得られるブルー色よりも発色性に優れていないと、実画像での効果が見られない。そのため、より発色性に優れたブルーインクの開発が強く求められている。
【0007】
一方、画像堅牢性においては、特に光劣化に対しての向上が強く求められている。これは、発色性の良いキサンテン染料で環境ガスによる劣化に強いものは今までにも報告されているが、光劣化に強いものは未だ知られていないためである。即ち、従来のキサンテン染料をブルーインク用のマゼンタ染料として用いて画像形成を行った場合に、キサンテン染料の光による褪色が顕著に現れてしまうためである。
【0008】
前記した特許文献5には、耐光性の向上を目的としたブルーインクが開示されている。しかしながら、実施例で開示されているものも含めて、近年望まれている程度に高い発色性を有するブルーインクを開示したものではない。
【0009】
そこで、本発明の第1の課題は、近年求められる程度の高い発色性を満足できる、青空や水中画像等のモニタ画像を再現するのに有効な、発色性に優れた水性ブルーインクを提供することである。又、本発明の第2の課題は、上記の課題に加えて、更に耐光性にも優れた水性ブルーインクを提供することである。更に、本発明の第3の課題は、それらのインクを用いた発色性及び堅牢性に優れた画像を与えることのできるインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的の達成のために本発明者らはブルーインクの検討を行ってきた。先ず、1つの色材で良好なブルーインクとなる染料を探索したが、課題を達成したものは見当たらなかった。次に、2つの色材を組み合わせたブルーインクの検討を数多く行った。すると、驚くべきことに、特定のキサンテン染料と銅フタロシアニン染料とを組み合わせることにより、夫々の染料を単独で用いた場合には表現し得ない色域の表現を可能とできること(発色性における相乗効果)を見出した。更に、鋭意検討を重ねた結果、特定のキサンテン染料と特定の銅フタロシアニン染料を組み合わせることにより、発色性における相乗効果がより顕著であるということを見出した。
【0011】
具体的には、以下に示す通りであり、前記した課題は、下記の本発明によって達成される。即ち、本発明は、銅フタロシアニン染料を含むインクにおいて、下記一般式(1)で表されるキサンテン染料を少なくとも1種含有することを特徴とするインクである。

(式(1)中、Z1乃至Z4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、スルホン酸基、置換していてもよいアミド基から選択される何れかを表す。Mは、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンから選択される何れかを表す。)
【0012】
又、本発明のより好ましい形態としては、上記一般式(1)で表されるキサンテン染料のうち、特定構造のものとしたものが挙げられるが、かかる形態によって、より高いレベルで発色性と堅牢性の両立が可能となる。
【0013】
具体的には、上記一般式(1)で表されるキサンテン染料のうち、下記一般式(2)で表されるキサンテン染料であるインクである。

(式(2)中、Z5及びZ6はカルボキシル基を表し、又、Z7及びZ8はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、スルホン酸基及び置換していてもよいアミド基から選択される何れかを表す。又、Mは、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンから選択される何れかを表す。)
又、本発明のより好ましい形態としては、キサンテン染料の含有量(A)と銅フタロシアニン染料の含有量(B)比(A:B)が0.2:1乃至4:1である上記何れかのインクである。
【0014】
又、本発明の別の実施形態は、下記のものが挙げられる。インクジェット記録に用いられる、シアン、マゼンタ及びイエローから選択される何れかのインクと、ブルーインクとを少なくとも組み合わせてなるインクセットであって、該ブルーインクが、上記何れかのインクであることを特徴とするインクセット;
インクを記録信号に応じてオリフィスから吐出させて記録媒体上に記録を行うインクジェット記録方法において、該インクが、上記何れかのインクであることを特徴とするインクジェット記録方法;
インクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、該インクが、上記何れかのインクであることを特徴とするインクカートリッジである。
【0015】
上記構成からなる本発明のインクセット、インクジェット記録方法、インクカートリッジによれば、それぞれに本発明のインクを用いることで、記録媒体上に画像を形成した場合に、発色性に優れた記録画像を得ることができる。更に、本発明のインクセット、インクジェット記録方法、インクカートリッジによれば、耐光性にも優れた記録画像を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる一実施形態によれば、インクジェット用インクとして良好な発色性・色再現性を有し、且つ、耐光性等の堅牢性に優れたブルーインクが提供される。又、そのブルーインクを用いたインクセット、インクカートリッジ、インクジェット記録方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。尚、本発明においては、染料が塩である場合は、インク中ではイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。
【0018】
《ブルーインク》
本発明のブルーインクは、銅フタロシアニン染料を少なくとも1種と、下記一般式(1)で示されるキサンテン染料を含むことを特徴としている。例えば、インクジェット記録用のインクとする場合には、これらの色材を、水及び水溶性有機溶剤に溶解或いは分散させて水性インクとする。
【0019】
〔色材〕
<キサンテン染料>
本発明で使用するキサンテン染料に求められる性能は、銅フタロシアニン染料と混合してインクとした際に、相乗効果が認められるものであり、更に良好な耐光性と発色性を発現するものである。本発明者らが検討した結果、上記の特性は、下記一般式(1)で示されるキサンテン染料を使用することで達成される。一般式(1)に示されるように、アミノ基に対してO位にカルボキシル基等の水素結合性置換基を有することで、キサンテン分子構造の形が安定化し、平面構造を取り難くなる。そのため、キサンテン染料同士の会合が阻害されるのは勿論のこと、銅フタロシアニン染料の会合も阻害される。この結果、染料分子が各々分散して存在できるようになり、より発色性が向上したものと推測される。
【0020】

【0021】
(式(1)中、Z1乃至Z4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、スルホン酸基、置換していてもよいアミド基から選択される何れかを表す。Mは、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンから選択される何れかを表す。)
【0022】
一般式(1)で示される色材に関しては、更なる検討によれば、下記一般式(2)で表されるキサンテン化合物が特に好ましく用いられる。又、これらを2種以上混合して用いることも可能である。一般的に、キサンテン染料の劣化は、アミノ基の部分が切断されることにより進行すると考えられている。このキサンテン化合物は、一般式(2)で示されるように、2位、6位にカルボキシル基である水素結合性置換基を有し、アミノ基が両側からの水素結合により保護されることとなるため、劣化しにくくなり、耐光性が大幅に向上すると推測される。
【0023】

(式(2)中、Z5及びZ6はカルボキシル基を表し、又、Z7及びZ8はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、スルホン酸基及び置換していてもよいアミド基から選択される何れかを表す。又、Mは、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンから選択される何れかを表す。)
【0024】
上記一般式(1)又は(2)で示されるキサンテン染料の具体例を以下に示すが、本発明に用いられるキサンテン化合物は、下記の例に限定されるものではない。尚、下記例示化合物は、遊離酸の形で記載した。
【0025】

【0026】

【0027】

【0028】

【0029】

【0030】

【0031】

【0032】

【0033】

【0034】

【0035】
上記した中でも、例示化合物1及び例示化合物2が、その発色性と耐光性のバランスから好適であり、例示化合物2が最も好適な化合物である。
【0036】
<フタロシアニン染料>
本発明で使用する銅フタロシアニン染料としては、C.I.ダイレクトブルー199等、既存のものも含めて何れでも使用可能だが、特に好ましくは、下記一般式(3)、及び(4)で表される化合物が挙げられる。これらの化合物は特に、堅牢性、発色性に優れており、キサンテン染料と混合した際の効果が大きいためである。これらの色材の使用に関しては、一般式(3)及び(4)で表されるフタロシアニン化合物から選択して1種単独で又は2種以上を混合して用いることも可能である。
【0037】
(A)一般式(3)で表される化合物

(上記一般式(3)中、l=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3、但し、l+m+n=3乃至4、置換基の置換位置は、4若しくは4’位を表し、Mはアルカリ金属又はアンモニウムであり、R1、R2は、それぞれ独立に、水素原子、スルホ基、カルボキシル基(但し、R1、R2は、同時に水素原子となる場合を除く。)を表し、Yは、塩素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、置換基を有してもよいモノ又はジアルキルアミノ基を表す。)
【0038】
上記一般式(3)で表される化合物は、4−スルホフタル酸誘導体、又は、4−スルホフタル酸誘導体と(無水)フタル酸誘導体を金属化合物の存在下に反応させることで得られるフタロシアニン化合物を原料に用い、下記のようにして合成することができる。即ち、上記原料中のスルホ基をクロロスルホン基に変換した後、有機アミン存在下にアミノ化剤を反応させたフタロシアニン化合物、即ち、上記一般式(3)中の4及び4’位置に限定して無置換スルファモイル基(−SO2NH2)と置換スルファモイル基(下記式(5))を導入したフタロシアニン化合物であるという特徴を持ち、かかる化合物を色材として用いたインクが極めて耐環境ガス性に優れていることを見出した。
【0039】

【0040】
上記式(5)で示される置換スルファモイル基の具体例を以下に示すが、本発明に用いられるフタロシアニン染料は、下記の例に限定されるものではない。尚、上記式(5)は遊離酸の形で記した。
【0041】

【0042】

【0043】

【0044】

【0045】

【0046】

【0047】

【0048】
中でも、上記例示化合物11を置換基として有する前記一般式(3)の化合物が、その発色性と耐環境ガス性のバランスから最も好適な化合物である。
【0049】
(B)一般式(4)で表される化合物

(上記一般式(4)中、Mはスルホン酸基の対イオンであり、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム或いは有機アンモニウムの何れかを表す。)
【0050】
上記式(4)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明に用いられるフタロシアニン染料は、下記の例に限定されるものではない。
【0051】

【0052】
<キサンテン染料とフタロシアニン染料との使用比率>
インク中のキサンテン染料(A)と銅フタロシアニン染料(B)の含有量比は、発色性の観点から考えて、A:B=0.2:1乃至4:1(A/B=0.2乃至4.0)の比率が効果的である。キサンテン染料の含有量比がこれよりも少ない場合(A/Bが0.2未満)には、色材に占めるキサンテン染料の比率が小さ過ぎて、混合したことによる相乗効果が得られにくい。一方、キサンテン染料の含有量比がこれよりも多い場合(A/Bが4.0より大)にも、色材に占める銅フタロシアニン染料の比率が小さ過ぎて、発色性の相乗効果が得られにくい。
【0053】
<その他の色材>
又、本発明のインクには、調色等の目的のため、更に別の色材を含有させることもできる。その例を以下に挙げるが、これらに限定されるわけではない。
(イエロー色材)
C.I.ダイレクトイエロー:8、11、12、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、100、110、132、173等
C.I.アシッドイエロー:1、3、7、11、17、23、25、29、36、38、40、42、44、76、98、99等
C.I.ピグメントイエロー:1、2、3、12、13、14、15、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、114、128、138、180等
【0054】
(マゼンタ色材)
C.I.ダイレクトレッド:2、4、9、11、20、23、24、31、39、46、62、75、79、80、83、89、95、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230等
C.I.アシッドレッド:6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、42、51、52、80、83、87、89、92、106、114、115、133、134、145、158、198、249、265、289等
C.I.フードレッド:87、92、94等
C.I.ダイレクトバイオレット:107等
C.I.ピグメントレッド:2、5、7、12、48:2、48:4、57:1、112、122、123、168、184、202等
【0055】
(シアン色材)
C.I.ダイレクトブルー:1、15、22、25、41、76、80、90、98、106、108、120、158、163、168、226等
C.I.アシッドブルー:1、7、15、22、23、25、29、40、43、59、62、74、78、80、90、100、102、104、117、127、138、158、161、203、204、244等
C.I.ピグメントブルー:1、2、3、15、15:2、15:3、15:4、16、22、60等
【0056】
(オレンジ色材)
C.I.アシッドオレンジ:7、8、10、12、24、33、56、67、74、88、94、116、142等
C.I.アシッドレッド:111、114、266、374等
C.I.ダイレクトオレンジ:26、29、34、39、57、102、118等
C.I.フードオレンジ:3等
C.I.リアクティブオレンジ:1、4、5、7、12、13、14、15、16、20、29、30、84、107等
C.I.ディスパースオレンジ:1、3、11、13、20、25、29、30、31、32、47、55、56等
C.I.ピグメントオレンジ:43等
C.I.ピグメントレッド:122、170、177、194、209、224等
【0057】
(グリーン色材)
C.I.アシッドグリーン:1、3、5、6、9、12、15、16、19、21、25、28、81、84等
C.I.ダイレクトグリーン:26、59、67等
C.I.フードグリーン:3等
C.I.リアクティブグリーン:5、6、12、19、21等
C.I.ディスパースグリーン:6、9等
C.I.ピグメントグリーン:7、36等
【0058】
(ブルー色材)
C.I.アシッドブルー:62、80、83、90、104、112、113、142、203、204、221、244等
C.I.リアクティブブルー:49等
C.I.アシッドバイオレット:17、19、48、49、54、129等
C.I.ダイレクトバイオレット:9、35、47、51、66、93、95、99等
C.I.リアクティブバイオレット:1、2、4、5、6、8、9、22、34、36等
C.I.ディスパースバイオレット:1、4、8、23、26、28、31、33、35、38、48、56等
C.I.ピグメントブルー:15:6等
C.I.ピグメントバイオレット:19、23、37等
【0059】
(ブラック色材)
C.I.ダイレクトブラック:17、19、22、31、32、51、62、71、74、112、113、154、168、195等
C.I.アシッドブラック:2、48、51、52、110、115、156等
C.I.フードブラック:1、2等
カーボンブラック等。
【0060】
〔水溶性有機溶剤及び添加剤〕
又、本発明のインクは、先に説明した特定のキサンテン染料と銅フタロシアニン化合物とを含むことを特徴とするが、例えば、インクジェット用のインクとする場合には、水性媒体に、これらの色材を溶解或いは分散させる。水性媒体としては、水、及び、水溶性有機溶剤との混合媒体を使用することが好ましい。好ましい水溶性有機溶剤としては、下記のものが挙げられる。例えば、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1乃至C4アルカノール;
N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;
アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン、又は、ケトアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;
グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール;
1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール;
ジチオグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、トリメチロールプロパン等のような多価アルコール類;
エチレングリコールモノメチル(或いはエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(或いはエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類;
2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルモルホリン等の複素環類、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物、尿素、及び、尿素誘導体等が好適な例として挙げられる。
【0061】
〔添加剤〕
又、本発明のインクには、これ以外に、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、キレート剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、消泡剤、及び、水溶性ポリマー等、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0062】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することができる。具体的に使用できる界面活性剤としては、下記のものが挙げられる。
【0063】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及びその塩、N−アシルメチルタウリン塩;
アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸;
ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリルスルホン塩酸、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0064】
カチオン界面活性剤としては、2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0065】
両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0066】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、
ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアリルキルアルキルエーテル等のエーテル系;
ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、
ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;
2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール系が挙げられる。
市販されているアセチレングリコール系のノニオン界面活性剤としては、例えば、川研ファインケミカル製のアセチレノールEH、日信化学製のサーフィノール104、82、465、オルフィンSTG等が挙げられる。
【0067】
(pH調整剤)
pH調整剤としては、インクのpHを所定の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用できる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等のアルコールアミン化合物;
水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、或いは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。
【0068】
(防腐、防黴剤)
防腐、防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンツチアゾール系、ニトチリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、
ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、
ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。
【0069】
有機ハロゲン系化合物としては、例えば、ペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオキシド系化合物としては、例えば、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられる。無機塩系化合物としては、例えば、無水酢酸ソーダが挙げられる。イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、
5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤としては、ソルビン酸ソーダ安息香酸ナトリウム等、例えば、アベシア製プロキセルGXL(S)、プロキセルXL−2(S)等が挙げられる。
【0070】
(キレート剤)
キレート剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、二ニトロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0071】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0072】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物;
又は、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0073】
(粘度調整剤・消泡剤)
粘度調整剤としては、水溶性有機溶剤の他に、水溶性高分子化合物が挙げられ、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。消泡剤としては、フッ素系、シリコーン系化合物が必要に応じて用いられる。
【0074】
《インクカートリッジ》
本発明のインクカートリッジは、上記で説明した本発明のインクをインク収容部に収容してなる。従って、本発明のインクが収容されるインク収容部を有するインクカートリッジであれば何れの構造のものであってもよい。以下に本発明のインクを用いて記録を行うのに好適なインクカートリッジの具体例を示す。
【0075】
図1は、本発明のインクを用いて記録を行うのに好適なインクカートリッジである液体収納容器の概略説明図であり、断面図である。図1中、液体収納容器(インクタンク)は、上部で大気連通口112を介して大気に連通し下部でインク供給口に連通し内部に負圧発生部材を収容する負圧発生部材収納室134と、液体のインクを収容する実質的に密閉された液体収納室136とに仕切壁138でもって仕切られている。そして、負圧発生部材収納室134と液体収納室136とは、液体収納容器(インクタンク)底部付近で仕切壁138に形成された連通孔140及び液体供給動作時に液体収納室への大気の導入を促進するための大気導入溝(大気導入路)150を介してのみ連通されている。負圧発生部材収納室134を画成する液体収納容器(インクタンク)の上壁には、内部に突出する形態で複数個のリブが一体に成形され、負圧発生部材収納室134に圧縮状態で収容される負圧発生部材と当接している。このリブにより、上壁と負圧発生部材の上面との間にエアバッファ室が形成されている。又、液体供給口114を備えたインク供給筒には、負圧発生部材より毛管力が高く且つ物理的強度の強い圧接体146が設けられており、負圧発生部材と圧接している。
【0076】
例示した負圧発生部材収納室内には、負圧発生部材として、ポリエチレン等、オレフィン系樹脂の繊維からなる第一の負圧発生部材132B及び第二の負圧発生部材132Aの2つの毛管力発生型負圧発生部材を収納している。132Cはこの2つの負圧発生部材の境界層であり、境界層132Cの仕切壁138との交差部分は、連通部を下方にした液体収納容器の使用時の姿勢において大気導入溝(大気導入路)150の上端部より上方に存在している。又、負圧発生部材内に収容されているインクは、インクの液面Lで示されるように、上記境界層132Cよりも上方まで存在している。
【0077】
ここで、第一の負圧発生部材と第二の負圧発生部材の境界層は圧接しており、負圧発生部材の境界層近傍は他の部位と比較して圧縮率が高く、毛管力が強い状態となっている。即ち、第一の負圧発生部材の毛管力をP1、第二の負圧発生部材の持つ毛管力をP2、負圧発生部材同士の界面の持つ毛管力をPSとすると、P2<P1<PSとなっている。
【0078】
図2は、本発明のインクを用いて記録を行うのに好適な、更に別のインクカートリッジである液体収納容器の概略説明図であり、断面図である。例示したインクカートリッジは、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の3色のインクを収容する容器41と、容器41を覆う蓋部材42とを有する。容器41の内部は、3色のインクを収容するために、互いに平行に配置された2つの仕切板411、412により、容量がほぼ等しい3つの空間に仕切られる。これら3つの空間は、互いにインクタンクホルダへカラーインクタンクを装着する際のカラーインクタンクの挿入方向に沿って並んでいる。又、これら各空間に、それぞれイエローのインクを吸収して保持するインク吸収体44Y、マゼンタのインクを吸収して保持するインク吸収体44M、及びシアンのインクを吸収して保持するインク吸収体44Cが収納されている。又、負圧発生部材であるインク吸収体44Y、インク吸収体44M、インク吸収体44C内に収容されているインクは、インクの液面Lで示されるように、夫々のインク吸収体の上部まで存在している。
【0079】
《インクジェット記録方法》
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクを記録信号に応じてオリフィスから吐出させて記録媒体上に記録を行うことを特徴とする。本発明のインクは、特に、インクに熱エネルギーを作用させて記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法に好ましく使用できる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を挙げて本説明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。尚、文中「部」及び「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0081】
[実施例1〜6及び比較例1〜3]
(インクの調製)
下記表1に示すような処方でインクを調製し、それぞれ0.2μmのメンブランフィルターで加圧ろ過した後、下記表1に記載の実施例1〜6及び比較例1〜3のインクを得た。又、特に指定がない限り、実施例、比較例のインク成分は質量%を意味する。尚、比較化合物1として、以下の構造の化合物を使用した。
【0082】

【0083】

【0084】
(インクの評価)
上記で調製した各インクを用い、下記の装置を用いて印字して、後述するようにしてインクの評価を行った。印字は、熱エネルギーを利用してインク滴を吐出するサーマルインクジェットプリンタ(商品名:PIXUS iP8600;キヤノン製)を用いて行った。この際に、図1に示した構造を有するインクカートリッジのインクタンクに各インクを充填し、このインクタンクを用いて印字を行った。そして、以下に述べる種々の試験を行った。
【0085】
<発色性>
温度23℃、相対湿度55%の条件下、記録媒体(商品名:PR−101;キヤノン製)に、記録密度4,800dpi×2,400dpiで吐出量を2.5plとして、100%dutyで印字した。印字物の反射濃度をSpectorolino(GretagMacbeth製)を用いて測定した。評価基準は以下の通りであり、結果は、表2に示した。尚、基準としたマゼンタ染料単色とは、色材として前記の実施例に用いられているそれぞれのキサンテン染料のみ3.5部を用いた以外は比較例3のインクと同様のインクを用いた場合を意味する。即ち、このマゼンタ染料のみのインクを用いて得られた印字物の反射濃度と、各インクを用いて得られた印字物の反射濃度との差(ΔC)で評価を行った。
【0086】
(評価基準)
AA:マゼンタ染料単色と比較して、ΔC≧1.5
A:マゼンタ染料単色と比較して、1.5>ΔC≧1.0
B:マゼンタ染料単色と比較して、1.0>ΔC≧0.5
C:マゼンタ染料単色と比較して、0.5>ΔC≧0
D:マゼンタ染料単色と比較して、ΔC<0
【0087】
<耐光性>
各インクを用い、温度23℃、相対湿度55%の条件下、記録媒体(商品名:PR−101;キヤノン製)に記録密度4,800dpi×2,400dpiで吐出量を2.5plとして、50%dutyで印字した。その後、温度23℃、相対湿度55%の条件下で24時間自然乾燥させ、キセノン試験装置(商品名:XL−750(スガ試験機製))に投入し、温度24℃、湿度60%の条件下、100klxの雰囲気下に168時間曝露した。先ず、印字物の反射濃度を、Spectorolino(GretagMacbeth製)を用いて試験前後でそれぞれ測定した。次に得られた反射濃度を用いて、試験後の濃度残存率((曝露後の反射濃度/曝露前の反射濃度)×100[%])を算出して評価を行った。そして、以下の評価基準で評価し、結果を表2に示した。
【0088】
(評価基準)
AA:濃度残存率が70%以上
A:濃度残存率が60%以上70%未満
B:濃度残存率が50%以上60%未満
C:濃度残存率が40%以上50%未満
D:濃度残存率が40%未満
【0089】

【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明のインクを用いて記録を行うのに好適なインクカートリッジである液体収納容器の概略説明図である。
【図2】本発明のインクを用いて記録を行うのに好適なインクカートリッジである液体収納容器の概略説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅フタロシアニン染料を含むインクにおいて、下記一般式(1)で表されるキサンテン染料を少なくとも1種含有することを特徴とするインク。

(式(1)中、Z1乃至Z4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、スルホン酸基、置換していてもよいアミド基から選択される何れかを表す。Mは、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンから選択される何れかを表す。)
【請求項2】
一般式(1)のキサンテン染料が一般式(2)で表されるキサンテン染料である請求項1に記載のインク。

(式(2)中、Z5及びZ6はカルボキシル基を表し、又、Z7及びZ8はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、スルホン酸基及び置換していてもよいアミド基から選択される何れかを表す。又、Mは、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンから選択される何れかを表す。)
【請求項3】
キサンテン染料の含有量(A)と銅フタロシアニン染料の含有量(B)比(A:B)が0.2:1乃至4:1である請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
インクジェット記録に用いられる、シアン、マゼンタ及びイエローから選択される何れかのインクと、ブルーインクとを少なくとも組み合わせてなるインクセットであって、該ブルーインクが、請求項1乃至3の何れか1項に記載のインクであることを特徴とするインクセット。
【請求項5】
インクを記録信号に応じてオリフィスから吐出させて記録媒体上に記録を行うインクジェット記録方法において、該インクが、請求項1乃至3の何れか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項6】
インクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、該インクが、請求項1乃至3の何れか1項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−94898(P2008−94898A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275984(P2006−275984)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】