説明

インクジェットヘッド

【課題】低温で硬化することができ、耐溶剤性を向上させることができる接着剤を使用することにより、高性能なインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】多官能エポキシ化合物、ノボラック又はビスフェノール類より誘導されたエポキシ化合物、脂環式アミン化合物、及び下記一般式(1)のアルコールを含有する接着剤Sで、配線基板2とマニホールド5とを接着して、インクジェットヘッドを製造する。


・・・(1)[ここで、m、nは0乃至2、Rは炭素数1〜12のアルキル基又はアルコキシ基であり、2つの基が連結して環を形成しても良い。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、メッシュ状のスクリーンに所望のパターンを形成して当該パターンを通過したインクを記録媒体に印刷する「スクリーン印刷技術」が、液晶のカラーフィルターの製造や液晶配向膜の塗布、有機EL(Electro Luminescence)等の各種精密電子部品の製造等に広く適用されている。
【0003】
しかしながら、上記スクリーン印刷技術には、印刷前に予めスクリーンを設計・製造しなければならなかったり、パターンを変更するごとに新規のスクリーンを設計・製造し直さなければならなかったりして簡単・安価に画像等の印刷を行えないという不都合がある。そのため、近年では、簡単・安価に画像等の記録をおこなえる「インクジェット技術」が上記スクリーン印刷技術に代わる技術として適用され始めている。
【0004】
インクジェット技術というのは、インクを滴として吐出する「インクジェットヘッド」を記録媒体上で走査して当該記録媒体に画像等を記録する技術である。
インクジェット用インクには、水を主溶媒とした水系インクと、有機溶媒を主溶剤とした溶剤系インクがある。水系インクは、水吸収性の記録媒体に記録するために用いられ、記録媒体としては紙やプラスチック支持体に水吸収性のコーティング層を有するものがある。これに対し、溶剤系インクは水を吸収しないプラスチックからなる記録媒体に用いられ、大きな広告などのディスプレイに用いられる。屋外に展示するディスプレイを作成するための記録媒体は主に塩ビシートが使用され、インクは塩ビシートに定着される。
【0005】
溶剤系インクは顔料、高分子分散剤、溶剤からなる。溶剤は、記録媒体のプラスチックを溶かして顔料と高分子分散剤を記録媒体に固定させる役割を果たす。また、溶剤は高分子分散剤の回りに配位して分散を助ける。さらに、溶剤は樹脂を溶解する性質を有している。
ここで、上記インクジェットヘッドはそれを構成する部材同士が接着剤で接着されているが、溶剤系インクは接着剤に対しても侵食性を有する。
耐溶剤性のある接着剤として、低温で硬化するインクジェット用接着剤が知られている
(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−289950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の接着剤は、従来のインクに対して耐久性を有していたが、近年画像の耐久性の向上やプリント作業の環境改善のため新しいインクが検討されている。これらのインクには従来のインクと異なった溶媒が使用されており、より耐溶剤性を向上させる必要がある。耐溶剤性を向上させるためには、硬化温度の高い接着剤を用いて架橋度を向上させることが一般的に有効であるが、高温で接着すると部材間に熱膨張による応力が発生し、インク流路が破壊されたり変形したりする。特に、圧力発生素子に圧電素子を用いたインクジェットヘッドでは圧電素子に応力がかかることによりインクの出射速度のバラツキを生じ、印刷の品質低下をもたらすことがある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、低温で硬化することができ、耐溶剤性を向上させることができる接着剤を使用することにより、高性能なインクジェットヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、多官能エポキシ化合物、ノボラック又はビスフェノール類より誘導されたエポキシ化合物、脂環式アミン化合物、及び下記一般式(1)のアルコールを含有する接着剤で部材を接着して製造したことを特徴とする。
【化1】

・・・(1)
[ここで、m、nは0乃至2、Rは炭素数1〜12のアルキル基又はアルコキシ基であり、2つの基が連結して環を形成しても良い。特に、n=1が好ましい。]
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記接着剤は、3級アミン化合物を含有することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記多官能エポキシ化合物が下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする。
【化2】

・・・(2)
[ここで、R1又はR2は水素原子又はアルキル基である。]
【0010】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記多官能エポキシ化合物の含有量が、当該多官能エポキシ化合物と、前記ノボラック又はビスフェノール類より誘導されたエポキシ化合物と、の全エポキシ化合物の30重量%以上90重量%以下であることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記多官能エポキシ化合物の含有量が、当該多官能エポキシ化合物と、前記ノボラック又はビスフェノール類より誘導されたエポキシ化合物と、の全エポキシ化合物の50重量%以上80重量%以下であることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記一般式(1)のアルコールがベンジルアルコールであり、
ベンジルアルコールの含有量が、前記多官能エポキシ化合物と、前記ノボラック又はビスフェノール類より誘導されたエポキシ化合物と、の全エポキシ化合物100重量部に対して3重量部以上30重量部以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記接着剤による硬化を20℃以上60℃以下で行うことを特徴とする。
【0014】
請求項8の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
インクのチャネルを有するヘッドチップと、前記ヘッドチップに対し接着される被接着部材とが前記接着剤により接着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低温で硬化することができ、耐溶剤性を向上させることができる接着剤を使用することにより、高性能なインクジェットヘッドとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲は以下の実施形態及び図示例に限定されるものではない。
【0017】
まず、インクジェットヘッド(以下、ヘッドと言う)の構成について説明する。
図1(a)は、ヘッド100の斜視図、図1(b)は、ヘッド100の底面図、図2は、ヘッド100の分解斜視図である。なお、図2では、カバー部材9の図示を省略している。
【0018】
ヘッド100は、インクをノズル11a(図4参照)から吐出するヘッドチップ1と、ヘッドチップ1が配設された配線基板2と、配線基板2とフレキシブル基板3を介して接続された駆動回路基板4と、ヘッドチップ1のチャネル13にフィルタFを介してインクを導入するマニホールド5と、内部にマニホールド5を収納する筐体6と、筐体6の底面開口61を塞ぐように取り付けられたキャップ受板7と、筐体6に取り付けられたカバー部材9と、を備えている。
【0019】
図3(a)は、ヘッドチップ1、配線基板2、フレキシブル基板3及び駆動回路基板4を示す斜視図、図3(b)は、ヘッドチップ1を図3(a)と異なる方向から見た際の斜視図、図4は、ヘッドチップ1及び配線基板2を模式的に示す分解斜視図である。
なお、図4にあっては、図の簡略化のため、ノズル列が1列のヘッドチップ1及び電極部21が前側にのみ配設された配線基板2を模式的に表している。
【0020】
ヘッドチップ1は、左右方向に長尺な略四角柱状の部材である。ヘッドチップ1の下面には、インクの吐出口となるノズル11a(図4参照)が形成されたノズルプレート11が配設されている。
ヘッドチップ1の上面には、その上面開口を上側に露出させるように配線基板2が配設されている。配線基板2の左右方向に沿った両縁部には、駆動回路基板4,4と接続された2つのフレキシブル基板3,3が配設されている。
【0021】
ヘッドチップ1は、圧電素子からなる駆動壁12とチャネル13とが交互に左右方向に沿って並設されている。
ヘッドチップ1の上面及び下面に、それぞれ各チャネル13の入口と出口とが配置されている。各チャネル13は、略矩形状の断面を有し、上下方向に沿って形成されている。また、各チャネル13は、入口から出口に亘る長さ方向(上下方向)で大きさと形状がほぼ変わらないストレートタイプであり、複数のチャネル13,13,…が互いに平行となるように配設されている。また、各チャネル13の出口に各ノズル11aを連通させるようにノズルプレート11が配設されている。
【0022】
各チャネル13の内面には、駆動壁12を駆動させるための駆動電極14が設けられている。駆動電極14は、各チャネル13毎に独立した金属被膜であり、ヘッドチップ1の上面に取り付けられた配線基板2の電極部21と接続されている。
そして、ヘッドチップ1は、フレキシブル基板3から入力された制御信号に基づいて駆動壁12が膨張・収縮を繰り返すことにより、ノズル11aからインクを吐出するようになっている。
【0023】
上記構成のヘッドチップ1にあっては、インクの吐出量を調整する場合、チャネル13及び駆動壁12の上下方向(延在方向)の長さを調整することにより行うようになっている。
従って、チャネル13及び駆動壁12の上下方向の長さを変更することによって、ヘッドチップ1全体の上下方向(インク吐出方向)の長さも変化することとなる。
【0024】
配線基板2は、左右方向に長尺な略矩形板状に形成されており、ヘッドチップ1に対して左右方向及び前後方向の各幅が大きくなっている。また、配線基板2の略中央部には開口部22が形成されている。
開口部22は、左右方向に長尺な略矩形状に形成され、配線基板2にヘッドチップ1が取り付けられた状態で、開口部22を介してヘッドチップ1の上面のチャネル13入口が露出されるようになっている。
また、開口部22の前後方向側の縁部には、ヘッドチップ1の駆動電極14と接続される電極部21が所定数配設されている。
【0025】
配線基板2の前後方向側の両縁部には、フレキシブル基板3が配設されている(図3(a)参照)。
フレキシブル基板3は、駆動回路基板4と電気的に接続される複数の配線31,31,…を有している。そして、配線31と配線基板2の電極部21とがそれぞれ電気的に接続されている。
これにより、駆動回路基板4からの信号が、フレキシブル基板3の配線31、配線基板2の電極部21を介してヘッドチップ1の各チャネル13内の駆動電極14に印加される。
【0026】
配線基板2の上面外周縁23(図2、図3(a)参照)には、マニホールド5の下端部が固定されている。これら配線基板2とマニホールド5とは、マニホールド5の下端部に塗布された後述の接着剤S(図5(b)、図6参照)によって接着されている。すなわち、マニホールド5は、ヘッドチップ1のチャネル13の入口側に配置され、配線基板2を介してヘッドチップ1が配設されている。
【0027】
図5(a)は、マニホールド5の斜視図、図5(b)は、マニホールド5を図5(a)と180℃異なる方向から見た際の斜視図、図6は、図1のヘッド100の側断面図である。なお、図6にあっては、カバー部材9の図示を省略している。
マニホールド5は、樹脂により成形されてなる部材であり、ヘッドチップ1のチャネル13に導入するインクを貯留するものである。具体的に、マニホールド5は、左右方向に長尺なインク貯留部51を構成する中空状の本体部52と、インク貯留部51にインクを流通させる第1インクポート53、第2インクポート54及び第3インクポート55と、フィルタFを通過したインクを洗浄するための洗浄パイパス部56と、を備えている。
【0028】
本体部52は、下面が開口した箱形状をなしており、その下面開口の縁部に、下面開口よりも長さ及び幅の大きな配線基板取付部521が設けられている。配線基板取付部521も下面が開口した箱形状をなし、その下面開口を塞ぐように配線基板2が取り付けられている。これによって、本体部52及び配線基板取付部521の内部にインク貯留部51が形成されている。
【0029】
本体部52の上面の左右2箇所には、上方に突出しインク貯留部51に連通する第1インクポート53及び第2インクポート54が設けられている。さらに、本体部52の上面で第1インクポート53の外側には、上方に突出しインク貯留部51に連通する洗浄パイパス部56が設けられ、第2インクポート54の外側には、上方に突出しインク貯留部51に連通する第3インクポート55が設けられている。
【0030】
洗浄バイパス部56は、ヘッドチップ1のチャネル13内の異物を洗浄除去するためフィルタFを通過したインク室51b内のインクを外部に流す。洗浄バイパス部56は、チャネル13内の異物を洗浄除去後、封止やキャップ等で塞がれるようになっている。
第2インクポート54は、インク流通路51a内のインクを外部に流すことによって、ゴミや気泡等を除去する。
第3インクポート55は、インク室51b内のインクを外部に流すことによって、気泡等を除去するようになっている。
【0031】
インク貯留部51内で本体部52と配線基板取付部521との間には、インク中のゴミ等を除去するためのフィルタFが設けられている。フィルタFは、本体部52を形成する4つの側壁面に対して略垂直で、かつ、本体部52の上面に対して略並行に配置されている。このようにフィルタFが配置されることによって、インク貯留部51内が上下に二分割されており、上側部分がインク流通路51aとされ、下側部分がインク室51bとされている。
インク流通路51aの上流側端部は第1インクポート53に連通し、下流側端部は第2インクポート54に連通している。また、インク室51bは、インク流通路51aからフィルタFを通過してヘッドチップ1にインクを導くようになっている。インク室51bの一端部は、洗浄バイパス部56に連通し、他端部はフィルタFを介して第3インクポート55に連通している。また、インク室51bは全てのチャネル13に共通とされている。
【0032】
図1及び図6に示すように、筐体6は、アルミニウムを材料としてダイキャスト法により成形されてなる部材であり、底面が開放された中空状に形成されている。筐体6は、その内部にヘッドチップ1、配線基板2及びフレキシブル基板3が取り付けられたマニホールド5を収納している。
筐体6の上面の左右2箇所で、第1インクポート53及び第2インクポート54に対応する位置には、これら第1インクポート53及び第2インクポート54が挿通される挿通穴63,64が形成されている。また、筐体6の上面の上記挿通孔63,64の外側で、第3インクポート55及び洗浄バイパス部56に対応する位置にも、これら第3インクポート55及び洗浄バイパス部56が挿通される挿通孔65,66が形成されている。
そして、各挿通孔63〜66に挿通された第1インクポート53、第2インクポート54及び第3インクポート55は、ジョイント81,82,83によって上下にスライド自在に外挿されている。
【0033】
筐体6の底面開口61の縁部には、底面開口61を塞ぐようにキャップ受板7が取り付けられている。
キャップ受板7は、左右方向に長尺な略矩形状に形成され、その略中央部にノズルプレート11を露出させるノズル用開口71が形成されている。
【0034】
筐体6の左右方向略中央部には、マニホールド5に接続された2つの駆動回路基板4,4及びフレキシブル基板3,3を挿通させる基板挿通用開口62が2つ形成されている。これら基板挿通用開口62,62は、筐体6にカバー部材9が取り付けられることで閉塞されるようになっている。
【0035】
次に、上述したように配線基板2とマニホールド5とを接着する接着剤Sについて説明する。
接着剤Sは、多官能エポキシ化合物、ノボラック又はビスフェノール類より誘導されたエポキシ化合物、脂環式アミン化合物及び下記一般式(1)のアルコールを含有する。ここで、多官能エポキシ化合物、ノボラック又はビスフェノール類より誘導されたエポキシ化合物が主剤であり、脂環式アミン化合物及び下記一般式(1)のアルコールの混合物が硬化剤である。
【化3】

・・・(1)
[ここで、m、nは0乃至2、Rは炭素数1〜12のアルキル基又はアルコキシ基であり、2つの基が連結して環を形成しても良い。]
【0036】
[多官能エポキシ化合物]
多官能エポキシ化合物は、その含有量が該多官能エポキシ化合物と、前記ノボラック又はビスフェノール類より誘導されたエポキシ化合物と、の全エポキシ化合物の30重量%以上90重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、全エポキシ化合物の50重量%以上80重量%以下である。90重量%を超えた場合には、ヒートサイクルによりインク流路の漏れが生じ、耐溶剤性も悪く、30重量%を下回ると耐溶剤性が低下し、薄膜硬化性が悪くなるからである。
本発明で言う多官能エポキシ化合物は、ノボラックエポキシを除く3官能以上のエポキシ化合物である。多官能エポキシ化合物の具体例としては、トリグリシジル-p-アミノフェノール(92.3)(TGAPと言う)、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(105.5)、トリグリシジルイソシアヌレート(99)、トリグリシジルウラゾール(89.7)、トリグリシジルアミノクレゾール(97)、テトラグリシジル-1,3-ジアミノメチルシクロヘキサン(91.5)、等が挙げられる。中でもTGAPを使用することが好ましく、TGAPは下記一般式(2)で表される化合物の1つである。
【化4】

・・・(2)
[ここで、R1又はR2は水素原子又はアルキル基である。]
【0037】
[ビスフェノール類]
ビスフェノール類の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、等が挙げられる。
【0038】
[ノボラック]
ノボラックエポキシの具体例としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0039】
[脂環式アミン化合物]
脂環式アミン化合物の具体例としては、4,4’-ジアミノシクロヘキシルメタン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、等が挙げられる。
【0040】
[アルコール]
アルコールの具体例としては、ベンジルアルコール、4-メチルベンジルアルコール、2-フェニルエタノール、3,4-ジメトキシベンジルアルコール、4-メトキシベンジルアルコール、ノニルアルコール、ピペロニアルコール、等が挙げられる。特に、上記一般式(1)においてn=1が好ましい。
ベンジルアルコールを使用する場合には、全エポキシ化合物100重量部に対して3重量部以上30重量部以下とすることが好ましい。3重量部未満の場合には、耐溶剤性が不良となり、30重量部を超えた場合には、耐溶剤性が不良又はヒートサイクルが不良となるためである。
【0041】
また、上記接着剤には、3級アミン化合物を含有させることが好ましい。3級アミン化合物の具体例としては、2,4,6-トリスジメチルアミノメチルフェノール、N,N-ジメチルベンジルアミン、2−ジメチルアミノメチルフェノール、等が挙げられる。
【0042】
上記インクジェットヘッド100から吐出される「インク」は、染料,顔料などの色材やそれを溶解させる溶媒(溶剤)などから構成されているもので、その種類は特には限定しないが、SP(Solubility Parameter)値((cal/cm)1/2)が9.5〜15.0でかつ双極子能率が2.0〜5.0である溶媒を全溶媒に対し3重量%以上含有しているものであることが印刷画像の定着性の点から好ましく、本実施形態によれば、このようなインクに対して耐久性が劣化しないという特徴を有する。当該溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド(SP値=12.1,双極子能率=3.86),N−メチル−2−ピロリジノン(SP値=11.3,双極子能率=4.09),乳酸エチル(SP値=10.0,双極子能率=2.14),シクロヘキサノン(SP値=9.9,双極子能率=3.01),2−ピロリジノン(SP値=14.7,双極子能率=3.83)などが挙げられる。
【0043】
なお、ここでの双極子能率はMOPACのAM1により算出したもので、SP値はBicerano法により算出したものである。「Bicerano法」はPrediction of Polymer Properties (Plastics Engineering, 65)Jozef Bicerano (著)に記載されている。
【0044】
また、本発明で使用する接着剤Sは、20℃以上60℃以下で硬化することが好ましい。
なお、上記説明では、接着剤Sは、配線基板2とマニホールド5との接着に使用するとしたが、これに限らず、ヘッドチップ1とノズルプレート11との接着にも使用することができる。この場合、ヘッドチップ1の下面又はノズルプレート11の上面の少なくとも一方に前記接着剤Sを塗布することによって接着固定する。また、ヘッドチップ1の上面と配線基板2の下面との接着や、フレキシブル基板3の下端部と配線基板2の下面との接着、その他、筐体6とキャップ受板7との接着、マニホールド5とフィルタFとの接着にも使用することができる。
【0045】
また、上記ヘッド100は一例であって、この構造に限定されずに適宜変更可能である。例えば、第1インクポート53からインクを供給し、第2インクポート54からインクを排出する構成としたが、反対に、第2インクポート54からインクを供給して第1インクポート53からインクを排出する構成としても良い。また、第3インクポート55及び洗浄バイパス部56は、特に設けなくても良い。
【0046】
次に、上記構成からなるヘッド100の作用について説明する。
ヘッド100は、ヘッドチップ1の上面に配線基板2が取り付けられることにより、ヘッドチップ1の各チャネル13の駆動電極14と、配線基板2の電極部21が電気的に接続する。
そして、ヘッド1にインク吐出にかかる信号が送られると、フレキシブル基板3の配線から配線基板2の電極部21を介してヘッドチップ1の接続電極ひいては駆動電極14に信号が到達する。すると、第1インクポート53から供給されたインクはインク導入路51a、フィルタF及びインク室51bを介してチャネル13内にインクが導入される。このとき圧電素子によって形成される駆動壁12がせん断変形し、チャネル13内のインクに圧力が付与されるため、ノズルプレート11に形成されたノズル11aよりインクが吐出される。
【実施例】
【0047】
[試料1〜13の作製]
表1に示す組成の通り、主剤と硬化材とを混合し、その混合物を1粒当たり0.1gの粒状物としてテフロン(登録商標)シート上に滴下した。その後、滴下した各粒状物を25℃で10時間放置して硬化させ、接着剤の錠剤を作製し、これらを試料1〜13とした。
【0048】
なお、表1中、主剤の項目中、括弧内の数字は各エポキシ樹脂の重量部を示す。表1中、硬化材の項目中、括弧内の数字は主剤100重量部に対するその硬化剤の重量部を示す。
また、表1中の各用語は以下の通りである。
TGAP:トリグリシジル-P-アミノフェノール
TGDPM:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン
E1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(184〜194g/eq)(エピコート828;ジャパンエポキシレジン株式会社製)
E2:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(160〜170g/eq)(エピコート806;ジャパンエポキシレジン株式会社製)
E3:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(172〜178g/eq)(エピコート152;ジャパンエポキシレジン株式会社製)
H1:4,4’-ジアミノシクロヘキシルメタン
H2:1,2-ジアミノシクロヘキサン
H3:2,4,6-トリスジメチルアミノメチルフェノール
AL1:ベンジルアルコール
AL2:ノニルアルコール
AL3:ピペロニルアルコール
【0049】
[ヘッド1〜13の作製]
アルミ部材と、マニホールドを試料1〜13の接着剤で接着し、各接着剤に40℃の熱を6時間加えて各接着剤を硬化させた。そして、それら接着剤の種類に応じた合計13種対のインクジェットヘッドを製造し、これらインクジェットヘッドをヘッド1〜13とした。
【0050】
[評価]
(1)有機溶媒耐久性試験
試料1〜13の重量を測定し、各試料1〜13を有機溶媒に浸積し60℃で1週間保管した。そして、1週間後の試料1〜13の重量を測定し、重量変化率を求めた。有機溶剤を乳酸エチル、酢酸エチル、シクロヘキサノン、酢酸2−n−ブトキシエチル、アニソールとし、全ての溶剤で重量変化率が7%以下の場合を◎とし、4種の溶剤で7%以下の場合を○とし、3種の溶剤で7%以下の場合を△とし、2種以下の溶剤で7%以下の場合を×とした。
【0051】
(2)ヒートサイクル試験
1回目のヒートサイクル試験として、−20℃、3時間→80℃、3時間を1サイクルとした3サイクル分のヒートサイクル環境に各ヘッド1〜13を供し、流路を10秒間、0.1気圧に減圧して、空気の漏れを測定した。漏れが0.2ml以下の場合を○とし、0.2mlを超える場合を×とした。
【0052】
(3)薄膜硬化性試験
試料1〜13の接着剤をスライドグラスに付着させ、ベンコットで薄く延ばした後、40℃で6時間加熱した。そして、触感により接着剤の粘着性を観察した。粘着性が無い場合は○、粘着性がある場合は×とした。
【0053】
(4)耐水性試験
上記有機溶媒耐久性試験において、有機溶媒の代わりに水を用いて同様に試験を行った。重量変化率が4%以下の場合は○、4〜7%の場合は△、7%以上の場合は×とした。
【0054】
【表1】

【表2】

【0055】
表2に示す通り、ヘッド1〜ヘッド9は、それ以外のヘッド10〜13に比較して結果が良好であった。特に、ヘッド1〜9のような特定組成の接着剤は、40℃の低温で硬化して、複数種の溶剤にも耐久性を得られ、ヒートサイクル試験からは空気漏れも生じなかった。その結果、このような本発明の接着剤が部材のひび割れ、歪み、剥離等を防止するのに有効に機能することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】(a)は、インクジェットヘッドの斜視図、(b)は、インクジェットヘッドの底面図である。
【図2】インクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図3】(a)は、ヘッドチップ、配線基板、フレキシブル基板及び駆動回路基板を示す斜視図、(b)は、ヘッドチップを図3(a)と異なる方向から見た際の斜視図である。
【図4】ヘッドチップ及び配線基板を模式的に示す分解斜視図である。
【図5】(a)は、マニホールドの斜視図、(b)は、マニホールドを図5(a)と180℃異なる方向から見た際の斜視図である。
【図6】図1のインクジェットヘッドの側断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 ヘッドチップ
2 配線基板(被接着部材)
3 フレキシブル基板
5 マニホールド
6 筐体
7 キャップ受板
11 ノズルプレート(被接着部材)
13 チャネル
100 インクジェットヘッド
S 接着剤
F フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能エポキシ化合物、ノボラック又はビスフェノール類より誘導されたエポキシ化合物、脂環式アミン化合物、及び下記一般式(1)のアルコールを含有する接着剤で部材を接着して製造したことを特徴とするインクジェットヘッド。
【化1】

・・・(1)
[ここで、m、nは0乃至2、Rは炭素数1〜12のアルキル基又はアルコキシ基であり、2つの基が連結して環を形成しても良い。]
【請求項2】
前記接着剤は、3級アミン化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記多官能エポキシ化合物が下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド。
【化2】

・・・(2)
[ここで、R1又はR2は水素原子又はアルキル基である。]
【請求項4】
前記多官能エポキシ化合物の含有量が、当該多官能エポキシ化合物と、前記ノボラック又はビスフェノール類より誘導されたエポキシ化合物と、の全エポキシ化合物の30重量%以上90重量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記多官能エポキシ化合物の含有量が、当該多官能エポキシ化合物と、前記ノボラック又はビスフェノール類より誘導されたエポキシ化合物と、の全エポキシ化合物の50重量%以上80重量%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記一般式(1)のアルコールがベンジルアルコールであり、
ベンジルアルコールの含有量が、前記多官能エポキシ化合物と、前記ノボラック又はビスフェノール類より誘導されたエポキシ化合物と、の全エポキシ化合物100重量部に対して3重量部以上30重量部以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項7】
前記接着剤による硬化を20℃以上60℃以下で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
インクのチャネルを有するヘッドチップと、前記ヘッドチップに対し接着される被接着部材とが前記接着剤により接着されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−285904(P2009−285904A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138918(P2008−138918)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【出願人】(391003244)阪奈化学工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】