説明

インクジェット用水系インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置

【課題】 高い堅牢性を有し品位に優れた画像をどのような場合でも長期にわたって安定して記録することのできるインクジェット用水系インクを提供することであり、更には堅牢性と品位に優れた画像を記録し得るインクジェット記録方法、およびこのようなインクを含むインクカートリッジおよびインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】 不溶性色材、水溶性有機溶媒、補助成分、および水を主に含有するインクジェット用水系インクにおいて、該補助成分として、ポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を少なくとも含有することを特徴とするインクジェット用水系インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用水系インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置に関する。更に詳しくは、吐出安定性が高く印字画像の発色性が良好なインクジェット記録に適した色材分散型の水系インク、該インクを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来インクジェット用インクとしては、水溶性色材を使用した水系インクが多く使用されてきた。近年、インクジェット用インクにおいても耐水性や耐光性などの堅牢性に優れた顔料などの水不溶性色材が注目され、種々の試みが行われている。水不溶性色材は水に溶解しないため、一般的には非水系インクとして使用する方法がとられ、特許文献1ではポリオキシエチレンヒマシ油を添加した非水系インクが提案されている。しかし、非水系インクをインクジェット用インクとして使用するには多くの制約があり安全性の面でも注意を要するため、水不溶性色材を使用した水系インクが望まれている。水不溶性色材を水系インクの色材として用いるためには、水性媒体中に水不溶性色材を安定して分散させることが要求され、高分子化合物や界面活性剤などの分散剤を添加して水不溶性色材を水性媒体中に均一に分散させた色材分散型の水系インクが必要である。
【0003】
このような色材分散型の水系インクをインクジェット記録に使用する際には、紙面上でのインクの定着性や耐水性を向上させるために、インク中の水不溶性色材に凝集機能や水不溶化機能を持たせる試みがとられている。しかしながら、このような機能を水不溶性色材に持たせることによって、インク中での水不溶性色材の分散安定性が低下することになり、インクの保存中に水不溶性色材が凝集して濃度むらや沈降が発生しやすくなる、インクジェット装置のノズル先端部でインクの乾燥による目詰まりが発生し吐出安定性が低下しやすくなるなどという問題点を持つ。また、印字画像においても、被記録材表面で水不溶性色材が凝集しやすくなるので、凝集した粒子による光散乱のため彩度が大きく低下しインクの発色性が劣化するという問題点も有する。
【0004】
上記問題点を解決するために、ポリオキシアルキレンを含有するインクが提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、提案されたインクは、依然としてインクの吐出性を向上させる効果はなく、インクジェット装置に使用する際に必ず発生するノズル先端部でのインクの濃縮のように、インク組成が大きく変化する場合においてはインク中の水不溶性色材の分散安定性を低下させやすい。そのため、インクジェット装置のノズル周辺部への水不溶性色材の付着も多いので、不吐出や印字ヨレが発生しやすく、このインクについては、依然として吐出安定性を満足させるレベルには達していない。特にインクジェットノズルのクリーニング回復動作を頻繁に行うことのできないラインヘッドを有するインクジェット装置の場合においては、インクの不吐出や印字ヨレの発生は大きな問題点である。
【特許文献1】特開2000−17211公報
【特許文献2】特開平10−53741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記問題点に鑑みてなされたもので、高い堅牢性を有し品位に優れた画像をどのような場合でも長期にわたって安定して記録することのできるインクジェット用水系インク(以下単に「インク」という)を提供することであり、更には堅牢性と品位に優れた画像を記録し得るインクジェット記録方法、およびこのようなインクを含むインクカートリッジおよびインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題点を解決すべく鋭意検討した結果、以下の発明によって解決できることを見出した。すなわち、本発明は、水不溶性色材、水溶性有機溶媒、補助成分、および水を主に含有するインクにおいて、該補助成分として、ポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を少なくとも含有することを特徴とするインクを提供する。
【0007】
上記本発明においては、水不溶性色材が顔料であり、該顔料が高分子分散剤により分散されていることが好ましく、中でも高分子分散剤が少なくともアニオン性親水基を有するモノマーとオキシエチレン基を有するモノマーと疎水基を有するモノマーとから構成されている高分子化合物であること;およびポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のオキシエチレンのユニット数(A)/高分子分散剤のオキシエチレンのユニット数(B)が、A/B=0.1〜5の範囲であるのがより好ましい。
また、上記本発明においては、補助成分として、更にポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールを含有するのが好ましい。
【0008】
また、上記本発明においては、高分子分散剤が、少なくとも1種のビニルエーテル類から構成された疎水性ブロックと少なくとも1種のビニルエーテル類から構成された親水性ブロックとからなるブロック共重合体であることが好ましく、更に高分子分散剤の親水性ブロックが、非イオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているブロックと、アニオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているブロックとを少なくとも含むこと;高分子分散剤が、疎水性のビニルエーテル類で構成されたブロック、非イオン性親水基を有する親水性のビニルエーテル類から構成されたブロック、およびアニオン性親水基を有する親水性のビニルエーテル類から構成されたブロックの順番で少なくとも構成されていることがより好ましい。
【0009】
また、本発明は、インクにエネルギーを与えて、該インクを飛翔させて被記録材に付与して行うインクジェット記録方法において、該インクが、前記本発明のいずれかのインクであることを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。この場合、前記エネルギーが熱エネルギーであること;および上記被記録材が、少なくとも一方の面にインクを受容するコーティング層をもつ被記録材であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、インクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、上記インクが前記本発明のいずれかのインクであることを特徴とするインクカートリッジを提供する。
【0011】
また、本発明は、インクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジと、上記インクを吐出させるためのヘッド部を備えたインクジェット記録装置において、上記インクが前記本発明のいずれかのインクであることを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
上記本発明によれば、高い堅牢性を有し品位に優れた画像をどのような場合でも長期にわたって安定して記録することのできるインクを提供することができ、更には堅牢性と品位に優れた画像を記録し得るインクジェット記録方法、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、水不溶性色材、水溶性有機溶媒、補助成分、および水を主に含有するインクにおいて、該補助成分として、ポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を少なくともインク中に含有させることで、高い堅牢性を有し品位に優れた画像をどのような場合でも安定して記録することが可能なインクを提供することができることを見出した。
【0014】
ポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、インク中の水不溶性色材と良好な親和性を有し、且つポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が分岐構造を有することから、ポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と水不溶性色材とが立体的に親和される。そのため、被記録材表面において、ポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が、水不溶性色材との間に安定的に存在して色材をつなぎとめる働きをするため、印字画像の耐擦過性を向上させる。更に、ポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を使用したインクは、水不溶性色材同士の凝集も抑制されるので、印字画像の彩度も低下しにくくなり良好な発色性を発揮するようになる。また、ポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のオキシエチレン部は、水媒体との親和性が強いため、水媒体中で水不溶性色材の分散安定性を向上させ、インクの分散安定性や吐出安定性を向上させる。
【0015】
すなわち、ポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は水不溶性色材同士の凝集を適度に抑制することで、被記録材表面での発色性の低下を防止する効果を発揮していると考えられる。更に、ポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、インク媒体との親和性が良好なオキシエチレン基を有するので、インク中での水不溶性色材の分散安定性を向上させることができるようになっていると考えられる。
【0016】
水不溶性色材が顔料の場合、分散剤としてオキシエチレン基を有する高分子分散剤を使用し、その高分子分散剤中のオキシエチレン量とポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油中のオキシエチレン量とを特定の範囲に制御することで、高分子分散剤によって分散されている水不溶性色材とポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油との親和性が向上し、発色性をよりいっそう向上させることが可能となっている。
【0017】
これらの効果により、ポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、色材分散型インクの短所である被記録材表面での水不溶性色材の凝集による発色性低下を防ぎ、且つインクの長期保存時の安定性を向上させるとともに、インクジェット装置に使用する際に必ず発生するノズル先端部でのインク濃縮のように、インク組成が大きく変化する場合においても、水不溶性色材の分散安定性が低下することなくインクの安定な吐出を可能にする。更に、インクジェットノズルのクリーニング回復動作を頻繁に行うことのできないラインヘッドを有するインクジェット装置の場合においても、ポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、ノズル周辺部への水不溶性色材の付着を抑制できるため不吐出や印字ヨレが発生しにくく、長期にわたって良好な連続印字性能の達成を可能にする。
【0018】
以下、本発明のインクの構成材料について更に詳細に説明する。
(ポリオキシエチレンヒマシ油およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)
本発明のインクに使用するポリオキシエチレンヒマシ油およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、ヒマシ油またはヒマシ油を水素添加した硬化ヒマシ油にエチレンオキシドを縮合させて得られる化合物である。中でも、ポリオキシエチレンヒマシ油としては下記式1で、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては下記式2で表される構造を有する化合物が望ましい。
【0019】

【0020】
式中、l+m+n+x+y+zは10〜100であり、好ましくは20〜60である。なお、本発明でのこれらの範囲の値は、ポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油中のポリオキシエチレン基の数が均一でないため、その平均値を示したものである。l+m+n+x+y+zが10未満のときはポリオキシエチレンヒマシ油およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とインク媒体との親和性が低下し、水不溶性色材のインク中での安定性が低下しやすくなる場合があり、l+m+n+x+y+zが100を超えるときは水不溶性色材との親和性が低下し印字画像の発色性が低下しやすくなる場合がある。
【0021】
このようなポリオキシエチレンヒマシ油およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、市販されているもの以外に、ヒマシ油や硬化ヒマシ油にエチレンオキシドを塩基触媒存在下で気相法や液相法の常法で付加させて作製したものを使用することが好ましい。また、ポリオキシエチレンヒマシ油およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のエチレンオキシド数などについての同定は、NMRやIRによる官能基の定性・定量や各種クロマトグラフィーによる解析などで行うことが可能である。これらのポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、単独のものを使用する以外に2種以上のものを組み合わせても使用することも可能である。このポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のインク中の含有量としては、好ましくは0.1〜5質量%の範囲、より好ましくは0.2〜2質量%の範囲である。
【0022】
(水不溶性色材)
本発明のインクに使用する水不溶性色材としては、水にほとんど溶解しない色材であれば使用することができる。具体的には、水に対する溶解度が、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下の色材である。このような色材としては、油溶性染料、建染染料、分散染料、顔料などが挙げられ、好ましくは顔料が挙げられる。
以下に、水不溶性色材の例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0023】
(油溶性染料)
C.I.ソルベントイエロー1、2、3、13、14、19、21、22、29、36、37、38、39、40、42、43、44、45、47、62、63、71、76、79、81、82、83:1、85、86、88、151;C.I.ソルベントレッド8、27、35、36、37、38、39、40、49、58、60、65、69、81、83:1、86、89、91、92、97、99、100、109、118、119、122、127、218;C.I.ソルベントブルー14、24、25、26、34、37、38、39、42、43、44、45、48、52、53、55、59、67,70;C.I.ソルベントブラック3、5、7、8、14、17、19、20、22、24、26、27、28、29、43、45など。
【0024】
(建染染料)
C.I.バットイエロー2、4、10、20、33;C.I.バットオレンジ1、2、3、5、7、9、13、15;C.I.バットレッド1、2、10、13、15、16、61;C.I.バットブルー1、3、4、5、6、8、12、14、18、19、20、29、35、41;C.I.バットブラック1、8、9、13、14、20、25、27、29、36、56、57、59、60など。
【0025】
(分散染料)
C.I.ディスパーズイエロー5、42、83、93、99、198、224;C.I.ディスパーズオレンジ29、49、73;C.I.ディスパーズレッド92、126、145、152、159、177、181、206、283;C.I.ディスパーズブルー60、87、128、154、201、214、224、257、287、368など。
【0026】
(顔料)
Raven 760 Ultra、Raven 1060 Ultra、Raven 1080、Raven 1100 Ultra、Raven 1170、Raven 1200、Raven 1250、Raven 1255、Raven 1500、Raven 2000、Raven 2500 Ultra、Raven 3500、Raven 5250、Raven 5750、Raven 7000、Raven 5000 ULTRAII、Raven 1190 ULTRAII(以上、コロンビアン・カーボン社製);Black Pearls L、MOGUL−L、Regal400R、Regal660R、Regal330R、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1300、Monarch 1400(以上、キャボット社製);Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW200、Color Black 18、Color Black S160、Color Black S170、Special Black 4、Special Black 4A、Special Black 6、Special Black 550、Printex 35、Printex 45、Printex 55、Printex 85、Printex 95、Printex U、Printex 140U、Printex V、Printex 140V(以上、デグッサ社製);No.25、No.33、No.40、No.45、No.47、No.52、No.900、No.970、No.2200B、No.2300、No.2400B、MCF−88、MA600、MA77、MA8、MA100、MA230、MA220(以上、三菱化学社製);
【0027】
C.I.ピグメントイエロー3、12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、95、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、175、180、183,184、185;C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71;C.I.ピグメントレッド9、12、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、184、192、202、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272;C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、32、37、40、50;C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64;C.I.ピグメントグリーン7、36;C.I.ピグメントブラウン23、25、26;C.I.ピグメントブラック1、10、31、32など。
【0028】
本発明のインク中における水不溶性色材の含有量は、インク全質量に対して、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは1.0〜10質量%の範囲である。水不溶性色材の量が0.1質量%未満では十分な画像濃度が得にくい場合があり、20質量%を超えると、ノズルにおける目詰りなどによる吐出安定性の低下が起こりやすくなる。なお、これらの水不溶性色材は、単独で使用する以外に、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0029】
本発明のインクにおいて使用される水不溶性色材は、インク中に均一に分散されている必要がある。本発明で使用する水不溶性色材はそれ自体がほとんど水に溶解しない色材であるため、インク媒体中で分散させる必要がある。水不溶性色材をインク媒体中で分散させる方法としては、色材表面に親水基を付与して色材自身でインク媒体中に分散させる方法や高分子分散剤を使用して分散させる方法が挙げられる。中でも、水不溶性色材として顔料を使用し、高分子分散剤を使用して分散させたものを使用すると、印字画像の発色性がより向上するため好ましい。
【0030】
色材表面に親水基を導入する方法は公知の方法や新たに発明されたいずれの方法も使用できる。例えば、酸化剤(例えば硝酸、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、次亜塩素酸塩、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、オゾンなど)による酸化処理、シラン化合物などのカップリング剤による処理、プラズマ処理など公知な方法の他、新たに開発した方法も使用でき、これらを組み合わせてもよい。
【0031】
高分子分散剤を使用して水不溶性色材(顔料)を分散させる方法としては、水不溶性色材と高分子分散剤とを混練して所定の液体媒質中に添加し分散させた後に、更に希釈用の水や各種添加剤などを加えることで製造する方法が挙げられる。水不溶性色材と高分子分散剤との混練にはニーダーやロールミルなどを用いることができ、分散には超音波印加やビーズミル、ボールミルなどの分散機を用いることができる。
【0032】
(高分子分散剤)
本発明で好ましく使用する高分子分散剤としては、親水性を有するユニットと疎水性を有するユニットを併有する高分子化合物で水不溶性色材の分散剤として機能するものであれば使用することができる。中でもアニオン性親水基を有するモノマーとオキシエチレン基を有するモノマーと疎水基を有するモノマーとから構成されている高分子化合物が好ましく使用できる。高分子分散剤がオキシエチレン基を有する場合においては、上記ポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油中のオキシエチレンのユニット数(A)が、この高分子分散剤中のオキシエチレンのユニット数(B)に対して、A/B=0.1〜5の範囲、好ましくは0.2〜2の範囲にあると、高分子分散剤とポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油との親和性が向上するため望ましい。上記ポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油中のオキシエチレンのユニット数が、この高分子分散剤中のオキシエチレンのユニット数に対して、0.1未満では分散安定性が低下しやすくなるので好ましくなく、5を超えると印字画像の劣化が発生する場合があるので好ましくない。なお、本発明でのポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油および高分子分散剤中のオキシエチレンのユニット数については、それぞれの化合物中の1分子中のオキシエチレンのユニット数である。
【0033】
このような高分子分散剤としては、ビニル系モノマーを重合した高分子化合物が挙げられる。例えば、メタクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ベンジルなどの疎水基としてのアルキル基やフェニル基などを有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル、クロトン酸エステル、イタコン酸エステル、マレイン酸エステル、フマル酸エステルなどの各種エステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種類の疎水性モノマーと、トリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート、ポリエチレングリコールエチルエーテルアクリレートなどのオキシエチレン基を有する非イオン性の親水性モノマーと、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸およびフマル酸などの酸性基を有するモノマーを重合することにより得られる高分子化合物が挙げられる。
【0034】
中でも、高分子分散剤が、少なくとも1種のビニルエーテル類から構成された疎水性ブロックと少なくとも1種のビニルエーテル類から構成された親水性ブロックからなるブロック共重合体であると、ポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油との親和性が良好になるため、印字画像の発色性や水不溶性色材の分散安定性の面から望ましい。特に、高分子分散剤の親水性ブロックが少なくともオキシエチレン基からなる非イオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているブロックと、アニオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているブロックとを少なくとも含むと好ましく、高分子分散剤が、疎水性のビニルエーテル類で構成されたブロック、オキシエチレン基を有する非イオン性親水基を有する親水性のビニルエーテル類から構成されたブロック、およびアニオン性親水基を有する親水性のビニルエーテル類から構成されたブロックの順番で少なくとも構成されているとポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油との親和性がいっそう向上するため好ましい。
【0035】
本発明で好ましく使用する高分子分散剤は、例えば、下記一般式(a)で示される繰り返し単位構造を有することが好ましい。
−(CH2−CH(OR1))− (a)
疎水基を有するブロックとしては、上記の一般式(a)において、R1が、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはシクロアルケニル基のような脂肪族炭化水素、フェニル基、ピリジル基、ベンジル基、トルイル基、キシリル基、アルキルフェニル基、フェニルアルキレン基、ビフェニル基、フェニルピリジル基などのような、炭素原子が窒素原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素基を表す。また、芳香環上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい。R1の炭素数は1〜18が好ましい。
【0036】
更に、R1は、−(CH2m−(O)n−R4で表されるものでもよい。ここでR4は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはシクロアルケニル基のような脂肪族炭化水素、フェニル基、ピリジル基、ベンジル基、トルイル基、キシリル基、アルキルフェニル基、フェニルアルキレン基、ビフェニル基、フェニルピリジル基などのような、炭素原子が窒素原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素基(芳香環上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい)、−CHO、−CH2CHO、−CO−CH=CH2、−CO−C(CH3)=CH2、−CH2−CH=CH2、−CH2−C(CH3)=CH2、−CH2−COOR5などを表し、これらの基のうちの水素原子は、化学的に可能である範囲で、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子と置換されていてもよい。R4の炭素数は1〜18が好ましい。R5は水素、またはアルキル基である。mは1〜36が好ましく、nは0または1であるのが好ましい。
【0037】
オキシエチレン基からなる非イオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているブロックとしては上記式(1)において、R1が、−(CH(R2)−CH(R3)−O)p−R4であらわされるものである。この場合、R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、R4は、前記と同じく、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはシクロアルケニル基のような脂肪族炭化水素、フェニル基、ピリジル基、ベンジル基、トルイル基、キシリル基、アルキルフェニル基、フェニルアルキレン基、ビフェニル基、フェニルピリジル基などのような、炭素原子が窒素原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素基(芳香環上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい)、−CHO、−CH2CHO、−CO−CH=CH2、−CO−C(CH3)=CH2、−CH2−CH=CH2、−CH2−C(CH3)=CH2、−CH2−COOR5などを表し、これらの基のうちの水素原子は、化学的に可能である範囲で、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子と置換されていてもよい。R4の炭素数は1〜18が好ましい。R5は水素、またはアルキル基である。pは1〜18であるのが好ましい。
【0038】
上記式のR1およびR4におけるアルキル基またはアルケニル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、オレイルおよびリノレイルなどであり、シクロアルキル基またはシクロアルケニル基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチルおよびシクロヘキセニルなどが例示できる。
【0039】
アニオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているブロックとしては、前記一般式(a)のR1が、−CH2CH2CH2OCH2COOH、−CH2CH2COOH、−CH2COOH、および−(CH(R2)−CH(R3)−O)p−R5−COOHなどであり、R2およびR3は前記と同じく、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、R5はメチレン基、エチレン基、フェニレン基を表す。pは1〜18が好ましい。
【0040】
以下に、本発明で好ましく使用する高分子分散剤を構成するビニルエーテルモノマー(I−a〜I−o)および高分子分散剤(II−a〜II−e)の構造を例示するが、本発明に用いられる高分子分散剤のポリビニルエーテル構造は、これらに限定されるものではない。
【0041】

【0042】

【0043】
更に、上記ポリビニルエーテルの繰り返し単位数(上記(II−a)〜(II−e))においては、l、m、nは、それぞれ独立に、1〜10,000であることが好ましい。また、その合計が、上記((II−a)〜(II−e))においては、l+m+nが10〜20,000であることがより好ましい。数平均分子量は、500〜20,000,000が好ましく、1,000〜5,000,000がより好ましく、2,000〜2,000,000が最も好ましい。また、これらの高分子分散剤がインク中に占める割合は、インク全質量に対して、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.5〜10質量%である。また、上記水不溶性色材と高分子分散剤とのインク中における含有比率は、固形分質量比で100:1〜1:2であると、インクの吐出安定性や保存安定性の面から望ましい。
【0044】
また、高分子分散剤がオキシエチレン基を有する場合においては、上記ポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のインク中でのオキシエチレンのユニット総数(a)が、この高分子分散剤中のオキシエチレンのインク中でのユニット総数(b)に対して、a/b=0.1〜25の範囲、好ましくは0.5〜10の範囲にあると、高分子分散剤とポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油との親和性がより向上し、被記録材表面でのインクの定着性や発色性がよりいっそう向上するため望ましい。ここで、ユニット総数とはそれぞれの使用量から算出したオキシエチレンのユニット総数であり、1分子中のオキシエチレンのユニット数とインク中の分子のモル数(使用量/分子量)の積で表される。
【0045】
ビニルエーテル系ポリマーブロックを有する共重合体(高分子分散剤)の合成方法は、特に限定されないが、青島らによるカチオンリビング重合(特開平11−322942号公報、特開平11−322866号公報)などが好適に用いられる。カチオンリビング重合法を用いることにより長さ(分子量)を正確に揃えたホモポリマーや2成分以上のモノマーからなる共重合体、更にはブロック共重合体、グラフト共重合体、グラデーション共重合体などの様々な共重合体を合成することができる。また、ポリビニルエーテルは、その側鎖に様々な官能基を導入することができる。
【0046】
また、高分子分散剤のアニオン性親水基の中和剤としては、上記高分子分散剤のアニオン性親水基を中和することが可能なものであり、水に溶解するものであれば使用できる。このような中和剤としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属類、モノエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類、アンモニアなどが挙げられるが、リチウムまたはナトリウムであると得られる水不溶性色材の安定性がより向上するため好ましい。
【0047】
(水溶性有機溶媒)
本発明のインクに使用する水溶性有機溶媒としては、水溶性の有機溶媒であれば使用することができ、2種以上の水溶性有機溶媒の混合溶媒としても使用できる。
【0048】
好ましい水溶性有機溶媒の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコールおよびtert−ブチルアルコールなどの低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、チオジグリコールおよび1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール類;グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオールおよび1,2,5−ペンタントリオールなどのトリオール類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ネオペンチルグリコールおよびペンタエリスリトールなどのヒンダードアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;ジメチルスルホキシド、グリセリンモノアリルエーテル、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルフォラン、β−ジヒドロキシエチルウレア、アセトニルアセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン、ジアセトンアルコール、テトラヒドロフランおよびジオキサンなどが挙げられる。
【0049】
これらの中でも、沸点が120℃以上の水溶性有機溶媒を使用すると、ノズル先端部でのインク濃縮が抑制されるため好ましい。これらの水溶性有機溶媒のインク中に占める割合は、インク全質量に対して、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。
【0050】
以上が本発明のインクジェット記録用インクの必須成分であるが、これらの成分以外に、界面活性剤、pH調整剤、酸化防止剤、防黴剤などの各種の補助成分を添加してもよい。中でも補助成分として、更にポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールをインク中に含有させると、色材の分散安定性や吐出安定性がよりいっそう向上するため好ましい。このようなポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールとしては、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコール中のオキシエチレンまたはオキシプロピレンのユニット数がそれぞれ10〜35の範囲にあるのが好ましい。また、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールのオキシエチレンまたはオキシプロピレンのユニット数(C)がポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油中のオキシエチレンのユニット数(A)に対してC/A=0.1〜2の範囲にあるものが、長期保存時の色材の分散安定性や長期の吐出安定性が向上するため望ましい。
【0051】
このようなポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールのインク中での含有量は、インク全質量に対して、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%である。特に、インク中に含有されているポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールのオキシエチレンまたはオキシプロピレンのユニット総数(c)がインク中に含有されているポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油中のオキシエチレンのユニット総数(a)に対してc/a=2〜20の範囲になるようにすると、長期保存時の色材の分散安定性や長期の吐出安定性が更に向上するため望ましい。
【0052】
本発明のインクジェット記録方法の特徴は、インクにエネルギーを与えてインクを飛翔させて行うインクジェット記録方法において、上記本発明のインクを使用することである。エネルギーとしては、熱エネルギーや力学的エネルギーを用いることができるが、熱エネルギーを用いる場合が好ましい。
【0053】
本発明のインクジェット記録方法において、被記録材は限定されるものではないが、いわゆるインクジェット専用紙、ハガキや名刺用紙、ラベル用紙、ダンボール用紙、インクジェット用フィルムなど、少なくとも一方の面にインクを受容するコーティング層を持つ被記録材が好ましく使用される。コーティング層を持つ被記録材としては、少なくとも親水性ポリマーおよび/または無機多孔質体を含有した少なくとも一方の面にインクを受容するコーティング層を持つ被記録材が望ましい。
【0054】
上記本発明のインクを用いて記録を行うインクジェット記録装置としては、A4サイズ紙に主に用いる一般家庭用プリンターや、名刺やカードを印刷対象とするプリンター、或いは業務用の大型プリンターなどが挙げられるが、好適なインクジェット記録装置の一例を以下に説明する。
【0055】
(熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置)
図1は、ヘッドにインク供給チューブ104を介して供給されるインクを収容したインクカートリッジ100の一例を示す図である。101は供給用インクを収納したインク袋であり、その先端には塩素化ブチルゴム製の栓102が設けられている。この栓102に針103を挿入することにより、インク袋101中のインクが図3に示す記録ヘッド(303〜306)に供給される。また、インクカートリッジ内に廃インクを受容するインク吸収体を設けてもよい。本発明で使用されるインクジェット記録装置としては、上記のごとき記録ヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、それらが一体になったものも好適に用いられる。
【0056】
図2は、本実施例に使用したインクジェット記録ヘッドの構造を説明するための模式図である。各ノズル202には、それぞれに対応した発熱体204(ヒータ)が設けられており、記録ヘッド駆動回路からヒータ204に所定の駆動パルスを印加することにより加熱し、気泡を発生させ、その作用で吐出口202からインク液滴を吐出する。なお、ヒータ204はシリコン基板206の上に半導体製造プロセスと同様の手法で形成される。203は各ノズル202を構成するノズル隔壁であり、205は各ノズル202にインクを供給するための共通液室であり、207は天板である。
【0057】
本実施形態による記録装置の一部透視図を図3に示す。記録装置300の被記録材302は例えばロール供給ユニット301から供給され、記録装置300本体に具備された搬送ユニットによって、連続的に搬送される。搬送ユニットは搬送モータ312、搬送ベルト313などから構成される。記録は、被記録材の画像切り出し位置がブラックの記録ヘッド303の下を通過する時に、記録ヘッドからブラックインクを吐出開始、同様に、シアン304、マゼンタ305、イエロー306の順に、各色のインクを選択的に吐出してカラー画像を形成する。
【0058】
記録装置300はこの他、各記録ヘッドを待機中にキャップするキャップ機構311、各々の記録ヘッド303〜306にインクを供給するためのインクカートリッジ307〜310、インクの供給や回復動作のためのポンプユニット(不図示)、記録装置全体を制御する制御基板(不図示)などによって構成されている。
【0059】
図4は本実施例に使用したインクジェット記録装置における回復処理系の概略図である。記録ヘッド303〜306が下降したとき、そのインク吐出口形成面がキャップ機構311内の塩素化ブチルゴムにより形成されたキャップ400に近接することにより所定の回復動作の実行が可能である。
【0060】
回復処理系におけるインク再生回路部は補給されるインクが貯留されポリエチレン袋に収容されるインクカートリッジ100と、吸引ポンプ403などを介して接続されるサブタンク401と、キャップ400とサブタンク401との間を接続する塩化ビニルにより形成されたインク供給路409に配されキャップ機構311からのインクをサブタンク401に回収する吸引ポンプ403、キャップから回収したインク中のゴミなどを除去するフィルター405、インク供給路408を介して接続され記録ヘッド303〜306の共通液室にインクを供給する加圧ポンプ402、記録ヘッドから戻ったインクをサブタンク401に供給するインク供給路407、弁404a〜404dを主要な要素として構成されている。
【0061】
記録ヘッド303〜306のクリーニング時において回復弁404bを閉鎖し、加圧ポンプ402を作動することによりサブタンク401から記録ヘッドにインクを加圧供給し、ノズル406から強制排出させる。これにより記録ヘッドのノズル内の泡、インク、ゴミなどが排出される。吸引ポンプ403は、記録ヘッドからキャップ機構311内に排出されたインクをサブタンク401に回収させる。
【0062】
(力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置)
次に、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の好ましい一例としては、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図5に示す。
【0063】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板82などを指示固定するための基板84とから構成されている。
【0064】
図5において、インク流路80は、感光性樹脂などで形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケルなどの金属を電鋳やプレス加工による穴あけなどにより吐出口85が形成され、振動板82はステンレス、ニッケル、チタンなどの金属フィルムおよび高弾性樹脂フィルムなどで形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZTなどの誘電体材料で形成される。以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、歪み応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板82を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。
【実施例】
【0065】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、文中、部、および%とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0066】
[実施例1]
(色材分散体Iの作製)
市販のpH2.5の酸性カーボンブラック「Monarch 1300」(キャボット社製)300gを水1,000ミリリットルに良く混合した後に次亜塩素酸ソーダ450gを滴下して、100〜110℃で8時間攪拌した。得られたスラリーを水で10倍に希釈し、水酸化リチウムにてpHを調整し、伝導度0.2mS/cmまで限外濾過膜にて脱塩濃縮し、顔料濃度10%のブラックの色材分散体とした。更に、これを遠心処理した後に、3ミクロンのナイロンフィルターで濾過し、粗大粒子を取り除き、ブラック色材分散体を得た。得られた色材分散体のゼータ電位は−60mVであった。ゼータ電位の測定には、電気泳動光散乱法(商品名:レーザー電位径ELS−6000;大塚電子(株)社製)を用いた。
【0067】
(インク1の作製)
・色材分散体I 50.0部
・式1のポリオキシエチレンヒマシ油(オキシエチレンユニット数10)
5.0部
・グリセリン 5.0部
・ジエチレングリコール 10.0部
・イソプロピルアルコール 3.0部
・イオン交換水 27.0部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、目的のインクを得た。
【0068】
[実施例2]
(高分子分散剤Aの作製)
還流管、滴下ロート、温度計および攪拌装置を備えたガラス製4つ口フラスコに、メチルエチルケトン300部を仕込み、攪拌しながら、還流管からリフラックスが定常的に行われるまで加熱した。この時の内温は84℃であった。この溶液にtert−オクチルメタクリレート20部、トリエチレングリコールエチルエーテルアクリレート180部、メタクリル酸40部および重合開始剤(和光純薬製ABN−E)4部の混合溶液を180分かけて等速で滴下した。更に30分エージングした後、メチルエチルケトン100部およびABN−E2部の混合溶液を120分かけて等速で滴下した。滴下終了後60分間内温を維持した後に冷却し、メチルエチルケトン100部を添加して高分子分散剤を作製した。なお、得られた高分子分散剤の重量平均分子量は15,000であり、高分子分散剤中の平均のオキシエチレンユニット数(B)は100であった。
【0069】
(色材分散体IIの作製)
上記高分子分散剤Aのメチルエチルケトン溶液と市販の顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3とを2軸スクリューを有する混練機に仕込み、均一になるまで混練した後、内温を80℃に維持しながら減圧して溶媒を留去した。この混練物を2本ロールを用いてシート化し、このシートを容器に移して、所定量のイオン交換水と中和剤として水酸化ナトリウムを加えて攪拌して、顔料濃度10%、高分子分散剤濃度10%の色材分散体IIを得た。
【0070】
(インク2の作製)
・色材分散体II 10.0部
・式1のポリオキシエチレンヒマシ油(オキシエチレンユニット数10)
0.1部
・グリセリン 5.0部
・ジエチレングリコール 10.0部
・イソプロピルアルコール 3.0部
・イオン交換水 71.9部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、目的のインクを得た。
【0071】
[実施例3]
(高分子分散剤Bの作製)
還流管、滴下ロート、温度計および攪拌装置を備えたガラス製4つ口フラスコに、メチルエチルケトン300部を仕込み、攪拌しながら、還流管からリフラックスが定常的に行われるまで加熱した。この時の内温は84℃であった。この溶液にオクタデシルメタクリレート34部、ジエチレングリコールメチルエーテルアクリレート17部、メタクリル酸40部および重合開始剤(和光純薬製ABN−E)4部の混合溶液を180分かけて等速で滴下した。更に30分エージングした後、メチルエチルケトン100部およびABN−E2部の混合溶液を120分かけて等速で滴下した。滴下終了後60分間内温を維持した後に冷却し、メチルエチルケトン100部を添加して高分子分散剤を作製した。なお、得られた高分子分散剤の重量平均分子量は12,000であり、高分子分散剤中の平均のオキシエチレンユニット数は20であった。
【0072】
(色材分散体IIIの作製)
上記高分子分散剤Bのメチルエチルケトン溶液と市販の顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3とを2軸スクリューを有する混練機に仕込み、均一になるまで混練した後、内温を80℃に維持しながら減圧して溶媒を留去した。この混練物を2本ロールを用いてシート化し、このシートを容器に移して所定量のイオン交換水と中和剤として水酸化ナトリウムを加えて攪拌して、顔料濃度16%、高分子分散剤濃度2%の色材分散体IIIを得た。
【0073】
(インク3の作製)
・色材分散体III 25.0部
・式2のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(オキシエチレンユニット数100) 1.1部
・グリセリン 5.0部
・ジエチレングリコール 10.0部
・イソプロピルアルコール 3.0部
・イオン交換水 55.9部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、目的のインクを得た。
【0074】
[実施例4]
(高分子分散剤Cの作製)
疎水性ブロックと親水性ブロックからなるAB型ジブロック共重合体の合成:
三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下、250℃で加熱し吸着水を除去した。系を室温に戻した後、イソブチルビニルエーテル12ミリモル、酢酸エチル16ミリモル、1−イソブトキシエチルアセテート0.1ミリモル、およびトルエン11cm3を加え、系内温度が0℃に達したところでエチルアルミニウムセスキクロライド0.2ミリモルを加え重合を開始し、AB型ジブロック共重合体のAブロックを合成した。
【0075】
分子量を時分割に分子ふるいカラムクロマトグラフィー(GPC)を用いてモニタリングし、Aブロックの重合が完了したことを確認後、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシビニル(Bブロック)の水酸基をトリメチルクロロシランでシリル化したビニルモノマー24ミリモルを添加することで合成を行った。重合反応の停止は、系内に0.3%のアンモニア/メタノール溶液を加えて行い、トリメチルクロロシランでシリル化した水酸基の加水分解は水を添加することで行った。反応を終えた混合溶液中にジクロロメタンを加えて希釈し、0.6Nの塩酸溶液で3回、次いで蒸留水で3回洗浄し、エバポレーターで濃縮・乾固したものを真空乾燥させてAB型ジブロック共重合体(高分子分散剤C)を得た。化合物の同定には、NMRおよびGPCを用いて行った(Mn=3.6×104、Mw/Mn=1.2)。なお、高分子分散剤中の平均のオキシエチレンユニット数は400であった。
【0076】
(色材分散体IVの作製)
市販の顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3を12.0部とテトラヒドロフラン90.0部を混合し、40℃に加温して均一に溶解するようによく攪拌した。この混合溶液を、テトラヒドロフラン90.0部と上記高分子分散剤Cの10.0部とを溶解した溶液中に添加し混合した後、水78.0部を添加した。その後、ロータリーエバポレーターでテトラヒドロフランを除去し、顔料濃度12%、高分子分散剤濃度10%の色材分散体IVを得た。
【0077】
(インク4の作製)
・色材分散体IV 25.0部
・式2のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(オキシエチレンユニット数60)
2.0部
・グリセリン 5.0部
・ジエチレングリコール 10.0部
・イソプロピルアルコール 3.0部
・ポリエチレングリコール(オキシエチレンユニット数10) 1.0部
・イオン交換水 54.0部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、目的のインクを得た。
【0078】
[実施例5]
(高分子分散剤Dの作製)
疎水性ブロックと2つの親水性ブロックからなるABC型トリブロック共重合体の合成:
三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下250℃で加熱し吸着水を除去した。系を室温に戻した後、n−オクタデシルビニルエーテル12ミリモル、酢酸エチル16ミリモル、1−イソブトキシエチルアセテート0.1ミリモル、およびトルエン11cm3を加え、系内温度が0℃に達したところでエチルアルミニウムセスキクロライド0.2ミリモルを加え重合を開始し、ABC型トリブロック共重合体のA成分を合成した。
【0079】
分子量を時分割に分子ふるいカラムクロマトグラフィー(GPC)を用いてモニタリングし、A成分の重合が完了したことを確認後、次いで2−(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エトキシビニル(B成分)25ミリモルを添加し重合を続行した。同様にGPCで分子量をモニタリングし、B成分の重合が完了したことを確認後、6−(2−ビニロキシエトキシ)ヘキサノイックアシッド(C成分)のカルボン酸部をエチル基でエステル化したビニルモノマー12ミリモルを添加することで合成を行った。重合反応の停止は、系内に0.3%のアンモニア/メタノール溶液を加えて行い、エステル化させたカルボキシル基は水酸化ナトリウム/メタノール溶液で加水分解させてカルボン酸型に変化させた。後は実施例4と同様にして、ABC型トリブロック共重合体(高分子分散剤D)を得た。化合物の同定には、NMRおよびGPCを用いて行った(Mn=3.7×104、Mw/Mn=1.2)。なお、高分子分散剤中の平均のオキシエチレンユニット数は100であった。
【0080】
(色材分散体Vの作製)
市販の顔料であるC.I.ピグメントレッド122を12.0部とテトラヒドロフラン90.0部を混合し、40℃に加温して均一に溶解するようによく攪拌した。この混合溶液を、テトラヒドロフラン90.0部に上記高分子分散剤Dの8.0部を溶解した溶液中に添加し混合した後、高分子分散剤のアニオン性親水基の中和剤としてのナトリウムを当量含有する水酸化ナトリウム水溶液80.0部を添加した。その後、ロータリーエバポレーターでテトラヒドロフランを除去し、顔料濃度12%、高分子分散剤濃度8%の色材分散体Vを得た。
【0081】
(インク5の作製)
・色材分散体V 25.0部
・式2のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(オキシエチレンユニット数20) 0.25部
・グリセリン 8.0部
・エチレングリコール 8.0部
・トリエチレングリコール 6.5部
・ポリプロピレングリコール(オキシプロピレンユニット数35)5.0部
・イオン交換水 47.25部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、目的のインクを得た。
【0082】
[実施例6]
(高分子分散剤Eの作製)
疎水性ブロックと2つの親水性ブロックからなるABC型トリブロック共重合体の合成:
実施例5で使用したB成分としての2−(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エトキシビニルの添加量を8ミリモルに変える以外は実施例5と同様にして、ABC型トリブロック共重合体(高分子分散剤E)を得た。化合物の同定には、NMRおよびGPCを用いて行った(Mn=3.3×104、Mw/Mn=1.1)。なお、高分子分散剤中の平均のオキシエチレンユニット数は30であった。
【0083】
(色材分散体VIの作製)
市販の顔料であるC.I.ピグメントイエロー93を10.0部とテトラヒドロフラン90.0部を混合し、40℃に加温して均一に溶解するようによく攪拌した。この混合溶液を、テトラヒドロフラン90.0部に上記高分子分散剤Eの10.0部を溶解した溶液中に添加し混合した後、高分子分散剤のアニオン性親水基の中和剤としてのリチウムを当量含有する水酸化リチウム水溶液80.0部を添加した。その後、ロータリーエバポレーターでテトラヒドロフランを除去し、顔料濃度10%、高分子分散剤濃度10%の色材分散体VIを得た。
【0084】
(インク6の作製)
・色材分散体VI 40.0部
・式1のポリオキシエチレンヒマシ油(オキシエチレンユニット数60)
2.0部
・グリセリン 8.0部
・エチレングリコール 8.0部
・トリエチレングリコール 6.5部
・ポリプロピレングリコール(オキシプロピレンユニット数16)4.0部
・イオン交換水 31.5部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、目的のインクを得た。
【0085】
[実施例7]
(高分子分散剤Fの作製)
疎水性ブロックと2つの親水性ブロックからなるABC型トリブロック共重合体の合成:
実施例5で使用したB成分としての2−(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エトキシビニルの添加量を35ミリモルに変える以外は実施例5と同様にして、ABC型トリブロック共重合体(高分子分散剤F)を得た。化合物の同定には、NMRおよびGPCを用いて行った(Mn=3.8×104、Mw/Mn=1.3)。なお、高分子分散剤中の平均のオキシエチレンユニット数は140であった。
【0086】
(色材分散体VIIの作製)
市販の顔料であるカーボンブラック(三菱化学製 MA100)を16.0部とテトラヒドロフラン90.0部とを混合し、40℃に加温して均一に溶解するようによく攪拌した。この混合溶液を、テトラヒドロフラン90.0部に上記高分子分散剤Fの4.0部を溶解した溶液中に添加し混合した後、高分子分散剤のアニオン性親水基の中和剤としてのリチウムを当量含有する水酸化リチウム水溶液80.0部を添加した。その後、ロータリーエバポレーターでテトラヒドロフランを除去し、顔料濃度16%、高分子分散剤濃度4%の色材分散体VIIを得た。
【0087】
(インク7の作製)
・色材分散体VII 25.0部
・式1のポリオキシエチレンヒマシ油(オキシエチレンユニット数40)
1.0部
・グリセリン 6.0部
・トリエチレングリコール 6.0部
・トリメチロールプロパン 6.0部
・ポリプロピレングリコール(オキシプロピレンユニット数33)4.0部
・イオン交換水 52.0部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、目的のインクを得た。
【0088】
[実施例8]
(高分子分散剤Gの作製)
疎水性ブロックと2つの親水性ブロックからなるABC型トリブロック共重合体の合成:
実施例5で使用したB成分としての2−(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エトキシビニルの添加量を5ミリモルに変える以外は実施例5と同様にして、ABC型トリブロック共重合体(高分子分散剤G)を得た。化合物の同定には、NMRおよびGPCを用いて行った(Mn=3.1×104、Mw/Mn=1.1)。なお、高分子分散剤中の平均のオキシエチレンユニット数は20であった。
【0089】
(色材分散体VIIIの作製)
市販の顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3を12.0部とテトラヒドロフラン90.0部を混合し、40℃に加温して均一に溶解するようによく攪拌した。この混合溶液を、テトラヒドロフラン90.0部に上記高分子分散剤Gの10.0部を溶解した溶液中に添加し混合した後、高分子分散剤のアニオン性親水基の中和剤としてのリチウムを当量含有する水酸化リチウム水溶液78.0部を添加した。その後、ロータリーエバポレーターでテトラヒドロフランを除去し、顔料濃度12%、高分子分散剤濃度10%の色材分散体VIIIを得た。
【0090】
(インク8の作製)
・色材分散体VIII 25.0部
・式2のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(オキシエチレンユニット数20) 0.35部
・グリセリン 6.0部
・トリエチレングリコール 6.0部
・トリメチロールプロパン 6.0部
・ポリエチレングリコール(オキシエチレンユニット数33) 3.0部
・イオン交換水 53.65部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、目的のインクを得た。
【0091】
[実施例9]
(色材分散体IXの作製)
市販の顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3を12.0部とテトラヒドロフラン90.0部を混合し、40℃に加温して均一に溶解するようによく攪拌した。この混合溶液を、テトラヒドロフラン90.0部に実施例8の高分子分散剤Gの4.0部を溶解した溶液中に添加し混合した後、高分子分散剤のアニオン性親水基の中和剤としてのナトリウムを当量含有する水酸化ナトリウム水溶液84.0部を添加した。その後、ロータリーエバポレーターでテトラヒドロフランを除去し、顔料濃度12%、高分子分散剤濃度4%の色材分散体IXを得た。
【0092】
(インク9の作製)
・色材分散体IX 25.0部
・式2のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(オキシエチレンユニット数20) 0.5部
・グリセリン 6.0部
・トリエチレングリコール 6.0部
・トリメチロールプロパン 6.0部
・ポリエチレングリコール(オキシエチレンユニット数21) 1.0部
・イオン交換水 55.5部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、目的のインクを得た。
【0093】
[実施例10]
(色材分散体Xの作製)
市販の顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3を12.0部とテトラヒドロフラン90.0部とを容器内にて混合し、40℃に加温して均一に溶解するようによく攪拌した。この混合溶液を、テトラヒドロフラン90.0部に実施例8の高分子分散剤Gの16.0部を溶解した溶液中に添加し混合した後、高分子分散剤のアニオン性親水基の中和剤としてのナトリウムを当量含有する水酸化ナトリウム水溶液72.0部を添加した。その後、ロータリーエバポレーターでテトラヒドロフランを除去し、顔料濃度12%、高分子分散剤濃度16%の色材分散体Xを得た。
【0094】
(インク10の作製)
・色材分散体X 25.0部
・式1のポリオキシエチレンヒマシ油(オキシエチレンユニット数40)
0.25部
・式2のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(オキシエチレンユニット数40) 0.25部
・グリセリン 6.0部
・トリエチレングリコール 6.0部
・トリメチロールプロパン 6.0部
・ポリエチレングリコール(オキシエチレンユニット数10) 5.0部
・イオン交換水 51.5部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、目的のインクを得た。
【0095】
[比較例1]
(インク11の作製)
・色材分散体I 50.0部
・グリセリン 5.0部
・ジエチレングリコール 10.0部
・イソプロピルアルコール 3.0部
・イオン交換水 32.0部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、インクを得た。
【0096】
[比較例2]
(インク12の作製)
・色材分散体II 10.0部
・グリセリン 5.0部
・ジエチレングリコール 10.0部
・イソプロピルアルコール 3.0部
・イオン交換水 72.0部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、インクを得た。
【0097】
[比較例3]
(インク13の作製)
・色材分散体II 10.0部
・グリセリン 5.0部
・ジエチレングリコール 10.0部
・イソプロピルアルコール 3.0部
・ポリエチレングリコール(オキシエチレンユニット数10) 1.0部
・イオン交換水 71.0部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、インクを得た。
【0098】
[比較例4]
(インク14の作製)
・色材分散体I 50.0部
・グリセリン 5.0部
・ジエチレングリコール 10.0部
・イソプロピルアルコール 3.0部
・ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート
(オキシエチレンユニット数20) 5.0部
・イオン交換水 27.0部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、インクを得た。
【0099】
[比較例5]
(インク15の作製)
・色材分散体II 10.0部
・グリセリン 5.0部
・ジエチレングリコール 10.0部
・イソプロピルアルコール 3.0部
・ポリオキシエチレンドデシルエーテル(オキシエチレンユニット数10)
0.1部
・イオン交換水 71.9部
以上の成分を混合し充分攪拌した後、孔径3μmのミクロフィルターでろ過して、インクを得た。
【0100】
(評価)
実施例1〜10のインクと比較例1〜5のインクの分散安定性、吐出特性、発色性、耐擦過性についての試験を行った。なお、発色性・耐擦過性および吐出特性については、各インクを記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置P−660CII(キヤノンファインテック製)にそれぞれ搭載して、光沢紙SP101(キヤノン製)に印字を行い、評価を行った。結果、表1に記載したように、いずれの実施例のインクも比較例のインクに比べて、良好な分散安定性と吐出安定性を示す結果が得られた。また、実施例のインクはいずれも印字画像の発色性と耐擦過性は良好な結果であった。
【0101】

【0102】
*1:オキシエチレン基比
ポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と高分子分散剤のオキシエチレン基の比を以下のように算出した値。
オキシエチレン基比=ポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油中のオキシエチレンのユニット数/高分子分散剤中のオキシエチレンのユニット数
【0103】
*2:分散安定性
各インクを100℃で4時間加熱し、加熱後のインクの熱安定性試験を行った。加熱試験前後の粒子径を測定し、下式で粒子径増加率(%)を求め分散安定性の尺度とした。粒子径の測定には動的光散乱法(商品名:レーザー粒径解析システムPARIII;大塚電子(株)社製)を用いた。評価基準は下記の通りとした。

◎:粒子径増加率(%)が5%未満である。
○:粒子径増加率(%)が5%以上10%未満である。
△:粒子径増加率(%)が10%以上30%未満である。
×:粒子径増加率(%)が30%以上である。
【0104】
*3:間欠吐出性
各インクを60℃で2ヶ月間保管した後、15℃で湿度が10%の環境下において、100%ベタ画像を印字し3分間休止した後、再度100%ベタ画像を印字した画像について下記の評価基準で評価した。
◎:白スジが全く無く、正常に印字されている。
○:印字の最初の部分に僅かに白スジがみられる。
△:画像全体に白スジがみられる。
×:画像がほとんど印字されていない。
【0105】
*4:連続吐出性
ハガキサイズのグラデーションパターンを1,000枚連続印字し、1,000枚目の画像のヨレ、不吐出の有無を下記の基準で評価した。
◎:ヨレ、不吐出が無く、正常に印字されている。
○:不吐出は発生していないが、一部にヨレが見られる。
△:不吐出が一部発生し、画像全体にヨレが見られる。
×:不吐出が多く発生し、画像全体にヨレが見られる。
【0106】
*5:発色性
60℃で2ヶ月間保管した各インクで、画像を印字し、その画像を下記評価基準で評価した。
◎:滲みがなく、彩度が高い。
○:滲みはないが、若干彩度が低い。
△:滲みがみられる。
×:滲みが多く、彩度も低い。
【0107】
*6:耐擦過性
印字から12時間以上放置後、印字面に水道水を噴霧した後、その上にキムワイプを載せ、更にその上に500g/12.56cm2の錘りを載せ、5往復したときの白紙部の汚れやべた画像、文字印字部の擦れ具合を下記評価基準で評価した。
◎:白紙部に全く汚れが無く、べた画像、文字印字部の擦れがない。
○:白紙部にほとんど汚れが無く、べた画像、文字印字部の擦れがない。
△:白紙部にやや汚れがあり、べた画像および文字印字部にやや擦った後がある。
×:白紙部に汚れがあり、べた画像および文字印字部の一部が擦り取られている。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上説明したように、本発明によれば、高い堅牢性を有し品位に優れた画像をどのような場合でも長期にわたって安定して記録することのできるインクジェット用水系インクを提供することができ、更には堅牢性と品位に優れた画像を記録し得るインクジェット記録方法とインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】インクカートリッジの構造を説明するための模式図である。
【図2】インクジェット記録ヘッドの構造を説明するための模式図である。
【図3】インクジェット記録装置の透視図である。
【図4】インクジェット記録装置における回復処理系の概略図である。
【図5】インクジェット記録ヘッドの別の構成例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0110】
100:インクカートリッジ
101:インク袋
102:ゴム栓
103:針
104:チューブ
201:ベースプレート
202:インクノズル(吐出口)
203:隔壁
204:ノズルヒータ
205:共通液室
206:基板
207:天板
300:記録装置
301:ロール供給ユニット
302:被記録材(ロール紙)
303:記録ヘッド(ブラック)
304:記録ヘッド(シアン)
305:記録ヘッド(マゼンタ)
306:記録ヘッド(イエロー)
307:インクカートリッジ(ブラック)
308:インクカートリッジ(シアン)
309:インクカートリッジ(マゼンタ)
310:インクカートリッジ(イエロー)
311:キャップ機構
312:搬送モータ
313:搬送ベルト
400:キャップ
401:サブタンク
402:加圧ポンプ
403:吸引ポンプ
404a:供給弁
404b:回復弁
404c:大気開放弁
404d:リサイクル弁
405:フィルター
406:フェース(ノズル)面
80:インク流路
81:オリフィスプレート
82:振動板
83:圧電素子
84:基板
85:吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性色材、水溶性有機溶媒、補助成分、および水を主に含有するインクジェット用水系インクにおいて、該補助成分として、ポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を少なくとも含有することを特徴とするインクジェット用水系インク。
【請求項2】
水不溶性色材が顔料であり、該顔料が高分子分散剤により分散されている請求項1に記載のインクジェット用水系インク。
【請求項3】
高分子分散剤が少なくともアニオン性親水基を有するモノマーとオキシエチレン基を有するモノマーと疎水基を有するモノマーとから構成されている高分子化合物である請求項2に記載のインクジェット用水系インク。
【請求項4】
ポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のオキシエチレンのユニット数(A)/高分子分散剤のオキシエチレンのユニット数(B)が、A/B=0.1〜5の範囲である請求項3に記載のインクジェット用水系インク。
【請求項5】
補助成分として、更にポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールを含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用水系インク。
【請求項6】
高分子分散剤が、少なくとも1種のビニルエーテル類から構成された疎水性ブロックと少なくとも1種のビニルエーテル類から構成された親水性ブロックとからなるブロック共重合体である請求項2に記載のインクジェット用水系インク。
【請求項7】
高分子分散剤の親水性ブロックが、非イオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているブロックと、アニオン性親水基を有するビニルエーテル類から構成されているブロックとを少なくとも含む請求項6に記載のインクジェット用水系インク。
【請求項8】
高分子分散剤が、疎水性のビニルエーテル類で構成されたブロック、非イオン性親水基を有する親水性のビニルエーテル類から構成されたブロック、およびアニオン性親水基を有する親水性のビニルエーテル類から構成されたブロックの順番で少なくとも構成されている請求項6に記載のインクジェット用水系インク。
【請求項9】
インクにエネルギーを与えて、該インクを飛翔させて被記録材に付与して行うインクジェット記録方法において、該インクが、請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット用水系インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項10】
エネルギーが、熱エネルギーである請求項9に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
被記録材が、少なくとも一方の面にインクを受容するコーティング層をもつ被記録材である請求項9に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
インクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、該インクが請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット用水系インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項13】
インクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジと、該インクを吐出させるためのヘッド部を備えたインクジェット記録装置において、該インクが請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット用水系インクであることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−233131(P2006−233131A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53246(P2005−53246)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】