インクジェットヘッド駆動方法並びに駆動装置及びインクジェット記録装置
【課題】1印刷周期に占める休止期間を短くし、印刷速度の向上を図る。
【解決手段】複数の圧力室を2個置きの3組に分割し、組毎に位相を、例えば位相A、位相B、位相Cと変化させてインク滴を吐出させる吐出パルスをA1(位相A)→B1(位相B)→C1(位相C)→A2(位相A)→…の順に出力する。そして、これを全階調分のインク滴を吐出させるタイミングが終了するまで、すなわち、吐出パルスC7を出力させるタイミングまで繰り返し行い、その後所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了して次の周期の印刷に移行する。次の周期では位相Cから開始させる。また、位相Bの階調が小さく吐出パルスがB1、B2、B3であってもこれらは位相Aの吐出パルスA1、A2、A3の次に出力される。そして、位相Cの吐出パルスC4〜C7の出力タイミングは位相Bの吐出パルスB4〜B7があった場合と同じタイミングとなる。
【解決手段】複数の圧力室を2個置きの3組に分割し、組毎に位相を、例えば位相A、位相B、位相Cと変化させてインク滴を吐出させる吐出パルスをA1(位相A)→B1(位相B)→C1(位相C)→A2(位相A)→…の順に出力する。そして、これを全階調分のインク滴を吐出させるタイミングが終了するまで、すなわち、吐出パルスC7を出力させるタイミングまで繰り返し行い、その後所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了して次の周期の印刷に移行する。次の周期では位相Cから開始させる。また、位相Bの階調が小さく吐出パルスがB1、B2、B3であってもこれらは位相Aの吐出パルスA1、A2、A3の次に出力される。そして、位相Cの吐出パルスC4〜C7の出力タイミングは位相Bの吐出パルスB4〜B7があった場合と同じタイミングとなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動パルスにより変形して圧力室に圧力変化を与えるアクチュエータを隣接する圧力室間で共有する構成としたインクジェットヘッドの駆動方法並びに駆動装置及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクを充填する複数の圧力室を、2枚の圧電部材を接着固定した後切削加工して形成し、各圧力室を形成する圧電部材をアクチュエータとし、このアクチュエータに駆動パルス電圧を選択的に印加して変形させ、これにより圧力室を変形させて圧力変化を起こし、ノズルからインクを吐出させる剪断モード型のインクジェットヘッドを使用して、ノズルから階調に応じて1または複数のインク滴を吐出させる制御を行う、いわゆる、マルチドロップ方式のインクジェットヘッドの駆動方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このインクジェットヘッドの駆動方法で使用される剪断モード型のインクジェットヘッドは、圧力室の変形が隣接する圧力室に影響する為、2つ置きに3つの組に分け、各組においては階調に応じたインク滴の吐出動作を連続して行い、1組目の圧力室からのインク滴の吐出動作が終了すると所定の休止期間を設けた後、2組目の圧力室からのインク滴の吐出動作行い、このインク滴の吐出動作が終了すると所定の休止期間を設けた後、3組目の圧力室からのインク滴の吐出動作行い、このインク滴の吐出動作が終了すると所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了し、次の1ドットラインを印刷する為の動作を開始するという制御を行っている。
【特許文献1】特開2000−15803(段落「0022」〜「0024」、「0032」、図3、図5等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インク滴の吐出動作を終了した後に設けた所定の休止期間は、次のインク吐出動作の開始におけるインクメニスカスの位置を適正な位置に復帰させる為に必要なものである。例えば、ある組の圧力室のインク吐出動作を行っているとき、隣接する他の組の圧力室にも圧力振動が発生する。このためこの隣接した圧力室のノズル内におけるインクメニスカスが振動する。この振動は、図11に示すように、ノズル内のメニスカスを徐々にインク吐出方向に前進させ、図12に示すようにメニスカスをノズル開口面より盛り上げる現象を引き起こす。この盛り上がりはメニスカスの振動回数に応じて累積する。
【0005】
このように隣接した圧力室のノズルのメニスカスが盛り上がった状態で、この隣接した圧力室の吐出動作が開始されると、この圧力室のノズルから吐出するインク滴の吐出速度が大幅に低下してしまい、インク滴の着弾位置が大きくずれて印字品質が損なわれるという問題が生じる。特に、この圧力室からのインク滴の吐出動作が1回しか行われない場合には吐出速度が顕著に低下する。
【0006】
このような問題が生じるのを避ける為に、各組の吐出動作の終わりに休止期間を設け、この休止期間によって隣接した圧力室のノズルにおけるメニスカスの盛り上がりをインクの表面張力の力によって自然に復帰させるようにしている。しかし、休止期間としては比較的長い時間を要するので、3分割駆動において各組毎に休止期間を設けたのでは、1ドットラインを印刷する1印刷周期が長くなるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、1ドットラインを印刷する1印刷周期に占める休止期間を短くし、これにより印刷速度の向上を図ることができるインクジェットヘッド駆動方法並びに駆動装置及びインクジェット記録装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、インク滴を吐出させるノズルを有し、内部にインクを充填する圧力室を複数個並べるとともに駆動パルスにより変形して圧力室に圧力変化を与えるアクチュエータを隣接する圧力室間で共有する構成としたインクジェットヘッドに対し、各圧力室をn個置きの(n+1)組に分割し、組毎に駆動する位相を変えるとともに同一組内の各圧力室については選択的に駆動し、2階調以上の画素については圧力室のノズルから複数のインク滴を吐出させるインクジェットヘッド駆動方法において、インク滴を吐出させるタイミング毎に駆動する位相を変え、これを各組の圧力室について全階調分のインク滴を吐出させるタイミングが終了するまで繰り返し行い、その後所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了して次のドットラインの印刷に移行し、この1印刷周期の各タイミングにおいて圧力室のノズルからインク滴を吐出するときには駆動信号を該当するアクチュエータに印加し、かつ、各組において各階調のインク滴を吐出させるタイミングは常に全階調のインク滴を吐出させるときの各階調のインク滴を吐出させるタイミングと一致させることにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1ドットラインを印刷する1印刷周期に占める休止期間を短くし、これにより印刷速度の向上を図ることができるインクジェットヘッド駆動方法並びに駆動装置及びインクジェット記録装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
この実施の形態はインクジェットヘッドの駆動について述べる。
【0011】
図1及び図2はインクジェットヘッドの構成を示す断面図で、低誘電率の基板1の先端部に、分極方向が互いに板厚方向に対して内側に向かって反対になるように貼り合わせた圧電部材2、3を埋め込んでいる。なお、前記基板1は、圧電部材2、3に比べて誘電率の低い材料であれば良いが、ここでは圧電部材2、3の膨張係数との差が大きくならないよう考慮して、低誘電率の未分極の圧電セラミックを用いている。
【0012】
そして、圧電部材2、3及びその後方にある基板1の部分を、例えば、ダイヤモンドカッタなどにより切削加工し、一定の間隔で平行に複数の長溝を形成している。前記基板1の上に、天板枠4とインク供給口を有する天板蓋5を接着することによってインク供給路6を形成している。前記各長溝と天板枠4とで複数の圧力室7を形成し、前記各圧電部材2、3を、圧力室7を変形駆動するアクチュエータとしている。
【0013】
前記各圧力室7の先端に所定の大きさのインク滴を吐出するためのノズル8を形成したノズルプレート9を接着剤で接着固定している。圧力室7を形成する長溝の側面と底面には個々に電気的に独立した電極10を無電界メッキにより形成している。前記電極10は圧力室7の後端から基板1の上面に延出して駆動回路(図示せず)に接続している。なお、電極10の形成は、無電界メッキに限らず、スパッタリングや真空蒸着などで電極材を成膜後、エッチングにより所定のパターンにする方法で形成してもよい。
【0014】
次にこのインクジェットヘッドの動作原理について説明する。
駆動信号により、図2において、電極10a−10b間及び電極10a−10c間の電圧が変化すると、圧電部材2、3からなるアクチュエータは逆圧電効果により変形し、圧力室7aの容積が変化して内部のインクに圧力振動が発生する。この振動を利用して圧力室7a内の圧力を高め、ノズル8a内のインクを吐出する。また逆に、インク圧力が振動しているときに駆動信号により適切なタイミングで圧力室7aの容積を変化させれば、インクの圧力振動を消去することができる。
【0015】
アクチュエータは隣接する圧力室7b、7cと共有しているので、圧力室7a、7b、7c内の圧力振動を個別に制御することはできない。したがって、分割駆動する必要が有る。ここでは2つ置きに3つの組に分けて3分割駆動するようにしている。すなわち、圧力室7aがインク吐出動作を行う時は、圧力室7b、7cはインク吐出動作を行うことはない。また、圧力室7bがインク吐出動作を行う時は、圧力室7c、7aはインク吐出動作を行うことはない。さらに、圧力室7cがインク吐出動作を行う時は、圧力室7a、7bはインク吐出動作を行うことはない。
【0016】
このような構成のインクジェットヘッドを駆動する駆動回路は図3に示す構成になっている。すなわち、インクジェットヘッド11をドライバ12で駆動し、このドライバ12を画像メモリ13に格納されているイメージデータに基づいて制御回路14が制御するようになっている。
【0017】
前記制御回路14は、マイクロコンピュータを搭載し、図4に示すように、インク滴を吐出させるタイミング毎に駆動する位相を変え、これを各組の圧力室について全階調分のインク滴を吐出させるタイミングが終了するまで繰り返し行い、その後所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了して次のドットラインの印刷に移行する制御を行うタイミング制御手段15と、このタイミング制御手段が制御する1印刷周期の各タイミングにおいて圧力室のノズルからインク滴を吐出するときには駆動信号を該当するアクチュエータに印加し、かつ、各組において各階調のインク滴を吐出させるタイミングを常に全階調のインク滴を吐出させるときの各階調のインク滴を吐出させるタイミングと一致するように制御するインク滴吐出制御手段16とを備えている。
【0018】
次に、前記インク滴吐出制御手段16が出力する駆動信号の構成について説明する。
図5及び図6はそれぞれ駆動信号の一例である。駆動信号は、3つの組の圧力室7a、7b、7cにそれぞれ対応した位相A、位相B、位相Cの駆動信号からなる。位相A、B、Cはそれぞれインク吐出タイミングが異なる。
【0019】
位相A,位相B,位相Cの駆動信号は、それぞれ圧力室7aの電極10a、圧力室7の電極10b、圧力室7cの電極10cに印加され、圧力室7a,7b,7cを駆動してノズル8a,8b,8cからインク滴を吐出させる。すなわち、駆動信号は、各位相において吐出パルスPを出力する動作可能期間t1とそれに続く吐出パルスPを出力しない動作不能期間t2とで1階調分のインク滴を吐出させるタイミングを形成し、最大これを7回繰り返し出力することで8階調画素印刷のためにインク滴を吐出させるタイミングを形成している。
【0020】
図5は、各位相A,B,Cにおいてそれぞれ8階調画素印刷のためにインク滴を吐出させるときの駆動信号のタイミングを示している。位相Aの駆動信号は、吐出パルスA1、A2、A3、A4、A5、A6、A7からなり、各信号間に動作不能期間t2を設定している。位相Bの駆動信号は、吐出パルスB1、B2、B3、B4、B5、B6、B7からなり、各信号間に動作不能期間t2を設定している。位相Cの駆動信号は、吐出パルスC1、C2、C3、C4、C5、C6、C7からなり、各信号間に動作不能期間t2を設定している。
【0021】
各位相A,B,Cの駆動信号の出力タイミングは、印字周期iにおいては、位相Aの吐出パルスA1が先ず出力し、動作可能期間t1経過後に位相Bの吐出パルスB1が出力し、動作可能期間t1経過後に位相Cの吐出パルスC1が出力し、動作可能期間t1経過後に位相Aの吐出パルスA2が出力し、動作可能期間t1経過後に位相Bの吐出パルスB2が出力する、というように各位相の吐出パルスが順番に出力し、最後に位相Cの吐出パルスC7が出力すると、所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了するようにしている。このときの吐出パルスの出力タイミングや休止期間の設定は前記タイミング制御手段15が行う。
【0022】
ある位相の動作可能期間においては他の位相では吐出パルスを出力させることはない。また、動作不能期間t2は他の2つの位相において吐出パルスを出力する期間となり、動作可能期間t1の略2倍の長さとなる。また、所定の休止期間においてはいずれの位相においても吐出パルスを出力させることはない。この休止期間は、ノズル8内のインクのメニスカスが略ノズル開口面の位置に安定できる期間以上に設定されている。
【0023】
図6は位相A、Cにおいてそれぞれ8階調画素印刷のためにインク滴を吐出させ、位相Bにおいて4階調画素印刷のためにインク滴を吐出させるときの駆動信号のタイミングを示している。この場合、位相Bにおける吐出パルスB1、B2、B3の出力するタイミングは図5の場合と同様である。また、位相Cにおいては吐出パルスC4から吐出パルスC7を出力する場合に直前に位相Bにおける吐出パルスの出力は行われないが、そのタイミングは位相Bにおける吐出パルスの出力が行われたときと全く同一である。すなわち、図5のときと同じタイミングになる。従って、1ドットラインを印刷する1印刷周期が終了するタイミングは各位相A、B、Cにおける最大階調に従うことになる。
【0024】
位相A、位相B、位相C間における吐出パルスの出力タイミングの順序は、印刷周期毎に変えることが望ましい。すなわち、図5に示すように、印刷周期iでは、駆動信号の各吐出パルスの出力タイミングは位相A、位相B、位相Cの順に行っているが、次の印字周期i+1では、駆動信号の各吐出パルスの出力タイミングは位相C、位相A、位相Bの順に変化させている。この位相の切替え制御も前記タイミング制御手段15が行う。
【0025】
このような切替えを行うのは、各位相間の時間差によってインクの吐出体積が若干異なる場合があるためである。各位相における吐出パルスの出力タイミングの順番が固定されると、各位相間の時間差による吐出体積の差が周期的に生ずるので、このような出力タイミングで画素印刷を繰り返すと、印刷媒体上で筋状の濃淡ムラとして視認されやすくなる。
【0026】
これに対し、印刷周期毎に各位相における吐出パルスの出力タイミングの順番を切り替えれば、濃淡ムラが筋状にならないので視認されにくくなり、印字品質が向上する。
なお、印字周期毎の順番の決定には、乱数、あるいは乱数に準じた順番がでたらめな数列を用いることが望ましい。もし、規則性のある順番の決め方を行うと、濃淡ムラが模様状になって現れる可能性がある。
なお、ここでは、1つの動作可能期間においては1液滴のみの吐出を行うようにしたが、例えば、1つの動作可能期間において2液滴ずつ吐出させることも可能である。
【0027】
前記吐出パルスPは、図7に示すように、拡張パルスP1と、収縮パルスP2から成り立っている。拡張パルスP1は圧力室7の容積を拡張させ、収縮パルスP2は圧力室7の容積を収縮させる。拡張パルスP1によってインクがノズル8から吐出し、収縮パルスP2によってインクの吐出動作により発生した圧力振動が消去される。
【0028】
拡張パルスP1の幅は1ALに設定されている。拡張パルスP1の中心と収縮パルスP2の中心との時間間隔は2ALに設定されている。収縮パルスP2のパルス幅Wは、吐出パルスPの出力が終了した後の圧力室7内におけるインクの残留圧力振動が最も小さくなるように調整されている。ここでは、0.4ALに設定されている。
【0029】
なお、ALは、圧力室7及びノズル8内のインクの主音響共振周波数、あるいはヘルムホルツ周波数の周期の1/2である。ALは、インクの物性とインクジェットヘッドの構造との組み合わせによって決まる固有の時間である。ALは、実験で測定することが可能であり、例えば市販のインピーダンスアナライザを用いてアクチュエータのインピーダンスを測定することにより求めることができる。
また、吐出パルスPの形態は図7の形態に限らず様々な形態の駆動波形を用いることができるが、残留圧力振動が極力小さくなる駆動波形を用いることが望ましい。
【0030】
次に、図5の駆動信号によるインクジェットヘッドの動作について説明する。
前の印刷周期i−1において休止時間により、ノズル8内のインクのメニスカスが略ノズル開口面の位置に安定した後、今回の印刷周期iの吐出動作が開始される。
【0031】
印刷周期iでは吐出パルスがA1(位相A)→B1(位相B)→C1(位相C)→A2(位相A)→…の順に出力され、それに応じてノズル8a→8b→8c→8a→…の順にインクが吐出される。各ノズル8内のインクのメニスカスは、隣接圧力室の駆動に伴うメニスカス振動によりノズル面から盛り上がろうとするが、インク吐出動作によって盛り上がった分のインクが排除されるので、吐出動作が継続している間はメニスカスの盛り上がりが累積することはなく、メニスカスの盛り上がりによるインク吐出速度の大幅な低下は防止される。
【0032】
また、図6の駆動信号のように、位相Aと位相Cでは印刷周期iにおいて8階調分の7つのインク滴を吐出させ、位相Bでは4階調分の3つのインク滴を吐出させる場合には、位相Bの圧力室7bからの吐出パルスB3によるインク滴の吐出動作終了後、ノズル8bのメニスカスは隣接圧力室7a,7cの吐出動作の振動により盛り上がるが、その盛り上がりは印刷周期iの最後に設けられている休止期間によって解消される。
【0033】
このように、休止時間は、印刷周期の最後に1回だけ設ければよい。すなわち、休止期間を全位相に対して共通のタイミングで設けることができる。従って、休止期間は1ドットラインを印刷する間に1回設定すればよく、1印刷周期の時間を短縮することができる。従って、1ドットラインの印刷を何回も繰り返す記録媒体への印刷速度を向上させることができる。
【0034】
なお、ここでは駆動信号を拡張パルスP1と収縮パルスP2とからなる吐出パルスPをインク滴の吐出回数に合わせて間に動作不能期間t2を設けて並べた構成としてが、これに限定するものではなく、図9の(a)に示す構成の吐出パルスP01と図9の(b)に示す構成の非吐出パルスP10を組み合わせた信号を使用したものであってもよい。すなわち、吐出パルスP01は図7の拡張パルスP1と同じであり、非吐出パルスP10は図7の収縮パルスP2を正負反転したものと同じである。
【0035】
そして、このような構成の吐出パルスP01と非吐出パルスP10を使用して図8に示す駆動信号としている。すなわち、吐出パルスP01を位相Aの圧力室7aの電極10aに印加してノズル8aからインク滴を吐出させるときには同じ動作可能期間t1内の、所定のタイミングで隣接した圧力室7b、7cの電極10b、10cに非吐出パルスP10を印加して圧力室7a内のインクの残留圧力振動を小さくする。
【0036】
従って、吐出パルスP01を位相Bの圧力室7bの電極10bに印加してノズル8bからインク滴を吐出させるときには同じ動作可能期間t1内の、所定のタイミングで隣接した圧力室7c、7aの電極10c、10aに非吐出パルスP10を印加して圧力室7b内のインクの残留圧力振動を小さくする。また、吐出パルスP01を位相Cの圧力室7cの電極10cに印加してノズル8cからインク滴を吐出させるときには同じ動作可能期間t1内の、所定のタイミングで隣接した圧力室7a、7bの電極10a、10bに非吐出パルスP10を印加して圧力室7c内のインクの残留圧力振動を小さくする。
【0037】
このように、収縮パルスP2を使用せずにこの収縮パルスP2の極性を反転した非吐出パルスP10を隣接した圧力室の電極に印加する駆動信号を使用しても動作可能期間t1、動作不能期間t2、休止期間の関係は上述した実施の形態と同様であり、従って、同様の作用効果が得られる。
【0038】
(第2の実施の形態)
この実施の形態は、第1の実施の形態におけるインクジェットヘッドの駆動を適用したインクジェット記録装置について述べる。
図10はインクジェット記録装置の要部外観を示す斜視図で、基板21の両面に、複数のインクジェットヘッド22を交互にかつ位置も交互となるようにずらして配置して1つのラインヘッド20を構成している。
【0039】
前記ラインヘッド20は媒体搬送ベルト23から所定の隙間だけ離れた位置に設置されている。前記媒体搬送ベルト23は搬送ローラ24によって矢印の方向に駆動するもので、用紙などの記録媒体25を上面に密着した状態で搬送する。記録媒体25がラインヘッド20の下を通過するとき、各インクジェットヘッド22から下向きにインク滴を吐出し、このインク滴を記録媒体25に付着させて印刷を行う。なお、記録媒体25を媒体搬送ベルト23に密着させる方法としては、静電気や空気流により吸着させる方法や、記録用紙の端を部材で押さえる方法など、周知の方法を用いることができる。
【0040】
ラインヘッド20の各インクジェットヘッド22は記録媒体25に対して1ドットラインの印刷が直線上に行えるように圧力室のノズルから吐出するインク滴のタイミングをインクジェットヘッド間で調整している。前記各インクジェットヘッド22を駆動する駆動回路の構成は前述した第1の実施の形態と同じであり、図3の構成になっている。
【0041】
媒体搬送ベルト23によって搬送される記録媒体25がラインヘッド20の下を通過する時、制御回路14は画像メモリ13から所定の順序でイメージデータを読み出し、ドライバ12にイメージデータに対応した印刷信号を送る。ドライバ13は印刷信号に応じてインクジェットヘッド22に駆動信号を送る。前記制御回路14は内部に乱数表を設け、この乱数表に従って1ドットラインの印刷周期毎に位相A、位相B、位相Cにおける吐出パルスの相間の出力タイミングを変えている。
【0042】
このような構成においては、各インクジェットヘッド22の圧力室7はそれぞれ3つの組に分けられて3分割駆動される。そして、各インクジェットヘッド22において1ドットラインの印刷周期毎に各位相の駆動信号は、図5及び図6に示すように、例えば、吐出パルスが、A1(位相A)→B1(位相B)→C1(位相C)→A2(位相A)→…の順に出力され、それに応じて該当する圧力室のノズルからインクが吐出される。そして休止期間を経て印刷周期を終了する。
【0043】
従って、1印刷周期における休止期間を1回にできるので、1印刷周期の時間を短縮することができ、記録媒体25への印刷速度を向上させることができる。しかも、印刷周期毎に各位相における吐出パルスの出力タイミングの順番を乱数表に従って切り替えるので、濃淡ムラが視認されにくく、印字品質を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の、第1の実施の形態に係るインクジェットヘッドの構成を示す縦断面図。
【図2】同実施の形態に係るインクジェットヘッドの構成を示す部分横断面図。
【図3】同実施の形態に係るインクジェットヘッドを駆動する駆動回路の構成を示すブロック図。
【図4】図3の駆動回路における制御回路の要部機能構成を示すブロック図。
【図5】同実施の形態に係るインクジェットヘッドの圧力室を駆動する駆動信号の一例を示す図。
【図6】同実施の形態に係るインクジェットヘッドの圧力室を駆動する駆動信号の一例を示す図。
【図7】図5及び図6の駆動信号を構成する吐出パルスの構成を示す図。
【図8】同実施の形態に係るインクジェットヘッドの圧力室を駆動する駆動信号の他の例を示す図。
【図9】図8の駆動信号を構成する吐出パルスと非吐出パルスの構成を示す図。
【図10】本発明の、第2の実施の形態に係るインクジェット記録装置の要部外観を示す斜視図。
【図11】隣接した圧力室の、ノズル内のメニスカス変化を説明するための図。
【図12】隣接した圧力室の、ノズル内のメニスカスの盛り上がり状態を示す図。
【符号の説明】
【0045】
2,3…圧電部材、7…圧力室、8…ノズル、10…電極、22…インクジェットヘッド。
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動パルスにより変形して圧力室に圧力変化を与えるアクチュエータを隣接する圧力室間で共有する構成としたインクジェットヘッドの駆動方法並びに駆動装置及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクを充填する複数の圧力室を、2枚の圧電部材を接着固定した後切削加工して形成し、各圧力室を形成する圧電部材をアクチュエータとし、このアクチュエータに駆動パルス電圧を選択的に印加して変形させ、これにより圧力室を変形させて圧力変化を起こし、ノズルからインクを吐出させる剪断モード型のインクジェットヘッドを使用して、ノズルから階調に応じて1または複数のインク滴を吐出させる制御を行う、いわゆる、マルチドロップ方式のインクジェットヘッドの駆動方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このインクジェットヘッドの駆動方法で使用される剪断モード型のインクジェットヘッドは、圧力室の変形が隣接する圧力室に影響する為、2つ置きに3つの組に分け、各組においては階調に応じたインク滴の吐出動作を連続して行い、1組目の圧力室からのインク滴の吐出動作が終了すると所定の休止期間を設けた後、2組目の圧力室からのインク滴の吐出動作行い、このインク滴の吐出動作が終了すると所定の休止期間を設けた後、3組目の圧力室からのインク滴の吐出動作行い、このインク滴の吐出動作が終了すると所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了し、次の1ドットラインを印刷する為の動作を開始するという制御を行っている。
【特許文献1】特開2000−15803(段落「0022」〜「0024」、「0032」、図3、図5等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インク滴の吐出動作を終了した後に設けた所定の休止期間は、次のインク吐出動作の開始におけるインクメニスカスの位置を適正な位置に復帰させる為に必要なものである。例えば、ある組の圧力室のインク吐出動作を行っているとき、隣接する他の組の圧力室にも圧力振動が発生する。このためこの隣接した圧力室のノズル内におけるインクメニスカスが振動する。この振動は、図11に示すように、ノズル内のメニスカスを徐々にインク吐出方向に前進させ、図12に示すようにメニスカスをノズル開口面より盛り上げる現象を引き起こす。この盛り上がりはメニスカスの振動回数に応じて累積する。
【0005】
このように隣接した圧力室のノズルのメニスカスが盛り上がった状態で、この隣接した圧力室の吐出動作が開始されると、この圧力室のノズルから吐出するインク滴の吐出速度が大幅に低下してしまい、インク滴の着弾位置が大きくずれて印字品質が損なわれるという問題が生じる。特に、この圧力室からのインク滴の吐出動作が1回しか行われない場合には吐出速度が顕著に低下する。
【0006】
このような問題が生じるのを避ける為に、各組の吐出動作の終わりに休止期間を設け、この休止期間によって隣接した圧力室のノズルにおけるメニスカスの盛り上がりをインクの表面張力の力によって自然に復帰させるようにしている。しかし、休止期間としては比較的長い時間を要するので、3分割駆動において各組毎に休止期間を設けたのでは、1ドットラインを印刷する1印刷周期が長くなるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、1ドットラインを印刷する1印刷周期に占める休止期間を短くし、これにより印刷速度の向上を図ることができるインクジェットヘッド駆動方法並びに駆動装置及びインクジェット記録装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、インク滴を吐出させるノズルを有し、内部にインクを充填する圧力室を複数個並べるとともに駆動パルスにより変形して圧力室に圧力変化を与えるアクチュエータを隣接する圧力室間で共有する構成としたインクジェットヘッドに対し、各圧力室をn個置きの(n+1)組に分割し、組毎に駆動する位相を変えるとともに同一組内の各圧力室については選択的に駆動し、2階調以上の画素については圧力室のノズルから複数のインク滴を吐出させるインクジェットヘッド駆動方法において、インク滴を吐出させるタイミング毎に駆動する位相を変え、これを各組の圧力室について全階調分のインク滴を吐出させるタイミングが終了するまで繰り返し行い、その後所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了して次のドットラインの印刷に移行し、この1印刷周期の各タイミングにおいて圧力室のノズルからインク滴を吐出するときには駆動信号を該当するアクチュエータに印加し、かつ、各組において各階調のインク滴を吐出させるタイミングは常に全階調のインク滴を吐出させるときの各階調のインク滴を吐出させるタイミングと一致させることにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1ドットラインを印刷する1印刷周期に占める休止期間を短くし、これにより印刷速度の向上を図ることができるインクジェットヘッド駆動方法並びに駆動装置及びインクジェット記録装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
この実施の形態はインクジェットヘッドの駆動について述べる。
【0011】
図1及び図2はインクジェットヘッドの構成を示す断面図で、低誘電率の基板1の先端部に、分極方向が互いに板厚方向に対して内側に向かって反対になるように貼り合わせた圧電部材2、3を埋め込んでいる。なお、前記基板1は、圧電部材2、3に比べて誘電率の低い材料であれば良いが、ここでは圧電部材2、3の膨張係数との差が大きくならないよう考慮して、低誘電率の未分極の圧電セラミックを用いている。
【0012】
そして、圧電部材2、3及びその後方にある基板1の部分を、例えば、ダイヤモンドカッタなどにより切削加工し、一定の間隔で平行に複数の長溝を形成している。前記基板1の上に、天板枠4とインク供給口を有する天板蓋5を接着することによってインク供給路6を形成している。前記各長溝と天板枠4とで複数の圧力室7を形成し、前記各圧電部材2、3を、圧力室7を変形駆動するアクチュエータとしている。
【0013】
前記各圧力室7の先端に所定の大きさのインク滴を吐出するためのノズル8を形成したノズルプレート9を接着剤で接着固定している。圧力室7を形成する長溝の側面と底面には個々に電気的に独立した電極10を無電界メッキにより形成している。前記電極10は圧力室7の後端から基板1の上面に延出して駆動回路(図示せず)に接続している。なお、電極10の形成は、無電界メッキに限らず、スパッタリングや真空蒸着などで電極材を成膜後、エッチングにより所定のパターンにする方法で形成してもよい。
【0014】
次にこのインクジェットヘッドの動作原理について説明する。
駆動信号により、図2において、電極10a−10b間及び電極10a−10c間の電圧が変化すると、圧電部材2、3からなるアクチュエータは逆圧電効果により変形し、圧力室7aの容積が変化して内部のインクに圧力振動が発生する。この振動を利用して圧力室7a内の圧力を高め、ノズル8a内のインクを吐出する。また逆に、インク圧力が振動しているときに駆動信号により適切なタイミングで圧力室7aの容積を変化させれば、インクの圧力振動を消去することができる。
【0015】
アクチュエータは隣接する圧力室7b、7cと共有しているので、圧力室7a、7b、7c内の圧力振動を個別に制御することはできない。したがって、分割駆動する必要が有る。ここでは2つ置きに3つの組に分けて3分割駆動するようにしている。すなわち、圧力室7aがインク吐出動作を行う時は、圧力室7b、7cはインク吐出動作を行うことはない。また、圧力室7bがインク吐出動作を行う時は、圧力室7c、7aはインク吐出動作を行うことはない。さらに、圧力室7cがインク吐出動作を行う時は、圧力室7a、7bはインク吐出動作を行うことはない。
【0016】
このような構成のインクジェットヘッドを駆動する駆動回路は図3に示す構成になっている。すなわち、インクジェットヘッド11をドライバ12で駆動し、このドライバ12を画像メモリ13に格納されているイメージデータに基づいて制御回路14が制御するようになっている。
【0017】
前記制御回路14は、マイクロコンピュータを搭載し、図4に示すように、インク滴を吐出させるタイミング毎に駆動する位相を変え、これを各組の圧力室について全階調分のインク滴を吐出させるタイミングが終了するまで繰り返し行い、その後所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了して次のドットラインの印刷に移行する制御を行うタイミング制御手段15と、このタイミング制御手段が制御する1印刷周期の各タイミングにおいて圧力室のノズルからインク滴を吐出するときには駆動信号を該当するアクチュエータに印加し、かつ、各組において各階調のインク滴を吐出させるタイミングを常に全階調のインク滴を吐出させるときの各階調のインク滴を吐出させるタイミングと一致するように制御するインク滴吐出制御手段16とを備えている。
【0018】
次に、前記インク滴吐出制御手段16が出力する駆動信号の構成について説明する。
図5及び図6はそれぞれ駆動信号の一例である。駆動信号は、3つの組の圧力室7a、7b、7cにそれぞれ対応した位相A、位相B、位相Cの駆動信号からなる。位相A、B、Cはそれぞれインク吐出タイミングが異なる。
【0019】
位相A,位相B,位相Cの駆動信号は、それぞれ圧力室7aの電極10a、圧力室7の電極10b、圧力室7cの電極10cに印加され、圧力室7a,7b,7cを駆動してノズル8a,8b,8cからインク滴を吐出させる。すなわち、駆動信号は、各位相において吐出パルスPを出力する動作可能期間t1とそれに続く吐出パルスPを出力しない動作不能期間t2とで1階調分のインク滴を吐出させるタイミングを形成し、最大これを7回繰り返し出力することで8階調画素印刷のためにインク滴を吐出させるタイミングを形成している。
【0020】
図5は、各位相A,B,Cにおいてそれぞれ8階調画素印刷のためにインク滴を吐出させるときの駆動信号のタイミングを示している。位相Aの駆動信号は、吐出パルスA1、A2、A3、A4、A5、A6、A7からなり、各信号間に動作不能期間t2を設定している。位相Bの駆動信号は、吐出パルスB1、B2、B3、B4、B5、B6、B7からなり、各信号間に動作不能期間t2を設定している。位相Cの駆動信号は、吐出パルスC1、C2、C3、C4、C5、C6、C7からなり、各信号間に動作不能期間t2を設定している。
【0021】
各位相A,B,Cの駆動信号の出力タイミングは、印字周期iにおいては、位相Aの吐出パルスA1が先ず出力し、動作可能期間t1経過後に位相Bの吐出パルスB1が出力し、動作可能期間t1経過後に位相Cの吐出パルスC1が出力し、動作可能期間t1経過後に位相Aの吐出パルスA2が出力し、動作可能期間t1経過後に位相Bの吐出パルスB2が出力する、というように各位相の吐出パルスが順番に出力し、最後に位相Cの吐出パルスC7が出力すると、所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了するようにしている。このときの吐出パルスの出力タイミングや休止期間の設定は前記タイミング制御手段15が行う。
【0022】
ある位相の動作可能期間においては他の位相では吐出パルスを出力させることはない。また、動作不能期間t2は他の2つの位相において吐出パルスを出力する期間となり、動作可能期間t1の略2倍の長さとなる。また、所定の休止期間においてはいずれの位相においても吐出パルスを出力させることはない。この休止期間は、ノズル8内のインクのメニスカスが略ノズル開口面の位置に安定できる期間以上に設定されている。
【0023】
図6は位相A、Cにおいてそれぞれ8階調画素印刷のためにインク滴を吐出させ、位相Bにおいて4階調画素印刷のためにインク滴を吐出させるときの駆動信号のタイミングを示している。この場合、位相Bにおける吐出パルスB1、B2、B3の出力するタイミングは図5の場合と同様である。また、位相Cにおいては吐出パルスC4から吐出パルスC7を出力する場合に直前に位相Bにおける吐出パルスの出力は行われないが、そのタイミングは位相Bにおける吐出パルスの出力が行われたときと全く同一である。すなわち、図5のときと同じタイミングになる。従って、1ドットラインを印刷する1印刷周期が終了するタイミングは各位相A、B、Cにおける最大階調に従うことになる。
【0024】
位相A、位相B、位相C間における吐出パルスの出力タイミングの順序は、印刷周期毎に変えることが望ましい。すなわち、図5に示すように、印刷周期iでは、駆動信号の各吐出パルスの出力タイミングは位相A、位相B、位相Cの順に行っているが、次の印字周期i+1では、駆動信号の各吐出パルスの出力タイミングは位相C、位相A、位相Bの順に変化させている。この位相の切替え制御も前記タイミング制御手段15が行う。
【0025】
このような切替えを行うのは、各位相間の時間差によってインクの吐出体積が若干異なる場合があるためである。各位相における吐出パルスの出力タイミングの順番が固定されると、各位相間の時間差による吐出体積の差が周期的に生ずるので、このような出力タイミングで画素印刷を繰り返すと、印刷媒体上で筋状の濃淡ムラとして視認されやすくなる。
【0026】
これに対し、印刷周期毎に各位相における吐出パルスの出力タイミングの順番を切り替えれば、濃淡ムラが筋状にならないので視認されにくくなり、印字品質が向上する。
なお、印字周期毎の順番の決定には、乱数、あるいは乱数に準じた順番がでたらめな数列を用いることが望ましい。もし、規則性のある順番の決め方を行うと、濃淡ムラが模様状になって現れる可能性がある。
なお、ここでは、1つの動作可能期間においては1液滴のみの吐出を行うようにしたが、例えば、1つの動作可能期間において2液滴ずつ吐出させることも可能である。
【0027】
前記吐出パルスPは、図7に示すように、拡張パルスP1と、収縮パルスP2から成り立っている。拡張パルスP1は圧力室7の容積を拡張させ、収縮パルスP2は圧力室7の容積を収縮させる。拡張パルスP1によってインクがノズル8から吐出し、収縮パルスP2によってインクの吐出動作により発生した圧力振動が消去される。
【0028】
拡張パルスP1の幅は1ALに設定されている。拡張パルスP1の中心と収縮パルスP2の中心との時間間隔は2ALに設定されている。収縮パルスP2のパルス幅Wは、吐出パルスPの出力が終了した後の圧力室7内におけるインクの残留圧力振動が最も小さくなるように調整されている。ここでは、0.4ALに設定されている。
【0029】
なお、ALは、圧力室7及びノズル8内のインクの主音響共振周波数、あるいはヘルムホルツ周波数の周期の1/2である。ALは、インクの物性とインクジェットヘッドの構造との組み合わせによって決まる固有の時間である。ALは、実験で測定することが可能であり、例えば市販のインピーダンスアナライザを用いてアクチュエータのインピーダンスを測定することにより求めることができる。
また、吐出パルスPの形態は図7の形態に限らず様々な形態の駆動波形を用いることができるが、残留圧力振動が極力小さくなる駆動波形を用いることが望ましい。
【0030】
次に、図5の駆動信号によるインクジェットヘッドの動作について説明する。
前の印刷周期i−1において休止時間により、ノズル8内のインクのメニスカスが略ノズル開口面の位置に安定した後、今回の印刷周期iの吐出動作が開始される。
【0031】
印刷周期iでは吐出パルスがA1(位相A)→B1(位相B)→C1(位相C)→A2(位相A)→…の順に出力され、それに応じてノズル8a→8b→8c→8a→…の順にインクが吐出される。各ノズル8内のインクのメニスカスは、隣接圧力室の駆動に伴うメニスカス振動によりノズル面から盛り上がろうとするが、インク吐出動作によって盛り上がった分のインクが排除されるので、吐出動作が継続している間はメニスカスの盛り上がりが累積することはなく、メニスカスの盛り上がりによるインク吐出速度の大幅な低下は防止される。
【0032】
また、図6の駆動信号のように、位相Aと位相Cでは印刷周期iにおいて8階調分の7つのインク滴を吐出させ、位相Bでは4階調分の3つのインク滴を吐出させる場合には、位相Bの圧力室7bからの吐出パルスB3によるインク滴の吐出動作終了後、ノズル8bのメニスカスは隣接圧力室7a,7cの吐出動作の振動により盛り上がるが、その盛り上がりは印刷周期iの最後に設けられている休止期間によって解消される。
【0033】
このように、休止時間は、印刷周期の最後に1回だけ設ければよい。すなわち、休止期間を全位相に対して共通のタイミングで設けることができる。従って、休止期間は1ドットラインを印刷する間に1回設定すればよく、1印刷周期の時間を短縮することができる。従って、1ドットラインの印刷を何回も繰り返す記録媒体への印刷速度を向上させることができる。
【0034】
なお、ここでは駆動信号を拡張パルスP1と収縮パルスP2とからなる吐出パルスPをインク滴の吐出回数に合わせて間に動作不能期間t2を設けて並べた構成としてが、これに限定するものではなく、図9の(a)に示す構成の吐出パルスP01と図9の(b)に示す構成の非吐出パルスP10を組み合わせた信号を使用したものであってもよい。すなわち、吐出パルスP01は図7の拡張パルスP1と同じであり、非吐出パルスP10は図7の収縮パルスP2を正負反転したものと同じである。
【0035】
そして、このような構成の吐出パルスP01と非吐出パルスP10を使用して図8に示す駆動信号としている。すなわち、吐出パルスP01を位相Aの圧力室7aの電極10aに印加してノズル8aからインク滴を吐出させるときには同じ動作可能期間t1内の、所定のタイミングで隣接した圧力室7b、7cの電極10b、10cに非吐出パルスP10を印加して圧力室7a内のインクの残留圧力振動を小さくする。
【0036】
従って、吐出パルスP01を位相Bの圧力室7bの電極10bに印加してノズル8bからインク滴を吐出させるときには同じ動作可能期間t1内の、所定のタイミングで隣接した圧力室7c、7aの電極10c、10aに非吐出パルスP10を印加して圧力室7b内のインクの残留圧力振動を小さくする。また、吐出パルスP01を位相Cの圧力室7cの電極10cに印加してノズル8cからインク滴を吐出させるときには同じ動作可能期間t1内の、所定のタイミングで隣接した圧力室7a、7bの電極10a、10bに非吐出パルスP10を印加して圧力室7c内のインクの残留圧力振動を小さくする。
【0037】
このように、収縮パルスP2を使用せずにこの収縮パルスP2の極性を反転した非吐出パルスP10を隣接した圧力室の電極に印加する駆動信号を使用しても動作可能期間t1、動作不能期間t2、休止期間の関係は上述した実施の形態と同様であり、従って、同様の作用効果が得られる。
【0038】
(第2の実施の形態)
この実施の形態は、第1の実施の形態におけるインクジェットヘッドの駆動を適用したインクジェット記録装置について述べる。
図10はインクジェット記録装置の要部外観を示す斜視図で、基板21の両面に、複数のインクジェットヘッド22を交互にかつ位置も交互となるようにずらして配置して1つのラインヘッド20を構成している。
【0039】
前記ラインヘッド20は媒体搬送ベルト23から所定の隙間だけ離れた位置に設置されている。前記媒体搬送ベルト23は搬送ローラ24によって矢印の方向に駆動するもので、用紙などの記録媒体25を上面に密着した状態で搬送する。記録媒体25がラインヘッド20の下を通過するとき、各インクジェットヘッド22から下向きにインク滴を吐出し、このインク滴を記録媒体25に付着させて印刷を行う。なお、記録媒体25を媒体搬送ベルト23に密着させる方法としては、静電気や空気流により吸着させる方法や、記録用紙の端を部材で押さえる方法など、周知の方法を用いることができる。
【0040】
ラインヘッド20の各インクジェットヘッド22は記録媒体25に対して1ドットラインの印刷が直線上に行えるように圧力室のノズルから吐出するインク滴のタイミングをインクジェットヘッド間で調整している。前記各インクジェットヘッド22を駆動する駆動回路の構成は前述した第1の実施の形態と同じであり、図3の構成になっている。
【0041】
媒体搬送ベルト23によって搬送される記録媒体25がラインヘッド20の下を通過する時、制御回路14は画像メモリ13から所定の順序でイメージデータを読み出し、ドライバ12にイメージデータに対応した印刷信号を送る。ドライバ13は印刷信号に応じてインクジェットヘッド22に駆動信号を送る。前記制御回路14は内部に乱数表を設け、この乱数表に従って1ドットラインの印刷周期毎に位相A、位相B、位相Cにおける吐出パルスの相間の出力タイミングを変えている。
【0042】
このような構成においては、各インクジェットヘッド22の圧力室7はそれぞれ3つの組に分けられて3分割駆動される。そして、各インクジェットヘッド22において1ドットラインの印刷周期毎に各位相の駆動信号は、図5及び図6に示すように、例えば、吐出パルスが、A1(位相A)→B1(位相B)→C1(位相C)→A2(位相A)→…の順に出力され、それに応じて該当する圧力室のノズルからインクが吐出される。そして休止期間を経て印刷周期を終了する。
【0043】
従って、1印刷周期における休止期間を1回にできるので、1印刷周期の時間を短縮することができ、記録媒体25への印刷速度を向上させることができる。しかも、印刷周期毎に各位相における吐出パルスの出力タイミングの順番を乱数表に従って切り替えるので、濃淡ムラが視認されにくく、印字品質を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の、第1の実施の形態に係るインクジェットヘッドの構成を示す縦断面図。
【図2】同実施の形態に係るインクジェットヘッドの構成を示す部分横断面図。
【図3】同実施の形態に係るインクジェットヘッドを駆動する駆動回路の構成を示すブロック図。
【図4】図3の駆動回路における制御回路の要部機能構成を示すブロック図。
【図5】同実施の形態に係るインクジェットヘッドの圧力室を駆動する駆動信号の一例を示す図。
【図6】同実施の形態に係るインクジェットヘッドの圧力室を駆動する駆動信号の一例を示す図。
【図7】図5及び図6の駆動信号を構成する吐出パルスの構成を示す図。
【図8】同実施の形態に係るインクジェットヘッドの圧力室を駆動する駆動信号の他の例を示す図。
【図9】図8の駆動信号を構成する吐出パルスと非吐出パルスの構成を示す図。
【図10】本発明の、第2の実施の形態に係るインクジェット記録装置の要部外観を示す斜視図。
【図11】隣接した圧力室の、ノズル内のメニスカス変化を説明するための図。
【図12】隣接した圧力室の、ノズル内のメニスカスの盛り上がり状態を示す図。
【符号の説明】
【0045】
2,3…圧電部材、7…圧力室、8…ノズル、10…電極、22…インクジェットヘッド。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク滴を吐出させるノズルを有し、内部にインクを充填する圧力室を複数個並べるとともに駆動パルスにより変形して圧力室に圧力変化を与えるアクチュエータを隣接する圧力室間で共有する構成としたインクジェットヘッドに対し、前記各圧力室をn個置きの(n+1)組に分割し、組毎に駆動する位相を変えるとともに同一組内の各圧力室については選択的に駆動し、2階調以上の画素については圧力室のノズルから複数のインク滴を吐出させるインクジェットヘッド駆動方法において、
インク滴を吐出させるタイミング毎に駆動する位相を変え、これを各組の圧力室について全階調分のインク滴を吐出させるタイミングが終了するまで繰り返し行い、その後所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了して次のドットラインの印刷に移行し、この1印刷周期の各タイミングにおいて圧力室のノズルからインク滴を吐出するときには駆動信号を該当するアクチュエータに印加し、かつ、各組において各階調のインク滴を吐出させるタイミングは常に全階調のインク滴を吐出させるときの各階調のインク滴を吐出させるタイミングと一致させることを特徴とするインクジェットヘッド駆動方法。
【請求項2】
各組が駆動する位相の順番を、1または複数印刷周期毎に切り替えることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド駆動方法。
【請求項3】
各組が駆動する位相の順番を乱数によって割当てることを特徴とする請求項2記載のインクジェットヘッド駆動方法。
【請求項4】
インク滴を吐出させるノズルを有し、内部にインクを充填する圧力室を複数個並べるとともに駆動パルスにより変形して圧力室に圧力変化を与えるアクチュエータを隣接する圧力室間で共有する構成としたインクジェットヘッドに対し、前記各圧力室をn個置きの(n+1)組に分割し、組毎に駆動する位相を変えるとともに同一組内の各圧力室については選択的に駆動し、2階調以上の画素については圧力室のノズルから複数のインク滴を吐出させるインクジェットヘッド駆動装置において、
インク滴を吐出させるタイミング毎に駆動する位相を変え、これを各組の圧力室について全階調分のインク滴を吐出させるタイミングが終了するまで繰り返し行い、その後所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了して次のドットラインの印刷に移行する制御を行うタイミング制御手段と、
このタイミング制御手段が制御する1印刷周期の各タイミングにおいて圧力室のノズルからインク滴を吐出するときには駆動信号を該当するアクチュエータに印加し、かつ、各組において各階調のインク滴を吐出させるタイミングを常に全階調のインク滴を吐出させるときの各階調のインク滴を吐出させるタイミングと一致するように制御するインク滴吐出制御手段とを具備したことを特徴とするインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項5】
タイミング制御手段は、各組が駆動する位相の順番を、1または複数印刷周期毎に切り替えることを特徴とする請求項4記載のインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項6】
タイミング制御手段は、各組が駆動する位相の順番を、乱数を使用して決定したことを特徴とする請求項5記載のインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項7】
請求項4記載のインクジェットヘッド駆動装置と、この駆動装置が駆動するインクジェットヘッドが吐出するインク滴によって画素形成される記録媒体を搬送する搬送手段と、前記駆動装置に印刷画像データを供給する手段とを備え、前記駆動装置は印刷画像データに基づいてアクチュエータを変形する駆動信号を生成することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項1】
インク滴を吐出させるノズルを有し、内部にインクを充填する圧力室を複数個並べるとともに駆動パルスにより変形して圧力室に圧力変化を与えるアクチュエータを隣接する圧力室間で共有する構成としたインクジェットヘッドに対し、前記各圧力室をn個置きの(n+1)組に分割し、組毎に駆動する位相を変えるとともに同一組内の各圧力室については選択的に駆動し、2階調以上の画素については圧力室のノズルから複数のインク滴を吐出させるインクジェットヘッド駆動方法において、
インク滴を吐出させるタイミング毎に駆動する位相を変え、これを各組の圧力室について全階調分のインク滴を吐出させるタイミングが終了するまで繰り返し行い、その後所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了して次のドットラインの印刷に移行し、この1印刷周期の各タイミングにおいて圧力室のノズルからインク滴を吐出するときには駆動信号を該当するアクチュエータに印加し、かつ、各組において各階調のインク滴を吐出させるタイミングは常に全階調のインク滴を吐出させるときの各階調のインク滴を吐出させるタイミングと一致させることを特徴とするインクジェットヘッド駆動方法。
【請求項2】
各組が駆動する位相の順番を、1または複数印刷周期毎に切り替えることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド駆動方法。
【請求項3】
各組が駆動する位相の順番を乱数によって割当てることを特徴とする請求項2記載のインクジェットヘッド駆動方法。
【請求項4】
インク滴を吐出させるノズルを有し、内部にインクを充填する圧力室を複数個並べるとともに駆動パルスにより変形して圧力室に圧力変化を与えるアクチュエータを隣接する圧力室間で共有する構成としたインクジェットヘッドに対し、前記各圧力室をn個置きの(n+1)組に分割し、組毎に駆動する位相を変えるとともに同一組内の各圧力室については選択的に駆動し、2階調以上の画素については圧力室のノズルから複数のインク滴を吐出させるインクジェットヘッド駆動装置において、
インク滴を吐出させるタイミング毎に駆動する位相を変え、これを各組の圧力室について全階調分のインク滴を吐出させるタイミングが終了するまで繰り返し行い、その後所定の休止期間を経て1ドットラインを印刷する1印刷周期を終了して次のドットラインの印刷に移行する制御を行うタイミング制御手段と、
このタイミング制御手段が制御する1印刷周期の各タイミングにおいて圧力室のノズルからインク滴を吐出するときには駆動信号を該当するアクチュエータに印加し、かつ、各組において各階調のインク滴を吐出させるタイミングを常に全階調のインク滴を吐出させるときの各階調のインク滴を吐出させるタイミングと一致するように制御するインク滴吐出制御手段とを具備したことを特徴とするインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項5】
タイミング制御手段は、各組が駆動する位相の順番を、1または複数印刷周期毎に切り替えることを特徴とする請求項4記載のインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項6】
タイミング制御手段は、各組が駆動する位相の順番を、乱数を使用して決定したことを特徴とする請求項5記載のインクジェットヘッド駆動装置。
【請求項7】
請求項4記載のインクジェットヘッド駆動装置と、この駆動装置が駆動するインクジェットヘッドが吐出するインク滴によって画素形成される記録媒体を搬送する搬送手段と、前記駆動装置に印刷画像データを供給する手段とを備え、前記駆動装置は印刷画像データに基づいてアクチュエータを変形する駆動信号を生成することを特徴とするインクジェット記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−1075(P2006−1075A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178183(P2004−178183)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
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