説明

インクジェット記録方法

【課題】布帛に対する定着性の向上を実現できるインクジェット記録方法の提供。
【解決手段】前処理液で処理された布帛に、顔料と、顔料分散体と、高分子微粒子とを少なくとも含むインクジェット記録用インク組成物を付着させることにより画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記高分子微粒子のガラス転位温度が−10℃以下であり、かつ前記高分子微粒子の平均粒径が50〜300nmであるインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、インクジェット記録方法に関し、より詳しくは、前処理液で処理された布帛を用いるインクジェット記録方法に関する。
【0002】
背景技術
従来から、布帛に画像を印捺する方法として、スクリーン捺染法、ローラ捺染法、ロータリースクリーン捺染法、または転写捺染法等が用いられている。しかしながら、これらの方法にあっては、画像デザインの変更毎に、高価なスクリーン枠、彫刻ローラ、または転写紙等を用意する必要がある。そのため、これらの方法は多品種少量生産にはコスト的に不向きであり、ファッションの多様化に迅速に対応することが難しい。
【0003】
こうした従来の印捺方法の欠点を解消するために、スキャナーで見本を読み取り、コンピュータで画像処理を行い、その結果をインクジェット方式で印捺する技術が開発されてきた。
【0004】
しかしながら、インクジェット方式は、記録媒体として紙を用いる技術として発展してきたため、布帛に適用した場合には、滲みや、鮮明性について、布帛向けに修正が必要になる。その理由は、布帛は、紙と異なり、繊維組織や編織組織に方向性があり、空隙が紙よりも大きいために、インクが縦横方向に滲み、鮮明な画像を得ることができない場合があるからである。また、インクジェット方式では、インクヘッドからインク液滴を記録媒体へ吐出させるので、従来の印捺方法で用いる高粘度インキをそのまま適用することは難しい場合があり、しかもヘッドの目詰まりを防止するために、粘度をかなりの程度まで低くする必要がある。
【0005】
そこで、インクジェット捺染においては、次のような手法が提案されている。すなわち、従来の印捺方法で用いられていた捺染糊成分の全体を高粘性の前処理剤と低粘性のインクとの二成分に分割し、前処理剤によって布帛を予めパディング処理し、前処理された布帛にインクをインクジェットプリンタヘッドから吐出させる方法が開発されている。また、こうしたインクジェット捺染において、前処理剤に特定の成分を含有させることによって滲みを防止し、鮮明な画像を得ることを目的とする技術も提案されている。
【0006】
例えば、染料保持剤を予め付着させた前処理布帛を用いることによって滲みを防止し、鮮明な画像を得ることができるとするインクジェット捺染方法が提案されており(特開昭61−55277号公報(特許文献1))、前記の染料保持剤としては、水溶性高分子(すなわち、天然水溶性高分子または合成水溶性高分子)、水溶性塩類、および水不溶性無機微粒子が列挙されている。しかしながら、この特許文献1に記載の方法では、工業生産を行うにあたり、生地素材のロット差、保管場所や加工現場等の温湿度条件の差により、発色の変動が大きく、色の再現性に問題があり、また染着ムラが発生し、均染性が得られないという問題点があることも指摘されている(特開平10−183481号公報(特許文献2))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−55277号公報
【特許文献2】特開平10−183481号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明者等は、今般、前処理液で処理された布帛に、顔料と、顔料分散体と、高分子微粒子とを少なくとも含むインクジェット記録用インク組成物を付着させることにより画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記高分子微粒子のガラス転位温度が−10℃以下であり、かつ前記高分子微粒子の平均粒径が50〜300nmであるインクジェット記録方法により布帛に対する定着性の向上を実現できるとの知見を得た。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0009】
従って、本発明は、布帛に対する定着性の向上を実現できるインクジェット記録方法の提供をその目的としている。
【0010】
そして、本発明によるインクジェット記録方法は、前処理液で処理された布帛に、顔料と、顔料分散体と、高分子微粒子とを少なくとも含むインクジェット記録用インク組成物を付着させることにより画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記高分子微粒子のガラス転位温度が−10℃以下であり、かつ前記高分子微粒子の平均粒径が50〜300nmであるインクジェット記録方法である。
【0011】
本発明によれば、布帛に対する定着性の向上を実現できるインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明によるインクジェット記録方法は、前処理液で処理された布帛に、顔料と、顔料分散体と、高分子微粒子とを少なくとも含むインクジェット記録用インク組成物を付着させることにより画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記高分子微粒子のガラス転位温度が−10℃以下であり、かつ前記高分子微粒子の平均粒径が50〜300nmであるインクジェット記録方法である。以下、インクジェット記録方法について説明する。
【0013】
インクジェット記録方法
本発明による記録方法にあっては、まず、前処理液により処理された布帛が用意される。前処理液による処理は、布帛へのインク組成物の定着性を向上させるために行われる処理である。したがって、前処理液は、布帛へのインク組成物の定着に好ましい成分を含むものであり、本発明の好ましい態様によれば、とりわけ熱処理等の適切な処理によって布帛が有する官能基(例えば、セルロースに含まれる水酸基)、高分子微粒子が有する官能基、あるいは分散体(樹脂等)が有する官能基等と反応して、インクを定着させる成分を含むことが好ましい。その組成の詳細は後述する。
【0014】
前処理液による処理は、前処理液が布帛にインク組成物の定着性を向上させるのに十分な程度に提示される限りは、特に限定されないが、浸漬法、パディング法などが好ましく用いられる。また、本発明の好ましい態様によれば、この前処理液をインクジェット記録方法により付着させることもできる。
【0015】
〈前処理液〉
本発明のインクジェット記録方法に用いられる前処理液は、布帛へのインク組成物の定着性を向上させるものである限り特に限定されないが、熱処理等の適切な処理によって布帛が有する官能基(例えば、セルロースに含まれる水酸基)、高分子微粒子が有する官能基、あるいは分散体(樹脂等)が有する官能基等と反応して、インクを定着させる成分を含んでなるものが好ましく、さらに好ましくは、反応性基を少なくとも一つ以上有していてもよい反応剤を含んでなるものである。また、前処理液は好ましくは水を含んでなるものである。
【0016】
前記反応剤は、例えば、多価金属塩、またはポリアリルアミンもしくはその誘導体を含んでもよい。ここで多価金属塩とは、二価以上の多価金属イオンと、これら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶な化合物である。多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+などの二価金属イオン、またはAl3+、Fe3+、Cr3+などの三価金属イオンが挙げられる。陰イオンとしては、例えば、SO42-、Cl-、NO3-、I-、Br-、ClO3-、およびCH3COO-などが挙げられる。
【0017】
とりわけ、Ca2+またはMg2+より構成される金属塩は、前処理液のpH、得られる印刷物の品質という二つの観点から、好適な結果を与える。例えば、スルホン酸マグネシウムまたはスルホン酸カルシウムなどのスルホン酸多価金属塩を用いることができる。
【0018】
これら多価金属塩の前処理液中における濃度は、印字品質、および目詰まり防止の効果が得られる範囲で適宜決定されてよいが、好ましくは0.1〜40重量%程度であり、より好ましくは5〜25重量%程度である。
【0019】
本発明方法の好ましい態様においては、前処理液に含まれる多価金属塩は、二価以上の多価金属イオンと、これら多価金属イオンに結合する硝酸イオンまたはスルホン酸イオンとから構成され、水に可溶な化合物である。
【0020】
前記反応剤として用いることができるポリアリルアミンおよびポリアリルアミン誘導体は、水に可溶で、水中でプラスに荷電するカチオン系高分子である。例えば、以下の一般式(I)、一般式(II)、または一般式(III)で表される化合物を挙げることができる。
【0021】
【化1】

(式中、X-は塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、燐酸イオン、硫酸イオン、または有機酸イオン等を表す)。
【0022】
これら以外にもアリルアミンとジアリルアミンとが共重合したポリマーや、ジアリルメチルアンモニウムクロライドと二酸化硫黄との共重合体を使用することもできる。
【0023】
市販されている反応剤を用いてもよく。例えば、ダンフィックス−5000、ダンフィックス−7000、またはダンフィックス−PAA(いずれも日東紡社製)が好ましい。
【0024】
これらポリアリルアミンまたはポリアリルアミン誘導体の含有量は、前処理液中に0.5〜10重量%含まれることが好ましい。
【0025】
〈高分子微粒子〉
本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子のガラス転位温度を−10℃以下とすることにより、特に捺染用インクとしての顔料の定着性を向上することができる。より好ましくは、本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子のガラス転位温度は−15℃以下であり、さらに好ましくは−20℃以下である。
【0026】
また、本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子の酸価は、特に限定されないが、100mgKOH/g以下であることが好ましい。インク組成物に含まれる高分子微粒子の酸価を100mgKOH/g以下とすることにより、特に捺染用として布に印捺した場合に洗濯堅牢性が向上させることができる。より好ましくは、高分子微粒子の酸価は50mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは30mgKOH/g以下である。
【0027】
さらに、本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるスチレン換算重量平均分子量が100,000〜1,000,000であることが好ましい。高分子微粒子のスチレン換算重量平均分子量が100,000〜1,000,000であることにより、特に捺染用として布に印捺した場合に洗濯堅牢性が向上し、顔料の定着性が向上する。
【0028】
また、本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子は、少なくともアルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートを含んでなることが好ましい。
【0029】
さらに、本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子は、70重量%以上のアルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートを含有することが好ましい(以下、「重量%」を単に「%」と記載することもある)。本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子が70重量%以上のアルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートを含有することにより、特に捺染用として布に印捺した場合の乾摩擦と湿摩擦の摩擦堅牢性を向上させることができる。
【0030】
本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子が含有するアルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数が1〜24のアルキル(メタ)アクリレートおよび/または炭素数が3〜24の環状アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、その例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレートおよびベヘニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0031】
上記高分子微粒子の平均粒径は光散乱法で測定することができる。高分子微粒子の平均粒径は特に限定されないが、光散乱法による高分子微粒子の平均粒径は50〜500nmが好ましく、より好ましくは60〜300nmである。高分子微粒子の平均粒径を50〜500nmとすることにより、良好な定着性を実現でき、またインクジェットヘッドからのインクの優れた吐出安定性を実現できる。なお、上記平均粒径は、例えば、マイクロトラックUPA(Microtrac Inc.社)を使用して測定することができる。
【0032】
〈顔料分散体〉
本発明において、顔料分散体とは、顔料が、最終的にはインク組成物中に分散可能な状態とされたものを意味し、具体的には、顔料が分散剤などの助剤の助けにより分散された顔料分散液、または助剤の助けによりインク組成物中には分散されるが、インク組成物の製造前には粉体で提供される粉体顔料、さらには、顔料が分散剤なしにインク組成物中に分散可能とされた自己分散顔料等を意味する。顔料分散液または粉体顔料の粒子の平均粒径は、特に限定されないが、50〜300nmであることが好ましい。平均粒径を50〜300nmとすることにより、良好な発色性および定着性を実現できる。より好ましくは、平均粒径は70〜230nm、さらに好ましくは80〜130nmである。ここで、平均粒径とは、顔料分散液の場合、液中で形成している粒子の分散径(累積50%径)である。前記平均粒径は光散乱法により測定することができ、例えば、マイクロトラックUPA(Microtrac Inc.社)を使用して測定することができる。
【0033】
また、分散体が自己分散顔料である場合、その平均粒径は50〜300nmであることが好ましい。自己分散顔料を用いることにより、印刷物の発色性を向上させることができる。ここで、自己分散顔料とは、顔料の表面をオゾンや次亜塩素酸ナトリウムなどで酸化する方法により、分散剤なしに水に分散可能としたものである。好ましい態様によれば、自己分散顔料の平均粒径は、50〜150nmである。自己分散顔料の平均粒径を50〜150nmとすることにより、良好な発色性および定着性を実現できる。より好ましい平均粒径は70〜130nmであり、さらに好ましくは80〜120nmである。
【0034】
また、本発明によるインク組成物に含まれる顔料を水に分散させるためにポリマーを用いてもよい。本発明によるインク組成物に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるスチレン換算重量平均分子量が10,000〜200,000であるポリマーを含むことが好ましい。これにより、特に捺染用インク組成物としての顔料の布帛に対する定着性の向上を実現でき、本発明によるインク組成物の保存安定性も向上させることができる。また、上記ポリマーは、特に限定されないが、その構成成分として少なくとも70重量%以上が(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリル酸の共重合によるポリマーであることが好ましい。また、前記ポリマーの平均粒子径は、特に限定されないが、50〜300nmであることが好ましい。
【0035】
また、上記ポリマーとは別に、前記分散体の分散を安定させるために、分散安定剤として水分散性または水溶解性のポリマー、界面活性剤、および/または顔料分散剤を添加してもよい。
【0036】
前記顔料分散剤として、疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合樹脂を含んでなることが好ましい。これら共重合樹脂は、顔料に吸着して分散性を向上させる。
【0037】
共重合体樹脂における疎水性モノマーの具体例としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、iso−プロピルアクリレート、iso−プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、sec−ブチルアクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルアクリレート、n−オクチルメタクリレート、iso−オクチルアクリレート、iso−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルアクリレート、フエニルメタクリレート、ノニルフェニルアクリレート、ノニルフェニルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ボルニルアクリレート、ボルニルメタクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエンなどをあげることができる。これらは、単独でまたは二種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
共重合体樹脂における親水性モノマーの具体例としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などを挙げることができる。
【0039】
疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合樹脂は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メチルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、またはスチレン−マレイン酸共重合樹脂、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、またはスチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0040】
前記共重合樹脂は、スチレンと、アクリル酸またはアクリル酸のエステルと、を反応して得られる重合体を含む樹脂(スチレン−アクリル酸樹脂)であってもよい。あるいは、前記共重合樹脂は、アクリル酸系水溶性樹脂であってもよい。またはこれらのナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩であってもよい。
【0041】
これら共重合樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、顔料100質量部に対して、好ましくは10〜50質量部であり、一層好ましくは10〜35質量部である。
【0042】
本発明の別の態様においては、顔料分散剤として、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メチルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、またはスチレン−マレイン酸共重合樹脂、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、およびスチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂からなる群から選択される共重合体樹脂(以下、単に共重合樹脂という場合がある。)と、ウレタン樹脂とを用いてもよい。このような顔料分散剤と上記ポリマーと組み合わせて用いることにより、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止性の他、吐出安定性、目詰まり防止性、発色安定性や銀塩に匹敵する高画質を実現することができる。
【0043】
共重合樹脂とウレタン樹脂との重量比は、1/2〜2/1であることが好ましく、1/1.5〜1.5/1であることがより好ましい。この範囲で両樹脂を添加することにより、より一層優れた光沢性、およびブロンズ防止性を有する画像を形成することができるとともに、インクの保存安定性を維持することができる。
【0044】
上記共重合樹脂は、スチレンと、アクリル酸またはアクリル酸のエステルと、を反応して得られる重合体を含む樹脂(スチレン−アクリル酸樹脂)であってもよい。あるいは、前記共重合樹脂は、アクリル酸系水溶性樹脂であってもよい。またはこれらのナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩であってもよい。
【0045】
上記ウレタン樹脂は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、ウレタン結合および/またはアミド結合と、酸性基とを有する樹脂であることが好ましい。
【0046】
ウレタン樹脂とは、ジイソシアネート化合物と、ジオール化合物とを反応して得られる重合体を含む樹脂である。
【0047】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、トルイレンジイソシアネート、フェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物、これらの変性物が挙げられる。
【0048】
ジオール化合物としては、例えば1、4−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、1、8−オクタンジオール、1、10−デカンジオール、4−エチル−2−ヘキサンジオールなどのアルキルジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プルロニック等のポリエーテルジオール類、ポリエチレンアジベート、ポリブチレンアジベート等のポリエステル類、その他ポリカーボネート類が挙げられる。
【0049】
前記ウレタン樹脂は、カルボキシル基を有することが好ましい。
【0050】
顔料の固形分と、顔料以外の固形分との重量比(前者/後者)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、100/20〜100/80であることが好ましい。
【0051】
共重合樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは10〜50質量部であり、一層好ましくは10〜35質量部である。
【0052】
ウレタン樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは10〜40質量部であり、一層好ましくは10〜35質量部である。
【0053】
共重合樹脂およびウレタン樹脂の合計量は、顔料100質量部に対して、90質量部以下(さらに好ましくは70質量部以下)となるように用いられることが、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに光沢性に一層優れたカラー画像を形成できる点で好ましい。
【0054】
共重合樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは50〜320であり、一層好ましくは100〜250である。
【0055】
ウレタン樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは10〜300であり、一層好ましくは20〜100である。
【0056】
共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは2,000〜30,000であり、より好ましくは2,000〜20,000である。
【0057】
ウレタン樹脂の架橋前の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは100〜200,000であり、より好ましくは1000〜50,000である。
【0058】
共重合樹脂のガラス転移温度(Tg;JIS K6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは30℃以上であり、一層好ましくは50〜130℃である。
【0059】
ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg;JIS K6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは−50〜200℃であり、一層好ましくは−50〜100℃である。
【0060】
共重合樹脂は、インク組成物中または顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合とがあり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下がより好ましく、特に0.1μm以下であることが一層好ましい。
【0061】
ウレタン樹脂は、インク組成物中または顔料分散液中において微粒子状に分散している場合と、顔料に吸着している場合とがあり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、ウレタン樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下がより好ましく、特に0.1μm以下であることが一層好ましい。なお、上記平均粒径は、例えば、マイクロトラックUPA(Microtrac Inc.社)を使用して測定することができる。
【0062】
さらに、本発明においては、グリシジルエーテルを骨格とするエポキシ樹脂またはオキサゾリン基を有する樹脂が、架橋剤として添加されていることが、カラー画像の光沢性、ブロンジング低減、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点から特に好ましい。
【0063】
前記架橋剤は、分散性の一層向上の観点からは、カルボキシル基と反応する樹脂(カルボキシル基攻撃型の樹脂)であることが好ましい。例えば、分子中にカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド系、分子中にオキサゾリン基を有するオキサゾリン系、アジリジン系等が挙げられる。
【0064】
架橋剤の添加量は、カラー画像の光沢性、ブロンジング低減、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記共重合樹脂および前記ウレタン樹脂の総カルボキシ基に対して、ゲル分率が20%以上、より好ましくは35%以上であることが好ましい。
【0065】
また、前記架橋剤の添加量は、カラー画像の光沢性、ブロンジング低減、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、有効固形分重量比(すなわち、架橋剤の量/共重合樹脂とウレタン樹脂との合計量)が、好ましくは0.5/100〜50/100となる量であり、一層好ましくは0.5/100〜40/100となる量である。
【0066】
架橋剤と反応した前記ウレタン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンジング低減、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、10,000以上であることが好ましく、30,000以上であることが一層好ましい。
【0067】
本発明の別の態様においては、顔料分散助剤として、青木油脂工業社製のBLAUNON L−400、S−400A、O−400SA、O−600SA、花王社製のエマルゲン103、104P、106、108、404、420、サンノプコ社製のSNウェットL、SNウェット366等が挙げられる。
【0068】
〈その他の成分〉
また、本発明によるインク組成物は、1,2−アルキレングリコールを更に用いることが好ましい。1,2−アルキレングリコールを更に用いることによりにじみが低減し、印刷品質が向上する。1,2−アルキレングリコールとしては、特に限定されないが、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジールなどの炭素数5または6の1,2−アルキレングリコールが好ましい。それらの中でも、炭素数6の1,2−ヘキサンジオールおよび4−メチル−1,2−ペンタンジオールが好ましい。また、1,2−アルキレングリコールの添加量は0.3%〜30%が好ましく、より好ましくは0.5%〜10%である。
【0069】
また、本発明によるインク組成物は、グリコールエーテルを含んでいてもよい。グリコールエーテルとしては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、およびジプロピレングリコールモノブチルエーテルから選択される一種または二種以上を用いることができる。また、グリコールエーテルの添加量は、0.1%〜20%が好ましく、より好ましくは0.5%〜10%である。
【0070】
また、本発明によるインク組成物は、アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤を含んでなることが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤を用いることで、さらににじみが低減し、印刷品質が向上する。また、これらの添加により、印字の乾燥性が向上し、高速印刷が可能となる。
【0071】
アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤としては、2、4、7、9−テトラメチル−5−デシン−4、7−ジオールおよび2、4、7、9−テトラメチル−5−デシン−4、7−ジオールのアルキレンオキシド付加物、2、4−ジメチル−5−デシン−4−オールおよび2、4−ジメチル−5−デシン−4−オールのアルキレンオキシド付加物から選ばれた一種以上が好ましい。これらは、エアプロダクツ(英国)社のオルフィン104シリーズ、オルフィンE1010などのEシリーズ、日信化学製サーフィノール465あるいはサーフィノール61などとして入手可能である。
【0072】
また、本発明においては、上記1,2−アルキレングリコールと、上記アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤と、上記グリコールエーテルとからなる群から選択される一種または二種以上を用いることでよりにじみが低減する。
【0073】
また、本発明によるインク組成物は、前記高分子微粒子の含有量(重量%)が、前記顔料の含有量(重量%)より多いことが好ましい。顔料より重量単位で多くの高分子微粒子を添加することにより、特に捺染用インク組成物としての顔料の定着性が向上する。さらに、捺染用としては、布に印刷した後に、水または界面活性剤入りの水で洗浄する工程を入れることにより、インク中の水溶性成分を洗い流すことで、高分子微粒子の布への定着が強固になり、耐擦性をさらに向上させることができる。
【0074】
本発明に用いることができる顔料としては、黒色インク用として、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類が特に好ましいが、銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料を用いることもできる。
【0075】
また、カラーインク用としては、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、93、94、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、128、138、153、155、180、185、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、202、206、209、219、C.I.ピグメントバイオレット19、23、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36等が使用できるこのように、色剤としては種々の顔料を用いることができる。
【0076】
また、上記顔料は、分散機を用いて分散するが、分散機としては市販の種々の分散機を用いることができる。ただし、好ましくはコンタミが少ないという観点から、非メディア分散がよい。その具体例としては、湿式ジェットミル(ジーナス社)、ナノマーザー(ナノマーザー社)、ホモジナイザー(ゴーリン社)、アルティマイザー(スギノマシン社)、およびマイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社)などが挙げられる。
【0077】
本発明によるインク組成物に用いられる顔料の添加量は、0.5%〜30%が好ましく、1.0%〜15%がより好ましい。0.5%以下の添加量では、印字濃度が確保できなくなり、また30%以上の添加量では、インクの粘度増加や粘度特性に構造粘性が生じ、インクジェットヘッドからのインクの吐出安定性が悪くなる傾向になる。
【0078】
また、本発明によるインク組成物は、その放置安定性の確保、インクジェットヘッドからの安定吐出のため、目詰まり改善のためあるいはインクの劣化防止のためなどの目的で保湿剤、溶解助剤、浸透制御剤、粘度調整剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート等種々の添加剤を添加することもできる。
【0079】
本発明によるインク組成物は、特に用途は限定されないが、布帛(例えば、織物、網物、または不織布)に対してインクジェット記録方法に用いることにより、発色性、安定性、および定着性に優れた画像を有する記録物を得ることができる。本発明のインク組成物を用いる場合には、通常のインクジェット記録用のインク組成物と同様に、インクジェットプリンターに装填して使用する。前記インクジェットプリンターは特に限定されないが、ドロップオンデマンド型のインクジェットプリンターが好ましい。ドロップオンデマンド型のインクジェットプリンターには、記録ヘッドに配設された圧電素子を用いて記録を行う圧電素子記録方法を採用したもの、記録ヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いて記録を行う熱ジェット記録方法を採用したもの等があり、いずれの記録方法を採用することもできる。
【0080】
また、本発明によるインク組成物は、ピエゾ素子のような、加熱が起こらない電歪素子を用いた方法により吐出されることが好ましい。サーマルヘッドのような加熱が起こる場合は、添加している高分子微粒子や、顔料の分散などに用いるポリマーが変質して吐出が不安定になりやすい。特に、捺染用のインクジェットインクのように大量のインクを長時間に亘って吐出させる場合は、加熱が起らないヘッドが好しい。
【0081】
本発明によるインクジェット記録方法は、特に限定されないが、インクジェット記録用インク組成物を用いて布帛に印捺する工程と、前記インク組成物を用いて印捺された布帛を110〜200℃において1分間以上熱処理する工程とを有することが好ましい。さらに好ましくは、本発明によるインク組成物を用いた布帛に対するインクジェット記録方法は、インクジェット記録用インク組成物を用いて布帛に印捺する工程と、前記インク組成物を用いて印捺された布帛を110〜200℃において1分間以上熱処理する前に酸性の液体により前記布帛を処理する工程とを有する。前記酸性の液体は、特に限定されないが、例えばカルボキシル基を有するカルボン酸、スルホン基を有するスルホン酸などの有機酸、塩酸、硝酸、硫酸などの一般的な無機酸などの酸を水溶液にしたものである。具体的には、酸性の液体とは、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、酪酸、プロピオン酸、グルクロン酸、酒石酸、乳酸、酢酸、蟻酸、パラトルエンスルホン酸あるいはアスパラギン酸やグルタミン酸などのアミノ酸、塩酸、硝酸、硫酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、燐酸、珪酸などである。
【実施例】
【0082】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0083】
顔料分散体の製造
顔料分散体は、ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン顔料:クラリアント製)を用いた。攪拌機、温度計、還流管、および滴下ロートをそなえた反応容器を窒素置換した後、ベンジルアクリレート75部、アクリル酸2部、t―ドデシルメルカプタン0.3部を入れて70℃に加熱し、別に用意したベンジルアクリレート150部、アクリル酸15部、ブチルアクリレート5部、t−ドデシルメルカプタン1部、メチルエチルケトン20部、および過硫酸ナトリウム1部を滴下ロートに入れて4時間かけて反応容器に滴下しながら分散ポリマーを重合反応させた。次に、反応容器にメチルエチルケトンを添加して40%濃度の分散ポリマー溶液を作製した。このポリマーの一部を取り乾燥させた後、示差操作型熱量計(セイコー電子製EXSTAR6000DSC)によりガラス転位温度を測定したところ40℃であった。
また、上記分散ポリマー溶液40部と、ピグメントブルー15:3を30部と、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100部と、メチルエチルケトン30部とを混合した。その後超高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製アルティマイザーHJP−25005)を用いて200MPaで15パスして分散した。その後、別の容器に移してイオン交換水を300部添加して、さらに1時間攪拌した。そして、ロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンの全量と水の一部とを留去して、0.1mol/Lの水酸化ナトリウムで中和してpH9に調整した。その後、0.3μmのメンブレンフィルターでろ過し、イオン交換水で調製して、顔料濃度が15%である顔料分散体を調製した。マイクロトラック粒度分布測定装置UPA250(日機装製)を用いてその粒径を測定したところ80nmであった。
【0084】
高分子微粒子の作製
反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過流酸カリ0.3部を添加しておき、イオン交換水7部にラウリル硫酸ナトリウムを0.05部、エチルアクリレート20部、ブチルアクリレート15部、ラウリルアクリレート6部、ブチルメタクリレート5部、およびt−ドデシルメルカプタン0.02部を入れたモノマー溶液を、70℃に滴下して反応させて1次物質を作製する。その1次物質に、過流酸アンモニウム10%溶液2部を添加して攪拌し、さらにイオン交換水30部、ラウリル硫酸カリ0.2部、エチルアクリレート30部、ブチルアクリレート25部、ラウリルアクリレート16部、アクリル酸5部、t−ドデシルメルカプタン0.5部よりなる反応液を70℃で攪拌しながら添加して重合反応させた後、水酸化ナトリウムで中和しpH8〜8.5にして0.3μmのフィルターでろ過した高分子微粒子水分散液を作成してエマルジョンA(EM−A)とした。この高分子微粒子水分散液の一部を取り乾燥させた後、示差操作型熱量計(セイコー電子製EXSTAR6000DSC)によりガラス転位温度を測定したところ−19℃であった。株式会社日立製作所製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、溶剤をTHFとして測定したときのスチレン換算分子量は180000であった。また、滴定法による酸価は18mgKOH/gであった。
【0085】
インクジェット記録用インクの調製
以下、インクジェット記録用インク組成物に好適な組成の例を表1に示す。本発明のインクジェット記録用インクの調製は、上記の方法で作製した顔料分散体を用い、表1に示すビヒクル成分と混合することによって作製した。尚、本発明の実施例および比較例中の残量の水にはインクの腐食防止のためトップサイド240(パーマケムアジア社製)を0.05%、インクジェットヘッド部材の腐食防止のためベンゾトリアゾールを0.02%、インク系中の金属イオンの影響を低減するためにEDTA(エチレンジアミン四酢酸)・2Na塩を0.04%それぞれイオン交換水に添加したものを用いた。なお、サーフィノール104は、日信化学製アセチレングリコール系界面活性剤であり、サーフィノール465は、日信化学製アセチレングリコール系界面活性剤である。
【0086】
前処理液Aの作製(カチオンポリマー)
ダンフィックス−5000(日東紡社製)(前処理液A−1)を用いて、布帛にインクジェットヘッドを用いて塗布した後、130℃で5分間乾燥させたものを、下記表1に示されたインク組成物を用いて印捺を行い、印捺物を得た(例1)。同様に、ダンフィックス−5000に代えて、ダンフィックス−7000(前処理液A−2)またはダンフィックス−PAA(前処理液A−3)(いずれも、日東紡社製)を用いて、布帛にインクジェットヘッドを用いて塗布した後、130℃で5分間乾燥させたものを、下記表1に示されたインク組成物を用いて印捺を行い、印捺物を得た(それぞれ、例2および例3)。
【0087】
前処理液Bの作製(多価金属塩)
前処理液B−1の組成
スルホン酸マグネシウム 15%
アクリルスチレンポリマー 5%
サーフィノール465 1%
グリセリン 15%
トリエチレングリコール 5%
水 残量
上記組成の水溶液を布帛にインクジェットヘッドを用いて塗布した後、130℃で5分間乾燥させたものを、下記表1に示されたインク組成物を用いて印捺を行い、印捺物を得た(例4)。
【0088】
前処理液B−2の組成
スルホン酸カルシウム 15%
アクリルスチレンポリマー 5%
サーフィノール465 1%
グリセリン 15%
トリエチレングリコール 5%
水 残量
また、上記と同様に、上記組成の水溶液を布帛にインクジェットヘッドを用いて塗布した後、130℃で5分間乾燥させたものを、下記表1に示されたインク組成物を用いて印捺を行い、印捺物を得た(例5)。
【0089】
【表1】

【0090】
一方、上記前処理を塗布せず、130℃で5分間乾燥させたものを、下記表1に示されたインク組成物を用いて印捺を行い、印捺物を得た(例6)。
【0091】
また、下記組成の後処理液を用いて後処理を行なった。後処理は規程の一般的方法であるパッディング法で行なった。
後処理液
アクリルスチレンポリマー 9%
サーフィノール465 1%
グリセリン 15%
トリエチレングリコール 5%
水 残量
上記例1〜例6に関して、後処理を施したものを各々例7〜例12とした。
【0092】
インクの定着性評価
上記例1〜12の印捺物を、全自動洗濯機NEC製NW-A50ZC型標準モード5回洗濯した。洗濯前後の濃度変化を目視で観察した。
評価A:印捺物のインク剥がれが無く良好な耐洗濯堅牢性を示した。
評価B:印捺物のインク剥がれがわずかに観察されたが、実使用上問題ないと判断された。
評価C:印捺物のインク剥がれがあり、実使用上問題があると判断された。
評価結果を下記の表2に示した。
【0093】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理液で処理された布帛に、顔料分散体と、高分子微粒子とを少なくとも含むインクジェット記録用インク組成物を付着させることにより画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記高分子微粒子のガラス転位温度が−10℃以下であり、かつ前記高分子微粒子の平均粒径が50〜300nmである、インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記前処理液が、多価金属塩、またはポリアリルアミンもしくはその誘導体を含んでなるものである、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記インクジェット記録用インクを付着させた布帛に、さらに後処理液で処理することを含んでなる、請求項1または2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記高分子微粒子が少なくともアルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートを含んでなり、前記アルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートが炭素数1〜24のアルキル(メタ)アクリレートおよび/または炭素数3〜24の環状アルキル(メタ)アクリレートである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記分散体の微粒子の平均粒径が50〜300nmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記分散体が自己分散顔料である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記分散体が、ポリマーを用いて水に分散可能としたものであり、前記ポリマーの平均粒径が50〜300nmであり、前記ポリマーのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるスチレン換算重量平均分子量が10,000〜200,000である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記高分子微粒子のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるスチレン換算重量平均分子量が100,000〜1,000,000である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
1、2−アルキレングリコールを更に含んでなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤を更に含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記高分子微粒子の含有量(重量%)が、前記顔料の含有量(重量%)よりも多い、請求項1〜10のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
インクジェット記録用インク組成物を用いて印捺された布帛を110〜200℃において1分間以上熱処理する工程を更に有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記熱処理の前に、酸性の液体により前記布帛を処理する工程を更に含む、請求項12に記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2011−31479(P2011−31479A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179797(P2009−179797)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】