説明

インクジェット記録用インク

【課題】銅フタロシアニン顔料を着色剤として使用し、しかもチアゾール系化合物も併用しながらも、防黴性を損なうことなく、優れた耐オゾン性を示し、しかも析出物を生じさせないインクジェット記録用インクを提供する。
【解決手段】着色剤として銅フタロシアニン顔料と、チアゾール系化合物とを含んでなるインクジェット記録用インクにおいて、金属フタロシアニン化合物として、そのカウンターイオンのうち2〜20モル%がアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンであるものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用インクに対する重要な要求特性の一つとして、良好な耐オゾン性を示すことが挙げられる。これは、インクジェット印字物が大気中に存在するオゾンとの接触に起因する褪色(画像品位の低下)を防止することである。ところで、シアン色のインクジェット記録用インクの着色剤として、マゼンタ色やイエロー色に比べて優れた耐光性を有する銅フタロシアニン染料が用いられているが、耐オゾン性が充分とは言えなかった。そこで、耐光性のみならず耐オゾン性にも優れている銅フタロシアニン顔料が使用されるようになっている。
【0003】
また、インクジェット記録用インクに対する別の重要な要求特性の一つとして、黴が発生し難いという性質を示すことが挙げられる。これは、黴が発生すると黴自体が異物となるため、インクジェットヘッドのノズルからのインクの噴射安定性が低下し、ノズルの目詰まりが生じるからである。このため、着色剤として銅フタロシアニン顔料を使用するか否かに関わらず、インクジェット記録用インクに、防黴剤としてチアゾール系化合物の添加が行われている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、チアゾール系化合物からなる防黴剤を添加したインクジェット記録用インクにあっては、黴の発生は抑制されるものの、析出物の発生が観察されるという問題があった。特に、この傾向は、着色剤として銅フタロシアニン顔料を使用した場合に顕著であった。また、インクジェットヘッドのインク流路内でインクと接触する金属材料の腐食を防止するために、ベンゾトリアゾール系化合物からなる防錆剤を付加的にインクに配合する場合があり、その場合にはインク中における析出物の発生の頻度がさらに増大するという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−355665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の課題を解決しようとするものであり、銅フタロシアニン顔料を着色剤として使用し、且つチアゾール系化合物を使用しながらも、防黴性を損なうことなく、優れた耐オゾン性を示し、しかも析出物を発生させないインクジェット記録用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、チアゾール系化合物と着色剤として銅フタロシアニン顔料とを使用したインクジェット記録用インクに、カウンターイオンのうち特定割合をアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンとした金属フタロシアニン化合物を共存させることにより上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、チアゾール系化合物と銅フタロシアニン顔料とを含むインクジェット記録用インクであって、更に、カウンターイオンを有する金属フタロシアニン化合物を含有し、該カウンターイオンの2〜20モル%がアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンであるインクジェット記録用インクを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインクジェット記録用インクは、カウンターイオンのうち2〜20モル%がアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンである金属フタロシアニン化合物を含有しているので、チアゾール系化合物と銅フタロシアニン顔料とを含有しているにも拘わらず、析出物の発生が大きく抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のインクジェット記録用インクは、チアゾール系化合物と、着色剤として銅フタロシアニン顔料とを含む。本発明で使用する銅フタロシアニン顔料とは、フタロシアニン骨格中心に銅が配位した非水溶性の着色剤である。銅フタロシアニン顔料としては、C.I.ピグメントブルー15:x(xは1〜6の整数)、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36等が挙げられる。中でも色相の点から、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:3又はC.I.ピグメントブルー15:6等が好ましく使用できる。
【0011】
本発明のインクジェット記録用インクは、さらに、カウンターイオンの2〜20モル%、好ましくは2〜15モル%がアンモニウムイオン(NH4+)又は有機アンモニウムイオンである金属フタロシアニン化合物を含有する。この金属フタロシアニン化合物は、析出物の発生を抑制するために添加するが、多くはそれ自体が染料としても機能する。配位する金属としては、Al、Cu、Ni、Fe、Co等が挙げられるが、色相及び色目の点からCuが好ましい。
【0012】
なお、金属フタロシアニン化合物のカウンターイオン中のアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンの含有割合が2〜20モル%である理由は、2モル%未満であると、チアゾール系化合物が原因と思われる析出物の発生を抑制できず、インクジェット記録用インクの噴射安定性が低下し、20モル%を超えるとゴム部材由来の析出物の発生の危険性が増大するからである。また、カウンターイオンのうち2〜20モル%がアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンであると、ベンゾトリアゾール系化合物からなる防錆剤を併用しても、析出物の発生を抑制することができる。
【0013】
また、有機アンモニウムイオンとは、NH4+の水素を1〜4個のアルキル基(メチル基、エチル基等)やヒドロキシアルキル基(ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基等)で置換したものであり、例えば、モノメチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン及びテトラメチルアンモニウムイオン等を挙げることができる。
【0014】
金属フタロシアニン化合物のカウンターイオンの2〜20モル%をアンモニウムイオン(NH4+)又は有機アンモニウムイオンとする方法としては、アルカリ金属イオン等のカウンターイオンを有する金属フタロシアニン化合物をアンモニア水や有機アンモニウムハイドロオキサイド水溶液で処理すればよい。金属フタロシアニン化合物中のカウンターイオン量は、市販の陽イオンクロマトグラフィー装置により測定可能である。
【0015】
以上説明した金属フタロシアン化合物の中でも好ましい化合物としては、カウンターイオンの2〜20モル%がアンモニウムイオン(NH4+)又は有機アンモニウムイオンである銅フタロシアニン染料である。
【0016】
本発明で使用できる好ましい銅フタロシアニン染料としては、C.I.ダイレクトブルー86、C.I.ダイレクトブルー199等を挙げることができる。中でも色目及び耐光性の点から、C.I.ダイレクトブルー199が挙げられる。
【0017】
C.I.ダイレクトブルー199とは、例えば、一般式(1)で表される銅フタロシアニン染料である。
【0018】

(一般式(1))

(一般式(2))


【0019】
一般式(1)中、Pc(Cu)は一般式(2)で表される銅フタロシアニン核を表す。置換基SOY基(ここで、Yはカウンターイオンを表し、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオン等である。)及びSONH基は、一般式(2)で表される銅フタロシアニン核中の4つのベンゼン環A、B、C及びDのいずれかに存在する。
【0020】
C.I.ダイレクトブルー199は、例えば以下の工程(i)及び(ii)からなる公知の銅フタロシアニン置換方法等により製造することができる。
【0021】
工程(i)
まず、クロロスルホン化剤を用いて銅フタロシアニンをクロロスルホン化する。クロロスルホン化剤としては、例えば、クロロスルホン酸と塩素化剤(オキシ塩化リン又は三塩化リン)との混合物を含んだものを使用する。クロロスルホン酸と銅フタロシアニン化合物のモル比(クロロスルホン酸:銅フタロシアニン化合物)は、5:1〜200:1の範囲が好ましく、塩素化剤と銅フタロシアニンのモル比(塩素化剤:銅フタロシアニン)は、0.5:1〜10:1の範囲が好ましい。
【0022】
このクロロスルホン化反応は、90〜180℃の範囲の温度で0.5〜16時間行われる。一般に、クロロスルホン化の反応時間は反応温度に依存しており、反応温度がより高ければ短くなり、温度がより低ければ長くなる傾向にある。クロロスルホン化反応のより好ましい温度と時間の条件は、135〜145℃で1.5〜5.0時間である。
【0023】
さらに、このクロロスルホン化剤は硫酸を含んでいてもよい。クロロスルホン化剤が硫酸を含有する場合、硫酸と銅フタロシアニン化合物のモル比(硫酸:銅フタロシアニン化合物)は、好ましくは0.3:1〜2:1の範囲である。
【0024】
工程(ii)
次に、工程(i)で得られた生成物を、必要に応じてカウンターイオンの少なくとも一部がアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンとなるように、アンモニア又は有機アミンと縮合させて、C.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンのうち2〜20モル%がアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンであるものを得る。
【0025】
具体的には、この工程は3〜35重量%の水酸化アンモニウム又は水酸化有機アンモニウムを用いて0〜50℃の反応温度で行なわれる。一般に、この反応時間は反応温度に依存しており、反応温度がより高ければ短くなり、反応温度がより低ければ長くなる傾向にある。縮合反応の好ましい温度と時間の条件は、0〜45℃で0.5〜24時間である。
【0026】
本発明のインクジェット記録用インク中の銅フタロシアニン顔料の含有量としては、インクの性能及び要求特性により適宜決められるが、インクジェット記録用インク全量に対して、好ましくは0.05〜5.0重量%である。なお、本発明の効果を損なわない範囲で他の着色剤も併用することができる。
【0027】
本発明のインクジェット記録用インクにおいて、銅フタロシアニン顔料は、分散剤又は界面活性剤により水性媒体中に分散させて得られた顔料分散液として添加されるのが好ましい。分散剤としては、顔料分散液の調製に慣用されている分散剤、例えば高分子分散剤を使用することができ、高分子分散剤としては天然高分子及び合成高分子が挙げられる。天然高分子の具体例としては、にかわ、ゼラチン、カゼイン、アルブミン等のタンパク質;アラビアゴム、トラガントゴム等の天然ゴム;サポニン等のグルコシド;アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン及びアルギン酸アンモニウム等のアルギン酸誘導体;メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース等のセルロース誘導体;等が挙げられる。また、合成高分子の具体例としては、ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体等のアクリル系樹脂;スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体等のスチレン−(メタ)アクリル樹脂;酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等の酢酸ビニル系共重合体;スチレン−マレイン酸共重合体;スチレン−無水マレイン酸共重合体;ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体;ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体;及びこれらの塩が挙げられる。これらの中で、特に疎水性基を持つモノマーと親水性基を持つモノマーとの共重合体、及び疎水性基と親水性基を分子構造中に併せ持つモノマーからなる重合体が好ましい。
【0028】
インクジェット記録用インク全量に対する銅フタロシアニン顔料と金属フタロシアニン化合物との合計含有量は、好ましくは0.1〜5.0重量%である。
【0029】
また、インクジェット記録用インクにおける銅フタロシアニン顔料と金属フタロシアニン化合物の重量比は、銅フタロシアニン顔料が相対的に少ないと耐オゾン性が低下し、多すぎても析出を抑制できないので、好ましくは70:30〜95:5である。
【0030】
本発明のインクジェット記録用インクは、チアゾール系化合物を含有する。チアゾール系化合物は、防黴剤として機能する。チアゾール系化合物としては、ベンズイソチアゾリン、イソチアゾリン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−(チオシアノメチルチオ)ベンズチアゾール、2−メルカプトベンズチアゾール及び3−アリルオキシ−1,2−ベンズイソチアゾール−1,1−オキシド等を挙げることができる。また、チアゾール系防黴剤としてアーチ・ケミカルズ(株)より製造販売されているProxelシリーズ(BDN,BD20,GXL,LV,XL2及びUltra10等)を使用することもできる。
【0031】
インクジェット記録用インク中におけるチアゾール系化合物の含有量は、少な過ぎると防黴効果が期待できず、多すぎると析出物発生の危険性が増大するので、インクジェット記録用インク全量に対して好ましくは、10〜500ppm、より好ましくは100〜500ppmである。
【0032】
本発明のインクジェット記録用インクは、インクジェットヘッドを構成する金属材料(特に、42合金(42%ニッケルを含有するニッケル−鉄合金))がインクとの接触を原因の一つとする錆の発生を防止するために、さらに防錆剤としてベンゾトリアゾール系化合物を配合することが好ましい。ベンゾトリアゾール系化合物としては、1H−ベンゾトリアゾール、4−メチル−1H−ベンゾトリアゾール、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール及びこれらのナトリウム塩又はカリウム塩等を挙げることができる。
【0033】
インクジェット記録用インク中におけるベンゾトリアゾール系化合物の含有量は、少な過ぎると防錆効果が期待できず、多すぎると析出物発生の危険性が増大するので、インクジェット記録用インク全量に対して好ましくは0〜0.5重量%、より好ましくは0.01〜0.5重量%、特に好ましくは0.01〜0.2重量%である。
【0034】
次に、本発明のインクジェット記録用インクを構成する水及び水溶性有機溶剤について説明する。
【0035】
本発明で使用する水としては、塩類の少ないイオン交換水が好ましい。インクジェット記録用インク中における水の含有量は、他の成分の残部という位置づけであるから、他の成分の含有量に依存するが、通常、インクジェット記録用インク全量に対して、10〜90重量%、好ましくは40〜80重量%である。
【0036】
本発明で使用する水溶性有機溶剤としては、主としてインクジェットヘッドのノズル先端部におけるインクの乾燥を防止するための湿潤剤と、主として記録紙面上での乾燥速度を速くするための浸透剤とが含まれる。
【0037】
湿潤剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、ペトリオール等の多価アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブチレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等のアルキレングリコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン等;1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ε−カプロラクタム等の含窒素複素環化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物;等が挙げられる。中でも、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0038】
インクジェット記録用インク中における湿潤剤の含有量は、インクジェット記録用インク全量に対して、一般的には0〜95重量%、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは10〜50重量%である。これら湿潤剤は、単独又は2種類以上を混合して用いることも可能である。
【0039】
一方、浸透剤としては、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジプロピルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコールプロピルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジプロピルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる。
【0040】
インクジェット記録用インク中における浸透剤の含有量は、インクジェット記録用インク全量に対して、一般的には0〜20重量%、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは1〜10重量%である。なお、含有量が過剰であると、インクの記録紙への浸透性が高くなりすぎて滲みの原因となってしまうことがある点に留意が必要である。これら浸透剤は、単独又は2種類以上を混合して用いることも可能である。
【0041】
本発明のインクジェット記録用インクは、さらに必要に応じて、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及び水溶性樹脂等の粘度調整剤;表面張力調整剤;pH調整剤等の従来公知の添加剤を含有していてもよい。
【0042】
本発明のインクジェット記録用インクは、上述の銅フタロシアニン顔料、チアゾール系化合物、カウンターイオンの2〜20モル%がアンモニウムイオン(NH4+)又は有機アンモニウムイオンである金属フタロシアニン化合物に、必要に応じて、水、水溶性有機溶剤、その他各種添加剤を加えて調製することができる。
【0043】
本発明のインクジェット記録用インクは、上述の成分を常法に従って、溶解、分散又は混合することによって製造することができる。好ましくは、まず銅フタロシアニン顔料、分散剤及び水を分散機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミル等)を用いて混合し、均一な顔料分散液を調製する。次いで、水、湿潤剤、浸透剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤等の添加剤を加え、充分溶解させてインク溶液を調製する。充分に撹拌した後、目詰まりの原因となる粗大粒子及び異物を除去するために濾過を行って、インクジェット記録用インクを得る。
【実施例】
【0044】
実施例1〜9及び比較例1〜6
表1に示すインク組成を均一に混合することにより、インクジェット記録用インクを調製した。金属フタロシアニン化合物中のアンモニウムイオン以外のカウンターイオン種は、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオン等の1価の金属イオンであった。
【0045】
なお、金属フタロシアニン化合物中のアンモニウムイオンの測定には日本ダイオネクス(株)製DX−500シリーズを用いた。測定の際、分離カラムとして日本ダイオネクス(株)製ION Pac CG16を用い、恒温槽温度45℃、サプレッサとして日本ダイオネクス(株)製CMMS III 4mmを用いた。
【0046】
<<評価>>
インクジェット記録用インクについて、保存安定性(濾過試験)、噴射安定性、耐久噴射安定性、防黴性、防錆性、ゴム析出性、光沢感及び耐オゾン性を、以下に説明するように試験評価した。得られた結果を表1に示す。
【0047】
<保存安定性(濾過試験)>
インクジェット記録用インク100mLをガラス容器内に密閉し、60℃の恒温槽中に14日間放置した後、インク50mLを孔径1.0μmの親水性メンブランフィルタで濾過を行い、メンブランフィルタ上の析出物の有無を目視観察及び顕微鏡観察によって、以下の基準で評価した。
A…メンブランフィルタ上に析出物が存在しない
C…メンブランフィルタ上に析出物が存在する
【0048】
<噴射安定性>
インクジェット記録用インクを所望のインクカートリッジに充填し、インクジェットプリンタ搭載デジタル複合機(ブラザー工業(株)製;DCP−110C)に装着し、1億ドット(約3万枚)の連続印字を行い、以下の基準に従って評価した。
AA…連続印字中において、不吐出及び吐出曲がりがまったくない
A…連続印字中において、不吐出又は吐出曲がりが僅かにあり、不吐出又は吐出曲がりが共に5回以内のパージによって回復
C…連続印字中において、不吐出及び吐出曲がりが多数あり、不吐出及び吐出曲がりが共に短時間で回復せず
【0049】
<耐久噴射安定性>
上述の噴射安定性の試験を行った後、インクカートリッジが装着された状態のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機(DCP−110C)をそのまま60℃の恒温槽中に2週間放置し、その後、再び1億ドット(約3万枚)の連続印字を行い、以下の基準で評価した。
AA…連続印字中において、不吐出及び吐出曲がりがまったくない
A…連続印字中において、不吐出又は吐出曲がりが僅かにあり、不吐出又は吐出曲がりが共に5回以内のパージによって回復
C…連続印字中において、不吐出及び吐出曲がりが多数あり、不吐出及び吐出曲がりが共に短時間で回復せず
【0050】
<防黴性>
日水製薬(株)製の細菌検査用フードスタンプ(生菌数用及び真菌用)のキャップをとり、寒天培地面に充分なインクジェット記録用インクを塗布した。キャップをしないまま10時間放置することにより、菌の付着を促した。その後キャップをし、生菌数用フードスタンプについては36℃の恒温槽中で2日間、真菌用フードスタンプについては23℃の恒温槽中で5日間、培養した。目視観察により、以下の基準にて評価を行った。
A…黴の発生がない
C…黴の発生があり
【0051】
<防錆性>
インクジェットヘッド部に使用している金属部材を、縦50mm×横10mm×厚さ2mmの短冊形状に加工した金属部材サンプル片1枚を、密閉容器内でインクジェット記録用インク10mLに浸漬し、60℃の恒温槽中に2週間放置した。その後、浸漬した金属部材サンプル片を取り出し、金属部材サンプル片を目視観察及び顕微鏡観察を行い、以下の基準にて評価を行った。
AA…着色及び腐食がまったくない
A…わずかな着色があるが腐食はない
C…着色及び腐食がある
【0052】
<ゴム析出性>
縦50mm×横10mm×厚さ2mmの短冊形状に加工したゴムサンプル1枚を、密閉容器内でインクジェット記録用インク10mLに浸漬し、60℃の恒温槽中に2週間放置した。その後、浸漬したサンプルを取り出し、サンプルを取り出した後のインク全量を電鋳フィルター(孔径13μm、有効濾過面積8cm2)で濾過し、濾過に要する時間を計測した。また、対照として、ゴムサンプルを加えないインクのみを同条件(60℃、2週間)で放置し、同一規格の電鋳フィルターで濾過し、濾過に要する時間(基準時間)を求めた。ゴムサンプルを浸漬させたインクの濾過に要した時間の基準時間に対する割合を求め、以下の基準で評価した。なお、濾過後の電鋳フィルターを顕微鏡観察したところ、濾過時間の基準時間に対する割合が大きいほど、析出物の量が多い傾向があった。
AA…基準時間の130%未満の濾過時間を要する
A…基準時間の130%以上200%未満の濾過時間を要する
B…基準時間の200%以上400%未満の濾過時間を要する
C…基準時間の400%以上の濾過時間を要する
【0053】
<光沢感>
インクジェット記録用インクを所望のインクカートリッジに充填し、インクジェットプリンタ搭載デジタル複合機(ブラザー工業(株)製;DCP−110C)に装着し、写真光沢紙(ブラザー工業(株)製;BP60GLA)にベタ印字を行ない、目視観察によって以下の基準に従い、画質の評価を行った。
A…ベタ印字部と周囲の非印字部にまったく光沢差がない、又は若干の光沢差を感じるが、ベタ印字部が浮き上がることなく均一に見える
B…ベタ印字部と周囲の非印字部に光沢差を感じ、ベタ印字部が若干浮き上がって見えるが、実用上の大きな問題はない
C…ベタ印字部と周囲の非印字部に大きな光沢差を感じ、ベタ印字部が浮き上がって見える
【0054】
<耐オゾン性>
インクジェット記録用インクを所望のインクカートリッジに充填し、インクジェットプリンタ搭載デジタル複合機(ブラザー工業(株)製;DCP−110C)に装着し、印字評価を行った。まず、評価サンプルとして、写真光沢紙(ブラザー工業(株)製;BP60GLA)にシアンインクのグラデーションサンプルをプリントし、さまざまなOD値のパッチを作成した。このパッチに対し、耐オゾン性評価試験を、スガ試験機(株)製オゾンウェザーメーターOMS−Hを用いて、オゾン濃度1ppm、槽内温度24℃、湿度60%RHで40時間放置する条件下で行なった。具体的には、試験前にOD値1.0(ただし、OD値が1.0に満たないインクジェット記録用インクは最大OD値)を示すシアン色プリント部カラーパッチについて、耐オゾン性評価試験後におけるOD値を測定した。OD値はGretag Macbeth社製Spectrolino(光源:D65;視野:2°;status A)により測定した。得られた測定値(試験後OD値)を以下の数式に代入し、試験前OD値に対するOD値減少率を求めた。
【0055】
【数1】

【0056】
得られたOD値減少率を以下の評価基準に基づき評価した。OD値減少率が30%未満であれば、一般使用における耐オゾン性能は合格レベルであると判断した。
AA…OD値減少率が20%未満
A…OD値減少率が20%以上30%未満
B…OD値減少率が30%以上40%未満
C…OD値減少率が40%以上
【0057】
<総合評価>
以上の評価結果を勘案し、以下の基準にて総合評価を行った。
G …すべての評価結果がAA又はAである
NG…評価結果のいずれかにB又はCがある


















【0058】
【表1】




【0059】
<実施例及び比較例で得られた結果の考察>
実施例1のインクジェット記録用インク(銅フタロシアニン顔料と金属フタロシアニン化合物の合計含有量(以下、フタロシアニン合計含有量という)=4.0重量%)においては、金属フタロシアニン化合物であるC.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンの12モル%がアンモニウムイオンであるため、析出物の発生はなく、インクジェット記録用インクを終始安定に噴射することができた。防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。また、防錆剤を含まないがチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、金属部材の浸漬でわずかに着色するが腐食にはいたらず、問題はなかった。また、C.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が12モル%であるためゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出を起こさなかった。C.I.ダイレクトブルー199をフタロシアニン合計含有量中10%含むため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。耐オゾン性の良好な銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:6をフタロシアニン合計含有量中90%含むため、耐オゾン性は良好であった。
【0060】
実施例2のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=2.0重量%)においては、金属フタロシアニン化合物であるC.I.ダイレクトブルー86のカウンターイオンの2モル%がアンモニウムイオンであるため、析出物の発生はなく、インクジェット記録用インクを終始安定に噴射することができた。防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。また、防錆剤としてベンゾトリアゾールを含むため、金属部材の腐食を起こさず良好であった。また、C.I.ダイレクトブルー86のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が2モル%であるためゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出を起こさなかった。C.I.ダイレクトブルー86をフタロシアニン合計含有量中5%含むため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。耐オゾン性の良好な銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:1をフタロシアニン合計含有量中95%含むため、耐オゾン性は良好であった。
【0061】
実施例3のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=4.5重量%)においては、金属フタロシアニン化合物であるC.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンの10モル%がアンモニウムイオンであるため、析出物の発生はなく、インクジェット記録用インクを終始安定に噴射することができた。防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。また、防錆剤としてベンゾトリアゾールを含むため、金属部材の腐食を起こさず良好であった。また、C.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が10モル%であるためゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出を起こさなかった。C.I.ダイレクトブルー199をフタロシアニン合計含有量中5%含むため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。耐オゾン性の良好な銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3をフタロシアニン合計含有量中95%含むため、耐オゾン性は良好であった。
【0062】
実施例4のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=5.0重量%)においては、金属フタロシアニン化合物であるC.I.ダイレクトブルー86のカウンターイオンの5モル%がアンモニウムイオンであるため、析出物の発生はなく、インクジェット記録用インクを終始安定に噴射することができた。また、防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。防錆剤としてベンゾトリアゾールを含むため、金属部材の腐食を起こさず良好であった。C.I.ダイレクトブルー86のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が5モル%であるためゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出を起こさなかった。C.I.ダイレクトブルー86をフタロシアニン合計含有量中10%含むため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。耐オゾン性の良好な銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:6をフタロシアニン合計含有量中90%含むため、耐オゾン性は良好であった。
【0063】
実施例5のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=3.0重量%)においては、金属フタロシアニン化合物であるC.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンの20モル%がアンモニウムイオンであるため、析出物の発生はなく、インクジェット記録用インクを終始安定に噴射することができた。防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。また、防錆剤としてベンゾトリアゾールを含むため、金属部材の腐食を起こさず良好であった。C.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が20モル%であるためゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出をほとんど起こさなかった。C.I.ダイレクトブルー199をフタロシアニン合計含有量中10%含むため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。耐オゾン性の良好な銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:1をフタロシアニン合計含有量中90%含むため、耐オゾン性は良好であった。
【0064】
実施例6のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=0.1重量%)においては、金属フタロシアニン化合物であるC.I.ダイレクトブルー86のカウンターイオンの8モル%がアンモニウムイオンであるため、析出物の発生はなく、インクジェット記録用インクを終始安定に噴射することができた。防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。また、防錆剤としてベンゾトリアゾールを含むため、金属部材の腐食を起こさず良好であった。C.I.ダイレクトブルー86のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が8モル%であるためゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出を起こさなかった。C.I.ダイレクトブルー86をフタロシアニン合計含有量中20%含むため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。耐オゾン性の良好な銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3をフタロシアニン合計含有量中80%含むため、耐オゾン性は良好であった。
【0065】
実施例7のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=2.5重量%)においては、金属フタロシアニン化合物であるC.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンの14モル%がアンモニウムイオンであるため、析出物の発生はなく、インクジェット記録用インクを終始安定に噴射することができた。防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。また、防錆剤としてベンゾトリアゾールを含むため、金属部材の腐食を起こさず良好であった。C.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が14モル%であるためゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出を起こさなかった。C.I.ダイレクトブルー199をフタロシアニン合計含有量中20%含むため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。耐オゾン性の良好な銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:6をフタロシアニン合計含有量中80%含むため、耐オゾン性は良好であった。
【0066】
実施例8のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=4.0重量%)においては、金属フタロシアニン化合物であるC.I.ダイレクトブルー86のカウンターイオンの4モル%がアンモニウムイオンであるため、析出物の発生はなく、インクジェット記録用インクを終始安定に噴射することができた。防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。また、防錆剤としてベンゾトリアゾールを含むため、金属部材の腐食を起こさず良好であった。C.I.ダイレクトブルー86のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が4モル%であるためゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出を起こさなかった。C.I.ダイレクトブルー86をフタロシアニン合計含有量中30%含むため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。耐オゾン性の良好な銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:1をフタロシアニン合計含有量中70%含むため、耐オゾン性は良好であった。
【0067】
実施例9のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=1.5重量%)においては、金属フタロシアニン化合物であるC.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンの18モル%がアンモニウムイオンであるため、析出物の発生はなく、インクジェット記録用インクを終始安定に噴射することができた。防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。また、防錆剤としてベンゾトリアゾールを含むため、金属部材の腐食を起こさず良好であった。C.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が18モル%であるためゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出を殆ど起こさなかった。C.I.ダイレクトブルー199をフタロシアニン合計含有量中30%含むため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。耐オゾン性の良好な銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3をフタロシアニン合計含有量中70%含むため、耐オゾン性は良好であった。
【0068】
比較例1のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=4.0重量%)においては、防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。防錆剤としてベンゾトリアゾールを含むため、金属部材の腐食を起こさず良好であった。C.I.ダイレクトブルー86にカウンターイオンとしてアンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンが含まれていないためゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出を起こさなかった。C.I.ダイレクトブルー86をフタロシアニン合計含有量中20%含むため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。耐オゾン性の良好な銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:6をフタロシアニン合計含有量中80%含むため、耐オゾン性は良好であった。しかし、金属フタロシアニン化合物であるC.I.ダイレクトブルー86にカウンターイオンとしてアンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンを含まないため、析出を抑制することができず、析出物が発生した。そのため、インクジェット記録用インクを安定に噴射し続けることができなかった。
【0069】
比較例2のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=4.0重量%)においては、防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。防錆剤としてベンゾトリアゾールを含むため、金属部材の腐食を起こさず良好であった。C.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が0.8モル%であるためゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出を起こさなかった。C.I.ダイレクトブルー199をフタロシアニン合計含有量中20%含むため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。耐オゾン性の良好な銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:1をフタロシアニン合計含有量中80%含むため、耐オゾン性は良好であった。しかし、C.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が0.8モル%であるため、析出を抑制することができず、析出物が発生した。そのため、インクジェット記録用インクを安定に噴射し続けることができなかった。
【0070】
比較例3のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=4.0重量%)においては、C.I.ダイレクトブルー86のカウンターイオンの30モル%がアンモニウムイオンであるため、析出物の発生はなく、インク供給直後にはインクジェット記録用インクを安定に噴射することができた。防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。また、防錆剤としてベンゾトリアゾールを含むため、金属部材の腐食を起こさず良好であった。C.I.ダイレクトブルー86をフタロシアニン合計含有量中20%含むため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。耐オゾン性の良好な銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3をフタロシアニン合計含有量中80%含むため、耐オゾン性は良好であった。しかし、C.I.ダイレクトブルー86のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が30モル%であるため、ゴムに対するアタック性が強く、ゴム部材の析出を起こしてしまい、耐久試験後にはインクジェット記録用インクを安定に噴射することもできなくなった。
【0071】
比較例4のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=4.0重量%)においては、防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。防錆剤としてベンゾトリアゾールを含むため、金属部材の腐食を起こさず良好であった。金属フタロシアニン化合物が含まれていないため、ゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出を起こさなかった。しかし、銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:6のみを用いたインクジェット記録用インクであるため、析出を抑制することができず析出物が発生した。そのため、インクジェット記録用インクを安定に噴射し続けることができなかった。また、光沢紙印字においても印字部と非印字部に大きな光沢差があり、印字部が浮き上がって見えてしまうという問題もあった。
【0072】
比較例5のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=4.0重量%)においては、C.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンの10モル%がアンモニウムイオンであるため析出物の発生はなく、インクジェット記録用インクを終始安定に噴射することができた。防黴剤としてチアゾール系化合物であるProxel XL−2(S)を含むため、黴の発生はなく良好であった。また、防錆剤としてベンゾトリアゾールを含むため、金属部材の腐食を起こさず良好であった。金属フタロシアニン化合物であるC.I.ダイレクトブルー199のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が10モル%であるため、ゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出を起こさなかった。C.I.ダイレクトブルー199のみを用いたインクジェット記録用インクであるため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。しかし、C.I.ダイレクトブルー199は耐オゾン性が悪いため、耐オゾン性は不充分であった。
【0073】
比較例6のインクジェット記録用インク(フタロシアニン合計含有量=4.0重量%)においては、C.I.ダイレクトブルー86のカウンターイオンの10モル%がアンモニウムイオンであるため析出物の発生はなく、インク供給直後にはインクジェット記録用インクを安定に噴射することができた。防錆剤を含まないため、金属部材が腐食した。C.I.ダイレクトブルー86のカウンターイオンのアンモニウムイオン量が10モル%であるため、ゴムに対するアタック性は弱く、ゴム部材の析出を起こさなかった。C.I.ダイレクトブルー86をフタロシアニン合計含有量中20%含むため、光沢紙印字における光沢感は良好であった。耐オゾン性の良好な銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:1をフタロシアニン合計含有量中80%含むため、耐オゾン性は良好であった。しかし、防黴剤が入っていないため黴が発生し、黴の影響でインクジェット記録用インクを安定に噴射し続けることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
銅フタロシアニン顔料を含有する本発明のインクジェット記録用インクは、金属フタロシアニン化合物としてカウンターイオンのうち2〜20モル%がアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンであるものを使用している。このため、耐オゾン性に優れ、また、チアゾール系化合物を含有しているにもかかわらず、析出物の発生を大きく抑制できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアゾール系化合物と銅フタロシアニン顔料とを含むインクジェット記録用インクであって、さらに、カウンターイオンを有する金属フタロシアニン化合物を含有し、該カウンターイオンの2〜20モル%がアンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンであるインクジェット記録用インク。
【請求項2】
インクジェット記録用インク全量に対する前記銅フタロシアニン顔料と前記金属フタロシアニン化合物との合計含有量が、0.1〜5.0重量%である請求項1記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
前記銅フタロシアニン顔料と前記金属フタロシアニン化合物とを、重量比で70:30〜95:5の比率で含有する請求項1又は2記載のインクジェット記録用インク。
【請求項4】
前記銅フタロシアニン顔料が、C.I.ピグメントブルー15:x(xは1〜6の整数)である請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用インク。
【請求項5】
前記銅フタロシアニン顔料が、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:3又はC.I.ピグメントブルー15:6である請求項4記載のインクジェット記録用インク。
【請求項6】
前記金属フタロシアニン化合物が、銅フタロシアニン染料である請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用インク。
【請求項7】
前記銅フタロシアニン染料が、C.I.ダイレクトブルー199である請求項6記載のインクジェット記録用インク。
【請求項8】
さらに、ベンゾトリアゾール系化合物を含有する請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェット記録用インク。

【公開番号】特開2008−74884(P2008−74884A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252222(P2006−252222)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】