説明

インクジェット記録装置

【課題】 記録ヘッド内のインクの温度を保つことによってインクの粘度を一定にし、高精細な画像記録を行うことのできるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】 紫外線を照射することによって硬化する紫外線硬化型インクを記録媒体P上に吐出する記録ヘッド6と、吐出されたインクに光を照射する紫外線光源を備える紫外線照射装置7と、記録ヘッド6を加温するヒータ13と、紫外線照射装置7の点灯、非点灯に応じてヒータ13の加温目標温度を変更するようにヒータ13を制御する制御部8とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に係り、特に、光を照射することによって硬化する光硬化型のインクを用いて画像記録を行うインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、様々な記録媒体に対して印刷を行うことのできる手段として、インクジェット方式によって画像記録を行うインクジェット記録装置が知られている。このようなインクジェット記録装置は、例えば、インクタンクからインク供給管を介して記録ヘッドにインクを供給し、供給されたインクをピエゾ素子等の圧電素子に電圧を印加することにより記録ヘッドに設けられたノズルから記録媒体に対して吐出させるものであり、記録媒体にインクを浸透若しくは定着させながら記録ヘッドを記録媒体上で移動させることによって、記録媒体上に順次画像を記録するものである。
【0003】
インクジェット記録装置は、従来のフレキソ印刷等のように製版工程を必要としないため少量の印刷にも簡易かつ迅速に対応することができ、需要に応じた印刷が可能であるという長所がある。
【0004】
特に、近年は、紫外線等の光によって硬化する光硬化型インク等の高粘度の産業用インクを用いて画像記録を行うインクジェット記録装置が知られている。このようなインクを用いることにより、普通紙の他、インク吸収性のない樹脂フィルム等の記録媒体に対しても簡易に高品質の印刷を行うことが可能となる。
【0005】
しかし、このような高粘度の産業用インクを用いて画像記録を行う場合に、インクを高粘度のまま吐出させると、インク流路の途中で目詰まりを生じたり、インクがノズルから適切に吐出されずにノズル欠を生ずることが起こり得る。他方で、インクの温度が上昇しすぎると、インクがノズルから吐出される際にミスト状になって周囲に飛散することが起こり得る。このようにインクがミスト状になって飛散すると、記録媒体に対して正確な着弾ができず、また、飛散したインクミストが記録ヘッドのノズル面に付着してインクの吐出曲がりやノズル欠の原因となるおそれもある。また、インクの粘度が変動すると記録ヘッドから吐出されるインク液滴の吐出速度が変動し、これにより、インクの着弾位置がずれて高精細な画像記録を行うことができないおそれもある。
【0006】
この点、一般にインクは低温では粘性が高く、高温では粘性が低いというように温度等の条件によって粘性が変動する特性を有している。このため、記録ヘッドにインクを加温するための発熱体を設けてインクを加温することによりインクの粘度を一定に保つことが行われている(例えば、特許文献1参照)。また、記録ヘッドの周囲温度に応じてインクを吐出させるための圧電素子にかける駆動波形を変化させることによりインクの吐出速度等を調整することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許2127077号公報
【特許文献2】特許3161294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、光硬化型インクを用いて画像記録を行う場合には、記録媒体上に吐出されたインクに対してインクを硬化させるための光を照射する光照射装置を設ける必要があるが、光照射装置は光を照射し続けるに伴って廃熱を生じる。インクを効率的かつ早期に硬化させるとともに、装置全体の小型化を実現するためには、光照射装置を記録ヘッドの近傍に配置することが好ましい。しかし、光照射装置を記録ヘッドの近傍に配置すると光照射装置の廃熱が近接する記録ヘッドに伝わる。このため、記録ヘッドの温度が上昇し、これに伴ってインクの粘度が低下することとなる。特許文献1及び特許文献2に開示されているような記録ヘッドを単に加温すること又は記録ヘッドの周囲温度に応じてインクの吐出速度等を調整することによっては、このような光照射装置の廃熱による記録ヘッドの温度の上昇を考慮しないため、インクの粘度を一定に維持することができず、インクミストの発生や記録位置ずれ等を適切に防止することができないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は以上のような課題を解決すべくなされたものであり、記録ヘッド内のインクの温度を保つことによってインクの粘度を一定にし、高精細な画像記録を行うことのできるインクジェット記録装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、光を照射することによって硬化する光硬化型インクを記録媒体上に吐出する記録ヘッドと、
吐出された前記インクに光を照射する光源を備える光照射装置と、
前記記録ヘッドを加温する加温機構と、
前記光照射装置の点灯、非点灯に応じて前記加温機構の加温目標温度を変更するように前記加温機構を制御する制御部とを備えたことを特徴としている。
【0010】
このような構成を有する請求項1に記載の発明においては、記録ヘッドから吐出されるインクに光を照射する光照射装置の点灯、非点灯に応じて、制御部が記録ヘッドを加温する加温機構の加温目標温度を変更するように加温機構を制御するようになっている。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェット記録装置において、前記制御部は、前記光照射装置の非点灯時の前記加温目標温度が前記光照射装置の点灯時の前記加温目標温度よりも低くなるように前記加温機構を制御することを特徴としている。
【0012】
したがって、請求項2に記載の発明では、加温機構の加温目標温度が光照射装置の点灯時よりも非点灯時の方が低くなるように制御されるようになっている。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置において、前記制御部は、前記記録ヘッドと前記光照射装置との距離に応じて前記加温目標温度を変更するように前記加温機構を制御する特徴としている。
【0014】
このように、請求項3に記載の発明は、加温機構の加温目標温度が記録ヘッドと光照射装置との距離に応じて変更するように制御されるようになっている。
【0015】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、前記記録ヘッドの周囲の環境温度及び前記記録ヘッドを固定する固定部材の温度のうち少なくとも何れか一方を検知する温度検知機構を備え、
前記制御部は、前記温度検知機構によって検知された前記環境温度及び前記固定部材の温度のうち少なくとも何れか一方に応じて前記加温目標温度を変更するように前記加温機構を制御することを特徴としている。
【0016】
したがって、請求項4に記載の発明によれば、制御部は、記録ヘッドの周囲の環境温度及び記録ヘッドを固定する固定部材の温度のうち少なくとも何れか一方を検知する温度検知機構によって検知された環境温度及び固定部材の温度のうち少なくとも何れか一方に応じて加温機構の加温目標温度が変更されるように制御するようになっている。
【発明の効果】
【0017】
光照射装置が点灯すると廃熱を生じ、光照射装置に隣接する記録ヘッドの温度に影響を及ぼすが、請求項1に記載された発明によれば、光照射装置の点灯、非点灯に応じて記録ヘッドを加温する加温機構の加温目標温度を変更するので、光照射装置からの廃熱を考慮した上で加温を行うことができる。このため、記録ヘッド内のインクを画像記録に適した粘度に保つことができるように適切に温度調整を行うことができ、インクが加熱されすぎてミスト状になったり吐出速度が安定せずに着弾位置ずれを起こしたりすることなく、常に高精細な画像記録を行うことができるという効果を奏する。
【0018】
光照射装置が点灯すると廃熱を生じ、この廃熱分を考慮せずに記録ヘッドの加温を行うと記録ヘッド内のインクが加熱されすぎてインク粘度が画像記録に適した粘度よりも低くなり吐出した際にミスト状になる等の問題があるが、請求項2に記載された発明によれば、光照射装置の非点灯時には点灯時よりも加温目標温度を低くすることにより、光照射装置が点灯した際には光照射装置からの廃熱を考慮した上で加温される。これにより、インクが加温されすぎて粘度が不安定になることを防止することができ、常に高精細な画像記録を行うことができるという効果を奏する。
【0019】
記録ヘッドが複数配置されている場合、光照射装置に近い記録ヘッドほど光照射装置からの廃熱の影響を受けて温度が上昇することとなるが、請求項3に記載された発明によれば、光照射装置と記録ヘッドとの距離を考慮して加温目標温度を変更するので、全ての記録ヘッドの温度を一定に保つことができ、インク粘度のばらつきを防止して高精細な画像記録を行うことができるという効果を奏する。
【0020】
記録ヘッドの温度は記録ヘッドの周囲の環境温度や記録ヘッドが取り付けられている部材の温度によっても左右されるが、請求項4に記載された発明によれば、このような環境温度や部材の温度を考慮した上で記録ヘッドの加温目標温度を決定するので、常に記録ヘッドの温度を一定に保つことができ、インク粘度のばらつきを防止して高精細な画像記録を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図1から図5を参照しつつ、本発明に係るインクジェット記録装置1の一実施形態について説明する。
【0022】
まず、図1に示すように、本実施の形態において、インクジェット記録装置1は、シリアルプリント方式によるインクジェット記録装置1であり、このインクジェット記録装置1には、平板状に形成され記録媒体Pを非記録面から支持するプラテン2が設けられている。
【0023】
プラテン2の上方には、プラテン2の長手方向に延在する棒状のガイドレール3が設けられている。このガイドレール3には、キャリッジ4が支持されており、キャリッジ4はキャリッジ駆動機構11(図3参照)によりガイドレール4に沿って主走査方向Xに往復移動自在となっている。
【0024】
また、インクジェット記録装置1には、複数の搬送ローラ5等により構成され、主走査方向Xと直交する副走査方向Yに記録媒体Pを送るための記録媒体搬送機構12(図3参照)が設けられている。記録媒体搬送機構12は、搬送ローラ5を回転させることによって、画像記録時において、キャリッジ4の動作に合わせて記録媒体Pの搬送と停止とを繰り返し、記録媒体Pを副走査方向Yの上流側から下流側に間欠的に搬送するようになっている。
【0025】
図1に示すように、キャリッジ4には、本実施形態におけるインクジェット記録装置1で使用される各色(ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)。)に対応した4つの記録ヘッド6が搭載されている。各記録ヘッド6は、外形が略直方体状に形成されており、長手方向が互いに平行となるように並んで配置されている。記録ヘッド6の記録媒体Pに対向する面には、記録ヘッド6の長手方向に沿って列状に形成された複数のインク吐出口(図示せず)が設けられ、各記録ヘッド6はインク吐出口からそれぞれインクを吐出させるようになっている。なお、インクジェット記録装置1で使用されるインクはこれに限定されず、例えば、ライトイエロー(LY)、ライトマゼンタ(LM)、ライトシアン(LC)等の色を使用することもできる。この場合には、各色に対応した記録ヘッドがキャリッジに搭載される。
【0026】
各記録ヘッド6の内部には、記録ヘッド6を加温するための加温機構としてヒータ13(図2及び図3参照)が設けられている。ヒータ13はON/OFFの切り替え又は設定温度の調整等を行うことにより温度調節が可能なものであれば、どのような構成のものであっても適用が可能である。
【0027】
また、記録ヘッド6には記録ヘッド6の温度を測定するヘッド温度センサ14(図3参照)が設けられている。ヘッド温度センサ14の設けられる位置は、特に限定されないが、記録ヘッド6内に貯留されるインク近傍の温度を測定することのできる位置に配置されることが望ましい。
【0028】
記録ヘッド6のうちキャリッジ4の一端側に位置するブラック(K)の記録ヘッド6とキャリッジ4の側壁との間には、光照射装置としての紫外線照射装置7が配設されている。
【0029】
紫外線照射装置7は、記録媒体Pの上に吐出され着弾したインクを硬化定着させる光として紫外線を照射する紫外線光源(図示せず)を有している。この紫外線光源としては、例えば高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、半導体レーザー、冷陰極管、エキシマーランプ、又はLED(Light Emitting Diode)等を適用することが可能である。
【0030】
なお、紫外線光源が点灯するとこれにより紫外線照射装置7から廃熱を生じるが、本実施形態における紫外線照射装置7、記録ヘッド6、及びヒータ13の熱収支は図2に示すような関係となっている。
【0031】
このように、紫外線照射装置7の発熱量をWa、紫外線照射装置7から記録ヘッド6に送られる際の熱抵抗をRaとし、ヒータ13の発熱量をWb、ヒータ13から記録ヘッド6に送られる際の熱抵抗をRbとし、記録ヘッド6から外気に放出される発熱量をWc、記録ヘッド6から外気に放出される際の熱抵抗をRcとした場合、本実施形態においては、
Wa/Ra+Wb/Rb>−Wc/Rc(式(1))
が成立し、紫外線照射装置7から記録ヘッド6に送られる熱量と前記ヒータ13から記録ヘッド6に送られる熱量の和は、記録ヘッド6から外気に放熱される熱量よりも大きくなっている。また、
Wb/Rb>−Wc/Rc(式(2))
が成立し、前記ヒータ13から記録ヘッド6に送られる熱量は、記録ヘッド6から外気に放出される熱量よりも大きくなっている。
【0032】
さらに、記録ヘッド6及び紫外線照射装置7の周囲には、紫外線照射装置7から照射された紫外線が外部に漏れることのないように遮光するカバー部材(図示せず)が設けられている。カバー部材の内側一端にはカバー部材によって遮蔽された記録ヘッド6の周囲の環境温度を測定する温度検知機構としての環境温度センサ15(図3参照)が設けられている。
【0033】
本実施形態に用いられるインクは、光としての紫外線が照射されることにより硬化する性質を具備する光硬化型インクであり、主成分として、少なくとも重合性化合物(公知の重合性化合物を含む。)と、光開始剤と、色材とを含むものである。上記光硬化型インクは、重合性化合物としてラジカル重合性化合物を含むラジカル重合系インクとカチオン重合性化合物を含むカチオン重合系インクとに大別されるが、この両系のインクが本実施形態に用いられるインクとしてそれぞれ適用可能である。また、ラジカル重合系インクとカチオン重合系インクとを複合させたハイブリッド型インクを本実施形態に用いられるインクとして適用してもよい。しかしながら、酸素による重合反応の阻害作用が少ない又は無いカチオン重合系インクの方が機能性、汎用性に優れるため、特に、カチオン重合系インクを用いることが好ましい。カチオン重合系インクは、少なくともオキセタン化合物,エポキシ化合物,ビニルエーテル化合物等のカチオン重合性化合物と、光カチオン開始剤と、色材とを含む混合物である。
【0034】
また、記録媒体Pとしては、普通紙、再生紙、光沢紙等の各種紙、各種布地、各種不織布、樹脂、金属、ガラス等の種々の材質からなる記録媒体Pが適用可能である。また、記録媒体Pの形態としては、ロール状、カットシート状、板状等の各種形態が適用可能である。
【0035】
次に、図3を参照しつつ、本実施形態におけるインクジェット記録装置1の制御構成について説明する。
【0036】
インクジェット記録装置1を制御するための制御部8が設けられており、この制御部8は、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)を備えている。また、制御部8は、各種の処理プログラム等を格納するROM(Read Only Memory)や画像データ等を一時記憶するRAM(Random Access Memory)(いずれも図示せず)等から構成される記憶部9を有している。制御部8は、ROMに記録された処理プログラムをRAMの作業領域に展開してCPUによりこの処理プログラムを実行するようになっている。
【0037】
また、インクジェット記録装置1は、記録媒体Pの種類や画像記録条件等を入力する入力部10を有しており、入力部10から入力された情報は、制御部8に送られるようになっている。入力部10は、例えばキーボードや操作パネルであり、ユーザーは入力部10を操作することにより画像記録に用いる記録媒体P等を設定することができるようになっている。
【0038】
また、制御部8には、記録画像に関する画像データが送られるようになっており、制御部8は、送られてきた画像データ及び入力部10から入力された情報等に基づき記録ヘッド6を動作させる。これにより、各記録ヘッド6から適切な吐出量のインクが吐出され、記録媒体P上に所定の画像が記録されるようになっている。
【0039】
さらに、制御部8は、キャリッジ駆動機構11を制御してキャリッジ4を主走査方向Xに往復移動させるとともに、キャリッジ4の動作に合わせて記録媒体Pを副走査方向Yに搬送させるように、記録媒体搬送機構12の動作を制御するようになっている。
【0040】
また、制御部8は、紫外線光源から紫外線を照射させるように紫外線照射装置7を制御するようになっている。なお、制御部8は、紫外線照射装置7が設けられている側が主走査方向Xの下流側となる方向にキャリッジ4が移動する際にのみ記録ヘッド6からインクを吐出させるようになっており、吐出されたインクに紫外線照射装置7から紫外線が照射されるようになっている。
【0041】
記憶部9には、例えば、インクジェット記録装置1の各部の動作に関する各種制御プログラム(図示せず)及び各種プログラムの実行に係る制御データ(図示せず)等の各種のデータ等が記憶されおり、加温目標温度を設定するために参照される加温目標温度ルックアップテーブル(以下、「加温目標温度LUT」と称する。)が格納されている。
【0042】
加温目標温度LUTは、例えば、紫外線照射装置7の点灯時用、非点灯時用のそれぞれについて用意されており、非点灯時用の加温目標温度LUTに規定されている加温目標温度は、点灯時用の加温目標温度LUTに規定されている加温目標温度よりも低く設定されている。制御部8は、この加温目標温度LUTを参照しつつヒータ13の加温目標温度を設定し、設定した温度まで記録ヘッド6が加温されるようにヒータ13を制御するようになっている。
【0043】
画像記録を行う際には、インクが画像記録を行うのに最も適した粘度で吐出されるように記録ヘッド6を記録適正温度まで加熱しておく必要がある。しかし、インクは一旦温度が低下すると所定の温度に達するまで時間を要するため、画像記録を行っていないときに一切インクの加温を行わないこととすると、次に画像記録を行おうとしたときにすぐに記録動作を行うことができない。そこで、画像記録を行わないときでも記録ヘッド6をヒータ13で加温する必要がある。
【0044】
ここで、一般に、t秒後の温度上昇は、以下の式により与えられる。
t秒後の温度上昇[℃]=熱抵抗[℃/W]×発熱量[W]×[1−exp(−t/時定数)](式(3))
そして、本実施形態の場合、前述したように図2に示すような熱収支の関係が成立するため、記録ヘッド6の温度は紫外線照射装置7の熱抵抗及び発熱量とヒータ13の熱抵抗及び発熱量とに応じて上昇することとなる。このため、図4(a)に示すように、紫外線照射装置7の非点灯時に画像記録に適した記録適正温度まで記録ヘッド6を加温しておくと、紫外線照射装置7が点灯した際に記録ヘッド6が紫外線照射装置7からの廃熱の影響を受けて必要以上に加熱される。これにより、記録ヘッド6内に貯留されたインクの温度が過度に上昇し、インク粘度が低下しすぎて画像記録に適さなくなる。
【0045】
また、紫外線照射装置7が点灯した際に記録ヘッド6が受ける廃熱の影響は紫外線照射装置7に近接する記録ヘッド6ほど大きくなる。このため、例えば、図1に示したインクジェット記録装置1のように紫外線照射装置7の隣にブラック(K)の記録ヘッド6が配置され、紫外線照射装置7から最も遠い位置にイエロー(Y)の記録ヘッド6が配置されている場合には、紫外線照射装置7の消灯時から全ての記録ヘッド6につき画像記録に適した温度まで加温しておくこととすると、図4(a)に示すように紫外線照射装置7の点灯と同時に紫外線照射装置7に近接した記録ヘッド6ほどその廃熱によって大きく温度が上昇する。このため、紫外線照射装置7の点灯時には各記録ヘッド6が記録適正温度に到達するようにヒータ13の加温目標温度が設定され、非点灯時には記録適正温度よりも低い温度に記録ヘッド6を加温するように加温目標温度が設定される。
【0046】
そこで、例えば、画像記録を行うのに適した記録適正温度が60℃である場合に、紫外線照射装置7が非点灯の場合の加温目標温度を規定した加温目標温度LUTとして図5に示すようなLUTが用意される。すなわち、環境温度センサ15によって測定された環境温度が高いほど加温目標温度を低くするとともに、紫外線照射装置7との距離が近い記録ヘッド6については加温目標温度を低くし、距離が遠いほど加温目標温度が高くなるように対応付けられている。なお、図5は紫外線照射装置7が非点灯である場合の加温目標温度LUTの一例であり、加温目標温度LUTはここに示したものに限定されない。
【0047】
このように、紫外線照射装置7の点灯時には記録適正温度を加温目標温度とし、非点灯時にはこれよりも低い温度を加温目標温度とすることにより、図4(b)に示すように、紫外線照射装置7が点灯することによって紫外線照射装置7からの廃熱と相俟って記録ヘッド6の温度が画像記録に適した記録適正温度になるように調整される。また、記録ヘッド6の紫外線照射装置7からの距離により加温目標温度に差異を設けることにより、紫外線照射装置7からの廃熱の影響の差に関わらず全ての記録ヘッド6につき温度を一定に調整することができる。
【0048】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0049】
紫外線照射装置7の非点灯時には、制御部8は、記憶部9から非点灯時用の加温目標温度LUTを読み出して、環境温度センサ15から送られる環境温度情報と、各記録ヘッド6の紫外線照射装置7からの距離とに応じて各記録ヘッド6のヒータ13の加温目標温度を設定する。記録ヘッド6の温度はヘッド温度センサ14によって随時測定され、制御部8は、ヘッド温度センサ14によって測定された結果を参照しつつ記録ヘッド6の温度が非点灯時用の加温目標温度LUTによって対応付けられた加温目標温度になるようにヒータ13による加温を行う。
【0050】
そして、ユーザーにより入力部10から画像記録を開始する信号等が入力されると、制御部8は、紫外線照射装置7の紫外線光源を点灯させる。また、制御部8は記憶部9から紫外線照射装置7の点灯時用の加温目標温度LUTを読み出して、環境温度センサ15から送られる環境温度情報と、各記録ヘッド6の紫外線照射装置7からの距離とに応じて各記録ヘッド6のヒータ13の加温目標温度を設定する。記録ヘッド6の温度はヘッド温度センサ14によって随時測定され、制御部8は、ヘッド温度センサ14によって測定された結果を参照しつつ記録ヘッド6の温度が点灯時用の加温目標温度LUTによって対応付けられた加温目標温度になるようにヒータ13による加温を行う。
【0051】
ヘッド温度センサ14によって測定された記録ヘッド6の温度が加温目標温度に到達すると、制御部8が記録媒体搬送機構12を制御することにより記録媒体Pが順次副走査方向Yの上流側から下流側に間欠搬送される。また、制御部8がキャリッジ駆動機構11を制御することによりキャリッジ4を記録媒体Pの上を主走査方向Xに沿って往復移動させるとともに、制御部8は各記録ヘッド6を制御することにより所定の吐出量のインクを所定の画素に吐出させる。記録媒体P上に吐出されたインクに紫外線照射装置7から紫外線が照射されることによりインクが硬化定着し、記録媒体P上に画像が記録される。
【0052】
以上のように、本実施形態によれば、記録ヘッド6を加温するヒータ13の加温目標温度を紫外線照射装置7の点灯非点灯、及び紫外線照射装置7からの距離を考慮して変更するので、紫外線照射装置7からの廃熱を加味した上で適切に記録ヘッド6の加温を行うことができる。また、記録ヘッド6の温度は外気に熱が放出されることによって低下していくが、記録ヘッド6の周囲の環境温度を測定しこれを考慮した上で記録ヘッド6の加温を行うため、記録ヘッド6内のインクを画像記録に適した粘度に保つことができるように適切に温度調整を行うことができ、インクが加熱されすぎてミスト状になったり吐出速度が安定せずに着弾位置ずれを起こしたりすることなく、常に高精細な画像記録を行うことができる。
【0053】
なお、本実施形態においては、温度検知機構として記録ヘッド6の周囲の環境温度を測定する環境温度センサ15を設けるものとしたが、環境温度センサ15の替わりに、記録ヘッド6が取り付けられている固定部材の温度を測定する温度センサを設けてこの固定部材の温度を測定するようにしてもよい。この場合には、記録ヘッド6が取り付けられる固定部材の温度に応じてヒータ13の加温目標温度が決定される。また、環境温度センサ15と固定部材の温度を測定する温度センサとの両方を設けて双方の測定結果に応じてヒータ13の加温目標温度を決定するようにしてもよい。
【0054】
また、本実施形態においては、紫外線照射装置7を一群に設けられた記録ヘッド6の一方側にのみ配置するようにしたが、紫外線照射装置7の配置はこれに限定されず、例えば、図6に示すように、記録ヘッド6のうちキャリッジ4の側壁と隣接して設けられている記録ヘッド6とキャリッジ4の両側壁との間にそれぞれ紫外線照射装置7を設けるようにしてもよい。この場合には、キャリッジ4が主走査方向Xの何れの方向に移動する際にも記録ヘッド6からインクを吐出させ双方向で画像記録を行うことが可能となる。なお、この場合、記録ヘッドのうち両端に位置する記録ヘッド6は紫外線照射装置7と隣接するため紫外線照射装置7からの廃熱の影響を強く受けて温度が上昇する。このため、記憶部9には、例えば、図7に示すような加温目標温度LUTが格納され、画像記録を行う際に両端に位置する記録ヘッド6と、内側に位置し比較的紫外線照射装置7からの影響を受け難い記録ヘッド6との温度差が生じないように加温目標温度を設定するようになっている。
【0055】
また、紫外線照射装置7を各記録ヘッド6の間にもそれぞれ設けるようにしてもよい。この場合には、それぞれの紫外線照射装置7と記録ヘッド6との距離を考慮して加温目標温度を決定するようにする。また、記録ヘッド6の配置順はここに例示したものに限定されない。記録ヘッド6がどのような順で配置される場合でも、記録ヘッド6よりも画像記録時における主走査方向Xの下流側に紫外線照射装置7が配置され、この紫外線照射装置7からの距離を考慮して各記録ヘッド6の加温目標温度が設定される。また、紫外線照射装置7は、キャリッジ4の上に搭載されている場合に限られず、キャリッジ4の外に設けられていてもよい。
【0056】
なお、紫外線照射装置7と各記録ヘッド6との距離は、予め記録ヘッド6の配置によって決定されるようにしてもよいし、センサ等によって個別に測定することにより正確な距離を算出し、これにしたがって加温目標温度LUTにおける加温目標温度との対応付けがなされるようにしてもよい。
【0057】
また、本実施形態では、紫外線を照射することにより硬化するインクを用いて画像記録を行うものとしたが、インクは必ずしもこれには限定されず、例えば、紫外線、電子線、X線、可視光線、赤外線等の電磁波といった紫外線以外の光を照射することにより硬化するインクであってもよい。この場合、インクには、紫外線以外の光で重合して硬化する重合性化合物と、紫外線以外の光で重合性化合物同士の重合反応を開始させる光開始剤とが適用される。また、紫外線以外の光で硬化する光硬化型のインクを用いる場合は、紫外線光源に代えて、その光を照射する光源を適用する。
【0058】
また、本発明によるインクジェット記録装置1で使用する記録ヘッド6は、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、例えば、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)等のうち、いずれの吐出方式を用いても構わない。
【0059】
また、本実施形態においてインクジェット記録装置1は、キャリッジ4に搭載された記録ヘッド6を主走査方向Xに往復移動させるとともに、記録媒体Pを副走査方向Yに搬送させながら、各記録ヘッド6からインクを吐出させて、画像を形成するシリアルプリント方式のインクジェット記録装置1としたが、プリンタ本体に固定された各記録ヘッドからインクを吐出させるとともに、記録媒体Pを搬送させながら、画像を形成するラインプリント方式のインクジェット記録装置としてもよい。この場合にも紫外線照射装置との距離に応じて各記録ヘッドの加温目標温度が設定される。
【0060】
その他、本発明が上記実施の形態に限らず適宜変更可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係るインクジェット記録装置の一実施形態の要部構成を示した上面図である。
【図2】本実施形態における紫外線照射装置、記録ヘッド、ヒータ間の熱収支の関係を示した模式図である。
【図3】本実施の形態に係る制御構成の概略を示した要部ブロック図である。
【図4】図4(a)は、紫外線照射装置の消灯時に記録適正温度となるように加温を行った場合の紫外線照射装置の点灯による記録ヘッドの温度の上昇を示したグラフである。図4(b)は、紫外線照射装置の消灯時に記録適正温度より低い加温目標温度を設定して加温を行った場合の紫外線照射装置の点灯による記録ヘッドの温度の上昇を示したグラフである。
【図5】本発明に係るインクジェット記録装置の一実施形態における加温目標温度LUTの内容を具体的に示した図である。
【図6】本発明に係るインクジェット記録装置の一実施形態の変形例の要部構成を示した上面図である。
【図7】本発明に係るインクジェット記録装置の一実施形態の変形例における加温目標温度LUTの内容を具体的に示した図である。
【符号の説明】
【0062】
1 インクジェット記録装置
6 記録ヘッド
7 紫外線照射装置
8 制御部
9 記憶部
P 記録媒体
X 主走査方向
Y 副走査方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を照射することによって硬化する光硬化型インクを記録媒体上に吐出する記録ヘッドと、
吐出された前記インクに光を照射する光源を備える光照射装置と、
前記記録ヘッドを加温する加温機構と、
前記光照射装置の点灯、非点灯に応じて前記加温機構の加温目標温度を変更するように前記加温機構を制御する制御部とを備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記光照射装置の非点灯時の前記加温目標温度が前記光照射装置の点灯時の前記加温目標温度よりも低くなるように前記加温機構を制御することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記記録ヘッドと前記光照射装置との距離に応じて前記加温目標温度を変更するように前記加温機構を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記記録ヘッドの周囲の環境温度及び前記記録ヘッドを固定する固定部材の温度のうち少なくとも何れか一方を検知する温度検知機構を備え、
前記制御部は、前記温度検知機構によって検知された前記環境温度及び前記固定部材の温度のうち少なくとも何れか一方に応じて前記加温目標温度を変更するように前記加温機構を制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−51773(P2006−51773A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236655(P2004−236655)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】