説明

インクジェット記録装置

【課題】インクジェット記録装置において、非記録時に記録ヘッドの吐出面を覆うキャップのために必要とされる空間を縮小化して装置の小型化を図る。
【解決手段】記録ヘッド42の吐出面43と対向する第一壁81と、吐出面43の周りを囲う第二壁82とで、吐出面43を覆うキャップ80を構成した。第一壁81は、記録用紙2が搬送される搬送面35と吐出面43の間から退避した第二位置と、搬送面35と吐出面43の間において吐出面43と対向する第一位置とを姿勢を変化させながら移動できる。また、第二壁82(第二壁82の搬送面35側の端部)は、吐出面43の側方の第四位置と、該第四位置よりも搬送面35に近接し且つ第一位置へ移動した第一壁81と当接する第三位置とを、記録ヘッド42と相対して移動できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファクシミリ、複写機、或いはプリンタ等に適用されるインクジェット記録装置に関する。さらに詳細には、インクジェット記録装置が具備する記録ヘッドのインク吐出面を覆ってインク吐出口を封止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録装置は、複数の吐出口を設けた吐出面を有する記録ヘッドを備えており、これらの吐出口から選択的にインクを記録用紙に向けて吐出するように構成されている。インクジェット記録装置で記録が行われないときは、記録ヘッドの吐出面はインクの乾燥防止などのためにキャップで覆われる。このようなキャップは、特許文献1で示されるように、通常、記録ヘッドの吐出面と対向する板部材と、この板部材の外縁から突出して吐出面の周りと当接可能な環状リップとから構成される。そして、特許文献2で示されるように、キャップの退避空間をできるだけ小さくして記録装置の小型化を図るために、記録中のキャップが記録ヘッドの側方で吐出面に対して直交する向きで退避するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2008−74038号公報
【特許文献2】特開平9−109403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り通常のキャップは、板部材の厚みと環状リップの突出高さとを合わせた厚みを有している。したがって、特許文献2に示されたようにキャップを記録ヘッドの側方に退避させる場合に、キャップの退避及びその移動のために、少なくとも板部材と環状リップとを合わせた分の空間が必要となってしまい、記録装置を小型化する上で不十分である。
【0005】
本発明は上記の従来技術を鑑み、更なる記録装置の小型化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインクジェット記録装置は、搬送部材により搬送方向に搬送される記録媒体に向けてインクを吐出するインク吐出口が形成された吐出面を有する記録ヘッドと、前記吐出面と対向する第一壁と、前記吐出面の周りを囲う第二壁と、前記第一壁を、前記吐出面と対向する第一位置と、前記吐出面と対向しない第二位置との間で移動させる第一壁移動手段と、前記第二壁を、前記第一位置へ移動した前記第一壁と当接する第三位置と、前記当接をしない第四位置との間で移動させる第二壁移動手段とを備え、前記第一壁の前記第二位置における姿勢と前記第一位置における姿勢は異なっており、前記第一位置にある前記第一壁と、前記第三位置にある前記第二壁とにより、前記吐出口を覆う閉空間を形成するものである。
【0007】
上記インクジェット記録装置では、吐出口を覆う閉空間を形成する部材を、少なくとも第一壁と第二壁とに分けたため、第一壁にリップなどの吐出面の吐出口の周囲を包囲する起立形状部分を設ける必要がなく、第一壁の厚みを薄くすることができる。これにより、第一壁が第二位置で退避するために必要とされる空間を縮小化し、インクジェット記録装置の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吐出口を覆う閉空間を形成する部材を、少なくとも第一壁と第二壁とに分けたため、インクジェット記録装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置の構成を模式的に示す側面図である。
【図2】記録ヘッド及びキャップの構成を模式的に示す側面断面図である。
【図3】記録ヘッド及びキャップの動きを説明する図であり、(a)は記録ヘッドが記録位置にあるとき、(b)は記録ヘッドが休止位置にあるとき、(c)は記録ヘッドが退避位置にあるときの状態をそれぞれ示している。
【図4】キャッピングの流れを示すフローチャートである。
【図5】アンキャッピングの流れを示すフローチャートである。
【図6】複数の記録ヘッドの吐出面が個別にキャッピングされた状態のインクジェット記録装置を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本実施の形態では、インクジェット記録装置の一例として、ブラック、シアン、マゼンダ及びイエローの各色の4つのライン式記録ヘッドを備えてカラー印刷を行うことのできる、ライン式のカラーインクジェット記録装置について説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0011】
まず、図1を参照しながら、インクジェット記録装置1の概略構成を説明する。図1は本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置の全体的な構成を模式的に示す側面図である。なお、図1では、インクジェット記録装置1の内部構造が簡略的に示されており、給紙ケース21、記録ヘッド42などは説明の便宜を図って断面で示されているが断面を示すハッチングは省略されている。インクジェット記録装置1は、記録媒体である記録用紙2に対して記録を行う記録部5と、記録部5へ記録用紙2を送給する給紙部4と、記録部5から記録用紙2を送出する排紙部6と、これらの動作を制御する制御部7とを備えている。制御部7は、例えば一般的なインクジェット記録装置1と同様にマイクロコンピュータなどで構成することができる。インクジェット記録装置1には、給紙部4に設けられた給紙路31と、記録部5に設けられた搬送路32と、排紙部6に設けられた排紙路33とから成る搬送経路3が形成されており、この搬送経路3を搬送される記録用紙2に対して記録がなされる。図1中、搬送経路3は二点鎖線で示されている。以下、給紙部4、記録部5、及び排紙部6のそれぞれについて詳細に説明する。
【0012】
給紙部4は、記録用紙2を収容するための着脱可能なカセット式の給紙ケース21と、給紙ケース21から記録部5へ記録用紙2を送給する給紙路31とを備えている。給紙ケース21には記録用紙2が上下に重ねて収容され、この記録用紙2は給紙ケース21から繰り出されて給紙路31へ送られる。給紙ケース21の一側(図1の紙面左側)には、給紙路31の上流端が設けられている。この給紙路31の上流端と接続されるように、給紙ケース21には板状の給紙ガイド22が設けられている。給紙ガイド22の上方には、給紙ガイド22と対向する円周面を有するピックアップローラ23が設けられている。このピックアップローラ23は、給紙ガイド22に対して近接及び離反するように移動可能であり、インクジェット記録装置1の運転時には、給紙ケース21に収容された最上位置の記録用紙2の給紙ガイド22上に載っている部分に圧接されている。この状態でピックアップローラ23が回転すると、ピックアップローラ23と給紙ガイド22との間で挟持されている記録用紙2が、給紙ケース21から繰り出されて給紙路31へ送られる。
【0013】
給紙路31は、複数の給紙側ガイド24と、この給紙側ガイド24に沿って記録用紙2を送る複数のローラとで構成されている。本実施の形態においては、給紙ケース21の直ぐ上方に記録部5が設けられており、給紙路31は複数の給紙側ガイド24によって記録ヘッド42から記録部5へ向かう側面視半円弧状に形作られている。
【0014】
給紙路31の上流部には、この給紙路31を間に挟んで対向する円周面を有する一対のローラ25,26が設けられている。この一対のローラ25,26の一方がフィードローラ25であり他方がリタードローラ26である。フィードローラ25は記録用紙2を給紙方向(即ち、給紙路31の下流側)へ送るように回転する。リタードローラ26はトルクリミッタを備え、1枚の記録用紙2が送られてきたときはフィードローラ25に連られて回転し、複数枚の記録用紙2が送られてきたときは記録用紙2を給紙方向と逆方向へ送るように回転する。給紙路31上の記録用紙2は、回転するフィードローラ25の円周面とリタードローラ26の円周面との間に挟まれて、給紙方向へ送られる。このとき、この一対のローラ25,26の作用により、複数の記録用紙2が給紙ケース21から繰り出された場合に、一枚の記録用紙2のみが分離されて給紙方向へ送られる。
【0015】
給紙路31の下流部には、この給紙路31を間に挟んで対向する円周面を有するレジストローラ対27が設けられている。上述のピックアップローラ23、フィードローラ25、リタードローラ26、およびレジストローラ対27は、図示しない1つの給紙モータにより回転駆動されている。記録用紙2が回転するレジストローラ対27の円周面に挟まれて給紙方向へ送られることにより、記録用紙2は姿勢や向きが整えられた状態で搬送路32に送給される。なお、給紙路31のレジストローラ対27よりも下流側と搬送路32において、搬送経路3を搬送される記録用紙2は搬送方向(図1の矢印99の方向)へ移動する。
【0016】
記録部5は、給紙部4の給紙路31の下流端と接続された搬送路32と、搬送路32に設けられた複数の記録ヘッド42とを備えている。搬送路32では、記録用紙2が搬送方向99へ搬送される。
【0017】
搬送路32は、ベルト式搬送装置50により形成されている。ベルト式搬送装置50は、互いの回転軸が搬送方向99に離間している駆動ローラ51及び従動ローラ52と、これらのローラ51,52に巻回された無端状ベルト53(搬送部材)と、駆動ローラ51を回転駆動する図示しないモータとを備えている。この無端状ベルト53の駆動ローラ51と従動ローラ52の間が搬送路32であり、駆動ローラ51側が搬送路32の上流側であり、従動ローラ52側が搬送路32の下流側である。搬送路32を形成している無端状ベルト53の上面は、記録用紙2を載せて搬送する「搬送面35」である。記録用紙2は、搬送面35を搬送方向99に搬送される。搬送面35の水平性を維持するために、駆動ローラ51と従動ローラ52との間において無端状ベルト53を下方から支持するプラテン55が設けられている。プラテン55は搬送面35と平行な面で無端状ベルト53を支持している。
【0018】
複数の記録ヘッド42は、搬送面35の上方に設けられている。本実施の形態に係るインクジェット記録装置1は4つの記録ヘッド42を備えており、搬送路32の上流側からそれぞれ、ブラック、シアン、マゼンダ、イエローの各インクを吐出する記録ヘッド42が搬送方向99に並んでいる。各記録ヘッド42は、無端状ベルト53の搬送面35と対向する吐出面43を有している。この吐出面43には記録ヘッド42が備える複数のノズルの吐出口が開口しており、これらの吐出口から搬送面35上を搬送される記録用紙2に向けて選択的にインク滴が吐出される。記録ヘッド42については、後ほど詳述する。
【0019】
排紙部6は、排紙トレイ45と、搬送路32の下流端と接続された排紙路33とを備えている。搬送路32から排紙路33へ送られてきた記録用紙2は、排紙路33に沿って排紙トレイ45へ送り出される。排紙路33は、複数の排紙側ガイド46と、この排紙側ガイド46に沿って記録用紙2を送る複数の送出ローラ対47と、排紙路33を送られてきた記録用紙2を排紙トレイ45へ排出する排紙ローラ対48とで構成されている。本実施の形態においては、記録部5の上方に排紙トレイ45が設けられており、排紙路33は複数の排紙側ガイド46により搬送路32の下流端から排紙トレイ45へ向かう側面視半円弧状に形作られている。
【0020】
上記構成のインクジェット記録装置1は、給紙部4では給紙ケース21に収容された記録用紙2を繰り出して給紙路31に沿って記録部5へ送給し、記録部5では送られてきた記録用紙2を搬送路32を搬送しながらインクを塗布して記録を行い、排紙部6では記録がなされた記録用紙2を排紙路33に沿って排紙トレイ45へ送り出すように動作する。このインクジェット記録装置1の一連の動作は、制御部7により制御されている。
【0021】
ここで、図2を参照しながら、記録ヘッド42について説明する。図2は記録ヘッド及びキャップの構成を模式的に示す側面断面図である。図2において記録ヘッド42の内部構造は省略されている。本実施の形態に係るインクジェット記録装置1は4つの記録ヘッド42を備えているが、いずれも同様の構造であるので、そのうち1つについて説明し余の説明を省略する。
【0022】
記録ヘッド42は、複数のノズルと、ノズルの吐出口からインクを吐出させるためのノズルごとの吐出アクチュエータと、インクタンクからインク流路を通じてインクが供給されるインク貯溜室とを備えており、各ノズルはインク貯溜室と連通している(いずれも図示せず)。ノズルの吐出口は、記録ヘッド42の下面である吐出面43に開口している。吐出面43は記録用紙2が搬送される搬送面35と対向しており、記録時の記録ヘッド42は位置が固定されている。よって、吐出面43の吐出口の形成された領域が、記録時に記録用紙2に向けてインク滴が吐出される領域となる。そこで、搬送される記録用紙2の記録幅(搬送方向99と直交する方向(図1の紙面を貫く方向)の記録可能な大きさ)の全幅にわたる領域にインク滴を吐出することができるように、吐出面43は記録用紙2の記録幅と等しいかそれ以上の奥行き(搬送方向99と直交する方向の大きさ)を有し、奥行き方向にわたって列をなす複数の吐出口を複数列備えている。つまり、記録ヘッド42はライン式の記録ヘッドとして構成されている。このため、記録ヘッド42も記録用紙2の記録幅と等しいかそれ以上の奥行きを有し、奥行き方向へ長尺な細長い直方体形状をなしている。
【0023】
上記構成の記録ヘッド42は、搬送路32において搬送面35を搬送方向99へ搬送される記録用紙2に向けてインク滴を吐出する。そして、記録用紙2の付着したインク滴により画像等が形成されることによって、記録用紙2に記録がなされる。インクジェット記録装置1の停止時やメンテナンス時などの非記録時には、記録ヘッド42からのインク滴の吐出が行われない。このような非記録時に、記録ヘッド42の吐出面43に露出している複数の吐出口のインクを乾燥させないために、複数の吐出口をまとめて包み込むキャップ80で吐出面43が覆われる。吐出面43とキャップ80との間に形成される内部空間は密閉されており、これにより、吐出面43の吐出口が封止される。このキャップ80は、ノズルの回復動作(パージ)において記録ヘッド42の吐出面43を覆って、吐出口から吐出される微量のインク滴を受け止めることもできる。通常、非記録時の吐出面43はキャップ80で覆われたキャッピング状態となっており、記録時の吐出面43はキャップ80による覆いが解除されてアンキャッピング状態となっている。
【0024】
続いて、図2に加え図3を参照しながら、キャップ80について詳細に説明する。図3は記録ヘッド及びキャップの動きを説明する図であり、(a)は記録ヘッドが記録位置にあるとき、(b)は記録ヘッドが休止位置にあるとき、(c)は記録ヘッドが退避位置にあるときの状態をそれぞれ示している。キャップ80は、図2及び図3(b)に示すキャッピング状態において、記録ヘッド42の吐出面43と対向する部分を覆う第一壁81と、吐出面43の周囲を覆う第二壁82との、2つ以上の部材で構成されている。第一壁81は、吐出面43と対向できるキャップ面81aを有している。また、第二壁82は、吐出面43の複数の吐出口の周りをまとめて囲える内面82aを有している。キャッピング状態において、第一壁81のキャップ面81aに第二壁82の下端が隙間無く当接している。これにより、キャッピング状態において、第一壁81のキャップ面81aと、第二壁82の内面82aと、吐出面43との間に密閉された空間が形成される。
【0025】
キャップ80の第一壁81が備えるキャップ面81aは、記録ヘッド42の吐出面43と同じかそれよりも大きな領域を覆うことのできる大きさ及び形状を有している。第一壁81のキャップ面81aに第二壁82の下端が当接するが、キャップ面81aの少なくとも第二壁82が当接する部分は、シール性を向上させるために樹脂素材で構成されている。キャップ面81aには、吐出口から垂れたり回復動作で吐出されたりしたインクを吸収するために、吸収体を設けることもできる。第一壁81は、記録ヘッド42の吐出面43と無端状ベルト53上の搬送面35の間から退避した退避位置85(第二位置)(図3(a)(c)参照)と、吐出面43と搬送面35の間のキャッピング位置86(第一位置)(図3(b)(c)参照)とを移動可能に構成されている。そして、このように第一壁81を退避位置85とキャッピング位置86との間で移動させる第一壁移動アクチュエータ72(第一壁移動手段)が設けられている。この第一壁移動アクチュエータ72は、制御部7の制御を受けて動作する。
【0026】
退避位置85の第一壁81は、記録ヘッド42の側方であって、記録ヘッド42から搬送方向99の上流側又は下流側へ離れた位置にある。そして、退避位置85の第一壁81は、記録ヘッド42の吐出面43よりも搬送面35から離反したところにある。さらに、退避位置85の第一壁81は、キャップ面81aが記録ヘッド42へ向いている。このように、退避位置85の第一壁81は、搬送面35を基準として吐出面43よりも高く離反したところにあるので、搬送面35を搬送される記録用紙2の移動や記録ヘッド42の吐出面43から吐出されるインク滴の動きを阻害しない。これに加え、退避位置85のキャップ面81aが搬送方向99に対して略直交する姿勢となっている。よって、退避位置85の第一壁81のために必要とされる空間の搬送方向99の大きさを、キャップ面81aが搬送方向99と平行である場合と比較して、小さくすることができる。
【0027】
一方、キャッピング位置86の第一壁81は、キャップ面81aが記録ヘッド42の吐出面43と対向している。退避位置85の第一壁81のキャップ面81aを含む平面と、キャッピング位置86の第一壁81のキャップ面81aを含む平面とは、略直交している。記録ヘッド42の吐出面43は搬送面35と平行であり、吐出面43及び搬送面35はいずれも搬送方向99と平行な面である。よって、キャッピング位置86の第一壁81のキャップ面81aも搬送方向99と平行である。つまり、第一壁81は、退避位置85とキャッピング位置86との間を、キャップ面81aの向きが搬送方向99と直交する向きから搬送方向99と平行な向きまで変化するように、姿勢を変化させながら移動する。このような第一壁81の移動の軌跡は複数パターンを考え得るが、例えば、図3(c)に細線で示す側面視略L字状の軌跡89や、側面視円弧状の軌跡などを挙げることができる。
【0028】
キャップ80の第二壁82は、記録ヘッド42の吐出面43の周りを囲う筒形状を有している。このように第二壁82が吐出面43の回りを囲う形状を有するので、記録ヘッド42の吐出面43の複数の吐出口の回りに第二壁82が当接する代を設ける必要はなく、吐出面43の縁の端まで吐出口を配置することができる。これにより、記録ヘッド42の吐出面43を縮小することが可能であり、記録ヘッド42の小型化、ひいては、記録装置の小型化に寄与することができる。
【0029】
本実施の形態において、第二壁82は筒形状を有する弾性変形可能な弾性体である。第二壁82の上端部は記録ヘッド42の周囲であって吐出面43よりも上方に固定されており、第二壁82の下端部82b(搬送面35側の端部)は自由端である。第二壁82の下端部82bは、記録ヘッド42の吐出面43の側方の退避位置87(第四位置)(図3(a)(c)参照)と、吐出面43よりも搬送面35に近接したキャッピング位置88(第三位置)(図3(b)参照)とを、記録ヘッド42の吐出面43に相対して移動可能に構成されている。退避位置87にある第二壁82の下端部82bは、搬送面35を基準として吐出面43と同じ高さ或いはそれよりも搬送面35から離反した高い位置にある。これにより、第一壁81の移動の軌跡は、記録ヘッド42により近い位置を通ることができる。但し、退避位置87にある第二壁82の下端部82bは吐出面43から僅かに搬送面35側へ突出してもかまわない。また、キャッピング位置88にある第二壁82の下端部82bは、キャッピング位置86にある第一壁81のキャップ面81aと当接している。このように第二壁82の下端部82bを退避位置87とキャッピング位置88との間で移動させる第二壁移動アクチュエータ73(第二壁移動手段)が設けられている。第二壁移動アクチュエータ73は、制御部7の制御を受けて動作する。
【0030】
第二壁移動アクチュエータ73は、第二壁82の下端部をキャッピング位置88から退避位置87へ移動させるときには第二壁82を折り畳むように弾性変形させ、第二壁82の下端部82bを退避位置87からキャッピング位置88へ移動させるときには折り畳まれた第二壁82を回復するように弾性変形させる。つまり、第二壁82の下端部82bは、搬送面35に対して近接及び離反するようにほぼ直線的に移動し、しかも、その移動量は僅か数mm程度である。このように、第二壁82が存在するための空間並びに第二壁82を退避位置87からキャッピング位置88まで移動するために必要とされる空間のいずれも、非常に小さなものである。このような特徴を備える第二壁82は上記に限定されるものではなく、例えば、第二壁82は、上下方向に伸縮可能な蛇腹状の筒体としたり、上下方向に伸縮可能な筒体としたり、記録ヘッド42に対して上下方向にスライド移動する十分な長さの弾性変形不能な筒体としたり、或いは複数部材で構成したりできる。
【0031】
上述したキャップ80の第一壁81の移動に必要とされる空間を更に小さくするために、記録ヘッド42の吐出面43が搬送面35に対して近接及び離反するように、記録ヘッド42を全体的に又は部分的に移動できるように構成することが望ましい。そこで、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1では、吐出面43が搬送面35に対して近接及び離反するように記録ヘッド42が全体的に上下昇降移動可能に構成されており、このように記録ヘッド42を移動させるヘッド移動アクチュエータ71(記録ヘッド移動手段)を備えている。ヘッド移動アクチュエータ71は、制御部7の制御を受けて動作する。
【0032】
ヘッド移動アクチュエータ71は、搬送面35と吐出面43との間が記録用紙2を介入可能に近接した記録位置91(図3(a)参照)と、搬送面35と吐出面43との間がキャップ80の第一壁81を介入可能に離反した休止位置92(図3(b)参照)と、搬送面35と吐出面43との間が休止位置92よりもさらに離反した退避位置93(図3(c)参照)との間で、記録ヘッド42を移動させることができる。記録位置91は、記録ヘッド42の可動範囲において吐出面43が搬送面35に対して最も近接した位置であり、このときの吐出面43と搬送面35との距離は0.5〜1.0mm程度である。そして、この記録位置91から退避位置93までの移動ストロークは、およそ20mmである。
【0033】
ここで、図4を参照しながら、記録ヘッド42の吐出面43をキャッピングするときの、制御部7による制御の流れを説明する。図4はキャッピングの流れを示すフローチャートである。ここで、インクジェット記録装置1は記録時であり、記録ヘッド42は図3(a)に示すアンキャッピング状態にあるものとする。具体的には、記録ヘッド42は記録位置91にあり、キャップ80の第一壁81は退避位置85にあり、第二壁82の下端部82bは退避位置87にあるものとする。
【0034】
記録用紙2に対する記録が終了し、制御部7に記録終了指令が入力されると(ステップS01)、制御部7はヘッド移動アクチュエータ71に記録ヘッド42を記録位置91から退避位置93まで移動させる(ステップS02)(図3(c)参照)。続いて、制御部7は、第一壁移動アクチュエータ72に第一壁81を退避位置85からキャッピング位置86まで移動させる(ステップS03)。第一壁81がキャッピング位置86に到達すると、制御部7はヘッド移動アクチュエータ71に記録ヘッド42を退避位置93から休止位置92まで移動させる(ステップS04)。記録ヘッド42が休止位置92に到達すると、制御部7は第二壁移動アクチュエータ73に第二壁82の下端部82bを退避位置87からキャッピング位置88まで移動させる(ステップS05)(図3(b)参照)。以上、ステップS01からステップS05までのステップを経て、記録ヘッド42の吐出面43を第一壁81と第二壁82から成るキャップ80で覆うことができる。
【0035】
なお、キャッピング動作に要する時間を短縮するために、上記ステップS05において、記録ヘッド42が休止位置92に到達するのを待たずに第二壁82の下端部82bが移動し始めて、記録ヘッド42が休止位置92に到達すると同時又はそれよりも遅れて第二壁82の下端部82bがキャッピング位置88に至るようにしてもよい。
【0036】
続いて、図5を参照しながら、吐出面43が図3(b)に示すキャッピングされた状態から、アンキャッピングするときの、制御部7による制御の流れを説明する。図5はアンキャッピングの流れを示すフローチャートである。ここで、インクジェット記録装置1は休止時や回復動作時などの非記録時であって、記録ヘッド42は休止位置92にあり、キャップ80の第一壁81はキャッピング位置86にあり、第二壁82の下端部82bはキャッピング位置88にあるものとする。
【0037】
制御部7に記録開始指令が入力されると(ステップS11)、制御部7は第二壁移動アクチュエータ73に第二壁82の下端部82bをキャッピング位置88から退避位置87まで移動させる(ステップS12)。続いて、制御部7は、ヘッド移動アクチュエータ71に記録ヘッド42を休止位置92から退避位置93まで移動させる(ステップS13)(図3(c)参照)。記録ヘッド42が退避位置93に到達すると、制御部7は第一壁移動アクチュエータ72に第一壁81をキャッピング位置86から退避位置85まで移動させる(ステップS14)。第一壁81が退避位置85に到達すると、制御部7はヘッド移動アクチュエータ71に記録ヘッド42を退避位置93から記録位置91まで移動させる(ステップS15)(図3(a)参照)。以上、ステップS11からステップS15までのステップを経て、キャップ80で覆われている記録ヘッド42の吐出面43の覆いを解除して、記録を開始することができる状態となる。
【0038】
なお、アンキャッピング動作に要する時間を短縮するために、上記ステップS13において、第二壁82の下端部82bが退避位置87に到達するのを待たずに、記録ヘッド42が休止位置92から退避位置93へ移動し始めるようにしてもよい。さらには、上記ステップS14において、記録ヘッド42が退避位置93へ到達するのを待たずに、第一壁81をキャッピング位置86から退避位置85へ移動し始めるようにしてもよい。
【0039】
上述の通り、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1では、記録ヘッド42の吐出面43と対向できる第一壁81と、吐出面43の周囲を覆うことのできる第二壁82との2部材で、吐出面43を覆う密封空間を形成するキャップ80が構成されている。つまり、このキャップ80は底の部分が第一壁81であり、側壁の部分が第二壁82で構成されている。このようにキャップ80が2つの部材に分けて構成されていることで、第一壁81にリップなどの吐出面43を包囲する起立形状部分を形成する必要がないので、第一壁81の厚みを薄くすることができる。よって、記録時のアンキャッピング状態において、第一壁81が退避位置85で退避するために必要とされる空間と、第一壁81が退避位置85とキャッピング位置86との間を移動するために必要とされる空間との双方を小さくすることができる。さらに、第一壁81が退避位置85とキャッピング位置86の間を移動している間は、記録ヘッド42は休止位置92よりもさらに搬送面35から離れた退避位置93にある。このように記録ヘッド42が退避位置93へ移動したことにより、図3(c)に示すように第一壁81は記録ヘッド42の休止位置92と退避位置93との間を通って移動することが可能となる。これにより、第一壁81は退避位置85からキャッピング位置86まで又はその逆の移動の過程に姿勢を変化させるための回転を含むが、その回転の半径をより小さくすることができる。よって、第一壁81が退避位置85とキャッピング位置86との間を移動するために必要とされる空間を小さくすることができる。このように第一壁81のために必要とされる空間(特に搬送方向99の大きさ)を縮小することが可能となるので、インクジェット記録装置1の小型化に寄与することができる。特に、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1は複数の記録ヘッド42を備えており、各記録ヘッド42に設けられた1組のキャップ80のための空間が縮小されることで、装置全体の小型化がより顕著となる。
【0040】
また、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1において、各記録ヘッド42に付き1組の第一壁81及び第二壁82が備えられているが、全ての第一壁81及び第二壁82を同期させて動作させてもよいし、全ての第一壁81及び第二壁82を独立して動作させてもよいし、複数組の第一壁81及び第二壁82を同期させて動作させてもよい。このように、本実施の形態に係るインクジェット記録装置1にでは、各記録ヘッド42の吐出面43を個別にキャッピング及びアンキャッピングさせることが可能である。例えば、図6に示すように、主にモノクロ印刷を行うためにインクジェット記録装置1が使用される場合には、カラー印刷を行わないときに、カラーインクの記録ヘッド42をキャッピングしておくことができ、カラーインクの記録ヘッド42のインクの状態を良好に保つことができる。なお、図6は複数の記録ヘッドの吐出面が個別にキャッピングされた状態のインクジェット記録装置を模式的に示す側面図であり、ブラックインク(Bk)の記録ヘッドがアンキャッピングされており、カラーインク(シアンC,マゼンダM,イエローY)の記録ヘッドがキャッピングされた状態を示している。
【0041】
上記実施の形態では、インクジェット記録装置として、ライン式の記録ヘッドを備えたライン式インクジェット記録装置を例に挙げて説明した。言うまでもないが、本発明に係るインクジェット記録装置は上記に限定されるものではなく、シリアル式の記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置に本発明を適用させることができる。本発明をシリアル式の記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置に適用させる場合には、記録時のキャップの第一壁は記録ヘッドから搬送方向に離れた位置に限らず、記録ヘッドから搬送方向と略直交する方向に離れた位置で退避していてもよい。この記録時のキャップの第一壁の位置は、装置を小型化することを目的として記録装置の他の構成要素との兼ね合いで配置が決定されることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、記録ヘッドの吐出口が形成された吐出面を覆うために有用であり、ライン式の記録ヘッドやシリアル式の記録ヘッドなどの吐出口が形成された吐出面を備えたインクジェット記録装置に広く適用させることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 インクジェット記録装置
2 記録用紙
3 搬送経路
4 給紙部
5 記録部
6 排紙部
7 制御部(制御手段)
21 給紙ケース
22 給紙ガイド
23 ピックアップローラ
24 給紙側ガイド
25 フィードローラ
26 リタードローラ
27 レジストローラ対
31 給紙路
32 搬送路
33 排紙路
35 搬送面
42 記録ヘッド
43 吐出面
45 排紙トレイ
46 排紙側ガイド
47 送出ローラ対
48 排紙ローラ対
50 ベルト式搬送装置
51,52 ローラ
53 無端状ベルト(搬送部材)
71 ヘッド移動アクチュエータ(記録ヘッド移動手段)
72 第一壁移動アクチュエータ(第一壁移動手段)
73 第二壁移動アクチュエータ(第二壁移動手段)
80 キャップ
81 第一壁
81a キャップ面
82 第二壁
82a 内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送部材により搬送方向に搬送される記録媒体に向けてインクを吐出するインク吐出口が形成された吐出面を有する記録ヘッドと、
前記吐出面と対向する第一壁と、
前記吐出面の周りを囲う第二壁と、
前記第一壁を、前記吐出面と対向する第一位置と、前記吐出面と対向しない第二位置との間で移動させる第一壁移動手段と、
前記第二壁を、前記第一位置へ移動した前記第一壁と当接する第三位置と、前記当接をしない第四位置との間で移動させる第二壁移動手段とを備え、
前記第一壁の前記第二位置における姿勢と前記第一位置における姿勢は異なっており、
前記第一位置にある前記第一壁と、前記第三位置にある前記第二壁とにより、前記吐出口を覆う閉空間を形成する、インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第二位置にある前記第一壁を含む平面と、前記第一位置にある前記第一壁を含む平面は、略直交する、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第二位置にある前記第一壁は、前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の上流側又は下流側にある、請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第四位置にある前記第二壁は、前記吐出面よりも前記搬送部材側へ突出していない、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドは、記録媒体の記録幅にわたって複数のインク吐出口を備えているライン式の記録ヘッドであって、前記インクジェット記録装置はこの記録ヘッドを前記搬送方向に複数並べて備えるとともに、各記録ヘッドについて前記第一壁と前記第二壁を備えている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記第一壁が前記第二位置にあり且つ前記第二壁が前記第四位置にある状態から、前記第一壁が第一位置へ到達したあとに、前記第二壁が前記第三位置へ到達するように、前記第一壁移動手段および前記第二壁移動手段を制御する制御手段をさらに備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記記録ヘッドを前記搬送部材に対して近接および離反するように移動させる記録ヘッド移動手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記第一壁が前記第一位置に到達したあとで、前記記録ヘッドが前記搬送部材に向けて移動して前記第一壁を介入可能な程度に前記搬送部材に近接した位置に到達すると同時又はそれよりも遅れて前記第二壁が前記第三位置へ到達するように、前記第一壁移動手段、前記第二壁移動手段および前記記録ヘッド移動手段を制御する、請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記第一壁が前記第一位置にあり且つ前記第二壁が前記第三位置にある状態から、前記第二壁が前記第三位置から前記第四位置へ向けて移動し始めたあとで、前記第一壁が前記第一位置から前記第二位置へ向けて移動し始めるように、前記第一壁移動手段および前記第二壁移動手段を制御する制御手段をさらに備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記記録ヘッドを前記搬送部材に対して近接および離反するように移動させる記録ヘッド移動手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記第二壁が前記第三位置から前記第四位置へ向けて移動し始めると同時又はそれよりも遅れて前記記録ヘッドが前記搬送部材に対して離反し始めるように、前記第一壁移動手段、前記第二壁移動手段および前記記録ヘッド移動手段を制御する、請求項8に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−212949(P2011−212949A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82535(P2010−82535)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】