説明

インクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキ

【課題】高温での保存安定性に優れたインクジェット印刷用油中水(W/O)型エマルションインキを提供する。
【解決手段】乳化剤として脂肪酸部分がオレイン酸またはイソステアリン酸であり、HLBが7〜14であるポリグリセリン脂肪酸エステルを用い、α値が9以上の非水溶性極性溶剤を含有する油相中に水溶性染料を含有する水相を分散させる。乳化剤の配合量は、水相全体を100重量部とした場合に25〜70重量部であり、水相中の水溶性染料濃度は、その染料の最大溶解度の1/2以上である。α値が9以上の非水溶性極性溶剤は、エステル系溶剤及びアルコール系溶剤であり、その含有量は、前者の場合インキ全量の15〜35質量%、後者の場合5〜15質量%であるのが好ましい。該エマルションインキは、油相40〜99質量%及び水相60〜1質量%からなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷における使用に適し、高温における保存安定性に優れたインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、微細なノズルからインキ滴を吐出して、非接触で印字するのが特徴であり、インキ滴の微細化、印刷物の高速化、大判化を目指して各社がインクジェット用インキの開発を行っている。
【0003】
インクジェット印刷で用いられるインキ(本明細書中、「インクジェット用インキ」という。)としては、パーソナル及び事務用途では、一般に着色剤として染料及び/又は顔料を用いる水性染顔料インキが用いられる。水性染顔料インキは、用紙繊維の吸水性が高いために印刷濃度が高く、且つ印刷物裏側から見た印刷濃度である裏抜けが少なくなる。その反面、用紙は製紙される時に圧力が掛かった状態で乾燥しているために、水が付着すると用紙繊維間の水素結合が切られて紙カールが発生する。この紙カールは、断裁された枚葉紙を用いる場合に顕著であり、インキ滴の位置精度や用紙搬送に影響を及ぼす。特に高速印刷を目指すためには、紙カールを無くすことが必要であった。
【0004】
紙カールを無くす手法としては、インキ中の水配合量を少なくする、または無くすことが挙げられる。したがって、油性インキを用いれば、紙カールが発生することもなく、高速印刷にも適合する。
【0005】
ラインヘッド型インクジェット方式を採用したビジネスプリンタは、ヘッドが固定されているので高速で大量印刷が可能であり、低価格である点からも注目されている。この高速印刷用インクジェット印刷機には、通常、着色剤として顔料を用いる油性顔料インキが使われるが、他方式のプリンタと比較して、印字した際に印刷物裏側にインキが浸透するため、得られる印刷物は、印刷濃度が低く、裏抜けの多いものになる。
【0006】
この問題の解決方法の一つとして、油性インキに水を乳化して油中水(W/O)型エマルションインキにする方法がある。このエマルションインキは、油性染顔料インキに比べ、印刷濃度が高く、裏抜けが低減するという効果を有する。油中水(W/O)型エマルションインクでは、油相(外相)に着色材を配合すると、にじみがひどくなるため、水相(内相)に着色材を配合するほうが望ましい。この場合、水相に用いる色材としては、インキの貯蔵安定性や吐出性の面から、染料を用いることが望ましい。
【0007】
着色材としての染料を水相に用いる油中水(W/O)型エマルションインキについては、これまでに幾つかの提案がなされている(例えば、特許文献1及び2参照)。これらの特許文献において提案されているインキは、50℃、1カ月間の保存安定性については良好であることを確認している。しかし、インキの船舶輸送の場合、70℃、1カ月間の貯蔵後においても変質しない性能がインキに要求されることから、貯蔵温度を70℃に高めて保存試験を実施したところ、1カ月後に水相の分離・沈降や染料の析出が発生し、高温における貯蔵安定性の点では不十分という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−170475号公報
【特許文献2】特開平4−183762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、油相に着色剤を含有し、乳化剤に有機性値が600〜1700で、かつ無機性値が600〜1300であり、脂肪酸部分がオレイン酸又はイソステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、70℃、1カ月間の保存によっても水相の分離・沈降が認められない良好な保存安定性を示す油中水(W/O)型エマルションインキを開発し、特許出願している。しかし、 このインキにおいても、にじみを抑制するために水相に染料を配合したところ、70℃での保存時に染料由来の異物が発生し、保存安定性が悪化する傾向が認められた。
【0010】
そこで、本発明の目的は、高温における保存時に異物の発生がない保存安定性に優れたインクジェット印刷用に適した油中水(W/O)型エマルションインキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的の下に鋭意研究した結果、油中水(W/O)型エマルションインキの乳化剤として特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを所定量使用し、水相中の着色剤濃度を所定範囲に保ち、油相に所定の非水溶性の極性溶剤を含有することにより、優れた吐出性能と保存安定性に優れたインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて水溶性染料を含む水相を油相中に分散させてなるインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキにおいて、前記油相はα値が9以上の非水溶性の極性溶剤を含有しており、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸部分がオレイン酸またはイソステアリン酸で、かつHLBが7〜14であって、その配合量は水相全体を100重量部とした場合、25〜70重量部であり、前記水相における前記水溶性染料の濃度が当該水溶性染料の水への最大溶解濃度の1/2以上であることを特徴とするインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキが提供される。
ここで、本発明において、水溶性染料の「水溶性」とは、20℃における水への最大溶解度が1.0wt%以上の染料を意味する。また、非水溶性の極性溶剤の「非水溶性」とは、20℃における水への最大溶解度が1.0wt%未満の有機溶剤を意味する。
【0013】
高温での保存時に異物の発生が抑制されるのは、以下のメカニズムによるものと考えられる。
(1)油中水(W/O)型エマルションインキの水粒子が気−液界面付近で蒸発することで染料が析出し、その周囲を乳化剤が吸着しミセル化した状態となり、凝集しやすい膜が形成される。
(2)この膜が経時に伴い成長しその厚さが増し、さらに成長することで当該膜が破れ、その欠片がインキ内に沈降する。
(3)沈降した欠片の周囲に凝集、合一した粗大な水粒子や析出した染料が集合し、欠片が成長して異物が形成される。
よって、異物の発生を防止するには、染料のミセル化による膜形成を抑制することが有効であり、このため、本発明においては、所定の非水溶性の極性溶剤を用い、乳化剤自体を油相に溶解しやすくすることで、上記した染料への乳化剤の吸着が抑えられ、結果として異物の発生を抑制できるものと考えられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、油中水(W/O)型エマルションを形成するための乳化剤として特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いるとともに、油相に所定の有機溶剤を含有し、水相中に染料を所定量配合することとしたので、高温における保存安定性に優れたインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の油中水(W/O)型エマルションインキは、油相及び水相を混合し、該油相中に該水相を微細な粒子として分散させることによって得られる。
【0016】
油相は、有機溶剤、着色剤、乳化剤から主として構成されるが、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0017】
有機溶剤としては、α値が9以上である非水溶性の極性溶剤が用いられる。具体的な構造としては、エステル系、アルコール系、脂肪酸系、エーテル系などが挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、または、2種以上組み合わせて使用できる。ここで、極性溶剤を非水溶性に限定しているのは、水溶性の極性溶剤では、インキ中で水相が分離し、保存安定性が低下するためである。
【0018】
また、α値は、以下の式に導かれるように(無機性値)/(有機性値)の逆正接関数で表される。
tanα=(無機性値)/(有機性値)
α=tan−1{(無機性値)/(有機性値)}
そして、後述するHLBとこのα値との間には、以下のような関係がある。
HLB=10・tanα=10×{(無機性値)/(有機性値)}
【0019】
なお、「有機性値」及び「無機性値」は、藤田穆により提案された「有機概念図」において用いられている概念に基づくものであり、有機化合物をその炭素領域の共有結合連鎖に起因する「有機性」と置換基(官能基)に存在する静電性の影響による「無機性」との2因子に分けてそれぞれを数値化したものであり、個々の化合物の構造等から求められる値である。「有機概念図」に関連する事項は、藤田穆著「系統的有機定性分析(混合物編)」風間書房(1974)等に詳述されている。
【0020】
エステル系溶剤としては、例えば、1分子中の炭素数が5以上、好ましくは9以上、より好ましくは12乃至32の高級脂肪酸エステル類が挙げられ、例えば、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、イソノナン酸イソノニル、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソステアリル、イソパルミチン酸イソオクチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2−オクチルドデシル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、ジカプリン酸プロピレングリコール、トリ2エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2エチルヘキサン酸グリセリル、テトラ−2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0021】
アルコール系溶剤としては、例えば、1分子中の炭素数が12以上の脂肪族高級アルコール類が挙げられ、具体的には、イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級アルコールが挙げられる。
【0022】
脂肪酸系溶剤としては、例えば、1分子中の炭素数が4以上、好ましくは9乃至22の脂肪酸類が挙げられ、イソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸などが挙げられる。
【0023】
エーテル系溶剤としては、ジエチルグリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテルなどのグリコールエーテル類の他、グリコールエーテル類のアセタートなどが挙げられる。
【0024】
α値が9以上の非水溶性極性溶剤として、エステル系溶剤を用いる場合、その配合比はインキ全量100重量部に対して15〜35重量部とするのが好ましい。また、高級アルコール系溶剤を用いる場合、その配合比はインキ全体100重量部に対して3〜15重量部とするのが好ましい。
【0025】
有機溶剤には、上記α値が9以上の非水溶性極性溶剤に加え、α値が9未満の非水溶性極性溶剤や非極性溶剤を使用できる。前者の具体例としては、ステアリン酸2−ヘキシルデシル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパンなどのエステル系溶剤が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0026】
非極性溶剤としては、ナフテン系、パラフィン系、イソパラフィン系等の石油系炭化水素溶剤を使用でき、具体的には、ドデカンなどの脂肪族飽和炭化水素類、エクソンモービル社製「アイソパー、エクソール」(いずれも商品名)、JX日鉱日石エネルギー社製「AFソルベント」(商品名)、サン石油社製「サンセン、サンパー」(いずれも商品名)等が挙げられる。これらは、単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0027】
着色剤としては、染料及び顔料の何れも使用可能である。それらは、単独、または併用して使用できる。
【0028】
顔料としては、有機顔料、無機顔料を問わず、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、カーボンブラック、カドミウムレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、酸化クロム、ピリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料などが好適に使用できる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0029】
着色剤は、インキ全量に対して0.01〜20質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0030】
乳化剤としては、脂肪酸部分がオレイン酸またはイソステアリン酸であり、前記したHLBが7〜14であるポリグリセリン脂肪酸エステルが使用される。ここにおいて、ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化物を言う。ポリグリセリン脂肪酸エステルが上記本発明の要件を満たさない場合、吐出性能及び保存安定性が劣る。脂肪酸部分がイソステアリン酸であると、吐出性能と保存安定性の両者が高度に改善できるため、好ましい。
【0031】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、グリセリンの重合度は4〜10であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。また、このポリグリセリン1分子当たり数個(例えば1〜3個)の上記高級脂肪酸がエステル結合して付加していることが好ましい。また、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの有機性値は550〜2300が好ましく、無機性値は600〜2500が好ましい。上記ポリグリセリン脂肪酸エステルのより好ましい有機性値は600〜1700であり、より好ましい無機性値は600〜1300である。有機性値が2300より大きい場合や、無機性値が2500より大きい場合はインクの粘度が高くなってしまう。好ましいポリグリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、モノオレイン酸テトラグリセリル、モノオレイン酸ヘキサグリセリル、トリオレイン酸デカグリセリル、モノイソステアリン酸テトラグリセリル、モノイソステアリン酸ヘキサグリセリル、ジイソステアリン酸デカグリセリルなどが挙げられる。
【0032】
本発明における乳化剤の使用量は、水相全体(水と水溶性染料との合計)を100重量部とした場合、25〜70重量部であることが好ましい。この範囲で使用すれば、高温での水相の分離、合一の抑制が図られるが、25重量部未満では、高温での保存時に水相の分離、合一が生じることから好ましくなく、70重量部を超えると、インキ粘度が上昇し高温での保存時に異物が生じ易くなり、吐出性能が低下する。
【0033】
油相は、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め溶剤の一部と顔料及び顔料分散剤の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
【0034】
水相は、水溶性染料及び水から主として構成されるが、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0035】
水溶性染料としては、特に限定されず、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等のうち、水溶性の染料及び還元等により水溶性にされた染料を用いることができる。具体的には、水溶性染料としては、アゾ染料、ローダミン染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、フタロシアニン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料、メチレンブルー等を挙げることができる。これらの染料は、いずれか1種が単独で用いられるほか、2種以上が組み合わされて使用されてもよい。
【0036】
水相は、水に水溶性染料を溶解させ、必要に応じて、金属塩、電解質、保湿剤、水溶性高分子、水中油(O/W)型樹脂エマルション、防黴剤、防腐剤、pH調整剤、凍結防止剤等を溶解して構成される。
【0037】
水にはイオン交換水を用いる。水相中の水の含有量は、インキ全体の2〜30質量%とするのが好ましい。含有量が2質量%未満の場合、インキ表濃度が油性インキと変わらず、30質量%より多いと、粘度が高くなり吐出性能が低下する。
【0038】
水溶性染料は水に可溶であれば特に制限されず、例えば、アゾ系、アントラキノン系、アジン系などが挙げられる。
【0039】
水溶性染料は、その濃度が該水溶性染料の水への最大溶解濃度の1/2以上となるように配合される。水溶性染料濃度がこれ未満の場合、異物の発生はないものの、低濃度のために印字濃度が低下する。
【0040】
水相には、さらに溶解助剤を添加することが好ましい。この場合、染料が分子状態まで溶解した状態で紙繊維に浸透・吸着するので、染料の発色が向上する。溶解助剤としては、アミン系界面活性剤が好ましい。アミン系界面活性剤としては、有機アミンのポリアルキレンオキシド付加物、例えば、アルキルアミン、アルケニルアミン、アルキルヒドロキシルアミン、アルケニルヒドロキシルアミン、オキシアルキルアミン、オキシアルケニルアミン等のエチレンオキシド(EO)又はプロピレンオキシド(PO)付加物が挙げられる。このうち、アルキルアミンのエチレンオキシド(EO)又はプロピレンオキシド(PO)付加物が好ましい。かかるアミン系界面活性剤として、日本ルーブリゾール社製ソルスパース20000、ソルスパース27000、ソルスパース46000(何れも商品名)、日光ケミカルズ社製TAMNO−15(商品名)として市販されているものを用いることができる。溶解助剤の配合量は、インク全量に対して0.1〜10質量%が好ましく、0.3〜8質量%がより好ましい。
【0041】
また、インク粘度を低下させて吐出性を良好にするために、水相にグリセリン又はジグリセリンを添加することが好ましい。グリセリン又はジグリセリンの配合量は、水相全体の10〜70質量%であることが好ましく、20〜65質量%あることがより好ましい。10質量%未満の場合、低粘度化効果が得られ難くなり、70質量%より多いと、吐出安定性や保存安定性が悪くなる可能性がある。
【0042】
本発明のインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキは、上記の油相と水相を混合、乳化させることにより製造できる。水相と油相は、予め別々に調製したのち、油相液中に水相液を添加して乳化させてもよく、または、水相に油相を構成する成分を一括または個別に添加した後、乳化させてもよい。製造には、ディスパーミキサー、ホモミキサー等の公知の乳化機を用いることができる。
【0043】
乳化後の油相中の水相の粒子径は80〜500nmである事が好ましい。80nmより小さくなると、印刷物の表濃度が低くなったり、染料の発色が悪くなったりする。500nmより大きくなると、インクジェットでの吐出性が悪くなってしまう。
【0044】
本発明のインクジェットインキは、油相40〜99質量%、水相60〜1質量%となるように配合される。水相の比率が60質量%を越えると油中水(W/O)型エマルションが形成されにくくなる。水相の比率が1質量%未満の場合、印刷濃度が低くなったり、印刷物に裏抜けが発生する可能性がある。一般に、水相の比率が高くなると、インキ粘度が上昇する傾向があるため、両相の配合比率は、油相50〜98質量%及び水相50〜2質量%が好ましく、油相55〜97質量%及び水相45〜3質量%がより好ましい。
【0045】
このようにして得られる本発明のインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキの23℃における粘度は、3〜100mP・sの範囲に設定することが好ましく、5〜30mPa・sの範囲に設定することがより好ましく、10〜20mPa・sの範囲に設定することが特に好ましい。インキの粘度は、油相の構成成分の種類及び量、水相の量を調節することによって調整できる。一般的には、水相の量及び/又は乳化剤の量が少ないほど、インキの粘度は低下するが、エマルションの保存安定性が低下する傾向がある。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1〜14、比較例1〜9
表1又は表2に示す配合量の顔料と分散剤を、同表に示す溶剤の一部と混合し、ロッキングミル(セイワ技研製)で顔料を分散して顔料分散体を得た。この顔料分散体を残りの溶剤で希釈した後、これに界面活性剤を溶解させて油相を得た。この油相に、高速ホモジナイザー「ビスコトロン」(商品名:マイクロテック・ニチオン社製)を用いて5000rpmで攪拌しながらイオン交換水又はイオン交換水と添加剤の混合液を滴下した後、20000rpmで5分間攪拌して油中水(W/O)型エマルションインキを作製した。なお、表1及び表2中の各成分の配合量は質量部で示してある。
【0048】
上記実施例及び比較例でそれぞれ得られたインクジェットインキについて、以下の方法により評価を行った。これらの評価結果を表1及び表2に示した。なお、これらの表中における染料の最大溶解濃度は、以下の方法により求めた。
過剰な量の染料を10gの水に添加し、25℃で3時間撹拌した後、25℃一定の温度条件下で一晩静置し、ろ過により溶解していない染料を除去し、染料の飽和水溶液を調製した。この飽和水溶液1gを100℃のオーブンで乾燥し、残った残渣(固形分)の質量を測定し、その結果を25℃における染料の最大溶解度とした。
【0049】
(1)保存安定性
不安定な油中水(W/O)型エマルションインキは、経時でインキ上層の水分量が減少する。インキ上層の水分量を測定し、仕込みの水分量と比較する事によって保存安定性を評価した。油中水(W/O)型エマルションインキを10mlのスクリューバイアル瓶に入れて、70℃の恒温槽で2週間及び4週間静置した後にインキ上層の水分量を測定した。インキは容器の上の方からサンプリングし、水分量測定はカールフィッシャー水分測定装置(701型、メトローム・シバタ株式会社製)を用いて行った。
インキ上層水残存率(%):
{貯蔵後のインキ上層水分量(質量%)/仕込みの水分量(質量%)}×100
上記の様に表される水残存率を指標にして、安定性を次の基準に基づいて評価した。
○:インキ上層水残存率が70%以上である(A、B)
×:インキ上層水残存率が70%未満である(C,D,E)
なお、上記評価基準において、括弧内は、Aが90%以上、Bが70%以上、90%未満、Cが30%以上、70%未満、Dが20%以上、30%未満、Eは20%未満を示しており、表1及び表2の結果では、上記○、×の結果に加え、上記A〜Eの評価を括弧内に併記している。
【0050】
(2)異物の有無
スクリューバイアル瓶内のインキをNo.5ロ紙で自然ろ過した後、ロ紙上の異物の有無を目視で観察し、以下の基準に基づいて判定した。
○:ろ液の詰まりがなく、ロ紙上にも異物の存在が認められない
×:ろ液の詰まりがあり、又はロ紙上に異物の存在が認められる
【0051】
(3)印刷物表濃度(発色)評価方法
オルフィスHC5500を用いて、普通紙(理想マットIJ(W)、理想科学工業(株)製)にベタ画像を印刷した。印刷物表濃度の評価は、ベタ画像表面のOD値をOD計(RD920、マクベス社製)を用いて測定することにより行った。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
尚、表1〜表3記載の原材料の記号は、以下の通りである。
ジイソステアリン酸デカグリセリル:日光ケミカルズ社製、Decaglyn 2-ISV(商品名)
トリオレイン酸デカグリセリル:日光ケミカルズ社製、Decaglyn 3-OV(商品名)
モノイソステアリン酸テトラグリセリル:坂本薬品工業株式会社IS-401P(商品名)
AFソルベント6号:JX日鉱日石エネルギー社製、石油系炭化水素溶剤、AF-6(商品名)
ラウリン酸ヘキシル:日光ケミカルズ社製、LAH(商品名)
セバシン酸ジエチル:日光ケミカルズ社製、DES-SP(商品名)
ジカプリン酸プロピレングリコール:日光ケミカルズ社製、PPD(商品名)
トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル (=トリエチルヘキサノイン):日光ケミカルズ社製、TRIFAT S-308(商品名)
テトラ−2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール:日光ケミカルズ社製、PENTALAN-408(商品名)
ステアリン酸2−ヘキシルデシル:日光ケミカルズ社製、ICS-R (商品名)
トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン:日光ケミカルズ社製、TRIALAN-318H(商品名)
イソミリスチルアルコール:日産化学工業社製、ファインオキソコール140-N(商品名)
水溶性染料:日本化薬社製、KST Black J-BL Liquid(商品名)
【0055】
表1の結果から、実施例1〜14は、油相中の有機溶剤、乳化剤としてのポリグリセリン脂肪酸エステル及び水相における水溶性染料濃度について本発明の要件をすべて満たすので、染料のミセル化による膜形成及び水相の分離、合一の発生を抑制でき、70℃の高温条件での4週間の保存後においても異物が発生せず、高温における保存安定性に優れることがわかる。
【0056】
これに対し、表2の結果から下記のことがわかる。
比較例1は、油相中に非水溶性極性溶剤を含まず、非極性溶剤のみを含有することから、異物の発生が認められ、高温における保存安定性が悪かった。
比較例2及び3は、乳化剤の含有量が所定の範囲未満であることから、比較例2については異物の発生はないが、水相の分離が認められ、また比較例3については異物の発生が認められたことから、ともに高温における保存安定性が劣る。
比較例4は、水相中の水溶性染料濃度が本発明の所定の範囲未満であるので、異物の発生は認められないものの、印字濃度が低下した。
比較例5及び6は、油相中に含まれる極性溶剤のα値が9未満であるので、水相の分離、合一及び異物の発生が認められ、高温における保存安定性に劣る。
比較例7は、水相中の水溶性染料濃度を当該染料の最大溶解度まで高めたが、油相中にα値が9以上の非水溶性極性溶剤を含有していないことから、70℃、2週間保存までは異物の発生が認められなかったが、4週間保存後では異物の発生が認められ、高温での長期保存安定性に劣る。
比較例8は、乳化剤として用いたポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸部分が本発明の要件を満たさず、70℃、4週間保存後に異物の発生はないが、水相の分離、合一が認められたことから、高温での保存安定性は劣る。
比較例9は,乳化剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを用い、本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いておらず、70℃、4週間の保存後においても異物の発生はないが、水相の分離、合一が認められたことから、高温での保存安定性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキは、吐出性能と保存安定性に優れているので、インクジェット印刷の分野、特に、ラインヘッド型インクジェット方式を採用したビジネスプリンタのインキとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて水溶性染料を含む水相を油相中に分散させてなるインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキにおいて、
前記油相はα値が9以上の非水溶性の極性溶剤を含有しており、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸部分がオレイン酸またはイソステアリン酸で、かつHLBが7〜14であって、その配合量は水相全体を100重量部とした場合、25〜70重量部であり、
前記水相における前記水溶性染料の濃度が当該水溶性染料の水への最大溶解濃度の1/2以上であることを特徴とするインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキ。
【請求項2】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのグリセリンの重合度は4〜10である請求項1に記載のインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキ。
【請求項3】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステル1分子当たり1〜3個の脂肪酸が付加している、請求項1乃至2に記載のインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキ。
【請求項4】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの有機性値が550〜2300であり、かつ、無機性値が600〜2500である請求項1乃至3に記載のインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキ。
【請求項5】
前記α値が9以上の非水溶性極性溶剤は、エステル系及び/又はアルコール系である請求項1乃至4の何れか1項に記載のインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキ。
【請求項6】
前記α値が9以上の非水溶性極性溶剤にエステル系溶剤を用いる場合、その配合量はインキ全量100重量部に対して15〜35重量部である請求項1乃至5の何れか1項に記載のインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキ。
【請求項7】
前記α値が9以上の非水溶性極性溶剤にアルコール系溶剤を用いる場合、その配合量はインキ全量100重量部に対して3〜15重量部である請求項1乃至5の何れか1項に記載のインクジェット用油中水(W/O)型エマルションインキ。

【公開番号】特開2013−72057(P2013−72057A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213983(P2011−213983)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】