インクジェット印刷用の自浄能力付きインクジェット印刷ヘッド
【課題】撥油性表面を有するアパチャ面を備えるインクジェット印刷機の製造方法を提供する。
【解決手段】アパチャプレート上にシリコン層を配置することでアパチャプレートを形成する工程と、写真平版術を用いてシリコン層の外面にテクスチャード加工パターンを作成する工程と、テクスチャード加工面に共形の撥油性被覆を配置することでテクスチャード加工面を化学的に改質する工程とを含む。撥油性アパチャプレートは、インクジェット印刷ヘッド用前面表面として用いることができる。
【解決手段】アパチャプレート上にシリコン層を配置することでアパチャプレートを形成する工程と、写真平版術を用いてシリコン層の外面にテクスチャード加工パターンを作成する工程と、テクスチャード加工面に共形の撥油性被覆を配置することでテクスチャード加工面を化学的に改質する工程とを含む。撥油性アパチャプレートは、インクジェット印刷ヘッド用前面表面として用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自浄能力を有するインクジェット印刷ヘッドに関する。より具体的には、本願明細書に記載するのは、テクスチャード(織地風触感)加工シリコン層上に配置した共形撥油性被覆を有するテクスチャード加工シリコン層を備える超撥油性膜で被覆したアパチャプレートを有するインクジェット印刷ヘッドと、これを調製する方法とである。
【背景技術】
【0002】
2009年12月28日出願の「Superoleophobic and Superhydrophobic Devices And Method For Preparing Same(超撥油性でかつ超撥水性のデバイスとこれを調製する方法)」と題する本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第12/647,945号には、テクスチャード加工超撥油性表面を有する可撓性デバイスを調製する方法が記載されており、それは可撓性下地を用意する工程と、可撓性基板上にシリコン層を配置する工程と、写真平版術を用いて下地上にテクスチャード加工パターンを作成する工程で、テクスチャード加工パターンがピラー配列を含む工程と、共形の撥油性被覆をその上に配置することで、テクスチャード加工面を化学的に改質する工程と、超撥油性表面を有する可撓性デバイスを提供する工程で、実施形態では超撥油性かつ超撥水性の両方である面を有する可撓性デバイスを提供する工程とを含むものである。
【0003】
2009年12月28日出願の「A Process For Preparing An Inkjet Print Head Front Face Having A Textured Superoleophobic Surface(テクスチャード加工超撥油性表面を有するインクジェット印刷ヘッド前面を調製する方法)」と題する本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第12/648,004号には、テクスチャード加工超撥油性表面を有するインクジェット印刷ヘッド前面すなわちノズルプレートを調製する方法が記載されており、それはシリコン下地を用意する工程と、写真平版を用いて下地上にテクスチャード加工パターンを作成する工程と、共形の撥油性被覆をその上に配置することで、随意選択的にテクスチャード加工面を化学的に改質する工程と、テクスチャード加工超撥油性表面を有するインクジェット印刷ヘッド前面またはノズルプレートを提供する工程とを含むものである。
【0004】
2009年12月28日出願の「Superoleophobic Surfaces and Method For Preparing Same(超撥油性表面とこれを調製する方法)」と題する本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第12/647,977号には、超撥油性表面を有する可撓性デバイスを調製する方法が記載されており、それは可撓性の下地を用意する工程と、可撓性下地上にシリコン層を配置する工程と、写真平版術を用いて下地上にシリコン層にてテクスチャード加工面を作成する工程で、テクスチャード加工パターンが溝構造を備える工程と、その上に共形の撥油性被覆を配置することでテクスチャード加工面を化学的に改質する工程と、超撥油性表面を有する可撓性デバイスを提供する工程とを含むものである。
【0005】
液体インクジェットシステムは、通常、記録媒体に向けてそこから液滴が噴射される複数のインクジェットを有する1以上の印刷ヘッドを含んでいる。印刷ヘッドのインクジェットは、印刷ヘッド内のインク供給源あるいは多分岐管からインクを受け取り、片や印刷ヘッドは溶融インク貯槽あるいはインクカートリッジ等のインク源からインクを受け入れる。各インクジェットは、インク供給多分岐管と流体連通する一端を有する流路を含んでいる。インク流路の他端は、インク液滴を噴射するオリフィスあるいはノズルを有する。インクジェットのノズルは、アパチャ内すなわちインクジェットのノズルに対応する開口を有するノズルプレート内に形成することができる。
【0006】
動作中、液滴噴射信号がインクジェット内のアクチュエータを起動し、インクジェットノズルから流体の液滴を記録媒体上に排出する。記録媒体および/または印刷ヘッド組立体が相対的に移動するのに合わせ、インクジェットのアクチュエータを選択的に起動して液滴を噴射させることで、付着液滴は特定のテキストや図形画像を記録媒体上に形成するよう正確にパターン化することができる。全幅配列印刷ヘッドの一例が、米国特許出願第2009/0046125号に記載されている。この種の印刷ヘッド内で噴射することのできる紫外線硬化ゲルインクの一例が、米国特許出願第2007/0123606号に記載されている。この種の印刷ヘッドにおいて噴射させることのできる固体インクの一例は、ゼロックス社から入手可能なXerox ColorQube(登録商標)藍色固体インクである。米国特許第5,867,189号には、印刷ヘッドの外側に電解研磨インク接触面あるいはオリフィス面を組み込んだインク噴射構成要素を含むインクジェット印刷ヘッドが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
流体インクジェットシステムが遭遇する一つの難題は、印刷ヘッド前面へのインクの湿潤と垂れ落ちと大量流出とである。印刷ヘッド前面のこの汚染はインクジェットノズルや流路の閉塞の原因や一因となることがあり、そのことが単独であるいは湿潤された汚染面との組み合わせで不発のあるいは不明な液滴、サイズ不足やあるいは誤った大きさの液滴、付随体、あるいは記録媒体に対し誤誘導された液滴の原因や一因となり、劣化した印刷品質に帰結することがある。現在の印刷ヘッドの前面被覆は通常、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)からのもの等のスパッタリングされたフッ素重合体被覆である。印刷ヘッドが傾斜すると、約75℃(75℃はUVゲルインクにとっては典型的な噴射温度である)のUVゲルインクおよび約105℃(105℃は固体インクにとっては典型的な噴射温度である)の温度の固体インクは、印刷ヘッド前面の表面を即摺動はしない。むしろ、これらのインクは印刷ヘッド前面に沿って流動し、印刷ヘッド上にインク膜あるいは残渣を残し、そのことが噴射を妨害することがある。したがって、UV及び固体インク印刷ヘッドの前面はUVと固体インクにより汚染されがちとなる。一部事例では、汚染された印刷ヘッドは点検ユニットを用いて回復させ、あるいは洗浄することができる。しかしながら、この手法はシステムの複雑さとハードウェア経費と、時として信頼性問題とを持ち込む。
【0008】
超撥油性特性だけあるいは超撥水性特性との組み合わせを有するデバイスを調製する材料と方法に対する必要性が、残っている。さらに、インクジェット印刷ヘッド前面向けに目下のところ利用可能な被覆はその意図された目的にとって適したものであるが、印刷ヘッド前面に対するUVインクあるいは固体インクの湿潤や垂れ落ちや大量流出および/または汚染を低減あるいは除去する改善された印刷ヘッド前面に対する必要性が残っている。インクに対する親和性がなく、撥油性であって、印刷ヘッドの前面を払拭する等の点検処置に耐える耐性を有する改善された印刷ヘッド前面設計に対する必要性もまた残るものである。簡単に洗浄され、自力洗浄し、それによって点検ユニットに対する必要性等のハードウェアの複雑さを取り除き、稼働コストを低減し、システム信頼性を改善する改善された印刷ヘッドに対する必要性が、さらに残るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
記載するのは、高撥油性表面や超撥油性表面あるいは超撥油性でかつ超撥水性の両方の表面を有するアパチャ面を備えるインクジェット印刷ヘッドを製造する方法である。本方法は、アパチャプレートの提供工程と、アパチャプレートの表面にシリコン層を配置する工程と、写真平版を用いてシリコン層の外面上にテクスチャード加工パターンを作成する工程で、テクスチャード加工パターンが溝構造すなわちピラー配列を備える工程と、テクスチャード加工面上に共形の撥油性被覆を配置することで、テクスチャード加工面を化学的に改質する工程とを含むものである。超撥油性アパチャプレートは、インクジェット印刷ヘッド用前面の表面として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】アパチャプレートの外面上に配置したシリコンを有するインクジェット印刷ヘッドの概略断面図である。
【図2】例示インクジェット印刷ヘッド用にシリコン層を被覆する前のアパチャプレートの概略上面図である。
【図3】アパチャプレート上にフッ化処理テクスチャード加工面を調製する処理方式の図である。
【図4】アパチャプレート上にフッ化処理テクスチャード加工面を調製する別の処理方式の図である。
【図5】テクスチャード加工面上の液滴の状態を示す図である。
【図6】テクスチャード加工(波形)側壁を有する溝構造を備えるフルオロシラン被覆テクスチャード加工面の顕微鏡写真である。
【図7】図6の表面の代替図である。
【図8】テクスチャード加工(波形)側壁を有するピラー構造配列を備えるフルオロシラン被覆テクスチャード加工面の顕微鏡写真である。
【図9】波形側壁ピラー構造の細部を示す図8の表面の一部の拡大図である。
【図10】張り出し構造を有するピラー構造配列で構成されるフルオロシラン被覆テクスチャード加工面の顕微鏡写真である。
【図11】張り出し特徴の細部を示す図10の表面の一部の拡大図である。
【図12】1.1μmのピラー高を有するピラー群配列を備える超撥油性のテクスチャード加工面の顕微鏡写真である。
【図13】3.0μmのピラー高を有するピラー群配列を備える超撥油性のテクスチャード加工面の顕微鏡写真である。
【図14】平行(左欄)な方向と垂直(右欄)な方向からの溝構造に対する水とヘキサデカン(HD)と固体インクの固着性液滴を示す写真で構成される図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願明細書に使用する用語「印刷機」は、化学的や生物定量法による印刷薄膜デバイスや3次元モデル構築デバイスや他の用途を含むあらゆる目的に対し印刷出力機能を遂行するデジタル複写機や製本装置やファクシミリ機や多機能機械等の任意の装置を包含するものである。
【0012】
撥油性は、ヘキサデカン等の炭化水素を主成分とする液体に対する撥油性(親油性をもたない)表面の特性を指す。接触角が大きくなるほど、表面の撥油性は大きくなる。約90°を上回る液体炭化水素接触角を呈する表面は高撥油性と呼ぶことができ、150°を上回る液体炭化水素接触角を呈する表面は超撥油性と呼ぶことができる。しかしながら、異なる液体炭化水素は所与の面に対し異なる接触角を呈することがあり、本願明細書に使用する高撥油性や超撥油性なる用語は表面の一般的な属性あるいは特性を指すものであり、特定範囲の炭化水素接触角を記述する意図のないことを理解されたい。
【0013】
撥水性は、親水性を欠く表面の属性を指す。接触角が大きくなるほど、表面の撥水性は大きくなる。約120°を上回る水接触角を呈する表面は高撥水性と呼ぶことができ、150°を上回る水接触角を呈する表面は超撥水性と呼ぶことができる。しかしながら、異なる液体が所与の表面に対し異なる接触角を呈することがあり、したがって本願明細書に使用する撥水性や高撥水性や超撥水性なる用語は表面の一般的属性と特性を指すのに用いられ、特定範囲の水接触角を記述する意図のないことは理解されたい。
【0014】
便宜上、本願明細書に記載する実施形態は図1に示す一つの形のインクジェット印刷ヘッドの製造と、Whitlow et alの米国特許第5,867,189号により詳しく記載されているものに関連して説明することにする。実施形態が特定種のインクジェット印刷ヘッドの製造に限定されないことは、理解されたい。その代りに、本開示は一般にテクスチャード加工された撥油性表面を有するアパチャプレートの提供が望まれるインクジェット印刷ヘッド製造への広範な適用可能性を有する。本開示は、室温で液体のインクと加えて室温では固体で噴射用に融解させられる高温溶融すなわち相変化インクもまた計量配給するインクジェット印刷ヘッドに当てはまる。
【0015】
図1は、本開示に従ってその上に配置された被覆を有するインクジェット印刷ヘッド10を示す。図1中、印刷ヘッド10は、例えばステンレス鋼から作成された複数の積層プレートあるいはシート65で出来た本体20を有する。これらシート65は、重複関係に整列配置されて積層され、ジェット積層体60を形成している。ジェット積層体シート65はエッチングするか、さもなければジェット積層体が流路やチャンバおよび/または通路を有するよう構成することができる。例えば、図1に示す如く、印刷ヘッド10は1以上のインク源40に結合あるいは流体連通させた1以上のインク圧力チャンバ30を含んでいる。
【0016】
インクジェット印刷ヘッド10はまた、ジットスタック60との重複関係に整列配置された積層されたアパチャプレート70を有する。アパチャプレート70は、オリフィスやアパチャやインク噴射ノズルとも呼ばれる1以上の開口50を有しており、それは矢印35で示すインク通路を介してインク圧力チャンバ30に結合あるいは流体連通させてある。インク液滴形成期間中に、インクはノズル50を通過する。インク液滴は、ノズル50から離間する印刷媒体(図示せず)に向かってノズル50から経路35に沿う方向に移動する。
【0017】
典型的なインクジェット印刷ヘッドは、複数のインク圧力チャンバ30を含み、各圧力チャンバ30は1以上のノズル50に結合してある。簡明さに配慮し、図1には1本のノズル50が図示してある。図2に示す如く、アパチャプレート70は複数のノズル50あるいはノズル配列50で構成することができる。
【0018】
アパチャプレート70は、印刷ヘッド10の外側の少なくとも一部を画成する。印刷ヘッド10の出口側に対向するアパチャプレート70の出口面71の少なくとも一部に配置あるいは堆積させるのが、シリコン層72(図2は図示せず)である。
【0019】
アパチャプレートは、オリフィスプレートやノズルプレートや印刷ヘッド前面プレートとも呼ぶことができる。アパチャプレートは、ステンレス鋼や鋼鉄やニッケルや銅やアルミニウムやポリイミドやシリコン等の適当な材料もしくは組成物とすることができ、デバイスに適した任意の構成とすることができる。四角形あるいは矩形形状のアパチャプレートは通常、製造の簡単さのお陰で選択される。アパチャプレートは、金等のメッキ材料を用いて選択的にメッキされたステンレス鋼で作成することができる。
【0020】
ジェット積層体のシートやプレートとアパチャプレートは、当分野で既知の任意の適当な方法で互いに接着することができる。一部実施形態では、例えばプレートを互いに積層して整列配置し、続いて拡散接着工程にさらし、続いて鑞付け工程にさらす。インクジェット印刷ヘッド金属プレートの鑞付けは、例えば米国特許第4,875,619号等に記載されており、その開示全体を全て本願明細書に組み込むものとする。
【0021】
シリコン層を形成するのに、とりわけ、スパッタリングや化学蒸着や超高周波プラズマ化学気相成長やマイクロ波プラズマ化学気相成長やプラズマ化学気相成長やインライン処理工程における超音波ノズルの使用による等による当分野で既知の任意の適当な処理工程により、α−シリコン等のシリコンをアパチャプレートの表面に配置あるいは付着させることができる。シリコン層には、約500nmから約5,000nm、約1,000nmから約5,000nm、約500から約2,500nm、約2,000から約4,000nm、あるいは約3,000nm等の任意の適当な肉厚を持たせることができる。
【0022】
シリコン層は、他のプレートを接着してジェット積層体を形成する前または後にアパチャプレート上に形成することができる。α−シリコンは1,150℃台の融点を有するため、α−シリコン層を有するアパチャプレートは、シリコン層を融解させることなく接着する方法および/または高熱を必要とする他の工程にさらすことができる。加えて、ノズルはシリコン層の形成の前または後に形成することができる。
【0023】
顕微鏡サイズの溝等の溝構造、すなわちピラー配列を備えるテクスチャード加工パターンを、シリコン層上に提供することができる。溝構造すなわちピラーは、テクスチャード加工あるいは波形パターン付きの垂直側壁と、溝構造すなわちピラーの頂面に形成された張り出し内曲構造、またはそれらの組み合わせで構成することができる。ここで用いるテクスチャード加工あるいは波形側壁は、ミクロン未満の範囲に明示される側壁上の平均粗さを意味することもある。一部実施形態では、波形側壁は250nmの波形構造を有していて、各波がここで下記に説明する如く1つのエッチングサイクルに対応する。
【0024】
図3と図4を参照するに、写真平版技法を用い溝構造すなわちピラー配列を備えるテクスチャード加工パターン76をシリコン被覆アパチャプレート上に作成することができる。例えば、アパチャプレート70に載ったシリコン層72を調製し、既知の写真平版法に従って洗浄することができる。フォトレジスト74は、スピンコーティングやスロットダイコーティング等によりシリコン層72上に塗布することができる。Rohm and Haas社から入手可能なMega(登録商標)Posit(登録商標)SPR(登録商標)700フォトレジスト等の任意の適当なフォトレジストを選択することができる。
【0025】
フォトレジスト74はそこで、通常は紫外光への露光と、水酸化ナトリウム含有現像剤等の有機現像剤や水酸化テトラメチルアンモニウム等の金属イオン無縁現像剤への露光により、当分野で既知の如く本方法に従って露光し現像することができる。
【0026】
溝構造すなわちピラー配列を備えるテクスチャード加工パターン76は、当分野で既知の任意の適当な方法によりエッチングすることができる。一般に、エッチングは液体あるいはプラズマ化学薬品を用いてマスク74により保護されないシリコン層を取り除く工程を含む。深堀り反応性イオンエッチング技法を用い、波形側壁を有する溝付き構造を製造することができる。
【0027】
エッチング工程の後、フォトレジストは任意の適当な方法により除去することができる。フォトレジストは、液体レジスト剥離器あるいはプラズマ含有酸素を用いて取り除くことができる。フォトレジストは、カルフォニア州サンタクララのSurplus Process Equipment社から入手可能なGaSonics Aura 1000アッシング(剥離)システム等のO2プラズマ処置を用いて剥離させることができる。剥離に続き、下地は高温ピラニア(硫酸過酸化水素水)洗浄工程を用いる等して洗浄することができる。
【0028】
シリコン層上に表面織地を作成した後、表面織地は化学的に改質することができる。本願明細書に使用するテクスチャード加工下地の化学的な改質は、テクスチャード加工面の撥油性品質を提供あるいは向上する等すべく下地のあらゆる適切な化学的処置で構成することができる。例えば、テクスチャード加工下地面はペルフルオリネイテッド(水素原子を全フッ素置換した)アルキル鎖の自己組織化層をテクスチャード加工シリコン面上に配置することで化学的に改質することができる。分子蒸着や化学蒸着あるいは溶液被覆等の様々な技法を用い、ペルフルオリネイテッド・アルキル鎖の自己組織化層をテクスチャード加工シリコン面の上に付着させることができる。自己組織化層は、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリクロロシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリメソキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエソキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリクロロシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリメソキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエソキシシラン、あるいはそれらの組み合わせ等から選択されるペルフルオリネイテッド・アルキル鎖で構成することができる。
【0029】
特定の実施形態では、パルス駆動あるいは時間多重エッチングを含むBosch深堀り反応性イオンエッチングを用い、テクスチャード加工溝面構造を作成する。Bosh処理工程は、1回のサイクル内で3個の別個の工程を用いる複数回エッチングサイクルを用いて垂直エッチを作成することができ、すなわち1)不活性化保護層の付着と、2)エッチ1、所望箇所の不活性化層を取り除くエッチングサイクルと、3)エッチ2、シリコンを等方的にエッチングするエッチングサイクルとである。各工程は、数秒に亙って持続する。不活性化層は、テフロン(登録商標)に類似し、下地全体をさらなる化学的侵食から保護してさらなるエッチングを防止するC4F8により作成される。しかしながら、エッチ1位相期間中は、下地に衝撃を与える方向性イオンが所望箇所の不活性化層を侵食する。イオンは不活性化層と衝突し、それをスパッタリングにより除去し、下地の所望領域をエッチ2の期間中において、化学的なエッチング剤にさらす。エッチ2は、短時間(例えば、約5〜約10秒)に亙りシリコンを等方的にエッチングするのに役立つ。より短時間のエッチ2工程がより短い波形期間(5秒が約250nmに通ずる)をもたらし、より長時間のエッチ2がより長い波形期間(10秒が約880nmに通ずる)をもたらす。エッチングサイクルは、所望の溝高あるいはピラー高が得られるまで反復することができる。エッチングサイクルは、所望のピラー高が得られるまで反復することができる。この工程では、ピラーはテクスチャード加工すなわち波形側壁を持たせて作成することができ、ここでは各波が1つのエッチングサイクルに対応する。
【0030】
それ故、一部実施形態では、写真平版術は垂直エッチの作成に複数のエッチングサイクルを使用する工程を含んでおり、ここで複数のエッチングサイクルのそれぞれが、a)保護用不活性化層の付着と、b)所望箇所の不活性化層を除去するエッチングと、c)シリコンの等方性エッチングと、d)所望の溝構造が得られるまで工程a)からc)を反復する工程とを含んでいる。この工程では、溝構造はテクスチャード加工すなわち波形側壁を持たせて作成することができ、ここでは各波が1つのエッチングサイクルに対応する。溝構造には、波形側壁や張り出し内曲構造やそれらの組み合わせを含めることができる。
【0031】
周期的な「波」構造は、任意の適当な大きさとすることができる。例えば、溝構造の波形側壁の各「波」の大きさは、約100nmから約600nmや約400nmから約1,000nmあるいは250nmのように、約100nmから約1,000nmとすることができる。
【0032】
本方法の一実施形態は、張り出し内曲構造あるいは構造群を有するテクスチャード加工面をアパチャプレート上に作成する工程を含む。この工程は、2つのフッ素エッチング工程(CH3F/O2とSF6/O2)の組み合わせを用いた類似の方法で構成される。図4を参照するに、処理工程は、その上に洗浄されたシリコン層201を配置したアパチャプレート200を用意する工程と、スパッタリングやプラズマ化学気相成長法を介する等して、清浄なシリコン層201上にSiO2薄膜202を付着させる工程と、アパチャプレート200上の酸化シリコン202被覆シリコン層201に対しフォトレジスト材料204を塗布する工程と、SPR(登録商標)700−1.2フォトレジストを用いた5:1写真平版術等で、フォトレジスト材料204を露光し現像する工程と、フッ素を主成分とする(CH3F/O2)反応性イオンエッチングを用い、SiO2層内にテクスチャード加工パターン206を形成する工程で、このパターンがSiO2層内に溝パターンすなわちピラー配列を含む工程と、第2のフッ素を主成分とする(SF6/O2)反応性イオンエッチング処理で、高温剥離が続く工程と、最上層に張り出し内曲構造210を有するテクスチャード加工パターン208を作成するピラニア洗浄工程とを含む。テクスチャード加工パターン206はそこで、共形の撥油性被覆212で被覆し、撥油性アパチャプレートが提供することができるが、このプレートはその上面に張り出し内曲構造を有するテクスチャード加工溝パターンを備えるか、あるいは真っすぐな側壁と張り出し内曲構造を有するテクスチャード加工ピラーパターンを備える。
【0033】
撥油性表面を有するアパチャプレートは、ロール間ウェブ作成技法を用いて調製することができる。例えば、下地で構成されるロールは、化学蒸着やスパッタリング等により非晶質シリコン層を下地上に付着させ、続いてフォトレジストを用いてスロットダイ被覆する第1のステーションを通過し、続いてマスキングと露光/現像ステーションを備える第2のステーション、続いてエッチングステーション、続いて洗浄ステーションを通過する。テクスチャード加工下地はそこで、このテクスチャード加工下地を共形の撥油性被覆でもって改質することができる被覆ステーションを通過させることができる。
【0034】
図5は、凸凹面上の液滴間の複合液体−固体界面の記述に一般に用いられる2つの状態を表わす。図5中、テクスチャード加工パターン300をもって改質した表面が示してあり、ここで液滴302はCassie−Baxter状態とWenzel状態とで図示してある。液滴302用の静的な接触角のCassie−Baxter状態(θCB)とWenzel状態(θW)は、それぞれ式(1)と(2)により与えられる。
cosθCB = Rf f cosθγ + f − 1 (1)
cosθW = r cosθγ (2)
ここで、fは投影濡れ領域の面積分率、Rfは濡れ領域の凹凸比、Rffは固体面積分率、rは凹凸比、θγは平坦面と液滴との接触角である。
【0035】
Cassie−Baxter状態では、液滴は極めて大きな接触角(θCB)をもって主に空気上に「着座する」。この式によれば、液体と表面との非親和性が大きく場合、例えばθγ≧90°の場合、液滴はCassie−Baxter状態に入ることになる。
【0036】
炭化水素を主成分とする液体、例えばヘキサデカンにより例証される例えばインクについては、溝構造の頂面に形成された張り出し内曲構造を有する溝構造を備えるテクスチャード加工面が、テクスチャード加工撥油性表面の液−固界面にCassie−Baxter状態を形成するヘキサデカン液滴に帰着するに十分な表面「非親和性」(すなわち、θγ=73°)をもたらす。
【0037】
図6は、3μmの幅と6μmのピッチのフルオロシラン被覆溝3を備える構造の顕微鏡写真である。図7は、図6の表面の代替図であり、張り出し内曲構造を形成する頂面を有する波形側壁構造を示す。
【0038】
図8は、テクスチャード加工(波形)側壁を有するピラー配列構造を備えるフルオロシラン被覆テクスチャード加工表面の顕微鏡写真である。図9は、波形側壁ピラー構造の細部を示す図8の表面の一部の拡大図を提示するものである。図10は、ピラー頂部に形成された張り出し内曲構造を有するピラー構造配列を備えるフルオロシラン被覆テクスチャード加工面の顕微鏡写真である。図11は、張り出し内曲特徴の細部を示す図10の表面の一部の拡大図である。
【0039】
溝構造には、任意の適当な空間や密度や固体面積分率を持たせることができる。例えば、溝構造には約0.5%から約40%、あるいは約1%から約20%の固体面積分率を持たせることができる。
【0040】
溝構造には、任意の適当な幅とピッチを持たせることができる。例えば、溝構造には約0.5から約10μmや約1から約5μm、あるいは約3μmの幅を持たせることができる。さらに、溝構造には約2から約15μmか約3から約12μm、あるいは約6μmの溝ピッチを持たせることができる。
【0041】
溝構造には、任意の適当な形状を持たせることができる。溝構造全体に、特定パターンを形成するよう設計された構成を持たせることができる。例えば、溝構造には選択された流動パターンで液体流を導くよう選択された構造を持たせることができる。
【0042】
溝構造は、任意の適当なあるいは所望の全高にて規定することができる。テクスチャード加工面には、約0.3から約5μmか約0.3から約4μm、あるいは約0.5から約4μmの全高を有する溝パターンを含ませることができる。
【0043】
ピラー配列には、任意の適当な空間やピラー密度あるいは固体面積分率を持たせることができる。ピラー配列には、約0.5%から約40%あるいは約1%から約20%の固体面積分率を持たせることができる。ピラー配列には、任意の適切な空間すなわちピラー密度を持たせることができる。例えば、ピラー配列にはピラー中心どうしで約6μmの間隔を持たせることができる。
【0044】
ピラー配列には、円形や楕円形や四角形や矩形や三角形や星形等の任意の適当な形状を持たせることができる。
【0045】
ピラー配列には、任意の適当な直径あるいは等価直径を持たせることができる。例えば、ピラー配列には約0.1から約10μmあるいは約1から5μmの直径を持たせることができる。
【0046】
ピラーには、任意の適切なあるいは所望の高さを画成することができる。例えば、テクスチャード加工面には約0.3から約10μmか約0.3から約4μm、あるいは約0.5から約3μmのピラー高を有するピラー配列を具備させることができる。
【0047】
図12中、顕微鏡写真は1.1μmのピラー高を有するピラー配列を備える超撥油性テクスチャード加工面を示す。図13中、顕微鏡写真は3.0μmのピラー高を有するピラー配列を備える超撥油性テクスチャード加工面を示す。
【0048】
フッ化処理テクスチャード加工面は、静的と動的な接触角計測値の両方を特定することで調査した。図14は、溝構造を備えるシリコンウェーハ上に調製されたフルオロシラン被覆テクスチャード加工面上の平行な方向と垂直な方向からの水やヘキサデカン(HD)や固体インクの付着性液滴を示す写真群である。
【0049】
理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者は水とヘキサデカンに対し表面FOTS(フッ化処理テクスチャード加工面)テクスチャード加工面について観察された大きな接触角がテクスチャード加工とフッ化処理の組み合わせの成果であると確信するものである。特定の実施形態では、可撓性の超越撥油性デバイスを提供すべく、テクスチャード加工デバイスをテクスチャード加工構造頂部の波形側壁特徴あるいは張り出し内曲構造の少なくとも一方により構成する。本発明者は、溝構造とピラー構造の頂面上の内曲構造は超撥油性に対する相当な推進源となると確信するものである。
【0050】
ロール間ウェブ製造工程を介する写真平版術を用いて調製され、本願明細書に記載した可撓性シリコンフィルム上のテクスチャード加工溝パターンあるいはテクスチャード加工ピラーパターンを備える超撥油性フィルムは、インクジェット印刷ヘッド部品としての用途に向け加工することができる。そこで、例えばレーザ切断技法あるいは機械的手段(穿孔等)を用いてフィルム上にノズルを作成することができる。印刷ヘッドサイズのフィルムを裁断して整列配置し、インクジェット印刷ヘッド用途に向けノズル前面プレート上に接着等により取着することができる。テクスチャード加工ノズル前面は超撥油性となり、幾つかの現行の印刷ヘッドで問題となる湿潤や垂れ落ち問題を克服することになる。所望とあらば、テクスチャード加工面には3μmの高さを持たせることができる。さらに、超撥油性は1μmほどの低さのパターン高をもって維持することができる。低減されたパターン高を持たせることで、浅いテクスチャード加工パターンの機械的な堅牢性は増す。これらの超撥油性パターンを手で擦っても、表面の損傷はほぼ皆無もしくは全く観察されない。
【0051】
さらなる実施形態では、溝構造は好都合な方向性自力洗浄特性に向けた平行方向の極端に低い転落角との組み合わせで改善された機械的な耐性をもたらし、その使用に固体インクやUVインク印刷ヘッドに対する前面の自浄性と保守点検無用性をもたらす。異方性湿潤と方向性洗浄は、ノズルから離れた領域だけでなくノズルのエッジに隣接する領域についても大きな利点とすることができる。直交方向で大きな接触角はどのような残留インクの固着も助長はせず、平行方向の方向性自力洗浄がノズルからインクを転送離間させ、結果的に前面からインクを取り除くのに役立つ。従って、残留インクがノズル近傍で撹練することも、あるいは前部プレート上に堆積し、印刷ヘッド前面に対しインク湿潤/垂れ落ち/大量流出等の問題を引き起こすこともなくなる。
【0052】
本発明者は、超撥油性表面(例えば、ヘキサデカン液滴は表面に対し約150°を上回る接触角と約10°未満の転落角を形成)を、簡単な写真平版術と表面改質技法によりシリコンウェーハ上に作成できることを実証した。調製された超撥油性表面は極めて「インク非親和性」が高く、インクジェット印刷ヘッドの前面の非常に望ましき表面特性、例えば超脱濡れインクに対する大きな接触角や高い保持圧力や自浄および簡単洗浄向けの低い転落角を有する。一般に、インク接触角が大きくなるほど、保持圧力もまた良好(より高圧)となる。保持圧力は、インクタンク(貯槽)の圧力が増大したときにノズル開口からインクが染み出るのを防止するアパチャプレートの能力の尺度となるものである。
【0053】
本開示になるインクジェット印刷ヘッドは、撥油性表面を有するアパチャプレートを備える。撥油性表面は、約90°から約175°、約120°から約170°、約150°から約175°、あるいは約150°から約160°のヘキサデカン接触角を呈する可能性がある。撥油性表面はまた、約1°から約30°、約1°から約25°、約1°から約15°、あるいは約1°から約10°のヘキサデカン転落角を呈する可能性がある。
【0054】
撥油性表面はまた撥水性であり、例えば約130°から約180°や約150°から約180°の水接触角のように、約120°から約180°の水接触角を示す可能性がある。撥油性表面はまた、約1°から約30、約1°から約25°、約1°から約15°、あるいは約1°から約10°の水転落角を呈する可能性がある。
【0055】
接触角と転落角は試験対象液滴の大きさに合わせて変化するため、本願明細書で論ずる接触角と転落角は約5から約10μLの体積を有する試験物質からなる液滴を基準としてある。
【0056】
一部実施形態では、アパチャプレートはヘキサデカンが溝方向に平行かあるいは垂直のいずれの方向にも約90°から約175°を上回る表面接触角を有する超撥油性表面を備えている。さらなる実施形態では、アパチャプレートはヘキサデカンが溝方向に平行に約30°未満の表面転落角を有する超撥油性表面を備える。
【0057】
下記の例は、本開示の様々な種をさらに規定するのに提示するものである。これらの例は、例示だけを意図するものであり、本開示の範囲を限定する意図はないものである。また、分率あるいは百分率は、特段示さない限り重量によるものである。
【0058】
表1は、水やヘキサデカンや固体インクや紫外線硬化ゲルインクに対する幾つかの関連する表面についての接触角データと転落角データを要約したものである。接触角と転落角の計測はDataphysics社(独国)製のOCA20角度計により行なったが、これはコンピュータ制御自動液体配給システムとコンピュータ制御傾斜ステージとコンピュータ準拠画像処理システムとを含むものである。通常の静的な接触角および転落角の計測では、試験液滴は試験面に静かに置かれた水やヘキサデカンや固体インクやUVインクから選択される約5〜10μLの試験物質を含んでいる。静的角度はコンピュータソフトウェア(SCA20)により計測し、各報告データは6以上の独立した計測値の平均値としてある。転落角計測は、傾斜基部ユニットTBU90Eを用いて約1°/秒の割合で基部ユニットを傾斜させることで行なった。転落角は、試験液滴が移動し始める時点での角度として規定し、計測した。
【0059】
例1は、業者製の新規の(PFA被覆付き)ステンレス鋼印刷ヘッドである。
【0060】
例2は、業者製の使用済み(PFA被覆付き)ステンレス鋼印刷ヘッドである。
【0061】
例3は、市販のPTFEフィルムである。
【0062】
例4は、3μm直径/6μmピッチを有するピラー構造を備える超撥油性表面である。
【0063】
例5は、平行な方向に3μm幅/6μmピッチを有する溝構造を備える超撥油性表面である。
【表1】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自浄能力を有するインクジェット印刷ヘッドに関する。より具体的には、本願明細書に記載するのは、テクスチャード(織地風触感)加工シリコン層上に配置した共形撥油性被覆を有するテクスチャード加工シリコン層を備える超撥油性膜で被覆したアパチャプレートを有するインクジェット印刷ヘッドと、これを調製する方法とである。
【背景技術】
【0002】
2009年12月28日出願の「Superoleophobic and Superhydrophobic Devices And Method For Preparing Same(超撥油性でかつ超撥水性のデバイスとこれを調製する方法)」と題する本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第12/647,945号には、テクスチャード加工超撥油性表面を有する可撓性デバイスを調製する方法が記載されており、それは可撓性下地を用意する工程と、可撓性基板上にシリコン層を配置する工程と、写真平版術を用いて下地上にテクスチャード加工パターンを作成する工程で、テクスチャード加工パターンがピラー配列を含む工程と、共形の撥油性被覆をその上に配置することで、テクスチャード加工面を化学的に改質する工程と、超撥油性表面を有する可撓性デバイスを提供する工程で、実施形態では超撥油性かつ超撥水性の両方である面を有する可撓性デバイスを提供する工程とを含むものである。
【0003】
2009年12月28日出願の「A Process For Preparing An Inkjet Print Head Front Face Having A Textured Superoleophobic Surface(テクスチャード加工超撥油性表面を有するインクジェット印刷ヘッド前面を調製する方法)」と題する本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第12/648,004号には、テクスチャード加工超撥油性表面を有するインクジェット印刷ヘッド前面すなわちノズルプレートを調製する方法が記載されており、それはシリコン下地を用意する工程と、写真平版を用いて下地上にテクスチャード加工パターンを作成する工程と、共形の撥油性被覆をその上に配置することで、随意選択的にテクスチャード加工面を化学的に改質する工程と、テクスチャード加工超撥油性表面を有するインクジェット印刷ヘッド前面またはノズルプレートを提供する工程とを含むものである。
【0004】
2009年12月28日出願の「Superoleophobic Surfaces and Method For Preparing Same(超撥油性表面とこれを調製する方法)」と題する本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第12/647,977号には、超撥油性表面を有する可撓性デバイスを調製する方法が記載されており、それは可撓性の下地を用意する工程と、可撓性下地上にシリコン層を配置する工程と、写真平版術を用いて下地上にシリコン層にてテクスチャード加工面を作成する工程で、テクスチャード加工パターンが溝構造を備える工程と、その上に共形の撥油性被覆を配置することでテクスチャード加工面を化学的に改質する工程と、超撥油性表面を有する可撓性デバイスを提供する工程とを含むものである。
【0005】
液体インクジェットシステムは、通常、記録媒体に向けてそこから液滴が噴射される複数のインクジェットを有する1以上の印刷ヘッドを含んでいる。印刷ヘッドのインクジェットは、印刷ヘッド内のインク供給源あるいは多分岐管からインクを受け取り、片や印刷ヘッドは溶融インク貯槽あるいはインクカートリッジ等のインク源からインクを受け入れる。各インクジェットは、インク供給多分岐管と流体連通する一端を有する流路を含んでいる。インク流路の他端は、インク液滴を噴射するオリフィスあるいはノズルを有する。インクジェットのノズルは、アパチャ内すなわちインクジェットのノズルに対応する開口を有するノズルプレート内に形成することができる。
【0006】
動作中、液滴噴射信号がインクジェット内のアクチュエータを起動し、インクジェットノズルから流体の液滴を記録媒体上に排出する。記録媒体および/または印刷ヘッド組立体が相対的に移動するのに合わせ、インクジェットのアクチュエータを選択的に起動して液滴を噴射させることで、付着液滴は特定のテキストや図形画像を記録媒体上に形成するよう正確にパターン化することができる。全幅配列印刷ヘッドの一例が、米国特許出願第2009/0046125号に記載されている。この種の印刷ヘッド内で噴射することのできる紫外線硬化ゲルインクの一例が、米国特許出願第2007/0123606号に記載されている。この種の印刷ヘッドにおいて噴射させることのできる固体インクの一例は、ゼロックス社から入手可能なXerox ColorQube(登録商標)藍色固体インクである。米国特許第5,867,189号には、印刷ヘッドの外側に電解研磨インク接触面あるいはオリフィス面を組み込んだインク噴射構成要素を含むインクジェット印刷ヘッドが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
流体インクジェットシステムが遭遇する一つの難題は、印刷ヘッド前面へのインクの湿潤と垂れ落ちと大量流出とである。印刷ヘッド前面のこの汚染はインクジェットノズルや流路の閉塞の原因や一因となることがあり、そのことが単独であるいは湿潤された汚染面との組み合わせで不発のあるいは不明な液滴、サイズ不足やあるいは誤った大きさの液滴、付随体、あるいは記録媒体に対し誤誘導された液滴の原因や一因となり、劣化した印刷品質に帰結することがある。現在の印刷ヘッドの前面被覆は通常、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)からのもの等のスパッタリングされたフッ素重合体被覆である。印刷ヘッドが傾斜すると、約75℃(75℃はUVゲルインクにとっては典型的な噴射温度である)のUVゲルインクおよび約105℃(105℃は固体インクにとっては典型的な噴射温度である)の温度の固体インクは、印刷ヘッド前面の表面を即摺動はしない。むしろ、これらのインクは印刷ヘッド前面に沿って流動し、印刷ヘッド上にインク膜あるいは残渣を残し、そのことが噴射を妨害することがある。したがって、UV及び固体インク印刷ヘッドの前面はUVと固体インクにより汚染されがちとなる。一部事例では、汚染された印刷ヘッドは点検ユニットを用いて回復させ、あるいは洗浄することができる。しかしながら、この手法はシステムの複雑さとハードウェア経費と、時として信頼性問題とを持ち込む。
【0008】
超撥油性特性だけあるいは超撥水性特性との組み合わせを有するデバイスを調製する材料と方法に対する必要性が、残っている。さらに、インクジェット印刷ヘッド前面向けに目下のところ利用可能な被覆はその意図された目的にとって適したものであるが、印刷ヘッド前面に対するUVインクあるいは固体インクの湿潤や垂れ落ちや大量流出および/または汚染を低減あるいは除去する改善された印刷ヘッド前面に対する必要性が残っている。インクに対する親和性がなく、撥油性であって、印刷ヘッドの前面を払拭する等の点検処置に耐える耐性を有する改善された印刷ヘッド前面設計に対する必要性もまた残るものである。簡単に洗浄され、自力洗浄し、それによって点検ユニットに対する必要性等のハードウェアの複雑さを取り除き、稼働コストを低減し、システム信頼性を改善する改善された印刷ヘッドに対する必要性が、さらに残るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
記載するのは、高撥油性表面や超撥油性表面あるいは超撥油性でかつ超撥水性の両方の表面を有するアパチャ面を備えるインクジェット印刷ヘッドを製造する方法である。本方法は、アパチャプレートの提供工程と、アパチャプレートの表面にシリコン層を配置する工程と、写真平版を用いてシリコン層の外面上にテクスチャード加工パターンを作成する工程で、テクスチャード加工パターンが溝構造すなわちピラー配列を備える工程と、テクスチャード加工面上に共形の撥油性被覆を配置することで、テクスチャード加工面を化学的に改質する工程とを含むものである。超撥油性アパチャプレートは、インクジェット印刷ヘッド用前面の表面として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】アパチャプレートの外面上に配置したシリコンを有するインクジェット印刷ヘッドの概略断面図である。
【図2】例示インクジェット印刷ヘッド用にシリコン層を被覆する前のアパチャプレートの概略上面図である。
【図3】アパチャプレート上にフッ化処理テクスチャード加工面を調製する処理方式の図である。
【図4】アパチャプレート上にフッ化処理テクスチャード加工面を調製する別の処理方式の図である。
【図5】テクスチャード加工面上の液滴の状態を示す図である。
【図6】テクスチャード加工(波形)側壁を有する溝構造を備えるフルオロシラン被覆テクスチャード加工面の顕微鏡写真である。
【図7】図6の表面の代替図である。
【図8】テクスチャード加工(波形)側壁を有するピラー構造配列を備えるフルオロシラン被覆テクスチャード加工面の顕微鏡写真である。
【図9】波形側壁ピラー構造の細部を示す図8の表面の一部の拡大図である。
【図10】張り出し構造を有するピラー構造配列で構成されるフルオロシラン被覆テクスチャード加工面の顕微鏡写真である。
【図11】張り出し特徴の細部を示す図10の表面の一部の拡大図である。
【図12】1.1μmのピラー高を有するピラー群配列を備える超撥油性のテクスチャード加工面の顕微鏡写真である。
【図13】3.0μmのピラー高を有するピラー群配列を備える超撥油性のテクスチャード加工面の顕微鏡写真である。
【図14】平行(左欄)な方向と垂直(右欄)な方向からの溝構造に対する水とヘキサデカン(HD)と固体インクの固着性液滴を示す写真で構成される図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願明細書に使用する用語「印刷機」は、化学的や生物定量法による印刷薄膜デバイスや3次元モデル構築デバイスや他の用途を含むあらゆる目的に対し印刷出力機能を遂行するデジタル複写機や製本装置やファクシミリ機や多機能機械等の任意の装置を包含するものである。
【0012】
撥油性は、ヘキサデカン等の炭化水素を主成分とする液体に対する撥油性(親油性をもたない)表面の特性を指す。接触角が大きくなるほど、表面の撥油性は大きくなる。約90°を上回る液体炭化水素接触角を呈する表面は高撥油性と呼ぶことができ、150°を上回る液体炭化水素接触角を呈する表面は超撥油性と呼ぶことができる。しかしながら、異なる液体炭化水素は所与の面に対し異なる接触角を呈することがあり、本願明細書に使用する高撥油性や超撥油性なる用語は表面の一般的な属性あるいは特性を指すものであり、特定範囲の炭化水素接触角を記述する意図のないことを理解されたい。
【0013】
撥水性は、親水性を欠く表面の属性を指す。接触角が大きくなるほど、表面の撥水性は大きくなる。約120°を上回る水接触角を呈する表面は高撥水性と呼ぶことができ、150°を上回る水接触角を呈する表面は超撥水性と呼ぶことができる。しかしながら、異なる液体が所与の表面に対し異なる接触角を呈することがあり、したがって本願明細書に使用する撥水性や高撥水性や超撥水性なる用語は表面の一般的属性と特性を指すのに用いられ、特定範囲の水接触角を記述する意図のないことは理解されたい。
【0014】
便宜上、本願明細書に記載する実施形態は図1に示す一つの形のインクジェット印刷ヘッドの製造と、Whitlow et alの米国特許第5,867,189号により詳しく記載されているものに関連して説明することにする。実施形態が特定種のインクジェット印刷ヘッドの製造に限定されないことは、理解されたい。その代りに、本開示は一般にテクスチャード加工された撥油性表面を有するアパチャプレートの提供が望まれるインクジェット印刷ヘッド製造への広範な適用可能性を有する。本開示は、室温で液体のインクと加えて室温では固体で噴射用に融解させられる高温溶融すなわち相変化インクもまた計量配給するインクジェット印刷ヘッドに当てはまる。
【0015】
図1は、本開示に従ってその上に配置された被覆を有するインクジェット印刷ヘッド10を示す。図1中、印刷ヘッド10は、例えばステンレス鋼から作成された複数の積層プレートあるいはシート65で出来た本体20を有する。これらシート65は、重複関係に整列配置されて積層され、ジェット積層体60を形成している。ジェット積層体シート65はエッチングするか、さもなければジェット積層体が流路やチャンバおよび/または通路を有するよう構成することができる。例えば、図1に示す如く、印刷ヘッド10は1以上のインク源40に結合あるいは流体連通させた1以上のインク圧力チャンバ30を含んでいる。
【0016】
インクジェット印刷ヘッド10はまた、ジットスタック60との重複関係に整列配置された積層されたアパチャプレート70を有する。アパチャプレート70は、オリフィスやアパチャやインク噴射ノズルとも呼ばれる1以上の開口50を有しており、それは矢印35で示すインク通路を介してインク圧力チャンバ30に結合あるいは流体連通させてある。インク液滴形成期間中に、インクはノズル50を通過する。インク液滴は、ノズル50から離間する印刷媒体(図示せず)に向かってノズル50から経路35に沿う方向に移動する。
【0017】
典型的なインクジェット印刷ヘッドは、複数のインク圧力チャンバ30を含み、各圧力チャンバ30は1以上のノズル50に結合してある。簡明さに配慮し、図1には1本のノズル50が図示してある。図2に示す如く、アパチャプレート70は複数のノズル50あるいはノズル配列50で構成することができる。
【0018】
アパチャプレート70は、印刷ヘッド10の外側の少なくとも一部を画成する。印刷ヘッド10の出口側に対向するアパチャプレート70の出口面71の少なくとも一部に配置あるいは堆積させるのが、シリコン層72(図2は図示せず)である。
【0019】
アパチャプレートは、オリフィスプレートやノズルプレートや印刷ヘッド前面プレートとも呼ぶことができる。アパチャプレートは、ステンレス鋼や鋼鉄やニッケルや銅やアルミニウムやポリイミドやシリコン等の適当な材料もしくは組成物とすることができ、デバイスに適した任意の構成とすることができる。四角形あるいは矩形形状のアパチャプレートは通常、製造の簡単さのお陰で選択される。アパチャプレートは、金等のメッキ材料を用いて選択的にメッキされたステンレス鋼で作成することができる。
【0020】
ジェット積層体のシートやプレートとアパチャプレートは、当分野で既知の任意の適当な方法で互いに接着することができる。一部実施形態では、例えばプレートを互いに積層して整列配置し、続いて拡散接着工程にさらし、続いて鑞付け工程にさらす。インクジェット印刷ヘッド金属プレートの鑞付けは、例えば米国特許第4,875,619号等に記載されており、その開示全体を全て本願明細書に組み込むものとする。
【0021】
シリコン層を形成するのに、とりわけ、スパッタリングや化学蒸着や超高周波プラズマ化学気相成長やマイクロ波プラズマ化学気相成長やプラズマ化学気相成長やインライン処理工程における超音波ノズルの使用による等による当分野で既知の任意の適当な処理工程により、α−シリコン等のシリコンをアパチャプレートの表面に配置あるいは付着させることができる。シリコン層には、約500nmから約5,000nm、約1,000nmから約5,000nm、約500から約2,500nm、約2,000から約4,000nm、あるいは約3,000nm等の任意の適当な肉厚を持たせることができる。
【0022】
シリコン層は、他のプレートを接着してジェット積層体を形成する前または後にアパチャプレート上に形成することができる。α−シリコンは1,150℃台の融点を有するため、α−シリコン層を有するアパチャプレートは、シリコン層を融解させることなく接着する方法および/または高熱を必要とする他の工程にさらすことができる。加えて、ノズルはシリコン層の形成の前または後に形成することができる。
【0023】
顕微鏡サイズの溝等の溝構造、すなわちピラー配列を備えるテクスチャード加工パターンを、シリコン層上に提供することができる。溝構造すなわちピラーは、テクスチャード加工あるいは波形パターン付きの垂直側壁と、溝構造すなわちピラーの頂面に形成された張り出し内曲構造、またはそれらの組み合わせで構成することができる。ここで用いるテクスチャード加工あるいは波形側壁は、ミクロン未満の範囲に明示される側壁上の平均粗さを意味することもある。一部実施形態では、波形側壁は250nmの波形構造を有していて、各波がここで下記に説明する如く1つのエッチングサイクルに対応する。
【0024】
図3と図4を参照するに、写真平版技法を用い溝構造すなわちピラー配列を備えるテクスチャード加工パターン76をシリコン被覆アパチャプレート上に作成することができる。例えば、アパチャプレート70に載ったシリコン層72を調製し、既知の写真平版法に従って洗浄することができる。フォトレジスト74は、スピンコーティングやスロットダイコーティング等によりシリコン層72上に塗布することができる。Rohm and Haas社から入手可能なMega(登録商標)Posit(登録商標)SPR(登録商標)700フォトレジスト等の任意の適当なフォトレジストを選択することができる。
【0025】
フォトレジスト74はそこで、通常は紫外光への露光と、水酸化ナトリウム含有現像剤等の有機現像剤や水酸化テトラメチルアンモニウム等の金属イオン無縁現像剤への露光により、当分野で既知の如く本方法に従って露光し現像することができる。
【0026】
溝構造すなわちピラー配列を備えるテクスチャード加工パターン76は、当分野で既知の任意の適当な方法によりエッチングすることができる。一般に、エッチングは液体あるいはプラズマ化学薬品を用いてマスク74により保護されないシリコン層を取り除く工程を含む。深堀り反応性イオンエッチング技法を用い、波形側壁を有する溝付き構造を製造することができる。
【0027】
エッチング工程の後、フォトレジストは任意の適当な方法により除去することができる。フォトレジストは、液体レジスト剥離器あるいはプラズマ含有酸素を用いて取り除くことができる。フォトレジストは、カルフォニア州サンタクララのSurplus Process Equipment社から入手可能なGaSonics Aura 1000アッシング(剥離)システム等のO2プラズマ処置を用いて剥離させることができる。剥離に続き、下地は高温ピラニア(硫酸過酸化水素水)洗浄工程を用いる等して洗浄することができる。
【0028】
シリコン層上に表面織地を作成した後、表面織地は化学的に改質することができる。本願明細書に使用するテクスチャード加工下地の化学的な改質は、テクスチャード加工面の撥油性品質を提供あるいは向上する等すべく下地のあらゆる適切な化学的処置で構成することができる。例えば、テクスチャード加工下地面はペルフルオリネイテッド(水素原子を全フッ素置換した)アルキル鎖の自己組織化層をテクスチャード加工シリコン面上に配置することで化学的に改質することができる。分子蒸着や化学蒸着あるいは溶液被覆等の様々な技法を用い、ペルフルオリネイテッド・アルキル鎖の自己組織化層をテクスチャード加工シリコン面の上に付着させることができる。自己組織化層は、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリクロロシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリメソキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエソキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリクロロシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリメソキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエソキシシラン、あるいはそれらの組み合わせ等から選択されるペルフルオリネイテッド・アルキル鎖で構成することができる。
【0029】
特定の実施形態では、パルス駆動あるいは時間多重エッチングを含むBosch深堀り反応性イオンエッチングを用い、テクスチャード加工溝面構造を作成する。Bosh処理工程は、1回のサイクル内で3個の別個の工程を用いる複数回エッチングサイクルを用いて垂直エッチを作成することができ、すなわち1)不活性化保護層の付着と、2)エッチ1、所望箇所の不活性化層を取り除くエッチングサイクルと、3)エッチ2、シリコンを等方的にエッチングするエッチングサイクルとである。各工程は、数秒に亙って持続する。不活性化層は、テフロン(登録商標)に類似し、下地全体をさらなる化学的侵食から保護してさらなるエッチングを防止するC4F8により作成される。しかしながら、エッチ1位相期間中は、下地に衝撃を与える方向性イオンが所望箇所の不活性化層を侵食する。イオンは不活性化層と衝突し、それをスパッタリングにより除去し、下地の所望領域をエッチ2の期間中において、化学的なエッチング剤にさらす。エッチ2は、短時間(例えば、約5〜約10秒)に亙りシリコンを等方的にエッチングするのに役立つ。より短時間のエッチ2工程がより短い波形期間(5秒が約250nmに通ずる)をもたらし、より長時間のエッチ2がより長い波形期間(10秒が約880nmに通ずる)をもたらす。エッチングサイクルは、所望の溝高あるいはピラー高が得られるまで反復することができる。エッチングサイクルは、所望のピラー高が得られるまで反復することができる。この工程では、ピラーはテクスチャード加工すなわち波形側壁を持たせて作成することができ、ここでは各波が1つのエッチングサイクルに対応する。
【0030】
それ故、一部実施形態では、写真平版術は垂直エッチの作成に複数のエッチングサイクルを使用する工程を含んでおり、ここで複数のエッチングサイクルのそれぞれが、a)保護用不活性化層の付着と、b)所望箇所の不活性化層を除去するエッチングと、c)シリコンの等方性エッチングと、d)所望の溝構造が得られるまで工程a)からc)を反復する工程とを含んでいる。この工程では、溝構造はテクスチャード加工すなわち波形側壁を持たせて作成することができ、ここでは各波が1つのエッチングサイクルに対応する。溝構造には、波形側壁や張り出し内曲構造やそれらの組み合わせを含めることができる。
【0031】
周期的な「波」構造は、任意の適当な大きさとすることができる。例えば、溝構造の波形側壁の各「波」の大きさは、約100nmから約600nmや約400nmから約1,000nmあるいは250nmのように、約100nmから約1,000nmとすることができる。
【0032】
本方法の一実施形態は、張り出し内曲構造あるいは構造群を有するテクスチャード加工面をアパチャプレート上に作成する工程を含む。この工程は、2つのフッ素エッチング工程(CH3F/O2とSF6/O2)の組み合わせを用いた類似の方法で構成される。図4を参照するに、処理工程は、その上に洗浄されたシリコン層201を配置したアパチャプレート200を用意する工程と、スパッタリングやプラズマ化学気相成長法を介する等して、清浄なシリコン層201上にSiO2薄膜202を付着させる工程と、アパチャプレート200上の酸化シリコン202被覆シリコン層201に対しフォトレジスト材料204を塗布する工程と、SPR(登録商標)700−1.2フォトレジストを用いた5:1写真平版術等で、フォトレジスト材料204を露光し現像する工程と、フッ素を主成分とする(CH3F/O2)反応性イオンエッチングを用い、SiO2層内にテクスチャード加工パターン206を形成する工程で、このパターンがSiO2層内に溝パターンすなわちピラー配列を含む工程と、第2のフッ素を主成分とする(SF6/O2)反応性イオンエッチング処理で、高温剥離が続く工程と、最上層に張り出し内曲構造210を有するテクスチャード加工パターン208を作成するピラニア洗浄工程とを含む。テクスチャード加工パターン206はそこで、共形の撥油性被覆212で被覆し、撥油性アパチャプレートが提供することができるが、このプレートはその上面に張り出し内曲構造を有するテクスチャード加工溝パターンを備えるか、あるいは真っすぐな側壁と張り出し内曲構造を有するテクスチャード加工ピラーパターンを備える。
【0033】
撥油性表面を有するアパチャプレートは、ロール間ウェブ作成技法を用いて調製することができる。例えば、下地で構成されるロールは、化学蒸着やスパッタリング等により非晶質シリコン層を下地上に付着させ、続いてフォトレジストを用いてスロットダイ被覆する第1のステーションを通過し、続いてマスキングと露光/現像ステーションを備える第2のステーション、続いてエッチングステーション、続いて洗浄ステーションを通過する。テクスチャード加工下地はそこで、このテクスチャード加工下地を共形の撥油性被覆でもって改質することができる被覆ステーションを通過させることができる。
【0034】
図5は、凸凹面上の液滴間の複合液体−固体界面の記述に一般に用いられる2つの状態を表わす。図5中、テクスチャード加工パターン300をもって改質した表面が示してあり、ここで液滴302はCassie−Baxter状態とWenzel状態とで図示してある。液滴302用の静的な接触角のCassie−Baxter状態(θCB)とWenzel状態(θW)は、それぞれ式(1)と(2)により与えられる。
cosθCB = Rf f cosθγ + f − 1 (1)
cosθW = r cosθγ (2)
ここで、fは投影濡れ領域の面積分率、Rfは濡れ領域の凹凸比、Rffは固体面積分率、rは凹凸比、θγは平坦面と液滴との接触角である。
【0035】
Cassie−Baxter状態では、液滴は極めて大きな接触角(θCB)をもって主に空気上に「着座する」。この式によれば、液体と表面との非親和性が大きく場合、例えばθγ≧90°の場合、液滴はCassie−Baxter状態に入ることになる。
【0036】
炭化水素を主成分とする液体、例えばヘキサデカンにより例証される例えばインクについては、溝構造の頂面に形成された張り出し内曲構造を有する溝構造を備えるテクスチャード加工面が、テクスチャード加工撥油性表面の液−固界面にCassie−Baxter状態を形成するヘキサデカン液滴に帰着するに十分な表面「非親和性」(すなわち、θγ=73°)をもたらす。
【0037】
図6は、3μmの幅と6μmのピッチのフルオロシラン被覆溝3を備える構造の顕微鏡写真である。図7は、図6の表面の代替図であり、張り出し内曲構造を形成する頂面を有する波形側壁構造を示す。
【0038】
図8は、テクスチャード加工(波形)側壁を有するピラー配列構造を備えるフルオロシラン被覆テクスチャード加工表面の顕微鏡写真である。図9は、波形側壁ピラー構造の細部を示す図8の表面の一部の拡大図を提示するものである。図10は、ピラー頂部に形成された張り出し内曲構造を有するピラー構造配列を備えるフルオロシラン被覆テクスチャード加工面の顕微鏡写真である。図11は、張り出し内曲特徴の細部を示す図10の表面の一部の拡大図である。
【0039】
溝構造には、任意の適当な空間や密度や固体面積分率を持たせることができる。例えば、溝構造には約0.5%から約40%、あるいは約1%から約20%の固体面積分率を持たせることができる。
【0040】
溝構造には、任意の適当な幅とピッチを持たせることができる。例えば、溝構造には約0.5から約10μmや約1から約5μm、あるいは約3μmの幅を持たせることができる。さらに、溝構造には約2から約15μmか約3から約12μm、あるいは約6μmの溝ピッチを持たせることができる。
【0041】
溝構造には、任意の適当な形状を持たせることができる。溝構造全体に、特定パターンを形成するよう設計された構成を持たせることができる。例えば、溝構造には選択された流動パターンで液体流を導くよう選択された構造を持たせることができる。
【0042】
溝構造は、任意の適当なあるいは所望の全高にて規定することができる。テクスチャード加工面には、約0.3から約5μmか約0.3から約4μm、あるいは約0.5から約4μmの全高を有する溝パターンを含ませることができる。
【0043】
ピラー配列には、任意の適当な空間やピラー密度あるいは固体面積分率を持たせることができる。ピラー配列には、約0.5%から約40%あるいは約1%から約20%の固体面積分率を持たせることができる。ピラー配列には、任意の適切な空間すなわちピラー密度を持たせることができる。例えば、ピラー配列にはピラー中心どうしで約6μmの間隔を持たせることができる。
【0044】
ピラー配列には、円形や楕円形や四角形や矩形や三角形や星形等の任意の適当な形状を持たせることができる。
【0045】
ピラー配列には、任意の適当な直径あるいは等価直径を持たせることができる。例えば、ピラー配列には約0.1から約10μmあるいは約1から5μmの直径を持たせることができる。
【0046】
ピラーには、任意の適切なあるいは所望の高さを画成することができる。例えば、テクスチャード加工面には約0.3から約10μmか約0.3から約4μm、あるいは約0.5から約3μmのピラー高を有するピラー配列を具備させることができる。
【0047】
図12中、顕微鏡写真は1.1μmのピラー高を有するピラー配列を備える超撥油性テクスチャード加工面を示す。図13中、顕微鏡写真は3.0μmのピラー高を有するピラー配列を備える超撥油性テクスチャード加工面を示す。
【0048】
フッ化処理テクスチャード加工面は、静的と動的な接触角計測値の両方を特定することで調査した。図14は、溝構造を備えるシリコンウェーハ上に調製されたフルオロシラン被覆テクスチャード加工面上の平行な方向と垂直な方向からの水やヘキサデカン(HD)や固体インクの付着性液滴を示す写真群である。
【0049】
理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者は水とヘキサデカンに対し表面FOTS(フッ化処理テクスチャード加工面)テクスチャード加工面について観察された大きな接触角がテクスチャード加工とフッ化処理の組み合わせの成果であると確信するものである。特定の実施形態では、可撓性の超越撥油性デバイスを提供すべく、テクスチャード加工デバイスをテクスチャード加工構造頂部の波形側壁特徴あるいは張り出し内曲構造の少なくとも一方により構成する。本発明者は、溝構造とピラー構造の頂面上の内曲構造は超撥油性に対する相当な推進源となると確信するものである。
【0050】
ロール間ウェブ製造工程を介する写真平版術を用いて調製され、本願明細書に記載した可撓性シリコンフィルム上のテクスチャード加工溝パターンあるいはテクスチャード加工ピラーパターンを備える超撥油性フィルムは、インクジェット印刷ヘッド部品としての用途に向け加工することができる。そこで、例えばレーザ切断技法あるいは機械的手段(穿孔等)を用いてフィルム上にノズルを作成することができる。印刷ヘッドサイズのフィルムを裁断して整列配置し、インクジェット印刷ヘッド用途に向けノズル前面プレート上に接着等により取着することができる。テクスチャード加工ノズル前面は超撥油性となり、幾つかの現行の印刷ヘッドで問題となる湿潤や垂れ落ち問題を克服することになる。所望とあらば、テクスチャード加工面には3μmの高さを持たせることができる。さらに、超撥油性は1μmほどの低さのパターン高をもって維持することができる。低減されたパターン高を持たせることで、浅いテクスチャード加工パターンの機械的な堅牢性は増す。これらの超撥油性パターンを手で擦っても、表面の損傷はほぼ皆無もしくは全く観察されない。
【0051】
さらなる実施形態では、溝構造は好都合な方向性自力洗浄特性に向けた平行方向の極端に低い転落角との組み合わせで改善された機械的な耐性をもたらし、その使用に固体インクやUVインク印刷ヘッドに対する前面の自浄性と保守点検無用性をもたらす。異方性湿潤と方向性洗浄は、ノズルから離れた領域だけでなくノズルのエッジに隣接する領域についても大きな利点とすることができる。直交方向で大きな接触角はどのような残留インクの固着も助長はせず、平行方向の方向性自力洗浄がノズルからインクを転送離間させ、結果的に前面からインクを取り除くのに役立つ。従って、残留インクがノズル近傍で撹練することも、あるいは前部プレート上に堆積し、印刷ヘッド前面に対しインク湿潤/垂れ落ち/大量流出等の問題を引き起こすこともなくなる。
【0052】
本発明者は、超撥油性表面(例えば、ヘキサデカン液滴は表面に対し約150°を上回る接触角と約10°未満の転落角を形成)を、簡単な写真平版術と表面改質技法によりシリコンウェーハ上に作成できることを実証した。調製された超撥油性表面は極めて「インク非親和性」が高く、インクジェット印刷ヘッドの前面の非常に望ましき表面特性、例えば超脱濡れインクに対する大きな接触角や高い保持圧力や自浄および簡単洗浄向けの低い転落角を有する。一般に、インク接触角が大きくなるほど、保持圧力もまた良好(より高圧)となる。保持圧力は、インクタンク(貯槽)の圧力が増大したときにノズル開口からインクが染み出るのを防止するアパチャプレートの能力の尺度となるものである。
【0053】
本開示になるインクジェット印刷ヘッドは、撥油性表面を有するアパチャプレートを備える。撥油性表面は、約90°から約175°、約120°から約170°、約150°から約175°、あるいは約150°から約160°のヘキサデカン接触角を呈する可能性がある。撥油性表面はまた、約1°から約30°、約1°から約25°、約1°から約15°、あるいは約1°から約10°のヘキサデカン転落角を呈する可能性がある。
【0054】
撥油性表面はまた撥水性であり、例えば約130°から約180°や約150°から約180°の水接触角のように、約120°から約180°の水接触角を示す可能性がある。撥油性表面はまた、約1°から約30、約1°から約25°、約1°から約15°、あるいは約1°から約10°の水転落角を呈する可能性がある。
【0055】
接触角と転落角は試験対象液滴の大きさに合わせて変化するため、本願明細書で論ずる接触角と転落角は約5から約10μLの体積を有する試験物質からなる液滴を基準としてある。
【0056】
一部実施形態では、アパチャプレートはヘキサデカンが溝方向に平行かあるいは垂直のいずれの方向にも約90°から約175°を上回る表面接触角を有する超撥油性表面を備えている。さらなる実施形態では、アパチャプレートはヘキサデカンが溝方向に平行に約30°未満の表面転落角を有する超撥油性表面を備える。
【0057】
下記の例は、本開示の様々な種をさらに規定するのに提示するものである。これらの例は、例示だけを意図するものであり、本開示の範囲を限定する意図はないものである。また、分率あるいは百分率は、特段示さない限り重量によるものである。
【0058】
表1は、水やヘキサデカンや固体インクや紫外線硬化ゲルインクに対する幾つかの関連する表面についての接触角データと転落角データを要約したものである。接触角と転落角の計測はDataphysics社(独国)製のOCA20角度計により行なったが、これはコンピュータ制御自動液体配給システムとコンピュータ制御傾斜ステージとコンピュータ準拠画像処理システムとを含むものである。通常の静的な接触角および転落角の計測では、試験液滴は試験面に静かに置かれた水やヘキサデカンや固体インクやUVインクから選択される約5〜10μLの試験物質を含んでいる。静的角度はコンピュータソフトウェア(SCA20)により計測し、各報告データは6以上の独立した計測値の平均値としてある。転落角計測は、傾斜基部ユニットTBU90Eを用いて約1°/秒の割合で基部ユニットを傾斜させることで行なった。転落角は、試験液滴が移動し始める時点での角度として規定し、計測した。
【0059】
例1は、業者製の新規の(PFA被覆付き)ステンレス鋼印刷ヘッドである。
【0060】
例2は、業者製の使用済み(PFA被覆付き)ステンレス鋼印刷ヘッドである。
【0061】
例3は、市販のPTFEフィルムである。
【0062】
例4は、3μm直径/6μmピッチを有するピラー構造を備える超撥油性表面である。
【0063】
例5は、平行な方向に3μm幅/6μmピッチを有する溝構造を備える超撥油性表面である。
【表1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥油性表面を有するアパチャプレートを備えるインクジェット印刷ヘッドを製造する方法であって、
アパチャプレート上にシリコン層を配置する工程と、
写真平版を用いてアパチャプレート上のシリコン層にテクスチャード加工パターンを作成し、テクスチャード加工シリコン面を形成する工程と、
テクスチャード加工面に共形の撥油性被覆材料を付着させることでテクスチャード加工シリコン面を化学的に改質する工程とを含む、方法。
【請求項2】
インクジェット印刷ヘッドであって、
アパチャプレートと、
アパチャプレート上に配置したシリコン層で、シリコン層の外面がテクスチャード加工面を備えるシリコン層と、
テクスチャード加工シリコン面に配置した共形の撥油性被覆とを備える、インクジェット印刷ヘッド。
【請求項1】
撥油性表面を有するアパチャプレートを備えるインクジェット印刷ヘッドを製造する方法であって、
アパチャプレート上にシリコン層を配置する工程と、
写真平版を用いてアパチャプレート上のシリコン層にテクスチャード加工パターンを作成し、テクスチャード加工シリコン面を形成する工程と、
テクスチャード加工面に共形の撥油性被覆材料を付着させることでテクスチャード加工シリコン面を化学的に改質する工程とを含む、方法。
【請求項2】
インクジェット印刷ヘッドであって、
アパチャプレートと、
アパチャプレート上に配置したシリコン層で、シリコン層の外面がテクスチャード加工面を備えるシリコン層と、
テクスチャード加工シリコン面に配置した共形の撥油性被覆とを備える、インクジェット印刷ヘッド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−984(P2012−984A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125909(P2011−125909)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】
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