説明

インクジェット記録用インク組成物

【課題】 市場で使われているあらゆる種類の印刷用紙に対して、熱源がなくても高速で定着し、高画質で堅牢性の高い画像を形成できるインクジェット用インク組成物を提供する。
【解決手段】
1,3ジオキソラン−2−オンとこれに可溶な染料と、シリカゾルおよび/またはアルミナゾルを必須成分とし、全重量の20〜70%を占めることを特徴とするインクジェット記録用インク組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録に用いるインク組成物に関する。
【0002】
本発明は特にインクジェット方式による高速のデジタル印刷に適した、高濃度で解像度の高い画像を提供するインク組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
インクジェット記録技術は、オフィス或いはホーム用のデスクトッププリンターのみならず、大版広告媒体への印刷やチラシ、請求書ラベル、カードなどの商業印刷。更には、液晶ディスプレイ用のカラーフィルター、液晶の配向膜、有機ELディスプレイ太陽電池などの産業用エレクトロニクスへの分野への応用範囲が広がっている。
インクジェット記録で使用されるインクはその応用分野によって水性のインク、油性のインク、有機溶剤タイプのインク、或いはUV硬化型インクなどが知られている。
本発明のインクジェット記録用インク組成物は特に紙への商業印刷に適するものである。
【先行技術文献】
商業印刷に適したインクとしては、競合技術である電子写真技術による印刷物に劣らぬ高画質と耐久性が要求される。そのためにインクが特別な工夫をこらしたものが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1は融点が90℃以下の化合物に着色剤と可塑剤をこんどうしてなる固体インクを使う方法が開示されている。
このインクは常温で固体のため、電子写真技術のトナー画像と同等な高解像度で、水ににじむことのない画像が得られる。一方でインクを加熱して液化した状態でインクジェットヘッドのノズルからインクを吐出させなければならない。そのためプリンターのスイッチをオンの状態にしてもインクが加熱されて液化するまで待たないと印刷をスタートすることが出来ないという欠点がある。
【0005】
特許文献2には、ポリアリルアミンを含有する色の無いインクとアニオン系の染料インクと紙の上で反応させる方法が開示されている。
カチオン系ポリマーとアニオン系染料が紙の上で化学反応を起こして、水に不溶のキレート化合物を生成させることにより、耐水性がよく、にじみの少ない画像が得られる。この方法の欠点はYMCBのカラーインク用プリントヘッドのほかにカチオンポリマー用のプリントヘッドが必要となり、その分コストアップとなる。更にインクの水分が通常の2倍となるので、紙のコックリング等が起き易いという欠点を有する。
【0006】
特許文献3には画像を形成する紙の表面に、インク中の染料または顔料から成る着色剤の分散性または溶解性を低下せしめる化合物を前処理液として、あらかじめ付与した後、インクを吐出して記録する方法が開示されている。この方法によれば特許文献2に示した例と同様に耐水性が良く、にじみの少ない画像が得られる反面、紙などの被記録材の表面にあらかじめ前処理液を塗布する工程が必要で煩雑と成る。特許文献2及び3に示した例はいずれもインク乾燥のため熱風等を付与する装置を必要とする場合が多い。
【0007】
特許文献4は顔料、顔料分散材および溶剤を主要構成成分とする非水系インクが開示されている。このインクはほぼ完璧な耐水性を有する反面、紙への被記録材によく浸透し、通常のコピー用紙等へ印刷すると裏抜けを起こし、表面の画像濃度が低いという欠点がある。そのため裏抜けを起こしにくい。特別に設計された被記録材を必要としている。
【特許文献1】特開2006−283020
【特許文献2】特開平8−20720
【特許文献3】特開2002−79739
【特許文献4】特開2006−83312
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2,3,4をはじめとする従来のインクジェットインク及びその記録方法いずれも一長一短があり、オフセット印刷用紙、コピー用紙など市場で広く使用されている被記録材すなわち広範な紙の種類に対して、高い画像の濃度でにじみが無く、完全な耐水性および耐摩擦製(マーカー等でなぞっても色のにじみの無い性質)を有するインクは知られていない。
最近、インクジェットによるデジタル印刷への要求が高まっており、すでに数機種の高速印刷装置が実用化されている。請求書の印刷などの場合、あらかじめ請求項目などはオフセット印刷で印刷されており、数字の部分だけがインクジェットで印刷されることが多い。ここで使われる紙は従来のオフセット印刷用紙であるのでインクジェットに水系インクを使用すると高速で定着させることが出来ない。このため、多くの場合、熱風の乾燥或いは加熱された定着ローラーの使用が必須となり、装置の大型化及びエネルギー消費の非効率化をまねく欠点がある。
【0009】
インクジェットによるデジタル印刷に適したインクを提供する本発明は市場で使用されているオフセット印刷用紙、グラビヤ印刷用紙、電子写真印刷用紙、あるいはインクジェット印刷用紙に対して、特に熱源を用いる定着方式を使用せず、常温で高速にインクを定着することが出来、高画質で耐水性、耐摩擦性の良い画像を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、常温で固体の溶媒を主溶媒とし、この溶媒に可溶な染料とシリカゾル、および/またはアルミナゾルを必須成分として含有し、必要によりこの溶媒に可溶なポリマーをバインダーとするので、インクとしての蒸発成分が少なく、定着が容易なので、特別な乾燥装置がなくても高速印刷が可能となる。
常温で固体の溶媒と常温で液体の溶媒を併用することにより、常温で液体でありながら、不揮発成分(固型分)の高いインクを提供する。本発明の第一の必須成分1.3ジオキソラン−2−オン(別名:エチレンカボネート)は常温で固体の溶媒で、無味、無臭。化学的な安定性が高く、毒性の極めて低い化合物として知られており、水、アルコール、ケトン、エステル系の溶剤と自由に溶け合い、各種高分子化合物に対する溶解能が大きい。その融点は36.4℃であり、それ以上の温度で低粘度の液体となる。加熱液化した液体を常温に放置すると液晶化して析出する。
このような特徴はインクジェットインクの性質としては極めて好ましいものである。1.3ジオキソラン−2−オンの最も好ましい含有量は全体の20−65重量%である。
【0011】
本発明の第ニの必須成分は1.3ジオキソラン−2−オンを加熱して液状にした溶媒に可溶な染料であり、市販の有機溶剤可溶型染料として知られる染料の多くがこれに該当する。
具体的にはプロジェットブラックALC(Fuji Film Imaging Corants 社製)。オラゾールイエロー4GN、オラゾールブルーGN、オラゾールピンク 5BLG、オラゾールブラックRLI(CIBA 社製)。Bonjet Black0052、Bonjet Black AS−0850、Bonjet Black BC261,VALIFAST Black1807、VALIFAST Black3804、VALIFAST Black3810、VALIFAST Blue1603、VALIFAST Blue2620、VALIFAST Pink2310N、VALIFAST Yellow1101、VALIFAST Yellow3120、VALIFAST Yellow4120,Oil Black860(オリエント化学工業社製)などが挙げられる。
ここに挙げた染料はアルコール可溶やケトン、グリコールなどの有機溶剤に可溶な市販染料の1例であり、これだけに限定されるものではない。これらの染料の好ましい含有量は全体の1〜5重量%である。
【0012】
本発明の第三の必須成分はシリカゾルまたはアルミナゾルである。これらはそれぞれ単独で用いても良いし併用しても良い。本発明の第一の必須成分の1,3ジオキソラン−2オンと第2の必須成分であるこれに可溶な染料にシリカゾルおよび/またはアルミナゾルを併用することにより、画像濃度が高く、乾燥性、耐水性、のきわめて優れたインク組成物が得られる。
シリカゾルは、無水珪酸の超微粒子をコロイド溶液として、水または有機溶剤に分散せしめたものが各種市販されている。本発明に使用するシリカゾルは水に分散されたもの及び有機溶剤に分散されたもののいずれも使用可能であるが、比較的粘性の低い有機溶剤分散タイプが特に好ましく用いられる。
アルミナゾルは、アルミナ水和物(ベーマイト)コロイド微粒子が、陰イオンを安定剤として水中に分散したものが市販されている。シリカゾルもアルミナゾルも1,3−ジオキソラン−2−オンとは、相溶性が良く、任意の比率で安定に混和することが出来る。
【0013】
本発明においてその他の好ましい成分は、1.3ジオキソラン−2−オンを加熱して液状にした溶媒に可溶な高分子化合物であり、その溶解度パラメーターが9〜14の範囲にあるものが時に適している。
具体的には酢酸セルロース、ニトロセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、などのセルロース類。ポリヒドロキシエチルアクリレート及びその共重合体、ポロジメチルアミノエチルアクリレート及びその共重合体、ポリアクリロニトリル及びその共重合体等のポリアクリレート及びその共重合体、ポリアミド類、マレイン酸レジンポリビニルアセテート及びその共重合体、ポリビニルブチラール等のポリマーが挙げられる。
これらの高分子化合物の最も好ましい含有量は全体の0.1〜5重量%である。
【0014】
本発明の必須成分(1)、(2)の残りの成分としては水或いは水混和性のあるアルコール類、グリコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、アミン類から選ばれ、極性パラメーターが40〜55kcal/molの範囲にある溶媒が用いられる。
具体的にはエチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、ブチルカルビトール、ジアセトンアルコール、N−メチルポロリドン、ガンマブチロラクトン、トリエタノールアミン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
【0015】
本発明のインク組成物は上記の必須成分のほかに各種界面活性剤、分散材、PH調整剤、防腐剤、消泡剤等の助剤を添加することが出来る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば
(1)本発明のインクによって記録された画像はマーカーペンでこすっても汚れを生じない。
(2)市場で使用されている広範な紙種に対応し、高画質を実現する。
(3)インク乾燥、定着のための熱源を必要としない。
(4)着色剤として染料を使用するので顔料を使用した場合のような色材の沈降、凝集によるノズルの目詰まりを起こす心配がない。
(5)印刷された画像は染料画像なので紙のリサイクルが容易である。
などの長所が見込める。
【0017】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものはない。
【0018】
実施例1
1.3ジオキソラン−2−オン (50gr)
プロピレンカーボネート (20gr)
シリカゾル(日産化学社製スノーテックスEG−ST)(10gr)
エチルアルコール (17gr)
オラゾ−ルブラックRLI(CIBA社染料) (3gr)
をビーカーに入れ、40℃に加温して固形物が完全に溶解するまで撹拌し均一な溶液とした後、常温に冷却し、ポアサイズ0.1ミクロンノメンブランフィルターを用いて加圧ろ過を行い、黒色のインクのインク組成物を得た。
インクジェット吐出装置として株式会社トライテック社製のPatterning Jetを用いた。
プリントヘッドはコニカミノルタ製KM512を用いた。各種の記録用紙にテストパターンを印刷し、画像の濃度及び耐摩擦性を測定評価した。耐摩擦性は印刷の1分後にぺんてる社製イエロー蛍光ペンHandy Linesでこすり、汚れ具合を評価した。光学濃度は100%のベタ印刷部をマクベス反射濃度計RD−918を用いて測定した。いずれの場合も高い画像濃度と優れた耐摩擦性(注1)を示した。

【0019】
比較例1〜2
比較例として以下に示す組成で実施例1と同様な方法でインク組成物を調整した。
実施例1と同様の
インクジェット吐出装置を用いて各種の記録紙に印刷。同様な方法で画像濃度と耐摩擦性を評価した。結果を以下の表に示した。
比較例▲1▼
1,3ジオキソラン−2−オン (50g)
プロピレンカーボネート (30gr)
オラゾールブラックRLI (3gr)
エチルアルコール (17gr)
比較例▲2▼
1.3ジオキソラン−2−オン (10gr)
プロピレンカーボネート (35gr)
トリエチレングリコールモノメチルエーテル (25gr)
プロジェットブラックALC (3gr)
エチルアルコール (17gr)
蒸留水 (10gr)

【0020】
実施例2〜5
実施例2〜5として以下に示す組成で実施例1と同様な方法でインク組成物を調整し、同様に各種記録紙に印刷し、画像濃度と耐摩擦製を評価した。以下に組成と評価結果を示すいずれも優れた画像濃度を示した。インクジェット吐出装置はトライテック社のOne Pass Jetを用いた。
プリントヘッドは京セラ社製を使用し、600DPIで印刷した。
実施例2
1.3ジオキソラン−2−オン (45gr)
ガンマブチロラクトン (15gr)
ジアセトンアルコール (20gr)
トリエタノールアミン (6gr)
シリカゾル(スノーテックスNPC−ST:日産化学製)(10gr)
ポリアクリロニトリル (1gr)
プロジェットブラックALC (3gr)
実施例3
1.3ジオキソラン−2−オン (45gr)
プロピレンカーボネート (20gr)
ジメチルイミダゾリジノン (5gr)
アルミナゾルー520(日産化学製)(17gr)
蒸留水 (10gr)
VALIFAST PINK2310N (3gr)
実施例4
1.3ジオキソラン−2−オン (40gr)
イソプロピルアルコール (20gr)
トリエチレングリコールモノメチルエーテル (16gr)
シリカゾルEG−ST (20gr)
ポリアクリロニトリル (1gr)
オラゾールブルーGN (3gr)
実施例5
1.3ジオキソラン−2−オン (48gr)
プロピレンカーボネート (15gr)
イソプロピルアルコール (15gr)
トリエタノールアミン (5gr)
シリカゾルNPC−ST (5gr)
アルミナゾル200 (5gr)
蒸留水 (5gr)
アセチレノールE−40(川研ファインケミカル社) (0.1gr)
オラゾールイエロー4GN (2gr)

【0021】
実施例2〜5に示したイエロー、シアン、マゼンダ、ブラックの4色のインク組成物を用いて、実施例1と同様のトライテック社製Patterning Jetを用いて4色インクを同時搭載し、財団法人日本規格協会発行の高精細カラーディジタル標準画像データISOIJIS−SCIFサンプル画像N5Aを各種記録紙に印刷したところ、いずれも画像のにじみの無い、鮮明な画像が得られた。
印刷1分後に指でこすって、耐摩擦性を評価した結果を以下に示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(1)1.3ジオキソラン−2−オンと(2)この化合物に可溶な染料と(3)シリカゾルおよび/またはアルミナゾルを必須成分とし(1)(2)(3)の合計が全重量の20〜70重量%を占めることを特徴とするインクジェット記録用インク組成物
【請求項2】
少なくとも請求項1に示した必須成分に加えて、1.3ジオキソラン−2−オンに可溶な高分子化合物を0.5〜20重量%含有することを特徴とするインクジェット記録用インク組成物
【請求項3】
請求項1に示した必須成分の残りの溶媒成分が水或いは水混和性のあるアルコール類、グリコール類、エステル類、ケトン類、アミン類から選ばれ、その溶媒極性パラメーターが40〜55kcal/molの範囲にある溶媒を含有することを特徴とするインクジェット記録用インク組成物
【請求項4】
請求項2の高分子化合物の溶解度パラメーターが9〜14の範囲にある高分子化合物であることを特徴とするインクジェット記録用インク組成物

【公開番号】特開2012−57138(P2012−57138A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211341(P2010−211341)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(510152002)
【Fターム(参考)】