説明

インクジェット記録用インク、記録方法及び記録装置

【課題】 記録物の画像堅牢性に優れ、カールが問題とならず、広範囲な駆動周波数及び駆動電圧で吐出した際にも良好で安定した応答性を維持しつつ、高精細な画像記録に対応し得るインクジェット記録用のインクの提供。
【解決手段】 水性媒体、水不溶性色材、該水不溶性色材を該水性媒体に分散させるための分散剤を含有するインクジェット記録用インクにおいて、該インクジェット記録用インクがポリグリセリンを含有し、該分散剤が疎水セグメント、非イオン性親水セグメント及びイオン性親水セグメントを含むブロックポリマーであることを特徴とするインクジェット記録用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録物の堅牢性に優れ、セルロースを含有する記録媒体に多量に付与しても記録媒体のカールが問題とならず、広範囲な駆動周波数及び駆動電圧で吐出しても良好で安定した応答性を維持できるインクジェット記録用インクに関する。また、本発明は、かかるインクジェット記録用インクを用いたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクジェット記録用インク(以下「インク」と略すこともある)の小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて記録を行うものである。熱エネルギーをインクに与えて気泡を発生させることにより液滴を吐出させるサーマルインクジェット方式によれば、記録ヘッドの高密度マルチノズル化が容易に実現でき、高解像度、高品質の画像を高速で記録できる提案がある(特許文献1参照)。
【0003】
近年、銀塩写真レベルの極めて高品位なインクジェット記録画像に対応するために、吐出するインクの液滴のサイズが小さくなってきており、現在では、インクの液滴量が約5pl(ピコリットル)以下のインクジェットプリンタが市販されている。また、記録速度に関しても、より一層の高速化を求められてきており、それに伴って吐出時におけるより高い駆動周波数への対応が急務である。
【0004】
またインクジェット記録に用いられるインクは、水を主成分とし、これに乾燥防止、記録ヘッドの耐固着性向上等の目的でグリコール等の水溶性高沸点溶剤を含有したものが一般的である。このようなインクを用いて普通紙や、微量コート紙等に代表されるセルロースを含有する記録媒体に記録を行った場合、一定の面積以上の領域に短時間に多量のインクを打ち込むと、カールが生じるという問題が発生する。この問題は、従来の主流であった文字中心の記録に際しては、インクの打ち込み量が少ないため問題とならなかったが、普通紙等にインターネットのホームページや写真画像のような多量のインクを打ち込む記録に際しては、大きな解決すべき課題となっている。
【0005】
こうした課題に際して、各種カール防止溶剤を含有する水性インク組成物が提案されている(特許文献2参照)。こうした物質を用いると、耐カール性についてはある程度の効果は認められるものの、高い駆動周波数吐出時の応答性と耐カール性の両立については、更なる向上が望まれている。
【0006】
またこれとは別に、上記したような写真画像等の記録物に対しては、耐カール性だけでなく、その耐水性や耐候性といった画像堅牢性に関してもより一層の向上が望まれており、そのため、インク中の色材に顔料を採用することの検討が活発となってきている。顔料をインクジェット用の水性インクの色材として用いる場合には、水性媒体中に顔料を安定して分散させることが肝要である。一般に顔料を水性媒体中に均一に分散させるためには、例えば水性媒体に対して顔料を安定に分散させるための親水基と、疎水性である顔料表面に物理的に吸着するための疎水部とを有する樹脂分散剤を用いる方法が採られている(例えば、特許文献3参照)。他に、酸化反応等により顔料表面を親水化処理する方法(例えば、特許文献4参照)等が採られている。しかし、かかる顔料表面を酸化反応等により親水化処理する方法により得られたインクを記録媒体に印字する場合、得られる画像の耐擦過性や蛍光マーカーペンによる耐マーカー性は十分でないことがある。
【0007】
一方、樹脂分散剤を用いる方法により得られたインクを記録媒体上に印字する場合、インク中での分散剤量が多いほど、樹脂がより顔料の表面を覆うため、上記したような画像堅牢性を向上させることが可能である。しかし、分散剤が多くなるとインク粘度が上昇するので、高い駆動周波数時のインクの吐出安定性は低下してしまう。とりわけ、サーマルインクジェット方式による場合、この傾向は顕著である。また、分散安定性、吐出安定性を高めるため手段として分散剤の親水性基の割合を増やすといった方法が挙げられるが、このようなインクを記録媒体上に印字すると、記録媒体上にある樹脂の親水性が高くなるため、耐水性や耐マーカー性が得られないことが多い。
【0008】
これらの課題に対して、顔料インクの吐出安定性と記録物の画像堅牢性を両立させたインク組成物が提案されている(特許文献5参照)。しかし、高い駆動周波数及び、広範囲な駆動電圧での吐出安定性や、耐カール性との両立等については十分な性能が得られているとは言えない。
【0009】
各課題の概要を以下に示す。
【0010】
1.耐マーカー性
インクを記録媒体に印字し、得られた記録物に対し蛍光ペン等のマーカーでなぞると、記録物が汚れてしまうことがある。これは、浸透力が強く、インク中の着色剤が染料のような記録媒体中に吸収されるタイプのインクではあまり問題とならないが、浸透力が弱く且つ、着色剤が顔料であるような記録媒体上に留まるタイプのインクでは問題となることが多い。特に、分散樹脂等が使用されていない自己分散型の顔料インクの場合この現象は顕著である。また、樹脂分散型の顔料インクにおいても、前述したような分散樹脂の親水性基の割合が高いものは、マーカー中の水や水溶性有機溶剤によって顔料の粒子表面の親水性高分子が再溶解し、結果として印字物やマーカーを汚してしまうことがある。
【0011】
2.耐カール性
普通紙に代表されるセルロースを含有する記録媒体に水系インクを多量に付与すると、いわゆるカールという現象が生じ、場合によっては、紙が筒状に丸まってしまう。
【0012】
カール発生のメカニズムは、抄紙段階における紙を乾燥する工程において、一定方向にテンションが加わった状態で水が蒸発し、セルロース間での水素結合が形成されることに起因していると考えられる。この状態の紙に水系インクが付着すると水によりセルロース間の水素結合が壊れ、水によって結合部が置換されるが、その水が蒸発すると再びセルロース間の水素結合が形成される。再形成の際にはテンションが働いていないためインク付着面側に紙が収縮し、その結果カールが発生するものと考えられる。
【0013】
文字中心のインク付与量が少ない記録では生じにくかったこの現象は、グラフィックの印刷頻度が増してきた昨今では、大きな問題となり、格段の耐カール性の向上が求められている。カールはインクの打ち込まれる面積と打ち込み量によって変動するが、記録面積としては15cm以上、打ち込み量としては0.03〜30mg/cmの範囲において記録する条件の際にとりわけ問題となる。
【0014】
3.吐出安定性
顔料インクを、記録ヘッドからエネルギーの作用によってインクを飛翔させて記録を行う方式のインクジェット記録装置に使用した場合、その分散安定性が良くないものは吐出安定性に著しい障害を起こし、印字不良を発生しやすかった。特に熱エネルギーを付与して液滴を吐出させて記録を行う際に、従来の水性顔料インクを使用した場合にこの課題が生じやすかった。具体的には、インクにパルスを印加すると、ある駆動電圧時においてはその熱により薄膜抵抗体上に堆積物ができ、インクの発泡が十分ではなく液滴の吐出が印加パルスに応答できないで不吐出が発生する場合があった。
【特許文献1】特公昭61−59911号公報
【特許文献2】特開平6−157955号公報
【特許文献3】特開平9−241564号公報
【特許文献4】特開平8−3498号公報
【特許文献5】特開2002−47438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、顔料インクの分散安定性、吐出安定性を確保しつつ、セルロースを含有する記録媒体に対しても記録媒体のカールが問題とならないインクジェット記録用インクについての精力的な検討を行った。更には印字物の耐水性、耐マーカー性、耐擦過性といった画像堅牢性に優れたインクジェット記録用インクについての精力的な検討を行った。その結果、特定の分散樹脂と有機化合物を含む組成のインクが上記目的を極めて高いレベルで達成できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0016】
従って、本発明の目的は、記録物の画像堅牢性に優れ、カールが問題とならず、広範囲な駆動周波数及び駆動電圧で吐出した際にも良好で安定した応答性を維持しつつ、高精細な画像記録に対応し得るインクジェット記録用のインクを提供することにある。
【0017】
また、本発明の目的は、高品位な画像を、安定に形成することのできるインクジェット記録方法を提供することにある。
【0018】
更に本発明の目的は、上記インクジェット記録方法に適用することのできるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、水性媒体、水不溶性色材、該水不溶性色材を該水性媒体に分散させるための分散剤を含有するインクジェット記録用インクにおいて、該インクジェット記録用インクが、ポリグリセリンを含有し、該分散剤が疎水セグメント、非イオン性親水セグメント及びイオン性親水セグメントを含むブロックポリマーであることを特徴とするインクジェット記録用インクである。
【0020】
また本発明は上記構成のインクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、記録物の画像堅牢性に優れ、カールが問題とならず、広範囲な駆動周波数及び駆動電圧で吐出した際にも良好で安定した応答性を維持しつつ、高精細な画像記録に対応し得るインクジェット記録用のインクを得ることができる。
【0022】
また、本発明によれば、高品位な画像を、安定に形成することのできるインクジェット記録方法を得ることができる。
【0023】
更に、本発明によれば、上記インクジェット記録方法に適用することのできるインクジェット記録装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。本発明にかかるインクジェット記録用インク(以下「インク」と略すこともある)は、少なくとも水不溶性色材、該水不溶性色材を分散するための特定の構造を有する分散剤、水性媒体、ポリグリセリンを含んでいることを特徴とする。先ず、これらの成分について説明する。
【0025】
(水不溶性色材)
本発明のインクに含まれる水不溶性色材については、樹脂によって分散されてなるものであれば染料でも顔料でも使用可能であるが、耐候性等を考慮した場合、好ましくは顔料である。インク中への添加量はこの範囲に限定されるものではないが、インク全量に対して0.1〜15質量%、好ましくは0.2〜12質量%、より好ましくは0.3〜10質量%である。インクに用いられる染料としては、カラーインデックス(COLOR INDEX)に記載されている水不溶性の分散染料、油溶性染料はその殆ど全てが使用できる。本発明で好適である顔料としては、具体的には以下のようなものが挙げられるが、これに限定するものではない。
【0026】
黒色インクに使用される顔料としてはカーボンブラックが好適に使用される。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料である。更に、一次粒子径が15〜40nm、BET法による比表面積が50〜300m/g、DBP吸油量が40〜150ml/100g、揮発分が0.5〜10質量%の特性を持つものが好ましく用いられる。
【0027】
カラーインクに使用される顔料としては有機顔料が好適に使用される。具体的には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の水溶性アゾ顔料等が挙げられる。また、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料等が挙げられる。また、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料等が挙げられる。また、ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料等が挙げられる。また、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料等が挙げられる。また、フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等の顔料が例示できる。
【0028】
また、有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示す。C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、55、74、83、86、93、97、98、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185等。C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71等。C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、202、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272等。C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36等。C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が例示できる。上記のような顔料以外でも使用することができる。例示した顔料の中でも、C.I.ピグメントイエロー13、17、55、74、93、97、98、110、128、139、147、150、151、154、155、180、185、C.I.ピグメントレッド122、202、209、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4が更に好ましい。
【0029】
(分散剤)
本発明を特徴付ける、顔料を分散する分散剤としては、少なくとも疎水セグメント、非イオン性親水セグメント及びイオン性親水セグメントを含むものである。特に、疎水セグメント、非イオン性親水セグメント及びイオン性親水セグメントがこの順に並ぶ構造を有するトリブロックポリマーであることが好ましい。具体的なセグメントの例を挙げると、イオン性親水セグメントとして、アクリル、メタクリル系ブロック共重合体等が挙げられる。また、疎水セグメントとしてポリスチレン等が挙げられる。また、非イオン性親水セグメントとして、ポリオキシエチレン等が挙げられる。これらの従来から知られているブロックセグメントを用いることができる。本発明を実施する上では、ブロックである各セグメントが、ポリビニルエーテル構造を繰り返し単位構造として含有する分散剤が好ましい。特に熱エネルギーを用いたヘッド、即ちサーマルインクジェットヘッドにて、高い駆動周波数、例えば、10KHz以上で駆動させた場合に、上記のブロックポリマーを本発明に用いることにより、吐出性の向上効果はより顕著になる。
【0030】
ポリビニルエーテルのイオン性親水のセグメントの好ましい具体的構造としては、下記一般式(1)で表される繰り返し単位構造が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0031】
【化1】

【0032】
(式中、Rは−X−(COOH)r、−X−(COO−M)rを表す。Xは炭素数1から20までの直鎖状、分岐状または環状のアルキレン基、または−(CH(R)−CH(R)−O)p−(CH)m−もしくは−(CH)m−(O)n−(CH)q−または、それらのメチレン基の少なくとも一つがカルボニル基または芳香環構造で置換された構造を表す。rは1から2を表す。pは1から18までの整数を表す。mは0から35までの整数を表す。nは1または0を表す。qは0から17の整数を表す。Mは一価または多価のカチオンを表す。R、Rはアルキル基を表す。R、Rは同じでも又は異なっていてもよい。)
【0033】
また、更に疎水セグメントあるいは非イオン性親水セグメントの繰り返し単位構造の好ましい具体例としては、下記一般式(2)で表される繰り返し単位構造が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0034】
【化2】

【0035】
(式中、Rは炭素数1から18までの直鎖状、分岐状または環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−(CH(R)−CH(R)−O)p−R及び−(CH)m−(O)n−Rから選ばれ、芳香環中の水素原子は炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルキル基と、また芳香環中の炭素原子は窒素原子とそれぞれ置換していてもよい。pは1から18の整数、mは1から36の整数、nは0または1である。R、Rはそれぞれ独立に水素原子もしくは−CHである。Rは水素原子、炭素数1から18までの直鎖状、分岐状または環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−CHO、−CHCHO、−CO−CH=CH、−CO−C(CH)=CH、−CHCOORから選ばれ、Rが水素原子以外である場合、R中の炭素原子に結合している水素原子は炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルキル基または−F、−Cl、−Brと、また芳香環中の炭素原子は窒素原子とそれぞれ置換することができる。Rは水素原子または炭素数1から5のアルキル基である。Phはフェニル基、Pyrはピリジル基を表す。)
一般式(1)で表される繰り返し単位構造の具体例を以下に示す。
【0036】
【化3】

【0037】
(Mは水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウムを示し、Phはフェニレン基を示す。)
一般式(2)で表される疎水セグメントの繰り返し単位構造の具体例を以下に示す。
【0038】
【化4】

【0039】
(Phはフェニル基またはフェニレン基を示し、C10はナフチル基を示す。)
一般式(2)で表される非イオン性親水セグメントの繰り返し単位構造の具体例を以下に示す。
【0040】
【化5】

【0041】
尚、インク中の分散剤量はインク全量に対して0.5〜10質量%、好ましくは0.8〜8質量%、より好ましくは、1〜6質量%の範囲である。もし、分散剤の含有量がこの範囲よりも高い場合、所望のインク粘度を維持するのが困難となる。
【0042】
また、非イオン性親水セグメントとイオン性親水セグメントを構成するモノマー比はそれぞれ20:1〜1:2の範囲であることが好ましく、10:1〜1:1の範囲であることがより好ましい。更に疎水ブロックセグメント、非イオン性親水セグメント、イオン性親水セグメントを構成するモノマーの重合度比が疎水セグメントを10としたとき、非イオン性親水セグメントが8以下、イオン性親水セグメントが5以下であることも好ましい条件である。この範囲であれば、とりわけポリグリセリンとの併用効果により所望の吐出安定性と画像堅牢性が得られる。
【0043】
(水性媒体)
本発明にかかるインクが含有する水性媒体は、水とポリグリセリンを必須成分とするが、インク中の含有量は、インク全質量に対して、水の場合、30質量%以上であることが好ましく、また、95質量%以下であることが好ましい。ポリグリセリンの場合は、3〜40質量%であることが好ましく、更には、5〜35質量%であることがより好ましい。また、カール抑制効果を考慮すると、ポリグリセリン単独、若しくは他のカール抑制溶剤と併用した場合、その総量はインク全質量に対して、12質量%以上であることが好ましく、更には、15質量%以上であることがより好ましい。更に、使用するポリグリセリンとしてはジグリセリン、トリグリセリンが好ましく、より好ましくはジグリセリンである。好適に併用するカール抑制溶剤としては、分子量200以上1000以下のポリアルキレングリコール、1、2、6−ヘキサントリオール、ソルビトール、トリメチロールプロパン等が特に好ましいが、限定されるものではない。尚、これ以外にも必要に応じて有機溶剤を使用することが可能である。例えば、メチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンタノール等の炭素数1〜5のアルキルアルコール類等が挙げられる。また、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等が挙げられる。また、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1、4−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類等が挙げられる。また、エチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(またはエチル、ブチル)エーテル等のグリコールの低級アルキルエーテル類等が挙げられる。また、トリエチレングリコールジメチル(またはエチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(またはエチル)エーテル等の多価アルコールの低級ジアルキルエーテル類等が挙げられる。また、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類等が挙げられる。また、スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、尿素、エチレン尿素、グリセリン、グルコース、ビスヒドロキシエチルスルフォン等が挙げられる。
【0044】
(界面活性剤)
本発明にかかるインクにおいて、よりバランスのよい吐出安定性を得るためには、インク中に界面活性剤を含有することが好ましい。中でもノニオン界面活性剤を併用することが好適である。ノニオン界面活性剤の中でもポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が特に好ましい。これらのノニオン系界面活性剤のHLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値は、10以上である。こうして併用される界面活性剤の含有量は、インク全量に対して0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜4質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0045】
(その他の添加剤)
また、本発明にかかるインクは、所望の物性値を有するインクとするために、上記した成分の他に必要に応じて、添加剤として、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤等を添加することができる。添加剤の選択はインクの表面張力が25mN/m以上、好ましくは28mN/m以上になるようにすることが好ましい。
【0046】
(記録媒体)
本発明に用いられる記録媒体は、セルロースを含有する。代表的にはいわゆる普通紙である。このような記録媒体に水系インクを多量に付与すると、いわゆるカールという現象が生じ、場合によっては、紙が筒状に丸まってしまう。従って、本発明は、セルロースを含有する記録媒体を用いるインクジェット記録方法に非常に好適に用いることができる。
【0047】
(インクジェット記録装置)
上記のように、カールは、インクが打ち込まれる面積と打ち込み量によって変動し、記録面積としては15cm以上、打ち込み量としては0.03〜30mg/cmの範囲において記録する際にとりわけ顕著な問題になる。従って、本発明は、このような条件のインクジェット記録方法に特に好適に用いることができる。
【0048】
図1は、吐出時に気泡を大気と連通する吐出方式の液体吐出ヘッドとしての液体吐出ヘッド及びこのヘッドを用いる液体吐出装置であるインクジェットプリンタの一例の要部を示す概略斜視図である。
【0049】
図1において、インクジェットプリンタは、ケーシング1008内に長手方向に沿って設けられる記録媒体としての用紙1028を図中に示す矢印Pで示す方向に間欠的に搬送する搬送装置1030を含んで構成されている。更に、搬送装置1030による用紙1028の搬送方向Pに略直交する矢印S方向に、ガイド軸1014に沿って略平行に往復運動せしめられる記録部1010と、記録部1010を往復運動させる駆動手段としての移動駆動部1006とを含んで構成されている。
【0050】
上記搬送装置1030は、互いに略平行に対向配置されている一対のローラユニット1022a及び1022bと、一対のローラユニット1024a及び1024bと、これらの各ローラユニットを駆動させるための駆動部1020とを備えている。かかる構成により、搬送装置1030の駆動部1020が作動状態とされると、用紙1028が、それぞれのローラユニット1022a及び1022bと、ローラユニット1024a及び1024bにより狭持されて、矢印P方向に間欠送りで搬送されることとなる。移動駆動部1006は、所定の間隔をもって対向配置される回転軸に配されるプーリ1026a、及び、プーリ1026bに巻きかけられるベルト1016、ローラユニット1022aを含んで構成されている。更に、ローラユニット1022bに略平行に配置され記録部1010のキャリッジ部材1010aに連結されるベルト1016を、順方向及び逆方向に駆動させるモータ1018とを含んで構成されている。
【0051】
モータ1018が作動状態とされてベルト1016が矢印R方向に回転したとき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは矢印S方向に所定の移動量だけ移動される。また、モータ1018が作動状態とされてベルト1016が図中に示した矢印R方向とは逆方向に回転したとき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは矢印S方向とは反対の方向に所定の移動量だけ移動されることとなる。更に、移動駆動部1006の一端部には、キャリッジ部材1010aのホームポジションとなる位置に、記録部1010の吐出回復処理を行うための回復ユニット1026が記録部1010のインク吐出口配列に対向して設けられている。
【0052】
記録部1010は、インクジェットカートリッジ(以下、単にカートリッジと記述する場合がある)1012Y、1012M、1012C及び1012Bが各色毎にそれぞれ、キャリッジ部材1010aに対して着脱自在に備えられる。
【0053】
図2は、上述のインクジェット記録装置に搭載可能なインクジェットカートリッジの一例を示す。図示した例におけるカートリッジ1012は、シリアルタイプのものであり、インクジェットヘッド100と、インクを収容するインク収容部であるインクタンク1001とで主要部が構成されている。
【0054】
インクジェットヘッド100には、インクを吐出するための多数の吐出口832が形成されており、インクは、インクタンク1001から図示しないインク供給通路を介して液体吐出ヘッド100の共通液室(不図示)へと導かれるようになっている。図2に示したカートリッジ1012は、インクジェットヘッド100とインクタンク1001とを一体的に形成し、必要に応じてインクタンク1001内に液体を補給できるようにしたものである。このインクジェットヘッド100に対し、インクタンク1001を交換可能に連結した構造を採用するようにしてもよい。尚、インクジェットヘッドを備えたインクジェットカートリッジが記録ユニットである。
【実施例】
【0055】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、文中「%」とあるのは特に断りのない限り、質量基準である。
【0056】
(分散樹脂1の調製)
先ず、表1のABC各モノマーを原料として、特開2003−261738号公報等に記載されているカチオンリビング重合法により、重合比A:B:C=110:45:14、数平均分子量Mn=22,000、数平均分子量と重量平均分子量の比Mn/Mw=1.2のABC型ブロックポリマーを作製した。更に得られたポリマーを水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質なポリマー水溶液を得た。更に水分散液中に塩酸で中和してC成分がフリーのカルボン酸になったトリブロックポリマーを得た。尚、化合物の同定はNMR及びGPCを用いた。
【0057】
(顔料分散液(1)の調製)
上記分散樹脂1の調製より得られたカルボン酸型トリブロックポリマー15g、カーボンブラック10gをテトラヒドロフラン(THF)200gに共溶解し、蒸留水400gを用いて水相へ変換した後、THFを除去した。得られた顔料分散液は水分除去により濃度調整を行い、顔料濃度5質量%の顔料分散液(1)を得た。
【0058】
(顔料分散液(2)の調製)
顔料分散液(1)の調製において、カーボンブラックをC.I.ピグメントブルー15:3に代えた以外は同様の手順で顔料分散液(2)を得た。
【0059】
(顔料分散液(3)の調製)
顔料分散液(1)の調製において、カーボンブラックをC.I.ピグメントレッド122に代えた以外は同様の手順で顔料分散液(3)を得た。
【0060】
(顔料分散液(4)の調製)
顔料分散液(1)の調製において、カーボンブラックをC.I.ピグメントイエロー128に代えた以外は同様の手順で顔料分散液(4)を得た。
【0061】
(分散樹脂2の調製)
表2のABC各モノマーを原料として、特開2003−261738号公報等に記載されているカチオンリビング重合法により、重合比A:B:C=95:63:11、Mn=21,000、Mn/Mw=1.3のABC型ブロックポリマーを作製した。更に得られたポリマーを水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質なポリマー水溶液を得た。更に水分散液中に塩酸で中和してC成分がフリーのカルボン酸になったトリブロックポリマーを得た。尚、化合物の同定はNMR及びGPCを用いた。
【0062】
(顔料分散液(5)の調製)
上記分散樹脂2の調製より得られたカルボン酸型トリブロックポリマー12g、カーボンブラック12gをテトラヒドロフラン(THF)200gに共溶解し、蒸留水400gを用いて水相へ変換した後、THFを除去した。得られた顔料分散液は水分除去により濃度調整を行い、顔料濃度5質量%の顔料分散液(5)を得た。
【0063】
(顔料分散液(6)の調製)
顔料分散液(5)の調製において、カーボンブラックをC.I.ピグメントブルー15:3に代えた以外は同様の手順で顔料分散液(6)を得た。
【0064】
(顔料分散液(7)の調製)
顔料分散液(5)の調製において、カーボンブラックをC.I.ピグメントレッド122に代えた以外は同様の手順で顔料分散液(7)を得た。
【0065】
(顔料分散液(8)の調製)
顔料分散液(5)の調製において、カーボンブラックをC.I.ピグメントイエロー128に代えた以外は同様の手順で顔料分散液(8)を得た。
【0066】
(分散樹脂3の調製)
表1のAB各モノマーを原料として、特開2003−261738号公報等に記載されているカチオンリビング重合法により、重合比A:B=105:42、Mn=18,000、Mn/Mw=1.2のAB型ジブロックポリマーを作製した。尚、化合物の同定はNMR及びGPCを用いた。
【0067】
【表1】

【0068】
(顔料分散液(9)の調製)
上記分散樹脂3の調製より得られたAB型ジブロックポリマー15g、カーボンブラック10gをテトラヒドロフラン(THF)200gに共溶解し、蒸留水400gを用いて水相へ変換した後、THFを除去した。得られた顔料分散液は水分除去により濃度調整を行い、顔料濃度5質量%の顔料分散液(9)を得た。
【0069】
(分散樹脂4の調製)
表2のABC各モノマーを原料として、常法のランダム重合法により、重合比A:B:C=95:63:11、Mn=21,000、Mn/Mw=1.3のランダムポリマーを作製した。更に得られたポリマーを水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質なポリマー水溶液を得た。更に水分散液中に塩酸で中和してC成分がフリーのカルボン酸になったランダムポリマーを得た。尚、化合物の同定はNMR及びGPCを用いた。
【0070】
【表2】

【0071】
(顔料分散液(10)の調製)
上記分散樹脂4の調製より得られたランダムポリマーを12g、C.I.ピグメントブルー15:3を12gをテトラヒドロフラン(THF)200gに共溶解し、蒸留水400gを用いて水相へ変換した後、THFを除去した。得られた顔料分散液は水分除去により濃度調整を行い、顔料濃度5質量%の顔料分散液(10)を得た。
【0072】
(インク1〜16の調製)
インク1〜16の調製は、上記の顔料分散液(1)〜(10)を使用し、表3の処方で各成分を加えて所定の濃度にし、これらを十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過した。
【0073】
【表3】

【0074】
<評価>
実施例1〜10及び比較例1〜12で得られたインク1〜22を、下記のようにして評価した。
【0075】
[評価項目]
(1)駆動電圧依存性
キヤノン製インクジェットプリンタ(商品名:BJF900)の記録ヘッドを用い、駆動周波数5.0kHz、電圧14、15、16、17Vの4点で吐出させたときの吐出速度を各々測定し、吐出安定性を判定した。評価結果を下記表4に示した。
A:全ての電圧において8m/sec以上
B:8m/sec以下のときが1点ある
C:8m/sec以下のときが2点以上ある
(2)駆動周波数応答性
上記記録ヘッドを用いて、駆動周波数0.1kHzで吐出させ、徐々に周波数を上げてゆき、吐出形状が主滴の存在しない形状の不安定な吐出になった時点で周波数を測定し、判定した。評価結果を下記表4に示した。
A:10kHzを超える
B:5〜10kHz
C:5kHz未満
(3)耐カール性
キヤノン(株)製インクジェットプリンタ(商品名:BJF900)を用いてA4サイズのキヤノン(株)製PPC用紙NSKに紙の上下左右1cmを残し、印字濃度100%でベタ印字を行った。得られた記録物を25℃/55%環境下に置き、1日後の状態を観察し、目視で評価した。評価基準は以下の通りである。評価結果を下記表4に示した。
A:ほぼ平らな状態を保っている
B:端の部分が立ち上がっている
C:筒状になっている
(4)耐マーカー性
キヤノン製インクジェットプリンタ(商品名:BJF900)を用いてA4サイズのキヤノン(株)製PPC用紙に文字パターンを印字し、1分後及び1時間後に印字部をラインマーカーでなぞった。評価結果を下記表4に示した。
A:1分後及び1時間後とも印字部にインクの尾引きが見られない
B:1分後の印字部ではインクの尾引きが見られるが、1時間後は見られない
C:1分後及び1時間後とも印字部にインクの尾引きが見られる
【0076】
【表4】

【0077】
上記表4の評価(1)〜(4)の結果より、実施例1〜8における本発明のインクは何れも、良好なインクジェット吐出適性と耐カール性及び耐マーカー性を備えたものであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】液体吐出ヘッドを搭載可能なインクジェットプリンタの一例の要部を示す概略斜視図である。
【図2】液体吐出ヘッドを備えたインクジェットカートリッジの一例を示す概略斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体、水不溶性色材、該水不溶性色材を該水性媒体に分散させるための分散剤を含有するインクジェット記録用インクにおいて、該インクジェット記録用インクがポリグリセリンを含有し、該分散剤が疎水セグメント、非イオン性親水セグメント及びイオン性親水セグメントを含むブロックポリマーであることを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項2】
分散剤が疎水セグメント、非イオン性親水セグメント及びイオン性親水セグメントの順に並ぶ構造を有するトリブロックポリマーである請求項1記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
非イオン性親水セグメントとイオン性親水セグメントを構成するモノマーの重合度比が20:1〜1:2の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項4】
疎水セグメント、非イオン性親水セグメント、イオン性親水セグメントを構成するモノマーの重合度比が疎水セグメントを10としたとき、非イオン性親水セグメントが8以下、イオン性親水セグメントが5以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項5】
ブロックポリマーが、ポリビニルエーテル構造を繰り返し単位構造として含有することを特徴とする請求項1〜4記載のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項6】
ポリグリセリンがジグリセリンである請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクをインクジェットヘッドを用いて記録面積が15cm以上であるセルロースを含有する記録媒体に対して、打ち込み量を0.03〜30mg/cmの範囲として記録する工程を有するインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記セルロースを含有する記録媒体が普通紙である請求項7に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記インクジェットヘッドが、サーマルインクジェットヘッドである請求項7または8に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクを収容しているインク収容部と、該インクを吐出させるインクジェットヘッドとを具備しているインクジェット記録装置。
【請求項11】
該インクジェットヘッドが、サーマルインクジェットヘッドである請求項10に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−144077(P2010−144077A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323636(P2008−323636)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】