説明

インクジェット記録用インク

【課題】 堅牢性が良好で、かつ熱エネルギーによる吐出であっても安定して吐出可能なインクジェット記録用インクを提供すること。
【解決手段】 熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録用インクであって、該インクは、水と、自己分散顔料と、2種類以上の樹脂粒子とを含有し、該2種類以上の樹脂粒子のうち、1種類の樹脂粒子を樹脂粒子A、樹脂粒子Aとは別の1種類の樹脂粒子を樹脂粒子Bとしたときに、樹脂粒子A及びBは、いずれも平均粒子径が80nm以上220nm以下であり、酸価が25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、樹脂粒子Aのガラス転移温度が25℃以下であり、樹脂粒子Bのガラス転移温度が25℃以上であり、樹脂粒子Aと樹脂粒子Bとのガラス転移温度の差が10℃以上であることを特徴とするインクジェット記録用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用インクには、記録媒体に付与後の耐マーカー性や擦過性等の堅牢性を向上させることが要求されている。このような要求に対し、インク中に樹脂粒子を添加し、堅牢性を向上させることが知られている。樹脂粒子を添加することで、色材と記録媒体、或いは色材同士の結着性を高め、堅牢性を向上させることができる。
【0003】
特許文献1には、樹脂粒子を含有したインクとして、2種類以上の樹脂粒子の少なくとも1種類は周囲温度で膜化しないものと、少なくとも1種類は周囲温度で膜化するものとを含有することで、記録画像の擦過性を向上させたインクが記載されている。2種類以上の樹脂粒子を含有する効果としては、例えばガラス転移温度の異なる樹脂粒子を添加した場合、定着後の樹脂粒子の樹脂物性(例えば貯蔵弾性率等)に対して、其々のガラス転移温度の間で温度依存性が減少する場合がある。また、堅牢性向上のために樹脂粒子を含有する場合、樹脂粒子が融着して連続膜を形成することが、機能発現のための因子の一つであると想定されるが、定着する時の環境温度が、樹脂粒子の造膜温度以下であれば樹脂粒子は融着しにくくなる。このような場合にも、最低造膜温度の低い樹脂粒子を含有することで、造膜性が向上することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−204079公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のインクは、インク中に樹脂粒子を添加することにより、インクの分散安定性が十分でない場合があった。また、記録ヘッドから熱エネルギーの作用によってインクを吐出、飛翔させて記録を行う方式のインクジェット記録方法(サーマルインクジェット記録方法)に用いると、吐出が安定しない場合があった。これは、樹脂粒子を添加することによる粘度上昇や、インクにパルスを印加することにより発生する熱の影響で、薄膜抵抗体上に堆積物ができてしまうことによるものであると考えられる。即ち、インクを安定に吐出するためには、樹脂粒子添加によるインクの粘度上昇を抑制することと、インクが薄膜抵抗体上で所望の体積で発泡し、更に所望の時間で発泡と消泡を繰り返すことができる性能を有することが求められる。
【0006】
従って本発明は、堅牢性が良好で、かつ熱エネルギーによる吐出であっても安定して吐出可能なインクジェット記録用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。即ち本発明は、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録用インクであって、該インクは、水と、自己分散顔料と、2種類以上の樹脂粒子とを含有し、該2種類以上の樹脂粒子のうち、1種類の樹脂粒子を樹脂粒子A、樹脂粒子Aとは別の1種類の樹脂粒子を樹脂粒子Bとしたときに、樹脂粒子A及びBは、いずれも平均粒子径が80nm以上220nm以下であり、酸価が25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、樹脂粒子Aのガラス転移温度が25℃以下であり、樹脂粒子Bのガラス転移温度が25℃以上であり、樹脂粒子Aと樹脂粒子Bとのガラス転移温度の差が10℃以上であることを特徴とするインクジェット記録用インクである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、堅牢性が良好で、かつ熱エネルギーによる吐出であっても安定して吐出可能なインクジェット記録用インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】記録ドットの形成方法の一例を示す図。
【図2】インクジェット記録装置を示す図。
【図3】シリアル型記録ヘッドを示す図。
【図4】ライン型記録ヘッドを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0011】
<インク>
(色材)
本発明のインクジェット記録用インクは、色材として自己分散顔料を含有する。本発明では、自己分散顔料を用いるので、耐水性が良好である。また、自己分散顔料を含有していることにより、インクが紙に着弾した後の固液分離がスムーズに進行し、発色性が高まる。
【0012】
さらに、インク中の自己分散顔料と、後述のインクの付与条件とが相乗的に作用することにより、例えば樹脂分散方式の顔料を用いた場合と比較して、スムーズに固液分離し、顔料自体が記録媒体の内部に深く浸透しにくくなり、発色性が非常に良好となる。
【0013】
自己分散顔料は、基本的には分散剤を必須とせず、顔料表面に直接あるいは他の原子団を介して親水性基を導入し、分散安定化した顔料である。分散安定化する前の顔料としては、例えばWO2009/014242号公報に列挙されているような、従来公知の様々な顔料を用いることができる。このような顔料を原料とした自己分散顔料に導入される親水性基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を顔料表面と親水性基との間に介在させて顔料表面に間接的に結合させてもよい。
【0014】
表面に直接あるいは原子団を介して酸性官能基が結合した自己分散顔料は、酸性官能基が、特定のpH下でプロトンが解離し、アニオン性親水性基となることにより、樹脂や界面活性剤等の分散剤を使用しなくともインク中で安定に分散する。アニオン性親水性基としては、例えば次のようなものが挙げられる。−PO(M)、−COOM、−SOM(式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す。)等である。親水性基中の「M」として表したもののうち、アルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCs等が挙げられる。また、有機アンモニウムの具体例としては次のようなものが挙げられる。メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム。モノヒドロキシメチル(エチル)アミン、ジヒドロキシメチル(エチル)アミン、トリヒドロキシメチル(エチル)アミン。以上のものが挙げられる。
【0015】
顔料表面と親水性基との間に介在させる他の原子団の具体例としては、例えば、炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、置換もしくは未置換のフェニレン基、置換もしくは未置換のナフチレン基が挙げられる。フェニレン基及びナフチレン基の置換基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0016】
本発明のインクジェット記録用インクが含有する自己分散顔料の具体例としては、例えば特表2009−515007号公報に開示されている、複数のホスホン酸基を有する官能基が顔料表面に修飾している自己分散顔料が挙げられる。また、例えば特開2006−89735号公報に開示されている、親水性基として−COOM(式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す。)が顔料表面に修飾された自己分散顔料が挙げられる。
【0017】
本発明のインクジェット記録用インクが含有する自己分散顔料の平均粒子径は、液中での動的光散乱法により求められたものであり、好ましくは60nm以上であり、より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは75nm以上である。また、好ましくは145nm以下であり、より好ましくは140nm以下、さらに好ましくは130nm以下である。具体的な平均粒子径の測定方法としては、レーザ−光の散乱を利用した、FPAR−1000(大塚電子製、キュムラント法解析)、ナノトラックUPA150EX(日機装製、50%の積算値の値とする)等を使用して測定できる。ここでいう平均粒子径とは散乱平均粒子径である。このような自己分散顔料としては、例えばキャボット社製の商標COJで表される自己分散顔料もしくは、オリヱント社の商標CWで表される自己分散顔料が挙げられる。
【0018】
自己分散顔料は、必要に応じて2種類以上を組み合わせて同一インク中に用いることができる。インクの自己分散顔料の含有量は、インク全量に対して好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上である。また、好ましくは15.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下、さらに好ましくは8.0質量%以下である。
【0019】
複数色のインクを用いてカラー画像を形成する際の、インクのセットとしては、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローが基本となるが、必要に応じて、レッド、ブルー、グリーン、グレー、淡シアン、淡マゼンタ等を追加することができる。これらのインクが含有する色材も、自己分散顔料であることが好ましい。
【0020】
(樹脂粒子)
本発明のインクジェット記録用インクは、2種類以上の樹脂粒子を含有する。本発明における1種類の樹脂粒子とは、酸価、ガラス転移温度等の物性が同一である樹脂粒子(群)のことである。2種類以上の樹脂粒子のうち、1種類の樹脂粒子を樹脂粒子A、樹脂粒子Aとは別の1種類の樹脂粒子を樹脂粒子Bとする。このとき、樹脂粒子A及びBは、いずれも平均粒子径が80nm以上220nm以下である。好ましくは100nm以上、より好ましくは120nm以上、さらに好ましくは130nm以上である。また、好ましくは210nm以下、より好ましくは200nm以下である。樹脂粒子の平均粒子径が80nm未満と小さすぎると、特にサーマルインクジェット記録方法では、吐出が安定しない場合がある。また、220nmを超えて大きいと、樹脂粒子の分散安定性、保存安定性が劣化する場合がある。尚、粒子径の測定方法は、レーザ−光の散乱を利用した、FPAR−1000(大塚電子製、キュムラント法解析)、ナノトラックUPA150EX(日機装製、50%の積算値の値とする)等が挙げられる。本発明における樹脂粒子の平均粒子径とは、散乱平均粒子径である。
【0021】
また、樹脂粒子A及びBは、いずれも酸価が25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下である。より好ましくは、140mgKOH/g以下である。酸価とは、1gの樹脂を中和するのに必要となるKOHの量(mg)で表わされる。酸価が150mgKOH/gを超えると、分散液の粘度が高くなり、吐出が安定しない傾向となる。25mgKOH/gよりも低いと、インクの保存安定性が良好でない傾向となる。尚、酸価は、樹脂粒子を構成する各モノマーの組成比から計算により求めることもできるが、具体的な酸価の測定方法としては、電位差滴定により酸価を求める、Titrino(Metrohm製)等を使用しても測定できる。
【0022】
さらに、樹脂粒子Aのガラス転移温度が25℃以下であり、樹脂粒子Bのガラス転移温度が25℃以上であり、樹脂粒子Aと樹脂粒子Bとのガラス転移温度の差が10℃以上である。25℃というのは、室内環境の平均温度として想定したものである。本発明のインクジェット記録用インクは、この温度を挟むようなガラス転移温度を有する、樹脂粒子A及び樹脂粒子Bを有する。さらに、樹脂粒子Aと樹脂粒子Bのガラス転移温度の差を、10℃以上としている。これにより、室温環境前後での樹脂物性の温度依存性を改善している。また、ガラス転移温度が25℃以下の樹脂粒子Aにより、樹脂粒子を融着して連続膜の形成を良好に行うことができる。ガラス転移温度が25℃以上の樹脂粒子Bにより、膜強度(物性の一例として貯蔵弾性率)を高めることができる。
【0023】
樹脂粒子Aのガラス転移温度は、−60℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が−60℃未満であると、インクが樹脂粒子を2種類以上含有しても、樹脂粒子が自立膜になりにくい場合がある。樹脂粒子Bのガラス転移温度は、150℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が150℃より高いと、インクが樹脂粒子を2種類以上含有しても、樹脂粒子の融着や連続膜の形成が困難となる場合がある。
【0024】
樹脂粒子Aと樹脂粒子Bのガラス転移温度の差は、10℃以上である。ガラス転移温度の差は、20℃以上であると、樹脂粒子の物性の温度依存性が改善されるので、好ましい。尚、本発明においてガラス転移温度(Tg)は、通常の方法、例えば示差走査熱量計(DSC)等の熱分析装置を用いて測定した値である。
【0025】
これらの樹脂粒子は、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂のいずれかであることが好ましい。これらの樹脂はコポリマーとして使用されることが好ましく、単相構造及び複相構造(コアシェル型)の何れのものでもよい。
【0026】
また、これらの樹脂粒子は、不飽和単量体(モノマー)の乳化重合やソープフリー重合によって得られた樹脂粒子のエマルションの形態でインク組成物中に配合されることが好ましい。この理由は、乾燥した粉末の樹脂粒子のままインク中に添加しても、樹脂粒子の分散が不十分となる場合があるためである。エマルションとしては、インク組成物の保存安定性の観点から、アクリルエマルションが好ましい。樹脂粒子のエマルションは、公知の乳化重合法により得ることができる。例えば、スチレン、α−メチルスチレン、メチルメタアクリレート等の疎水性モノマーと、スチレンスルホン酸、ビニルトルエンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、アクリロトリル、アクリルアミド、4−ビニルピリジン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、マレイン酸のN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートモノエステル等の親水性モノマーをソープフリー乳化重合法により、過硫酸カリウム等を開始剤として水媒体中に分散された樹脂粒子を得る方法が挙げられる。
【0027】
また、樹脂粒子は、モノマーを重合開始剤、及び界面活性剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。以下代表的なモノマーを例示するが、本発明で使用可能なモノマーは、これらに限定されるものではない。カルボン酸モノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられる。スルホン酸モノマーの例としては、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビニルスチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。アクリル酸エステルモノマーの例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート等のアクリル酸エステル類が挙げられる。メタクリル酸エステルモノマーの例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレート等が挙げられる。重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性モノマーの例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド等のジアクリレート化合物、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0028】
また、前述のモノマーと共重合可能なモノマーの一例を下記に記すが、本発明における共重合可能なモノマーはこれらに限定されるものではない。スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー類。エチレン、プロピレン等のオレフィン類。ブタジエン、クロロプレン等のジエン類。ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニルモノマー類。アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類。2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有モノマー類等が挙げられる。
【0029】
以上例示したモノマーをベースにした樹脂粒子の製造法の一例は以下の通りである。
【0030】
(樹脂粒子の製造例)
300mlの4つ口フラスコに所定量のモノマーと、溶媒である蒸留水100gを計り取り、攪拌シール、攪拌棒、還流冷却管、セプタムラバー、窒素導入管を取り付けて、70℃の恒温槽中にて300rpmで攪拌しながら1時間窒素置換を行う。次いで、蒸留水100gに溶解させておいた開始剤をシリンジにてフラスコ内に注入して重合を開始する。重合状況をゲルパーミッションクロマトグラフィー及びNMRでモニターし、所望の重合反応物を得る。生成した樹脂粒子を遠心分離し、蒸留水中に再分散させる工程を繰り返すことで、樹脂粒子を水分散体の状態で精製する。精製された樹脂粒子は必要に応じて濃縮するが、濃縮にはエバポレーター、限外ろ過等で行う。
【0031】
重合開始剤としては通常のラジカル重合で使用されるものと同様のものを用いることが可能だが、例えば過硫酸カリウムや2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド等が挙げられる。重合開始剤の他に、界面活性剤、連鎖移動剤、さらには中和剤等も常法に準じて使用してよい。特に中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が好ましい。乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムの他、一般にアニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤又は両性界面活性剤として用いられているもの等が挙げられる。また、重合反応で用いられる連鎖移動剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、キサントゲン類であるジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソブチルキサントゲンジスルフィド、ジペンテン、インデン、1,4−シクロヘキサジエン、ジヒドロフラン、キサンテン等が挙げられる。
【0032】
本発明の樹脂粒子は、樹脂粒子を乾燥粉末としてインク組成物の他の成分と混合してもよい。前述した樹脂粒子の分散安定性の点から、樹脂粒子を水媒体に分散させてエマルション(ポリマーエマルション)の形態とした後、インク組成物の他の成分と混合することが好ましい。
【0033】
本発明のインクジェット記録用インクの樹脂粒子の含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、20.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以下がより好ましい。0.1質量%未満となると、擦過性の機能発現が損なわれ、20.0質量%を超えると、粘性が大きくなりすぎる傾向となる。
【0034】
本発明のインクジェット記録用インクの樹脂粒子A及びBの含有量の比は、質量基準で、(樹脂粒子Aの含有量)/(樹脂粒子Bの含有量)が、0.1以上、10.0以下であることが好ましい。また、0.2以上であることがより好ましく、4.5以下であることがより好ましい。
【0035】
尚、本発明のインクジェット記録用インクは、上記樹脂粒子A及びB以外の種類の樹脂粒子を含んでいてもよい。この樹脂粒子も、平均粒子径が80nm以上220nm以下であり、酸価が25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0036】
(塩)
本発明のインクジェット記録用インクは、無機酸塩及び/または有機酸塩を含有することが好ましい。有機酸塩もしくは無機酸塩を含有することで、本発明の効果を更に高めることができる。具体的には、画像濃度の向上、耐水性、耐ラインマーカー性の向上、これらに加え、小文字印刷時の文字品位の向上が挙げられる。この理由は、以下のように考えられる。有機酸塩もしくは無機酸塩を含有したインクは、記録媒体へ打ち込まれた後、有機酸塩もしくは無機酸塩が顔料及び樹脂粒子の析出を促進、即ち顔料及び樹脂粒子と、水性媒体との間での固液分離を促進する。この結果、顔料と樹脂粒子とを記録媒体表層に選択的に留めることができるため、樹脂粒子を効率的に顔料と融着させることができ、記録画像の高発色化だけでなく、耐水性、耐ラインマーカー性の発現に効果的に寄与する。また、インクが記録媒体へ到着してから定着するまでの時間が短くなるため、にじみを抑制することができ、小文字印刷時の文字品位向上に寄与する。これらの効果の発現には、インク中で無機酸塩もしくは有機酸塩が解離していることが好ましい。このため、添加する無機酸塩もしくは有機酸塩の酸解離定数(pKa)は、インクのpHより低いことが好ましい。
【0037】
このような無機酸塩を構成する無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が好適である。有機酸塩を構成する有機酸としては、例えば、クエン酸、コハク酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、フタル酸、シュウ酸、酒石酸、グルコン酸、タルトロン酸、マレイン酸、マロン酸、アジピン酸等の有機カルボン酸等が好適である。中でも酢酸、フタル酸、安息香酸等が好ましい。塩となる対イオンとしては、自己分散顔料の対イオンの場合と同様に、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウム等が挙げられる。対イオンとしてのアルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCs等が挙げられる。また、有機アンモニウムの具体例としては、次のものが挙げられる。例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、モノヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、ジヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、トリヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、トリエタノールアンモニウム等である。
【0038】
本発明のインクジェット記録用インクの無機酸塩及び/または有機酸塩の含有量は、合計で0.1質量%以上、5.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.2質量%以上である。また、3.0質量%以下である。0.1質量%未満だと、インクが紙に着弾した後に生じる顔料及び樹脂粒子の析出効果が損なわれる場合がある。5.0質量%を超えるとインク中で固液分離が生じる場合があり、インクの分散安定性に支障をきたす場合があるため、好ましくない。
【0039】
(水性媒体)
本発明のインクジェット記録用インクは、水を含有する。インク中の水の含有量は、インク全重量に対して、30質量%以上、95質量%以下であることが好ましい。更に、水に加えて、水溶性化合物を併用して、水性媒体とするのが好ましい。この水溶性化合物とは、20質量%濃度の水との混合液で水と相分離せずに混ざり合う、親水性の高いものである。更に固液分離や目詰まり防止への点から蒸発しやすいものは好ましくなく、20℃での蒸気圧が0.04mmHg以下の物質が好ましい。
【0040】
さらに、本発明のインクジェット記録用インクは、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上の水溶性化合物を含有することが好ましい。さらに紙種によっては、式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上0.37未満の水溶性化合物と0.37以上の水溶性化合物を併有するインクが好ましい。この場合親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物を2種類以上含有する形態とするとより好ましい態様となる場合がある。
【0041】
【数1】

【0042】
式中の水分活性値とは、
水分活性値=(水溶液の水蒸気圧)/(純水の水蒸気圧)
で示されるものである。水分活性値の測定方法は、様々な方法があり、いずれの方法にも特定されないが、中でもチルドミラー露点測定法は、本発明で使用する材料測定に好適である。本明細書での値は、この測定法によるアクアラブCX−3TE(DECAGON社製)を用いて、各水溶性化合物の20%水溶液を25℃で測定したものである。
【0043】
ラウールの法則に従えば、希薄溶液の蒸気圧の降下率は溶質のモル分率に等しく、溶媒及び溶質の種類に無関係であるので、水溶液中の水のモル分率と水分活性値は等しくなる。しかし、各種水溶性化合物の水溶液の水分活性値を測定すると、水分活性値は、水のモル分率と一致しないものも多い。水溶液の水分活性値が水のモル分率より低い場合は、水溶液の水蒸気圧が理論計算値より小さいこととなり、水の蒸発が溶質の存在によって抑制されている。このことから、溶質は水和力の大きい物質であることがわかる。逆に、水溶液の水分活性値が水のモル分率より高い場合は、溶質が水和力の小さい物質と考えられる。
【0044】
本発明者らは、インクに含有される水溶性化合物の親水性、あるいは疎水性の程度が、自己分散顔料と水性媒体との固液分離の推進、さらに、各種インク性能に及ぼす影響が大きいものと着眼した。このことから、式(A)に示す親疎水度係数という係数を定義した。水分活性値は、20質量%の一律の濃度で、各種水溶性化合物の水溶液を測定しているが、式(A)に換算することによって、溶質の分子量が異なって水のモル分率が違っても、各種溶質の親水性、あるいは疎水性の程度の相対比較が可能である。また水溶液の水分活性値が1を越えることはないので、親疎水度係数の最大値は1である。インクジェット用インクに用いられる水溶性化合物の、式(A)によって得られた親疎水度係数を表1に示す。ただし、本発明の水溶性化合物は、これらにのみ限定されるものではない。
【0045】
【表1】

【0046】
水溶性化合物は、インクジェット記録用インクとしての適性を有する各種の水溶性化合物の中から、目的とする親疎水度係数を有する水溶性化合物を選択して用いることができる。本発明者らは、親疎水度係数の異なる水溶性化合物がインク中に含まれた場合の、水溶性化合物と各種インク性能との関係を検討した結果、以下の知見を得た。2色間のブリーディングや文字の太りといった小文字の印字特性は、自己分散顔料と本発明に好適に用いられる無機酸塩及び/または有機酸塩とを含有したインクの場合、親疎水度係数が0.26以上の親水的傾向の小さい水溶性化合物を用いると極めて良好となった。中でもグリコール構造における親水基に置換された炭素数以上に、親水基に置換されていない炭素数を有するグリコール構造の類は、特に好ましいものであった。これらの水溶性化合物は、インクが紙に着弾した後、水や自己分散顔料やセルロース繊維との親和力が比較的小さく、自己分散顔料との固液分離を強力に推進する役割があるためと考えられる。従って、本発明のインクジェット記録用インクは、式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上の水溶性化合物を少なくとも1種以上含有することが好ましい。また、この中でも、式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上0.37未満の水溶性化合物としては、トリメチロールプロパンが特に好ましい。0.37以上の水溶性化合物としては、炭素数4〜7の炭化水素のグリコール構造を有するものが好ましく、中でも、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールが特に好ましい。また、親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物を2種類以上用いる場合は、親疎水度係数が0.1以上の差があることが好ましい。
【0047】
前記水溶性化合物のインク中での含有量は、合計で好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは6.0質量%以上、さらに好ましくは7.0質量%以上である。また、好ましくは40.0質量%以下、より好ましくは35.0質量%以下、さらに好ましくは30.0質量%以下である。
【0048】
(界面活性剤)
本発明のインクジェット記録用インクは、よりバランスのよい吐出安定性を得るために、インク中に界面活性剤を含有することが好ましい。中でもノニオン界面活性剤を含有することが好ましい。ノニオン界面活性剤の中でもポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が特に好ましい。これらのノニオン系界面活性剤のHLB値(Hydrophile−Lipophile Balance)は、10以上である。こうして併用される界面活性剤の含有量は、好ましくはインク中に0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上である。また、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以下である。
【0049】
(その他の添加剤)
本発明のインクジェット記録用インクは、所望の物性値を有するインクとするために、上記した成分の他に必要に応じて、添加剤として、pH調整剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、浸透剤等を添加することができる。
【0050】
(表面張力)
本発明のインクジェット記録用インクは、好ましくは表面張力が34mN/m以下である。32mN/m以下であることがより好ましく、30mN/m以下であることがさらに好ましい。インクジェット専用紙である光沢紙やマット紙は、普通紙と異なり、多孔質のインク受容層が紙表面に形成されているため、インクの表面張力の影響をほとんど受けずに、速やかにインクの浸透が進行する。しかし、普通紙や印刷紙の中には、撥水効果のあるサイズ剤が内添及び/または外添されているため、インクの浸透が阻害される場合が多い。即ち、普通紙や印刷紙は、インクにより速やかに表面を濡らすことができるかどうかの指標である臨界表面張力が、インクジェット専用紙よりも低い。インクの表面張力が34mN/mより高い場合は、紙の臨界表面張力より高いこととなるので、インクが紙に着弾しても、すぐには濡れず速やかに浸透しない場合がある。さらに、表面張力が高い場合は、紙との濡れ性を多少向上させて、インクと紙との接触角を低減させたとしても、高速には定着しにくい場合があり、定着性が劣化する場合がある。インクの表面張力34mN/m以下の場合は、ポア吸収が主体となり、34mN/mより高いとファイバー吸収が主体となる。これら2タイプの吸収によるインクの紙への吸収速度は、ポア吸収の方が圧倒的に速い。そこで本発明では、好適にはポア吸収が主体となるインクとすることで、高速定着を実現することもできる。ポア吸収が主体となるインクは、異色の2種類のインクを隣接させて記録した場合のブリーディングを抑制する点でも有利である。これは、紙表面で2種類のインクが同時に滞留することが抑制されるためである。一方、インクの操作性という別の観点から、本発明に使用するインクの表面張力は20mN/m以上、好ましくは23mN/m以上、より好ましくは26mN/m以上であることが好ましい。表面張力が20mN/m以上であれば、ノズル内でメニスカスを維持することができる。よって、インクが吐出口の外に出てしまい、ノズル内からインクが抜けてしまう「インク落ち」を抑制することができる。尚、上記表面張力は、垂直平板法によって測定された値であり、具体的な測定装置としては、CBVP−Z(協和界面科学製)等が挙げられる。
【0051】
<サーマルインクジェット記録方法>
次に、本発明のインクジェット記録用インクを用いたサーマルインクジェット記録方法を説明する。本発明の記録方法においては、1回に付与するインク滴量を、0.5pl以上、6.0pl以下の定量とする。好ましくは1.0pl以上であり、より好ましくは1.5pl以上である。また、好ましくは5.0pl以下であり、より好ましくは4.5pl以下である。0.5pl未満の場合は、気流の影響を受け易く、インク滴の着弾位置の精度が落ちる場合があるので好ましくない。6.0plを越えると、2ポイント(1ポイント≒0.35mm)から5ポイント程度の小さな文字を印刷した場合に、文字太りによって文字がつぶれる場合がある。インクの吐出体積は、インクの裏抜けに大きく影響することから、両面印刷への適用の点でも重要である。普通紙や一部の印刷紙、特に非塗工の印刷紙には、一般的に、0.5μmから5.0μmを中心として、0.1μmから100μmの大きさの細孔が分布している。尚、本発明において普通紙とは、プリンタや複写機等で大量に使用されている市販の上、中質紙、PPC用紙等のコピー用紙や、ボンド紙等のことを言う。普通紙への水性インクの浸透現象としては、普通紙のセルロース繊維自身にインクが直接吸収されて浸透するファイバー吸収と、セルロース繊維間に形成される細孔(ポア)に吸収されて浸透するポア吸収に大きく分けられる。本発明で用いられるインクはポア吸収が主体となるインクであることが好ましい。このため、本発明で好ましく用いられるインクが普通紙に付与され、普通紙表面に存在する10μm程度以上の大きめな細孔にインクの一部が接触した場合、Lucas−Washburnの式にしたがって、インクは大きめな細孔に集中して吸収され、浸透する。結果、この部分は特に深くインクが浸透することになるので、普通紙での高発色の発現において極めて不利となる。
【0052】
一方、インク滴が小さくなるほど、一滴のインク当りの大きめな細孔への接触確率は低くなるので、大きめな細孔へ集中して吸収されにくい。さらに、たとえ大きめな細孔へ接触しても、インクが小さければ、深く浸透するインクは少量で済むことになる。この結果、普通紙上で得られる画像は高発色となる場合がある。本発明において、定量のインクとは、記録ヘッドを構成するノズルの構造を各ノズル間で異ならせず、また、付与する駆動エネルギーを変化させる設定をしていない状態で吐出されたインクを意味する。即ち、このような状態であれば、装置の製造誤差等による僅かな吐出のばらつきがあっても、付与されるインクは定量である。付与されるインクを定量とすることにより、インクの浸透深さが安定し、記録画像の画像濃度が高く、画像の均一性が良好となる。逆に、付与されるインクの量を変化させることを前提としたシステム等によると、インクは定量ではなく、異なった体積のインクが混在するため、インクの浸透深さのばらつきが大きくなる。特に記録画像の高濃度部では、浸透深さのばらつきのため、記録画像の画像濃度が低い箇所が存在するなどし、画像の均一性が良好でなくなる。サーマルインクジェット記録方法は、インクの定量化に適したものである。これにより、インクの浸透深さのばらつきを抑え、記録画像は高濃度で、均一性が良好となる。さらに、サーマルインクジェット方式は、圧電素子を用いてインクを付与する方式に比べて多ノズル化と高密度化に適しており、高速記録にも好適である。
【0053】
本発明のインクジェット記録用インクを用いた記録方法は、画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上となる部分を有する画像を形成する場合に効果を発現しやすい。デューティーを算出する部分は、最小で50μm×50μmである。80%デューティー以上の部分を有する画像とは、デューティーを算出する部分のマトリクス中の格子のうち、80%以上の格子にインクが付与されて形成される部分を有する画像である。格子の大きさは、基本マトリクスの解像度によって決定される。例えば、基本マトリクスの解像度が1200dpi×1200dpiの場合、1つの格子の大きさは、1/1200inch×1/1200inchである。基本マトリクス中の80%デューティー以上となる部分を有する画像とは、基本マトリクス中に1色のインクで80%デューティー以上となる部分を有する画像のことである。即ち、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色のインクを用いる場合では、これらの少なくとも1色により、基本マトリクス中に80%デューティー以上となる部分を有する画像のことである。一方、基本マトリクス中に80%デューティー以上となる部分を有していない画像は、着弾したインク間の重なりが比較的少なく、印字プロセスの工夫をしなくとも、文字のつぶれやブリーディング等の問題が生じない場合も多い。本発明で用いる基本マトリクスは、記録装置等により自由に設定できる。基本マトリクスの解像度としては、600dpi以上が好ましく、1200dpi以上がより好ましい。また、4800dpi以下が好ましい。解像度は、この範囲内にあれば、縦と横が同一であっても異なっていてもよい。
【0054】
本発明のインクジェット記録用インクを用いた記録方法は、画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm以下となる部分を有する画像を形成する場合に効果を発現しやすい。
本発明では、このような画像を形成する際に、インクの付与を2以上の分割回数に分割することが好ましい。分割されたそれぞれの回の、画像へのインクの付与量は、0.7μl/cm以下、好ましくは0.6μl/cm以下、より好ましくは0.5μl/cm以下である。分割されたそれぞれの回の、画像へのインクの付与量が0.7μl/cmを越えると、裏抜けや文字のつぶれ、ブリーディングが発生する場合がある。
【0055】
本発明では、画像を形成する際に、インクの付与を複数回の分割回数に分割することが好ましく用いられる理由は、分割をしない場合と、分割をした場合では、格段の性能差があることに基づいている。また分割回数は少なくとも2回以上であるが、3回以上であると、記録画像はより高濃度となり、発色性が良好である。また、好ましくは8回以下、より好ましくは4回以下である。分割回数が8回を越えると、ブリーディングの抑制や、小文字の良好な印字には効果的だが、普通紙表面でのインクの隠蔽率が低下し、発色性が劣化する傾向となる。インクの付与を2以上の分割回数に分割する手法としては、シリアル型とライン型に大別される。シリアル型プリンタを例にすると、例えばベタ印字を通常2分割で印字する場合、記録媒体に対して記録ヘッドが2回通過(2パス)する事となる。分割付与に際して、1回当りの付与量は等量のインクを付与する事となる場合が多いが、本発明はこれに限るものではない。2パスで印字する際に、1パス目に記録媒体に対し50%相当のインクを、2パス目に残部の記録媒体部位に残りの50%相当のインクを付与し100%ベタ印字をする場合のドット着弾位置の配列例を図1に示す。以上のシリアル型の分割付与方法に加えて、本発明では1パスで図1と同様の位置へのドット付与を2分割で印字するライン型にも対応している。例えば1パスでブラックインクを2分割付与する構成の一態様として、図3に例示した記録ヘッドを用いる例が挙げられる。カラーのヘッド構成例を述べると、211、212、213、214及び215は、夫々、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)のインクを吐出する態様となる。この例は、ブラックインクを2ノズル列に分割して、実質的に1パスで付与する場合のヘッドの構成例である。同様にしてヘッドのノズル列数やインクの搭載数の構成を変えることで、様々なインクを実質上の1パスで2以上の分割回数に分割印字する事が可能である。同一ヘッドにおいて、同一インクの最初のインク付与開始から最後のインク付与終了までの時間が1msec以上200msec未満であると本発明のインクジェット記録用インクであることの効果がより顕著に発現できるため好ましい。
【0056】
<サーマルインクジェット記録装置>
次に、本発明のインクジェット記録用インクを用いたサーマルインクジェット記録装置を説明する。好適な記録装置としては、インクを熱エネルギーの作用により付与する記録ヘッドを搭載した装置である。
【0057】
インクに熱エネルギーを作用させて付与させる記録ヘッドの代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号、米国特許第4740796号に開示されている基本的な原理を用いて行なうものが好ましい。この方式はいわゆるオンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能である。これらの中ではオンデマンド型のものが有利である。すなわち、オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号が印加される。この印加によって、電気熱変換体に熱エネルギーが発生させ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に1対1で対応したインク内の気泡を形成することができる。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるのでインクが定量であり、応答性にも優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。
【0058】
図2は、本発明に係るインクジェット記録装置の一実施態様の概略図である。キャリッジ20には、インクジェット方式の複数の記録ヘッド211〜215が搭載されている。また、記録ヘッド211〜215にはインクを吐出するためのインク吐出口が複数配列されている。1パスでブラックインクを2分割付与する構成の一態様では、211、212、213、214及び215は、夫々、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)のインクを吐出するための本発明の記録ヘッド例である。インクカートリッジ221〜225は、記録ヘッド211〜215、及びこれらにインクと供給するためのインクタンクとから構成されている。40は、濃度センサである。濃度センサ40は反射型の濃度センサであり、キャリッジ20の側面に設置された状態で、記録媒体に記録されたテストパターンの濃度を検出できる構成となっている。記録ヘッド211〜215への制御信号等は、フレキシブルケーブル23を介して転送される。普通紙等のセルロース繊維の露呈した記録媒体24は、不図示の搬送ローラを経て排紙ローラ25に挟持され、搬送モータ26の駆動に伴い矢印方向(副走査方向)に搬送される。ガイドシャフト27、及びリニアエンコーダ28により、キャリッジ20は案内支持されている。キャリッジ20は、キャリッジモータ30の駆動により、駆動ベルト29を介して、ガイドシャフト27に沿って主走査方向に往復運動される。記録ヘッド211〜215のインク吐出口の内部(液路)には、インク吐出用の熱エネルギーを発生する発熱素子(電気・熱エネルギ変換体)が設けられている。リニアエンコーダ28の読みとりタイミングに伴い、上記発熱素子を記録信号に基づいて駆動し、記録媒体上にインク滴を吐出し、付着させることで画像を形成する。記録領域外に配置されたキャリッジ20のホームポジションには、キャップ部311〜315を持つ回復ユニット32が設置されている。記録を行なわないときには、キャリッジ20をホームポジションに移動させて、記録ヘッド211〜215のインク吐出口面をそれぞれが対応するキャップ311〜315によって密閉する。これにより、インク溶剤の蒸発に起因するインクの固着あるいは塵埃等の異物の付着等による目詰まりを防止することができる。また、キャップ部のキャッピング機能は、記録頻度の低いインク吐出口の吐出不良や目詰まりを解消するために利用される。具体的には、キャップ部は、インク吐出口から離れた状態にあるキャップ部へインクを吐出させる吐出不良防止のための空吐出に利用される。更に、キャップ部は、キャップした状態で不図示のポンプによりインク吐出口からインクを吸引して吐出不良を起こした吐出口の吐出回復に利用される。インク受け部33は、記録ヘッド211〜215が記録動作直前に上部を通過する時に、予備的に吐出されたインク滴を受容する役割を果たす。また、キャップ部に隣接した位置に不図示のブレード、拭き部材を配置することにより、記録ヘッド211〜215のインク吐出口形成面をクリーニングすることが可能でとなっている。
【0059】
以上説明したように、記録装置の構成に、記録ヘッドに対する回復手段、予備的な手段等を付加することは、記録動作を一層安定にできるので好ましい。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧あるいは吸引手段、電気熱変換体あるいはこれとは別の加熱素子あるいはこれらの組み合わせによる予備加熱手段等がある。また、記録とは別の吐出を行なう予備吐出モードを備えることも安定した記録を行なうために有効である。加えて、上記の実施形態で説明した記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いてもよい。さらに、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッドを用いてもよい。
【0060】
図3の記録ヘッドは、記録ヘッドを走査して記録を行なうシリアルタイプであるが、記録媒体の幅に対応した長さを有する記録ヘッドを用いたフルラインタイプであっても良い。フルラインタイプの記録ヘッドとしては、図4に示すように、シリアルタイプの記録ヘッドを千鳥状や並列に配列させて、長尺化し、目的の長さとする構成がある。あるいは、当初より長尺化したノズル列を有するように、一体的に形成された1個の記録ヘッドとした構成でもよい。
【0061】
上記のシリアルタイプやラインタイプの記録ヘッドを有する記録装置は、独立化あるいは一体的に形成された4色インク(Y,M,C,K)用の記録ヘッドを用いている。ブラックインクのみを2分割付与するためにブラックインク用記録ヘッド211と215それぞれに設けた5吐出口列(またはノズル列)構成のヘッドを搭載している。また4吐出口列数(またはノズル列数)を用いて分割付与を行う好適な態様として、4色インク(Y,M,C,K)の少なくとも1種については、同色のインクを複数の吐出口列(またはノズル列)に重複して搭載する形式も好ましい。例えば、4吐出口列数(またはノズル列)のヘッドを2個ないし3個重ねてつなげた8吐出口列(またはノズル列)構成や12吐出口列(またはノズル列)構成等が挙げられる。
【0062】
本発明のインクジェット記録装置は、画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm以下となる部分を有する画像を形成する際に、インクの付与を複数回の分割回数に分割して行なうことが好ましい。また、分割されたそれぞれの回のインクの付与量を0.7μl/cm以下とすることが好ましい。本発明のインクジェット記録装置は、かかる分割付与を行なうための制御機構を有する。この制御機構により、インクジェット記録ヘッドの動作と、普通紙の紙送り動作のタイミングを制御し、かかる分割付与を行なう。
【0063】
<記録媒体>
次に、本発明で用いる記録媒体について説明する。記録媒体としては、家庭やオフィスで用いられる普通紙、写真用光沢紙、印刷業界で用いられている印刷用紙等が挙げられる。
【0064】
普通紙とは、表面に特別の機能層等を有していない紙である。プリンタや複写機等で大量に使用されている市販の上質紙、中質紙、PPC用紙等のコピー用紙や、ボンド紙等が代表的である。具体的には、PPC/BJ共用紙オフィスプランナー、ホワイトリサイクルペーパー EW−100、PB PAPER GF−500(以上、キヤノンマーケティングジャパン製)等が挙げられる。
【0065】
写真用光沢紙とは、基材上にインク受容層を有する紙である。具体的には、PT−101、PR−201、PR−101、GL−101、SG−201、GP−501、MP−101(以上、キヤノンマーケティングジャパン製)が挙げられる。また、写真用マット紙であるMP−1011(キヤノンマーケティングジャパン製)等が挙げられる。
【0066】
印刷用紙は、塗工層を有していないものと、有するものとがある。塗工層とは、紙の表面の美感や平滑さを高める為に、上質紙または中質紙の表面及び/または裏面に塗布された塗料の層、または抄紙時に表層に形成された塗料の層である。
【0067】
塗工層を有していない印刷用紙としては、具体的には、OK上質紙、OKプリンス上質(以上、王子製紙製)等が挙げられる。
【0068】
塗工層を有する印刷用紙は、経済産業省の「工業調査統計」や日本製紙連合会「紙・板紙統計年報」の「紙・板紙の品種分類表」によると、「印刷・情報用紙」の中の「塗工印刷用紙」と「微塗工印刷用紙」とに分類される。「塗工印刷用紙」は表面に1m当り両面で15g〜40g程度の塗料を塗布して塗工層を形成したものである。「微塗工印刷用紙」は1m当り両面で12g以下の塗料が塗布して塗工層を形成したものである。「塗工印刷用紙」は、塗料の塗布量や塗布後の表面処理の方法等で、アート紙、コート紙、軽量コート紙、その他(キャストコート紙、エンボス紙)等に分類される。また表面の光沢感の違いで、グロス系、マット系、ダル系等に分類されることもある。「塗工印刷用紙」としては、具体的に以下の紙が挙げられる。OKウルトラアクアサテン、OK金藤、SA金藤、サテン金藤(以上、王子製紙製)、ハイパーピレーヌ、シルバーダイア(以上、日本製紙製)、グリーンユトリロ(以上、大王製紙製)、パールコート、ニューVマット(以上、三菱製紙製)、雷鳥スーパーアート(中越パルプ製)、ハイマッキンレー(五條製紙製)等のアート紙。OKトップコート、OKトップコートダル、OKトップコートマット、OKトリニティ、OKカサブランカ(以上、王子製紙製)、オーロラコート、シルバーダイア、しらおいマット(以上、日本製紙製)、グリーンユトリロ(以上、大王製紙製)、パールコート、ニューVマット(以上、三菱製紙製)等のコート紙。OKコートL(以上、王子製紙製)、オーロラL、イースターDX、ペガサス(以上、日本製紙製)、ユトリロコートL(以上、大王製紙製)、パールコートL(以上、三菱製紙製)、スーパーエミネ(中越パルプ製)、ドリームコート(丸住製紙製)等の軽量コート紙。ミラーコートプラチナ、OKクローム(以上、王子製紙製)、エスプリコート(以上、日本製紙製)、ピカソコート(以上、大王製紙製)等のキャストコート紙等である。「微塗工印刷用紙」としては、具体的に以下の紙が挙げられる。OKエバーライト、OKクリスタル、OKプラナスホワイト(以上、王子製紙製)、ピレーヌDX、オーロラS(以上、日本製紙製)等である。
【実施例】
【0069】
次に実施例、比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の記載で「部」とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。また、平均粒子径は、ナノトラックUPA150EX(日機装社製、体積平均粒径の50%の積算値を採用)で測定した。酸価は、樹脂粒子の水分散体の状態でTitrino電位差滴定装置(Metrohm社製)により求めた。ガラス転移温度は、DSC822(METTLER TOLEDO社製)で測定した。重量平均分子量は、HLC−8220GPC(東ソー社製)で測定した。
【0070】
<自己分散顔料Aの製造>
比表面積が320m/gでDBP吸油量が110ml/100gのカーボンブラック10gと、4−アミノベンゼンホスホン酸3.2gとを水70g中でよく混合した後、これに硝酸1.62gを滴下して70℃で攪拌した。ここにさらに数分後、5gの水に1gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加え、さらに1時間攪拌した。得られたスラリーを濾紙(商品名:No.2、アドバンテック東洋製)で濾過し、濾取した顔料粒子を十分に水洗し、90℃のオーブンで乾燥させた。以上の方法によりカーボンブラックの表面に下記化学式(1)で示される基を導入したブラック顔料(自己分散顔料A)を製造した。
【0071】
【化1】

【0072】
<自己分散顔料Bの製造>
カーボンブラックのかわりにC.I.ピグメントイエロー74を用いた以外は、自己分散顔料Aの製造と同様な処理をして自己分散顔料Bを製造した。
【0073】
<自己分散顔料Cの製造>
カーボンブラックのかわりにC.I.ピグメントレッド122を用いた以外は、自己分散顔料Aの製造と同様な処理をして自己分散顔料Cを製造した。
【0074】
<自己分散顔料Dの製造>
カーボンブラックのかわりにC.I.ピグメントブルー15:3を用いた以外は、自己分散顔料Aの製造と同様な処理をして自己分散顔料Dを製造した。
【0075】
<自己分散顔料Eの製造>
比表面積が220m/gでDBP吸油量が105ml/100gのカーボンブラック100gと、p−アミノ安息香酸34.1gとを水720gによく混合した後、これに硝酸16.2gを滴下して70℃で攪拌した。10分後、50gの水に10.7gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加え、さらに1時間攪拌した。得られたスラリーを濾紙(商品名:東洋濾紙No.2;アドバンティス社製)で濾過し、濾取した顔料粒子を十分に水洗し、90℃のオーブンで乾燥させた。以上の方法によりカーボンブラックの表面にp−安息香酸基を導入した自己分散ブラック顔料を得た。この顔料を濃度が10質量%となるようにイオン交換水にて調整後、アンモニア水溶液にてpH7.5とした。さらにプレフィルター及び1μmフィルターを併用して濾過し、自己分散顔料Eを製造した。
【0076】
<自己分散顔料Fの製造>
カーボンブラックのかわりにC.I.ピグメントイエロー74を用いた以外は、自己分散顔料Eの製造と同様な処理をして自己分散顔料Fを製造した。
【0077】
<自己分散顔料Gの製造>
カーボンブラックのかわりにC.I.ピグメントレッド122を用いた以外は、自己分散顔料Eの製造と同様な処理をして自己分散顔料Gを製造した。
【0078】
<自己分散顔料Hの製造>
カーボンブラックのかわりにC.I.ピグメントブルー15:3を用いた以外は、自己分散顔料Eの製造と同様な処理をして自己分散顔料Hを製造した。
【0079】
<樹脂粒子Aの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマーとして、スチレン/アクリル酸を9.0/1.5(質量比)とを用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Aを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は283nmで、酸価は100mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)は110℃であった。
【0080】
<樹脂粒子Bの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを9/1.5/0.1(重量比)を用いて重合を行い、その後精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Bを得た。樹脂粒子の平均粒径は97nmで、酸価は90mgKOH/g、ガラス転移温度は121℃であった。
【0081】
<樹脂粒子Cの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを9.0/1.5/0.15(質量比)で重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Cを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は96nmで、酸価は100mgKOH/g、ガラス転移温度は100℃であった。
【0082】
<樹脂粒子Dの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを9.0/1.5/0.25(質量比)で重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Dを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は77nmで、酸価は100mgKOH/g、ガラス転移温度は122℃であった。
【0083】
<樹脂粒子Eの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを9.0/1.5/0.5(質量比)で重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Eを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は48nmで、酸価は100mgKOH/g、ガラス転移温度は111℃であった。
【0084】
<樹脂粒子Fの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを9.0/1.5/1.5(質量比)で重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Fを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は41nmで、酸価は100mgKOH/g、ガラス転移温度は112℃であった。
【0085】
<樹脂粒子Gの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを9.0/1.5/3.0(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Gを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は28nmで、酸価は100mgKOH/g、ガラス転移温度は101℃であった。
【0086】
<樹脂粒子Hの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを9.0/4.5/0.5(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Hを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は81nmで、酸価は182mgKOH/g、ガラス転移温度は116℃であった。
【0087】
<樹脂粒子Iの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを9.0/9.0/0.5(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Iを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は84nmで、酸価は318mgKOH/g、ガラス転移温度は119℃であった。
【0088】
<樹脂粒子Jの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを6.0/3.0/1.5/0.5(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Jを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は44nmで、酸価は100mgKOH/g、ガラス転移温度は60℃であった。
【0089】
<樹脂粒子Kの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを6.0/3.0/1.5/0.25(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Kを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は82nmで、酸価は100mgKOH/g、ガラス転移温度は49℃であった。
【0090】
<樹脂粒子Lの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを3.0/6.0/1.5/0.1(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Lを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は95nmで、酸価は100mgKOH/g、ガラス転移温度は21℃であった。
【0091】
<樹脂粒子Mの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを3.0/6.0/1.5/0.25(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Mを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は122nmで、酸価は101mgKOH/g、ガラス転移温度は−3℃であった。
【0092】
<樹脂粒子Nの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを1.5/7.5/1.5/0.25(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Nを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は64nmで、酸価は111mgKOH/g、ガラス転移温度は−31℃であった。
【0093】
<樹脂粒子Oの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを3.0/6.0/1.5/0.1(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Oを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は148nmで、酸価は101mgKOH/g、ガラス転移温度は−3℃であった。
【0094】
<樹脂粒子Pの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを3/6/1.5/0.05(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Pを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は163nmで、酸価は100mgKOH/g、ガラス転移温度は−1℃であった。
【0095】
<樹脂粒子Qの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを3/6/1.5/0.040(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Qを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は183nmで、酸価は108mgKOH/g、ガラス転移温度は0℃であった。
【0096】
<樹脂粒子Rの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを3/6/1.5/0.025(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Rを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は219nmで、酸価は100mgKOH/g、ガラス転移温度は−5℃であった。
【0097】
<樹脂粒子Sの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを3.5/6/1/0.050(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Sを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は152nmで、酸価は72mgKOH/g、ガラス転移温度は−5℃であった。
【0098】
<樹脂粒子Tの製造>
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマー及び乳化剤として、スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸/ドデシル硫酸ナトリウムを4/6/0.5/0.050(質量比)を用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子Tを製造した。樹脂粒子の平均粒子径は154nmで、酸価は35mgKOH/g、ガラス転移温度は−5℃であった。
【0099】
(インクの調製)
次に、本発明の実施例及び比較例に用いるインクの調製例について説明する。以下のインクの調製は、表2及び表4(ブラックインク)、表3及び表5(カラーインク)に従ってインクを構成する全成分(合計で100部)を混合した後、1時間攪拌し、孔径2.5μmのフィルターを用いて、ろ過することを基本とした。尚、表中の水は、イオン交換水である。樹脂粒子の中和は、表中に記載のpH調整剤により行った。自己分散顔料及び樹脂粒子の値は、固形分濃度である。またアセチレノールEH(川研ファインケミカル製)は、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物である。インクの表面張力は、CBVP−Z(協和界面科学製)で測定した。
【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
【表5】

【0104】
<実施例1〜46及び比較例1〜44>
(記録画像評価)
次に、実施例1〜46及び比較例1〜44のインクを用いて画像を形成した。具体的には、表2、3に記載のインクをプリンタのシアンインクヘッド部とブラックインクヘッド部に搭載して、各インクを50%dutyずつ吐出し、記録画像として100%dutyのベタ画像を形成した。
【0105】
使用したプリンタは、BJ F900(キヤノン製。記録ヘッド;6吐出口列、各512ノズル。インク量4.0pl(定量)、解像度最高1200dpi(横)×1200dpi(縦)。)である。インクを吐出した記録媒体は、以下の通りである。
・オフィスプランナー(キヤノンマーケティングジャパン製);普通紙
・GF−500(キヤノンマーケティングジャパン製);普通紙
・OKプリンス上質(王子製紙製);非塗工印刷用紙
・OKトップコート(王子製紙製);塗工印刷用紙
・OK金藤(王子製紙製);塗工印刷用紙
・PR−101(キヤノンマーケティングジャパン製);写真用光沢紙
(吐出安定性)
普通紙であるGF−500に形成した記録画像の状態を、以下の基準で目視にて評価した。
a.印字が行われていない部分(記録画像のかすれ)は見受けられない。
b.印字が行われていない部分がやや見受けられる。
c.印字が行われていない部分が多く見受けられる。
d.ほとんど印字ができていない。
【0106】
(堅牢性(耐ラインマーカー性))
実施例1〜23、比較例1〜22のインクを用いて、オフィスプランナー、GF−500及びOKプリンス上質に形成した記録画像を、印字後1分後に、通常の筆圧でゼブラ社製蛍光マーカー(商品名:OPTEX2、イエロー)を用いて1度マークした。記録画像と非記録部の境界からのインクの尾引きの度合いを、下記の評価基準で目視にて評価した。
a.尾引きは認められず、ペン先も汚れていない。
b.尾引きは認められないが、ペン先がやや汚れている。
c.尾引きがはっきりと認められる。
d.ほとんど印字ができていないため評価ができない。
−.イエローインクに対してイエローラインマーカーを用いてマークした為、尾引きを判別できない。
【0107】
(堅牢性(加熱耐ラインマーカー性))
同様にして形成した記録画像に対して、オーブンで60℃、15分の加熱処理を行った。加熱処理後、室温(25℃)に戻した後に、通常の筆圧でゼブラ社製蛍光マーカー(商品名:OPTEX2、イエロー)を用いて2度マークした。記録画像と非記録部の境界からのインクの尾引きの度合いを、下記の評価基準で目視にて評価した。
a.尾引きは認められず、ペン先も汚れていない。
b.尾引きは認められないが、ペン先がやや汚れている。
c.尾引きがはっきりと認められる。
d.ほとんど印字ができていないため評価ができない。
−.イエローインクに対してイエローラインマーカーを用いてマークした為、尾引きを判別できない。
【0108】
(堅牢性(擦過性))
実施例24〜46、比較例23〜44のインクを用いて、OKトップコート、OK金藤、PR−101に形成した記録画像に関して、擦過性を評価した。PR−101については印字1分後、OKトップコート及びOK金藤については2日後に、通常の筆圧でシルボン紙を用いて20回擦過した。記録画像のインクの退色の度合いを、下記の評価基準で目視にて評価した。
a.退色は認められず、シルボン紙も汚れていない。
b.退色は認められないが、シルボン紙がやや汚れている。
c.退色が僅かに認められる。
d.退色がはっきりと認められる。
e.ほとんど印字ができていないため評価ができない。
【0109】
以上の評価結果を表6〜表9に示す。
【0110】
【表6】

【0111】
【表7】

【0112】
表6及び表7から、本発明のインクジェット記録用インクは、吐出安定性、耐ラインマーカー性及び加熱耐ラインマーカー性が良好であることが分かる。
【0113】
【表8】

【0114】
【表9】

【0115】
表8及び表9から、本発明のインクジェット記録用インクは、吐出安定性及び擦過性が良好であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録用インクであって、
該インクは、水と、自己分散顔料と、2種類以上の樹脂粒子とを含有し、
該2種類以上の樹脂粒子のうち、1種類の樹脂粒子を樹脂粒子A、樹脂粒子Aとは別の1種類の樹脂粒子を樹脂粒子Bとしたときに、樹脂粒子A及びBは、いずれも平均粒子径が80nm以上220nm以下であり、酸価が25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、樹脂粒子Aのガラス転移温度が25℃以下であり、樹脂粒子Bのガラス転移温度が25℃以上であり、樹脂粒子Aと樹脂粒子Bとのガラス転移温度の差が10℃以上であることを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項2】
無機酸塩及び/または有機酸塩を含有する請求項1に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上の水溶性化合物を少なくとも1種以上含有する請求項1または2に記載のインクジェット記録用インク。
【数1】

【請求項4】
表面張力が34mN/m以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクを、熱エネルギーの作用により記録ヘッドから吐出するサーマルインクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクを、熱エネルギーの作用により記録ヘッドから記録媒体へ吐出することによって画像を形成する記録ヘッドを備えたサーマルインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−137138(P2011−137138A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234228(P2010−234228)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】