説明

インクジェット記録用インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置

【課題】画像濃度が高く吐出安定性にも優れた低コストなインクジェット記録用インク、これを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置の提供。
【解決手段】(1)少なくとも着色剤A、着色剤B、界面活性剤、水溶性有機溶媒及び水を含有し、着色剤Aと着色剤Bの一方が顔料で他方が染料であり、着色剤Aと樹脂コートキャリアとの摩擦帯電性がマイナスで、着色剤Bと樹脂コートキャリアとの摩擦帯電性がプラスであるインクジェット記録用インク。
(2)着色剤Aが銅フタロシアニン系顔料であり、着色剤Bがアントラキノン系染料である(1)に記載のインクジェット記録用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インク、これを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクにおいて着色剤の選択及び分散は極めて重要である。着色剤には大きく分けて染料と顔料がある。それぞれ長所短所を有し、画像品質の目標やコストに応じて適宜使い分けられている。
しかし、今までの染料を用いたインクは、色が鮮やかでコストも安価であるが、着色力が不足したり、にじみ、ブリードといった画像品質に問題があり、また耐光性が悪く長期保存で画像の色が褪せてしまうという問題があった。
一方、顔料を用いたインクは、着色剤に堅牢性があるため、着色力、耐光性に優れるが、顔料を微分散する必要があり、着色剤の粒径や着色剤自身の特性から、インクジェットのノズル詰り、フィルター詰りが発生し、吐出不良による画像汚れ、かすれなどの異常画像が発生してしまう。また、顔料分散の製造工程が複雑であり、顔料そのもののコストも高く、インクが高価になるなどの問題があった。
これらの問題に対し、特許文献1には、シアン系染料の耐光性を改良する目的で、染料表面に特定の官能基を配位させた染料が開示されている。しかし、染料表面で特殊な反応をさせる必要があるため、加工に時間やコストがかかり、画質、耐光性、吐出安定性、コストを全て満足させることはできなかった。
また、特許文献2には、シアン系顔料の色調を改善する目的で、分散粒径を規定した顔料が開示されている。しかし、顔料の粒径は色再現のためには十分であるが、吐出安定性を得るには大きすぎ、画質、耐光性、吐出安定性、コストを全て満足させることはできなかった。
【0003】
また、従来の一般的な銅フタロシアニン系顔料を着色剤に用いると、着色力があり耐光性に優れたシアンインクが得られるが、色再現性が不十分であるし、顔料粒子に起因する吐出安定性に問題がある。また、経時的に粒子の再凝集やノズル面及びヘッドへの固着等が発生し、かすれ、抜けなどの異常画像が発生してしまう。更に、経時的にヘッド内にあるゴミなどの異物除去用のフィルターに顔料粒子が堆積していく現象があるが、これが銅フタロシアニン系顔料に顕著に見られる。
一方、シアン系染料を用いれば、顔料の様な粒径分布は持たないので、物理的にフィルターの目詰まりを起すようなことはない。しかし、染料ゆえの発色性の鮮やかさはあるものの、着色力、耐光性は不十分であり、またノズルやヘッドへの固着(染着)は顔料に比べて激しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、画像濃度が高く吐出安定性にも優れた低コストなインクジェット記録用インク、これを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、次の1)〜5)の発明によって解決される。
1) 少なくとも着色剤A、着色剤B、界面活性剤、水溶性有機溶媒及び水を含有し、着色剤Aと着色剤Bの一方が顔料で他方が染料であり、着色剤Aと樹脂コートキャリアとの摩擦帯電性がマイナスで、着色剤Bと樹脂コートキャリアとの摩擦帯電性がプラスであることを特徴とするインクジェット記録用インク。
2) 着色剤Aが銅フタロシアニン系顔料であり、着色剤Bがアントラキノン系染料であることを特徴とする1)に記載のインクジェット記録用インク。
3) 1)又は2)に記載のインクジェット記録用インクに刺激を印加する印加工程、該インクを飛翔させて画像を形成するインク飛翔工程を少なくとも含むことを特徴とするインクジェット記録方法。
4) 1)又は2)に記載のインクジェット記録用インクを容器中に収容したことを特徴とするインクカートリッジ。
5) インクジェット記録用インクに刺激を印加する印加手段、インクジェットヘッドから該インクジェット記録用インクを飛翔させて画像を形成するインク飛翔手段を少なくとも有するインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドのノズルプレート面がシリコーン樹脂又はニッケルを含有する撥インク層を有し、4)に記載のインクカートリッジを搭載したことを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、画像濃度が高く吐出安定性にも優れた低コストなインクジェット記録用インク、これを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置を提供できる。特にシアンインクに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、上記本発明について詳しく説明する。なお、インクジェット記録用インクを適宜インクと略称する。
<着色剤>
銅フタロシアニン系顔料は銅金属を中心に配位した錯体構造を有し、マイナスに帯電しやすく、摩擦や電荷注入などにより、マイナス電荷を蓄積していく。このため前記フィルターをインクが通過する際、フィルターとの摩擦で徐々にマイナス電荷が発生、フィルター上にチャージアップした顔料粒子が溜まっていくと推測される。
そこで検討した結果、本発明者らは、前述した銅フタロシアニン系顔料を用いた場合の諸々の現象は、顔料粒子の粒径に起因するのみならず、顔料の静電的な特性に起因することを突き止めた。
そして、銅フタロシアニン系顔料のマイナス電荷を打ち消すと共に、顔料と染料のそれぞれの問題点を同時に解決できる手段として、樹脂コートキャリアとの摩擦帯電性がマイナスである銅フタロシアニン系顔料と、樹脂コートキャリアとの摩擦帯電性がプラスである染料とを組み合わせて用いれば、前述した諸々の問題を解決できることを見出した。
このように摩擦帯電性が反対の顔料と染料を組み合わせることにより、顔料が持つマイナスの電荷蓄積が染料の持つプラスの電荷蓄積により打ち消されて電気的に中和された状態になり、電荷蓄積によるフィルター詰りが解消される。また顔料の持つ着色力に染料が持つ色調、鮮やかさが加わる一方で、染料の持つ褪色性は顔料により隠蔽される。顔料と染料の単なる組み合わせは公知であるが、電荷に着目したことにより電荷に起因する問題を解決できると同時に、他の問題も解決できる。
また、本発明の問題解決の原理から分かるように、顔料と染料の摩擦帯電性のプラス、マイナスが入れ替わっても同様の効果を奏する。
樹脂コートキャリアとの摩擦帯電性がマイナスである着色剤を「着色剤A」、プラスである着色剤を「着色剤B」として、両者の混合比は8:2〜2:8が好ましい。この範囲であれば、静電的に中和する能力が十分に発揮される。
【0009】
<着色剤A>
マイナス帯電性を示す着色剤Aの例としては、銅フタロシアニン系顔料が挙げられる。
銅フタロシアニン系顔料は、銅原子の周りに4個のフタル酸イミドが窒素原子で架橋されたイソインドール構造を有する多環芳香族化合物であり、芳香環にはハロゲン原子等で置換可能な計16個の水素原子を有している。水素原子のままの構造を無置換銅フタロシアニン顔料と呼ぶが、その結晶形態からα型銅フタロシアニン顔料、β型銅フタロシアニン顔料、ε型銅フタロシアニン顔料などに分類される。
本発明で用いることができる銅フタロシアニン系顔料には特に制限はなく、例えばC.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:6等が挙げられる。中でも、着色力、彩度、コストなどの点から、C.I.ピグメントブルー15:3、及びC.I.ピグメントブルー15:4が望ましい。
また、ナフトール誘導体とアミノフェノール誘導体のカップリング反応による含金属アゾ染料(モノアゾ染料の1:2型金属錯塩化合物)は、ニトロ基やハロゲン原子を官能基として持ち、特に下記〔化1〕に示すような中心にクロム原子を持つものは極めて安定なマイナス帯電性を示す。
【化1】

【0010】
<着色剤B>
プラス帯電性を示す着色剤Bの例としては、アントラキノン系染料が挙げられる。
本発明で用いることができるアントラキノン系染料には特に制限はなく、具体例としてはC.I.アシッドブルー25、C.I.アシッドブルー49、C.I.アシッドブルー129、C.I.ソルベントブルー35、C.I.ソルベントブルー68、C.I.ソルベントブルー132、C.I.ソルベントブルー111等が挙げられる。中でも、彩度、極性の点から、C.I.ソルベントブルー35、及びC.I.ソルベントブルー111が望ましい。
また、下記〔化2〕に示すニグロシン系染料(C.I.Solvent Black 5)は、ニトロベンゼンとアニリン、アニリン塩酸塩を加熱縮合したものであり、骨格にアミノ基を持つことから極めて安定したプラス帯電性を示す。
【化2】

【0011】
また、キサンテン系染料(C.I.Solvent Red 49)は鮮やかなマゼンタを呈するとともに、強いプラス帯電性を示す。
また、染料のレーキ顔料であるモリブデン酸キレート顔料(C.I.Pigment Red 81)は赤色を呈し強いプラス帯電性を示す。
また、下記〔化3〕に一例を示すようなアゾ基を有する有機顔料はプラス帯電性を示す場合が多い。
【化3】

【0012】
<摩擦帯電性の測定>
顔料の摩擦帯電性の測定は、乾式トナーで一般的に行われている摩擦帯電量の測定方法でよい。キャリアは平均粒径が30〜100μmのフェライト、マグネタイト、鉄粉などの金属芯材に、シリコーン樹脂などをコートしたものを用いる。
顔料としては予め目開き250μmのメッシュを通して整粒したものを用いるとよい。整粒された顔料と樹脂コートキャリアを、例えば重量比で5:95に混合し、マグロールミルにより1500Gの磁力下、250rpmで10分間攪拌する。その後、ブローオフ装置を用いて帯電量を測定し、極性(プラス帯電性かマイナス帯電性)を判断する。
【0013】
<水系分散体>
本発明のインクでは水溶性染料以外は水系分散体として用いる。染料と顔料は構造が異なり摩擦帯電性も異なるため、両者を混合して分散させることはできない。また、顔料は非水溶性であるから分散体として用いる必要がある。分散方法は公知の方法で良く、例えば分散剤を溶解した水溶液に着色剤を投入して攪拌混合すればよい。
顔料分散剤としては、HLB値10〜20のノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤のいずれかが好ましい。
前記HLB値10〜20のノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、アセチレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン−β−ナフチルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンスチレンフェニルエーテルが特に好ましい。
【0014】
前記HLB値10〜20のアニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアリールエーテルスルホン酸NH塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えばNH塩,Na塩,Ca塩等)、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩(例えばNH塩,Na塩,Ca塩等)、ジアルキルサクシネートスルホン酸Na塩、ジアルキルスルホコハク酸Na塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物Na塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(例えばNH塩、Na塩等)、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、オレイン酸塩などが挙げられる。特に、ジオクチルスルホコハク酸Na塩、ポリオキシエチレンスチレンフェニルエーテルスルホン酸NH塩が特に好ましい。
【0015】
<インクの作製>
本発明のインクは公知の方法で作製することができる。例えば着色剤分散体、界面活性剤、水溶性有機溶剤、及び水等を攪拌混合し、フィルター、遠心分離装置等で粗大粒子をろ過し、必要に応じて脱気することによって作製できる。
【0016】
<界面活性剤>
前記界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤などから選択される少なくとも1種を用いる。中でもシリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤が特に好ましい。これらの界面活性剤は、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物などが挙げられる。
界面活性剤のインクにおける含有量は、0.01〜3.0質量%が好ましく、0.5〜2.0質量%がより好ましい。含有量が0.01質量%未満であると、界面活性剤を添加した効果が無くなることがあり、3.0質量%を超えると、記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けが発生することがある。
【0017】
<水溶性有機溶剤>
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ぺンタンジオール、1,6−へキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−へキサントリオール、ぺトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノべンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらの水溶性有機溶剤は、湿潤剤を兼ねることもある。
水溶性有機溶剤の含有量は、インク全量の50重量%以下、好ましくは5〜40重量%、更に好ましくは10〜35重量である。
【0018】
<その他の成分>
本発明のインクには、必要に応じて、その他の成分として浸透剤、樹脂エマルション、pH調製剤、防腐防黴剤、キレート試薬、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、酸素吸収剤、光安定化剤などを添加することができる。
【0019】
前記浸透剤としては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオールなどの脂肪族ジオール、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類、エタノール等の低級アルコール類などが挙げられる。
これらの中でも、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールが好ましい。
浸透剤のインク中の含有量は、0.1〜4.0重量%が好ましい。含有量が0.1重量%以上であれば、速乾性が得られるので画像が滲むことはなく、4.0重量%以下であれば、色材の分散安定性を損わず、ノズルの目詰まりを起こすこともなく、また記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり画像濃度の低下や裏抜けが発生するようなこともない。
【0020】
前記樹脂エマルジョンとしては、ポリウレタン系、スチレンアクリル系、アクリルシリコン系から選ばれた少なくとも1種類であることが好ましい。特に水系顔料分散体には、ポリウレタン系樹脂エマルションが紙への定着性等の点でより好ましい。
樹脂エマルションは、インクの調製原料として使用する際、又はインク調製後において、O/W型のエマルションとして存在するものである。ポリウレタン系樹脂のエマルションには、比較的親水性の通常のポリウレタン系樹脂を乳化剤を使用してエマルション化したものと、樹脂自体に乳化剤の働きをする官能基を共重合等の手段で導入した自己乳化型樹脂のエマルションがある。いずれも使用可能であるが、インクの成分の組み合わせによって、顔料及びエマルション粒子の分散安定性に若干の差があるので注意を要する。
顔料や分散剤との各種組み合わせにおいて、常に分散安定性に優れているのはアニオン型自己乳化型ポリウレタンのエマルションである。その際、顔料の固着性・分散安定性の面でポリウレタン系樹脂はポリエステル型よりポリカーボネート型の方が好ましく、更にポリエステル型、ポリカーボネート型よりエーテル型の方が好ましい。理由は定かではないが、非エーテル型は耐溶剤性に弱いものが多く、インクの高温保存時に粘度が凝集しやすい。また、理由は定かではないが、水系顔料分散体及び水系顔料インクに前記樹脂エマルションを添加し、加熱処理をすることで、処理時間短縮が可能である。
【0021】
前記pH調製剤としては、調合されるインクジェット用インクに悪影響を及ぼさずにpHを7〜11に調製できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アルコールアミン類、アルカリ金属元素の水酸化物、アンモニウムの水酸化物、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、などが挙げられる。
pHが7未満又は11を超えるとインクジェットヘッドやインク供給ユニットを溶かし出す量が大きく、インクの変質や漏洩、吐出不良などの不具合が生じることがある。
前記アルコールアミン類としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
前記アルカリ金属元素の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
前記アンモニウムの水酸化物としては、例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物などが挙げられる。
前記ホスホニウム水酸化物としては、例えば、第4級ホスホニウム水酸化物が挙げられる。
前記アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
【0022】
前記防腐防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、等が挙げられる。
前記キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
前記防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
前記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、などが挙げられる。
【0023】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
前記消泡剤としては、ポリオール系の消泡剤、シリコーン系の消泡剤などが挙げられる。ポリオール系の消泡剤はその構造中にアルキレンオキサイド基を含有するが、特にエチレンオキサイド基を多く持つものは水への分散安定性に優れ、液中の抑泡効果に優れる。シリコーン系の消泡剤は破泡効果に優れるものが多く、種類としてはオイル型、コンパウンド型、自己乳化型、エマルジョン型などがあるが、水系での使用を考慮すると、自己乳化型、もしくはエマルジョン型を用いることが、信頼性を確保する上で望ましい。また、アミノ変性、カルビノール変性、メタクリル変性、ポリエーテル変性、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、アルキレンオキサイド変性、等の変性シリコーン系消泡剤を使用しても良い。
【0024】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、本発明のインクジェット記録用インクを容器中に収容したものである。容器には特に制限はなく目的に応じてその形状、構造、大きさ、材質等を適宜選択することができ、例えば、アルミニウムラミネートフィルム、樹脂フィルム等で形成されたインク袋などを有するもの、プラスチックケースなどが好適に挙げられる。
【0025】
<インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録装置は、本発明のインクジェット記録用インクを吐出させて画像を形成する吐出手段を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
印字(吐出)する方法としては、連続噴射型やオンデマンド型が挙げられる。またオンデマンド型としては、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式等が挙げられる。
ここで、本発明のインクカートリッジ及びインクジェット記録装置について、図1を参照して説明する。
図1において、本発明のインクジェット記録用インクが収容されるインクカートリッジ20は、キャリッジ18内に収納される。ここで、インクカートリッジ20は便宜上複数設けられているが、複数である必要はない。このような状態でインクジェット記録用インクが、インクカートリッジ20からキャリッジ18に搭載された液滴吐出ヘッド18aに供給される。なお、図1において、吐出ノズル面は下方向を向いた状態であるため見えない状態であるが、この吐出ノズルからインクジェット記録用インクが吐出される。
キャリッジ18に搭載された液滴吐出ヘッド18aは、主走査モータ26で駆動される
タイミングベルト23によって、ガイドシャフト21、22にガイドされて移動する。
一方、特定のコート紙(画像支持体)はプラテン19によって液滴吐出ヘッド18aと
対面する位置に置かれる。なお、図1中、1はインクジェット記録装置、2は本体筐体、
16はギア機構、17は副走査モータ、24は主走査モータ、25、27はギア機構をそれぞれ示す。
また、インクジェットヘッドのノズルプレート面のシリコーン樹脂又はニッケルを含有する撥インク層は、公知技術を転用して適宜設けることができる。
【0026】
本発明のインクジェット記録用インク又はインクカートリッジを収容したインクジェット記録装置を用いて画像支持体上に画像を形成すると、オンデマンドで画像支持体上に印刷された画像形成体が得られる。また、インクジェット記録用インクの補充はインクカートリッジ単位で取り替えることが可能である。
前記画像支持体としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例え
ば、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシートなどが挙げられる。これらの
中でも、紙が特に好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0028】
<着色剤の作製>
下記表1に示す着色剤を目開き250メッシュの篩で整粒した。
次いで、キャリアは平均粒径50μmのフェライト芯材にシリコーン樹脂をスプレーコートした樹脂コートキャリアを用い、マグロールミルで、整粒した着色剤:樹脂コートキャリアを5:95(重量部)になるように混合し、1500rpm、10分間の攪拌を行った。攪拌後ブローオフ装置で帯電量を測定し極性を判定した。結果を表1に示す。
【表1】

【0029】
上記着色剤a、cの構造は〔化4〕〔化5〕に示すとおりであり、着色剤bはアントラキノン系の色素である。
【化4】

【化5】

【0030】
実施例1〜3、比較例1〜2
下記表2に示す割合で、着色剤a、b、cと分散剤及び蒸留水を混合して、水系分散体1〜3を作製した。分散剤には、ポリオキシエチレン−β−ナフチルエーテル(竹本油脂社製:RT−100)を用いた。
【表2】

上記分散体1〜3を用いて、下記表3に示す処方で実施例及び比較例の各インクを調合した。
【0031】
これらのインクについて、図1に示すプリンターを用いて印字評価を行った。その結果を表3に示す。
【表3】

【0032】
表3の結果から判るように、実施例では経時でも画像は安定しており、高濃度画像が保持された。これに対し、比較例では経時で濃度低下が発生した。またヘッド内のフィルターの目詰まりが発生した。
【符号の説明】
【0033】
1 インクジェット記録装置
2 本体筐体
16 ギア機構
17 副走査モータ
18 キャリッジ
18a 液滴吐出ヘッド
19 プラテン
20 インクカートリッジ
21 ガイドシャフト
22 ガイドシャフト
23 タイミングベルト
24 主走査モータ
25 ギア機構
26 主走査モータ
27 ギア機構
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】特開2008−297526号公報
【特許文献2】特開2008−38074号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも着色剤A、着色剤B、界面活性剤、水溶性有機溶剤及び水を含有し、着色剤Aと着色剤Bの一方が顔料で他方が染料であり、着色剤Aと樹脂コートキャリアとの摩擦帯電性がマイナスで、着色剤Bと樹脂コートキャリアとの摩擦帯電性がプラスであることを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項2】
着色剤Aが銅フタロシアニン系顔料であり、着色剤Bがアントラキノン系染料であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インクに刺激を印加する印加工程、該インクを飛翔させて画像を形成するインク飛翔工程を少なくとも含むことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インクを容器中に収容したことを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項5】
インクジェット記録用インクに刺激を印加する印加手段、インクジェットヘッドから該インクジェット記録用インクを飛翔させて画像を形成するインク飛翔手段を少なくとも有するインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドのノズルプレート面がシリコーン樹脂又はニッケルを含有する撥インク層を有し、請求項4に記載のインクカートリッジを搭載したことを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−201717(P2012−201717A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65260(P2011−65260)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】