説明

インクジェット記録ヘッド用基体、インクジェット記録ヘッド

【課題】 ノズルが有機材料で形成されかつメッキ法により形成された厚膜電力配線又は検査用電極パッドの保護膜を兼ねる構成において、インクジェット記録ヘッド基体の信頼性を向上させること。
【解決手段】 発熱抵抗体に電力を供給する電力配線又は検査用電極パッドに隣接して、メッキ法により形成された配線を並列させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッド用の基体、前記基体を用いるインクジェット記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置には、その普及に伴って、近年さらなる記録の高解像化、高画質化、高速記録化が求められている。これら高解像化、高画質化、高速記録化の要求に対する解決手段としては、ノズル(インク吐出口)数の増加、ノズルピッチの高密度化などがはかられている。
【0003】
一方ノズル数の増加、ノズルピッチの高密度化に伴う電極配線数の増加は、基板サイズの増大を招きコストに関して不利な方向となる。またそれらに伴う電極配線長の増大は高抵抗化を招き、各発熱抵抗素子の発泡効率低下と各発熱抵抗素子間の配線抵抗バラツキの原因となっている。
【0004】
その為、電極配線の低抵抗化が求められ、電極配線の厚膜化や電極配線の共通化により、配線の低抵抗化が要求されており、その形成法としてメッキ法による金や銅の電極配線が用いられている。
【0005】
メッキ配線がインク、つまり基板と同電位であれば、インクが仮に浸透してもメッキ配線はダメージ等を受けることはない。
【0006】
しかしメッキ配線が発熱抵抗体に電力を供給する電力配線である場合、電位差が生じる為に、陽極となり電気化学反応を起こし、メッキ配線が溶出し陰極との間でショートしたり、周囲のALまで腐食を起こし信頼性上問題となる。
【0007】
また基板上にはその上に形成された半導体素子の電気特性を検査するための電極パッドが構成されることが多い。これらはメッキ形成後、他の電極パッドが外部と電気的な接続を行った後、樹脂封止することによりインクから保護されるのと同様に封止することでインクから保護される。しかしレイアウト上の制約より樹脂封止領域から外れるときは、メッキ配線と同様、メッキ形成後、薄膜のノズル形成材で被覆する必要がある。
【0008】
検査用電極パッド上にメッキを形成するのは、電機特性検査時に検査用のプローブ針の跡ができるため、その被覆を目的として必要となる。
【0009】
しかし、メッキ形成後も前述したメッキ配線の場合と同様、メッキ段差部のカバレージ不良による電極パッドの溶出問題が起きる。
【0010】
上記の例として、下記特許文献1をあげることが出来る。
【特許文献1】特開2005-199701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、メッキ法にて形成された厚膜配線もインクから保護する為に、上層に絶縁保護膜を形成する必要があり、従来よりポリイミド等の有機膜やノズル形成材の密着向上層であるポリエーテルアミド等の樹脂をスピンコート法による塗布で形成している。また、有機材料によりノズルを形成するインクジェット基体においては、ノズル形成材がメッキ配線の絶縁保護膜を兼ねることが工程の簡略化、材料のコストを考えると非常に有用となる。しかし、厚膜のメッキ配線を被覆する為には、厚膜を塗布する必要がある。一方、ノズル材の厚さは吐出性能より決定され、今後の小液滴吐出を考慮すると、吐出性能上薄くすることが必要となる。
【0012】
従って、厚膜のメッキ配線を薄膜のノズル形成材で被覆しなければならない。
【0013】
メッキ配線の被覆性が良くないと、特に段差部分のカバレージが良くなくなり、インクが保護膜のカバレージ不良部分より浸透し、メッキ配線とインクが導通してしまう。
【0014】
図7は基板上のメッキ配線により形成された共通配線とノズルの平面図及び断面図の一部を示したものである。電力配線(VH)701、GND配線702の順にインク吐出口703側から配線が配置されている時、電力配線701のインク吐出口側端部が、ノズル形成材708による段差部705のカバレージが良くなくなっている状態を示したものである。
【0015】
本発明の目的は、ノズルが有機材料で形成されかつメッキ法により形成された厚膜電力配線又は検査用電極パッドの保護膜を兼ねる構成において、インクジェット記録ヘッド基体の信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的を達成するため、本発明のインクジェット記録ヘッド用基板は、メッキ法により形成された電極配線上又は検査用電極パッド上に、ノズルが有機材料で形成されているインクジェット記録ヘッド用基体において、
発熱抵抗体に電力を供給する電力配線又は検査用電極パッドに隣接して、メッキ法により形成された配線を並列していることを特徴とする。
【0017】
電力配線に隣接させてメッキ配線を並列させることにより、電力配線のカバレージが向上し、インク侵入に対して信頼性が向上する。特に並列させるメッキ配線を電気的にGNDまたは他配線と電気的に導通していない配線にすることにより、仮にこれらメッキ配線が端部に配置され、ノズル形成材保護膜のカバレージが良くなくとも、メッキ配線が溶出し、問題を起こすことが無いので、この構成が望ましい。
【0018】
これは検査用の電極パッドにおいても同様である。
【0019】
また、本発明の並列配線の形成においては、他メッキ配線と同一工程で形成することが出来るため、工程数増によるコストアップもない、信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、前記インクジェット記録ヘッド用基体は、メッキ法により形成された電極配線上又は検査用電極パッド上に、ノズルが有機材料で形成されているインクジェット記録ヘッド用基体において、発熱抵抗体に電力を供給する電力配線又は検査用電極パッドの周囲をメッキ法により形成された配線で並列することにより、インクジェット記録ヘッド用基板の信頼性を向上させることにある。
【0021】
また、従来のインクジェット記録ヘッド用の保護膜について上述した諸問題を解決し、インクに対する耐性に優れ、電力配線の段差部におけるカバレージ性が良好であり、信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを提供することが可能となる。
【0022】
また、本発明の並列配線の形成においては、他メッキ配線と同一工程で形成することが出来、工程数増によるコストアップもない、信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の詳細を実施例の記述に従って説明する。
【0024】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。但し、本発明は、以下に説明する各実施形態のみに限定されるものでなく、本発明の目的を達成し得るものであれば、特許請求の範囲を逸脱することなく適宜の構成を採用してもよいことは勿論である。
【0025】
(インクジェットヘッド用基体の実施形態およびその製造工程)
図1および図2は、それぞれ、本発明の第1の実施形態によるインクジェットヘッド用基板の熱作用部周辺の模式的平面図およびそのII−II線断面図である。ここで、図1〜図2の各部と同様に機能する部分については対応箇所に同一符号を付してある。
【0026】
まず、基体1100としてはSi基板あるいは既に駆動用のICを作り込んだSi基板
1101を用いる。この基体としては、発熱部を形成する面のSi結晶方位が<100>のものを用いる。次に図2に示すようにSi基板1101上に熱酸化により膜厚1.8μmの蓄熱層1102を形成し、さらに蓄熱層を兼ねる層間膜1103としてSiO2膜をプラズマCVD法などにより膜厚1.2μmに形成した。
【0027】
次に、Ta−Siからなる合金ターゲットを用いた反応性スパッタリング法により、発熱抵抗体層1104となるTaSiN膜を形成した。続いて、電極配線層1105となるAl層を同様にしてスパッタリングにより約400nmの厚さに形成した。
【0028】
次に、図2に示すように、フォトリソグラフィ法を用いてドライエッチングを施し、発熱抵抗体層1104および電極配線層1105を同時にパターニングを行った。続いて、電極配線層1105のエッチングを行うことによりヒーターとして機能するための20μm×20μmの大きさの発熱部1104’を形成した。なお、パターニングされた電極配線層の端部は、後の工程で形成される膜のカバレージ性を向上させるために、テーパ形状とすることが好ましい。
【0029】
続いて、絶縁保護膜1106であるSiN膜をプラズマCVD法を用いて形成した。
【0030】
膜厚としては、本例では300nmの厚さとした。
【0031】
次に、スパッタリング法により上部保護層となるTa膜を200nmの厚さに形成し、パターニングを行って図2に示す基体1100を得た。また電極配線層と後で形成するメッキ法により形成された共通配線層の電気的接続をとるためのスルーホールを、絶縁保護膜にパターニングすることにより形成した。
【0032】
(メッキ配線による共通配線の形成)
次にメッキ法を用いて共通配線層を形成する。
【0033】
共通配線層は電気的には発熱抵抗体に電力を供給する電力配線(VH)及び発熱抵抗体の電源配線であり電気的にはGNDとなるGND配線(GNDH)を絶縁保護層上に形成することで、チップサイズの微細化を達成できるものである。
【0034】
本発明においては図8に示すようにインク吐出口側から基板GND配線(VSS)709,電力配線(VH)701,GND配線(GNDH)702の順に配線を並列することにより、達成される。電力配線に隣接してメッキ配線を両隣に並列させることにより、電力配線の段差部のカバレージが改善される。図8は本発明における基板上のメッキ配線により形成された共通配線とノズルの平面図及び断面図の一部を示したものである。基板GND配線(VSS)704,電力配線(VH)701,GND配線702の順にインク吐出口703側から配線が配置されている時、電力配線301のノズル形成材308による段差部のカバレージが向上している状態を示したものである。
【0035】
また他の実施例として図9にPAD周囲のメッキ配線の一配置実施例を示す。外部と電気的接続を取るPADに電力配線とGND配線が接続されており、電力配線の一方の隣はGND配線が配置されているが、残りの隣は本来は配線が配置されない領域であるが、電気的に他の配線と接続されていないメッキ配線をダミーとして形成することもできる。
【0036】
これにより電力配線の段差部のカバレージを向上させることができる。
【0037】
また本実施例における共通配線の膜厚は、ノズル数の増加、ノズル密度の増加とともに共通配線の低抵抗化、つまり厚膜化が要求されており、512ノズル、2400dpiのノズル密度のインクジェット基体においては、15μmのメッキ厚と計算される。
【0038】
このメッキによる共通配線を後工程で形成される20μm厚のノズル形成材で被覆しなければならないため、よりカバレージに対する信頼性が要求されるのである。
【0039】
図3は共通配線の模式的断面図を示したもので、めっき法による共通配線層形成後の状態の一部を示している。以下に共通配線層の製造方法を示す。
【0040】
高融点金属材料であるTiW等の密着向上層(バリアメタル)3001をスパッタリングにより200nm成膜する。次に配線用金属となるメッキ用導体の金層3002をスパッタリングにより50nm成膜する。本実施例では導体金属として金を用いた。
【0041】
その後、メッキ用導体の金層の表面にフォトレジスト3005をスピンコート法により塗布する。この時、所望とする共通配線の厚さよりも、厚くなるようにフォトレジストを塗布する。例えば、15μmのメッキ厚を形成する場合は、20μmのフォトレジスト膜厚となる回転数条件で、塗布を行う。
【0042】
また、使用するフォトレジストはメッキ用の耐アルカリ性のフォトレジストを用いる。尚、フォトレジストはポジ型、ネガ型による使用制限はないが、ネガ型フォトレジストを用い、露光条件、現像条件を任意の最適条件を用い、断面を逆テーパ形状にすることが好ましい。フォトレジストが逆テーパ形状となることで、後で形成されるメッキ配線の断面形状がテーパ形状となり、メッキ配線を保護する際の保護膜のカバレージ性が向上する。
【0043】
次に、フォトリソグラフィー法にてレジスト露光・現像を行い、共通配線を形成する部位のめっき用導体の金属を露出するようにフォトレジストを除去し、メッキ用の型材となるレジストの形成を行う。
【0044】
その後、電解メッキ法により亜硫酸金塩の電解浴中でメッキ用導体の金属に所定の電流を流し、フォトレジストで覆われていない所定の領域に金3003を析出させる(図4(d))。次に共通配線層の形成に使用したフォトレジストを、レジスト除去液により除去する(図4(e))。
【0045】
次に、メッキ用導体の金属を、窒素系有機化合物、よう素、よう化カリウムとを含むエッチング液に所定の時間浸漬させることで、共通配線の最表層とメッキ用導体の金属とをエッチングして除去する。これにより、TiW等の高融点金属材料からなる密着向上層(バリアメタル)を露出させる(図4(f))。その後、共通配線をマスクにしてTiW等の高融点金属材料からなる密着向上層(バリアメタル)をH系のエッチング液に所定の時間にわたって浸漬させることで、露出していた高融点金属材料の除去を行う(図4(g))。
【0046】
以上述べてきたような製法により、図3に示す模式的断面図が形成される。
【0047】
(メッキ法による検査用電極パッドの形成)
上述したメッキ法による共通配線と同様の方法で、外部と電気的接続を行う電極パッドを形成することができる。検査用の電極パッドは同一其体上に電極パッドと同一工程でメッキ電極を形成する。
【0048】
検査用の電極パッドの模式的断面図は前述した共通配線の模式的断面図図3と同様である。
【0049】
また検査用電極パッドのPAD周囲のメッキ配線の一配置実施例を図12に示す。検査用電極パッドの周囲を、ダミーのメッキ配線で配置することにより、電極パッドのカバレージが向上される。
【0050】
(インクジェットヘッドの構成および製造工程)
続いて、上記実施形態に係る基体を用いて構成されるインクジェット記録ヘッドについて説明する。
【0051】
図5はインクジェット記録ヘッドの模式的な斜視図である。
【0052】
このインクジェット記録ヘッドは、所定のピッチで熱作用部1108が形成された発熱部列を2列、並列させてなる基体1100を有している。ここで、上記製造工程を経て製造された2枚の基板を、熱作用部1108が配列されている側の縁部を対向配置することで当該並列化が行われるようにしてもよいし、1枚の基体上に予め発熱部が2列並列するように上記製造工程を実施してもよい。
【0053】
この基板1101に対しては、熱作用部1108に対応したインク吐出口5と、外部から導入されたインクを貯留する液室部分(不図示)と、吐出口5のそれぞれに対応して液室からインクを供給するためのインク供給口9と、吐出口5と供給口9とを連通する流路とが形成された部材(オリフィスプレート)4が接合されて、インクジェット記録ヘッドが構成される。
【0054】
なお、図5では、各列の熱作用部1108およびインク吐出口5が、線対称に配置されているように描かれているが、各列の熱作用部1108およびインク吐出口5を互いに半ピッチずらして配置することで、記録の解像度をさらに高めることができる。
【0055】
図6(a)〜図6(d)は図5のインクジェット記録ヘッドを製造する工程を示す模式的断面図である。
【0056】
基体を構成するための基坂1001としては、発熱部を形成する面のSi結晶方位が<100>のものを用いることは上述した。かかる基板1001の裏面のSiO膜1007上に、インク供給口1010を形成するためのマスクであって耐アルカリ性を有するマスク剤でなるSiO膜パターニングマスク1008を形成する。SiO膜パターニングマスク1008は、例えば以下のようにして形成する。
【0057】
まず、SiO膜パターニングマスク1008となるマスク剤をスピンコートなどによって基板1001の裏面に全面塗布し、熱硬化させる。そして、その上にポジ型レジストをスピンコートなどによって塗布し、乾燥させる。次に、このポジ型レジストをフォトリソグラフィ技術を用いてパターニングし、このポジ型レジストをマスクとして、SiO膜パターニングマスク1008となるマスク剤の露出された部分をドライエッチングなどによって除去する。最後にポジ型レジストを剥離して、所望のパターンのSiO膜パターニングマスク1008を得る。
【0058】
次に、熱作用部1108が形成された面上に型材1003を形成する。型材1003は、後の工程で溶解して、それが設けられた部分をインク流路とするために形成するものである。すなわち、所望の高さおよび平面パターンのインク流路を形成するために、適切な高さおよび平面パターンに形成する。型材1003の形成は、例えば次のようにして行うことができる。
【0059】
型材1003の材料としては、例えば、ポジ型フォトレジストであるODUR1010(東京応化工業株式会社製、商品名)を用い、これをドライフィルムのラミネート,スピンコートなどによって基板1001上に所定の厚みで塗布する。次に、紫外線、Deep UV光などによって露光、現像を行うフォトリソグラフィー技術を用いてパターニングする。これによって、所望の厚みおよび平面パターンを有する型材1003が得られる。
【0060】
次に、図6(b)に示す工程で、前の工程で基板1001上に形成した型材1003を被覆するように、オリフィスプレート1004の素材をスピンコートなどによって塗布し、フォトリソグラフィー技術によって、所望の形状にパターニングする。そして、熱作用部1108上の所定の位置にインク吐出口1005をフォトリソグラフィ技術によって開口する。また、インク吐出口1005が開口するオリフィスプレート1004の面には、ドライフィルムのラミネートなどによって撥水層1006を形成する。
【0061】
オリフィスプレート1004の形成材料としては、感光性エポキシ樹脂、感光性アクリル樹脂などを用いることができる。オリフィスプレート1004は、インク流路を構成するものであり、インクジェット記録ヘッド使用時には常にインクと接触することになるので、その材料としては、特に、光反応によるカチオン重合性化合物が適している。また、オリフィスプレート1004の材料としては、使用するインクの種類および特性によって耐久性などが大きく左右されるので、使用するインクによっては、上記の材料以外の相応の化合物を選択してもよい。
【0062】
次に、図6(c)に示す工程で、基板1001を貫通する貫通口であるインク供給口1010の形成を行う際、インクジェット記録ヘッドの機能素子が形成された面や基板1001の側面にエッチング液が触れないように、樹脂からなる保護材1011をスピンコートなどによって塗布することでこれらの部分を覆う。保護材1011の材料としては、異方性エッチングを行う際に使用する強アルカリ溶液に対して十分な耐性を有する材料を用いる。このような保護材1011によってオリフィスプレート4の上面側をも覆うことによって、撥水層1006の劣化を防ぐことも可能となる。
【0063】
次に、予め形成しておいたSiO膜パターニングマスク1008を用いて、SiO膜1007をウェットエッチングなどによってパターニングし、基板1001の裏面を露出するエッチング開始開口部1009を形成する。
【0064】
次に、図6(d)に示す工程で、SiO膜1007をマスクとした異方性エッチングによってインク供給口1010を形成する。該異方性エッチングに用いるエッチング液としては、例えばTMAH(テトラメチルアンモニュウムハイドロオキサイド)溶液などの強アルカリ溶液を用いる。そして、例えば、TMAHの22重量%溶液を、その温度を80℃に保ちながら所定時間(十数時間)、エッチング開始開口部1009からSi基板1001に付与することによって貫通口を形成する。
【0065】
最後に、SiO膜パターニングマスク1008と保護材1011を除去する。そして、更に、型材1003を溶解させ、インク吐出口5とインク供給口9あるいは1010から溶出させて除去し、乾燥させる。型材1003の溶出は、Deep UV光によって全面露光を行った後、現像を行うことによって実施でき、必要に応じて現像の際、超音波浸漬すれば、ほとんどの型材1003を除去することができる。
【0066】
以上で、インクジェット記録ヘッドの主要な製造工程が完了し、図5に示した構成が得られる。なお、以上の実施形態で作成された基板およびこれを用いる記録ヘッドを第1実施例による基板および記録ヘッドとし、その評価を後述のように行うものとする。
【0067】
(インクジェット記録ヘッドカートリッジおよび記録装置)
このインクジェット記録ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、更には各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、このインクジェット記録ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の記録媒体に記録を行うことができる。なお、本明細書において、「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味する。
【0068】
以下、上記インクジェット記録ヘッドをインクタンクと一体化してなるカートリッジ形態のユニットおよびこれを用いるインクジェット記録装置について説明する。
【0069】
図10は上記したインクジェット記録ヘッドを構成要素に含むインクジェット記録ヘッドユニットの構成例を示す。図中、402はインクジェット記録ヘッド部410に電力を供給するための端子を有するTAB(Tape Automated Bonding)用のテープ部材であり、プリンタ本体から接点403を介して電力を供給する。404はインクをヘッド部410に供給するためのインクタンクである。すなわち、図10のインクジェット記録ヘッドユニットは、記録装置に装着可能なカートリッジの形態を有するものである。
【0070】
図11は図10のインクジェット記録ヘッドユニットを用いて記録を行うインクジェット記録装置の概略構成例を示すものである。
【0071】
図示のインクジェット記録装置において、キャリッジ500は無端ベルト501に固定され、かつガイドシャフト502に沿って移動可能になっている。無端ベルト501はプーリ503に巻回され、プーリ503にはキャリッジ駆動モータ504の駆動軸が連結されている。従って、キャリッジ500は、モータ504の回転駆動に伴いガイドシャフト502に沿って往復方向(A方向)に主走査される。
【0072】
キャリッジ500上には、上記カートリッジ形態のインクジェット記録ヘッドユニットが搭載されている。ここで、インクジェット記録ヘッドユニットは、ヘッド410の吐出口5が記録媒体としての用紙Pと対向し、かつ上記配列方向が主走査方向と異なる方向(例えば用紙Pの搬送方向である副走査方向)に一致するようにキャリッジ500に搭載される。なお、インクジェット記録ヘッド410およびインクタンク404の組は、使用するインク色に対応した個数を設けることができ、図示の例では4色(例えばブラック、イエロー、マゼンタ、シアン)に対応して4組設けられている。
【0073】
また、図示の装置には、キャリッジの主走査方向上の移動位置を検出するなどの目的でリニアエンコーダ506が設けられている。リニアエンコーダ506の一方の構成要素としてはキャリッジ500の移動方向に沿って設けられたリニアスケール507があり、このリニアスケール507には所定密度で、等間隔にスリットが形成されている。一方、キャリッジ500には、リニアエンコーダ506の他方の構成要素として、例えば、発光部および受光センサを有するスリットの検出系508および信号処理回路が設けられている。従って、リニアエンコーダ506からは、キャリッジ500の移動に伴って、インク吐出タイミングを規定するための吐出タイミング信号およびキャリッジの位置情報が出力される。
【0074】
記録媒体としての記録紙Pは、キャリッジ500のスキャン方向と直交する矢印B方向に間欠的に搬送される。記録紙Pは搬送方向上流側の一対のローラユニット509および510と、下流側一対のローラユニット511および512とにより支持され、一定の張力を付与されてインクジェット記録ヘッド410に対する平坦性を確保した状態で搬送される。各ローラユニットに対する駆動力は、図示しない用紙搬送モータから伝達される。
【0075】
以上のような構成によって、キャリッジ500の移動に伴いインクジェット記録ヘッド410の吐出口の配列幅に対応した幅の記録と用紙Pの搬送とを交互に繰り返しながら、用紙P全体に対する記録が行われる。
【0076】
なお、キャリッジ500は、記録開始時または記録中に必要に応じてホームポジションで停止する。このホームポジションには、各インクジェット記録ヘッド410の吐出口が設けられた面(吐出口面)をキャッピングするキャップ部材513が設けられ、このキャップ部材513には吐出口から強制的にインクを吸引して吐出口の目詰まり等を防止するための吸引回復手段(不図示)が接続されている。
【0077】
(基体およびインクジェット記録ヘッドの評価)
本実施例においては、発熱抵抗体に電力を供給する電力配線に隣接して、メッキ法で形成されたGND配線または電気的に浮いている配線にはさまれて並列していることより、電力配線のノズル形成材によるカバレージも向上し、カバレージ不良部分からのインク浸透による電力配線の電気化学反応による溶出及びそれに付随する不良を防止することができ、信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】インクジェットヘッド用基体の発熱部の模式的平面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】他のインクジェットヘッド用基体の模式的断面図である。
【図4】(a)〜(g)は、図3に示したインクジェットヘッドの製造工程を説明するための模式的断面図である。
【図5】インクジェットヘッド用基体の発熱部周辺の模式的平面図である。
【図6】(a)〜(g)は、図4に示したインクジェットヘッドの製造工程を説明するための模式的断面図である。
【図7】従来例の一例を示す平面図および断面図である。
【図8】本発明の一実施形態の構成を示す平面図および断面図である。
【図9】本発明の一実施形態の構成を示す平面図である。
【図10】図6に示したインクジェットヘッドを用いて構成したインクジェットカートリッジを示す斜視図である。
【図11】図6に示したインクジェットカートリッジを用いてプリントを行うインクジェットプリント装置の概略構成例を示す模式的斜視図である。
【図12】本発明の一実施形態の構成を示す平面図および断面図である。
【符号の説明】
【0079】
1100 インクジェット記録ヘッド用基体
1101 Si基板
1102 蓄熱層
1103 層間膜
1104 発熱抵抗体層
1104’ 発熱部
1105 電極配線層
1106 絶縁保護層
1107 上部保護層
1108 熱作用部
3001 密着向上層
3002 メッキ用導体金属層
3003 メッキ配線層
1001 基板
1002 発熱抵抗層
1003 型材
1004、4 オリフィスプレート
1005、5 吐出口
1006 撥水層
1007 裏面SiO
1008 パターニングマスク
1009、9 エッチング開始開口部
1010 インク供給口
1011 保護材
410 インクジェットヘッド
402 テープ部材
403 接点
404 インクタンク
500 キャリッジ
501 無端ベルト
502 ガイドシャフト
503 プーリー
504 キャリッジ駆動モーター
506 リニアエンコーダ
507 リニアスケール
508 スリット検出系
509、510、511、512 ローラユニット
701 電力配線
702 GND配線
703 インク吐出口
704 ヒーター
705 段差部
706 基板GND配線
707 ノズル形成材
709 ダミー配線
710 外部接続端子部(PAD)
801 検査用電極PAD
802 ダミー配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱抵抗体に電気的に接続する電源配線がメッキ法により形成されており、前記メッキ法により形成された電源配線上に、インクを吐出するノズルが有機材料で形成されているインクジェット記録ヘッド用基体において、
発熱抵抗体に電力を供給する電力配線に隣接して、メッキ法により形成された配線が並列して配置されているインクジェット記録ヘッド用基体。
【請求項2】
インクを吐出する方向が、発熱抵抗体と垂直であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用基体。
【請求項3】
前記電力配線と並列に配置されるメッキ法により形成された配線が、前記電力配線と同膜厚であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用基体。
【請求項4】
前記電力配線と並列に配置されるメッキ法により形成された配線が、前記電力配線と同一工程で形成されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用基体。
【請求項5】
前記電力配線と並列に配置されるメッキ法により形成された配線が、GND電位または電気的に浮いていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用基体。
【請求項6】
インクを吐出するノズルが有機材料をスピンコート法により塗布し形成することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用基体。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド用基体と、前記発熱部に対応したインク吐出口とを具えたことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】
発熱抵抗体と電気的に接続する検査用の電極パッドがメッキ法により形成されており、前記メッキ法により形成された検査用の電極パッド上に、インクを吐出するノズルが有機材料で形成されているインクジェット記録ヘッド用基体において、
前記検査用の電極パッドに隣接して、メッキ法により形成された配線が並列して配置されているインクジェット記録ヘッド用基体。
【請求項9】
インクを吐出する方向が、発熱抵抗体と垂直であることを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録ヘッド用基体。
【請求項10】
前記検査用の電極パッドと並列に配置されるメッキ法により形成された配線が、前記検査用電極パッドと同膜厚であることを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録ヘッド用基体。
【請求項11】
前記検査用の電極パッドと並列に配置されるメッキ法により形成された配線が、前記検査用の電極パッドと同一工程で形成されることを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録ヘッド用基体。
【請求項12】
前記検査用電極パッドと並列に配置されるメッキ法により形成された配線が、GND電位または電気的に浮いていることを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録ヘッド用基体。
【請求項13】
インクを吐出するノズルが有機材料をスピンコート法により塗布し形成することを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録ヘッド用基体。
【請求項14】
請求項8〜請求項13のいずれかに記載のインクジェットヘッド用基体と、前記発熱部に対応したインク吐出口とを具えたことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−126146(P2009−126146A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306047(P2007−306047)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】