説明

インクジェットヘッドユニット

【課題】カバーとインクジェットヘッド及びその近傍とをシーリングした弾性接着剤をコーティング剤で覆うことでインクの付着による膨潤を防止し、カバーの剥離を防止する。
【解決手段】駆動回路、配線パターン及びインクジェットヘッド3の一部を樹脂材からなるカバー7で保護する。そして、カバーの左右、後方の側面端部をベース板に接着固定し、前方をインクジェットヘッドの側面及び上面に接着固定する。このとき、カバーとベース板及びインクジェットヘッドとの接触部全体をシーリングするように弾性接着剤9を厚めに塗布する。そして、弾性接着剤の上に耐インク性に優れたコーティング剤10を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドユニットは、例えば、ベース板の上に、インクジェットヘッド、このヘッドの駆動回路、ヘッドと駆動回路を接続する配線パターンを配置し、駆動回路や配線パターンを導電性のあるインク等の液体や固形物から保護するためにカバーを使用している。このカバーはベース板とインクジェットヘッドの上に接着して配置されるが、ベース板やインクジェットヘッドは一般にセラミック材で構成されるのに対し、カバーは樹脂材からなるため、両者の線膨張係数が大きい。このため、カバーの接着を硬度が高い接着剤を使用して行うと、熱応力に対して接着が弱いと言う問題がある。
【0003】
そこで、線膨張係数が大きく異なる両者を、弾性接着剤を使用して接着することで熱応力に対し強くする技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−1181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インクジェットヘッドユニットにおいては、ヘッドから吐出するインクの一部がミスト状になって周囲に漂い、ヘッド及びその周囲に付着するという現象が生じ、長時間の使用においては弾性接着剤がインクの付着によって膨潤(インクが接着剤内にしみ込んで膨らんだ状態になること)し、その結果、接着力が弱まってカバーが剥離するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、カバーとインクジェットヘッド及びその近傍とをシーリングした弾性接着剤がインクの付着によって膨潤するのを防止できるインクジェットヘッドユニットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ベース板と、このベース板の上に配置されるインクジェットヘッドと、ベース板の上に配置され、インクジェットヘッドを駆動する駆動回路と、インクジェットヘッドの一部及び駆動回路を覆うカバーと、カバーをベース板とインクジェットヘッドの上に接着するとともにその接着部周囲をシーリングする弾性接着剤と、少なくともカバーとインクジェットヘッド及びその近傍とをシーリングした弾性接着剤の上にこの接着剤を覆うように塗布されるコーティング剤とを具備したインクジェットヘッドユニットにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、カバーとインクジェットヘッド及びその近傍とをシーリングした弾性接着剤をコーティング剤で覆うことにより、弾性接着剤がインクの付着によって膨潤するのを防止でき、膨潤によるカバーの剥離を防止できるインクジェットヘッドユニットを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1はインクジェットヘッドユニットの外観を示す斜視図、図2はその分解斜視図である。
【0009】
前記インクジェットヘッドユニット1は、インク滴を吐出する多数のノズル2を配列したインクジェットヘッド3を備えている。前記インクジェットヘッド3はセラミック材からなり、同じくセラミック材からなるベース板4上の一端側にエポキシ系接着剤等によって接着固定されている。
【0010】
前記ベース板4の上には、また、前記インクジェットヘッドユニット1を駆動する駆動回路5を接着固定している。そして、前記インクジェットヘッド3と駆動回路5を配線パターン6によって電気的に接続している。前記インクジェットヘッド3の天部にはインク供給口3aが設けられ、このインク供給口3aからヘッド内部の共通インク室にインクが供給されるようになっている。そして、各ノズル2からのインク滴の吐出動作に応じて共通インク室から各ノズル2に連通するインク室へインク補充が行われるようになっている。
【0011】
前記駆動回路5と配線パターン6及び前記インクジェットヘッド3の一部を樹脂材からなるカバー7で覆い保護している。前記カバー7は前記インクジェットヘッド3を覆う部位の上面に、接着剤がカバー上面に広がるのを防止する凸部8を形成している。
【0012】
前記カバー7はその左右、後方の側面端部を前記ベース板4に接着固定し、その前方を前記インクジェットヘッド3の側面及び上面に接着固定するが、外部からインクが侵入しないようにシーリングする必要がある。また、前記インクジェットヘッド3及びベース板4はセラミック材からなり、カバー7は樹脂材からなり、両者の線膨張係数が1桁以上異なる。
【0013】
これに対処するために、接着剤としてシリコン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂などからなる弾性接着剤9を使用して、図3に示すように、前記カバー7とベース板4及びインクジェットヘッド3との接触部全体をシーリングするように厚めに塗布している。前記弾性接着剤9としては、ここでは、例えば、紫外線硬化形のUV弾性接着剤を使用している。なお、図3の(b)は(a)を左側面から見た側面図であり、(c)は(a)を上から見た平面図である。
【0014】
インクとして、例えば、主成分が不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エステル、ウレタン、アミド、無水物アクリロニトリル、スチレン、ラジカル重合性化合物などからなるUVインクや、また、例えば、主成分がアルコール類、エステル類、グリコール類、グリコールアセテート系有機溶剤などからなる溶剤インクを使用した場合、前記弾性接着剤9はインクに対する耐性が低いという問題がある。
【0015】
そこで、この弾性接着剤9の上に耐インク性に優れた、例えば、エポキシ系樹脂からなるコーティング剤10を塗布する。すなわち、弾性接着剤9の全面にわたってコーティング剤10を数十〜数百μmの厚みに塗布する。
【0016】
このような構成にすることで、前記カバー7とベース板4及びインクジェットヘッド3との接触部の接着は弾性接着剤9で行われ、かつ、シーリングは弾性接着剤9とコーティング剤10の2層構造で行われることになる。
【0017】
表1は、UV弾性接着剤単体、コーティング剤単体及びUV弾性接着剤とこの接着剤の上にコーティング剤を塗布した2層構造で接着した部材それぞれについて、UVインク及び溶剤インクに対する耐インク性の試験を行った結果を示したものである。ここでは、UV弾性接着剤として、3523<ヘンケルジャパン製>を使用し、コーティング剤として、PZ820(主剤):HZ820(硬化剤)=3:1(重量混合比)<ナガセケムテックス製エポキシ樹脂>を使用している。
【0018】
耐インク性の試験では、各部材を、例えば、65℃のインクに1週間(1W)浸漬し、その後に接着部が膨潤している(NG)か、膨潤していない(OK)かを調べることで行った。
【表1】

【0019】
この試験結果から、接着部がUV弾性接着剤単体からなる部材は、UVインクに対しても溶剤インクに対しても接着部において膨潤が生じ、耐インク性に弱いことが分かった。これに対し、接着部がコーティング剤単体からなる部材や、接着部がUV弾性接着剤とこの接着剤の上にコーティング剤を塗布した2層構造にした部材は、UVインクに対しても溶剤インクに対しても接着部において膨潤が生じることは無く、耐インク性に優れることが分かった。
【0020】
表2は、シーリングのヒートサイクル試験の結果を示すもので、UV弾性接着剤単体、コーティング剤単体及びUV弾性接着剤とこの接着剤の上にコーティング剤を塗布した2層構造で接着した部材それぞれについて、−10℃と60℃の環境のもとでそれぞれ交互に2時間ずつ5回繰り返しさらした後に、接着部に剥離がある(NG)か、剥離が無い(OK)か、検査してシール性の良否を確認した結果を示している。
【表2】

【0021】
この試験結果から、接着部がコーティング剤単体からなる部材は剥離が見られシール性が弱いことが分かった。これに対し、接着部がUV弾性接着剤単体からなる部材や、接着部がUV弾性接着剤とこの接着剤の上にコーティング剤を塗布した2層構造からなる部材は、剥離が無くシール性に優れることが分かった。
【0022】
以上の耐インク性とシール性の両試験結果から、カバー7とベース板4及びインクジェットヘッド3との接触部については、UV弾性接着剤9で接着し、その上にコーティング剤10を塗布して2層構造にすることで、耐インク性にもシール性にも優れた構造になることが分かった。すなわち、コーティング剤10を塗布することでUV弾性接着剤9がインクの付着によって膨潤するのを防止でき、膨潤によるカバー7の剥離を防止できる。
【0023】
なお、この実施の形態では、UV弾性接着剤9に対するコーティング剤10の塗布を全面に行う物について述べたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、インクジェットヘッド3から吐出するインクがミスト状になって付着しやすい、少なくともカバー7とインクジェットヘッド3との接着部及びその近傍のカバー7とベース板4との接着部におけるUV弾性接着剤9上に、吐出するインクに対して耐インク性を有するコーティング剤10を塗布すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係る、インクジェットヘッドユニットの外観を示す斜視図。
【図2】同インクジェットヘッドユニットの分解斜視図。
【図3】同実施の形態におけるカバーとインクジェットヘッド及びベース板とのシーリング構成を示す図。
【符号の説明】
【0025】
1…インクジェットヘッドユニット、3…インクジェットヘッド、4…ベース板、5…駆動回路、7…カバー、9…UV弾性接着剤、10…コーディング剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース板と、
このベース板の上に配置されるインクジェットヘッドと、
前記ベース板の上に配置され、前記インクジェットヘッドを駆動する駆動回路と、
前記インクジェットヘッドの一部及び駆動回路を覆うカバーと、
前記カバーを前記ベース板とインクジェットヘッドの上に接着するとともにその接着部周囲をシーリングする弾性接着剤と、
少なくとも前記カバーとインクジェットヘッド及びその近傍とをシーリングした前記弾性接着剤の上にこの接着剤を覆うように塗布されるコーティング剤と、
を具備したことを特徴とするインクジェットヘッドユニット。
【請求項2】
前記弾性接着剤としてUV弾性接着剤を使用し、前記コーティング剤としてエポキシ系樹脂コーティング剤を使用したことを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドユニット。
【請求項3】
前記コーティング剤は、吐出するインクに対して、膨潤しない耐インク特性を有することを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−216632(P2007−216632A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42581(P2006−42581)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】