説明

インクジェット装置およびインク吐出方法

【課題】インク滴の直進性とノズル詰りの防止とを両立することができるインクジェット装置を提供する。
【解決手段】インクを収容しインクを吐出するノズルを有する2以上の圧力室110と、圧力室に連通し圧力室に供給されるインクが流れるインク供給流路と、圧力室に連通し圧力室から排出されたインクが流れるインク排出流路と、を有するインク循環型インクジェットヘッドと、前記ノズルを覆う筐体と、前記筐体によって覆われた密閉空間を加圧する加圧機構と、を有するインクジェット装置であって、前記ノズルのインクの吐出方向の長さは、50〜500μmである、インクジェット装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出するインクジェット装置およびインク吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドロップオンデマンド型のインクジェットヘッドは、入力信号に応じて必要なときに必要な量のインクを塗布することができるインクジェットヘッドとして知られている。特に圧電(ピエゾ)方式のドロップオンデマンド型インクジェットヘッドは、幅広い種類のインクを、細かく制御しながら塗布することができることから、現在積極的に開発が行われている。ピエゾ方式のドロップオンデマンド型インクジェットヘッドは、一般的に、インク供給流路と、供給流路に接続し、ノズルを有する複数の圧力室と、圧力室内に充填されたインクに圧力を加えるピエゾ素子と、を有する。
【0003】
ピエゾ方式のインクジェットヘッドでは、ピエゾ素子に駆動電圧を印加することによって生じるピエゾ素子の機械的歪みにより、圧力室内のインクに圧力を加えて、ノズルからインクを吐出する。ピエゾ方式のインクジェットヘッドは、圧電素子の歪み方によって、シェアモード型、プッシュモード型、ベンドモード型の3つのタイプに大別できる。特に積層構造のピエゾ素子を用いるベンドモードは、低い電圧で強い力を生み出せることから、有機ELディスプレイや液晶パネルなどの電子デバイスの製造用に開発が期待されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、インクジェット装置では、ノズルから吐出されるインク滴の直進性を向上させるために、ノズルのインク吐出方向の長さ(以下単に「ノズルの長さ」とも称する)を長くすることが知られている。しかし、ノズルの長さを長くした場合、ノズル内にインクが滞留しやすくなる。インクがノズル内に滞留するとインクに気泡や異物が混入した場合に、ノズル詰りが起こりやすい。
【0005】
これに対し、インクジェットヘッドに、圧力室と連通し、かつ圧力室から排出されたインクが流れるインク排出流路を設け、インクを、インク供給流路からインク排出流路に流す技術が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
図1は、特許文献2に開示されたインク循環型インクジェットヘッドの断面図である。図1に示されるように、特許文献2に開示されたインクジェットヘッドは、圧力室60と、圧力室60にインク入口流路(98、102)を介して接続したインク供給流路48と、圧力室60にインク出口流路(104、106)を介して接続したインク排出流路50とを有する。また、圧力室60には、アクチュエータ66が配置されており、ノズル42が形成されている。
【0007】
図1に示されるように、インク供給流路48を流れるインクは、インク入口流路(98、102)を通って圧力室60に供給される。圧力室60に供給されたインクの一部は、アクチュエータ66の作用により、ノズル42から液滴として吐出され;残りのインクは、インク出口流路(104、106)を通ってインク排出流路50に提供される。
【0008】
このように、インクをインク供給流路からインク排出流路に流すことで、圧力室には常に新しいインクが供給され、ノズルが目詰まりしたりすることを防止することができる。
【0009】
一方、ノズル詰りを解消するためにインクジェットヘッドのノズルをキャップで覆い、キャップによって覆われた密閉空間を加減圧し、ノズル詰りの原因となる劣化インクを吸引除去する技術が知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−121693号公報
【特許文献2】特開2009−154328号公報
【特許文献3】特開2010−221419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2のようにインクを循環させる場合であっても、インク滴の直進性を向上させるためにノズルの長さが長くされていると、ノズル内まで新たなインクを供給することができず、ノズル内でインクが滞留するという問題を解決することができなかった。
【0012】
一方、ノズル詰りを防止するために特許文献3に開示されたようにノズルを加減圧し、ノズルからインクを吸引除去することも考えられる。しかしながら、特許文献3に開示されたようにノズルを加減圧し、ノズルからインクを吸引除去する工程は、長時間要する。このため、特許文献3に開示された方法は、インクジェット装置の稼働中において、インクジェット装置のステージ上に載置された被塗布物が置き換えられる間の待機時間(30秒〜2分)に、適用することが困難である。また、ノズルからインクを吸引除去する方法では、インクを除去する分インクが無駄になり、インクの利用効率が低下する。
【0013】
本発明は、係る点に鑑みてなされたものであり、インク滴の直進性とノズル詰りの防止とを両立することができるインクジェット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1は以下に示すインクジェット装置に関する。
[1]インクを収容しインクを吐出するノズルを有する2以上の圧力室と、前記圧力室に連通し前記圧力室に供給されるインクが流れるインク供給流路と、前記圧力室に連通し前記圧力室から排出されたインクが流れるインク排出流路と、を有するインク循環型インクジェットヘッドと、前記ノズルを覆う筐体と、前記筐体によって覆われた密閉空間を加圧する加圧機構と、を有するインクジェット装置であって、前記ノズルのインクの吐出方向の長さは、50〜500μmである、インクジェット装置。
[2]前記インクジェットヘッドは、前記圧力室と前記インク供給流路とを接続するインク入口流路と、前記圧力室と前記インク排出流路とを接続するインク出口流路と、をさらに有し、前記インク入口流路およびインク出口流路は直線状であり、前記インク入口流路と前記圧力室との接続部と、前記インク出口流路と前記圧力室との接続部とは対向し、前記インク入口流路を通過する直線は、前記インク出口流路も通過する、[1]に記載のインクジェット装置。
[3]前記圧力室は、前記ノズルが形成されたノズルプレートから構成された底面と、前記ノズルプレートと対向する天井プレートから構成された天面と、前記ノズルプレートおよび前記天井プレートに挟まれたスペーサから構成された側面と、を有し、前記インク入口流路と前記圧力室との接続部と、前記インク出口流路と前記圧力室との接続部とは、前記天井プレートの近傍に設けられる、[2]に記載のインクジェット装置。
[4]前記圧力室は、前記ノズルが形成されたノズルプレートから構成された底面と、前記ノズルプレートと対向する天井プレートから構成された天面と、前記ノズルプレートおよび前記天井プレートに挟まれたスペーサから構成された側面と、を有し、前記筐体は、キャップであり、前記筐体は前記ノズルプレートに密着することで、前記ノズルを覆う、[1]〜[3]のいずれか一つに記載のインクジェット装置。
[5]前記キャップの先端部は弾性部材からなる、[4]に記載のインクジェット装置。
【0015】
本発明の第2は以下に示すインクの吐出方法に関する。
[6]インクを収容し、インクを吐出するノズルを有する圧力室と、前記圧力室に連通し前記圧力室に供給されるインクが流れるインク供給流路と、前記圧力室に連通し前記圧力室から排出されたインクが流れるインク排出流路と、を有し、前記ノズルのインクの吐出方向の長さは、50〜500μmであるインク循環型インクジェットヘッドの前記ノズルを、筐体で覆うステップと、前記筐体によって覆われた密閉空間を加圧し、前記筐体によって覆われた前記ノズル内のインクを前記圧力室の内部に押し込むステップと、前記ノズル内のインクが前記圧力室の内部に押し込められた状態で、圧力室のインクをインク排出流路へ流すステップと、前記筐体を外し、前記ノズルからインクを吐出するステップと、を有するインク吐出方法。
[7]前記加圧は、前記密閉空間内の気圧が10〜20kPになるまで行う、[6]に記載のインク吐出方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のインクジェット装置では、インク滴の直進性を向上させるためにノズルの長さを長くした場合であっても、ノズル内にインクが滞留することを抑制することができるので、よりノズル詰を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来のインクジェットヘッドの断面図
【図2】本発明のインクジェット装置の斜視図
【図3】本発明のインクジェットヘッドの断面図
【図4】本発明のインクジェット装置の拡大断面図
【図5】本発明のインクジェット装置を用いたインクの吐出方法を示す図
【図6】本発明のインクジェット装置を用いたインクの吐出方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.本発明のインクジェット装置
本発明のインクジェット装置は、1)インクジェットヘッドと、2)筐体と、3)加圧機構とを有する。インクジェット装置は、さらに公知のインクジェット装置の部材を適宜有してもよい。例えば、インクジェットヘッドを固定する部材や、インクを塗布する対象物を載置して移動するための移動ステージなどを有する。以下それぞれの構成要素について説明する。
【0019】
1)インクジェットヘッド
本発明のインクジェットヘッドは、複数の圧力室を有するドロップオンデマンド型の圧電式インクジェットヘッドである。また、本発明では、インクジェットヘッドは、圧力室内をインクが流れるインク循環型のインクジェットヘッドである。インクジェットヘッドは、複数の圧力室と、インク供給流路と、インク排出流路とを有する。
【0020】
圧力室は、インク入口流路を介してインク供給流路と連通し、インク供給流路から供給されたインクを収容するための空間である。1のインク供給流路に連通する圧力室の数の最大数は、通常1024個である。複数の圧力室は、通常一列に配列され、圧力室同士は直接連通しない。
【0021】
また圧力室は、収容されたインクを吐出するためのノズルを有する。ここで「ノズル」とは、インクジェットヘッドの外部と連通した開口部のうち、口径が10〜100μmの領域を意味する。ノズルの口径は通常、約20μmでありうる。1つの圧力室は、1つのノズルを有してもよいし、2以上のノズルを有していてもよい。圧力室内のインクは、ノズルから外部に吐出される。
【0022】
また、インクの吐出方向のノズルの長さ(以下単に「ノズルの長さ」とも称する)は、50μm以上であることが好ましい。ノズルの長さを50μm以上とすることで吐出されるインク滴の直進性が向上する。一方、ノズルの長さは500μm以下であることが好ましい。ノズルの長さが500μm超であると、ノズルの流路抵抗が増大し、ノズルからインクが吐出し難くなるからである。
【0023】
圧力室は、圧力室の底面を構成するノズルプレートと、圧力室の天面を構成する天井プレートと、ノズルプレートと天井プレートによって挟まれ、圧力室の側面を構成するスペーサと、を有する(図3参照)。ここで圧力室の側面とは、圧力室の壁面のうちインクの吐出方向に平行な面を意味する。
【0024】
圧力室はアクチュエータを有する。アクチュエータは、駆動電圧を含む制御信号を実際の動きに変換し、各圧力室内のインクに圧力を加える作動装置である。本発明におけるアクチュエータは、薄膜ピエゾ素子であっても、積層ピエゾ素子であってもよい。
【0025】
圧力室に収容されるインクの種類は、特に限定されず、製造物の種類によって適宜選択される。例えば、製造物が有機ELパネルである場合、インクの例には、発光材料などの有機発光物質を含む溶液などの高粘度のインクが含まれる。
【0026】
インク供給流路は、圧力室に連通し、圧力室に供給するインクが流れる流路である。インク供給流路は、外部からインクが供給されるインク導入口を有する。インク供給流路内を流れるインク供給量は、特に限定されず、数ml/minであっても、それ以上であってもよい。インク供給流路を流れるインクは、分配され、複数の圧力室のそれぞれに供給される。
【0027】
インク排出流路は、圧力室に連通し、圧力室から排出されたインクが流れる流路である。インク排出流路は、外部にインクを排出するためのインク排出口を有していてもよい。また、インク排出流路内のインクの流れの方向は、インク供給流路を流れるインクの流れの方向と平行である。
【0028】
通常、インク供給流路と圧力室とはインク入口流路によって接続され;圧力室とインク排出流路とは、インク出口流路によって接続される。インク入口流路は、インク供給流路と圧力室との間のインク流路のうち、横断面(インクの流れ方向に垂直な断面)の面積(以下単に「横断面積」とも称する)が、圧力室よりも小さい領域を意味し;インク出口流路は、圧力室とインク排出流路と圧力室との間のインク流路のうち、横断面積が圧力室よりも小さい領域を意味する。また、インク入口流路およびインク出口流路において、横断面積が最も小さい領域は「オリフィス」とも称される。
【0029】
インク入口流路およびインク出口流路は、屈曲していても直線状であってもよいが、直線状であることが好ましい。インク入口流路およびインク出口流路が、屈曲すると、インク入口流路およびインク出口流路の流路抵抗が増加し、インクジェットヘッド内をインクが循環しにくくなるからである。さらに、インク入口流路を通過する直線は、インク出口流路も通過することが好ましい(図3参照)。
【0030】
このように、インク入口流路およびインク出口流路を同一直線上に配置することで、インク入口流路からインク出口流路へのインクの流れを円滑にすることができる。これによりインクジェット装置内のインクの循環がよりスムーズになり、高粘度のインクを供給する場合であっても、低い循環圧力で、インクジェットヘッド内にインクを循環させることができる。
【0031】
さらに、インク入口流路と圧力室との接続部およびインク出口流路と圧力室との接続部は、ノズルプレートから一定以上離間していることが好ましい。好ましくは、前記接続部とノズルプレートとの距離は、50μm〜500μmである。前記接続部がノズルに極端に近いと、圧力室内でのインクの循環の影響によってノズルから吐出されるインク滴の直進性が劣る場合があるからである。
【0032】
一方で、前記接続部がノズルから離れていると、圧力室内のノズル近傍のインクの循環が極端に停滞し、ノズル内でのインクの滞留が促進され、ノズル詰まりが顕著になることがある。本発明のインクジェット装置によれば、短時間でノズル詰まりを解消することができるので、ノズル詰まりが起こりやすいインクジェットヘッドであっても設定通りのインク吐出が実現されうる。しかも、後述の通り、インクジェット装置を稼動させたままノズル詰まりを解消することができる。
【0033】
インク入口流路の長さは特に限定されないが、例えば、0.5〜5.0mmである。同様にインク出口流路の長さは特に限定されないが、例えば0.5〜4.0mmである。
【0034】
また、インク出口流路の横断面積は、インク入口流路の横断面積と同じであってもよいが、インク出口流路の横断面積は、インク入口流路の横断面積よりも小さいことが好ましい。具体的には、インク入口流路の横断面積は、1000〜7500μmであり、インク出口流路の横断面積は、500〜5000μmであり、インク出口流路の横断面積は、インク入口流路の横断面積よりも、500〜2500μm小さいことが好ましい。
【0035】
このように、インク出口流路の横断面積を、インク入口流路の横断面積よりも小さくすることで、インク出口流路の流路抵抗を、インク入口流路の流路抵抗よりも大きくすることができる。これにより、インク出口流路から圧力室内にインクが逆流することを防止することができる。
【0036】
2)筐体
筐体は、ノズルを覆う部材である。本発明では、筐体によって覆われた空間は密閉空間を形成する。筐体の形状はノズルを覆うことができるものであれば特に限定されず、ノズルプレートに密着するキャップであってもよく(図5A参照)、インクジェットヘッド全体を覆う容器であってもよい。
【0037】
3)加圧機構
圧力機構は、筐体に覆われた密閉空間を加圧する。加圧機構の具体的な例には、ポンプやレギュレータなどが含まれる。
【0038】
インクジェット装置はさらに、インク循環装置を具備する。インク循環装置は、インクに駆動圧力を供給することでインクを循環させる。インクに駆動圧力を供給するには、ポンプを用いてもよいが、圧縮空気を利用して圧力を供給するレギュレータを用いることが好ましい。レギュレータを用いることで駆動圧力が一定になり、インクの循環速度が安定するからである。
【0039】
2.本発明のインクの吐出方法
次に本発明のインクジェット装置を用いたインクの吐出方法について説明する。
【0040】
本発明のインクジェット装置を用いたインクの吐出方法は、1)インクジェットヘッドのノズルを、筐体で覆う第1ステップと、2)筐体によって覆われた密閉空間を加圧し、筐体によって覆われたノズル内のインクを圧力室の内部に押し込む第2ステップと、3)ノズル内のインクが圧力室の内部に押し込められた状態で、圧力室のインクをインク排出流路へ流す第3ステップと、4)ノズルから筐体を外し、ノズルからインクを吐出する第4ステップと、を有する。
【0041】
本発明のインクの吐出方法の第1ステップ〜第3ステップは、例えばインクジェット装置の稼働中において、インクジェット装置のステージに載置された被塗布物を置き換える間の待機時間(30秒〜2分)やインクジェット装置のメンテナンス中に行われる。ここで、「インクジェット装置の稼働中」とはインクジェット装置の電源がオンになっている状態を意味する。以下それぞれのステップについて詳細に説明する。
【0042】
1)第1ステップでは、インクジェットヘッドのノズルを筐体で覆う。ノズルを筐体で覆うには、インクジェットヘッド全体を容器状の筐体で覆ってもよいし、キャップ状の筐体をインクジェットヘッドのノズルプレートに密着させてもよい(図5A参照)。また筐体によって覆われた空間は密閉空間を構成する。
【0043】
2)第2ステップでは、筐体によって覆われた密閉空間を加圧する。このように、密閉空間を加圧することで、ノズル内のインクが圧力室の内部に押し込まれる。密閉空間を加圧するには、密閉空間に気体を供給すればよい。密閉空間に供給される気体は空気であってもよいが、圧力室に収容されたインクの溶媒蒸気であることが好ましい。密閉空間に供給される気体をインクの溶媒蒸気とすることで、ノズルを通して圧力室内のインクが乾燥することを防止することができる。
【0044】
第2ステップでは密閉空間の気圧が10〜20kPになるまで、密閉空間に気体を供給することが好ましい。密閉空間の気圧が10kP未満であると、ノズル内のインクを圧力室内に押出せない恐れがある。一方、密閉空間の気圧が20kP超であると、ノズルを通して圧力室に気泡が混入するおそれがある。
【0045】
3)第3ステップでは、ノズル内のインクが圧力室の内部に押し込まれた状態で、圧力室内のインクをインク排出流路まで流す。圧力室内のインクをインク排出流路まで流すには、インクに循環圧力を供給すればよい。このように、本発明では、インクが滞留しやすいノズル内のインクを圧力室の内部に押し込んだ状態でインクを循環させるので、ノズル内にインクが滞留することはない。このため、本発明ではノズル詰りが起こりにくい。
【0046】
圧力室内からインク排出流路まで流れた分のインクは、インク供給流路から圧力室に補給される。これにより、インクが循環し、圧力室内には常に新しいインクが供給される。
【0047】
4)第4ステップでは、ノズルから筐体を外し、ノズルからインクを吐出する。ノズルからインクを吐出するには、アクチュエータを駆動すればよい。ノズルからインクを吐出することで、被塗布物にインクを滴下する。また、ノズルからインクを吐出する際は、インクの循環を継続してもよいし、インクの循環を停止してもよい。上述のように本発明では、ノズルの長さが比較的長い(50μm以上)ので、インク滴の直進性が高い。
【0048】
以下、図面を参照しながら本発明の一の実施の形態のインクジェット装置について説明する。
【0049】
図2は、本実施の形態インクジェット装置1の斜視図である。図2に示されるように、本実施の形態のインクジェット装置1は、インクジェットヘッド100と、筐体200と、加圧機構300とを、有する。
【0050】
図3は、図2に示されたインクジェットヘッド100のA線による断面図である。図2および図3に示されるようにインクジェットヘッド100は、インク供給流路101と、インク排出流路102と、複数の圧力室110と、を有する。また、インクジェットヘッド100は、ノズル111が形成されたノズルプレート120と、スペーサ123と、および天井プレート(ピエゾプレート)121とを貼り合わせることで作製される。インクジェットヘッド100は、さらにインク供給流路101と圧力室110とを接続するインク入口流路107、インク排出流路102と圧力室110とを接続するインク出口流路108、およびアクチュエータ113を有する。
【0051】
圧力室110は、ノズル111が形成されたノズルプレート120から構成される底面と、スペーサ123から構成される側面と、天井プレート(ピエゾプレート)121から構成される天面とを有する。アクチュエータ113は、圧力室110の天面を形成する振動板130を振動させる。
【0052】
インク入口流路107およびインク出口流路108は、屈曲しない直線状の流路である。また、圧力室110とインク入口流路107との接続部107aおよび圧力室110とインク出口流路108との接続部108aは、圧力室110の側面に設けられ、対向している。さらにインク入口流路107を通過する直線Yは、インク出口流路108も通過する。
【0053】
このように、インク入口流路107およびインク出口流路108を同一直線上に配置することで、インク入口流路107からインク出口流路108へのインクの流れを円滑にすることができる。これによりインクジェット装置内のインクの循環がよりスムーズになり、高粘度のインクを供給する場合であっても、低い循環圧力で、インクジェットヘッド内にインクを循環させることができる。
【0054】
また、接続部107aおよび接続部108aは、ノズルプレート120から離れた圧力室110の天井プレート121の近傍に設けられることが好ましい。接続部107aおよび接続部108aが、圧力室110の天面近傍でなく、ノズルプレート120の近傍に設けられると、インクを循環させながらインクを吐出する際、吐出されるインクが圧力室110内のインクの流れの影響を受け、インク滴の直進性が低下する恐れがあるからである。具体的には、接続部107aおよび接続部108aは、ノズルプレート120から50μm以上離間していることが好ましい。
【0055】
図4は、図2に示された筐体200のB線による断面の拡大図である。図4に示されるように、本実施の形態では筐体200はキャップである。また、筐体200は、加圧機構300に接続されている。
【0056】
筐体200の先端部201(ノズルプレートとの接触部)は、弾性部材からなることが好ましい。好ましい弾性部材の例には、フッ素ゴムなどが含まれる。一方、筐体のフレーム部203は、例えば、ステンレスなどの金属からなる。このように、筐体200の先端部201を弾性部材とすることで、筐体200とノズルプレート120との密着性が向上する。また、筐体200の先端部201を弾性部材とすることで、筐体200をノズルプレート120に密着させた際、ノズルプレート120の表面の撥液膜が傷つきにくくなる。
【0057】
次に、図5A〜図6Bを参照しながら、本実施の形態のインクジェット装置1を用いたインクの吐出方法について説明する。
【0058】
図5A〜図6Bに示されるように、本発明のインク吐出方法は、インクジェットヘッド100のノズル111を筐体200で覆う第1ステップ(図5A)と、筐体200に覆われた密閉空間を加圧し、ノズル111内のインク105を圧力室110の内部に押し込む第2ステップ(図5B)と、ノズル111内のインク105を圧力室110の内部に押し込んだ状態で、圧力室110内のインクをインク排出流路102に流す第3ステップ(図6A)と、ノズル111から筐体200を外し、ノズル111からインク105を吐出する第4ステップ(図6B)とを有する。
【0059】
1)図5Aは、第1ステップを示す。図5Aに示されるように、第1ステップでは、インクジェットヘッド100のノズル111を筐体200で覆う。具体的には、ノズル111を覆うように筐体200をノズルプレート120に密着させる。これにより筐体200によって覆われた密閉空間210が形成される。このとき、圧力室110内には、予めインク105が収容されている。このため圧力室110の内部とインクジェットヘッド100の外部とを接続するノズル111内にもインク105が収容されている。
【0060】
2)図5Bは、第2ステップを示す。図5Bに示されるように、第2ステップでは、筐体200によって覆われた密閉空間210を加圧する。密閉空間210を加圧するには、密閉空間210に気体を供給すればよい。この結果、ノズル111内のインク105が圧力室110の内部に押し込まれ、ノズル111内が気体によって満たされる。
【0061】
3)図6Aは、第3ステップを示す。図6Aに示されるように、第3ステップでは、ノズル111内のインク105が圧力室110の内部に押し込まれた状態で、圧力室110内のインク105をインク排出流路102まで流す。圧力室110内のインク105をインク排出流路102まで流すには、圧力室110内のインク105に循環圧力を供給すればよい。このように、インクが滞留しやすいノズル111内のインクを圧力室110の内部に押し込んだ状態でインクを循環させるので、ノズル111内にインクが滞留することはない。
【0062】
インクが流れる速度は特に限定されないが、通常0.01〜0.1ml/minである。圧力室110内からインク排出流路102まで流れた分のインク105は、インク供給流路101から圧力室110に補給される。これにより、圧力室110内には常に新しいインクが供給される。
【0063】
4)図6Bは、第4ステップを示す。図6Bに示されるように第4ステップでは、ノズル111から筐体200を外し、ノズル111からインク105を吐出する。これにより被塗布物を塗布する。上述のように本発明では、ノズル詰りが生じにくいので、被塗布物に安定してインクを滴下することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のインク循環型インクジェット装置は、ノズル詰りが少ないためインクを、被塗布物に安定して塗布することができる。このため、本発明のインクジェット装置は、例えば有機ELディスプレイパネルの製造における有機発光材料を塗布形成するためのインクジェット装置として好ましく用いられる。
【符号の説明】
【0065】
1 インクジェット装置
100 インクジェットヘッド
101 インク供給流路
102 インク排出流路
105 インク
107 インク入口流路
107a 入口接続部
108 インク出口流路
108a 出口接続部
110 圧力室
111 ノズル
113 アクチュエータ
120 ノズルプレート
121 天面プレート
123 スペーサ
130 振動板
200 筐体
201 筐体の先端部
203 筐体のフレーム部
210 密閉空間
300 加圧機構



【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを収容しインクを吐出するノズルを有する2以上の圧力室と、前記圧力室に連通し前記圧力室に供給されるインクが流れるインク供給流路と、前記圧力室に連通し前記圧力室から排出されたインクが流れるインク排出流路と、を有するインク循環型インクジェットヘッドと、
前記ノズルを覆う筐体と、
前記筐体によって覆われた密閉空間を加圧する加圧機構と、を有するインクジェット装置であって、
前記ノズルのインクの吐出方向の長さは、50〜500μmである、インクジェット装置。
【請求項2】
前記インクジェットヘッドは、前記圧力室と前記インク供給流路とを接続するインク入口流路と、前記圧力室と前記インク排出流路とを接続するインク出口流路と、をさらに有し、
前記インク入口流路およびインク出口流路は直線状であり、前記インク入口流路と前記圧力室との接続部と、前記インク出口流路と前記圧力室との接続部とは対向し、前記インク入口流路を通過する直線は、前記インク出口流路も通過する、請求項1に記載のインクジェット装置。
【請求項3】
前記圧力室は、
前記ノズルが形成されたノズルプレートから構成された底面と、
前記ノズルプレートと対向する天井プレートから構成された天面と、
前記ノズルプレートおよび前記天井プレートに挟まれたスペーサから構成された側面と、を有し、
前記インク入口流路と前記圧力室との接続部と、前記インク出口流路と前記圧力室との接続部とは、前記天井プレートの近傍に設けられる、請求項2に記載のインクジェット装置。
【請求項4】
前記圧力室は、
前記ノズルが形成されたノズルプレートから構成された底面と、
前記ノズルプレートと対向する天井プレートから構成された天面と、
前記ノズルプレートおよび前記天井プレートに挟まれたスペーサから構成された側面と、を有し、
前記筐体は、キャップであり、前記筐体は前記ノズルプレートに密着することで、前記ノズルを覆う、請求項1に記載のインクジェット装置。
【請求項5】
前記キャップの先端部は弾性部材からなる、請求項4に記載のインクジェット装置。
【請求項6】
インクを収容し、インクを吐出するノズルを有する圧力室と、前記圧力室に連通し前記圧力室に供給されるインクが流れるインク供給流路と、前記圧力室に連通し前記圧力室から排出されたインクが流れるインク排出流路と、を有し、前記ノズルのインクの吐出方向の長さは、50〜500μmであるインク循環型インクジェットヘッドの前記ノズルを、筐体で覆うステップと、
前記筐体によって覆われた密閉空間を加圧し、前記筐体によって覆われた前記ノズル内のインクを前記圧力室の内部に押し込むステップと、
前記ノズル内のインクが前記圧力室の内部に押し込められた状態で、圧力室のインクをインク排出流路へ流すステップと、
前記筐体を外し、前記ノズルからインクを吐出するステップと、を有するインク吐出方法。
【請求項7】
前記加圧は、前記密閉空間内の気圧が10〜20kPaになるまで行う、請求項6に記載のインク吐出方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−144020(P2012−144020A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5949(P2011−5949)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】