説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法

【課題】インクジェット記録装置において、顔料インクを用いた場合でもスループットの低下を抑制した両面記録を行う。
【解決手段】両面記録で、かつ高速記録モードと判断されたときは(S303、S305)、両面記録用の色分解テーブルを用いて色分解を行う(S307)。この両面記録用の色分解テーブルは、最大濃度の黒に近づくに連れて顔料Bkインクの打ち込み量を、片面記録の場合と比較してそれほど増えないようにし、代わり染料のC、M、Yの各インクの打ち込み量が増すようにしたものである。これにより、両面記録で高速記録を行う際の顔料Bkインクの打込量が減り、定着時間を短くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関し、詳しくは、両面記録を行うことが可能なインクジェット記録装置における記録媒体のインク定着に係る処理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタなどのインクジェット記録装置の中には、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)等のカラーインクの色材として染料を用い、ブラック(Bk)インクに顔料を用いるものが知られている(例えば、特許文献1)。これにより、文字などは顔料Bkインクによって記録し濃度の高いものとし、カラー画像などは染料のC、M、Yインクを用いて発色の良い画像として、品位の高い記録を行うようにしている。
【0003】
また、インクジェット記録装置では、いわゆる両面記録を行うものも知られている。両面記録は、用紙などの記録媒体の一方の面に記録を行った後、さらに記録媒体の記録を行った面の反対側の面に記録を行うものである。この両面記録を複数の記録媒体に対して連続的に行い、両面記録がなされた記録媒体が次々と排紙トレイ上に重ねられると、定着が不完全な記録媒体のインクによって他の記録媒体ないし記録画像が汚れることがある。すなわち、両面記録は記録媒体の表裏にインクを吐出して記録を行うものであるため、記録媒体に付与されるインク量が比較的多くなるとともに、この付与されるインク量に対して記録媒体のインクを吸収する能力も相対的に低下する。このため、記録媒体のインク吸収能力とインクの浸透性などとの関係によっては、定着に時間を要することがある。一方、記録モードなどが高速記録モードなどでは定着時間が十分にとれないことがあり、この場合には、両面記録に用いる記録媒体やインクの種類が限られるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−171208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に、上述した顔料インクを用いた記録装置ではこの問題が顕著となる。顔料インクは、記録媒体の厚み方向に浸透せずに表面近くに残る特性を有している。このため、顔料インクが記録媒体上で充分に乾燥して定着し記録媒体を重ねたときに汚れを生じないようにするには、インク量が多くなることと相俟って比較的長い時間を要する。その結果、記録装置のスループットの低下は著しいものとなる。また、顔料インクは、両面記録あるいは両面記録における高速記録モードには対応できない可能性もある。
【0006】
本発明は上述した問題を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、顔料インクを用いた場合でもスループットの低下を抑制した両面記録などを行うことが可能なインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために本発明では、顔料インクを含む複数の種類のインクを記録媒体に吐出するとともに、複数の記録モードで記録を行うことができるインクジェット記録装置において、記録モードを判断する判断手段と、該判断手段が判断した記録モードが、前記複数の記録モードのうち、ある記録モードより吐出インクの打込量がより多い記録モードまたは記録速度がより速い記録モードのとき、前記顔料インクの打込量を前記ある記録モードのときの前記顔料インクの打込量より少なくする処理を行う記録データ処理手段と、を具えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上の構成によれば、インクの打込量がより多い記録モードまたは記録速度がより速い記録モードのとき、前記顔料インクの打込量を前記ある記録モードのときの前記顔料インクの打込量より少なくする処理が行われる。これにより、両面記録や高速記録などの記録モードを実行する際に記録媒体に打ち込まれる顔料インクの量を減らし、顔料インクによって定着時間が長くなることを抑制することができる。
【0009】
その結果、顔料インクを用いた場合でもスループットの低下を抑制した両面記録などを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット装置およびそのホスト装置であるコンピュータにおける制御系を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る画像処理を示すフローチャートである。
【図3】図2に示した画像処理のさらに詳細を示すフローチャートである。
【図4】(a)および(b)は、本発明の一実施形態における片面記録に用いる色分解テーブルを説明する図である。
【図5】(a)および(b)は、本発明の一実施形態における両面記録用の色分解テーブルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット装置およびそのホスト装置であるコンピュータにおける制御系を示すブロック図である。
【0013】
本実施形態の記録装置100は、ホストコンピュータ200からの記録制御データおよび記録データに基づいて記録を行う。記録装置100において、101は記録装置全体を制御するための記録装置主制御部を示し、具体的にはMPU、ROM、RAMなどを有して構成される。この主制御部101は、図2にて後述される本発明の一実施形態に係る色分解などの画像処理も実行する。また、主制御部101は、図3にて後述するように、ホストコンピュータの指示に従い、いかに示す各要素を制御し、記録モードとして片面記録または両面記録のいずれかを行い、また、高速記録モードなどの記録モードの設定に応じた記録を行う。102は記録バッファを示し、記録ヘッドに転送する前のラスタデータを格納する。103は記録ヘッドを示し、記録バッファ102からの記録データ信号に従いインクの吐出を制御する。この記録ヘッドは、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)およびブラック(Bk)の各インクについて用意されている。また、記録装置100は、これらの記録ヘッドに供給するインクを貯留したそれぞれのインクタンク(不図示)を備える。上記インクのうち、C、M、Yの各インクは染料を色材とし、Bkインクは顔料を色材としたものである。キャリッジ(不図示)はこれらの記録ヘッド103と各色インクタンクを搭載して移動可能とされる。キャリッジモータ制御部107はこのキャリッジの移動を制御して、記録の際の記録ヘッド103の記録用紙への走査を行う。
【0014】
104は給排紙モータ部を示し、給排紙など記録媒体としての記録用紙の搬送を行う搬送機構(不図示)の動作を制御する。本記録装置は、両面記録行うべく上記搬送機構は一方の面に記録した用紙を表裏反転させ、用紙の他方の面に記録ヘッド103による記録を行わせる機構を有している。このような搬送機構は公知のものを用いることができる。105はホストコンピュータ200との間でデータの授受を行うための記録装置I/F部を示し、例えばセントロニクス社仕様のデータ通信を行う。106はホストコンピュータ200から受信した記録データを一時的に格納しておくデータバッファを示す。108は記録装置主制御部101と記録装置の各要素との間のデータ連結を行うためのシステムバスを示す。
【0015】
一方、ホストコンピュータ200において、201は記録画像の作成や主な制御を司るホスト装置主制御部を示し、MPU、ROM,RAM等を有して構成される。202は記録装置100との間でデータの授受を行うためのI/F部を示す。203はユーザーに対し様々な情報を表示する表示部を示し、例えばCRTやLCDなどの表示デバイスを有して構成される。204はユーザーがホストコンピュータ200に対して種々の入力を行うための操作部を示し、例えばマウスやキーボードなどを有して構成される。ユーザーは、表示部203に表示される設定画面を見ながら操作部204を介して、両面記録または片面記録の設定や記録モードの設定を行うことができる。あるいは、これらの設定は、記録装置100に設けられた操作パネル(不図示)を介して、記録装置で行うようにすることもできる。205はホスト装置主制御部201と他の要素との間をデータ連結するためのシステムバスを示す。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態に係る画像処理を示すフローチャートである。本処理は、記録装置100において実施されるものである。なお、この処理はホストコンピュータ200において実施されてもよいことはもちろんである。
【0017】
ホストコンピュータ200から記録装置100に記録データが入力されると本処理が起動される。先ずステップ201で色補正が行われる。この処理は、ホストコンピュータ200からの記録データである、例えばR、G、B信号が表す色域を記録装置が持つ色空間の色域のR、G、B信号に変換する処理である。
【0018】
次に、ステップ202において、上記R、G、B信号を本記録装置で用いるインクの信号であるシアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)の4色の信号に分解する。この色分解処理では、図3などで後述するように、両面記録か片面記録に応じて、また、高速記録モードか否かに応じて色分解の仕方を異ならせる。具体的には、用いるテーブルを変更することによって色分解の仕方を異ならせるものである。
【0019】
ステップ203では、ガンマ補正および誤差拡散による量子化を行い、さらにステップ204で、量子化されたデータに基づきインデックス展開処理を行ない、最終的な2値データを得る。
【0020】
図3は、図2に示した画像処理のさらに詳細を示し、主に、両面記録または片面記録か否か、また、記録モードが高速記録か否かに応じた色分解処理を説明するフローチャートである。
【0021】
先ず、ステップ401で、ホストコンピュータ200上の各種アプリケーションに基づく画像データが記録データとして記録装置100に入力する。この際、記録データのヘッダーには、ユーザーが設定した用紙の種類、記録モードなどが格納されており、同様に、ユーザーが片面記録と両面記録のいずれを設定したか、また高速モードと標準モードのいずれを設定したかの情報も格納されている。
【0022】
次に、ステップ302にてRGB→R’G’B’の色補正を行い、sRGBからデバイスRGBへと変換を行う。
【0023】
そして、ステップ303において、設定されている記録モードの判断を行う。先ず、その処理に係る記録データの記録が片面記録か両面記録かを判断する。片面記録と判断したときは、ステップ304にて片面記録用の色分解テーブルを使用し、信号R、G、Bから信号C、M、Y、Kへの変換、すなわち、色分解を行う。
【0024】
図4(a)および(b)は、片面記録に用いる色分解テーブルを説明する図である。図4(b)は、色分解テーブルのグレーラインにおけるインクの打込量(C、M、Y、Bkそれぞれの値)を示している。同図に示すように、白から始まる明部ではC、M、Yの3色のインクで色が構成され、黒へと向かう暗部では顔料Bkインクが使用され、次第にC、M、Yインクの打込量が減っていく。最後は顔料のBkインクのみで記録が行われ、CMYインクは打ち込まれなくなる。最大の濃度の黒では、図4(a)に示すように、インク打ち込み量がBkインクが100%となる。このように、片面記録では、顔料ブラックを豊富に使うことによって黒の濃度を増し文字などを鮮明なものとすることができる。また、片面記録の場合は、用紙に打ち込まれるインク量が比較的少ないことから、定着時間もそれほど長くはならない。この点から、顔料のBkインクを優先して用いる。
【0025】
ステップ303で両面記録であると判断したときは、ステップ305にて、高速記録モードか否かを判断する。高速記録モードではなく標準の記録モードと判断したときは、ステップ306で、ステップ304と同様の通常の片面記録用の色分解テーブルを用いて色分解を行う。
【0026】
ステップ305で高速記録モードと判断されたときは、ステップ307において、両面記録用の色分解テーブルを用いて色分解を行う。
【0027】
図5(a)および(b)は、この両面記録用の色分解テーブルを説明する図であり、図4(a)および(b)に示した図と同様の図である。
【0028】
図5(b)に示すように、グレーラインの色で最大濃度の黒に近づくに連れて顔料Bkインクの打ち込み量は、片面記録の場合と比較してそれほど増えない。その代わり染料のC、M、Yの各インクの打ち込み量が増す。これにより、両面記録で高速記録を行う際の顔料Bkインクの打込量が減り、定着時間を短くすることができる。図5(a)に示すように、最大濃度の黒では、顔料のBkインクの打込量が全体の打込量の40%まで減り、これに代わり、C、M、Yインクの打込量がそれぞれ45%まで増している。
【0029】
以上の色分解によれば、記録結果における黒の濃度は顔料Bkインクが100%の時に比べて低下するものの、乾燥時間が短くなり、用紙の表裏に記録してから次の用紙に記録し、それを排紙して記録物同士を重ねる時間が短くすることができる。
【0030】
再び図3を参照すると、ステップ308ではガンマテーブルを用いてアウトプットガンマ補正を行い、さらにステップ309で誤差拡散によるハーフトーン処理を行って量子化を行い、また、インデックス展開を行い本処理を終了する。
【0031】
なお、上述の例では、両面記録の高速モードのときのみ顔料Bkインクの使用を抑制したが、高速モードに限らず両面記録の際には顔料Bkの打込量を抑制するようにしてもよい。すなわち、記録に用いる記録媒体のインク吸収率や顔料インクの浸透性、さらには排紙時間を含めた記録時間など設計上の記録装置の仕様に応じて、どのモードのときに顔料インクの打込量を抑制するかを定めればよい。
【0032】
また、上述の例では、顔料Bkインクの打込量を減らすものとしたが、両面記録の際に暗部の記録に顔料Bkインクを一切使わず、染料のC、M、Yのみで記録を行ってもよい。
【0033】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、顔料インクの打込量が、ある記録モードと較べて、両面記録など打込量がより多くなる記録モードやより早い記録速度の記録モードのときに抑制することができる。これにより、乾燥が遅く、擦れると汚れの原因となる顔料インクを用いる場合の定着のために記録のスループットが低下することを防止でき、また、標準モードのようなモードでは黒の濃度を確保した記録を行うことができる。
【符号の説明】
【0034】
100 インクジェット記録装置
101 記録装置主制御部
102 記録バッファ
103 記録ヘッド
104 給排紙モータ制御部
106 データバッファ
107 キャリッジモータ制御部
200 ホストコンピュータ
201 ホスト装置主制御部
203 表示部
204 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料インクを含む複数の種類のインクを記録媒体に吐出するとともに、複数の記録モードで記録を行うことができるインクジェット記録装置において、
記録モードを判断する判断手段と、
該判断手段が判断した記録モードが、前記複数の記録モードのうち、ある記録モードより吐出インクの打込量がより多い記録モードまたは記録速度がより速い記録モードのとき、前記顔料インクの打込量を前記ある記録モードのときの前記顔料インクの打込量より少なくする処理を行う記録データ処理手段と、
を具えたことを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−67180(P2013−67180A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−10527(P2013−10527)
【出願日】平成25年1月23日(2013.1.23)
【分割の表示】特願2005−362423(P2005−362423)の分割
【原出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】