説明

インクジェットプリンター用油性インク組成物

【課題】とくに、ピエゾ方式インクジェットプリンターにおいて、吐出安定性、吐出回復性、保存安定性が優れ、また、被記録材に対する乾燥性および印字物の耐摩擦性が優れたインクジェットプリンター用油性インク組成物の提供。
【解決手段】定着樹脂と下記一般式(1)で表される溶剤とを含み、上記定着樹脂が上記溶剤中でラジカル重合開始剤を用いて溶液重合させて得られたアクリル系樹脂であるインクジェットプリンター用油性インク組成物。


(上記一般式(1)中のX1はアルキル基を、X2は水素原子またはアルキル基を、nは1〜4の整数を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンター用油性インク組成物(以下単に「インク」という場合がある)に関し、詳しくは吐出安定性、吐出回復性に優れるとともに、保存安定性が優れ、また、乾燥性および印字物の耐摩擦性に優れたインクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来インクジェット記録方式には、連続的に吐出しているインクを選択的に被着体に着弾させるコンティニュアス方式および選択的にインクを吐出させるドロップオンデマンド方式があるが、近年、ドロップオンデマンド方式のプリンターが主流となっている。ドロップオンデマンド方式プリンターには、インクを急激に加熱し発生した泡(バブル)によりインクを吐出させるバブル方式と、電圧を印加すると変形するセラミック(ピエゾ)を使用してインクを吐出させるピエゾ方式がある。
【0003】
従来の油性インクを使用する上記ピエゾ方式は、ピエゾ素子をポンプとして使用して、電気エネルギーを機械エネルギーに変換してインクを吐出する方式であるため、基本的には、種々のインク材料を吐出することができる。しかしながら、本方式は、信号の有無によって、インクを吐出するために、インクの吐出を中断しているノズル端面では、インク中の溶剤が蒸発することによって、インク中の固形分の析出によるインクの目詰まり、あるいはインクの濃縮に伴うノズル内でのインクの粘度上昇によるインクの吐出が阻害されるため、小まめなメンテナンスが必要であった。とくに、屋外用の印刷物に使用するインクは、印刷基材としてポリ塩化ビニルシートなどのプラスチックフィルムである非吸収基材を使用するために、比較的揮発性の高い溶剤をインク溶剤として使用しており、このために、インクの乾燥が速いためにインクの目詰まりが顕著に発生する。
【0004】
また、インク中に溶存する空気が一定量を超える場合、ピエゾ素子の高周波振動によるキャビテーションの発生に伴って、プリンターノズル中に発生する微小の気泡が圧力を吸収して、駆動応答性が低下したりする。また、外気温度変化に伴うノズル内での気泡の発生により吐出異常を誘引する。
【0005】
上述のことから、従来の油性インクの代わりに高沸点溶剤を使用したインクジェット顔料インク(特許文献1)が提案されている。上記高沸点溶剤であるグリコールエーテルエステル類は、高沸点、低蒸気圧であるため、印字中にプリンターノズルへのインクの詰まりが少ない。しかしながら、従来使用されてきた低沸点の溶剤と比べると樹脂溶解性が低いために、市販の固形樹脂を溶剤に溶解して定着樹脂として使用する場合や、ガラス転移点の高い樹脂を使用する場合には、それらを用いたインクは、インクの吐出あるいは吐出回復などの吐出性は十分に満足できるレベルではない。とくに、前述のようなピエゾ方式インクジェットプリンターに使用した場合に、十分なインクの吐出性が得られず、また、印字を一次中断して再度印字を継続した場合、インク吐出回復性が低下して、安定した品質の印字物が得られない。
【0006】
【特許文献1】特開2003−96370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、とくにピエゾ方式インクジェットプリンターにおいて、吐出安定性、吐出回復性、保存安定性が優れ、また、被記録材に対する乾燥性および印字物の耐摩擦性が優れたインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、定着樹脂と下記一般式(1)で表わされる溶剤(以下、単に「特定溶剤」という場合がある)とを含み、上記定着樹脂が上記溶剤中でラジカル重合開始剤を用いて溶液重合させて得られたアクリル系樹脂であることを特徴とするインクを提供する。

(上記一般式(1)中のX1はアルキル基を、X2は水素原子またはアルキル基を、nは1〜4の整数を表わす。)
また、本発明は、上記一般式(1)で表わされる特定溶剤中でラジカル重合開始剤を用いてアクリル系モノマーを溶液重合させ、得られたアクリル系樹脂溶液を使用することを特徴とするインクの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吐出安定性、吐出回復性、保存安定性が優れ、また、被記録材に印字下の場合の乾燥性および印字物の耐摩擦性が優れ、とくにピエゾ方式インクジェットプリンター用として優れたインクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明で使用する定着樹脂(アクリル系樹脂)は、前記特定溶剤中でアクリルモノマーを主モノマーとし、ラジカル重合開始剤を用いて重合して得られるアクリル系樹脂の溶液として使用する。該アクリル系樹脂溶液には、アクリル系樹脂の末端に特定溶剤分子が結合した構造を持つ反応生成物が存在するため、アクリル系樹脂が溶剤中に十分に溶解しており、該溶液を、インクとした場合には、従来のアクリル系樹脂を単に溶剤に溶解した場合と比較して、インクの吐出安定性、吐出回復性、印字乾燥性、印字物の耐摩擦性が著しく向上する。とくに、従来、溶解性の面で、使用が困難であったガラス転移点が高い、あるいは高分子量のアクリル系樹脂も上記重合方法によって調製することにより、インクの定着樹脂として使用が可能となり、該インクによる印字物の耐摩擦性などが一段と向上する。
【0011】
本発明で使用する前記一般式(1)で表わされる特定溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコールから誘導されるグリコールエーテルアセテートが挙げられる。上記の特定溶剤は、1種類を単独で用いても、また、2種以上を適宜に組み合わせても使用することができる。具体的には、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなど、好ましくはエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、およびジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートから選ばれる少なくとも1種、とくに好ましくはエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが挙げられる。上記の特定溶剤は、該溶剤中でアクリルモノマーを主モノマーとして、ラジカル重合開始剤を用いて重合して得られるアクリル系樹脂の末端に上記特定溶剤分子が結合した構造を持つ反応生成物を得るのに有効である。
【0012】
上記特定溶剤は、その沸点が130〜250℃のものが好ましく使用される。上記沸点が高すぎる場合には、該溶剤のアクリル系樹脂溶液を用いてインクとした場合、インクの乾燥性が低下し、印字物においてブロッキングなどを誘引する。一方、沸点が低過ぎる場合には、該溶剤のアクリル系樹脂溶液を用いてインクとした場合、インクの乾燥が速過ぎてプリンターノズルでのインク詰まりが発生するなど、印字作業性が低下する傾向がある。
【0013】
また、前記アクリル系樹脂を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸([(メタ)アクリル酸]とはアクリル酸およびメタクリル酸の双方を意味する)のアルキル、アラルキル、アルコキシアルキル、ビドロキシアルキル、ジアルキルアミノアルキル、またはアリールなどのエステル、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。中でもアクリル系樹脂を構成する主モノマーとして、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸アラルキル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸、および(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルの群から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0014】
上記のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、n−またはiso−プロピル、n−、iso−、またはtert−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、オクチル、iso−オクチル、ノニル、iso−ノニル、ドデシル、トリデシル、ステアリル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2−メチルシクロヘキシル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニルオキシエチル、ジシクロヘキシル、イソボルニル、アダマンチル、アリル、プロパギル、フェニル、ナフチル、アントラセニル、アントラニノニル、ピペロニル、サリチル、フリル、フルフリル、テトラヒドロフリル、テトラヒドロフルフリル、ピラニル、ベンジル、フェネチル、クレジル、グリシジル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル、1,1,1−トリフルオロエチル、パーフルオロエチル、パーフルオロ−n−プロピル、パーフルオロ−iso−プロピル、ヘプタデカフルオロデシル、トリフェニルメチル、クミル、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、2,3−ジヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、メトキシエチル、エトキシエチル、ブトキシエチル、2−シアノエチル、ジメチルアミノエチル、ジエチルアミノエチル、トリメトキシシリルプロピル、トリエトキシシリルプロピルなどのエステル、および4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどの(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。
【0015】
また、上記のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸のアミド、N,N−ジメチルアミド、N,N−ジエチルアミド、N,N−ジプロピルアミド、N,N−ジ−iso−プロピルアミド、ブチルアミド、ステアリルアミド、シクロヘキシルアミド、フェニルアミド、ベンジルアミド、アントラセニルアミドなどの(メタ)アクリル酸アミド類が挙げられる。
【0016】
上記アクリルモノマーの重合に際しては、他のモノマーを共重合させることができる。上記の他のモノマーとしては、例えば、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸アニリド、(メタ)アクリロイルニトリル、アクロレイン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン、ビニルピリミジン、N−ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、酢酸ビニルなどのビニルモノマー、好ましくはビニル芳香族化合物が挙げられる。
【0017】
上記のビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、スチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル誘導体などが挙げられる。
【0018】
上記モノマーの重合に使用するラジカル重合開始剤としては、ハイドロパーオキサイド系、ジアルキルパーオキサイド系、パーオキシエステル系、ジアシルパーオキサイド系、パーオキシカーボネート系、パーオキシケタール系、ケトンパーオキサイド系などの有機過酸化物が好ましく使用される。上記の有機過酸化物は、得られる定着樹脂がアクリル系樹脂の末端に前記特定溶剤分子が結合した構造を持つ反応生成物を得るのに有効である。上記の有機過酸化物は、単独でもまたは2種以上の混合物としても使用することができる。
【0019】
上記のハイドロパーオキサイド系ラジカル重合開始剤としては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド*、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド*、p−メタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド*、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。なお、上記化合物名に付された「*」の記号を有するものは、本発明において特に好ましく使用されるラジカル重合開始剤である。以下同様である。
【0020】
また、上記のジアルキルパーオキサイド系ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジ−t−ブチルパーオキサイド*、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド*、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン3、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0021】
また、パーオキシエステル系ラジカル重合開始剤としては、例えば、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート*、α−クミルパーオキシネオデカノエート*、t−ブチルパーオキシネオデカノエート*、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート*、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート*、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート*、t−ブチルパーオキシピバレート*、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート*、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート*、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート*、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート*、t−アミルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート*、t−ブチルパーオキシアセテート*、t−ブチルパーオキシイソブチレート*、t−ブチルパーオキシベンゾエート*、t−ブチルパーオキシ−3−メチルベンゾエート*、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート*、ジ−t−ブチルパーオキシトリメチルアジペート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシラウレート*、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート*、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート*、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン*、2,5−ジメチル−2,5−ジ(3−メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン*、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン*などが挙げられる。
【0022】
また、ジアシルパーオキサイド系ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジイソブチルパーオキサイド、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド*、ジラウロイルパーオキサイド*、ジベンゾイルパーオキサイド*、ジ−n−オクタノイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド*、ジコハク酸パーオキサイド*、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイドなどが挙げられる。
【0023】
また、パーオキシカーボネート系ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、ジ(3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−1−メチルヘプチルパーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート*などが挙げられる。
【0024】
また、パーオキシケタール系ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2−ジ(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン*、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン*、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン*、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン*、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン*、n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレートなどが挙げられる。
【0025】
また、ケトンパーオキサイド系ラジカル重合開始剤としては、例えば、アセチルアセトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイドなどが挙げられる。
【0026】
上記のラジカル重合開始剤において、好ましくはパーオキシエステル系、ジアルキルパーオキサイド系、ジアシルパーオキサイド系、およびパーオキシケタール系の有機過酸化物の群から選ばれる少なくとも1種が、とくに好ましくはパーオキシエステル系が挙げられる。上記ラジカル重合開始剤の1種類を単独で用いても、また2種以上を適宜に組み合わせて使用することができる。とくに、上記のパーオキシエステル系ラジカル重合開始剤において、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートおよびt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが、また、ジアシルパーオキサイド系重合開始剤において、ジベンゾイルパーオキサイドが、本発明で用いる定着樹脂の合成に効果がある。上記のラジカル重合開始剤は、前記の特定溶剤中で、アクリルモノマーを溶液重合して得られるアクリル系樹脂の末端に、特定溶剤の溶剤分子が結合した構造を持つ反応生成物を得る上で好ましく使用される。
【0027】
本発明で用いる定着樹脂は、例えば、前記特定溶剤中に前記モノマーと重合開始剤との混合物を1時間〜2時間かけて滴下しながら、均一に混合し、その後、100℃にて2時間かけて、重合または共重合反応を行って得ることができる。上記の定着樹脂を構成する上記モノマー(u)とラジカル重合開始剤(v)の好ましい使用割合は、v/u=0.1/100〜20/100(質量比)、より好ましくは0.1/100〜5/100(質量比)である。また、前記特定溶剤(b)と定着樹脂を構成するモノマー(p)との好ましい使用割合は、p/b=10/100〜150/100(質量比)、より好ましくは25/100〜130/100(質量比)である。上記のモノマー(u)とラジカル重合開始剤(v)との使用割合、および前記特定溶剤(b)とモノマー(p)との使用割合が上記範囲内であると、得られるアクリル系樹脂溶液中には、アクリル系樹脂の末端に特定溶剤分子が結合した構造を持つ反応生成物が存在するため、アクリル系樹脂が溶剤中に十分に溶解しており、従来のアクリル系樹脂を単に溶剤に溶解した場合と比較して、インクとした場合にインクの吐出安定性、吐出回復性、印字乾燥性、印字物の耐摩擦性が著しく向上する。
【0028】
本発明で用いる好ましい定着樹脂としては、メタクリル酸メチルの単独重合体、またはメタクリル酸メチル(x)と、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸ベンジル、およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種(y)との共重合体であって、その共重合比(y/x)が0.01/100〜60/100(質量比)のものが挙げられる。
【0029】
前記定着樹脂としては、そのガラス転移点が80℃以上、好ましくは85℃〜110℃のものが好ましく使用される。上記ガラス転移点が低過ぎると、該定着樹脂を含むインクで形成された印字物がブロッキングしやすく、また、印字物の耐摩擦性が低下する。
【0030】
また、上記定着樹脂は、その重量平均分子量が10,000〜100,000、好ましくは重量平均分子量が20,000〜90,000のものである。上記重量平均分子量が高過ぎると、前記特定溶剤に対する定着樹脂の溶解性が低下する。一方、重量平均分子量が低過ぎると、該定着樹脂を含むインクで形成された印字物の耐摩擦性が低下する。
【0031】
本発明のインクは、さらに塩化ビニル系樹脂および繊維素系樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有することができる。上記塩化ビニル系樹脂および/または繊維素系樹脂を用いる場合の前記定着樹脂に対する配合量は、(塩化ビニル系樹脂および/または繊維素系樹脂)/前記定着樹脂=1/100〜150/100(質量比)が好ましい。
【0032】
上記塩化ビニル系樹脂としては、例えば、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/ヒドロキシアルキルアクリレート共重合体、塩化ビニル/ビニルイソブチルエーテル共重合体、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0033】
また、上記繊維素系樹脂としては、例えば、ニトロセルロース、アセチルセルロース、セルロースアセテートブチレート、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートなど、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0034】
本発明のインクは、本発明の目的を妨げない範囲において、前記一般式(1)で表わされる溶剤に溶解する他の樹脂を併用することができる。上記の併用樹脂としては、例えば、前記以外のアクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ブチラール樹脂などのビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ロジン変性フェノール樹脂などのロジン誘導体、石油樹脂などが挙げられる。
【0035】
本発明のインクは、溶剤の一部として、さらに環状エステルを含有することができる。上記環状エステルは、とくにピエゾ方式インクジェットプリンターにおいて、ノズル端面へインク中の固形分の析出やノズル内においてインク濃縮によるインクの粘度上昇を抑制し、インクの吐出および吐出回復性をさらに向上させる目的で使用する。上記環状エステルを使用する場合、その配合量は、前記特定溶剤と環状エステルとの総量の内の1質量%〜30質量%を占める割合が好ましい。
【0036】
上記環状エステルとしては、エステル基を環内に含む常温にて液体のβ−ラクトン類、γ−ラクトン類、δ−ラクトン類、ε−ラクトン類などの環状エステル化合物、好ましくは下記一般式(2)で表わされる環状エステル化合物が挙げられる。

(上記一般式(2)中のX3およびX4は、水素原子または炭素数1〜7のアルキル基またはアルケニル基を、mは1〜3の整数を表わす。)
【0037】
上記一般式(2)で表わされる環状エステル化合物としては、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−カプリロラクトン、γ−ラウロラクトンなどのγ−ラクトンおよびδ−バレロラクトンなどのδ−ラクトンが挙げられる。上記ラクトンの内で、とくに好ましくはγ−ブチロラクトンおよび/またはγ−バレロラクトンが挙げられる。
【0038】
また、本発明のインクは、さらに分散剤、好ましくは高分子分散剤を含有することが好ましい。上記分散剤としては、インクジェット油性インクに使用されている任意の分散剤を使用することができる。また、上記高分子分散剤としては、例えば、主鎖が、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプロラクトン系などからなっており、側鎖としてアミノ基、カルボキシル基、スルホン基、ヒドロキシル基などの極性基を有する分散剤など、好ましくはポリエステル系高分子分散剤が挙げられる。上記ポリエステル系高分子分散剤としては、例えば、ルーブリソール社製の「ソルスパース32000」の商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0039】
本発明のインクは、着色剤を含有しないワニスタイプのインクでもよいが、着色剤を含有する着色タイプのインクでもよい。また、本発明のインクでは、必要に応じて、界面活性剤、可塑剤、帯電防止剤、粘度調整剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を本発明の目的を妨げない範囲において添加して使用することができる。
【0040】
上記着色剤としては、油性のインクに用いられる有機または無機の顔料、染料の単体、あるいはそれらの混合物が使用できる。上記顔料としては、例えば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系、ピランスロンオレンジ、ピランスロンレッドなどのピランスロン系、パーマネントレッド2B、ピグメントスカーレット、リトールレッドなどの溶性アゾ顔料、ベンジジンエロー、ハンザエロー、トルイジンレッドなどの不溶性アゾ顔料、キノフタロンエローなどのキノフタロン系、チオインジゴ系、ベンズイミダゾロン系、アンスラキノン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリノン系、キナクリドン系、アゾレーキ系、スレン系、ペリレン系などの有機顔料;酸化チタン、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、群青、紺青、弁柄、亜鉛華、黒鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ケイ素などの無機顔料、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0041】
また、上記染料としては、例えば、ナフトール染料、アゾ染料、アントラキノン染料、キノリン染料、ナフトキノン染料、ニトロソ染料、キノンイミン染料、ベンゾキノン染料、シアニン染料、ニトロ染料、金属錯塩染料などが挙げられる。
【0042】
本発明のインクは、上記各々の成分を公知の方法で均一に混練分散して調製することができる。そのインクの調製は、例えば、1例として、前記特定溶剤中に前記着色剤と分散剤とを添加し、ディゾルバーで1,000rpmにて1時間撹拌した後、顔料粒子がグランドゲージで5μm以下になるまでジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散する。さらに、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルにて顔料粒子の平均粒径が250nmになるまで分散を行い、顔料分散液を得る。該顔料分散液を1,500rpmで撹拌しながら、前記定着樹脂溶液と、前記特定溶剤、または前記環状エステルとの混合溶剤の適当量を添加し、均一に混練分散して、好ましくは粘度が25℃において2〜18mPa・s、好ましくは7〜14mPa・sになるように調整して本発明のインクが得られる。なお、インクの粘度は、アントンパール社製の「AMVn」粘度計にて測定した値である。また、上記顔料の粒子の粒径は、日機装(株)製「マイクロトラックUPA150」により測定した値である。
【0043】
上記のインクの粘度が高すぎると、プリンターノズルにインクの詰まりが発生しやすくなり、粘度を下げるためにヘッドを加熱しなければならなくなり、このことはインク中の溶媒が蒸発しやすくなり、さらにインクの詰まりが増大する。一方、インクの粘度が低過ぎる場合には印字適性が低下する。上記インクによるポリ塩化ビニルフィルムなどのプラスチックフィルムなどの公知の被記録材への印字は、通常のピエゾ式インクジェットプリンターを使用して印字することができる。
【実施例】
【0044】
次に実施例および比較例で使用する定着樹脂(J1〜J11)の製造例と、これらの定着樹脂を使用した実施例および比較例のインクを挙げて本発明をさらに具体的に説明する。文中「部」または「%」とあるのはとくに断りのない限り質量基準である。なお、本発明は下記に限定されるものではない。
【0045】
(定着樹脂J1の製造)
100℃に保たれたエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート300g中に、メタクリル酸メチル200gとt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1.8gとの混合物を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で2時間反応させ、その後冷却し、重量平均分子量25,000、ガラス転移点105℃である定着樹脂J1の無色透明の溶液を得た。
【0046】
なお、上記における重量平均分子量およびガラス転移点は下記の方法で測定した値である。
(重量平均分子量およびガラス転移点)
得られた定着樹脂溶液から、樹脂のみをヘキサンにて精製した試料を作製した。上記試料を東ソー(株)製「HLC−8220GPC」にて、ポリスチレンを標準としたゲル浸透クロマトグラフ(GPC)により分子量を測定した。また、ガラス転移点は、上記試料を島津製作所(株)製の示差走査熱量計「DSC−50」にて測定した。
【0047】
MALD1TOF−MS(レーザイオン化飛行時間型質量分析装置)(島津製作所(株)製、AXIMA−CFRPlus、マトリックス;ジチラノール、カチオン化剤;NaI)を使用して、上記定着樹脂の熱分解物を分析し、その質量数を測定したところ、図1に示す結果を得た。図1に示される検出ピークの一部は、823、883、923、983、1023、1083である。これらの数値は、定着樹脂の熱分解物がNa+でイオン化された化合物の質量を表わす。
【0048】
上記分析の検出ピークのうち、質量数「883、983、1083」が、重合に用いた溶剤であるエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート由来構造を末端に有する定着樹脂の熱分解物が、Na+でイオン化された化合物の質量数と一致する。また、質量数「823、923、1023」は、重合に用いたラジカル重合開始剤であるt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート由来構造を末端に有する上記定着樹脂の熱分解物が、Na+でイオン化された化合物の質量数と一致している。
【0049】
上記の分析による質量数の検出結果は、前記の定着樹脂が、その末端にエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート由来の構造が結合していること、および他の末端に前記ラジカル重合開始剤由来の構造が結合していることを示している。
【0050】
(定着樹脂J2の製造)
定着樹脂J1の製造において、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの使用量を0.6gにした以外は、定着樹脂J1の製造と同様にして、重量平均分子量50,000、ガラス転移点105℃である定着樹脂J2の無色透明の溶液を得た。
【0051】
(定着樹脂J3の製造)
定着樹脂J1の製造において、メタクリル酸メチルの使用量を180gに、またt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの使用量を0.3gにした以外は、定着樹脂J1の製造と同様にして、重量平均分子量90,000、ガラス転移点105℃である定着樹脂J3の無色透明の溶液を得た。
【0052】
(定着樹脂J4の製造)
定着樹脂J1の製造において、メタクリル酸メチルの使用量を180gとし、メタクリル酸n−ブチル20gとt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート4gとの混合物を追加する以外は、定着樹脂J1の製造と同様にして、重量平均分子量30,000、ガラス転移点94℃である定着樹脂J4の無色透明の溶液を得た。
【0053】
(定着樹脂J5の製造)
定着樹脂J4の製造において、メタクリル酸n−ブチルを、メタクリル酸2−エトキシエチルに置き換える以外は、定着樹脂J4の製造と同様にして、重量平均分子量30,000、ガラス転移点85℃である定着樹脂J5の無色透明の溶液を得た。
【0054】
(定着樹脂J6の製造)
定着樹脂J4の製造において、メタクリル酸n−ブチルを、メタクリル酸ベンジルに置き換える以外は、定着樹脂J4の製造と同様にして、重量平均分子量30,000、ガラス転移点91℃である定着樹脂J6の溶液を得た。
【0055】
(定着樹脂J7の製造)
定着樹脂J1の製造において、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの使用量を8.0gにした以外は、定着樹脂J1の製造と同様にして、重量平均分子量12,000、ガラス転移点105℃である定着樹脂J7の無色透明の溶液を得た。
【0056】
(定着樹脂J8の製造)
100℃に保たれたプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート300g中に、メタクリル酸メチル200gとt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート4.8gとの混合物を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で2時間反応させ、その後冷却し、重量平均分子量20,000、ガラス転移点105℃である定着樹脂J8の無色透明の溶液を得た。
【0057】
(定着樹脂J9の製造)
120℃に保たれたプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート300g中に、メタクリル酸メチル200gとt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート4.8gとの混合物を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、120℃で2時間反応させ、その後冷却し、重量平均分子量21,000、ガラス転移点105℃である定着樹脂J9の無色透明の溶液を得た。
【0058】
(定着樹脂J10の製造)
100℃に保たれたプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート300g中に、メタクリル酸メチル200gとジベンゾイルパーオキサイド6.0gとの混合物を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で2時間反応させ、その後冷却し、重量平均分子量16,000、ガラス転移点105℃である定着樹脂J10の無色透明の溶液を得た。
【0059】
(定着樹脂J11の製造)
定着樹脂J1の製造において、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートをトルエンに置き換え、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの使用量を1.0gとした以外は、定着樹脂J1の製造と同様にして、重量平均分子量30,000、ガラス転移点105℃である定着樹脂J11の無色透明の溶液を得た。
【0060】
なお、上記定着樹脂J2〜J7について、前記定着樹脂J1と同様にして分析を行い、その質量数から、定着樹脂J1と同様に、上記定着樹脂J2〜J7がその末端に特定溶剤が結合している樹脂であることが判った。
【0061】
また、上記定着樹脂J8〜J10について、前記定着樹脂J1と同様にして分析を行い、その質量数を測定したところ、図2、図3および図4に示す結果を得た。上記定着樹脂J8についての図2に示される検出ピークの一部である質量数「1055、1155、1255」が、重合に用いた溶剤であるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート由来構造を末端に有する定着樹脂の熱分解物がNa+でイオン化された化合物の質量数と一致している。また、検出ピークの一部である質量数「1023、1123」は、重合に用いたラジカル重合開始剤であるt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート由来構造を末端に有する上記定着樹脂の熱分解物がNa+でイオン化された化合物の質量数と一致している。
【0062】
また、定着樹脂J9についての図3に示される検出ピークの一部である質量数「1355、1455、1555、1655」が、重合に用いた溶剤であるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート由来構造を末端に有する定着樹脂の熱分解物がNa+でイオン化された化合物の質量数と一致している。また、検出ピークの一部である質量数「1357、1457、1557」は、重合に用いたラジカル重合開始剤であるt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート由来構造を末端に有する上記定着樹脂の熱分解物がNa+でイオン化された化合物の質量数と一致している。
【0063】
また、定着樹脂J10についての図4に示される検出ピークの一部である質量数「1355、1455、1555、1655」が、重合に用いた溶剤であるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート由来構造を末端に有する定着樹脂の熱分解物がNa+でイオン化された化合物の質量数と一致している。また、検出ピークの一部である質量数「1301、1401、1501、1601」は、重合に用いたラジカル重合開始剤であるジベンゾイルパーオキサイド由来構造を末端に有する上記定着樹脂の熱分解物がNa+でイオン化された化合物の質量数と一致している。
【0064】
前記の定着樹脂J1〜J10の分析結果から、前記定着樹脂が、アクリル系樹脂の末端に前記特定溶剤由来の構造を有する反応生成物を含有していることが検証されている。
【0065】
(実施例1〜12)
前記で得た定着樹脂J1〜J10溶液、着色剤(Pigment Red 122)、分散剤、および溶剤を使用して表1および表2のように各々を配合して、アントパール社製[AMVn]粘度計にて粘度が7mPa・s〜14mPa・sになるように均一に混合して、本発明のインクK1〜K12を調製した。なお、上記インクの調製は、前記インクの調製のように、まず溶剤と着色剤および分散剤を配合して、顔料分散液を調製し、該顔料分散液を1,500rpmで均一に撹拌しながら、上記定着樹脂溶液と溶剤の残部を配合して行った。
【0066】

【0067】

上記表1および表2中の(*)は、ダウケミカル社製、商品名「UCAR SOLUTION VINIL RESIN VYHH」である。なお、表中の数値は部数を表わす。なお、表1および表2中の定着樹脂の部数は固形分値である。
【0068】
(比較例1)
実施例1における定着樹脂J1溶液を、定着樹脂J11溶液に置き換える以外は実施例1と同様にして、粘度9.0mPa・s(25℃)のインクL1を調整した。
【0069】
(比較例2)
実施例1における定着樹脂J1溶液を、定着樹脂J1溶液と同一溶媒中に樹脂(三菱レイヨン(株)製、商品名:ダイヤナールBR83)を同一濃度に溶解した溶液に置き換える以外は実施例1と同様にして粘度11.4mPa・s(25℃)のインクL2を調製した。
【0070】
(比較例3)
実施例1における定着樹脂J1溶液を、定着樹脂J1溶液と同一溶媒中に樹脂(ローム&ハース社製、商品名:パラロイドB60)を同一濃度に溶解した溶液に置き換える以外は実施例1と同様にして粘度9.2mPa・s(25℃)のインクL3を調製した。
【0071】
(比較例4)
実施例1における定着樹脂J1溶液を、定着溶液J1溶液と同一溶媒中に樹脂(ローム&ハース社製、商品名:パラロイドB99N)を同一濃度に溶解した溶液に置き換える以外は実施例1と同様にして粘度8.1mPa・s(25℃)のインクL4を調製した。
【0072】
(比較例5)
実施例8における定着樹脂J1溶液を、定着樹脂J1溶液と同一溶媒中に樹脂(ローム&ハース社製、商品名:パラロイドB60)を同一濃度に溶解した溶液に置き換える以外は実施例8と同様にして粘度10.5mPa・s(25℃)のインクL5を調製した。
【0073】
上記で得られた各々のインクに関して、乾燥性、耐摩擦性、保存安定性および吐出性(吐出安定性・吐出回復性)に関して下記の方法で測定し、評価した。評価結果を表3および表4に示す。
(乾燥性)
40℃に加熱された展色台上で、ターポリンKB−1000GS(ルキオ社製)にバーコーター#8で前記インクの各々の展色を行い、展色部と展色部とを重ね貼り合わせ、展色部同士が貼り付かなくなるまでの乾燥時間を測定した。
評価点:
A:乾燥時間が5分間未満で貼り付きがなくなる。
B:貼り付きが無くなるのに乾燥時間が5分間以上要する。
【0074】
(耐摩擦性)
40℃に加熱された展色台上で、ターポリンKB−1000GS(ルキオ社製)にバーコーター#8で前記インクの各々の展色を行い、該展色物を60℃の雰囲気下で1時間放置し、放置後、上記展色物の展色面をエチルアルコール/水=70/30(質量比)の溶液をしみ込ませた綿棒で擦り、展色面の状態を下記の方法で評価した。
評価点:
A:展色面に擦れ落ちが全く認められない。
B:展色面の全面または一部に擦れ落ちが認められる。
【0075】
(保存安定性)
上記各々のインクをガラス瓶に入れ、室温にて3日間放置し下記の方法で評価した。
評価点:
A:インク中に、沈殿、液分離などの現象が全く認められない。
B:インクが2層に分離する。
【0076】
(吐出性)
上記で得られた各々のインクを使用して、ピエゾ方式のSPECTRA NOVAの256個ヘッドノズル搭載の吐出評価試験機にて、印字基材としてターポリンKB1000GS(ルキオ社製)に、数秒間印字した後、印字を停止してヘッドを放置し、再度印字を開始し、印字直後のヘッドノズルからインクが直進せず曲がって吐出されたか、あるいは吐出不能となるインク吐出不良のノズルが5個以上発現するヘッドの放置時間をもって評価した。
評価点:
A:インク吐出不良のノズルが5個以上発現するまでのヘッドの放置時間が5分以上である。
B:インク吐出不良のノズルが5個以上発現するまでのヘッドの放置時間が5分未満である。
【0077】

【0078】

【0079】
上記評価結果から、本発明のインクは、従来のインクに比べてその定着樹脂が、高分子量でガラス転移点が高くても溶剤に対する溶解性が極めて優れていることから、乾燥性、耐摩擦性、保存安定性および吐出性が優れていることが確認された。一方、比較例1および2は保存安定性が、また、比較例3、4は乾燥性および耐摩擦性が、また、比較例5は乾燥性がいずれも劣っていた。
【0080】
とくに、上記吐出性の評価結果から、本発明のインクは印字を繰り返して行っても、実用上、ノズルからのインク吐出不良が発生しにくく、プリンターヘッドを放置しても吐出回復性が極めて良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、ポリ塩化ビニル系基材などへの印字に適し、乾燥性、耐摩擦性、保存安定性、吐出安定性および吐出回復性が優れていることから、連続印字しても印字物がブロッキングせず、摩擦耐久性があり、安定した印字品質の印字物が得られるインクが提供される。とくに本発明のインクは、とくにピエゾ式インクジェットプリンター用のインクとして有効である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の定着樹脂J1について、MALD1TOF−MS(レーザイオン化飛行時間型質量分析装置)(島津製作所(株)製、AXIMA−CFRPlus、マトリックス;ジチラノール、カチオン化剤;NaI)にて質量数を測定したチャートを示す。
【図2】本発明の定着樹脂J8について、MALD1TOF−MS(レーザイオン化飛行時間型質量分析装置)(島津製作所(株)製、AXIMA−CFRPlus、マトリックス;ジチラノール、カチオン化剤;NaI)にて質量数を測定したチャートを示す。
【図3】本発明の定着樹脂J9について、MALD1TOF−MS(レーザイオン化飛行時間型質量分析装置)(島津製作所(株)製、AXIMA−CFRPlus、マトリックス;ジチラノール、カチオン化剤;NaI)にて質量数を測定したチャートを示す。
【図4】本発明の定着樹脂J10について、MALD1TOF−MS(レーザイオン化飛行時間型質量分析装置)(島津製作所(株)製、AXIMA−CFRPlus、マトリックス;ジチラノール、カチオン化剤;NaI)にて質量数を測定したチャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着樹脂と下記一般式(1)で表わされる溶剤とを含み、上記定着樹脂が上記溶剤中でラジカル重合開始剤を用いて溶液重合させて得られたアクリル系樹脂であることを特徴とするインクジェットプリンター用油性インク組成物。

(上記一般式(1)中のX1はアルキル基を、X2は水素原子またはアルキル基を、nは1〜4の整数を表わす。)
【請求項2】
前記溶剤が、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、およびジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記ラジカル重合開始剤が、パーオキシエステル系、ジアルキルパーオキサイド系、ジアシルパーオキサイド系、およびパーオキシケタール系の有機過酸化物の群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記ラジカル重合開始剤が、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジベンゾイルパーオキサイド、およびt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートから選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記の定着樹脂を構成するモノマー(u)と、ラジカル重合開始剤(v)との使用割合が、v/u=0.1/100〜20/100(質量比)である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記の溶剤(b)と定着樹脂を構成するモノマー(p)との使用割合が、p/b=10/100〜150/100(質量比)である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記定着樹脂が、アクリル系樹脂の末端に一般式(1)で表される溶剤分子が結合した反応生成物を含有する請求項1に記載のインク組成物。
【請求項8】
前記定着樹脂を構成する主モノマーが、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸アラルキル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸、および(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルの群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項9】
前記定着樹脂が、メタクリル酸メチルの単独重合体、またはメタクリル酸メチル(x)と、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸ベンジル、およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種(y)との共重合体であり、該共重合体の共重合比(y/x)が、0.01/100〜60/100(質量比)である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項10】
前記定着樹脂のガラス転移点が、80℃以上である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項11】
前記定着樹脂の重量平均分子量が、10,000〜100,000である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項12】
さらに塩化ビニル系樹脂および/または繊維素系樹脂を含有する請求項1に記載のインク組成物。
【請求項13】
さらに環状エステルを含有する請求項1に記載のインク組成物。
【請求項14】
前記環状エステルが、下記一般式(2)で表わされる化合物である請求項13に記載のインク組成物。

(上記一般式(2)中のX3およびX4は、水素原子または炭素数1〜7のアルキル基またはアルケニル基を、mは1〜3の整数を表わす。)
【請求項15】
さらに、分散剤を含有する請求項1に記載のインク組成物。
【請求項16】
さらに、着色剤を含有する請求項1に記載のインク組成物。
【請求項17】
下記一般式(1)で表わされる溶剤中でラジカル重合開始剤を用いてアクリル系モノマーを溶液重合させ、得られたアクリル系樹脂溶液を使用することを特徴とするインクジェットプリンター用油性インク組成物の製造方法。

(上記一般式(1)中のX1はアルキル基を、X2は水素原子またはアルキル基を、nは1〜4の整数を表わす。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−332348(P2007−332348A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52439(P2007−52439)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000183923)ザ・インクテック株式会社 (268)
【Fターム(参考)】