説明

インクジェット用白インク

【課題】十分な白色度を有する記録をすることができる上、従来に比べてさらに分散安定性に優れたインクジェット用白インクを提供する。
【解決手段】着色材として、実質的に白色金属酸化物のみからなる中空粒子を配合した。前記白色金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛、および酸化アンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。また中空粒子を構成する白色金属酸化物層の厚みは40nm以上、160nm以下であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に用いるインクジェット用白インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法においては、シアン、マゼンタ、およびイエローの色の三原色に相当する3色のインク、あるいはさらにブラック、ライトシアン、ライトマゼンタ等の各色のインクの混色により様々な色を再現するのが一般的である。
白は、被記録体としての紙等の白で表現することを前提としており、そのため白のインクはこれまで用いられてこなかった。
【0003】
しかし近時、黒色等の明度の低い被記録体の表面などの種々の表面に、十分な白色度を有し視認性の高い記録をするべく、インクジェット記録用の白インクについて実用化が検討されている。かかるインクジェット用白インクは、プラスチック製品等の工業製品へのマーキング用等として有用であると考えられている。
インクジェット用白インクは、既存のインクジェットプリンタを使用して記録をすることや、あるいは既存の生産設備、材料を使用して製造すること等を考慮すると、他の色のインクジェット用インクと同様に、水等の分散媒中に、白色の着色材を分散させて構成するのが望ましい。
【0004】
例えば他の分野のインキやペイント等では、白色の着色材として、特に着色力や隠ぺい力に優れた酸化チタン粒子が広く用いられる。
しかし酸化チタン粒子は比重が大きいため、前記酸化チタン粒子を着色材として、特に水等の水性分散媒中に分散させたインクジェット用白インクは分散安定性が不十分であり、前記酸化チタン粒子が短期間で沈降してしまうという問題がある。
【0005】
特許文献1には、着色材として樹脂の中空微小球を用いた非着色インク組成物が記載されている。前記中空微小球は酸化チタンよりも比重が小さいため、かかる中空微小球を着色材として用いたインク組成物は分散安定性に優れている。
しかし、前記インク組成物はあくまでも「非着色」であって白色ではない。これは、前記樹脂の中空微小球が、酸化チタンのような白色ではなく、無色半透明であって十分な着色力や隠ぺい力を有しないためである。
【0006】
そのため、前記インク組成物を用いても、前記明度の低い被記録体の表面などに、十分な白色度を有する記録をすることはできない。
特許文献2、3には、酸化チタンよりも比重の小さい材料からなるコア粒子、例えば樹脂粒子や中空樹脂粒子の表面を酸化チタンで被覆した水性インク用の白色顔料が記載されている。
【0007】
かかる白色顔料は、表面が酸化チタンで被覆されているため着色力や隠ぺい力に優れている。そのため、前記白色顔料を含むインクジェット用白インクを用いれば、十分な白色度を有する記録をすることができる。
しかも前記白色顔料の内部は、酸化チタンよりも比重の小さい材料からなるため、当該白色顔料の比重を、全体が酸化チタンからなる従来の酸化チタン粒子に比べて小さくすることができる。
【0008】
そのため前記白色顔料を用いれば、インクジェット用白インクの分散安定性を、ある程度は改善できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2619677号公報
【特許文献2】特開2006−274214号公報
【特許文献3】特開2006−307198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし発明者が詳しく検討したところ、前記特許文献2、3に記載された従来の白色顔料を着色材として用いたインクジェット用白インクは依然として分散安定性が不十分であり、さらなる改善が必要である。
本発明の目的は、十分な白色度を有する記録をすることができる上、従来に比べてさらに分散安定性に優れたインクジェット用白インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、実質的に白色金属酸化物のみからなる中空粒子を、着色材として含むことを特徴とするインクジェット用白インクである。
前記中空粒子は、その表面が、例えば酸化チタン等の白色金属酸化物からなるため、着色力や隠ぺい力に優れている。そのため、前記中空粒子を含む本発明のインクジェット用白インクを用いれば、明度の低い被記録体の表面などの種々の表面に、十分な白色度を有する記録をすることができる。
【0012】
また前記中空粒子は、実質的に白色金属酸化物のみからなり、従来の白色顔料のように、その内部に樹脂のコア粒子等を含まないため、当該白色顔料に比べて、その比重をより一層小さくすることができる。しかも、例えば水性分散媒等の分散媒中に分散させた状態では、中空粒子内に前記分散媒が浸透する等して、当該中空粒子の比重を、分散媒の比重に近づけることができる。
【0013】
そのため前記中空粒子を着色材として用いれば、インクジェット用白インクの分散安定性を、従来に比べてさらに向上することができる。
前記中空粒子は、記録の白色度をさらに高めることを考慮すると、特に着色力や隠ぺい力に優れた、酸化チタン、酸化亜鉛、および酸化アンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種の白色金属酸化物によって形成するのが好ましい。
【0014】
また、前記中空粒子を構成する白色金属酸化物層の厚みは40nm以上であるのが好ましく、160nm以下であるのが好ましい。前記厚みを40nm以上とすることで、前記記録の白色度をさらに高めることができる。また前記厚みを160nm以下とすることで、インクジェット用白インクの分散安定性をさらに向上することができる。
前記中空粒子は、分散媒中に分散させた樹脂粒子の表面を白色金属酸化物で被覆してコア−シェル粒子を形成する工程、および前記コア−シェル粒子を、前記樹脂の熱分解温度以上の温度で焼成して樹脂粒子を除去する工程を経る液相析出法によって製造することができる。
【0015】
前記樹脂粒子は、分散媒中での分散性を高めてその凝集等を防止することで、前記液相析出法によって製造される中空粒子の形状、および粒径を均一化し、それによって前記中空粒子を含むインクジェット用白インクの分散安定性をより一層向上することを考慮すると、比重が1.6以下の樹脂からなるものであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、十分な白色度を有する記録をすることができる上、従来に比べてさらに分散安定性に優れたインクジェット用白インクを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のインクジェット用白インクは、実質的に白色金属酸化物のみからなる中空粒子を、着色材として含むことを特徴とするものである。
〈着色材〉
着色材としては、前記のように実質的に白色金属酸化物のみからなる中空粒子を用いる。
【0018】
かかる中空粒子は、白色を呈する種々の金属酸化物によって形成することができる。
しかし、例えば明度の低い被記録体の表面などの、種々の表面に形成する記録の白色度をさらに高めることを考慮すると、前記中空粒子は、着色力や隠ぺい力に優れた、酸化チタン、酸化亜鉛、および酸化アンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種の白色金属酸化物によって形成するのが好ましい。中でも、前記着色力や隠ぺい力に特に優れた酸化チタンによって中空粒子を形成するのがより一層好ましい。
【0019】
前記中空粒子は、当該中空粒子を構成する白色金属酸化物層の厚みが40nm以上、特に50nm以上であるのが好ましい。
前記白色金属酸化物層の厚みが前記範囲未満では中空粒子の着色力、隠ぺい力が低下する。すなわち白色金属酸化物層が光を透過し易くなるため、当該中空粒子を含む本発明のインクジェット用白インクを用いて形成する記録の白色度が不十分になるおそれがある。
【0020】
これに対し、厚みを前記範囲以上とすることにより、白色金属酸化物層に十分な着色力、隠ぺい力を付与してできるだけ光を透過しにくくすることができる。そのため中空粒子の着色力、隠ぺい力を高めて、前記記録の白色度を十分に向上することができる。
また、前記中空粒子を構成する白色金属酸化物の厚みは160nm以下であるのが好ましい。
【0021】
厚みが前記範囲を超える場合には中空粒子の比重が大きくなるため、当該中空粒子を含む本発明のインクジェット用白インクの分散安定性が低下するおそれがある。これに対し、前記厚みを前記範囲以下とすることで、中空粒子の比重をより一層小さくして、本発明のインクジェット用白インクの分散安定性をさらに向上することができる。
なお、前記中空粒子が後述する製造工程を経て製造される場合、当該中空粒子を構成する白色金属酸化物層の厚みを、本発明では、下記の方法で測定した値でもって表すこととする。
【0022】
すなわちレーザー回折散乱法型粒度測定装置〔日機装(株)製のマイクロトラック(登録商標)UPA〕を用いて、中空粒子のもとになる樹脂粒子、および製造した中空粒子の粒度分布をそれぞれ測定し、前記粒度分布から、樹脂粒子のメジアン径d50[nm]、および中空粒子のメジアン径d50[nm]を求める。
そして前記両メジアン径から、下記式(a)により、白色金属酸化物層の厚みT[nm]を求める。
【0023】
【数1】

【0024】
なお、中空粒子のメジアン径d50[nm]は任意に設定することができるが、当該中空粒子を含む本発明のインクジェット用白インクの分散安定性を向上すること、インクジェットプリンタのヘッドのノズルを通して、インクジェット用白インクを、目詰まり等を生じることなく安定して吐出させること、あるいは記録の精細性を高めること等を考慮すると、150nm以上、特に200nm以上であるのが好ましく、900nm以下、特に800nm以下であるのが好ましい。
【0025】
また中空粒子は任意の形状とすることができるが、当該中空粒子を含む本発明のインクジェット用白インクの分散安定性を向上すること、インクジェットプリンタのヘッドのノズルを通して、インクジェット用白インクを、目詰まり等を生じることなく安定して吐出させること、あるいは記録の精細性を高めること等を考慮すると、球状であるのが好ましい。中空粒子を球状とするには、後述する製造工程を経て製造される場合、そのもとになる樹脂粒子として、球状のものを選択して使用すればよい。
【0026】
「実質的に白色金属酸化物のみからなる」とは、中空粒子が、その内部に樹脂粒子や中空樹脂粒子等のコア粒子を含まず、基本的に白色金属酸化物からなる白色金属酸化物層のみによって形作られていることを指す。
次に説明する製造工程を経て製造される中空粒子内には、焼成によって除去した樹脂粒子の残渣が含まれる場合があるが、当該残渣はコア粒子としては機能しない上、白色金属酸化物層を構成するものでもないので、かかる残渣が含まれる場合も、本発明で言うところの「実質的に白色金属酸化物のみからなる」中空粒子に含むこととする。
【0027】
〈中空粒子の製造〉
前記中空粒子は、種々の製造方法によって製造することができる。
製造方法の一例としては、分散媒中に分散させた樹脂粒子の表面を白色金属酸化物で被覆してコア−シェル粒子を形成する工程(被覆工程)、および前記コア−シェル粒子を、前記樹脂の熱分解温度以上の温度で焼成して樹脂粒子を除去する工程(焼成工程)を経て中空粒子を製造する液相析出法が挙げられる。
【0028】
前記液相析出法によって中空粒子を製造する場合は、もとになる樹脂粒子の形状、粒径および粒度分布を調整するとともに、前記被覆工程において樹脂粒子の表面を白色金属酸化物で被覆する際の反応条件を調整することで、前記中空粒子の形状、粒径、粒度分布、および白色金属酸化物層の厚みを任意に制御することができる。また、前記2工程を含む簡単な操作と少ない工程で、前記のように形状、粒径、粒度分布、および白色金属酸化物層の厚みが任意に制御された中空粒子を、生産性良く製造することができる。
【0029】
(樹脂粒子)
中空粒子のもとになる樹脂粒子としては、例えば前記のように形状、粒径および粒度分布を調整することが容易で、しかも水等の分散媒中に分散させることができる種々の樹脂粒子が、いずれも使用可能である。
ただし分散媒中での分散性を向上することを考慮すると、前記樹脂粒子としては、比重が1.6以下の樹脂からなる粒子を用いるのが好ましい。
【0030】
例えばポリ塩化ビニリデン(比重:1.65〜1.72)等の、比重が前記範囲を超える重い樹脂からなる樹脂粒子は分散媒中で凝集等を生じやすく、複数個の樹脂粒子が凝集した状態でその表面に白色金属酸化物が被覆されるなどしやすい。
そのため、製造される中空粒子の形状、および粒径が不均一になりやすく、かかる中空粒子を含むインクジェット用白インクの分散安定性が低下するおそれがある。
【0031】
これに対し、比重が1.6以下の樹脂からなる樹脂粒子は、分散媒中で、凝集等を殆ど生じることなく均一に分散させることができるため、製造される中空粒子の形状、および粒径を均一化することができ、かかる中空粒子を含むインクジェット用白インクの分散安定性を向上することができる。
樹脂粒子を形成する比重1.6以下の樹脂としては、例えばポリエチレン(比重:0.91〜0.97)、ポリ酢酸ビニル(比重:1.16〜1.25)、エチレン−酢酸ビニルコポリマ(比重:1.21〜1.41)、ポリイソブチレン(比重:1.05〜1.13)、ポリアミド(比重:1.02〜1.14)、スチレン−ブタジエンコポリマ(比重:1.01〜1.10)、ポリスチレン(比重:1.18〜1.25)、ポリアクリレート(比重:1.10〜1.28)、ポリウレタン(比重:1.10〜1.30)、およびポリメチルメタクリレート(比重:1.20〜1.55)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0032】
樹脂粒子の形状、粒径、粒度分布等を調整するためには、前記樹脂粒子を製造するための造粒法、分級法等の条件を適宜設定すればよい。
(被覆工程)
被覆工程では、まず析出させる白色金属酸化物のもとになる金属Mのフルオロ錯体MF(x−2n)−を所定の濃度で含む水溶液を調製する。前記水溶液中では、下記式(1)で示す加水分解平行反応系が成立する。
【0033】
【数2】

【0034】
この水溶液中に前記樹脂粒子を加え、かく拌するなどして均一に分散させる。
次いで前記水溶液に、フッ化物イオンと容易に反応してより安定な化合物を生成するホウ酸(HBO:フッ化イオン捕捉材)を添加すると、下記式(2)で示す析出駆動反応が進行する。
【0035】
【数3】

【0036】
そのため、先の式(1)の加水分解平行反応系は酸化物析出側、すなわち式(1)の右辺側にシフトし、それによって生成した白色金属酸化物MOが、系中に分散させた樹脂粒子の表面に析出する。
その結果、前記樹脂粒子の表面が、析出した白色金属酸化物によって被覆されて、前記樹脂粒子をコアとし、白色金属酸化物層をシェルとするコア−シェル粒子が形成される。
【0037】
かかる被覆工程においては、先に説明したように樹脂粒子の表面を白色金属酸化物で被覆する際の反応条件、例えば反応温度、反応時間、かく拌条件等を調整することで、前記中空粒子の形状、粒径、粒度分布、および白色金属酸化物層の厚みを任意に制御することができる。
一例として反応温度は20℃以上であるのが好ましく、40℃以下であるのが好ましい。また反応時間は1時間以上であるのが好ましく、30時間以下であるのが好ましい。
【0038】
(焼成工程)
前記反応終了後、形成されたコア−シェル粒子を液から分離し、樹脂の熱分解温度以上の温度で焼成して樹脂粒子を除去することにより、先に説明したように実質的に白色金属酸化物のみからなる中空粒子が製造される。
焼成の温度は、前記のように樹脂の熱分解温度以上であればよいが、製造される複数の中空粒子が焼きついたりするのを防止しながら、できるだけ短時間で、かつ少ない消費エネルギーで効率よく焼成することを考慮すると300℃以上であるのが好ましく、500℃以下であるのが好ましい。また同様の理由で、焼成の時間は1時間以上であるのが好ましく、3時間以下であるのが好ましい。
【0039】
〈分散液〉
製造した中空粒子は、水等の分散媒中に分散させた分散液の状態で、インクジェット用白インクの調製に用いるのが、当該中空粒子の分散性を向上する上で好ましい。
分散媒として水を用いる分散液は、前記水に、中空粒子、分散剤、および湿潤剤等を配合し、予備的に混合したのち、例えばビーズミル等を用いて混合して中空粒子を分散させ、さらに必要に応じて遠心分離等によって粗大粒子を除去することで調製される。
【0040】
中空粒子の配合割合は、分散液の総量の10質量%以上であるのが好ましく、30質量%以下であるのが好ましい。
(分散剤)
分散剤としては、水溶性の高分子分散剤が好ましい。前記高分子分散剤としては、例えばにかわ、ゼラチン、ガゼイン、アルブミン、アラビアゴム、トラガントゴム、サボニン、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、アルギン酸アンモニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−αメチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、および酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等の1種または2種以上が挙げられる。
【0041】
分散剤の配合割合は、分散液の総量の1質量%以上であるのが好ましく、3質量%以下であるのが好ましい。
(湿潤剤)
湿潤剤としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、および1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の1種または2種以上が挙げられる。
【0042】
湿潤剤の配合割合は、分散液の総量の3質量%以上であるのが好ましく、7質量%以下であるのが好ましい。
(その他)
分散液には、当該分散液をアルカリ性にして中空粒子の良好な分散を維持するために塩基性物質を配合してもよい。かかる塩基性物質は、後述するようにインクジェット用白インクをアルカリ性にして、アルカリ可溶のバインダ樹脂を溶解させるとともに、インクジェットプリンタのヘッドの金属部分等の腐食を防止するためにも機能する。
【0043】
前記塩基性物質としては、例えばアンモニア、有機アミン、および苛性アルカリ等の1種または2種以上が挙げられ、特に有機アミンが好ましい。
また有機アミンとしては、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチルモノエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、モノ−1−プロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、およびこれらの誘導体等の1種または2種以上が挙げられる。
【0044】
塩基性物質の配合割合は、分散液の、塩基性物質を配合しない状態でのpH、および目標とするpHなどに応じて適宜の範囲とすることができる。
水の配合割合は、前記各成分の残量である。
〈インクジェット用白インク〉
水性のインクジェット用白インクは、前記分散液に、さらに水等の水性分散媒、湿潤剤、バインダ樹脂、塩基性物質等を配合して調製することができる。
【0045】
分散液の配合割合は、インクジェット用白インクの総量の40質量%以上であるのが好ましく、60質量%以下であるのが好ましい。
(湿潤剤)
湿潤剤としては、先に例示したものの1種または2種以上が挙げられる。
湿潤剤の配合割合は、インクジェット用白インクの総量の5質量%以上であるのが好ましく、15質量%以下であるのが好ましい。
【0046】
(バインダ樹脂)
水性のインクジェット用白インクにバインダ樹脂を含有させると、印刷の耐水性や耐擦過性を向上できる。
特にバインダ樹脂として、本質的に水には不溶で、かつ塩基性物質を溶解させたアルカリ水溶液に選択的に可溶であるバインダ樹脂を使用すると、印刷の耐水性をさらに向上できる。
【0047】
すなわち、水性のインクジェット用白インクに塩基性物質を溶解させてアルカリ性とした状態で前記バインダ樹脂を加えると、前記バインダ樹脂は溶解してインクジェット用白インクは液状を維持するが、印刷後に乾燥されて被記録体の表面に析出したバインダ樹脂は水に不溶であるため、印刷の耐水性が向上する。
前記アルカリ可溶のバインダ樹脂としては、例えばその分子中にカルボキシル基を有しており、そのままでは水に不溶であるが、塩基性物質を溶解させたアルカリ性の水溶液に加えるとカルボキシル基の部分が塩基性物質と反応して水溶性の塩を生成して溶解する樹脂が好ましい。
【0048】
前記アルカリ可溶のバインダ樹脂としては、例えばポリアクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、スチレン−マレイン酸共重合樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂等のうち、前記特性を有するように分子量、酸価等を調整した樹脂、特に、高酸価樹脂の1種または2種以上が挙げられる。
【0049】
バインダ樹脂は、前記印刷の耐水性や、あるいは被記録体の表面への着色材としての中空粒子の定着性等を向上することを考慮すると、重量平均分子量Mwが5000以上、特に10000以上であるのが好ましい。
ただし分子量が大きすぎるとバインダ樹脂が沈殿や析出などを生じやすくなって、インクジェット用白インクの分散安定性が低下したり、インクジェットプリンタのヘッドのノズルからの吐出の安定性が低下したりするおそれがある。そのためバインダ樹脂の重量平均分子量Mwは、前記範囲内でも50000以下、特に30000以下であるのが好ましい。
【0050】
バインダ樹脂の配合割合は、水性のインクジェット用白インクの総量の0.1質量%以上であるのが好ましく、2質量%以下であるのが好ましい。
(塩基性物質)
塩基性物質としては、先に例示したものの1種または2種以上が挙げられる。
湿潤剤の配合割合は、インクジェット用白インクの、塩基性物質を配合しない状態でのpH、および目標とするpHなどに応じて適宜の範囲とすることができる。
【0051】
(水性分散媒)
水性分散媒としては水、または水と水溶性有機溶媒との混合物が挙げられる。
また水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、およびn−ペンタノール等の1種または2種以上が挙げられる。
【0052】
水性分散媒の配合割合は、前記各成分の残量である。
前記各成分を含む本発明のインクジェット用白インクによれば、着色材としての、実質的に白色金属酸化物のみからなる中空粒子の作用によって、従来に比べてさらに分散安定性に優れる上、十分な白色度を有する記録をすることが可能となる。
【実施例】
【0053】
〈実施例1〉
(中空粒子の製造)
樹脂粒子としては、先に説明した方法で求めたメジアン径d50が150nmであるポリスチレン(比重:1.18〜1.25)の球状粒子を用いた。
前記樹脂粒子を(NHTiF水溶液(濃度0.1mol/dm)に加え、かく拌して分散させた状態でHBO水溶液(濃度0.2mol/dm)を滴下し、次いで液温を30℃に維持しながらさらに8時間かく拌を続けて析出反応させたのち遠心分離してコア−シェル粒子を得た。そして、前記コア−シェル粒子を400℃で2時間焼成して樹脂粒子を除去することで中空粒子を製造した。
【0054】
製造した中空粒子を観察したところ、その形状、および粒径はほぼ均一であり、そのメジアン径d50を先に説明した方法で求めたところ300nmであった。また、前記樹脂粒子のメジアン径d50、および中空粒子のメジアン径d50から、先の式(a)によって酸化チタン層の厚みT[nm]を求めたところ75nmであった。
(分散液の調製)
前記中空粒子20質量部、分散剤としてのスチレン−アクリル酸共重合体2質量部、塩基性物質としての2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール1質量部、湿潤剤としてのジエチレングリコール5質量部、およびイオン交換水72質量部を配合し、予備的に混合したのち、ビーズミルを用いて混合して中空粒子を分散させ、さらに遠心分離により粗大粒子を除去して分散液を調製した。ビーズミルの分散メディアとしては直径0.5mmのジルコニアビーズを用いた。
【0055】
(インクジェット用白インクの調製)
前記分散液50質量部に、湿潤剤としてのグリセリン10質量部、アルカリ可溶のバインダ樹脂としてのアクリル酸−アクリル酸エチル共重合体(重量平均分子量Mw:20000、酸価:59)1質量部、塩基性物質としての2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール1質量部、および純水38質量部を配合して混合したのち、5μmのメンブランフィルタを用いてろ過してインクジェット用白インクを調製した。
【0056】
〈実施例2〉
樹脂粒子として、先に説明した方法で求めたメジアン径d50が150nmであるポリ塩化ビニリデン(比重:1.65〜1.72)の球状粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして中空粒子を製造し、分散液、およびインクジェット用白インクを調製した。
前記中空粒子を観察したところ、複数個の樹脂粒子が凝集した状態でその表面に酸化チタンが被覆されるなどした中空粒子が多数見られ、形状、および粒径が不均一であった。
【0057】
遠心分離により、前記凝集により発生した粗大粒子を除去した状態で、中空粒子のメジアン径d50を求めたところ300nmであった。また、前記樹脂粒子のメジアン径d50、および中空粒子のメジアン径d50から、先の式(a)によって酸化チタン層の厚みT[nm]を求めたところ75nmであった。
なお分散液の調製には、前記粗大粒子を除去しない中空粒子の全量を用いた。
【0058】
〈実施例3〉
被覆工程における、HBO水溶液を滴下した後の析出反応の時間を4時間としたこと以外は実施例1と同様にして中空粒子を製造し、分散液、およびインクジェット用白インクを調製した。
前記中空粒子を観察したところ、その形状、および粒径はほぼ均一であり、そのメジアン径d50を先に説明した方法で求めたところ200nmであった。また、前記樹脂粒子のメジアン径d50、および中空粒子のメジアン径d50から、先の式(a)によって酸化チタン層の厚みT[nm]を求めたところ25nmであった。
【0059】
〈実施例4〉
被覆工程における、HBO水溶液を滴下した後の析出反応の時間を6時間としたこと以外は実施例1と同様にして中空粒子を製造し、分散液、およびインクジェット用白インクを調製した。
前記中空粒子を観察したところ、その形状、および粒径はほぼ均一であり、そのメジアン径d50を先に説明した方法で求めたところ230nmであった。また、前記樹脂粒子のメジアン径d50、および中空粒子のメジアン径d50から、先の式(a)によって酸化チタン層の厚みT[nm]を求めたところ40nmであった。
【0060】
〈実施例5〉
被覆工程における、HBO水溶液を滴下した後の析出反応の時間を25時間としたこと以外は実施例1と同様にして中空粒子を製造し、分散液、およびインクジェット用白インクを調製した。
前記中空粒子を観察したところ、その形状、および粒径はほぼ均一であり、そのメジアン径d50を先に説明した方法で求めたところ470nmであった。また、前記樹脂粒子のメジアン径d50、および中空粒子のメジアン径d50から、先の式(a)によって酸化チタン層の厚みT[nm]を求めたところ160nmであった。
【0061】
〈実施例6〉
被覆工程における、HBO水溶液を滴下した後の析出反応の時間を30時間としたこと以外は実施例1と同様にして中空粒子を製造し、分散液、およびインクジェット用白インクを調製した。
前記中空粒子を観察したところ、その形状、および粒径はほぼ均一であり、そのメジアン径d50を先に説明した方法で求めたところ500nmであった。また、前記樹脂粒子のメジアン径d50、および中空粒子のメジアン径d50から、先の式(a)によって酸化チタン層の厚みT[nm]を求めたところ175nmであった。
【0062】
〈比較例1〉
前記実施例1において焼成工程を実施する前のコア−シェル粒子を、焼成工程を経ることなく、そのままで着色材として使用したこと以外は実施例1と同様にして分散液、およびインクジェット用白インクを調製した。
前記コア−シェル粒子のメジアン径d50を先に説明した方法で求めたところ300nmであった。また、前記樹脂粒子のメジアン径d50、およびコア−シェル粒子のメジアン径d50から、先の式(a)によって酸化チタン層の厚みT[nm]を求めたところ75nmであった。
【0063】
このもは、特許文献2、3に記載された、樹脂粒子の表面を酸化チタンで被覆した白色顔料を着色材として含むインクジェット用白インクを再現したものである。
〈比較例2〉
樹脂粒子として、先に説明した方法で求めたメジアン径d50が150nmであるスチレン−アクリル酸共重合体の中空樹脂粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にしてコア−シェル粒子を作製し、前記コア−シェル粒子を、焼成工程を経ることなく、そのままで着色材として使用したこと以外は実施例1と同様にして分散液、およびインクジェット用白インクを調製した。
【0064】
前記コア−シェル粒子のメジアン径d50を先に説明した方法で求めたところ300nmであった。また、前記樹脂粒子のメジアン径d50、およびコア−シェル粒子のメジアン径d50から、先の式(a)によって酸化チタン層の厚みT[nm]を求めたところ75nmであった。
このものは、特許文献2、3に記載された、中空樹脂粒子の表面を酸化チタンで被覆した白色顔料を着色材として含むインクジェット用白インクを再現したものである。
【0065】
〈比較例3〉
着色材として、先に説明した方法で求めたメジアン径d50が300nmである酸化チタン粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして分散液、およびインクジェット用白インクを調製した。
〈比較例4〉
比較例2で使用したのと同じスチレン−アクリル酸共重合体の中空樹脂粒子を、酸化チタンで被覆せずにそのままで着色材として使用したこと以外は実施例1と同様にして分散液、およびインクジェット用白インクを調製した。
【0066】
このものは、特許文献1に記載された、樹脂の中空微小球を含む非着色インク組成物を再現したものである。
〈分散安定性評価〉
前記各実施例、比較例で調製したインクジェット用白インクを60℃で7日間静置したのち、着色材の沈降を観察して、下記の基準で分散安定性を評価した。
【0067】
◎:全く沈降は見られなかった。分散安定性良好。
○:僅かに沈降が見られたが実用レベルであった。分散安定性通常。
×:沈降が見られた。分散安定性不良。
〈白色度評価〉
前記各実施例、比較例で調製したインクジェット用白インクをサーマル方式のインクジェットプリンタ〔日本ヒューレット・パッカード(株)製のDeskJet(登録商標)6127〕に使用して、インクジェットプリンタ用OHPフィルム〔コクヨ(株)製のVF−1102N〕の印字面にベタ印字を3回重ねた。
【0068】
そして前記ベタ印字のL値を、ハンディ型分光色差計〔日本電色工業(株)製のNF999〕を用いて測定して、下記の基準で白色度を評価した。
◎:L値は85以上であり、白色度は十分であった。
○:L値は83以上、85未満であり、白色度は実用レベルであった。
×:L値は83未満であり、白色度は不十分であった。
【0069】
以上の結果を表1、表2に示す。なお両表中の着色材の種類の欄の符号は下記のとおり。
I:酸化チタン層のみからなる中空粒子。
II:樹脂粒子+酸化チタン層。
III:中空樹脂粒子+酸化チタン層。
【0070】
IV:酸化チタン粒子。
V:中空樹脂粒子。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
表2の比較例3の結果より、比重の大きい酸化チタン粒子を着色材として用いた場合には、十分な白色度を有する記録をすることができるものの、インクジェット用白インクの分散安定性が不十分であることが判った。
また比較例4の結果より、無色半透明の中空樹脂粒子を着色材として用いた場合には、インクジェットインクの分散安定性を向上できるものの、記録の白色度が不十分であることが判った。
【0074】
さらに比較例1、2の結果より、樹脂粒子、または中空樹脂粒子をコア粒子として、その表面を酸化チタン層で被覆した複合構造を有する白色顔料を着色材として用いた場合には記録の白色度を向上できるものの、依然としてインクジェット用白インクの分散安定性が不十分であることが判った。
これに対し表1の実施例1〜6の結果より、実質的に酸化チタン層のみからなる中空粒子を着色材として用いた場合には、十分な白色度を有する記録をすることができる上、分散安定性に優れたインクジェットインクが得られることが判った。
【0075】
また前記実施例1〜6の結果より、前記酸化チタン層の厚みは、40nm以上、160nm以下であるのが好ましいことも判った。
さらに実施例1、2の結果より、液相析出法によって中空粒子を製造するもとになる樹脂粒子としては、分散媒中での分散性を高めてその凝集等を防止することで、製造される中空粒子の形状、および粒径を均一化し、それによって前記中空粒子を含むインクジェット用白インクの分散安定性をより一層向上することを考慮すると、比重が1.6以下の樹脂からなるものを用いるのが好ましいことが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に白色金属酸化物のみからなる中空粒子を、着色材として含むことを特徴とするインクジェット用白インク。
【請求項2】
前記中空粒子は、酸化チタン、酸化亜鉛、および酸化アンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種の白色金属酸化物からなる請求項1に記載のインクジェット用白インク。
【請求項3】
前記中空粒子を構成する白色金属酸化物層の厚みは40nm以上、160nm以下である請求項1または2に記載のインクジェット用白インク。
【請求項4】
前記中空粒子は、分散媒中に分散させた樹脂粒子の表面を白色金属酸化物で被覆してコア−シェル粒子を形成する工程、および前記コア−シェル粒子を、前記樹脂の熱分解温度以上の温度で焼成して樹脂粒子を除去する工程を経て製造される請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェット用白インク。
【請求項5】
前記樹脂粒子は、比重が1.6以下の樹脂からなる粒子である請求項4に記載のインクジェット用白インク。

【公開番号】特開2013−23676(P2013−23676A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162980(P2011−162980)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(306029349)ゼネラル株式会社 (19)
【Fターム(参考)】