インクジェット記録方法及び記録装置
【課題】単独で付与された場合には耐擦過性や光沢性の向上効果を示さないインクを含む複数のインクで画像を形成するものでありながら、高い耐擦過性と、記録部と非記録部とに違いがない優れた光沢性とを示す画像形成が可能なインクジェット記録方法及び装置の提供。
【解決手段】複数のインクを用いインクジェット記録方式で記録を行う際に、第1のインクは、顔料、該顔料に対して、ノニオン性ユニットとポリシロキサン構造を有するユニットとを含んで構成したグラフトポリマーを0.5〜5.0倍の範囲で含み、第2のインクは、顔料を含み、前記グラフトポリマーを実質的に含有していないものであり、インクジェット記録方式が、記録媒体の単位領域に対して記録ヘッド101の主走査を繰り返して記録を行う方式であって、後半以降に単位領域へと付与する第1のインクの付与量が60%以上になるようにする。
【解決手段】複数のインクを用いインクジェット記録方式で記録を行う際に、第1のインクは、顔料、該顔料に対して、ノニオン性ユニットとポリシロキサン構造を有するユニットとを含んで構成したグラフトポリマーを0.5〜5.0倍の範囲で含み、第2のインクは、顔料を含み、前記グラフトポリマーを実質的に含有していないものであり、インクジェット記録方式が、記録媒体の単位領域に対して記録ヘッド101の主走査を繰り返して記録を行う方式であって、後半以降に単位領域へと付与する第1のインクの付与量が60%以上になるようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色材として顔料を含有するインクを用いたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用のインクでは、色材として顔料を含む顔料インクが、近年、オフィスやホーム用途に用いられる小型プリンタ用としてだけでなく、ポスターや広告を印刷する用途に用いられる大判プリンタ用としても広く適用されている。大判プリンタで印刷する際には、A0サイズやA1サイズなどのかなり大きな記録媒体を用いることが多く、画像を記録した記録媒体を持ち運ぶ際には、丸めて筒状にすることが一般的である。このため、大きな記録媒体を用いたインクジェット記録画像の場合には、特に下記のような問題を生じることがある。
【0003】
すなわち、記録媒体を丸める際に、記録媒体の角などの鋭利な部分で画像を擦るような場合があるが、このとき、顔料インクで記録した画像に傷が付き、色材が削れ落ちるという問題が、かなりの頻度で発生する。また、これと同様の課題は、他の状況においても発生する。例えば、顔料インクで記録した画像をポスターとして屋外に貼る際に、画像が、爪などの鋭利なもので強く引っ掻かれるような場合である。このときも、上記と同様に、色材が削れ落ちるという問題がかなりの頻度で発生する。以上のように、大判プリンタに用いるインクとして顔料インクを選択し、大型画像を形成した場合には解決すべき特有の課題があった。すなわち、大判プリンタによる大型画像の場合には、特に、鋭利なものが画像に触れたとしても画像の色材が削れ落ちることがない、通常の画像に対するよりも格段に高いレベルの耐擦過性を実現することが大きな課題となっている。
【0004】
これに対して、これまでにも、顔料インクで記録した画像の耐擦過性は課題となっていたため、かかる課題を解決するために様々な方法が提案されている。しかし、その多くが、オフィスやホーム用途として用いられる小型プリンタ用を対象として検討が行われているため、従来の技術を用いるだけでは、指で画像に触れて傷がつかない程度の耐擦過性を得るのが精一杯である。つまり、今もなお、前記した大判プリンタによる大型画像に要求されているような、鋭利なものが画像に触れた場合に生じる高いレベルの耐擦過性についての課題を解決することはできていないのである。
【0005】
無論、上記のような状況においても、耐擦過性を満足し得る画像の提供を可能とすべく、より高いレベルの画像の耐擦過性を得るための方法に関する提案はいくつかある。例えば、インクジェット用インクで記録した画像の上に特定の化合物を付与することで、画像の滑り性を高め、画像の耐擦過性を向上させることに関する提案がある(特許文献1参照)。
【0006】
一方、顔料インクを用いて記録媒体に記録を行う場合、顔料粒子が記録媒体の表面上に多く存在した状態となることによる問題がある。例えば、上述のポスター作成時に使用される、写真画質の記録に用いる膨潤型の記録媒体のインク受容層には孔が存在せず、また、空隙型の記録媒体のインク受容層には孔は存在するが、その孔径よりも顔料の粒径の方が大きい。したがって、顔料の多くは記録媒体のインク受容層の内部に浸透することができず、記録媒体の表面上に露出して存在することになる。この結果、記録媒体上の顔料インクで記録を行った画像の部分では、露出した顔料により新たな表面が形成された状態となる。したがって、記録媒体に露出した顔料粒子の堆積状態によっては、表面の平滑性が、記録媒体表面と異なる場合がある。そして、この平滑性の違いは、記録媒体の記録部と非記録部との間の光沢の違いとして現れることとなる。記録媒体内に光沢の異なる領域が存在すると、違和感として感じられ、光沢感に違和感が生じる。
【0007】
これらの対策として、顔料の持つ光学的な粒子性をなくすべく顔料のさらなる微粒子化が検討されている(特許文献2参照)。また、光沢性の改善を目的とした、樹脂、とりわけ樹脂エマルジョンをインク中に添加して記録媒体表面の平滑性を向上させる提案や、顔料の露出をなくすために、顔料粒子を水不溶性ビニルポリマーに包含させたインクが開示されている(特許文献3〜5参照)。また、特許文献6には、着色インクによって画像を記録した後にさらにコート液を付与することにより、耐擦過性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−108495号公報
【特許文献2】特開平09−176543号公報
【特許文献3】特開平09−208870号公報
【特許文献4】特開2006−282760号公報
【特許文献5】特開平09−188732号公報
【特許文献6】特開2005−081754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、本発明者らの検討の結果、インクジェット用インクのみで画像を記録した場合、上記で挙げたような従来技術のいずれを用いても、記録した画像は、上述の本発明が目的とする格段に高いレベルの耐擦過性を満足するには至らないことがわかった。すなわち、上記で挙げたような従来技術では、爪で軽く触れても画像に傷が付かないレベルの耐擦過性であれば満足できる画像が得られるが、それよりも高いレベルの画像の耐擦過性を実現できてはいない。具体的には、記録媒体の非記録部に傷が付く程の強い圧力を加えて爪などの鋭利なもので画像を引っ掻くと、色材が削れ落ちるという現象が起きる。
【0010】
例えば、特許文献1に記載されているように、画像を記録した後に、潤滑物質や滑り化合物を散布又は塗布するなどといった、いわゆる固形物により画像を後から保護する方法を用いて確実に画像を保護できれば、本発明の目的を達成できるかもしれない。また、画像をフィルムなどで覆うラミネート方式などを用いた場合も、特許文献1に記載の発明と同様に、本発明の目的を達成できるかもしれない。しかし、本発明者らの検討によると、特許文献1に記載されているように、潤滑物質を含有するインクを用いる場合や、潤滑物質を含有する水溶液を画像の上に付与する場合においては、潤滑物質が水性媒体と共に記録媒体の内部へ浸透する。その結果、このような場合においては、これらの液体を画像に付与したことによる耐擦過性向上の効果がほとんど得られていないことがわかった。さらに、特許文献5には、シリコーン系ポリマーを含有するインクが記載されているが、画像の耐擦過性が向上することについては何ら記載されていない。
【0011】
また、光沢性を改善する方法として、特許文献2で記載されているような、ほとんどの顔料粒子を粒子径100nm以下の状態でインク中に分散させる技術が知られている。このような顔料を用いて光沢系の記録媒体に記録すると、確かに従来サイズの顔料を用いて記録したときよりもある程度の光沢性が得られる。しかし、このような細かい顔料を用いても、画像表面の光沢感が染料の場合よりまだ欠けるために、鮮明な画像を得るには至っていない。画像の耐擦過性についても、容易に色が転写しにくくなるものの、依然、顔料粒子が記録媒体の表面に積み重なって露出している状態なので、指などでこすったりすると、色が落ちたり汚れたりする。
【0012】
また、光沢性を改善する方法として、特許文献3に記載されているような、樹脂をインク中に含有させる、とりわけ樹脂エマルジョンを添加する発明の開示もある。しかし、当該文献に記載されている樹脂エマルジョンを添加すると光沢の均一性が失われてムラが目立つようになり、光沢性の改善は見られなかった。
【0013】
さらに、画像の光沢性を改善する方法として、特許文献4に記載されているような、顔料をシリコーン成分を有する水不溶性ポリマーなどを分散剤として使用し分散させる方法の開示がある。しかし、この場合は、分散剤として顔料にシリコーン含有物を吸着させることで顔料同士がすべり、今度は却って耐擦過性が低下した。つまり、分散剤としてシリコーン含有物を使用することは、光沢性の向上は認められるものの耐擦過性の向上には好ましくない。つまりこれら従来の方法では、耐擦過性と光沢性の両立を図ることができなかった。
【0014】
また、特許文献6では、着色インクによって画像を記録した後にさらにコート液を付与することにより、耐擦過性を向上させる技術が挙げられている。しかし、付与したコート液によって形成される膜の厚みによっては、光の干渉により干渉縞が発生してしまうことがある。
【0015】
一方、複数のインクを用いて記録を行う際に、使用する全てのインクに耐擦過性や光沢性を向上させる化合物を含有させることができればよい。しかし、保存安定性や信頼性(フェイス面の濡れ抑制や吐出安定性)などの観点から、全てのインクには含有させられないのが現状である。このような組み合わせからなる複数のインクを用いて記録を行うと、耐擦過性や光沢性を向上させる化合物が付与されていないインクのみで記録される領域が存在してしまう。そして、この領域の耐擦過性や光沢性は、ただ低いだけではなく、耐擦過性や光沢性を向上させる化合物が付与されたインクによって記録した耐擦過性や光沢性が向上した部分と比較されるため、その性能の低さが際立ってしまう。
【0016】
したがって、本発明の目的は、画像形成に用いる複数のインクの中に、単独で付与した場合には耐擦過性や光沢性の向上効果を示さないインクが含まれている場合にも、良好な画像形成が可能なインクジェット記録方法及び記録装置を提供することにある。具体的には、上記の場合にも、記録媒体の非記録部に傷が付く程の強い圧力を加えて記録箇所に触れても、記録箇所の色材が殆ど削り落ちることがない高いレベルの耐擦過性を満足した画像が得られる記録方法を提供することを目的とする。さらに、これに加えて、記録媒体の記録部と非記録部とに違いを感じさせることがない高いレベルの光沢性を満足した画像を与える記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記課題の解決手段として、新たな構成の第1のインクと、これと異なる第2のインクを含む複数のインクを用い、記録ヘッドの主走査を複数回繰り返して記録を行う際に、第1のインクの付与量を制御して記録することが有効であることを見出した。この結果、十分な耐擦過性と光沢性を併せもった画像を得ることができる。本発明は、以下のような手段によって達成される。
【0018】
すなわち、本発明では、インクジェット記録方式で、第1のインクと第2のインクとを有する複数のインクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、前記第1のインクは、少なくとも、下記一般式(A)で表されるノニオン性ユニット、及び、ポリシロキサン構造を有するユニットを含んで構成されるグラフトポリマーと、顔料とを含有してなり、かつ、インク中における前記グラフトポリマーの含有量(質量%)が前記顔料の含有量(質量%)に対して0.5倍以上5.0倍以下であり、前記第2のインクは、少なくとも顔料を含み、かつ、前記グラフトポリマーの含有量(質量%)が、該顔料の含有量(質量%)に対して0.0倍以上0.2倍未満であり、前記インクジェット記録方式が、記録媒体の単位領域に対して記録ヘッドの主走査をn(nは2以上の整数)回繰り返して記録を行う方式であって、前記第1のインクを単位領域に付与する際に、i回目の走査時における前記第1のインクの付与量V(i)が、下記式[I]又は式[II]を満たすことを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。
(一般式(A)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R3はエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2である。ただし、R2がメチル基の場合、R3がエーテル結合となることはない。)
【0019】
また、本発明では、別の実施形態として、複数のインクを収容するためのインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えてなり、かつ、上記のインクジェット記録方法で記録が行われるように構成されていることを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【0020】
本発明でいう単位領域とは、1画素や1バンドなどのことであり、必要に応じて種々の領域として単位領域を設定することができる。また、1画素とは、解像度に対応した1画素のことであり、1バンドとは、1回の記録ヘッドの走査で形成される画像の領域のことである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、吐出安定性やインクの保存安定性を確保しつつ、かつ、従来から課題が認識されている耐擦過性をはるかに上回った画像の耐擦過性を実現でき、しかも、記録部と非記録部とで違いがない光沢性を画像全体で満足した画像の提供が可能になる。すなわち、本発明で実現される画像の耐擦過性は、記録媒体の非記録部に傷が付く程の強い圧力を加えて記録箇所に触れた場合でも、記録箇所の色材が殆ど削り落ちることがない高いレベルあって、しかも画像全体で満足したものとなる。さらに、本発明によって得られる画像は、露出した記録部最表面の顔料粒子による凹凸が少なく表面の平滑性が保たれており、記録媒体の記録部と非記録部とで光沢性に違いがなく、画像全体で光沢性を満足したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】記録ヘッドの一例を示す模式図である。
【図2】マルチパス記録方法を説明する模式図である。
【図3】4パスのマルチパス記録を実行する際に利用するマスクパターンの一例を示す図である。
【図4】Dインクをできるだけ他のインクより遅い段階で記録媒体に付与するように工夫されたマスクパターンの一例を示した図である。
【図5】Dインクをできるだけ他のインクより遅い段階で記録媒体に付与するように工夫されたマスクパターンの一例を示した図である。
【図6】本発明におけるヘッドの別の一例を示す模式図である。
【図7】物性の違う2種類のインクを記録媒体に付与したときの状態を表した模式図である。
【図8】記録ヘッドの縦断面図である。
【図9】記録ヘッドの縦横面図である。
【図10】図9に示した記録ヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図11】インクジェット記録装置の概念構成を説明するための図である。
【図12】インクカートリッジの構成の一例を示す図である。
【図13】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【図14】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のポイントは、下記の2点にある。まず、複数のインクのうちの第1のインクに、特定のグラフトポリマーを顔料に対して特定量の範囲で含有したものを用い、これと共に、該グラフトポリマーを実質的に含有しない構成の第2のインクを用いる構成とした点にある。具体的には、第2のインクに、特定のグラフトポリマーの含有量が、顔料の含有量(質量%)に対して0.0倍以上0.2倍未満の範囲である、実質的に含有されていないと言えるものを使用する。なお、以下、特定のグラフトポリマーのことを「シリコーングラフトポリマー」という場合がある。さらに本発明の特徴は、これらの複数のインクを用い、第1のインクの付与量を制御する特定の記録方法にて画像を記録することとした点にある。この結果、画像の様々な色相、色濃度などの記録箇所においても、従来の記録方法に比べて耐擦過性と光沢性とを格段に向上させた画像の提供が可能となる。以下、本発明に至った経緯について説明する。
【0024】
本発明者らは、先ず、画像形成に使用した場合に、より効果的に、記録画像が耐擦過性と光沢性とを有するものになるインクの構成についての検討を行った。検討の過程で、画像の耐擦過性を向上させる目的で、塗膜表面のスリップ性を向上させる効果を有する材料であるシリコーン系ポリマーを、インク成分に使用した。その結果、画像の耐擦過性は向上したものの、シリコーン系ポリマーは疎水性が高いため、シリコーン系ポリマー同士での凝集が記録媒体の記録部最表面で起こってしまい、光沢性の向上は観察されなかった。
【0025】
そこで、さらなる検討をしたところ、同一ポリマー内に、疎水性の高いシロキサン含有モノマーからなるユニットと、親水性の高い特定のノニオン系モノマーとからなるユニットを組み込んだグラフトポリマーを用いることが有効であることを見出した。その理由は、それぞれのユニットがミクロ相分離することで構造が維持される結果、該ポリマーを含むインクを用いて記録された画像は、表面が滑りやすく、かつ、レベリング性を有するため、耐擦過性及び光沢性の両立が可能となったと推測している。
【0026】
本発明は、使用する複数のインクの1種中に、塗膜表面のスリップ性を向上させる効果に加え、記録画像と該画像と接触する物質との摩擦力にも着目して構造を決定した特有のグラフトポリマーを含有させる、という新しい発想に基づくことを一つの特徴とする。先ず、シリコーングラフトポリマーの形成材料にポリシロキサン含有モノマーを使用することで、ポリシロキサン構造を有するユニットを含んでなるものとし、これをインクの材料に使用する。このように構成した結果、本発明によれば、記録媒体の非記録部に傷が付く程の強い圧力を加えて記録箇所に触れた場合でも、記録箇所の色材が削り落ちないばかりでなく、傷跡も殆ど残らない画像の提供が可能となる。特定のグラフトポリマーの詳細については後述する。
【0027】
さらに、本発明では、その形成材料に特定のノニオン性モノマーを使用することで、シリコーングラフトポリマーの構造中に、上記ポリシロキサン構造を有するユニットに加えて、ノニオン性ユニット有するものとし、該ポリマーをインク成分として使用する。シリコーングラフトポリマーの構造をこのようにすることで、その親水性は向上する結果、インク成分として用いた場合に、記録媒体の記録部最表面での樹脂の凝集が起こりにくくなる。このため、このような構造のグラフトポリマーを含有したインクによって形成された画像は、記録部最表面の凹凸がなくなり、表面の平滑性が保たれたものとなる。この表面における平滑性維持の結果、記録媒体の記録部と非記録部とで違いがないレベルで光沢性を満足した画像の提供も可能となる。
【0028】
前記したように本発明の目的は、記録画像全体において光沢性を維持しつつ、先に述べたような高いレベルの耐擦過性を満足した画像を記録するためのインクジェット記録方法を提供することにある。本発明者らの検討によれば、この目的を達成させるための一つの手段として、画像形成に用いる複数のインクのすべてのインクを、前記した特定のシリコーングラフトポリマーを含有するインク(第1のインク)とすることが挙げられる。
【0029】
しかし、本発明者らの検討によると、信頼性能や画像性能などの理由から、画像形成に用いる複数のインクのすべてに、必ずしも、前記した特定のシリコーングラフトポリマーを含有させることができない場合があることが判明した。これに対して、本発明者らは、記録方法によっては、必ずしも、使用する複数のインクのすべてを、前記した特定のシリコーングラフトポリマーを含有してなる構成の第1のインクとする必要がないことを見出した。本発明は、記録に用いる少なくとも1種のインクが、前記した特定のグラフトポリマーを含むインクであれば足り、併用する他のインクは該ポリマーを実質的に含むものでなくても、記録方法を工夫することで上記目的を達成できるという新たな知見に基づく。なお、ここでいうシリコーングラフトポリマーを実質的に含有していないとは、そのインクを用いて記録した時に、単独では耐擦過性が満足しない程度にしか含有していないという意味であり、全く含有していなくても本発明の効果を問題なく得ることができる。より具体的には、本発明で規定するインク中の顔料の含有量(質量%)に対して、前記グラフトポリマーの含有量(質量%)が、0.0倍以上0.2倍未満の範囲内のことである。
【0030】
本発明で使用する第1のインクは、顔料と特定のグラフトポリマーとを含み、インク中における該グラフトポリマーの含有量(質量%)が顔料の含有量(質量%)に対して0.5倍以上5.0倍以下有してなる。上記の特定のグラフトポリマーとは、少なくとも、下記一般式(A)で表されるノニオン性ユニットと、ポリシロキサン構造を有するユニットを含んで構成されるものである。これらの詳細については、後述する。
(一般式(A)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R3はエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2である。ただし、R2がメチル基の場合、R3がエーテル結合となることはない。)
【0031】
本発明を構成する画像の記録方法は、上記特定のシリコーングラフトポリマーを含有する第1のインクと、実質的に含有しないインクを有する複数のインクを吐出してインクジェット記録方式により記録媒体にインクを付与する工程を有する。さらに、インクジェット記録方式に、記録媒体の単位領域に対して記録ヘッドの主走査を複数回(すなわち、2以上の整数であるn回)繰り返して画像を記録する方式を用いる。記録ヘッドの主走査を複数回繰り返して記録する方式の代表的なものとしては、いわゆるマルチパス記録方式がある。そして、第1のインクを単位領域に付与する際に、i回目の走査時における第1のインクの付与量V(i)が、下記式[I]又は式[II]を満たすように構成したことを特徴とする。
【0032】
上記したように、式[I]又は式[II]では、第1のインクの単位領域への付与量を、後半以降の走査での第1のインクの付与量が60%以上となるようにすることが規定される。さらに好ましくは、下記式[III]又は式[IV]に示すように、第1のインクの付与量が70%以上、さらには、下記式[V]又は式[VI]に示すように第1のインクの付与量が80%以上になるようにする。
この結果、前記した構成の異なる複数の顔料インクで記録した記録画像において、その耐擦過性は、記録媒体の非記録部に傷が付く程の強い圧力を加えて記録箇所に触れた場合でも、記録箇所の色材が削り落ちることがない高いレベルを満足したものとなる。
【0033】
前記した第1のインクと第2のインクとを含む複数のインクで画像を形成させる場合に、上記した記録方法を採用して第1のインクを付与することで、記録した記録物において、第1のインクの効果が損なわれることなく発現させることができる。本発明における効果は、第2のインクとして、顔料を色材に用いた顔料インクや、染料を色材に用いた染料インク、さらにはそれらの色材を併用させたインクを用いても得られる。すなわち、第2のインクは、前記したシリコーングラフトポリマーを実質的に含有していないことを満足すれば、その他の成分は特に限られるものではなく、どのような構成としてもよい。なお、本発明においては、第1のインクに該当するインクを複数用いても、また、第2のインクに該当するインクを複数用いてもよい。
【0034】
前記したように、本発明で用いる記録方式としてはマルチパス記録が好適である。マルチパス記録では、1回の記録走査で記録可能な画像データを予め用意してあるマスクパターンによって間引き、複数回の記録主走査によって段階的に画像を完成させていくので記録ドットの制御が可能となる。以下、この点について説明する。
図1は、4種のインク(A、B、C及びDインク)を用いる際の記録ヘッドの一例を示し、図2は、マルチパス記録方法を簡単に説明するための模式図である。ここでは、記録ヘッド101を用い、4パスのマルチパス記録によって記録媒体201に画像を記録する状態を示している。各記録主走査の間には、記録ヘッド101の記録幅の1/4に相当する量(図中にdで表示)だけ記録媒体201が副走査方向に搬送される。このような記録方法では、記録媒体201の同一画像領域は、記録ヘッドの4つの領域1〜4に対応する4回の記録主走査によって画像が完成される。この結果、記録媒体上の主走査方向に配列する複数のドットは4つの異なるノズルによって記録されるので、ノズル単位のばらつきが緩和され、画像全体が滑らかになる。また、双方向記録を行った場合でも、記録媒体201の全ての画像領域は往路走査と復路走査の両方によってインクが付与されるので、記録媒体に対するインクの付与順序が単位領域毎に異なることもなく、画像全体の色むらがある程度抑制される。
【0035】
図3は、図2のような4パスのマルチパス記録を実行する際に利用するマスクパターンの一例を示した図である。ここでは簡略的に、一色分のノズル列301とそれに対応するマスクパターン302a〜302dを示している。ノズル列301内のノズルは4つの領域に分割され、それぞれの領域に含まれるノズルは、各領域に対応するマスクパターン302a〜302dにしたがったドット配置によりインクを付与して記録する。個々のマスクパターン302a〜302dは、ドット配置による記録・非記録を定めた複数の画素領域によって構成されておる。図中、黒く示した領域がドット配置による記録を許容する画素、白く示した領域がドット配置による記録を許容しない画素をそれぞれ示している。4種類のマスクパターン302a〜302dは互いに補完の関係を保っており、各記録走査でこれらマスクパターンと画像データとの論理積をとることによって、実際に各記録主走査で記録するドット配置によるインクの付与が決定される。ここでは簡単のため、4画素×3画素の領域を有するマスクパターンを示しているが、実際のマスクパターンは主走査方向にも副走査方向にさらに大きな領域を有している。
【0036】
このようなマルチパス記録方法を採用すれば、横並び構成の記録ヘッドを用いた場合であっても、マスクパターンの各領域の記録率をインクの種類ごとに異ならせることができる。そして、縦並び構成の記録ヘッドのように記録媒体に対するインクの付与順序をある程度制御することが可能となり本発明における好適な画像記録を行うための記録方法が可能となる。
【0037】
本発明の効果を最大限に得るためにはマルチパスを利用して、第1のインクをできるだけ遅い段階に付与する方法が適している。このように記録することにより、第1のインクに含まれるシリコーングラフトポリマーが付与された記録画像の表層部分、さらには最表層に近い部分に残りやすいために、より一層本発明の効果を得やすい。
【0038】
ここで、シリコーングラフトポリマーを含んだ第1のインクによって形成した画像が高い耐擦過性を有する理由としては、樹脂によってある程度強固な膜(インク層)形成をしながら、その膜に滑り性を発現することによって達成されたものと考えられる。このような効果は、他の方法で得られるものではない。すなわち、別の形態で滑り性を付与する方法、例えば、ある種のイエロー顔料をインク層の表面に配置した場合には、表面の顔料の結着力が小さいため顔料表面層が僅かに脱離し、見かけ滑り性が発現するように見える。しかし、このような手段によっては、本発明のような高い耐擦過性を得られるものではない。
【0039】
図4は、例えば4種のうちのDインクのみを、できるだけ他のインクより遅い段階で記録媒体に付与するように工夫されたマスクパターンの一例を示した図である。401は、Aインク、Bインク又はCインクのノズル列を示し、これらは、マスクパターン403a〜403dにしたがって画像を記録する。一方、Dインクのノズル列402は、マスクパターン404a〜404dにしたがって画像を記録する。このようなマスクパターンを予め用意しておくことにより、Aインク、Bインク、Cインクについては33.3%ずつの3回の記録主走査で画像が記録され、最後の4回目でDインクの100%の記録が行われる。この結果、Dインクは、他のA、B、Cのインクが付与された後に付与される割合が高くなる。
【0040】
しかし、上記のマスクパターンではDのインクが4回目だけで付与されるため、領域4に含まれるノズルによってしか記録されず、ノズル全体のばらつきを緩和し画像全体を滑らかにするというマルチパス記録の本来の利点を生かしきれない可能性もある。また、第2のインクもできるだけ多くの走査で記録した方が滑らかになる。例えば、第2のインクを4回目まで付与したとしても、第1のインクが後半のみで付与されるのであれば、第1のインクは表層部分に残る割合が高くなるので、本発明の目的を達成し得る。そこで、図5に、このような構成のマスクパターンの一例を示した。Aインク、Bインク又はCインクは、マスクパターン503a〜503d、Dインクは、マスクパターン504a〜504dにしたがって画像を記録する。このようなマスクパターンを用いることにより、Aインク、Bインク、Cインクについては25%ずつの4回の記録主走査で画像が記録され、後半の2回目でDインクの50%ずつの記録が同時に行われる。この結果、図4のマスクパターンを用いた場合と同じように、Dインクは、他のA、B、Cのインクが付与された後に付与される割合が高くなる。
【0041】
このように、マルチパス記録時に用いるマスクパターンを様々な用途に応じて予め用意しておくことにより、横並び構成の記録ヘッドを用いたインクジェット記録装置であっても、記録媒体へのインク付与順序を適切に制御することが可能となっている。また、このようなことは、マスクパターンやマルチパスのパス回数(記録主走査)などによって、6パス、8パス、12パスなど多数回の記録主査での画像の記録にも対応可能である。
【0042】
本発明の効果を得るためには、マルチパス記録走査において、第1のインクの全付与量に対して後半に付与されるドット数が6割以上であることが必要である。このように、後半に集中して第1のインクを付与することで、全パス均等に付与した場合よりも第1のインクが表層部分に残りやすくなり、シリコーングラフトポリマーの効果が得られる。より好ましい形態としては、後半における第1のインクの付与量が7割以上、さらには8割以上であれば、本発明の効果がより得られる。
【0043】
また、図6に、4種のインク(A、B、C、Dインク)を用いる際の記録ヘッドの別の一例を示す。ここでは、記録ヘッド601上に、ノズル列A、ノズル列B、ノズル列C及びノズル列Dが、互いにオーバーラップしないように副走査方向に1列に配置している。このような縦並び構成では、記録ヘッドの1回の記録主走査において、記録媒体の異なる領域に各色のインクが付与される。この結果、記録ヘッド601が、往路方向及び復路方向のどちらで記録主走査を行っても、記録媒体にインクが付与される順番は、D→C→B→Aの順になる。例えば、BとCの混合によって表現される2次色の画像は、常にC→Bの順でインクが付与される。このような記録ヘッド構成によっても、特に困難な制御を行うことなく、上述したようなインクの付与の順番を考慮したインクの付与を行うことができる。すなわち、上述したようなインクの付与の順番を考慮したい場合には、遅れて付与したいインクを吐出するためのノズル列を副走査方向に対し最も下流側に配備すれば、特に困難な制御を行わなくても目的のインク付与順序で画像を記録することができる。
【0044】
ここまで、本発明の効果を得ることを可能とする、第1のインクに含有されたシリコーングラフトポリマーが、形成した記録画像の表層部分に残るようにできる記録装置を利用した記録方法の形態について説明した。しかし、本発明の効果は、使用する複数のインクの基本物性を以下のように規定することによってもより顕著になるので、この点についての詳細を説明する。
【0045】
インクは表面張力が低いほど記録媒体への浸透が早くなり、インクが定着される時間も早くなる。この点を勘案し、第2のインクの表面張力を、第1のインクの表面張力よりも3mN/m以上低くなるように構成すると下記のような挙動を示すため、本発明の効果がより顕著に得られるので好ましい。図7に示すように、この場合は、第1のインク701a及び701bと、第2のインク702が同時に付与されたとしても、第2のインクがより早く記録媒体703に浸透・定着し、第1のインクがその後ゆっくり浸透していくことになる。このため、第1のインクに含有されているシリコーングラフトポリマーは、記録画像の表層部分に残ることとなる。また、本発明で使用する複数のインクの表面張力は、吐出性能などの観点から、20mN/m以上60mN/m未満であることが好ましい。さらに好ましい形態は、25mN/m以上50mN/m未満であることが挙げられる。
【0046】
もう一つの形態として、インクの水分量を調整することが挙げられる。インク中の水分量が少ない程、記録媒体に付与されてから定着するまでの時間が短くなる。詳細な検討によれば、第2のインクの水分量を、第1のインクの水分量よりも10%以上低くすることが好ましいことがわかった。上記の表面張力の場合と同じく、この場合も図7のように第2のインクの定着が第1のインクより早くなり、第1のインクが後からゆっくり定着するので、シリコーングラフトポリマーが記録画像の表層部分に残ることとなる。先に述べたマルチパスを利用した記録方法で記録を行うと同時に、上記したように調整された複数のインクを用いることで、本発明の効果をより顕著に得ることができる。
【0047】
<インクジェット記録装置>
以下に、本発明のインクジェット記録装置の一例の基本構成について説明する。先ず、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置の主要部であるヘッドの構成の一例を図8及び図9に示した。図8は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図9は図8のA−B線での切断面図である。ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板などと発熱素子基板15とを接着して得られる。発熱素子基板15は、保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金などで形成される電極17−1及び17−2、発熱抵抗体層18、蓄熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウムなどの放熱性のよい材料で形成される基板20よりなる。上記保護層16は、酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコンなどで形成され、上記蓄熱層19は、HfB2、TaN、TaAlなどの高融点材料から形成される。そして、画像形成に際し、下記のようにしてインクの吐出が行われる。
【0048】
上記ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインク21に気泡が発生する。そして、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21がヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。
【0049】
図10には、図9に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの一例の外観図を示す。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図9に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0050】
図11に、本実施形態で使用するインクジェット記録装置の外観構成を説明するための図を示した。インクジェット記録ヘッドや複数色分のインクタンクを搭載するキャリッジ1101は、キャリッジモータ1102を駆動源として主走査方向に往復移動する。キャリッジ1101の往復走査に追従するように取り付けられているフレキシブルケーブル1113は、不図示の制御部とキャリッジ1101に搭載された記録ヘッドとの間での電気信号の送受信を行う。キャリッジ1101の移動位置は、主走査方向に延在して取り付けられているエンコーダ1106を、キャリッジ備えられたエンコーダセンサが光学式に読みとることによって検出できるようになっている。
【0051】
外部に接続されたホスト装置より記録動作コマンドが入力されると、給紙トレイ1105に積層されている記録媒体の1枚がキャリッジ1101に搭載された記録ヘッドによって記録可能な位置まで給紙される。その後、記録信号に伴ってインクを吐出しながらの記録ヘッドの複数回の記録主走査と、記録媒体の所定量の搬送動作を交互に繰り返すことにより、記録媒体に順次画像を形成していく。
【0052】
キャリッジ1101が移動する領域の端部には、記録ヘッドのメンテナンス処理を実行するための回復手段1104が具備されている。回復手段1104には、吸引及び放置時に記録ヘッドの吐出口面を保護するためのキャップ1109、吐出回復時のコート液を受容する吐出受け1107、吐出回復時の吐出したインクを受容する吐出受けなどが備えられている。ワイパーブレード1110は、矢印の方向に移動しながら記録ヘッドの吐出口面をワイピングする。
【0053】
図12は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジの一例を示す図である。ここで40は供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部はインクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。
【0054】
本発明で使用されるインクジェット記録装置は、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図13に示すようなそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図13において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料はポリウレタンを用いることが好ましい。また、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネなどを仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図11に示すキャリッジ1101に対して着脱自在になっている。
【0055】
次に、本発明のインクジェット記録装置の別の一例である、力学的エネルギーを利用した記録装置の基本構成について説明する。該装置では、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備える。そして、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを有する。図14に、その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を示した。
【0056】
該記録ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、オリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、基板84とから構成されている。該基板84は、オリフィスプレート81、振動板82などを支持固定するためのものである。インク流路80は、感光性樹脂などで形成される。オリフィスプレート81は、所望の体積のインク滴を吐出するためのものであり、ステンレス、ニッケルなどの金属に、電鋳やプレス加工による穴あけなどを行うことにより吐出口85が形成されている。振動板82はステンレス、ニッケル、チタンなどの金属フィルム及び高弾性樹脂フィルムなどで形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZTなどの誘電体材料で形成される。以上のような構成の記録ヘッドは、下記のように動作して記録を行う。まず、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、歪み応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行う。このような記録ヘッドは、図11に示したものと同様なインクジェット記録装置に組み込んで使用される。インクジェット記録装置の細部の動作は、先述と同様に行うもので差しつかえない。
【0057】
次に、本発明の目的である高い耐擦過性を実現することを可能とする第1のインクを構成するシリコーングラフトポリマーについて詳細に説明する。
(シリコーングラフトポリマー)
本発明で使用する第1のインクは、下記一般式(A)で表されるノニオン性ユニット及びポリシロキサン構造を有するユニットを含むグラフトポリマーを含有する構成としたことを特徴とする。なお、本発明において、以下、「ユニット」と記載した場合には、ユニットを構成する繰り返し単位が1つ又は複数の場合のどちらも含むものとする。
【0058】
(一般式(A)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R3はエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2である。ただし、R2がメチル基の場合、R3がエーテル結合となることはない。)
【0059】
本発明におけるグラフトポリマーとは、「一本の幹ポリマー(主鎖)に枝ポリマー(側鎖)が結合した構造を有するポリマー」のことである。そして、あるポリマーの構造がグラフトポリマーとなっているか否かを判別する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーと多角度光散乱検出器とを組み合わせて、絶対分子量と分子サイズを測定することにより、あるポリマーの構造がグラフトポリマーとなっていることを判別することができる。具体的には、これらの方法により測定される絶対分子量と分子サイズの測定値が乖離すればするほど、そのポリマーは、分岐度が高いことを示しており、グラフトポリマーの形態をとっていると判断することができる。
【0060】
以下、本発明に用いる上記グラフトポリマーを構成する各ユニットについてより詳細に説明する。
(ノニオン性ユニット)
第1のインクに使用する上記グラフトポリマーを構成するノニオン性ユニットは、下記一般式(A)で表される構造を有するものである。この構造のノニオン性ユニットは、エチレンオキサイド基の繰り返し単位の数が1又は2であり、末端に重合性を持つ官能基を有する、下記一般式(A’)のモノマーが共重合されたものである。
【0061】
(一般式(A)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R3はエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2である。ただし、R2がメチル基の場合、R3がエーテル結合となることはない。)
【0062】
(一般式(A’)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R3はエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2である。ただし、R2がメチル基の場合、R3がエーテル結合となることはない。)
【0063】
本発明においては、上記一般式(A)で表されるノニオン性ユニットにおける、エチレンオキサイド基の繰り返し単位の数は1又は2である、すなわち、上記一般式(A)におけるxが1又は2であるものを用いる。上記一般式(A)におけるxが3以上であると、上記ノニオン性ユニットを主鎖に含む場合において、ノニオン性を有する部位が局在化して存在する傾向が大きくなり、上記グラフトポリマーの全体としての親水性が高くなるため画像の耐水性が十分に得られない。また、上記のように、上記グラフトポリマーの全体としての親水性が高くなると、インク中で前記グラフトポリマーが界面活性剤のような作用を有するようになる。この場合、上記グラフトポリマーの記録媒体へのインクの浸透性が高くなって、画像の最表面に配向する上記グラフトポリマーの量が減少することとなり、十分な画像の耐擦過性を得ることはできない。
【0064】
上記一般式(A)で表されるノニオン性ユニットとしては、具体的には、(メタ)アクリレート系モノマーやビニルエーテル系モノマーが共重合されたものが挙げられる。また、本発明に用いる上記グラフトポリマーにおいて、上記ノニオン性ユニットは、1種又は2種以上を組み合わせて構成させてもよい。
【0065】
(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、以下のものが挙げられる。2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート。ジエチレングリコールモノアクリレート、メトキシジエチレングリコール−モノメタクリレート、メトキシジエチレングリコール−モノアクリレートなど。このような(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、ブレンマーPE−90、AE−90、PME−100(以上、日油製)、BHEA、HEMA(日本触媒製)などの市販品を用いることができる。
【0066】
ビニルエーテル系モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテルなどが挙げられる。このようなビニルエーテル系モノマーとしては、例えば、HEVE、DEGV(以上、丸善石油化学製)などの市販品を用いることができる。本発明において、これらのモノマーの中では、特に、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メトキシジエチレングリコール−モノメタクリレートを用いることが好ましい。
【0067】
(ポリシロキサン構造を有するユニット)
第1のインクに使用する上記グラフトポリマーを構成するポリシロキサン構造を有するユニットとしては、ポリシロキサン構造を有するユニットであればいずれのものであってもよい。本発明においては、ポリシロキサン構造を有するユニットの中でも、特に、下記一般式(B)で表されるユニットを用いることが好ましい。この一般式(B)で表されるユニットは、下記一般式(B’)で表されるモノマーが共重合されたものである。また、本発明に用いる上記グラフトポリマーにおいて、ポリシロキサン構造を有するユニットは、1種又は2種以上を組み合わせて構成させてもよい。
【0068】
(一般式(B)中、R8は水素原子又はメチル基であり、R9は炭素数1乃至6のアルキレン基であり、R10はそれぞれ独立にメチル基又はフェニル基であり、R11は炭素数1乃至6のアルキル基、又はフェニル基であり、mは1乃至150の整数である。)
【0069】
(一般式(B’)中、R8は水素原子又はメチル基であり、R9は炭素数1乃至6のアルキレン基であり、R10はそれぞれ独立にメチル基又はフェニル基であり、R11は炭素数1乃至6のアルキル基、又はフェニル基であり、mは1乃至150の整数である。)
【0070】
また、本発明において、上記一般式(B’)で表されるモノマーとしては、例えば、サイラプレーンFM−0711、FM−0721、FM−0725(以上、チッソ製)などの市販品を用いることができる。
【0071】
(その他のユニット)
第1のインクに用いる上記グラフトポリマーは、上述した一般式(A)で表されるノニオン性ユニットと、例えば、一般式(B)で表されるようなポリシロキサン構造を有するユニットを少なくとも有することが必要である。しかし、これらのユニットの他に、その他のユニットをさらに有する構造のものであってもよい。また、本発明においては、特に、上記グラフトポリマーの主鎖が、上記一般式(A)で表されるノニオン性ユニットと、その他のユニットとを有する構造のものであることが好ましい。
【0072】
その他のユニットとしては、酸モノマー、カルボキシル基を有するモノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマーや、これらの無水物、塩、エステル化合物などのモノマーが共重合されたものが挙げられる。また、本発明に用いる上記グラフトポリマーにおいて、上記のその他のユニットは、1種又は2種以上を組み合わせて構成させてもよい。
【0073】
その他のユニットを構成するモノマーとしては、具体的には、例えば、以下のモノマーが挙げられる。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸など。アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸エステルなど。メタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸エステルなど。スチレンスルホン酸、無水マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステルなど。ビニルホスホ酸、ビニルホスフェート、ビス(メタアクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェートなど。また、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル−2−(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェートなど。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルが好ましい。
【0074】
本発明の目的を達成させるためには、インク全質量を基準とした第1のインク中におけるグラフトポリマーの含有量(質量%)が、0.50質量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは、1.0質量%以上20.0質量%未満である。すなわち、第1のインク中における含有量(質量%)が0.50質量%よりも低いと、記録部最表面に配向するシリコーン部位の絶対量が少なくなるため、形成画像が高い耐擦過性を満足し得ないおそれがある。一方、20.0質量%よりも多くなると、シリコーン部位の絶対量が多くなるために、記録部最表面にシリコーンが配向するだけでなく、記録部内部にまでシリコーングラフトポリマーが浸透し、形成画像が高い耐擦過性を満足し得ないおそれがある。すなわち、この場合は顔料にシリコーンが吸着することで顔料同士が滑り、結果として耐擦過性が低下してしまう場合があると推測している。
【0075】
<分散剤>
本発明において、顔料をインク中に分散させるための樹脂(分散剤)としては、水溶性を有する樹脂であればどのようなものでも用いることができる。具体的には、以下に挙げるようなモノマーやそれらの誘導体などから選ばれる、少なくとも2つのモノマー(このうち少なくとも1つは親水性モノマー)から合成された、ブロック、ランダム、グラフトなどの形態の共重合体やその塩などが挙げられる。モノマーとしては、下記のようなものを好ましく使用することができる。例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルなど。アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミドなど。また、ロジン、シェラック、デンプンなどの天然樹脂である。また、顔料をインク中に分散させるための樹脂は、アルカリ可溶型の樹脂であることが好ましい。
【0076】
上記樹脂(分散剤)は、その重量平均分子量が、1,000以上30,000以下、さらには3,000以上15,000以下のものであることが好ましい。また、インク中の上記樹脂(分散剤)の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0077】
<水溶性有機化合物>
第1のインクには、上記で説明したグラフトポリマーに加えて、さらに、下記一般式(C)、下記一般式(D)、及び、下記一般式(E)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性有機化合物を含有させることが好ましい。なお、以下の記載においては、下記一般式(C)、下記一般式(D)、及び、下記一般式(E)で表される化合物からなる群の水溶性有機化合物を、「特定の水溶性有機化合物」と省略して呼ぶことがある。
【0078】
(一般式(C)中、R4は置換基を有してもよい炭素数2乃至5のアルキレン基であり、R5はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1乃至4のアルキル基である。また、一般式(D)中、R6は置換基を有してもよい炭素数2乃至5のアルキレン基であり、R7は水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1乃至4のアルキル基である。また、一般式(E)中、nは1乃至3の数である。)
【0079】
ここで、第1のインク中に、本発明で必須とする前述した特定のグラフトポリマー(以下、単にグラフトポリマーと呼ぶ)に加えて、さらに、上記特定の水溶性有機化合物を含有させることが好ましい理由について説明する。なお、インク中において、上記グラフトポリマー分子の会合体がほどかれた状態にあることは、例えば、下記のようにしてインクの動的表面張力を測定することにより確認することができる。先ず、グラフトポリマーと共に、上記特定の水溶性有機化合物を含有させたインクと、上記特定の水溶性有機化合物を含有させていないインクとについて、ある寿命時間における動的表面張力をそれぞれ測定する。このとき、上記特定の水溶性有機化合物を含有させたために、グラフトポリマー分子の会合体を形成していないインクは、上記特定の水溶性有機化合物を含有させていないインクと比較して、ある寿命時間における動的表面張力の値が低くなる。これは、グラフトポリマー分子の会合体がほどかれた状態のインクでは、該グラフトポリマー分子が界面に相対的に多く配向するようになるため、インクの動的表面張力が下がるからである。つまり、これらのインクの動的表面張力の値を比較して、上記特定の水溶性有機化合物を含有させたインクの動的表面張力の値が低ければ、インク中でグラフトポリマー分子の会合体がほどかれた状態にあるといえる。なお、動的表面張力を測定する装置としては、例えば、Bubble Pressure Tensiometer BP2(KRUSS製)などを用いることができる。
【0080】
先に示した一般式(C)で表される化合物及び一般式(D)で表される化合物は含窒素複素環化合物であり、具体的には、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、エチレン尿素などが挙げられる。また、一般式(E)で表される化合物は1,2−アルカンジオールであり、具体的には、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオールが挙げられる。本発明では、これらの化合物の中でも、特に、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、エチレン尿素、及び1,2−ヘキサンジオールから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。さらには、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、エチレン尿素から選ばれる少なくとも1種と、1,2−ヘキサンジオールとを共にインク中に含有させることが特に好ましい。
【0081】
第1のインク中における、グラフトポリマーの含有量(質量%)に対する、上記一般式(C)、上記一般式(D)、及び上記一般式(E)で表される化合物の合計含有量(質量%)の質量比率が、2.0倍以上であることが好ましい。すなわち、(上記特定の水溶性有機化合物の合計含有量/グラフトポリマーの含有量)=2.0倍以上であることが好ましい。なお、上記特定の水溶性有機化合物及びグラフトポリマーの含有量とは、それぞれ、インク全質量中における各成分の含有量のことである。一方、この質量比率が2.0倍未満であると、インク中において、上記特定の水溶性有機化合物の含有量が少なくなり、グラフトポリマー分子の会合体を十分にほどくことができず、画像の耐擦過性と光沢性とを特に向上する効果が得られない場合がある。また、上記の質量比率の上限は、40.0倍以下、さらには20.0倍以下、特には10.0倍以下、中でも特には8.0倍以下であることが好ましい。上記質量比率の上限が40.0倍より大きいと、インクの粘度が高くなるため吐出安定性が十分に得られず、したがって適切な量のインクを記録媒体に付与することができない場合がある。
【0082】
また、第1のインク中の上記一般式(C)、上記一般式(D)、及び上記一般式(E)で表される化合物の合計含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、2.0質量%以上であることが好ましい。この含有量が2.0質量%未満であると、インク中における上記特定の水溶性有機化合物の含有量が少なくなり、グラフトポリマー分子の会合体を十分にほどくことができず、画像の耐擦過性と光沢性とを特に向上する効果が得られない場合がある。また、上記特定の水溶性有機化合物の含有量の上限は、20.0質量%以下であることが好ましい。前記含有量の上限が20.0質量%より大きいと、インクの粘度が高くなるため吐出安定性が十分に得られず、したがって適切な量のインクを記録媒体に付与することができない場合がある。
【0083】
<顔料>
本発明で使用するインクには、分散剤を用いて顔料を分散する樹脂分散タイプの顔料(樹脂分散型顔料)や、顔料粒子の表面に親水性基を導入した自己分散タイプの顔料(自己分散型顔料)を用いることができる。また、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基を化学的に結合させた顔料(樹脂結合型自己分散顔料)、顔料の分散性を高めて分散剤などを用いることなく分散可能としたマイクロカプセル型顔料なども用いることができる。勿論、これらの分散方法の異なる顔料を組み合わせて用いてもよい。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。顔料の種類は特に限定されず、無機顔料や有機顔料をいずれも用いることができる。
【0084】
<水性媒体>
本発明で使用するインクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。なお、この水溶性有機溶剤の含有量は、上記で説明した特定の水溶性有機化合物を含む含有量である。特定の水溶性有機化合物以外の水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、以下に挙げるようなものを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0085】
具体的には、例えば、以下の水溶性有機溶剤を用いることができる。1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのアルカンジオール類。ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテルなどのグリコールエーテル類。エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールなどの炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのカルボン酸アミド類。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オンなどのケトン類又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類。グリセリン。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエチレングリコール類。1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、平均分子量200乃至1,000のポリエチレングリコール、チオジグリコール、1,2,6−ヘキサントリオールなどのポリオール類。アセチレングリコール誘導体などのグリコール類。
【0086】
水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0087】
<その他の成分>
インクには、上記成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの保湿性固形分を含有してもよい。インク中の保湿性固形分の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0088】
さらに、必要に応じて所望の物性値を有するインクとするために、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有してもよい。特に、インクを調製する際に、第2のインクの表面張力が、第1のインクの表面張力よりも3mN/m以上低くなるように調整することが好ましい。また、第2のインクにおけるインク全質量を基準とした水分量(質量%)が、第1のインクにおけるインク全質量を基準とした水分量(質量%)に対して90%以下に調整することが好ましい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、「部」又は「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0090】
<シリコーングラフトポリマーの合成>
以下の手順にしたがってグラフトポリマー1〜4をそれぞれ合成した。なお、合成方法としては公知の重合方法を用いることができるが、本実施例においては、グラフトポリマー1〜4を以下の重合方法を用いてそれぞれ合成した。先ず、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えたフラスコに、下記表1に示す組成で、各モノマーと、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを仕込んだ。そして、溶媒として1−メトキシ−2−プロパノール500部を用いて、窒素ガス還流下、温度110℃で、4時間重合反応させた。次に、得られた共重合体を含む溶液を減圧乾燥させて共重合体を得た。該共重合体に、溶媒としてメチルエチルケトン25部を加えて溶解させた後、30%の水酸化カリウム水溶液2部を加えて共重合体の塩生成基の一部を中和し、さらにイオン交換水300部を加えて撹拌した。その後、減圧下、温度60℃で溶媒を除去し、さらに水の一部を除去することにより濃縮して、固形分濃度が20.0%のポリマーの水溶液を得た。このようにして得たポリマー1〜4について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所製)と多角度光散乱検出器(昭工通商製)とを組み合わせて絶対分子量と分子サイズを測定した。その結果、絶対分子量と分子サイズの測定値は大きく乖離しており、いずれもグラフトポリマーの構造を有するものであることが確認できた。なお、グラフトポリマー1及び2は、一般式(A)で表されるノニオン性ユニットとポリシロキサン構造を有するユニットを含むシリコーングラフトポリマーであり、これらと顔料とを含むものは第1のインクである。一方、グラフトポリマー3及び4は、上記いずれかのユニットを含まず、第1のインクの形成材料となり得ない。
【0091】
なお、下記表1中、(*1)〜(*4)はそれぞれ以下のモノマーを示す。
(*1):サイラプレーンFM−0711(チッソ製;前記一般式(B’)に示されるポリシロキサン構造を有するモノマー、数平均分子量=約1,000)
(*2):BHEA(製品名:日本触媒製;前記一般式(A’)におけるR1及びR2が水素原子、R3がエステル結合、xが1であるノニオン性モノマー)
(*3):HEMA(製品名:日本触媒製;前記一般式(A’)におけるR1が水素原子、R2がメチル基、R3がエステル結合、xが1であるノニオン性モノマー)
(*4):ブレンマーPME−100(製品名:日油製;前記一般式(A’)におけるR1及びR2がメチル基、R3がエステル結合、xが2であるノニオン性モノマー)
【0092】
【0093】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1の調製)
マゼンタ顔料(C.I.ピグメントレッド122)10部、グリセリン6部、樹脂(分散剤)10部、及び水74部を、0.6mm径のジルコニアビーズの充填率を70%としたサンドミル(金田理化工業製)に仕込み、1,500rpmで5時間分散した。前記樹脂には、スチレン、アクリル酸メチル及びアクリル酸の共重合比(質量比)が53:29:18、重量平均分子量が8,000、酸価が130mgKOH/gのランダム共重合体を用いた。なお、前記樹脂は、予め、上記の酸価と当量の水酸化カリウムと水を加えて温度80℃で撹拌し、水溶液としたものを用いた。分散した後、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去し、さらに、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が10.0%となるように水を用いて濃度を調整し、顔料分散液1を得た。
【0094】
(顔料分散液2の調製)
C.I.ピグメントレッド122に代えて、レッド顔料であるC.I.ピグメントレッド149を用いた以外は顔料分散液1の調製と同様の方法で、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が10.0%である顔料分散液2を得た。
【0095】
(顔料分散液3の調製)
C.I.ピグメントレッド122に代えて、イエロー顔料であるC.I.ピグメントイエロー74を用いた以外は顔料分散液1の調製と同様の方法で、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が10.0%である顔料分散液3を得た。
【0096】
(顔料分散液4の調製)
C.I.ピグメントレッド122に代えて、シアン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:1を用いた以外は顔料分散液1の調製と同様の方法で、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が10.0%である顔料分散液4を得た。
【0097】
<インクの調製>
先に調製したグラフトポリマー1〜4と、顔料分散液1〜4とを用い、表2の上段に示す各成分をそれぞれ用いてインク1〜15を調製した。具体的には、表2の上段に示す各成分を、表2に示した組成で混合して十分撹拌した後、ポアサイズ1.2μmのポリプロピレンフィルター(ポール製)にて加圧ろ過を行って各インクを調製した。表2の下段には、各インクの表面張力の値と、各インク中における成分比率をそれぞれ示した。なお、表面張力の測定は、自動表面張力計CBVP−Z(協和界面科学製)を用いて、室温(25℃)にて行った。
【0098】
【0099】
【0100】
<評価>
(画像の作製)
上記で得られた各インク1〜15をそれぞれインクカートリッジに充填し、図10に示した構成を有するインクジェット記録装置に搭載して、1種類のインクでの単色画像の形成と、2種類のインクを用いての2次色の画像の記録をそれぞれ行った。その際、図1のA及びBのそれぞれの位置から表4に示した各インクが吐出されるようにした。
【0101】
単色画像の記録は、光沢を有する記録媒体であるスーパーフォトペーパーSP−101(キヤノン製)に、解像度1200dpi×1200dpi、8パス双方向記録で、各記録パスで付与するインク量を等配分として行った。すなわち、図1のA又はBの位置からインクを吐出し、各記録パスの記録デューティが12.5%となるようにして、記録デューティが100%である単色画像を形成した。得られた単色の記録物を室温で1日放置した後、後述した方法でそれぞれの評価を行った。なお、評価結果は、表4中に示した。
【0102】
2次色の画像の記録は、上記と同様のスーパーフォトペーパーSP−101(キヤノン製)に、解像度1200dpi×1200dpi、8パス双方向記録で、表4に示した2種類のインクの組み合わせで、表3に示すマスクパターンを用いた各記録方法で行った。このようにして得られた2次色画像における記録デューティは、各インクの合計の記録デューティが100%であった。得られた2次色の記録物を室温で1日放置した後、後述した方法でそれぞれの評価を行い、評価結果を表4に示した。
【0103】
【0104】
(耐擦過性の評価)
上記のそれぞれの方法で得た単色又は2次色の各記録物の画像領域を、記録媒体の非記録部に傷が付く程の強い圧力を加えて爪で引っ掻いた。この記録物を目視で確認して耐擦過性の評価を行った。耐擦過性の評価基準は下記の通りである。結果を表4−1及び4−3に示した。本発明においては、下記の評価基準で、AA、A、B、及びCを耐擦過性として十分なレベルであるとし、D及びEを不十分なレベルとした。
AA:画像の表面に爪跡が残らなかった。
A:画像の表面にわずかな爪跡が残るが、記録媒体から色材が削れ落ちなかった。
B:画像の表面に爪跡が残るが、記録媒体から色材が削れ落ちなかった。
C:画像の表面に爪跡が残り、かつ、記録媒体から色材がわずかに削れ落ちた。
D:記録媒体の表面が露出することはないが、色材が明らかに削れ落ちた。
E:画像を軽く触れる程度では問題がないレベルであるが、記録媒体の非記録部に傷が付くほどの強い圧力で引っ掻くと、記録媒体の表面が見える程度に色材が削れ落ちた。
【0105】
(光沢性の評価)
上記で得た単色又は2次色の各記録物の画像領域における光沢性(20°グロスの値)を、マイクロヘイズメーター(ビック−ガードナー製)を用いて測定して、光沢性の評価を行った。光沢性の評価基準は下記の通りである。結果を表4−1及び4−3に示した。
AA:20°グロス値が50以上であった。
A:20°グロス値が45以上50未満であった。
B:20°グロス値が40以上45未満であった。
C:20°グロス値が40未満であった。
【0106】
(インクの保存安定性の評価)
上記で得た各インクをテフロン(登録商標)製の容器に入れ、温度60℃で1ヶ月保存した。保存前後のインク中の顔料の粒径を、レーザーゼータ電位計(商品名:ELS8000;大塚電子製)でそれぞれ測定し、保存安定性を評価した。保存安定性の評価基準は下記の通りである。評価結果は表4−2に示した。
A:保存後の顔料の粒径が、保存前の顔料の粒径の1.1倍未満であった。
B:保存後に顔料の凝集物は発生していなかったが、保存後の顔料の粒径が、保存前の顔料の粒径の1.1倍以上であった。
C:保存後に、容器内に顔料の凝集物が発生した。
【0107】
(インクの吐出特性の評価:フェイス面の状態、吐出安定性)
上記で得た各インクを、インクジェット記録装置(商品名:PIXUS850i;キヤノン製)用のインクカートリッジに充填し、改造した該インクジェット記録装置のシアンインクの位置にセットした。そして、オフィスプランナー(キヤノン製)に、記録デューティが50%で、18cm×24cmの画像を、デフォルトモードで3枚記録した。この際、1枚記録するごとに1回の割合で、PIXUS850iのワイパーブレードを用いて、記録ヘッド表面のクリーニング操作を行った。その後、PIXUS850iのノズルチェックパターンを記録した。この時の記録ヘッド表面の状態を目視で確認して、各インクを吐出させた場合におけるフェイス面の状態の評価を行った。フェイス面の状態の評価基準は下記の通りであり、その結果を表4に示した。また、各インクを吐出させた際におけるノズルチェックパターンを目視で確認して、吐出安定性の評価を行った。吐出安定性の評価基準は下記の通りであり、評価結果を表4−2に示した。
【0108】
〔フェイス面の状態〕
A:吐出口の周辺にインクがほとんど存在しなかった。
B:吐出口の周辺にインク滴が多少存在していた。
C:吐出口の周辺に帯状にインクの液膜が存在していた。
【0109】
〔吐出安定性〕
A:ノズルチェックパターンに乱れがなく正常に記録できた。
B:ノズルチェックパターンに若干の乱れがあったが、不吐出はなかった。
C:ノズルチェックパターンにはっきりとした不吐出や乱れがあり、正常に記録できなかった。
【0110】
【0111】
【0112】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色材として顔料を含有するインクを用いたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用のインクでは、色材として顔料を含む顔料インクが、近年、オフィスやホーム用途に用いられる小型プリンタ用としてだけでなく、ポスターや広告を印刷する用途に用いられる大判プリンタ用としても広く適用されている。大判プリンタで印刷する際には、A0サイズやA1サイズなどのかなり大きな記録媒体を用いることが多く、画像を記録した記録媒体を持ち運ぶ際には、丸めて筒状にすることが一般的である。このため、大きな記録媒体を用いたインクジェット記録画像の場合には、特に下記のような問題を生じることがある。
【0003】
すなわち、記録媒体を丸める際に、記録媒体の角などの鋭利な部分で画像を擦るような場合があるが、このとき、顔料インクで記録した画像に傷が付き、色材が削れ落ちるという問題が、かなりの頻度で発生する。また、これと同様の課題は、他の状況においても発生する。例えば、顔料インクで記録した画像をポスターとして屋外に貼る際に、画像が、爪などの鋭利なもので強く引っ掻かれるような場合である。このときも、上記と同様に、色材が削れ落ちるという問題がかなりの頻度で発生する。以上のように、大判プリンタに用いるインクとして顔料インクを選択し、大型画像を形成した場合には解決すべき特有の課題があった。すなわち、大判プリンタによる大型画像の場合には、特に、鋭利なものが画像に触れたとしても画像の色材が削れ落ちることがない、通常の画像に対するよりも格段に高いレベルの耐擦過性を実現することが大きな課題となっている。
【0004】
これに対して、これまでにも、顔料インクで記録した画像の耐擦過性は課題となっていたため、かかる課題を解決するために様々な方法が提案されている。しかし、その多くが、オフィスやホーム用途として用いられる小型プリンタ用を対象として検討が行われているため、従来の技術を用いるだけでは、指で画像に触れて傷がつかない程度の耐擦過性を得るのが精一杯である。つまり、今もなお、前記した大判プリンタによる大型画像に要求されているような、鋭利なものが画像に触れた場合に生じる高いレベルの耐擦過性についての課題を解決することはできていないのである。
【0005】
無論、上記のような状況においても、耐擦過性を満足し得る画像の提供を可能とすべく、より高いレベルの画像の耐擦過性を得るための方法に関する提案はいくつかある。例えば、インクジェット用インクで記録した画像の上に特定の化合物を付与することで、画像の滑り性を高め、画像の耐擦過性を向上させることに関する提案がある(特許文献1参照)。
【0006】
一方、顔料インクを用いて記録媒体に記録を行う場合、顔料粒子が記録媒体の表面上に多く存在した状態となることによる問題がある。例えば、上述のポスター作成時に使用される、写真画質の記録に用いる膨潤型の記録媒体のインク受容層には孔が存在せず、また、空隙型の記録媒体のインク受容層には孔は存在するが、その孔径よりも顔料の粒径の方が大きい。したがって、顔料の多くは記録媒体のインク受容層の内部に浸透することができず、記録媒体の表面上に露出して存在することになる。この結果、記録媒体上の顔料インクで記録を行った画像の部分では、露出した顔料により新たな表面が形成された状態となる。したがって、記録媒体に露出した顔料粒子の堆積状態によっては、表面の平滑性が、記録媒体表面と異なる場合がある。そして、この平滑性の違いは、記録媒体の記録部と非記録部との間の光沢の違いとして現れることとなる。記録媒体内に光沢の異なる領域が存在すると、違和感として感じられ、光沢感に違和感が生じる。
【0007】
これらの対策として、顔料の持つ光学的な粒子性をなくすべく顔料のさらなる微粒子化が検討されている(特許文献2参照)。また、光沢性の改善を目的とした、樹脂、とりわけ樹脂エマルジョンをインク中に添加して記録媒体表面の平滑性を向上させる提案や、顔料の露出をなくすために、顔料粒子を水不溶性ビニルポリマーに包含させたインクが開示されている(特許文献3〜5参照)。また、特許文献6には、着色インクによって画像を記録した後にさらにコート液を付与することにより、耐擦過性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−108495号公報
【特許文献2】特開平09−176543号公報
【特許文献3】特開平09−208870号公報
【特許文献4】特開2006−282760号公報
【特許文献5】特開平09−188732号公報
【特許文献6】特開2005−081754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、本発明者らの検討の結果、インクジェット用インクのみで画像を記録した場合、上記で挙げたような従来技術のいずれを用いても、記録した画像は、上述の本発明が目的とする格段に高いレベルの耐擦過性を満足するには至らないことがわかった。すなわち、上記で挙げたような従来技術では、爪で軽く触れても画像に傷が付かないレベルの耐擦過性であれば満足できる画像が得られるが、それよりも高いレベルの画像の耐擦過性を実現できてはいない。具体的には、記録媒体の非記録部に傷が付く程の強い圧力を加えて爪などの鋭利なもので画像を引っ掻くと、色材が削れ落ちるという現象が起きる。
【0010】
例えば、特許文献1に記載されているように、画像を記録した後に、潤滑物質や滑り化合物を散布又は塗布するなどといった、いわゆる固形物により画像を後から保護する方法を用いて確実に画像を保護できれば、本発明の目的を達成できるかもしれない。また、画像をフィルムなどで覆うラミネート方式などを用いた場合も、特許文献1に記載の発明と同様に、本発明の目的を達成できるかもしれない。しかし、本発明者らの検討によると、特許文献1に記載されているように、潤滑物質を含有するインクを用いる場合や、潤滑物質を含有する水溶液を画像の上に付与する場合においては、潤滑物質が水性媒体と共に記録媒体の内部へ浸透する。その結果、このような場合においては、これらの液体を画像に付与したことによる耐擦過性向上の効果がほとんど得られていないことがわかった。さらに、特許文献5には、シリコーン系ポリマーを含有するインクが記載されているが、画像の耐擦過性が向上することについては何ら記載されていない。
【0011】
また、光沢性を改善する方法として、特許文献2で記載されているような、ほとんどの顔料粒子を粒子径100nm以下の状態でインク中に分散させる技術が知られている。このような顔料を用いて光沢系の記録媒体に記録すると、確かに従来サイズの顔料を用いて記録したときよりもある程度の光沢性が得られる。しかし、このような細かい顔料を用いても、画像表面の光沢感が染料の場合よりまだ欠けるために、鮮明な画像を得るには至っていない。画像の耐擦過性についても、容易に色が転写しにくくなるものの、依然、顔料粒子が記録媒体の表面に積み重なって露出している状態なので、指などでこすったりすると、色が落ちたり汚れたりする。
【0012】
また、光沢性を改善する方法として、特許文献3に記載されているような、樹脂をインク中に含有させる、とりわけ樹脂エマルジョンを添加する発明の開示もある。しかし、当該文献に記載されている樹脂エマルジョンを添加すると光沢の均一性が失われてムラが目立つようになり、光沢性の改善は見られなかった。
【0013】
さらに、画像の光沢性を改善する方法として、特許文献4に記載されているような、顔料をシリコーン成分を有する水不溶性ポリマーなどを分散剤として使用し分散させる方法の開示がある。しかし、この場合は、分散剤として顔料にシリコーン含有物を吸着させることで顔料同士がすべり、今度は却って耐擦過性が低下した。つまり、分散剤としてシリコーン含有物を使用することは、光沢性の向上は認められるものの耐擦過性の向上には好ましくない。つまりこれら従来の方法では、耐擦過性と光沢性の両立を図ることができなかった。
【0014】
また、特許文献6では、着色インクによって画像を記録した後にさらにコート液を付与することにより、耐擦過性を向上させる技術が挙げられている。しかし、付与したコート液によって形成される膜の厚みによっては、光の干渉により干渉縞が発生してしまうことがある。
【0015】
一方、複数のインクを用いて記録を行う際に、使用する全てのインクに耐擦過性や光沢性を向上させる化合物を含有させることができればよい。しかし、保存安定性や信頼性(フェイス面の濡れ抑制や吐出安定性)などの観点から、全てのインクには含有させられないのが現状である。このような組み合わせからなる複数のインクを用いて記録を行うと、耐擦過性や光沢性を向上させる化合物が付与されていないインクのみで記録される領域が存在してしまう。そして、この領域の耐擦過性や光沢性は、ただ低いだけではなく、耐擦過性や光沢性を向上させる化合物が付与されたインクによって記録した耐擦過性や光沢性が向上した部分と比較されるため、その性能の低さが際立ってしまう。
【0016】
したがって、本発明の目的は、画像形成に用いる複数のインクの中に、単独で付与した場合には耐擦過性や光沢性の向上効果を示さないインクが含まれている場合にも、良好な画像形成が可能なインクジェット記録方法及び記録装置を提供することにある。具体的には、上記の場合にも、記録媒体の非記録部に傷が付く程の強い圧力を加えて記録箇所に触れても、記録箇所の色材が殆ど削り落ちることがない高いレベルの耐擦過性を満足した画像が得られる記録方法を提供することを目的とする。さらに、これに加えて、記録媒体の記録部と非記録部とに違いを感じさせることがない高いレベルの光沢性を満足した画像を与える記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記課題の解決手段として、新たな構成の第1のインクと、これと異なる第2のインクを含む複数のインクを用い、記録ヘッドの主走査を複数回繰り返して記録を行う際に、第1のインクの付与量を制御して記録することが有効であることを見出した。この結果、十分な耐擦過性と光沢性を併せもった画像を得ることができる。本発明は、以下のような手段によって達成される。
【0018】
すなわち、本発明では、インクジェット記録方式で、第1のインクと第2のインクとを有する複数のインクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、前記第1のインクは、少なくとも、下記一般式(A)で表されるノニオン性ユニット、及び、ポリシロキサン構造を有するユニットを含んで構成されるグラフトポリマーと、顔料とを含有してなり、かつ、インク中における前記グラフトポリマーの含有量(質量%)が前記顔料の含有量(質量%)に対して0.5倍以上5.0倍以下であり、前記第2のインクは、少なくとも顔料を含み、かつ、前記グラフトポリマーの含有量(質量%)が、該顔料の含有量(質量%)に対して0.0倍以上0.2倍未満であり、前記インクジェット記録方式が、記録媒体の単位領域に対して記録ヘッドの主走査をn(nは2以上の整数)回繰り返して記録を行う方式であって、前記第1のインクを単位領域に付与する際に、i回目の走査時における前記第1のインクの付与量V(i)が、下記式[I]又は式[II]を満たすことを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。
(一般式(A)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R3はエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2である。ただし、R2がメチル基の場合、R3がエーテル結合となることはない。)
【0019】
また、本発明では、別の実施形態として、複数のインクを収容するためのインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えてなり、かつ、上記のインクジェット記録方法で記録が行われるように構成されていることを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【0020】
本発明でいう単位領域とは、1画素や1バンドなどのことであり、必要に応じて種々の領域として単位領域を設定することができる。また、1画素とは、解像度に対応した1画素のことであり、1バンドとは、1回の記録ヘッドの走査で形成される画像の領域のことである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、吐出安定性やインクの保存安定性を確保しつつ、かつ、従来から課題が認識されている耐擦過性をはるかに上回った画像の耐擦過性を実現でき、しかも、記録部と非記録部とで違いがない光沢性を画像全体で満足した画像の提供が可能になる。すなわち、本発明で実現される画像の耐擦過性は、記録媒体の非記録部に傷が付く程の強い圧力を加えて記録箇所に触れた場合でも、記録箇所の色材が殆ど削り落ちることがない高いレベルあって、しかも画像全体で満足したものとなる。さらに、本発明によって得られる画像は、露出した記録部最表面の顔料粒子による凹凸が少なく表面の平滑性が保たれており、記録媒体の記録部と非記録部とで光沢性に違いがなく、画像全体で光沢性を満足したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】記録ヘッドの一例を示す模式図である。
【図2】マルチパス記録方法を説明する模式図である。
【図3】4パスのマルチパス記録を実行する際に利用するマスクパターンの一例を示す図である。
【図4】Dインクをできるだけ他のインクより遅い段階で記録媒体に付与するように工夫されたマスクパターンの一例を示した図である。
【図5】Dインクをできるだけ他のインクより遅い段階で記録媒体に付与するように工夫されたマスクパターンの一例を示した図である。
【図6】本発明におけるヘッドの別の一例を示す模式図である。
【図7】物性の違う2種類のインクを記録媒体に付与したときの状態を表した模式図である。
【図8】記録ヘッドの縦断面図である。
【図9】記録ヘッドの縦横面図である。
【図10】図9に示した記録ヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図11】インクジェット記録装置の概念構成を説明するための図である。
【図12】インクカートリッジの構成の一例を示す図である。
【図13】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【図14】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のポイントは、下記の2点にある。まず、複数のインクのうちの第1のインクに、特定のグラフトポリマーを顔料に対して特定量の範囲で含有したものを用い、これと共に、該グラフトポリマーを実質的に含有しない構成の第2のインクを用いる構成とした点にある。具体的には、第2のインクに、特定のグラフトポリマーの含有量が、顔料の含有量(質量%)に対して0.0倍以上0.2倍未満の範囲である、実質的に含有されていないと言えるものを使用する。なお、以下、特定のグラフトポリマーのことを「シリコーングラフトポリマー」という場合がある。さらに本発明の特徴は、これらの複数のインクを用い、第1のインクの付与量を制御する特定の記録方法にて画像を記録することとした点にある。この結果、画像の様々な色相、色濃度などの記録箇所においても、従来の記録方法に比べて耐擦過性と光沢性とを格段に向上させた画像の提供が可能となる。以下、本発明に至った経緯について説明する。
【0024】
本発明者らは、先ず、画像形成に使用した場合に、より効果的に、記録画像が耐擦過性と光沢性とを有するものになるインクの構成についての検討を行った。検討の過程で、画像の耐擦過性を向上させる目的で、塗膜表面のスリップ性を向上させる効果を有する材料であるシリコーン系ポリマーを、インク成分に使用した。その結果、画像の耐擦過性は向上したものの、シリコーン系ポリマーは疎水性が高いため、シリコーン系ポリマー同士での凝集が記録媒体の記録部最表面で起こってしまい、光沢性の向上は観察されなかった。
【0025】
そこで、さらなる検討をしたところ、同一ポリマー内に、疎水性の高いシロキサン含有モノマーからなるユニットと、親水性の高い特定のノニオン系モノマーとからなるユニットを組み込んだグラフトポリマーを用いることが有効であることを見出した。その理由は、それぞれのユニットがミクロ相分離することで構造が維持される結果、該ポリマーを含むインクを用いて記録された画像は、表面が滑りやすく、かつ、レベリング性を有するため、耐擦過性及び光沢性の両立が可能となったと推測している。
【0026】
本発明は、使用する複数のインクの1種中に、塗膜表面のスリップ性を向上させる効果に加え、記録画像と該画像と接触する物質との摩擦力にも着目して構造を決定した特有のグラフトポリマーを含有させる、という新しい発想に基づくことを一つの特徴とする。先ず、シリコーングラフトポリマーの形成材料にポリシロキサン含有モノマーを使用することで、ポリシロキサン構造を有するユニットを含んでなるものとし、これをインクの材料に使用する。このように構成した結果、本発明によれば、記録媒体の非記録部に傷が付く程の強い圧力を加えて記録箇所に触れた場合でも、記録箇所の色材が削り落ちないばかりでなく、傷跡も殆ど残らない画像の提供が可能となる。特定のグラフトポリマーの詳細については後述する。
【0027】
さらに、本発明では、その形成材料に特定のノニオン性モノマーを使用することで、シリコーングラフトポリマーの構造中に、上記ポリシロキサン構造を有するユニットに加えて、ノニオン性ユニット有するものとし、該ポリマーをインク成分として使用する。シリコーングラフトポリマーの構造をこのようにすることで、その親水性は向上する結果、インク成分として用いた場合に、記録媒体の記録部最表面での樹脂の凝集が起こりにくくなる。このため、このような構造のグラフトポリマーを含有したインクによって形成された画像は、記録部最表面の凹凸がなくなり、表面の平滑性が保たれたものとなる。この表面における平滑性維持の結果、記録媒体の記録部と非記録部とで違いがないレベルで光沢性を満足した画像の提供も可能となる。
【0028】
前記したように本発明の目的は、記録画像全体において光沢性を維持しつつ、先に述べたような高いレベルの耐擦過性を満足した画像を記録するためのインクジェット記録方法を提供することにある。本発明者らの検討によれば、この目的を達成させるための一つの手段として、画像形成に用いる複数のインクのすべてのインクを、前記した特定のシリコーングラフトポリマーを含有するインク(第1のインク)とすることが挙げられる。
【0029】
しかし、本発明者らの検討によると、信頼性能や画像性能などの理由から、画像形成に用いる複数のインクのすべてに、必ずしも、前記した特定のシリコーングラフトポリマーを含有させることができない場合があることが判明した。これに対して、本発明者らは、記録方法によっては、必ずしも、使用する複数のインクのすべてを、前記した特定のシリコーングラフトポリマーを含有してなる構成の第1のインクとする必要がないことを見出した。本発明は、記録に用いる少なくとも1種のインクが、前記した特定のグラフトポリマーを含むインクであれば足り、併用する他のインクは該ポリマーを実質的に含むものでなくても、記録方法を工夫することで上記目的を達成できるという新たな知見に基づく。なお、ここでいうシリコーングラフトポリマーを実質的に含有していないとは、そのインクを用いて記録した時に、単独では耐擦過性が満足しない程度にしか含有していないという意味であり、全く含有していなくても本発明の効果を問題なく得ることができる。より具体的には、本発明で規定するインク中の顔料の含有量(質量%)に対して、前記グラフトポリマーの含有量(質量%)が、0.0倍以上0.2倍未満の範囲内のことである。
【0030】
本発明で使用する第1のインクは、顔料と特定のグラフトポリマーとを含み、インク中における該グラフトポリマーの含有量(質量%)が顔料の含有量(質量%)に対して0.5倍以上5.0倍以下有してなる。上記の特定のグラフトポリマーとは、少なくとも、下記一般式(A)で表されるノニオン性ユニットと、ポリシロキサン構造を有するユニットを含んで構成されるものである。これらの詳細については、後述する。
(一般式(A)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R3はエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2である。ただし、R2がメチル基の場合、R3がエーテル結合となることはない。)
【0031】
本発明を構成する画像の記録方法は、上記特定のシリコーングラフトポリマーを含有する第1のインクと、実質的に含有しないインクを有する複数のインクを吐出してインクジェット記録方式により記録媒体にインクを付与する工程を有する。さらに、インクジェット記録方式に、記録媒体の単位領域に対して記録ヘッドの主走査を複数回(すなわち、2以上の整数であるn回)繰り返して画像を記録する方式を用いる。記録ヘッドの主走査を複数回繰り返して記録する方式の代表的なものとしては、いわゆるマルチパス記録方式がある。そして、第1のインクを単位領域に付与する際に、i回目の走査時における第1のインクの付与量V(i)が、下記式[I]又は式[II]を満たすように構成したことを特徴とする。
【0032】
上記したように、式[I]又は式[II]では、第1のインクの単位領域への付与量を、後半以降の走査での第1のインクの付与量が60%以上となるようにすることが規定される。さらに好ましくは、下記式[III]又は式[IV]に示すように、第1のインクの付与量が70%以上、さらには、下記式[V]又は式[VI]に示すように第1のインクの付与量が80%以上になるようにする。
この結果、前記した構成の異なる複数の顔料インクで記録した記録画像において、その耐擦過性は、記録媒体の非記録部に傷が付く程の強い圧力を加えて記録箇所に触れた場合でも、記録箇所の色材が削り落ちることがない高いレベルを満足したものとなる。
【0033】
前記した第1のインクと第2のインクとを含む複数のインクで画像を形成させる場合に、上記した記録方法を採用して第1のインクを付与することで、記録した記録物において、第1のインクの効果が損なわれることなく発現させることができる。本発明における効果は、第2のインクとして、顔料を色材に用いた顔料インクや、染料を色材に用いた染料インク、さらにはそれらの色材を併用させたインクを用いても得られる。すなわち、第2のインクは、前記したシリコーングラフトポリマーを実質的に含有していないことを満足すれば、その他の成分は特に限られるものではなく、どのような構成としてもよい。なお、本発明においては、第1のインクに該当するインクを複数用いても、また、第2のインクに該当するインクを複数用いてもよい。
【0034】
前記したように、本発明で用いる記録方式としてはマルチパス記録が好適である。マルチパス記録では、1回の記録走査で記録可能な画像データを予め用意してあるマスクパターンによって間引き、複数回の記録主走査によって段階的に画像を完成させていくので記録ドットの制御が可能となる。以下、この点について説明する。
図1は、4種のインク(A、B、C及びDインク)を用いる際の記録ヘッドの一例を示し、図2は、マルチパス記録方法を簡単に説明するための模式図である。ここでは、記録ヘッド101を用い、4パスのマルチパス記録によって記録媒体201に画像を記録する状態を示している。各記録主走査の間には、記録ヘッド101の記録幅の1/4に相当する量(図中にdで表示)だけ記録媒体201が副走査方向に搬送される。このような記録方法では、記録媒体201の同一画像領域は、記録ヘッドの4つの領域1〜4に対応する4回の記録主走査によって画像が完成される。この結果、記録媒体上の主走査方向に配列する複数のドットは4つの異なるノズルによって記録されるので、ノズル単位のばらつきが緩和され、画像全体が滑らかになる。また、双方向記録を行った場合でも、記録媒体201の全ての画像領域は往路走査と復路走査の両方によってインクが付与されるので、記録媒体に対するインクの付与順序が単位領域毎に異なることもなく、画像全体の色むらがある程度抑制される。
【0035】
図3は、図2のような4パスのマルチパス記録を実行する際に利用するマスクパターンの一例を示した図である。ここでは簡略的に、一色分のノズル列301とそれに対応するマスクパターン302a〜302dを示している。ノズル列301内のノズルは4つの領域に分割され、それぞれの領域に含まれるノズルは、各領域に対応するマスクパターン302a〜302dにしたがったドット配置によりインクを付与して記録する。個々のマスクパターン302a〜302dは、ドット配置による記録・非記録を定めた複数の画素領域によって構成されておる。図中、黒く示した領域がドット配置による記録を許容する画素、白く示した領域がドット配置による記録を許容しない画素をそれぞれ示している。4種類のマスクパターン302a〜302dは互いに補完の関係を保っており、各記録走査でこれらマスクパターンと画像データとの論理積をとることによって、実際に各記録主走査で記録するドット配置によるインクの付与が決定される。ここでは簡単のため、4画素×3画素の領域を有するマスクパターンを示しているが、実際のマスクパターンは主走査方向にも副走査方向にさらに大きな領域を有している。
【0036】
このようなマルチパス記録方法を採用すれば、横並び構成の記録ヘッドを用いた場合であっても、マスクパターンの各領域の記録率をインクの種類ごとに異ならせることができる。そして、縦並び構成の記録ヘッドのように記録媒体に対するインクの付与順序をある程度制御することが可能となり本発明における好適な画像記録を行うための記録方法が可能となる。
【0037】
本発明の効果を最大限に得るためにはマルチパスを利用して、第1のインクをできるだけ遅い段階に付与する方法が適している。このように記録することにより、第1のインクに含まれるシリコーングラフトポリマーが付与された記録画像の表層部分、さらには最表層に近い部分に残りやすいために、より一層本発明の効果を得やすい。
【0038】
ここで、シリコーングラフトポリマーを含んだ第1のインクによって形成した画像が高い耐擦過性を有する理由としては、樹脂によってある程度強固な膜(インク層)形成をしながら、その膜に滑り性を発現することによって達成されたものと考えられる。このような効果は、他の方法で得られるものではない。すなわち、別の形態で滑り性を付与する方法、例えば、ある種のイエロー顔料をインク層の表面に配置した場合には、表面の顔料の結着力が小さいため顔料表面層が僅かに脱離し、見かけ滑り性が発現するように見える。しかし、このような手段によっては、本発明のような高い耐擦過性を得られるものではない。
【0039】
図4は、例えば4種のうちのDインクのみを、できるだけ他のインクより遅い段階で記録媒体に付与するように工夫されたマスクパターンの一例を示した図である。401は、Aインク、Bインク又はCインクのノズル列を示し、これらは、マスクパターン403a〜403dにしたがって画像を記録する。一方、Dインクのノズル列402は、マスクパターン404a〜404dにしたがって画像を記録する。このようなマスクパターンを予め用意しておくことにより、Aインク、Bインク、Cインクについては33.3%ずつの3回の記録主走査で画像が記録され、最後の4回目でDインクの100%の記録が行われる。この結果、Dインクは、他のA、B、Cのインクが付与された後に付与される割合が高くなる。
【0040】
しかし、上記のマスクパターンではDのインクが4回目だけで付与されるため、領域4に含まれるノズルによってしか記録されず、ノズル全体のばらつきを緩和し画像全体を滑らかにするというマルチパス記録の本来の利点を生かしきれない可能性もある。また、第2のインクもできるだけ多くの走査で記録した方が滑らかになる。例えば、第2のインクを4回目まで付与したとしても、第1のインクが後半のみで付与されるのであれば、第1のインクは表層部分に残る割合が高くなるので、本発明の目的を達成し得る。そこで、図5に、このような構成のマスクパターンの一例を示した。Aインク、Bインク又はCインクは、マスクパターン503a〜503d、Dインクは、マスクパターン504a〜504dにしたがって画像を記録する。このようなマスクパターンを用いることにより、Aインク、Bインク、Cインクについては25%ずつの4回の記録主走査で画像が記録され、後半の2回目でDインクの50%ずつの記録が同時に行われる。この結果、図4のマスクパターンを用いた場合と同じように、Dインクは、他のA、B、Cのインクが付与された後に付与される割合が高くなる。
【0041】
このように、マルチパス記録時に用いるマスクパターンを様々な用途に応じて予め用意しておくことにより、横並び構成の記録ヘッドを用いたインクジェット記録装置であっても、記録媒体へのインク付与順序を適切に制御することが可能となっている。また、このようなことは、マスクパターンやマルチパスのパス回数(記録主走査)などによって、6パス、8パス、12パスなど多数回の記録主査での画像の記録にも対応可能である。
【0042】
本発明の効果を得るためには、マルチパス記録走査において、第1のインクの全付与量に対して後半に付与されるドット数が6割以上であることが必要である。このように、後半に集中して第1のインクを付与することで、全パス均等に付与した場合よりも第1のインクが表層部分に残りやすくなり、シリコーングラフトポリマーの効果が得られる。より好ましい形態としては、後半における第1のインクの付与量が7割以上、さらには8割以上であれば、本発明の効果がより得られる。
【0043】
また、図6に、4種のインク(A、B、C、Dインク)を用いる際の記録ヘッドの別の一例を示す。ここでは、記録ヘッド601上に、ノズル列A、ノズル列B、ノズル列C及びノズル列Dが、互いにオーバーラップしないように副走査方向に1列に配置している。このような縦並び構成では、記録ヘッドの1回の記録主走査において、記録媒体の異なる領域に各色のインクが付与される。この結果、記録ヘッド601が、往路方向及び復路方向のどちらで記録主走査を行っても、記録媒体にインクが付与される順番は、D→C→B→Aの順になる。例えば、BとCの混合によって表現される2次色の画像は、常にC→Bの順でインクが付与される。このような記録ヘッド構成によっても、特に困難な制御を行うことなく、上述したようなインクの付与の順番を考慮したインクの付与を行うことができる。すなわち、上述したようなインクの付与の順番を考慮したい場合には、遅れて付与したいインクを吐出するためのノズル列を副走査方向に対し最も下流側に配備すれば、特に困難な制御を行わなくても目的のインク付与順序で画像を記録することができる。
【0044】
ここまで、本発明の効果を得ることを可能とする、第1のインクに含有されたシリコーングラフトポリマーが、形成した記録画像の表層部分に残るようにできる記録装置を利用した記録方法の形態について説明した。しかし、本発明の効果は、使用する複数のインクの基本物性を以下のように規定することによってもより顕著になるので、この点についての詳細を説明する。
【0045】
インクは表面張力が低いほど記録媒体への浸透が早くなり、インクが定着される時間も早くなる。この点を勘案し、第2のインクの表面張力を、第1のインクの表面張力よりも3mN/m以上低くなるように構成すると下記のような挙動を示すため、本発明の効果がより顕著に得られるので好ましい。図7に示すように、この場合は、第1のインク701a及び701bと、第2のインク702が同時に付与されたとしても、第2のインクがより早く記録媒体703に浸透・定着し、第1のインクがその後ゆっくり浸透していくことになる。このため、第1のインクに含有されているシリコーングラフトポリマーは、記録画像の表層部分に残ることとなる。また、本発明で使用する複数のインクの表面張力は、吐出性能などの観点から、20mN/m以上60mN/m未満であることが好ましい。さらに好ましい形態は、25mN/m以上50mN/m未満であることが挙げられる。
【0046】
もう一つの形態として、インクの水分量を調整することが挙げられる。インク中の水分量が少ない程、記録媒体に付与されてから定着するまでの時間が短くなる。詳細な検討によれば、第2のインクの水分量を、第1のインクの水分量よりも10%以上低くすることが好ましいことがわかった。上記の表面張力の場合と同じく、この場合も図7のように第2のインクの定着が第1のインクより早くなり、第1のインクが後からゆっくり定着するので、シリコーングラフトポリマーが記録画像の表層部分に残ることとなる。先に述べたマルチパスを利用した記録方法で記録を行うと同時に、上記したように調整された複数のインクを用いることで、本発明の効果をより顕著に得ることができる。
【0047】
<インクジェット記録装置>
以下に、本発明のインクジェット記録装置の一例の基本構成について説明する。先ず、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置の主要部であるヘッドの構成の一例を図8及び図9に示した。図8は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図9は図8のA−B線での切断面図である。ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板などと発熱素子基板15とを接着して得られる。発熱素子基板15は、保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金などで形成される電極17−1及び17−2、発熱抵抗体層18、蓄熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウムなどの放熱性のよい材料で形成される基板20よりなる。上記保護層16は、酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコンなどで形成され、上記蓄熱層19は、HfB2、TaN、TaAlなどの高融点材料から形成される。そして、画像形成に際し、下記のようにしてインクの吐出が行われる。
【0048】
上記ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインク21に気泡が発生する。そして、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21がヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。
【0049】
図10には、図9に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの一例の外観図を示す。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図9に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0050】
図11に、本実施形態で使用するインクジェット記録装置の外観構成を説明するための図を示した。インクジェット記録ヘッドや複数色分のインクタンクを搭載するキャリッジ1101は、キャリッジモータ1102を駆動源として主走査方向に往復移動する。キャリッジ1101の往復走査に追従するように取り付けられているフレキシブルケーブル1113は、不図示の制御部とキャリッジ1101に搭載された記録ヘッドとの間での電気信号の送受信を行う。キャリッジ1101の移動位置は、主走査方向に延在して取り付けられているエンコーダ1106を、キャリッジ備えられたエンコーダセンサが光学式に読みとることによって検出できるようになっている。
【0051】
外部に接続されたホスト装置より記録動作コマンドが入力されると、給紙トレイ1105に積層されている記録媒体の1枚がキャリッジ1101に搭載された記録ヘッドによって記録可能な位置まで給紙される。その後、記録信号に伴ってインクを吐出しながらの記録ヘッドの複数回の記録主走査と、記録媒体の所定量の搬送動作を交互に繰り返すことにより、記録媒体に順次画像を形成していく。
【0052】
キャリッジ1101が移動する領域の端部には、記録ヘッドのメンテナンス処理を実行するための回復手段1104が具備されている。回復手段1104には、吸引及び放置時に記録ヘッドの吐出口面を保護するためのキャップ1109、吐出回復時のコート液を受容する吐出受け1107、吐出回復時の吐出したインクを受容する吐出受けなどが備えられている。ワイパーブレード1110は、矢印の方向に移動しながら記録ヘッドの吐出口面をワイピングする。
【0053】
図12は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジの一例を示す図である。ここで40は供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部はインクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。
【0054】
本発明で使用されるインクジェット記録装置は、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図13に示すようなそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図13において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料はポリウレタンを用いることが好ましい。また、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネなどを仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図11に示すキャリッジ1101に対して着脱自在になっている。
【0055】
次に、本発明のインクジェット記録装置の別の一例である、力学的エネルギーを利用した記録装置の基本構成について説明する。該装置では、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備える。そして、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを有する。図14に、その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を示した。
【0056】
該記録ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、オリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、基板84とから構成されている。該基板84は、オリフィスプレート81、振動板82などを支持固定するためのものである。インク流路80は、感光性樹脂などで形成される。オリフィスプレート81は、所望の体積のインク滴を吐出するためのものであり、ステンレス、ニッケルなどの金属に、電鋳やプレス加工による穴あけなどを行うことにより吐出口85が形成されている。振動板82はステンレス、ニッケル、チタンなどの金属フィルム及び高弾性樹脂フィルムなどで形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZTなどの誘電体材料で形成される。以上のような構成の記録ヘッドは、下記のように動作して記録を行う。まず、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、歪み応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行う。このような記録ヘッドは、図11に示したものと同様なインクジェット記録装置に組み込んで使用される。インクジェット記録装置の細部の動作は、先述と同様に行うもので差しつかえない。
【0057】
次に、本発明の目的である高い耐擦過性を実現することを可能とする第1のインクを構成するシリコーングラフトポリマーについて詳細に説明する。
(シリコーングラフトポリマー)
本発明で使用する第1のインクは、下記一般式(A)で表されるノニオン性ユニット及びポリシロキサン構造を有するユニットを含むグラフトポリマーを含有する構成としたことを特徴とする。なお、本発明において、以下、「ユニット」と記載した場合には、ユニットを構成する繰り返し単位が1つ又は複数の場合のどちらも含むものとする。
【0058】
(一般式(A)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R3はエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2である。ただし、R2がメチル基の場合、R3がエーテル結合となることはない。)
【0059】
本発明におけるグラフトポリマーとは、「一本の幹ポリマー(主鎖)に枝ポリマー(側鎖)が結合した構造を有するポリマー」のことである。そして、あるポリマーの構造がグラフトポリマーとなっているか否かを判別する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーと多角度光散乱検出器とを組み合わせて、絶対分子量と分子サイズを測定することにより、あるポリマーの構造がグラフトポリマーとなっていることを判別することができる。具体的には、これらの方法により測定される絶対分子量と分子サイズの測定値が乖離すればするほど、そのポリマーは、分岐度が高いことを示しており、グラフトポリマーの形態をとっていると判断することができる。
【0060】
以下、本発明に用いる上記グラフトポリマーを構成する各ユニットについてより詳細に説明する。
(ノニオン性ユニット)
第1のインクに使用する上記グラフトポリマーを構成するノニオン性ユニットは、下記一般式(A)で表される構造を有するものである。この構造のノニオン性ユニットは、エチレンオキサイド基の繰り返し単位の数が1又は2であり、末端に重合性を持つ官能基を有する、下記一般式(A’)のモノマーが共重合されたものである。
【0061】
(一般式(A)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R3はエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2である。ただし、R2がメチル基の場合、R3がエーテル結合となることはない。)
【0062】
(一般式(A’)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R3はエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2である。ただし、R2がメチル基の場合、R3がエーテル結合となることはない。)
【0063】
本発明においては、上記一般式(A)で表されるノニオン性ユニットにおける、エチレンオキサイド基の繰り返し単位の数は1又は2である、すなわち、上記一般式(A)におけるxが1又は2であるものを用いる。上記一般式(A)におけるxが3以上であると、上記ノニオン性ユニットを主鎖に含む場合において、ノニオン性を有する部位が局在化して存在する傾向が大きくなり、上記グラフトポリマーの全体としての親水性が高くなるため画像の耐水性が十分に得られない。また、上記のように、上記グラフトポリマーの全体としての親水性が高くなると、インク中で前記グラフトポリマーが界面活性剤のような作用を有するようになる。この場合、上記グラフトポリマーの記録媒体へのインクの浸透性が高くなって、画像の最表面に配向する上記グラフトポリマーの量が減少することとなり、十分な画像の耐擦過性を得ることはできない。
【0064】
上記一般式(A)で表されるノニオン性ユニットとしては、具体的には、(メタ)アクリレート系モノマーやビニルエーテル系モノマーが共重合されたものが挙げられる。また、本発明に用いる上記グラフトポリマーにおいて、上記ノニオン性ユニットは、1種又は2種以上を組み合わせて構成させてもよい。
【0065】
(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、以下のものが挙げられる。2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート。ジエチレングリコールモノアクリレート、メトキシジエチレングリコール−モノメタクリレート、メトキシジエチレングリコール−モノアクリレートなど。このような(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、ブレンマーPE−90、AE−90、PME−100(以上、日油製)、BHEA、HEMA(日本触媒製)などの市販品を用いることができる。
【0066】
ビニルエーテル系モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテルなどが挙げられる。このようなビニルエーテル系モノマーとしては、例えば、HEVE、DEGV(以上、丸善石油化学製)などの市販品を用いることができる。本発明において、これらのモノマーの中では、特に、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メトキシジエチレングリコール−モノメタクリレートを用いることが好ましい。
【0067】
(ポリシロキサン構造を有するユニット)
第1のインクに使用する上記グラフトポリマーを構成するポリシロキサン構造を有するユニットとしては、ポリシロキサン構造を有するユニットであればいずれのものであってもよい。本発明においては、ポリシロキサン構造を有するユニットの中でも、特に、下記一般式(B)で表されるユニットを用いることが好ましい。この一般式(B)で表されるユニットは、下記一般式(B’)で表されるモノマーが共重合されたものである。また、本発明に用いる上記グラフトポリマーにおいて、ポリシロキサン構造を有するユニットは、1種又は2種以上を組み合わせて構成させてもよい。
【0068】
(一般式(B)中、R8は水素原子又はメチル基であり、R9は炭素数1乃至6のアルキレン基であり、R10はそれぞれ独立にメチル基又はフェニル基であり、R11は炭素数1乃至6のアルキル基、又はフェニル基であり、mは1乃至150の整数である。)
【0069】
(一般式(B’)中、R8は水素原子又はメチル基であり、R9は炭素数1乃至6のアルキレン基であり、R10はそれぞれ独立にメチル基又はフェニル基であり、R11は炭素数1乃至6のアルキル基、又はフェニル基であり、mは1乃至150の整数である。)
【0070】
また、本発明において、上記一般式(B’)で表されるモノマーとしては、例えば、サイラプレーンFM−0711、FM−0721、FM−0725(以上、チッソ製)などの市販品を用いることができる。
【0071】
(その他のユニット)
第1のインクに用いる上記グラフトポリマーは、上述した一般式(A)で表されるノニオン性ユニットと、例えば、一般式(B)で表されるようなポリシロキサン構造を有するユニットを少なくとも有することが必要である。しかし、これらのユニットの他に、その他のユニットをさらに有する構造のものであってもよい。また、本発明においては、特に、上記グラフトポリマーの主鎖が、上記一般式(A)で表されるノニオン性ユニットと、その他のユニットとを有する構造のものであることが好ましい。
【0072】
その他のユニットとしては、酸モノマー、カルボキシル基を有するモノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマーや、これらの無水物、塩、エステル化合物などのモノマーが共重合されたものが挙げられる。また、本発明に用いる上記グラフトポリマーにおいて、上記のその他のユニットは、1種又は2種以上を組み合わせて構成させてもよい。
【0073】
その他のユニットを構成するモノマーとしては、具体的には、例えば、以下のモノマーが挙げられる。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸など。アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸エステルなど。メタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸エステルなど。スチレンスルホン酸、無水マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステルなど。ビニルホスホ酸、ビニルホスフェート、ビス(メタアクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェートなど。また、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル−2−(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェートなど。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルが好ましい。
【0074】
本発明の目的を達成させるためには、インク全質量を基準とした第1のインク中におけるグラフトポリマーの含有量(質量%)が、0.50質量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは、1.0質量%以上20.0質量%未満である。すなわち、第1のインク中における含有量(質量%)が0.50質量%よりも低いと、記録部最表面に配向するシリコーン部位の絶対量が少なくなるため、形成画像が高い耐擦過性を満足し得ないおそれがある。一方、20.0質量%よりも多くなると、シリコーン部位の絶対量が多くなるために、記録部最表面にシリコーンが配向するだけでなく、記録部内部にまでシリコーングラフトポリマーが浸透し、形成画像が高い耐擦過性を満足し得ないおそれがある。すなわち、この場合は顔料にシリコーンが吸着することで顔料同士が滑り、結果として耐擦過性が低下してしまう場合があると推測している。
【0075】
<分散剤>
本発明において、顔料をインク中に分散させるための樹脂(分散剤)としては、水溶性を有する樹脂であればどのようなものでも用いることができる。具体的には、以下に挙げるようなモノマーやそれらの誘導体などから選ばれる、少なくとも2つのモノマー(このうち少なくとも1つは親水性モノマー)から合成された、ブロック、ランダム、グラフトなどの形態の共重合体やその塩などが挙げられる。モノマーとしては、下記のようなものを好ましく使用することができる。例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルなど。アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミドなど。また、ロジン、シェラック、デンプンなどの天然樹脂である。また、顔料をインク中に分散させるための樹脂は、アルカリ可溶型の樹脂であることが好ましい。
【0076】
上記樹脂(分散剤)は、その重量平均分子量が、1,000以上30,000以下、さらには3,000以上15,000以下のものであることが好ましい。また、インク中の上記樹脂(分散剤)の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0077】
<水溶性有機化合物>
第1のインクには、上記で説明したグラフトポリマーに加えて、さらに、下記一般式(C)、下記一般式(D)、及び、下記一般式(E)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性有機化合物を含有させることが好ましい。なお、以下の記載においては、下記一般式(C)、下記一般式(D)、及び、下記一般式(E)で表される化合物からなる群の水溶性有機化合物を、「特定の水溶性有機化合物」と省略して呼ぶことがある。
【0078】
(一般式(C)中、R4は置換基を有してもよい炭素数2乃至5のアルキレン基であり、R5はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1乃至4のアルキル基である。また、一般式(D)中、R6は置換基を有してもよい炭素数2乃至5のアルキレン基であり、R7は水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1乃至4のアルキル基である。また、一般式(E)中、nは1乃至3の数である。)
【0079】
ここで、第1のインク中に、本発明で必須とする前述した特定のグラフトポリマー(以下、単にグラフトポリマーと呼ぶ)に加えて、さらに、上記特定の水溶性有機化合物を含有させることが好ましい理由について説明する。なお、インク中において、上記グラフトポリマー分子の会合体がほどかれた状態にあることは、例えば、下記のようにしてインクの動的表面張力を測定することにより確認することができる。先ず、グラフトポリマーと共に、上記特定の水溶性有機化合物を含有させたインクと、上記特定の水溶性有機化合物を含有させていないインクとについて、ある寿命時間における動的表面張力をそれぞれ測定する。このとき、上記特定の水溶性有機化合物を含有させたために、グラフトポリマー分子の会合体を形成していないインクは、上記特定の水溶性有機化合物を含有させていないインクと比較して、ある寿命時間における動的表面張力の値が低くなる。これは、グラフトポリマー分子の会合体がほどかれた状態のインクでは、該グラフトポリマー分子が界面に相対的に多く配向するようになるため、インクの動的表面張力が下がるからである。つまり、これらのインクの動的表面張力の値を比較して、上記特定の水溶性有機化合物を含有させたインクの動的表面張力の値が低ければ、インク中でグラフトポリマー分子の会合体がほどかれた状態にあるといえる。なお、動的表面張力を測定する装置としては、例えば、Bubble Pressure Tensiometer BP2(KRUSS製)などを用いることができる。
【0080】
先に示した一般式(C)で表される化合物及び一般式(D)で表される化合物は含窒素複素環化合物であり、具体的には、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、エチレン尿素などが挙げられる。また、一般式(E)で表される化合物は1,2−アルカンジオールであり、具体的には、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオールが挙げられる。本発明では、これらの化合物の中でも、特に、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、エチレン尿素、及び1,2−ヘキサンジオールから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。さらには、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、エチレン尿素から選ばれる少なくとも1種と、1,2−ヘキサンジオールとを共にインク中に含有させることが特に好ましい。
【0081】
第1のインク中における、グラフトポリマーの含有量(質量%)に対する、上記一般式(C)、上記一般式(D)、及び上記一般式(E)で表される化合物の合計含有量(質量%)の質量比率が、2.0倍以上であることが好ましい。すなわち、(上記特定の水溶性有機化合物の合計含有量/グラフトポリマーの含有量)=2.0倍以上であることが好ましい。なお、上記特定の水溶性有機化合物及びグラフトポリマーの含有量とは、それぞれ、インク全質量中における各成分の含有量のことである。一方、この質量比率が2.0倍未満であると、インク中において、上記特定の水溶性有機化合物の含有量が少なくなり、グラフトポリマー分子の会合体を十分にほどくことができず、画像の耐擦過性と光沢性とを特に向上する効果が得られない場合がある。また、上記の質量比率の上限は、40.0倍以下、さらには20.0倍以下、特には10.0倍以下、中でも特には8.0倍以下であることが好ましい。上記質量比率の上限が40.0倍より大きいと、インクの粘度が高くなるため吐出安定性が十分に得られず、したがって適切な量のインクを記録媒体に付与することができない場合がある。
【0082】
また、第1のインク中の上記一般式(C)、上記一般式(D)、及び上記一般式(E)で表される化合物の合計含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、2.0質量%以上であることが好ましい。この含有量が2.0質量%未満であると、インク中における上記特定の水溶性有機化合物の含有量が少なくなり、グラフトポリマー分子の会合体を十分にほどくことができず、画像の耐擦過性と光沢性とを特に向上する効果が得られない場合がある。また、上記特定の水溶性有機化合物の含有量の上限は、20.0質量%以下であることが好ましい。前記含有量の上限が20.0質量%より大きいと、インクの粘度が高くなるため吐出安定性が十分に得られず、したがって適切な量のインクを記録媒体に付与することができない場合がある。
【0083】
<顔料>
本発明で使用するインクには、分散剤を用いて顔料を分散する樹脂分散タイプの顔料(樹脂分散型顔料)や、顔料粒子の表面に親水性基を導入した自己分散タイプの顔料(自己分散型顔料)を用いることができる。また、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基を化学的に結合させた顔料(樹脂結合型自己分散顔料)、顔料の分散性を高めて分散剤などを用いることなく分散可能としたマイクロカプセル型顔料なども用いることができる。勿論、これらの分散方法の異なる顔料を組み合わせて用いてもよい。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。顔料の種類は特に限定されず、無機顔料や有機顔料をいずれも用いることができる。
【0084】
<水性媒体>
本発明で使用するインクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。なお、この水溶性有機溶剤の含有量は、上記で説明した特定の水溶性有機化合物を含む含有量である。特定の水溶性有機化合物以外の水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、以下に挙げるようなものを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0085】
具体的には、例えば、以下の水溶性有機溶剤を用いることができる。1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのアルカンジオール類。ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテルなどのグリコールエーテル類。エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールなどの炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのカルボン酸アミド類。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オンなどのケトン類又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類。グリセリン。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエチレングリコール類。1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、平均分子量200乃至1,000のポリエチレングリコール、チオジグリコール、1,2,6−ヘキサントリオールなどのポリオール類。アセチレングリコール誘導体などのグリコール類。
【0086】
水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0087】
<その他の成分>
インクには、上記成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの保湿性固形分を含有してもよい。インク中の保湿性固形分の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0088】
さらに、必要に応じて所望の物性値を有するインクとするために、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有してもよい。特に、インクを調製する際に、第2のインクの表面張力が、第1のインクの表面張力よりも3mN/m以上低くなるように調整することが好ましい。また、第2のインクにおけるインク全質量を基準とした水分量(質量%)が、第1のインクにおけるインク全質量を基準とした水分量(質量%)に対して90%以下に調整することが好ましい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、「部」又は「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0090】
<シリコーングラフトポリマーの合成>
以下の手順にしたがってグラフトポリマー1〜4をそれぞれ合成した。なお、合成方法としては公知の重合方法を用いることができるが、本実施例においては、グラフトポリマー1〜4を以下の重合方法を用いてそれぞれ合成した。先ず、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えたフラスコに、下記表1に示す組成で、各モノマーと、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを仕込んだ。そして、溶媒として1−メトキシ−2−プロパノール500部を用いて、窒素ガス還流下、温度110℃で、4時間重合反応させた。次に、得られた共重合体を含む溶液を減圧乾燥させて共重合体を得た。該共重合体に、溶媒としてメチルエチルケトン25部を加えて溶解させた後、30%の水酸化カリウム水溶液2部を加えて共重合体の塩生成基の一部を中和し、さらにイオン交換水300部を加えて撹拌した。その後、減圧下、温度60℃で溶媒を除去し、さらに水の一部を除去することにより濃縮して、固形分濃度が20.0%のポリマーの水溶液を得た。このようにして得たポリマー1〜4について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所製)と多角度光散乱検出器(昭工通商製)とを組み合わせて絶対分子量と分子サイズを測定した。その結果、絶対分子量と分子サイズの測定値は大きく乖離しており、いずれもグラフトポリマーの構造を有するものであることが確認できた。なお、グラフトポリマー1及び2は、一般式(A)で表されるノニオン性ユニットとポリシロキサン構造を有するユニットを含むシリコーングラフトポリマーであり、これらと顔料とを含むものは第1のインクである。一方、グラフトポリマー3及び4は、上記いずれかのユニットを含まず、第1のインクの形成材料となり得ない。
【0091】
なお、下記表1中、(*1)〜(*4)はそれぞれ以下のモノマーを示す。
(*1):サイラプレーンFM−0711(チッソ製;前記一般式(B’)に示されるポリシロキサン構造を有するモノマー、数平均分子量=約1,000)
(*2):BHEA(製品名:日本触媒製;前記一般式(A’)におけるR1及びR2が水素原子、R3がエステル結合、xが1であるノニオン性モノマー)
(*3):HEMA(製品名:日本触媒製;前記一般式(A’)におけるR1が水素原子、R2がメチル基、R3がエステル結合、xが1であるノニオン性モノマー)
(*4):ブレンマーPME−100(製品名:日油製;前記一般式(A’)におけるR1及びR2がメチル基、R3がエステル結合、xが2であるノニオン性モノマー)
【0092】
【0093】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1の調製)
マゼンタ顔料(C.I.ピグメントレッド122)10部、グリセリン6部、樹脂(分散剤)10部、及び水74部を、0.6mm径のジルコニアビーズの充填率を70%としたサンドミル(金田理化工業製)に仕込み、1,500rpmで5時間分散した。前記樹脂には、スチレン、アクリル酸メチル及びアクリル酸の共重合比(質量比)が53:29:18、重量平均分子量が8,000、酸価が130mgKOH/gのランダム共重合体を用いた。なお、前記樹脂は、予め、上記の酸価と当量の水酸化カリウムと水を加えて温度80℃で撹拌し、水溶液としたものを用いた。分散した後、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去し、さらに、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が10.0%となるように水を用いて濃度を調整し、顔料分散液1を得た。
【0094】
(顔料分散液2の調製)
C.I.ピグメントレッド122に代えて、レッド顔料であるC.I.ピグメントレッド149を用いた以外は顔料分散液1の調製と同様の方法で、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が10.0%である顔料分散液2を得た。
【0095】
(顔料分散液3の調製)
C.I.ピグメントレッド122に代えて、イエロー顔料であるC.I.ピグメントイエロー74を用いた以外は顔料分散液1の調製と同様の方法で、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が10.0%である顔料分散液3を得た。
【0096】
(顔料分散液4の調製)
C.I.ピグメントレッド122に代えて、シアン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:1を用いた以外は顔料分散液1の調製と同様の方法で、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が10.0%である顔料分散液4を得た。
【0097】
<インクの調製>
先に調製したグラフトポリマー1〜4と、顔料分散液1〜4とを用い、表2の上段に示す各成分をそれぞれ用いてインク1〜15を調製した。具体的には、表2の上段に示す各成分を、表2に示した組成で混合して十分撹拌した後、ポアサイズ1.2μmのポリプロピレンフィルター(ポール製)にて加圧ろ過を行って各インクを調製した。表2の下段には、各インクの表面張力の値と、各インク中における成分比率をそれぞれ示した。なお、表面張力の測定は、自動表面張力計CBVP−Z(協和界面科学製)を用いて、室温(25℃)にて行った。
【0098】
【0099】
【0100】
<評価>
(画像の作製)
上記で得られた各インク1〜15をそれぞれインクカートリッジに充填し、図10に示した構成を有するインクジェット記録装置に搭載して、1種類のインクでの単色画像の形成と、2種類のインクを用いての2次色の画像の記録をそれぞれ行った。その際、図1のA及びBのそれぞれの位置から表4に示した各インクが吐出されるようにした。
【0101】
単色画像の記録は、光沢を有する記録媒体であるスーパーフォトペーパーSP−101(キヤノン製)に、解像度1200dpi×1200dpi、8パス双方向記録で、各記録パスで付与するインク量を等配分として行った。すなわち、図1のA又はBの位置からインクを吐出し、各記録パスの記録デューティが12.5%となるようにして、記録デューティが100%である単色画像を形成した。得られた単色の記録物を室温で1日放置した後、後述した方法でそれぞれの評価を行った。なお、評価結果は、表4中に示した。
【0102】
2次色の画像の記録は、上記と同様のスーパーフォトペーパーSP−101(キヤノン製)に、解像度1200dpi×1200dpi、8パス双方向記録で、表4に示した2種類のインクの組み合わせで、表3に示すマスクパターンを用いた各記録方法で行った。このようにして得られた2次色画像における記録デューティは、各インクの合計の記録デューティが100%であった。得られた2次色の記録物を室温で1日放置した後、後述した方法でそれぞれの評価を行い、評価結果を表4に示した。
【0103】
【0104】
(耐擦過性の評価)
上記のそれぞれの方法で得た単色又は2次色の各記録物の画像領域を、記録媒体の非記録部に傷が付く程の強い圧力を加えて爪で引っ掻いた。この記録物を目視で確認して耐擦過性の評価を行った。耐擦過性の評価基準は下記の通りである。結果を表4−1及び4−3に示した。本発明においては、下記の評価基準で、AA、A、B、及びCを耐擦過性として十分なレベルであるとし、D及びEを不十分なレベルとした。
AA:画像の表面に爪跡が残らなかった。
A:画像の表面にわずかな爪跡が残るが、記録媒体から色材が削れ落ちなかった。
B:画像の表面に爪跡が残るが、記録媒体から色材が削れ落ちなかった。
C:画像の表面に爪跡が残り、かつ、記録媒体から色材がわずかに削れ落ちた。
D:記録媒体の表面が露出することはないが、色材が明らかに削れ落ちた。
E:画像を軽く触れる程度では問題がないレベルであるが、記録媒体の非記録部に傷が付くほどの強い圧力で引っ掻くと、記録媒体の表面が見える程度に色材が削れ落ちた。
【0105】
(光沢性の評価)
上記で得た単色又は2次色の各記録物の画像領域における光沢性(20°グロスの値)を、マイクロヘイズメーター(ビック−ガードナー製)を用いて測定して、光沢性の評価を行った。光沢性の評価基準は下記の通りである。結果を表4−1及び4−3に示した。
AA:20°グロス値が50以上であった。
A:20°グロス値が45以上50未満であった。
B:20°グロス値が40以上45未満であった。
C:20°グロス値が40未満であった。
【0106】
(インクの保存安定性の評価)
上記で得た各インクをテフロン(登録商標)製の容器に入れ、温度60℃で1ヶ月保存した。保存前後のインク中の顔料の粒径を、レーザーゼータ電位計(商品名:ELS8000;大塚電子製)でそれぞれ測定し、保存安定性を評価した。保存安定性の評価基準は下記の通りである。評価結果は表4−2に示した。
A:保存後の顔料の粒径が、保存前の顔料の粒径の1.1倍未満であった。
B:保存後に顔料の凝集物は発生していなかったが、保存後の顔料の粒径が、保存前の顔料の粒径の1.1倍以上であった。
C:保存後に、容器内に顔料の凝集物が発生した。
【0107】
(インクの吐出特性の評価:フェイス面の状態、吐出安定性)
上記で得た各インクを、インクジェット記録装置(商品名:PIXUS850i;キヤノン製)用のインクカートリッジに充填し、改造した該インクジェット記録装置のシアンインクの位置にセットした。そして、オフィスプランナー(キヤノン製)に、記録デューティが50%で、18cm×24cmの画像を、デフォルトモードで3枚記録した。この際、1枚記録するごとに1回の割合で、PIXUS850iのワイパーブレードを用いて、記録ヘッド表面のクリーニング操作を行った。その後、PIXUS850iのノズルチェックパターンを記録した。この時の記録ヘッド表面の状態を目視で確認して、各インクを吐出させた場合におけるフェイス面の状態の評価を行った。フェイス面の状態の評価基準は下記の通りであり、その結果を表4に示した。また、各インクを吐出させた際におけるノズルチェックパターンを目視で確認して、吐出安定性の評価を行った。吐出安定性の評価基準は下記の通りであり、評価結果を表4−2に示した。
【0108】
〔フェイス面の状態〕
A:吐出口の周辺にインクがほとんど存在しなかった。
B:吐出口の周辺にインク滴が多少存在していた。
C:吐出口の周辺に帯状にインクの液膜が存在していた。
【0109】
〔吐出安定性〕
A:ノズルチェックパターンに乱れがなく正常に記録できた。
B:ノズルチェックパターンに若干の乱れがあったが、不吐出はなかった。
C:ノズルチェックパターンにはっきりとした不吐出や乱れがあり、正常に記録できなかった。
【0110】
【0111】
【0112】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録方式で、第1のインクと第2のインクとを有する複数のインクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、
前記第1のインクは、少なくとも、下記一般式(A)で表されるノニオン性ユニット、及び、ポリシロキサン構造を有するユニットを含んで構成されるグラフトポリマーと、顔料とを含有してなり、かつ、インク中における前記グラフトポリマーの含有量(質量%)が前記顔料の含有量(質量%)に対して0.5倍以上5.0倍以下であり、
前記第2のインクは、少なくとも顔料を含み、かつ、前記グラフトポリマーの含有量(質量%)が、該顔料の含有量(質量%)に対して0.0倍以上0.2倍未満であり、
前記インクジェット記録方式が、記録媒体の単位領域に対して記録ヘッドの主走査をn(nは2以上の整数)回繰り返して記録を行う方式であって、前記第1のインクを単位領域に付与する際に、i回目の走査時における前記第1のインクの付与量V(i)が、下記式[I]又は式[II]を満たすことを特徴とするインクジェット記録方法。
(一般式(A)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R3はエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2である。ただし、R2がメチル基の場合、R3がエーテル結合となることはない。)
【請求項2】
前記インクジェット記録方式が、記録媒体の単位領域に対して記録ヘッドの主走査をn(nは2以上の整数)回繰り返して記録を行う方式であって、前記第1のインクを単位領域に付与する際に、i回目の走査時における前記第1のインクの付与量V(i)が、下記式[III]又は[IV]を満たす請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記インクジェット記録方式が、記録媒体の単位領域に対して記録ヘッドの主走査をn(nは2以上の整数)回繰り返して記録を行う方式であって、前記第1のインクを単位領域に付与する際に、i回目の走査時における前記第1のインクの付与量V(i)が、下記式[V]又は[VI]を満たす請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記第2のインクの表面張力が第1のインクよりも3mN/m以上低い請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記第2のインクにおけるインク全質量を基準とした水分量(質量%)が第1のインクのインク全質量を基準とした水分量に対して90%以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
複数のインクを収容するためのインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えてなり、かつ、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法で記録が行われるように構成されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項1】
インクジェット記録方式で、第1のインクと第2のインクとを有する複数のインクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、
前記第1のインクは、少なくとも、下記一般式(A)で表されるノニオン性ユニット、及び、ポリシロキサン構造を有するユニットを含んで構成されるグラフトポリマーと、顔料とを含有してなり、かつ、インク中における前記グラフトポリマーの含有量(質量%)が前記顔料の含有量(質量%)に対して0.5倍以上5.0倍以下であり、
前記第2のインクは、少なくとも顔料を含み、かつ、前記グラフトポリマーの含有量(質量%)が、該顔料の含有量(質量%)に対して0.0倍以上0.2倍未満であり、
前記インクジェット記録方式が、記録媒体の単位領域に対して記録ヘッドの主走査をn(nは2以上の整数)回繰り返して記録を行う方式であって、前記第1のインクを単位領域に付与する際に、i回目の走査時における前記第1のインクの付与量V(i)が、下記式[I]又は式[II]を満たすことを特徴とするインクジェット記録方法。
(一般式(A)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R3はエステル結合又はエーテル結合であり、xは1又は2である。ただし、R2がメチル基の場合、R3がエーテル結合となることはない。)
【請求項2】
前記インクジェット記録方式が、記録媒体の単位領域に対して記録ヘッドの主走査をn(nは2以上の整数)回繰り返して記録を行う方式であって、前記第1のインクを単位領域に付与する際に、i回目の走査時における前記第1のインクの付与量V(i)が、下記式[III]又は[IV]を満たす請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記インクジェット記録方式が、記録媒体の単位領域に対して記録ヘッドの主走査をn(nは2以上の整数)回繰り返して記録を行う方式であって、前記第1のインクを単位領域に付与する際に、i回目の走査時における前記第1のインクの付与量V(i)が、下記式[V]又は[VI]を満たす請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記第2のインクの表面張力が第1のインクよりも3mN/m以上低い請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記第2のインクにおけるインク全質量を基準とした水分量(質量%)が第1のインクのインク全質量を基準とした水分量に対して90%以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
複数のインクを収容するためのインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えてなり、かつ、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法で記録が行われるように構成されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−208037(P2010−208037A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53751(P2009−53751)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]