説明

インクジェット記録装置およびその制御方法

【課題】インクジェット記録装置において、高い解像度にてレンチキュラーシートに視差画像を描画できるようにする。
【解決手段】断面凸形状の所定幅を有する複数のレンチキュラーレンズが配列されてなるレンチキュラーシート15を副走査機構9により副走査する。静電式インクジェットヘッドからなる記録ヘッド2をレンチキュラーシート15に対して主走査しつつ、レンチキュラーシート15における凸形状をなす面とは反対側の面にインクを吐出することにより、レンチキュラーレンズの幅と対応づけて複数の視差画像を描画する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体画像を形成するためのレンチキュラーシートに画像を描画するインクジェット記録装置およびその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の画像を組み合わせて3次元表示することにより、視差を利用して立体視できることが知られている。このような立体視は、同一の被写体を異なる位置から複数のカメラを用いて撮影することにより、視差を有する複数の画像(視差画像とする)を取得し、複数の視差画像に含まれる被写体の視差を利用して複数の画像を3次元表示することにより行うことができる。
【0003】
ここで、画像を3次元表示するための方式として、レンチキュラープリントが公知である。レンチキュラープリントは、断面凸形状のレンチキュラーレンズを複数並べて配列したレンチキュラーシートを用意し、レンチキュラーレンズのそれぞれに、短冊状に切り取った複数の視差画像を交互に描画することにより形成される。このようなレンチキュラープリントを観察することにより、観察者は両眼の視差によって、描画された画像を立体視することができる。
【0004】
このようなレンチキュラープリントを形成するためには、レンチキュラーレンズのそれぞれの幅の範囲内に複数の視差画像を描画する必要がある。例えば、視差画像が3つあれば、その3つの視差画像を1組として、1組の視差画像を1つのレンチキュラーレンズに描画する必要がある。しかしながら、レンチキュラーレンズの幅と描画する1組の視差画像との位置がずれてしまうと、立体視ができなくなったり、モアレによる画質の低下が発生する。このため、レンチキュラーレンズと視差画像との位置ずれを検出し、レンチキュラーレンズと視差画像との位置合わせを行いつつ、視差画像をレンチキュラーシートに描画する手法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
なお、特許文献1に記載された手法は、インクジェット記録装置によりレンチキュラーシートに視差画像を描画するものであるが、インクジェット記録方式として、静電式インクジェット記録方式が提案されている(特許文献2参照)。静電式インクジェット記録方式は、帯電した微粒子成分を含むインクを使用し、描画する画像を表す画像データに応じて、インクジェットヘッドのノズルとなる吐出電極に所定の電圧を印加することにより、静電力を利用してインクの吐出を制御して画像を描画する方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−137034号公報
【特許文献2】特開2004−230653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、レンチキュラープリントにおいて、立体視が可能な領域を広げるためには、視差画像の数を増加させればよい。しかしながら、視差画像の数を増加させると、1つのレンチキュラーレンズに描画する画像の数が増加するため、高い描画解像度が必要となる。
【0008】
また、レンチキュラープリントは、レンチキュラーレンズの凹凸が表面に存在するため、通常のプリントと比較すると、質感および風合いが劣るものとなっている。ここで、通常プリントの質感および風合いに近づけるためには、レンチキュラーレンズのレンズ高さを小さくすることが考えられる。しかしながら、レンチキュラーレンズの高さを小さくするとレンズ幅も小さくする必要がある。このようにレンズ幅を小さくした上で、視差画像の数を増加させるためには、描画解像度をさらに高くする必要がある。
【0009】
その一方、レンチキュラーシートは、一般にPC(ポリカーボネート)、PP(ポリプロピレン)等の透明樹脂により作成される。このような樹脂に対してインクジェット方式により描画する場合、紙媒体へ描画する場合と比較して、着弾後のインクが濡れ広がるため、高解像度化すると視差画像同士が混色することから、立体視を良好に行うことができなくなってしまう。
【0010】
このため、レンチキュラーシートの描画面にインク受容層を形成することが考えられる。しかしながら、インク受容層によりインクの濡れ広がりは防止できるものの、インク受容層は一般に多孔質であるため、レンチキュラーシートの光学特性が劣化するという問題がある。
【0011】
さらに、インクジェット方式はインクの吐出方向精度がそれほどよくないため、レンチキュラープリントに描画する際に、隣接する視差画像同士が重なって画像の分離性が低下したり、視差画像間に白抜けが発生して画質が劣化するという問題がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、高い解像度にてレンチキュラーシートに視差画像を描画できるようにすることを第1の目的とする。
【0013】
また、レンチキュラープリントにおける視差画像の分離性を向上させることを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によるインクジェット記録装置は、インクを静電力により吐出させる少なくとも1つのノズルを有し、断面凸形状の所定幅を有する複数のレンチキュラーレンズが並んで配列されてなるレンチキュラーシートにおける、凸形状をなす面とは反対側の面に前記インクを吐出することにより、前記所定幅と対応づけて複数の視差画像を描画する静電式インクジェット記録手段と、
前記静電式インクジェット記録手段を前記レンチキュラシートに対して相対的に2次元的に移動させる走査手段と、
前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0015】
ここで、レンチキュラープリントは、1つの被写体を複数の視点から撮影した複数の視差画像を取得し、レンチキュラーレンズのそれぞれに、短冊状に切り取った複数の視差画像を交互に描画することにより形成される。「所定幅と対応づけて複数の視差画像を描画する」とは、所定幅の中に短冊状に切り取ったすべての視点の視差画像を描画することを意味する。例えば、視差画像が3つの場合、1つのレンチキュラーレンズに、画像上の位置が対応する3つの短冊状の視差画像を描画することとなる。
【0016】
また、本発明における視差画像の描画は、静電式インクジェット記録手段を、レンチキュラシートに対して相対的に2次元的に移動させることにより行われるが、例として静電式インクジェット記録手段をレンチキュラーシートに対して相対的に一方向に移動して少なくとも1ライン分の描画を行い、次いで、静電式インクジェット記録手段を、上記一方向と直交する方向にレンチキュラーシートに対して相対的に移動して、次のラインの描画を行うことを繰り返すことにより行われる。以降の説明においては、少なくとも1ライン分の描画を行うために静電式インクジェット記録手段をレンチキュラーシートに対して相対的に移動する方向を主走査方向、主走査方向に直交する方向を副走査方向と称するものとする。
【0017】
また、静電式インクジェット記録手段のレンチキュラシートに対する相対的な移動は、静電式インクジェット記録手段を主走査方向に移動し、レンチキュラーシートを副走査方向に移動することにより行ってもよく、レンチキュラーシートを固定して、静電式インクジェット記録手段のみを主走査方向および副走査方向の双方に移動することにより行ってもよい。また、静電式インクジェット記録手段を固定して、レンチキュラーシートのみを主走査方向および副走査方向の双方に移動することにより行ってもよい。
【0018】
なお、本発明によるインクジェット記録装置においては、前記制御手段を、前記所定幅、前記所定幅に形成される前記視差画像の数、および前記静電式インクジェット記録手段の面積階調マトリクス構成ドット数に基づいて、前記インクのドットピッチおよびドット径を算出し、該ドットピッチおよび該ドット径にて前記視差画像を描画するよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する手段としてもよい。
【0019】
この場合において、前記レンチキュラーレンズの長手方向に垂直な方向に前記静電式インクジェット記録手段が前記レンチキュラーシートを主走査するよう、前記静電式インクジェット記録手段を前記レンチキュラシートに対して相対的に2次元的に移動させる場合、前記制御手段を、前記レンチキュラーレンズの長手方向における前記インクのドットピッチが、前記算出したドットピッチと同一となるよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する手段としてもよい。
【0020】
さらにこの場合において、前記静電式インクジェット記録手段が所定ピッチにて配設された複数の前記ノズルを有する場合、前記制御手段を、前記複数のノズル間の実効ノズルピッチが前記算出したドットピッチと一致するように、前記静電式インクジェット記録手段の位置を制御する手段としてもよい。
【0021】
静電式インクジェット記録手段に複数のノズルが使用される場合、副走査方向には複数のノズル間のピッチによりドットが描画されるが、ノズル間のピッチは算出したドットピッチとは必ずしも一致しない。「静電式インクジェット記録手段の実効ノズルピッチが算出したドットピッチと一致するように、静電式インクジェット記録手段の位置を制御する」とは、静電式インクジェット記録手段におけるインクが吐出されるノズル間のピッチが、算出されたドットピッチと一致するように、静電式インクジェット記録手段を回転等して、副走査方向に並ぶ複数のノズル間のピッチを、算出したドットピッチに一致させることを意味する。
【0022】
また、本発明によるインクジェット記録装置においては、前記レンチキュラーレンズの長手方向に前記静電式インクジェット記録手段が前記レンチキュラーシートを主走査するよう、前記静電式インクジェット記録手段を前記レンチキュラシートに対して相対的に2次元的に移動させる場合、前記制御手段を、少なくとも1つの前記レンチキュラーレンズに対応する複数の視差画像を同一ノズルにて描画するよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する手段としてもよい。
【0023】
この場合、前記制御手段を、隣接する複数のレンチキュラーレンズのそれぞれに対応する前記複数の視差画像を同一ノズルにて描画するよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する手段としてもよい。
【0024】
また、本発明によるインクジェット記録装置においては、前記制御手段を、前記所定幅と該所定幅に対応する前記複数の視差画像との位置ずれを検出し、該位置ずれを補正するよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する手段としてもよい。
【0025】
また、本発明によるインクジェット記録装置においては、前記制御手段を、前記視差画像の描画後、該視差画像に白色を重ねて描画するよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する手段としてもよい。
【0026】
本発明によるインクジェット記録装置の制御方法は、本発明によるインクジェット記録装置の制御方法であって、
前記静電式インクジェット記録手段を前記レンチキュラシートに対して相対的に2次元的に移動させるよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段を駆動することにより、前記レンチキュラーシートに前記視差画像を描画することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、静電式インクジェット記録手段により視差画像を描画するようにしたものである。ここで、静電式インクジェット方式は、サーマル方式等と比較して、インクの吐出量を、1pl以下となるように小さくすることができる。
【0028】
したがって、本発明によれば、レンチキュラーシートに着弾するインクのドットピッチを非常に小さくすることができるため、視差画像を高解像度にて描画することができる。そしてその結果、レンチキュラープリントの視点数を容易に増加させることができ、よって、レンチキュラープリントの立体視可能な領域を広げることができる。
【0029】
また、とくに静電濃縮式インクジェット方式は、インクにおける帯電した微粒成分を静電力により濃縮吐出させるものであるため、吐出されるインクにおいて溶媒が非常に少なくなる。このため、静電濃縮式インクジェット方式はサーマル方式等と比較してインクの着弾性が高く、レンチキュラーシートに描画する場合、インク受容層を使用しなくても、インクの濡れ広がりを少なくすることができ、これにより、視差画像同士が混色してしまうことを防止できる。
【0030】
また、視差画像を高解像度にて描画できるため、幅の狭いレンチキュラーレンズを使用することができる。したがって、レンチキュラーレンズの高さを低くすることができ、その結果、レンチキュラープリントの質感および風合いを向上させることができる。
【0031】
また、所定幅、所定幅に形成される視差画像の数、および静電式インクジェット記録手段の面積階調マトリクス構成ドット数に基づいて、インクのドットピッチおよびドット径を算出し、算出したドットピッチおよびドット径にてインクが吐出されるようにすることにより、使用するレンチキュラーシートの仕様に合わせて、視差画像を適切に描画できることとなる。したがって、インクジェット記録装置の仕様に合わせてレンチキュラーシートを用意しなくてもよくなり、本発明によるインクジェット記録装置を、多種多様なレンチキュラープリントの作成に使用することが可能となる。
【0032】
また、静電式インクジェット記録手段がレンチキュラーシートをレンチキュラーレンズの長手方向に垂直な方向に主走査するよう、静電式インクジェット記録手段をレンチキュラシートに対して相対的に2次元的に移動させる場合、レンチキュラーレンズの長手方向におけるインクのドットピッチが算出したドットピッチと同一となるようにすることにより、算出したドットピッチにて視差画像を描画することができる。
【0033】
また、静電式インクジェット記録手段が複数のノズルを有する場合において、実効ノズルピッチが算出したドットピッチと一致するように静電式インクジェット記録手段の位置を制御することにより、算出したドットピッチによる視差画像の描画を確実に行うことができる。
【0034】
また、静電式インクジェット記録手段がレンチキュラーシートをレンチキュラーレンズの長手方向に主走査するよう、静電式インクジェット記録手段をレンチキュラシートに対して相対的に2次元的に移動させる場合、少なくとも1つのレンチキュラーレンズに対応する複数の視差画像を同一ノズルにて描画することにより、同一特性のノズルにより1つのレンチキュラーレンズに対応する複数の視差画像が描画されることとなる。したがって、これら複数の視差画像が重なり合ったり、複数の視差画像の間に白抜けが発生することがなくなるため、視差画像間の画像分離性を向上させることができ、その結果、本発明による生成されたレンチキュラープリントを見た観察者は、立体視を良好に行うことが可能となる。
【0035】
この際、隣接する複数のレンチキュラーレンズのそれぞれに対応する複数の視差画像を同一ノズルにて描画することにより、隣接するレンチキュラーレンズに対応する視差画像同士が重なり合ったり、隣接するレンチキュラーレンズに対応する視差画像の間に白抜けが発生することがなくなるため、レンチキュラープリントの画質を向上させることができる。
【0036】
また、所定幅と所定幅に対応する複数の視差画像との位置ずれを検出し、位置ずれを補正することにより、本発明による生成されたレンチキュラープリントを見た観察者は、立体視を良好に行うことができる。
【0037】
また、視差画像に白色を重ねて描画することにより、視差画像の視認性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施形態によるインクジェット記録装置の構成を示す概略斜視図
【図2】レンチキュラーシートの構成を示す図
【図3】視差画像の描画を説明するための図
【図4】記録ヘッドの概略構成を示す模式的断面図
【図5】本実施形態による静電式インクジェットヘッドの個別電極の概略構成を示す模式的斜視図
【図6】記録ヘッドの回転を示す図
【図7】本発明の第2の実施形態によるインクジェット記録装置の構成を示す概略斜視図
【図8】第2の実施形態における記録ヘッドの主走査を説明するための図
【図9】記録ヘッドのノズルの配列を示す図
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の第1の実施形態によるインクジェット記録装置の構成を示す概略斜視図である。図1に示すように、第1の実施形態によるインクジェット記録装置1は、静電式のインクジェットヘッドである記録ヘッド2および支持プレート3を備える。
【0040】
記録ヘッド2は、モータ5およびモータ5により駆動されるベルト4からなる主走査機構6と接続されており、主走査機構6により主走査方向(図中、矢印A方向)に往復移動される。支持プレート3には、レンチキュラープリントを作成するためのレンチキュラーシート15が支持される。レンチキュラーシート15が支持された支持プレート3は、モータ7およびモータ7により駆動される搬送ベルト8からなる副走査機構9により副走査方向(図中、矢印B方向)へ搬送される。
【0041】
そして、支持プレート3に支持されたレンチキュラーシート15を副走査機構9により矢印B方向に搬送しつつ、記録ヘッド2を主走査機構6により駆動して、レンチキュラーシート15を矢印A方向に主走査し、さらに記録ヘッド2からインクを吐出することにより、レンチキュラーシート15に描画が行われる。
【0042】
図2はレンチキュラーシートの構成を示す図である。図2に示すようにレンチキュラーシート15は、所定幅を有する概略半円筒状のレンチキュラーレンズ16を複数並べて配列させて構成されるものであり、レンチキュラーレンズ16の凸部が並ぶ表面と、このような凸部を有さない平坦な裏面17とを有する。レンチキュラーシート15は、その裏面17が記録ヘッド2側に向くようにして、支持プレート3に載置される。
【0043】
なお、記録ヘッド2、主走査機構6および副走査機構9の駆動は、制御部10が行う。なお、制御部10には各種入力を行うための入力ボタン等からなる入力部11が接続されている。
【0044】
レンチキュラーシート15の裏面17には、立体視を行うための視差画像が描画される。図3は視差画像の描画を説明するための図である。図3に示すように本実施形態においては、例えば3つの視差画像S1〜S3を垂直方向に短冊状に切り取り、レンチキュラーレンズ16のそれぞれに、位置が対応する短冊状に切り取った3つの視差画像S1〜S3が交互に描画される。なお、視差画像はその数が多いほどレンチキュラープリントを見たときの立体視可能な範囲が広くなる。
【0045】
ここで、本実施形態においては、記録ヘッドは静電濃縮式のインクジェットヘッドからなる。図4は記録ヘッドの概略構成を示す模式的断面図である。なお、図4における記録ヘッド2および支持プレート3は、説明のために図1と天地が逆になっている。図4に示すように、記録ヘッド2は、帯電された顔料等の微粒子成分(例えば、トナー等)を含むインクQを静電力により吐出させて、画像をレンチキュラーシート15に描画するものであり、ヘッド基板21、インクガイド22、絶縁性基板23、吐出電極24、支持プレート3に取り付けられた対向電極25、レンチキュラーシート15を帯電するための帯電ユニット26、信号電圧源27、および浮遊導電板28を備えている。
【0046】
なお、図4に示す例は、記録ヘッド2を構成する1つのノズルとなる個別電極のみを概念的に表したものである。個別電極(以下、ノズルとする)の個数は1個以上何個備えられていてもよいし、ノズルの物理的な配置等も何ら限定されない。例えば、複数のノズルを1次元的または2次元的に配置してラインヘッドを構成することも可能である。また、記録ヘッド2は、モノクロおよびカラーのどちらにも対応可能である。
【0047】
図4に示す記録ヘッド2においては、インクガイド22は、突状先端部分22aを持つ所定厚みの絶縁性樹脂製平板からなり、ノズル毎にヘッド基板21の上に配置されている。また、絶縁性基板23には、インクガイド22の配置に対応する位置に貫通孔30が開孔されている。インクガイド22は、絶縁性基板23に開孔された貫通孔30を通過し、その先端部分22aが絶縁性基板23の図中上側の表面よりも上部に突出している。なお、インクガイド22の中央部分には、図中上下方向に毛細管現象によってインクQを先端部分22aに集めるインク案内溝となる切り欠きを形成してもよい。
【0048】
なお、インクガイド22の先端部分22aの側は、支持プレート3側へ向かうにしたがって次第に細く略三角形(ないしは台形)に成形されている。なお、インクガイド22の、インクQが吐出される先端部分(最先端部)22aには、金属を蒸着することが好ましい。インクガイド22の先端部分22aの金属蒸着はされていなくてもよいが、この金属蒸着により、インクガイド22の先端部分22aの誘電率が実質的に無限大となり、強電界を生じさせやすくできるという効果があるため、金属蒸着を行うことが好ましい。なお、インクガイド22の形状は、インクQ、とくに、インクQ内の帯電微粒子成分を絶縁性基板23の貫通孔30を通って先端部分22aに濃縮させることができれば、とくに限定されるものではなく、例えば、先端部分22aは突状でなくてもよい等適宜変更してもよいし、公知の任意の形状とすることができる。
【0049】
ヘッド基板21と絶縁性基板23とは、所定間隔離間して配置されており、両者の間には、インクガイド22にインクQを供給するためのインクリザーバ(インク室)として機能するインク流路31が形成されている。なお、インク流路31内のインクQは、吐出電極24に印加される電圧と同極性に帯電した微粒子成分を含み、記録時には、図示されていないインク循環機構によって、所定方向、図示例ではインク流路31内を右側から左側へ向かって所定の速度(例えば、200mm/sのインク流)で循環される。以下、インク中の着色粒子が正帯電している場合を例にとって説明を行う。
【0050】
また、吐出電極24は、図5に示すように、絶縁性基板23に開孔された貫通孔30の周囲を囲むように、絶縁性基板23の図中上側の表面に、ノズル毎にリング状に、すなわち円形電極22aとして配置されている。吐出電極22は、描画する画像を表す画像データ等の吐出データ(吐出信号)に応じたパルス信号(所定のパルス電圧、例えば低電圧レベルの0V、高電圧レベルの400〜600V)を発生する信号電圧源27に接続されている。
【0051】
なお、吐出電極24は、図5に示すリング状の円形電極24aに限定されず、インクガイド22の外周を囲うように離間して配置される囲繞電極、またはインクガイド22の両側に離間して対向して配置される並列電極であれば、どのようなものであってもよい。例えば、囲繞電極の場合には、吐出電極18は、略円形電極であることが好ましいが、図5に示すような円形電極であることがより好ましい。また、並列電極の場合には、吐出電極22は、略平行電極であることが好ましい。以下では、 囲繞電極の代表例として、図5に示すリング状の円形電極22aを用いて説明する。
【0052】
また、対向電極25は、支持プレート3により支持されてインクガイド22の先端部分22aに対向する位置に配置され、電極基板25aと、電極基板25aの図中下側の表面、すなわちインクガイド22側の表面に配置される絶縁シート25bとにより構成される。なお、電極基板25aは接地される。また、レンチキュラーシート15は、対向電極25の絶縁シート25bの表面に、例えば静電吸着により支持されており、対向電極25(絶縁シート25b)は、レンチキュラーシート15のプラテンとして機能する。
【0053】
ここで、少なくとも描画時には、帯電ユニット26によって、対向電極25の絶縁シート25bの表面、すなわちレンチキュラーシート15は、吐出電極24に印加される高電圧(パルス電圧)と逆極性の所定の負の高電圧、例えば、−1500Vに帯電された状態に維持される。その結果、レンチキュラーシート15は、帯電ユニット26により負帯電して、吐出電圧24に対して負の高電圧に常時バイアスされるとともに、対向電極25の絶縁シート25bに静電吸着される。
【0054】
ここで、帯電ユニット26は、レンチキュラーシート15を負の高電圧に帯電させるためのスコロトロン帯電器26aと、スコロトロン帯電器26aに負の高電圧を供給するバイアス電圧源26bとを有している。なお、本実施形態に用いられる帯電ユニット26の帯電手段としては、スコロトロン帯電器26aに限定されず、コロトロン帯電器、固体チャージャ、放電針等の種々の放電手段を用いることができる。
【0055】
なお、図4に示す例においては、対向電極25を電極基板25aと絶縁シート25bとにより構成し、レンチキュラーシート15を帯電ユニット26によって負の高電圧に帯電させることにより絶縁シート25bの表面に静電吸着させているが、対向電極25を電極基板25aのみにより構成し、対向電極25(電極基板25a自体)を負の高電圧のバイアス電圧源に接続して、負の高電圧に常時バイアスしておき、対向電極25の表面にレンチキュラーシート15を静電吸着させるようにしてもよい。
【0056】
また、レンチキュラーシート15の対向電極25への静電吸着と、レンチキュラーシート15への負の高電圧への帯電または対向電極25への負のバイアス高電圧の印加とを別々の負の高電圧源によって行ってもよい。また、対向電極25によるレンチキュラーシート15の支持は静電吸着に限定されるものではなく、他の支持方法や支持手段を用いてもよい。
【0057】
また、浮遊導電板28は、インク流路31の下方に配置され、電気的に絶縁状態(ハイインピーダンス状態)となっている。図4においては、ヘッド基板21の内部に配置されている。なお、本実施形態においては、浮遊導電板28は、インク流路31の下方であれば、どこに配置してもよく、例えば、ヘッド基板21の下方であってもよいし、個別電極の位置よりもインク流路31の上流側で、かつヘッド基板21の内部に配置するようにしてもよい。
【0058】
この浮遊導電板28は、画像の描画時に、個別電極に印加された電圧値に応じて、誘起された誘導電圧が発生し、インク流路31内のインクQにおいて、その微粒子成分を絶縁性基板23側へ泳動させて濃縮させるためのものである。したがって、浮遊導電板28は、インク流路31よりもヘッド基板21側に配置される必要がある。また、浮遊導電板28は、個別電極の位置よりもインク流路31の上流側に配置される方が好ましい。この浮遊導電板28により、インク流路31内の上層の帯電微粒子成分の濃度を高めるため、絶縁性基板23の貫通孔30を通過するインクQ内の帯電微粒子成分の濃度を所定濃度に高めることができ、インクガイド22の先端部分22aに濃縮させて、インク液滴Rとして吐出させるインクQ内の帯電微粒子成分の濃度を所定濃度に安定させることができる。
【0059】
また、浮遊導電板28を配置することにより、稼動チャンネル数に応じて誘導電圧が変化するため、浮遊導電板への電圧を制御しなくても、吐出に必要な帯電粒子を供給するため、目詰まりを防止することができる。なお、浮遊導電板に電源を接続し、所定の電圧を印加するようにしてもよい。
【0060】
本実施形態に用いられる記録ヘッド2は、基本的に以上のように構成されるが、以下に、記録ヘッド2の作用を説明する。
【0061】
図4に示す記録ヘッド2では、記録時すなわち視差画像の描画時に、図示しないポンプ等を含むインク循環機構により、吐出電極24に印加される電圧と同極性、例えば、正(+)に帯電した微粒子成分を含むインクQが、インク流路31の内部を図4中矢印a方向に、すなわち右側から左側へ向かって循環される。このとき、対向電極25に静電吸着されたレンチキュラーシート15は、逆極性、すなわち負の高電圧、例えば−1500Vに帯電されている。また、浮遊導電板26は、絶縁状態(ハイインピーダンス状態)とされている。
【0062】
ここで、吐出電極24にパルス電圧が印加されていないか、または、印加されているパルス電圧が低電圧レベル(0V)であるとき、吐出電極24と対向電極25(レンチキュラーシート15)との間の電圧(電位差)は、例えばバイアス電圧分の1500Vで、インクガイド22の先端部分22a近傍の電界強度が低く、インクQは、インクガイド22の先端部分2aからは飛び出さず、すなわち、インク液滴Rとして吐出されない。このとき、インク流路31内のインクQの一部、とくにインクQ内に含まれる帯電微粒子成分は、泳動現象および毛細管現象等によって、絶縁性基板23の貫通孔30を通って、図4中矢印b方向に、すなわち絶縁性基板23の下側からその上側へ向かって上昇し、インクガイド22の先端部分22aに供給される。
【0063】
一方、吐出電極24に高電圧レベル(例えば、400〜600V)のパルス電圧が印加されると、吐出電極24と対向電極25(レンチキュラーシート15)との間の電圧(電位差)は、例えば、バイアス電圧分の1500Vにパルス電圧分の400〜600Vが重畳され、1900V〜2100Vとなって高くなるため、インクガイド22の先端部分22a近傍の電界強度が高くなる。このとき、インクガイド22に沿って上昇し、絶縁性基板23の上方の先端部分22aに上昇したインクQ、とくにインクQ内に濃縮した帯電微粒子成分は、静電力によってインクガイド22の先端部分22aから、帯電微粒子成分を含むインク液滴Rとして飛び出し、例えば−1500Vにバイアスされている対向電極25(レンチキュラーシート15)に引っ張られて、レンチキュラーシート15上に付着する。
【0064】
以上のようにして、記録ヘッド2と対向電極25上に支持されたレンチキュラーシート15とを相対的に移動させながら、描画する視差画像を表す画像データに応じたインク吐出によってレンチキュラーシート15にドットを形成して記録を行うことにより、レンチキュラーシート15に視差画像を描画することができる。
【0065】
以下、第1の実施形態において行われる記録ヘッド2、主走査機構6および副走査機構9の制御について説明する。まず、操作者により入力部11から入力されたレンチキュラーレンズ16の幅、1つのレンチキュラーレンズ16に描画する視差画像数、および面積階調マトリクスを構成するドット数に基づいて、インク滴のドットピッチおよびドット径を算出し、吐出パルス幅を設定する。
【0066】
具体的には、レンチキュラーレンズ16の幅が254μm、視差画像数が6、面積階調マトリクス構成ドット数が2(すなわち2×2のマトリクス)であるとすると、視差画像1つ当たりの幅は254/6=42.4μmとなる。面積階調マトリクス構成ドット数が2であるため、ドットピッチは、42.4/2=21.2μmとなる。制御部10は、ドットピッチが21.2μmでのドット径すなわち液適量が得られるように、バイアス電圧、吐出電極24のパルス電圧、スルーディスタンス(記録ヘッド2のノズル形成面とレンチキュラーシート15の描画面までの距離)、パルス幅を設定する。例えば、バイアス電圧を−1500V、吐出電極24のパルス電圧を500V、スルーディスタンスを500μm、パルス幅を50μm、吐出適量を0.5plに設定する。
【0067】
ここで、静電式の記録ヘッド2は、ドットピッチを30μm以下とすることが可能であるため、制御部10は、ドットピッチが21.2μmとなるように、主走査機構6および副走査機構9の駆動を制御する。
【0068】
なお、第1の実施形態においては、記録ヘッド2の主走査方向は、レンチキュラーシート15におけるレンチキュラーレンズ16の長手方向に垂直な方向となっている。このため、制御部10は、副走査方向における記録ヘッド2のノズルの間隔が、算出したドットピッチと一致するように記録ヘッド2を回転する。例えば、図6に示すように、記録ヘッド2が、副走査方向に並ぶ3個のノズルN1〜N3を有する場合、制御部10は、ノズルN1,N2の間隔が算出したドットピッチKとなるように、記録ヘッド2をそのノズルが形成される面内において(すなわち絶縁性基板23の表面)回転する。なお、記録ヘッド2のノズルの副走査方向における間隔は、使用されうるドットピッチの最小値よりも大きくなるように、記録ヘッド2が設計される。
【0069】
一方、制御部10は、1回の主走査が終了すると、算出したドットピッチ×使用したノズル数分、副走査方向にレンチキュラーシート15を搬送して、次の主走査を行うよう、記録ヘッド2、主走査機構6および副走査機構9の駆動を制御する。例えば、記録ヘッド2の副走査方向におけるノズル数が図6に示すように3個である場合、1回の主走査が終了する毎に、レンチキュラーシート15を副走査方向に21.2×3μm搬送するように、主走査機構6および副走査機構9の駆動を制御する。
【0070】
以上の処理を繰り返すことにより、レンチキュラーシート15の裏面17の全面に視差画像が描画される。
【0071】
なお、描画時には、上記特許文献1に記載された手法と同様に、レンチキュラーレンズ16の幅、レンチキュラーシート15の支持プレート3上における位置、およびレンチキュラーシート15の副走査方向に対する傾きに基づいて、レンチキュラーレンズと視差画像との位置ずれを検出し、レンチキュラーレンズと視差画像との位置合わせを行いつつ、視差画像をレンチキュラーシートに描画するようにしてもよい。これにより、視差画像を個々のレンチキュラーレンズ16に正確に描画できるため、生成されたレンチキュラープリントを見た観察者は、立体視を良好に行うことができる。
【0072】
また、視差画像の描画後、さらに白顔料または白染料により白打ちを行うことが好ましい。これにより、視差画像ひいてはレンチキュラープリントの視認性を向上させることができる。
【0073】
このように、第1の実施形態においては、静電式の記録ヘッド2により、レンチキュラーシート15に視差画像を描画するようにしたものである。ここで、静電式インクジェット方式は、サーマル方式等と比較して、インクの吐出量を例えば1pl以下となるように非常に小さくすることができる。
【0074】
したがって、第1の実施形態によれば、レンチキュラーシート15に着弾するインクのドットピッチを小さくすることができるため、視差画像を高解像度にて描画することができる。そしてその結果、レンチキュラープリントの視点数を容易に増加させることができ、よって、レンチキュラープリントの立体視可能な領域を広げることができる。
【0075】
また、とくに静電濃縮式インクジェット方式は、インクにおける帯電した微粒成分を静電力により濃縮吐出させるものであるため、吐出されるインクにおいて溶媒が非常に少なくなる。このため、静電濃縮式インクジェット方式はサーマル方式等と比較してインクの着弾性が高く、レンチキュラーシート15に描画する場合、インク受容層を使用しなくても、インクの濡れ広がりを少なくすることができ、これにより、視差画像同士が混色してしまうことを防止できる。
【0076】
また、視差画像を高解像度にて描画できるため、幅の狭いレンチキュラーレンズ16を使用することができる。したがって、レンチキュラーレンズ16の高さを低くすることができ、その結果、レンチキュラープリントの質感および風合いを向上させることができる。
【0077】
また、レンチキュラーレンズ16の幅、視差画像の数、および面積階調マトリクス構成ドット数に基づいてインクのドットピッチおよびドット径を算出し、算出したドットピッチおよびドット径にてインクが吐出されるよう記録ヘッド2を制御することにより、使用するレンチキュラーシート15の仕様に合わせて、視差画像を適切に描画できる。したがって、インクジェット記録装置1の仕様に合わせてレンチキュラーシート15を用意しなくてもよくなり、本実施形態によるインクジェット記録装置1を、多種多様なレンチキュラープリントの作成に使用することが可能となる。
【0078】
また、記録ヘッド2の副走査方向におけるノズルピッチを、算出したドットピッチと一致するように記録ヘッド2を回転させることにより、算出したドットピッチによる視差画像の描画を確実に行うことができる。
【0079】
次いで、本発明の第2の実施形態について説明する。図7は本発明の第2の実施形態によるインクジェット記録装置の構成を示す概略斜視図である。なお、第2の実施形態において第1の実施形態と同一の構成については同一の参照番号を付与し、ここでは詳細な説明は省略する。
【0080】
上記第1の実施形態においては、記録ヘッド2の主走査方向は、レンチキュラーシート15におけるレンチキュラーレンズ16の長手方向に垂直な方向となっているが、第2の実施形態においては、記録ヘッド2の主走査方向をレンチキュラーレンズ16の長手方向と一致させるように、レンチキュラーシート15を搬送するようにした点が第1の実施形態と異なる。
【0081】
図8は第2の実施形態における記録ヘッドの2の主走査を説明するための図である。なお、図8においては、説明のためにレンチキュラーレンズ16の長手方向を縮小している。また、図8には6つのレンチキュラーレンズ16A〜16Fが示されており、そのそれぞれに6つの視差画像A1〜A6が描画されるものとする。また、図8には、記録ヘッド2におけるインクを吐出する2つのノズルN1,N2のみを示すものとする。
【0082】
ここで、レンズピッチが254μm、視差画像数が6、面積階調マトリクス構成ドット数が2であり、視差画像1つ当たりの幅が254/6=42.4μm、ドットピッチが42.4/2=21.2μmであるものとする。このため、1つの視差画像は、その副走査方向に2つのドットにより画像が描画されることとなる。
【0083】
第2の実施形態においては、1つのレンチキュラーレンズ16に描画する6つの視差画像を同一のノズルにより描画し、さらに、隣接する2つのレンチキュラーレンズ16に描画する6つの視差画像からなる視差画像群を、同一のノズルにより描画するようにしたものである。具体的には、図8に示すレンチキュラーレンズ16A,16Bおよびレンチキュラーレンズ16C,16Dのそれぞれに描画される6つの視差画像A1〜A6を同一のノズルにより描画する。すなわち、レンチキュラーレンズ16Aおよびレンチキュラーレンズ16Bの視差画像を同一のノズルN1により、レンチキュラーレンズ16Cおよびレンチキュラーレンズ16Dの視差画像を同一のノズルN2により描画する。
【0084】
なお、記録ヘッド2においては、インクが吐出されるノズルの間隔が、2つのレンチキュラーレンズ16の幅に相当する508μmとなるように、インクが吐出されるノズルを制御する。例えば、図9に示すようにノズルが2次元状に配設されている場合、副走査方向に並ぶノズルの間隔が2つのレンチキュラーレンズ16の幅に相当するものとなるように、インクを吐出するノズルを設定する。この際、必要であれば、上記第1の実施形態と同様に、インクが吐出されるノズルの副走査方向における間隔が2つのレンチキュラーレンズ16の幅と同一となるように、記録ヘッド2を回転させる。例えば、図9において黒丸で示す2つのノズルを使用するものとし、その間隔が800μmであるとすると、2つのノズルの間隔が508μmとなるように記録ヘッド2を回転する。
【0085】
以下、第2の実施形態において行われる記録ヘッド2、主走査機構6および副走査機構9の制御について説明する。まず1回目の主走査の際には、制御部10は、図8に示すようにノズルN1によりレンチキュラーレンズ16Aの視差画像A1の上半分を描画するとともに、ノズルN2によりレンチキュラーレンズ16Cの視差画像A1の上半分を描画するよう、記録ヘッド2、主走査機構6および副走査機構9を制御する。1回目の主走査が終了すると、制御部10は、算出した1つのドットピッチ分副走査方向にレンチキュラーシート15を搬送し、2回目の主走査を行う。
【0086】
2回目の主走査の際には、制御部10は、ノズルN1によりレンチキュラーレンズ16Aの視差画像A1の下半分を描画するとともに、ノズルN2によりレンチキュラーレンズ16Cの視差画像A1の下半分を描画するよう、記録ヘッド2、主走査機構6および副走査機構9を制御する。2回目の主走査が終了すると、制御部10は、算出した1つのドットピッチ分副走査方向にレンチキュラーシート15を搬送し、3回目の主走査を行う。
【0087】
3回目の主走査の際には、制御部10は、ノズルN1によりレンチキュラーレンズ16Aの視差画像A2の上半分を描画するとともに、ノズルN2によりレンチキュラーレンズ16Cの視差画像A2の上半分を描画するよう、記録ヘッド2、主走査機構6および副走査機構9を制御する。3回目の主走査が終了すると、制御部10は、算出した1つのドットピッチ分副走査方向にレンチキュラーシート15を搬送し、4回目の主走査を行う。
【0088】
以下、主走査および副走査を繰り返し、24回目の主走査の際には、制御部10は、ノズルN1によりレンチキュラーレンズ16Bの視差画像A6の下半分を描画するとともに、ノズルN2によりレンチキュラーレンズ16Dの視差画像A6の下半分を描画するよう、記録ヘッド2、主走査機構6および副走査機構9を制御する。24回目の主走査が終了すると、制御部10は、レンチキュラーレンズ16の2つの幅分副走査方向にレンチキュラーシート15を搬送し、25回目の主走査を行う。
【0089】
以上の処理を繰り返すことにより、レンチキュラーシート15の裏面17の全面に視差画像が描画される。
【0090】
このように、第2の実施形態においては、記録ヘッド2をレンチキュラーレンズ16の長手方向に主走査し、1つのレンチキュラーレンズに対応する複数の視差画像A1〜A6を同一ノズルにて描画するようにしたため、同一特性のノズルにより1つのレンチキュラーレンズ16に対応する複数の視差画像A1〜A6が描画されることとなる。
【0091】
ここで一般に、サーマルインクジェットやピエゾインクジェットの吐出方向精度は、ノズル形状等に起因する初期ばらつきに加え、ノズルプレートの撥インク処理の劣化状況やノズル周囲へのミスト付着状況等により逐次ばらつくため、1つのノズルにより1つのレンチキュラーレンズに対応する複数の視差画像を描画した場合、着弾位置がばらついてしまう。これに対し、静電インクジェット方式では、ノズル周辺部の形状誤差に起因するノズル毎の静電場の違いによって吐出方向誤差は生じるが、それぞれのノズル毎に方向性を持つため、着弾位置が逐次ばらつくことはない。すなわち、ノズル間の吐出位置誤差のばらつきはあるが、1つのノズルに着目すれば吐出方向性はノズル部の初期形状誤差に起因する一定の方向性を持っており、着弾位置がランダムにばらつくことはない。
【0092】
したがって、静電インクジェットにより、1つのレンチキュラーレンズに対応する複数の視差画像を同一特性のノズルにより描画することにより、複数の視差画像A1〜A6が重なり合ったり、複数の視差画像A1〜A6の間に白抜けが発生することがなくなるため、視差画像間の画像分離性を向上させることができ、その結果、本実施形態により生成されたレンチキュラープリントを見た観察者は、立体視を良好に行うことが可能となる。
【0093】
また、隣接する2つのレンチキュラーレンズ16のそれぞれに対応する複数の視差画像を同一ノズルにて描画することにより、隣接するレンチキュラーレンズ16に対応する視差画像同士が重なり合ったり、隣接するレンチキュラーレンズ16に対応する視差画像の間に白抜けが発生することがなくなるため、レンチキュラープリントの画質を向上させることができる。
【0094】
なお、上記第2の実施形態においては、隣接する2つのレンチキュラーレンズ16のそれぞれに対応する視差画像を同一のノズルにより描画しているが、隣接する3以上のレンチキュラーレンズ16のそれぞれに対応する視差画像を同一のノズルにより描画するようにしてもよい。
【0095】
また、第2の実施形態においても上記第1の実施形態と同様に、レンチキュラーレンズと視差画像との位置合わせを行いつつ、視差画像をレンチキュラーシートに描画するようにしてもよい。また、視差画像の描画後、さらに白顔料または白染料により白打ちを行うようにしてもよい。
【0096】
また、上記第1および第2の実施形態においては、支持プレート3にレンチキュラーシート15を載置して搬送ベルト8により搬送するベルト搬送式の副走査機構9を用いているが、ドラム搬送式の副走査機構を用いてもよい。この際、レンチキュラーシート15はドラムに巻き付けられて回転されつつ副走査がなされることとなる。なお、レンチキュラーシート15は紙と比較して腰が強いため、スルーディスタンス精度を向上させるためには、ベルト搬送式の副走査機構9を用いることが好ましい。
【0097】
また、上記第1および第2の実施形態においては、レンチキュラーシート15を副走査機構9により搬送しつつ、記録ヘッド2を主走査機構6により駆動して、レンチキュラーシート15に視差画像を描画しているが、レンチキュラーシート15を固定して、記録ヘッド2のみを主走査方向および副走査方向の双方に移動することにより視差画像を描画してもよい。また、記録ヘッド2を固定して、レンチキュラーシート15のみを主走査方向および副走査方向の双方に移動することにより視差画像を描画してもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 インクジェット記録装置
2 記録ヘッド
3 支持プレート
6 主走査機構
9 副走査機構
10 制御部
11 入力部
15 レンチキュラーシート
16 レンチキュラーレンズ
21 ヘッド基板
22 インクガイド
23 絶縁性基板
24 吐出電極
25 対向電極
26 帯電ユニット
27 信号電圧源
28 浮遊導電板
30 貫通孔
31 インク流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを静電力により吐出させる少なくとも1つのノズルを有し、断面凸形状の所定幅を有する複数のレンチキュラーレンズが並んで配列されてなるレンチキュラーシートにおける、凸形状をなす面とは反対側の面に前記インクを吐出することにより、前記所定幅と対応づけて複数の視差画像を描画する静電式インクジェット記録手段と、
前記静電式インクジェット記録手段を前記レンチキュラシートに対して相対的に2次元的に移動させる走査手段と、
前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する制御手段とを備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記所定幅、前記所定幅に形成される前記視差画像の数、および前記静電式インクジェット記録手段の面積階調マトリクス構成ドット数に基づいて、前記インクのドットピッチおよびドット径を算出し、該ドットピッチおよび該ドット径にて前記視差画像を描画するよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する手段であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記レンチキュラーレンズの長手方向に垂直な方向に前記静電式インクジェット記録手段が前記レンチキュラーシートを主走査するよう、前記静電式インクジェット記録手段を前記レンチキュラシートに対して相対的に2次元的に移動させる場合において、前記制御手段は、前記レンチキュラーレンズの長手方向における前記インクのドットピッチが、前記算出したドットピッチと同一となるよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する手段であることを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記静電式インクジェット記録手段が所定ピッチにて配設された複数の前記ノズルを有し、前記制御手段は、前記複数のノズル間の実効ノズルピッチが前記算出したドットピッチと一致するように、前記静電式インクジェット記録手段の位置を制御する手段であることを特徴とする請求項3記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記レンチキュラーレンズの長手方向に前記静電式インクジェット記録手段が前記レンチキュラーシートを主走査するよう、前記静電式インクジェット記録手段を前記レンチキュラシートに対して相対的に2次元的に移動させる場合において、前記制御手段は、少なくとも1つの前記レンチキュラーレンズに対応する複数の視差画像を同一ノズルにて描画するよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する手段であることを特徴とする請求項1または2記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御手段は、隣接する複数のレンチキュラーレンズのそれぞれに対応する前記複数の視差画像を同一ノズルにて描画するよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する手段であることを特徴とする請求項5記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記所定幅と該所定幅に対応する前記複数の視差画像との位置ずれを検出し、該位置ずれを補正するよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する手段であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記視差画像の描画後、該視差画像に白色を重ねて描画するよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段の駆動を制御する手段であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
請求項1から9のいずれか1項記載のインクジェット記録装置の制御方法であって、
前記静電式インクジェット記録手段を前記レンチキュラシートに対して相対的に2次元的に移動させるよう、前記静電式インクジェット記録手段および前記走査手段を駆動することにより、前記レンチキュラーシートに前記視差画像を描画することを特徴とするインクジェット記録装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−167609(P2010−167609A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10503(P2009−10503)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【復代理人】
【識別番号】100104189
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 勲将
【Fターム(参考)】