説明

インクジェット記録装置

【課題】活性光線硬化型インクで印刷するインクジェット記録装置において、プラテン上での厚いリジッドメディア印刷時におけるノズル部のインク硬化を防止するとともに、リジッドメディアの余白無し印刷を可能にすることができるインクジェット記録装置の提供。
【解決手段】搬送するリジッドメディア1の領域外にプレート8が移動自在に設けられており、このプレート8をリジッドメディア1の端面に近接して配置することが可能になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性光線の照射で硬化する記録液を用いて記録を行なうインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットヘッドが噴射するインクとして紫外線で硬化する紫外線硬化型インク(以下、UVインクと呼ぶ。)を使用し、PVCシート,ガラス,発泡ボード,板などの記録メディアにUVインクを噴射付着させた後で、紫外線を照射して記録メディア上のUVインクを硬化し定着させるインクジェット記録装置が知られている。
【0003】
特許文献1や特許文献2などでは、記録メディアの搬送方向に直交する方向(以下、主走査方向と呼ぶ。)にインクジェットヘッドが移動するタイプいわゆるシリアルタイプで、インクジェットヘッドの主走査方向両側部の少なくとも一方に該ヘッドと一緒に移動する紫外線照射ランプが備え付けられた記録装置が提案されている。また特許文献1には、インクジェットヘッドが固定式で主走査方向に記録メディアの幅以上の長さを持ついわゆるラインタイプのもので、ヘッドに対して記録メディアの排出側に、記録メディアの全幅を照射する紫外線照射ランプが配置されたものも提案されている。
【0004】
一方、特許文献2では、インクジェットヘッドのインク噴射前方で記録メディアを支持するプラテンの領域外(ホームポジションやヘッド移動方向変換位置)に紫外線照射ランプが移動したとき、紫外線照射ランプから照射された紫外線が装置の筐体壁部に反射してインクジェットヘッドのノズル部に入り込み、ノズル部のインクが固まってしまう課題を解決しようとする発明が示されている。そして、その課題解決手段として、紫外線の反射を防止する板材が、ホームポジションやヘッド移動方向変換位置にてプラテンと略同一高さに設定されている。
【特許文献1】特開昭60−132767号公報
【特許文献2】特開2004−338264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示された発明はロール紙のような薄い記録メディアに印字を行なう場合には有効であるかもしれないが、記録メディアが厚くなると、その記録メディアの記録面と、記録メディアを支持するプラテン上面との段差が上記の課題解決に際して無視できないものとなる。すなわち、フラットベットプリンタ、あるいは、ハイブリッドプリンタなどにおいて、プラスチックボードやガラス板などの板厚があるリジッドメディアを印字する場合、紫外線照射機がリジッドメディア上方にあるときに紫外線がノズル部に入り込まないが、リジッドメディアの記録面と一定の高さに保たれた紫外線照射機がリジッドメディアの幅方向端辺の外側へ移動した瞬間にその高さが広くなる。つまり、紫外線照射機の照射方向空間が拡大する。その結果、紫外線照射機からのインクジェットヘッド側への紫外線の反射、散乱や回折などによって生じた漏れ光が増大し、ノズル部のインク硬化が生じてしまう。
【0006】
この問題の発生状況を図4によって詳述する。図4(a)(b)(c)はリジッドメディア1の搬送方向から記録装置を見た概略図で、インクジェットヘッド2が主走査方向に移動しながらUVインクで印字し、紫外線照射機3がUVインクを硬化させている工程を示している。図4(a)の段階ではプラテン4上のリジッドメディア1の印字面に対するインクジェットヘッド2と紫外線照射機3の高さが、インクジェットヘッド2のノズル部にそのヘッド移動方向と逆側にある紫外線照射機3からの紫外線が入らない位置になっている。また、紫外線照射機3とこれに隣接するインクジェットヘッド2との間に設けられた遮光板5によって、ノズル部への紫外線が遮られている。しかし、図4(c)の段階では紫外線照射機3がリジッドメディア1の外側に来るため、リジッドメディア1の厚み分、紫外線照射機3の照射方向空間が拡大する。その結果、紫外線照射機3からの紫外線6がプラテン4やその周囲の部材で反射、散乱などしたり、遮光板5を回り込んだ回折光などがインクジェットヘッド2のノズル部に入ってしまう。
【0007】
以上説明した問題は、紫外線照射機に紫外線を遮蔽できるシャッター機構を設けることで解決することが可能である。しかし、そのためには、主走査方向に移動しているインクジェットヘッド2の後方に位置する紫外線照射機3がリジッドメディア幅方向端辺に達する直前のタイミング(図4(b)の段階)で、その紫外線照射機のシャッターを閉じなければならなかった。その結果、リジッドメディア1の幅方向端辺近傍に印字したUVインクを硬化させられないので、その部分への印字(余白無し印刷)は実施できないという別の問題があった。
【0008】
そこで本発明は、上記従来技術の課題に鑑み、活性光線硬化型インクで印刷するインクジェット記録装置において、プラテン上での厚いリジッドメディア印刷時におけるノズル部のインク硬化を防止するとともに、同リジッドメディアの余白無し印刷を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のインクジェット記録装置は、活性光線硬化型インクの液滴を記録メディアに吐出して記録を行なうインクジェットヘッドと、このインクジェットヘッドに隣接配置され、記録メディアの記録面に吐出した活性光線硬化型インクを活性光線で硬化する活性光線照射機とを備えたものである。
【0010】
そして、記録メディアの端部に近接して配置可能であり、かつ移動可能なプレートを有することで、上記課題が解決される。
【0011】
すなわち本発明では、リジッドメディアと呼ばれる板厚のある記録メディアの記録領域外に活性光線照射機が活性光線照射状態のまま位置しても、ここには、記録面と略同一面からインクジェットヘッドのインク吐出面の間の任意の位置に配置可能なプレートが存在していて、活性光線照射機の照射方向空間は拡大しない。そのため、活性光線照射機からの活性光線は、インクジェットヘッドのノズル部には入り込まず、ノズル部インクの硬化が防止される。また、この事により、従来技術では実施できなかった、板厚のある記録メディアの余白無し印刷も可能となる。
【0012】
このような記録装置では、前記プレートの前記インクジェットヘッド側および前記活性光線照射機側の面が前記記録面に対し上下に平行移動するよう、プレートを、記録メディアの厚さ方向に移動可能にするプレート位置調整機構を有することが好ましい。
【0013】
また、記録面からインクジェットヘッドのインク吐出面までの距離を変えられるよう、インクジェットヘッドを、記録メディアの厚さ方向に移動可能にするヘッド位置調整機構をさらに有することが好ましい。
【0014】
この場合、ヘッド位置調整機構によりインクジェットヘッドを位置調整すると、それに連動して、プレート位置調整機構がプレートを移動するものであると良い。このように構成すれば、搬送する記録メディアの厚さに対応させてインクジェットヘッドのインク吐出面の位置を調整することによって、プレートのインクジェットヘッド側および活性光線照射機側の面が、記録面と略同一面からインクジェットヘッドのインク吐出面の間の所定の位置に自動的に調整される。
【0015】
そのためには、記録面からプレートの前記インクジェットヘッド側および活性光線照射機側の面までの距離と、記録面からインクジェットヘッドのインク吐出面までの距離とがそれぞれ一定の距離に予め調整されている必要がある。
【0016】
また、上記インクジェット記録装置では、プレートを、記録メディアの外形に合わせて記録メディアの端に接するようにスライド可能にするスライド機構を有していることが望ましい。これにより、搬送する記録メディアの外形が変更されても、記録メディアの記録面に隣接した平面を構成することが出来る。
【0017】
このスライド機構は、プレートをスライド自在に案内するよう記録メディアの搬送方向と交差する方向に配されたレール部材を含むものである。
【0018】
シリアルタイプのインクジェット記録装置である場合の上記レール部材は、インクジェットヘッドを記録メディアの搬送方向と交差する方向に案内するレールに沿って配されていることが考えられる。
【0019】
また、プレートのインクジェットヘッド側および前記活性光線照射機側の面は、活性光線の反射、散乱などを防止する処理がなされていることが好ましい。
【0020】
また、プレートは、記録メディアに対しその搬送方向と交差する方向両側のうちの少なくとも一方に配設されていることが好ましい。
【0021】
この記録メディアに対しその搬送方向と交差する方向両側のうちの一方に配設された上記プレートは、次のような構成からなっていてもよい。すなわち、シリアルタイプのインクジェット記録装置では、インクジェットヘッドのホームポジションに該ヘッドの吐出維持および回復を図るメンテナンス機構が設けられていることがある。本発明の記録装置は活性光線硬化型インクを使用するため、このメンテナンス機構は、活性光線の入射を防ぐシャッター機構とその周囲の板状部材とを有している。そこで、このシャッター機構と板状部材とを記録メディアの厚さ方向に移動可能にすることで、上記プレートと同じ機能を構成することができる。
【0022】
さらに、上記のようなインクジェット記録装置では、インクジェットヘッドと活性光線照射機との間に、活性光線照射機からインクジェットヘッドのインク吐出面への活性光線を遮る遮光板を有することが望ましい。この場合、記録面に対してインクジェットヘッドおよび活性光線照射機を位置調整しても、プレートと遮光板との隙間は一定の間隔を維持する遮光板位置調整機構を有することが望ましい。
【0023】
さらに、プレートの記録メディア側の端部に、記録メディアと接触し、プレート端部と記録メディアとの間に摩擦緩和手段をさらに有することがこのましい。
【0024】
さらに、プレートの記録メディアと接触する一部あるいは全面に、活性光線硬化型インクが付着した場合に活性光線硬化型インクを剥離しやすくするためのインク剥離層を有することが好ましい。
【0025】
尚、特許請求の範囲および明細書中の「活性光線」には、光、電子線、放射線など回折、反射などの特性を有するものが含まれる。また、活性光線硬化型インクの硬化に用いられる活性光線として好ましくは、紫外線、近赤外線、電子線などである。
【発明の効果】
【0026】
以上説明した本発明によれば、板厚のあるリジッドメディアに活性光線硬化型インクでインクジェット記録を行なう際、活性光線によるノズル部のインク硬化を防止し、かつ、同リジッドメディアの余白無し印刷も可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。尚、ここでは既に図4に示した従来装置構成と同じ部品要素には同一符号を用いることとする。
【0028】
図1は本発明のインクジェット記録装置の実施形態についてリジッドメディアの搬送方向から記録装置を見た概略図、図2は主走査方向から記録装置を見た概略図である。
【0029】
これらの図において、本実施形態のインクジェット記録装置は、6色(シアンC,マセ゛ンタM,イエローY,ライトシアンLc,ライトマセ゛ンタLm,フ゛ラックK)のUVインクを吐出するインクジェットヘッド2と、UVインクを硬化させる紫外線を照射する紫外線照射機3と、これらを搭載するキャリッジ7とを備える。キャリッジ7は主走査方向に延びるキャリッジレール15に係合し、モータやエンドレスベルト等からなる駆動手段によりキャリッジレール15に沿って往復移動可能になっている。また、キャリッジ7上の紫外線照射機3は主走査方向にて6色分のインクジェットヘッド2の両側に配置されている。この記録装置では各インクジェットヘッド2のインク吐出面および紫外線照射機3の紫外線照射口がほぼ重力方向に向けられている。そして、紫外線照射機3とこれに隣接するインクジェットヘッド2との間に複数の遮光板5が設けられ、これによって、リジッドメディア1で反射、散乱などされる紫外線照射機3からの紫外線がインクジェットヘッド2側へ漏れ出ることを低減するようにしている。
【0030】
インクジェットヘッド2からUVインクが吐出されるリジッドメディア1は、記録面が平坦に維持されるようにプラテン4の上面に支持され、かつ、搬送手段10によって搬送および保持される。プラテン4は、この記録装置で印刷可能とする最大サイズのリジッドメディア1を支持するのに十分な幅を主走査方向に持つ。一方、搬送手段10にはローラやベルトなどを用いた様々な搬送機構を適用できる。その一例として、図2に示すようにベルト状部材10aを少なくとも2つのプーリー10b,10cに掛け回し、そのベルト状部材10aの一部をプラテン4の上面に露出させ、または分割されたプラテン間の隙間に露出させ、ベルト状部材10aに、リジッドメディア1を吸着する吸着手段あるいは粘着する粘着手段(不図示)を設けた構造が考えられる。尚、本発明の記録装置はリジッドメディア1の搬送手段10を、ロール紙のような薄い記録メディアをロール・to・ロール機構で搬送するものに交換できる兼用機であってもよい。
【0031】
さらに本発明では、搬送するリジッドメディア1の領域外に平面を形成するプレート8が設けられており、このプレート8をリジッドメディア1の記録面1aと略同一高さからインクジェットヘッド2のインク吐出面の間の任意の高さ位置に配置し、かつ、リジッドメディア1の端面に近接して配置することが可能になっている。
【0032】
そのために、プレート8は、主走査方向に略平行に配された2本のレール部材9a,9bにスライド可能に懸架されている。2本のレール部材9のうち一方のレール部材9aはキャリッジレール15の下側にキャリッジレール15に沿って配されている。もう一方のレール部材9bは、レール部材9aからリジッドメディア搬送方向にキャリッジ7及びインクジェットヘッド2等の外形寸法以上隔てて配されている。これらのレール部材9a,9bは、リジッドメディア1の記録面1aと略同じ高さに設置されたときのプレート8の平面部の位置よりも十分に高い位置に配されている。そのため、プレート8の平面部の両端を折り曲げてレール部材9a,9bに係合させてある。以上により、レール部材9a,9bによりリジッドメディア1の搬送を邪魔することなく、プレート8を主走査方向にスライドさせて、様々なサイズ幅のリジッドメディア1の端面位置に合わせることを可能にしている。尚、プレート9のスライド動作は、リニアアクチュエータやボールねじなどの駆動手段を用いて行なえば良い。また、リジッドメディアからロールメディアの記録に変更できる兼用機の場合は、プラテン4を含む搬送手段10を容易に交換するスペースが確保されるよう、レール部材9a,9bをキャリッジレール15より長く延ばし、プレート8の退避エリアを設けるのが良い。
【0033】
さらに、図2(a)(b)に示すとおり、リジッドメディア1の記録面1aに対しプレート8上面の高さを上下に平行移動できるように、レール部材9aとレール部材9bは同時に、リジッドメディア1の記録面1aに直交する方向(図上下方向)に移動調整可能である。また、搬送するリジッドメディア1の厚さが変わっても、リジッドメディア1の記録面1aからキャリッジ7上のインクジェットヘッド2のインク吐出面までの高さ(距離)は常に一定の距離Xにする必要があるので、キャリッジレール15全体もまた、図上下方向に移動調整可能である。例えば、キャリッジレール15やレール部材9a,9bを、図上下方向に支柱として配されたボールねじ(不図示)のナット部に取り付け、そのボールねじのねじ軸をモータ等で回転駆動することで上下動可能となる。あるいは、ボールねじに代え、キャリッジレール15やレール部材9a,9bの両端をリニアアクチュエータに取り付けてもよい。勿論、本発明に用いる高さ調整機構はこれらに限定されるものではない。
【0034】
プレート8を懸架するレール部材9a,9bは単独でも上下移動可能であるが、レール部材9a,9bの上下動機構はキャリッジレール15の上下動機構とも連動している。具体的には、搬送するリジッドメディア1の厚みに応じて、そのリジッドメディア1の記録面1aからインクジェットヘッド2のインク吐出面までの距離をキャリッジレール15の上下動機構によって可変すると、これに連動してレール部材9a,9bおよび、レール部材9a,9bに懸架されたプレート8が移動し、プレート8の上面の高さ位置が変更される。
【0035】
このとき、予め、キャリッジレール15とレール部材9a,9bの上下動機構を用いて、リジッドメディア1の記録面1aからインクジェットヘッド2のインク吐出面までの距離を上記の一定の距離Xに設定しておくと同時に、その記録面1aからプレート8の上面までの距離も所定の距離に設定しておくのが良い。その理由は、搬送するリジットメディア1の記録面1aの高さが変わった為に、キャリッジレール15の上下動機構によりリジッドメディア1の記録面1aからインクジェットヘッド2のインク吐出面までの距離を上記の距離Xに再度設定し直したとき、記録面1aに対するプレート8の上面の高さ(距離)も自動的に、予め設定された所定距離になるからである。つまり、インクジェットヘッド2とプレート8の高さ調整が連動するので、リジットメディア1の記録面1aの高さ位置に応じてインクジェットヘッド2のインク吐出面の高さを変えても、記録面1aからプレート8の上面の間の距離は常に所定の距離に保たれる。
【0036】
以上の構成において、リジッドメディア1の記録面1aからインクジェットヘッド2のインク吐出面の間の所定の高さ位置に高さが調整されたプレート8をリジッドメディア1の幅に合わせてスライドし、リジッドメディア1の端面に近接させると、リジッドメディア1の厚み分の段差が小さくなる。このように設定した後、キャリッジ7を図1の左端から右端へ移動しながらインクジェットヘッド2でリジッドメディア1にUVインクによる記録を行い、ヘッド進行方向後側の紫外線照射機3でUVインクを硬化させていく。この印刷動作では、リジッドメディア1の幅方向端辺まで印刷する、すなわち余白無し印刷を実施する。そのため、ヘッド進行方向後側の紫外線照射機3はリジッドメディア1上を通過し、図1に示すような位置(すなわちリジッドメディア領域の外側)に来るまではUV照射をシャッター等で中断できない。本発明では、このような場所に紫外線照射機3がUV照射状態のまま移動して来ても、ここにはプレート8が存在していて紫外線照射機3の照射方向空間は拡大しない。その結果、紫外線照射機3からの紫外線は遮光板5で遮られ、インクジェットヘッド2のノズル部には達しない。よって、板厚のある記録メディアの余白無しUV印刷を実施しても、ノズル部インクの硬化を防止できる。言い換えれば、従来技術では実施できなかった、板厚のある記録メディアの余白無しUV印刷が可能である。
【0037】
さらに、本実施形態の記録装置は、記録メディアの厚みに関係なく、インクジェットヘッド2のインク吐出面の高さやプレート8の高さを各々独立して可変することも可能である。そのため、インクジェットヘッド2のインク吐出面の高さに可能な限りプレート8の高さを近付けることが出来る。プレート8がインクジェットヘッド2のインク吐出面に近くなれば、それだけ紫外線照射機3からインクジェットヘッド2への紫外線の漏れが少なくなる。つまり、紫外線照射機3の照射方向空間が狭くなるのでその分ヘッドに到達する紫外線が少なくなり、ノズル部インクの硬化を防止できる。
【0038】
尚、紫外線照射機3からの紫外線はプレート8に照射されて反射、散乱などするため、プレート8の表面は、紫外線吸収剤などの反射防止処理や黒アルマイト処理などの黒色吸光処理がなされている。
【0039】
図5はこのような処理がなされたプレート8の別の形態を示す図であり、記録メディアの搬送方向から見た装置概略図である。
【0040】
この図において、プレート8のインクジェットヘッド2側の表面には反射防止層23を施してある。反射防止層23は紫外線吸収剤などの反射防止処理や黒アルマイト処理などの黒色吸光処理がされている層である。そのため、反射防止層23が有る場合の紫外線の反射率が、反射防止層がない場合に比べ小さくなるように構成し、紫外線の反射を少なくしている。また、反射防止層23を含めたプレート8の表面にインク剥離層24が設けられている。インク剥離層24は撥液体材であるフッ素樹脂で構成され、インク剥離層24の表面は反射防止層23やプレート8の表面より凹凸を小さくして平滑性を高くした層である。そのため、インクが付着、固着した場合に、インク剥離層24を設けたほうが容易にインクを剥離することができる。また、インク剥離層24はインクのミストや飛び跳ねによって付着したインクを剥離しやすくするものであるので、図5ではインク剥離層24は、リジッドメディア1側の端部を被うように一部分に配置したが、これはインクのかかりやすい場所を最低限保護するためで、反射防止層23を被うようにしても、全体を被うようにしてもよい。さらに別の態様として、インク剥離層24に紫外線反射防止剤を添加することで、紫外線反射防止を損なうことなくインク剥離層を設けることができる。
【0041】
また、プレート8のリジッドメディア1側の端部にローラ25が配置されている。ローラ25はリジッドメディア1の側面に対して接触面28をもって接触している。さらに、ローラ25をプレート8の側面よりわずかに出るように配置することで、プレート8とリジッドメディア1との対向面27は、接触せずにわずかに隙間が存在する。ローラ25がリジッドメディア1の側面に当たることで、接触による抵抗が小さくなり、リジッドメディア1をスムースに搬送することができる。ローラ25が仮に無いとすると、リジッドメディア1を搬送するときに、プレート8と擦れるため、リジッドメディア1を送りたい分だけ正常に送ることができないなどの懸念がある。
【0042】
ローラ25の表面にプレート8と同様に、インク剥離層26を設けることで、インクが付着、固着した場合でも容易にインクを剥離することができる。また、図示はしていないが、インク剥離層26の下層にプレート8と同様の反射防止層を設けることが好ましい。ローラ25はプレート8とリジッドメディア1の接触による摩擦を緩和する為の摩擦緩和手段であり、ローラ25のほかに、プレート8とリジッドメディア1の接触面積を少なくするための円弧状のガイドを用いることもできる。
【0043】
プレート8は、レール部材9a,9bの上下動機構によって上下が可能である。第一の距離22は、プレート8の上面がリジッドメディア1の記録面1aと略同一の高さにあった場合のプレート8の上面とインクジェットヘッド2のインク吐出面との距離である。第二の距離21は、プレート8がリジッドメディア1の記録面1aよりインクジェットヘッド2に近い位置にある場合のプレート8の上面とインクジェットヘッド2のインク吐出面との距離である。第三の距離20はリジッドメディア1の記録面1aから、プレート8のインクジェットヘッド2側の面までの距離である。第一の距離21が狭ければ狭いほどインクジェットヘッド2へ照射される紫外線が少なくなる。好ましくは第三の距離20が正の値、つまり、リジッドメディア1の記録面1aより、プレート8のインクジェットヘッド2側の面が、インクジェットヘッド2に近い場合である。そうすると、リジッドメディア1上より紫外線照射機3の照射方向空間が狭くなるのでその分ヘッドに到達する紫外線が少なくなり、ノズル部インクの硬化を防止できる。また、第一の距離22が大きくなり、リジッドメディア1の記録面1aより、プレート8のインクジェットヘッド2側の面が、インクジェットヘッド2に対して遠い場合、リジッドメディア1上より紫外線照射機3の照射方向空間が広くなるのでその分ヘッドに到達する紫外線が多くなるが、プレート8が無いよりは紫外線のヘッドへの照射が少なくなり、ノズル部インクの硬化を防止する効果を得ることが出来る。
【0044】
また、インクジェット記録装置ではキャリッジ7を記録メディア1上にて往復走査して高速印字を実施する場合がある。この場合、図1のようにリジッドメディア1の主走査方向片側にプレート8を設置可能にするだけでなく、リジッドメディア1に対しプレート8とは逆側(インクジェットヘッド2のホームポジション側)にも、同じ機構を持つプレートを設けることが望ましい。しかし、インクジェットヘッド2のホームポジションには、一般にインクジェットヘッド2の正常吐出の維持と回復を図るメンテナンス装置11が設けられている。
【0045】
図1に示すようにメンテナンス装置11は、移動するインクジェットヘッド2のインク吐出面に突き当てられインク吐出面に付着したインクを拭き取るワイパー12や、インクジェットヘッド2のノズル部を吸引してインク充填やインクリフレッシュなどを行う吸引機構13などを有する。さらに、ワイパー12や吸引機構13などを板で覆って、それらに付着されているUVインクの硬化を防ぐ後述のシャッター機構も備えている。そこで、このシャッター機構とこの周囲に張り出した板状部材14とを組み合わせて平板を構成し、メンテナンス装置11を上下動可能にすることで、高さ調整自在なプレート8と同じ機能をインクジェットヘッド2のホームポジション側に設けることが出来る。また、このような構成は不要な装置の大型化を避けられる。
【0046】
図6は上記のメンテナンス装置11の拡大図である。吸引機構13の上部に板状部材14と略面一に吸引部シャッター29が設けられている。吸引機構13を使わないときに吸引部シャッター29を閉じておくことで、紫外線照射機3の照射方向空間を狭くする。同様に、ワイパー12の上部にも、ワイパー12を使わないときに閉じるワイパーシャッター30が設けられ、これにより紫外線照射機3の照射方向空間を狭くする。また、板状部材14と吸引部シャッター29とワイパーシャッター30の、紫外線照射機3側の表面にメンテナンス部表層31として、図5に示したプレート8と同様の反射防止層とインク剥離層を設け、紫外線の反射防止及びインクの剥離を容易としている。また、板状部材14と吸引部シャッター29とワイパーシャッター30で形成される平板を上下動移動可能にする移動調整機構を備えることがプレート8と同様の効果を得るので好ましい。また、吸引装置移動機構32はインクジェットヘッド2に対し吸引機構13を上下に移動させるための機構であり、モータの動力により吸引機構13を直線移動させる。ワイパー移動機構33はインクジェットヘッド2に対してワイパー12を上下に移動させるため移動機構であり、モータの動力によりワイパー12を上下に移動させる。
【0047】
また、本発明の実施の形態では記録メディアとしてリジッドメディア1を用いたが、別の態様としてリジッドメディアに限らず他の記録メディアを用いた場合も、活性光線照射機の照射方向の空間を狭くする場合に本発明の効果を有する。プラテン4と記録メディアの記録面までの距離が大きいほど照射機から照射される活性光線の照射方向空間が大きいので、例えば、リジッドメディアや樹脂シートを用いる場合や、記録メディアとプラテンの幅が同じで記録メディアの外側下部に空間が存在するような構成のプリンタなどに用いることができる。
【0048】
また、記録メディアの中には、反りや異形を有するものがあるため、その種のメディアを印刷する場合には通常印刷時よりもヘッド−メディア間距離を多く取る必要性が生じる。そのような場合、図3(a)の通常印刷状態からキャリッジレール15を上げてインクジェットヘッド2や紫外線照射機3の高さを調整すると、それに連動して図3(b)のように遮光板5が高くなってしまう。その結果、プレート8(リジッドメディア1)と遮光板5との隙間も広がり、プレート8上での、インクジェットヘッド2側へのUV光漏れは増加してしまう。そのため、インクジェットヘッド2や紫外線照射機3が高さ調整されても、図3(c)のようにプレート8と遮光板5との隙間が大きくならないよう一定の間隔に維持される機構が必要になる。よって、遮光板5には、プレート8に対して遮光板高さを常に一定に保つ高さ調整機構が個別に設けられていることが望ましい。
【0049】
以上説明した実施形態では、いわゆるシリアルタイプのインクジェット記録装置を示した。しかし、本発明はシリアルタイプのインクジェット記録装置に限定されず、本発明に係るプレート8や、そのスライド機構及び高さ調整機構についてはラインタイプの記録装置にも適用できる。すなわち、ラインタイプの記録装置では余白無し印刷を可能にするため、主走査方向に、搬送する記録メディアの最大幅以上の長さを持つインクジェットヘッドユニットが固定され、このヘッドユニットに対してメディア排出側に、搬送する記録メディアの最大幅以上を照射する紫外線照射ランプが配置されることになる。そのため、搬送する記録メディアが板厚のあるリジッドメディアである場合、リジッドメディアの領域外に位置する紫外線照射ランプの下方空間はリジッドメディア上のUV照射空間よりも、少なくともリジッドメディアの厚さ分、広くなる。その結果、リジッドメディアの領域外に位置する紫外線照射ランプからのUV光が隣接するインクジェットヘッドのノズル部に入る虞がある。したがって、本発明に係るプレート8や、そのスライド機構及び高さ調整機構はラインタイプのインクジェット記録装置にも有効である。
【0050】
尚、本発明のインクジェットヘッドが吐出するインク等の記録液はUVインクに限られず、近赤外線、電子線などの活性光線が照射されて硬化する虞のある記録液であれば如何なるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の実施形態について記録メディア(リジッドメディア)搬送方向から見た概略図である。
【図2】本発明のインクジェット記録装置の実施形態について主走査方向から見た概略図であり、反射防止プレートの設置状況を示した図である。
【図3】本発明のインクジェット記録装置の実施形態における遮光板の高さ調整を説明する図である。
【図4】本発明が解決しようとする課題を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態における反射防止プレートの別の形態の説明図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるメンテナンス装置の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 リジッドメディア
1a 記録面
2 インクジェットヘッド
3 紫外線照射機
4 プラテン
5 遮光板
6 紫外線
7 キャリッジ
8 プレート(反射防止プレート)
9a,9b レール部材
10 搬送手段
10a ベルト状部材
10b,10c プーリー
11 メンテナンス装置
12 ワイパー
13 吸引機構
14 板状部材
15 キャリッジレール
20 第三の距離
21 第二の距離
22 第一の距離
23 反射防止層
24,26 インク剥離層
25 ローラ
27 対向面
28 接触面
29 吸引部シャッター
30 ワイパーシャッター
31 メンテナンス部表層
32 吸引装置移動機構
33 ワイパー移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性光線硬化型インクの液滴を記録メディアに吐出して記録を行なうインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドに隣接配置され、前記記録メディアの記録面に吐出した前記活性光線硬化型インクを活性光線で硬化する活性光線照射機とを備えたインクジェット記録装置において、
前記記録メディアの端部に近接して配置可能であり、かつ移動可能なプレートを有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記プレートが、前記記録面と略同一面から前記インクジェットヘッドのインク吐出面の間の任意の位置に配置されている、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記プレートの前記インクジェットヘッド側および前記活性光線照射機側の面が前記記録面に対し上下に平行移動するよう、前記プレートを、前記記録メディアの厚さ方向に移動可能にするプレート位置調整機構を有する、請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記記録面から前記インクジェットヘッドのインク吐出面までの距離を変えられるよう、前記インクジェットヘッドを、前記記録メディアの厚さ方向に移動可能にするヘッド位置調整機構を有する、請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録面から前記インクジェットヘッドのインク吐出面までの距離を変えられるよう、前記インクジェットヘッドを、前記記録メディアの厚さ方向に移動可能にするヘッド位置調整機構を有し、
前記ヘッド位置調整機構により前記インクジェットヘッドの位置を移動すると、それに連動して、前記プレート位置調整機構は前記プレートを移動する、請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記記録面から前記プレートの前記インクジェットヘッド側および前記活性光線照射機側の面までの距離と、前記記録面から前記インクジェットヘッドのインク吐出面までの距離とがそれぞれ一定の距離に、前記ヘッド位置調整機構および前記プレート位置調整機構によって予め調整されている、請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記プレートを、前記記録メディアの外形に合わせて前記記録メディアの端に接するようにスライド可能にするスライド機構を有する、請求項1から6のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記スライド機構は、前記記録メディアの搬送方向と交差する方向に配され前記プレートをスライド自在に案内するレール部材を含む、請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
シリアルタイプのインクジェット記録装置であって、前記レール部材は、前記インクジェットヘッドを前記記録メディアの搬送方向と交差する方向に案内するレールに沿って配されている、請求項8に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記プレートの前記インクジェットヘッド側および前記活性光線照射機側の面は、活性光線の反射を防止する処理がなされている、請求項1から9のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記プレートは、前記記録メディアに対しその搬送方向と交差する方向両側のうち少なくとも一方に配設されている、請求項1から10のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
シリアルタイプのインクジェット記録装置であって、前記インクジェットヘッドのホームポジションに該ヘッドの吐出維持および回復を図るメンテナンス機構を備えており、
該メンテナンス機構は、活性光線の入射を防ぐシャッター機構とその周囲の板状部材とを有し、
前記記録メディアに対しその搬送方向と交差する方向両側のうちの一方に配設された前記プレートは、前記シャッター機構と前記板状部材とを前記記録メディアの厚さ方向に移動可能にして構成されたものである、請求項1から11のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項13】
前記インクジェットヘッドと前記活性光線照射機との間に配置され、前記活性光線照射機から前記インクジェットヘッドのインク吐出面への活性光線を遮る遮光板を有する、請求項1から12のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項14】
前記記録面に対して前記インクジェットヘッドおよび前記活性光線照射機を位置調整しても、前記プレートと前記遮光板との隙間を一定の間隔に維持する遮光板位置調整機構を有する、請求項13に記載のインクジェット記録装置。
【請求項15】
前記プレートの前記記録メディア側の端部に、前記記録メディアと接触し、前記プレートと前記記録メディアの間に摩擦緩和手段を有することを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項16】
前記プレートの前記記録メディアと接触する一部あるいは全面に、前記活性光線硬化型インクが付着した場合に前記活性光線硬化型インクを剥離しやすくするためのインク剥離層を有することを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−200948(P2008−200948A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38276(P2007−38276)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(395003187)株式会社セイコーアイ・インフォテック (173)
【Fターム(参考)】