説明

インクジェット捺染方法

【課題】 本発明の目的は、発色時におけるロット間ばらつきなどを改良し、発色安定性に優れるインクジェット捺染方法を提供することにある。
【解決手段】少なくとも酸性染料、水、水溶性有機溶媒を含有するインクジェットインクであり、該酸性染料が水溶性でありかつ水に対する溶解度よりもインク溶剤に対する溶解度が大きい酸性染料であるインクジェットインクを用いて、布帛にインクジェットプリントし、かつ、プリントと発色との間に乾燥工程を有し、該乾燥工程の後の布帛中の残存水溶性有機溶剤量を3g/m2以下までに乾燥させることを特徴とするインクジェット捺染方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染用に用いる繊維用インクジェット記録方法であるインクジェット捺染方法に関し、発色工程における性能安定性を向上させることを特徴とするインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、捺染の分野において、納期短縮、少量多品種生産対応として、製版工程が必要ないインクジェット捺染方式が望まれている。インクジェット捺染に於いては、インクジェットヘッドを用いて、印捺後に発色工程を経て染料を布帛に固着させるが、発色工程までに水分を蒸発させるための乾燥工程を有することは、一般に知られている(特許文献1、2、3参照)。しかしながら、特定の性質を有する酸性染料を組み合わせた場合には、水だけを蒸発させても発色工程における安定性は充分向上しないという問題点が有った。
【特許文献1】特開平05−279972号公報
【特許文献2】特開平05−295675号公報
【特許文献3】特開平06−184955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、発色時におけるロット間ばらつきなどを改良し、発色安定性に優れるインクジェット捺染方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は鋭意検討の結果、発色時におけるロット間ばらつきなどを改良し、発色安定性に優れるインクジェット捺染方法を見い出した。
【0005】
本発明者らは、特定の染料に於いて、発色におけるロット間バラツキが大きい現象について鋭意検討を重ねた結果、その原因が染料の特性に起因することを見出した。即ち、染料の有機溶剤に対する溶解度の違いが、発色安定性に影響を及ぼしていることを見い出した。
【0006】
水溶性でありかつ水に対する溶解度よりもインク溶剤に対する溶解度が大きい酸性染料を用いたインクでは、乾燥工程に於いて水分を蒸発させた後も、残留する有機溶剤に対して、ある程度溶解している状態であるので発色工程の安定性が、発色ロット間において損なわれてしまう。一方、水溶性でありかつ水に対する溶解度よりもインク溶剤に対する溶解度が小さい酸性染料を用いたインクでは、乾燥工程に於いて水分を蒸発させた後には、残留する有機溶剤に溶解しないので、発色工程で安定な発色が行なわれ発色工程の安定性が、発色ロット間において良好となるようにすることができる。
【0007】
インクジェット捺染方式では、インクジェットヘッドにあわせて粘度を調節することは必須である。そして、この粘度調整は水溶性有機溶剤の種類や量で行なわれる事が多い。特にピエゾ式ヘッドを用いたインクジェット方式に於いては、バブルジェット(登録商標)方式に比べて、高粘度が求められることが多く、インク中の有機溶剤量(しかも難揮発性)が多いために、改善効果は大きい。また、酸性染料インクに於いては、特に発色時の溶解度が重要な働きを占めており、発色時の溶解度が高いと顕著に発色性が落ちることを見い出した。
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
【0009】
1.少なくとも酸性染料、水、水溶性有機溶媒を含有するインクジェットインクであり、該酸性染料が水溶性でありかつ水に対する溶解度よりもインク溶剤に対する溶解度が大きい酸性染料であるインクジェットインクを用いて、布帛にインクジェットプリントし、かつ、プリントと発色との間に乾燥工程を有し、該乾燥工程の後の布帛中の残存水溶性有機溶剤量を3g/m2以下までに乾燥させることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0010】
2.前記乾燥工程の後の布帛中の残存水溶性有機溶剤量を1g/m2以下までに乾燥させることを特徴とする1に記載のインクジェット捺染方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発色時におけるロット間ばらつきなどを改良し、発色安定性に優れるインクジェット捺染方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0013】
本発明のインクジェット捺染方法は、少なくとも酸性染料、水、水溶性有機溶媒を含有するインクジェットインクであり、該酸性染料が水溶性でありかつ水に対する溶解度よりもインク溶剤に対する溶解度が大きい酸性染料であるインクジェットインクを用いて、布帛にインクジェットプリントし、かつ、プリントと発色との間に乾燥工程を有し、該乾燥工程後の布帛中の残存水溶性有機溶剤量を3g/m2以下までに乾燥させることを特徴とする
本発明において、乾燥工程後の布帛中の残存水溶性有機溶剤量は3g/m2以下(0g/m2以上)であり、1g/m2以下g/m2以上であることが好ましい。残存水溶性有機溶剤量がこの範囲であると、インクジェット捺染での発色時におけるロット間ばらつきなどを改良し、発色安定性に優れる効果が好適に奏される。
【0014】
本発明におけるインク溶媒とは、「インク組成中の水と、水溶性有機溶剤とを混合した溶液」を指す。即ち、本発明におけるインク溶媒とは、「インク組成中の水と水溶性有機溶剤」と同じ種類の「水と水溶性有機溶剤」とを、「該インク組成中の水と水溶性有機溶剤との割合」と同じ割合で混合したものである。
【0015】
乾燥機は印捺機に直結してもよく、分離したものであってもよい。乾燥機における乾燥は150℃以下で0.5〜30分行われることが好ましい。また、好ましい乾燥方法としては、空気対流方式、加熱ロール直付け方式、照射方式等が挙げられるが、本発明においてはいずれの方法を用いてもよい。
【0016】
本発明に好ましい酸性染料の具体的化合物を以下に示す。ただし、これらに例示した化合物に限定されるものではない。
【0017】
本発明に好ましい酸性染料としては、
C.I.Acid Yellow1 3,11,17,18,19,23,25,36,38,40,40:1,42,44,49,59,59:1,61,65,67,72,73,79,99,104,159,169,176,184,193,200,204,207,215,219219:1,220,230,232,235,241,242,246、
C.I.Acid Orange 3,7,8,10,19,22,24,51,51S,56,67,74,80,86,87,88,89,94,95,107,108,116,122,127,140,142,144,149,152,156,162,166,168、
C.I.Acid Red 1,6,8,9,13,18,27,35,37,52,54,57,73,82,88,97,97:1,106,111,114,118,119,127,131,138,143,145,151,183,195,198,211,215,217,225,226,249,251,254,256,257,260,261,265,266,274,276,277,289,296,299,315,318,336,337,357,359,361,362,364,366,399,407,415、
C.I.Acid Vioret 17,19,21,42,43,47,48,49,54,66,78,90,97,102,109,126、
C.I.Acid Blue1 7,9,15,23,25,40,61:1,62,72,74,80,83,90,92,103,104,112,113,114,120,127,127:1,128,129,138,140,142,156,158,171,182,185,193,199,201,203,204,205,207,209,220,221,224,225,229,230,239,258,260,264,277:1,278,279,280,284,290,296,298,300,317,324,333,335,338,342,350、
C.I.Acid Green 9,12,16,19,20,25,27,28,40,43,56,73,81,84,104,108,109、
C.I.Acid Brown 2,4,13,14,19,28,44,123,224,226,227,248,282,283,289,294,297,298,301,355,357,413、
C.I.Acid Black 1,2,3,24,24:1,26,31,50,52,52:1,58,60,63,63S,107,109,112,119,132,140,155,172,187,188,194,207,222,
等が挙げられる。
【0018】
本発明の水溶性有機溶媒としては、例えば、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、グリセリン、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エタノール等)、一価アルコール類(例えばメタノール、エタノール、ブタノール等)、多価アルコールのアルキルエーテル類(例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等)、2,2′−チオジエタノール、アミド類(例えばN,N−ジメチルホルムアミド等)、複素環類(2−ピロリドン等)、アセトニトリル等が挙げられる。水溶性有機溶媒量としては全インク質量に対して10〜60質量%が好ましい。
【0019】
本発明における布帛は特に限定されるものではなく、綿、絹、羊毛、ナイロン、ポリエステル、レーヨン、アクリル系繊維等種々の繊維素材が挙げられ、又、これらの混紡、交織物、不織布等のものであってもよい。
【0020】
本発明の捺染方法においては、均一な染色物を得るために布帛に付着した不純物や汚れの除去を行なう事が好ましい(精練工程)。また、にじみ防止効果のため、前処理剤をパッド法、コーティング法、スプレー法などで付与せしめるのが好ましい(前処理工程)。その後、分散染料で染色することが可能な繊維が含有されている布帛上に、先に述べた構成のインクを用いてインクジェット記録方式で画像を形成した後(インク付与工程)、インクが付与されている布帛を熱処理し(発色工程)、更に熱処理された布帛を洗浄すること(洗浄工程)によって布帛への捺染が完了し、捺染物が得られる。
【0021】
本発明のインクジェット捺染方法の場合、精練工程として、布帛繊維に付着した天然不純物(油脂、ロウ、ペクチン質、天然色素等)、布帛製造過程で用いた薬剤の残留分(のり剤等)、よごれなどを洗浄しておくことが望ましい。洗浄に用いられる洗浄剤としては水酸化ナトリウム,炭酸ナトリウムといったアルカリ、陰イオン性界面活性剤,非イオン性界面活性剤といった界面活性剤、酵素等が用いられる。
【0022】
前処理としては、水溶性高分子類を布帛に前処理するなどの公知の方法から繊維素材やインクに適した方法を適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。例えば、水溶性金属塩、ポリカチオン化合物、水溶性高分子、界面活性剤及び撥水剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの物質が0.2〜50質量%付与された布帛に対して使用すれば、高度なにじみ防止が可能であり、高精細な画像を布帛にプリントすることができ好ましい。
【0023】
また酸性染料を用いた場合の好ましい態様によれば、前処理剤は蒸熱により酸を発生するpH調整剤を含んでなることが好ましい。pH調整剤の好ましい例としては、酸アンモニウム塩、例えば硫酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、または第二リン酸ソーダが挙げられる。これらのpH調整剤を添加することで、色相の安定化と染着性とを向上させることが出来るとの利点が得られる。これらの添加量は染料種等を考慮して適宜決定されてよいが、0.2〜5質量%程度が好ましく、より好ましくは0.5〜3質量%程度である。
【0024】
発色工程とは、プリント後布帛表面に付着したのみで、十分布帛に吸着・固着されていないインク中の染料を布帛に吸着・固着させることによりそのインク本来の色相を発現させる工程である。その方法としては、蒸気によるスチーミング、乾熱によるベーキング、サーモゾル、過熱蒸気によるHTスチーマー、加圧蒸気によるHPスチーマーなどが利用される。それらはプリントする素材、インクなどにより適宜選択される。
【0025】
加熱処理後は洗浄工程が必要である。なぜなら染着に関与しなかった染料が残留することで、色の安定性が悪くなり堅牢度が低下するからである。また、布帛に施した前処理物を除去することも必要である。そのままにしておくと堅牢性の低下ばかりでなく布帛が変色する。そのため除去対象物や目的に応じた洗浄が必須である。その方法は、プリントする素材、インクにより選択され、例えばポリエステルの場合一般的には、苛性ソーダ、界面活性剤、ハイドロサルファイトの混合液により処理するものである。その方法は、通常オープンソーパーなどの連続型や液流染色機などによるバッチ型で実施されるもので、本発明においてはいずれの方法を用いてもよい。
【0026】
洗浄後は乾燥が必要である。洗浄した布帛を絞ったり脱水した後、干したりあるいは乾燥機、ヒートロール、アイロン等を使用して乾燥させる。
【0027】
インクの長期保存安定性を保つため、防腐剤、防黴剤をインク中に添加してもかまわない。防腐剤・防黴剤としては、芳香族ハロゲン化合物(たとえばPreventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(たとえばPROXEL GXL)などが挙げられる。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
高温蒸熱法で染色する際に用いる捺染用インクジェットインクまたは捺染プリントに使用する布帛には染着助剤が含まれていることが好ましい。染着助剤は捺染布を蒸熱する際に、布状に凝縮した水と共融混合物を作り、再蒸発する水分の量を抑え、昇温時間を短縮する作用がある。さらに、この共融混合物は、繊維上の染料を溶解し染料の繊維への拡散速度を助長する作用がある。染着助剤としては尿素が挙げられる。
【0029】
プリンター等に利用されるインクにおいては、インク中に含まれる溶存気体が、その印刷物の解像度や鮮明さを損なったり、微細な気泡発生を引き起こす要因となる。インク中から溶存気体を脱気する方法としては、大きく分けて、煮沸や減圧等の物理的方法により脱気する方法と、吸収剤をインク中に混入させる化学的方法とがある。本発明においては、いかなる手段にても脱気を行うことは可能である。特に、気体透過性のある中空糸膜内にインクを通液し、中空糸膜の外表面側を減圧することにより、インク中の溶存気体を透過、除去する方法は、インクの物性に悪影響を与えずに効率よくインク中の溶存気体を除去することができ、好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0031】
実施例1
《インクジェット用インク1の作製》
下記内容のインクジェット用インク1を作製した。
【0032】
(インクジェット用インク1の組成)
酸性染料(C.I.Acid Red 274 ※1) 10質量%
エチレングリコール 25質量%
グリセリン 5質量%
1,2−ヘキサンジオール 10質量%
プロキセルGXL(アビシア社製) 0.1質量%
イオン交換水 残部
※1:酸性染料(C.I.Acid Red 274)は、下記表1記載の特性を有する。
【0033】
【表1】

【0034】
《発色試験》
〈色差の評価〉
作製したインクをコニカミノルタIJ株式会社製テキスタイルプリンタNassenger−Vを用いて、540dpi×900dpi(dpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。)にて酸性染料用に前処理を施した布帛(絹ツイル16匁)に解像度に従って100%吐出するべたプリントを行った。150℃の空気対流式乾燥器を通過する時間を適宜変化させ、水分、溶剤を蒸発させた後(※2)、100℃飽和蒸気にて40分蒸熱後、既知の方法にて洗浄乾燥し、べたプリント布帛試料1〜6を得た。
【0035】
得られたべたプリント布帛試料について、X−rite938濃度計(X−rite社製)にて色度測定を行ない、150℃で30分乾燥させた時の色度からの色差を求めた。
【0036】
尚また、乾燥器通過後(※2)に、布帛を一定面積切り取り、一定量の水で有機溶剤を抽出した後GC分析を行なうことで布帛中に残留する残存有機溶剤量を求めた。
【0037】
結果を、表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2から、本発明の構成の試料の場合には、色差が少なく、非常に好ましいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸性染料、水、水溶性有機溶媒を含有するインクジェットインクであり、該酸性染料が水溶性でありかつ水に対する溶解度よりもインク溶剤に対する溶解度が大きい酸性染料であるインクジェットインクを用いて、布帛にインクジェットプリントし、かつ、プリントと発色との間に乾燥工程を有し、該乾燥工程の後の布帛中の残存水溶性有機溶剤量を3g/m2以下までに乾燥させることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項2】
前記乾燥工程の後の布帛中の残存水溶性有機溶剤量を1g/m2以下までに乾燥させることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット捺染方法。

【公開番号】特開2007−247100(P2007−247100A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72474(P2006−72474)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】