説明

インクジェットヘッド

【課題】 流路ユニットとアクチュエータユニットの共通電極とを高い信頼性で接続する。
【解決手段】 インクジェットヘッドは、流路ユニットとアクチュエータユニット21とが積層されたヘッド本体70を含んでいる。流路ユニットの上面には、複数の圧力室10と凹部30とが形成されている。アクチュエータユニット21は流路ユニットの上面に固定され、複数の圧力室10を跨るように配置されたコモン電極27と各圧力室10に対応する複数の個別電極26とを有している。コモン電極27は、アクチュエータユニット21の上面に形成された表面電極29とスルーホール61内の導体64を介して電気的に接続されている。流路ユニットの凹部30内には、表面電極29と流路ユニットとを電気的に接続する導電性部材90が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体にインクを吐出して印刷を行うインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドは、インクジェットプリンタ等において、インクタンクから供給されたインクを複数の圧力室に分配し、各圧力室に選択的にパルス状の圧力を付与することによりノズルからインクを吐出する。圧力室に選択的に圧力を付与するための一つの手段として、圧電性のセラミックからなる複数の圧電シートが積層されたアクチュエータユニットが用いられることがある。
【0003】
かかるインクジェットヘッドの一例として、連続平板状の圧電シートを、複数の圧力室に跨って形成されたコモン電極(共通電極)と、各圧力室に対向して配置された複数の個別電極とで挟み込んだ圧電アクチュエータ(アクチュエータユニット)を有するものが知られている(特許文献1参照)。このインクジェットヘッドにおいて、圧電アクチュエータの側面には、キャビティユニット(流路ユニット)の上面から圧電アクチュエータの積層方向に沿って導電性接着剤が塗布されている。この導電性接着剤によってキャビティユニット(流路ユニット)と圧電アクチュエータのコモン電極とが電気的に接続され、さらにフレキシブルフラットケーブルによってグランドに接続されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−80709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載のインクジェットヘッドにおいては、圧電アクチュエータとキャビティユニットとが接着剤によって固定されるので、接着剤が圧電アクチュエータに隣接するキャビティユニットの上面上に流れ出す可能性がある。流れ出た接着剤はキャビティユニットの上面を被覆するので、導電性接着剤を後から塗布してもコモン電極とキャビティユニットとが電気的に接続されないという問題が生じる。これに対して、被覆した接着剤を削ってキャビティユニットの上面に無垢の面を露出し、その無垢面とコモン電極とを接続するように導電性接着剤を塗布することは可能であるが、接着剤を削る作業が煩雑であるばかりか、無垢面を露出させるときの接着剤の除去作業において、接着剤の滓が発生し、ヘッドや製造設備を汚してしまう。
【0006】
そこで、本発明の目的は、製造過程において異物を発生させることがなく、流路ユニットとアクチュエータユニットの共通電極とが高い信頼性で接続されたインクジェットヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明のインクジェットヘッドは、複数のプレートが積層された積層構造体であって、それぞれがノズルに連通した複数の圧力室が形成された流路ユニットと、前記複数の圧力室に跨って延在した圧電シート、それぞれが前記圧電シート上において各圧力室に対向する位置に配置された複数の個別電極、及び、前記複数の個別電極と共に前記圧電シートを挟む共通電極を含み、前記流路ユニットの一表面に固定されて各圧力室の容積を変化させるアクチュエータユニットとを備えている。そして、前記流路ユニットを構成する前記複数のプレートのうち、少なくとも前記一表面を含み最外層に積層された最外層プレートが導電性を有しており、前記一表面において、前記アクチュエータユニットが固定されていない領域には、凹部が形成されており、前記凹部内には、前記最外層プレートを介して前記流路ユニットと前記共通電極とを電気的に接続する導電性部材の一部が固定されている。
【0008】
これによると、流路ユニットの凹部内には、接着剤などによって被覆されていない無垢の面が存在する。その凹部内に導電性部材の一部が固定されているので、異物の発生をなくしつつ、流路ユニットと共通電極とを電気的に接続することが可能になる。
【0009】
本発明において、前記凹部が、前記最外層プレートの厚さ以上の深さを有していることが好ましい。これにより、凹部内の表面積が比較的大きくなる。そのため、アクチュエータユニットと流路ユニットとを固定する接着剤が凹部に流れ込んでも、凹部内に残る無垢の面が大きくなる。したがって、流路ユニットと共通電極との電気的接続の信頼性が向上する。
【0010】
また、このとき、前記凹部が、前記最外層プレートの厚さと前記最外層プレートに隣接したプレートの厚さとを足し合わせた以上の深さを有していてもよい。これにより、凹部内の表面積がさらに大きくなる。したがって、流路ユニットと共通電極との電気的接続の信頼性がより向上する。
【0011】
また、本発明は、前記凹部の底面において、少なくとも前記アクチュエータユニットに隣接した周縁近傍には、溝が形成されていることが好ましい。これにより、アクチュエータユニットと流路ユニットとを固定する接着剤及び/又は流路ユニットを構成する複数のプレートどうしを固定する接着剤が、凹部内に流れ込んでも凹部の底面が接着剤によって被覆されにくくなる。
【0012】
また、このとき、前記溝が、前記底面の中央領域を囲むように延在していてもよい。これにより、凹部の底面の中央領域には、無垢の面が確実に存在する。したがって、流路ユニットと共通電極との電気的接続が確実なものとなる。
【0013】
また、このとき、前記最外層プレートが、当該プレートの厚さ方向の中央部において、前記凹部の内側に突出する凸部を有していてもよい。これにより、アクチュエータユニットと流路ユニットとを固定する接着剤が凹部に流れ込んでも、凸部が接着剤の流れを堰き止める。そのため、凹部内が接着剤によって被覆されにくくなる。
【0014】
また、このとき、前記導電性部材が、前記アクチュエータユニットの前記共通電極に電気的に接続されていると共に、前記最外層プレートの前記凸部と前記凹部の前記中央領域とに固定されていてもよい。これにより、流路ユニットと共通電極との電気的接続がより確実なものとなる。
【0015】
また、本発明において、各圧力室の容積を変化させるための駆動信号を供給する複数の個別配線と、基準となる一定電位を供給する基準配線と、前記複数の個別配線及び前記基準配線を支持する絶縁フレキシブル層とを有する平型柔軟ケーブルをさらに備えている。そして、前記複数の個別配線がそれぞれ対応する前記個別電極に固定され、且つ、前記基準配線が前記共通電極に固定されていることが好ましい。これにより、平型柔軟ケーブルを介して共通電極及び流路ユニットを一定電位とすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態によるインクジェットヘッド1の斜視図である。図2は、図1のII−II線における断面図であり、インクジェットヘッドを構成するホルダにヘッド本体が組み付けられた状態を示している。図3は、図2に示すヘッド本体にフレームが接着された状態を示す斜視図である。図4は、図2に示すヘッド本体とフレキシブルプリント回路とを分離させた状態の斜視図である。インクジェットヘッド1は、シリアル式のインクジェットプリンタ(図示略)に用いられて、副走査方向に平行に搬送されてきた用紙に対してマゼンタ、イエロー、シアン及びブラックの4色のインクを吐出して記録するものである。図1及び図2に示すようにインクジェットヘッド1は、4色のインクをそれぞれ貯溜する4つのインク室3が形成されたインクタンク71と、このインクタンク71の下方に配置されたヘッド本体70とを備えている。
【0018】
インクタンク71の内部には、4つのインク室3が主走査方向に並んで形成されており、図2中左方のインク室3からマゼンタ、イエロー、シアン、ブラックのインクが順に貯溜されている。これら4つのインク室3は、対応するインクカートリッジ(図示せず)がチューブ40(図1参照)によってそれぞれ接続されており、インクカートリッジからインク室3に各色のインクが供給されるようになっている。また、図2に示すようにインクタンク71が、平面矩形形状のフレーム41に組み付けられている。このフレーム41は、略直方体形状を有するホルダ72に紫外線型硬化剤43で固着されている。さらに、このフレーム41には図3に示すように、平面形状が長方形形状の開口部42が形成されており、この開口部42内に後述のアクチュエータユニット21を配置するようにしてヘッド本体70が接着固定されている。インクタンク71の下端部には、4つのインク室3にそれぞれ連通する4つのインク導出口3aが形成されている。一方、フレーム41には、図3に示すように、4つのインク導出口3aとそれぞれ連なる平面形状が楕円形状の4つの貫通孔41aが形成されている。
【0019】
ヘッド本体70は、それぞれの色ごとに複数のインク流路が形成された流路ユニット4と、流路ユニット4の上面にエポキシ系の熱硬化性接着剤によって接着されたアクチュエータユニット21とを含んでいる。図4に示すように、流路ユニット4及びアクチュエータユニット21は、長方形平面形状を有する複数の薄板を積層して互いに接着させた構成であり、これら流路ユニット4及びアクチュエータユニット21はインクタンク71の下方に配置されている。流路ユニット4の上面には、平面形状が楕円形状の4つのインク供給口4a(図5参照)が形成されており、4つのインク供給口4aを覆う位置には、各インク供給口4aと対向する位置に複数の微小孔が形成されたフィルタ45が配置されている。こうして、インク供給口4aから流路ユニット4内に流入するインク内のゴミなどがフィルタ45によって捕獲される。
【0020】
また、図3に示すようにフレーム41には、フレーム41に形成された貫通孔41aと流路ユニット4に形成されたインク供給口4aとがそれぞれ連なるようにして流路ユニット4が接着されている。この構成により、インクタンク71内の4種類のインクが、インクタンク71に形成された4つのインク導出口3a及びフレーム41に形成された4つの貫通孔41aを通ってそれぞれに対応する流路ユニット4の4つのインク供給口4aから流路ユニット4内に供給されている。
【0021】
ヘッド本体70は、ホルダ72の下面に形成された段付き状の開口部72aに配置されるとともにインク吐出面70aが外部に露出するようにフレーム41を介してホルダ72に装着されている。ホルダ72と流路ユニット4との間には、シール剤73が配置されている。なお、インク吐出面70aはヘッド本体70の底面でもあり、微小径を有する多数のノズル8(図6参照)が配列されている。また、アクチュエータユニット21の上面には、給電部材であるフレキシブルプリント回路(FPC:Flexible Printed Circuit)50が接合され主走査方向の一方に引き出されるとともに、屈曲しながら上方に引き出されている。FPC50のアクチュエータユニット21と対向する部分における上面には、FPC50及びアクチュエータユニット21を保護しつつ、アクチュエータユニット21の個別電極26(図7参照)毎に発する熱を放散するアルミプレート44が貼付されている。アルミプレート44は、アクチュエータユニット21の個別電極26毎に発する熱によって、個別電極26近傍部分ごとの温度に大きなバラツキが生じないにように、その熱を放散して均一にしている。
【0022】
アクチュエータユニット21に接合されたFPC50は、スポンジなどの弾性部材74を介してインクタンク71の側面に沿うように引き出され、このFPC50上にドライバIC75が設置されている。一方で、FPC50は、ドライバIC75から出力された駆動信号をヘッド本体70のアクチュエータユニット21(後に詳述)に伝達するように、ハンダ付けによって電気的に接合されている。
【0023】
図2において、ホルダ72のドライバIC75に対向する側壁には、ドライバIC75の熱を外部に放散する為の開口部72bが形成されている。さらに、ドライバIC75とホルダ72の開口部72bとの間には、略直方体形状のアルミ板からなるヒートシンク76が配置されている。さらに、ドライバIC75は、間にFPC50を挟んで弾性部材74によりヒートシンク76に対して押圧されている。これらヒートシンク76及び開口部72bにより、ドライバIC75で発生した熱を効率的に散逸させることができる。また、開口部72b内には、ホルダ72の側壁とヒートシンク76の隙間を埋めるためのシール剤77が配置されており、インクジェットヘッド1の本体にゴミやインクが侵入することを防いでいる。
【0024】
図5は、図4に示すFPC50及びヘッド本体70の分解斜視図である。図6は、図4に示すVI−VI線における断面図である。図5から分かるように、ヘッド本体70は、上から、アクチュエータユニット21、キャビティプレート18、サプライプレート17、アパーチャプレート16、2枚のマニホールドプレート14,15、ダンパプレート13、カバープレート12、ノズルプレート11の計9枚のシート材が積層された積層構造を有している。これらのうち、アクチュエータユニット21を除いた8枚のプレートから流路ユニット4が構成されている。本実施の形態において、流路ユニット4を構成する8枚のプレート11〜18のうち、ノズルプレート11を除く7枚のプレート12〜18が導電性のステンレス鋼からなり、ノズルプレート11が絶縁性のポリイミド樹脂からなる。
【0025】
アクチュエータユニット21は、後で詳述するように、2枚の絶縁シート22,23(図7参照)と2枚の圧電シート24,25(図7参照)とが積層され、活性部となる部分を有する1つの活性層(以下、単に「活性部を有する層」というように記する)と活性部を有しない3つの非活性層とを有している。
【0026】
ノズルプレート11には、図5及び図6に示すように、微小径のノズル8が微小な間隔をおいて複数形成されている。これらノズル8は、ノズルプレート11における長手方向に沿って、千鳥状の5列に配列されている。
【0027】
図5に示すように、キャビティプレート18には、複数の圧力室10がキャビティプレート18の長手方向に沿って千鳥状配列で5列に穿設されている。各圧力室10は、その長手方向がキャビティプレート18の長手方向に対して直交するように、細幅に形成されている。各圧力室10の一端部は、図5及び図6に示すように、サプライプレート17、アパーチャプレート16、2枚のマニホールドプレート14,15、ダンパプレート13及びカバープレート12に千鳥状配列で穿設されている微小径の貫通孔31を介して、ノズルプレート11におけるノズル8に連通している。キャビティプレート18の長手方向の一端部側には、インク供給口4aとなる4つの孔35がキャビティプレート18の短手方向に沿って互いに離隔して形成されている。
【0028】
図6に示すようにキャビティプレート18には、キャビティプレート18のアクチュエータユニット21と対向する領域と孔35との間の領域に厚み方向に貫通した貫通孔19がエッチングにより形成されている。この貫通孔19は、キャビティプレート18とサプライプレート17とが積層することで、一方の開口が塞がれることになる。これによって、流路ユニット4には、貫通孔19の形成位置に凹部30が形成されることになる。
【0029】
図5に示すように、2枚のマニホールドプレート14,15のうち、アパーチャプレート16に近い側のマニホールドプレート15には、5つのインク室半部20aが貫通状に形成されている。これら5つのインク室半部20aは、マニホールドプレート15の長手方向に沿って延在されつつ、マニホールドプレート15の短手方向に互いに離隔している。
【0030】
一方、ダンパプレート13側のマニホールドプレート14にも、5つのインク室半部20aと同様の5つのインク室半部20bが形成されている。図6に示すように、この構成で2枚のマニホールドプレート14,15、アパーチャプレート16及びダンパプレート13の計4枚を積層することにより、対向する上下のインク室半部20a,20bが相互に接合されて、貫通孔31の列の間及び貫通孔31の列の外側に計5つの共通インク室5が形成される。なお、5つの共通インク室5の一端部がインク供給口4aとそれぞれ対向している。
【0031】
サプライプレート17には、複数の貫通孔31の他に、一方の開口において圧力室10と連通し他方の開口において後述のアパーチャ33と連通する複数の連絡孔32が形成されている。複数の連絡孔32は、各圧力室10に対応するようにサプライプレート17の長手方向に沿って千鳥状の5列に配列されている。また、サプライプレート17には、キャビティプレート18の4つの孔35とそれぞれ対向する位置に孔36が形成されている。
【0032】
アパーチャプレート16には、複数の貫通孔31の他に、アパーチャプレート16の短手方向に沿って延在した略長方形平面形状のアパーチャ33が、アパーチャプレート16の長手方向に沿って千鳥状の5列に配列されている。アパーチャ33は、一端部において連絡孔32と連通し、他端部において共通インク室5と連通している。アパーチャ33は、インク流動方向と直交する方向であってアパーチャプレート16の厚み方向の断面積が若干小さくなっており、ノズル8からのインク吐出時に圧力室10から共通インク室5側に逆流しようとするインクの流れを制限するものである。また、アパーチャプレート16には、キャビティプレート18の4つの孔35とそれぞれ対向する位置に孔37が形成されており、各孔37が一方の開口において孔36とそれぞれ連通し、他方の開口において対応する共通インク室5とそれぞれ連通している。
【0033】
なお、4つの孔37のうち、図5中最も奥に位置する1つの孔37は、図5中奥の2つの共通インク室5と連通しており、他の3つの孔37は、図5中手前の3つの共通インク室5とそれぞれ連通している。つまり、5つの共通インク室5のうち、図5中奥に位置する2つの共通インク室5には、1つのインク供給口4aからのインクがそれぞれに供給され、他の3つの共通インク室5には、他の3つのインク供給口4aからのインクがそれぞれに供給される。本実施の形態において、図5中奥の2つの共通インク室5には、ブラックのインクが供給され、図5中手前から奥に向かって配置する3つの共通インク室5には、マゼンタ、イエロー及びシアンの順にインクが供給されている。
【0034】
ダンパプレート13には、図5及び図6に示すように5列のダンパ溝38が凹設されている。これらダンパ溝38は、カバープレート12に向けてのみ開放するように形成され、その位置及び形状は共通インク室5と同形状となっている。したがって、マニホールドプレート14,15及びダンパプレート13を接合したときは、ダンパプレート13の共通インク室5と対向する部分には、ダンパ部39が位置する。ここで、ダンパプレート13は、適宜弾性変形し得るステンレス鋼で構成されているので、ダンパ部39は、共通インク室5側及びダンパ溝38側に自由に振動することができる。このような構成により、インク吐出時に圧力室10で発生した圧力変動が共通インク室5に伝播しても、ダンパ部39が弾性変形して振動することによってその圧力変動を吸収減衰させることができる。
【0035】
このような流路ユニット4の構成により、流路ユニット4の内部には、インク供給口4aから順に共通インク室5、アパーチャ33、連絡孔32、圧力室10及び貫通孔31を通ってノズル8に至るインク流路が構成されている。インク供給口4aから共通インク室5内に流入したインクは、アパーチャ33を経由して、各圧力室10に供給される。そして、各圧力室10において、アクチュエータユニット21により容積が変化することで圧力が付与されたインクが、圧力室10から各貫通孔31を経由した後、対応するノズル8に至って吐出される。
【0036】
図7は、図6に示す一点鎖線で囲まれた領域の拡大図である。図8は、図4に示すヘッド本体70の拡大平面図である。図7に示すように、アクチュエータユニット21は、2枚の絶縁シート22,23と2枚の圧電シート24,25とが積層されて構成されている。圧電シート25の上面には、流路ユニット4における各圧力室10に対向した細幅の複数の個別電極26が、圧電シート25の長手方向に沿って千鳥状の5列に配列されている。各個別電極26は圧電シート25の短手方向に細長く形成され、その一端部には圧電シート25の長手方向に沿って延出した引き出し部26aが形成されている。本実施の形態において、この引き出し部26aは、対応する圧力室10を区画する隔壁に対向する位置まで個別電極26から引き出されている。
【0037】
圧電シート24の上面には、複数の圧力室10に対応して共通のコモン電極(共通電極)27が設けられている。コモン電極27は、複数の圧力室10に跨るように形成されているが、個別電極26の引き出し部26aに対向する位置にはコモン電極27が形成されない非形成領域(不図示)が存在する。これは、後述のスルーホール62及び貫通孔63内に存在する導体とコモン電極27とが電気的に接続しないようにするためである。この構成で、各個別電極26とコモン電極27とに挟まれる圧電シート24における夫々の領域は、圧力室10毎に対応した活性部となる。つまり、圧電シート24は、活性部を有する層となり、それ以外の2枚の絶縁シート22,23及び圧電シート25は、活性部を有しない非活性層となる。また、圧電シート24,25は、図7のように1枚ずつ交互に積層するだけでなく、要求される変位量に応じて交互に複数枚積層することもできる。
【0038】
最上段の絶縁シート22の上面(すなわち、アクチュエータユニット21の上面)には、各個別電極26の夫々に対する表面電極28と、コモン電極27に対する表面電極29とが設けられている。表面電極28は、図8に示すように、流路ユニット4の各圧力室10を区画する隔壁と対向する位置に配置されており、各個別電極26に対応するようにアクチュエータユニット21の長手方向に沿って千鳥状の5列に配列されている。表面電極28は、アクチュエータユニット21の短手方向に沿って延在した長方形平面形状を有しており、各表面電極28の一端部において、各個別電極26の引き出し部26aと対向する位置にFPC50と電気的に接続されるランド28aが設けられている。ランド28aは、表面電極28の列に沿って千鳥状に配置されている。
【0039】
図8に示すように、表面電極29は、絶縁シート22の一端部上において、アクチュエータユニット21の短手方向に沿って延在している。表面電極29上には、FPC50と電気的に接続されるランド29aが設けられている。
【0040】
絶縁シート22,23には、ランド29aと対向する位置及びランド28aと対向する位置に複数のスルーホール61,62が形成されている。また、圧電シート24には、各スルーホール62とそれぞれ連通した貫通孔63が複数形成されている。各スルーホール61,62及び貫通孔63には、導体64が配置されており、表面電極29がコモン電極27と、表面電極28が引き出し部26aを介して個別電極26と電気的に接続されている。
【0041】
図7に示すように、キャビティプレート18に形成された貫通孔19の内壁には、内側に向かって突出する凸部19aが形成されている。凸部19aは、キャビティプレート18の上下面側からのエッチングにより貫通孔19を形成する際に、貫通孔19の内壁中央部分に形成される。こうして、凹部30には、内壁に凸部19aを有することになる。また、凹部30は、図8に示すように、アクチュエータユニット21の短手方向に沿って延在した略長方形平面形状を有している。凹部30の底面を構成するサプライプレート17には、平面形状が環状の溝91が形成されている。つまり、流路ユニット4を構成するサプライプレート17には、キャビティプレート18に形成された貫通孔19によって露出する位置に溝91が形成されている。これらキャビティプレート18とサプライプレート17とが積層することで、凹部30の底面に溝91が存在することになる。このような流路ユニット4の凹部30内には、銀ペーストからなる導電性部材90が配置されている。導電性部材90は、凹部30からアクチュエータユニット21の上面の表面電極29かけて配置されており、流路ユニット4と表面電極29とを電気的に接続している。なお、凹部30内における導電性部材90は、その大半が溝91に囲まれた凹部30の底面と凹部30の突出部19a近傍の内壁と密着している。
【0042】
アクチュエータユニット21の上方には、各表面電極28,29のランド28a,29aと位置合わせして接続されたFPC50が配置されている。FPC50は、ベースフィルム81と、その下面に形成された2種類の導体パターン82a,82bと、ベースフィルム81の下面のほぼ全体を覆うカバーフィルム(絶縁フレキシブル層)83とを含む。カバーフィルム83には、導体パターン82a,82bの幅より小さな径の貫通孔84が、各導体パターン82a,82bの夫々に対応するように、複数形成されている。ベースフィルム81、導体パターン82a,82b及びカバーフィルム83は、各貫通孔84の中心と導体パターン82a,82bの中心とが対応し、導体パターン82a,82bの外周縁部分がカバーフィルム83に覆われるよう、互いに位置合わせして積層される。
【0043】
FPC50の端子85a,85bは、貫通孔84を介して対応する各導体パターン82a,82bと接続されている。端子85a,85bは、例えば、ニッケル等の導電性材料から構成されている。端子85a,85bは、貫通孔84を塞ぐと共に、貫通孔84の外側周縁を覆い、カバーフィルム83の下面より突出して形成されている。端子85a,85bは、対向するランド28a,29aとそれぞれ半田88を介して電気的に接続されている。
【0044】
導体パターン82a,82bは、銅箔により形成されている。導体パターン82a,82bは、ベースフィルム81の下面において所定のパターンを形成している。本実施の形態において、導体パターン(個別配線)82aはドライバIC75と接続されており、個別電極26が表面電極28のランド28a及び端子85aを介してドライバIC75に接続されている。一方、導体パターン(基準配線)82bはグランドと接続されており、コモン電極27が表面電極29のランド29a及び端子85bを介してグランドに接続されている。これにより、コモン電極27を一定電位(すなわち、グランド電位)にしつつ、アクチュエータユニット21の各個別電極26のうち任意の個別電極26とコモン電極27との間にドライバIC75からの駆動電圧(駆動信号)を印加することが可能となる。このとき、流路ユニット4もアクチュエータユニット21内で広い面積を有するコモン電極27と同じグランド電位とすることが可能となる。こうして、所望の個別電極26に対応する活性部に、積層方向の歪みを発生させ、この個別電極26に対応するノズル8からインクを吐出させることで、用紙への所定の印字が行われる。
【0045】
以上のように、本実施の形態のインクジェットヘッド1によると、流路ユニット4のキャビティプレート18には、キャビティプレート18とサプライプレート17とが積層したときに凹部30となる貫通孔19が形成されているので、流路ユニット4の上面(アクチュエータユニット21が接着される面)に流路ユニット4とアクチュエータユニット21とを固定する接着剤が流れ出てきても、凹部30内が接着剤などによって被覆されていない無垢の面となる。この凹部30内に導電性部材90の一部が配置されているので、異物の発生を防ぎつつ、流路ユニット4とコモン電極27とを電気的に接続することが可能になる。つまり、流路ユニット4に凹部30による無垢の面があることで、流路ユニット4とアクチュエータユニット21との間から流出した接着剤を除去する除去作業の必要がなくなる。そのため、接着剤の滓などの異物が発生しない。したがって、異物によってインクジェットヘッドを汚すこともなく、また異物の清掃メンテナンスもする必要がなくなる。
【0046】
さらに、本実施の形態では、使用するインクの種類にもよるが、絶縁部材であるノズルプレート11を除いて、流路ユニット4のほとんど全てがコモン電極27と同電位に保たれることになる。そのため、流路ユニット4と帯電した用紙とが接触して流路ユニット4に電荷が蓄積したとしても、相変わらず流路ユニット4の大部分とアクチュエータユニット21のコモン電極27とは同電位に保たれているので、蓄積した電荷による不具合が生じにくくなる。すなわち、本実施の形態では、一種の絶縁体である圧電シート25は、圧力室10においてインクと接触するが、圧電シート25を取り囲むように配設されているコモン電極27及び圧力室10が形成されている流路ユニット4の大部分とはインクも含めてコモン電極27と同電位にある。そのため、圧電シート25と接触しているインクがコモン電極27と異なる電位にあるときに起こることがある、例えば、インク成分の分解や生成物等の圧電シート25内への侵入によるアクチュエータユニット21の電気的構造的な破損が生じない。このような不具合を極力少なくするという観点からは、電荷を蓄積することがあるノズルプレート11も導電性の材料で形成することが有効である。また、流路ユニット4が導体パターン82bを介してグランドに接続されグランド電位とされているので、流路ユニット4と帯電した用紙とが接触して流路ユニット4に電荷が蓄積しようとしても、FPC50のドライバIC75を迂回するようにFPC50の導体パターン82bを介してグランドに電荷が流れてしまい、ドライバIC75はこのような電荷の移動に伴う電気的な損傷を免れることができる。
【0047】
また、凹部30の底面には、溝91が形成されているので、キャビティプレート18とサプライプレート17とを接着する接着剤が凹部30の底面に流れ出て、凹部30の底面を被覆するのを抑制することができる。つまり、図9(a)に示すように、キャビティプレート18の下面に接着剤97を塗布し、キャビティプレート18の貫通孔19とサプライプレート17の溝91とが対向するように配置させつつ、キャビティプレート18とサプライプレート17とを近づける方向に移動させる。そして、図9(b)に示すようにキャビティプレート18とサプライプレート17とを加圧しつつ加熱して接着剤97を硬化させる。このとき、図9(b)に示すようにキャビティプレート18とサプライプレート17との間の接着剤97が、凹部30の底面縁から中央に向かって流れ出てきても溝91内に流入するので、凹部30の底面が接着剤97によって被覆されにくくなる。加えて、凹部30の内壁には、突出部19aが形成されているので、凹部30内にアクチュエータユニット21と流路ユニット4とを接着する接着剤96が流れ込んできても、その接着剤96は突出部19aによって堰き止められる。そのため、凹部30の底面が接着剤96によって被覆されにくくなる。さらに溝91の平面形状が環状に形成されているので、凹部30の底面中央領域には、確実に導電性の高い無垢の面が存在することになる。したがって、流路ユニット4とコモン電極27との電気的接続が確実なものとなる。また、導電性部材90が、凹部30の底面中央部分と凸部19a近傍部分に固定されているので、流路ユニット4とコモン電極27との電気的接続がより確実なものとなる。
【0048】
また、凹部30がキャビティプレート18の厚さと同じ深さを有しているので、凹部30内の表面積が比較的に大きくなる。そのため、アクチュエータユニット21と流路ユニット4とを固定する接着剤が凹部30に流れ込んでも、凹部30内には接着剤に被覆されていない無垢の面が残る。したがって、流路ユニット4とコモン電極27との電気的接続の信頼性が向上する。
【0049】
本実施の形態においては、キャビティプレート18に凹部30となる貫通孔19が形成されているが、図10に示すようにサプライプレート17にも貫通孔19と連通することで凹部98となる同様の貫通孔99が形成されていてもよい。図10は、本発明の一実施形態によるインクジェットヘッドの変形例を示す拡大断面図である。なお、上述したインクジェットヘッド1と同様なものについては、同符号を示し説明を省略する。図10に示すように、サプライプレート17のキャビティプレート18の貫通孔19に対向する位置には、サプライプレート17の厚み方向に貫通し、突出部19aと同様の突出部99aを有する貫通孔99が形成されている。そして、アパーチャプレート16の上面であって、貫通孔99と対向する位置に上述の溝91が形成されている。これらキャビティプレート18、サプライプレート17及びアパーチャプレート16の3枚のプレートが積層することで、流路ユニット4に凹部98が形成される。これにより、凹部98は、上述した凹部30よりも内部の表面積が大きくなる。そのため、流路ユニット4とコモン電極27との電気的接続の信頼性がより向上する。加えて、凹部98内には、2つの突出部19a,99aが存在するので、凹部98内にアクチュエータユニット21と流路ユニット4とを接着する接着剤が流れ込んできても、その接着剤は突出部19a,99aによって2段階で堰き止められることになる。そのため、凹部98の底面が接着剤によってより被覆されにくくなる。
【0050】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述した本実施の形態における流路ユニット4には、溝91及び突出部19a,99aが形成されていなくてもよい。また、溝91が断続的に形成されていてもよい。また、凹部30が貫通孔19によって構成されていなくてもよく、キャビティプレート18に貫通しない穴(凹部)を形成し、その穴内に表面電極29に接続した導電性部材の一部を配置すればよい。この場合、アクチュエータユニット21をキャビティプレート18に固定するために、キャビティプレート18に塗布される接着剤はこの凹部内には塗布されないので、両者の接合後にも、この凹部内に導電性の高い無垢の面を残すことができる。そのため、導電性材料との良好な電気的接続が確保される。また、凹部の深さがカバープレート12に達する深さを有していてもよい。これにより、さらに凹部内の表面積が大きくなる。
【0051】
また、本実施の形態における流路ユニット4は、ノズルプレート11を除くプレート12〜18がすべて金属製からなり導電性を有しているが、キャビティプレート18だけが導電性を有していればよい。このような構成であっても、キャビティプレート18がFPC50の導体パターン82bを介してグランドに接続されておれば、圧力室10の壁部として働く圧電シート25は、相変わらずその大部分がグランド電位にあるコモン電極27とキャビティプレート18で取り囲まれた状態にあるので、圧電シート25自体が直接帯電するようなことはない。また、圧力室10内にあるインクも、グランド電位にあるキャビティプレート18が隣接することから、他の部位における電荷の蓄積により生じる電位差の影響も少ない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態によるインクジェットヘッドの斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図2に示すヘッド本体にフレームが接着された状態を示す斜視図である。
【図4】図2に示すヘッド本体とフレキシブルプリント回路とを分離させた状態の斜視図である。
【図5】図4に示すFPC及びヘッド本体の分解斜視図である。
【図6】図4に示すVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】図6に示す一点鎖線で囲まれた領域の拡大図である。
【図8】図4に示すヘッド本体の拡大平面図である。
【図9】(a)は図5に示すキャビティプレートとサプライプレートとを接着する前の状況を示す図である。(b)は図5に示すキャビティプレートとサプライプレートとを固定したときの状況を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態によるインクジェットヘッドの変形例を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 インクジェットヘッド
4 流路ユニット
8 ノズル
10 圧力室
17 サプライプレート
18 キャビティプレート
19a,99a 突出部
24,25 圧電シート
26 個別電極
27 コモン電極(共通電極)
30,98 凹部
82a 導体パターン(個別配線)
82b 導体パターン(基準配線)
93 カバーフィルム(絶縁フレキシブル層)
90 導電性部材
91 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレートが積層された積層構造体であって、それぞれがノズルに連通した複数の圧力室が形成された流路ユニットと、
前記複数の圧力室に跨って延在した圧電シート、それぞれが前記圧電シート上において各圧力室に対向する位置に配置された複数の個別電極、及び、前記複数の個別電極と共に前記圧電シートを挟む共通電極を含み、前記流路ユニットの一表面に固定されて各圧力室の容積を変化させるアクチュエータユニットとを備えており、
前記流路ユニットを構成する前記複数のプレートのうち、少なくとも前記一表面を含み最外層に積層された最外層プレートが導電性を有しており、
前記一表面において、前記アクチュエータユニットが固定されていない領域には、凹部が形成されており、
前記凹部内には、前記最外層プレートを介して前記流路ユニットと前記共通電極とを電気的に接続する導電性部材の一部が固定されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記凹部が、前記最外層プレートの厚さ以上の深さを有していることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記凹部が、前記最外層プレートの厚さと前記最外層プレートに隣接したプレートの厚さとを足し合わせた以上の深さを有していることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記凹部の底面において、少なくとも前記アクチュエータユニットに隣接した周縁近傍には、溝が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記溝が、前記底面の中央領域を囲むように延在していることを特徴とする請求項4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記最外層プレートが、
当該プレートの厚さ方向の中央部において、前記凹部の内側に突出する凸部を有していることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記導電性部材が、
前記アクチュエータユニットの前記共通電極に電気的に接続されていると共に、前記最外層プレートの前記凸部と前記凹部の前記中央領域とに固定されていることを特徴とする請求項6に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
各圧力室の容積を変化させるための駆動信号を供給する複数の個別配線と、基準となる一定電位を供給する基準配線と、前記複数の個別配線及び前記基準配線を支持する絶縁フレキシブル層とを有する平型柔軟ケーブルをさらに備え、
前記複数の個別配線がそれぞれ対応する前記個別電極に固定され、且つ、前記基準配線が前記共通電極に固定されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−15558(P2006−15558A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194330(P2004−194330)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】