説明

インクジェットヘッドの制御装置

【課題】インクジェットヘッドを多階調で駆動させる場合、各階調での1ドロップあたりの吐出体積を均一にすることが望ましく、1つの1次関数式で補正していたが、1ドロップあたりの吐出体積をどの階調でも一定にすることが難しかった。
【解決手段】基準となる階調での1ドロップ当りのインクの吐出体積が目標値となる1ドロップ毎の駆動電圧を基に、ドロップ数に対応した各階調での1ドロップ毎の駆動電圧を求める駆動電圧決定部12を有する。すなわち、基準階調での駆動電圧をVoとし、他の階調での電圧補正係数をyとする。この補正係数yを、基準階調近くの予め設定した第1の階調域までは、y=a1・x+b1で求め、第1の階調域より外れた第2の階調域では、y=a2・x+b2で求め、各階調の駆動電圧をVo×yとして求める(ただし、xはドロップ数、a1,a2,b1,b2は定数、a1,a2の絶対値はa1<a2とする)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、アクチュエータにより圧力室に圧力を加えることで圧力室内のインクをノズルから吐出させるインクジェットヘッドを、吐出されるインクのドロップ数に応じた階調により多階調で駆動するインクジェットヘッドの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多階調でインクジェットヘッドを駆動させる場合、駆動電圧は基準となる階調での駆動電圧を決めて、どの階調でも基準階調での駆動電圧で駆動させていた。例えば、最大7個の液滴を吐出し、1階調から8階調までの印字ができるインクジェットプリンタでは、基準階調(ここでは7ドロップの8階調とする)での1ドロップ当りのインクの吐出体積を、例えば、6pLとすると、2ドロップのインクの吐出体積は12pL、3ドロップのインクの吐出体積は18pL、4ドロップのインクの吐出体積は24pL、5ドロップのインクの吐出体積は30pL、6ドロップのインクの吐出体積は36pL、7ドロップ(基準階調)のインクの吐出体積は42pLになることが理想である。
【0003】
しかし、ノズル内のインクの増粘により、各階調で1ドロップあたりの吐出体積が異なり、階調が低い程1ドロップあたりの吐出体積が小さくなる。すなわち、基準階調からずれた階調でインクを吐出させる場合、目標とする吐出体積からずれてしまい印字品質が劣化するという問題がある。
【0004】
そこで、ヘッド駆動手段に印加する駆動電圧を可変制御して1ドロップから最大ドロップまでの吐出体積が略比例するように制御することが考えられた(例えば、特許文献1参照)。すなわち、1ドロップから最大ドロップまでの吐出体積が略比例するように吐出ドロップ数毎の駆動電圧yを算出する演算式、y=a・x+b、(但し、xは吐出ドロップ数、a,bは定数)を予め設定し、吐出ドロップ数に基づいてヘッド駆動手段に印加する駆動電圧を求めていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−326251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、インクジェットヘッドを多階調で駆動させる場合、階調が低くなる程駆動電圧を高くして1ドロップあたりの吐出体積を均一にするため、従来発明では、補正の値をy=a・x+bという1つの1次関数式で補正していた。
【0007】
しかし、このように1つの1次関数式で補正を行うと、階調に応じた1ドロップあたりの吐出体積の変化が一定でないため、1ドロップあたりの吐出体積をどの階調でも一定にすることが難しく、印字品質を向上させるためには未だ改良の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施の形態によるインクジェットヘッドの制御装置は、アクチュエータを駆動して圧力室に圧力を加えることで圧力室内のインクをノズルから吐出させるインクジェットヘッドを、前記吐出されるインクのドロップ数に応じた階調により多階調で駆動するインクジェットヘッドの制御装置であって、基準階調での1ドロップ当りのインクの吐出体積が目標値となる1ドロップ毎の前記アクチュエータの駆動電圧を基に、前記ドロップ数に対応した各階調での1ドロップ毎の駆動電圧を求める駆動電圧決定部を有し、この駆動電圧決定部は、基準階調での前記駆動電圧をVoとし、他の階調での電圧補正係数をyとすると、この補正係数yを、基準階調近くの予め設定した第1の階調域までは、y=a1・x+b1で求め、前記第1の階調域より外れた第2の階調域では、y=a2・x+b2で求め、各階調の駆動電圧をVo×yとして求める(ただし、xはドロップ数、a1,a2及びb1,b2は定数、a1,a2の絶対値はa1<a2とする)ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドの制御装置を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドの基本構成とその動作過程を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドの駆動波形を示す波形図である。
【図4】これまでのインクジェットヘッドの各階調におけるドロップ数と吐出体積との関係を示す表である。
【図5】これまでのインクジェットヘッドのドロップ数と1ドロップ当りの吐出体積との関係を表すグラフである。
【図6】これまでのインクジェットヘッドの印字パターンとドット形状とを、吐出体積の違いについて比較した場合の図である。
【図7】図6におけるドット数を増やした場合の図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドのドロップ数に対応した駆動電圧の変化を表すグラフである。
【図9】本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドのドロップ数と、それに対応した駆動電圧との関係を示す表である。
【図10】本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドのドロップ数とその駆動波形との関係を表す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。先ず、図2により、インクジェットヘッドの基本構成及び駆動原理について説明する。
【0011】
図2はインクジェットヘッドを表しており、圧力室1は、アクチュエータ2によって仕切られている。各圧力室1にはノズル3が設けられている。図3はアクチュエータ2に加わる電界の駆動波形を示している。駆動波形2aによりアクチュエータ2に電界をかけると、図2(a)におけるアクチュエータ2は、同図(b)で示すように開き、圧力室1の圧力が低くなる。ついで、図3の駆動波形2bのように電界をかけると、アクチュエータ2が図2(c)のように元に戻り圧力室1の圧力が高まり、ノズル3からインクが吐出する。その後、図3の駆動波形2cのように電界をかけると、図2(d)のようにアクチュエータ2が閉じ、圧力室1の圧力を抑え、残留振動を抑えるキャンセルパルスとなる。そして、図3の駆動波形の最後の立ち上がりパルスにより、図2(e)のようにアクチュエータ2が元に戻る。
【0012】
このようなインクジェットヘッドを多階調で用いる場合、これまでは、基準となる階調をきめ、基準階調での1ドロップ当りの吐出体積が目標値となるように駆動電圧を設定し、他のどの階調(ドロップ数が異なる)で吐出させる時も基準階調での駆動電圧を用いていた。しかし、この方法では前述のように、基準階調からずれた階調ほど、目標とする吐出体積からずれてくる。図4及び図5は、8階調(7ドロップ)を基準として駆動電圧をきめ、同じ駆動電圧で全階調を吐出させたときの吐出体積を示す。基準となる8階調から離れて階調が低くなるほど、1ドロップあたりの吐出体積は目標値より小さくなる。
【0013】
図6及び図7は、吐出体積が目標値より小さくなった時の印字状態を示している。図6の左側のドットが目標とする吐出体積のドット、右側が目標値より小さい吐出体積のドットで、目標値より小さい吐出体積のドットの方が小さくなる。この状態のドット数を増やしたのが図7で、右側のドットが小さいのでマクロ的に見るとドットの小さい右側が薄く見え、印字品質の劣化につながる。
【0014】
このような問題を解決するため、各階調ごとに駆動電圧を補正することで、1ドロップあたりの吐出体積を均一にしている。この場合、ドロップ毎に電圧値を変化させるために、7種類の電圧値を予め設定してその都度選択することが考えられるが、これでは制御が複雑化する。
【0015】
そこで、駆動電圧を求めるための1次式を、y=a・x+bで設定し、ドロップ数(階調)毎の駆動電圧を求めることが考えられた。ここで、yは補正係数、a,bは定数、xは各ドロップ数である。
【0016】
しかし、実際のドロップ数と1ドロップ当りの吐出体積との関係は、一定ではなく、図5で示したように、8階調・7ドロップ駆動の各ドロップでの1ドロップあたりの吐出体積変化の傾きは5ドロップを界に変化する。すなわち、7ドロップから5ドロップまでは、1ドロップあたりの吐出体積の変化が小さく、4ドロップから1ドロップまでは、1ドロップあたりの吐出体積の変化が大きい。これは階調が高くて多くのドロップを吐出させる場合は、吐出パワーが大きいのでノズル内のインク増粘の影響がでにくく、1ドロップあたりの吐出体積の減少は少ない。これに対し、階調が低くて少ないドロップを吐出させる場合は、吐出パワーが小さいのでノズル内のインク増粘の影響がでやすく、1ドロップあたりの吐出体積の減少が大きくなる。
【0017】
そこで、本発明の実施形態では、各階調ごとの電圧の補正を、図8のように、7〜5ドロップまでの第1の階調域と、4〜1ドロップまでの第2の階調域とに分けて補正する。7ドロップでの目標電圧(基準駆動電圧)をVoとし、これに対する補正係数を次のように設定する。すなわち、7〜5ドロップまでの電圧補正式を、y=a1・x+b1とし、4〜1ドロップまでの電圧補正式を、y=a2・x+b2とする。7〜5ドロップよりも4〜1ドロップまでのほうが傾きが大きいので、定数a1,a2の絶対値は、a1<a2とする。
【0018】
このような機能を実現する制御装置は、図1で示すように構成される。すなわち、この制御装置は、階調判断部11、駆動電圧決定部12を有し、インクジェットヘッド13を駆動する。
【0019】
階調判断部11は、インクジェットヘッド13により多階調で印字される文字又は図形などの階調を判断するもので、図示しない上位機器から印字データが入力される。
【0020】
ここで、インクジェットヘッド13は、図2で説明したように、アクチュエータ2により圧力室1に圧力を加えることで圧力室1内のインクをノズル3から吐出させる構造であり、ノズル3から吐出されるインクのドロップ数に応じた階調により多階調で駆動する。ここでは1〜8階調とし、0〜7ドロップのインクを吐出するものとする。したがって、階調判断部11は、印字データの階調に基づくドロップ数xを判断し出力する。
【0021】
駆動電圧決定部12は、ドロップ数に応じた駆動電圧を決定する。この駆動電圧決定部12には、階調判断部11から、印字対象のドロップ数xが入力される。また、予め求めた1ドロップ当りの基準電圧Vo、定数a1,b1及びa2,b2がデータとして設定されている。そして、ドロップ数xが7〜5ドロップの場合は、y=a1・x+b1により補正係数yを求め、ドロップ数xが4〜1ドロップの場合は、y=a2・x+b2により補正係数yを求める。この場合、前述のように、定数a1,a2の絶対値は、a1<a2とする。
【0022】
ここで、定数a1,a2は、使用するヘッド、インクを用いて事前に求めておき、b1,b2は製造出荷検査で予定ドロップ時に所定の吐出体積が吐出する駆動電圧値に基づいて求めておく。
【0023】
上述の式により求められた補正係数yを基準電圧Voに掛けることにより印字データの階調に応じた駆動電圧が決定される。すなわち、駆動電圧決定部12は、基準となる階調(ここでは8階調)での、1ドロップ当りの駆動電圧Voを基に、ドロップ数に対応した各階調での1ドロップ毎の駆動電圧を求めるもので、補正係数yは、基準階調近くの予め設定した第1の階調域(ここでは8〜5階調)までは、y=a1・x+b1で求め、第1の階調域より外れた第2の階調域(ここでは4〜1階調)では、y=a2・x+b2で求める。そして、各階調の駆動電圧をVo×yとして決定する。
【0024】
このように、各階調での1ドロップ毎の駆動電圧を、実際のドロップ数に対する吐出体積の変化に対応して、2つの1次式を用いて決定するので、各階調における1ドロップ当りの吐出体積を厳密に一定にすることができ、印字品質を高めることができる。
【0025】
なお、インクジェットヘッドの駆動電圧は、個々のヘッドにより駆動電圧に少しの差が有るので、どのヘッドにも当てはまるように補正幅を持たせる。例えば、図9のように7ドロップでの目標駆動電圧をVoとすると、各ドロップの駆動電圧の中央値は、6ドロップで1.01Vo、5ドロップで1.01Vo、4ドロップで1.04Vo、3ドロップで1.07Vo、2ドロップで1.10Vo、1ドロップで1.13Voとなる。さらに体積の誤差を全体の5%以内におさめると、各ドロップで0.02Vo分が許容されるので、各ドロップの中央値に0.02Vo分の幅を持たして、7ドロップで0.98〜1.02Vo、6ドロップで0.99〜1.03Vo、5ドロップで0.99〜1.03Vo、4ドロップで1.02〜1.06Vo、3ドロップで1.05〜1.09Vo、2ドロップで1.08〜1.12Vo、1ドロップで1.11〜1.15Voとなる。これらの結果、各階調における1ドロップ当りの吐出体積はそれぞれ6pLと一定値になる。
【0026】
図10は、ドロップ数が7,5,3,1における駆動電圧波形を示しており、階調が低くなるにつれて波形パルスの電圧が高くなっている。このように各階調ごとに駆動電圧を補正することで、1ドロップあたりの吐出体積が均一となり、印字のドットばらつき等が少なくなって、印字品質が向上する。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
1…圧力室
2…アクチュエータ
3…ノズル
11…階調判断部
12…駆動電圧決定部
13…インクジェットヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータを駆動して圧力室に圧力を加えることで圧力室内のインクをノズルから吐出させるインクジェットヘッドを、前記吐出されるインクのドロップ数に応じた階調により多階調で駆動するインクジェットヘッドの制御装置であって、
基準階調での1ドロップ当りのインクの吐出体積が目標値となる1ドロップ毎の前記アクチュエータの駆動電圧を基に、前記ドロップ数に対応した各階調での1ドロップ毎の駆動電圧を求める駆動電圧決定部を有し、
この駆動電圧決定部は、基準階調での前記駆動電圧をVoとし、他の階調での電圧補正係数をyとすると、この補正係数yを、基準階調近くの予め設定した第1の階調域までは、y=a1・x+b1で求め、前記第1の階調域より外れた第2の階調域では、y=a2・x+b2で求め、各階調の駆動電圧をVo×yとして求める(ただし、xはドロップ数、a1,a2及びb1,b2は定数、a1,a2の絶対値はa1<a2とする)
ことを特徴とするインクジェットヘッドの制御装置。
【請求項2】
前記基準階調でのドロップ数は7であり、前記第1の階調域は、7から5迄のドロップ数であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッドの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−61628(P2012−61628A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205632(P2010−205632)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】