説明

インクジェット記録用水系インク

【課題】記録媒体への定着性及び吐出信頼性に優れるインクジェット記録用水系インクを提供する。
【解決手段】顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子、及び炭素数4〜8の1,3−アルカンジオールを5〜25重量%含有する水系インクであって、水不溶性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーが、カルボキシ基含有モノマー(a)及び炭素数18〜22の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位を含有し、該直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位の含有量が15〜70重量%であり、該カルボキシ基の中和度が45〜110%である、インクジェット記録用水系インクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。特に印字物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料を用いる顔料系インクを用いるものが主流となってきている。
【0003】
特許文献1には、保存安定性と耐水性の改善を目的として、塩生成基含有モノマー、炭素数16〜30の長鎖アルキル基含有モノマー、マクロマー、ポリオキシアルキレン基含有モノマー、これらと共重合可能なモノマーを含有するモノマー混合物を共重合させてなる水不溶性ビニルポリマーの粒子に顔料を含有させたポリマー粒子の水分散体を含有してなる水系インクが開示されている。
特許文献2には、吐出安定性、保存安定性を改善し、普通紙での高画質化を目的として、特定のアニオン界面活性剤系分散剤で分散された顔料分散体、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール等の水溶性有機溶剤、特定のホスホリルコリン類似基含有ポリマーを含有する安定化剤を含有する記録用インクが開示されている。
特許文献3及び4には、画像濃度、定着性、吐出信頼性、保存安定性等の改善を目的として、酸性基量が異なる2種のカーボンブラックと(架橋)水不溶性ポリマーとを含有するインクジェット記録用水分散体が開示されており、なかでも、(架橋)水不溶性ポリマーが、塩生成基含有モノマー由来の構成単位及びマクロマー由来の構成単位、並びに炭素数12〜22のアルキル基含有モノマー由来の構成単位を含有するグラフトポリマーであるものが好ましいことが開示されている。
特許文献5には、普通紙に対する画像品質、吐出安定性等の改善を目的として、2−メチル−1,3−ブタンジオール等の水溶性有機溶剤、界面活性剤、及びカーボンブラックを含む特定の平均粒径を有する水不溶性ビニルポリマー粒子の水分散体を含有する記録用インクが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−217905号公報
【特許文献2】特開2008−184567号公報
【特許文献3】特開2009−91563号公報
【特許文献4】特開2010−37532号公報
【特許文献5】特開2009−155460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
顔料系インクは、耐候性や耐水性に優れるが、印刷直後の湿った状態では、顔料に由来する色移りが生じるという問題がある。一方、色移りを防ぐために樹脂バインダー等を添加することが知られているが、これらはインクの目詰まり等の原因になっている。このため、インクジェット記録用水系インクについては、印刷直後の初期定着性と、インクがインクジェットヘッドのノズルから目詰まり等の不具合がなく安定に吐出される高い吐出信頼性が要望されている。
本発明は、記録媒体への定着性及び吐出信頼性に優れるインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子、及び特定の1,3−アルカンジオールを特定量含有するインクジェット記録用水系インクを用いるにあたり、水不溶性ポリマーとして疎水性のアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を特定量含有し、かつ当該水不溶性ポリマーが含有するカルボキシ基の中和度を特定の範囲に調整することにより前記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子、及び炭素数4〜8の1,3−アルカンジオールを5〜25重量%含有する水系インクであって、水不溶性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーが、カルボキシ基含有モノマー(a)及び炭素数18〜22の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位を含有し、該直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位の含有量が20〜60重量%であり、該カルボキシ基の中和度が45〜110%である、インクジェット記録用水系インクを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインクジェット記録用水系インクは、記録媒体への定着性及び吐出信頼性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のインクジェット記録用水系インクは、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子、及び炭素数4〜8の1,3−アルカンジオールを5〜25重量%含有する水系インクであって、水不溶性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーが、カルボキシ基含有モノマー(a)及び炭素数18〜22の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位を含有し、該直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位の含有量が20〜60重量%であり、該カルボキシ基の中和度が45〜110%であることを特徴とする。
本発明のインクジェット記録用水系インクが、記録媒体に対する定着性、特に初期定着性、及び吐出信頼性に優れる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の水系インクに含まれる炭素数4〜8の1,3−アルカンジオールは、水に混和するものの比較的疎水性の高い有機溶媒であるため、水系インク中の水の蒸発を抑えて目詰まり等の吐出不良を低減し、紙等の記録媒体上に印刷された際にも、記録媒体に浸透しやすく、定着性も向上するものと考えられる。しかし、疎水的であるが故に、インク中に水に分散するポリマー成分等が存在すると、それらを膨潤したり、溶解するなどして、吐出性を悪化させたり、記録媒体への浸透性を悪化させるものと考えられる。
一方、炭素数18〜22の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)を特定量含有し、特定の中和度に調整されたカルボキシ基を有する水不溶性ポリマーを構成成分とし、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子は、極めて疎水性が高く、結晶性を有している状態のポリマーで顔料を被覆しているため、前記アルカンジオールを含んでいても、水系インクには膨潤しにくく、微粒子状態を保っているものと考えられる。そのため、紙等の記録媒体上に印刷された際に、記録媒体表面に溶媒で膨潤した顔料を含有するポリマー粒子が残留することなく、該粒子が速やかに記録媒体中に浸透するため、初期定着性にも優れ、インクジェットヘッドのノズルから目詰まり等の不具合なく、安定に吐出することができる優れた吐出信頼性を発現するものと考えられる。
以下、本発明に用いられる各成分、各工程について説明する。
【0009】
[顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子]
<顔料>
水不溶性ポリマー粒子に含有される顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
(無機顔料)
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
カーボンブラックは酸性基量が異なる2種を用いることが好ましく、カーボンブラックを2種用いる場合の両者の酸性基量の差は100μmol/g以上であることが好ましい。酸性基量が少ないカーボンブラック(a)(以下、単に「カーボンブラック(a)」ともいう)は、顔料全体をポリマー粒子に含有させ易くし、酸性基量が多いカーボンブラック(b)(以下、単に「カーボンブラック(b)」ともいう)は、印刷物上で顔料を凝集させ易くする。これらを併用することで、定着性及び画像濃度だけでなく、吐出信頼性及び保存安定性が向上するが、これらの効果は、後述するように、前記2種のカーボンブラックを同時に分散処理することにより、相乗的に高まる。
【0010】
(カーボンブラックの酸性基量)
カーボンブラック(a)の酸性基量は、定着性及び画像濃度の観点から、好ましくは0〜200μmol/g、より好ましくは0〜100μmol/g、更に好ましくは0〜50μmol/gである。
カーボンブラック(b)の酸性基量は、画像濃度の観点から、好ましくは200μmol/gを超え、より好ましくは200μmol/gを超え1000μmol/g以下、より好ましくは200〜900μmol/g、更に好ましくは300〜900μmol/gである。
2種のカーボンブラックの酸性基量の差は、両カーボンブラックの相乗効果を発揮し、定着性及び画像濃度を良好にする観点から、好ましくは200μmol/g以上、より好ましくは300μmol/g以上、更に好ましくは400μmol/g以上、より更に好ましくは500μmol/g以上であり、その上限は、分散時の製造上の観点から、好ましくは1000μmol/g以下である。
カーボンブラックの酸性基としては、インク中における分散安定性の観点から、カルボキシ基、スルホン酸基が好ましい。
酸性基量の測定は、実施例記載の方法により行うことができる。
【0011】
カーボンブラック(a)のDBP(ジブチルフタレート)吸油量は、カーボンブラック(b)との親和性を向上させる観点から、好ましくは20〜200ml/100gであり、より好ましくは30〜150ml/100gであり、更に好ましくは50〜110ml/100gである。ここで、カーボンブラックのDBP吸油量は、その嵩高さと正の相関があり、DBP吸油量がこの範囲内であると、カーボンブラック(b)との親和性が高まり、画像濃度は良好であり、保存安定性が良好になる。
なお、DBP吸油量はISO 1126(JIS K6217−4)に基づいた値である。
カーボンブラック(b)は、分散安定性を高める観点から、自己分散型カーボンブラックが好ましく、アニオン性の親水性官能基を公知の方法でカーボンブラックの表面に結合することで、水系媒体に分散可能としたカーボンブラックが好ましい。ここで「分散可能」とは、分散剤なしに水中(25℃、固形分10%)で30日間、目視で確認できる沈殿物がなく、安定に分散していることを意味する。
アニオン性親水性官能基としては、カルボキシ基、スルホン酸基が好ましい。
カーボンブラック(b)の揮発分は、画像濃度、カーボンブラック(a)との相乗効果の観点から、好ましくは5%を超え、より好ましくは6%以上である。揮発分は、950℃、7分間加熱して得られた値(ASTM D1620−60に準拠)を用いる。
カーボンブラック(b)のDBP吸油量は、カーボンブラック(a)との親和性を向上させる観点から、好ましくは20〜200ml/100g、より好ましくは30〜150ml/100g、更に好ましくは50〜110ml/100gである。
カーボンブラック(a)に対するカーボンブラック(b)の重量比〔カーボンブラック(b)/カーボンブラック(a)〕は、定着性及び画像濃度を良好にする観点から、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは10/90〜50/50、更に好ましくは10/90〜40/60、より更に好ましくは10/90〜20/80である。
【0012】
(カーボンブラックの具体例)
カーボンブラック(a)として、商業的に入手できる好適例としては、キャボット社製の商品名、MONARCH800(酸性基量0μmol/g、DBP吸油量68ml/100g。以下において「吸油量」はDBP吸油量を意味し、単位も同じである。)、MONARCH880(酸性基量0、吸油量105)、デグサ社製の商品名、NIPex80(酸性基量0、吸油量100)、NIPex70(酸性基量0、吸油量123)等が挙げられる。
カーボンブラック(b)として、商業的に入手できる好適例としては、キャボット社製のCAB−O−JET 200、同300や、オリヱント化学工業株式会社製のBONJET CW−1(酸性基量470)、同CW−2、東海カーボン株式会社製のAqua−Black 162等が挙げられる。
【0013】
(有機顔料)
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、赤色、青色、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
有機顔料の好適例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンから選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。これらの中でも発色性の観点から、キナクリドン系顔料が好ましい。
また、キナクリドン固溶体顔料等の固溶体顔料も好適に用いることができる。キナクリドン固溶体顔料は、β型、γ型等の無置換キナクリドンと、2,9−ジメチルキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド122)、又はβ型、γ型等の無置換キナクリドンと2,9−ジクロロキナクリドン、3,10−ジクロロキナクリドン、4,11−ジクロロキナクリドン等のジクロロキナクリドンからなる。キナクリドン固溶体顔料としては、無置換キナクリドン(C.I.ピグメント・バイオレット19)と2,9−ジクロロキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド202)との組合せからなる固溶体顔料が好ましい。
上記の顔料は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0014】
<水不溶性ポリマー>
本発明に用いられる水不溶性ポリマーは、カルボキシ基含有モノマー(a)(以下「(a)成分」ともいう)、及び炭素数18〜22の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)(以下「(b)成分」ともいう)由来の構成単位を含有し、該直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位の含有量が20〜60重量%であり、該カルボキシ基の中和度が45〜110%である。
水不溶性ポリマーは、前記(a)成分と前記(b)成分を含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。
ここで、「水不溶性ポリマー」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量は好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。溶解量は、ポリマーのカルボキシ基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
【0015】
(カルボキシ基含有モノマー(a))
カルボキシ基含有モノマー(a)は、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子をインク中で安定に分散させる観点から、水不溶性ポリマーを構成するモノマー成分として用いられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
上記カルボキシ基含有モノマー(a)の中では、ポリマー粒子のインク中での分散安定性の観点から、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましく、メタクリル酸が更に好ましい。
【0016】
(炭素数18〜22の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b))
炭素数18〜22の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)は、特にインクの初期定着性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーを構成するモノマー成分として用いられる。
炭素数18〜22の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)としては、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート、(イソ)アラキル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
【0017】
(スチレン系モノマー(c))
スチレン系モノマー(c)は、画像濃度及び保存安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いることが好ましい。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
【0018】
(その他の疎水性モノマー(d))
その他の疎水性モノマー(d)として、(b)成分以外のアルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有(メタ)アクリレート、マクロマーから選ばれる1種以上を用いることも好ましい。
(b)成分以外のアルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜17のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0019】
マクロマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500〜100,000の化合物であり、水不溶性ポリマー粒子のインク中での保存安定性の観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられる。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
マクロマーの数平均分子量は1,000〜10,000が好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
マクロマーとしては、水不溶性ポリマー粒子のインク中での分散安定性の観点から、芳香族基含有モノマー系マクロマー及びシリコーン系マクロマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0020】
(ノニオン性モノマー(e))
モノマー混合物には、吐出信頼性向上の観点から、更に、ノニオン性モノマー(e)(以下「(e)成分」ともいう)が含有されていることが好ましい。
(e)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でもポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(メタ)アクリレートが好ましく、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレートがより好ましい。
商業的に入手しうる(e)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM−20G、同40G、同90G等、日油株式会社のブレンマーPE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
上記(a)〜(e)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0021】
水不溶性ポリマーの製造時における、上記(a)〜(e)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は該ポリマー中における(a)〜(e)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、得られる水系インクの保存安定性の観点から、好ましくは2〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%、更に好ましくは10〜20重量%である。
(b)成分の含有量は、定着性、特に初期定着性、保存安定性、画像濃度向上、及び吐出信頼性の観点から、好ましくは15〜70重量%、より好ましくは30〜60重量%、更に好ましくは40〜55重量%である。
(c)成分の含有量は、画像濃度向上、定着性、保存安定性の観点から、好ましくは0〜60重量%、より好ましくは3〜50重量%であり、なかでも画像濃度向上の観点から、好ましくは30〜45重量%であり、定着性向上の観点から、好ましくは7〜20重量%である。
(d)成分の含有量は、特に顔料との相互作用を高める観点から、好ましくは0〜25重量%、より好ましくは1〜20重量%、更に好ましくは5〜15重量%である。
(e)成分の含有量は、吐出信頼性向上の観点から、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは5〜40重量%、更に好ましくは10〜20重量%である。
【0022】
モノマー混合物中又は水不溶性ポリマー中における〔(b)成分+(c)成分+(d)成分〕の合計含有量は、得られる水系インクの画像濃度、吐出信頼性、及び分散体の保存安定性向上の観点から、好ましくは15〜90重量%、より好ましくは50〜80重量%、更に好ましくは65〜75重量%である。
また、〔(a)成分+(e)成分〕の合計含有量は、得られる水系インクの保存安定性及び吐出信頼性の観点から、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは20〜40重量%である。
また、〔(a)成分/{(b)成分+(c)成分+(d)成分}〕の重量比は、得られる分散体の保存安定性、及び得られる水系インクの吐出信頼性、画像濃度の観点から、好ましくは0.02〜1、より好ましくは0.08〜0.67、更に好ましくは0.1〜0.3である。
水不溶性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーの直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位に対するスチレン系モノマー(c)由来の構成単位の重量比〔(c)/(b)〕は、得られる水系インクの保存安定性、定着性及び画像濃度の観点から、0.1〜7であることが好ましく、保存安定性及び定着性の観点から、0.1〜0.7が好ましく、0.2〜0.5がより好ましく、画像濃度の観点から、1〜5が好ましく、1〜3がより好ましい。
【0023】
<水不溶性ポリマーの製造>
前記水不溶性ポリマーは、モノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、メチルエチルケトンが好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が好ましく、重合連鎖移動剤としては、2−メルカプトエタノールが好ましい。
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50〜80℃が好ましく、重合時間は1〜20時間であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
本発明で用いられる水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子のインク中での分散安定性と、インクの印字濃度の観点から、5,000〜50万が好ましく、4万〜8万がより好ましく、5万〜7万がより好ましく、5万〜6万が更に好ましい。なお、重量平均分子量の測定は実施例に記載の方法により行うことができる。
【0024】
<顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の製造>
顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子は、水分散体として下記の工程(1)及び(2)を有する方法により、効率的に製造することができる。
工程(1):水不溶性ポリマー、有機溶媒、顔料、中和剤及び水を含有する混合物を分散処理して、水不溶性ポリマーのカルボキシ基の45〜110%が中和された、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得る工程
また、任意の工程であるが、更に工程(3)を行ってもよい。
工程(3):工程(2)で得られた水分散体と架橋剤を混合し、架橋処理して水分散体を得る工程
【0025】
(工程(1))
工程(1)は、水不溶性ポリマー、有機溶媒、顔料、中和剤及び水を含有する混合物を分散処理して、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の分散体を得る工程である。
工程(1)では、まず、水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に顔料、中和剤、水、及び必要に応じて界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。水不溶性ポリマーの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、顔料の順に加えることが好ましい。
水不溶性ポリマーを溶解させる有機溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、メチルエチルケトンが好ましい。水不溶性ポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
工程(1)において、中和は、分散体のpHが7〜11となるように行うことが好ましい。中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、各種アミン等の塩基が挙げられる。また、アニオン性ポリマーを予め中和しておいてもよい。
水不溶性ポリマーのカルボキシ基の中和度は、得られる水分散体及びインク中での水不溶性ポリマー粒子の分散性を調整し、画像濃度、定着性、吐出信頼性、及び保存安定性を向上させる観点から、45〜110%であることが好ましく、55〜90%がより好ましく、60〜80%が更に好ましく、60〜70%がより更に好ましい。ここで中和度とは、中和剤のモル当量を水不溶性ポリマーのカルボキシ基のモル量で除したものである。
【0026】
前記混合物中、顔料は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましく、有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましく、水不溶性ポリマーは、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%がより好ましく、水は、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%がより好ましい。
前記水不溶性ポリマーと顔料の合計量に対する顔料の量の重量比〔顔料/(顔料+水不溶性ポリマー)〕は、得られる水分散体及びインク中での水不溶性ポリマー粒子の分散性を調整し、吐出信頼性及び保存安定性を向上させる観点から、0.4〜0.9であることが好ましく、0.5〜0.8であることがより好ましく、0.55〜0.65であることが更に好ましい。
【0027】
工程(1)における混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけで顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。工程(1)の分散における温度は、0〜40℃が好ましく、5〜30℃がより好ましく、分散時間は1〜30時間が好ましく、2〜25時間がより好ましい。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置、中でも高速撹拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics 社、商品名)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製、商品名)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0028】
(工程(2))
工程(2)は、工程(1)で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得る工程である。
公知の方法で有機溶媒を除去することで、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られた顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は0.1重量%以下が好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体は、顔料を含有する水不溶性ポリマーの固体分が水を主媒体とする中に分散しているものである。ここで、ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、該ポリマーに顔料が内包された粒子形態、該ポリマー中に顔料が均一に分散された粒子形態、該ポリマー粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
【0029】
(工程(3))
工程(3)は、任意の工程であるが、工程(2)で得られた水分散体と架橋剤を混合し、架橋処理して水分散体を得る工程である。工程(3)を行うことが、水分散体及びインクの保存安定性の観点から好ましい。
ここで、架橋剤としては、水不溶性ポリマーのアニオン性基と反応する官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上、好ましくは2〜6有する化合物がより好ましい。
架橋剤の好適例としては、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物、分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられ、これらの中では、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、分子中に2〜3のエポキシ基を有する化合物がより好ましい。
分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物としては、多価アルコールのグリシジルエーテルが好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルがより好ましい。
【0030】
架橋剤の使用量は、水分散体及びインクの保存安定性の観点から、水不溶性ポリマーに対する重量比〔架橋剤/水不溶性ポリマー〕で0.1/100〜30/100が好ましく、0.5/100〜20/100がより好ましく、0.5/100〜10/100が更に好ましい。
また、架橋剤の使用量は、該水不溶性ポリマー1g当たりのアニオン性基量換算で、該ポリマーのアニオン性基0.1〜20mmolと反応する量であることが好ましく、0.5〜15mmolと反応する量であることがより好ましく、1〜10mmolと反応する量であることが更に好ましい。
架橋ポリマーの架橋率は、好ましくは1〜80モル%、より好ましくは3〜20モル%、更に好ましくは5〜15モル%である。架橋率は、架橋剤の反応性基のモル数を、ポリマーが有する架橋剤と反応できる反応性基のモル数で除したものである。
【0031】
上記のようにして得られる顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径は、印字濃度の観点から、40〜200nmが好ましく、50〜150nmがより好ましく、60〜100nmが更に好ましい。該平均粒径は、大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)を用いて測定することができる。
【0032】
[炭素数4〜8の1,3−アルカンジオール]
本発明に用いられる炭素数4〜8の1,3−アルカンジオールは、吐出信頼性、保存安定性の観点から、分岐を有することが好ましい。
前記アルカンジオールが分岐を有することで、炭素数18〜22の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位を含有するポリマー粒子を更に膨潤させにくくなり、吐出信頼性、保存安定性が向上するものと考えられる。
また、前記アルカンジオールの炭素数は4〜8であり、吐出信頼性、保存安定性の観点から、炭素数は4〜6が好ましく、5及び6がより好ましい。
前記アルカンジオールの具体例としては、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオールが挙げられ、2−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオールが好ましく、3−メチル−1,3−ブタンジオールがより好ましい。
前記アルカンジオールは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
[水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インクは、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子、及び炭素数4〜8の1,3−アルカンジオールを5〜25重量%含有する水系インクであって、水不溶性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーが、カルボキシ基含有モノマー(a)及び炭素数18〜22の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位を含有し、該直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位の含有量が20〜60重量%であり、該カルボキシ基の中和度が45〜110%である。
炭素数4〜8の1,3−アルカンジオールの含有量は、水系インクの吐出信頼性を良好にし、定着性を向上させる観点から、前記水系インク中で、好ましくは8〜20重量%であり、定着性と保存安定性を向上させる観点から、より好ましくは8〜15重量%、更に好ましくは8〜10重量%であり、吐出信頼性を良好にする観点から、好ましくは10〜20重量%であり、より好ましくは12〜20重量%である。更に、水系インクの画像濃度、定着性、吐出信頼性、及び保存安定性を両立させる観点から、好ましくは10〜18重量%であり、より好ましくは12〜15重量%である。
水の含有量は、水系インクの吐出信頼性を良好にし、定着性及び保存安定性を向上させる観点から、前記水系インク中で、好ましくは50〜76重量%、より好ましくは55〜73重量%、更に好ましくは60〜70重量である。
【0034】
前記水系インクの25℃における静的表面張力は、水系インクの吐出信頼性を良好にし、定着性を向上させる観点から、好ましくは20〜50mN/m、より好ましくは20〜45mN/m、更に好ましくは23〜40mN/mである。
水系インクの25℃における粘度は、水系インクの吐出信頼性を良好にし、定着性を向上させる観点から、好ましくは2.5〜11.0mPa・s、より好ましくは4.0〜9.0mPa・s、更に好ましくは6.0〜8.0mPa・sである。
また、顔料の含有量は、水系インクの画像濃度を高める観点から、前記水系インク中で、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは3〜15重量%、更に好ましくは4〜12重量%である。
前記水系インクは、水系インクに通常用いられる溶媒、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤等を添加することができる。
炭素数4〜8の1,3−アルカンジオール以外の溶媒としては、グリセリン等の3価以上のポリオール、ジエチレングリコール等のジオール、2−ピロリドン等のピロリドン類、が好ましく、グリセリンとジエチレングリコールがより好ましい。
3価以上のポリオールとジオールは併用することがより好ましい。
界面活性剤としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。なお、ポリマーの重量平均分子量、酸性基量、及び水系インクの粘度、表面張力の測定は以下のとおり行った。
(1)ポリマーの重量平均分子量の測定
溶媒として、60mmol/Lのリン酸と50mmol/Lのリチウムブロマイドを含有するN,N−ジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK-GEL、α-M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
(2)酸性基量の測定
酸性基量は、NaOHやKOH等の強アルカリと反応した量として、以下の方法により求めた。
(測定条件)
装置:京都電子工業株式会社製、電位差自動滴定装置、AT−610
滴定条件:0.01N−HCl、滴定量0.02ml、間欠時間30秒、25℃
0.01N−NaOHは和光純薬工業株式会社製0.01mol/L水酸化ナトリウム(容量分析用)、0.01N−HClは和光純薬工業株式会社製0.01mol/L塩酸(容量分析用)を使用した。
(測定手順)
カーボンブラックの水分散体を固形分で0.05gとなるように精秤し、イオン交換水を加え50mlとし、0.01N−NaOHを1.5ml(過剰量)添加し30分間攪拌することにより、酸性基を全てNa塩とした。このアルカリ分散液に、0.01N−HClを0.02gずつ、30秒間隔で、分散液を攪拌しながら滴下し、pHを測定する。過剰アルカリが中和される中和点(変曲点1)を起点として、続いて起こる中和変曲点の中で最も酸性よりの中和点(最終変曲点2)を終点としたときの、最終変曲点2−変曲点1の間の0.01N−HClの使用量から粒子の酸性基量を算出し、固形分1g当りの当量として求めた。測定は20℃で行った。
【0036】
(3)水系インクの粘度の測定
E型粘度計(東機産業株式会社製、RE80L)を用いて20℃で粘度を測定した。
(4)水系インクの表面張力の測定
白金プレートを20℃に調整したインク5gの入った円柱ポリエチレン製容器(直径3.6cm×深さ1.2cm)に浸漬させ、表面張力計(協和界面化学株式会社製、商品名:CBVP-Z)を用いて、ウィルヘルミ法で測定した。
【0037】
製造例1〜6(水不溶性ポリマー溶液の調製)
反応容器内に、メチルエチルケトン10部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.02部、及び表1に示す初期仕込みモノマー(重量部表示)を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、初期仕込みモノマー混合溶液を得た。
一方、滴下ロート中に、表1に示す滴下モノマー(重量部表示)を仕込み、次いで前記の重合連鎖移動剤0.08部、メチルエチルケトン80部及び重合開始剤〔2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)〕0.5部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、滴下モノマー混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温後、滴下ロート中の滴下モノマー混合溶液を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、その反応液の液温を75℃で2時間維持した後、前記の重合開始剤0.6部をメチルエチルケトン10部に溶解した溶液を3点調製し、1時間おきに反応容器内の反応液に加え、75℃で更に1時間維持した後、85℃で2時間熟成させ、水不溶性ポリマー溶液を得た。
得られた水不溶性ポリマー溶液の一部を、減圧下、105℃で2時間乾燥させ、溶媒を除去することによって水不溶性ポリマーを単離し、その重量平均分子量を測定した。結果を表1に示す。なお、表1中の各モノマーの数値は、有効分の重量部を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1(水系インクの製造)
(1)顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体の製造
製造例1で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた水不溶性ポリマー40部を、メチルエチルケトン71.3部に溶かし、その中にイオン交換水222.3部と中和剤(5N−水酸化ナトリウム水溶液)をカルボキシ基のモル量に対して65%加えた混合物で塩生成基を中和し、更に表2に示す2種のカーボンブラック(a)(b)を合計60部加え、ディスパーを用いて分散した。得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)を用いて180MPaの圧力で15パス分散処理した。得られた分散体から、エバポレーターを用いて減圧下で60℃でメチルエチルケトンを除去し、カーボンブラックを含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体(固形分量20%)を得た。
(2)水系インクの製造
前記で得られたカーボンブラックと水不溶性ポリマーとからなるポリマー粒子の水分散体と、表2に示すように、3−メチル−1,3−ブタンジオール又は2−メチル−1,3−ブタンジオールの所定量と、グリセリン4.5部、2−ピロリドン1.2部、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール1.2部、エマルゲン109P 1.2部、プロキセルLV(アビシア株式会社製)0.12部、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール0.3部(グリセリン等の合計8.52部)を混合し、全体が100部になるようにイオン交換水を加えて混合し、得られた混合液を1.2μmのメンブランフィルター〔Sartorius社製、商品名:Minisart〕で濾過し、水系インクを得た。
【0040】
実施例2〜4(水系インクの製造)
実施例1(1)で用いた水不溶性ポリマーを、表1に示す製造例2〜4で得られた水不溶性ポリマーに変更した以外は、実施例1と同様にして水系インクを製造した。
実施例5〜7(水系インクの製造)
実施例1(2)の添加剤を表1に示す3−メチル−1,3−ブタンジオール又は2−メチル−1,3−ブタンジオールの添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして水系インクを製造した。
実施例8及び9(水系インクの製造)
実施例1(1)のカーボンブラックを含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体の製造において、中和剤(5N−水酸化ナトリウム水溶液)を、表2に示すとおり、カルボキシ基のモル量に対してそれぞれ50%及び100%になるように変更した以外は、実施例1と同様にして水系インクを製造した。
【0041】
実施例10(水系インクの製造)
(1)顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体の製造
実施例1(1)と同様にしてカーボンブラックを含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体(固形分量20%)を得た。
次にこの水分散体80部(うち水不溶性ポリマー6.4部)に対して架橋剤としてデナコールEX−321(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX321、エポキシ当量140(1分子中にエポキシ基を2及び3有する。))0.16部を加え、イオン交換水を0.80部添加し、80℃で3時間攪拌して、カーボンブラックを含有する架橋水不溶性ポリマー粒子の水分散体(固形分量20%)を得た。
(2)水系インクの製造
前記で得られたカーボンブラックを含有する架橋水不溶性ポリマー粒子の水分散体を用いて、実施例1(2)と同様にして水系インクを得た。
【0042】
比較例1及び2(水系インクの製造)
実施例1(1)において、水不溶性ポリマーを、表1に示す製造例5及び6で得られた水不溶性ポリマーに変更した以外は、実施例1と同様にして水系インクを製造した。
比較例3及び4(水系インクの製造)
実施例1(2)において、3−メチル−1,3−ブタンジオールの添加量を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして水系インクを製造した。
比較例5及び6(水系インクの製造)
実施例1(1)において、中和剤(5N−水酸化ナトリウム水溶液)を、表2に示すとおり、カルボキシ基のモル量に対してそれぞれ40%及び120%になるように変更した以外は、実施例1と同様にして水系インクを製造した。
【0043】
実施例1〜10及び比較例1〜6で得られた水系インクの物性を下記方法に基づいて評価した。その結果を表2に示す。
【0044】
(1)画像濃度
市販の株式会社リコーのインクジェットプリンター(品番:IPSIO GX5000 、ピエゾ方式)を用いて、普通紙「CopyPlus」(Hammermill社製)に、ベタ画像を印字し、1日放置後、光学濃度計SpectroEye(グレタグマクベス社製)を用いて任意の10箇所を測定し、平均値を求めた。
(2)定着性
前記プリンターを用い、前記(1)と同じ普通紙「CopyPlus」に対し、30mm×30mmの大きさのベタ画像を印字し、10秒後の印字画像の上から別の普通紙「CopyPlus」を重ね、さらに上から490g(荷重面積43mm×30mm)の荷重をかけた状態で、ベタ画像印字表面を10往復移動させた。この重ねた紙のベタ画像印字表面と接触していた部分及び往復移動前の当該部分の反射率(Black%)をクオリティ・エンジニアリング・アソシエイツ(QEA)社製のハンディ型画像評価システム「PIAS(登録商標)−II」を使用して測定した。10往復移動させる前のBlack%(反射率)と10往復移動させた後のBlack%値(反射率)の値から下記式によって、紙の汚れ(ΔBlack%。反射率の差)を算出した。ΔBlack%の値が小さいほど、紙の汚れが少なく、定着性がよい。
ΔBlack%=往復移動前の重ねた紙のBlack%−往復移動後の重ねた紙のベタ画像印字表面と接触していた部分のBlack%
【0045】
(3)吐出信頼性
前記プリンターを用い、高温低湿下(30℃、20%)で、前記(1)と同じ普通紙「CopyPlus」に2000文字/枚を100枚連続印刷した後、文字、ベタ画像及び罫線を含むテスト文書を印字し、 (i)シャープでハッキリとした文字、(ii)均一なベタ画像、及び(iii)ヨレのない罫線の3項目を目視で評価し、以下の判断基準により評価した。
〔判断基準〕
A:3項目を満足する
B:2項目を満足する
C:満足する項目が1項目以下である
【0046】
(4)保存安定性
水系インクをガラス製密閉容器に充填し、70℃、30日保存後のインクの粘度をE型粘度計(東機産業株式会社製、RE80L)を用いて20℃で測定し、下記式より粘度変化率を求めた。変化がなければ、100%となり、数値が100%に近い方が、保存安定性がよい。
保存安定性(%)=(〔保存後の粘度〕/〔保存前の粘度〕)×100
【0047】
【表2】

【0048】
表2から明らかなとおり、実施例の水系インクは、比較例の水系インクに比べて、定着性及び吐出信頼性が格段に優れ、これらを両立しており、画像濃度、保存安定性にも優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子、及び炭素数4〜8の1,3−アルカンジオールを5〜25重量%含有する水系インクであって、水不溶性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーが、カルボキシ基含有モノマー(a)及び炭素数18〜22の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位を含有し、該直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位の含有量が15〜70重量%であり、該カルボキシ基の中和度が45〜110%である、インクジェット記録用水系インク。
【請求項2】
水不溶性ポリマーが、スチレン系モノマー(c)由来の構成単位を3〜50重量%含有する、請求項1に記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項3】
水不溶性ポリマーにおける直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)由来の構成単位に対するスチレン系モノマー(c)由来の構成単位の重量比〔(c)/(b)〕が、0.1〜7である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項4】
直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)がステアリルメタクリレートである、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項5】
炭素数4〜8の1,3−アルカンジオールが分岐を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項6】
炭素数4〜8の1,3−アルカンジオールが、2−メチル−1,3−ブタンジオール及び/又は3−メチル−1,3−ブタンジオールである、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項7】
顔料が、酸性基量が異なる2種のカーボンブラックを含み、両者の酸性基量の差が100μmol/g以上である、請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項8】
水不溶性ポリマーが、更に、直鎖アルキル(メタ)アクリレート(b)以外のアルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有(メタ)アクリレート及びマクロマーから選ばれる1種の疎水性モノマー(d)、及び/又はノニオン性モノマー(e)を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項9】
水不溶性ポリマーが、カルボキシ基含有モノマー(a)由来の構成単位を2〜40重量%含有する、請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項10】
顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子が、下記工程(1)及び(2)を有する方法により顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体として製造されたものである、請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
工程(1):水不溶性ポリマー、有機溶媒、顔料、中和剤及び水を含有する混合物を分散処理して、水不溶性ポリマーのカルボキシ基の45〜110%が中和された、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得る工程
【請求項11】
水不溶性ポリマーが、架橋された水不溶性ポリマーである、請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。

【公開番号】特開2013−23546(P2013−23546A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158459(P2011−158459)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】