説明

インクジェットヘッド及び記録装置

【課題】駆動周波数を高くすることが可能なインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】ヘッド6は、加圧室31側から順に積層された、振動板37、共通電極39、圧電体41及び個別電極43を有する。圧電体41は、個別電極本体44が重なる駆動部41aと、その外周の非駆動部41bとを有する。駆動部41aは厚み方向に分極されており、非駆動部41bは駆動部41aに比較して厚み方向への分極がなされていない。駆動信号出力部8は、非駆動部41bが、駆動部41aと同様の分極が施された状態から引張り応力が加えられることによりドメインスイッチング及びこれに伴う形状変化が生じたものであると仮定したときに、その形状変化が生じる前の状態の吐出素子19における最高駆動周波数fcよりも高い周波数で、共通電極39と個別電極43との間に電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド及び記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子の変形を利用して、インクに圧力を付与してインク滴を吐出するピエゾ式のインクジェットヘッドが知られている(例えば特許文献1)。インク滴の吐出は所定の駆動周波数で連続的に行われる。例えば、印画面における1ドット(網点)が、複数のインク滴が印画面の同一位置に着弾することにより形成される場合、その複数のインク滴の吐出は、一定の吐出間隔で行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−123397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
印刷の高速化の観点から、吐出間隔を短くすること、すなわち、駆動周波数を高くすることが望まれている。しかし、駆動周波数を高くすると、一の吐出のためのインクの圧力変動の残留分が次の吐出のためのインクの圧力変動に影響を及ぼすことから、1回の吐出によって形成されるインク滴の液滴量が変化する。その結果、安定したインク滴の吐出ができなくなり、画質が低下する。
【0005】
本発明の目的は、駆動周波数を高くすることが可能なインクジェットヘッド及び記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るインクジェットヘッドは、インク滴を吐出する吐出素子と、前記吐出素子に電圧を印加する駆動信号出力部と、を有し、前記吐出素子は、所定面に形成された凹部により加圧室が構成された基体と、前記加圧室を塞ぐように前記所定面に重ねられた振動板と、前記振動板に重ねられた共通電極と、前記共通電極に重ねられた圧電体と、前記圧電体に重ねられ、平面視において前記加圧室上に個別電極本体を有する個別電極と、を有し、前記圧電体は、前記個別電極本体が重なる駆動部と、その外周の非駆動部とを有し、前記駆動部は厚み方向に分極されており、前記非駆動部は前記駆動部に比較して厚み方向への分極がなされておらず、前記駆動信号出力部は、前記非駆動部が、前記駆動部と同様の分極が施された状態であると仮定したときの前記吐出素子における最高駆動周波数よりも高い周波数で、前記共通電極と前記個別電極との間に電圧を印加する。
【0007】
好適には、前記非駆動部は、前記駆動部へ向かう方向に沿った方向に分極されている分域の割合が大きい。
【0008】
好適には、前記振動板の材料は、前記圧電体の材料よりも弾性率が低い。
【0009】
好適には、前記振動板は、前記圧電体を構成する圧電材料よりも抗電界が小さい圧電材料により構成されている。
【0010】
好適には、前記非駆動部の材料は、前記駆動部の材料よりも弾性率が高い。
【0011】
好適には、前記非駆動部は、前記駆動部を構成する圧電材料と同様の圧電材料に対して、当該圧電材料の弾性率を高くさせるドーパントが混入された材料により形成されている。
【0012】
本発明の一態様のインクジェットヘッドは、所定面に形成された凹部により加圧室が構成された基体と、前記加圧室を塞ぐように前記所定面に重ねられた振動板と、前記振動板に重ねられた共通電極と、前記共通電極に重ねられた圧電体と、前記圧電体に重ねられ、平面視において前記加圧室上に個別電極本体を有する個別電極と、を有し、前記圧電体は、前記個別電極本体が重なる駆動部と、その外周の非駆動部とを有し、前記非駆動部の材料は、前記駆動部の材料よりも弾性率が高い。
【0013】
本発明の一態様の記録装置は、インク滴を吐出する吐出素子と、前記吐出素子に電圧を印加する駆動信号出力部と、を有し、前記吐出素子は、所定面に形成された凹部により加圧室が構成された基体と、前記加圧室を塞ぐように前記所定面に重ねられた振動板と、前記振動板に重ねられた共通電極と、前記共通電極に重ねられた圧電体と、前記圧電体に重ねられ、平面視において前記加圧室上に個別電極本体を有する個別電極と、を有し、前記圧電体は、前記個別電極本体が重なる駆動部と、その外周の非駆動部とを有し、前記駆動部は厚み方向に分極されており、前記非駆動部は前記駆動部に比較して厚み方向への分極がなされておらず、前記駆動信号出力部は、前記非駆動部が、前記駆動部と同様の分極が施された状態から引張り応力が加えられることによりドメインスイッチング及びこれに伴う形状変化が生じたものであると仮定したときに、その形状変化が生じる前の状態の前記吐出素子における最高駆動周波数よりも高い周波数で、前記共通電極と前記個別電極との間に電圧を印加する。
【0014】
好適には、所定面に形成された凹部により加圧室が構成された基体と、前記加圧室を塞ぐように前記所定面に重ねられた振動板と、前記振動板に重ねられた共通電極と、前記共通電極に重ねられた圧電体と、前記圧電体に重ねられ、平面視において前記加圧室の個別電極本体を有する個別電極と、を有するインクジェットヘッドの製造方法であって、前記圧電体の前記個別電極と重なる駆動部対して厚み方向に直流電圧を印加して厚み方向に分極する工程と、厚み方向に分極がなされた前記圧電体を挟む前記共通電極と前記個別電極との間に、前記圧電体の抗電界を超える強さの電界を形成する交流電圧を前記圧電体の分極方向に印加する工程と、を有する。
【0015】
好適には、前記交流電圧の印加を常温よりも高い温度下で行う。
【発明の効果】
【0016】
上記の構成によれば、駆動周波数を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る記録装置の要部を模式的に示す斜視図。
【図2】図1の記録装置のインクジェットヘッドの一部の断面図。
【図3】図3(a)及び図3(b)は図2のヘッドのアクチュエータを示す断面図及び平面図。
【図4】図4(a)及び図4(b)は実施形態及び比較例のアクチュエータの詳細を説明する模式図。
【図5】図5(a)及び図5(b)は図1の記録装置における駆動信号を説明する図。
【図6】最高駆動周波数の規定方法の一例を説明する図。
【図7】図7(a)〜図7(d)アクチュエータの製造方法の一例を説明する断面図。
【図8】図7(d)の配向処理において圧電体に印加される電圧の一例を示す図。
【図9】図9(a)及び図9(b)は実施例のALを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る記録装置1の要部を模式的に示す斜視図である。
【0019】
なお、記録装置1及び後述するインクジェットヘッド5は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に、直交座標系xyzを定義するとともに、z方向の正側(図1の紙面上方)を上方として、上面、下面等の用語を用いることがあるものとする。
【0020】
記録装置1は、例えば、メディア(例えば紙)101を矢印y1で示す方向へ搬送する搬送部3と、搬送されているメディア101に向けてインク滴を吐出するヘッド5と、搬送部3及びヘッド5の動作を制御する制御部7とを有している。
【0021】
搬送部3は、例えば、不図示の供給スタックに積層された複数のメディア101を一ずつ不図示の排出スタックへ搬送する。搬送部3は、公知の適宜な構成とされてよい。図1では、搬送経路がストレートパスとされ、メディア101に当接するローラ9と、ローラ9を回転させるモータ11とが設けられた搬送部が例示されている。
【0022】
ヘッド5は、メディア101の搬送経路の途中に配置されており、z方向の正側からメディア101に対向する。ヘッド5は、メディア101の印画面及び搬送方向に直交する方向(主走査方向、x方向)にシャトル運動を行うシリアルヘッドであってもよいし、当該直交する方向に(ほぼ)固定されたラインヘッドであってもよい。なお、本実施形態においては、ヘッド5がラインヘッドである場合を例に挙げて説明するものとする。
【0023】
ヘッド5は、x方向の複数位置においてインク滴をメディア101に吐出、付着させる。当該動作が、メディア101の搬送に伴って繰り返し行なわれることにより、メディア101には2次元画像が形成される。
【0024】
制御部7は、例えば、CPU、ROM、RAM及び外部記憶装置を含んで構成されている。制御部7は、モータ用ドライバ13に制御信号を出力することにより、所望の電圧をモータ11に印加して、モータ11を制御する。同様に、制御部7は、ヘッド用ドライバ15に制御信号を出力することにより、所望の電圧をヘッド5に印加して、ヘッド5を制御する。
【0025】
ヘッド用ドライバ15、又は、ヘッド用ドライバ15及び制御部7の一部は、所定の駆動周波数の駆動パルス(駆動波形)を含む駆動信号(ヘッド5に印加される電圧)を生成してヘッド5に出力する駆動信号出力部8を構成している。駆動信号出力部8は、例えば、ドライバICや回路基板により構成されている。
【0026】
なお、図1では、駆動信号出力部8とヘッド5とを互いに別個のものとして図示している。ただし、駆動信号出力部8は、その一部又は全部がヘッド5に搭載されてもよい。この場合において、ヘッド5と駆動信号出力部8のヘッド5に搭載された部分(一部又は全部)との全体が、広義のヘッド6を構成していると捉えられてもよい。
【0027】
図2は、ヘッド5の一部を拡大して示す模式的な断面図である。なお、図2の紙面下方がメディア101に対向する側である。
【0028】
ヘッド5は、圧電素子の機械的歪によりインクに圧力を付与するピエゾ式のヘッドである。ヘッド5は、インク滴を吐出する複数の吐出素子19を有し、図2は一の吐出素子19を示している。複数の吐出素子19は、例えば、xy平面において配列されており、各吐出素子19は、メディア101上の1ドットに対応している。
【0029】
また、別の観点では、ヘッド5は、インクを貯留する空間を形成する基体21と、基体21に貯留されているインクに圧力を付与するためのアクチュエータ23とを有している。複数の吐出素子19は、基体21及びアクチュエータ23により構成されている。
【0030】
基体21の内部には、複数の個別流路25(図2では1つを図示)と、当該複数の個別流路25に通じる共通流路(リザーバ)27とが形成されている。個別流路25は、吐出素子19毎に設けられ、共通流路27は、複数の吐出素子19に共通に設けられている。
【0031】
各個別流路25は、メディア101に対向する吐出孔29aを含むディセンダ(部分流路)29と、ディセンダ29に通じる加圧室31と、加圧室31と共通流路27とを連通する供給路33とを有している。
【0032】
複数の個別流路25及び共通流路27にはインクが満たされている。複数の加圧室31の容積が変化してインクに圧力が付与されることにより、複数の加圧室31から複数のディセンダ29へインクが送出され、複数の吐出孔29aからは複数のインク滴が吐出される。また、複数の加圧室31へは複数の供給路33を介して共通流路27からインクが補充される。
【0033】
複数の個別流路25及び共通流路27の断面形状若しくは平面形状は、適宜に設定されてよい。本実施形態では、加圧室31は、z方向において一定の厚みに形成されるとともに、平面視において概ね菱形(図3参照)に形成されている。菱形の一の角部はディセンダ29と連通され、その反対側の角部は供給路33と連通されている。供給路33の一部は、流れ方向に直交する断面積が共通流路27および加圧室31よりも小さいしぼりとされている。
【0034】
基体21は、例えば、複数の基板35が積層されることにより構成されている。基板35には、複数の個別流路25及び共通流路27を構成する貫通孔が形成されている。複数の基板35の厚み及び積層数は、複数の個別流路25及び共通流路27の形状等に応じて適宜に設定されてよい。複数の基板35は、適宜な材料により形成されてよく、例えば、金属、セラミック若しくはシリコンにより形成されている。
【0035】
図3(a)は、アクチュエータ23付近の図2とは別の方向の断面図であり、図3(b)はアクチュエータ23付近の平面図である。
【0036】
図2及び図3に示すアクチュエータ23は、例えば、撓みモードで変位する、ユニモルフ型の圧電素子により構成されている。具体的には、例えば、アクチュエータ23は、加圧室31側から順に積層された、振動板37、共通電極39、圧電体41及び複数の個別電極43を有している。
【0037】
振動板37、共通電極39及び圧電体41は、例えば、複数の加圧室31を覆うように複数の加圧室31に共通に設けられている。一方、個別電極43は、加圧室31毎に設けられている。
【0038】
振動板37は、基体21の上面に重ねられることにより、基体21の上面に形成された凹部によって構成された加圧室31を塞いでいる。個別電極43は、概ね、加圧室31と相似形(本実施形態では菱形)で、加圧室31の広さよりも若干小さい(加圧室31の中央側にて広がる)個別電極本体44と、その個別電極本体44の角部に接続された引出電極45とを含んでいる。
【0039】
振動板37、共通電極39、圧電体41及び個別電極43は、適宜な材料により形成されてよい。例えば、振動板37は、セラミック、酸化シリコン若しくは窒化シリコンにより形成されている。共通電極39及び個別電極43は、例えば、白金若しくはパラジウムにより形成されている。圧電体41は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等のセラミックにより形成されている。
【0040】
圧電体41は、少なくとも個別電極本体44と重なる領域において厚み方向(z方向)を分極方向とされている。従って、共通電極39及び個別電極43に電圧を印加して、圧電体41に対して分極方向に電界を作用させると、圧電体41は面内(xy平面内)で収縮する。この収縮により振動板37は、加圧室31側に凸となるように撓み、その結果、加圧室31の容積は変化する。
【0041】
図4(a)は、アクチュエータ23の詳細を説明する、図3(a)と同様の断面を示す模式図である。また、図4(b)は、比較例のアクチュエータ123の図4(a)に相当する図である。
【0042】
図4(a)において、圧電体41は、個別電極本体44に重なる駆動部41aと、その外周の非駆動部41bとを有している。なお、非駆動部41bの外縁は、適宜に定義されてよいが、本実施形態の説明では、加圧室31の縁部と重なる位置を非駆動部41bの外縁とする。
【0043】
駆動部41aは、矢印y3によって示すように、厚み方向(z方向)に分極されている。なお、分極方向の向きは、z方向の正側及び負側のいずれでもよいが、図4(a)では分極方向の向きがz方向の負側である場合を例示している。
【0044】
一方、非駆動部41bは、駆動部41aに比較すると、厚み方向への分極がなされていない。例えば、非駆動部41bにおいては、駆動部41aに比較すると、厚み方向を分極方向とする分域の割合が小さく、xy平面に沿う方向を分極方向とする分域の割合が大きい。より好ましくは、非駆動部41bは、駆動部41aに向かう方向に沿った方向に分極された分域の割合が多くなっている。ただし、この場合において、分域の方向は、駆動部41aに向かう方向に揃った分域が多くなるが、分極の向きは揃っていなくてもよい。すなわち、駆動部41aに向かっている分極の分域とその反対向きの分極の分域とは、どちらか一方が多くてもよいし、ほぼ同量であって平均すれば分極されてない状態であってもよい。
【0045】
また、非駆動部41bは、矢印y5によって示すように、内周側から外周側への長さが、xy平面に平行な方向における個別電極本体44と加圧室31の縁部との距離よりも長くなっている。一方、非駆動部41bの外縁の位置は基体21等によって固定されている。その結果、矢印y7で示すように、非駆動部41bから駆動部41aに対して圧縮応力が付与され、また、駆動部41aは、若干、加圧室31側に位置している。
【0046】
駆動部41aは、非駆動部41bから圧縮応力が付与されることによって、圧縮応力が付与されていない場合に比較して、弾性率が高くなったと同様の性質を示す。例えば、駆動部41aは、圧縮応力が付与されていない場合に比較して、共振周波数が高くなる。
【0047】
非駆動部41bは、駆動部41aを構成する圧電材料と同様の圧電材料に対して、弾性率を高くするようなドーパント42が分散された材料によって構成されている。すなわち、非駆動部41bの圧電材料の弾性率(ヤング率E2)は、駆動部41aの圧電材料の弾性率(ヤング率E1)よりも高くなっている。
【0048】
このような弾性率を高くするドーパント42(アクセプタ)としては、例えば、圧電材料がPZTであれば、Bサイトの主成分の元素よりもイオン価の価数が小さい元素が挙げられる。例えば、Bサイトの主成分がZrであれば、ドーパント42としてはAl若しくはMnが挙げられる。
【0049】
振動板37は、圧電体41(駆動部41a)を構成する材料よりも弾性率(ヤング率E3)が小さい材料により構成されている。ここで、圧電材料においては、組成が概ね同様であれば、抗電界Ecが小さい材料ほど弾性率が低い傾向にある。従って、振動板37は、例えば、駆動部41aを構成する圧電材料の抗電界Ec1よりも強度の低い抗電界Ec3の圧電材料により形成されている。
【0050】
なお、図4(b)に示す比較例の圧電体141は、その全体(駆動部141a及び非駆動部141bを含む)に亘って厚み方向に分極されている。また、非駆動部141bは、内周側から外周側への長さが、xy平面に平行な方向における個別電極本体44と加圧室31の縁部との距離と同等であり、非駆動部41bから駆動部41aに対して圧縮応力は付与されておらず(若しくは図4(a)に比較して小さく)、圧電体41は、(図4(a)に比較して)平坦である(駆動部41aは加圧室31側に位置していない。)。非駆動部141bにドーパント42は分散されておらず、振動板137は、圧電体41と同一の組成であり、駆動部141a、非駆動部141b及び振動板137の弾性率は互いに同一である。
【0051】
図5(a)及び図5(b)は、駆動信号出力部8からヘッド5に出力される駆動信号Sdを説明する図である。
【0052】
駆動信号Sdは、例えば、基準電位に対する電位の変動を信号レベルとする信号である。また、共通電極39には基準電位が付与されている。そして、駆動信号Sdが個別電極43に入力されることにより、共通電極39と個別電極43との間には電圧が印加される。
【0053】
具体的には、図5(a)は、1回の吐出における駆動信号Sdの波形及び吐出孔29aにおけるインクのメニスカスの変位qの変化(点線Ln)を示し、図5(b)は、複数回の吐出における駆動信号Sdの波形を示している。図5(a)及び図5(b)において横軸は時間を示し、図5(a)において縦軸は電圧V及び変位q(インクジェットヘッド5の外部に向かう方向を正とする)を示し、図5(b)において縦軸は電圧Vを示している。
【0054】
吐出素子19の駆動方式は、いわゆる引き打ち式、押し打ち式等の公知の駆動方式から適宜に選択されてよいが、図5では、引き打ち式を例にとって説明する。
【0055】
図5(a)に示すように、引き打ち式においては、吐出が行われない待機状態(時点t0〜t1)において、駆動信号Sdの信号レベルは、駆動部41aに対して分極方向に電圧を印加する電位V1に維持される。従って、駆動部41aは、xy平面内において収縮し、アクチュエータ23は、加圧室31側へ突出する方向へ撓んでいる。すなわち、加圧室31は、容積が縮小した状態である。
【0056】
吐出タイミングが到来すると(時点t1)、駆動信号出力部8は、一時的に電圧印加を停止するための駆動パルスPsを個別電極43に出力する(駆動信号Sdに含ませる)。これにより、駆動部41aの縮小は解除され、ひいては、アクチュエータ23の撓みも解除される。すなわち、加圧室31は、容積が拡大する。そして、加圧室31の容積の拡大に伴って、ディセンダ29及び供給路33のインクは加圧室31に引き込まれる(メニスカスは負側へ変位する。)。
【0057】
この際生じる吐出孔29aから加圧室31に向かう圧力波がしぼりで反射される前後のタイミングで、パルスの立ち上がり(時点t2)に対応して、加圧室31の容積は縮小し、反射された圧力波と容積の収縮により発生した圧力波が重なるようにして吐出孔29aに向かうインクが加圧室31から送出される(メニスカスは正側へ変位する)。これにより、インク滴が吐出孔29aから吐出される(時点t4付近)。
【0058】
その後、加圧室31等においては、インクの圧力は、固有周波数(共振周波数)で変動しつつ、徐々に減衰していく。換言すれば、加圧室31等においては、固有周波数で振動する圧力変動が残留し、メニスカスは、アンダーシュート(時点t6付近等)やオーバーシュート(時点t8付近等)を生じる。
【0059】
圧力波が吐出孔29aからしぼり(正確にはしぼりの加圧室31側の端)まで伝わる時間であるAL(Acoustic Length)は、吐出孔29aからしぼりでのインクの固有振動周期の半分である。吐出素子19におけるインクの固有振動周期は、吐出孔29aからしぼりまでの流路の中のインク自体の固有振動(流路の中のインクと同一形状のインクの固有振動)と、加圧室31の直上の変位素子(振動板37、共通電極29、圧電体41および個別電極本体44)の固有振動とが合成された振動の周期になる。したがって、流路の形状が変わらず、流路の中のインク自体の固有振動周期が変わらなくても、変位素子の固有振動周期が変われば、インクの固有振動周期は変わり、ALも変わることになる。変位素子がALに与える影響は、変位素子の変位の方式により様々であるが、本実施形態のような、撓み振動をする変位素子は変形しやすいために、ALへの寄与が大きいので、その影響を考慮する必要がある。なお、駆動パルスPsの幅は、例えば、引き打ち式においてはAL程度である。
【0060】
図5(b)に示すように、駆動パルスPsは、一定の駆動周期Ta(一定の駆動周波数f)で連続して吐出素子19に入力される。これによって、例えば、印画面上において1ドット(網点)を形成するときに複数のインク滴が吐出される。なお、その複数のインク滴の数が増減されることによって階調が表現される。
【0061】
図6は、駆動パルスPsの最高駆動周波数の規定方法の一例を説明する図である。図6(a)において、横軸は、駆動周波数f(1/Ta)を示し、縦軸は、所定数(ただし、2以上)のインク滴を駆動周波数fで吐出するときの、その所定数のインク滴全体のインク量Dを示している。
【0062】
実線Lpは、本実施形態におけるインク量Dを示し、点線Lcは、図4(b)に示した比較例のインク量Dを示している。なお、駆動周期Taを十分に大きくしたとき(駆動周波数fを十分に低くしたとき)等のインク量Dは、実施形態と比較例とで互いに同一であると仮定した。
【0063】
実線Lpに関して、駆動周波数fが所定の駆動周波数fpよりも低いときは、インク量Dは一定となっている。一方、駆動周波数fが所定の駆動周波数fpを超えると、インク量Dは駆動周波数fの変化に応じて変動する。これは、駆動周波数fが高くなると、駆動周期Taが短くなり、一の駆動パルスPsによる圧力波が、次の駆動パルスPsによる圧力波に影響を及ぼすためである。
【0064】
従って、例えば、インク滴の数とインク量とが比例するような安定したインクの吐出を実現するためには、駆動周波数fp(駆動周波数fの、インク量Dが一定に維持される範囲の最高値)を最高駆動周波数と規定し、その最高駆動周波数fp以下の範囲で、実際の駆動周波数fが設定されることが好ましい。
【0065】
以下、より具体的な例について説明する。引き打ちで1滴を吐出させるための駆動パルスの長さはAL程度になる。また、n滴の液滴を連続して吐出させ(メディア上の近接する場所に着弾させて1ドットを形成す)る際には、2回目以降の駆動パルスは、インクの固有振動に合わせて送られるために2AL毎に送られるので、駆動波形全体の長さは、(2n−1)AL程度になる。さらに、1ドット形成する駆動波形を送り終わった後、インクの1固有振動周期(2AL)程度の間は、インクの残留振動が大きいので、次の駆動波形を送っても、残留振動の影響で吐出特性が安定しないと考えられる。したがって、引き打ちでは、1ドットを形成する駆動波形にインクを吐出する駆動パルスがn個ある場合、駆動周波数は、周期が(2n+1)ALより大きくなるように設定されるのが好ましく、最高駆動周波数は1/(2n+1)ALとするのが良い。
【0066】
より一般的な場合も同様に、インクの吐出動作を行なう駆動信号を送った後、1固有振動周期(2AL)程度の間は、インクの残留振動が大きく、次の駆動信号を送っても、次の吐出が安定しないと考えられる。したがって、最高駆動周波数は1/(最長の駆動信号+2AL)とするのが良い。
【0067】
点線Lcで示す比較例においても同様に、駆動周波数fの、インク量Dが一定となる範囲の最高値である駆動周波数fcを最高駆動周波数と規定し、その最高駆動周波数fc以下の範囲で、実際の駆動周波数fが設定されることが好ましい。
【0068】
ここで、本実施形態のアクチュエータ23においては、図4を参照して説明したように、駆動部41aに非駆動部41bから圧縮応力が付与されることにより、弾性率が実質的に高くなる。従って、実施形態では、比較例に比較して、コンプライアンスが小さくなり、ALが短くなる。その結果、実施形態では、駆動周期Taを短くすることができる。すなわち、実施形態の最高駆動周波数fpは、比較例の最高駆動周波数fcよりも高い。
【0069】
そして、実施形態の記録装置1(ヘッド6)では、比較例の最高駆動周波数fcを超える周波数を実際の駆動周波数として設定することができる。なお、後述するように、本実施形態の記録装置1では、現時点の最高駆動周波数fpよりも高い駆動周波数fqを実際の駆動周波数とすることもできる。
【0070】
また、最高駆動周波数は、流路の各寸法、使用するインクの粘度、振動板37および圧電体41の物性を、特に圧電体41については分極状態を含めて使用したシミュレーションにより求めることもできる。
【0071】
図7(a)〜図7(d)は、アクチュエータ23の製造方法の一例を説明する断面図である。ただし、説明の便宜上、圧電体41の断面のハッチングは省略することがある。また、製造工程の進行に伴って具体的な組成等は変化するが、その変化の前後で同一の符号を用いるものとする。
【0072】
まず、圧電体41となるグリーンシート、及び、振動板37となるグリーンシートを準備する。これらグリーンシート(例えば圧電体41となるグリーンシート)に共通電極39及び個別電極43となる導電ペーストを印刷し、これらグリーンシートを積層して焼成する。これにより、図7(a)に示すように、振動板37、共通電極39、圧電体41及び個別電極43の積層体が形成される。
【0073】
次に、図7(b)に示すように、イオン注入法等によって、非駆動部41bとなる圧電材料にドーパント42を分散させる。なお、イオン注入法において、個別電極43はマスクとして機能するが、個別電極43とは別に、レジストマスクを形成してもよい。また、ドーパント42は、圧電体41の、非駆動部41bよりも外側部分(平面視において加圧室31の外側となる部分)において分散されてもよいし、されなくてもよい。
【0074】
次に、図7(c)に示すように、直流電源53によって、個別電極43と共通電極39との間に電圧を加えて、駆動部41aに対して分極処理を行う。この分極処理によって、矢印y3よって示される、厚み方向を分極方向とする分極がなされる。分極は、圧電体41の全体に対して行なってもよい。その場合、まず、圧電体41の、駆動部41a及び非駆動部41bを含む略全面に対して導電ペーストを塗布して乾燥させることなどにより、分極用電極を形成する。そして、直流電源53によって分極用電極と共通電極39との間に直流電圧を印加する。この分極処理では、駆動部41a及び非駆動部41bの双方において、厚み方向を分極方向とする分極がなされる。その後、分極用電極51は、有機溶剤中における超音波洗浄などにより除去される。
【0075】
次に、図7(d)に示すように、交流電源55によって、個別電極43と共通電極39との間に交流電圧を印加する。この電圧印加は、例えば、常温(室温)よりも高い温度下で行われる。
【0076】
なお、図7(c)に示すような直流電圧による分極処理は、一般に常温下で行われる(本実施形態においては常温以上で行われてもよい。)。日本工業規格においては、常温は、5−35℃と規定されている。図7(d)の配向処理は、例えば、40℃以上の温度下で行われ、好ましくは、45℃以上、圧電体41のキュリー温度以下である。なお、圧電体41がPZTであれば100℃程度の温度下で行われてもよい。
【0077】
図8は、図7(d)の配向処理において共通電極39と個別電極43とに印加される電圧の一例を示す図である。横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示している。
【0078】
共通電極39及び個別電極43には、分極方向と同一の方向に電圧が印加される。すなわち、駆動部41aをxy平面内において縮小させる電圧(典型的な駆動信号出力部8が駆動部41aに印加する電圧と同様の方向の電圧。本実施形態では正の電圧)が印加される。
【0079】
交流電圧の最大値は、圧電体41(駆動部41a)の抗電界Ecを超える強さの電界を形成する電圧Vonとされる。電圧が降下したときの電圧Voffは、例えば、基準電位(0V)とされる。すなわち、圧電体41は、抗電界を超える強さの電界の印加と、その解除とが繰り返される。なお、電圧Voffは、0Vでなくてもよい。
【0080】
圧電体41に抗電界を超える強さの電界が印加される時間Tonは、例えば、その解除がなされる時間Toffよりも長く設定される。
【0081】
このように、駆動部41aをxy平面内において縮小させる電界が駆動部41aに印加されると、非駆動部41bは、駆動部41aから引張り力を受ける。そして、そのような引張り力を繰り返し受けると、非駆動部41bにおいてはドメインスイッチングが生じ、分極方向が駆動部41aに向かう方向に配向されている分域の割合が増えていく。これにより、非駆動部41bでは、駆動部41aと比較して、圧電体41の厚み方向以外を分極方向とする分域の割合が増加する。また、非駆動部41bは、引き延ばされた状態に変形する。
【0082】
なお、分極方向が駆動部41aに向かう方向に配向されている分域の割合は、圧電体41の表面において、分極の状態測定できる走査型顕微鏡を用いて、駆動部41aに向かう方向に配向されている分域と、駆動部41aに向かう方向に直交する方向に配向されている分域とを、駆動部41aに向かう方向に対して45度の角度を境界に分けて、駆動部41aに向かう方向に配向されている分域の面積が全体に占める割合を測定すれば得られる。
【0083】
また、そのような電界の印加が、抗電界Ecを超える強さで行われたり、高温下で行われたり、及び/又は、時間Tonを時間Toffよりも長く設定して行われたりすることにより、ドメインスイッチングが迅速に生じる。
【0084】
実施形態の製造過程のうち、駆動部41aのみを分極するものにおいては、非駆動部41bの分域がランダムに分極されている状態と比較して、非駆動部41bが引き延ばされた状態が生じている。また、実施形態の製造過程のうち、一旦圧電体41の全体を分極するものにおいては、図4(b)に示した比較例のように、非駆動部41bにおいても駆動部41aと同様に厚み方向に分極がなされ、非駆動部41bが引き延ばされた状態が生じている(図7(c))。このことから理解されるように、図6を参照して説明した、実施形態の最高駆動周波数fpが比較例の最高駆動周波数fcよりも高いという事項は、非駆動部41bが、ドメインスイッチング及びこれに伴う形状変化が生じたものであると仮定したときに、その形状変化が生じる前の状態の吐出素子19における最高駆動周波数fcよりも最高駆動周波数fpが高いと言い換えることができる。
【0085】
また、ヘッド5の出荷後のヘッド5の駆動は、図7(d)の配向処理と同様に、非駆動部41bを引き延ばす作用を奏することが考えられ、非駆動部41bが引き延ばされた後において、図6において示した、出荷時点の最高駆動周波数fpよりも高い駆動周波数fqを最高駆動周波数とすることも可能である。
【0086】
なお、一般的なヘッドにおいて、出荷後のヘッドの駆動によって非駆動部41bのドメインスイッチングが発生し始めるには、相当の回数でヘッドを駆動する必要がある。また、一般に、ヘッドは、そのようなドメインスイッチングが発生し、吐出特性に影響が出始めるまでの期間が使用期間として設定されている。そして、駆動周波数は、ドメインスイッチングが発生する前の状態を基準として設定されている。すなわち、一般的なヘッドにおいて、駆動周波数は、図6において示した比較例の最高駆動周波数fc以下とされている。
【0087】
以上の実施形態によれば、ヘッド6は、インク滴を吐出する吐出素子19と、吐出素子19に電圧を印加する駆動信号出力部8とを有している。吐出素子19は、上面に形成された凹部により加圧室31が構成された基体21と、加圧室31を塞ぐように基体21の上面に重ねられた振動板37と、振動板37に重ねられた共通電極39と、共通電極39に重ねられた圧電体41と、圧電体41に重ねられ、平面視において加圧室31の中央側にて広がる個別電極本体44を有する個別電極43とを有する。圧電体41は、個別電極本体44が重なる駆動部41aと、その外周の非駆動部41bとを有する。
【0088】
そして、駆動部41aは厚み方向に分極されており、非駆動部41bは駆動部41aに比較して厚み方向への分極がなされていない。駆動信号出力部8は、非駆動部41bが、駆動部41aと同様の分極が施された状態から引張り応力が加えられることによりドメインスイッチング及びこれに伴う形状変化が生じたものであると仮定したときに、その形状変化が生じる前の状態の吐出素子19における最高駆動周波数fcよりも高い周波数で、共通電極39と個別電極43との間に電圧を印加する。
【0089】
従って、非駆動部41bにおいてドメインスイッチングが発生していない状態を使用可能状態とするヘッドに比較して、高い駆動周波数でインクを吐出することができる。その結果、印刷の高速化の要望等に応えることができる。また、ドメインスイッチングが発生した状態を使用可能状態としていることから、ドメインスイッチングの発生はヘッド5の使用期間終了を意味せず、使用期間の長期化も期待される。
【0090】
駆動信号出力部8は、現時点の吐出素子19における最高駆動周波数fpよりも高い周波数fqで、共通電極39と個別電極43との間に電圧を印加してもよい。
【0091】
この場合、ヘッド5の使用に伴うALの短縮に応じて、更に高い駆動周波数でインクを吐出することができる。また、ヘッド5の特性によっては、駆動周波数を出荷時点の最高駆動周波数fp以下とした場合よりも、長い期間に亘ってALに対応した高い駆動周波数が維持されることが期待される。
【0092】
振動板37の材料は、圧電体41の材料よりも弾性率が低い。従って、非駆動部41bが振動板37から受ける反力が大きくなることが抑制され、非駆動部41bから駆動部41aに効率的に圧縮力を付与することができる。その結果、ALの短縮、これに伴う駆動周波数の上昇の効果が増大する。
【0093】
振動板37は、圧電体41を構成する圧電材料よりも抗電界が小さい圧電材料により構成されている。従って、振動板37と圧電体41とを概ね同様の組成としつつ、弾性率の低い振動板37を実現することができ、製造工程の容易化やコスト削減が期待される。
【0094】
非駆動部41bの材料は、駆動部41aの材料よりも弾性率が高い。従って、駆動部41a及び非駆動部41b全体としての弾性率が高くなるとともに、非駆動部41bの引き延ばしにより駆動部41aに付与される圧縮応力も大きくなり、ALの短縮、これに伴う駆動周波数の上昇の効果が増大する。
【0095】
非駆動部41bは、駆動部41aを構成する圧電材料と同様の圧電材料に対して、当該圧電材料の弾性率を高くさせるドーパント42が混入された材料により形成されている。従って、簡便に、駆動部41aよりも弾性率が高い非駆動部41bが実現される。
【0096】
<実施例>
(実施例1〜3)
振動板37を構成する圧電材料が互いに異なる実施例1〜3を設定し、ALを試算した。
【0097】
具体的には、実施例1〜3の圧電体41及び振動板37の圧電材料として、その組成がABOで表わされるPZTを想定した。このPZTに対して具体的な組成の内容が異なる組成1〜3を設定し、実施例1〜3の圧電体41及び振動板37について、以下の組み合わせを想定した。
圧電体 振動板
実施例1 組成1 組成1
実施例2 組成1 組成2
実施例3 組成1 組成3
【0098】
組成1〜3の具体的内容は、以下のとおりである。
組成1(実施例1の振動板、実施例1〜3の圧電体):
Aサイト:Pb0.92Ba0.08
Bサイト:(Zn1/3Sb2/30.105Zr0.435Ti0.460
添加物:Pb1/2NbO(0.3wt%)、Bi(0.2wt%)
組成2(実施例2の振動板):
Aサイト:Pb0.92Ba0.08
Bサイト:(Zn1/3Sb2/30.105Zr0.465Ti0.430
添加物:Pb1/2NbO(0.3wt%)、Bi(0.2wt%)
組成3(実施例3の振動板):
Aサイト:Pb0.88Ba0.08 Bサイト:
(Zn1/3Sb2/30.18(Co1/3Sb2/30.02(Zr0.500Ti0.5000.800
添加物:Pb1/2NbO(0.3wt%)、Bi(1.0wt%)
【0099】
なお、Aサイト及びBサイトの組成は、それらの組成に含まれる原子が、主に該当するサイトに位置することを表しており、すべての原子が該当するサイトに位置することを表しているわけではない。
【0100】
実施例1〜3における振動板37の特性及びAL等の試算結果は以下のとおりである。
Ec Er d31 AL
実施例1 1.5 3200 250 7.0
実施例2 1.0 3800 300 5.2
実施例3 0.8 5760 330 4.8
【0101】
上記において、Ecは振動板37の抗電界(V/μm)を示し、Erは振動板37の誘電率を示し、d31はアクチュエータ23の変位(pm/V)を示している。ALの単位はμsである。
【0102】
実施例1は、振動板37の抗電界Ecが圧電体41の抗電界Ecと同等のものであり、実施例2及び3は、振動板37の抗電界Ecが圧電体41の抗電界Ecよりも小さいものとなっている。そして、実施例2及び3は、実施例1よりもALが短くなっている。従って、この試算例によって、振動板37の材料を圧電体41よりも抗電界Ecが小さい圧電材料とすることによって、ALを短くし、ひいては、駆動周波数を高くすることができることが確認された。
【0103】
(実施例1、5及び6)
上述した実施例1のヘッド5において、非駆動部41bにイオン注入を行った実施例5及び6を設定し、ALを試算した。
【0104】
具体的には、圧電体41(非駆動部41b)について、以下の組み合わせを想定した。
圧電体
実施例1 組成1
実施例5 組成1+Alのイオン注入
実施例6 組成1+Mnのイオン注入
なお、実施例5及び6における振動板37の圧電材料は、実施例1と同様に、組成1のものである。
【0105】
実施例1、5及び6における圧電体41(非駆動部41b)の特性及びAL等の試算結果は以下のとおりである。なお、Ec、Er、d31及びALの意味及び単位等は、実施例1〜3と同様である。
Ec Er d31 AL
実施例1 1.5 3200 250 7.0
実施例5 2.0 2800 230 4.8
実施例6 2.3 2500 200 4.0
【0106】
この試算例から、イオン注入によって、ALを短くし、ひいては、駆動周波数を高くすることができることが確認された。
【0107】
(実施例7〜9)
図7(d)及び図8を参照して説明した交流電圧の印加時間が互いに異なる実施例7〜9を設定し、アクチュエータ23の共振周波数及びALの実験値を得た。具体的には、実施例7〜9における交流電圧の印加時間を0.5時間、1時間、5時間に設定した。
【0108】
図9(a)は、実施例7〜9のALを示す図である。横軸は、アクチュエータ23の共振周波数fr(kHz)を示し、縦軸はAL(μs)を示している。点P7〜P9は、実施例7〜実施例9の共振周波数fr及びALを示している。実線L1は、点P7〜P9の近似直線を示している。
【0109】
この実験結果から、交流電圧の印加時間を長くしていくと、共振周波数が高くなり、ALが短縮されていくことが確認された。
【0110】
(実施例10〜12)
実施例7〜9よりも、交流電圧の印加時間を長くした実施例10〜12について、共振周波数やAL等を試算した。具体的には、実施例10〜12における交流電圧の印加時間を24時間、45時間、100時間に設定した。
【0111】
図9(b)は、図9(a)と同様の図である。点P7〜P9は、図9(a)と同様に実施例7〜9の共振周波数fr及びALを示し、点P10〜P12は、実施例10〜12の共振周波数fr及びALを示している。実線L3は、点P7〜P12の近似直線を示している。
【0112】
実線L3で示される近似直線は、実験値をプロットした点P7〜P9及び推定値をプロットした点P10〜P12に適合しており、実施例10〜12の共振周波数fr及びALの推定値の妥当性を示している。
【0113】
そして、図9(b)の点P10〜P12により、交流電圧の印加時間を十分に長くすることにより、かなりの高周波駆動が期待されるアクチュエータ23が得られることが確認された。
【0114】
以下に、実施例7〜12の各種のパラメータの実験値及び推定値を示す。
Tm fr AL fp
実施例7 0.5 498 7.1 25
実施例8 1 550 7.0 28
実施例9 5 602 6.8 30
実施例10 24 740 6.4 37
実施例11 45 816 6.2 41
実施例12 100 925 5.9 45
【0115】
なお、Tmは、交流電圧の印加時間(h)を示し、frは共振周波数(kHz)を示し、fpは最高駆動周波数(図6参照、kHz)を示している。ALの単位はμsである。
【0116】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0117】
駆動周波数は、常に一定である必要はなく、例えば、画像の内容に応じて変化されてもよい。また、駆動周波数は、常に最高駆動周波数fc(非駆動部が、駆動部と同様の分極が施された状態から引張り応力が加えられることによりドメインスイッチング及びこれに伴う形状変化が生じたものであると仮定したときに、その形状変化が生じる前の状態の吐出素子における最高駆動周波数)よりも高い周波数である必要はない。画像の内容に応じて、若しくは、その他の適宜な事情に応じて、一時的に最高駆動周波数fcよりも高い駆動周波数で駆動されるヘッドも、本発明に含まれる。
【0118】
振動板の材料は、その弾性率が圧電体の材料の弾性率と同等以上であってもよいし、非駆動部の材料は、その弾性率が駆動部の材料の弾性率と同等以下であってもよい。
【0119】
図7に示した製造方法は一例に過ぎず、適宜に変更されてよい。例えば、圧電体、共通電極及び振動板の積層体を焼結した後に、個別電極となる導電ペーストを印刷して熱処理してもよいし、非駆動部にドーパントを分散させるイオン注入を個別電極の配置前に行ってもよい。
【符号の説明】
【0120】
1…記録装置、5…ヘッド(駆動信号出力部含まない)、6…ヘッド(駆動信号出力部含む)、8…駆動信号出力部、19…吐出素子、21…基体、37…振動板、39…共通電極、41…圧電体、41a…駆動部、41b…非駆動部、43…個別電極、44…個別電極本体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク滴を吐出する吐出素子と、
前記吐出素子に電圧を印加する駆動信号出力部と、
を有し、
前記吐出素子は、
所定面に形成された凹部により加圧室が構成された基体と、
前記加圧室を塞ぐように前記所定面に重ねられた振動板と、
前記振動板に重ねられた共通電極と、
前記共通電極に重ねられた圧電体と、
前記圧電体に重ねられ、平面視において前記加圧室上に個別電極本体を有する個別電極と、を有し、
前記圧電体は、前記個別電極本体が重なる駆動部と、その外周の非駆動部とを有し、
前記駆動部は厚み方向に分極されており、
前記非駆動部は前記駆動部に比較して厚み方向への分極がなされておらず、
前記駆動信号出力部は、前記非駆動部が、前記駆動部と同様の分極が施された状態であると仮定したときの前記吐出素子における最高駆動周波数よりも高い周波数で、前記共通電極と前記個別電極との間に電圧を印加する
インクジェットヘッド。
【請求項2】
前記非駆動部は、前記駆動部へ向かう方向に沿った方向に分極されている分域の割合が大きい
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記振動板の材料は、前記圧電体の材料よりも弾性率が低い
請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記振動板は、前記圧電体を構成する圧電材料よりも抗電界が小さい圧電材料により構成されている
請求項3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記非駆動部の材料は、前記駆動部の材料よりも弾性率が高い
請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記非駆動部は、前記駆動部を構成する圧電材料と同様の圧電材料に対して、当該圧電材料の弾性率を高くさせるドーパントが混入された材料により形成されている
請求項5に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
所定面に形成された凹部により加圧室が構成された基体と、
前記加圧室を塞ぐように前記所定面に重ねられた振動板と、
前記振動板に重ねられた共通電極と、
前記共通電極に重ねられた圧電体と、
前記圧電体に重ねられ、平面視において前記加圧室上に個別電極本体を有する個別電極と、を有し、
前記圧電体は、前記個別電極本体が重なる駆動部と、その外周の非駆動部とを有し、
前記非駆動部の材料は、前記駆動部の材料よりも弾性率が高い
インクジェットヘッド。
【請求項8】
インク滴を吐出する吐出素子と、
前記吐出素子に電圧を印加する駆動信号出力部と、
を有し、
前記吐出素子は、
所定面に形成された凹部により加圧室が構成された基体と、
前記加圧室を塞ぐように前記所定面に重ねられた振動板と、
前記振動板に重ねられた共通電極と、
前記共通電極に重ねられた圧電体と、
前記圧電体に重ねられ、平面視において前記加圧室上に個別電極本体を有する個別電極と、を有し、
前記圧電体は、前記個別電極本体が重なる駆動部と、その外周の非駆動部とを有し、
前記駆動部は厚み方向に分極されており、
前記非駆動部は前記駆動部に比較して厚み方向への分極がなされておらず、
前記駆動信号出力部は、前記非駆動部が、前記駆動部と同様の分極が施された状態であると仮定したときの前記吐出素子における最高駆動周波数よりも高い周波数で、前記共通電極と前記個別電極との間に電圧を印加する
記録装置。
【請求項9】
所定面に形成された凹部により加圧室が構成された基体と、前記加圧室を塞ぐように前記所定面に重ねられた振動板と、前記振動板に重ねられた共通電極と、前記共通電極に重ねられた圧電体と、前記圧電体に重ねられ、平面視において前記加圧室上に個別電極本体を有する個別電極と、を有するインクジェットヘッドの製造方法であって、
前記圧電体の前記個別電極と重なる駆動部対して厚み方向に直流電圧を印加して厚み方向に分極する工程と、
厚み方向に分極がなされた前記圧電体を挟む前記共通電極と前記個別電極との間に、前記圧電体の抗電界を超える強さの電界を形成する交流電圧を前記圧電体の分極方向に印加する工程と、
を有するインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記交流電圧の印加を常温よりも高い温度下で行う
請求項9に記載のインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−196905(P2012−196905A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62891(P2011−62891)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】