説明

インクジェット用非水系インク、およびインクジェット記録方法

【課題】記録物に対する定着性を向上させるとともに、プリンター吐出安定性に優れるインクジェット用非水系インク、およびそれを用いたインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るインクジェット用非水系インクは、顔料と、下記一般式(1)で示される溶剤と、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体と、を含有する。
【化1】


(式(1)中、R1は、炭素数1〜8のアルキル基を表し、R2およびR3はメチル基又はエチル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用非水系インク、およびそれを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録用ヘッドのノズルから吐出させた微小なインク滴によって画像や文字を印刷するいわゆるインクジェット印刷は、主に紙等の吸水性の記録媒体表面への印刷に利用されてきた。このようなインクジェット印刷に用いられるインクジェット用インクとしては、水に水溶性染料等の色材を添加した水系インクが広く普及している。しかしながら、インクジェット印刷は、近年様々な分野において多種多様な記録媒体表面への印刷に利用されるようになってきている。そこで、多種多様な記録媒体表面への印刷に対応するため、水系インクに代えて、溶媒として実質的に水を含まない非水系インクが開発された。
【0003】
このような非水系インクの具体例として、特許文献1には、塩化ビニル系樹脂の記録媒体への定着性を向上させる観点から、ポリ塩化ビニルを溶解できる有機溶剤、顔料および樹脂から構成される非水系インクが提案されている。また、特許文献2には、塩化ビニル系樹脂に対する印字適性を確保する観点から、顔料、有機溶剤、ポリ塩化ビニルおよび脱塩酸反応防止剤を含む非水系インクが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−15672号公報
【特許文献2】特開2008−274034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、非水系インクにおいてポリ塩化ビニル等の樹脂を含有させる場合、N−メチル−2−ピロリドンやラクトン系化合物等の非プロトン性複素環式有機溶剤を使用する場合がある。しかしながら、従来の非水系インクでは、塩化ビニル系樹脂等の記録媒体に対する定着性が十分とはいえない場合があった。他方、記録媒体に対する定着性を向上させる目的で、樹脂を含む非水系インクにした場合、吐出安定性が損なわれる場合があり、定着性及び吐出安定性に優れる非水系インクが希求されている。
【0006】
従って、本発明の目的は、記録物に対する定着性及びプリンターにおける吐出安定性に優れるインクジェット用非水系インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
顔料と、下記一般式(1)で示される溶剤と、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体と、を含有する、インクジェット用非水系インク。
【0009】
【化1】

(式(1)、R1は炭素数1〜8のアルキル基を表し、R2およびR3はメチル基またはエチル基をあらわす)
【0010】
[適用例2]
前記塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体が、その構成単位として、塩化ビニル単位を、70%〜90%含有する、適用例1に記載のインクジェット用非水系インク。
【0011】
[適用例3]
前期塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の数平均分子量が、10000〜50000である、適用例1又は2に記載のインクジェット用非水系インク。
【0012】
[適用例4]
前記塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の含有量が、インク総量に対して、0.5〜4質量%である、適用例1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット用非水系インク。
【0013】
[適用例5]
前記塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体が、その構成単位として、ビニルアルコール単位を含む、適用例1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット用非水系インク。
【0014】
[適用例6]
適用例1〜5のいずれか一項に記載のインクジェット用非水系インクを用いる、インクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0016】
1.インクジェット用非水系インク
本発明の一実施形態に係るインクジェット用非水系インクは、顔料と、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体と、後述する特定の溶剤と、を少なくとも含有する。本発明において、「インクジェット用非水系インク」とは、インク生成物を製造する際に水を意図的に添加しないという意味であり、インク組成物を製造中または保管中に不可避的に混入する微量の水分を含んでいてもかまわない。
【0017】
以下、本実施の形態に用いられる各成分について詳細に説明する。
【0018】
1.1.溶剤
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクは、下記一般式(1)で示される溶剤を少なくとも含有する。
【0019】
【化2】

【0020】
前記一般式(1)中、R1は炭素数1〜8のアルキル基であり、R2およびR3がメチル基またはエチル基であることが好適であることが判明した。「炭素数1〜8のアルキル基」は、直鎖状または分岐状のアルキル基であることができ、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、n−ヘプチル基、iso−ヘプチル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基、n−オクチル基、iso−オクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基等であることができる。前記一般式(1)で示される溶剤を含むインクジェット用非水系インクは、インクの良好な吐出安定性を確保することができる。また、R1が炭素数1〜8のアルキル基の式(1)で示される溶剤は、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体をインク中に溶解させる能力が高い。その結果、溶解した塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体を含有することによって、塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体の表面にインクを強固に定着させることができる。
【0021】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インク中における前記一般式(1)で示される溶媒の含有量は、例えば、2質量%以上50質量%以下、好ましくは10質量%以上50質量%以下とすることができる。前記一般式(1)で示される溶媒の含有量が前記範囲であると、インクジェット用非水系インクに適度な擬塑性が付与されるので、インクの吐出安定性を確保することができる。また、前記一般式(1)で示される溶媒の含有量が前記範囲であると、摩擦堅牢性および吐出安定性を確保するのに必要な量の塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体を、インク中に溶解させることができる。
【0022】
1.2.塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクは、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体を少なくとも含有する。塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体は、前記一般式(1)で示される溶媒に溶解させることができる。その結果、前記一般式(1)で示される溶剤中に溶解した塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体により、塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体の表面にインクを強固に定着させることができる。
【0023】
本発明における塩化ビニル及び酢酸ビニルの共重合体は、常法によって得ることができ、例えば、懸濁重合によって得ることができる。具体的には、重合器内に水と分散剤と重合開始剤を仕込み、脱気した後、塩化ビニル及び酢酸ビニルを圧入し懸濁重合を行うか、塩化ビニルの一部と酢酸ビニルを圧入して反応をスタートさせ、残りの塩化ビニルを反応中に圧入しながら懸濁重合を行うことができる。
【0024】
本発明における塩化ビニル及び酢酸ビニルの共重合体は、その構成として、塩化ビニル単位を70〜90質量%含有することが好ましい。上記の範囲であれば、非水インク中に安定して溶解するため長期の保存安定性に優れる。さらには、吐出安定性に優れ、記録媒体に対して優れた定着性を得ることができる。
【0025】
また、本発明における塩化ビニル及び酢酸ビニルの共重合体は、塩化ビニル単位及び脂肪酸ビニル単位とともに必要に応じて、その他の構成単位を備えていても良く、例えば、カルボン酸単位、ビニルアルコール単位、ヒドロキシアルキルアクリレート単位が挙げられ、とりわけビニルアルコール単位が好ましく挙げられる。前述の各単位に対応する単量体を用いることで得ることができる。カルボン酸単位を与える単量体の具体例としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。ヒドロキシアルキルアクリレート単位を与える単量体の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテルなどが挙げられる。これらの単量体の含有量は本発明の効果を損なわない限り限定されないが、例えば、単量体全量の15質量%以下の範囲で共重合させることができる。
【0026】
また、本発明における塩化ビニル及び酢酸ビニルの共重合体は市販されているものを用いてもよく、例えば、ソルバイン CN、ソルバイン CNL、ソルバイン C5R、ソルバイン TA5R(以上、日信化学工業社製)などが挙げられる。
【0027】
前記塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の平均重合度は、特に限定されないが、好ましくは150〜1100、より好ましくは200〜750である。塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の平均重合度が上記の範囲である場合、非水系インク中に安定して溶解するため長期の保存安定性に優れる。さらには、吐出安定性に優れ、記録媒体に対して優れた定着性を得ることができる。なお、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の平均重合度は、比粘度を測定し、これから算出されるものであり、「JIS K 6720−2」に記載の平均重合度算出方法に準じて求めることができる。
【0028】
また、前記塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の数平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは10000〜50000、より好ましくは12000〜42000である。なお、数平均分子量は、GPCによって測定することが可能であり、ポリスチレン換算とした相対値として求めることができる。
【0029】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インク中における塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の含有量は、例えば、0.05質量%以上6質量%以下、好ましくは0.5質量%以上4質量%以下とすることができる。塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の含有量が前記範囲であると、前記一般式(1)で示される溶媒中に溶解した塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体によって、塩化ビニル系樹脂等の記録媒体に対して優れた定着性が得られる。
【0030】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクにおいては、前記塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体と前記一般式(1)で示される溶剤とを質量基準で、1:5〜1:40となる量比で含むことが好ましい。前記量比の範囲内であれば、前記一般式(1)で示される溶剤中に前記塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体を容易に溶解させることができるので、塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体の表面へのインク定着性を向上できると共に、ノズルの目詰まりが起こりにくくなる。
【0031】
1.3.顔料
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクは、色材として顔料を少なくとも含有する。前記顔料としては、従来のインクジェット用非水系インクに通常用いられている有色無機顔料または有色有機顔料等の顔料を用いることができる。
【0032】
顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキ;ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料;カーボンブラック等の無機顔料等が挙げられる。顔料粒子の平均一次粒径は、特に限定されるものではないが、好ましくは50nm以上500nm以下である。
【0033】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクをマゼンタまたはレッドインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド194、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントレッド224等が挙げられる。
【0034】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクをオレンジまたはイエローインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントオレンジ64、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー180等が挙げられる。
【0035】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクをグリーンまたはシアンインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36等が挙げられる。
【0036】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクをブラックインクとする場合の顔料としては、例えば、カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)等が挙げられる。
【0037】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクをホワイトインクとする場合の顔料としては、例えば、Pigment White 6、18、21等が挙げられる。
【0038】
前記例示した顔料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0039】
1.4.その他の添加剤
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクには、必要に応じて、前記一般式(1)で示される溶剤以外の有機溶剤、界面活性剤、分散剤等を添加してもよい。
【0040】
1.4.1.その他の有機溶剤
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクは、塩化ビニル系樹脂等の記録媒体に対してインクを強固に固着させる観点から、常温常圧下で液体のアルキレングリコール化合物およびラクトンから選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、アルキレングリコール化合物を含有することがより好ましい。
【0041】
アルキレングリコール化合物としては、特に限定されないが、エチレングリコール化合物またはプロピレングリコール化合物であることが好ましい。
【0042】
好ましいエチレングリコール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、またはポリエチレングリコールのモノエーテルないしはジエーテルが挙げられ、好ましくはジエチレングリコール化合物である。また、好ましいプロピレングリコール化合物としては、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、またはポリプロピレングリコールのモノエーテルないしはジエーテルが挙げられ、好ましくはジプロピレングリコール化合物である。
【0043】
前記ジエチレングリコール化合物としては、例えば、下記一般式(3)で示されるジエチレングリコール化合物を用いることができる。
【0044】
【化3】

【0045】
式(3)中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはR6CO基である。R6は、炭素数1〜4のアルキル基である。「炭素数1〜4のアルキル基」は、直鎖状または分岐状のアルキル基であることができ、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、またはtert−ブチル基であることができる。式(3)で示されるジエチレングリコール化合物の具体例としては、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0046】
前記ジプロピレングリコール化合物としては、例えば、下記一般式(4)で示されるジプロピレングリコール化合物を用いることができる。
【0047】
【化4】

【0048】
式(4)中、R7およびR8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはR9CO基である。R9は、炭素数1〜4のアルキル基である。「炭素数1〜4のアルキル基」は、直鎖状または分岐状のアルキル基であることができ、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、またはtert−ブチル基であることができる。式(4)で示されるジプロピレングリコール化合物としては、例えば、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
【0049】
ラクトンとしては、炭素原子数6以下のラクトンが好ましく、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンであることがより好ましい。
【0050】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクにおいて用いることができる前記ジエチレングリコール化合物、前記ジプロピレングリコール化合物、およびラクトンは、それらの沸点が常圧下で、それぞれ好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上である。
【0051】
また、本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクにおいて用いることができる前記ジエチレングリコール化合物およびジプロピレングリコール化合物は、それらの20℃での蒸気圧が、好ましくは1hPa以下、より好ましくは0.7hPa以下である。
【0052】
前述したような高沸点および低蒸気圧の条件を満たすジエチレングリコール化合物およびジプロピレングリコール化合物を用いることにより、局所的排気設備または排ガス処理設備を設ける負担が軽減され、作業環境の向上が可能となり、また周辺環境への環境負荷も軽減することが可能となる。
【0053】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクにおいては、前記ジエチレングリコール化合物を含有することが好ましく、その含有量は、印刷特性によって適宜選択することができるが、インクジェット用非水系インク全体の質量に対して30質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0054】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクは、前述したジエチレングリコール化合物、ジプロピレングリコール化合物、ラクトンないしはそれらの混合物に加えて、さらに、常温常圧下で液体であり、下記一般式(5)で示されるポリエチレングリコールモノエーテル化合物を含有してもよい。
【0055】
【化5】

【0056】
式(5)中、R10およびR11は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基)である。nは、3〜6の整数である。「炭素数1〜6のアルキル基」は、直鎖状または分岐状のアルキル基であることができ、例えば前記「炭素数1〜4のアルキル基」に加えて、直鎖状もしくは分岐状のペンチル基またはヘキシル基であることができる。
【0057】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクにおいて用いることができる前記ポリエチレングリコールモノエーテル化合物は、その沸点が常圧下で、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上である。また、その引火点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上である。このようなポリエチレングリコールモノエーテル化合物を用いることにより、インクジェット用非水系インクに揮発抑制性を付与することができる。例えば、インクカートリッジからインクジェット記録用ヘッドへインクジェット用非水系インクを輸送するチューブ内でのインクジェット用非水系インクの揮発を抑制することにより、チューブ内での固形分の堆積を防止ないし軽減することができる。
【0058】
好ましいポリエチレングリコールモノエーテル化合物としては、例えば、トリエチレングリコールモノエーテル化合物(例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、又はトリエチレングリコールモノブチルエーテル)、または、前記一般式(5)においてnが4〜6であるポリエチレングリコールモノエーテル化合物(特に、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル)の混合物、例えば、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルと、ペンタエチレングリコールモノメチルエーテルと、ヘキサエチレングリコールモノメチルエーテルと、の混合物が挙げられる。
【0059】
また、本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクは、前記例示した有機溶媒の他に、以下に例示する有機溶媒をさらに含有してもよい。
【0060】
その他の有機溶媒としては、好ましくは極性有機溶媒、例えば、アルコール類(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、フッ化アルコール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)等が挙げられる。
【0061】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクが、前記ジエチレングリコール化合物、前記ジプロピレングリコール化合物、および前記ラクトンの少なくともいずれか1種を含み、前記ポリエチレングリコールモノエーテル化合物を含まない場合には、前記ジエチレングリコール化合物、前記ジプロピレングリコール化合物、および前記ラクトンの総量が、全有機溶媒成分の75質量%以上を占めることが好ましい。
【0062】
また、本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクが、前記ジエチレングリコール化合物、前記ジプロピレングリコール化合物、および前記ラクトンに加えて、前記ポリエチレングリコールモノエーテル化合物を含む場合には、前記ジエチレングリコール化合物、前記ジプロピレングリコール化合物、前記ラクトン、および前記のポリエチレングリコールモノエーテル化合物の総量は、全有機溶媒成分の80質量%以上を占めることが好ましい。
【0063】
1.4.2.界面活性剤
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクには、前記有機溶媒の他に、表面張力を低下させ記録媒体との濡れ性を向上させる観点から、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、または非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン誘導体を添加してもよい。
【0064】
シリコン系界面活性剤としては、ポリエステル変性シリコンやポリエーテル変性シリコンを用いることが好ましい。具体例としては、BYK−347、348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(いずれもビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
【0065】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK−340(ビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
【0066】
また、ポリオキシエチレン誘導体としては、アセチレングリコール系界面活性剤を用いることが好ましい。具体例としては、サーフィノール82、104、465、485、TG(いずれもエアープロダクツジャパン社製)、オルフィンSTG、E1010(いずれも日信化学株式会社製)、ニッサンノニオンA−10R、A−13R(いずれも日油株式会社製)、フローレンTG−740W、D−90(共栄社化学株式会社製)、ノイゲンCX−100(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0067】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インク中における界面活性剤の含有量は、好ましくは0.05質量%以上3質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。
【0068】
1.4.3.分散剤
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクには、顔料の分散安定性を向上させる観点から、通常のインクジェット用非水系インクにおいて用いられる任意の分散剤を用いることができる。分散剤としては、有機溶媒の溶解パラメーターが8〜11であるときに有効に作用する分散剤を用いることが好ましい。このような分散剤の具体例としては、ヒノアクトKF1−M、T−6000、T−7000、T−8000、T−8350P、T−8000E(いずれも武生ファインケミカル株式会社製)等のポリエステル系高分子化合物、Solsperse20000、24000、32000、32500、33500、34000、35200、37500(いずれもLUBRIZOL社製)、Disperbyk−161、162、163、164、166、180、190、191、192(いずれもビックケミー・ジャパン社製)、フローレンDOPA−17、22、33、G−700(いずれも共栄社化学株式会社製)、アジスパーPB821、PB711(いずれも味の素株式会社製)、LP4010、LP4050、LP4055、POLYMER400、401、402、403、450、451、453(いずれもEFKAケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0069】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクにおいて、前記分散剤の含有量は、分散すべき顔料によって適宜選択することができるが、インクジェット用非水系インク中の顔料の含有量100質量部に対して、好ましくは5質量部以上200質量部以下、より好ましくは30質量部以上120質量部以下である。
【0070】
1.4.4.その他の添加剤
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクには、さらに通常のインクジェット用非水系インクに含まれるその他の添加剤を添加してもよい。その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、バインダー樹脂等が挙げられる。
【0071】
酸化防止剤としては、例えばBHA(2,3−ブチル−4−オキシアニソール)、BHT(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)等が挙げられる。本実施の形態に係るインクジェット用非水系インク中における酸化防止剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上3質量%以下である。
【0072】
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。本実施の形態に係るインクジェット用非水系インク中における紫外線吸収剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上0.5質量%以下である。
【0073】
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクは、インクの粘度を調整する目的でバインダー樹脂を添加してもよい。バインダー樹脂としては、例えばアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ロジン変性樹脂、フェノール樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、セルロースアセテートブチレート等の繊維系樹脂、ビニルトルエン−α−メチルスチレン共重合体樹脂等が挙げられる。これらのバインダー樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。なお、バインダー樹脂は、その添加量により塩化ビニル系樹脂に対するインクの定着性をさらに良好とすることもできる。
【0074】
1.4.5.インクジェット用非水系インクの製造方法
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクは、公知の方法によって製造することができるが、具体的には以下のような手法を採りうる。まず、前記式(1)で示される溶剤、ポリ塩化ビニル、その他の有機溶剤を秤取り、撹拌・混合することにより混合溶剤を得る。次いで、得られた混合溶剤の一部を取り分けて、そこに分散剤、顔料の順に添加し、ホモジナイザーを用いて粉砕処理する。その後、ボールミル、ビーズミル、超音波またはジェットミル等で顔料分散液を調製し、所望のインク特性を有するように調整する。続いて、得られた顔料分散液に、混合溶媒の残部およびその他の添加剤(例えば、界面活性剤やバインダー樹脂)を撹拌下に加えることでインクジェット用非水系インクを得ることができる。
【0075】
1.4.6.物性
本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクは、印字品質とインクジェット用インク組成物としての信頼性とのバランスの観点から、20℃における表面張力が20mN/m以上50mN/mであることが好ましく、25mN/m以上40mN/m以下であることがより好ましい。なお、表面張力の測定は、自動表面張力計CBVP−Z(協和界面科学社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0076】
また、同様の観点から、本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクの20℃における粘度は、2mPa・s以上15mPa・s以下であることが好ましく、2mPa・s以上10mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度の測定は、粘弾性試験機MCR−300(Pysica社製)を用いて、20℃の環境下で、Shear Rateを10〜1000に上げていき、Shear Rate200時の粘度を読み取ることにより測定することができる。
【0077】
2.インクジェット記録方法
本実施の形態に係るインクジェット記録方法は、前述したインクジェット用非水系インクの液滴を吐出し、塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体の表面に該液滴を付着させて画像を記録することを特徴とする。本実施の形態に係るインクジェット記録方法によれば、前述したインクジェット用非水系インクを用いるのでインクジェットヘッドからの良好な吐出安定性を確保できると共に、塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体の表面にインクを強固に定着させることができる。
【0078】
また、前述したインクジェット用非水系インクには、前記一般式(1)で示される溶剤が含まれており、該溶剤は、塩化ビニル系樹脂と相互作用する。そのため、本実施の形態に係るインクジェット記録方法は、塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体の表面に前述したインクジェット用非水系インクの液滴を付着させて画像を記録することで、記録媒体上に強固に定着される点で優れている。
【0079】
本実施の形態に係るインクジェット記録方法における記録媒体としては、塩化ビニル系樹脂を含有するものであれば特に限定されない。塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体としては、硬質もしくは軟質の塩化ビニル系フィルムまたはシート等が挙げられる。前述したインクジェット用非水系インクは、塩化ビニル系樹脂基材における無処理表面への画像の記録を可能ならしめるものであり、従来の受容層を有する記録媒体のごとく、高価な記録媒体の使用を不要とする優れた効果を有するが、インク受容層により表面処理された基材であっても適用できることは言うまでもない。
【0080】
本実施の形態に係るインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置は、特に限定されないが、ドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置が好ましい。ドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置には、記録ヘッドに配設された圧電素子を用いて記録を行う圧電素子記録方法を採用したもの、記録ヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いて記録を行う熱ジェット記録方法を採用したもの等があるが、いずれの記録方法も採用することができる。また、本実施の形態に係るインクジェット用非水系インクは、撥インク処理された吐出ノズル表面に対して不活性であるという利点を有するので、例えば撥インク処理された吐出ノズル表面を有するインクジェット記録用ヘッドから吐出させるインクジェット記録方法に有利に用いることができる。
【0081】
3.実施例
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0082】
3.1.溶剤の合成
3.1.1.溶剤A
撹拌装置、熱電対および窒素ガス導入管を備えた300mlセパラブルフラスコに、N,N−ジメチルアクリルアミド19.828gおよびメタノール6.408gを入れ、窒素ガスを導入しながら撹拌した。次に、ナトリウム t−ブトキシド0.338gを加え、35℃で4時間反応を行った。加熱終了後、リン酸150mgを加え、溶液を均一にした後、3時間放置した。溶液を濾過して、析出物を除去し、さらにエバポレーターで未反応物を除いた。このようにして、下記式(6)で示される溶剤Aを得た。
【0083】
【化6】

【0084】
3.1.2.溶剤B
撹拌装置、熱電対および窒素ガス導入管を備えた300mlセパラブルフラスコに、N,N−ジメチルアクリルアミド19.828gおよび1−ブタノール14.824gを入れ、窒素ガスを導入しながら撹拌した。次に、ナトリウム t−ブトキシド0.338gを加え、35℃で4時間反応を行った。加熱終了後、リン酸150mgを加え、溶液を均一にした後、3時間放置した。溶液を濾過して、析出物を除去し、さらにエバポレーターで未反応物を除いた。このようにして、下記式(7)で示される溶剤Bを得た。
【0085】
【化7】

【0086】
3.1.3.溶剤C
撹拌装置、熱電対および窒素ガス導入管を備えた300mlセパラブルフラスコに、N,N−ジメチルアクリルアミド25.441gおよびメタノール6.408gを入れ、窒素ガスを導入しながら撹拌した。次に、ナトリウム t−ブトキシド0.338gを加え、35℃で4時間反応を行った。加熱終了後、リン酸150mgを加え、溶液を均一にした後、3時間放置した。溶液を濾過して、析出物を除去し、さらにエバポレーターで未反応物を除いた。このようにして、下記式(8)で示される溶剤Cを得た。
【0087】
【化8】

【0088】
3.1.4.溶剤D
撹拌装置、熱電対および窒素ガス導入管を備えた300mlセパラブルフラスコに、N,N−ジメチルアクリルアミド19.828gおよび1−ヘキサノール20.434gを入れ、窒素ガスを導入しながら撹拌した。次に、ナトリウム t−ブトキシド0.338gを加え、35℃で4時間反応を行った。加熱終了後、リン酸150mgを加え、溶液を均一にした後、3時間放置した。溶液を濾過して、析出物を除去し、さらにエバポレーターで未反応物を除いた。このようにして、下記式(9)で示される溶剤Dを得た。
【0089】
【化9】

【0090】
3.1.5.溶剤E
撹拌装置、熱電対および窒素ガス導入管を備えた300mlセパラブルフラスコに、N,N−ジメチルアクリルアミド19.828gおよび2−エチルヘキサノール26.046gを入れ、窒素ガスを導入しながら撹拌した。次に、ナトリウム t−ブトキシド0.338gを加え、35℃で4時間反応を行った。加熱終了後、リン酸150mgを加え、溶液を均一にした後、3時間放置した。溶液を濾過して、析出物を除去し、さらにエバポレーターで未反応物を除いた。このようにして、下記式(10)で示される溶剤Eを得た。
【0091】
【化10】

【0092】
3.1.6.溶剤F
撹拌装置、熱電対および窒素ガス導入管を備えた300mlセパラブルフラスコに、N,N−ジメチルアクリルアミド19.828gおよび1−オクタノール26.046gを入れ、窒素ガスを導入しながら撹拌した。次に、ナトリウム t−ブトキシド0.338gを加え、35℃で4時間反応を行った。加熱終了後、リン酸150mgを加え、溶液を均一にした後、3時間放置した。溶液を濾過して、析出物を除去し、さらにエバポレーターで未反応物を除いた。このようにして、下記式(11)で示される溶剤Fを得た。
【0093】
【化11】

【0094】
3.2.インクジェット用非水系インクの調製
容器に、表1に記載の濃度に相当する量の溶剤、ポリ塩化ビニルをそれぞれのインク毎に投入し、マグネティックスターラーを用いて30分間混合撹拌して混合溶剤を得た。
得られた混合溶剤の一部を取り分けて、そこにSolsperse37500(LUBRIZOL社製、商品名)およびC.I.ピグメントブラック7(三菱化学株式会社製、商品名「CARBON BLACK」)を所定量添加して、ホモジナイザーを用いて粉砕処理した。その後、直径0.3mmのジルコニアビーズを充填したビーズミルで分散処理を行うことにより、顔料分散液を得た。
得られた顔料分散液に、混合溶剤の残部およびBYK−340(ビックケミー・ジャパン株式会社製、フッ素系界面活性剤)を添加してさらに1時間混合撹拌してから、5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて濾過することで、表1に記載のブラックインク組成物を得た。なお、表中の数値は、質量%を表す。
【0095】
表中で使用した材料は、下記の通りである。なお、「塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体を含む共重合体E」は、懸濁重合により合成した。
・C.I.ピグメントブラック7(三菱化学株式会社製、商品名「CARBON BLACK」、ブラック顔料)
・Solsperse37500(商品名、LUBRIZOL社製、分散剤)
・γ−ブチロラクトン(商品名、関東化学株式会社製、溶剤)
・ジエチレングリコールジエチルエーテル(商品名、日本乳化剤株式会社製、溶剤)
・ジエチレングリコールジメチルエーテル(商品名、日本乳化剤株式会社製、溶剤)
・塩化ビニル樹脂(商品名「カネカビニールS−400」、株式会社カネカ製、平均重合度480)
・塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体A(商品名「ソルバインC5R」、日信化学株式会社製、数平均分子量27000、平均重合度350)
・塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体B(商品名「ソルバインCN」、日信化学株式会社製、数平均分子量42000、平均重合度750)
・塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体C(商品名「ソルバインCNL」、日信化学株式会社製、数平均分子量12000、平均重合度200)
・塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体D(商品名「ソルバインTA5R」、日信化学株式会社製、数平均分子量28000、平均重合度300)
・塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体E(平均重合度400)
・BYK−340(商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製、フッ素系界面活性剤)
【0096】
3.3.評価試験
3.3.1.定着性試験
JローランドDG社製プリンター「SP−300V」を用いて、「3.2.インクジェット用非水系インクの調製」で得られた各インク組成物を光沢ポリ塩化ビニルシート(住友スリーエム株式会社製、「IJ−40」)上にDuty100%の条件で印刷した。記録条件は、プリンターのヒーター設定を40℃とした。その後、常温にて1日間乾燥させることで、評価用サンプルを得た。
【0097】
次に、その評価サンプルの印刷表面を学振型摩擦堅牢度試験機(テスター産業株式会社製、製品名AB−301)を用いて、荷重500g下、綿布にて20回擦った領域における擦過痕および剥離の程度を確認することにより定着性を評価した。その評価結果を表1に併せて示す。なお、下記の評価基準のうち、「3」および「4」が実用上許容される範囲である。
4:擦過痕および剥離が認められない。
3:擦過痕はあるが剥離が認められない。
2:擦過痕および一部の剥離が認められる。
1:擦った領域のほぼ全域で剥離が認められる。
【0098】
3.3.2.プリンター吐出安定性評価
上記「3.3.1.定着性試験」で得られた各記録物について、吐出欠陥の有無を目視観察し、下記の評価基準に従って吐出安定性を評価した。なお、「ノズル抜け」とは、通常プリントヘッドについているノズルから吐出されるはずのインクがノズルの詰まりによって吐出されず、印刷結果に影響を与えることをいう。その評価結果を表1に併せて示す。なお、下記の評価基準のうち「3」および「4」が実用上許容される範囲である。
4:吐出欠陥(ノズル抜け)の発生が認められない。
3:ベタ画像の一部が埋まっていない個所がある。
2:ベタ画像の複数箇所が埋まっていない。
1:印刷面が線状になり、大多数の部分が埋まっていない。
【0099】
【表1】

【0100】
3.3.3.評価結果
実施例1〜実施例13によれば、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体A〜Eのいずれか1種を適量含有することで、塩化ビニル系樹脂からなる被記録媒体上に吐出して得られた記録物において良好な定着性とプリンター吐出安定性を確保できることが判った。
【0101】
実施例1〜実施例5によれば、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の塩化ビニル比率が70〜90質量%の範囲内であれば、十分な定着性とプリンター吐出安定性を確保できることが判った。
【0102】
実施例6〜実施例7によれば、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の含有量が0.5〜4質量%の範囲内であれば、十分な定着性とプリンター吐出安定性を確保できることが判った。
【0103】
実施例8〜実施例12によれば、一般式(1)で示される溶剤であればいずれの種類であっても、実施例1〜4とほぼ同等の良好な印刷特性が得られることが判った。
【0104】
実施例13によれば、一般式(1)で示される溶剤の含有量が5質量%の場合でも良好な印刷特性が得られることがわかった。
【0105】
比較例1〜比較例2によれば、樹脂成分を含有していないためプリンター吐出安定性は良好だが、記録物の定着性には優れなかった。
【0106】
比較例3〜比較例4によれば、塩化ビニル樹脂を含有することで記録物の定着性に優れることが判った。一方、樹脂中に酢酸ビニル樹脂等が含有されていないため、プリンター吐出安定性には優れなかった。
【0107】
比較例5〜比較例8によれば、一般式(1)で示される溶剤の代替としてγ−ブチロラクトンを用いた場合、記録物の定着性に優れないことが判った。
【0108】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、下記一般式(1)で示される溶剤と、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体と、を含有する、インクジェット用非水系インク。
【化1】

(式(1)、R1は炭素数1〜8のアルキル基を表し、R2およびR3はメチル基またはエチル基をあらわす)
【請求項2】
前記塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体が、その構成単位として、塩化ビニル単位を、70%〜90%含有する、請求項1に記載のインクジェット用非水系インク。
【請求項3】
前期塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の数平均分子量が、10000〜50000である、請求項1又は2に記載のインクジェット用非水系インク。
【請求項4】
前記塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の含有量が、インク総量に対して、0.5〜4質量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット用非水系インク。
【請求項5】
前記塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体が、その構成単位として、ビニルアルコール単位を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット用非水系インク。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェット用非水系インクを用いる、インクジェット記録方法。

【公開番号】特開2013−18930(P2013−18930A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155473(P2011−155473)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】