説明

インクジェット記録用紙

【課題】キャストコート法によりインク受理層を片面に設けたインクジェット記録用紙であって、ギロチン断裁適性及び非塗工面のインクジェット記録適性に優れたインクジェット記録用紙を提供する。
【解決手段】透気性を有する支持体の片面に、キャストコート法によりインク受理層を設けたインクジェット記録用紙であって、インク受理層中に平均一次粒子径が80nm以下のコロイダルシリカが含有され、かつ支持体のインク受理層を設けた面とは反対面にモンタンワックス及び/又はパラフィンワックスを主成分とする塗工層を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録方式に適用されるインクジェット記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インク又は色材を分散させた顔料インクを微細なノズルから吐出することによって記録用紙に画像を形成するインクジェット記録方式は、フルカラー印刷でのコストパフォーマンスに優れ、高速記録も可能であることから、記録が必要な種々の機器に搭載され利用されている。
一方、デジタルカメラの普及とインクジェット記録方式の高精細化により、従来の銀塩写真に代わりインクジェット記録方式による写真出力が増加している。写真用のインクジェット記録用紙には、画像再現性とインク吸収性、高い平滑度と光沢度、さらに保存性等が求められる。
【0003】
写真用インクジェット記録用紙は、支持体上に印字されたインクを吸収するために多孔状態の微細粒子を含有するインク吸収層を塗工している。また、インク吸収層には、インクの吸収及び保持、高い発色性及び鮮明性を実現すべく、高い透明性が必要である。さらに、銀塩写真用紙と同等以上の高い光沢性を付与するため、インク吸収層はキャストコート法で製造するのが一般的である。キャストコート法は顔料と結着剤を主成分とする塗工液を支持体上に塗工して塗工層を設け、その塗工層を鏡面仕上げした加熱ドラムに押し当て、乾燥と同時に鏡面を写し取る方法である。キャストコート法としては、(1)塗工層が湿潤状態にある間に鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着して乾燥するウェットキャストコート法(直接法)、(2)湿潤状態の塗工層を一旦乾燥又は半乾燥した後に再湿潤液により膨潤可塑化させ、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するリウェットキャストコート法、(3)湿潤状態の塗工層を凝固処理によりゲル状態にして、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するゲル化キャストコート法(凝固キャストコート法)、の3種類が一般に知られている。
各方法の原理は、湿潤状態の塗工層を鏡面仕上げの面に押し当てて、塗工層表面に光沢を付与するという点では同一である。こうして得られた写真用インクジェット記録用紙は表面が平滑で艶があり、従来の銀塩写真の代替となりうるものである。
【0004】
しかしながら、一般的な上質紙などの透気性を有する基材の片面だけにインク吸収層(キャストコート層)を設けた場合、インクジェット記録用紙の表裏の特性が大きく異なるため、カールの制御が困難であったり、キャストコート層面の平滑が高いために非塗工面(裏面)との間の摩擦係数が大きくなるといった問題が生じやすい。
カールは、温度や湿度による用紙の伸縮率が表裏で異なるために発生し、印刷時にプリンターでの用紙の搬送性を低下させ、作業効率を低下させるおそれがある。
また、キャストコートにより製造されたインクジェット記録用紙はシート状に断裁されて出荷されることがあるが、断裁を安定して行うためには、上述したキャストコート層面と非塗工面(裏面)との間の静摩擦係数の制御が重要である。又、写真用インクジェット記録用紙は、写真調の光沢を表面に付与するために光沢発現に優れるアルミナ微粒子やシリカ微粒子をキャストコート層に含有している。特に、近年は安価で光沢発現能力に優れるコロイダルシリカがキャストコート層に含有されることが多いが、コロイダルシリカは静摩擦係数を高めるため、コロイダルシリカを主成分とするキャストコート層が用紙の片面に存在すると、反対面(非塗工面)との静摩擦係数が大きくなり、静摩擦係数の制御が難しくなる。
【0005】
ここで、インクジェット記録用紙をギロチンカッターで断裁する際、キャストコート層と非塗工面との静摩擦係数が高いと、刃のダレ面側で塗工層の欠落が発生する。これは、ギロチン断裁では、まずクランプゲージに用紙の束が押さえられ、押さえられた面が断裁刃のストレート面側となるためである。つまり、クランプゲージで押さえられているストレート面側の用紙は擦れずに垂直に断裁されるため、大きな欠陥は発生しないのに対し、用紙の反対面(刃ダレ面)側は押さえが無く、刃先にも角度があるため、強い圧力が加わると同時にキャストコート面と非塗工面が擦られながら断裁される。断裁される瞬間、用紙のうち刃先に近い端部で、かつ断裁束の下部では、大きな圧力と静摩擦力によってキャストコート層と非塗工面が擦られ、塗工層が欠損する。
特に、近年のインクジェットプリンターは、縁なし印刷も可能になっているため、このように用紙縁部のキャストコート層が欠損していると、印刷画像が著しく見劣りする。
【0006】
このようなことから、インクジェット記録用紙の静摩擦係数を制御してプリンター搬送性を改善するため、非塗工面にポリエチレンエマルジョンやアルキルケテンダイマー等の脂肪族炭化水素系樹脂を塗工する技術が開示されている(例えば、特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−190620号公報
【特許文献2】特開2005−288801号公報
【特許文献3】特開2005−288841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の技術の場合、インクジェット記録用紙の光沢は高くなく、又、非塗工面に水溶性高分子接着剤を含有した場合には静摩擦係数の制御が困難になり、ギロチン断裁適性を向上させることが難しい。
又、特許文献2,3記載の技術の場合、ギロチン断裁適性は改善されるものの、非塗工面側にオフセット印刷等の印刷を行うと、インクジェット記録用紙が波打ちを生じやすく、オフセット印刷後のギロチン断裁適性が劣る場合がある。さらに、特許文献2,3記載の技術の場合、非塗工面側に鮮明なインクジェット記録を行うことが難しい。例えば、写真用インクジェット記録用紙を葉書として使用する場合、通常、非塗工面に、予め葉書の郵便番号の枠、または料額などのオフセット印刷が行われ、その後に葉書サイズに断裁される。ところが、オフセット印刷後にインクジェット記録用紙に波打ちが発生すると、安定して断裁をすることができず規定の葉書寸法が確保できない。
【0009】
すなわち、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、キャストコート法によりインク受理層を片面に設けたインクジェット記録用紙であって、ギロチン断裁適性及び非塗工面のインクジェット記録適性に優れたインクジェット記録用紙の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
キャストコート法により設けられるインク受理層は、インク吸収性とインク発色を確保するために非晶質合成シリカやアルミナ等の多孔性顔料を多量に使用し、かつ、写真調の面感を形成させるために高平滑な面に仕上げられている。従って、インクジェット記録用紙のインク受理層とインク受理層面とは反対面との静摩擦係数が高くなり、特にインク受理層の最表層にコロイダルシリカが存在する場合には静摩擦係数が高くなる。この場合、用紙の断裁時に高圧力が加わると断裁刃のダレ面側への滑り性が悪くなり、用紙端部でのインク受理層の欠けや多量の紙粉が発生する。
本発明者は、インク受理層面とインク受理層面とは反対面の静摩擦係数を低下させるために、インク受理層に種々の滑剤を添加したが、静摩擦係数を低下させるには滑剤を多量に添加しなければならず、静摩擦係数が0.8以下になるまで滑剤を添加すると、インク受理層のインク吸収性(インクにじみ)が低下することが判明した。又、特許文献2、3に記載のポリエチレンエマルジョンまたはアルキルケテンダイマー含有液をインク受理層面とは反対面側へ塗布したが、静摩擦係数を低下させることはできなかった。
そこで、本発明者らは種々検討した結果、インク受理層面の反対面にモンタンワックスまたはパラフィンワックスを主成分とする塗工層を設けると、裏面の印字品質を阻害せずにすべり性が向上し、適正な摩擦係数を得ることができることを見出した。
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明のインクジェット記録用紙は、透気性を有する支持体の片面に、キャストコート法によりインク受理層を設けたインクジェット記録用紙であって、前記インク受理層中に平均一次粒子径が80nm以下のコロイダルシリカが含有され、かつ前記支持体のインク受理層を設けた面とは反対面にモンタンワックス及び/又はパラフィンワックスを主成分とする塗工層を設けている。
【0012】
前記インク受理層は、前記支持体の片面に、顔料及び結着剤としてポリビニルアルコールを含有する塗工層を設けた後、ホウ酸及びカチオン性樹脂を含有する凝固剤溶液を塗布して凝固キャストコート法により形成されていることが好ましい。
【0013】
本発明のインクジェット記録用紙は、透気性を有する支持体の片面に、キャストコート法によりインク受理層を設けたインクジェット記録用紙であって、前記インク受理層の表面に平均一次粒子径が80nm以下のコロイダルシリカが存在し、かつ前記支持体のインク受理層を設けた面とは反対面にモンタンワックス及び/又はパラフィンワックスを主成分とする塗工層を設けている。
【0014】
前記インク受理層は、前記支持体の片面に、顔料及び結着剤としてポリビニルアルコールを含有する塗工層を設けた後、平均一次粒子径が80nm以下のコロイダルシリカ、ホウ酸及びカチオン性樹脂を含有する凝固剤溶液を塗布して凝固キャストコート法により形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、キャストコート法によりインク受理層を片面に設けたインクジェット記録用紙であって、ギロチン断裁適性及び非塗工面のインクジェット記録適性に優れたインクジェット記録用紙が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録媒体について説明する。
<支持体>
支持体は、透気性を有する吸収性支持体であれば、その種類、形状、寸法などについては特に制限はない。支持体としては、例えば、塗工紙、非塗工紙等の紙を好適に用いることができる。紙の主成分はパルプと内添填料である。パルプとしては通常公知のパルプであればいずれのものを使用することができる。例えば、化学パルプとして広葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ、広葉樹晒亜硫酸パルプ、広葉樹未晒亜硫酸パルプ、針葉樹晒亜硫酸パルプ、針葉樹未晒亜硫酸パルプ、木材、綿、麻、じん皮等の繊維原料を化学的に処理して作製されたパルプなどを使用できる。また、木材やチップを機械的にパルプ化したグランドウッドパルプ、木材やチップに薬液を染み込ませた後に機械的にパルプ化したケミメカニカルパルプ、及び、チップをやや軟らかくなるまで蒸解した後にリファイナーでパルプ化したサーモメカニカルパルプ等も使用できる。インクジェット用紙には高白色度で地合に優れる広葉樹晒クラフトパルプを使用することが好ましい。
【0017】
また、古紙を原料とするパルプ、すなわち、製本、印刷工場、断裁所等において発生する裁落、損紙、幅落しした上白、特白、中白、白損等の未印刷古紙;印刷やコピーが施された上質紙、上質コート紙等の上質印刷古紙;水性インク、油性インク、鉛筆などで筆記された古紙;印刷された上質紙、上質コート紙、中質紙、中質コート紙等のチラシを含む新聞古紙;中質紙、中質コート紙、更紙等の古紙等を離解して得られるパルプを使用することもできる。
【0018】
またパルプは、漂白することにより高白色度とすることができる。パルプの漂白方法としては、元素状塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素、酸素、過酸化水素、苛性ソーダ等の薬品の組合せにより漂白する塩素漂白法、二酸化塩素を使用する漂白方法(ECF)、塩素化合物を一切使用せずに、オゾン/過酸化水素等を主に使用して漂白する方法(TCF)といった方法がある。このうち塩素漂白法からなる有機塩素化合物負荷が環境に悪影響を与える恐れがあることから、ECFやTCFといった方法で漂白することが好ましい。また、ECFでは、二酸化塩素はリグニンと選択的に反応するため、セルロースに損傷を与えずにパルプの白色度を高めることができるので、さらに好ましい。
パルプは抄紙適性、強度、平滑性、地合の均一性等といった紙の諸特性等を向上させるため、ダブルディスクリファイナー等の叩解機により叩解される。叩解の程度は、カナディアン スタンダード フリーネス(C.S.F.)で250ml〜550ml程度の通常の範囲で目的に応じて選択することが出来る。前記パルプのpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでもよい。
叩解されたパルプスラリーは、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、または、丸網抄紙機等の抄紙機により抄紙され支持体を得ることができるが、この際、通常抄紙に際して用いられるパルプスラリーに、填料、分散助剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、サイズ剤、定着剤、pH調節剤、染料、有色顔料、及び蛍光増白剤等を添加することが可能である。
【0019】
支持体の不透明度、白色度向上を目的とし、填料を含有(内添)させてもよい。内添填料は、例えばクレー、カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の白色顔料を使用できるが、高白色度を得やすいことから炭酸カルシウムが好ましく、特に、ロゼッタ(rosette)型軽質炭酸カルシウムが好ましい。ロゼッタ型軽質炭酸カルシウムとは、紡錘形状の軽質炭酸カルシウムの一次粒子が放射状に凝集してロゼッタ型の二次粒子を形成したものであり、具体的にはSpecialty Minerals Inc.社のアルバカーHO、アルバカー5970、アルバカーLO等の製品を好ましく挙げることができる。ここで、放射状とは、例えば前記二次粒子の中心近傍から、各一次粒子の長手方向が放射状に伸びたものである。なお、支持体の密度は0.8g/cm以下であることが好ましい。
【0020】
分散助剤としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、とろろあおい等が用いられる。紙力増強剤としては、例えば、植物性ガム、澱粉、カルボキシ変性ポリビニルアルコール等のアニオン性紙力増強剤、カチオン化澱粉、カチオン性ポリアクリルアミド、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂等のカチオン性紙力増強剤が用いられる。サイズ剤としては、例えば、高級脂肪酸塩、ロジン、マレイン化ロジン等のロジン誘導体、ジアルキルケテンダイマー、アルケニル或いはアルキルコハク酸塩、エポキシ化脂肪酸アミド、多糖類エステル等が用いられる。定着剤としては、例えば、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等の多価金属塩、カチオン化澱粉、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂等のカチオン性ポリマー等が用いられる。pH調節剤としては、例えば、塩酸、苛性ソーダ、炭酸ソーダ等が用いられる。
【0021】
また、上記支持体には、水溶性高分子添加剤をはじめとする各種の添加剤を含有する塗工液を、タブサイズ、サイズプレス、ゲートロールコーター又はフィルムトランスファーコーター等を用い、オンマシン又はオフマシンで塗工することが可能である。
【0022】
上記水溶性高分子添加剤としては、例えば、澱粉、カチオン化澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体;ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール誘導体;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースサルフェート等のセルロース誘導体;ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白等の水溶性天然高分子;ポリアクリル酸ナトリウム、スチレン−無水マレイン酸共重合体ナトリウム塩、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム等、無水マレイン酸樹脂等の水溶性高分子;メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性合成樹脂等の水性高分子接着剤等が用いられる。
【0023】
その他の添加剤としては、サイズ剤として石油樹脂エマルション、スチレン−無水マレイン酸共重合体アルキルエステルのアンモニウム塩、アルキルケテンダイマー乳化物、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン等のディスパーションが挙げられる。その他の添加剤としては、帯電防止剤として、無機電解質である塩化ナトリウム、塩化カルシウム、ボウ硝等が、吸湿性物質としてグリセリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。その他の添加剤としては、顔料としてクレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム、酸化チタン等が挙げられる。その他の添加剤としては、pH調節剤として塩酸、苛性ソーダ、炭酸ソーダ等が用いられ、その他染料、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を組み合わせて使用することも可能である。
【0024】
<インク受理層について>
支持体の片面に、キャストコート法によりインク受理層を設けることにより、インクジェットプリンターで印刷した際のインクの吸収性を好適に調整でき、印字濃度や印字にじみ、ベタ均一性等の記録適性が向上する。インク受理層は、インクの溶媒成分を吸収する機能を有する層であり、顔料と結着剤を主成分とする。より効果的にインクを吸収させるために、2層以上のインク受理層を設けても構わないが、効率的な製造のためには、イン
ク受理層は1層とすることが望ましい。
【0025】
(インク受理層の顔料)
インク受理層の顔料は、平均一次粒子径が80nm以下のコロイダルシリカを含有する。コロイダルシリカの平均一次粒子径が80nmを超えると、インク受理層の光沢性、透明度を向上させることが困難である。コロイダルシリカの平均一次粒子径は、好ましくは10〜80nmである。コロイダルシリカの平均一次粒子径が10nmより小さいと、インク受理層の光沢感は優れるが、染料インクの吸収性が劣る場合がある。
ここで、インク受理層面の最表層に一次粒子径が80nm以下のコロイダルシリカが存在すると、その面の静摩擦係数が高くなる。
なお、本発明では平均一次粒子径の異なる2種以上のコロイダルシリカを混合して使用してもよい。一次粒子径の異なる2種類以上のコロイダルシリカを用いる場合、「コロイダルシリカの平均一次粒子径」とは、各コロイダルシリカの平均一次粒子径を各コロイダルシリカの含有割合で加重平均した値とする。同様に、インク受理層の顔料として平均一次粒子径の異なる2種類以上の顔料を用いる場合、「顔料の平均一次粒子径」とは、各顔料の一次粒子径を各顔料の含有割合で加重平均した値とする。
コロイダルシリカの平均一次粒子径の測定法は、BET法(窒素吸着法による測定)で測定する。
なお、インク受理層の顔料としては、インク受理層に平均一次粒子径が80nm以下のコロイダルシリカが必須であるが、特にインク受理層の表面付近に存在することが好ましい。後述するが表面付近に存在させるには、コロイダルシリカを凝固剤溶液中に配合することが好ましい。
【0026】
さらに、インク受理層の顔料として、公知の無機微粒子や有機微粒子を用いることができる。例えば、カオリン、クレー、焼成クレー、非晶質シリカ(無定形シリカともいう)、合成非晶質シリカ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、アルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等)、アルミナ(α型結晶のアルミナ、θ型結晶のアルミナ、γ型結晶のアルミナ等)、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、アルミナ、コロイダルシリカ、ゼオライト、合成ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、合成スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、ハイドロタルサイト、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等、一般塗工紙製造分野で公知公用の各種顔料を1種もしくはそれ以上、併用することができる。これらの中で、酸化亜鉛、酸化チタン、プラスチックピグメント類は、白紙部の黄変を防ぐことができるので配合することが好ましい。また、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライトはインク吸収性が高いので主成分として含有させることが好ましいが、特に発色性の点からコロイダルシリカを顔料に含むことが好ましく、インク吸収性、コストの点から合成非晶質シリカを顔料に含むことが好ましい。
【0027】
上記非晶質合成シリカはその製造法により、湿式法シリカと気相法シリカとに大別できる。湿式法で製造された合成非晶質シリカは、顔料の透明性が気相法シリカに劣るが、ポリビニルアルコールと併用した場合の塗料安定性に優れる。さらに、湿式法シリカは、内部空隙の無い気相法シリカに比べて分散性が良好であり、塗料濃度を高くすることが可能である。そのため、インク受理層中の(結着剤に対する)顔料の割合を高くすることができ、インク吸収性を向上できると共に染料インクの発色性を向上できる。
【0028】
(インク受理層用塗工液の結着剤)
インク受理層用塗工液の結着剤としては、水系バインダー樹脂を用いることができる。「水系」とは、水又は水と少量の有機溶剤からなる媒体中で樹脂が溶解又は分散し、安定化すること(水溶性又は/及び水分散性の樹脂エマルジョン)を意味する。又、水系バインダー樹脂とは水溶性樹脂及び水分散性樹脂を意味する。水系バインダー樹脂は、支持体に塗工する塗工液中では溶解又は粒子となって分散しているが、塗工し乾燥した後に顔料の結着剤となり、インク受理層を形成する。
水系バインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール及びその誘導体;ポリビニルピロリドン;ウレタン樹脂エマルジョン由来のウレタン樹脂;酸化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;カゼイン;ゼラチン;大豆タンパク;スチレン−アクリル樹脂及びその誘導体;スチレン−ブタジエン樹脂ラテックス;アクリル樹脂エマルジョン、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、塩化ビニル樹脂エマルジョン、尿素樹脂エマルジョン、アルキッド樹脂エマルジョン及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらの水系バインダー樹脂を単独又は混合して用いることができる。
【0029】
本発明においては、発色性とコストの点からポリビニルアルコールを結着剤に含有することが好ましく、特に、部分鹸化のポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールの添加量は、インク吸収層中の全顔料100質量部に対して5質量部から30質量部であることが好ましい。但し、必要な塗工層強度が得られる限り、結着剤の種類は特に限定されるものではない。
インク受理層用塗工液は、上記した顔料と結着剤を含むが、その他の成分、例えば、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、顔料分散剤、離型剤、発泡剤、pH調整剤、表面サイズ剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、防腐剤、耐水化剤、染料定着剤、界面活性剤、湿潤紙力増強剤、保水剤、カチオン性高分子電解質等を、本発明の効果を損なわない範囲内で、インク受理層の前駆体となる塗工層に適宜添加することができる。
【0030】
(インク受理層の塗布方法)
支持体上にインク受理層となる塗工液を塗布する方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター等の公知の塗工機をオンマシン、又はオフマシンで用いた塗工方法の中から適宜選択して使用することができる。
また、インク受理層は必要に応じて2層以上塗工しても構わないが、インク受理層用塗工液の塗工量は、乾燥質量で、好ましくは2〜50g/m、より好ましくは2〜30g/m程度、更に好ましくは4〜20g/m程度である。塗工量を2g/m以上とすることにより、インク吸収性改良効果が充分に得られ、インク吸収層を設けた際に優れた光沢性が得られ、50g/m以下とすることにより、塗工層の強度が向上し、粉落ちや傷が付きにくくなる傾向がある。
本発明において、インク吸収層の塗工量を多く必要とする場合には、インク吸収層を多層にすることも可能である。また、支持体とインク吸収層の間にインク吸収性、接着性その他の各種機能を有するアンダーコート層を設けても良い。
【0031】
(インク受理層の形成)
本発明においては、最表面のインク受理層をキャストコート法で形成することによって光沢を付与する。キャストコート法は、顔料と結着剤とを主成分とする塗工液を支持体上に塗工して塗工層を設け、塗工層をキャストドラムに圧着して光沢仕上げする方法であり、この光沢塗工層が上記インク受理層となる。
キャストコート法としては、(1)塗工層が湿潤状態にある間に、鏡面仕上げした加熱ドラムに塗工層を圧着して乾燥するウェットキャストコート法、(2)湿潤状態の塗工層を一旦乾燥又は半乾燥した後に再湿潤液により膨潤可塑化させ、鏡面仕上げした加熱ドラムに塗工層を圧着し乾燥するリウェットキャストコート法、(3)湿潤状態の塗工層を凝固処理によりゲル状態にして、鏡面仕上げした加熱ドラムに塗工層を圧着し乾燥する凝固(ゲル化)キャストコート法、の3種類がある。各方法の原理は、湿潤状態の塗工層を鏡面仕上げの面に押し当てて、塗工層表面に光沢を付与するという点では同様である。本発明においては、銀塩写真に匹敵する面感、光沢を付与することが可能であるという点で、凝固キャストコート法を用いることが好ましい。
【0032】
凝固キャストコート法は、例えば、以下のようにして行う。まず、インク受理層用塗工液を支持体に塗布して、塗工層を設ける。次に、塗工層中の結着剤(特に水系結着剤)を凝固させる作用を有する凝固剤溶液を湿潤状態の塗工層に塗布してゲル化させてから、加熱した鏡面仕上げ面に圧着、乾燥する。凝固キャストコート法は、銀塩写真に匹敵する面感、光沢をインク受理層に付与することが可能である。
凝固剤溶液を塗布する際に塗工層が乾燥状態であると鏡面ドラム表面を写し取ることが難しく、得られたインク受理層表面に微小な凹凸が多くなり、銀塩写真並の光沢感を得にくい。特にインク受理層の水系結着剤としてポリビニルアルコールを用いた場合には、凝固剤としてホウ酸塩を用いることにより、凝固時の固さを適度なものとすることが容易となり、インク受理層に良好な光沢感を付与でき、操業性も良好となる。また、後述するように本発明ではコロイダルシリカを凝固剤溶液に添加すると、インク受理層表面にコロイダルシリカを存在させることが容易である。
【0033】
(凝固剤溶液)
凝固剤溶液は、にホウ酸及びカチオン性樹脂を必須成分として含有し、さらにコロイダルシリカを含有することができる。
(ホウ酸)
ホウ酸が凝固剤溶液中に1〜10質量%含有されることが好ましい。ホウ酸の含有割合が1質量%未満であると凝固作用が不十分となる場合がある。また、ホウ酸の含有割合が10質量%を超えると水に溶解することができず、凝集体(析出物)が発生し、操業トラブルとなる場合がある。
(カチオン性樹脂)
凝固剤溶液中にカチオン性樹脂を含有させることにより、凝固キャストコートによってインク受理層の表面にカチオン性樹脂が付着(存在)する。カチオン性樹脂はインクを定着させ、水溶性染料インク使用時の印字濃度が向上し、さらに耐水性が向上する。凝固剤溶液中にいずれも電気的に陽性のカチオン性樹脂とカチオン性コロイダルシリカとが共存するので、両者が凝集することがない。
カチオン性樹脂としては、ポリアミンスルホン、ポリアルキレンポリアミン、ポリアミン縮合物、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド縮合物、カチオン性アクリル樹脂、カチオン性ウレタン樹脂等が挙げられ、これらを1種又は複数種選沢して用いることができる。凝固剤溶液中のカチオン性樹脂の含有量は特に限定されるものではないが、0.5〜10質量%含有されることが好ましい。カチオン性化合物の含有割合が0.5質量%未満であると、インク定着機能が低下し、印刷した画像の印字濃度が低下する場合がある。カチオン性化合物の含有割合が10質量%を超えると、凝固剤の粘度が上昇して塗工性が悪化する場合がある。
【0034】
(コロイダルシリカ)
凝固剤溶液中にコロイダルシリカを添加すると、キャストコートによってインク受理層の表面近傍にコロイダルシリカが付着(存在)する。平均一次粒子径が80nm以下の微細なコロイダルシリカがインク受理層の表面に存在すると、染料インクで印字した際の印字濃度が向上する。コロイダルシリカがインク受理層の最表面に存在するため、インク受理層の表面が平滑になり、光沢が向上する。平均一次粒子径の異なる2種以上のコロイダルシリカを混合して使用してもよい。
インク受理層の光沢性、透明度を向上させる観点から、コロイダルシリカの平均一次粒子径は80nm以下であることが好ましく、より好ましくは10〜80nmである。コロイダルシリカの平均一次粒子径が10nmより小さいと、インク受理層の光沢感は優れるが、染料インクの吸収性が劣り、塗工量を多くしなくてはならないのでコストの面で不利になる。一方、コロイダルシリカの平均一次粒子径が80nmより大きいと、インク受理層の透明度が低下し、染料インクで印字した際の印字濃度が低下する場合がある。
【0035】
又、インク受理層の最表面を平滑にし、光沢度を向上させる観点から、凝固剤溶液中のコロイダルシリカの一次粒子径は、インク受理層用塗工液のコロイダルシリカの一次粒子径より小さいことが好ましい。このようにすると、インク受理層の最表面を微細なコロイダルシリカが覆うため、光沢度が向上する。
なお、一次粒子径の異なる2種類以上のコロイダルシリカを用いる場合、「コロイダルシリカの平均一次粒子径」とは、各コロイダルシリカの平均一次粒子径を各コロイダルシリカの含有割合で加重平均した値とする。同様に、インク受理層の顔料として平均一次粒子径の異なる2種類以上の顔料を用いる場合、「顔料の平均一次粒子径」とは、各顔料の一次粒子径を各顔料の含有割合で加重平均した値とする。
【0036】
コロイダルシリカは凝固剤溶液中に2〜10質量%含有されることが好ましい。コロイダルシリカの含有割合が2質量%未満であると、光沢度が低下し、染料インクで印字した際の印字濃度が低下する場合がある。また、コロイダルシリカの含有割合が10質量%を超えると凝集体(析出物)が発生し、操業トラブルとなる場合がある。
コロイダルシリカ以外の顔料として、アルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等)、アルミナ(α型結晶のアルミナ、θ型結晶のアルミナ、γ型結晶のアルミナ等)等を、カチオン性コロイダルシリカと混合して使用してもよいが、コロイダルシリカに対するその他の顔料の混合比率は50質量%以下とすることが望ましい。
【0037】
凝固剤溶液を塗布する方法は、塗工層に塗布できる限り特に制限されず、公知の方法(例えば、ロール方式、スプレー方式、カーテン方式等)の中から適宜選択して用いることができる。
凝固剤溶液の付着量は固形分で1〜5g/mとすることが好ましい。凝固剤溶液の付着量が1g/m未満であると、凝固作用が不十分となり、インク受理層への光沢の付与が不十分となる場合がある。凝固剤の付着量が5g/mを超えても、インク受理層の光沢の向上効果が飽和すると共に、凝固剤溶液の固形分濃度を高くしなければならないので、後述する問題が発生する場合がある。
凝固剤溶液の濃度は3質量%以上から10質量%未満であることが好ましい。凝固剤溶液の濃度が3質量%未満であると、塗工層への凝固剤の付着量(固形分で1g/m未満)が不十分となり、凝固作用が不十分となる場合がある。また、凝固剤溶液の濃度が10質量%を超えると水に溶解させることが困難となり、凝集体(析出物)が発生し、操業トラブルとなる場合がある。
又、上記インク受理層用溶液及び/又は凝固剤溶液には、必要に応じて剥離剤を添加することができる。剥離剤の融点は50〜130℃であることが好ましく、特に70〜110℃であることが好ましい。上記の温度範囲においては、剥離剤の融点が鏡面仕上げ面の温度とほぼ同等であるため、剥離剤としての能力が最大限に発揮される。剥離剤は上記特性を有していれば特に限定されるものではないが、印字性能を妨げないものとしてポリエチレン系のワックスエマルジョンを用いることが好ましい。剥離剤の凝固剤溶液中の含有量は特に限定されるものではないが、0.1〜5質量%含有されることが好ましい。
【0038】
<インク受理層の反対面>
本発明において、支持体のうちインク受理層を設けた面とは反対面に、静摩擦係数を低下させるためにモンタンワックス及び/又はパラフィンワックスを主成分とする塗工層が設けられている。
モンタンワックスとパラフィンワックスの2種類以上を混合して使用しても良い。又、モンタンワックス及び/又はパラフィンワックスの分散体を塗工液として、上記反対面に塗工することで、塗工層を形成することができる。この塗工液は、固形分濃度2〜10質量%の水分散液とし、適宜消泡剤を含有することができる。塗工液中にポリエチレンワックスや金属石鹸を消泡剤として配合した場合、ポリエチレンワックスは静摩擦係数を低減させる効果が小さく、金属石鹸は静摩擦係数を低減させるものの発泡を抑えることができないため好ましくない。塗工液は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、ダイコーターなどで塗工することができる。
静摩擦係数低減効果および消泡効果からモンタンワックスが最も優れるが、ポリエチレンワックス等に比べるとパラフィンワックスも静摩擦係数低減効果および消泡効果が優れている。その理由は定かではないが、パラフィンワックスの方がポリエチレンワックスより融点が低いことや溶融粘度が低いことが関係していると推測される。従って、モンタンワックス及び/又はパラフィンワックスの好ましい融点は50〜90℃である。
但し、過剰に配合すると必要以上に静摩擦係数が低減し、プリンターでの搬送トラブルが起こる。静摩擦係数の範囲は0.4〜0.8が好ましい。静摩擦係数が0.4未満の場合はプリンターの搬送トラブルを起こし、0.8より大きいと課題であるギロチン断裁でトラブルが発生する。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明するが本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中の「部」及び「%」は、特に明示しない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
【0040】
[実施例1]
広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)90部と針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)10部とから成るカナディアン スタンダード フリーネス(CSF)400mlの混合パルプスラリーに対し、填料としてロゼッタ型軽質炭酸カルシウム(製品名:アルバカー5970、Specialty Minerals Inc.社製)を灰分10%となるように添加し、さらに硫酸アルミニウム1.0部、アルキルケテンダイマー(AKD)0.15部、歩留向上剤0.05部を添加した。このスラリーを用いて抄紙機で抄紙し、その際に固形分濃度5%のデンプンと固形分濃度0.2%の表面サイズ剤(AKD)とを含有する表面サイズ塗布液を固形分で1.5g/mとなるように塗布し、180g/mの支持体を得た。
【0041】
この支持体にロールコーターで、インク受理層用の下記の塗工液Aを固形分で塗工量10g/mとなるように塗工し乾燥させた。この支持体に下記の凝固液Bを固形分で塗布量2.0g/mとなるように塗布して、湿潤状態にある間に、鏡面仕上げされた加熱ロールに圧着し乾燥させた。これにより、坪量192g/mで、インク受理層のJIS Z 8741で規定する20°光沢度が30%であるインクジェット記録用紙を作製した。次に、作製したインクジェット記録用紙の非塗工面に、ロールコーターで下記の塗工液C(摩擦低減液)を塗工した。
なお、インクジェット記録用紙をすべてを一工程で行うことも可能である。例えば、塗工液Aを塗工後、乾燥させないで塗工層が湿潤状態にある状態で凝固液Bをさらに塗工し、一工程で乾燥させることも可能である。また、塗工液Cも同時に塗工して乾燥し、目的とするインクジェット記録用紙を製造することも可能である。
【0042】
塗工液A:顔料として湿式法合成非晶質シリカ(製品名:ファインシールX−37B、株式会社トクヤマ製、平均二次粒子径2.6μm)100部、結着剤としてポリビニルアルコール(製品名:PVA235:株式会社クラレ製)20部、蛍光染料(製品名:BLANKOPHOR P liquid01、LANXESS社製)1部、離型剤(製品名:SNコート289、サンノプコ株式会社製)1部を配合して濃度20%の塗工液を調整した。最終的なpHの調整にはアンモニア水溶液を使用した。
凝固剤液B:ホウ酸4質量%、コロイダルシリカ(製品名:クォートロンPL−2、扶桑化学工業株式会社製、平均一次粒子径20nm)、離型剤(製品名:PEM−17、サンノプコ株式会社製)0.5質量%を調製した。
塗工液C(摩擦低減液):モンタンワックス(製品名:晒しモンタンワックス813、中京油脂株式会社製)10%、消泡剤(製品名:DF−480、サンノプコ株式会社製)0.01質量%として調製した。
【0043】
[実施例2]
塗工液Cにおいて、モンタンワックスをパラフィンワックス(製品名:パラフィンワックス115、日本精蝋株式会社製)に変更したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0044】
[実施例3]
塗工液Cのモンタンワックスの配合量を5%に変更したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0045】
[実施例4]
塗工液Cのモンタンワックスの配合量を15%に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
[実施例5]
凝固剤液Bのコロイダルシリカの平均一次粒子径を70nm(製品名:クォートロンPL−7、扶桑化学工業株式会社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0046】
[比較例1]
塗工液Cを塗布しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0047】
[比較例2]
塗工液Cにおいて、モンタンワックスをポリエチレンワックス(製品名:ポリワックス500、中京油脂株式会社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0048】
[比較例3]
塗工液Cにおいて、モンタンワックスを金属石鹸のステアリン酸亜鉛(製品名:ハイドリンZ−8−36、中京油脂株式会社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0049】
[比較例4]
凝固剤液Bのコロイダルシリカの平均一次粒子径を100nm(製品名:クォートロンPL−10、扶桑化学工業株式会社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0050】
(評価)
1.インクジェット記録方式による出力画像の評価
(インク受理層面)
得られたインクジェット記録用紙に対し、インクジェットプリンター(製品名:PM―A940、エプソン株式会社製)を用いて所定のデジタル写真を出力した。レジンコート紙を支持体とするインクジェット写真用紙(銘柄名:EPSON写真用紙<光沢>)との画像を目視で比較評価した。
○:インクジェット写真用紙とほとんど差がない
△:インクジェット写真用紙より少し劣る
×:インクジェット写真用紙より明らかに劣る
(非インク受理層面)
インクジェットプリンター(製品名:PM―A940、エプソン株式会社製)を用いて所定の黒文字を出力した。年賀葉書用紙の宛名面と目視で比較評価した。
○:年賀葉書用紙とほとんど差がない
△:年賀葉書用紙より少し劣る
×:年賀葉書用紙より明らかに劣る
【0051】
2.ギロチン断裁適性
断裁方法:超硬刃で、刃先角25°の断裁刃を用いたギロチン断裁機によって、A3サイズの試料を400枚重ねて、断裁した。
○:断裁時の異常音や断裁した端部のインク受理層の欠落もない
△:断裁時の異常音や断裁した端部のインク受理層の欠落が多少ある
×:断裁時の異常音や断裁した端部のインク受理層の欠落がある、または断裁できない
【0052】
3.プリンター搬送性
インクジェットプリンター(製品名:PM―A940、エプソン株式会社製)に5枚のインクジェット記録用紙をセットし、5枚印刷した際の搬送性を評価した。
○:問題なく5枚印刷可能
△:重送や空走が1枚以上で発生
×:印刷できない
【0053】
4.発泡試験
塗工液Cの中に水中ポンプでエアーを入れて、1時間後の泡立ち状態を評価した。
○:泡がまったくない状態
△:泡の発生はあるが、エアーを停止後にすぐに消える状態
×:泡の発生が多く、エアーを停止しても消えない状態
【0054】
[摩擦係数]
JIS P 8147の水平方法に基づき、記録用紙の表面と裏面との間の静摩擦係数を測定した。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から明らかなように、キャストコート法により設けたインク受理層の反対面にモンタンワックスまたはパラフィンワックスを主成分とする塗工層を設けた実施例1〜5のインクジェット記録用紙の場合、ギロチン断裁適性に優れていた。
なお、他の実施例に比べて塗工層中のモンタンワックスの配合量が多い実施例4の場合、プリンター搬送性、塗工液の泡立ちの評価がやや劣ったが実用上問題はない。また、実施例5の場合、インクジェット記録方式による出力画像の評価でやや劣ったが実用上問題はない。
【0057】
一方、インク受理層の反対面にモンタンワックスまたはパラフィンワックスを主成分とする塗工層を設けなかった比較例1の場合、及び反対面にポリエチレンワックスを主成分とする塗工層を設けた比較例2の場合、ギロチン断裁適性が劣った。
また、反対面に金属石鹸を主成分とする塗工層を設けた比較例3の場合、ギロチン断裁適性に優れていたが、塗工液の泡の発生が多く操業上問題があり、非インク受理層面のインクジェット記録方式による出力画像の評価が劣った。なお、比較例4の場合、インク受理層面のインクジェット記録方式による出力画像の評価が劣った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透気性を有する支持体の片面に、キャストコート法によりインク受理層を設けたインクジェット記録用紙であって、前記インク受理層中に平均一次粒子径が80nm以下のコロイダルシリカが含有され、かつ前記支持体のインク受理層を設けた面とは反対面にモンタンワックス及び/又はパラフィンワックスを主成分とする塗工層を設けたインクジェット記録用紙。
【請求項2】
前記インク受理層は、前記支持体の片面に、顔料及び結着剤としてポリビニルアルコールを含有する塗工層を設けた後、ホウ酸及びカチオン性樹脂を含有する凝固剤溶液を塗布して凝固キャストコート法により形成されている請求項1記載のインクジェット記録用紙。
【請求項3】
透気性を有する支持体の片面に、キャストコート法によりインク受理層を設けたインクジェット記録用紙であって、前記インク受理層の表面に平均一次粒子径が80nm以下のコロイダルシリカが存在し、かつ前記支持体のインク受理層を設けた面とは反対面にモンタンワックス及び/又はパラフィンワックスを主成分とする塗工層を設けた請求項1又は2記載のインクジェット記録用紙。
【請求項4】
前記インク受理層は、前記支持体の片面に、顔料及び結着剤としてポリビニルアルコールを含有する塗工層を設けた後、平均一次粒子径が80nm以下のコロイダルシリカ、ホウ酸及びカチオン性樹脂を含有する凝固剤溶液を塗布して凝固キャストコート法により形成されている請求項3記載のインクジェット記録用紙。

【公開番号】特開2012−210795(P2012−210795A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78660(P2011−78660)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】