説明

インクジェットヘッドの製造方法

【課題】部材を接合した部分の接着剤に空隙がなく、不要な部分に接着剤が流れ込むことがなく、接着剤のポットライフが長く、耐水性のみならず耐溶剤性の良好なインクジェットヘッドの製造方法を提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂、光カチオン重合開始剤および熱カチオン重合開始剤を含有する接着剤により、複数の部材を貼り合わせる工程、接着剤のはみ出した部分に光を照射する工程の後に加熱工程を有するインクジェットヘッドの製造方法において、全エポキシ樹脂の80〜100質量%が芳香族エポキシ化合物であり、加熱工程が40℃以上の温度範囲において昇温する工程を有することを特徴とするインクジェットヘッド製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
水系インクのみならず溶剤インクを使用した場合でも耐久性があるインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液体を微小な液滴の状態で吐出可能な液体噴射ヘッドは、例えば、記録紙上にインク滴を吐出して画像等を記録するインクジェットプリンタに用いられるインクジェットヘッド等として広く普及してきている。
【0003】
インクジェットヘッドの代表的なインク吐出方式としては、加圧室に配置された電気抵抗体に電流を流すことにより発生した熱によりインク中の水を気化膨張させインクに圧力を加えて吐出させる方法、と加圧室を構成する流路部材の一部を圧電体にするか、流路部材に圧電体を設置し、複数のノズルに対応する圧電体を選択的に駆動することにより、各圧電体の動圧に基づいて加圧室を変形させてノズルから液体を吐出させる方法がある。
【0004】
近年、インクジェットヘッドは高密度化のために、隣接ノズルの間隔がますます狭くなってきている。例えば、180dpi(本発明でいうdpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す)のノズル密度でのノズルとノズルの間隔は、140μmとなる。この場合、140μmの間に70μmの圧力室隔壁が存在すると、圧力室の幅は70μmになる。ノズルが外面から圧力室側に向かい広がり、その圧力室側での内径を40μmとすると、隔壁の端部からノズルまでの距離は15μmしかない。ノズルプレートを記録素子基板や流路部材等に接着する際、接着剤を硬化するための加熱処理を施すと、この加熱操作により接着剤の粘度が低下して流れやすくなるため、近接して存在しているノズル部に流れ込み、ノズル部の一部、あるいは最悪の場合には全域を塞いでしまう結果を招くことになる。特に、適用するインクが、接着剤を膨潤したり溶解する特性を有している場合には、接着剤の耐インク性を高めなければならない。そのためには接着剤を硬化する際に高温で加熱して接着剤のガラス転移点を高めることが有効であるが、接着剤を高温にすると粘度が低下して、上記のノズル部を塞ぐという傾向はより増大する。
【0005】
この様なノズル領域への接着剤の流れ込みを防止する観点で、接着剤の塗設量を少なくした場合、流路部材の表面に凹凸があったり、ゴミが付着しているとノズルプレートと流路部材の間に接着剤の存在しない空隙が生じ、そこを伝わってインクが漏れることがある。これに対し、接着剤の付与量を多くすると、部材の間隙からはみ出す接着剤の量が多くなりノズル領域に接着剤が流れ込んでしまい、空隙をなくすこととノズルへの流れ込みをなくすことの両立が困難であった。
【0006】
はみ出した接着剤の流れ込みを防止する方法として、例えば、記録素子基板と支持基板とを紫外線硬化性及び加熱硬化性を併せ持つ接着剤で接着し、はみ出した接着剤に、紫外線を照射して第一次硬化を行い、次いで加熱処理をしてインクジェット記録ヘッドを製造する方法が開示されている(特許文献1参照。)。これにより、はみ出した接着剤の流れ込みは防止できるが、熱硬化による接着剤の硬化が進みにくく、とくに溶剤インクに対する耐久性が低かった。特に光カチオン重合開始剤と熱カチオン重合開始剤を両方含有するエポキシ樹脂では、光カチオン重合開始剤による熱重合の阻害効果があり、特許文献1の方法では熱重合が十分に進行しない。一般的に水系インクに対する耐久性が十分であっても、本願の目的の1つである溶剤インクに対する耐久性は満足できないことが多く、最適な素材を選択し硬化を進めて架橋度を向上しないと達成できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−15238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は部材を接合した部分の接着剤に空隙がなく、不要な部分に接着剤が流れ込むことがなく、貼合性が良好で、接着力が大きく、耐水性のみならず耐溶剤性の良好なインクジェットヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
【0010】
1.エポキシ樹脂、光カチオン重合開始剤および熱カチオン重合開始剤を含有する接着剤により、複数の部材を貼り合わせる工程、接着剤のはみ出した部分に光を照射する工程の後に加熱工程を有するインクジェットヘッドの製造方法において、前記エポキシ樹脂の80〜100質量%が芳香族エポキシ化合物であり、加熱工程が40℃〜150℃の温度範囲において昇温する工程を有することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【0011】
2.前記加熱工程が1分間に0.1℃〜2℃の昇温速度で昇温する工程を有することを特徴とする前記1に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【0012】
3.前記加熱工程が2段階以上の等温過程を組み合わせて昇温することを特徴とする前記1に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【0013】
4.前記熱カチオン重合開始剤が下記一般式(I)で表される錯体化合物を含むことを特徴とする前記1〜3いずれか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【0014】
【化1】

【0015】
Rは水素原子またはアルキル基を表す。
【0016】
、R、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基またはハロゲン原子を表す。
【0017】
5.前記エポキシ樹脂がノボラックエポキシ樹脂を、1〜50質量%含有することを特徴とする前記1〜4いずれか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【0018】
6.前記部材は、少なくとも接合部をプラズマ照射したものであることを特徴とする前記1〜5いずれか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【0019】
7.前記部材は、少なくとも接合部を酸により処理したものであることを特徴とする前記1〜5いずれか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、接着剤が流路へ流れ込むことによる出射不良がなく、貼合性が良好で、部材と接着剤の剥離によりインク流路からインクの漏れることがなく、溶剤インクに対しても耐久性が優れたインクジェットヘッドの製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のインクジェット記録ヘッドの構成の一例を示す分解斜視図である。
【図2】本発明のインクジェット記録ヘッドのヘッドチップの後面の一例を示す背面図である。
【図3】ノズルプレートとヘッドチップに形成した圧力室とを、接着剤により接着した状態の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、エポキシ樹脂、光カチオン重合開始剤および熱カチオン重合開始剤を含有する接着剤により、複数の部材を貼り合わせ、接着剤のはみ出した部分に光を照射した後に加熱工程を有するインクジェットヘッドの製造方法において、前記エポキシ樹脂の80〜100質量%が芳香族エポキシ化合物であり、加熱工程が40℃〜150℃の温度範囲において昇温する工程を有することを特徴とするインクジェットヘッド製造方法により、接着剤が流路へ流れ込むことによる出射不良がなく、インク流路からインクの漏れることがなく、溶剤インクに対しても耐久性が優れたインクジェット記録ヘッドを実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0024】
以下、本発明のインクジェット記録ヘッドと、インクジェット画像記録に適用するインクジェットインクの詳細について説明する。
【0025】
(インクジェット記録ヘッド)
はじめに、本発明のインクジェット記録ヘッドの基本的構成例について、図を交えて説明する。
【0026】
図1はインクジェット記録ヘッドの一例を示す分解斜視図で、図2はヘッドチップの後面を示す背面図である。
【0027】
図1において、1はヘッドチップ、2はヘッドチップ1の前面に接合されるノズルプレート、3はヘッドチップ1の後面に接合される配線基板である。
【0028】
なお、本明細書においては、ヘッドチップ1のノズル側に当たる液体が吐出される側の面を「前面」といい、その反対側の面を「後面」という。ヘッドチップ1は、本発明に係る流路部材に相当し、図1においては、インクの流れ方向は、下から上である。
【0029】
本発明でいうヘッドチップ1は、例えば、圧電体からなる流路部材11と圧力室(インク供給路)12とが交互に並設され構成されている。圧力室12の形状は、両側壁が互いに平行に形成されている。ヘッドチップ1の前面及び後面にそれぞれ各圧力室12の出口と入口とが配置されると共に、各圧力室12は入口から出口に亘る長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレートタイプである。
【0030】
このヘッドチップ1において、各圧力室12は2列となる圧力室列を有している。各圧力室列はそれぞれ8個の圧力室12からなるが、ヘッドチップ1中の圧力室列を構成する圧力室12の数は何ら限定されない。
【0031】
ヘッドチップ1は、複数の溝を有する圧電体101と蓋材102を接合して形成される。圧電体101の溝の表面は、図1において斜線で示した金属層Mからなる駆動電極が形成されている。
【0032】
金属層Mは、インクによる腐食を防止する目的で、透明な絶縁層により被覆されていることが好ましい。
【0033】
ヘッドチップ1の後面には、各圧力室12の金属層Mから引き出された接続電極14(電圧印加用電極)が形成されている。接続電極14の形成は、蒸着又はスパッタリングによって行うことができる。
【0034】
ノズルプレート2は、ヘッドチップ1の各圧力室12の出口に対応する位置にそれぞれノズル21が開設されており、接続電極14が形成されたヘッドチップ1の前面に接着剤を用いて接合される。従って、各圧力室12の入口、出口及びノズル21が直線状に配置される。
【0035】
配線基板3は、ヘッドチップ1の各金属層Mに図示しない駆動回路からの駆動電圧を印加する配線を接続するための板状の部材である。この配線基板3に用いられる基板には、非分極のPZTやAlN−BN、AlN等のセラミックス材料からなる基板、低熱膨張のプラスチックやガラスからなる基板、ヘッドチップ1に使用されている圧電体の基板材料と同一の基板材料を脱分極した基板等を用いることができる。好ましくは、熱膨張率の差に起因するヘッドチップ1の歪み等の発生を抑えるため、未分極のPZTを基準にして±3ppm以内の熱膨張係数の差を持つ材料を選定することである。
【0036】
配線基板3を構成する基板は1枚板状のものに限らず、薄板状の基板材料を複数枚積層して所望の厚みとなるように形成してもよい。
【0037】
この配線基板3は、ヘッドチップ1の後面よりも大きな面積を有しており、ヘッドチップ1の圧力室12の並び方向(圧力室列方向)と直交する方向(図中のB方向)に延び、ヘッドチップ1からそれぞれ大きく張り出しており、各張り出し端が図示しないFPC等を接続するための配線電極33となっている。また、配線基板3は、ヘッドチップ1の圧力室12の並び方向(図中のA方向)にもそれぞれ大きく張り出している。
【0038】
配線基板3のほぼ中央部には開口部32が貫通形成されている。この開口部32は、ヘッドチップ1の後面に臨む全圧力室12の入口側開口部を露呈させることができる程度の大きさに形成されている。
【0039】
開口部32の形成方法としては、基板材料に応じて、ダイシングソーで加工する方法、超音波加工機で加工する方法、焼結前のセラミックスを型成形し、焼成する方法、サンドブラストにより形成する方法等が採用できる。
【0040】
配線基板3のヘッドチップ1との接合面側となる表面に、ヘッドチップ1の後面に形成された各接続電極14と同数及び同ピッチ(W1+W2)で配線電極33(電圧印加用電極)が形成され、開口部32の周縁から各配線接続部31、31に延び、配線基板3の外縁まで至っている。この配線電極33は、FPC等が接合される際、FPC等に形成されている各配線と電気的に接続し、駆動回路からの駆動電圧を接続電極14を介して圧力室12内の金属層Mに印加するための電極として機能する。
【0041】
なお、配線基板3の表面には、配線電極33の他に、ヘッドチップ1を位置決めするための位置決め用パターン38が形成されている。この位置決め用パターン38は、ヘッドチップ1との接合時にはヘッドチップ1の後面に形成された位置決め用パターン39と嵌合し、ヘッドチップ1の位置決めを行う際に使用される。
【0042】
このようにして形成されたヘッドチップ1と配線基板3は、両者の接着面にそれぞれ接着剤を塗布した後、図1に示すように、ヘッドチップ1の各接続電極14と配線基板3の各配線電極33とを電気的に接続するように位置合わせして重ね合わせ、所定温度及び所定時間で加熱及び加圧して接着剤を硬化させる。
【0043】
また、ヘッドチップ1の前面には、ノズル21が形成されたノズルプレート2を接着剤で接着する。これによりインクジェット記録ヘッドが得られる。
【0044】
以上の様に、本発明に係る接着剤は、ヘッドチップに対する、ノズルプレート、配線基盤の接着や、マニホールドの接着等に適用することができる。
【0045】
図3は、ノズルプレートとヘッドチップとを、接着剤により接着した状態の一例を示す断面図である。
【0046】
図3を用いて、本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法について説明する。
【0047】
1)流路部材とノズルプレートとを接合する工程
図3は、図1に示したインクジェット記録ヘッドにおけるヘッドチップ1と、ヘッドチップ1の前面に接合されるノズルプレート2を、本発明に係る接着剤にて接合した状態を示してある。
【0048】
はじめに、ヘッドチップ1のノズルプレートを接着する面に、本発明に係るエポキシ樹脂、光カチオン重合開始剤および熱カチオン重合剤を含有し、光及び熱により硬化する接着剤15を、転写法などを用いて、所望量を付与する。接着剤の付与量として、特に制限はないが、付与したときの湿潤膜厚として、2.0μm以上、8.0μm以下であることが好ましい。接着剤の付与量が2.0μm以上であれば、ヘッドチップ1とノズルプレート2との間に、接着剤の未存在領域を生ずることがなく、均一に接着面を形成することができ、インク漏れや接着不良を防止することができる。また、8.0μm以下であれば、接着剤の付与量が過剰になることなく、接着剤溢れ等を防止することができ、ノズル領域への滲み出しを防止できる。
【0049】
接着剤の付与量は、接着剤を付与したチップの質量からチップの質量を差し引いて求めた接着剤の質量を、接着剤の比重で割り接着剤の容量をもとめ、更にチップの接着面の面積で割ることにより求められる。
【0050】
流路部材11は、いずれの材料で構成されていても良く、例えば、圧電材料、シリコン等を挙げることができるが、本発明においては、流路部材を含むインク供給路が圧電体(圧電性セラミックス)から構成されていることが好ましい。
【0051】
流路部材を構成する圧電性セラミックスとしては、従来公知の任意のものを採用できるが、PZT、PLZT等のセラミックスで、主にPbOx、ZrOx、TiOxの混合微結晶体に、ソフト化剤又はハード化剤として知られる微量の金属酸化物、例えばNb、Zn、Mg、Sn、Ni、La、Cr等の酸化物を含むものが好ましい。
【0052】
PZTは、チタン酸ジルコン酸鉛であり、充填密度が大きく、圧電性定数が大きく、加工性が良いので好ましい。PZTは、焼成後、温度を下げると、急に結晶構造が変化して、原子がズレ、片側がプラス、反対側がマイナスという双極子の形の、細かい結晶の集まりになる。こうした自発分極は方向がランダムで、極性を互いに打ち消しあっているので、更に分極処理が必要となる。
【0053】
分極処理は、PZTの薄板を電極で挟み、シリコン油中に漬けて、10〜35kV/cm程度の高電界を掛けて、分極する。この分極処理による圧電性は、PZTにおいては、一般的に、200℃近傍をキュリー点として、これ以上の温度を与えると消失してしまう。
【0054】
本発明においては、ヘッドチップ1とノズルプレート2との接着面少なくとも一方に、酸処理、プラズマ処理またはUV処理を施すことが好ましい。プラズマ処理は、真空チャンバー中にノズルプレート、ヘッドチップ等を置き、Ar、N及びOから選ばれる少なくとも1つまたはそれらの混合ガスを注入し、外部からの電磁界で、プラズマ状態にする処理であり、表面のエッチング性を高めるために、CF等のフッ素系炭化水素ガスを用いても良い。酸処理は、塩酸などの水溶液に接着面を浸漬することにより実施できる。また、UV処理は紫外線発光ランプを直接ノズルプレートや流路部材に照射する処理であり、オゾンでのクリーニング効果を出すために、O雰囲気下でも良い。このように接着面をプラズマ処理、酸処理及びUV処理をすることにより、有機物汚染を洗浄除去でき、接着面全体への接着剤のぬれ性を向上させ、微小な泡残り等の接着不良を排除でき、それにより、インク漏れや接着不良をなくし、安定なインクジェット記録ヘッドを製造できる。
【0055】
圧電体101は、例えば、厚さ1mmの基体の一面に微小な溝部(例えば、長さ:3mm、高さ:360μm、巾:70μm)が加工されている。この基体の加工面に蓋部材102を接合(接着)することにより、インク流路となる圧力室(長さ:3mmmm、高さ:360μm、巾:70μm)が溝部に形成される。圧力室の一端は配線基盤およびフィルタユニットを含むマニホールドを介してインク貯蔵部に連結され、他端はインク吐出口(ノズルプレート)と連結される。
【0056】
本発明においては、インク室を形成する流路部材11が、インク供給路面側に金属層Mを有していることが好ましい。
【0057】
金属層Mは、流路部材(圧電体)の駆動電極として作用するものであっても良い。金属層を形成する金属は、Ni、Co、Cu、Al、Sn、Cr等があり、電気抵抗の面からはAlやCuを用いることが好ましいが、腐食や強度、コストの面からNiが好ましく用いられる。また、Alの上に更にAuを積層した積層構造としてもよい。
【0058】
金属層Mの形成は、蒸着法、スパッタリング法、めっき法、CVD(化学気相反応法)等の真空装置を用いた方法等によって金属被膜を形成する方法が挙げられるが、めっき法によるものが好ましく、特に無電解めっきにより形成することが好ましい。無電解めっきによれば、均一且つピンホールフリーの金属被膜を形成することができる。めっき膜の厚みは0.5〜5μmの範囲が好ましい。
【0059】
また、ノズルプレート材料としては、レーザー光によるアブレーションが可能な材料や異方性エッチングが可能な材料が用いられ、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリサルフォン等の樹脂シートやシリコンを好ましく用いることができるが、特に、撥インク層を表面に設ける際に掛ける高温に耐えられ、レーザーによる精密なノズル加工が可能なポリイミドから構成されることが好ましい。
【0060】
2)流路部材のインクを供給する側から光を照射して硬化する工程
上記工程にて、ノズルプレート2とチップ1とを接着剤15で接合した後、接着剤に光エネルギーを照射して、第一の硬化処理を行う。
【0061】
本発明においては、光照射により接着剤を硬化する際には、光照射をするインク供給路12面が、金属層Mで形成されていることが好ましい。この様な金属面を備えたインク供給路12を構成することで、図3に示す様に、インクの供給側である矢印Aで示す方向から、照射光源より光を照射した際に、照射した光が、金属面で反射し、奥深くに位置する接着剤層15に届くまでの減衰が小さく、硬化に必要な光エネルギーを供給することができる。
【0062】
接着剤の硬化に用いる照射光源としては、特定の波長領域の紫外線を安定した露光エネルギーで発光する紫外線ランプ及び特定の波長の紫外線を透過するフィルターを備えて構成される光源が好ましい。紫外線ランプとしては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマーレーザー、紫外線レーザー、冷陰極管、熱陰極管、ブラックライト、LED(light emitting diode)等が適用可能であり、特に波長365nmの紫外線を発光する高圧水銀ランプが好ましい。
【0063】
3)加熱処理を施すことで該接着剤を硬化する工程
上記工程2)で、光照射により、接着剤層15の第一次硬化を行った後、熱エネルギーを付与して、より強固な接着剤層とするためと光が当たらなかった部分を硬化するための第二次硬化処理を行う。この加熱工程を施されることにより、接着剤は目的とする耐溶剤性に達することができる。
【0064】
ノズルプレートの接着の場合、インクジェットヘッドは被記録媒体との間に狭い間隙を保ちつつ、非記録媒体に対して相対的に移動する。非記録媒体にうねり等の凹凸がある場合は、インクジェットヘッドが移動するときに被記録媒体にノズルプレートが接触する可能性がある。特に、インクジェットヘッドが長期間使用されて、使用されている接着剤がインクの溶剤により膨潤すると、このような接触によりノズルプレートが剥がれることがある。このような問題を改善するためには接着力を強くすることと溶剤インクに長期間浸漬したときの接着剤の膨潤を小さくすることが有効である。
【0065】
接着剤を硬化するときの加熱温度としては、接着剤の種類により、かつインクジェット記録ヘッドの構成部材に影響を与えない範囲で、適宜選択されるが、加熱工程の最高温度は、60℃から150℃の範囲である。
【0066】
本発明は加熱工程中で40℃〜150℃の温度範囲で昇温する工程を有する。昇温とは例えばヘッドをオーブンに投入して加熱硬化する場合は、オーブンの温度を測定し、オーブンの温度を途中で上昇させることを言う。昇温する方法として例えば、一定の速度で温度を上昇させる方法、ある一定温度で加熱した後、より高温の一定温度で加熱するといったように階段状に温度を上昇する方法がある。例えば、25℃のオーブンにヘッドを投入し、毎分1℃の速度で温度を上昇させ、100℃まで上昇させると、途中で40℃を通過しさらに温度が上昇するので本発明の昇温する工程を有する。また、50℃のオーブンにヘッドを投入し、1時間経過した後、100℃のオーブンにヘッドを移し変えて1時間経過すれば、温度の異なる2つ等温過程を経ることにより温度を上昇させることができる。
【0067】
一定速度で昇温する場合は、その速度は毎分0.1℃〜2℃が接着剤の耐溶剤性が高くなるので好ましい。2段階以上の等温過程を組み合わせて昇温する場合は、高い耐溶剤性と耐水性を得るために、好ましくは低温側が40〜80℃であり、高温側が60〜120℃である。加熱時間は低温側が30分〜4時間が好ましく、高温側が30分〜4時間が好ましい。
【0068】
熱エネルギーの付与手段としては、電気オーブンまたはインクジェット記録ヘッドに圧着して加熱することができる加熱具が好ましく、例えば、ホットプレート、リボンヒーター等が挙げられる。また、加熱処理時に、少なくとも圧電体部を冷却する手段として、アルミニウムブロックに冷水を循環させて冷却させる手段を併用することが好ましい。本発明において、加熱工程の温度は、接着剤自身の温度の測定が困難なので、代わりにオーブンや加圧具などの温度を測定し、代用する。
【0069】
《接着剤》
本発明のインクジェット記録ヘッドを製造する際に適用する接着剤は、エポキシ化合物、光カチオン重合開始剤と共に、熱カチオン重合開始剤を含有し、全エポキシ樹脂の80〜100質量%が芳香族エポキシ化合物であることを特徴とする。
【0070】
(熱カチオン重合開始剤)
本発明に係る熱カチオン重合開始剤は、エポキシモノマーを熱重合させるためのカチオン性熱重合開始剤であり、3フッ化ホウ素アミン錯体、スルホニウム塩、アルミニウム錯体などが用いられる。これらのうち3フッ化ホウ素アミン錯体がこのましく、特に一般式(1)の化合物が耐溶剤性の高い接着剤硬化物が得られる点で好ましい。
【0071】
前記一般式(I)において、Rは水素原子またはアルキル基を表し、好ましくは水素原子を表す。R、R、Rは、各々水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を表す。
【0072】
R、R〜Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、2−メチルペンチル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、1−プロピルブチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ドデシル基等を挙げることができる。
【0073】
〜Rで表されるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等を挙げることができ、アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を挙げることができる。また、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等を挙げることができる。
【0074】
次いで、本発明に係る一般式(I)で表される熱カチオン重合開始剤の具体例を示すが、本発明ではこれら例示する化合物のみに限定されるものではない。
【0075】
本発明に係る好ましい熱カチオン重合開始剤は、下記に列挙するアニリン誘導体と、三フッ化ホウ素との錯体化合物が挙げられる。
【0076】
〈アニリン誘導体〉
化合物1:2−クロロアニリン
化合物2:3−クロロアニリン
化合物3:4−クロロアニリン
化合物4:3−クロロ−4−フルオロアニリン
化合物5:2,5−ジメチルアニリン
化合物6:3,4−ジメトキシアニリン
化合物7:2−エチルアニリン
化合物8:4−エチルアニリン
化合物9:N−エチルアニリン
化合物10:3,4−ジクロロアニリン
化合物11:3,5−ジクロロアニリン
化合物12:3−フルオロアニリン
化合物13:4−フルオロアニリン
化合物14:2−フルオロ−4−メチルアニリン
化合物15:4−フルオロ−3−メチルアニリン
化合物16:4−メトキシ−2−メチルアニリン
化合物17:3,4−ジフルオロアニリン
化合物18:4−ブチルアニリン
化合物19:N−メチルアニリン
化合物20:2,4,6−トリブロモアニリン
化合物21:2,3,4−トリフルオロアニリン
化合物22:2,3,6−トリフルオロアニリン
化合物23:2,4,6−トリフルオロアニリン
化合物24:2,3,4−トリフルオロアニリン
化合物25:2,4,6−トリメチルアニリン
化合物26:2,4,5−トリメチルアニリン
化合物27:N−ベンジルアニリン
化合物28:4−クロロアニリン
化合物29:2−クロロアニリン
化合物30:4,4’−メチレンビスアニリン
化合物31:3−フェノキシアニリン
化合物32:4−ブトキシアニリン
化合物33:4−ブトキシアニリン
化合物34:3,4−ジメトキシアニリン
化合物35:アニリン
本発明に係る一般式(I)で表される熱カチオン重合開始剤は、当該業者で公知の合成方法に従って合成することができる。また、化合物35のアニリンと3フッ化ホウ素の錯体はポリエチレングリコール溶液としてPTIJapanよりBAK1171の商品名で市販されている。
【0077】
また、一般式(I)で表される熱カチオン重合開始剤は、接着剤の固形分中に0.1〜30質量%添加することが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%である。
【0078】
(エポキシ樹脂)
本発明に係る接着剤に適用可能なエポキシ化合物としては、エポキシ基を有する化合物のモノマー及びそのオリゴマーのいずれも使用できる。具体的には、従来公知の芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物が挙げられる。なお、以下エポキシ化合物とは、モノマーまたはそのオリゴマーを意味する。
【0079】
本発明においてエポキシモノマーとしては芳香族エポキシモノマーをエポキシモノマー中の80質量%以上用いる。
【0080】
芳香族エポキシ化合物として好ましいものは、少なくとも1個の芳香族核を有する多価フェノールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体とエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジまたはポリグリシジルエーテルであり、例えば、ビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、ビスフェノールF型エポキシ樹脂ならびにノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0081】
脂環式エポキシ化合物としては、少なくとも1個のシクロヘキセンまたはシクロペンテン環等のシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化することによって得られるシクロヘキセンオキサイドまたはシクロペンテンオキサイド含有化合物が挙げられる。具体的には(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ビス−(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル等が挙げられる。
【0082】
本発明においては、エポキシモノマーとしては、ノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物またはビスフェノールF型エポキシ化合物等が好ましく、その中でも、特にノボラック型エポキシ化合物を1〜50質量%含有することが耐溶剤性が良い点で好ましい。
【0083】
(光重合開始剤)
本発明において、カチオン重合性モノマーを光重合させるための光カチオン重合開始剤(光重合開始剤)としては、公知のあらゆる光酸発生剤を用いることができる。光酸発生剤としては、例えば、化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物が用いられる(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ページ参照)。
【0084】
第1に、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウムなどの芳香族オニウム化合物のB(C、PF、AsF、SbF、CFSO塩を挙げることができ、第2にスルホン酸を発生するスルホン化物を挙げることができ、第3にハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物も用いることができ、第4に鉄アレン錯体を挙げることができる。例えば、ジアリルヨードニウムやトリアリルスルホニウムのヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネートまたはペンタフルオロフェニルボレート塩などが挙げられ、イルガキュア−261(チバガイギー社製)、SP−150、SP−170(以上、旭電化社製)、PI2074やUVI−6992(ダウケミカル製)などの商品名で市販されている。
【0085】
《インクジェットインク》
本発明のインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置を用いて画像形成する際に適用可能なインクジェットインクとしては、特に制限はなく、水性インクジェットインク、非水性インクジェットインク、ワックスインク、活性硬化型インクジェットインク等を挙げることができるが、その中でも、本発明のインクジェット記録ヘッドの優れた特性をいかんなく発揮できる観点から、有機溶剤の含有率が全溶媒の50%以上であるインクジェットインク、更には樹脂成分に対する溶解能の高い溶解度パラメーター(SP値)が16.0以上、21.0以下の有機溶媒を、全有機溶媒の30質量%以上含有するインクジェットインクを用いた画像形成に適用することが好ましい。
【0086】
(有機溶媒)
近年、様々な用途(例えば、屋外看板や電子部品製造など)にインクジェット記録方式を用いる例が増えてきた。例えば、屋外看板用では、受像シートの材料である塩化ビニルを溶解する溶媒を含有するインクジェットインクが用いられる。電子部品製造用では様々な化合物を溶解するため、インクジェットインクには樹脂に対して溶解性の高い溶媒が用いられる。このような樹脂溶解性の高い溶媒を用いても、インクジェット記録ヘッドとして強度が保たれることが必要である。
【0087】
本発明に係るインクジェット記録装置は、全溶媒の50%以上、100%以下が有機溶媒で構成されているインクジェットインクに適合することが好ましい。
【0088】
本発明でいう有機溶媒の溶解度パラメーター(SP値)とは、分子凝集エネルギーの平方根で表される値で、R.F.Fedors, Polymer Engineering Science,14,p147(1974)に記載の方法で計算することができる。単位は(MPa)1/2であり、25℃における値を指す。本発明で規定するSP値を有する有機溶媒としては、例えば、J.Brandup,E.H.Immergu共編「Polymer Handbook」第3版(John Wily&Sons)1989年、VII/526〜539頁にも記載されている。
【0089】
以下に、溶解度パラメーター(SP値)が16.0(MPa)1/2以上、21.0(MPa)1/2以下の有機溶媒の一例を示すが、これら例示化合物に限定されることはない。なお、括弧内の数値は、SP値((MPa)1/2を表す。
【0090】
アミルアセテート(16.0)、エチレングリコールジエチルエーテル(17.0)、エチルプロピオネート(17.2)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(17.4)、メチル−2−ペンタンジオールモノエチルエーテル(17.4)、エチレングリコールジメチルエーテル(17.6)、ジエチレングリコールモノラウレート(17.8)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(17.8)、トリプロピレングリコールメチルエーテル(17.8)、ブチルプロピオネート(18.0)、エチルアセテート(18.6)、エチレングリコールメチルエチルアセテート(18.8)、トリプロピレングリコール(18.8)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(19.0)、エチル−2−ヘキサンジオール−1,3(オクチレングリコール)(19.2)、ブチルラクテート(19.2)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(19.4)、エチレングリコールモノブチルエーテル(19.4)、シクロヘキサノン(20.3)、エチルラクテート(20.5)、アニソール(19.4)等。
【0091】
(その他のインク添加剤)
本発明に係るインクジェットインクには、上記有機溶媒の他に、各種添加剤を含有させることができる。
【0092】
本発明に係るインクには色材が含有することができ、色材の色相としては、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、ブルー、グリーン、レッドのインクを形成する色材が好ましく用いられる。
【0093】
本発明に係るインクでは、色材が染料である染料インク、あるいは色材がインクジェットインクを構成する溶媒に不溶で、微細な顔料粒子を含む分散系を形成する顔料インク、あるいは色材が着色した高分子ポリマーの分散体からなる分散インク等の種々のインクジェット用インクに適用できる。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
《インクジェット記録ヘッドの作製》
実施例1:〔インクジェット記録ヘッド1の作製〕
(ヘッドチップの作製)
図1〜図3に記載の構成からなるヘッドチップを下記の方法に従って作製した。
【0096】
PZT(チタン酸ジルコン酸鉛、厚さ700μm、キュリー温度210℃)と、PZT(厚さ150μm、キュリー温度210℃)を、分極方向が反対向きになるように、接着剤を用いて接合した。次いで、厚さ150μmのPZTの表面及び裏面にレジスト層を転写してレジスト層を設けた後、140μmピッチで表面から深さ300μm、幅70μmの溝を長さ30mmにわたり切り、圧力室溝を形成した。次いで、メッキ法により溝の表面に厚さ1μmのニッケル層を形成し、次いで圧力室壁頂上部のレジスト及び裏面のレジストを、レジスト上のニッケルメッキ層と共に剥離した。
【0097】
圧力室頂上部分のレジストを剥がした面にカバープレート(厚さ700μmの脱分極したPZT)を接合し複数のインク流路を有するチップを形成した。このチップ2枚をカバープレートが外側になるように、インク流路が互いに平行になるように接着し、2列の流路列を有するチップを形成した。次いで、流路の方向と直行する方向に沿って2mm間隔で切断し、L=2mmの複数のヘッドチップを形成した。
【0098】
このようにして作製されたチップは、圧電素子からなる駆動壁と流路が交互に並設されている。
【0099】
各流路内の駆動電極に駆動回路から駆動電圧を印加するためのFPC(Flexible printed circuits、フレキシブル基板)配線を接続できるようにするため、各駆動電極をチップの外面に引き出した。すなわち、上記切断面のうち後面にレジストを転写し露光現像によりパターンを形成した後、アルミを蒸着し、レジストを除去することにより引き出し電極を形成した。
【0100】
また、図1〜図3には記載していないが、配線基板は、ヘッドチップの各駆動電極に駆動回路からの駆動電圧を印加する配線を接続するための板状の部材として設けた。この配線基板に用いられる基板は、熱膨張率の差に起因するヘッドチップの歪みの発生を抑えるため、ヘッドチップとの熱膨張係数の差が±1ppm以内となるように材料を選定した。
【0101】
また、配線基板のほぼ中央部に、開口部を貫通形成した。この開口部は、ヘッドチップの全チャネルの入口側を露呈させることができる程度の大きさで形成した。この開口部を設けることにより、ヘッドチップの後面に配線基板を接合した状態で、この開口部を通して、ヘッドチップの全駆動壁、全チャネル及び全駆動電極を覗くことができる。
【0102】
また、配線基板のヘッドチップとの接合面側となる表面に、ヘッドチップの後面に形成された各接続電極と同数及び同ピッチで配線電極が形成され、各配線接続部まで延びている。この配線電極は、FPCが接合される際、FPCに形成されている各配線と電気的に接続し、FPCの配線を介して供給される駆動回路からの駆動電圧を、接続電極を介してチャネル内の駆動電極に印加するための電極として機能する。
【0103】
配線基板は各配線電極がチップの各接続電極と電気的に接続すると共に、開口部がチップの全流路を露呈させるように、位置合わせされ異方性導電性接着剤によりチップの後面に接合した。後で、FPC接合するための電極をマスキングテープで保護し、駆動電極を含む圧力室内面および引き出し電極を含む断面の露呈部にポリパラキシリレンからなる保護膜を形成した。
【0104】
(ノズルプレートの接着)
上記作製したヘッドチップの前面に、下記接着剤Aを5μmの厚さで転写塗布した。次いで、光学顕微鏡で観察しながら、ヘッドチップの接着剤を塗布した面に、ノズルプレート(100μm厚のポリイミドに、直径30μmのノズル孔を形成したもの)を所定の位置に接合した。次いで、室温にて高圧水銀ランプを照射量5000mJ/cmでヘッドチップ後面から照射した後、下記硬化条件1で接着剤Aを硬化させた。
【0105】
(接着剤A)
エピコート807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン製)
10g
UVI6992(光カチオン重合開始剤;ダウ・ケミカル製) 0.4g
3フッ化ホウ素アニリン錯体溶液(40質量%の4−ブチロラクトン溶液) 0.5g
(硬化条件1)
初期の温度が25℃のオーブンにインクジェット記録ヘッドを投入し、オーブンの温度を25℃から毎分1℃の速度で昇温し100℃に達してから一定温度で1時間加熱した後、インクジェットヘッドをオーブンから取り出す。
【0106】
実施例2:〔インクジェット記録ヘッド2の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド1の作製において、硬化条件1で加熱する代わりに、下記硬化条件2で加熱すること以外は同様にしてインクジェット記録ヘッド2を作製した。
【0107】
(硬化条件2)
初期の温度が50℃のオーブンにインクジェット記録ヘッドを投入し、そのままオーブンの温度を50℃に保ち2時間加熱した後、オーブンの温度設定を変え、オーブンの温度が100℃に達してからそのまま1時間加熱した後、インクジェットヘッドをオーブンから取り出す。
【0108】
実施例3:〔インクジェット記録ヘッド3の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド1の作製において、ノズルプレートの接着に用いる接着剤を、接着剤Aに代えて、下記接着剤Bを用いること以外は同様にしてインクジェット記録ヘッド3を作製した。
【0109】
(接着剤B)
エピコート807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン製)
6g
エピコート152(フェノールノボラックエポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン製)
4g
UVI6992(光カチオン重合開始剤;ダウ・ケミカル製) 0.4g
3フッ化ホウ素アニリン錯体溶液(40質量%の4−ブチロラクトン溶液) 0.5g
実施例4:〔インクジェット記録ヘッド4の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド1の作製において、ノズルプレートの接着に用いる接着剤を、接着剤Aに代えて、下記接着剤Bを用い、かつ硬化条件1で加熱することに代えて、硬化条件2で加熱すること以外は同様にしてインクジェット記録ヘッド4を作製した。
【0110】
実施例5:〔インクジェット記録ヘッド5の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド1の作製において、ノズルプレートの接着に用いる接着剤を、接着剤Aに代えて、下記接着剤Cを用いること以外は同様にしてインクジェット記録ヘッド5を作製した。
【0111】
(接着剤C)
エピコート807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン製)
9g
セロキサイド2012(脂環式エポキシ樹脂;ダイセルUCB社製) 1g
UVI6992(光カチオン重合開始剤;ダウ・ケミカル製) 0.4g
3フッ化ホウ素アニリン錯体溶液(40質量%の4−ブチロラクトン溶液) 0.5g
比較例1:〔インクジェット記録ヘッド6の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド1の作製において、ノズルプレートの接着に用いる接着剤を、接着剤Aに代えて、特許文献1の実施例1に記載されている接着剤を用い、かつ硬化条件1で加熱することに代えて、下記硬化条件3で加熱すること以外は同様にして、インクジェット記録ヘッド6を作製した。
【0112】
(硬化条件3)
インクジェット記録ヘッドを100℃のオーブンに投入し、3時間経過後にオーブンから取り出す。
【0113】
比較例2:〔インクジェット記録ヘッド7の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド1の作製において、硬化条件1で加熱する代わりに、硬化条件3で加熱すること以外は同様にしてインクジェット記録ヘッド7を作製した。
【0114】
比較例3:〔インクジェット記録ヘッド8の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド1の作製において、接着剤Aに代えて、下記接着剤Eをヘッドチップの前面に塗布し、ヘッドチップの前面に高圧水銀灯を200mJ/cm照射した後、ノズルプレートを貼り合わせ、硬化条件3で加熱すること以外は同様にして、インクジェット記録ヘッド8を作製した。
【0115】
〈接着剤E〉
エピコート807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン製)
10g
アデカオプトマーSP−170(光カチオン重合開始剤;アデカ製) 0.2g
三フッ化ホウ素アニリン(25質量%のジエチレングリコール溶液) 0.8g
比較例4:〔インクジェット記録ヘッド9の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド1の作製において、ヘッドチップの前面に転写塗布する接着剤として、接着剤Aに代えて、下記接着剤Fを調整したが、この接着剤は粘度の上昇が速く、転写塗布後に接着剤の流動性が無くなり、ノズルプレートを貼合しようとしたが、密着しなかったため、ヘッドチップのインクジェット記録ヘッド9を作製することはできなった。
【0116】
(接着剤F)
エピコート807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン製)
7g
セロキサイド2012(脂環式エポキシ樹脂;ダイセルUCB社製) 3g
UVI6992(光カチオン重合開始剤;ダウ・ケミカル製) 0.4g
3フッ化ホウ素アニリン錯体溶液(40質量%の4−ブチロラクトン溶液) 0.5g
実施例6:〔インクジェット記録ヘッド10の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド1の作製において、上記ノズルプレート(接合部を表面処理なし)の代わりに、接合部に下記表面処理1を行なったノズルプレートを所定の位置に接合すること以外は同様にしてインクジェット記録ヘッド10を作製した。
【0117】
(表面処理1)
プラズマ照射装置 DEM−451(アネルバ製;平行平面型)を用い、酸素圧10Pa下で、200W 13.56MHzを印加し、2分間処理した。
【0118】
実施例7:〔インクジェット記録ヘッド11の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド1の作製において、上記ノズルプレート(接合部を表面処理なし)の代わりに、接合部に下記表面処理2を行なったノズルプレートを所定の位置に接合すること以外は同様にしてインクジェット記録ヘッド11を作製した。
【0119】
(表面処理2)
60℃の6N塩酸に6時間浸漬した後、純水で洗浄し、乾燥した。
【0120】
実施例8:〔インクジェット記録ヘッド12の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド2の作製において、上記ノズルプレート(接合部を表面処理なし)の代わりに、接合部に表面処理1を行なったノズルプレートを所定の位置に接合すること以外は同様にしてインクジェット記録ヘッド10を作製した。
【0121】
実施例9:〔インクジェット記録ヘッド13の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド2の作製において、上記ノズルプレート(接合部を表面処理なし)の代わりに、接合部に表面処理2を行なったノズルプレートを所定の位置に接合すること以外は同様にしてインクジェット記録ヘッド13を作製した。
【0122】
実施例10:〔インクジェット記録ヘッド14の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド5の作製において、上記ノズルプレート(接合部を表面処理なし)の代わりに、接合部に表面処理1を行なったノズルプレートを所定の位置に接合すること以外は同様にしてインクジェット記録ヘッド14を作製した。
【0123】
実施例11:〔インクジェット記録ヘッド15の作製〕
上記インクジェット記録ヘッド5の作製において、上記ノズルプレート(接合部を表面処理なし)の代わりに、接合部に表面処理2を行なったノズルプレートを所定の位置に接合すること以外は同様にしてインクジェット記録ヘッド15を作製した。
【0124】
上記ヘッドの作製に関し、以下の評価基準で評価を行い、結果を表1に記した。
【0125】
《貼合性の評価》
ヘッドチップの前面に接着剤を転写塗布し、ノズルプレートを貼合するときの、密着性を観察する。
【0126】
○:ノズルプレートとチップの前面との間隙に空隙が無く、接着剤が密着している。
【0127】
×:ノズルプレートとチップの前面との間隙に空隙があり、密着しない。
【0128】
《出射性の評価》
上記作製した各インクジェット記録ヘッドについて、酢酸ブトキシエチルとシクロヘキサノンの70:30混合溶液からなるインクを導入し、ヘッドに駆動回路よりパルス信号送ることによりインクを出射して、ノズル間の出射状態を観察した。
【0129】
○:全てのノズルからインクが出射した。
【0130】
×:接着剤が流れ込んで出射しないノズルがある。
【0131】
《接着力の耐久性評価》
ヘッドにシクロヘキサノン(SP値:20.3)又はアニソール(SP値:19.4)からなるインクを充填し、保管中に蒸発してヘッド内のインクが無くならないように、インクインレットに栓をし、ノズル面をキャップして、60℃のオーブンに1ヶ月間入れ保管した。ヘッドをオーブンから取り出して、各インクジェット記録ヘッドのノズルプレートの端部をピンセットで挟んで引っ張った。ノズルプレートが剥がれなかったヘッドは更に2ヶ月間(合計3ヶ月)、同じインクを充填し同様に保管した後、ピンセットで引っ張り試験を行った。
【0132】
○:3ヶ月保管してもピンセットが滑ってノズルプレートが剥がれなかった。
【0133】
△:1ヶ月保管しても剥がれなかったが、3ヶ月保管したら剥がれた。
【0134】
×:1ヶ月の保管で剥がれた。
【0135】
【表1】

【0136】
表1に記載の結果より明らかなように、本発明の接着剤と硬化条件とをインクジェットヘッドのノズルプレートの接着に用いることにより、ノズルプレートの貼合性に優れ、接着剤の流れ込みによる出射不良が無く、溶剤インクを長期間使用しても接着の耐久性に優れていることが分かる。また、ノズルプレートを接着する前に、ノズルプレート部材の接合部の表面をプラズマ照射すること又は酸処理することにより、更に接着力の耐久性を向上できることが分かる。
【符号の説明】
【0137】
1 ヘッドチップ
1A、1B 側壁面
11 流路部材
12 圧力室
14 接続電極
2 ノズルプレート
21 ノズル
3 配線基板
31 配線接続部
32 開口部
33 配線電極
36a、36b ダミー電極
35 接合領域
M 金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、光カチオン重合開始剤および熱カチオン重合開始剤を含有する接着剤により、複数の部材を貼り合わせる工程、接着剤のはみ出した部分に光を照射する工程の後に加熱工程を有するインクジェットヘッドの製造方法において、前記エポキシ樹脂の80〜100質量%が芳香族エポキシ化合物であり、加熱工程が40℃〜150℃の温度範囲において昇温する工程を有することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程が1分間に0.1℃〜2℃の昇温速度で昇温する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程が2段階以上の等温過程を組み合わせて昇温することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記熱カチオン重合開始剤が下記一般式(I)で表される錯体化合物を含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【化1】

Rは水素原子またはアルキル基を表す。
、R、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基またはハロゲン原子を表す。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂がノボラックエポキシ樹脂を、1〜50質量%含有することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記部材は、少なくとも接合部をプラズマ照射したものであることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記部材は、少なくとも接合部を酸により処理したものであることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−253707(P2010−253707A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103644(P2009−103644)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】