説明

インクジェット記録用水性インクセット及びインクジェット記録方法

【課題】 高濃度プリント部におけるシアン方向の色再現範囲を縮小させることなく、シアン色を含む低濃度プリント部の粒状感を低減させ、さらにグリーン方向の色再現範囲を拡大し、グリーンの鮮明性を向上させることを可能とするインクジェット記録用水性インクセットを提供する。
【解決手段】 シアンインクとグリーンインクとを備えたインクジェット記録用水性インクセットであって、シアンインクが、L***表色系による明度指数(L*)がL*≧60のライトシアンインクからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低濃度プリント部における粒状感の低減と、色再現範囲の拡大に好適なインクジェット記録用水性インクセット、及びこのインクジェット記録用水性インクセットを使用したインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式でカラー画像を表現する場合、一般に、イエローインク(Y)、マゼンタインク(M)及びシアンインク(C)の3色のインクから構成されるインクセット、あるいは、さらにブラックインク(K)を加えた4色のインクから構成されるインクセットが用いられている。
【0003】
また、インクジェット記録方式において、一般に、画像の階調はインクの吐出によって被記録材上に形成されるドットの密度によって制御される。しかしながら、このような方法で階調を制御すると、低濃度プリント部においてはドット密度が減少するため、相対的に個々のドットが視認され易くなり、その結果として、画像が粒状感を呈するという問題が生じる。
【0004】
これに対しては、シアンインクに関し、染料濃度の異なる2以上のインクを使用し、かつこれらの染料の種類を異ならせ、濃色インクには、耐光性には劣るが鮮明性に優れる染料を選択し、淡色インクには、鮮明性には劣るが耐光性に優れる染料を選択することが提案されており(特許文献1)、また、マゼンタインクについても同様の提案がなされている(特許文献2)。しかしながら、これらの方法に従うと、粒状感の改善は見られるものの、色再現範囲を拡大することができないという問題がある。
【0005】
また、一般に、イエローインク、マゼンタインク及びシアンインクの3色のインクから構成されるインクセット、あるいは、さらにブラックインクを加えた4色のインクから構成されるインクセットでは、グリーン色は、シアンインクとイエローインクを用いて表現されるが、このように2種のインクを用いてグリーン色を表現すると、重ね打ちの着弾誤差によってシャープな印字品質や鮮やかな発色性が得にくいという問題点がある。
【0006】
【特許文献1】特開平1−95093号公報
【特許文献2】特開平2−127482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述した問題点を解決するためになされたものであり、インクジェット記録方法において、(i)高濃度プリント部におけるグリーン方向及びシアン方向の色再現範囲を縮小させず、かつインクセットを構成するインク数を最小限に抑えつつ、シアン色を含む低濃度プリント部における粒状感を低減させること、(ii)グリーン方向について色再現範囲を拡大し、鮮明性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、インクジェット記録用水性インクセットを構成するインクの、L***表色系による明度指数(L*)、色相角(h)及び彩度(C*)が、カラー画像の低濃度プリント部における粒状感の低減と色再現範囲の拡大に密接な関係があるという仮説の下に鋭意研究を行った結果、シアンインクを備えたインクジェット記録用水性インクセットにおいて、シアンインクとして、従前のインクセットで用いられているノーマルシアンインクに代えて、明度指数(L*)が特定値以上のライトシアンインクを使用し、かつグリーンインクを使用することにより、上述の目的(i)、(ii)を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、シアンインクとグリーンインクとを備えたインクジェット記録用水性インクセットであって、シアンインクが、L***表色系による明度指数(L*)がL*≧60のライトシアンであることを特徴とするインクジェット記録用水性インクセットを提供する。
【0010】
また、本発明は、上述のインクジェット記録用水性インクセットを使用したインクジェット記録方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、シアンインクとして着色剤濃度が低いライトシアンインクを備えているので、このインクセットを用いてインクジェット記録を行うことにより、シアン色を含む低濃度プリント部の粒状感を低減させることができる。また、本発明のインクセットは、ライトシアンインクと共にグリーンインクを備えているので、高濃度プリント部におけるシアン方向の色再現範囲が縮小せず、グリーン方向については色再現範囲が顕著に拡大し、グリーン色の鮮明性が向上する。なお、グリーン色の鮮明性の向上は、シアンインクとイエローインクの混色によらず、グリーンインク単独でグリーン色を表現できることによる。
【0012】
さらに、本発明のインクセットによれば、このシアン色を含む低濃度プリント部の粒状感の低減、シアン色の高濃度プリント部における色再現範囲の縮小防止、グリーン方向における色再現範囲の顕著な拡大、グリーン色の鮮明性の向上という効果を、ライトシアンインクとグリーンインクという2種のインクで達成することができる。
【0013】
したがって、本発明のインクセットによれば、インクジェット記録方法で形成するカラー画像の色再現性や印字品質を向上させることができる。
【0014】
さらに、グリーン色は、一般に、テキスト印字にも使用される色であり、本発明によれば、このグリーン色のテキスト印字を2種のインクの重ね打ちによらず、単一のグリーンインクで印字できるので、フェザリングを抑制したシャープな印字品質や、鮮やかな発色性を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明において、明度指数(L*)、色相角(h)、彩度(C*)は、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化されたL***表色系に基づくものである。なお、日本工業規格(JIS)ではJIS Z 8729に規定されている。
【0017】
また、本発明において明度指数(L*)は、光沢紙に各インクを1200×1200dpiベタプリントしたものに対して、分光測色計等を用いて測定される値であり、色相角(h)と彩度(C*)は、同様のベタプリントに対して、まず知覚色度指数(a*、b*)を分光測色計等を用いて測定し、測定されたa*、b*を用いて次式(1)、(2)により算出される値である。


【0018】
【数1】


【0019】
【数2】

【0020】
なお、L*、a*及びb*の測定で用いる「光沢紙」とは、ベースペーパー(原紙ペーパー)に表面平滑性が得られるコート層を設けた紙のことをいい、具体的には、画彩(登録商標)光沢仕上げ(富士写真フィルム(株)製)、インクジェットプリンタ用紙(光沢紙)(コクヨ(株)製)、厚手光沢紙(コダック(株)製)等が挙げられる。また、「解像度1200×1200dpiベタプリント」とは、解像度1200×1200dpiの領域が100%被覆されるようにプリントすることである。プリントに使用できるインクジェットプリンタとしては、ブラザー工業(株)製インクジェットプリンタ搭載デジタル複合機MFC−5200J等をあげることができ、分光測色計としてはGretag Macbeth社製Spectrolino等を使用することができる。測色条件は、光源:D65、視野角:2°とした。
【0021】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、少なくとも、シアンインクとグリーンインクとを備え、そのシアンインクが、L*≧60のライトシアンインクであることを特徴としている。したがって、L*<60のノーマルシアンインクは、本発明のインクセットを構成しない。シアンインクとしてL*<60のノーマルシアンインクを用いると、シアン色を含む低濃度プリント部において、粒状感が目立つため好ましくない。
【0022】
本発明のインクセットを構成するライトシアンインクのL*は、好ましくは60≦L*≦85である。ライトシアンインクのL*が85を超えると、本来のシアン色を再現することが困難となるので好ましくない。
【0023】
また、ライトシアンインクのhは、215°≦h≦255°となるように調整することが好ましい。hがこの範囲内でないと、充分にシアン色を表現することが困難となる。
【0024】
さらに、ライトシアンインクのC*は、40≦C*≦70となるように調整することが好ましい。C*をこの範囲内とすることにより、鮮やかなシアン色を再現することが可能となる。
【0025】
一方、本発明のインクセットを構成するグリーンインクとしては、L*≦60のものが好ましい。グリーンインクのL*が60を超えると、本来のグリーン色を再現することが困難となるので好ましくない。グリーンインクのL*について、より好ましい範囲は35≦L*≦60である。グリーンインクのL*をこの範囲内とすることにより充分な濃度のグリーン色とシアン色を再現することができる。
【0026】
グリーンインクのhは、175°≦h≦215°となるように調整することが好ましい。hをこの範囲内に調整することにより、充分にグリーン色を表現することが可能となる。
【0027】
さらに、グリーンインクのC*は、60≦C*≦80となるように調整することが好ましい。C*をこの範囲内に調整することにより、鮮やかなグリーン色を再現することが可能となる。
【0028】
本発明のインクセットには、上述のライトシアンインク及びグリーンインクに加えて任意のインクを備えることができ、例えば、ブルーインクを備えることができる。これによりブルー方向についても色再現範囲を顕著に拡大し、ブルー色の鮮明性を向上させることが可能となるので好ましい。ブルーインクとしては、L*≦45のものが好ましい。ブルーインクが、L*>45であると、本来のブルー色を再現することが困難となる。ブルーインクのL*について、より好ましい範囲は35≦L*≦45である。ブルーインクのL*をこの範囲内とすることにより充分な濃度のブルー色を再現することができる。
【0029】
ブルーインクのhは、270°≦h≦285°となるように調整することが好ましい。hをこの範囲内に調整することにより、充分にブルー色を表現することが可能となる。
【0030】
さらに、ブルーインクのC*は、70≦C*≦80となるように調整することが好ましい。C*をこの範囲内に調整することにより、鮮やかなブルー色を再現することが可能となる。
【0031】
この他、本発明のインクセットは、イエローインク及び/又はマゼンタインクを備えることができる。必要に応じてブラックインクを備えてもよい。ライトシアンインク及びグリーンインクに加えて、イエローインク、マゼンタインク、さらに必要に応じてブラックインクを備えることにより、フルカラー画像を再現することができる。
【0032】
本発明のインクセットにマゼンタインクを備える場合、そのマゼンタインクとしては、公知のインクセットに用いられているノーマルマゼンタインクを使用することができるが、ノーマルマゼンタインクに代えて、L*≧50のライトマゼンタインクを使用し、さらにレッドインクを使用することが好ましい。この場合、L*<50のノーマルマゼンタインクは不要である。マゼンタインクとしてL*≧50のライトマゼンタインクを使用することにより、マゼンタ色を含む低濃度プリント部において、粒状感を低減させることができる。ライトマゼンタインクの好ましいL*は50≦L*≦65である。ライトマゼンタインクのL*が65を超えると、本来のマゼンタ色を再現することが困難となるので好ましくない。
【0033】
また、ライトマゼンタインクのhは、335°≦h≦360°又は0°≦h≦5°となるように調整することが好ましい。hがこの範囲内でないと、充分にマゼンタ色を表現することが困難となる。
【0034】
さらに、ライトマゼンタインクのC*は、80≦C*≦90となるように調整することが好ましい。C*をこの範囲内とすることにより、鮮やかなマゼンタ色を再現することが可能となる。
【0035】
ライトマゼンタインクと共に使用するレッドインクとしては、L*≦50のものが好ましい。レッドインクが、L*>50であると、レッド方向の色再現範囲を充分に得ることが困難となる。レッドインクのL*について、より好ましい範囲は25≦L*≦50である。レッドインクのL*をこの範囲内とすることにより充分な濃度のレッド色とマゼンタ色を再現することができる。
【0036】
レッドインクのhは、20°≦h≦35°となるように調整することが好ましい。hをこの範囲内に調整することにより、充分にレッド色を表現することが可能となる。
【0037】
さらに、レッドインクのC*は、80≦C*≦90となるように調整することが好ましい。C*をこの範囲に調整内とすることにより、鮮やかなレッド色を再現することが可能となる。
【0038】
本発明のインクセットにイエローインクやブラックインクを備える場合、これらのインクとしては公知のインクセットに用いられているものを使用することができる。例えば、イエローインクとしては、hが70〜140°のノーマルイエローインクを使用することができる。
【0039】
本発明のインクセットを構成する個々のインクは、それぞれ上述の所定のL*、h、C*を有するように着色剤、水、及び水溶性有機溶剤を含有する。
【0040】
各インクに含まれる着色剤としては、水溶性染料及び/又は顔料をあげることができ、これらを適宜組み合わせて用いることにより所期のインク色に調整する。
【0041】
即ち、水溶性染料としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料等に代表される水溶性染料が用いられる。また、水溶性染料の構造としては、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、アニリン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料、金属フタロシアニン染料等が好ましい。特に、インクジェット記録方式のインクとして好適で、鮮明性、水溶性、安定性、耐光性その他の要求される性能を満たす水溶性染料としては、C.I.ダイレクトイエロー12,24,26,27,28,33,39,58,86,98,100,132及び142、C.I.ダイレクトレッド4,17,28,37,63,75,79,80,81,83及び254、C.I.ダイレクトバイオレット47,48,51,90及び94、C.I.ダイレクトブルー1,6,8,15,22,25,71,76,80,86,87,90,106,108,123,163,165,199及び226、C.I.ダイレクトグリーン1,26,28,59,80及び85等の直接染料;C.I.アシッドイエロー3,11,17,19,23,25,29,38,42,49,59,61,71及び72、C.I.アシッドレッド1,6,8,18,32,35,37,42,52,85,88,115,133,134,154,186,249、289及び407、C.I.アシッドバイオレット10,34,49及び75、C.I.アシッドブルー9,22,29,40,59,62,93,102,104,112,113,117,120,167,175,183,229及び234、C.I.アシッドグリーン3,5,9,12,15,16,19,25,27,28,36,40,41,43,44,56,73,81,84,104,108及び109等の酸性染料;C.I.ベーシックイエロー40、C.I.ベーシックレッド9,12及び13、C.I.ベーシックバイオレット7,14及び27、C.I.ベーシックブルー1,3,5,7,9,24,25,26,28及び29、C.I.ベーシックグリーン1及び4等の塩基性染料;C.I.リアクティブイエロー2、C.I.リアクティブレッド4,23,24,31及び56、C.I.リアクティブブルー7,13及び49、C.I.リアクティブグリーン5,6,7,8,12,15,19及び21等の反応性染料が挙げられる。
【0042】
また、顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,2,3,13,16,74,83,93,128,134及び144、C.I.ピグメントレッド5,7,12,23,48(Mn),57(Ca),112,122,144,170,177,221,254及び264、C.I.ピグメントバイオレット19及び48(Ca)、C.I.ピグメントブルー 1,2,3,15,15:1,15:2,15:3,15:4,15:5,15:6,16,17:1,22,27,28,29,36及び60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0043】
ブラックインクの着色剤としても、水溶性染料及び/又は顔料をあげることができ、これらを適宜組み合わせて用いてもよい。水溶性染料としては、例えば、C.I.ダイレクトブラック17,19,32,51,71,108,146,154及び168等の直接染料;C.I.アシッドブラック2,7,24,26,31,52,63,112及び118等の酸性染料;C.I.ベーシックブラック2等の塩基性染料;C.I.フードブラック1及び2等があげられる。また、顔料としては、例えば、MA8、MA100(三菱化成(株)製)、カラーブラックFW200(デグサ製)等のカーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックとしては、分散剤を用いなくても水に分散可能な自己分散型のものを用いてもよい。自己分散型カーボンブラックは、その表面に、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基又はスルホン基のような少なくとも一種の親水基又はその塩を結合させる処理をすることによって得ることができる。この表面処理の具体例としては、特開平8−3498号公報及び特表2000−513396号公報に記載の方法を挙げることができる。また、自己分散黒色顔料としては、例えば、CAB−O−JET(登録商標)200及び300(キャボット製)、ボンジェット(登録商標)CW1(オリエント化学工業(株)製)等の市販品を利用することも可能である。
【0044】
各インクにおける水溶性染料の含有量は、所望のプリント濃度や色彩により異なるが、少なすぎると被記録材上での発色が不充分であり、多すぎるとインクジェットヘッドのノズルの目詰まりが起きやすくなるので、好ましくは各インク全量に対して0.1〜15重量%、より好ましくは0.3〜10重量%、特に好ましくは0.5〜5.0重量%の範囲である。
【0045】
各インクにおける顔料の含有量は、所望のプリント濃度や色彩により異なるが、少なすぎると被記録材上での発色が不充分であり、多すぎるとインクジェットヘッドのノズルの目詰まりが起きやすくなるので、好ましくは各インクの全重量に対して1〜15重量%、より好ましくは1〜10重量%の範囲である。
【0046】
一方、各インクに使用する水は、脱イオン水とすることが好ましい。水の含有量は、水溶性有機溶剤の種類、インク組成、所望のインク特性に応じて決定されるが、少なすぎるとインクの粘度が上昇するためにインクジェットヘッドのノズルからの吐出が困難となり、多すぎると水分蒸発によって着色剤の析出、凝集等が生じ、インクジェットヘッドのノズルの目詰まりが起きやすくなるので、好ましくは各インクの全重量に対して10〜95重量%、より好ましくは10〜70重量%、特に好ましくは20〜70重量%の範囲である。
【0047】
各インクで使用する水溶性有機溶剤は、湿潤剤と浸透剤に大別される。
湿潤剤は、インクジェットヘッドのノズルの目詰まりを防止するためにインクに添加される。湿潤剤の具体例としては、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の水溶性グリコールが挙げられる。湿潤剤としての水溶性有機溶剤の含有量としては、少なすぎるとインクジェットヘッドのノズルの目詰まりを防止するために不充分であり、多すぎるとインクの粘度が上昇し、吐出が困難となるので、好ましくは各インクの全重量に対して5〜50重量%、より好ましくは5〜40重量%、特に好ましくは5〜35重量%の範囲である。
【0048】
浸透剤は、プリントした際、インクを速やかに紙内部に浸透させるためにインクに添加される。浸透剤の具体例としては、エチレングリコール系及びプロピレングリコール系のアルキルエーテルに代表されるグリコールエーテル等が挙げられる。エチレングリコール系アルキルエーテルの具体例としては、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコール−n−エチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコール−n−エチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコール−n−エチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールイソブチルエーテル等が挙げられ、プロピレングリコール系アルキルエーテルの具体例としては、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコール−n−エチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−エチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−エチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等が挙げられる。
【0049】
浸透剤としての水溶性有機溶剤の含有量としては、少なすぎると浸透性が不充分であり、多すぎると過剰な浸透性によってフェザリング等のにじみを生じやすくなるので、好ましくは各インクの全重量に対して0.1〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲である。
【0050】
本発明のインクセットを構成する各インクには、上述の湿潤剤及び浸透剤の他、インクジェットヘッドの先端部におけるインクの乾燥を防止したり、プリント濃度を高くしたり、鮮やかな発色をさせたりする水溶性有機溶剤を含むことができる。このような水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;グリセリン;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0051】
本発明のインクセットを構成する各インクには、さらに、従来公知の界面活性剤;ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等の粘度調整剤;表面張力調整剤;防黴剤等を必要に応じて添加することができる。
【0052】
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット記録を、本発明のインクセットを使用して行うものである。インクジェット記録の方式には特に制限はなく、静電吸引方式、圧電素子を用いる方式、サーマル方式などをあげることができる。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例及び比較例に基いて、本発明を具体的に説明する。なお、本実施例において、%は、特にことわらない限り、重量%を表す。
【0054】
実施例1〜5、比較例1〜3
(1)インクの調製
表1に示したインク組成で、ライトシアンインク1を次のように調製した。
【0055】
まず、水69重量部、グリセリン27重量部、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル2重量部を混合して、インク溶媒98量部を調製した。次いで、シアン水溶性染料(C.I.ダイレクトブルー199)2重量部を攪拌中のインク溶媒98重量部に加え、さらに30分間撹拌し、孔径1μmのメンブランフィルターにて濾過し、ライトシアンインク1を得た。
【0056】
組成を表1に記載のように変更した以外は、ライトシアンインク1と同様の操作を繰り返すことにより、ライトシアンインク2,3、ノーマルシアンインク、グリーンインク1,2、及びイエローインクを調製した。
【0057】
(2)L*、a*、b*、C*、hの取得
各インクを所定のインクカートリッジに充填し、インクジェットプリンタ搭載デジタル複合機(ブラザー工業(株)製;MFC−5200J)に装着して、光沢紙(富士写真フィルム(株)製;画彩(登録商標)光沢仕上げ)に1200×1200dpiベタプリントをプリントし、そのベタプリントのL*、a*及びb*を、Gretag Macbeth社製Spectrolino(光源:D65;視野:2°)により測定した。
【0058】
また、C*及びhは、得られた測定値をもとに、次式(1)及び(2)を用いて求めた。これらの結果を表1に示す。
【0059】
【数3】

【0060】
【数4】


【0061】
【表1】


【0062】
(3)インクセットの構成
表1に示したインクを、表2に示したように組み合わせてインクジェット記録用水性インクセットを構成した。なお、比較例1は従来のインクセットに相当する。
【0063】
(4)インクセットの評価
表2に示した各インクセットについて、該インクセットを構成するインクを所定のインクカートリッジに充填し、インクジェットプリンタ搭載デジタル複合機(ブラザー工業(株)製;MFC−5200J)に装着し、光沢紙(富士写真フィルム(株)製;画彩(登録商標)光沢仕上げ)に、粒状感評価用としてライトシアンインク及びノーマルシアンインクの各グラデーションサンプルをプリントし、グリーン色及びシアン色の色再現評価用としてシアンインク(ライトシアンインク、ノーマルシアンインク)、グリーンインク、及びイエローインクの混合割合を変えて種々の色相のパッチを含むプリントパターンサンプルをプリントした。
【0064】
得られた各サンプルのパッチについて、a*、b*及びL*を前述と同様に測定し、(a)シアン色粒状感評価、(b)グリーン色再現評価、(c)シアン色再現評価、及び(d)総合評価を次のように行った。
【0065】
(a)シアン色粒状感評価
上述のグラデーションサンプルにおいて、L*=90のパッチに対して、目視にてシアン色の粒状感を以下の評価基準に基づき評価した。この評価結果を表2に示す。
◎…粒状感が認められない
○…粒状感がほとんど目立たない
×…粒状感が目立ち、実用上問題あり
【0066】
(b)グリーン色再現評価
(b-1)目視評価
上述のプリントパターンサンプルより、h=200°±10°に該当するグリーン色パッチを選択し、目視にて、グリーン色が充分に表現されているか否かを以下の評価基準に基づき評価した。この評価結果を表2に示す。
◎…高濃度グリーン色を充分に表現できている
○…高濃度グリーン色を表現できている
×…高濃度グリーン色の表現が不足している
【0067】
(b-2)彩度(C*)及び彩度差(A)
上述のプリントパターンサンプルから、グリーン色に対応するhが200°±10°であって、L*が55±3のパッチを選択し、各パッチについてC*を前述の式(1)により算出した。
【0068】
また、比較基準として比較例1のパッチ(h=196°)のC*1を使用し、次式(3)により、上述の各パッチのC*2と比較例1のパッチのC*1との差を彩度差(A)として求めた。ここで、彩度差(A)が大きいほど、高濃度グリーン色再現性が優れていることを示す。この結果を表2に示す。





【0069】
【数5】


【0070】
(c)シアン色再現評価
(c-1)目視評価
上述のプリントパターンサンプルから、シアン色に対応するh=234°±5°のパッチを選択し、目視にて、シアン色が充分に表現されているか否かを以下の評価基準に基づき評価した。この評価結果を表2に示す。
◎…高濃度シアン色を充分に表現できている
○…高濃度シアン色に近い色が表現できている
×…高濃度シアン色表現が不足している
【0071】
(c-2)彩度(C*)及び明度差(B)
上述のプリントパターンサンプルから、シアン色の範疇に属すると認められるhが215°≦h≦255°のパッチであって、従来のインクセットでプリントした場合のシアン
色を呈する比較例1のパッチ(h=234°、L*=54)と、L*及びhが最も近いパッチを選択し、各パッチについてC*を前述の式(1)により算出した。
【0072】
また、各パッチと比較例1のパッチとの明度差(B)を次式(4)により求めた。ここで、明度差(B)は、その値が大きいほど高濃度のシアン色が充分に表現できないことを示している。
【0073】
【数6】

【0074】
(d)総合評価
(a)シアン色粒状感評価、(b)グリーン色再現評価及び(c)シアン色再現評価の結果から以下の評価基準により総合評価を行った。結果を表2に示す。
○…すべての評価結果が、◎又は○である
×…評価結果のいずれかに、×がある
【0075】
【表2】


【0076】
表2に示したように、実施例1及び4では、L*≧60のライトシアンインクを用いているためにシアン色の低濃度プリント部(L*=90)において粒状感がほとんど目立たなくなっていた。また、実施例1及び4では、L*≦60のグリーンインクを用いているために、従来のインクセット(比較例1)と比較してグリーン色の再現範囲が広がり(A値が大きい)、従来のインクセット(比較例1)で表現できるシアン色と遜色ない程度の高濃度のシアン色も表現できた。また、グリーン色をグリーンインク単色で表現することができるので、グリーン色の印字について重ね打ちによる着弾誤差が生ずることがなく、シャープな印字が得られた。
【0077】
実施例2、3及び5は、実施例1及び4で用いたライトシアンインクよりさらにL*の高いライトシアンインクを用いているためにシアン色粒状感が認められなかった。また、この場合にもL*≦60のグリーンインクを用いているため、高濃度グリーン色を充分に表現することができ、従来のインクセット(比較例1)において表現できるシアン色と遜色ない程度の高濃度のシアン色も表現できた。
【0078】
比較例2及び3は、L*の高いライトシアンインクを用いているため従来のインクセット(比較例1)に比べるとシアン色粒状感は低減するものの、グリーンインクを用いていないため、明らかに高濃度グリーン色の表現ができず、また、高濃度シアン色の表現も不足しており、実用上問題があった。
【0079】
実施例6及び比較例4
(1)インクの調製とインクセットの構成
表3に示したインク組成で、イエローインク、ライトマゼンタインク、レッドインク、ライトシアンインク1、ブルーインク及びグリーンインク1を実施例1と同様の操作で調製し、これらから実施例6のインクセットを構成した。
【0080】
また、比較例4のインクセットとして、市販のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機MFC−5200J(ブラザー工業(株)製)用のイエローインク(LC600Y)、マゼンタインク(LC600M)及びシアンインク(LC600C)の3種のインクからなるインクセットを用意した。


















【0081】
【表3】


【0082】
(2)L*、C*、hの取得
各インクについて、実施例1と同様にしてL*、a*、b*を測定し、C*、hを算出した。これらの結果を表3に示す。
【0083】
(3)インクセットの評価
実施例1におけるインクセットの評価と同様にして、実施例6及び比較例4のインクセットを用いて、種々の色相のパッチを含む色再現評価用のプリントパターンサンプルをプリントした。
【0084】
この場合、プリントに使用するインクジェットプリンタのインクカートリッジ搭載可能数は4であるため、実施例6のインクセットのプリントパターンサンプルのプリントに際しては、まず、6種のインクをインクカートリッジに充填し、それを便宜的に以下の2組に分け、2度に分けてプリントを行った。
第1組:レッドインク、イエローインク、グリーンインク1、ライトシアンインク1
第2組:ライトシアンインク1、ブルーインク、ライトマゼンタインク、レッドインク
【0085】
なお、このインクの組み分けの方法は、6種のインクのうち、色相角が小さい順に4種のインクを選択して第1組とし、次に、第1組のうち最も大きな色相角を有するインクと、このインクよりも色相角が大きいインク2種と、第1組のインクのうちで最も色相角が小さいインクから第2組を構成したものである。
【0086】
また、プリントに際しては、種々の色相を含むパッチパターンをプリント可能なプリンタドライバを作成して用いた。
【0087】
得られたプリントパターンサンプルのa*、b*を上述と同様に測定し、L*=40、50、60、70及び80における色再現面積を求めた。
【0088】
実施例6の色再現面積の、同一L*値における比較例4の色再現面積に対する割合を求め、得られた結果から以下の評価基準に基づき評価した。この結果を表4に示す。また、各L*値について、実施例6と比較例4の色再現範囲をグラフにしたものを図1〜図5に示す。
◎…110%を超える
○…105%を超え、110%以下
△…90%を超え、105%以下
×…90%以下













【0089】
【表4】


【0090】
表4の結果から、実施例6のインクセットは比較例4のインクセットに比して、色再現面積が顕著に拡大していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、低濃度プリント部における粒状感の低減と、色再現範囲の拡大を実現するので、インクジェット記録用プリンタでカラー画像を再現する場合に有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施例6と比較例4のL*=40における色再現範囲のグラフである。
【図2】実施例6と比較例4のL*=50における色再現範囲のグラフである。
【図3】実施例6と比較例4のL*=60における色再現範囲のグラフである。
【図4】実施例6と比較例4のL*=70における色再現範囲のグラフである。
【図5】実施例6と比較例4のL*=80における色再現範囲のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアンインクとグリーンインクとを備えたインクジェット記録用水性インクセットであって、シアンインクが、L***表色系による明度指数(L*)がL*≧60のライトシアンインクであることを特徴とするインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項2】
シアンインクとして、明度指数(L*)がL*<60のノーマルシアンインクをもたない請求項1記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項3】
ライトシアンインクの明度指数(L*)が60≦L*≦85である請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項4】
ライトシアンインクのL***表色系による色相角(h)が215°≦h≦255°である請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項5】
ライトシアンインクのL***表色系による彩度(C*)が40≦C*≦70である請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項6】
グリーンインクのL***表色系による明度指数(L*)がL*≦60である請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項7】
グリーンインクのL***表色系による明度指数(L*)が35≦L*≦60である請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項8】
グリーンインクのL***表色系による色相角(h)が175°≦h≦215°である請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項9】
グリーンインクのL***表色系による彩度(C*)が60≦C*≦80である請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項10】
さらに、イエローインク及び/又はマゼンタインクを備えた請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセットを使用することを特徴とするインクジェット記録方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−176607(P2006−176607A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370288(P2004−370288)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】