説明

インクジェット記録ヘッド用シールテープ及びこれを用いたインクジェット記録ヘッド

【課題】十分な粘着力を有し、経時変化による粘着力の増大を抑制し、インク成分のアタックによる粘着剤の劣化を抑制し、粘着剤からの溶出成分を低減できるインクジェット記録ヘッド用シールテープを提供する。
【解決手段】吐出口が形成されたチップ表面に剥離可能に接合されるインクジェット記録ヘッド用シールテープにおいて、
前記シールテープは基材層と、該基材層上に粘着層とを有し、
前記粘着層は、
(1)(a)ビニル芳香族化合物単位と、(b)オレフィン系炭化水素単位と、からなる不飽和炭素結合を有さない(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体:70〜100質量%、
((A):(a)を単位とする、(B):(b)を単位とする)
(2)ポリオレフィン:0〜30質量%、からなり、
前記(1)中の(a)単位の含有率が10〜30質量%であるインクジェット記録ヘッド用シールテープ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッドに設置された、インクを吐出する吐出口が形成されたチップ表面を保護するために剥離可能に接合されるインクジェット記録ヘッド用シールテープ及びこれを用いたインクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッドの吐出口は、使用時にはインクが吐出するために大気に対して開放された状態にある。一方、非使用時にはインクジェット記録ヘッドの吐出口が配列された面にキャッピングを行い、吐出口を介したインク溶剤の蒸発により生じる吐出口の目詰まりや接触による損傷などを防止している。
【0003】
インクジェット記録ヘッドがプリンターなどの装置に装着されている場合は、キャッピングによって保護できる。しかし、インクジェット記録ヘッドが装置に装着されていないとき、特に物流過程にあるときは、別の手段によってインク溶剤の蒸発や接触による損傷を防止する必要がある。そのため、特許文献1又は2に開示されているように、粘着性を有するシールテープでインク吐出口を含むチップ表面を保護することが行われている。
【0004】
特許文献3では、シールテープの粘着層としてアクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤(天然ゴム系、合成ゴム系、再生ゴム系、熱硬化性ゴム系、スチレン・イソプレン・スチレン系)、ペトロラタム系粘着剤が使用できることが開示されている。
【0005】
しかし、インクジェット記録ヘッドに貼り付けられたシールテープはその粘着力が強すぎると、剥離時にインクジェット記録ヘッドを破損してしまう場合がある。そのため、シールテープの粘着力を吐出口面の部位に応じて変化させることが特許文献4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−234659号公報
【特許文献2】特開平3−248849号公報
【特許文献3】特開2007−326965号公報
【特許文献4】特開2007−301769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、より高精細な画像記録への要求が高まっているが、そのためにはインクジェット記録ヘッドの吐出口からのインク吐出量を少なくし、解像度を上げることが必要となる。一般的なインクジェット記録ヘッドは、ヒーターやピエゾ素子などの吐出エネルギー発生素子が形成された基板上に樹脂膜を形成し、その樹脂内に任意数の吐出エネルギー発生素子に対応するように流路を形成する。その後、各々の流路を樹脂表面に連通させて吐出口を形成している。このようなインクジェット記録ヘッドは、吐出口周辺内部に流路やヒーターなどの吐出エネルギー発生素子などが設置され、中空構造を有する。
【0008】
一方、前述の構造を有するインクジェット記録ヘッドではヒーターなどの吐出エネルギー発生素子と吐出口との距離がインク吐出量に影響し、その距離は樹脂膜の膜厚によって決定できる。そのため、吐出口からのインク吐出量を少なくして解像度を上げるためには、吐出口を形成する樹脂膜の膜厚を薄くする必要がある。さらに、吐出口の高密度化が必要とされるなど、吐出口周辺の中空構造はより中空率が高まる傾向にある。その結果、吐出口を形成する樹脂膜が外部からの応力に対して脆弱化する場合があった。従って、この樹脂膜と接合されるインクジェット記録ヘッド用シールテープの粘着力は、剥離時に樹脂膜にダメージを与えない程度に調整されている必要がある。例えば、粘着力が大きすぎる場合、シールテープ剥離時にインクジェット記録ヘッドを破損してしまう場合があった。
【0009】
一般的に、粘着剤は貼付直後から経時的に流動し濡れ広がることで被着体となじみ、接触面積が増大することでその粘着力が増大する。同様に、粘着剤を用いたシールテープの粘着力はチップ表面への貼付直後から、物流保管中に経時的に増大する。
【0010】
インクジェット記録ヘッド用のシールテープは前述のように、吐出口を介したインク溶剤の蒸発により生じる吐出口の目詰まりや接触による損傷などを防止することを目的としている。そのため、貼付直後から使用時までの間は粘着力不足などの要因で剥がれてしまわないように、常に十分な粘着力を維持している必要がある。一方で、その粘着力は剥離時にインクジェット記録ヘッドにダメージを与えない程度に調整されなければならない。
【0011】
貼付直後に十分な粘着力を持たせた場合、経時変化後には粘着力が増大するため、剥離時のインクジェット記録ヘッドへのダメージが懸念される。逆に、経時変化後の増大した粘着力をインクジェット記録ヘッドへのダメージを与えないレベルに調整した場合、貼付直後からの粘着力不足が懸念される。高精細な画像記録への要求が高まるにつれて、吐出口周辺の中空構造の中空率が高まるため、この傾向はより顕著になることが予想される。
【0012】
前述した特許文献4に記載されているように、従来より、シールテープの粘着力を吐出口面の部位に応じて変化させる対応が考えられているが、工程が増加し複雑化するため、より高価な設備が必要となる課題があり、更なる改良が望まれる。
【0013】
また、従来より、これらの課題解決のために様々な粘着剤の検討がなされてきたが、インクジェット記録ヘッド用シールテープには、前述した粘着力の調整の他にも、使用されるインク成分との反応(アタック)による粘着剤の劣化を抑制することが必要である。また、使用されるインク特性を変化させないために粘着剤からの溶出成分を低減することが必要であるなど、様々な制約がある。結果として、インクジェット記録ヘッドへの使用に際しては、特有の粘着剤組成が必須となってきている。
【0014】
本発明は、インクジェット記録ヘッドのインクを吐出する吐出口を封止するのに十分な粘着力を有し、かつ経時変化による粘着力の増大を抑制したインクジェット記録ヘッド用シールテープを提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、使用されるインク成分のアタックによる粘着剤の劣化を抑制し、インク特性が変化しないように粘着剤からの溶出成分を低減できるインクジェット記録ヘッド用シールテープを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るインクジェット記録ヘッド用シールテープは、インクを吐出する吐出口が形成されたチップが設置されたインクジェット記録ヘッドの該チップ表面に、剥離可能に接合されるインクジェット記録ヘッド用シールテープにおいて、
前記インクジェット記録ヘッド用シールテープは、基材層と、該基材層上に粘着層とを有し、前記粘着層は、
(1)(a)ビニル芳香族化合物単位と、(b)オレフィン系炭化水素単位と、からなる不飽和炭素結合を有さない(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体:70〜100質量%、
((A)は(a)を単位とする重合体ブロック、(B)は(b)を単位とする重合体ブロック、とする)
(2)ポリオレフィン:0〜30質量%、からなり、
前記(1)(A)−(B)−(A)ブロック共重合体中の(a)ビニル芳香族化合物単位の含有率が10〜30質量%であることを特徴とする。
【0017】
また、前記(b)オレフィン系炭化水素単位が架橋性官能基を有し、前記粘着層が、前記架橋性官能基と反応する架橋剤を含むことを特徴とする。
【0018】
また、前記架橋性官能基はエポキシ基又はオキセタニル基であることを特徴とする。
【0019】
また、前記(2)ポリオレフィンが、ポリエチレン又はポリプロピレンであることを特徴とする。
【0020】
また、前記(a)ビニル芳香族化合物単位からなる重合体ブロック(A)のTgが120℃以上であり、かつ
前記(b)オレフィン系炭化水素単位からなる重合体ブロック(B)のTgが0℃以下であることを特徴とする。
【0021】
また、前記基材層の基材樹脂としてポリオレフィンを用い、前記粘着層と前記基材層の2層共押出し成型によって製造することを特徴とする。
【0022】
また、前記粘着層と基材層の2層共押出し成型時に、前記(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体が動的架橋されることを特徴とする。
【0023】
また、前記基材層の基材樹脂が、ポリエチレン又はポリプロピレンであることを特徴とする。
【0024】
本発明に係るインクジェット記録ヘッドは、前記チップ表面に前記インクジェット記録ヘッド用シールテープが剥離可能に接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、インクジェット記録ヘッドのインクを吐出する吐出口を封止するのに十分な粘着力を有し、かつ経時変化による粘着力の増大を抑制したインクジェット記録ヘッド用シールテープを提供できる。
【0026】
また、本発明によれば、使用されるインク成分のアタックによる粘着剤の劣化を抑制し、インク特性が変化しないように粘着剤からの溶出成分を低減できるインクジェット記録ヘッド用シールテープを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態であるインクジェット記録ヘッド用シールテープを貼りつけたインクジェット記録ヘッドを説明するための斜視図である。
【図2】本発明に係るインクジェット記録ヘッドを説明するための斜視図である。
【図3】本発明に係る粘着剤の形態と環境温度に対する粘着剤の流動性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(インクジェット記録ヘッド)
以下に本発明における実施形態について図面を参照して説明する。図1に、本発明のインクジェット記録ヘッド用シールテープを適用したインクジェット記録ヘッドの一例を示す。このインクジェット記録ヘッドは、インクタンク一体型であり、インクタンク内にインクが充填されている。更に吐出口表面には吐出口保護用のシールテープH1401が、少なくとも吐出口を覆って貼り付けられている。すなわち、図1は、シールテープH1401によって吐出口が封止された物流過程における形態としてのインクジェット記録ヘッドを示している。ただし、本発明はインクタンク別体型のインクジェット記録ヘッドにも適用することもできる。
【0029】
以下に各構成要素を詳細に説明する。図2は、インクジェット記録ヘッドの構成を示した斜視図である。記録素子基板(チップ)H1101上には、フォトリソ工程にてインク流路及び吐出口が設けられている。電気配線テープH1301は、インクを吐出するための電気信号を記録素子基板H1101に印加する経路を形成したものであり、ポリイミドフィルム上に銅配線を形成したものなどである。電気信号は外部信号入力端子H1302を介してプリンター本体より伝えられる。インクジェット記録ヘッドの筐体は、樹脂成形により形成されており、そこに記録素子基板H1101と電気配線テープH1301が実装される。記録素子基板H1101は封止材H1307及びH1308によって封止される。
【0030】
物流過程では、図1のように吐出口を保護するために、吐出口の形成されたチップH1101の表面に、剥離可能にシールテープH1401が接合されている。また、シールテープH1401を剥離しやすくするためのタグテープH1402が貼られる。シールテープH1401により吐出口が封止されることにより、吐出口の保護のみならず、物流時に生じる温度や圧力変動による吐出口からのインク漏れが防止される。
【0031】
(インクジェット記録ヘッド用シールテープ)
本発明に係るインクジェット記録ヘッド用シールテープは、基材層と、該基材層上に前記チップ表面と接合する粘着層とを有する。該粘着層は、(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体と(2)ポリオレフィンからなる。
【0032】
(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体を使用した粘着剤は、粘着付与剤や軟化剤などを含有することが一般的である。これは、(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体単独では粘着力の確保が難しいためであり、粘着力の発現はテルペン系樹脂等の粘着付与剤に依存している。また、成形性を向上するためには、パラフィン等の軟化剤の添加が必要である。結果として、一般的な組成の粘着剤をインクジェット記録ヘッド用シールテープの粘着層に使用した場合、粘着付与剤や軟化剤などの添加物がインク中に溶出してインクの特性が変化したり、添加物がインクの吐出口近傍に残留したりするなどの不具合が生じる。本発明においては、(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体及び(2)ポリオレフィンのみで粘着剤を構成することにより、インクジェット記録ヘッド用シールテープの粘着層への使用を可能としたことが本発明の大きな特徴である。
【0033】
((1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体)
(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体は、(a)ビニル芳香族化合物単位と、(b)オレフィン系炭化水素単位と、からなる。(A)は(a)ビニル芳香族化合物単位を単位とする重合体ブロックであり、(B)は(b)オレフィン系炭化水素単位を単位とする重合体ブロックである。
【0034】
本発明で用いられる(a)ビニル芳香族化合物単位としては、スチレン、α−メチルスチレン、4−アセチルスチレン、3−(4−ジフェニリル)スチレン、4−(4−ジフェニリル)スチレン、4−ブロモスチレン、4−tert−ブチルスチレン、4−クロロ−2−メチルスチレン、4−クロロ−3−メチルスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,5−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン、2−エチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、4−フェニルスチレン、1−ナフチルエチレン、2−ナフチルエチレン、などを挙げることができる。重合体ブロック(A)はこれら(a)ビニル芳香族化合物単位のうち1種のみを単位として構成されていてもよく、複数種を単位として含んでいてもよい。本発明で用いられる(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体としては、(a)ビニル芳香族化合物単位がスチレンであるものが好適に用いられる。
【0035】
(b)オレフィン系炭化水素単位は、単結合のみで構成されている炭素数10以下のオレフィン類が好適に用いられる。また、ジエン系炭化水素からなる単位に水素添加などの手段により二重結合を単結合に変化させたものが好適に用いられる。水素添加は従来公知の手法に従って実施することができる。
【0036】
(b)オレフィン系炭化水素単位の具体的な構成単位及び水素添加前の構成単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ピペリレン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、フェニル−1,3−ブタジエン、などが挙げられる。重合体ブロック(B)はこれら(b)オレフィン系炭化水素単位のうち1種のみを単位として構成されていてもよく、複数種を単位として含んでいてもよい。
【0037】
また、本発明に係る(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体は不飽和炭素結合を有さない。本発明におけるシールテープの粘着層は物流保管中にインクと接触している場合があり、インク成分のアタックによる粘着剤の劣化を抑制するためには、(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体が不飽和炭素結合を含まないことが必要である。
【0038】
本発明に用いられる(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体の具体例としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びスチレン−ブタジエン・イソプレン−スチレンブロック共重合体を完全に水素添加したものが挙げられる。具体的には、例えば、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン−イソブチレン−スチレン(SIBS)などを挙げることができる。下記式(1)〜(4)に、本発明に用いられる(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体の一例の構造を示す。
【0039】
【化1】

【0040】
【化2】

【0041】
【化3】

【0042】
【化4】

【0043】
(前記式(1)〜(4)において、k、l、m、nは任意の正の整数である)。
【0044】
本発明における(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体中の、(a)ビニル芳香族化合物単位を単位とする重合体ブロック(A)の含有率は、10〜30質量%である。(a)ビニル芳香族化合物単位を単位とする重合体ブロック(A)が10質量%未満では、流動性が上がり、粘着力の経時変化が大きくなる。一方、30質量%をこえると十分な粘着力が発現できず、粘着剤が粘着付与剤を含まないと十分な粘着力を確保できない。好ましくは10〜25質量%以下である。
【0045】
また、(b)オレフィン系炭化水素単位は、架橋性官能基を有することが好ましい。本発明においては、該架橋性官能基はエポキシ基又はオキセタニル基が好適である。前記架橋性官能基を有する(b)オレフィン系炭化水素単位は、ジエン系炭化水素単位に水素添加などの手段により二重結合を一部単結合にし、さらにエポキシ化などの手段によりエポキシ基に変化させたものが好適に用いられる。具体的な水素添加またはエポキシ化前の構成単位としては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ピペリレン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、フェニル−1,3−ブタジエン、などが挙げられる。
【0046】
ジエン系炭化水素単位からなるブロック共重合体を部分的に水素添加して得られる水添ブロック重合体成分において、その水素添加率は70%以上であることが好ましい。水素添加は従来公知の手法に従って実施することができる。さらに部分的に水素添加されたジエン系炭化水素単位をエポキシ化することで所望とするエポキシ基を有する(b)オレフィン系炭化水素を得ることができる。エポキシ化は従来公知の手法に従って実施することができる。エポキシ基を有する(b)オレフィン系炭化水素の具体例を下記式(5)〜(9)に示す。
【0047】
【化5】

【0048】
【化6】

【0049】
【化7】

【0050】
【化8】

【0051】
【化9】

【0052】
(前記式(5)〜(9)において、k、l、m、nは任意の正の整数である)。
【0053】
前記架橋性官能基を有する(b)オレフィン系炭化水素を用いる場合には、前記粘着層が、前記架橋性官能基と反応する架橋剤を含むことが好ましい。前記架橋性官能基がエポキシ基、オキセタニル基である場合には、従来公知の架橋剤が使用できるが、酸無水物系架橋剤、カチオン重合開始剤、などが好適に用いられる。添加量としては、架橋性官能基当量に応じて所定の効果に影響を及ぼさない範囲内で適宜配合することができる。
【0054】
架橋性反応基は成型時に架橋されることが好ましい。架橋性官能基と反応する架橋剤を粘着剤と合わせて溶融混練する動的架橋では、成型と同時に架橋反応が生じるため、工程の増加がなく、簡便な方法で架橋反応が生じるため好ましい。
【0055】
本発明におけるシールテープの粘着剤は(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体に起因する粘着力を有する。特に(B)成分が粘着性に関与しており、また、(A)成分が結晶化により擬似的に架橋成分として働くことで、インクが接触した場合にも(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体の結晶構造が維持される。しかし、本発明の使用用途においては粘着層がインクと長時間接触する場合があり、(A)成分による構造維持だけでは不十分で粘着層が劣化する場合がある。また、後述するが、粘着剤の流動性を十分に抑制することができず、経時変化による粘着力の増大を効果的に抑制できない場合がある。そのため、架橋性官能基を導入し(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体同士を化学結合させることで、さらに結晶構造を強固に維持することができる。
【0056】
本発明における重合体ブロック(B)は、架橋性官能基を有する(b)オレフィン系炭化水素単位を0〜20質量%含有することが好ましく、1〜10質量%含有することがより好ましい。前記範囲内とすることにより、特定のインク種を用いた場合にも該インクのアタックによる粘着層の劣化を抑制することができる。また、粘着剤の流動性、経時による粘着力の増大も抑制することができ、適度な粘着性とすることができる。
【0057】
本発明に係る粘着層は、(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体を70〜100質量%含有する。なお、(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体と(2)ポリオレフィンの合計を100質量%とする。好ましくは、85質量%〜99質量%である。
【0058】
((2)ポリオレフィン)
本発明に係る粘着層は、さらに(2)ポリオレフィンを含有することで、より強固に結晶構造を維持することができ、粘着層の劣化の抑制が可能となる。また、(2)ポリオレフィンを粘着層中に含有することで、シールテープの基材層の基材樹脂としてポリオレフィンを使用した場合に、基材層との密着性を向上させることができる。
【0059】
本発明で用いられる(2)ポリオレフィンとしては、炭素数10以下のオレフィン類を単位とするポリオレフィンを用いることができる。この中でも、ポリエチレン又はポリプロピレンが好適に用いられる。
【0060】
本発明における粘着層は、(2)ポリオレフィンを0〜30質量%含有する。なお、前述したように、前記(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体と(2)ポリオレフィンの合計を100質量%とする。好ましくは、1〜15質量%である。(2)ポリオレフィン含有率が30質量%より大きいと、粘着性が発現されなくなり、シールテープとしての使用が困難となる。なお、本発明に係る粘着層は、(2)ポリオレフィンを含まず、(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体のみから構成される場合にも本発明の効果は得られるが、結晶構造の維持の観点から前記範囲で(2)ポリオレフィンが含まれることが好ましい。
【0061】
本発明に用いられる(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体は、(a)ビニル芳香族化合物単位を単位とする重合体ブロック(A)のTgが70℃以上であり、かつ(b)オレフィン系炭化水素単位を単位とする重合体ブロック(B)のTgが0℃以下であることが好ましい。
【0062】
(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体は、重合体ブロック(A)は芳香環に由来する結晶性を発現し、重合体ブロック(B)はオレフィン系炭化水素に由来する粘着性を発現するように設計されている。また、本発明におけるインクジェット記録ヘッド用シールテープは、使用温度範囲及び物流過程における温度範囲において十分な粘着性が発現される必要がある。粘着剤はTg以上の温度範囲で粘着性を発現するため、(B)は使用温度範囲及び物流過程における温度範囲以下にTgが存在し、粘着性に関与する流動性を有している必要がある。このため、重合体ブロック(B)のTgは0℃以下であることが好ましい。
【0063】
また、粘着剤は貼付直後から経時変化により流動し濡れ広がることで被着体となじみ、接触面積が増大することでその粘着力は増大する。同様に、粘着剤を用いたシールテープの粘着力はチップ表面への貼付直後から、物流保管中に経時的に増大する。この粘着力の増大が大きすぎる場合、シールテープ剥離時にインクジェット記録ヘッドにダメージを与えてしまう場合がある。そのため、本発明におけるインクジェット記録ヘッド用シールテープは、経時変化による粘着力の増大を抑制する必要がある。
【0064】
経時変化による粘着力の増大は、粘着剤成分の流動性に起因している。粘着剤のTgを使用温度範囲以下とすると、流動性の高い状態で使用することとなる。そのため、経時変化により流動し、被着体表面に濡れ広がりやすい状態となる。結果として、粘着剤と被着体との接触面積が増大することで粘着力が増大する。
【0065】
従って、本発明におけるインクジェット記録ヘッド用シールテープにおいて、経時変化による粘着力の増大を抑制するためには、粘着剤の流動性を適度に抑制することが重要であることになる。そのため、(a)ビニル芳香族化合物単位を単位とする重合体ブロック(A)は、使用温度範囲及び物流過程における温度範囲以上にTgを有することが好ましい。すなわち、重合体ブロック(A)のTgが70℃以上であることが好ましい。
【0066】
上記のように、(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体は、(b)オレフィン系炭化水素単位を単位とする重合体ブロック(B)のTgが0℃以下であることにより粘着性を発現する。同時に(a)ビニル芳香族化合物単位を単位とする重合体ブロック(A)のTgが70℃以上であることにより使用温度範囲及び物流過程における温度範囲において流動性が適度に抑制され、結晶化により擬似的に架橋成分として働き、構造が維持される。そのため、(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体としては過度な流動が抑制されることとなる。
【0067】
(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体の過度な流動を抑制するためには、重合体ブロック(A)の含有率、重合体ブロック(B)の含有率、(2)ポリオレフィンの含有率も重要な要因となっている。そこで、前述したように、(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体における(a)ビニル芳香族化合物単位を単位とする重合体ブロック(A)の含有率を10質量%以上、30質量%以下とする。好ましくは10質量%以上、25質量%以下である。また、(2)ポリオレフィンを、0〜30質量%含有する。好ましくは、1〜15質量%である。また、重合体ブロック(B)が架橋性官能基を有する(b)オレフィン系炭化水素単位を含む場合は、重合体ブロック(B)が該架橋性官能基を有する(b)オレフィン系炭化水素単位を0〜20質量%含有することが好ましい。より好ましくは、1〜10質量%である。結果として、本発明におけるインクジェット記録ヘッド用シールテープは、十分な粘着力を有し、かつ粘着力の経時変化による増大を抑制することができる。
【0068】
さらに、本発明に用いられる(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体は、(a)ビニル芳香族化合物単位を単位とする重合体ブロック(A)のTgが120℃以上であり、かつ(b)オレフィン系炭化水素単位を単位とする重合体ブロック(B)のTgが0℃以下であることがより好ましい。さらに好ましくは、(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体は、(a)ビニル芳香族化合物単位を単位とする重合体ブロック(A)のTgが120℃以上、300℃以下であり、かつ(b)オレフィン系炭化水素単位を単位とする重合体ブロック(B)のTgが−50℃以上、0℃以下である。
【0069】
一般的にTg付近においては、流動性の変化はなだらかに発現することが多く、使用温度範囲及び物流過程における温度範囲以上にTgを有する場合でも、その温度以下で徐々に流動性が発現されるものもある。そのため、使用温度範囲及び物流過程における温度範囲内での流動性をさらに抑制するためには、よりTgを高くする必要がある。(a)ビニル芳香族化合物単位を単位とする重合体ブロック(A)のTgが120℃以上であることにより、物流保管などがより長時間続いた場合でも経時変化を抑制することができ、シールテープとしての信頼性が高まる。
【0070】
このような(a)ビニル芳香族化合物単位としては、3−(4−ジフェニリル)スチレン、4−(4−ジフェニリル)スチレン、4−tert−ブチルスチレン、4−クロロ−2−メチルスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン、2−メチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、4−フェニルスチレン、1−ナフチルエチレン、2−ナフチルエチレン、などを挙げることができる。重合体ブロック(A)は、これら(a)ビニル芳香族化合物単位のうち1種のみを単位として構成されていてもよく、複数種を単位として含んでいてもよい。
【0071】
このような重合体ブロック(A)を用い、さらに、重合体ブロック(B)が架橋性官能基を有する(b)オレフィン系炭化水素単位を含む場合、(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体間に化学結合が生成される。これにより、より高い温度においても流動性を抑制することができる。そのため、物流保管などがさらにより長時間続いた場合でも経時変化を抑制することができ、シールテープとしての信頼性が高まる。
【0072】
図3は、本発明に係る粘着剤の形態と環境温度に対する粘着剤の流動性を示した図である。通常は、図3に示すように0〜70℃の範囲で使用される。本発明に用いられる(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体は、通常(a)ビニル芳香族化合物単位を単位とする重合体ブロック(A)のTgが90℃程度であり、図3における(1)のように70℃以上から流動性が増大する。また、重合体ブロック(A)のTgを120℃以上とすることで図3における(2)のように120℃以上から流動性が増大する。さらに、重合体ブロック(A)のTgを120℃以上とし、かつ、重合体ブロック(B)が架橋性官能基を有する(b)オレフィン系炭化水素単位を含むことで、図3に示す(3)のように200℃以上から流動性が増大する。以上のように、本発明においては物流保管などがさらにより長時間続いた場合でも粘着剤の流動性を抑制できる。すなわち、経時変化を抑制することができ、シールテープとしての信頼性が高まる。
【0073】
なお、本発明において、Tgは動的粘弾性測定により測定した値とする。動的粘弾性測定では、試料に一定周期の正弦波状の応力を付加して、そのときの歪み、位相ずれを測定する。これにより、弾性成分に相当する貯蔵弾性率E’、粘性成分に相当する損失弾性率E’’、さらに振動吸収性を反映するtanδ(=E’’/E’)の温度依存性、周波数依存性が求められる。一般的にはTg近傍の温度でtanδは極大値を示すため、本発明ではtanδが極大となる温度をTgとしている。また、tanδには周波数依存性があるが、本発明では1〜10Hzの範囲において測定している。
【0074】
(インクジェット記録ヘッド用シールテープの製造方法)
本発明におけるインクジェット記録ヘッド用シールテープは、粘着層と基材層の2層共押出し成型によって製造することができる。
【0075】
共押出し成型とは、溶融押出し成型法において、複数の素材を一度に押出して積層フィルムを成型する手法である。熱可塑性樹脂をシリンダー内で加熱溶融し、スリット状の金型から同時に押出して積層し、冷却工程を経て成型する。さらに、本成型法は金型の形状や冷却方法などにより細分類される。
【0076】
インフレーション法では、押出し機の先端にリングダイスと呼ばれる環状のリップを有する金型を設置し、チューブ状に材料を押し出して連続的に成型する。各溶融樹脂を金型手前のフィードブロック内で接触させるダイ前積層法、金型内部の経路で接触させるダイ内積層法、同心円状の複数リップから押出し接触させるダイ外積層法がある。リングダイス中央には空気孔が設置されており、ここから圧搾空気を吹き込んでチューブを膨張させ、一端を切り開いて平坦なフィルムとし、ピンチロールと呼ばれるローラーで引っ張りながら冷却してフィルムを巻き取る。
【0077】
Tダイ法では、押出し機の先端にTダイと呼ばれる直線状のリップを有する金型を設置し、平面状に材料を押出して連続的に成型する。Tダイの基本構造は片面に刻まれたT字型の溝を向かい合わせ2枚重ねたもので、T字の縦棒にあたる部分の先端部から溶融した樹脂を投入し、横棒にあたるマニホールドを介して樹脂がダイ両端まで広がり、リップの空隙からフィルム状に吐出される。シングルマニホールド法は、ダイの直前にフィードブロックを設置し、そこにアダプターを介して複数の押出機を接続し、フィードブロック内で樹脂接触させてからダイを通してフィルムを成型する。マルチマニホールド法は、内部に複数のマニホールドを持つTダイを使用し、複数の押出機から供給された樹脂をリップ部の直前で接触させ積層する。フィルムは鏡面処理された冷却ローラーを通して冷却してフィルムを巻き取る。
【0078】
本発明のインクジェット記録ヘッド用シールテープにおいては、前述の一般的な共押出し成型により製造されることを特徴とする。本手法によれば、製造装置及び製造工程が簡易であり、基材層と粘着層との密着強度が高いシールテープを製造できる。基材層の基材樹脂としてはポリオレフィンが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンがより好ましい。また、粘着層が含有する(2)ポリオレフィンと同材料を基材層の基材樹脂として使用することで、より基材層と粘着層との密着強度を向上することが可能となる。
【0079】
その他にも、粘着剤を有機溶剤などに溶解し塗工液とし、基材層に塗布・乾燥して粘着層を形成することもできる。この場合、基材層の材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリイミドなどの樹脂フィルムを用いることができる。塗工液を塗布する樹脂フィルム面には、粘着剤との密着性向上のために、汎用的に用いられるプラズマ処理やコロナ放電処理などの表面処理を行うことができる。
【実施例】
【0080】
以下に、本発明における実施例について説明する。以下の表1の組成に従い粘着剤を調製後、該粘着剤と基材樹脂を2層共押出し成型して粘着層、基材層とし、実施例1から18のインクジェット記録ヘッド用シールテープを製造した。なお、実施例11〜18の粘着剤は架橋剤を含有する。基材樹脂としてはポリプロピレン又はポリエチレンを用いた。粘着層の厚みは30μm、基材層の厚みは80μmである。
【0081】
【表1】

【0082】
また、以下の表2の組成に従い粘着剤を調製後、実施例と同様に該粘着剤と基材樹脂を2層共押出し成型して粘着層、基材層とし、比較例1から8、11及び12のインクジェット記録ヘッド用シールテープを製造した。なお、比較例6〜8の粘着剤は、架橋剤を含有する。基材樹脂としては全てポリプロピレンを用いた。粘着層の厚みは30μm、基材層の厚みは80μmである。比較例1、3、4、6、7及び8は軟化剤としてパラフィンを含有する。さらに、比較例4及び8は粘着付与剤としてテルペン系樹脂を含有している。また、比較例5は(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体が構造中に炭素−炭素二重結合を有している。
【0083】
【表2】

【0084】
さらに、比較例9として、アクリル系粘着剤により粘着剤を製造した。これを厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、加熱乾燥させ、粘着層の厚み30μmのシールテープを製造した。
【0085】
さらに、比較例10として、ジメチルシロキサンの重合反応によって得られるシリコーン系粘着剤により粘着剤を製造した。これを厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、加熱乾燥させ、粘着層の厚み30μmのシールテープを製造した。
【0086】
以下に評価方法を示す。各実施例及び比較例で作製したシールテープを所望の大きさに切断し、前述したインクジェット記録ヘッドの吐出口面(チップ表面)に貼り付けた。該インクジェット記録ヘッドは、2plのインクを吐出するよう設計され、その吐出口径はΦ10μmである。この吐出口をシールテープで封止したインクジェット記録ヘッドを梱包した。その直後、0.1〜10m/minの範囲で90度方向にシールテープを剥離し、剥離強度を測定した。剥離強度は剥離速度に応じて変化するため、剥離速度を変化させながら剥離強度を測定し、最大値を剥離強度とした。
【0087】
さらに、梱包したインクジェット記録ヘッドに対して70℃1ヶ月間の加熱試験を行った。常温に戻した後、前記と同様に剥離強度を測定した。
【0088】
保存中のシールテープの剥がれの有無を目視にて確認した。また、シールテープの粘着層と接していた部分について、インクへの成分溶出を確認した。さらに、金属顕微鏡により、チップ表面の汚染の有無、シールテープ剥離時のチップ表面の破損(ダメージ)の有無を確認した。
【0089】
表3に各実施例、比較例の評価結果を示す。なお、各評価結果の評価基準を以下に示す。
【0090】
(保存中の剥がれ有無)
○:シールテープの剥がれ、インク漏れが生じていない。
△:シールテープの剥がれは無いが、一部浮きがありインクが滲んでいる。
×:シールテープが剥がれている。
【0091】
(剥離時のダメージ有無)
○:チップ表面へのダメージが無い。
×:吐出口を形成する樹脂層にクラックなどの破損がある。
【0092】
(インクへの溶出有無)
○:インクへの溶出成分が確認できない。
×:インクへの溶出成分が存在する。
【0093】
(チップ表面の汚染有無)
○:チップ表面に残存した付着物などが確認できない。
×:チップ表面に付着物などの残存物が存在する。
【0094】
【表3】

【0095】
実施例1から18のシールテープは、保存中においてシールテープの剥がれやインク漏れが生じず、インク吐出口の封止性能が十分であることが確認された。また、シールテープ剥離時のチップ表面へのダメージが無いことが確認された。また、インクへの成分溶出は確認できなかった。また、チップ表面の汚染は確認できなかった。
【0096】
実施例1から18のシールテープでは、保存試験後の剥離強度は35〜110N/mの範囲内であり、保存試験後も好ましい剥離強度を維持した。さらに、貼付直後と保存試験後との剥離強度の差異、すなわち粘着力の上昇幅は25〜75N/mの範囲内であり、保存試験の前後における剥離強度の変化は小さかった。結果として、実施例1から18に示されるように、本発明におけるシールテープはインクジェット記録ヘッドに対して好適に用いることができることが分かる。
【0097】
一方、比較例2、8及び9では保存中にシールテープが剥がれた。比較例1、4及び10ではシールテープの一部に浮きがあり、インクが滲んだ。また、比較例7では吐出口を形成する樹脂層にクラックが生じていた。また、比較例1、3、4、8、9及び10ではインクへのパラフィンの溶出が確認された。さらに、チップ表面にパラフィンによる汚染が確認された。比較例4及び8ではテルペン系樹脂による汚染も確認された。また、比較例5ではチップ表面に粘着剤の残存物が観察された。これは、インクアタックによって劣化したために、剥離時に凝集破壊を起こしたためと思われる。
【0098】
上記の不具合のなかった比較例6においては、保存試験後の剥離強度は210N/mであり、貼付直後と保存試験後の剥離強度の差異は180N/mであった。保存試験による剥離強度の経時変化が大きいことから、インクジェット記録ヘッド用のシールテープとして不適であった。
【0099】
以上のように、本発明におけるインクジェット記録ヘッド用シールテープは、インクジェット記録ヘッドのインクを吐出する吐出口を封止するのに十分な粘着力を有し、かつ経時変化による粘着力の増大を抑制できることが示された。また、使用されるインク成分のアタックによる粘着剤の劣化を抑制し、かつ、粘着剤からの成分溶出を低減できるため、インク特性が変化しないことが示された。
【符号の説明】
【0100】
H1101 記録素子基板(チップ)
H1301 電気配線テープ
H1302 外部信号入力端子
H1307 封止材
H1308 封止材
H1401 シールテープ
H1402 タグテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する吐出口が形成されたチップが設置されたインクジェット記録ヘッドの該チップ表面に、剥離可能に接合されるインクジェット記録ヘッド用シールテープにおいて、
前記インクジェット記録ヘッド用シールテープは、基材層と、該基材層上に粘着層とを有し、該粘着層は、
(1)(a)ビニル芳香族化合物単位と、(b)オレフィン系炭化水素単位と、からなる不飽和炭素結合を有さない(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体:70〜100質量%、
((A)は(a)を単位とする重合体ブロック、(B)は(b)を単位とする重合体ブロック、とする)
(2)ポリオレフィン:0〜30質量%、からなり、
前記(1)(A)−(B)−(A)ブロック共重合体中の(a)ビニル芳香族化合物単位の含有率が10〜30質量%であることを特徴とするインクジェット記録ヘッド用シールテープ。
【請求項2】
前記(b)オレフィン系炭化水素単位が架橋性官能基を有し、前記粘着層が、前記架橋性官能基と反応する架橋剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用シールテープ。
【請求項3】
前記架橋性官能基はエポキシ基又はオキセタニル基であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド用シールテープ。
【請求項4】
前記(2)ポリオレフィンが、ポリエチレン又はポリプロピレンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用シールテープ。
【請求項5】
前記(a)ビニル芳香族化合物単位を単位とする重合体ブロック(A)のTgが120℃以上であり、かつ
前記(b)オレフィン系炭化水素単位を単位とする重合体ブロック(B)のTgが0℃以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用シールテープ。
【請求項6】
前記基材層の基材樹脂としてポリオレフィンを用い、前記粘着層と前記基材層の2層共押出し成型によって製造することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用シールテープ。
【請求項7】
前記粘着層と基材層の2層共押出し成型時に、前記(1)(A)−(B)−(A)型ブロック共重合体が動的架橋されることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録ヘッド用シールテープ。
【請求項8】
前記基材層の基材樹脂が、ポリエチレン又はポリプロピレンであることを特徴とする請求項6又は7に記載のインクジェット記録ヘッド用シールテープ。
【請求項9】
前記チップ表面に請求項1から8のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用シールテープが剥離可能に接合されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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