説明

インクジェット装置およびインクジェットヘッドユニット

【課題】圧力調整手段の設置場所が制限されることなく、液体の流れを止めないでインクジェットヘッド内の圧力を所定の微負圧に調整することができるインクジェット装置を提供する。
【解決手段】インクジェット装置は、液滴を吐出するインクジェットヘッド29と、インクジェットヘッド29へ供給される液体を貯留するインクタンク5とを備える。この態様において、インクジェットヘッド29に連通され、インクジェットヘッド29内を減圧することによってインクタンク5の内部の液体をインクジェットヘッド29へ送る送液手段45と、インクジェットヘッド29と送液手段45との間をつなぐ流路を開閉する開閉弁54を有し、該流路の内外の圧力差に応じて開閉弁54を開閉することによりインクジェットヘッド29内の圧力を調整する圧力調整手段34と、をさらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出するインクジェットヘッドを備えたインクジェット装置、および該インクジェット装置に対して着脱されるインクジェットヘッドユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷用紙といった記録媒体にインクを吐出するインクジェットヘッドを備えたインクジェット装置が知られている。
【0003】
インクジェット装置は記録媒体上で往復動するキャリッジを備えており、当該キャリッジにインクジェットヘッドが搭載されている。キャリッジの往復動に連動してインクジェットヘッドの吐出ノズルからインク滴が吐出され、記録媒体上に文字や画像が形成される。
【0004】
インクジェット装置にはインク補給容器(以下、インクタンクという)が設けられている。インクタンクは柔軟な素材で中空形状に形成された流体導管を介してインクジェットヘッドに接続されており、インクタンク中のインクは流体導管を通ってインクジェットヘッドへ供給される。
【0005】
このようなインクジェット装置では、吐出ノズル内のインクが良好なメニスカスを形成することによってインク滴の液滴量と飛翔方向を安定させることができ、記録媒体上に記録される画像の品質が向上する。吐出ノズル内のインクの良好なメニスカスの形成は、例えばインクジェットヘッド内を所定の微負圧に維持することにより実現される。
【0006】
また、インクジェット装置では、吐出ノズルが目詰まりを起こすことによって記録画像の品質が低下する。吐出ノズルの目詰まりによって、インク滴の記録媒体上での着弾位置が所望の位置からずれるからである。吐出ノズルの目詰まりの状態がさらに悪化すると吐出ノズルからインク滴が吐出されなくなることもあった。
【0007】
吐出ノズルの目詰まりは、インク中の溶媒が大気へ蒸発することによって起きる。吐出ノズル内のインクの溶媒が蒸発して該インクの粘度が上昇し、インクが吐出ノズル内で固まることで吐出ノズルが目詰まりを起こす。
【0008】
特許文献1では、記録画像の品質を向上させるため、インクジェットヘッド内を所定の微負圧に保ちながらインクタンクとインクジェットヘッドとの間でインクを循環させる機構を備えたインクジェット装置が開示されている。
【0009】
特許文献1に開示されているインクジェット装置は、インクタンク中のインクを加圧してインクジェットヘッドへインクを送る加圧ポンプと、インクジェットヘッドからインクタンクへ向かう経路の途中に設けられた圧力調整手段と、を備えている。当該圧力調整手段は、インクジェットヘッドの吐出ノズルと圧力調整手段内のインクの液面との間の水頭差を利用してインクジェットヘッド内を微負圧に保っている。すなわち、当該インクジェット装置は、加圧ポンプおよび水頭差方式の圧力調整手段を用いて、インクの循環およびインクの圧力調整を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2000−507522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、水頭差方式の圧力調整手段は、インクジェットヘッドの吐出面(吐出ノズルが形成されている面をいう)よりも重力方向下方に配置されていなければ、インクジェットヘッド内を所定の微負圧に維持することができない。そのため、特許文献1に開示されているインクジェット装置では、圧力調整手段の設置場所はインクジェットヘッドよりも重力方向下側に制限されていた。
【0012】
また、水頭差方式の圧力調整手段では、インクジェットヘッドの吐出面と圧力調整手段との間の重力方向における距離によってインクジェットヘッド内の圧力が決定される。したがって、インクジェットヘッド内をより低い負圧で維持したい場合には圧力調整手段をより重力方向下側に配置しなければならず、圧力調整手段の設置場所がいっそう制限されていた。
【0013】
本発明者らは、これらの課題を解決する手段として、減圧ポンプを用いてインクジェットヘッド内のインクの圧力を低下させることを考えた。しかしながら、減圧ポンプを直接インクジェットヘッドに接続した場合、減圧ポンプの出力によってはインクジェットヘッド内のインクの圧力が低下しすぎる虞があった。当該圧力が低下しすぎると、吐出ノズルに良好なメニスカスが形成されず、インクジェットヘッドから吐出されるインク滴の液滴量が不安定になり記録画像の品質が低下してしまう。
【0014】
特に、吐出ノズルにおいて良好なメニスカスが形成される微負圧は、大気圧よりも0.6kPa低い程度の微負圧である。このような微負圧を、減圧ポンプの出力制御によって達成することは非常に困難であった。
【0015】
そこで、本発明は、圧力調整手段の設置場所が制限されることなく、液体の流れを止めないでインクジェットヘッド内の圧力を所定の微負圧に調整することができるインクジェット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、液滴を吐出するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドへ供給される液体を貯留するインクタンクとを備えるインクジェット装置に係る。この態様において、インクジェットヘッドに連通され、インクジェットヘッド内を減圧することによってインクタンクの内部の液体をインクジェットヘッドへ送る送液手段と、インクジェットヘッドと送液手段との間をつなぐ流路を開閉する開閉弁を有し、該流路の内外の圧力差に応じて該開閉弁を開閉することによりインクジェットヘッド内の圧力を調整する圧力調整手段と、をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧力調整手段の設置場所が制限されることなく、液体の流れを止めないでインクジェットヘッド内の圧力を所定の微負圧に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るインクジェット装置の概略斜視図。
【図2】図1に示すインクジェット装置のインク供給系および回復装置の構造を示す模式図。
【図3】圧力調整手段の構造および動作を説明するための模式図。
【図4】インク供給動作中における液体収容室のインクの圧力の時系列変化を示したグラフ。
【図5】他の圧力調整手段の例を示す断面図。
【図6】図5に示す圧力調整手段の動作を説明するための図。
【図7】第2の実施形態に係るインクジェット装置のインク供給系の構造を示す模式図。
【図8】第3の実施形態に係るインクジェット装置が有するインクジェットヘッドユニットの斜視図。
【図9】第3の実施形態に係るインクジェット装置のインク供給系を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。
【0020】
(実施例1)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るインクジェット装置の概略斜視図である。図1に示すように、インクジェット装置は、インクジェットヘッドユニット1(以下、単にヘッドユニット1と称す)と、ヘッドユニット1へ供給される液体(インク)を貯留するインクタンク2と、を備えている。ヘッドユニット1は、第1の流体導管3といった導管を介してヘッドユニット1に接続されている。
【0021】
インクタンク2は、インクジェット装置に取り替え可能に設けられている。インクタンク2の内部のインクは、加圧ポンプ4によりインクタンク2から押し出され、第1の流体導管3、第1のサブタンク5、更には第2の流体導管6を経由してヘッドユニット1へ供給される。ヘッドユニット1に供給されたインクは、図示されていないインクジェット装置制御基板による制御下において、プラテン7上に搬送された記録媒体8へ向けて吐出される。
【0022】
ヘッドユニット1は、スライド軸9に沿って往復動可能なキャリッジ10に搭載されている。キャリッジ10は、キャリッジモーター11、キャリッジベルト12およびプーリー13を用いてスライド軸9に沿って移動させられる。キャリッジ10の移動に伴いキャリッジ10に搭載されたヘッドユニット1がプラテン7の上方を往復動する。
【0023】
プラテン7の下方にはロール状に巻き回された記録媒体8が回転自在に支持されている。記録媒体8は、ガイド14およびLFローラ群15を用いてプラテン7上に搬送される。
【0024】
インクジェット装置は、記録媒体8をプラテン7上に間欠的に送り出し、ヘッドユニット1をプラテン7上で往復動させながらヘッドユニット1からインクを吐出する。その結果、プラテン7上の記録媒体8に連続的に記録が行われる。なお、キャリッジ10の往復動と記録媒体8の搬送を交互に行いながら記録を行うこのようなインクジェット装置は、シリアル型インクジェット装置と呼ばれる。
【0025】
また、インクジェット装置は、ヘッドユニット1が記録動作において往復動する範囲よりも外側に、ヘッドユニット1の吐出不良を回復する回復装置16を備えている。
【0026】
図2を参照して、インクジェット装置のインク供給系および回復装置16の構造を説明する。図2(a)は、図1に示すインクジェット装置のインク供給系および回復装置16の構造を示す模式図である。
【0027】
まず、回復装置16の構造について説明する。
【0028】
図2(a)に示すように、回復装置16は、回復ポンプ17とノズルキャップ18を有する。ヘッドユニット1の吐出不良を回復する場合には、まず、ヘッドユニット1が回復装置16上に移動してノズルキャップ18がヘッドユニット1に押し当てられる。その後、回復ポンプ17が発生させる負圧により、ヘッドユニット1の吐出ノズル19内のインクが吸引除去される。
【0029】
インクが吐出ノズル19内に残ったまま放置されると、吐出ノズル19内のインクが増粘し、吐出ノズル19に吐出不良が生じることがある。回復装置16によって吐出ノズル19内にインクが残らなくなり、インクの増粘による吐出不良を防止できる。
【0030】
続いて、インク供給系の構造について説明する。
【0031】
インクタンク2は、柔軟な材料で形成された袋体20と、袋体20のインク導出口を密閉する第1のゴム栓21と、袋体20を密封するケース22と、を有する。第1の流体導管3の一端には先端が鋭利な中空管からなる第1のインク針23が設けられている。第1のインク針23が第1のゴム栓21に差し込まれており、第1の流体導管3が袋体20と連通されている。
【0032】
また、ケース22には加圧ポンプ4が接続されている。加圧ポンプ4は、ケース22内に加圧空気を送ることで袋体20を押圧し、袋体20に収容されているインクを第1の流体導管3に押出す。
【0033】
インクタンク2と第1のサブタンク5を接続する第1の流体導管3にはタンク開閉弁24が配設されている。タンク開閉弁24が開放された状態で加圧ポンプ4が駆動することによって、インクタンク2から第1のサブタンク5へインクが供給される。
【0034】
第1のサブタンク5は常に大気に開放されている。第1のサブタンク5には、第1のサブタンク5がインクで満たされているかを検知する第1の液面センサ25、および第1のサブタンク5が空であるかを検知する第2の液面センサ26が設けられている。第1および第2の液面センサ25,26は、第1のサブタンク5内のインクの液面を検出することによって、第1のサブタンク5がインクで満たされているか空であるかを検知する。
【0035】
第1の液面センサ25により第1のサブタンク5内のインクの液面の低下が検知された場合、タンク開閉弁24が開放され、加圧ポンプ4が駆動される。その結果、袋体20が押圧されて袋体20内のインクが第1のサブタンク5へ供給される。インクが供給されて第1のサブタンク5内のインクの液面を第1の液面センサ25が検知したところで、タンク開閉弁24が閉じられ第1のサブタンク5へのインク供給動作が終了する。
【0036】
第1のサブタンク5は第2の流体導管6を用いてヘッドユニット1に接続されている。ヘッドユニット1のインク用の流入口には第2のゴム栓27が配設されており、第2の流体導管6の一端には第2のインク針28が設けられている。第2のインク針28が第2のゴム栓27に差し込まれており、第2の流体導管6およびヘッドユニット1が接続されている。
【0037】
ヘッドユニット1は、液滴を吐出するインクジェットヘッド29を含んでいる。インクジェットヘッド29には重力方向下方に向けて液滴を吐出するための吐出ノズル19と、吐出ノズル19にインクを供給する共通液室30と、が形成されている。また、インクジェットヘッド29には、インクを共通液室30へ導き入れるためのヘッド流入口31と、インクを共通液室30から流出させるためのヘッド流出口32と、が形成されている。
【0038】
第2のゴム栓27が配設されているヘッドユニット1の流入口からヘッド流入口31までインクの流入流路が形成されており、ヘッドユニット1へ供給されたインクは当該流入流路を通ってインクジェットヘッド29へ送られる。当該流入流路には第1のフィルタ33が配設されている。
【0039】
また、ヘッドユニット1は、インクジェットヘッド29内を所定の微負圧に調整するとともに第1のサブタンク5のインクを共通液室30へ送液する圧力調整手段34を含んでいる。圧力調整手段34には、インクを収容して該インクの圧力を増減させる液体収容室35と、インクを液体収容室35へ導き入れるための収容室流入口36と、インクを液体収容室35から流出させるための収容室流出口37と、が形成されている。
【0040】
収容室流入口36は、流路を介してヘッド流出口32に接続されている。すなわち、圧力調整手段34は、インクの流れ方向に関してインクジェットヘッド29よりも下流側に配置されている。
【0041】
収容室流出口37は、流出流路を介してヘッドユニット1のインク用の流出口に接続されている。当該流出流路の途中には第2のフィルタ38が配設されている。
【0042】
ヘッドユニット1のインク用の流出口は、第3の流体導管39を介して第2のサブタンク40に接続されている。ヘッドユニット1の流出口には第3のゴム栓41が配設されており、第3の流体導管39の一端には第3のインク針42が設けられている。第3のインク針42が第3のゴム栓41に差し込まれており、ヘッドユニット1のインク流出口と第3の流体導管39とが連通されている。
【0043】
液体収容室35には、インク中に溶存している気体(空気)が溜まることがある。液体収容室35に溜まった気体(空気)を第2のサブタンク40に効率よく排出するために、液体収容室35の重力方向の上側に収容室流出口37を配置することが望ましい。
【0044】
第2のサブタンク40は大気開放弁43を備えており、大気開放弁43を閉じることによって第2のサブタンク40内は密閉される。また、第2のサブタンク40には、第2のサブタンク40内の圧力を検知する圧力センサ44が設けられている。
【0045】
第2のサブタンク40には減圧ポンプ45が接続されており、大気開放弁43を閉じた状態で減圧ポンプ45を駆動させることで第2のサブタンク40内の気体が外部に排出されて第2のサブタンク40内の圧力が低下する。第2のサブタンク40内の圧力の低下に伴ってインクジェットヘッド29内のインクが第2のサブタンク40へ送液される。インクジェットヘッド29内のインクの流出によってインクジェットヘッド29内が減圧され、第1のサブタンク5内のインクがインクジェットヘッド29へ送液される。
【0046】
このように、本実施形態では、密閉された第2のサブタンク40および減圧ポンプ45により送液手段が形成されている。当該送液手段は、インクジェットヘッド29内を減圧することによって第1のサブタンク5内のインクをインクジェットヘッド29へ送液する。
【0047】
なお、減圧ポンプ45としてはダイアフラムポンプが好ましいが、その他の方式のポンプであっても構わない。
【0048】
第2のサブタンク40は、第4の流体導管46を介して第1のサブタンク5に接続されている。第4の流体導管46には、第4の流体導管46を開放または遮断する流路開閉弁47と、第2のサブタンク40から第1のサブタンク5へインクを送液する送液ポンプ48と、が配設されている。
【0049】
本実施形態では、送液ポンプ48として、可撓性を有するチューブを複数のコロで連続的に押し潰しながら当該チューブ内のインクを輸送させるチューブポンプが用いられている。
【0050】
また、第2のサブタンク40は、第2のサブタンク40がインクで満たされているかを検知する第3の液面センサ49、および第2のサブタンク40が空であるかを検知する第4の液面センサ50を備えている。
【0051】
第2のサブタンク40内のインク液面が上昇したことを第3の液面センサ49が検知したところで、インクジェット装置は、流路開閉弁47を開放するとともに送液ポンプ48を駆動し、第2のサブタンク40のインクを第1のサブタンク5へ送液する。もちろん、第1のサブタンク5がインクで満たされていることを第1の液面センサ25が検知している場合には、第2のサブタンク40から第1のサブタンク5へのインクの送液は行われない。
【0052】
第2のサブタンク40内のインクが空になったことを第4の液面センサ50が検知したところで、インクジェット装置は、流路開閉弁47を閉じて送液ポンプ48の駆動を停止する。第1のサブタンク5がインクで満たされたことを第1の液面センサ25が検知した場合にも、第2のサブタンク40から第1のサブタンク5へのインクの送液は停止される。
【0053】
第1のサブタンク5へ送液されたインクはその後再びインクジェットヘッド29へ供給される。
【0054】
次に、圧力調整手段34の構造および動作について、図3を用いて詳細に説明する。図3(a)ないし(c)は、圧力調整手段34の構造および動作を説明するための模式図である。
【0055】
図3(a)に示すように、圧力調整手段34は、窪み部51を有する収容室部材52と、窪み部51の開口を覆う可撓性部材53と、を備えている。すなわち、可撓性部材53は液体収容室35の周囲壁の一部を形成している。なお、本実施形態では窪み部51は円柱形状を有している。
【0056】
可撓性部材53としては可撓性とガスバリア性を有する樹脂フィルムが好ましいが、その他の可撓性を有する材質を可撓性部材53として用いても良い。
【0057】
収容室流出口37には、収容室流出口37を開閉する収容室開閉弁54が配設されている。収容室開閉弁54は液体収容室35の外側から収容室流出口37を閉塞する弁体55を備えている。弁体55は、第1のバネ56により収容室流出口37の周縁に向かって付勢されている。
【0058】
また、圧力調整手段34は、液体収容室35内に、液体収容室35の容積を拡大させる方向(以下、Y1方向)に可撓性部材53を押圧する第2のバネ57と、回転中心58を中心に回転可能に設けられたアーム59とを備えている。可撓性部材53の、液体収容室35側の面(以下、内側面)には、円形状のバネ受板60が接着されている。
【0059】
バネ受板60は、Y1方向からみたときにバネ受板60の中心と円柱形状を有する窪み部51の中心とが一致するように可撓性部材53に配設されている。また、バネ受板60の直径は円柱形状を有する窪み部51の直径よりも小さく、可撓性部材53にはバネ受板60が接着されていない部分が存在している。
【0060】
可撓性部材53の、バネ受板60が接着されていない部分は、可撓性を喪失していない。したがって、液体収容室35内のインク量の増減に伴い可撓性部材53の当該部分が撓み、バネ受板60がY1方向、またはY1方向とは反対の方向(以下、Y2方向という)に移動する。
【0061】
アーム59の一方の端部(以下、第1のアーム端部61という)はバネ受板60に連結されている。したがって、バネ受板60の移動、すなわち可撓性部材53の変形に伴って、アーム59は回転中心58を中心に回転する。
【0062】
図3(b)に示すように、バネ受板60がY1方向に移動すると、アーム59は回転中心58を中心にX方向(図3(b)における時計回り方向)に回転する。その結果、アーム59の、第1のアーム端部61とは反対側の端部(以下、第2のアーム端部62という)は弁体55に接触する。
【0063】
第2のアーム端部62が弁体55に接触した状態からバネ受板60がY1方向にさらに移動してアーム59がX方向にさらに回転すると、図3(c)に示すように、アーム59は、収容室流出口37を開放する方向に弁体55を移動させる。収容室流出口37が開放されることによって、液体収容室35と第2のサブタンク40(図2参照)とが連通される。
【0064】
収容室流出口37が開放されている状態からバネ受板60がY2方向に移動してアーム59がX方向とは反対の方向に回転すると、図3(a)に示すように、第2のアーム端部62が弁体55から離れる。その結果、第1のバネ56が収容室流出口37へ向かって弁体55を押圧し、液体収容室35と第2のサブタンク40(図2)との間の連通が遮断される。
【0065】
続いて、本実施形態のインクジェット装置のインク循環動作について、図2(b)、図3および図4を用いて説明する。
【0066】
図2(b)は、図2(a)に示すインク供給系の模式図に、ヘッド流入口31、ヘッド流出口32、収容室流出口37および圧力調整手段34の、インクジェットヘッド29の吐出面に対するそれぞれの重力方向距離(以下、高さという)を記した図である。なお、高さは、重力方向の上側を正、下側を負とする。図4は、インク供給動作中における液体収容室35のインクの圧力の時系列変化を示したグラフ。
【0067】
なお、インクジェットヘッド29の吐出面とは、インクジェットヘッド29の、吐出ノズル19が形成されている面をいう。
【0068】
図2(b)に示すように、吐出面に対する、ヘッド流入口31、ヘッド流出口32、収容室流出口37(すなわち収容室開閉弁54)および液体収容室35の高さをそれぞれh1,h2,h3およびhaとする。また、ヘッド流入口31、ヘッド流出口32、収容室開閉弁54内、吐出ノズル19内および液体収容室35内のインクの絶対圧力をそれぞれP1,P2,P3,PhおよびPaとする。
【0069】
ヘッド流入口31と吐出ノズル19との間の流路には、比較的大きい流抵抗値を有する部材(例えばフィルタなど)が設けられていない。したがって、吐出ノズル19内のインクの絶対圧力Phと、ヘッド流入口31でのインクの絶対圧力P1と、の差圧は水頭差で概ね表すことができる。すなわち、絶対圧力Phと絶対圧力P1との差圧Ph−P1は、次のように表される。
【0070】
【数1】

【0071】
なお、本書の説明において、インクの密度をρ、重力加速度をgとしている。
【0072】
吐出ノズル19から圧力調整手段34までの流路には比較的大きい流抵抗値を有する部材が設けられていない。したがって、吐出ノズル19内のインクの絶対圧力Phとヘッド流出口32でのインクの絶対圧力P2との差圧Ph−P2、および絶対圧力Phと液体収容室35内のインクの絶対圧力Paとの差圧Ph−Paも水頭差で概ね次のように表される。
【0073】
【数2】

【0074】
したがって、ヘッドユニット1内のインクが流動していない状態では、力の平衡から次の関係が導き出される。
【0075】
【数3】

【0076】
また、液体収容室35の容積が一定の場合、すなわち可撓性部材53およびバネ受板60が移動していない場合には、可撓性部材53およびバネ受板60に働く力の平衡から次の関係が導き出される。
【0077】
【数4】

【0078】
P0はインクジェットヘッド29や圧力調整手段34の外部の絶対圧力(例えば大気圧)であり、MaはY2方向に投影された可撓性部材53およびバネ受板60の面積であり、Waは第2のバネ57の荷重である。
【0079】
式2からわかるように、圧縮バネである第2のバネ57がバネ受板60を介して可撓性部材53の内側面を押圧することによって、液体収容室35におけるインクの絶対圧力Paは圧力調整手段34の外部の絶対圧力P0よりも低くなる。なお、第2のバネ57の荷重Waは第2のバネ57の圧縮量に伴い変動するため、絶対圧力Paも、第2のバネ57の圧縮量に伴って変動する。
【0080】
第2のアーム端部62が弁体55に接触しておらず、かつ弁体55が収容室流出口37を閉じている状態では、次の関係が成り立っている。
【0081】
【数5】

【0082】
M3は収容室流出口37の開口面積であり、W3は第1のバネ56の荷重の大きさである。
【0083】
また、アーム59が弁体55へ加える荷重Wbの最大値Wbmaxは、第1のアーム端部61から回転中心58までの距離L1、および第2のアーム端部62から回転中心58までの距離L2を用いて次のように表される。
【0084】
【数6】

【0085】
インクが流動していない状態、すなわち、式1ないし式3に現される関係が成り立っている状態から減圧ポンプ45が駆動すると、第2のサブタンク40内の圧力が低下する。その結果、収容室開閉弁54内のインクが第2のサブタンク40へ向かって流れ、収容室開閉弁54内のインクの絶対圧力P3が低下する。
【0086】
第2のサブタンク40内のインクの圧力を低下させすぎないように、圧力センサ44で第2のサブタンク40の空気の圧力を検知しながら、減圧ポンプ45を駆動させることが好ましい。
【0087】
収容室流出口37でのインクの絶対圧力P3が所定の値まで低下すると、式3に示される関係は次のように変化する。
【0088】
【数7】

【0089】
式5は、弁体55が収容室流出口37を解放する方向に移動し始めることを示している。収容室流出口37が開放されることにより液体収容室35内のインクは第2のサブタンク40へ向かって流れ始める。その結果、液体収容室35内のインクの絶対圧力Paが低下し、第1のサブタンク5内のインクはヘッド流入口31、ヘッド流出口32を経て液体収容室35へ送液される。すなわち、減圧ポンプ45の駆動によってインクが流動している状態では、式1に示される関係は次のように変化する。
【0090】
【数8】

【0091】
収容室流出口37でのインクの絶対圧力P3は、減圧ポンプ45によって減圧されているため、P3+ρ・g・haはPa+ρ・g・haよりも小さい。
【0092】
また、液体収容室35内のインクの絶対圧力Paの低下によって、式2に示される関係は次のように変化する。
【0093】
【数9】

【0094】
式6は、可撓性部材53およびバネ受板60がY2方向へ移動し始めることを示している。すなわち、圧力調整手段34の内外との圧力差に応じて可撓性部材53およびバネ受板60がY2方向へ移動し、第2のアーム端部62を弁体55から引き離す方向にアーム59が回転する。
【0095】
液体収容室35内のインクの流出により液体収容室35内のインクの絶対圧力Paが低下すると、式5に示される関係は式3に示される関係に戻る。すなわち、弁体55は第1のバネ56の付勢力によって収容室流出口37を閉じる。その結果、圧力調整手段34は図3(a)に示される状態になる(図4における時間T1)。なお、このときの液体収容室35内のインクの絶対圧力PaをPa1とする。
【0096】
収容室流出口37が閉じられると、インクジェットヘッド29から液体収容室35へ流入したインクは液体収容室35内に滞留する。したがって、液体収容室35内の絶対圧力Paが上昇する(図4における期間T2)とともに、可撓性部材53およびバネ受板60はY1方向へ移動する。
【0097】
バネ受板60がY1方向へ移動することによってアーム59がX方向に回転して第2のアーム端部62が弁体55に接触する(図3(b))。なお、このときの液体収容室35内のインクの絶対圧力PaをPa2とする。
【0098】
バネ受板60がY1方向へさらに移動すると、アーム59は、収容室流出口37を開放する方向に弁体55を移動させる(図3(c)に示す状態、図4における期間T3)。
【0099】
液体収容室35内のインクの絶対圧力Pa2は収容室開閉弁54内のインクの絶対圧力P3よりも大きい。したがって、収容室流出口37が開放されることによって、液体収容室35のインクは収容室流出口37から流出して第2のサブタンク40へ向かう。
【0100】
液体収容室35のインクが収容室流出口37から流出することによって、液体収容室35における絶対圧力Paが低下するとともにバネ受板60がY2の方向に移動する。その結果、アーム59はX1方向とは反対の方向に回転して弁体55から離れ、弁体55は収容室流出口37を塞ぐ(図3(a)、図4の時間T1)。
【0101】
以上のように、圧力調整手段34は、圧力調整手段34の内外の圧力差に応じ、図3(b)の状態を経ながら図3(a)と図3(c)の状態を繰り返す。このような圧力調整手段34の動作により、液体収容室35内のインクの絶対圧力PaはPa1以上かつPa2以下の範囲内に調整されるとともに、第1のサブタンク5のインクはインクジェットヘッド29を経由して第2のサブタンク40まで送液される。
【0102】
液体収容室35はインクジェットヘッド29と常時連通されている。したがって、圧力調整手段34は、インクジェットヘッド29の内外の圧力差に応じて収容室流出口37を開閉し、インクジェットヘッド29内の圧力を調整していることになる。
【0103】
なお、圧力調整手段34は、収容室流出口37の弁体55による開閉が繰り返される動作を必ずしも必要としない。例えば、第2のアーム端部62によって収容室流出口37が僅かに開放されてインクが流れ続けるものであっても良い。
【0104】
本実施形態に係るインクジェット装置では、第2のサブタンク40および減圧ポンプ45を含む送液手段によってインクジェットヘッド29内が減圧される。したがって、圧力調整手段34がインクジェットヘッド29よりも重力方向上側に設置されていても、インクジェットヘッド29内を負圧にすることができる。すなわち、圧力調整手段の設置場所が制限されない。
【0105】
また、インクジェットヘッド29内の圧力を調整する圧力調整手段34は、インクジェットヘッド29から第2のサブタンク40までのインクの経路の途中に設けられている。したがって、減圧ポンプ45によって第2のサブタンク40内が比較的低い圧力まで低下しても、インクジェットヘッド29内の圧力は所定の微負圧に保たれる。
【0106】
さらに、圧力調整手段34は、インクジェットヘッド29とともにキャリッジ10に搭載されている。
【0107】
シリアル型インクジェット装置において、圧力調整手段をキャリッジ上でなくインクジェット装置の本体に固定し、柔軟な素材からなる流体導管を用いて圧力調整手段とインクジェットヘッドを接続した場合、インクジェットヘッド内の圧力が変動する場合がある。キャリッジの往復動に伴い当該流体導管が撓み、流体導管の撓みによってインクジェットヘッド内の圧力が変動してしまうからである。
【0108】
本実施形態では、圧力調整手段34は、インクジェットヘッド29とともにキャリッジ10に搭載されているため、圧力調整手段34に対するインクジェットヘッド29の位置は変化しない。したがって、インクジェットヘッド29と圧力調整手段34との間の流路に撓みが生じることがなく、インクジェットヘッド29内のインクの圧力の変動をより抑制することができる。
【0109】
また、本実施形態に係るインクジェット装置は、第1のサブタンク5からインクジェットヘッド29までのインクの経路の途中に第1のフィルタ33を備えている。第1のフィルタ33によって、第1のサブタンク5内のインク中に含まれるゴミがインクジェットヘッド29に到達しないため、当該ゴミによる吐出ノズル19の詰りを防止することができる。
【0110】
圧力調整手段34から第2のサブタンク40までの液体の経路の途中に、第2のフィルタ38が配設されている。
【0111】
図2に示される圧力調整手段34では、収容室流出口37を開閉する際の弁体55の移動により微細なゴミ(パーティクル)が発生することがある。このようなゴミがインクジェットヘッド29内へ流入すると、吐出ノズル19が目詰まりを起こす虞がある。
【0112】
本実施形態に係るインクジェット装置では、インクジェットヘッド29よりもインクの流れ方向に関して下流側に圧力調整手段34および第2のフィルタ38が設けられている。そのため、圧力調整手段34で発生した微細なゴミがインクジェットヘッド29内へ流入することがなく、吐出ノズル19の目詰まりを抑制することができる。
【0113】
インクジェットヘッド29と送液手段との間に第2のフィルタ38を有するインクジェット装置において、送液手段によるインクの送液力が十分でない場合には、インク中の気泡や吐出ノズルから流入した気泡が第2のフィルタ38を通過しないことがある。例えば、第2のフィルタ38にゴミが付着し、第2のフィルタ38の流抵抗が増加した場合である。
【0114】
第2のフィルタ38を気泡が通過しないため、第2のフィルタ38に気体が滞留することがあった。また、気泡が第2のフィルタ38を通過できるように送液手段によるインクの送液力を高めると、インクジェットヘッド29内の圧力が下がり過ぎてしまう。
【0115】
本実施形態では、圧力調整手段34よりもインクの流れ方向に関して下流側に第2のフィルタ38が設けられている。したがって、送液手段によるインクの送液力を高めることによってインク中の気泡や吐出ノズルから流入した気泡を第2のフィルタ38を通過させることができ、圧力調整手段34によってインクジェットヘッド29内の圧力の低下を防ぐことができる。
【0116】
インクジェットヘッド29内のインクの圧力が所定の値に維持されることによってインクの流量が一定に保たれるため、インクジェットヘッド29内のインクの温度のばらつきを抑制することができる。特に、熱を利用してインクを吐出するインクジェットヘッド29では、インクの温度がばらつくとインクの吐出量が変動し、記録画像の品質が低下することがある。インクの流量を一定に保つことによってインクジェットヘッド29内のインクの温度のばらつきが抑制され、記録画像の品質が向上する。
【0117】
さらに、本実施形態では、インクジェットヘッド29、圧力調整手段34並びに第1および第2のフィルタ38が1つのヘッドユニット1として形成されており、ヘッドユニット1がインクジェット装置に着脱可能に設けられている。第1および第2のフィルタ38によって、ヘッドユニット1がインクジェット装置に装着されていない状態における、空気中のゴミのインクジェットヘッド29や圧力調整手段34への流入を防ぐことができる。
【0118】
また、1つのユニットとして形成されていることによって、インクジェットヘッド29や圧力調整手段34を個別に交換する必要がなくなり、より簡単にインクジェットヘッド29や圧力調整手段34を交換することができる。
【0119】
本実施形態に係るインクジェット装置の具体的な構成について説明する。
【0120】
例えば、インクジェットヘッド29では、吐出ノズル19におけるインクの絶対圧力Phをインクジェットヘッド29の外部の絶対圧力P0よりも0.6kPa程度低い圧力に維持することで良好なインクメニスカスが形成されることが確認されている。
【0121】
吐出ノズル19に対するヘッド流出口32の高さh2が2cmである場合には、ヘッド流出口32におけるインクの絶対圧力P2は、インクの密度ρと重力加速度gとの積を10kPa/mとして、次のように表される。
【0122】
【数10】

【0123】
また、吐出ノズル19に対する液体収容室35の高さhaが4cm、吐出ノズル19に対する収容室流出口37の高さh3が6cmである場合には、液体収容室35内のインクの絶対圧力Paは、次のように表される。
【0124】
【数11】

【0125】
第1のサブタンク5のインク液面に対する吐出ノズル19の高さh11が1cm、吐出ノズル19に対するヘッド流入口31の高さh1が1cmである場合には、ヘッド流入口31のインクの絶対圧力P1は、次のようになる。
【0126】
【数12】

【0127】
可撓性部材53およびバネ受板60の面積Maが10cm2である場合、液体収容室35内のインクの絶対圧力Paが式7を満たすために、第2のバネ57の荷重Waは式2から次のように設計される。
【0128】
【数13】

【0129】
またアーム59の距離L1,L2が2cm,1cmである場合には、アーム59が弁体55に加える最大荷重Wbmaxは、式4から次のように求められる。
【0130】
【数14】

【0131】
最大荷重Wbmaxが弁体55に加えられた場合には収容室流出口37を開放する方向に弁体55が移動するように、収容室開閉弁54の第1のバネ56の荷重W3を40gfとした。
【0132】
収容室流出口37の開口面積M3が4πmm2である場合、アーム59が弁体55と接触していない状態で収容室流出口37が閉じられるためには、収容室開閉弁54内の絶対圧力P3は式5から次の関係を満たしていなければならない。
【0133】
【数15】

【0134】
すなわち、減圧ポンプ45を駆動させて収容室開閉弁54内の絶対圧力P3がP0−31.8kPa以下になると、収容室流出口37が常に開放されてしまう。したがって、絶対圧力P3がP0−10kPaとなるように減圧ポンプを駆動した。
【0135】
以上のように構成されたインクジェット装置を駆動させたところ、インクジェットヘッド29内のインクの圧力は約P0−0.6kPaで安定した。また、第2のフィルタ38の付近に気体が滞留することはなかった。第2のフィルタ38付近の圧力(すなわち、収容室開閉弁54内のインクの絶対圧力P3)がP0−10kPaまで下げられているからである。
【0136】
以下、図2,3に示される圧力調整手段34とは異なる構造を有する圧力調整手段に付いて、図5および図6を用いて説明する。なお、図2,3に示される圧力調整手段34の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を用いて簡単な説明に留めることにする。
【0137】
図5は図2,3に示される圧力調整手段34とは異なる構造を有する圧力調整手段63を示す断面図であり、図6は図5に示す圧力調整手段63の動作を説明するための図である。
【0138】
図5に示すように、圧力調整手段63は、窪み部51を有する収容室部材52と、窪み部51の開口を覆う、薄肉化されたステンレス材料からなるメタルダイアフラム64と、を備えている。窪み部51およびメタルダイアフラム64により圧力調整手段63の液体収容室35が形成されている。
【0139】
メタルダイアフラム64は、メタルダイアフラム64の中央部分に形成された比較的厚い肉厚を有する肉厚部65と、メタルダイアフラム64の周辺部分に形成された、肉厚部65よりも薄い肉厚を有する薄肉部66と、を含んでいる。
【0140】
インクジェット装置がインクの循環動作を始めることによって、メタルダイアフラム64が厚さ方向(図5のA1方向)に撓む。メタルダイアフラム64の、元の形状に戻ろうとする弾性力Wcによって、液体収容室35のインクは微負圧状態に調整される。
【0141】
弁体55は軸67を介してメタルダイアフラム64に固定されている。メタルダイアフラム64のA1方向、A2方向への変形に伴い弁体55が移動し、収容室流出口37が開閉される。
【0142】
図6(a)は収容室流出口37が閉じられている状態を示したものであり、図6(b)は収容室流出口37が開放されている状態を示したものである。
【0143】
減圧ポンプ45が駆動されることによって液体収容室35内のインクが収容室流出口37から流出し、液体収容室35内のインクの絶対圧力P3が低下してメタルダイアフラム64がA1方向に移動する。その結果、収容室流出口37が閉じられる。
【0144】
収容室流出口37が閉じられた状態では、図6(a)に示すようにメタルダイアフラム64はA1方向に最大量撓んでいる(このときのメタルダイアフラム64の撓み量をC1とする)。また、この状態では、液体収容室35内のインクの絶対圧力Paは最小圧力値(図4の絶対圧力Pa1)になる。
【0145】
図6(a)に示される状態から、メタルダイアフラム64は弾性力WcによりA2方向に移動し、図6(b)に示すように収容室流出口37が開放される。この状態のメタルダイアフラム64の撓み量をC2とする。
【0146】
図6(b)に示される状態では、メタルダイアフラム64が、C1よりも小さいC2だけ撓んでいる状態である。したがって、液体収容室35内のインクは、絶対圧力Pa1よりも大きい絶対圧力Pa2(図4参照)を有している。
【0147】
インクの循環動作において、圧力調整手段63は、図6(a)と図6(b)の状態を繰返しながら動作する。
【0148】
可撓性部材53(図3)としてメタルダイアフラム64を用いることで、圧力調整手段34(図3)に含まれていた第1および第2のバネ56,57を含まない圧力調整手段63が提供される。
【0149】
(実施例2)
次に、本発明の第2の実施形態に係るインクジェット装置について、図7をもとに説明する。図7は本実施形態のインクジェット装置のインク供給系の構造を示す概略図である。なお、第1の実施形態に係るインクジェット装置と同一の構成要素については、同一の符号を付し、簡単な説明にとどめるものとする。
【0150】
図7に示すように、本実施形態に係るインクジェット装置は、第2の流体導管6の途中に送液ポンプ68を備えている。送液ポンプ68はインクジェットヘッド29へ定量のインクを送液できるポンプが好ましく、例えばチューブポンプが適している。
【0151】
本実施形態においても、インクを循環させる際には、ヘッド流入口31のインクの絶対圧力P1、ヘッド流出口32のインクの絶対圧力P2、および収容室流出口37のインクの絶対圧力P3は、次の関係を満たしている。
【0152】
【数16】

【0153】
本実施形態では送液ポンプ68で第1のサブタンク5のインクがインクジェットヘッド29へ加圧供給される。
【0154】
ヘッド流入口31のインクの絶対圧力P1と、ヘッド流出口32のインクの絶対圧力P2とが次の関係を有していることによって、インクジェットヘッド29のインクが圧力調整手段34に送液される。
【0155】
【数17】

【0156】
また、吐出ノズル19内のインクの絶対圧力PhはP2+ρ・g・h2であり、大気圧P0よりも低い圧力(微負圧状態)に保たれている。
【0157】
ヘッド流出口32の絶対圧力P2と収容室流出口37のインクの絶対圧力P3の関係も次の関係を満たすようにされることで、液体収容室35内のインクは第2のサブタンク40まで送液される。
【0158】
【数18】

【0159】
本実施形態に係るインクジェット装置では、第2のサブタンク40および減圧ポンプ45を含む送液手段によってインクジェットヘッド29内が減圧される。したがって、圧力調整手段34がインクジェットヘッド29よりも重力方向上側に設置されていても、インクジェットヘッド29内を負圧にすることができる。すなわち、圧力調整手段の設置場所が制限されない。
【0160】
また、本実施形態に係るインクジェット装置は、第2の流体導管6に送液ポンプを含んでいる。したがって、第2の流体導管6の流抵抗が増加した場合、たとえばキャリッジの移動に伴って第2の流体導管6が撓んだ場合でも、より確実にインクジェットヘッド29へ第1のサブタンク5からインクを供給することができる。
【0161】
(実施例3)
次に、本発明の第3の実施形態について図8および図9をもとに説明する。
【0162】
図8は本実施形態に係るインクジェット装置が有するインクジェットヘッドユニットの斜視図である。図9は、本実施形態に係るインクジェット装置のインク供給系を示す模式図である。
【0163】
図8に示すように、本実施形態に係るインクジェット装置には、ヘッドユニット1が複数設けられている。複数のヘッドユニット1A,1B,1C,1D,1Eおよび1Fのそれぞれは、第1の実施形態に係るインクジェット装置のヘッドユニット1と同じ構造を有している。
【0164】
複数のヘッドユニット1A,1B,1C,1D,1Eおよび1Fは、所定の方向に沿って千鳥配列されている。また、ヘッドユニット1A,1B,1C,1D,1Eおよび1Fのそれぞれのノズル列は当該所定の方向に平行に配されている。
【0165】
複数のヘッドユニット1A,1B,1C,1D,1Eおよび1Fのノズル列からなるノズル列群の所定の方向における幅は、当該所定の方向における記録媒体8の幅よりも大きい。すなわち、本実施形態に係るインクジェット装置では、複数のヘッドユニット1A,1B,1C,1D,1Eおよび1Fを所定の方向に往復動させることなく記録媒体8の全域に記録を行うことができる。このようなインクジェット装置は、ライン型インクジェット装置と呼ばれている。
【0166】
ライン型インクジェット装置は、固定されたヘッドユニット1A,1B,1C,1D,1Eおよび1Fの吐出面と対向して配置された記録媒体8を所定の方向と交わる方向に移動させながらインク滴を吐出することで記録媒体8に画像形成を行なう。
【0167】
本実施形態では、第1のサブタンク5(図9)に接続された第2の流体導管6が6本に分岐されてそれぞれのヘッドユニット1A,1B,1C,1D,1Eおよび1Fの流入口に接続されている。また、第2のサブタンク40(図9)に接続された第3の流体導管39も6本に分岐されてそれぞれのヘッドユニット1A,1B,1C,1D,1Eおよび1Fの流出口に接続されている。
【0168】
それぞれのヘッドユニット1A,1B,1C,1D,1Eおよび1Fは、第1のフィルタ33、インクジェットヘッド29、圧力調整手段34、第2のフィルタ38がユニット化された構成となっている。また回復装置16は6つのノズルキャップ18a,18b,18C,18D,18Eおよび18Fを含んでおり、これらは1つの回復ポンプ17に並列接続されている。
【0169】
本実施形態に係るインクジェット装置では、第2のサブタンク40および減圧ポンプ45を含む送液手段によってインクジェットヘッド29内が減圧される。したがって、圧力調整手段34がインクジェットヘッド29よりも重力方向上側に設置されていても、インクジェットヘッド29内を負圧にすることができる。すなわち、圧力調整手段の設置場所が制限されない。
【0170】
また、インクジェットヘッド29内の圧力を調整する圧力調整手段34は、各インクジェットヘッド29に対応して各インクジェットヘッド29からインクの流れに関して下流側にそれぞれ設けられている。したがって、減圧ポンプ45によって第2のサブタンク40内が予定していたよりも低い圧力まで低下しても、それぞれのインクジェットヘッド29内の圧力は所定の圧力に保たれる。
【0171】
さらに、それぞれのインクジェットヘッド29に流れるインク流量を均一にすることができる。したがって、ライン型インクジェットヘッド装置で画像形成する際に生じやすい各インクジェットヘッド29間のインクの温度のバラつきによる印刷濃度ムラを抑えることが可能となる。
【0172】
なお、複数のヘッドユニットがキャリッジ10(図1)に搭載され、当該複数のヘッドユニットがキャリッジ10とともに記録媒体8上を往復動してもよい。
【符号の説明】
【0173】
1 インクジェットヘッドユニット
2 インクタンク
5 第1のサブタンク
19 吐出ノズル
29 インクジェットヘッド
34 圧力調整手段
40 第2のサブタンク
45 減圧ポンプ
54 収容室開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドへ供給される液体を貯留するインクタンクとを備えるインクジェット装置において、
前記インクジェットヘッドに連通され、前記インクジェットヘッドの内部を減圧することによって前記インクタンクの内部の液体を前記インクジェットヘッドへ送る送液手段と、
前記インクジェットヘッドと前記送液手段との間をつなぐ流路を開閉する開閉弁を有し、該流路の内外の圧力差に応じて該開閉弁を開閉することにより前記インクジェットヘッドの内部の圧力を調整する圧力調整手段と、をさらに備えたことを特徴とするインクジェット装置。
【請求項2】
前記圧力調整手段は、
前記流路の周囲壁の一部を構成し、前記流路の内側から外側へ向かって付勢されている可撓性部材をさらに備え、
前記開閉弁は、前記流路の内外の圧力差による前記可撓性部材の変形によって移動して前記流路を開閉することを特徴とする、請求項1に記載のインクジェット装置。
【請求項3】
記録媒体の上方を往復動可能に設けられたキャリッジをさらに備え、
前記インクジェットヘッドおよび前記圧力調整手段が前記キャリッジに搭載されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のインクジェット装置。
【請求項4】
前記インクタンクと前記インクジェットヘッドとの間をつなぐ流路の途中に第1のフィルタを備えていることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェット装置。
【請求項5】
前記インクジェットヘッドと前記送液手段との間をつなぐ前記流路のうち、前記圧力調整手段から前記送液手段までの流路の途中に第2のフィルタを備えていることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインクジェット装置。
【請求項6】
前記インクジェットヘッドおよび前記圧力調整手段が1つのインクジェットヘッドユニットとして構成されており、
前記インクジェットヘッドユニットが、該インクジェットヘッドユニットの液体の流入流路および流出流路のそれぞれにフィルタを備えていることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェット装置。
【請求項7】
前記インクタンクと前記インクジェットヘッドとの間をつなぐ流路の途中に送液ポンプを備えたことを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のインクジェット装置。
【請求項8】
前記インクジェットヘッドが複数設けられており、
前記複数のインクジェットヘッドに対応した複数の前記圧力調整手段が該複数のインクジェットヘッドのそれぞれに接続されていることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のインクジェット装置。
【請求項9】
前記インクジェットヘッドは、前記インクタンクとつながれる流入口と、前記圧力調整手段とつながれる流出口とを備えており、
前記流入口のインクの絶対圧力をP1、前記流出口のインクの絶対圧力をP2、前記開閉弁の下流側のインクの絶対圧力をP3とし、前記インクジェットヘッドの吐出ノズルに対する前記流入口の高さをh1、前記吐出ノズルに対する前記流出口の高さをh2、前記吐出ノズルに対する前記開閉弁の高さをh3とし(h1とh2とh3の値は、吐出ノズルに対して重力方向の上側を正、下側を負とする)、液体の密度をρ、重力加速度をgとしたとき、
P1+ρ・g・h1 > P2+ρ・g・h2 > P3+ρ・g・h3
の関係を満たし、前記開閉弁は前記圧力調整手段の内外の圧力差が所定の値よりも大きいときに遮断するように構成したことを特徴とする、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のインクジェット装置。
【請求項10】
インクジェットヘッドへ供給される液体を貯留するインクタンクと、該インクジェットヘッドに連通され、該インクジェットヘッドの内部を減圧することによって前記インクタンクの内部の液体を該インクジェットヘッドへ送る送液手段と、を具備したインクジェット装置に対して着脱されるインクジェットヘッドユニットであって、
液滴を吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドと前記送液手段との間をつなぐ流路を開閉する開閉弁を有し、該流路の内外の圧力差に応じて該開閉弁を開閉することにより前記インクジェットヘッドの内部の圧力を調整する圧力調整手段と、を備えたことを特徴とするインクジェットヘッドユニット。
【請求項11】
前記圧力調整手段は、
前記流路の周囲壁の一部を構成し、前記流路の内側から外側へ向かって付勢されている可撓性部材をさらに備え、
前記開閉弁は、前記流路の内外の圧力差による前記可撓性部材の変形によって移動して前記流路を開閉することを特徴とする、請求項10に記載のインクジェットヘッドユニット。
【請求項12】
前記インクジェットヘッドユニットは、前記インクタンクと接続される液体の流入流路と、前記送液手段と接続される流出流路を備えており、前記流入流路および前記流出流路のそれぞれにフィルタを備えていることを特徴とする、請求項10または11に記載のインクジェットヘッドユニット。
【請求項13】
前記インクジェットヘッドユニットを構成する前記インクジェットヘッドは、前記インクタンクと接続される流入口と、前記圧力調整手段と接続された流出口と、を備えており、
前記流入口のインクの絶対圧力をP1、前記流出口のインクの絶対圧力をP2、前記開閉弁の下流側のインクの絶対圧力をP3とし、前記インクジェットヘッドの吐出ノズルに対する前記流入口の高さをh1、前記吐出ノズルに対する前記流出口の高さをh2、前記吐出ノズルに対する前記開閉弁の高さをh3とし(h1とh2とh3の値は、吐出ノズルに対して重力方向の上側を正、下側を負とする)、インクの密度をρ、重力加速度をgとしたとき
P1+ρ・g・h1 > P2+ρ・g・h2 > P3+ρ・g・h3
の関係を満たし、前記開閉弁は前記圧力調整手段の内外の圧力差が所定の値よりも大きいときに遮断するように構成されていることを特徴とする、請求項10ないし12のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−95060(P2013−95060A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240298(P2011−240298)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】