説明

インクジェット捺染方法

【課題】捺染後の転写防止性が高く、且つ洗浄にて樹脂が布帛より容易に離脱し、布帛独特の風合いを保つインクジェット捺染方法を提供する。
【解決手段】染料、湿潤剤、及び被膜形成高分子を含むインクをインクジェット方式にて布帛に吐出して、画像を構成する被膜を布帛表面に形成させた後、染料を発色させる熱処理を行い、その後、洗浄工程にて被膜形成高分子を布帛から脱落させるインクジェット捺染方法であって、被膜形成高分子として、JIS K5600−5−4引っかき硬度(鉛筆法)試験により測定される被膜強度が6B〜Bの範囲内であり、かつ水溶性又は水膨潤性である高分子を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛にインクジェット方式を用い図柄をプリントするインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の企業中心の大量生産、大量消費の時代から、顧客を中心とした個人ニーズ対応、必要なものを必要な時に必要なだけ生産するオンデマンド型生産時代に移行してきている。
【0003】
また、環境負荷軽減の面からもこのようなビジネススタイルに急速に変わりつつある。このような背景の中、染色業界でも従来の浸染、グラビアプリントから、布帛にインクジェット方式を用い、図柄をプリントしたものが多く見受けられるようになり、更なる高品位、高付加価値、クイックレスポンスのプリントが望まれている。
【0004】
高品位のプリントを得るためには、インクジェットインクの吐出安定性が重要な要素である。吐出安定性に関する問題の中でもプリンタヘッドノズル近辺でのインク乾燥性は、ノズル詰まりを引き起こす致命的な問題の一つである。
【0005】
近年、より高品位インクジェットプリントの要求に答える形としてドロップサイズの微細化やマルチノズル化(解像度のアップ)、ノズルサイズの縮小が必要不可欠な技術となり、それらの技術が発展するとともにインクに対する耐乾燥性の要求がより厳しくなってきており、その対策としてインク中に様々な湿潤剤を添加することが検討されている(例えば、特許文献5)。
【0006】
しかし、乾燥対策として湿潤剤を添加させた場合、ノズル近辺での乾燥性を改良することは可能でも、プリント後のインク乾燥が遅くなり それに伴う問題が生じ、単にインク中の湿潤剤の質や量のみを変化させただけでは対応できない。
【0007】
例えば、布帛でのインクジェット染色の場合、プリント後の布帛は、発色、洗浄、布目矯正などの複雑な後処理工程が存在する。その際、布帛は反物状態から解反、積み重ねなど様々な形態にされる。それらの後工程中において、例えばプリント後の布帛が台車などに積み重ねて放置される場合に、布帛はその自重が大きいために、非常に大きな圧力が加わりプリント面が転汚染する可能性や、また工程中に機械内において布帛同士が擦れ合うことで汚れてしまう可能性を含んでおり、プリント後の汚染防止は非常に重要な課題の一つとして挙げられる。
【0008】
インクによる汚染防止対策としてはプリンタ後部での送風による乾燥や、合成樹脂製の転写防止シートを挟むことなどが考えられる。しかし乾燥させたとしても、布帛が重なった状態で大きな圧力が加わったときにはやはり汚染してしまう。
【0009】
また転写防止シートの挟み込みはコスト高の問題を抱えているばかりでなく、ある程度乾燥した状態で挟み込みを行わないと逆に乾燥を遅らせるおそれがあり、転写防止シートと布帛がすれてしまうことで未乾燥インクが布帛にさらに転汚染するおそれがある。
【0010】
ここでインクの乾燥性をより重視し、一般的な合成樹脂などをインク中に添加して被膜化させることでプリント後の工程での汚れ防止をすることも考えられる。しかしその場合、確かにプリント後の工程での汚れは防ぐことができるものの、先に述べたノズル面での乾燥の問題が発生するばかりではなく、布帛にプリントされたインクの樹脂が洗浄によって除去できないという問題が発生し、布帛のプリント物にとって重要な風合いを損なってしまう可能性がある。
【0011】
インクジェット捺染用インクの改良に関する従来技術としては以下のようなものがある。
【0012】
特許文献1には、分散染料にて染色可能な布帛に対して、不規則な滲みが起こらず、高濃度で捺染物が提供可能で、且つ、吐出安定性、長期保存性に優れたインク及び捺染方法の提供を目的とする、比重と粘度に特徴のあるインクに係る発明が開示されている。しかし、吐出性改良に関して、この発明ではノズル付近の増粘防止の為にグリセリン等の多価アルコールを添加しているため、布帛上でも乾燥しにくく、汚染の原因になる。
【0013】
特許文献2には、耐光、耐熱、耐摩擦性、及び基材を重ねても印刷被膜が他方に移らない高い密着性を有する印刷被膜を形成するインクジェット印刷用インク組成物の提供を目的とする発明が開示されている。しかし、高い密着性により転写は防止できるものの、布帛に応用した場合には密着性が高い為に布帛から洗浄により脱落させる事が困難になり、布帛特有の風合いを損なうことになる。
【0014】
特許文献3には、耐水性とフリーペーパー特性を両立させた高温保存に優れたインクジェット用インクの提供を目的とする発明が開示されている。しかし、高い耐水性を持っているので、やはり洗浄により脱落させることが容易ではなく、布帛独特の風合いを保てないという問題がある。
【0015】
特許文献4には、ポリマーエマルジョンと湿潤剤を含有させ、乾燥性、吐出安定性や保存安定性に優れたインクジェット記録用インクの提供を目的とする発明が開示されている。これにはビヒクルを浸透させる事で印写後の乾燥性に優れ、着色剤は表面に留め、高濃度記録物を提供できるという利点もあるが、着色剤が水溶性のものには応用できないという問題がある。また、布帛に応用する場合、紙と布帛では自重、水分保有率が異なり、様々な工程中に自重にて汚染する可能性がある。
【0016】
上記のように、いずれの従来技術も布帛の自重等による転写汚れの防止という課題と、水系での洗浄の容易性、布帛固有の風合い保持という課題とを共に解決するための手段を示してはいない。
【特許文献1】特開平8−127981号公報
【特許文献2】特開平10−30073号公報
【特許文献3】特開2003−313466号公報
【特許文献4】特開2004−225018号公報
【特許文献5】特開2004−43518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、布帛にインクジェット方式にて染料系のインクを用い画像形成する際、布帛の自重等による転写汚れが発生せず、かつ水系での洗浄で容易に樹脂を布帛から脱落させることができ、布帛固有の風合いを損なわないプリント物が得られるインクジェット捺染方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のインクジェット捺染方法は、染料、湿潤剤、及び被膜形成高分子を含むインクをインクジェット方式にて布帛に吐出して、画像を構成する被膜を布帛表面に形成させた後、染料を発色させる熱処理を行い、その後、洗浄工程にて被膜形成高分子を布帛から脱落させるインクジェット捺染方法であって、上記の課題を解決するために、被膜形成高分子として、JIS K5600−5−4引っかき硬度(鉛筆法)試験により測定される被膜強度が6B〜Bの範囲内であり、かつ水溶性又は水膨潤性である高分子を用いるものとする。
【0019】
上記において、被膜形成高分子として、上記熱処理における加熱温度で加熱した後においてもJIS K5600−5−4引っかき硬度(鉛筆法)試験により測定される被膜強度が6B〜Bの範囲内である高分子を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、インクに湿潤剤を含んでいても、布帛上のインク表面が適度な強度の被膜に覆われているために転写汚れが発生せず、また、洗浄工程で脱落可能な被膜であるため布帛固有の風合いが損なわれていないインクジェット捺染物が得られる。さらに、インク組成物中の固形分(染料や高分子)が増加してもヘッド面等で乾燥するのが防止されるため、吐出安定性を保持しつつ、高濃度、高品質の画像を得ることができる。
【0021】
また、被膜形成高分子が布帛内への染料の浸透を防止する働きをする為、湿潤剤のみを添加した時より、濃度低下やにじみの発生を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の捺染方法においては、被膜形成高分子として、JIS K5600−5−4引っかき硬度(鉛筆法)試験により測定される被膜強度が6B〜Bの範囲にあるものを選択する。さらにはこの被膜強度が5B〜2Bのものがより好ましい。強度が6B未満であると工程中の機械や布帛同士の摩擦や自重にて膜が破断して汚染が発生する。すなわち、被膜が破断すると、湿潤剤による水分と染料とが共存しているため転写汚れが生じる。またBより硬い場合は、被膜強度が強すぎてインクドットが布帛に追従せず剥離したり、ひび割れが発生したり、さらには洗浄工程での完全除去が困難になり、布帛特有の風合いを損ねる。
【0023】
なお、捺染工程においては、通常、布帛表面に被膜を形成させた後、染料を発色させる熱処理を行い、その後洗浄工程を行うので、この熱処理における加熱温度で加熱した後の被膜強度が6B〜Bの範囲であるのが好ましい。さらにはこの加熱後の被膜強度が5B〜2Bのものがより好ましい。発色前の強度が6B以上であっても発色処理がなされたあとの強度が6B未満であると、諸条件によっては、染料が繊維と反応した発色工程後においても工程中の機械や布帛同士の摩擦や自重にて膜が破断して汚染が発生する場合がある。またBより硬い場合は、被膜強度が強すぎてインクドットが布帛に追従せず剥離したり、ひび割れが発生したり、さらには洗浄工程での完全除去が困難になり、布帛特有の風合いを損ねる場合がある。
【0024】
ここで、本明細書でいう、JIS規格 引っかき硬度(鉛筆法)試験とは、JIS規格 JIS K5600−5−4 塗料一般試験法−第5部:塗膜の機械的性質−第4節:引っかき硬度(鉛筆法)『手かき法』であり、膜厚:200μm、角度:45度、圧力:750g重で行われる試験である。
【0025】
上記のような被膜強度を有する被膜形成高分子を用いた場合、プリントされたインク自身が適度な強度で被膜化することでインクの転写汚れを防止し、かつ、様々な工程をへて洗浄工程にて完全に洗浄され、布帛独特の風合いを損なわないインクジェット捺染物を得ることが可能となる。
【0026】
本発明の被膜形成高分子は、上記のようにJIS K5600−5−4引っかき硬度(鉛筆法)試験により測定される被膜強度が6B〜Bの範囲にあり、かつ水溶性または水膨潤性の高分子であればよい。但し、脱落が容易であるという点からは水溶性であるのが好ましい。
【0027】
そのような高分子の例としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アクリルポリマー、ウレタンポリマー、スチレン・アクリル共重合体、エチレン酢酸ビニル、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩が挙げられる。
【0028】
より具体的には、染料が分散染料の場合には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類が、均染および濃染効果をも有するため好ましい。一方、染料が反応染料の場合は、理由は定かではないがアルキレングリコールの分子量が低すぎると、染色性を低下させるおそれがあるため、後述するように分子量が5000以上のものを使用することが好ましい。
【0029】
また、被膜形成高分子の分子量は、その高分子の種類によっても異なるが、概ね5000〜100,000であることが好ましい。その理由として、5000未満の分子量では、被膜化がしにくく汚染防止が困難となるおそれがあり、仮に添加量を増加させたとしても更なる効果が得られないだけでなく粘度が上昇して吐出安定性への妨げを生じたり、洗浄での脱落が困難になり布帛独特の風合いを損なうおそれがあるためである。一方、分子量100,000を越える高分子量のものを添加すると粘度上昇による吐出安定性の妨げになる懸念や、被膜強度が強くなることにより洗浄のみでの布帛からの脱落が困難になるなどの問題が発生するおそれがあるためである。特に水膨潤性の場合は分子量が大きすぎると洗浄工程での脱落がしにくくなるおそれがある。
【0030】
また被膜形成高分子の添加量は、3〜10重量%の範囲が好ましい。3重量%未満添加の場合、絶対量が少ないため十分な被膜形成が難しく、仮に被膜を形成したとしても、膜自体が薄く強度が弱いために汚染を防止できないおそれがある。また10重量%を越える添加量では、得られる皮膜が膜厚になりすぎ、工程中での布帛の屈曲時に、ひび割れ、脱落による汚染が発生するおそれがあり、洗浄の際、被膜の除去が困難になり布帛特有の風合いに影響が出るおそれがある。
【0031】
これら被膜形成高分子の形態としては、共に使用する他の染色用助剤が水系であるのでインク化した際の安定性を得るためには水溶液または水分散液が好ましい。
【0032】
次に本発明で使用可能な染料は特に限定されないが、例としては、分散染料、酸性染料、反応染料、直接染料、カチオン染料等が挙げられる。なかでも、分散染料は発色前には布帛の表面に存在しているのみで繊維と結合をしていないため転写汚れが発生し易く、本発明による効果が顕著となる。
【0033】
本発明で使用可能な湿潤剤としては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、乳酸、乳酸ナトリウム、尿素、ソルビトール、キシリトールが挙げられる。
【0034】
なかでも分散染料との併用には、水溶性が高く、分散染料分散体を溶液として安定に存在させることができることからグリセリンが好ましい。もし溶液中の状態で分散染料を溶解させるような能力が高い(すなわち疎水性が強い)湿潤剤を用いた場合、溶液中での分散染料を溶解させようとする力が働くために分散状態は不安定となる。
【0035】
また反応染料との併用には、若干の疎水性を持ったプロピレングリコール類が望ましい。例えばグリセリンのような親水性が強い湿潤剤を使用した場合、理由は定かではないが染色性が悪化する傾向が見られるためである。
【0036】
本発明は湿潤剤を含むインクに対して上述したような効果が得られる。湿潤剤のインク中の含有量は15〜30重量%の範囲内であるのが好ましい。15重量%未満の場合、ノズル周辺でインクの乾燥を生じるおそれがあり、一方30重量%を超えると、プリント後の水分量の変動が大きくなりやすく、被膜強度を保ちにくくなり本発明の効果が得にくくなる。
【0037】
本発明でいう布帛としては、織物、編物、不織布あらゆる布帛組織を用いることができるが、特に織物、編物が好ましい。布帛を構成する素材は、染料に対して染着性を有するものであれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどポリエステル繊維、ナイロン6,ナイロン6.6等のポリアミド等の合成繊維、アセテート、トリアセテート、プロミックス等の半合成繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維、綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維等が挙げられる。
【0038】
布帛の目付けは120〜250g/mの範囲が好ましい。この範囲より密度が低いと布帛同士の接点が少なくなり、転写汚れは少なくなる傾向があるが、捺染物濃度が薄くなる傾向にある。逆に密度が高いと捺染物濃度は濃くなるが、布帛同士が接しやすくなり、転写汚れが増える傾向にある。
【0039】
また、インクジェット記録方式については、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式、インクミスト方式などの連続方式、ピエゾ方式、バブルジェット(登録商標)方式、静電吸引方式などのオン・デマンド方式など、いずれも採用可能である。
【0040】
布帛にインクを吐出した後、後述する熱処理の前に布帛を乾燥してもよい。乾燥処理条件としては20〜60℃、湿度60%以下が好ましい。また、例えば風速150〜200m/minの風を布帛に当てることが好ましい。
【0041】
プリント後の布帛には更にその後、染料を発色、固着させるための目的で熱処理が行われ、その際、湿熱処理が好ましく用いられる。その場合の湿熱条件は使用される染料と布帛素材によって決められるが、目安としては、例えばポリエステル繊維であれば約160〜180℃、綿、レーヨンなどのセルロース系繊維であれば約100〜120℃、ナイロンポリアミド系繊維であれば約120〜140℃、羊毛、絹などの動物系天然繊維であれば約100〜120℃の温度で、時間的には5〜30分程度処理するのが好ましい。
【0042】
その後、熱処理後の布帛に対して、未固着染料や湿潤剤及び被膜化された高分子を除去する目的で洗浄を実施する。その際、常温の水だけではなく、温水や熱水、更に界面活性剤や、還元剤、アルカリ性物質などの助剤を添加することや機械的なもみを併用することで、よりいっそうの洗浄性の向上が期待できる。
【0043】
本発明の被膜性高分子は水溶性あるいは水膨潤性の樹脂であるが故に、その洗浄の際、洗浄液に再溶解や分解することで、布帛より除去され、その後乾燥された布帛は風合いのよいものとなる。
【0044】
洗浄の際の助剤や装置などの処方や条件は、使用される被膜性高分子の除去が可能な程度に任意に選択することが可能であり、生産性や布帛自身及び染色物の色にダメージを与えない程度で決定される。
【0045】
以上のような捺染方法を実施することで、風合いのよい高品位の捺染物を得ることが可能となる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明について実施例を挙げて説明する。なお本発明は必ずしも以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
以下の処方にてインク1(合計量100重量部)を調製した。
【0048】
〔インク1〕
・PEG #20000 5重量部
(被膜形成高分子:ポリエチレングリコール#20000、日本油脂(株)製)
ダイナマイトグリセリン 15重量部
(湿潤剤:グリセリン、日本油脂(株)製)
・C.I.Disperse Blue 165 1重量部
(分散染料)
・ ディスパーTL 0.3重量部
(分散剤:ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、明成化学工業(株)製)
・ 純水 残部
【0049】
まず上記処方の被膜形成高分子に純水を加え、完全に溶解させた。その後、湿潤剤を添加し、最後に染料、分散剤を添加し、ビーズミルにて分散後、ろ過を実施してインク1を得た。
【0050】
得られたインクを用い、ポリエステル織物(ポリエステル100%、目付け190g/m2)に下記条件でインクジェットプリンタにてプリント後、発色、ソーピング処理を行って捺染物を得た。
【0051】
〔インクジェット捺染条件〕
吐出装置:オン・デマンド方式シリアル走査型記録装置
駆動電圧:150V
パルス幅:10μs
ノズル径:50μm
周波数 :5kHz
〔捺染データ〕
インク塗布量が40、80、120g/m2の5cm×5cmのマトリクスを記録
〔発色条件〕
飽和水蒸気165℃で20分間スチーミング
〔ソーピング条件〕
ソーピング剤処方:ソーダ灰 1g/L、ハイドロ 2g/L
温度×時間 :85℃×10分
:水洗 ×3分
【0052】
上記被膜形成高分子の皮膜強度は次の方法により測定した。
【0053】
〔被膜強度測定方法〕
被膜形成高分子を水にて溶解し、40℃で乾燥を行い、フィルム(東レ(株)製 ルミラー(S10))上に200μmの膜を作成し、JIS規格 JIS K5600−5−4 塗料一般試験法−第5部:塗膜の機械的性質−第4節:引っかき硬度(鉛筆法)『手かき法』(角度:45度、圧力:750g重)にて測定を行った。測定値は表1に示す。
【0054】
また、得られた捺染物の評価を次の方法により行った。評価した結果を表1に示す。
【0055】
〔転写汚染防止効果の評価〕
上記処方及び条件により布帛に対して印写を行った後、ソーピングをする前に、印写面にポリエチレンシートを被せ、マングルにて圧力(1.3kg重/cm)を加え、シートに付着したインクをコート紙に転写させる。転写後のコート紙を汚染用グレースケールを用い目視にて評価した。数値が大きいほど転写汚染の程度が低いことを示す。
【0056】
〔風合いの評価〕
上記により印写を行った後、ソーピングをして得られた捺染物について、触感にて風合いを評価した。
【0057】
○:布帛特有のやわらかい風合いである
△:布帛の柔らかさが若干損なわれ、少々硬い風合いである
×:樹脂が完全に脱落しておらず、硬い風合いである
【0058】
[実施例2]
以下の処方にてインク2(合計量100重量部)を調製した。その他については実施例1と同様にして行った。上記評価項目にて評価した結果を表1に示す。
【0059】
〔インク2〕
・ジョンクリル70 9重量部
(被膜形成高分子:スチレンアクリル酸の共重合体(分子量:16,500)、ジョンソンポリマー(株)製)
・ダイナマイトグリセリン 30重量部
(湿潤剤:グリセリン、日本油脂(株)製)
・C.I.Disperse Blue 165 1重量部
(分散染料)
・ディスパーTL 0.3重量部
(分散剤:ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、明成化学工業(株)製)
・純水 残部
【0060】
[実施例3]
以下の処方にてインク3(合計量100重量部)を調製した。その他については実施例1と同様にして行った。上記評価項目にて評価した結果を表1に示す。
【0061】
〔インク3〕
・PEG #11000 10重量部
(被膜形成高分子:ポリエチレングリコール#11000、日本油脂(株)製)
・ポリグリセリン #310 15重量部
(湿潤剤:ポリグリセリン、阪本薬品工業(株)製)
・C.I.Disperse Blue 165 1重量部
(分散染料)
・ディスパーTL 0.3重量部
(分散剤:ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、明成化学工業(株)製)
・純水 残部
【0062】
[比較例1]
以下の処方にてインク4(合計量100重量部)を調製した。その他については実施例1と同様にして行った。上記評価項目にて評価した結果を表1に示す。
【0063】
〔インク4〕
・ダイナマイトグリセリン 30重量部
(湿潤剤:グリセリン、日本油脂(株)製)
・C.I.Disperse Blue 165 1重量部
(分散染料)
・ディスパーTL 0.3重量部
(分散剤:ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、明成化学工業(株)製)
・純水 残部
【0064】
[比較例2]
以下の処方にてインク5(合計量100重量部)を調製した。その他については実施例1と同様にして行った。上記評価項目にて評価した結果を表1に示す。
【0065】
〔インク5〕
・ネオステッカー400 3重量部
(被膜形成高分子:ウレタン系ポリマー、日華化学(株)製)
・ダイナマイトグリセリン 30重量部
(湿潤剤:グリセリン、日本油脂(株)製)
・C.I.Disperse Blue 165 1重量部
(分散染料)
・ ディスパーTL 0.3重量部
(分散剤:ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、明成化学工業(株)製)
・純水 残部
【0066】
[比較例3]
以下の処方にてインク6(合計量100重量部)を調製した。その他については実施例1と同様にして行った。上記評価項目にて評価した結果を表1に示す。
【0067】
〔インク6〕
・アルコプリント DT−CD 0.1重量部
(被膜形成高分子:アクリルポリマー、チバスペシャリティケミカルズ(株)製)
・ダイナマイトグリセリン 30重量部
(湿潤剤:グリセリン、日本油脂(株)製)
・C.I.Disperse Blue 165 1重量部
(分散染料)
・ディスパーTL 0.3重量部
(分散剤:ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、明成化学工業(株)製)
・純水 残部
【0068】
[実施例4]
以下の処方にてインク7(合計量100重量部)を調製した。その他については実施例1と同様にして行った。上記評価項目にて評価した結果を表1に示す。
【0069】
〔インク7〕
・PEG #20000 4重量部
(被膜形成高分子:ポリエチレングリコール#20000、日本油脂(株)製)
ダイナマイトグリセリン 10重量部
(湿潤剤:グリセリン、日本油脂(株)製)
・C.I.Reactive Yellow 2 1重量部
(反応染料:KP CION Yellow P−V、紀和化学(株)製)
・ 純水 残部
【0070】
【表1】

【0071】
表に示された結果から分かるように、皮膜強度が6B〜Bの範囲である被膜形成高分子を用いた実施例では転写汚染がほとんどなく、風合いも優れた捺染物が得られた。これに対し皮膜強度がこの範囲外である比較例では、転写汚染防止効果と良好な風合いとを共に得ることはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料、湿潤剤、及び被膜形成高分子を含むインクをインクジェット方式にて布帛に吐出して画像を構成する乾燥被膜を布帛表面に形成させた後、染料を発色させる熱処理を行い、その後、洗浄工程にて被膜形成高分子を布帛から脱落させるインクジェット捺染方法であって、
前記被膜形成高分子として、JIS K5600−5−4引っかき硬度(鉛筆法)試験により測定される被膜強度が6B〜Bの範囲内であり、かつ水溶性又は水膨潤性である高分子を用いることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項2】
前記被膜形成高分子として、前記熱処理における加熱温度で加熱した後においてもJIS K5600−5−4引っかき硬度(鉛筆法)試験により測定される被膜強度が6B〜Bの範囲内である高分子を用いることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット捺染方法。

【公開番号】特開2008−174866(P2008−174866A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9560(P2007−9560)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】