説明

インクジェット記録ヘッドの製造方法

【課題】信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを歩留まりよく低コストで製造する方法を提供する。
【解決手段】インク供給用の開口を有する樹脂材料からなる支持部材1501と、開口と連通するインク供給口1502を有する記録素子基板1101を備えたインクジェット記録ヘッドの製造方法において、記録素子基板を支持部材に当接し、この当接部分を溶融させた状態で、記録素子基板の外周部の全周が溶融した樹脂に囲まれるように記録素子基板を支持部材へ押し込む工程と、その溶融した樹脂を降温により硬化して、記録素子基板の外周部の全周にわたって当接する壁を形成し、記録素子基板を支持部材に固定する工程を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録ヘッドおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、いわゆるノンインパクト記録方式の記録装置であり、記録時に騒音がほとんど生じず、高速な記録と様々な記録媒体に対する記録が可能であるという特徴を有している。
【0003】
このようなインクジェット記録装置に搭載されるインクジェット記録ヘッドのインク吐出方式としては次のようなものがある。例えば、ピエゾ素子等の電気機械変換体を用いたもの、あるいは、発熱抵抗体を有する電気熱変換素子によってインクを急速に加熱して得られる沸騰現象の作用によりインク滴を吐出させるものなどが知られている。
【0004】
電気熱変換素子を用いたインクジェット記録ヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための開口である吐出口と、この吐出口に連通するとともに電気熱変換素子からの熱をインクに付与する領域へインクを供給するインク流路と、共通液室と、を有している。
【0005】
また、インクジェット記録ヘッドは、これとインクタンクとが別個に着脱可能である形態のものや、インクジェット記録ヘッドとインク容器とが一体となったカートリッジの形態のものなどがある。
【0006】
図11A及び図11Bは、従来例に係るインクジェット記録ヘッドカートリッジを、それぞれ、吐出口が配された側から見た斜視図と、その反対側から見た斜視図である。このインクジェット記録ヘッドカートリッジは、インクジェット記録ヘッドとインク容器とを一体に構成したものである。
【0007】
図11(A)及び図11(B)において、インクジェット記録ヘッドカートリッジ601は、記録素子基板702を含む記録ヘッド部と、インクを貯留したインク貯留部と、を一体に構成したものである。記録素子基板702は、電気エネルギーを熱エネルギーに変換するためのエネルギー発生素子としてのヒーターと、そのヒーターに記録装置本体から供給される電気エネルギーを供給するための回路配線を備えている。また、ヒーターの発する熱をインクに付与するインク流路と、このインク流路と連通してインクを吐出するためのインク吐出口703と、を備えた流路形成部材も備えている。
【0008】
フレキシブル電気配線基板706は、記録装置本体からの電気信号を記録素子基板702に伝える配線を備える。また、その端部には記録装置本体からの電気信号を入力するための外部信号入力端子707を備える。フレキシブル電気配線基板706は、記録素子基板702の2つの端部と電気的に接続する。そして、この電気接続部は封止材708によって覆われ、これにより、記録ヘッド部表面に付着するインクから、電気接続部を保護している。
【0009】
記録素子基板702に供給されるインクは、インクジェット記録ヘッドカートリッジ601の筐体709に蓋710が設けられて構成されるインク貯留部に貯留される。筐体709の底部にはインク供給路が設けられ、このインク供給路を介してインク貯留部から記録素子基板702にインクを供給することができる。
【0010】
図12は、図11におけるC−C線に沿った断面図であり、記録ヘッド部の記録素子基板702の周囲の構成を示している。図12において、記録素子基板702は、インク吐出口703やインク流路を備えた流路形成部材や記録素子基板702上のヒーター等が省略された状態で示されている。
【0011】
筐体709の一部であって記録素子基板702を支持する支持部材802は、インク貯留部に収容されたインクを記録素子基板702に供給するためのインク供給口803を備える。
【0012】
支持部材802と記録素子基板702との接合は、支持部材802に熱硬化型接着剤804を塗布した後、記録素子基板702を精度良く位置合わせすることにより行われる。しかし、接着剤が十分に硬化するまでの間、位置あわせされた精度を保持する必要があるため、仮固定用のUV光硬化型接着剤806を部分的に塗布し、UV光を照射させて仮固定させる。その後、熱キュアすることで、精度を保持したまま接着固定できる。
【0013】
また、支持部材802には、接着剤にてフレキシブル電気配線基板706が接着固定される。
【0014】
記録素子基板702の外周部側面と支持部材802との間は、樹脂等の封止材805を用いて封止されている。その理由の一つは、記録素子基板702の外周部の側面壁をインクから保護するためである。なお、封止材には、製造工程での取り扱いが比較的容易な熱硬化型樹脂を使用するのが一般的である。
【0015】
記録素子基板702と支持部材802との接合は、上記のように、接着剤804にて接着固定する方法が一般的に知られている。例えば、接着剤が十分に硬化するまでに仮固定する方法が特開平5−220956号公報及び特開平9−183229号公報に記載されている。
【0016】
特開平5−220956号公報には、インクジェット記録ヘッドの圧電素子ユニットと固定板とを接合する際に、本固定用接着剤と仮固定用の仮止め接着剤を併用することが記載されている。ここでは、仮止め接着剤にはUV系接着剤が使用され、本固定用接着剤には常温硬化型接着剤が使用されている。また、特開平9−183229号公報には、インクジェット記録ヘッドのヒーターボード(記録素子基板)をベースボード(支持部材)へ接合する際に、本固定用接着剤と仮固定用の仮止め接着剤を併用することが記載されている。ここでは、仮止め用接着剤には光硬化型接着剤を用い、本固定用接着剤には自然硬化型もしくは熱硬化型の接着剤を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平5−220956号公報
【特許文献2】特開平9−183229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、記録素子基板702と支持部材802とを接着剤を用いて接合する際、その接合時に接着剤がインク供給口803内へ流れ込むことがある。そのため、吐出性能が低下したり、信頼性が低下し、さらには、インク供給口803が塞がれ、吐出が不可能になる場合もある。
【0019】
また、仮固定用の接着剤を部分的に塗布して短時間で光硬化させて仮固定を行う場合、仮固定用接着剤の塗布位置は、記録素子基板702の外周部側面と支持部材802との間の狭い隙間の中となる。そのため、適切な塗布を行なうことが困難であり、仮固定の不良による歩留まりの低下を招く。さらに、塗布時に飛散した接着剤が記録素子基板702の表面に付着すると、吐出性能を低下させ、歩留りや信頼性を低下させることにもなる。
【0020】
本発明の目的は、記録素子基板の取り付けを歩留まりよく低コストで行なうことが可能であり、信頼性が高いインクジェット記録ヘッドおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、インク供給用の開口を備える樹脂材料からなる支持部材と、前記開口と連通するインク供給口を備える記録素子基板と、前記支持部材に接合された前記記録素子基板の外周部側面に少なくとも部分的に当接する壁と、を含み、該壁は、前記開口の周囲の当該支持部材に形成され、前記記録素子基板の前記支持部材に対する前記壁の当接方向の位置決めを成すインクジェット記録ヘッドを提供するものである。
【0022】
また本発明は、インク供給用の開口を備える樹脂材料からなる支持部材と、前記開口と連通するインク供給口を備える記録素子基板と、を備えるインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、前記記録素子基板を当接させる前記支持部材の開口周囲の外周に沿って、前記記録素子基板の外周部に当接させる壁が形成された当該支持部材を用意する工程と、前記壁が外方へ移動するように前記支持部材を加熱膨張させ、当該壁に囲まれた領域内の前記支持部材上へ前記記録素子基板を配置する工程と、前記支持部材を降温により収縮させ、前記記録素子基板の外周部に当接する前記壁により前記記録素子基板を前記支持部材に仮固定する工程と、を含むインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供するものである。
【0023】
また本発明は、インク供給用の開口を備える樹脂材料からなる支持部材と、前記開口と連通するインク供給口を備える記録素子基板と、を備えるインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、前記記録素子基板を前記支持部材に当接し、当該支持部材の当接部分を溶融させた状態で、前記記録素子基板の外周部の全周が溶融した樹脂に囲まれるように当該記録素子基板を前記支持部材へ押し込む工程と、前記溶融した樹脂を降温により硬化して、前記記録素子基板の外周部の全周にわたって当接する壁を形成し、前記記録素子基板を前記支持部材に仮固定する工程と、を含むインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、記録素子基板の取り付けを歩留まりよく低コストで行なうことが可能であり、信頼性が高いインクジェット記録ヘッドおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドとインク容器とを一体に構成したインクジェット記録ヘッドカートリッジの説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドを構成する記録素子基板の説明図である。図2(A)は基板の表面側を示す平面図であり、図2(B)は基板の裏面側を示す平面図であり、図2(C)は基板(流路形成部材を形成する前)の表面側を示す平面図である。
【図3】本発明の実施例1における記録素子基板と支持部材との仮固定方法を説明するための模式図である。図3(A)及び図3(C)は断面図であり、図3(B)及び図3(D)は平面図である。
【図4】本発明の実施例2における記録素子基板と支持部材との仮固定方法を説明するための模式図である。図4(A)〜図4(D)は断面図であり、図4(E)は平面図であり、図4(F)は斜視図である。
【図5】本発明の実施例2における記録素子基板と支持部材との他の仮固定方法を説明するための断面模式図である。
【図6】本発明の実施例3における記録素子基板と支持部材との他の仮固定方法を説明するための断面模式図である。
【図7】本発明の実施例4における記録素子基板と支持部材との他の仮固定方法を説明するための断面模式図である。
【図8】本発明の実施例5における記録素子基板と支持部材との他の仮固定方法を説明するための断面模式図である。
【図9】本発明の実施例6における記録素子基板と支持部材との他の仮固定方法を説明するための断面模式図である。
【図10】本発明の実施例7における記録素子基板と支持部材との他の仮固定方法を説明するための断面模式図である。
【図11】従来のインクジェット記録ヘッドとインク容器を一体に構成したインクジェット記録ヘッドカートリッジを説明するための斜視図である。図11(A)は吐出口が配された側(下側)から見た斜視図であり、図11(B)はその反対側(上側)から見た斜視図である。
【図12】従来のインクジェット記録ヘッドを説明するための、図11(A)におけるC−C線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0027】
図1及び図2は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの構成を示す図である。図1(A)は、インクジェット記録ヘッドとインク容器とを一体に構成したインクジェット記録ヘッドカートリッジの斜視図である。図1(B)は、図1(A)のB−B線に沿った断面図、図1(C)は記録ヘッド部を分解して示す斜視図である。図2(A)は、記録ヘッド部を構成する記録素子基板の表面を示す平面図である。図2(B)は、記録ヘッド部を構成する記録素子基板の裏面を示す平面図である。図2(C)は、記録素子基板の表面へ流路形成部材を形成する前の記録素子基板の表面を示す平面図である。
【0028】
これらの図において、記録素子基板1101は、厚さ0.625mmのシリコン(Si)材料よりなる板状部材である。そして、その片側にインクを吐出するためのエネルギー発生素子としての複数の電気熱変換素子(不図示)と、それぞれの電気熱変換素子であるヒーターに電力を供給するアルミニウム(Al)等の電気配線(不図示)が、成膜技術により形成されている。
【0029】
さらに、記録素子基板1101の表面側には、これらの電気熱変換素子に対応する複数のインク流路(不図示)と複数のインク吐出口1104が形成された流路形成部材1103(図2(A))が、フォトリソグラフィ技術により形成される。これとともに、複数のインク流路にインクを供給するためのインク供給口1102(図2(B))が、記録素子基板1101を貫通して形成される(図2(C))。つまり、記録素子基板1101の表面側では、このインク供給口1102の開口を覆って、流路形成部材1103が、その流路形成部材1103内部に形成されているインク流路とインク供給口1102の開口とを連通するように形成されている。
【0030】
電気配線部材1301は、記録素子基板1101を組み込むための開口であるデバイスホール1304と、記録素子基板1101の電極1105に対応する電極端子1302を備えている(図1(C))。また、この電気配線部材1301の記録装置本体からの駆動制御信号を受け取るための外部信号入力端子1303も備えている(図1(C))。この外部入力端子1303と電極端子1302が、銅箔の配線で連結して可撓性の電気配線部材1301に形成されている。
【0031】
支持部材1501は、樹脂成形により形成されており、本実施例で使用した樹脂材料(変性ポリフェニレンエーテル)は、形状的剛性を向上させるためにガラスフィラーを35質量%混合している。
【0032】
支持部材1501を構成する樹脂材料は、記録素子基板1101の仮固定のための加熱により膨張し、冷却により収縮する材料を用いる。さらに、以下に詳述する各実施例においては、十分な仮固定を行うためには、支持部材1501の線膨張率が記録素子基板1101の線膨張率より大きい方が好ましいものである。加熱温度は、記録素子基板1101に形成された各種部材や素子のダメージを防止する点から200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。また、この加熱温度は、十分な加熱効果を得るために、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。後述の実施例2のように、仮固定時において仮固定用壁を形成する場合は、このような温度範囲において溶融する樹脂が望ましい。このような樹脂材料としては、熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)の他、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が挙げられる。形状的剛性を高めるためにガラスフィラー等の補強材を混合したり、所望の性能に応じてその他の材料を混合したりしてもよい。
【0033】
なお、仮固定とは、2つの部材を接着剤で位置決め固定する際に、本固定用の接着剤が有効になるまで時間を要する場合、とりあえず、短時間で、2つの部材の相互位置関係が少なくとも変化しない程度の強度で固定されることをいう。
【0034】
この支持部材1501は、インク貯留部からのインク供給を受けるためのインク供給路1502を有している(図1(C))。また、記録素子基板1101を仮固定するための仮固定用壁1503が形成されており、仮固定用壁1503及び記録素子基板1101の外周部側面は封止材1504で覆われている(図1(B))。記録素子基板1101と支持部材1501との接合部に封止材1504を設けることにより、インク漏れを防止することができる。
【0035】
(実施例1)
図3は、本発明の実施例1に係る記録素子基板1101と支持部材1501との仮固定方法を説明するための模式図(図3(A)及び図3(C)は断面図、図3(B)及び図3(D)は平面図)である。
【0036】
図3(A)及び図3(B)に示すように、支持部材1501には、記録素子基板1101の外周部側面に当接する仮固定用壁1503を予め形成しておく。本実施例では、記録素子基板1101の平面形状が矩形であり、記録素子基板の外周部の各辺の中央部に当接するように仮固定用壁1503を形成した。本実施例の場合には仮固定用壁1503は4箇所に設けてあるが、仮固定の目的が達成されるように仮固定用壁1503を記録素子基板1101を挟むように配置すれば、最低限2箇所でも足りる。また、逆に5箇所以上に仮固定用壁1503を配置しても構わない。少なくとも、仮固定用壁1503は、対向する2つの辺のそれぞれ1箇所に、仮固定用壁1503による押圧方向が対向する位置関係となるように配置されていればよい。
【0037】
この仮固定用壁1503により、記録素子基板1101が支持部材1501との接合面の面内方向において位置決めされる。すなわち、この仮固定用壁1503は、記録素子基板1101の支持部材1501に対する当該壁の当接方向の位置決めを成す。この記録素子基板1101の平面形状は矩形の他、正方形等の多角形であってもよい。また本実施例では、仮固定用壁1503の高さを150μm程度とした。仮固定用壁1503の高さは装置ハンドリング等で加わる力に応じて適宜決定すればよい。
【0038】
このように仮固定用壁1503を設けた支持部材1501に、以下のようにして記録素子基板1101を固定する。
【0039】
まず、吸引ブロック902により保持した記録素子基板1101と、支持部材1501とを位置合わせする。
【0040】
次に、図3(A)に示すように、100℃程度に加熱した加熱ブロック903を支持部材1501に近づけ、支持部材1501の基板接合部1506を加熱膨張させる。図3(A)及び図3(B)に示すように、加熱膨張により仮固定用壁1503は、仮固定用壁相互の間隔を広げるように外側(図中の矢印方向)に向かって(外方へ)移動する。
【0041】
この状態で予め位置合わせを行っていた記録素子基板1101を支持部材1501の基板接合部1506に挿入する。
【0042】
記録素子基板1101を保持したまま、支持部材1501を冷却することで支持部材1501が収縮し、図3(C)及び図3(D)に示すように、仮固定用壁1503が相互の間隔を狭くするように内側(図中の矢印方向)に向かって移動する。そして、記録素子基板1101の外周部側面に対して少なくとも部分的に当接し、押し圧することにより、仮固定が完了する。
【0043】
仮固定後、電気配線部材1301を支持部材1501に接着固定し、電気配線部材1301の電極端子1302と記録素子基板1101との電気接続を行なう。
【0044】
次いで、記録素子基板1101の外周部側面と支持部材1501との間に熱硬化型樹脂からなる封止材1504を塗布し、熱キュアすることで、記録素子基板1101と支持部材1501との接合が完了する(図1(B))。
【0045】
この封止材1504は、仮固定用壁1503及び記録素子基板1101の外周部側面を覆うように塗布され、支持部材1501と記録素子基板1101との接合部からのインクの漏れを防止することができる。
【0046】
(実施例2)
図4は、インクジェット記録ヘッドの製造における本発明の実施例2に係る記録素子基板1101と支持部材1501との仮固定方法を説明するための模式図(図4(A)〜図4(D)は断面図、図4(E)は平面図、図4(F)は斜視図)である。
【0047】
図4(A)に示すように、記録素子基板1101を加熱吸引ブロック901により保持した後、支持部材1501との位置合わせを行う。
【0048】
位置合わせ終了後、支持部材1501が溶融する温度以上になるまで記録素子基板1101を加熱する(図4(A))。ここで、本実施例の支持部材1501の溶融温度は120℃程度である。この加熱温度は、200℃を越える温度に設定すると、他の構成部材を熱で損傷させるおそれがあるので、150℃以上200℃以下が好ましい範囲である。本実施例では、支持部材1501の溶融温度が120℃程度であるのに対し、記録素子基板1101を180℃に加熱した。
【0049】
その後、支持部材1501のインク供給路1502の開口周囲の部分に当接するように、加熱保持した記録素子基板1101を押し付ける。その際、支持部材1501の基板接合部1506(当接部分)を溶融させると同時に、溶融した樹脂が記録素子基板1101の外周に沿ってはみ出すように押し付けた(図4(B))。支持部材1501を冷却して降温することで、記録素子基板1101の外周に沿ってはみ出した樹脂により仮固定用壁1503が形成される(図4(C))。
【0050】
図4(E)及び図4(F)に、支持部材1501へ記録素子基板1101を設置し、この記録素子基板1101の外周に仮固定用壁1503が形成されている状態を示す。
【0051】
支持部材1501の線膨張率は、記録素子基板1101の線膨張率よりも大きいため、冷却後、記録素子基板1101よりも支持部材1501がより収縮する。その結果、仮固定用壁1503が図中の矢印方向へ押し圧して、記録素子基板1101を外周から押さえ込み、仮固定が可能となる。この仮固定用壁1503は、記録素子基板1101の外周部側面の全面ではなくてもよく、少なくとも部分的に当接するものであってもよい。
【0052】
本実施例では、仮固定用壁1503をその高さが100μm程度になるように形成した。このように仮固定されたインクジェット記録ヘッドを、100mmの高さから落下させても、記録素子基板1101が支持部材1501から外れないことを確認した。
【0053】
仮固定力は、記録素子基板1101の押し込み量を変化させることで、形成される仮固定用壁1503の高さを制御し、調整することが可能である。したがって、仮固定後に支持部材1501および記録素子基板1101に装置のハンドリング等で加わる力に応じて、仮固定用壁1503の高さを決定すればよい。
【0054】
以上のようにして仮固定を行った後、電気配線部材1301を支持部材1501に接着固定し、電気配線部材1301の電極端子1302と記録素子基板1101との電気接続を行なう。
【0055】
次いで、記録素子基板1101の外周部側面と支持部材1501との間に熱硬化型樹脂からなる封止材1504を塗布し、熱キュアすることで、記録素子基板1101と支持部材1501との接合が完了する(図4(D))。
【0056】
この封止材1504は、仮固定用壁1503及び記録素子基板1101の外周部側面を覆うように塗布され、記録素子基板1101と支持部材1501との接合部からのインクの漏れを防止することができる。また、記録素子基板1101の外周部の全周の側面にわたって当接する仮固定用壁1503が形成されているため、封止材1504がインク供給路1502内に入り込むことはない。
【0057】
より短時間で仮固定用壁1503を形成させる場合は、加熱吸引ブロック901に代えて、吸引ブロック902と加熱ブロック903とを用いて、次のように押し付け工程を行ってもよい。
【0058】
図5に示すように、加熱ブロック903を、吸引ブロック902で保持した記録素子基板1101と支持部材1501との間に入れ、両方を同時に加熱する(図5(A))。
【0059】
加熱後、加熱ブロック903を退避させるとともに、吸引ブロック902で保持した記録素子基板1101を支持部材1501に押し付ける(図5B)。
【0060】
予め支持部材1501が溶融した状態で、記録素子基板1101を押し付けることができるため、より短時間で仮固定用壁1503を形成することができる。
【0061】
(実施例3)
図6は、本発明の実施例3に係る記録素子基板1101と支持部材1501との仮固定方法を説明するための模式図(断面図)である。
【0062】
上述の実施例2と相違する構成として、図6(A)に示すように、支持部材1501のインク供給路1502の上部(基板接合部1506側)の開口幅を広くした。こうすることで、記録素子基板1101を支持部材1501に押し込んだ際(図6(B))の支持部材1501の溶融量を減らすことができる。その他の仮固定方法は、加熱した記録素子基板1101の熱で基板接合部1506を溶融するという実施例2の具体的方法と同様である。これにより、支持部材1501の溶融を短時間化することができ、支持部材1501に記録素子基板1101を仮固定する時間が短縮可能となる。
【0063】
また、インク供給路1502の幅を全体的に広げても同様な効果が得られるが、吐出特性の観点からインク供給路1502幅を極力広げたくない場合は、上述したような、インク供給路1502の上部の幅だけを広げる形状の方が好ましい。
【0064】
(実施例4)
図7は、本発明の実施例4に係る記録素子基板1101と支持部材1501との仮固定方法を説明するための模式図(断面図)である。
【0065】
上述の実施例2と相違する構成として、図7(A)に示すように、支持部材1501の基板接合部1506側において、インク供給路1502の開口周囲に開口側へ下る斜面1507を設けた。この斜面1507は、矩形の記録素子基板1101の長手方向の底辺が接触する関係にある基板接合部1506のインク供給路1502上部(基板接合部1506側)の幅が広く、記録素子基板1101の押し込み方向に狭まるような斜面となる。なお、斜面1507は、記録素子基板1101の短手方向の底辺と接触する関係にある基板接合部1506に設けてもよく、上述の長手方向の場合の構成と合わせてもよい。その他の仮固定方法は、加熱した記録素子基板1101の熱で基板接合部1506を溶融するという実施例2の具体的方法と同様である。
【0066】
こうすることで、加熱した記録素子基板1101下面外周エッジ部のみが支持部材1501と当接し、押し込むことになる(図7(B))。それにより、さらに支持部材1501の溶融量を減らすことが可能となり、より短時間での記録素子基板1101と支持部材1501との仮固定が可能となる。
【0067】
(実施例5)
図8は、本発明の実施例5に係る記録素子基板1101と支持部材1501との仮固定方法を説明するための模式図(断面図)である。
【0068】
図8(A)に示すように、予め、支持部材1501の基板接合部1506に凸部1505を設ける。この凸部は、基板接合部1506に開口したインク供給路1502の周囲を取り囲み(図8(C))、記録素子基板1101の下面外周部が当接できるように設けられる。凸部1505の接合方向の断面形状は、幅は約200μm、高さは約150μmの長方形形状とした。この断面形状は正方形形状としてもよい。この凸部は、支持部材の成形時に一体成形により設けることができる。
【0069】
図8(B)に示すように、例えば上述の実施例2の加熱ブロック903と吸引ブロック902とを用いる方法で加熱された記録素子基板1101を、支持部材1501に設けた凸部1505に押し当てる。この時の熱は、凸部1505の下面のみから支持部材1501へと伝熱される。そのため、上述の実施例2〜4の場合と比べて、溶融部(凸部)の熱が他へ放熱し難い構造となっている。よって、より早く溶融部(凸部)を昇温させることができ、溶融時間の短縮が可能となる。
【0070】
溶融されて記録素子基板1101の下面外周部によって押し潰された凸部1505は、記録素子基板1101の外周部側面を押圧する壁を形成する。この壁は、本実施例における仮固定用壁1503となる。ここでは、その仮固定用壁の高さ(記録素子基板1101の外周部側面と接している部位)を100μm程度になるように形成した。この仮固定用壁1503は、記録素子基板1101の外周部側面の全面ではなくてもよく、少なくとも部分的に当接するものであってもよい。このように仮固定された記録ヘッドを、100mmの高さから落下させても、記録素子基板が外れないことを確認した。
【0071】
(実施例6)
図9は、本発明の実施例6に係る記録素子基板1101と支持部材1501との仮固定方法を模式的に示す断面図である。
【0072】
図9(A)に示すように、支持部材1501の基板接合部1506に凸部1505を設ける。凸部1505の断面形状(凸部延在方向に垂直な断面の形状)は略台形形状とした。凸部1505下面と凸部内周側斜面のなす角度θ1は、凸部下面と凸部外周側斜面のなす角θ2よりも小さくなるような台形形状とした(図9(C))。凸部の高さは約150μmとした。この凸部は、支持部材の成形時に一体成形により設けることができる。ここで、凸部下面は、支持部材1501の基板接合部1506側における、インク供給路1502の開口周囲の支持部材平面に含まれる。
【0073】
内周側と外周側で非対称な台形形状とすることで、凸部1505は記録素子基板1101の外周方向へ変形しやすくなる。よって凸部を溶融させた際は、図9(B)に示すように、溶融した樹脂が記録素子基板1101の外周方向へはみ出しやすくなり、より少ない凸部1505の溶融で、記録素子基板1101の仮固定が可能となる。これにより、仮固定に要する時間の短縮が図れる。
【0074】
なお、凸部1505の溶融・変形で形成された仮固定用壁1503は、記録素子基板1101の外周部側面の全面ではなくてもよく、少なくとも部分的に当接することで仮固定の効果を有することができる。
【0075】
(実施例7)
図10は、本発明の実施例7に係る記録素子基板1101と支持部材1501との仮固定方法を模式的に示す断面図である。
【0076】
実施例6と同様に、支持部材1501に台形形状を含む略台形形状の凸部1505を設ける。
【0077】
この略台形凸部1505は、その内周側斜面が、記録素子基板1101下面外周エッジ部に当接する位置に設けた(図10(A))。こうすることで、加熱した記録素子基板1101下面外周エッジ部のみが支持部材1501に設けた略台形凸部1505の凸部内周側斜面と当接し、押し込まれることになる(図10(B))。この凸部は、支持部材の成形時に一体成形により設けることができる。
【0078】
これにより、さらに支持部材1501の溶融量を減らすことが可能となり、より短時間での記録素子基板1101と支持部材1501との仮固定が可能となる。
【0079】
なお、凸部1505の溶融・変形で形成された仮固定用壁1503は、記録素子基板1101の外周部側面の全面ではなくてもよく、少なくとも部分的に当接することで仮固定の効果を有することができる。
【0080】
以上、説明した各工程を経て、インクジェット記録ヘッドが完成する。
【0081】
さらに、インク貯留部へのインク充填と蓋の接合等を経て、インクジェット記録ヘッドカートリッジが完成する。
【0082】
以上、詳述した各実施例によれば、記録素子基板と支持部材の接合に接着剤を用いないために、接着剤に係わる処理や費用が不要になり、製造コストを削減することができる。また、接着剤を用いた場合の種々の問題を回避でき、歩留まりや信頼性を向上することができる。そのため、歩留り良く低コストで製造可能な、信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【符号の説明】
【0083】
601 インクジェット記録ヘッドカートリッジ
702 記録素子基板
703 インク吐出口
706 フレキシブル電気配線基板
707 外部信号入力端子
708、805 封止材
709 筐体
710 蓋
802 支持部材
803 インク供給口
804 熱硬化型接着剤
806 UV光硬化型接着剤
901 加熱吸引ブロック
902 吸引ブロック
903 加熱ブロック
1101 記録素子基板
1102 インク供給口
1103 ノズルプレート
1104 インク吐出口
1105 電極
1301 電気配線部材
1302 電極端子
1303 外部信号入力端子
1304 デバイスホール
1501 支持部材
1502 インク供給路
1503 仮固定用壁
1504 封止材
1505 凸部
1506 基板接合部
1507 斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク供給用の開口を備える樹脂材料からなる支持部材と、前記開口と連通するインク供給口を備える記録素子基板と、を備えるインクジェット記録ヘッドの製造方法の製造方法であって、
前記記録素子基板を前記支持部材に当接し、当該支持部材の当接部分を溶融させた状態で、前記記録素子基板の外周部の全周が溶融した樹脂に囲まれるように当該記録素子基板を前記支持部材へ押し込む工程と、
前記溶融した樹脂を降温により硬化して、前記記録素子基板の外周部の全周にわたって当接する壁を形成し、前記記録素子基板を前記支持部材に固定する工程と、を含むインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記押し込む工程は、前記記録素子基板を加熱し、且つ前記支持部材の前記記録素子基板を当接させる部分を加熱して溶融した後に、前記記録素子基板を前記支持部材に当接して押し込む工程である、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記押し込む工程は、前記記録素子基板を加熱保持したまま、前記支持部材の前記記録素子基板との接合部に設けた凸部に当接し押し込むことで、前記支持部材に設けた前記凸部の一部を溶融させて前記記録素子基板の外周部に当接する壁を形成する工程である、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記支持部材に設けた前記凸部の断面形状は台形形状であり、前記凸部の下面と前記凸部の内周側斜面のなす角度は、前記凸部の下面と前記凸部の外周側斜面のなす角度よりも小さい、請求項3に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記支持部材に設けた前記凸部の断面形状は台形形状であり、前記凸部の内周側斜面のみに前記記録素子基板の下面外周エッジ部を当接させる、請求項3に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−47011(P2013−47011A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−242867(P2012−242867)
【出願日】平成24年11月2日(2012.11.2)
【分割の表示】特願2007−303179(P2007−303179)の分割
【原出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】