説明

インクジェット記録ヘッドの製造方法

【課題】撥水材の凝集による吐出口が設けられた部材の凹みを抑え、撥水性の優れた吐出口面を有し、高密度、高品質な印字を実現するインクジェット記録ヘッドを提供する。
【解決手段】基板上に光カチオン重合性樹脂材料を含む光カチオン重合性樹脂層を形成する工程と、光カチオン重合性樹脂層をパターン露光し吐出口を含む微細パターン潜像を形成する工程と、光カチオン重合性樹脂層上に光カチオン重合性樹脂材料と反応し結合を形成し得る撥水材を含む撥水層を形成する工程と、光カチオン重合性樹脂層を現像し光カチオン重合性樹脂層の非露光部を除去し、非露光部分に対応する撥水層部を除去し微細パターンを形成する工程と、加熱処理により光カチオン重合性樹脂層を硬化して微細パターンが設けられた部材とし、光カチオン重合性樹脂材料と撥水材との反応を促進させる工程とを含むインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクの液滴を吐出することが可能なインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッドにおいて、良好なインク吐出性能を得る上で吐出口面の表面特性を制御することは重要である。吐出口付近にインク溜りが残留していると、インク滴の飛翔方向が偏向したり、吐出するインク滴に対して負荷がかかり、インク滴の吐出速度が低下したりする場合がある。これらを改善し精度良くインクを吐出する方法として、吐出口周辺を撥水加工する方法が挙げられる。
【0003】
また、高密度に吐出口を配列するためには、吐出口が設けられた部材の形成にフォトリソグラフィーを用いる方法が有用である。特許文献1には、感光性を有する撥水材として、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物と、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物との縮合生成物を用いることが開示されている。特許文献1では、該撥水材を用いて、撥水層と吐出口が設けられた部材を形成する層とを同時にパターニング露光及び現像を行うことで、吐出口表面を撥水加工している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−23525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、撥水材の多くは有機樹脂との親和性が低いフッ素元素を含んでおり、塗布条件によっては撥水材の凝集が生じ、吐出口が設けられた部材に凹みが発生する場合がある。本発明の目的は、撥水材の凝集による吐出口が設けられた部材の凹みの発生を抑制し、かつ撥水性の優れた吐出口面を形成し、高密度、高品質な印字を実現するインクジェット記録ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法は、基板と、該基板の上に形成されたインクを吐出するための吐出口が設けられた部材と、該部材の上に形成された撥水層と、を備えるインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、基板の上に光カチオン重合性樹脂材料を含む光カチオン重合性樹脂層を形成する工程と、前記光カチオン重合性樹脂層をパターン露光し、吐出口を含む微細パターンの潜像を形成する工程と、前記潜像を形成した光カチオン重合性樹脂層の上に、前記光カチオン重合性樹脂材料と反応して結合を形成し得る撥水材を含む撥水層を形成する工程と、光カチオン重合性樹脂層を現像することにより、光カチオン重合性樹脂層の非露光部分を除去し、かつ、該非露光部分に対応する撥水層部分を除去し、前記微細パターンを形成する工程と、加熱処理により、前記光カチオン重合性樹脂層を硬化して前記微細パターンが設けられた部材とし、かつ前記光カチオン重合性樹脂材料と撥水材との反応を促進させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、撥水材の凝集による吐出口が設けられた部材の凹みの発生を抑制し、かつ撥水性の優れた吐出口面を形成することができ、高密度、高品質な印字を実現するインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】従来の撥水層の形成方法を示す断面図である。
【図2】本発明に係る撥水層の形成方法を示す断面図である。
【図3】本発明に係る方法により製造されたインクジェット記録ヘッドの一例を示す斜視図である。
【図4】本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す断面図である。
【図5】本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
前述したように、撥水材の多くは有機樹脂との親和性が低いフッ素元素を含むため、撥水材の凝集が生じる場合がある。特に、撥水材として高い撥水性を示すパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を含有する化合物を用いた場合、該凝集はより生じやすい。図1に示すように、特許文献1では撥水処理として、未硬化の感光性樹脂層1を形成した後(図1(A))、感光性樹脂層1上に撥水材2を塗布し、加熱処理を行う(図1(B))。その後、パターン露光し現像することで吐出口を含む微細パターンを形成する。この時、感光性樹脂層1は柔らかいため、感光性樹脂層1上に撥水材2を塗布する際、図1(B)に示すように撥水材の凝集物3が感光性樹脂層1に沈み込み、0.1〜1.0μm程度の凹みが発生する場合がある。
【0010】
一方、本発明に係る方法では、図2に示すように未硬化の感光性樹脂層1(光カチオン重合性樹脂層)を形成した後、感光性樹脂層1をパターン露光することにより吐出口を含む微細パターンの潜像を形成する(図2(A))。その後、撥水材を含む撥水層を形成し(図2(B))、現像することで微細パターンを形成する。これにより、図2(B)に示すように感光性樹脂層1の変形を抑制して撥水層を形成することができる。
【0011】
本発明に係る方法により製造されるインクジェット記録ヘッドの一例を図3に示す。図3に示すインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出するためのエネルギー発生素子15を複数有する基板5上に、インクを吐出するための吐出口13と、吐出口13に連通しインクを保持するインク流路16と、さらにオリフィスプレートの膜厚を平坦化するために形成された溝17を有する。また、基板5には、インクをインク流路16に供給するインク供給口14が設けられている。
【0012】
以下、本発明の実施形態の一例を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。図4は本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法を示した図であり、図4(A)〜(H)は、図3のA−A’断面に相当する工程断面図である。
【0013】
まず、インクを吐出するエネルギーを発生するエネルギー発生素子15を設けた基板5上に、インク流路型6及びオリフィスプレートの膜厚を平坦化させる溝17を形成するための土台7を形成する(図4(A))。以後、インク流路型6と土台7とを合わせて型レジストと示す。型レジストは後の工程で溶解除去されるため、型レジストにはポジ型感光性樹脂が用いられる。具体的には、例えばポリメチルイソプロペニルケトン、ポリビニルケトン等のビニルケトン系光崩壊性高分子化合物が用いられる。基板5としてはSi基板を用いることが好ましい。
【0014】
次に、型レジストの上に光カチオン重合性樹脂層8を形成する(図4(B))。光カチオン重合性樹脂層8は、汎用的なスピンコート法、スリットコート法、ロールコート法等の塗布方法によって形成できる。
【0015】
光カチオン重合性樹脂層8には光カチオン重合性樹脂材料が含まれる。該光カチオン重合性樹脂材料としては、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物等が挙げられる。しかしながら、高い機械的強度、下地との強い密着性が必要とされるため、それらの特性を持つエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。市販品では、SU8(商品名、日本化薬(株)製)、EHPE3150(商品名、ダイセル化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0016】
前記エポキシ化合物は、エポキシ当量が2000以下であることが好ましく、エポキシ当量が1000以下であることがより好ましい。エポキシ当量が2000以下であれば、硬化反応の際に架橋密度が低下したり、硬化物のガラス転移温度が低下したり、密着性が低下したりすることを防ぐことができる。前記エポキシ化合物は、エポキシ当量が100以上であることが好ましい。
【0017】
また、光カチオン重合性樹脂層8の流動性が高いと解像性が低下する場合があるため、光カチオン重合性樹脂材料としては5〜35℃の常温にて固体であるものが好ましい。
【0018】
光カチオン重合性樹脂層8に含まれる、光カチオン重合性樹脂層8を硬化させるための光カチオン重合開始剤としては、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩が挙げられる。更に、該光カチオン重合開始剤に還元剤を併用し、加熱することによって、カチオン重合を促進することができる。該還元剤としては、反応性とエポキシ樹脂への溶解性を考慮した場合、例えば銅トリフラートが挙げられる。
【0019】
次に、光カチオン重合性樹脂層8の吐出口13が形成される位置及び溝17が形成される位置が非露光部分10となるように、マスク9を介してパターン露光し、吐出口を含む微細パターンの潜像を形成する(図4(C))。そして、露光した際に発生した酸により、光カチオン重合性樹脂層8を加熱する工程(図4(D))において露光部分11に架橋が生じる。この架橋率が小さすぎると、次工程の光カチオン重合性樹脂層8上への撥水材塗布の影響で光カチオン重合性樹脂層8が変形する可能性があるため、変形が起こらない程度に硬化させることが好ましい。
【0020】
また、次工程で設ける撥水層12と光カチオン重合性樹脂層8との間で化学結合を生成するため、反応基が残存していることが好ましい。例えば光カチオン重合性樹脂材料としてエポキシ化合物を用いた場合には、エポキシ基が残存するように架橋率を抑えることが好ましい。ここで、架橋の度合いを示す架橋率を下記式(1)で定義すると、架橋率は5%以上、95%以下であることが好ましい。なお、エポキシ基の残存量は赤外分光法により測定することができる。
【0021】
【数1】

【0022】
光カチオン重合性樹脂層8の反応性を高めるために、光カチオン重合性樹脂層8が水酸基を含有する化合物や水酸基を生成し得る化合物を含むことも有用である。水酸基を生成し得る化合物としては、例えば加水分解性シリル基を有する化合物等が挙げられる。水酸基を含有する化合物の具体例としては、1,4−HFAB(1,4−ビス(ヘキサフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン)、水酸基を生成し得る化合物の具体例としては、市販品では、A−187(商品名、GE東芝シリコーン製)が挙げられる。
【0023】
次に、光カチオン重合性樹脂層8の上に撥水層12を形成する(図4(E))。撥水層12は、汎用的なスピンコート法、スリットコート法、ロールコート法、ディップコート法及び真空蒸着法等の成膜方法によって形成できる。撥水層12に含まれる撥水材としては、フッ素含有基を有する化合物を用いることが好ましい。中でも高い撥水性を示すため、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有する化合物を用いることがより好ましい。パーフルオロアルキル基としては、例えば下記式(2)
【0024】
【化1】

【0025】
(式(2)中、nは3以上の整数である。)で表される基が挙げられる。パーフルオロポリエーテル基としては、例えば下記式(3)
【0026】
【化2】

【0027】
(式(3)中、p、q、r、sは0又は1以上の整数であり、少なくとも一つは1以上の整数である。)で表される基が挙げられる。
【0028】
これらの撥水基の繰り返し単位の数(n、p、q、r、s)を比較すると、一般に市販の撥水材では、nよりもp、q、r、sの方が大きい場合が多い。そのため、パーフルオロポリエーテル基を有する撥水材の方がパーフルオロアルキル基を有する撥水材よりも一分子中に多くのフッ素原子を含み、高い撥水性を示す傾向にある。また、パーフルオロポリエーテル基の平均分子量については、小さすぎると撥水性が発現せず、また大きすぎると溶媒への溶解性が低下することから、500〜20000であることが好ましく、1000〜10000であることがより好ましい。なお、パーフルオロポリエーテル基の平均分子量とは、前記式(3)の場合、繰り返し単位で示される部分の平均分子量を示す。
【0029】
一方、撥水層12に含まれる撥水材としては、光カチオン重合性樹脂層8に含まれる光カチオン重合性樹脂材料と反応して結合を形成し得る化合物を用いる。光カチオン重合性樹脂材料が水酸基、エポキシ基、オキセタン基からなる群から選択される少なくとも一つの官能基を有する場合には、該官能器と反応して結合を形成し得る官能基を有する化合物が挙げられる。具体的には、末端部に加水分解性のシリル基を有する化合物等が挙げられる。撥水材としては、例えば、下記式(4)
【0030】
【化3】

【0031】
(式(4)中、Rfはパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基、Rは加水分解性置換基、Xは炭素数1から3のアルキレン基、Yは非加水分解性置換基、aは1から3の整数を示す。)で表される化合物、下記式(5)
【0032】
【化4】

【0033】
(式(5)中、Rf、R、X、Y及びaは式(4)と同義である。)で表される化合物、下記式(6)
【0034】
【化5】

【0035】
(式(6)中、Rf、R、X、Y及びaは式(4)と同義である。また、Zは水素原子又はアルキル基、mは正の整数を示す。)で表される化合物が挙げられる。
【0036】
Rの加水分解性置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、アミノ基、水素原子等が挙げられる。その中でも、反応性を制御しやすいメトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基が好ましい。また、Yの非加水分解性置換基としては、メチル基やエチル基等のアルキル基が挙げられる。Xとしては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が挙げられる。
【0037】
市販品では、オプツールDSX、オプツールAES(以上商品名、ダイキン工業(株)製)、ノベックEGC−1720(商品名、住友スリーエム(株)製)、FG−5010、FG−5020、FS−2050(以上商品名、(株)ハーベス製)、OPC−700、OPC−800、XOPC−900(以上商品名、(株)野田スクリーン製)等が挙げられる。
【0038】
撥水材が加水分解性のシリル基を有する場合、空気中の水分により加水分解が起こり、シラノール基が生成する。更に、加熱することによってシラノール基と光カチオン重合性樹脂層8表面に存在するエポキシ基や水酸基との反応が促進される。この際、撥水材の加水分解を促進し、さらにシラノール基を生成させるために、水を含む環境下で撥水層12の形成を行うことが好ましい。例えば加湿下での曝露等の処理を行うこともできるが、空気中の水分でも水分量は十分であり、加湿は必須ではない。
【0039】
撥水材を溶液として塗布する場合の撥水材溶液の濃度については、使用用途や光カチオン重合性樹脂層8の材料によって、適切に決定される。撥水材溶液中の撥水材の濃度としては、0.01〜1.0質量%が好ましい。より好ましくは0.05〜0.5質量%である。撥水材の濃度が前記範囲であれば、十分な撥水性、耐久性を示し、塗布膜の表面上において濃度ムラが見られず、塗布膜表面全体で均一な撥水性が得られる。撥水材を希釈する溶剤としては、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロポリエーテル、パーフルオロポリエーテル等が挙げられる。撥水層12の厚みとしては数nm程度、例えば1〜10nmが好ましい。
【0040】
次に、光カチオン重合性樹脂層8を現像することにより、光カチオン重合性樹脂層8の非露光部分10を除去し、かつ、非露光部分10に対応する撥水層部分を除去し、前記微細パターンである吐出口13及び溝17を形成する(図4(F))。撥水層12は、前述の条件によれば数nm程度と非常に薄く形成されており、現像時に非露光部分10に対応する撥水層部分は非露光部分10とともに除去することができる。光カチオン重合性樹脂層8の現像には、光カチオン重合性樹脂層8の非露光部分10を溶解可能な溶剤を用いることができる。
【0041】
最後に、基板5の背面にインク供給口14を作製し、型レジストを溶解可能な溶剤を用いて、型レジストを除去する(図4(G))。その後、光カチオン重合性樹脂層8中の未架橋の光カチオン重合性樹脂材料を完全に硬化させるため、加熱により硬化促進を行う(図4(H))。これにより、光カチオン重合性樹脂層8を前記微細パターンである吐出口13及び溝17が設けられた部材とする。この際、光カチオン重合性樹脂層8と撥水材との反応がより促進され、該部材と撥水層12との結合をより強固にすることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の例示的な実施形態について詳細に説明する。
【0043】
[実施例1]
図4は、本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法を示す図である。図5は、図4に基づいた工程を示すフローチャート図である。
【0044】
まず、エネルギー発生素子15を設けたSi基板5上に、ポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業(株)製、商品名:ODUR−1010)を厚さ14μmの膜厚で塗布した。次いで、露光装置UX3000(商品名、ウシオ電機(株)製)によってインク流路型6および土台7のパターンを露光し、メチルイソブチルケトン(MIBK)により現像し、インク流路型6および土台7を形成した(図4(A))。
【0045】
次に、図4(B)に示すように、表1に示す材料を含む溶液を基板5及び型レジスト上に塗布し、60℃で9分間熱処理した。これにより、光カチオン重合性樹脂層8を形成した。なお、型レジスト上の光カチオン重合性樹脂層8の膜厚は25μmであった。
【0046】
【表1】

【0047】
次に、光カチオン重合性樹脂層8に対し、MPA−600(商品名、キヤノン(株)製)を用いて、吐出口13及び溝17形成部分が非露光部分10となるように、フォトマスク9を介して500mJ/cm2の照射量の放射エネルギーで露光した(図4(C))。更に、90℃で4分間加熱処理した(図4(D))。
【0048】
その後、撥水材としての下記式(7)で表される化合物(実際には下記式(7)で表される化合物の混合物)を、フッ素系溶剤ノベックHFE7600(商品名、住友スリーエム(株)製)で0.6質量%に希釈した溶液を調製した。該溶液を光カチオン重合性樹脂層8上にスピンコートにより塗布した。更に、90℃で1分間加熱処理することで、該溶剤を揮発させると同時に、光カチオン重合性樹脂層8に含まれるエポキシ樹脂と撥水材との反応を促進した。これにより、パーフルオロポリエーテル基含有撥水材からなる撥水層12を形成した。(図4(E))。
【0049】
【化6】

【0050】
(式(7)中、tは20〜30の整数、nは1〜3の整数を示す。)。
【0051】
次に、光カチオン重合性樹脂層8をキシレン/MIBK=6/4(質量比)の溶液で現像した。この現像処理により、光カチオン重合性樹脂層8の非露光部分10だけでなく、非露光部分10に対応する撥水層部分も同時に除去することができ、吐出口13及び溝17を形成した(図4(F))。
【0052】
次に、基板5の背面にインク供給口14を作製するためのマスクを適切に配置し、基板1の表面をゴム膜(不図示)によって保護した後、基板5の異方性エッチングによってインク供給口14を作製した。その後、ゴム膜を取り去り、露光装置UX3000を用いて基板5表面全体に紫外線を照射することにより、型レジストを分解し、乳酸メチルを用いて型レジストを溶解除去した(図4(G))。
【0053】
光カチオン重合性樹脂層8を完全に硬化させ、かつエポキシ樹脂と撥水材との反応を促進させるために、200℃で1時間、加熱処理を実施した(図4(H))。その後、電気的な接続及びインク供給の手段を適宜配置してインクジェット記録ヘッドを作製した。
【0054】
作製したインクジェット記録ヘッドの評価として、純水に対する動的接触角θrの測定及び吐出口13が設けられた部材の表面の凹みの有無の確認を行った。純水に対する動的接触角θrの測定は、自動接触角(製品名:CA−W、協和界面科学(株)製)を用いて測定した。また、吐出口13が設けられた部材の表面の凹みの有無の確認は、カラー3Dレーザー顕微鏡(製品名:VD−9710、(株)キーエンス製)を用いて行った。評価結果を表2に示す。
【0055】
本実施例で作製したインクジェット記録ヘッドは、θrが大きく良好な撥水性を示すことが確認された。また、吐出口13が設けられた部材の表面に凹みは確認されなかった。また、該インクジェット記録ヘッドを用いて印字評価を行ったところ、印字ヨレ等は観察されず、高い印字品位を示した。
【0056】
[実施例2〜4]
実施例1と同様の撥水材を用い、該撥水材の濃度を0.2、0.1、0.025質量%となるように希釈し、実施例1と同様の操作でインクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。評価結果を表2に示す。実施例2〜4のいずれの方法で作製したインクジェット記録ヘッドについても、θrが大きく良好な撥水性を示した。また、吐出口13が設けられた部材の表面に凹みは確認されなかった。更に印字評価においても印字ヨレ等は観察されず、高い印字品位を示した。
【0057】
[実施例5〜7]
前記撥水材として、下記式(8)、(9)又は(10)で表される化合物(実際には、それぞれ下記式(8)、(9)又は(10)で表される化合物の混合物)を用いた。また、前記撥水材の濃度を0.2質量%となるように希釈し、実施例1と同様の操作でインクジェット記録ヘッドを作製した。評価結果を表2に示す。
【0058】
【化7】

【0059】
(式(8)中、uは20〜30の整数を示す。)
【0060】
【化8】

【0061】
【化9】

【0062】
(式(10)中、vは0〜20の整数、wは0〜30の整数を示す。)。
【0063】
前記式(8)から(10)のいずれの化合物を撥水材として用いた場合にも、θrは大きく良好な撥水性を示すことが確認された。また、吐出口13が設けられた部材の表面に凹みは確認されなかった。更に、印字評価においても印字ヨレ等は観察されず、高い印字品位を示した。
【0064】
以上、実施例1〜7のいずれの条件においても良好な撥水性を示しており、これは撥水材とエポキシ樹脂とが反応しているためと考えられる。
【0065】
[比較例1〜6]
撥水層12の形成工程を光カチオン重合性樹脂層8に対する露光前に行い、撥水材の種類、撥水材の濃度を表3に示す条件とした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録ヘッドを作製した。評価結果を表3に示す。比較例1〜6のいずれにおいても、θrは大きく良好な撥水性を示したが、吐出口13が設けられた部材の表面に凹みが発生した。この凹みにより、印字評価において印字ヨレが発生し、画像品位は低下した。
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【符号の説明】
【0068】
1 感光性樹脂層
2 撥水材
3 撥水材の凝集物
4 露光処理を行った感光性樹脂層
5 基板
6 インク流路型
7 土台
8 光カチオン重合性樹脂層
9 フォトマスク
10 非露光部分
11 露光部分
12 撥水層
13 吐出口
14 インク供給口
15 エネルギー発生素子
16 インク流路
17 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の上に形成されたインクを吐出するための吐出口が設けられた部材と、該部材の上に形成された撥水層と、を備えるインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、
基板の上に光カチオン重合性樹脂材料を含む光カチオン重合性樹脂層を形成する工程と、
前記光カチオン重合性樹脂層をパターン露光し、吐出口を含む微細パターンの潜像を形成する工程と、
前記潜像を形成した光カチオン重合性樹脂層の上に、前記光カチオン重合性樹脂材料と反応して結合を形成し得る撥水材を含む撥水層を形成する工程と、
光カチオン重合性樹脂層を現像することにより、光カチオン重合性樹脂層の非露光部分を除去し、かつ、該非露光部分に対応する撥水層部分を除去し、前記微細パターンを形成する工程と、
加熱処理により、前記光カチオン重合性樹脂層を硬化して前記微細パターンが設けられた部材とし、かつ前記光カチオン重合性樹脂材料と撥水材との反応を促進させる工程と、を含むインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記微細パターンの潜像を形成する工程において、前記光カチオン重合性樹脂層をパターン露光した後、加熱する請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記撥水材が、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基を有する化合物である請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記撥水材が、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物であり、該パーフルオロポリエーテル基の平均分子量が500〜20000である請求項1又は3に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記光カチオン重合性樹脂材料が水酸基、エポキシ基及びオキセタン基からなる群から選択される少なくとも一つの官能基を有し、前記撥水材が、光カチオン重合性樹脂材料が有する前記官能基と反応して結合を形成し得る官能基を有する化合物である請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記撥水材が、下記式(4)、(5)及び(6)
【化1】

(式(4)中、Rfはパーフルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基、Rは加水分解性置換基、Xは炭素数1から3のアルキレン基、Yは非加水分解性置換基、aは1から3の整数を示す。)
【化2】

(式(5)中、Rf、R、X、Y及びaは前記式(4)と同義である。)
【化3】

(式(6)中、Rf、R、X、Y及びaは前記式(4)と同義である。また、Zは水素原子又はアルキル基、mは正の整数を示す。)
で表される化合物のいずれかの化合物からなる請求項1、3及び4のいずれか一項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記光カチオン重合性樹脂層が、芳香族ヨードニウム塩及び芳香族スルホニウム塩の少なくとも一方の光カチオン重合開始剤を含む請求項1又は5に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記光カチオン重合性樹脂層が、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物又はオキセタン化合物を含む請求項1、5及び7のいずれか一項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記光カチオン重合性樹脂層がエポキシ化合物を含み、該エポキシ化合物のエポキシ当量が2000以下である請求項1、5、7及び8のいずれか一項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記光カチオン重合性樹脂材料が5から35℃にて固体である請求項1、5及び7〜9のいずれか一項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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