説明

インクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録ヘッドの製造方法

【課題】 1つのフレキシブル配線基板に複数の素子基板が接続されている構成であっても、素子基板が配される面上にフレキシブル配線基板の歪みが発生することを抑制できるインクジェット記録ヘッド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 インクジェット記録ヘッド1は、複数の素子基板11、12と、素子基板11、12が内部に配される複数の開口部41が形成された第1の配線領域40aと、第2の配線領域40bと、第1の配線領域40aと第2の配線領域40bとの間で屈曲された屈曲部47と、を備えるフレキシブル配線基板40と、固定部材13、14と、を有する。フレキシブル配線基板40には、屈曲部47とは反対側の、第1の配線領域40aの端部から、複数の開口部41の間を通り、屈曲部47までまたは屈曲部47を超える位置までスリット45が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッドには、インクを吐出する吐出口が形成された記録素子基板(素子基板とも称する)が搭載される。インクジェット記録ヘッドの構成として、柔軟性を有するフレキシブル配線基板が記録素子基板に電気的に接続されており、このフレキシブル配線基板を介して信号が記録素子基板に伝達される構成が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−140452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように1つのフレキシブル配線基板に対して複数の記録素子基板が接続された構成で、フレキシブル配線基板と記録素子基板とを電気接続した後にそれらを支持基板等の固定部材に固定すると、以下の課題を生ずる可能性がある。
【0005】
すなわち、フレキシブル配線基板と複数の記録素子基板とを電気接続した際の、複数の記録素子基板の相対位置が、固定部材に固定された状態における相対位置と比べて、ずれている場合がある。すると、固定部材に対して固定する際に、複数の記録素子基板の相対位置を合わせて精度よく位置決めをすることで、フレキシブル配線基板が歪んだ状態で固定部材に固定される恐れがある。
【0006】
一方で、固定部材に複数の記録素子基板を位置決めして固定した後に、フレキシブル配線基板と記録素子基板とを電気接続してフレキシブル配線基板を固定部材に固定する場合にも、同様の課題を生ずる可能性がある。すなわち、フレキシブル配線基板に設けられた電極端子と記録素子基板に設けられた電極部とを電気接続する際に、部材の製造ばらつきの影響で、それらの位置がずれている場合がある。すると、固定部材に固定された記録素子基板の電極部に対して、フレキシブル配線基板の電極端子の位置を合わせ、それらを電気接続して、フレキシブル配線基板を固定することで、フレキシブル配線基板が歪んだ状態で固定部材に固定される恐れがある。
【0007】
これらのように、記録素子基板が配される面側においてフレキシブル配線基板が歪んで固定された場合には、記録素子基板からインクを吸引するためのキャップをする際に、フレキシブル配線基板の歪みによってキャップのシール性が低下してしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的は、1つのフレキシブル配線基板に複数の素子基板が接続されている構成であっても、素子基板が配される面側にフレキシブル配線基板の歪みが発生することを抑制できるインクジェット記録ヘッド及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明のインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出する複数の素子基板と、前記素子基板が内部に配され、前記素子基板と電気的に接続された電極端子が周縁に設けられた複数の開口部が形成された第1の配線領域と、第2の配線領域と、前記第1の配線領域と前記第2の配線領域との間で屈曲された屈曲部と、を備えるフレキシブル配線基板と、前記複数の素子基板と前記フレキシブル配線基板とが固定される固定部材と、を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、前記フレキシブル配線基板には、前記屈曲部とは反対側の、前記第1の配線領域の端部から、前記複数の開口部の間を通り、前記屈曲部までまたは前記屈曲部を超える位置までスリットが形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、上記目的を達成する本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、インクを吐出する複数の素子基板と、前記素子基板が内部に配され、前記素子基板と電気的に接続された電極端子が周縁に設けられた複数の開口部が形成された第1の配線領域と、第2の配線領域と、前記第1の配線領域と前記第2の配線領域との間で屈曲された屈曲部と、前記屈曲部とは反対側の、前記第1の配線領域の端部から、前記複数の開口部の間を通り、前記屈曲部までまたは前記屈曲部を超える位置まで形成されたスリットと、を備えるフレキシブル配線基板と、を用意する工程と、前記複数の素子基板と前記フレキシブル配線基板とを固定部材に対して位置決めして、前記複数の素子基板と前記フレキシブル配線基板とを前記固定部材に固定する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、1つのフレキシブル配線基板に複数の素子基板が接続されている構成であっても、素子基板が配される面側にフレキシブル配線基板の歪みが発生することを抑制できるインクジェット記録ヘッド及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は本発明に係るインクジェット記録ヘッドを示す斜視図であり、(b)は(a)をユニット毎に分解して示す斜視図であり、(c)は記録素子ユニットを部材毎に分解して示す斜視図である。
【図2】本発明に係るインクジェット記録ヘッドが装着されるインクジェット記録装置の斜視図である。
【図3】第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造方法を示す模式図である。
【図4】図3(f)に示すインクジェット記録ヘッドのA方向からの矢視図である。
【図5】第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造方法を説明するフローチャートである。
【図6】第2の実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造方法を示す模式図である。
【図7】第2の実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造過程における記録素子基板と電気配線テープとの位置関係を説明するための模式図である。
【図8】第2の実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造方法を説明するフローチャートである。
【図9】第3の実施形態のインクジェット記録ヘッドの一部を示す模式図である。
【図10】第4の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1(a)は、本発明に係るインクジェット記録ヘッド1を示す斜視図であり、図1(b)は、インクジェット記録ヘッド1をユニット毎に分解して示す斜視図である。また、図1(c)は、インクジェット記録ヘッド1を構成する記録素子ユニット10を示す分解斜視図である。
【0015】
図2は、インクジェット記録ヘッド1と、これが装着されるインクジェット記録装置本体32と、を示す斜視図である。インクジェット記録ヘッド1はインクジェット記録装置本体32に設けられたキャリッジ34に装着される。また、複数のインクタンク30が、インクジェット記録ヘッド1に対して独立して着脱可能となっている。
【0016】
図1(b)に示すように、インクジェット記録ヘッド1は、記録素子ユニット10と、インクタンク30が装着され、インクタンク30内のインクを記録素子ユニット10へ供給するインク供給ユニット20と、を有している。記録素子ユニット10とインク供給ユニット20とは、ビス27で互いに固定される。
【0017】
記録素子ユニット10を構成するそれぞれの構成要素について詳細に説明する。記録素子ユニット10は、第1の記録素子基板11、第2の記録素子基板12、第1のプレート14、電気配線テープ40(フレキシブル配線基板)、電気コンタクト基板15、第2のプレート13で構成されている。
【0018】
第1の記録素子基板11及び第2の記録素子基板12には、インクを吐出する吐出口が複数配設されてなる吐出口列11a、12aがそれぞれ設けられている。また、電気信号に応じてインクに対して膜沸騰を生じさせる電気熱変換体が、吐出口に対応して設けられている。インクに膜沸騰を生じさせて、インクが吐出されるため、電気熱変換体は、インクを吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子(記録素子)として用いられる。ここで、第1の記録素子基板11は顔料ブラックインク吐出用として用いられ、第2の記録素子基板12は染料カラーインク吐出用として用いられる。第1の記録素子基板11、第2の記録素子基板12は、第1のプレート14に接着されて固定される。
【0019】
第1のプレート14は、例えば、厚さ2〜10mmの酸化アルミニウム(Al)材料で形成されている。第1のプレート14には、第1の記録素子基板11と第2の記録素子基板12にそれぞれインクを供給するためのインク供給口が形成されている。また、第1のプレート14の両側には、インク供給ユニット20との固定に用いられるビス27が配されるビス止め部14aが形成されている。
【0020】
また、第2のプレート13は、例えば、厚さ0.5〜1mmの酸化アルミニウム材料で形成されている。第2のプレート13には、第1の記録素子基板11と第2の記録素子基板12をそれぞれ内部に配するための2つの開口部が形成されており、これらの開口部は第1の記録素子基板11、第2の記録素子基板12のそれぞれの外径寸法よりも大きくなっている。第2のプレート13は、第1のプレート14に接着されて固定される。
【0021】
電気配線テープ40は、第1の記録素子基板11と第2の記録素子基板12に対してインクを吐出するための電気信号を印加する電気信号経路を形成するものである。電気配線テープ40と、第1の記録素子基板11及び第2の記録素子基板12とは、電気的に接続される。また、電気配線テープ40には、それぞれの記録素子基板11、12を内部に配するための2つの開口部が形成されている。
【0022】
電気コンタクト基板15は、電気配線テープ40と電気的に接続されており、インクジェット記録装置本体32(図2)からの電気信号を受けるためのコンタクトパッドを複数有する。
【0023】
次に、図3、図4、図5を用いて本実施形態の記録素子ユニット10の組み立てについて詳細に説明する。図3(a)〜(f)は、第1の実施形態のインクジェット記録ヘッド1の製造方法を示す模式図である。図4は、図3(f)に示すインクジェット記録ヘッド1のA方向からの矢視図である。図5は、第1の実施形態のインクジェット記録ヘッド1の製造方法を説明するフローチャートである。
【0024】
図3(a)にて、電気配線テープ40について説明する。電気配線テープ40には2つの記録素子基板11、12が入るように2つの開口部41(41a、41b)が設けられている。この開口部41の周縁付近には、それぞれの記録素子基板11、12の電極部に接続される電極端子42が形成されている。一方、電気配線テープ40の端部には、電気コンタクト基板15と電気接続を行うための電気端子接続部43が形成されており、電極端子42と電気端子接続部43は連続した金属製(例えば銅箔)の配線パターンで導通している。電気配線テープ40には、スリット45が形成されており、スリット45は、電気端子接続部43が設けられた端部とは反対側の端部から電気端子接続部43側に向かって設けられており、開口部41aと開口部41bとの間に位置する。
【0025】
まず、図5のS10で、電気配線テープ40と、第1の記録素子基板11及び第2の記録素子基板12と、を電気的に接続する。図3(b)は、第1の記録素子基板11及び第2の記録素子基板12を電気配線テープ40に対し電気的に接続した状態を示す図である。第1の記録素子基板11と第2の記録素子基板12とを所定の間隔にて位置決めした後、電気配線テープ40と、第1の記録素子基板11及び第2の記録素子基板12と、の電気接続を行う。ここで、電気接続方法としては、例えば、記録素子基板11、12の電極部と電気配線テープ40の電極端子42とを重ね合わせ、熱を加えながら荷重を与えて電気接続する熱荷重圧着法がある。また、熱を加えながら超音波を与えて電気接続する熱超音波圧着法を用いてもよい。
【0026】
次に、図5のS20で、第1の記録素子基板11及び第2の記録素子基板12と、電気配線テープ40との電気接続部を封止材46で封止する。図3(c)は、第1の記録素子基板11および第2の記録素子基板12と電気配線テープ40との電気接続部を封止材46にて封止した状態を示す図である。封止によりインクによる腐食や外部からの衝撃から電気接続部を保護することができる。なお、電気接続部の封止は上下双方から行ってもよく、また上下で異なる複数の封止材を用いて封止してもかまわない。
【0027】
次に、図5のS30で、電気接続部封止後の電気配線テープ40を屈曲部47にて約90°の角度をつけて屈曲させる。図3(d)は、電気接続部封止後の電気配線テープ40を屈曲部47にて曲げた状態を示す図である。ここで、電気配線テープ40には、屈曲部47を境に第1の配線領域40aと第2の配線領域40bとが形成される。第1の配線領域40aは、屈曲部47を境に、第1の記録素子基板11、第2の記録素子基板12に接続される電極端子42が設けられた側の領域である。また、第2の配線領域40bは、屈曲部47を境に、第1の配線領域40aと反対側の領域であり、本実施形態では、電気端子接続部43が設けられた側の領域である。なお、曲げる際は常温でもよいが、より高い温度の方が容易に曲げることが出来る。
【0028】
次に、図5のS40で、電気配線テープ40と電気コンタクト基板15とを電気接続する。図3(e)は、電気配線テープ40と電気コンタクト基板15とが電気接続された状態を示す図である。電気配線テープ40と電気コンタクト基板15との端子同士が接触するように、画像処理等で位置決めした後にそれらを接続する。接続方法としては、異方性導電フィルムなどを間に挟み、熱と圧力とを加える熱圧着方法等が用いられる。
【0029】
次に、図5のS50で、第1のプレート14と第2のプレート13とが接着された結合体(固定部材)の、第2のプレート13に設けられた開口部から露出した第1のプレート14上に、第1の記録素子基板11と第2の記録素子基板12とを位置決めする。そして、第1のプレート14上の所定箇所に、それらを接着固定する。図3(f)は、第1の記録素子基板11及び第2の記録素子基板12が、第2のプレート13に設けられた開口部から露出した第1のプレート14上の所定箇所に接着固定された状態を示す図である。第1の記録素子基板11及び第2の記録素子基板12は第2のプレート13の開口部に入り込んだ状態となる。合わせて、電気配線テープ40も、第2のプレート13の上面に位置決めされ、接着剤によって接着固定される。
【0030】
なお、本実施形態では、第1のプレート14と第2のプレート13との結合体である固定部材に対して第1の記録素子基板11、第2の記録素子基板12、電気配線テープ40が固定される構成であるが、固定部材は一体成型された部材であってもよい。
【0031】
ところで、第1の記録素子基板11と第2の記録素子基板12とが所定位置からずれて第1のプレート14上に固定されると、記録素子基板11、12から吐出されたインク滴が記録媒体上で所定位置からずれた位置に着弾され、画像品位の低下を招く可能性がある。そのため、図5のS50では、第1の記録素子基板11と第2の記録素子基板12とは、第1のプレート14上の所定の位置に精度よく位置決めされて固定される。
【0032】
しかし、図5のS10で、2つの記録素子基板11及び12と、電気配線テープ40とを電気接続した状態では、記録素子基板11と記録素子基板12との相対位置が、図5のS50における相対位置と比べて、ずれてしまうことがある。この場合、図5のS50で第1の記録素子基板11と第2の記録素子基板12とを位置決めをすることで、電気配線テープ40の第1の配線領域40aが第2のプレート13上で歪んだ状態で固定されてしまう恐れがある。電気配線テープ40の第1の配線領域40aが歪んだ状態で固定されると、記録素子基板11、12からインクを吸引するためのキャップをする際に、キャップのシール性が低下してしまう。また、その歪みによって、電気配線テープ40の電極端子42と、記録素子基板11、12の電極部との電気接続部に対して負荷が発生してしまう。
【0033】
そこで、電気配線テープ40には、第2のプレート13上に配される部分となる第1の配線領域40aの、屈曲部47とは反対側の端部から2つの開口部41a、41bの間を通り、屈曲部47を超える位置までスリット45が形成されている(図3(f)参照)。これにより、図5のS30で第1のプレート14と第2のプレート13の結合体の上に位置決めをした際に、上述した電気配線テープ40の歪みは、第1の配線領域40a上ではなく、電気コンタクト基板15と接続される第2の配線領域40b側に移動する。
【0034】
ここで、図3(f)のA方向からの矢視図である図4に示すように、電気配線テープ40と電気コンタクト基板15との電気接続の際の位置ずれを許容するために、電気配線テープ40はB方向の長さに余裕がある。したがって、屈曲部47の近傍で撓んだ状態となっている。
【0035】
したがって、上述した電気配線テープ40の第1の配線領域40aに発生し得る歪みは、スリット45によって電気コンタクト基板15と接続される部分側に移動されて、図4に示す電気配線テープ40の屈曲部47近傍の撓み部分で吸収される。これにより、電気配線テープ40の第1の配線領域40aに歪みが生じることを抑制することができる。なお、このように電気配線テープ40の歪みが移動するためには、電気配線テープ40がある程度の剛性を有する必要がある。
【0036】
本実施形態によると、電気配線テープ40の第1の配線領域40aの歪みの発生が抑えられるため、記録素子基板11、12からインクを吸引するためのキャップをする際に、キャップのシール性の低下を抑制することができる。また、電気配線テープ40の電極端子42と、記録素子基板11、12の電極部との電気接続部に対する負荷の発生が抑えられ、電気信頼性を向上させることができる。
【0037】
なお、1つの記録素子基板に1つの電気配線テープが接続された構成であれば、上述の電気配線テープ40の歪みの発生を抑えることができるが、本実施形態のように、複数の記録素子基板に対して1つの電気配線テープが接続された構成の場合には以下の利点がある。まず、電気配線テープが1つであるため、電気配線テープ同士の間の隙間そのものが無くなり、電気配線テープ40に接続される電気コンタクト基板15の電気端子接続部43の領域を小さくすることができる。これにより、電気コンタクト基板15をより小型化することが可能となる。また、同様に電気配線テープが1つになることにより、電気配線テープ40と電気コンタクト基板15との接続に要する時間を短縮できるので、より低コストにてインクジェット記録ヘッドを製造できる。
【0038】
なお、第2の配線領域40bまでスリット45が形成されておらず屈曲部47までスリット45が形成されている構成であっても、第1の配線領域40aに生じ得る歪みは屈曲部47近傍の撓みに吸収される。したがって、スリット45は屈曲部47まで、または屈曲部47を超える位置まで形成されていればよい。
【0039】
また、インクジェット記録ヘッド1の製造方法に関しては、上述した順に限定されない。すなわち、2つの記録素子基板11、12と、これらに電気的に接続され、屈曲部47を備えた電気配線テープ40とを用意した後に、固定部材上に記録素子基板11、12、電気配線テープ40を位置決めして固定すればよい。
【0040】
更に、固定部材に対して記録素子基板11、12を位置決めして固定した後に、記録素子基板11、12と電気配線テープ40とを電気接続し、電気配線テープ40を固定部材に固定する場合でも、上述した課題が生じる可能性がある。すなわち、電気配線テープ40に設けられた電極端子42と記録素子基板11、12に設けられた電極部とを電気接続する際に、部材の製造ばらつきの影響で、それらの位置がずれている場合がある。すると、固定部材に固定された記録素子基板11、12の電極部に対して、電気配線テープ40の電極端子42の位置を合わせ、それらを電気接続して、電気配線テープ40を固定すると、電気配線テープ40の第1の配線領域40aが歪んで固定される恐れがある。したがって、このような場合においても、電気配線テープ40に上述したスリット45が形成されていることにより、電気配線テープ40の第1の配線領域40aに歪みが生じることを抑制することができる。
【0041】
(第2の実施形態)
図6、図7、図8を用いて第2の実施形態を説明する。本実施形態は、上述の実施形態とは、記録素子基板と電気配線テープとの電気接続部を封止材で封止する工程の順番が異なっている。
【0042】
図6(a)〜(f)は、第2の実施形態のインクジェット記録ヘッド1の製造方法を示す模式図である。図7は、インクジェット記録ヘッド1の製造過程における記録素子基板17と電気配線テープ50との位置関係を説明するための模式図である。図8は、第2の実施形態のインクジェット記録ヘッド1の製造方法を説明するフローチャートである。
【0043】
まず、図6(a)にて、電気配線テープ50について説明する。電気配線テープ50には2つの記録素子基板17、18が入るように2つの開口部51(51a、51b)が設けられている。この開口部51の縁付近には、それぞれの記録素子基板17、18の電極部に接続される電極端子52が片側のみ形成されている。一方、電気配線テープ50の端部には、電気コンタクト基板15と電気接続を行うための電気端子接続部53が形成されており、電極端子52と電気端子接続部53は連続した金属製(例えば銅箔)の配線パターンで導通している。電気配線テープ50には、スリット55が形成されており、スリット55は電気端子接続部53が設けられた端部とは反対側の端部から電気端子接続部53側に向かって設けられており、開口部51aと51bとの間に位置する。
【0044】
まず、図8のS110で、電気配線テープ50と、第1の記録素子基板17及び第2の記録素子基板18と、を電気的に接続する。図6(b)は、第1の記録素子基板17及び第2の記録素子基板18を電気配線テープ50に対し電気的に接続した状態を示す図である。第1の記録素子基板17と第2の記録素子基板18とを所定の間隔にて位置決めした後、電気配線テープ50と、第1の記録素子基板17及び第2の記録素子基板18と、の電気接続を行う。ここで、図7(a)は、図6(b)のC方向からの部分矢視図である。この状態では、第1の記録素子基板17の第1のプレート14に接着される側の面と電気配線テープ50の第2のプレート13に接着される側の面との、第1の記録素子基板17の接着される面に対して垂直な方向に関する距離はZ1となっている。
【0045】
次に、図8のS120で、電気配線テープ50を屈曲部57にて約90°の角度をつけて屈曲させる。図6(c)は、電気接続後の電気配線テープ40を屈曲部57にて曲げた状態を示す図である。ここで、電気配線テープ50には、屈曲部57を境に第1の配線領域50aと第2の配線領域50bとが形成される。第1の配線領域50aは、屈曲部57を境に、第1の記録素子基板17、第2の記録素子基板18に接続される電極端子52が設けられた側の領域である。また、第2の配線領域50bは、屈曲部57を境に、第1の配線領域50aと反対側の領域であり、本実施形態では、電気端子接続部53が設けられた側の領域である。
【0046】
次に、図8のS130で、電気配線テープ50と電気コンタクト基板15とを電気接続する。図6(d)は、電気配線テープ50と電気コンタクト基板15とが電気接続された状態を示す図である。電気配線テープ50と電気コンタクト基板15の端子同士が接触するように、画像処理等により位置決めした後にそれらを接続する。接続方法としては、異方性導電フィルムなどを間に挟み、熱と圧力とを加えた熱圧着方法等が用いられる。
【0047】
次に、図8のS140で、第1のプレート14と第2のプレート13とが接着された結合体の、第2のプレート13に設けられた開口部から露出した第1のプレート14上に、第1の記録素子基板17と第2の記録素子基板18とを位置決めした後に接着固定する。図6(e)は、第1の記録素子基板17及び第2の記録素子基板18が、第2のプレート13に設けられた開口部から露出した第1のプレート14上の所定箇所に接着固定された状態を示す図である。第1の記録素子基板17及び第2の記録素子基板18は、第2のプレート13の開口部に入り込んだ状態となる。合わせて、電気配線テープ50も第2のプレート13の上面に位置決めされ、接着剤によって接着固定される。
【0048】
ここで、図7(b)は、図6(e)に示すE−E線の部分断面図である。この状態において、第1の記録素子基板17の第1のプレート14に接着された側の面と電気配線テープ50の第2のプレート13に接着された側の面との、記録素子基板17の接着された面に対して垂直な方向に関する距離は、Z2となっている。図7(a)におけるZ1と比較すると、Z2<Z1の関係となっており、その結果、図7(b)に示すように、電極端子52には撓みが形成される。
【0049】
その後、図8のS150で、第1の記録素子基板17及び第2の記録素子基板18と、電気配線テープ50との電気接続部を封止材56で封止する。図6(f)は、第1の記録素子基板17及び第2の記録素子基板18と、電気配線テープ50との電気接続部を封止材56で封止した状態を示す図である。封止によりインクによる腐食や外部からの衝撃から電気接続部を保護することができる。
【0050】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、電気配線テープ50の第2のプレート13上に配される第1の配線領域50aで発生し得る歪みは、スリット55によって電気コンタクト基板15と接続される部分側に移動される。そして、図4に示す電気配線テープの屈曲部57近傍の撓み部分で吸収される。これにより、電気配線テープ50の第1の配線領域50aに歪みが生じることを抑制することができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、図8のS140の工程では、第1の記録素子基板17及び第2の記録素子基板18と、電気配線テープ50との電気接続部が封止されていない。したがって、屈曲部57近傍の撓みに加えて電極端子52の撓みでも、電気配線テープ50の第2プレート13上の部分に生じる歪みを吸収することが可能となる。
【0052】
(第3の実施形態)
上述の実施形態では、電気配線テープ40の第1の配線領域40aに形成されたスリット45が、複数の吐出口の配設方向、すなわち吐出口列11aの方向に沿っている形態であった。本実施形態は、上述の実施形態とは異なり、電気配線テープのスリットが複数の吐出口の配設方向に交差する方向に沿う形態である。
【0053】
図9を用いて第3の実施形態を説明する。電気配線テープ60は、複数の記録素子基板19と電気的に接続され、その接続部は封止材66で封止される。その後、プレート62に電気配線テープ60と複数の記録素子基板19とを位置決めし、接着固定する。また、電気配線テープ61も同様に、複数の記録素子基板19と電気接続を行い、その接続部を封止する。その後、プレート62に電気配線テープ60と複数の記録素子基板19とを位置決めし、接着固定する。
【0054】
電気配線テープ60、61には、スリット65が屈曲部67を超える位置まで配されている。ここで、電気配線テープ60、61のプレート62上に配される部分では、スリット65は、複数の吐出口の配設方向(図9では記録素子基板19の長手方向)に交差する方向に沿って形成されている。
【0055】
これにより、電気配線テープ60、61のうちの、プレート62の記録素子基板19が配される面側に配される部分に発生し得る歪みは、スリット65により屈曲部67近傍の撓み部分で吸収される。したがって、プレート62の記録素子基板19が配される面側において、電気配線テープ60、61に歪みが発生することを抑制することができる。
【0056】
(第4の実施形態)
上述の実施形態では、電気配線テープ40に開口部41が形成され、開口部41に電極端子42が設けられた構成であった。本実施形態のように、電気配線テープの第1の配線領域に開口部が形成されておらず、その端部に電極端子が設けられた構成であってもよい。
【0057】
図10を用いて第4の実施形態を説明する。電気配線テープ70は、第1の記録素子基板21、第2の記録素子基板22と電気的に接続され、その接続部は封止材76で封止されている。電気配線テープ70には、屈曲部77を境に第1の配線領域70aと第2の配線領域70bが形成される。第1の配線領域70aの端部には、第1の記録素子基板21、第2の記録素子基板22との電気接続のための電極端子が設けられている。第2の配線領域70bはコンタクト基板15と接続される。
【0058】
本実施形態においては、スリット75が、第1の記録素子基板21と第2の記録素子基板22との間に対応して設けられ、第1の配線領域70aの端部から、屈曲部77を超える位置まで形成されている。これにより、電気配線テープ70の第2のプレート13上に配される部分である第1の配線領域70aに発生し得る歪みは、スリット75により屈曲部67近傍の撓み部分で吸収される。したがって、電気配線テープ70の第1の配線領域70aにおいて歪みが発生することを抑制することができる。
【0059】
なお、これまでに説明した実施形態では、電気熱変換体に電気エネルギーを加えてインクに対して膜沸騰を生じさせてインクを吐出させる方式にて説明したが、インク吐出方式は特に限定されない。例えば、圧電素子の変形を利用してインクを吐出する方式であってもよい。
【0060】
また、これまでに説明した実施形態では、電気配線テープは、電気配線テープが固定される面とほぼ直角に屈曲しているが、必ずしも直角である必要はない。なお、屈曲部の角度としては30°程度から150°程度であることが望ましい。
【0061】
また、これまでに説明した実施形態では、インクジェット記録ヘッド1には電気コンタクト基板15が設けられた構成であったが、電気コンタクト基板15を省略した構成であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 インクジェット記録ヘッド
11 第1の記録素子基板
12 第2の記録素子基板
13 第2のプレート
14 第1のプレート
15 電気コンタクト基板
40 電気配線テープ(フレキシブル配線基板)
41 開口部
42 電極端子
43 電気端子接続部
45 スリット
46 封止材
47 屈曲部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数の素子基板と、
前記素子基板が内部に配され、前記素子基板と電気的に接続された電極端子が周縁に設けられた複数の開口部が形成された第1の配線領域と、第2の配線領域と、前記第1の配線領域と前記第2の配線領域との間で屈曲された屈曲部と、を備えるフレキシブル配線基板と、
前記複数の素子基板と前記フレキシブル配線基板とが固定される固定部材と、
を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記フレキシブル配線基板には、前記屈曲部とは反対側の、前記第1の配線領域の端部から、前記複数の開口部の間を通り、前記屈曲部までまたは前記屈曲部を超える位置までスリットが形成されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
インクを吐出する複数の素子基板と、
前記素子基板に電気的に接続された電極端子が端部に設けられた第1の配線領域と、第2の配線領域と、前記第1の配線領域と前記第2の配線領域との間で屈曲された屈曲部と、を備えたフレキシブル配線基板と、
前記複数の素子基板と前記フレキシブル配線基板とが固定される固定部材と、
を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記フレキシブル配線基板には、前記端部から、前記屈曲部までまたは前記屈曲部を超える位置まで、前記複数の素子基板の間に対応してスリットが形成されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記素子基板にはインクを吐出する複数の吐出口が配設されており、
前記第1の配線領域に形成された前記スリットは、前記複数の吐出口の配設方向に沿っている、請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記素子基板にはインクを吐出する複数の吐出口が配設されており、
前記第1の配線領域に形成された前記スリットは、前記複数の吐出口の配設方向に交差する方向に沿っている、請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
インクを吐出する複数の素子基板と、前記素子基板が内部に配され、前記素子基板と電気的に接続された電極端子が周縁に設けられた複数の開口部が形成された第1の配線領域と、第2の配線領域と、前記第1の配線領域と前記第2の配線領域との間で屈曲された屈曲部と、前記屈曲部とは反対側の、前記第1の配線領域の端部から、前記複数の開口部の間を通り、前記屈曲部までまたは前記屈曲部を超える位置まで形成されたスリットと、を備えるフレキシブル配線基板と、を用意する工程と、
前記複数の素子基板と前記フレキシブル配線基板とを固定部材に対して位置決めして、前記複数の素子基板と前記フレキシブル配線基板とを前記固定部材に固定する工程と、
を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記固定する工程の前に、前記複数の素子基板と前記フレキシブル配線基板の電極端子とが接続された電気接続部を封止材で封止する、請求項5に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記固定する工程の後に、前記複数の素子基板と前記フレキシブル配線基板の電極端子とが接続された電気接続部を封止材で封止する、請求項5に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記固定する工程の後における、前記素子基板のうちの前記固定部材に固定される側の面と、前記第1の配線領域との、前記素子基板の固定される面に垂直な方向に関する距離は、前記複数の素子基板と前記フレキシブル配線基板とを電気的に接続する際における前記距離よりも小さい、請求項5または請求項7に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項9】
インクを吐出する複数の素子基板を固定部材に対して位置決めして、前記複数の素子基板を前記固定部材に固定する工程と、
複数の開口部が形成された第1の配線領域と、第2の配線領域と、前記第1の配線領域と前記第2の配線領域との間で屈曲された屈曲部と、前記屈曲部とは反対側の、前記第1の配線領域の端部から、前記複数の開口部の間を通り、前記屈曲部までまたは前記屈曲部を超える位置まで形成されたスリットと、を備えたフレキシブル配線基板の前記開口部の周縁に設けられた電極端子と、前記素子基板と、を電気的に接続し、前記フレキシブル配線基板を前記固定部材に固定する工程と、
を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−111925(P2013−111925A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262134(P2011−262134)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】