説明

インクジェット記録装置

【課題】複数の種類のインクを吐出するラインヘッド形式のインクジェット記録装置において、インクの種類によって異なる吐出特性の変化が生じることが抑えられたインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】記録装置は、吐出数カウント手段によってカウントされた記録ヘッドごとのそれぞれの液体の吐出数と、記録ヘッドごとに設定されている閾値とを比較する。記録装置は、いずれかの記録ヘッドで、カウントされた液体の吐出数がその記録ヘッドについて設定されている閾値を超えたときに、ホルダを主走査方向に移動させることが可能なホルダ移動手段を有している。記録装置は、閾値との比較の行われている記録ヘッドについて、搬送領域に形成された吐出口のそれまでの累積吐出数が、ホルダの取り得る位置の中で、最も少ない位置であるようにホルダの位置を調節するホルダ位置調節手段を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録装置に関し、特に、記録媒体の搬送方向に交差する方向に複数の吐出口が配列された記録ヘッドを有し、記録ヘッドから液体を吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドより液滴を吐出して記録を行うインクジェット記録装置の一つの形式として、ラインヘッド式のインクジェット記録装置が知られている。ラインヘッド式のインクジェット記録装置は、記録媒体の搬送方向と交差する方向に吐出口が配列されて形成された記録ヘッドを有している。そして、吐出口列の延びる方向と交差する方向に搬送されながら、記録ヘッドの吐出口から記録媒体に液滴が吐出されて記録が行われる。ラインヘッド式のインクジェット記録装置は、記録ヘッドから一行分の記録に吐出される液滴が一度にまとめて吐出され、且つ、そのような記録が連続的に行われるので、記録のスピードが速いという利点がある。
【0003】
このラインヘッド形式のインクジェット記録装置においては、記録ヘッドにおける吐出口の形成された部分に相当する長さ以下の幅であれば、様々な長さの紙幅の記録媒体に対して記録される。しかしながら、ラインヘッド形式のインクジェット記録装置では吐出口の形成された部分の幅よりも狭い紙幅の記録媒体に記録が行われ続けることから、吐出口によっては頻繁に吐出が繰り返されるものとあまり吐出が行われないものが出てくる。
【0004】
一般的に、吐出口から液滴の吐出を行うために記録ヘッド内に貯留されている液体にエネルギーを印加する記録素子には寿命があり、その駆動回数には限りがある。同一の記録素子を駆動し続けることで同一の吐出口から液滴を吐出し続けると、その記録素子については早く寿命を迎えてしまう。また、記録素子が寿命を迎える前に、同一の吐出口からの吐出を繰り返すことにより、その吐出口から吐出される液滴の吐出特性(吐出量)が変化することが知られている。そのため、所定枚数の記録ごとに、記録ヘッドを記録媒体の搬送方向に交差する方向に移動させ、記録する際に使用する吐出口を変更するインクジェット記録装置が特許文献1に開示されている。このインクジェット記録装置によって記録が行われることにより、記録の際に用いられる吐出口を分散させることができ、吐出口の使用回数を均一化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−297510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、同じ条件の下で吐出口から液滴の吐出を繰り返した場合であっても液滴の吐出特性の変化は、インクの種類によって異なる。極端に言えば、同じ条件で吐出口から液滴の吐出が繰り返し続けられたとしても、それによって液滴の吐出特性が変化するインクと変化しないインクとがある。このとき生じ得る液滴の吐出特性の変化は、主に吐出口から液滴が吐出される際に駆動される記録素子のコゲによるものと考えられる。記録素子が繰り返し駆動され続けたとしても、その記録素子の周囲に存在するインクの成分によってコゲの発生具合に差が生じる。つまり、同じ環境で記録素子の駆動が繰り返されたとしても、コゲが発生し易いインクと発生し難いインクがあり、吐出されるインクの特性の変化にも差が生じる。
【0007】
特許文献1に開示されているインクジェット記録装置を用いることにより、同一の記録ヘッド内で使用される吐出口に関して分散させ、吐出口の使用頻度を均一化させることはできる。しかしながら、記録される画像によっては、特性の変化し易い一つの種類のインクのみが大量に消費されるような場合が考えられる。このような場合、記録枚数は少ないのに、特定の種類のインクのみが多く吐出され、それによって特定の種類のインクを吐出する記録ヘッドに配置された記録素子のみが繰り返し使用され続ける場合がある。このとき、記録枚数が少ないことから記録ヘッドは移動しないにも関わらず、特定の種類のインクのみ吐出特性が変化してしまう可能性がある。これによって、それまで使用されていた記録媒体よりもサイズの大きな記録媒体に記録が行われる際に、それまで記録が行われていた記録媒体の幅の長さだけその外側の領域と比べて特定の色に関して濃度差のある領域が生じる可能性がある。この濃度差が生じることにより、記録画像の品質が低下する可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、複数の種類のインクを吐出するラインヘッド形式のインクジェット記録装置において、インクの種類によって異なる吐出特性の変化が生じることが抑えられたインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のインクジェット記録装置は、記録媒体が搬送される第一の方向に交差する第二の方向に沿って配列された複数の吐出口が形成され、前記吐出口から液体を吐出することで記録媒体に記録を行う複数の記録ヘッドを搭載可能なホルダを有するインクジェット記録装置において、前記複数の記録ヘッドのそれぞれにおいて、それぞれの記録ヘッドから吐出された液体の吐出数をカウントする吐出数カウント手段と、前記吐出数カウント手段によってカウントされた前記記録ヘッドごとのそれぞれの液体の吐出数と、前記記録ヘッドごとに設定されている閾値とがそれぞれ比較され、いずれかの記録ヘッドで、カウントされた液体の吐出数がその記録ヘッドについて設定されている前記閾値を超えたときに前記ホルダを前記第一の方向に交差する第三の方向に移動させることが可能なホルダ移動手段と、前記ホルダ移動手段によって前記ホルダを移動させた後の前記ホルダの位置が、閾値との比較の行われている記録ヘッドについて、記録媒体の搬送される領域に対応した領域に形成された吐出口のそれまでの累積吐出数が、前記ホルダの取り得る位置の中で、最も少ない位置であるように前記ホルダの位置を調節するホルダ位置調節手段とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のインクジェット記録装置は、記録媒体が搬送される第一の方向に交差する第二の方向に沿って配列された複数の吐出口が形成され、前記吐出口から液体を吐出することで記録媒体に記録を行う複数の記録ヘッドを搭載可能なホルダを有するインクジェット記録装置において、前記複数の記録ヘッドのそれぞれにおいて、それぞれの記録ヘッドから吐出された液体の吐出数をカウントする吐出数カウント手段と、前記吐出数カウント手段によってカウントされた液体の吐出数に、前記記録ヘッドごとに設定されている係数を乗じて重み付けされた液体吐出数を算出する液体吐出数重み付け手段と、前記液体吐出数重み付け手段によって算出された前記記録ヘッドごとのそれぞれの液体吐出数と、前記記録ヘッドごとに設定されている閾値とがそれぞれ比較され、いずれかの記録ヘッドで、カウントされた液体の吐出数がその記録ヘッドについて設定されている前記閾値を超えたときに前記ホルダを前記第一の方向に交差する第三の方向に移動させることが可能なホルダ移動手段と、前記ホルダ移動手段によって前記ホルダを移動させた後の前記ホルダの位置が、閾値との比較の行われている記録ヘッドについて、記録媒体の搬送される領域に対応した領域に形成された吐出口のそれまでの累積吐出数が、前記ホルダの取り得る位置の中で、最も少ない位置であるように前記ホルダの位置を調節するホルダ位置調節手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインクジェット記録装置によれば、複数の記録ヘッドを有するラインヘッド形式のインクジェット記録装置において、それぞれの記録ヘッドごとに、領域によって吐出頻度に差が生じることを抑えることができる。従って、複数の記録ヘッドのうち、特定の記録ヘッドのみで領域によって吐出特性の変化が生じることを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一実施形態に係るインクジェット記録装置について示した斜視図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置の断面図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置について、記録部について拡大し、内部の構造を示した斜視図である。
【図4】図1のインクジェット記録装置における記録ヘッドが移動するにつれて使用される吐出口の累積吐出数が変化する状態を示した説明図である。
【図5】図1のインクジェット記録装置において、吐出インクの最初の状態からの、記録素子が使用されるにつれて変化する明度の変化を示したグラフである。
【図6】図1のインクジェット記録装置において、Cインクについて、記録媒体の搬送される領域に対応した領域内の吐出口からの累積吐出数と、記録ヘッドごとに設定された閾値との比較が行われる際のフローチャートである。
【図7】図1のインクジェット記録装置において、全ての記録ヘッドに対して使用する吐出口領域の変更を行うかどうかの判定が行われる際のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(第一実施形態)
図1は本発明の第一実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成を示す斜視図である。インクジェット記録装置としての記録装置1は、シートの記録時における搬送方向の上流側から下流側に沿って、給紙部2、記録部5、カッタ部6、乾燥部7、インクタンク部8、制御部12、排紙部10を備えている。
【0015】
図2は、図1の記録装置1の内部の構造を示す断面図である。給紙部2は、ロール状に巻かれたシート3を回転可能に保持する。なお、本実施形態で記録に用いられる記録媒体としてのシート3は、ロール状の連続紙であるが、一枚一枚が分離したカット紙が適用されてもよい。給紙部2は、シート3を引き出して、シート搬送方向の下流側に供給するための送り機構を有している。
【0016】
記録部5は、異なる色のインクをそれぞれ吐出可能なようにそれぞれの色に対応した複数の記録ヘッド4を備えている。それぞれの記録ヘッド4には、記録媒体が搬送される搬送方向(第一の方向)に交差する主走査方向(第二の方向)に沿って配列された複数の吐出口が形成されている。本実施形態では、記録媒体の搬送方向と主走査方向とが直交するように、記録ヘッド4が配置されている。記録ヘッド4に形成された吐出口から液体を吐出することで記録媒体に記録が行われる。記録装置1の記録部5は、複数の記録ヘッド4を搭載可能なホルダを有している。
【0017】
複数の記録ヘッド4は、それぞれの記録ヘッド4が主走査方向に沿って延在するように取付けられている。主走査方向に沿って延在するように配置された記録ヘッド4が、記録媒体の搬送方向に沿う方向に複数配置されている。このように、本実施形態の記録装置1は、記録ヘッドから液滴が吐出されるインクジェット方式によって記録が行われ、記録ヘッド4に吐出口列が主走査方向に沿って形成されたラインヘッド形式の記録装置である。複数の記録ヘッド4の間でそれぞれの記録ヘッド4の主走査方向の位置は全て同一とし、それぞれの記録ヘッド4における主走査方向への長さは12インチである。本実施形態ではC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の4色に対応した4つの記録ヘッド4が配置されていることとしているが、色の種類及び色数はこれには限定されない。
【0018】
各色のインクはインクタンク部8からそれぞれ不図示のインクチューブを介して記録ヘッド4に供給される。複数の記録ヘッド4のそれぞれは、使用が想定される記録媒体の最大の幅をカバーするように、吐出口列が形成されている。吐出口列は、複数の列が千鳥配列等の規則的な配列によって記録ヘッド4の幅方向に沿って形成されたものでも良いし、一列が幅方向に沿って形成されたものであっても良い。記録ヘッド4から液滴を吐出する方式としては、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式等を採用することができる。
【0019】
記録部5の記録ヘッド4に対応した部分では、記録ヘッド4における吐出口列に対して記録媒体を搬送するためのシート搬送路が横切っている。記録部5は、シート搬送路に沿ってシートを搬送するための搬送機構13を有している。搬送機構13は、シート搬送路に沿って並べられた複数の搬送ローラと、隣り合う搬送ローラの間でシート3を支持する支持面を持ったプラテンを備える。これら記録ヘッド4、搬送機構13及びプラテンは筐体9の中に収容されている。
【0020】
記録ヘッドには吐出口に関し、搬送されるシートが対向する領域(搬送領域)の吐出口と、シートが対向しない領域(非搬送領域)の吐出口との異なる2状態が存在する。これらの状態は、使用される記録媒体の幅の大きさに応じて搬送領域と非搬送領域の位置関係や割合は変化する。
【0021】
カッタ部6は、記録部5で記録された連続したシートを所定のサイズごとにカットするためのユニットであり、カッタ機構が設けられている。乾燥部7は、シート上のインクを短時間で乾燥させるためのユニットであり、ヒータ11と記録媒体の搬送経路に沿って並べられた複数の搬送ローラが設けられている。排紙部10は、乾燥部7から排出されたカット済みのシートを収容するもので、複数のシートが積み重ねられていく。制御部12は、記録装置1全体の各種制御や駆動を司るコントローラであり、CPU、メモリ、各種I/Oインターフェースを備える。
【0022】
図3は、記録装置1の記録部5について、拡大して詳細な構成を示した斜視図である。ホルダ104は、記録ヘッド4の吐出口列の使用頻度の偏りを抑制するために、主走査方向、もしくはそれに近い方向(第三の方向)に移動することができる。このため、記録装置1には、ホルダ104を移動させるようにパルスモータ102、ベルト101、プーリ103を備えた変位機構(第1の変位機構)が設けられている。ホルダ104は、ベルト101に対して取付部105で固定されている。パルスモータ102により、ベルト101に取り付けられたプーリ103を駆動させている。制御部12のCPUには吐出回数を記憶する記録履歴記憶部、記録紙幅検知部、記録紙搬送部、記録ヘッド移動制御部を有する。
【0023】
また、制御部12のCPUでは記録履歴と記録紙幅情報に基づき記録ヘッド4の使用領域を決定し、記録ヘッド移動制御部によりパルスモータ102を駆動して記録ヘッド4を移動させて、シートに対する使用吐出口を変更する。ホルダ104は別の変位機構(第2の変位機構)によって記録ヘッド4とシート3が対向する上下方向(Z方向)にも変位することができるようになっている。ホルダ104がZ方向に変位することによって、記録時とメンテナンス動作時(予備吐出、吐出口のワイピング、吐出口の乾燥を抑制するキャッピング等)で異なる高さ位置に記録ヘッド4が移動する。
【0024】
また、記録ヘッド4は、ホルダ104が主走査方向に移動することで、複数の記録ヘッド4が一括して主走査方向に移動する。本実施形態では、図4に示されるように、記録ヘッド4は、P1、P2、P3、P4、P5の離散的な複数のポジションに移動することができる。
【0025】
次に記録ヘッド4の使用吐出口変更判定について説明する。本実施形態においては、吐出を繰り返した際のインクの吐出特性の変化が、4種類のインクのうちでCインクが最も大きい場合について説明する。
【0026】
図5に、記録素子が使用され続けられることで吐出インクの特性の変化を示すグラフを示す。図5は、横軸に、記録素子が寿命を迎えたときまで使い続けたときを100%とし、そこまでのインクの累積吐出回数の割合を取り、縦軸に、記録素子を使い始めたときのインクの明度と、累積吐出回数に応じて変化するインクの明度との差を取ったグラフである。
【0027】
図5に示されるように、Cのインクを吐出するための記録素子は、記録素子の寿命に対して40%前後の累積吐出数の分使用したところで、吐出された液滴の特性が比較的大きく変化している。記録素子の寿命に対して40%前後の累積吐出数のところで、記録素子を使用し始めたときと比べて、記録媒体上に記録したパターンの明度差(ΔL)が比較的大きくなっている。このことは、累積吐出数が多くなり記録素子が長期間に亘って使用されるに伴い、その記録素子の駆動によるインクの吐出量が小さくなっていることを示している。これは、Cの染料に由来する成分がコゲ易く、記録素子の近傍にコゲが付着したために、コゲによって記録素子の駆動により発生される熱エネルギーのインクへの伝達が阻害され、インクに伝達される熱エネルギー量が少なくなるためであると考えられる。図5では、C以外のインクとしては代表例としてYについて示されている。図5に示されるように、記録素子が長期に亘って使用され続けられても、それに伴う記録媒体上でのインクの明度の変化は小さい。
【0028】
仮に12インチ幅の記録ヘッドに対して、8インチ幅のシートを記録する際に使用吐出口を変更せずに記録し続けた場合は、使用吐出口と未使用吐出口で吐出量の差が出てしまう。このような状態で8インチよりも大きい幅のシートに対して記録を行った場合は段差状の明度差が発生し、画像弊害として認識されてしまう。
【0029】
従って、本実施形態では、インクが使用され続けられることで吐出特性の変化するインクについて、ある程度インクの吐出が行われたところで、記録ヘッド4が主走査方向に関して位置を変えることとしている。以下、記録ヘッド4の主走査方向への移動について説明する。
【0030】
記録ヘッド4の使用する吐出口を変更するかどうかの判定においては、記録ヘッド4のそれぞれについて、累積の吐出数に閾値を設ける。そして、それぞれの記録ヘッド4について現在のポジションにおける記録媒体の搬送領域に対応する記録ヘッド上の領域に形成されている吐出口からの累積の吐出回数の平均値をそれぞれ算出する。その累積の吐出回数の平均値が閾値を超えた場合に、ホルダ104を移動させて記録ヘッド4を移動させ、使用吐出口を変更する。図6に、一つの種類の記録ヘッド4について、主走査方向に移動させて使用する吐出口を変更する使用吐出口変更判定フローについて示す。ここでは、Cインクを吐出する記録ヘッドについて説明する。
【0031】
使用吐出口変更判定フローが行われる前に、予め記録媒体についての記録媒体長さ検出手段によって記録ヘッドの移動可能な主走査方向への長さが検知され、CPUに入力される。そして、制御部12の記録履歴記憶部と記録紙幅検知部を参照する。参照した結果、CPUにより、選択されている記録媒体における記録媒体の主走査方向への長さに対して、現在のヘッドポジションにおいて記録に使用される吐出口の累積の吐出回数の平均を記録ヘッド4ごとに算出する。すなわち、記録媒体長さ検出手段によって検出された記録媒体の主走査方向への長さから算出された記録媒体の搬送される領域に対応した対応領域に形成された吐出口についての、それらの吐出口から吐出される液体の吐出数の、対応領域での平均値が算出される。本実施形態では、CPUが、記録媒体の搬送される領域に対応した対応領域に形成された吐出口からの液体の累積吐出数の、その対応領域内での平均値を算出する。また、CPUが、記録媒体の主走査方向への長さを検出する記録媒体長さ検出手段として機能する。
【0032】
次に、算出された、記録媒体の搬送される領域に対応した対応領域に形成された吐出口からの液体の累積吐出数の、その対応領域での平均値と、記録ヘッドごとに設定された閾値との比較が行われる。本実施形態では、CPUが、液体の累積吐出数の対応領域での平均値と、閾値との比較を行う。ここで、Cインクを吐出する記録ヘッド4についての吐出数に関する閾値は、記録素子の寿命に対して20%毎(X1:20%,X2:40%,X3:60%,X4:80%)の吐出回数とする。
【0033】
まずCインクを吐出する記録ヘッドについて、現ポジションで、累積の吐出回数の平均がX1(20%)を初めて超えたかを判定する(S1)。初めて超えていれば制御部12の記録履歴記憶部により、図4に示すP1からP5の移動ポジションのなかで累積の吐出回数の平均が最も少ないポジションを計算してホルダ104を移動させて使用吐出口領域を変更する(S5)。現ポジションでの累積の吐出回数の平均がすでに20%を超えている場合は、初めて40%を超えたかを判定する(S2)。初めて40%を超えていれば、同様にP1からP5の移動ポジションの中で累積の吐出回数の平均が最も少ないポジションを計算してホルダ104を移動させて使用吐出口領域を変更する(S5)。同様に現ポジションでの累積の吐出回数の平均を算出し、初めて60%を超えたか(S3)、そうでない場合は初めて80%を超えたか(S4)を判定する。判定の結果、記録ヘッドを移動させる場合には、P1からP5の移動ポジションの中で記録媒体の搬送領域に対応した領域内での累積の吐出回数の平均が最も少ないポジションにホルダ104を移動させ、使用吐出口領域を変更する。なお、吐出回数の平均の最も少ないポジションが複数ある場合には、それらのポジションのうち、どのポジションに移動することにしても良い。このように、記録装置1は、複数の記録ヘッドのうちいずれかの記録ヘッドでカウントされたインクの累積吐出数がその記録ヘッドについて設定されている閾値を超えたときに、ホルダ104を主走査方向に移動させることが可能なホルダ移動手段を有している。
【0034】
ホルダ104を移動させた後のホルダ104の位置が、閾値との比較の行われている記録ヘッド4について、搬送領域に形成された吐出口のそれまでの累積吐出数が、ホルダ104の取り得る位置の中で最も少ない位置であるようにホルダ104の位置が調節される。ここでの搬送領域は、記録媒体の搬送される領域に対応した記録ヘッド上の領域のことである。ここでは、CPUが、ホルダ104の位置を調節するホルダ位置調節手段として機能する。
【0035】
図4に、8インチのシートに記録する場合の記録ヘッドの位置を移動する例について示す。Nは8インチのシートを記録する際の各ポジションで20%ごとに使用される吐出口群の平均吐出回数を示す。このように、記録ヘッド4を移動しながら全吐出口を均等に使用すれば、隣接する移動ポジションの間の使用比率の差は使用限界に対して最大でも20%の累積吐出数に抑えることができる。
【0036】
次に、記録装置1の有する全ての種類の記録ヘッド4について、使用吐出口領域変更判定が行われる場合について図7を用いて説明する。ここでは、C⇒M⇒Y⇒Kの順番で使用履歴を参照し使用吐出口領域を決定する。このとき、少ない累積吐出数で吐出されるインクの特性が変化するようなインクに関しては、吐出数についての閾値の値を小さく設定する。こうすることで、その色の記録ヘッド4について記録ヘッド4の移動が比較的少ない吐出数で行われるように、閾値を設定することができる。これにより、他の色の記録ヘッド4よりも少ない吐出数で記録ヘッド4を主走査方向に移動させることになり、その色の記録ヘッド4について、他の記録ヘッド4よりも優先させて移動させることができる。
【0037】
本実施形態では、インクが使用され続けることで吐出されるインクの特性が最も変化し易いのはCインクなので、他のインクよりもCインクの判定が優先される。従って、Cインクについての閾値を他のインクよりも低く設定することで、使用吐出口領域の決定においてCインクについて最も優先順位を高くすることができる。
【0038】
なお、吐出特性が変化するインクがCインクのみである場合には、他のインクについては閾値を設定せずに、Cインクの累積吐出数のみで記録ヘッド4の移動のタイミングが判断されることとしても良い。この場合、Cインク以外の種類のインクについて、どんなにインクの吐出が行われても、Cインク以外のインクの累積吐出数によって記録ヘッドは移動しない。また、Cインク以外の種類のインクが比較的多くの吐出数のインクを吐出したとしても吐出されるインクの特性があまり変化しないのであれば、Cインク以外の種類のインクについて累積吐出数の閾値を高く設定することができる。このようにCインク以外のインクを吐出する記録ヘッドについて、移動する頻度を少なくし、Cインク以外のインクを吐出する記録ヘッドについて使用吐出口領域の決定において優先順位を低く設定することができる。
【0039】
4つの記録ヘッド4の中から、まずCインクの使用吐出口領域変更判定が行われる。現ポジションにおけるCの使用吐出口領域の変更を行うかどうかが判定される(S7)。そこでCインクについてのポジション変更がなければ(S8)、Mインクの記録ヘッドについて使用吐出口領域変更を判定する(S9)。Mインクの記録ヘッド4についてポジション変更がなければ(S10)、Yインクの記録ヘッドについて使用吐出口領域変更を判定する(S11)。Yインクの記録ヘッドについてポジション変更がなければ(S12)、Kインクの記録ヘッドについて使用吐出口領域を判定する(S13)。
【0040】
このように使用吐出口領域変更判定を行うことで、吐出を繰り返した際に吐出特性が最も変化し易いCインクに関して、主走査方向への吐出口の吐出回数を平均化することができ、吐出口毎の吐出量特性の変化を小さくできる。
【0041】
本実施形態の場合はCインクを吐出する記録ヘッドが使用限界に対して20%の閾値でポジション移動をするので、隣接する移動ポジション同士の間で吐出口の使用比率の差が使用限界に対して20%内に抑えられる。図5に示されるように、使用限界まで記録素子が用いられたときの使用率100%までの中で、0%と80%の間の差でみると最大明度差として1.3くらい生じるところが存在する。これに対して、使用比率の差が20%であるところを見ると、最大でも40%と60%の間で明度差として0.65程度である。そのため、本実施形態を適用すれば、隣接する領域同士の間における起こり得る最大の明度差が、本発明の適用されない場合に起こり得る最大の明度差に比べて約半分に抑えられる。従って、記録画像において、段差状の画像弊害を視認し難くすることができる。
【0042】
本実施形態においては、吐出を繰り返した際の吐出特性の変化が、Cインクで最も大きい場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。使用吐出口変更は色毎に優先順位をつけて判定しているのでM、Y、Kの吐出特性が変化する場合にも対応できる。その際、使用吐出口領域変更を判定する際に参照するインクの使用履歴の優先順位も本実施例では、C⇒M⇒Y⇒Kの順番であったがこれに限定されるものではない。また本実施形態においては、Cインクについて閾値が累積吐出数を20%毎に区切られて設定される例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。他の累積吐出数の数値ごとに閾値が区切られることとしても良いし、吐出数について均等に区切られずに不規則に区切られることとしても良い。また、本実施形態で用いられる記録ヘッドは、C,M,Y,Kの4種類のインクのそれぞれを吐出する場合について示したが、本発明はこの組み合わせに限定されるものでない。
【0043】
また、吐出回数に応じた明度として表れる吐出特性の変化が同程度のインクが複数ある場合は、画像上で視覚的に認識され易い彩度が低いインク(例えばCとYの場合はC)の使用吐出口領域判定の優先順位を上げることで対応してもよい。また、使用吐出口領域判定においては現ポジションにおいて選択されているシート幅を記録する際に使用する吐出口に対しての吐出回数の平均を算出したが、それらの吐出口の中での累積吐出数の最大値を算出して判定してもよい。また、本実施形態においては記録ヘッド4の移動ポジションは離散的なポジションとしたがこれに限定されない。予め複数のポジションが設定されるわけではなく、閾値との比較の行われている種類の記録ヘッドについて吐出数の少ない領域に記録媒体が位置するように、任意のポジションに記録ヘッドが移動するようにしても良い。
【0044】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態に係るインクジェット記録装置について説明する。なお、上記第一実施形態と同様に構成される部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。第二実施形態ではインクジェット記録装置の主用な機構部の基本構成および、記録装置の各部における記録制御を実行するための制御構成については第一実施形態と同様である。
【0045】
本実施形態では、吐出を繰り返した際の吐出特性の変化の度合いはC>M>Y>Kである。記録ヘッド4の使用吐出口変更判定において、閾値を全ての種類のインクに関して等しくなるように設定し、現在選択されているシート幅に対して使用する吐出口の吐出回数の平均を算出する際に、インク毎に乗じる係数を変更する。Cを1とした場合は、Mは0.7、Yは0.6、Kは0.5といったように、算出した吐出回数の平均に対して乗じる係数を吐出特性の変化の度合いが大きいインクほど大きくする。このように設定された係数が吐出数に乗じられ、吐出数に対してインクの種類に応じた重み付けが行われる。本実施形態では、インクジェット記録装置は、吐出数カウント手段によってカウントされたインクの吐出数に、設定されている係数を乗じて重み付けされたインク吐出数を算出するインク吐出数重み付け手段(液体吐出数重み付け手段)を有している。
【0046】
このように、吐出回数の平均値に乗じる係数によって、記録ヘッドにより吐出されるインクの特性の変化のし易さに応じて、使用吐出口変更判定で優先順位を設定することができる。なお使用吐出口変更判定および、色毎の使用吐出口領域変更判定のフローについては第一実施形態と同様である。
【0047】
なお、第一実施形態、第二実施形態においては、閾値判定において現ポジションにおいて選択されているシート幅を記録する際に使用する吐出口の吐出回数の平均値を算出し、この平均値と閾値とを比較することとしている。しかしながら、記録媒体の搬送される領域に対応した領域に形成された吐出口による累積吐出数の最大値を算出し、その最大値が閾値との比較に用いられてもよい。また、吐出を繰り返した際の吐出特性の変化の度合いが大きいインクほど算出する吐出回数に乗じる係数を大きくしたが、吐出特性の変化の度合いが同程度の場合は彩度が低いインクにかける係数を大きくしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 記録装置
4 記録ヘッド
104 ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体が搬送される第一の方向に交差する第二の方向に沿って配列された複数の吐出口が形成され、前記吐出口から液体を吐出することで記録媒体に記録を行う複数の記録ヘッドを搭載可能なホルダを有するインクジェット記録装置において、
前記複数の記録ヘッドのそれぞれにおいて、それぞれの記録ヘッドから吐出された液体の吐出数をカウントする吐出数カウント手段と、
前記吐出数カウント手段によってカウントされた前記記録ヘッドごとのそれぞれの液体の吐出数と、前記記録ヘッドごとに設定されている閾値とがそれぞれ比較され、いずれかの記録ヘッドで、カウントされた液体の吐出数がその記録ヘッドについて設定されている前記閾値を超えたときに前記ホルダを前記第一の方向に交差する第三の方向に移動させることが可能なホルダ移動手段と、
前記ホルダ移動手段によって前記ホルダを移動させた後の前記ホルダの位置が、閾値との比較の行われている記録ヘッドについて、記録媒体の搬送される領域に対応した領域に形成された吐出口のそれまでの累積吐出数が、前記ホルダの取り得る位置の中で、最も少ない位置であるように前記ホルダの位置を調節するホルダ位置調節手段と
を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
記録媒体の前記第三の方向への長さを検知する記録媒体長さ検出手段を有し、
前記吐出数カウント手段によってカウントされる記録ヘッドから吐出される液体の吐出数は、前記記録媒体長さ検出手段によって検出された記録媒体の前記第三の方向への長さから算出された記録媒体の搬送される領域に対応した対応領域に形成された吐出口からの液体の吐出数の、前記対応領域での平均値であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
記録媒体の前記第三の方向への長さを検知する記録媒体長さ検出手段を有し、
前記吐出数カウント手段によってカウントされる記録ヘッドから吐出される液体の吐出数は、前記記録媒体長さ検出手段によって検出された記録媒体の前記第三の方向への長さから算出された記録媒体の搬送される領域に対応した対応領域に形成された吐出口からの液体の吐出数の、前記対応領域における吐出回数の最大値であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記ホルダの取り得る位置は、予め複数のホルダ位置が設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドごとに設定されている閾値は、前記記録ヘッドから吐出される液体が、吐出回数が多くなるにつれて吐出される液体の特性の変化が大きい液体であるほど小さい値が設定されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記吐出数カウント手段によってカウントされた吐出数が前記閾値を超えている記録ヘッドが複数ある場合、ホルダ位置調節手段は、前記記録ヘッドから吐出される液体が、吐出回数が多くなるにつれて吐出される液体の特性の変化が大きい液体を吐出する記録ヘッドについて、記録媒体の搬送される領域に対応した領域に形成された吐出口のそれまでの累積吐出数が、前記ホルダの取り得る位置の中で、最も少ない位置であるように前記ホルダの位置を調節することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
記録媒体が搬送される第一の方向に交差する第二の方向に沿って配列された複数の吐出口が形成され、前記吐出口から液体を吐出することで記録媒体に記録を行う複数の記録ヘッドを搭載可能なホルダを有するインクジェット記録装置において、
前記複数の記録ヘッドのそれぞれにおいて、それぞれの記録ヘッドから吐出された液体の吐出数をカウントする吐出数カウント手段と、
前記吐出数カウント手段によってカウントされた液体の吐出数に、前記記録ヘッドごとに設定されている係数を乗じて重み付けされた液体吐出数を算出する液体吐出数重み付け手段と、
前記液体吐出数重み付け手段によって算出された前記記録ヘッドごとのそれぞれの液体吐出数と、前記記録ヘッドごとに設定されている閾値とがそれぞれ比較され、いずれかの記録ヘッドで、カウントされた液体の吐出数がその記録ヘッドについて設定されている前記閾値を超えたときに前記ホルダを前記第一の方向に交差する第三の方向に移動させることが可能なホルダ移動手段と、
前記ホルダ移動手段によって前記ホルダを移動させた後の前記ホルダの位置が、閾値との比較の行われている記録ヘッドについて、記録媒体の搬送される領域に対応した領域に形成された吐出口のそれまでの累積吐出数が、前記ホルダの取り得る位置の中で、最も少ない位置であるように前記ホルダの位置を調節するホルダ位置調節手段と
を有することを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−251497(P2011−251497A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128047(P2010−128047)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】