説明

インクジェットヘッド

【課題】インクの劣化を抑制できるインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】インクジェットヘッド1は、インク31が供給されるインク室33が形成された圧電部材3、4と、インク室33を構成する圧電部材3、4内面に接する最内金属層25a(25b)と、インク室33に充填されたインク31と接する最外金属層27a(27b)と、最内金属層25a(25b)と最外金属層27a(27b)とに挟まれた中間金属層26a(26b)とを有する電極7(8)とを備えている。最内金属層25a(25b)は、ニッケルにより構成されている。中間金属層26a(26b)は、銅により構成されている。最外金属層27a(27b)は、金(Au)により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の一部がインクと接触するインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電極の一部がインクと接するインクジェットヘッドが知られている。
【0003】
特許文献1には、インクが貯溜されるインク室を形成する圧電部材と、インク室を囲む圧電部材の内面に形成された単層のニッケル層等からなる第1電極及び第2電極と、圧電部材の吐出面に設けられたノズルプレートとを備えたインクジェットヘッドが開示されている。
【0004】
特許文献1のインクジェットヘッドでは、第1電極と第2電極との間に交流電圧を印加することにより圧電部材が変形する。これにより、インクに圧力が作用するので、インクが液滴となってノズルから吐出されて、印刷用紙等に画像が印刷される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3943971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、電極と電極との間に交流電圧を印加するので、電極間に電磁波が発生する。この電磁波が、熱に変換されてインクに吸収されると、インクが発熱して高温になる。これにより、インクが劣化しやすいといった課題がある。
【0007】
インクが劣化する理由としては、以下の例を上げることができる。まず、インクに顔料として含まれる錯体金属、例えば、フタロシアニン銅(PcCu)が、インク内に溶存する酸素によって、亜酸化銅(CuO)及び酸化銅(CuO)へと順に酸化される。この後、酸化銅は、電圧が印加された電極の表面で還元されて金属銅(Cu)となる。これにより、銅が電極の表面に電析して、電極が劣化する。一方で、インク中にアルコール系溶剤が含まれる場合には、この還元反応に伴って、溶剤が酸化されて、ギ酸等のカルボン酸が生成される。この結果、インクが劣化する。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、インクの劣化を抑制できるインクジェットヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、インクが供給されるインク室が形成された圧電部材と、前記インク室を構成する前記圧電部材内面に接する最内金属層と、前記インク室に充填されたインクと接する最外金属層と、前記最内金属層と前記最外金属層とに挟まれた中間金属層とを有する電極とを備え、前記最内金属層と、前記中間金属層と、前記最外金属層は、異なる金属により構成されている。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記中間金属層の透磁率は、前記最内金属層及び前記最外金属層の透磁率よりも低い。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、前記最内金属層の透磁率は、前記最外金属層の透磁率よりも高い。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記最内金属層を構成する金属元素は、前記中間金属層を構成する金属元素と周期表における周期または族が同じであって、前記最外金属層を構成する金属元素は、前記中間金属層を構成する金属元素と周期表における周期または族が同じである。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、前記最内金属層は、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択された1種の金属からなり、前記中間金属層は、銅または白金のいずれか1種の金属からなり、前記最外金属層は、銀または金のいずれか1種の金属からなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、異なる3種類の金属層からなる電極を備えているので、各金属層間にインピーダンス不整合を発生させることができる。これにより、各金属層に渦電流が発生して、電極が電磁波を熱エネルギーとして吸収することができる。この結果、電磁波が熱となってインクに吸収されることを抑制できるので、インクの劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態によるインクジェットヘッドの全体斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】電極及び保護膜の積層構造を説明する断面図である。
【図6】インクジェットヘッドが設けられるインクジェットプリンタの概略の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、本発明による第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態によるインクジェットヘッドの全体斜視図である。図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。図3は、図1のIII−III線に沿った断面図である。図4は、図3のIV−IV線に沿った断面図である。図5は、電極及び保護膜の積層構造を説明する断面図である。図6は、インクジェットヘッドが設けられるインクジェットプリンタの概略の一部構成図である。尚、以下の説明において、図1の矢印で示す上下左右前後を上下左右前後方向とする。
【0017】
図1〜図5に示すように、第1実施形態によるインクジェットヘッド1は、基材2と、第1圧電部材3と、第2圧電部材4と、固定具5と、ノズルプレート6と、一対の電極7、8とを備えている。
【0018】
基材2は、樹脂からなる。基材2は、立設部材15と、中空部材16と、側壁部材17とを備えている。尚、立設部材15、中空部材16及び側壁部材17は、一体的に形成されている。
【0019】
立設部材15は、直方体形状に形成されている。立設部材15は、インクジェットヘッド1の横方向の中央部の上部に設けられている。立設部材15は、中空部材16の上面から上方へ伸びるように構成されている。
【0020】
中空部材16は、中空の直方体形状に形成されている。中空部材16は、第2圧電部材4の上部を覆うように構成されている。中空部材16の下面は、第2圧電部材4の上面と密着している。図3及び図4に示すように、中空部材16の内側には、後述するメインタンク41からインク31が供給されるインク供給室32が形成されている。インク供給室32の下面及び左側面は、開口されている。
【0021】
側壁部材17は、直方体形状に形成されている。側壁部材17は、インクジェットヘッド1の右側面を覆うように構成されている。側壁部材17の前後方向の中央部には、インク供給孔17aが形成されている。インク供給孔17aは、外部とインク供給室32とを繋げている。インク供給孔17aには、供給配管35が接続されている。供給配管35は、インク31を供給するものである。
【0022】
第1圧電部材3は、変形によってインク31に圧力を作用させるものである。第1圧電部材3は、直方体形状のPZTからなる。第1圧電部材3は、基材2及び第2圧電部材4の左側に設けられている。第1圧電部材3の右側面の上部は、基材2の中空部材16の左側面と密着された状態で固定される。これにより、第1圧電部材3の上部の右側面によって、インク供給室32の左側面が塞がれる。第1圧電部材3の右側面の下部は、第2圧電部材4の左側面と密着された状態で固定される。
【0023】
図2及び図4に示すように、複数の第1溝21が、第1圧電部材3の右側面の下部に形成されている。複数の第1溝21は、供給されるインク31を貯留するインク室33の一部を構成する。複数の第1溝21は、前後方向に等間隔で形成されている。第1溝21は、直方体状に形成されている。第1溝21の右側面及び下面は、開口されている。一方、第1溝21の前後面、左側面及び上面は、閉口されている。
【0024】
第2圧電部材4は、第1圧電部材3とともに変形することによってインク31に圧力を作用させるものである。第2圧電部材4は、直方体形状のPZTからなる。第2圧電部材4は、基材2の中空部材16の下面であって、側壁部材17と第1圧電部材4との間に設けられている。第2圧電部材4の左側面は、第1圧電部材3の下部の右側面と密着された状態で固定される。
【0025】
図3及び図4に示すように、複数の第2溝22が、第2圧電部材4の左側面に形成されている。複数の第2溝22は、供給されるインク31を貯留するインク室33の一部を構成する。複数の第2溝22は、前後方向に等間隔で形成されている。複数の第2溝22は、直方体状に形成されている。第2溝22の左側面は、開口されている。また、第2溝22は、第1溝21と対向する位置に形成されている。これにより、第1圧電部材3と第2圧電部材4とが組み合わされると、第1溝21と第2溝22とによって、インク室33が構成される。換言すると、インク室33が、第1圧電部材3と第2圧電部材4とによって形成される。第2溝22の下面は、第1溝21の下面と同様に、開口されている。これにより、インク室33の下面は、インク31を吐出可能に開口される。第2溝22の上面は、開口されている。これにより、基材2の中空部材16に形成されているインク供給室32とインク室33とが連結される。一方、第2溝22の前後面及び右側面は、閉口されている。
【0026】
固定具5は、基材2と圧電部材3、4とを固定するものである。固定具5は、樹脂からなる。固定具5は、左右方向において、基材2の右側面と第1圧電部材3の左側面とを押圧する。固定具5は、前後方向において、基材2及び圧電部材3、4の前面と後面とを押圧する。これにより、基材2、圧電部材3、4が互いに密着される。固定具5の底面には、インク31を吐出するための開口部5aが形成されている。
【0027】
ノズルプレート6は、第1圧電部材3の下面と第2圧電部材4の下面とにわたって設けられている。ノズルプレート6は、長方形の平面状に形成されている。ノズルプレート6には、上下方向に貫通された複数のノズル孔6aが形成されている。複数のノズル孔6aは、前後方向において、インク室33に対応した位置に等間隔で形成されている。これにより、各インク室33の下面は、各ノズル孔6aにより、外部と貫通される。図1に示すように、複数のノズル孔6aは、左右方向において、1個ずつ交互に左右にずれて形成されている。即ち、ノズル孔6aは、第1溝21または第2溝22のいずれかに対応した位置に形成されている。
【0028】
電極7、8は、圧電部材3、4に電圧を印加するものである。図2〜図4に示すように、電極7、8は、インク室33を構成する第1溝21及び第2溝22の内面に形成されている。換言すれば、電極7、8は、インク室33を構成する圧電部材3、4の内面に形成されている。電極7と電極8は、前後方向において、交互に設けられている。電極7、8は、後述するインクジェットプリンタに搭載された制御部51に接続されている。電極7と電極8との間には、制御部51によって、圧電部材3、4を変形させるための所定の電圧が印加される。これにより、電極7と電極8とによって挟まれた領域の圧電部材3、4が変形して、インク31に圧力を作用させることができる。
【0029】
図5に示すように、電極7(8)は、最内金属層25a(25b)と、中間金属層26a(26b)と、最外金属層27a(27b)とを有する。尚、各金属層25a(25b)〜27a(27b)は、無電解メッキにより、圧電部材3、4の表面に形成されている。最内金属層25a(25b)を形成する際には、圧電部材3、4の表面にアミン系シランカップリング剤を形成した後、無電解メッキをすることが好ましい。
【0030】
最内金属層25a(25b)は、第1溝21及び第2溝22の内面に形成されている。
即ち、最内金属層25a(25b)は、インク室33を構成する圧電部材3、4内面に接する。最内金属層25a(25b)は、1.0μm以上2.0μm以下の厚みを有する。最内金属層25a(25b)は、ニッケル(Ni)からなる。ニッケルは、周期表では第4周期、第10族の元素である。ニッケルは、約600の透磁率を有する強磁性体である。ニッケルは、20℃の温度で、約14×10[A/V・m]の導電率を有する。ニッケルは、0℃の温度で、約94[W/m・K]の熱伝導率を有する。
【0031】
中間金属層26a(26b)は、最内金属層25a(25b)の内面に積層されている。中間金属層26a(26b)は、最内金属層25a(25b)と最外金属層27a(27b)とに挟まれている。中間金属層26a(26b)は、0.5μm以上1.0μm以下の厚みを有する。中間金属層26a(26b)は、銅からなる。銅は、周期表では第4周期、第11族元素である。銅は、約0.999991の透磁率を有する。銅は、20℃の温度で、約59×10[A/V・m]の導電率を有する。銅は、0℃の温度で、約403[W/m・K]の熱伝導率を有する。
【0032】
最外金属層27a(27b)は、中間金属層26a(26b)の内面に積層されている。これにより、最外金属層27a(27b)は、インク室33に充填されたインク31と接する。最外金属層27a(27b)は、0.5μm以上100μm以下の厚みを有する。最外金属層27a(27b)は、金(Au)からなる。金(Au)は、周期表では第6周期、第11族元素である。金(Au)は、約1の透磁率を有する。金(Au)は、20℃の温度で、約45×10[A/V・m]の導電率を有する。金(Au)は、0℃の温度で、約319[W/m・K]の熱伝導率を有する。
【0033】
上述したように、最内金属層25a(25b)と中間金属層26a(26b)は、周期表の同じ第4周期の元素からなる。このように、同じ周期の元素により構成することによって、最内金属層25a(25b)と中間金属層26a(26b)との界面の結合が強固になる。
【0034】
中間金属層26a(26b)と最外金属層27a(27b)は、周期表の同じ第11族の元素からなる。このように、同じ族の元素により構成することによって、中間金属層26a(26b)と最外金属層27a(27b)との界面の結合が強固になる。
【0035】
最内金属層25a(25b)のニッケルの透磁率をμ1、中間金属層26a(26b)の銅の透磁率をμ2、最外金属層27a(27b)の金(Au)の透磁率をμ3とすると、各金属層25a(25b)〜27a(27b)の透磁率の関係は、
μ1>μ3>μ2
となる。
【0036】
最内金属層25a(25b)のニッケルの導電率をσ1、中間金属層26a(26b)の銅の導電率をσ2、最外金属層27a(27b)の金(Au)の導電率をσ3とすると、各金属層25a(25b)〜27a(27b)の導電率の関係は、
σ2>σ3>σ1
となる。
【0037】
ここで、電磁波50の遮蔽能力を示す表皮効果を考慮する。電磁波50の強度が、1/eになる表皮深さをΣとすると、
Σ=(2/ω・μ・σ)1/2 ・・・・・(1)
ω:電磁波の角振動数
μ:金属の透磁率
σ:導電率
となる。この式(1)からニッケルにより構成された最内金属層25a(25b)の表皮深さが最も小さい。即ち、最内金属層25a(25b)が、電磁波50を最も吸収する。
【0038】
最内金属層25a(25b)のニッケルの熱伝導率をλ1、中間金属層26a(26b)の銅の熱伝導率をλ2、最外金属層27a(27b)の金(Au)の熱伝導率をλ3とすると、各金属層25a(25b)〜27a(27b)の熱伝導率の関係は、
λ2>λ3>λ1
となる。このことから、電磁波50により電極7、8に発生した多くの熱は、中間金属層26a(26b)を伝導する。
【0039】
次に、図6を参照して、上述した第1実施形態によるインクジェットヘッド1が設けられるインクジェットプリンタの全体構成について説明する。
【0040】
図6に示すように、インクジェットヘッド1には、供給用のインク31が貯溜されたメインタンク41と、インク31が一時的に貯溜されるサブタンク42が接続される。
【0041】
メインタンク41とサブタンク42とを接続する配管44の途中部には、インク31をインクジェットヘッド1へと供給するためのポンプ45が設けられている。
【0042】
制御部51は、種々の演算を行うCPUと、情報等を一時的に記憶するRAMと、プログラム等が記憶されたROMと、これらと外部とを接続するインターフェースとを備えている。
【0043】
制御部51は、ポンプ45と、インクジェットヘッド1の電極7、8とに接続されている。制御部51は、インク31を供給する際には、ポンプ45のオン/オフを制御する。制御部51は、印刷動作時には、電極7、8に電圧を印加して、圧電部材3、4を変形させる。
【0044】
次に、上述した第1実施形態のインクジェットヘッド1による印刷動作を説明する。
【0045】
まず、制御部51が、ポンプ45をオンにする。これにより、インク31が、メインタンク41及びサブタンク42からインクジェットヘッド1のインク供給室32及びインク室33に供給される。
【0046】
次に、制御部51は、印刷用紙を搬送しつつ、記憶された画像データに応じて、電極7、8に交流電圧を印加する。この交流電圧により、電極7と電極8との間には、図5に示すように電磁波50が発生する。
【0047】
ここで電極7(8)は、異なる金属からなる3つの金属層25a(25b)、26a(26b)、27a(27b)により構成されているので、各金属層25a(25b)〜27a(27b)の間でインピーダンス不整合が生じる。このため、最内金属層25a(25b)と中間金属層26a(26b)との界面、及び、中間金属層26a(26b)と最外金属層27a(27b)との界面で電磁波50が反射される。また、各金属層25a(25b)〜27a(27b)の内部、特に、中間金属層26a(26b)の内部で電磁波50の多重反射波に起因する渦電流が誘発される。これにより、電極7(8)の中間に配置された中間金属層26a(26b)が、多くの熱エネルギーを吸収する。
【0048】
また、上述した表皮深さの式(1)より、電磁波50は、最内金属層25a(25b)によって吸収される。これにより、渦電流が最内金属層25a(25b)内に発生するので、最内金属層25a(25b)が発熱する。そして、最内金属層25a(25b)で発生した熱は、熱伝導率の高い銅からなる中間金属層26a(26b)へと伝導する。
【0049】
これらにより、電磁波50により生じた多くの熱が、中間金属層26a(26b)により伝導されて、インク31への熱伝導を妨げる。
【0050】
次に、電極7、8間の電圧の印加により、圧電部材3、4が変形する。圧電部材3、4の変形によって圧縮されたインク室33では、インク31に圧力が作用するので、そのインク室33のインク31は、ノズルプレート6のノズル孔6aから吐出される。
【0051】
吐出されたインク31は、液滴となり、印刷用紙に塗布されて画像が印刷される。
【0052】
上述したように第1実施形態によるインクジェットヘッド1では、電極7(8)を3つの異なる金属層25a(25b)、26a(26b)、27a(27b)により構成しているので、金属層25a(25b)〜27a(27b)間にインピーダンス不整合が生じる。これにより、電磁波50が界面により反射された多重反射波が中間金属層26a(26b)の内部で生じるので、中間層の中間金属層26a(26b)に多くの渦電流が生じて熱が発生する。この熱は、熱伝導率の高い銅からなる中間金属層26a(26b)を伝導するので、インク31へ熱が伝導することを抑制できる。この結果、インク31が、高温になり、劣化することを抑制できる。
【0053】
また、インクジェットヘッド1では、電極7(8)を3つの金属層25a(25b)、26a(26b)、27a(27b)により構成している。ここで、最内金属層25a(25b)と中間金属層26a(26b)は、同じ周期の金属元素により構成するとともに、中間金属層26a(26b)と最外金属層27a(27b)は、同じ族の金属元素により構成している。これにより、各金属層25a(25b)〜27a(27b)間の結合を強固にすることができる。この結果、インクジェットヘッド1は、電極7、8の劣化を抑制することができる。
【0054】
また、インクジェットヘッド1では、最内金属層25a(25b)が、強磁性体であるニッケル(Ni)により構成されている。これにより、圧電部材3、4を伝導する多くの電磁波50は、最内金属層25a(25b)によって吸収されて、熱エネルギーに変換される。そして、この熱は、熱伝導率の高い中間金属層26a(26b)を伝導するので、インク31に熱が伝導されることをより抑制することができる。
【0055】
また、インクジェットヘッド1では、中間金属層26a(26b)を銅により構成することによって、最内金属層25a(25b)を構成するニッケルと最外金属層27a(27b)を構成する金(Au)との相互拡散を抑制できる。これにより、各金属層25a(25b)、26a(26b)、27a(27b)の界面での金属間化合物の形成を抑制することができるので、界面での接合特性の劣化を抑制できる。
【0056】
本願発明者は、本実施形態と同じ3層の金属層(ニッケル、銅、金(Au))からなる一対の電極をインクに浸けた状態で電流を流す実験を行った、この結果、銅が電極表面にほとんど析出しなかったことを確認している。一方、ニッケルと金(Au)の2層の金属層からなる一対の電極を用いて同様に実験すると、電極表面に銅が析出することを確認している。これにより、上述した第1実施形態によるインクジェットヘッド1の効果が正しいことがわかる。
【0057】
以上、実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。以下、上記実施形態を一部変更した変更形態について説明する。
【0058】
例えば、上述した実施形態の各構成の形状、材料、数値等は適宜変更可能である。
【0059】
電極を構成する材料は、上述した材料以外でも適宜変更可能である。例えば、中間金属層は、最内金属層と周期表における周期または族が同じ材料であって、最外金属層と周期表における周期または族が同じ材料であればよい。具体的には、中間金属層に適用できる材料として白金(Pt)を上げることができる。また、最内金属層を構成する材料は、ニッケル以外では、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の強磁性体であることが望ましい。最外金属層を構成する材料は、金(Au)以外では、銀(Ag)が好ましい。
【0060】
また、上述した実施形態では、電極を3層の金属層によって構成したが、4層以上の金属層によって電極を構成してもよい。具体的には、最内金属層と最外金属層との間に複数の中間金属層を積層することが考えられる。
【0061】
また、本発明は、油性及び水性のインクを用いるインクジェットヘッドに適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 インクジェットヘッド
2 基材
3 第1圧電部材
4 第2圧電部材
6 ノズルプレート
6a ノズル孔
7、8 電極
21 第1溝
22 第2溝
25a、25b最内金属層
26a、26b中間金属層
27a、27b最外金属層
31 インク
32 インク供給室
33 インク室
35 供給配管
41 メインタンク
42 サブタンク
44 配管
45 ポンプ
50 電磁波
51 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが供給されるインク室が形成された圧電部材と、
前記インク室を構成する前記圧電部材内面に接する最内金属層と、前記インク室に充填されたインクと接する最外金属層と、前記最内金属層と前記最外金属層とに挟まれた中間金属層とを有する電極とを備え、
前記最内金属層と、前記中間金属層と、前記最外金属層は、異なる金属により構成されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記中間金属層の透磁率は、前記最内金属層及び前記最外金属層の透磁率よりも低いことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記最内金属層の透磁率は、前記最外金属層の透磁率よりも高いことを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記最内金属層を構成する金属元素は、前記中間金属層を構成する金属元素と周期表における周期または族が同じであって、
前記最外金属層を構成する金属元素は、前記中間金属層を構成する金属元素と周期表における周期または族が同じであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記最内金属層は、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択された1種の金属からなり、
前記中間金属層は、銅または白金のいずれか1種の金属からなり、
前記最外金属層は、銀または金のいずれか1種の金属からなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−280075(P2010−280075A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133070(P2009−133070)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】