説明

インクの製造方法

本発明は、インクの製造方法である。当該方法は、溶解したポリマーを含む溶剤と、オイルと、顔料とを含む有機相を用意することを含む。有機溶剤を、安定化剤を含む水性相中に分散させて、有機相の液滴を含むエマルジョンを形成する。液滴から溶剤を除去して、オイルおよび顔料の複数のドメインを有する離散ポリマー粒子を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された特性を有する新規なインクおよびそれらの製造方法に関し、より詳細には、顔料およびオイル液の複数のドメインを有するインクポリマー粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の静電写真用トナー粉末は、加熱ロール上または押出機内で溶融ブレンドされたバインダーポリマーおよび他の成分、例えば顔料および電荷調整剤などから構成される。その結果得られた固化した配合物を、次に粉砕または微粉砕して粉末を形成する。この従来の方法には固有の幾つかの欠点がある。例えば、バインダーポリマーは、粉砕が容易であるように脆くなければならない。低分子量のポリマーバインダーでは、改善された粉砕を達成できる。しかしながら、低分子量バインダーは、幾つかの欠点、すなわち、低分子量バインダーはトナー/現像剤フレークを形成する傾向があるという欠点;低分子量バインダーは、電子写真現像剤組成物を得るためにトナー粉末と混合されるキャリヤ粒子のスカミングを促進するという欠点;低分子量バインダーの低い溶融弾性率が電子写真コピー機の熱フューザーローラーに対するトナーのオフセットを増加させるという欠点;およびバインダーポリマーのガラス転移温度(Tg)は、制御するのが困難であるという欠点を有する。さらに、ポリマーの粉砕は、広い粒子サイズ分布をもたらす。その結果、有用なトナーの収率はより低いため、製造コストはより高い。また、トナー微粒子はコピー機の現像剤ステーションに蓄積し、現像剤寿命に悪影響を及ぼす。
【0003】
従来の電子静電写真トナー粉末に関わる別の問題は、画質がトナー粒子のサイズにより限定されることである。より小さいトナー粒子は画質の改善をもたらすが、かかる小さなトナー粒子は、従来の磨砕および微粉砕技術で製造するのに費用がかかり、上記の問題がある。
【0004】
例えば「蒸発限定凝集(evaporative limited coalescence)(ELC)」などの化学的トナー製造法により予め形成されたポリマーからのトナーポリマー粉末の製造は、トナー粒子を製造する従来の粉砕方法と比べて、多くの利点をもたらす。この方法では、水と不混和性である溶剤中のポリマーの溶液を形成し、そうして形成された溶液を、固体コロイド安定剤を含む水性媒体中に分散させ、次いで、溶剤を除去することによって、狭いサイズ分布を有するポリマー粒子が得られる。得られた粒子を次に単離し、洗浄し、乾燥させる。
【0005】
この技術の実施に際して、ポリマー粒子は、水と不混和性である溶剤に可溶性である任意のタイプのポリマーから調製される。そのため、得られる粒子のサイズおよびサイズ分布は、使用される個々のポリマー、溶剤、水不溶性固体粒子サスペンション安定剤、典型的にはシリカまたはラテックスの量およびサイズ、並びにローター−ステータータイプのコロイドミル装置、高圧ホモジナイザー、攪拌などを使用する機械的剪断により減少させる溶剤−ポリマー滴のサイズによって、予め決定および調節できる。
【0006】
この種の限定凝集方法は、静電トナー粒子の製造に関する多くの米国特許文献に記載されている。なぜなら、かかる方法は、典型的には、実質的に均一なサイズ分布を有するポリマー粒子の形成をもたらすからである。トナー製造に使用される代表的な限定凝集方法は、Nairらの米国特許第4,833,060号および第4,965,131号に記載されている。
【0007】
限定凝集法は、磨砕および粉砕よりも狭いサイズ分布でより小さいトナー粒子を生成することができる。上記のように、これらの小さなトナー粒子は、画質の改善をもたらす。しかし、液体キャリヤ中に懸濁または分散された顔料粒子によって、さらに良好な画質を達成できる。液体キャリヤは典型的には非導電性分散剤であり、静電潜像を放電するのを妨げる。液体トナーは、典型的には乾燥トナー粒子よりも小さい顔料を含む。5ミクロンからサブミクロンにおよぶそれらの小さな粒子サイズのために、液体トナーは、非常に高い解像度のトーン画像を生成することができる。
【0008】
典型的な液体トナー組成物は、一般的に、視覚改善添加剤(visual enhancement additive)(例えば着色顔料粒子)およびポリマーバインダーを含む。顔料の選択は、電子写真プロセス(特に表面帯電特性に関して)に適合するものに限られる。望ましいカラートーンを提供するが液体トナーとしての使用には適さない顔料がある。ポリマーバインダーは、電子写真プロセスの間および後の両方で機能を発揮する。処理性(processability)に関して、バインダーの特性は、トナー粒子の帯電および電荷安定性、流動性、並びに融着特性に影響を及ぼす。これらの特性は、現像、転写および融着の間に良好な性能を達成するのに重要である。最終的な受容体上に画像が形成された後、バインダーの性質(例えばガラス転移温度、溶融粘度、分子量)および融着条件(例えば温度、圧力およびフューザーの構成)は、耐久性(例えば耐ブロッキング性および耐消去性)、受容体への付着、光沢などに影響を及ぼす。
【0009】
液体トナー粒子における使用に適するポリマーバインダー材料は、ドライトナー粒子で使用されるポリマーバインダーに典型的なガラス転移温度の範囲(50℃〜100℃)よりも低い約−24℃〜55℃のガラス転移温度を典型的には示す。特に、幾つかの液体トナーは、液体電子写真画像形成法において、迅速な自己定着(例えばフィルム形成による)のために室温(25℃)より低いガラス転移温度(Tg)を示すポリマーバインダーを含むことが知られている(例えば米国特許第6,255,363号明細書参照)。しかし、かかる液体トナーは、トーン画像を最終的な画像受容体に融着した後、その低いTg(例えば不十分な耐ブロッキング性および耐消去性)に起因して低い画像耐久性を示すことも知られている。
【0010】
ドライトナーに関連する利便性、取り扱いやすさおよび優れた画像耐久性を保ったまま液体トナーに匹敵する優れた画質を有するドライトナーが長年にわたって必要とされてきた。さらに、その表面電荷に関わらず任意の顔料を使用して高い画質を提供する電子写真トナーが必要とされてきた。
【0011】
ポリマーシェルと、疎水性液体および顔料のコアとからなるマイクロカプセルが知られている。例えば、特開平05−314401号公報、特開昭56−142539号公報および特開平04−296868号公報を参照されたい。これらのマイクロカプセルは、ポリマーの薄いシェルにより取り囲まれた1つの液体ドメインを有し、製造中、例えば篩い分けまたは表面処理、および画像形成プロセス中に時期尚早に破壊すると、全液体コアの時期尚早な放出が起こる。製造中および画像形成プロセス中の機械的力に耐え、しかも望ましい時に破壊するのに十分に脆いマイクロカプセルを製造することは困難である。
【0012】
マイクロカプセルに関する別の問題は、シェルがしばしば上記のようなポリマーバインダーの特性を示さないことである。場合によって、ポリマーシェルは受容体シートに融着しない。
【0013】
特開昭63−147171号公報には、液体現像剤を小径スポンジに滲み込ませさせることにより得られる電子写真ディベロッパーが開示されている。この液体現像剤は、現像領域でプレスされるとスポンジから液体を放出する。そのため、小径スポンジが唯一のキャリヤであり、インクの一部ではない。小径スポンジは、画像の一部を形成する受容体シートの上に融着しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4,833,060号明細書
【特許文献2】米国特許第4,965,131号明細書
【特許文献3】米国特許第6,255,363号明細書
【特許文献4】特開平05−313401号公報
【特許文献5】特開昭56−142539号公報
【特許文献6】特開平04−296868号公報
【特許文献7】特開昭63−147171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
乾式電子写真トナー画像形成システムの画質を改善することが必要とされている。本発明は、オイルの液相と、液体トナーに典型的な非常に小さいサイズの顔料とを含む、ドライトナーに典型的なポリマーバインダーから製造された離散粒子を有するインクを提供することによってこの目的を達成した。液相は、ポリマーバインダー内の複数のドメイン内に含まれ、このことは粒子の全液体内容物が時期尚早の破壊により放出されないことを意味する。
【0016】
本発明の1つの目的は、固相と、オイルおよび顔料を含む液相とを有するインクポリマー粒子を製造する方法を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる目的は、液体を時期尚早に放出しないインクポリマー粒子を製造する方法を提供することである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、画質の改善をもたらすドライトナー粒子を製造する方法を提供することである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、様々な顔料または着色剤を使用できるドライトナー粒子を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、インクを製造する方法である。当該方法は、溶解したポリマーを含む溶剤と、オイルと、顔料とを含む第1の有機相を用意することを含む。有機溶剤を、安定化剤を含む水性相中に分散させて、有機相の液滴を含むエマルジョンを形成する。液滴から溶剤を除去して、オイルおよび顔料の複数のドメインを有する離散粒子を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明によって製造された粒子の断面顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の他の利点および本発明の性能とともに本発明の理解が深まるように、以下の説明では、添付の図面を参照する。
【0023】
本発明の方法によって製造されたインクは、固相と液相の複数のドメインとを有する。これは、固体粒子中のポケット(ドメイン)内に存在する液体を含む固体粒子が存在することを意味する。各ドメインは、固相により他のドメインから分離されており、ドメインは、一般的に、互いに、または外側表面と相互に接続されていない。ドメインは、離散粒子よりも小さい任意のサイズであることができ、複数のドメインが存在する限りドメインの数はほんの数個であってもよく、いかなる形状を有するものであってもよい。ドメインができるだけ小さく多数であることが好ましい。ドメインの形状は球形または不規則的であることができる。
【0024】
本発明の方法によって製造された粒子の固相は、いかなるタイプのポリマーまたは樹脂であってもよい。好ましいものは、乾式電子写真トナーのためにバインダーとして適切なものである。有用なポリマーとしては、ビニルモノマー、例えばスチレンモノマーから誘導されたポリマー、および縮合モノマー、例えばエステルから誘導されたポリマー、およびそれらの混合物が挙げられる。バインダーポリマーとしては、既知のバインダー樹脂を使用できる。具体的には、これらのバインダー樹脂としては、ホモポリマーおよびコポリマー、例えば、ポリエステル類;スチレン類、例えば、スチレンおよびクロロスチレン;モノオレフィン類、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレンおよびイソプレン;ビニルエステル類、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニルおよび酪酸ビニル;α−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルおよびメタクリル酸ドデシル;ビニルエーテル類、例えば、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルおよびビニルブチルエーテル;並びにビニルケトン類、例えば、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトンおよびビニルイソプロピルケトンが挙げられる。特に望ましいバインダーポリマー/樹脂としては、ポリスチレン樹脂、ポリエステル類、スチレン/アルキルアクリレートコポリマー、スチレン/アルキルメタクリレートコポリマー、スチレン/アクリロニトリルコポリマー、スチレン/ブタジエンコポリマー、スチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリエチレン樹脂およびポリプロピレン樹脂が挙げられる。特に望ましいバインダーポリマー/樹脂としては、さらに、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、変性ロジン、パラフィン類およびワックス類が挙げられる。また、特に有用なものは、1または2個以上の脂肪族ジオールを有する芳香族または脂肪族ジカルボン酸のポリエステル類、例えば、イソフタル酸もしくはテレフタル酸またはフマル酸と、ジオール類、例えばエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、およびエチレンオキシドもしくはプロピレンオキシドのビスフェノール付加物などとのポリエステル類である。特に好ましいものは、ELCに適するポリマーである。これは、当該ポリマーが水と混和性でない溶剤に溶解し、例えばKao E、Kao NおよびPiccotoner 1221のようにポリマー自体が水に実質的に不溶性であることを意味する。
【0025】
好ましくは、ポリエステル樹脂の酸価(樹脂の1グラム当たりの水酸化カリウムのミリグラム数として表される)は、2〜100の範囲内である。ポリエステル樹脂は飽和または不飽和のものであることができる。これらの樹脂のうち、スチレン/アクリル樹脂およびポリエステル樹脂が特に好ましい。
【0026】
本発明の実施において、酢酸エチル中20質量%溶液として25℃で測定した場合に1〜100センチポアズの範囲内の粘度を有する樹脂を使用することが特に都合良い。
【0027】
本発明の実施に使用するのに好適な顔料は、例えば米国再発行特許第31,072号および米国特許第4,416,965号および第4,414,152号明細書に開示されている。着色剤としては、既知の着色剤を使用できる。着色剤としては、例えば、カーボンブラック、アニリンブルー(Aniline Blue)、カルコイルブルー(Calcoil Blue)、クロムイエロー(Chrome Yellow)、ウルトラマリンブルー(Ultramarine Blue)、デュポンオイルレッド(Du Pont Oil Red)、キノリンイエロー(Quinoline Yellow)、メチレンブルークロライド(Methylene Blue Chloride)、フタロシアニンブルー(Phthalocyanine Blue)、マラカイトグリーンオキサレート(Malachite Green Oxalate)、ランプブラック(Lamp Black)、ローズベンガル(Rose Bengal)、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・イエロー97、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・ブルー15:1、C.I.ピグメント・ブルー15:3などが挙げられる。着色剤は、一般的に、総トナー粉末質量を基準として1〜90質量%の範囲内、好ましくは2〜20質量%の範囲内、最も好ましくは4〜15質量%の範囲内で、本発明の実施に使用できる。着色剤の含有量が4質量%以上であると、十分な着色力を得ることができ、着色剤の含有量が15質量%以下であると、良好な透明性を得ることができる。着色剤の混合物も使用できる。本発明において、例えば乾燥粉末、その水もしくは油分散体またはウェットケークなどの任意の形態で着色剤を本発明において使用できる。媒体ミルまたはボールミルなどの任意の方法により粉砕された着色剤も使用できる。
【0028】
本発明の実施において使用するのに適切なオイルは制限されない。適切なオイルの例としては、脂肪族炭化水素(n−ペンテン、ヘキサン、ヘプタンなど)、脂環式炭化水素(シクロペンタン、シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素(ベンゼン、アルカン、フッ素化アルカン、クロロフルオロカーボンなど)、シリコーンオイル、分岐パラフィン系溶剤ブレンド、例えばIsopar(登録商標)G、Isopar(登録商標)H、Isopar(登録商標)K、Isopar(登録商標)L、Isopar(登録商標)MおよびIsopar(登録商標)V(ニュージャージー州所在のExxon Corporationから入手可能)など、並びに脂肪族炭化水素溶剤ブレンド、例えばNorpar(登録商標)12、Norpar(登録商標)13およびNorpar(登録商標)15(ニュージャージー州Exxon Corporationから入手可能)などが挙げられる。100℃を超える沸点を有するオイルが好ましい。特に好ましいオイルは、大豆油および石油炭化水素である。離散粒子の固相を溶解しないオイルも特に好ましい。
【0029】
オイルは、必要に応じて、ドメイン安定化材料としてミクロゲルを含んでよい。ミクロゲルは、内部架橋されたポリマーまたは高分子であるか、あるいは非水性溶剤中、特に非極性炭化水素溶剤中で安定な溶液を形成する架橋ラテックス粒子である。かかるミクロゲルの例は米国特許第4,758,492号明細書に記載されている。ドメイン安定化ミクロゲルの基本的な特性は、望ましい有機溶剤、特に低誘電率の非極性溶剤への溶解性、ELCプロセスに及ぼす悪影響が無いこと、および得られる粒子が環式電子写真トナーとして使用される場合に当該得られる粒子の融着および溶融レオロジーに及ぼす悪影響が無いまたはほとんど無いことである。これは本願出願人による米国特許出願第11/624,335号および第11/624,252号明細書にさらに記載されている。
【0030】
本発明の方法により製造されたインクは、好ましくは、電子写真プロセスにおけるドライトナーとして使用される。電子写真トナー中に一般的に存在する様々な添加剤、例えば電荷調整剤、形状調整剤、および剥離剤、例えばワックス類および滑剤などがインクにふくまれてもよい。
【0031】
本発明で使用されることが好ましい剥離剤はワックス類である。具体的には、本発明において使用できる剥離剤は、例えばポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリブテンなどの低分子量ポリオレフィン類;加熱によって軟化することができるシリコーン樹脂;オレアミド、エルカアミド、リシノールアミドおよびステアラミドなどの脂肪酸アミド類;カルナウバワックス、ライスワックス、カンデリラワックス、木蝋およびホホバオイルなどの植物系ワックス;蜜蝋などの動物系ワックス;モンタンワックス、オゾセライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスおよびフィッシャー−トロプシュワックスなどの鉱物系および石油系ワックス;並びにこれらの変性生成物である。高い極性を有するワック素エステルを含むワック素、例えばカルナウバワックスまたはカンデリラワックスが剥離剤として使用される場合に、トナー粒子表面に露出するワックスの量が多くなる傾向がある。一方、低い極性を有するワックス、例えばポリエチレンワックスまたはパラフィンワックスが使用される場合には、トナー粒子の表面に露出するワックスの量が少なくなる傾向がある。
【0032】
トナー粒子表面に露出する傾向のあるワックスの量に関わらず、30℃〜150℃の範囲内の融点を有するワックスが好ましく、40℃〜140℃の範囲内の融点を有するワックスがより好ましい。
【0033】
ワックスは、トナーを基準にして、例えば、0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜9質量%である。
【0034】
用語「電荷調整(charge control)」は、得られるトナーの摩擦帯電特性を変えるトナー添加剤の1つの特性を意味する。正に帯電するトナー用の非常に様々な電荷調整剤を入手することができる。負に帯電するトナー用の多数であるがより少数の電荷調整剤も入手できる。好適な電荷調整剤は、例えば米国特許第3,893,935号、第4,079,014号、第4,323,634号および第4,394,430号明細書、並びに英国特許第1,501,065号および第1,420,839号明細書に記載されている。電荷調整剤は、一般的に、少量で、例えばトナーの質量を基準として0.1〜5質量%の量で使用される。有用なさらなる電荷調整剤は、米国特許第4,624,907号、第4,814,250号、第4,840,864号、第4,834,920号、第4,683,188号および第4,780,553号明細書に記載されている。電荷調整剤の混合物も使用できる。
【0035】
本発明のインクを製造するための好ましい方法は、分散相が顔料およびオイルとともに有機溶剤中に溶解されたポリマーバインダーから構成される水性エマルジョンの形成を伴う。有機溶剤は、次に、除去される。
【0036】
上記ポリマーを溶解し、かつ、水と不混和性でもある任意の好適な溶剤を本発明の実施に使用でき、例えば、クロロメタン、ジクロロメタン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、塩化ビニル、トリクロロメタン、四塩化炭素、塩化エチレン、トリクロロエタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、2−ニトロプロパンなどを使用できる。本発明の実施に特に有用な溶剤は、多くのポリマーに対して良好な溶媒であると同時に水に難溶性であるという理由から、酢酸エチルおよび酢酸プロピルである。さらに、それらの揮発性は、それらが、蒸発によって、以下に記載するように不連続相液滴から容易に除去されるという程度のものである。
【0037】
必要に応じて、上記ポリマーを溶解し、かつ、水と不混和性である溶剤は、上記のリストから選ばれた2種または3種以上の水に不混和性の溶剤の混合物であることができる。
【0038】
エマルジョンは、上記のポリマー溶液を、例えばポリビニルピロリドンまたはポリビニルアルコールなどの安定化剤ポリマーを含む水性相中に分散させることにより形成され、あるいは、より好ましくは、米国特許第4,883,060号;第4,965,131号;第2,934,530号;第3,615,972号;第2,932,629号;及び第4,314,932号の各明細書に記載された改変型蒸発限定凝集(ELC)法において、コロイドシリカ、例えばLUDOX(登録商標)もしくはNALCOまたはラテックス粒子を使用して限定凝集法により形成される。
【0039】
好ましくは、ポリマー溶液を、コロイドシリカ安定化剤を含む水性相と混合して、液滴の水性懸濁液を形成する。この懸濁液は、液滴サイズを低減し限定凝集法を通じて狭いサイズ分布液滴を達成するオリフィス装置を通して、剪断もしくは伸長混合または同様の流動プロセスにかけられる。水性相のpHは、一般的に、コロイド安定剤としてシリカを使用した場合に4〜7である。
【0040】
液滴を安定化するために使用されるシリカの実際の量は、典型的な限定凝集法と同様に所望される最終多孔質粒子のサイズに依存し、この最終多孔質粒子のサイズは、エマルジョンを形成するために使用される種々の相の体積比および質量比に依存する。
【0041】
本発明の第2の工程を実施するのに、バッチミキサー、遊星式ミキサー、単軸もしくは多軸スクリュー押出機、動的もしくは静的ミキサー、コロイドミル、高圧ホモジナイザー、ソニケーター、またはこれらの組み合わせなどの、いかなるタイプの混合および剪断装置を使用できる。本発明のこの工程には、高剪断タイプの攪拌装置を利用できるが、好ましい均一化装置は、例えばMicrofluidics Manufacturingにより製造されたマイクロフルイダイザー(Microfluidizer)(登録商標)、モデル番号110Tなどである。この装置では、高剪断攪拌ゾーンにおいてポリマー溶液の液滴が水性相(連続相)中に分散され、サイズが小さくなり、そしてこのゾーンを出ると、分散されたオイルの粒子サイズが減少して、連続相中の均一なサイズの分散液滴となる。このプロセスの温度は、液滴の乳化にとって最適な粘度を達成するため、および溶剤の蒸発を制御するために、調節できる。本発明の方法において、許容可能な粒子サイズおよびサイズ分布を生じさせるために適する背圧の範囲は100〜5000psi、好ましくは500〜3000psiである。好ましい流量は1000〜6000mL毎分である。
【0042】
次に、有機溶剤を除去して、オイルおよび顔料の複数のドメインを有する離散粒子からなるインクを生成させる。ロータリーエバポレーターまたはフラッシュエバポレーターなどの溶剤除去装置を使用することができる。濾過または遠心分離により有機溶剤を除去した後、ポリマー粒子を単離し、次にオーブン中40℃で乾燥させて残留水を除去する。必要に応じて、粒子をアルカリにより処理してシリカ安定剤を除去する。
【0043】
必要に応じて、溶剤除去工程に先立って、または溶剤除去、単離および乾燥の任意に時点で、上記の溶剤除去工程はさらなる水の添加を伴ってもよい。
【0044】
本発明の離散粒子の平均粒径は、例えば、2〜50μm、好ましくは3〜20μmである。
【0045】
本発明により製造される離散粒子は球状または不規則な形状であることができる。しかしながら、トナー粒子の形状は、静電的なトナーの転写およびクリーニング特性に影響を及ぼす。すなわち、例えば、トナー粒子の転写およびクリーニング性能は、粒子の真球度が減少するにつれて向上することが分かっている。トナー粒子の形状を制御する多くの方法が当該技術分野で知られている。本発明の実施において、必要に応じて、水相中または有機溶剤中に添加剤を使用してもよい。添加剤は、水中オイル(oil−in−water)型エマルジョンの形成後または前に添加できる。いずれの場合でも、溶剤が除去されるにつれて界面張力が変わると、粒子の真球度の減少がもたらされる。米国特許第5,283,151号明細書には、粒子の真球度の減少を達成するためにカルナウバワックスを使用することが記載されている。「TONER PARTICLES OF CONTROLLED SURFACE MORPHOLOGY AND METHOD OF PREPARATION(表面モルフォロジーが制御されたトナー粒子およびその製造方法)」という題名の2006年12月15日に出願された米国特許出願第11/611,208号明細書には、真球度を制御するのに有用である特定のカルバミン酸金属塩の使用が記載されており、「TONER PARTICLES OF CONTROLLED MORPHOLOGY(モルフォロジーが制御されたトナー粒子)」という題名の2006年12月15日に出願された米国特許出願第11/621,226号明細書には、真球度を制御するために特定の塩を使用することが記載されている。「TONER PARTICLES OF CONTROLLED MORPHOLOGY(モルフォロジーが制御されたトナー粒子)」という題名の2006年6月22日に出願された米国特許出願第11/472,779号明細書には、真球度を制御するためにテトラフェニルホウ酸第4級アンモニウム塩を使用することが記載されている。
【0046】
本発明の方法により製造されるトナー粒子は、表面処理剤の形態で流動助剤(flow aids)を含んでもよい。表面処理剤は、典型的には、典型的な粒子サイズが5nm〜1000nmである無機酸化物またはポリマー粉末の形態にある。スペーシング剤(spacing agent)としても知られている表面処理剤に関し、この剤のトナー粒子上の量は、帯電画像に関連する静電気力によって、または機械的な力によって、2成分系中のキャリヤ粒子からトナー粒子をはぎ取ることを可能にするのに十分な量である。スペーシング剤の好ましい量は、トナーの質量を基準として、0.05〜10質量%であり、最も好ましくは0.1〜5質量%である。
【0047】
スペーシング剤は、従来の表面処理法、例えば、従来の粉末混合法、例えばスペーシング剤の存在下でトナー粒子をタンブルすることなど(これに限定されない)によって、トナー粒子の表面上に適用することができる。好ましくは、スペーシング剤は、トナー粒子の表面上に分配される。スペーシング剤は、トナー粒子の表面に付着し、静電気的力もしくは物理的手段またはそれらの両方によって付着することができる。混合による場合には、均一な混合が好ましく、均一な混合は、スペーシング剤が凝集しないようにするのに十分なまたは少なくとも凝集を最低限に抑えるのに十分な高エネルギーヘンシェル型ミキサーなどのミキサーによって達成される。さらに、トナー粒子の表面への分配を達成するためにスペーシング剤がトナー粒子と混合される場合には、混合物を篩いにかけて、凝集したスペーシング剤または凝集したトナー粒子を除去することができる。凝集した粒子を除去するための別の手段も本発明の目的のために使用できる。
【0048】
好ましいスペーシング剤は、シリカ、例えば、R−972のような、Degussaから商業的に入手可能なもの、または、H2000のような、Wackerから商業的に入手可能なものなどである。他の好適なスペーシング剤としては、他の無機酸化物粒子、ポリマー粒子などが挙げられるが、これらに限定されない。具体例としては、チタニア、アルミナ、ジルコニア、および他の金属酸化物;および好ましくは直径が1μm未満(より好ましくは0.1μm未満)であるポリマー粒子、例えばアクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、スチレン系ポリマー、フルオロポリマー、これらのコポリマー、並びにこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
本発明は、複数のドメイン中に液体トナーインクを含むことに限られない。複数のドメインはオフセットインクまたはインクジェットインクを含むことができる。
【実施例】
【0050】
下記の例で使用したKao Binder EおよびN(両方ともポリエステル樹脂)は、Kao Specialties Americas LLC(日本国所在の花王株式会社の一部門)から入手した。Nalco 2329(登録商標)(コロイドシリカ)は、40質量%分散体としてNalcoから入手した。Piccotoner 1221は、Hercules Powder Co.から入手した。725シリーズシアン顔料系オフセットインク濃縮物はKohl and Maddenから入手した。使用した液体トナーインク濃縮物はHPエレクトロ(Electro)インクブラック濃縮物であった。例6で使用したミクロゲルM1はポリ(イソブチルメタクリレート−co−2−エチルヘキシルメタクリレート−co−ジビニルベンゼン(質量比62/35/3))であり、米国特許第4,758,492号明細書に記載されているような乳化重合反応を使用して製造されたものであった。これらの例で使用した表面処理剤はR−972(Degussa製のシリカ)であった。
【0051】
粒子サイズは、Horiba粒子分析器により評価した。測定値から求められた体積メジアン値を用いてこれらの例に記載の粒子の粒子サイズを表した。
【0052】
例1(発明) オフセットインク/ドライトナー混成体
Kao Eポリマー樹脂(18g)を72gの酢酸エチル中に溶解させ、5.0gの大豆油と混合された5.0gの725シリーズシアンオフセットインクの分散体を加えた。これを、pH 4シトレート/ホスフェート緩衝剤および11gのNalco(登録商標)2329を含む139gの水相中に分散させた後、Silverson L4Rミキサーにより剪断し、次にMicrofluidizer(登録商標)モデル#110Tにより均質化して、限定凝集(LC)エマルジョンを形成した。Buchi RotaVapor RE120を使用して酢酸エチルを減圧下35℃で蒸発させて、オフセットインク分散体を大豆油の複数のドメインを有する離散トナー粒子を得た。トナーの表面上のシリカを、1N水酸化カリウムを使用して除去した。次に、トナーを洗浄し、乾燥させた。メジアン粒子サイズは15.6マイクロメートルであった。トナーを、摩擦電荷を測定する前にR972により表面処理した。質量に対する電荷量は−30μC/gであった。紙受容体上のバイアス現像パッチを融着させて、紙によく付着した光沢のあるシアン画像を得た。
【0053】
例2(発明) オフセットインク/ドライトナー混成体
このトナーは、シアンオフセットインクの代わりに5.0gのHP Blackエレクトロ・インクを使用し、大豆油の代わりに石油炭化水素を使用したことを除き、例1と同様に調製した。石油炭化水素インク分散体の複数のドメインを含むこのトナーは、例1と同様な表面処理によって、17.2マイクロメートルの平均粒子サイズと−65μC/gの電荷を有していた。
【0054】
例1および2から、本発明の方法により製造されたインクを典型的な電子写真プリンターで使用できることが判る。その利点は、オフセットインクをかかるプリンターで有効に使用できるということである。これによって、デジタル電子写真印刷機で使用できる印刷インクの幅が拡がり、デジタル分野でのオフセットインクの使用が可能となる。
【0055】
例3(発明)
このトナーは、石油炭化水素を使用しなかったことを除き、例2と同様に調製した。この発明例で必要としたオイルはHP ElectroInk(登録商標)Black濃縮物であった。この例は、オイルの複数のドメインを有する離散粒子がもたらされたことを示し、様々なオイルが本発明の粒子に適することを示している。
【0056】
例4(発明)
このトナーは、Kao Eの代わりにKao Nを使用し、オイルとして使用した石油炭化水素を5.0gから2.5gに減らしたことを除き、例2と同様に調製した。
【0057】
例5(発明)
このトナーは、使用したバインダーがKao Nの代わりにPiccotoner 1221であったことを除き、例4と同様に調製した。
例4および5は両方とも、複数のドメインを有する離散粒子をもたらしたことを示し、このことは、本発明において様々なバインダーを使用できることを示している。
【0058】
例6(発明)
この例は、オイルとして石油炭化水素の代わりに、20%のM1を含むドデカン2.5gを使用したことを除き、例2と同様であった。
例1〜6で調製したトナー試料の全ての光学顕微鏡観察から、ドライトナー中に液体インク分散体の複数のドメインが存在することが示された。図1は、例6で調製した試料の断面を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解したポリマーを含む溶剤と、オイルと、顔料とを含む有機相を用意し、
前記有機相を、安定化剤を含む水性相中に分散させて、前記有機相の液滴を含むエマルジョンを形成し、
前記液滴から前記溶剤を除去して、オイルおよび顔料の複数のドメインを有する離散ポリマー粒子を形成すること、
を含む、インクの製造方法。
【請求項2】
前記離散ポリマー粒子を単離することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記離散ポリマー粒子を乾燥させることをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーが、ポリエステル類、並びにスチレン類、モノオレフィン類、ビニルエステル類、塩化ビニル、メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類、ビニルエーテル類およびビニルケトン類のポリマーからなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
顔料が、カーボンブラック、アニリンブルー、カルコイルブルー、クロムイエロー、ウルトラマリンブルー、デュポンオイルレッド、キノリンイエロー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、マラカイトグリーンオキサレート、ランプブラック、ローズベンガル、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・イエロー97、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・ブルー15:1およびC.I.ピグメント・ブルー15:3からなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記安定化剤が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、コロイドシリカまたはラテックス粒子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
酢酸エチル、酢酸プロピル、クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、四塩化炭素、塩化エチレン、トリクロロエタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、シクロヘキサンおよび2−ニトロプロパンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記有機相がさらにミクロゲルを含む、請求項1に記載の方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2011−508007(P2011−508007A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539432(P2010−539432)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/013563
【国際公開番号】WO2009/085111
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】