説明

インクジェット記録用インク、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置

【課題】顔料インクと加熱機構を組み合わせた構成でありながら高い信頼性を確保するよ
うな、インクジェット記録用インクを提供し、さらにそのインクを用いたインクジェット
記録方法及びインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】顔料系微粒子からなる着色剤と、湿潤剤と、界面活性剤と、浸透剤と、水分とを有するインクジェット記録用インクにおいて、前記インクジェット記録用インクの水分蒸発率、水分蒸発に伴う粘度上昇率を次の式で表すとき、
水分蒸発率(%)=((初期重量−水分蒸発後の重量)/初期重量))×100
粘度上昇率=水分蒸発後の粘度/初期粘度
水分蒸発率30%までは粘度上昇率が10以下であり、水分蒸発率30〜50%の間に粘度上昇率が500を越える点を持ち、水分蒸発率30%までのインク中の着色剤の平均粒子径が、初期平均粒子径の2倍以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録用インク、そのインクを使用した記録方法及び記録装置に関する。詳細には、加熱機構を持つインクジェット記録装置で使用しても吐出安定性が良好なインクであり、かつ普通紙に対する画像品質・高速印字対応に優れ、保存安定性が良好なインク、そのインクを使用した記録方法及び記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像形成装置として、インクジェット記録装置が知られている。インクジェット記録装置は、記録ヘッドから紙などの被記録体にインクを吐出して記録を行うものであり、高精細な画像を高速で記録することができ、ランニングコストが安く、騒音が少なく、しかも、多色のインクを使用してカラー画像を記録するのが容易であるなどの利点を有している。
【0003】
このようなインクジェット記録に用いられるインクとしては、水を主成分とし、これに着色剤及び目詰まり防止等の目的でグリセリン等の湿潤剤、記録紙への浸透性を制御する浸透剤、その他添加剤を含有したものが一般的である。
【0004】
一般的に水系インクを用いたインクジェット記録は液体インクが記録体へ浸透することで定着するため、吸収特性の向上、着色成分の紙面への定着、着色成分の保護機能を持つインクジェット専用紙が開発されている。しかしインクジェット専用紙は抄紙後の多段の塗布工程が経るためコストが高く、加工薬剤を多く使用しているため普通紙に比べリサイクル性も劣っている。そのため普通紙上で充分な画質を得ることが望まれている。
【0005】
普通紙はインクジェット専用紙に比べインク吸収性が劣り、専用紙のようにインク性能を補助しないため次のような問題が発生する。
(1)フェザリングの発生、
(2)ブリーディングの発生、
(3)濃度の低下、
(4)発色性の低下、
(5)耐水性の低下、
(6)耐光性の低下、
(7)耐ガス性の低下、
(8)定着性の低下、
(9)コックリング・カールの発生、
(10)インクの裏抜けの発生
これらの問題点を解決することが普通紙に対するインクジェット記録にとって重要課題となっている。
【0006】
近年、顔料の分散性の改良や粒径の微小化が行われたため、インクジェットインクに使用されるケースが多くなってきている。カーボンブラック等の顔料を用いることで上記問題(5)〜(7)を改善できるが、染料に比べて濃度や発色性が劣っており、また吐出安定性、長期保存性、再分散性などの信頼性の面でも劣っている。そのため着色剤として顔料を用いる場合、インクの信頼性を向上させることが課題となっている。
【0007】
これら問題に対処するため、着色されたポリマー粒子、特にポリエステル系又なビニル系ポリマー粒子のエマルジョンを用いたインクジェット記録用インクが多数報告されている(例えば、特許文献1〜30参照。)。これらには着色剤を水に不溶で分散性の樹脂に内包した着色剤内包樹脂分散体を含有するインクが包含される。また、着色剤としてカラー有機顔料を用いた場合、従来公知のインク処方では普通紙上での画像濃度、色再現性は水溶性分散剤を用いた顔料インクよりも優れるものの染料インクに比べていまだ劣るものであった。
【0008】
上記以外でもインクジェットインクは信頼性向上と画質向上を兼ね備える方向の検討が行われている。多くのインクジェットインクがヘッドのノズル詰まりを防ぐように、粘度の上昇を極力押さえる方向で設計されている。
例えば、インクの2倍濃縮時の粘度変化を10倍以内、かつ粒径変化を3倍以内にすることにより、顔料の凝集がインクの広がりを抑制することを防ぎ、白抜けを防止できるとしている(例えば、特許文献31参照。)。しかし、このインクでは普通紙上で高画質を形成することは難しい。またインク中の揮発成分蒸発した後の残留分が液体であり、かつその粘度が初期粘度の10倍以内であるインクが開示されている(例えば、特許文献32参照。)が、このインクは染料インクであり、信頼性は高いものの、やはり普通紙での画質が劣るものである。60℃環境下での水分蒸発させたときの、インク粘度が蒸発前の粘度の600倍以下であるインクが開示されている(例えば、特許文献33参照。)。しかし、これもやはり染料インクであり、水溶性高分子を添加することで、インクの信頼性と画像品質の耐久性とのバランスをとっているが、耐水性に問題が残る。また、粘度の高いインク(5〜15mPa・s)が高画質を確保するためには必要であるとの提示がある(例えば、特許文献34参照。)。これによれば、信頼性確保のために初期の蒸発速度を調整し、かつ粘度を調整するための粘度調整剤として特定の化合物を添加すると良いとしている。顔料を用いたときの上記問題(3)、(4)に対する解決方法ともいえるが、この場合、用いる顔料の粒径の安定性についてはなんら記載がなく、24時間放置後の信頼性があるとしているが、吐出させるヘッドの構成とノズル径の大きさによっては更に長期放置された場合など、信頼性に劣るインク処方となる。これらのように、高速で高品位な印字品質を確保するためには高粘度の高いインクを使用する必要があるが、粘度の高いインクは信頼性を確保するのが難しく、使いこなせていないのが現状である。
【0009】
また画質を向上させる方法として、インク付着量を下げずに、より速く乾燥速度を上げることで、普通紙に対する上記(1),(2),(8)〜(10)の問題を解決する方法が試みられている。乾燥速度を上げる方法としては、(a)インクに揮発成分を添加させる、(b)プリンタに乾燥機構を持たせる、と2種類の方法が考えられる。
(a)の場合、容易に乾燥性を上げることが出来るが、ヘッドのインクノズル部のメニスカスも乾燥しやすくなってしまい粘度上昇を引き起こし、安定吐出に悪影響を及ぼしてしまう。また揮発成分は有機化合物であるため印写環境も悪化させてしまい、水系インクを用いている利点が失われてしまう。顔料を用いたオンデマンドインクジェットシステムでは、信頼性の面から問題点が多い。
(b)の場合、ヒータなどを装置に組みこむことで実現可能であるが、装置が複雑になってしまう欠点を持っている。それでもプラテンを加熱し熱伝導させ被記録体を加熱する方法(例えば、特許文献35〜39参照。)や、赤外線を用いる方法(例えば、特許文献40参照。)、加熱ローラーを用いた定着装置を用意する方法(例えば、特許文献41,42参照。)など検討されている。しかしプラテンを用いるものは被記録体との熱伝導性が均一にならないこと、赤外線を用いたものでは多大な電力が必要なこと、定着装置は大掛かりになることが問題視されている。また印字前後に加熱を行うことは、廃熱や輻射熱によって被記録体のみならずヘッド面に熱をかけることとなる。ヘッド面に対して熱がかかることはメニスカスの乾燥を促すこととなり、吐出安定性を低下させる。ヘッド面を熱反射面とすることで熱に対する影響を抑える検討がなされている(例えば、特許文献43参照。)が、インクの記載がなされておらず、それだけで信頼性が充分とは言い難い。
【0010】
このような水系インクを使用しつつ熱定着機構を有するインクジェットプリンタは、機構も複雑で信頼性に問題点を抱えているが、高速印字や両面印字時の画質向上などの利点を得るために複数上市されている。しかし熱定着機構を有した全色顔料化インクのオンデマンドインクジェットプリンタは、未だ信頼性に課題が多く、実用化が遅れている。
【0011】
【特許文献1】特開2000−191972号公報
【特許文献2】特開2000−191968号公報
【特許文献3】特開2000−191967号公報
【特許文献4】特開2000−53900号公報
【特許文献5】特開2000−53899号公報
【特許文献6】特開2000−53898号公報
【特許文献7】特開2000−53897号公報
【特許文献8】特開2000−44852号公報
【特許文献9】特開2000−26775号公報
【特許文献10】特開2000−7963号公報
【特許文献11】特開2000−7962号公報
【特許文献12】特開平9−241565号公報
【特許文献13】特開平9−217030号公報
【特許文献14】特開平9−183932号公報
【特許文献15】特開平9−183931号公報
【特許文献16】特開平9−286939号公報
【特許文献17】特開平9−157565号公報
【特許文献18】特開平10−46082号公報
【特許文献19】特開平10−46092号公報
【特許文献20】特開平10−60327号公報
【特許文献21】特開平10−273610号公報
【特許文献22】特開平10−279851号公報
【特許文献23】特開平10−298462号公報
【特許文献24】特開平10−298467号公報
【特許文献25】特開平11−217528号公報
【特許文献26】特開平10−338829号公報
【特許文献27】特開平10−316918号公報
【特許文献28】特開平11−256083号公報
【特許文献29】特開平11−323226号公報
【特許文献30】特許第3065950号公報
【特許文献31】特開2002−337449号公報
【特許文献32】特開2000−095983号公報
【特許文献33】特開平9−111166号公報
【特許文献34】特開2001−262025号公報
【特許文献35】特開昭55−69464号公報
【特許文献36】特開昭55−84670号公報
【特許文献37】特開昭58−72460号公報
【特許文献38】特開昭62−130863号公報
【特許文献39】特開昭62−130864号公報
【特許文献40】特開昭57−120447号公報
【特許文献41】特開平3−169644号公報
【特許文献42】特開平6−184478号公報
【特許文献43】特開平11−123828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような熱定着の過程を経ることで、上記(1),(2),(8)〜(10)の問題解決に繋がるが、信頼性に不安を残す。上記のように高粘度顔料インクを併用することは普通紙に対する(3)〜(7)の問題解消に繋がるが、染料使用時以上の吐出安定性を低下させプリンタとしての信頼性を著しく低下させる。そこで、本発明は顔料インクと加熱機構を組み合わせた構成でありながら高い信頼性を確保するような、インクジェット記録用インクを提供し、さらにそのインクを用いたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために提供する請求項1のインクジェット記録用インクは、顔料系微粒子からなる着色剤と、湿潤剤と、界面活性剤と、浸透剤と、水分とを有するインクジェット記録用インクにおいて、前記インクジェット記録用インクの水分蒸発率、水分蒸発に伴う粘度上昇率を次の式で表すとき、
水分蒸発率(%)=((初期重量−水分蒸発後の重量)/初期重量)×100
粘度上昇率=水分蒸発後の粘度/初期粘度
水分蒸発率30%までは粘度上昇率が10以下であり、水分蒸発率30〜50%の間に粘度上昇率が500を越える点を持ち、水分蒸発率30%までのインク中の着色剤の平均粒子径が、初期平均粒子径の2倍以下であることを特徴とする。
【0014】
前記課題を解決するために提供する請求項2のインクジェット記録用インクは、請求項1の発明において、前記着色剤は、表面に少なくとも1種の親水基が直接もしくは他の原子団を介して結合して分散剤なしに水に分散可能となった顔料微粒子、および/または顔料を含有し、ポリマーエマルジョンを形成するポリマー微粒子からなることを特徴とする。
【0015】
前記課題を解決するために提供する請求項3のインクジェット記録用インクは、請求項1または2の発明において、前記着色剤を0.5〜15wt%、湿潤剤を10〜50wt%、界面活性剤を0.01〜5wt%、浸透剤を0.1〜5wt%含有することを特徴とする。
【0016】
前記課題を解決するために提供する請求項4のインクジェット記録用インクは、請求項1〜3の発明において、前記湿潤剤は、温度20℃、相対湿度60%環境中の平衡水分量が25wt%以上である多価アルコール2種以上からなることを特徴とする。
【0017】
前記課題を解決するために提供する請求項5のインクジェット記録用インクは、請求項4の発明において、前記多価アルコールの一つがグリセリンであり、該グリセリンの含有量が湿潤剤全体の50wt%以下であることを特徴とする。
【0018】
前記課題を解決するために提供する請求項6のインクジェット記録方法は、請求項1〜5のいずれか一に記載のインクジェット記録用インクをノズルから吐出させ、該インクを被記録体の印字領域または非印字領域に付着させて記録するインクジェット記録方法であって、前記ノズル近傍での水分蒸発率が30%を超える前に、該ノズルから前記インクジェット記録用インクを吐出させることを特徴とする。
【0019】
前記課題を解決するために提供する請求項7のインクジェット記録方法は、請求項6の発明において、前記インクジェット記録用インクを被記録体に付着させた後、該被記録体を加熱すること、前記被記録体を加熱した後、前記インクジェット記録用インクを該被記録体に付着させること、前記被記録体を加熱しつつ、前記インクジェット記録用インクを該被記録体に付着させること、のいずれか1つ、またはいずれか2つ以上を併用して記録することを特徴とする。
【0020】
前記課題を解決するために提供する請求項8のインクジェット記録装置は、インクを被記録体へ吐出するノズルを有する記録ヘッドと、被記録体を加熱する加熱機構とを備えるインクジェット記録装置において、請求項6または7に記載のインクジェット記録方法により被記録体への記録をおこなうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、水に分散する着色剤、湿潤剤、界面活性剤、浸透剤、水分からなるインクジェット記録用インクにおいて、水分蒸発率30〜50%の間に急激に増粘する(粘度上昇率が500を越える)ようにインクを処方することで、加熱機構を備えたインクジェット記録装置において低熱量で画質向上を得ることが出来る。また水分蒸発率30%未満の粘度上昇率を10以下にし、平均粒径の変化を小さく押さえられるようにインクを設計することで、短期および長期の信頼性が確保される。
また本発明のインクジェット記録用インク、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置を用いることで、低熱量の加熱機構で高品位な画像形成が可能となるため、輻射熱によるヘッド、インクへの熱による信頼性低下を抑制することが可能となる。低熱量であることからエネルギー消費量も少なくでき、環境にも優しく、加熱機構のウォームアップ時間の短縮効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(インクジェット記録用インク)
以下に、本発明に係るインクジェット記録用インクの実施の形態について説明する。
上記目的を達成するための発明は、被記録体を加熱する加熱機構を備えたインクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録用インクであって、該インクは水に分散する顔料系微粒子からなる着色剤、湿潤剤、界面活性剤、浸透剤、水分とを含有し、水分蒸発率、水分蒸発に伴う粘度上昇率が、次の式で表すとき、
水分蒸発率(%)=((初期重量−水分蒸発後の重量)/初期重量)×100
粘度上昇率=水分蒸発後の粘度/初期粘度
水分蒸発率30%までは粘度上昇率が10以下であり、かつ、水分蒸発率30〜50%の間に粘度上昇率が500を越える点を持ち、更に水分蒸発率30%までのインク中の着色剤の平均粒子径が、初期平均粒子径の2倍以下となることを特徴とするインクジェット記録用インクを提供するものである。
そして本発明において、水分蒸発率30%までの粘度上昇率は好ましくは8以下で、より好ましくは5以下である。
水分蒸発率30〜50%の間に粘度上昇率は好ましくは1000を超える点を持ち、より好ましくは2000を超える点を持つものである。
更に水分蒸発率30%までのインク中の着色剤の平均粒子径が、好ましくは初期平均粒子径の1.8倍以下、より好ましくは1.5倍以下となるものである。
なお、初期重量とは、インクジェット記録用インクの水分蒸発率、水分蒸発に伴う粘度上昇率を測定する実験を行う際に、インクジェット記録用インクをインク乾燥用容器に入れた直後の重量のことであり、また初期粘度とは、上記実験に用いる乾燥前のインクジェットインクの粘度のことである。
また、本発明において評価に用いるインクは、3ヶ月間の水分蒸発が1%未満となる密閉容器に保存されており、粘度や粒径の一週間の変化率が−5%〜5%に収まる状態にあるものである。好ましくは製造後3ヶ月以内であるものである。
【0023】
また本発明においてはインクの水分蒸発に対する粘度の上昇率が乾燥速度に大きく貢献している。水分蒸発率50%以下で粘度上昇率が500を越える点を持つように構成されるインクの場合、そのような物性を示さないインクに比べ乾燥状態になるための水分蒸発量が少ないため、低い加熱で充分に乾燥状態にすることが出来る。このような物性を示すインクであっても、水分蒸発率30%までは粘度上昇率10以下であり、かつ水分蒸発率30%までのインク中の着色剤の平均粒子径が、初期平均粒子径の2倍以下となるように処方されていることで、インク吐出に対する信頼性を確保することが可能となる。その結果、顔料を用いたインク構成にも関わらず、加熱機構と組み合わせても充分な信頼性と画質の両者を得ることが出来る。
【0024】
なお、ここでいう平均粒径とは、体積累積パーセント50%の値をさす。体積累積パーセント50%の値を測定するには、例えば、インク中のブラウン運動を行っている粒子にレーザー光を照射し、粒子から戻ってくる光(後方散乱光)の振動数(光の周波数)の変化量から粒子径を求める動的光散乱法(ドップラー散乱光解析)といわれる方法を用いることができる。
【0025】
上記の望ましい物性を示すためには、着色剤としてその表面に少なくとも1種の親水基が直接もしくは他の原子団を介して結合するような処理がなされたことにより、分散剤なしに水に分散可能となった顔料微粒子か、ポリマー微粒子に水不溶性または難溶性の色材を含有させてなるポリマーエマルジョンを使用する必要がある。これら以外の着色剤、例えば界面活性剤のみを用いて分散を行った顔料、水溶性樹脂のみを使用して分散を行った顔料を使用した場合、水分蒸発による平均粒径増加が健著であり、吐出信頼性を損なう畏れがある。
【0026】
また水分蒸発速度を緩めることは吐出信頼性を向上させるため、湿潤剤を10〜50wt%含有し、使用される湿潤剤は、温度20℃相対湿度60%環境中の平衡水分量が25wt%以上である多価アルコールを少なくとも2種以上含有することが望ましい。より好ましくは平衡水分量が30wt%以上で、特に好ましくは平衡水分量が35wt%以上の場合である。
この多価アルコールの一つがグリセリンであり、かつグリセリンの含有量が湿潤剤全体の50wt%以下であることが、上記蒸発物性を発現さすために望ましい条件である。
より好ましくは20wt%以上で、特に好ましくは25wt%以上40wt%以下である。
これらの構成を満たしつつ印写画質を向上させるためには、着色剤を0.5〜15wt%、界面活性剤を0.01〜5wt%、浸透剤を0.1〜5wt%含有することが望ましい。
より好ましくは0.3wt%以上4wt%以下で、特に好ましくは0.5wt%以上3wt%以下である。
【0027】
これらのインクの構成要素としては、着色剤・湿潤剤・界面活性剤・浸透剤等からなるが、請求項1及び2の発明を満たすようなインクを処方するためには、それぞれの組み合わせが重要となる。以後、構成要素の詳細な説明を行う。
【0028】
着色剤については、耐候性の面から主として顔料が用いられるが、色調調整の目的で同時に染料を、耐候性を劣化させない範囲内で含有しても構わない。
無機顔料としては、酸化チタン及び酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロ-、カドミウムレッド、クロムイエロ-に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、特に、水と親和性の良いものが好ましく用いられる。
【0029】
上記顔料において、より好ましく用いられる顔料の具体例としては、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I..ピグメントブラック7)類、または銅、鉄(C.I..ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I..ピグメントブラック1)等の有機顔料があげられる。
【0030】
さらに、カラー用としては、C.I..ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、408、109、110、117、120、128、138、150、151、153、183、C.I..ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I..ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パ-マネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219、C.I..ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I..ピグメントブルー1、2、15、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I..ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36等が挙げられる。
他の適切な着色顔料の例は、The Colour Index、第三版(The SoC.I.ety of Dyers and Colourists,1982)に記載されている。
【0031】
これら顔料のうち、好ましい形態としては、その表面に少なくとも1種の親水基が直接もしくは他の原子団を介して結合するように表面改質された顔料微粒子である。そのためには、顔料微粒子の表面に、ある特定の官能基(スルホン基やカルボキシル基等の官能基)を化学的に結合させるか、あるいはまた、次亜ハロゲン酸および/またはその塩を用いて湿式酸化処理するなどの方法が用いられる。なかでも好ましい形態は、顔料微粒子の表面にカルボキシル基が結合され、水中に分散されている形態である。これも顔料微粒子が表面改質されカルボキシル基が結合しているために、分散安定性が向上するばかりではなく、高品位な印字品質が得られるとともに、印字後の記録媒体の耐水性がより向上する。
【0032】
またこの形態のインクは乾燥後の再分散性に優れるため、長期間印字を休止し、インクジェットヘッドのノズル付近のインクの水分が蒸発した場合も目詰まりを起こさず簡単なクリーニング動作で容易に良好な印字が行えるようになる。またこの自己分散型の顔料は、後述する界面活性剤及び浸透剤と組み合わせた時に、特に相乗効果が大きく、より信頼性の高い、高品位な画像を得ることが可能となる。
【0033】
上記形態の顔料微粒子に加え、ポリマー微粒子に顔料を含有させたポリマーエマルジョンを使用することも可能である。顔料を含有させたポリマーエマルジョンとは、ポリマー微粒子中に顔料を封入したもの、及び/またはポリマー微粒子の表面に顔料を吸着させたものである。この場合、全ての顔料が封入及び/または吸着している必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲で該顔料がエマルジョン中に分散にしていてもよい。ポリマーエマルジョンを形成するポリマーとしてはビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、及びポリウレタン系ポリマー等が挙げられるが、特に好ましく用いられるポリマーはビニル系ポリマー及びポリエステル系ポリマーであり、特開2000−53897号公報、特開2001−139849号公報に開示されているポリマーを引用する。
【0034】
また本発明では顔料のみでなく、以下のような染料を併用することも可能である。
例えば、酸性染料及び食用染料として次のものが挙げられる。
C.I..アシッド・イエロー 17、23、42、44、79、142
C.I..アシッド・レッド 1、8、13、14、18、26、27、35、37、42、52、82、87、89、
92、97、106、111、114、115、134、186、249、254、289
C.I..アシッド・ブルー 9、29、45、92、249
C.I..アシッド・ブラック 1、2、7、24、26、94
C.I..フード・イエロー 2、3、4
C.I..フード・レッド 7、9、14
C.I..フード・ブラック 1、2
また直接性染料として次のものが挙げられる。
C.I..ダイレクト・イエロー 1、12、24、26、33、44、50、120、132、142、144、86
C.I..ダイレクト・レッド 1、4、9、13、17、20、28、31、39、80、81、83、89、225、227
C.I..ダイレクト・オレンジ 26、29、62、102
C.I..ダイレクト・ブルー 1、2、6、15、22、25、71、76、79、86、87、90、98、163、165、199、202
C.I..ダイレクト・ブラック 19、22、32、38、51、56、71、74、75、77、154、168、171
【0035】
また塩基性染料として次のものが挙げられる。
C.I..ベーシック・イエロー 1、2、11、13、14、15、19、21、23、24、25、28、29、32、36、40、41、45、49、51、53、63、465、67、70、73、77、87、91
C.I..ベーシック・レッド 2、12、13、14、15、18、22、23、24、27、29、35、36、38、39、46、49、51、52、54、59、68、69、70、73、78、82、102、104、109、112
C.I..ベーシック・ブルー 1、3、5、7、9、21、22、26、35、41、45、47、54、62、65、66、67、69、75、77、78、89、92、93、105、117、120、122、124、129、137、141、147、155
C.I..ベーシック・ブラック 2、8
【0036】
さらに反応性染料として
C.I..リアクティブ・ブラック 3、4、7、11、12、17
C.I..リアクテイブ・イエロー 1、5、11、13、14、20、21、22、25、40、47、51、55、65、67
C.I..リアクティブ・レッド 1、14、17、25、26、32、37、44、46、55、60、66、74、79、96、97
C.I..リアクティブ・ブルー 1、2、7、14、15、23、32、35、38、41、63、80、95等が使用できる。これらのなかで特に好ましいのは、酸性染料及び直接性染料である。
【0037】
インク中の着色剤の添加量は、0.5〜15重量%程度が好ましく、より好ましくは5〜12重量%程度である。
【0038】
湿潤剤としては、水素結合しやすく、単独では粘度が高いもので、かつ、平衡水分量が高く、水分の存在下では粘度が低下するようなものを含有させることで、本発明のようなインクを得ることができる。
【0039】
そのような多価アルコールとしては、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオールなどが挙げられるが、特にグリセリンは、水分蒸発に伴い粘度が急激に上昇するが、着色剤の凝集を押さえ、粒径が大きくなるのを防ぐ効果が高いため、湿潤剤全体の20%以上添加することが重要である。また平衡水分量等の面からも、グリセリンは好ましい。
【0040】
グリセリンと併用される湿潤剤としては、1,3-ブタンジオールが望ましい。1,3-ブタンジオールは、グリセリン同様に平衡水分量が高く、信頼性が高いうえに、インクが紙に着弾した際の画素の広がりを均一にし、更には色材を紙表面にとどめる効果も高い。グリセリンは信頼性向上効果が高いが、多量に添加すると画質が悪くなり、また水分蒸発後の粘度上昇が大きくなりすぎて、吐出安定性も悪くなる場合があるため、これらの混合比は1:5〜5:1、さらに請求項1の物性を示すためにも1,3-ブタンジオール:グリセリンは1:1〜4:1とすることが望ましい。より好ましくは1:1〜3:1で、特に好ましくは25wt%以上2:1〜3:1である。
インク全体に占める湿潤剤の割合は10〜50wt%が本発明の効果が得られる範囲であるが、特に好ましくは25〜35%の範囲である。湿潤剤量が少ないとインクの保存安定性・吐出安定性が悪くなり、ノズルの目詰まりが起こりやすくなる。また湿潤剤量が多すぎると、乾燥性が悪くなり、文字の滲みや色境界の滲みが発生し、画像品質が低下することになる。
【0041】
界面活性剤としてはアニオン系界面活性剤またはノニオン系界面活性剤が用いられる。
色材の種類や湿潤剤、水溶性有機溶剤の組合せによって、分散安定性を損なわない界面活性剤を選択する。
【0042】
アニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、琥珀酸エステルスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩などが挙げられる。
【0043】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなどが挙げられる。このような界面活性剤は日光ケミカルズ(株)、日本エマルジョン(株)、日本触媒(株)、東邦化学(株)、花王(株)、アデカ(株)、ライオン(株)、青木油脂(株)、三洋化成(株)などの界面活性剤メーカより容易に入手できる。
【0044】
アセチレングリコール系界面活性剤は、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オールなどのアセチレングリコール系(例えばエアープロダクツ社(米国)のサーフィノール104、82、465、485あるいはTGなど)をもちいることができるが、特にサーフィノール465、104やTGが良好な印字品質を示す。
【0045】
前記界面活性剤は、これらに限定されるものではなく、単独で用いても、複数のものを混合して用いてもよい。単独では記録液中で容易に溶解しない場合も、混合することで可溶化され、安定に存在することができる。
中でも特に望ましいのが、下記一般式で示されるノニオン系界面活性剤である。
【0046】
【化1】

【0047】
【化2】

【0048】
【化3】

【0049】
【化4】

【0050】
【化5】

【0051】
インク組成物中でのこれら界面活性剤の添加量は0.01wt%〜5.0wt%であり、好ましくは0.5wt%〜3wt%である。0.01wt%未満では添加した効果は無く、5.0wt%より多い添加では記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けの発生といった問題が発生する。
より好ましくは0.5wt%以上2.5wt%未満で、特に好ましくは0.8wt%以上2.0wt%未満である。
【0052】
浸透剤としては、20℃の水に対する溶解度が0.2wt%以上5.0wt%未満のポリオールの少なくとも1種を含有することが望ましい。
より好ましくは1.0wt%以上5.0wt%未満で、特に好ましくは1.0wt%以上4.0wt%未満である。
このようなポリオールのうち、脂肪族ジオールとしては、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、5-ヘキセン-1,2-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールなどが、具体例として挙げられる。
これらのなかで最も望ましいものは2-エチル-1,3-ヘキサンジオール及びまたは2、2、4-トリメチル-1、3-ペンタンジオールである。
【0053】
その他の併用できる浸透剤として、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類、エタノール等の低級アルコール類などが挙げられるが、インク中に溶解し、所望の物性に調整できるものであれば、これらに限らない。
【0054】
浸透剤の添加量としては0.1〜5.0wt%の範囲が望ましい。添加量が0.1wt%よりも少ないと、速乾性が得られず滲んだ画像となる。逆に添加量が5.0wt%よりも多いと着色剤の分散安定性が損なわれ、ノズルが目詰まりしやすくなったり、また記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けの発生といった問題が発生する。
より好ましくは0.5wt%以上4.0wt%以下で、特に好ましくは1.0wt%以上3.0wt%以下である。
【0055】
その他インクに添加する添加剤としては、防腐紡黴剤やpH調整剤、キレート剤、防錆剤などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
防腐防黴剤としてはデヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2-ピリジンチオール1-オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム等が本発明に使用できる。
【0057】
pH調整剤としては、調合される記録液に悪影響をおよぼさずにpHを所望の値に調整できるものであれば、任意の物質を使用することができる。その例として、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。
【0058】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウム等がある。
【0059】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト、ベンゾトリアゾール等がある。
【0060】
本発明のインクジェット記録用インクの調製方法としては、顔料系微粒子を分散させる従来公知のインクの調製方法でよく、例えば、まず湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、水を混合し均一に混合するように攪拌を行い、ついでこの混合液に対して顔料、消泡剤を添加し、攪拌して分散液を得ればよい。
また分散液を濾過等することにより、粗大粒子やごみや不純物を除去する。
上記不純物は、2種有ると考えており、(1)製造設備より混入するもの(ゴミ、埃、前に製造したものの残分、洗剤等)、(2)原材料に含まれるもの(モノマー残、副生成物等)が挙げられる。そのため、本発明のインクを製造する際には、インク構成成分とは異なる溶解、分散成分の混入を防ぐため充分に清掃された容器を用いることが望ましく、インクとの接触面がSUS製やガラス製、フッ素樹脂であることが望ましい。特に前工程で製造された製品が残存して混入することが無いように製造容器や配管の充分な洗浄と、洗浄時に用いる洗浄液成分の残留が無いように充分なリンスを行うことが望ましい。なお、インクは多価金属イオンの影響を受けやすいため、イオン交換水や純水を用いることが望ましい。
また、用いる材料は、材料製造時の副生成物、製造原料の残分の少ないものが望ましく、副生成物による臭気の点や製品管理が行き届いている点から一般工業品グレードより化粧品グレードを用いることが好ましい。
また製造後のインクは、インク材料由来やインク製造過程で発生した粗大粒子を取り除くため、濾過工程を経ることが望ましい。
濾過に用いるフィルター孔径は、直径0.5μm〜10μmが望ましく、より好ましくは3μm〜7μmが製造効率とインク吐出信頼性の面から好ましい。
製造されたインクはインクカートリッジに充填されるが、充填されるインクは脱気されたものが望ましく、好ましくは溶存酸素濃度が5ppm以下である。
【0061】
(インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置)
本発明に係るインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置の第1の実施の形態について説明する。
図1は、本発明のインクジェット記録装置の要部の構成を示す概略図である。
インクジェット記録装置10は、被記録体の一態様である記録紙7を搬送する紙押えローラー5及び紙送りローラー6、本発明のインクジェット記録用インクを吐出するノズルを有する記録ヘッド1、加熱機構の一態様であるプラテン2及び紙押えローラー4を備えている。
【0062】
記録ヘッド1は、ノズルから本発明のインクジェット記録用インクを吐出して、記録紙7の印刷面あるいは非印刷面に記録するものである。例えば、複数の加圧液室、加圧液室に連通する孔径35μm以下のノズル及びインク供給路、振動板、振動板を変位させる電気機械変換手段からなるものである。また、複数のインク滴を連続して吐出させ記録媒体に着弾する前にマージさせて大きな滴を形成する構成にすると、粘度が高めのインクにおいても、吐出安定性を確保することができるので好ましい。
【0063】
プラテン2及び紙押えローラー4は、インクジェット記録用インクが付着した記録紙7をプラテン2と紙押えローラー4との間に挟んで、プラテン2の熱により加熱する加熱機構である。ここで、プラテン2は中空円筒形状のローラーであり、その内部に配置されたハロゲンヒーター3の発熱により加熱される。
【0064】
紙押えローラー5及び紙送りローラー6は記録紙7の搬送機構であり、記録紙7を紙押えローラー5と紙送りローラー6との間に挟んで、紙送りローラー6の回転駆動により排紙方向(図中右から左方向)に搬送するものである。
【0065】
インクジェット記録装置10を用いたインクジェット記録方法として、以下の手順でイ
ンクジェット記録用インクを用いた記録が行われる。
(S11)記録紙7が紙押えローラー5及び紙送りローラー6により、記録ヘッド1に搬送される。
(S12)記録ヘッド1のノズルから本発明のインクジェット記録用インクが吐出され、記録紙7の印字領域あるいは非印字領域に付着されて記録(画像形成)が行われる。このとき、ノズル近傍でのインクジェット記録用インクの水分蒸発が30%を越える前に、ノズルから該インクを吐出させる。これより安定した高品位な画像形成を行なうことができる。
(S13)インクジェット記録用インクが付着した記録紙7がプラテン2及び紙押えローラー4に搬送され、プラテン2と紙押えローラー4との間に挟まれて加熱され、その後排紙される。
【0066】
なお、ステップS12において、ノズルより吐出されるインクの液滴の大きさが3〜40pl、液滴の速度が6〜20m/s、周波数1KHz以上、解像度が300dpi以上である場合において本発明のインクジェット記録用インクを使用すると、更に本発明インクの特徴が生かされることになり好ましい。
【0067】
本発明に係るインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置の第2の実施の形態について説明する。
図2は、本発明のインクジェット記録装置の要部の構成を示す概略図である。
インクジェット記録装置20は、被記録体の一態様である記録紙27を加熱しながら搬送するプラテン22及び紙送りローラー26、本発明のインクジェット記録用インクを吐出するノズルを有する記録ヘッド21、記録紙27を排紙方向に導く紙押えローラー24a,24bを備えている。ここで記録ヘッド21は第1の実施の形態で示した記録ヘッド1と同じ構成である。
【0068】
プラテン22及び紙送りローラー26は、インクジェット記録用インク付着前の記録紙27をプラテン22と紙送りローラー26との間に挟んで、プラテン22の熱により加熱する加熱機構と、紙送りローラー26の回転駆動により排紙方向(図中右から左方向)に搬送する搬送機構とを兼ね備えたものである。ここで、プラテン22は中空円筒形状のローラーであり、その内部に配置されたハロゲンヒーター23の発熱により加熱される。
【0069】
インクジェット記録装置20を用いたインクジェット記録方法として、以下の手順でインクジェット記録用インクを用いた記録が行われる。
(S21)記録紙27がプラテン22及び紙送りローラー26との間に挟まれて加熱され、加熱された記録紙27が紙送りローラー26の回転駆動により、記録ヘッド21に搬送される。
(S22)記録ヘッド21のノズルから本発明のインクジェット記録用インクが吐出され、記録紙27の印字領域あるいは非印字領域に付着されて記録(画像形成)が行われる。
このとき、ノズル近傍でのインクジェット記録用インクの水分蒸発が30%を越える前に、ノズルから該インクを吐出させる。これより安定した高品位な画像形成を行なうことができる。
(S23)インクジェット記録用インクが付着して画像形成された記録紙27が紙押えローラー24a,24bに搬送され、紙押えローラー24a,24bにより排紙方向に導かれる。
【0070】
本発明に係るインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置の第3の実施の形態
について説明する。
図3は、本発明のインクジェット記録装置の要部の構成を示す概略図である。
インクジェット記録装置30は、被記録体の一態様である記録紙37を搬送する紙押えローラー35及び紙送りローラー36、本発明のインクジェット記録用インクを吐出するノズルを有する記録ヘッド31、記録紙37の記録ヘッド31配置側とは反対面側に配置され記録紙37を加熱するプラテン32、記録紙37を排紙方向に導く紙押えローラー34a,34bを備えている。ここで記録ヘッド31は第1の実施の形態で示した記録ヘッド1と、紙押えローラー35及び紙送りローラー36は第1の実施の形態で示した紙押えローラー5及び紙送りローラー6同じ構成である。
【0071】
プラテン32は、記録ヘッド31によるインクジェット記録用インクの付着が行われている時点の記録紙37を記録紙37の印字面の反対面側から接触して、プラテン32の熱により加熱する加熱機構である。ここで、プラテン32は記録紙37に摺動する構造となっており、その近傍に配置されたハロゲンヒーター33の発熱により加熱される。
【0072】
インクジェット記録装置30を用いたインクジェット記録方法として、以下の手順でインクジェット記録用インクを用いた記録が行われる。
(S31)記録紙37が紙押えローラー35及び紙送りローラー36により、記録ヘッド31に搬送される。
(S32)記録紙37がプラテン32と摺動されて加熱されつつ、記録ヘッド31のノズルから本発明のインクジェット記録用インクが吐出され、記録紙37の印字領域あるいは非印字領域に付着されて記録(画像形成)が行われる。このとき、ノズル近傍でのインクジェット記録用インクの水分蒸発が30%を越える前に、ノズルから該インクを吐出させる。これより安定した高品位な画像形成を行なうことができる。
(S33)インクジェット記録用インクが付着して画像形成された記録紙37が紙押えローラー34a,34bに搬送され、紙押えローラー34a,34bにより排紙方向に導かれる。
【0073】
本発明においては、上記加熱機構を用いることでインクジェット記録用インクの乾燥速度を高め、フェザリング、ブリーディング、コックリング、裏抜けを抑制するものである。ここで言う乾燥とは完全に水分が無くなる状態ではなく、ある程度水分を失ったインクが流動性を失った状態となり、記録紙(被記録体)に保持され液体として流れ動かない様を表す。なお、記録紙の加熱はインクの水分蒸発を促進するためなので、記録紙に熱量を与える事が重要であり、印写の前後は問わない。そのため、上記第1〜3の実施の形態のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法のいずれか1つ、またはいずれか2つ以上を併用したインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法としてもよい。
【0074】
以上のようなインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法により、低熱量の加熱機構で高品位な画像形成が可能となるため、輻射熱によるヘッド、インクへの熱による信頼性低下を抑制することが可能となる。また低熱量であることからエネルギー消費量も少なくでき、環境にも優しく、加熱機構のウォームアップ時間の短縮効果も得られる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を示すがこれらに限定されるものではない。
まず本発明の前提となるインクジェット記録用インクの信頼性に対する顔料適性についての検討結果を比較例として示す。
(比較例1)
比較例1におけるインクジェット記録用インク組成と製造方法を以下に示す。
(1)組成
・顔料系微粒子:CAB-O-JET300(キャボット社製)(表面に少なくとも1種の親水基が直接もしくは他の原子団を介して結合するような処理がなされたカーボンブラック) 50.0wt%
・湿潤剤:ジエチレングリコール 12.0wt%
グリセリン 24.0wt%
・浸透剤:ジエチレングリコールモノブチルエーテル 2.0wt%
・界面活性剤:ダイノール604(信越化学工業製) 1.0wt%
・消泡剤:シリコーン消泡剤KS508(信越化学社製) 0.1wt%
・水分:純水 10.9wt%
【0076】
(2)製造方法
まず湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、水を混合し一時間攪拌を行い均一に混合する。ついで、この混合液に対して顔料、消泡剤を添加し、一時間攪拌する。ついで、この分散液を0.8μmセルロースアセテートメンブランフィルターにて加圧濾過し、粗大粒子やごみを除去して評価に用いるインクを得た。
【0077】
(比較例2)
比較例1において顔料系微粒子を以下に示す顔料含有ポリマー微粒子分散体45.0wt%とし、ジエチレングリコールを14.7wt%、グリセリンを29.3wt%、純水を7.9wt%として、それ以外の条件は比較例1と同じとしてインクを得た。
【0078】
(ポリマー溶液Aの調製)
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー4.0g及びメルカプトエタノール0.4gを混合し、65℃に昇温した。次にスチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を2.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。滴下後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。65℃で1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加し、濃度が50%の
ポリマー溶液A800gを得た。
【0079】
(顔料含有ポリマー微粒子水分散体の調製)
ポリマー溶液A 28gとC.I..ピグメントブルー15:3を26g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g及びイオン交換水13.6gを十分に攪拌した後、ロールミルを用いて混練した。得られたペーストを純水200gに投入し、充分に攪拌した後、エバポレータ用いてメチルエチルケトン及び水を留去し、シアンポリマー微粒子の水分散体(顔料含有ポリマー微粒子分散体)を得た。
【0080】
(比較例3)
比較例1において顔料系微粒子を以下に示す顔料樹脂分散液38.7wt%とし、ジエチレングリコールを11.3wt%、グリセリンを22.7wt%、界面活性剤をソフタノール70(日本触媒製)1.0wt%、純水を24.2wt%として、それ以外の条件は比較例1と同じとしてインクを得た。
【0081】
(ポリマー溶液Bの調製)
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管を備えた1Lのセパラブルフラスコに、フマール酸49.6g、ビスフェールA−ジヒドロキシエチル169g、無水フタル酸31.7g及びパラトルエンスルホン酸0.7gを入れ、窒素気流中で150℃で2時間縮合反応させた後、175℃で3時間縮合反応させてポリエステル樹脂を合成した。そこに水678.8g及び28%アンモニア水22.8gを加え65℃で2時間攪拌し、さらに酸性亜硫酸ナトリウム47.5gを加え、95℃で6時間攪拌することで透明な樹脂濃度30%のポリマー溶液Bを1000g得た。
【0082】
(顔料樹脂分散液の調整)
ポリマー溶液B 105g、エチレングリコール100g、テトラメチレンスルホン10.5g、純水136.3g及び水酸化ナトリウム0.2gを良く混合し、さらにC.I..ピグメントブルー15:2 155gを撹拌しながら混合して、ビーズミルにて顔料を2時間分散する。純水495gを添加して超遠心分離機で粗大粒子を除去して、顔料分15.5%の青色顔料樹脂分散液を得た。
【0083】
(比較例4)
比較例3において顔料系微粒子を以下に示す顔料界面活性剤分散液42.5wt%とし、ジエチレングリコールを15.3wt%、グリセリンを30.7wt%、純水を8.4wt%として、それ以外の条件は比較例3と同じとしてインクを得た。
【0084】
(顔料界面活性剤分散液の調製)
C.I..ピグメントブルー15:3 100g、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸アンモニウム 24.8g、純水 175.2gを混合した後、湿式サンドミルにて分散を行い、純水414.3g加え混合し、遠心処理にかけて粗大粒子を取り除き、シアン顔料界面活性剤分散液を得た。
【0085】
比較例1〜4のインク組成を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
比較例1〜4のインクジェット記録用インクの信頼性に対する顔料適性として、次の内容で水分蒸発に伴う粒径変化の測定を行った。
(水分蒸発に伴う粒径変化の測定)
インク一定量を温度50℃、相対湿度10%の環境中に放置し、一定時間放置後のインク重量変化を測定し、またその時点での粒径を測定した。粒径の測定にはマイクロトラック社製の粒度分布測定器UPA150を使用し、希釈倍率500倍で測定した。
【0088】
その結果を図4示す。
水分蒸発率30%でも比較例1,2は顕著な粒径増加が起っておらず、水分蒸発率30%未満で吐出を行うならば吐出信頼性は確保されている。これに対して、比較例3,4では水分蒸発率30%未満でも粒径増加傾向が見られることから、長期的な放置や加熱機構による乾燥の促進によってメニスカス部から水分蒸発が加速した場合、水分蒸発率が少ない状態でも顔料の再分散性が低下し、顔料の粒径増加が起り、吐出信頼性を低下させることがわかる。
【0089】
(実施例1)
実施例1におけるインクジェット記録用インク組成と製造方法を以下に示す。
(1)組成
・顔料系微粒子:CAB-O-JET300(キャボット社製)(表面に少なくとも1種の親水基が直接もしくは他の原子団を介して結合するような処理がなされたカーボンブラック) 50.0wt%
・湿潤剤:1,3-ブチレングリコール 23.3wt%
グリセリン 7.7wt%
・浸透剤:ジエチレングリコールモノブチルエーテル 2.0wt%
・界面活性剤:ダイノール604(信越化学工業製) 1.0wt%
・消泡剤:シリコーン消泡剤KS508(信越化学社製) 0.1wt%
・水分:純水 15.9wt%
【0090】
(2)製造方法
まず湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、水を混合し一時間攪拌を行い均一に混合する。ついで、この混合液に対して顔料、消泡剤を添加し、一時間攪拌する。ついで、この分散液を0.8μmセルロースアセテートメンブランフィルターにて加圧濾過し、粗大粒子やごみを除去して評価に用いるインクを得た。
【0091】
(実施例2)
実施例1において顔料系微粒子を比較例2に示した顔料含有ポリマー微粒子分散体45.0wt%とし、1,3-ブチレングリコールを29.3wt%、グリセリンを9.7wt%、純水を12.9wt%として、それ以外の条件は実施例1と同じとしてインクを得た。
【0092】
実施例1,2のインク組成を表2に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
実施例1,2、比較例1,2について、以下に示す水分蒸発に伴う粘度上昇率及び粒径変化を測定した。
(水分蒸発に伴う粘度上昇率及び粒径変化の測定)
実施例インク及び比較例インク一定量を温度50℃、相対湿度10%の環境中に放置し、一定時間放置後のインク重量変化を測定し、またその時点でのインクの粘度(25℃)及び粒径を測定した。粘度の測定には東機産業(株)社製の粘度計RL-500を使用し測定した。
【0095】
その結果を図5,6に示す。
水分蒸発率30%までは、実施例1,2は比較例1,2と同様に、顕著な粒径増加を起こしておらず、粘度上昇率10以下であり、吐出信頼性に関しては比較例1,2と同程度確保していることを示している。しかし、水分蒸発率30%以上で急激な粘度上昇を引き起こしている。この特性は水分蒸発率が30〜50%の間でインクが増粘し、ブリーディングなどのインク移動を抑制する効果が得られることを示している。対照的に比較例1,2では粘度増加は見られず、このような効果を得るにはより多くの水分蒸発が必要であることを示している。
【0096】
実施例1,2、比較例1,2のインクジェット記録用インクを用いて、以下に示す印字品質評価を行った。
(印字品質評価)
インクジェットプリンタEM-930C(セイコーエプソン株式会社製)の排紙部を改造し、アルミ製粗管表層にシリコンゴムを塗布したプラテンの内部にハロゲンヒーターを組みこんだ加熱機構を取りつけ、図1に示す構成としたインクジェット記録装置を用いて印字テストを行い、その品質評価を行った。また、加熱温度は放射温度計を用いて測定し、印字面側の表面温度を測定した。なお、使用したインクジェットプリンタはシリアルプリンタであるため、ヒータ接触時間は均一でなく紙面温度はバラツキを生じる。そこで印字をせず通紙した時、ヒータにて加熱された紙の表面温度の平均値を紙面温度として表記する。
また印字はワープロソフト(Microsoft Word2000)で作製したチャートを打ち出し、印字モードはプリンタ添付のドライバで色補正なしを選択したファインモードを使用した。
【0097】
その結果を図7に示す。
図7は、6ポイントの文字を打ち出して、グレースケールに変換後、拡大表示したものである。濃色が実施例1、比較例1、淡色が実施例2、比較例2と対応する。
実施例1,2を組み合わせたインクセットでは紙面温度が45℃でブリーディングが押えられてきており、線幅が細くなり文字が鮮明になっている。しかし比較例1,2を組み合わせたインクセットでは60℃を超えても画像に変化がなく、加熱による効果が見られない。
【0098】
(実施例3)
実施例1において湿潤剤として3-メチル-1,3-ブチレングリコールを21.0wt%、グリセリンを7.0wt%、浸透剤としてオクタンジオールを2.0wt%、界面活性剤としてFINESURF TDP-0107(青木油脂製)を1.0wt%、純水を18.9wt%として、それ以外の条件は実施例1と同じとしてインクを得た。
【0099】
(実施例4)
実施例3において顔料微粒子を比較例2に示した顔料含有ポリマー微粒子分散体50.0wt%とし、3-メチル-1,3-ブチレングリコールを22.9wt%、グリセリンを7.6wt%、純水を16.4wt%として、それ以外の条件は実施例3と同じとしてインクを得た。
【0100】
実施例3,4のインク組成を表3に示す。
【0101】
【表3】

【0102】
実施例3,4について、上記と同じ方法で水分蒸発に伴う粘度上昇率及び粒径変化を測定した。その結果を図8,9に示す。実施例3,4ともに水分蒸発率30%までは粘度上昇率が10以下であり、水分蒸発率30〜50%の間に粘度上昇率が500を越える点を持っていた。また、水分蒸発率30%までのインク中の着色剤の平均粒子径が、初期平均粒子径の2倍以下であった。
また、実施例3,4のインクジェット記録用インクを用いて、上記と同じ方法で印字品質評価を行ったところ、実施例3,4を組み合わせたインクセットでもブリーディングが押えられてきており、線幅が細くなり文字が鮮明な印字結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明に係るインクジェット記録装置の第1の実施の形態における構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係るインクジェット記録装置の第2の実施の形態における構成を示す概略図である。
【図3】本発明に係るインクジェット記録装置の第3の実施の形態における構成を示す概略図である。
【図4】比較例の水分蒸発率と平均粒子径との関係を示す図である。
【図5】実施例1,2、比較例1,2の水分蒸発率と平均粒子径との関係を示す図である。
【図6】実施例1,2、比較例1,2の水分蒸発率と粘土上昇率との関係を示す図である。
【図7】実施例1,2、比較例1,2の印字テスト結果を示す図である。
【図8】実施例3,4の水分蒸発率と平均粒子径との関係を示す図である。
【図9】実施例3,4の水分蒸発率と粘土上昇率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0104】
1,21,31 記録ヘッド
2,22,32 プラテン
3,23,33 ハロゲンヒーター
4,5,24a,24b,34a,34b,35 紙押えローラー
6,26,36 紙送りローラー
7,27,37 記録紙
10,20,30 インクジェット記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料系微粒子からなる着色剤と、湿潤剤と、界面活性剤と、浸透剤と、水分とを有するインクジェット記録用インクにおいて、
前記インクジェット記録用インクの水分蒸発率、水分蒸発に伴う粘度上昇率を次の式で表すとき、
水分蒸発率(%)=((初期重量−水分蒸発後の重量)/初期重量)×100
粘度上昇率=水分蒸発後の粘度/初期粘度
水分蒸発率30%までは粘度上昇率が10以下であり、水分蒸発率30〜50%の間に粘度上昇率が500を越える点を持ち、
水分蒸発率30%までのインク中の着色剤の平均粒子径が、初期平均粒子径の2倍以下であることを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項2】
前記着色剤は、表面に少なくとも1種の親水基が直接もしくは他の原子団を介して結合して分散剤なしに水に分散可能となった顔料微粒子、および/または顔料を含有し、ポリマーエマルジョンを形成するポリマー微粒子からなることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
前記着色剤を0.5〜15wt%、湿潤剤を10〜50wt%、界面活性剤を0.01〜5wt%、浸透剤を0.1〜5wt%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項4】
前記湿潤剤は、温度20℃、相対湿度60%環境中の平衡水分量が25wt%以上である多価アルコール2種以上からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項5】
前記多価アルコールの一つがグリセリンであり、該グリセリンの含有量が湿潤剤全体の50wt%以下であることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一に記載のインクジェット記録用インクをノズルから吐出させ、該インクを被記録体の印字領域または非印字領域に付着させて記録するインクジェット記録方法であって、
前記ノズル近傍での水分蒸発率が30%を超える前に、該ノズルから前記インクジェット記録用インクを吐出させることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記インクジェット記録用インクを被記録体に付着させた後、該被記録体を加熱すること、
前記被記録体を加熱した後、前記インクジェット記録用インクを該被記録体に付着させること、
前記被記録体を加熱しつつ、前記インクジェット記録用インクを該被記録体に付着させること、
のいずれか1つ、またはいずれか2つ以上を併用して記録することを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
インクを被記録体へ吐出するノズルを有する記録ヘッドと、被記録体を加熱する加熱機構とを備えるインクジェット記録装置において、
請求項6または7に記載のインクジェット記録方法により被記録体への記録をおこなうことを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−77232(P2006−77232A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199813(P2005−199813)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】